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明細書 :ラップ端子の製造方法、ラップ端子及びラッピング装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5317052号 (P5317052)
公開番号 特開2010-094751 (P2010-094751A)
登録日 平成25年7月19日(2013.7.19)
発行日 平成25年10月16日(2013.10.16)
公開日 平成22年4月30日(2010.4.30)
発明の名称または考案の名称 ラップ端子の製造方法、ラップ端子及びラッピング装置
国際特許分類 B24B  37/00        (2012.01)
B24B   1/04        (2006.01)
FI B24B 37/00 Z
B24B 1/04 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2008-265378 (P2008-265378)
出願日 平成20年10月14日(2008.10.14)
審査請求日 平成23年10月12日(2011.10.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
【識別番号】592128788
【氏名又は名称】ポーライト株式会社
発明者または考案者 【氏名】田辺 郁男
【氏名】井山 徹郎
【氏名】菊池 眞紀
個別代理人の代理人 【識別番号】100140394、【弁理士】、【氏名又は名称】松浦 康次
審査官 【審査官】村上 哲
参考文献・文献 特開2002-126978(JP,A)
特開昭62-057867(JP,A)
特開平03-245960(JP,A)
特開2008-194796(JP,A)
国際公開第2006/030854(WO,A1)
特開2007-253272(JP,A)
特開2005-279782(JP,A)
調査した分野 B24B 37/00
B24B 1/04
特許請求の範囲 【請求項1】
ラップ端子の製造方法であって、
予め放電加工又は研削加工が施されたラッピング加工前の工作物の加工予定部に離型剤を塗布する工程と、
補強骨材を用意し、該補強骨材端部を前記離型剤が塗布された前記加工予定部に当接させながら固定する工程と、
前記加工予定部及び前記補強骨材の端部に向けて合成樹脂を注入して、固化させる工程と、
前記加工予定部からラップ端子を離型する工程と、
を含んだラップ端子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のラップ端子の製造方法であって、
前記離型剤が離型用シリコン又はワックスであることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のラップ端子の製造方法であって、
前記補強骨材が鋼、銅、黄銅又は黒鉛からなることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたラップ端子。
【請求項5】
ラップ端子と前記ラップ端子を弾性的に支持する弾性支持部とを備えたラッピング工具と、工作物を取り付けるためのテーブルと、前記ラッピング工具と前記テーブルとを互いに直交する3軸方向に相対的に移動させる送り機構と、前記テーブル上に設けられかつラップ剤を貯留して該ラップ剤中に前記工作物の加工部を浸漬させるための加工槽と、を有したラッピング装置であって、
前記ラップ端子が請求項4に記載されたラップ端子であることを特徴とするラッピング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のラッピング装置であって、
前記ラップ剤は、水と水溶性ポリマーと有したラップ剤媒体と、砥粒と、を含むことを特徴とするラッピング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のラッピング装置であって、
前記ラップ剤にさらに低級アルコールを添加することを特徴とするラッピング装置。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載のラッピング装置であって、
前記ラッピング工具は前記ラップ端子と前記弾性支持部との間に、超音波振動子と共振体とを含んだ超音波振動部をさらに有することを特徴とするラッピング装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップと工作物とを相対移動させてラップ剤中の砥粒によって表面加工を行うラッピング装置に関するものであり、詳しくは、複雑形状の工作物を均一な鏡面にラップするために、複雑形状の局所的な部位に適合可能なラップ端子の製造方法に関する。加えて、従来のラッピング加工技術にさらに超音波振動を適用したラッピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッピング加工とは、ラップと称する工具と工作物との間にラップ剤を介在させ、ラップと工作物との相対運動によって工作物の表面を加工するものであり、工作物表面の面粗度の向上、平坦度・平滑度の向上を目的とするものである。ラップ剤としては、通常、遊離砥粒を液体中に分散させた懸濁液を用いる。このラッピング加工を行う装置は、一般的にラッピング専用の装置であり、他の工作機械や加工装置と共用できるものではなかった。
【0003】
遊離砥粒を用いる従来の加工装置としては、下記の特許文献1および特許文献2などが公知である。特許文献1には、弾性球体工具を回転駆動させ研磨液中の工作物を加工するための加工ヘッドが記載されている。特許文献2には、回転スピンドルによって弾性球体工具を回転させ、スラリー中に分散させた研磨砥粒を介して自由曲面の研磨加工を行う研磨装置が記載されている。
【0004】
以上のように、ラッピング加工を行うためにはラッピング専用の装置が必要となり、工作機械に加えてラッピング装置を設置するためには、設置スペースの確保や設備コストの大幅増加が避けられず、製品の加工・製造コストの増加を招いていた。特許文献1および特許文献2に記載された加工装置も専用機であり同様の問題点がある。さらに、特許文献1および特許文献2の工具は、回転駆動する必要があり、工具の構造や駆動機構が複雑になるという問題点があった。
【0005】
また、一般的にラッピング加工は加工能率の点ではあまり良好ではなく、さらなる加工能率の向上が求められていた。さらに、加工位置へのラッピング剤の供給に関しても、一定かつ均一な供給を行うためには作業者の熟練技術や注意深い作業が必要であった。
【0006】
これらの問題点に対して、本願発明の発明者らは、特許文献3及び特許文献4に示すように、在来の工作機械を利用して簡単な構成の工具により高精度かつ高加工能率の自動加工を可能とするラッピング工具および装置を既に提案している。特に特許文献4に記載の技術によれば、ラップ端子として直径6mmのナイロン球体を使用し、ラップ剤として、水、水飴、及びダイヤモンド砥粒の混合液を使用し、工作物として超硬合金V10(JIS表記)の平面形状のラッピング加工(二次元の平面ラップ加工)を行ったところ、表面粗さ(最大高さRz)0.07μmの平滑な鏡面が得ることが可能となっている。

【特許文献1】特開平5-92362号公報
【特許文献2】特開2002-361546号公報
【特許文献3】特許第4081551号公報
【特許文献4】特開2008-194796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、より複雑な形状の工作物を加工する場合(例えば三次元形状に対して側面加工する場合)を加工する場合には、単純な球体或いは立方体の中実体をラップ端子としてそのまま複雑形状の工作物に押し付けても、ラップ端子は局所的に微細な加工部位に適合しにくく適当なラップ圧力で押し付けられないという問題があった。また、上記のような単純な形状の中実体を単に小型化して対応することも考えられるが、このような小型の中実体がそもそも入手困難であり、たとえ入手できたとしても微細な加工部位形状に沿ってこの小型端子を送り加工を施すことは効率的ではない。
【0008】
また、このような局所的に微細な加工部位に対して適合可能なラップ端子を製造できたとしても、従来提案したラップ工具の往復振動機構だけでは、このような微小スペース内でラップ端子を十分に摺動させることは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、以上のようなラッピング加工における問題点や欠点を改善し、複雑形状の工作物を均一な鏡面に加工するために、複雑形状の局所的な部位に適合可能なラップ端子の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、微小スペース内でラップ端子を十分に摺動させるラッピング工具を備えたラッピング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の末、ラッピング加工前の工作物(特に、粗加工された工作物の局部形状)を有効利用することに着目し、(1)離型剤と補強骨材と用いて、当該工作物の局部形状に適当な間隙を有するように適合可能なラップ端子が作製できること(すなわち、テイラーメイドのラップ端子を作製できること)、及び(2)超音波振動技術がラッピング端子の効果的な摺動に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明では次の1~8の構成をとるものである。
1.ラップ端子の製造方法であって、
予め放電加工又は研削加工が施されたラッピング加工前の工作物の加工予定部に離型剤を塗布する工程と、
補強骨材を用意し、該補強骨材の端部を前記離型剤が塗布された前記加工予定部に当接させながら固定する工程と、
前記加工予定部及び前記補強骨材端部に向けて合成樹脂を注入して、固化させる工程と、
前記加工予定部からラップ端子を離型する工程と、
を含んだラップ端子の製造方法。
2.前記1に記載のラップ端子の製造方法であって、
前記離型剤が離型用シリコン又はワックスであることを特徴とする製造方法。
3.前記1又は前記2に記載のラップ端子の製造方法であって、
前記補強骨材が鋼、銅、黄銅又は黒鉛からなることを特徴とする製造方法。
4.前記1~3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたラップ端子。
5.ラップ端子と前記ラップ端子を弾性的に支持する弾性支持部とを備えたラッピング工具と、工作物を取り付けるためのテーブルと、前記ラッピング工具と前記テーブルとを互いに直交する3軸方向に相対的に移動させる送り機構と、前記テーブル上に設けられかつラップ剤を貯留して該ラップ剤中に前記工作物の加工部を浸漬させるための加工槽と、を有したラッピング装置であって、
前記ラップ端子が前記4に記載されたラップ端子であることを特徴とするラッピング装置。
6.前記5に記載のラッピング装置であって、
前記ラップ剤は、水と水溶性ポリマーと有したラップ剤媒体と、砥粒と、を含むことを特徴とするラッピング装置。
7.前記6に記載のラッピング装置であって、
前記ラップ剤にさらに低級アルコールを添加することを特徴とするラッピング装置。
8.前記5~7のいずれか1項に記載のラッピング装置であって、
前記ラッピング工具は前記ラップ端子と前記弾性支持部との間に、超音波振動子と共振体とを含んだ超音波振動部をさらに有することを特徴とするラッピング装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0014】
本発明により作製されたラップ端子を使用することにより、三次元形状など複雑形状の工作物に対するラッピング加工であっても、局所的に入り組んだ箇所に本発明のラップ端子が適合するようになり、全面を均一な表面粗さにすることができ、ひいては、工作物(製品)の高品位加工を実現することが可能となる。
【0015】
さらに、上記作製されたラップ端子を備えたラッピング工具にさらに超音波振動子と共振体とを有した超音波振動部を設けることにより、ラッピング加工のための摺動スペースがほとんど無い複雑形状の加工部位に対しても、きわめて効率の良い高速ラッピング加工が可能になる。
【0016】
さらに、本発明のラップ剤に低級アルコール類を添加することにより、ラップ剤が蒸発してその気化熱冷却効果を発揮し、従来問題となっていた金型の発熱を効果的に除去することができる。この気化熱冷却効果は、上記超音波振動子を含んだラッピング工具による高速ラッピングにおいて顕著に生じ得る発熱に対して特に有効となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施態様に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
【0018】
[ラッピング工具の構成]
図1は、本発明のラッピング工具1の構成を示す図である。ラッピング工具1を在来の工作機械に取り付けてラッピング加工を行うことができる。取付部11は、ラッピング工具1を後述の往復駆動部3(図2参照)の出力軸31に取り付けるためのものである。取付部11の上部には接続穴17が形成されている。接続穴17に往復駆動部3の出力軸31を挿入して、固定ボルト16によって取付部11と出力軸31とを固定する。
【0019】
取付部11の下方には調整ねじ13が接続されている。調整ねじ13は、調整ダイアル12の内周側の雌ねじに螺合しており、また、キーとキー溝などの機構により取付部11に対して回転しないようにされている。さらに、調整ねじ13は、上部を取付部11内部の空洞部18に収納されており、取付部11に対して上下に位置調節可能となっている。調整ダイアル12は取付部11に対して回転可能に支持されており、回転をロックすることも可能となっている。したがって、調整ダイアル12のロックを解除して回転させれば調整ねじ13を上下に移動させることができ、調整ダイアル12をロックすれば調整ねじ13の位置を固定することができる。
【0020】
調整ねじ13の下端部にはコイルばね状の弾性支持部14が固定されている。また、弾性支持部14の下端部には球形状のラップ端子15が固定されている。ラップ端子15はポリアミド系樹脂(いわゆるナイロンなど)からなる中実体である。ラップ端子15は、適度な柔軟性を有し、ラップ剤27中の遊離砥粒を適度に保持する材質が好ましい。ポリアミド系樹脂やポリプロピレン樹脂などの合成樹脂が適している。弾性支持部14はコイルばねのばね定数に従って上下に伸縮可能である。弾性支持部14によりラップ端子15は弾性的に支持されている。
【0021】
取付部11に対するラップ端子15の突出量は、調整ダイアル12を回動させることにより調整することができる。調整ダイアル12および調整ねじ13が、突出量調整部を構成する。取付部11に対するラップ端子15の位置(突出量)を調整することによって、工作物に対するラップ端子15の押付力を調整することができ、工作物の種類や目的とする表面精度に応じた最適な押付力を容易に設定することができる。
【0022】
[ラッピング装置の構成]
図2は、本発明のラッピング装置2の構成を示す図である。ラッピング装置2は、在来の工作機械を利用することができ、図示のような立形の工作機械(例えば、マシニングセンタやフライス盤)の主軸に往復駆動部3とラッピング工具1を取り付けることにより、本発明のラッピング装置2とすることができる。そのため、専用のラッピング装置を設置する必要がなく、設置スペースの確保や設備コストの大幅増加という問題を避けることができる。その結果として、製品の加工・製造コストを低減することができる。
【0023】
ラッピング装置2のベッド21の後方からはコラム22が立設され、コラム22には主軸頭23がZ軸方向(ここでは鉛直方向)に移動可能に設けられている。また、主軸頭23をZ軸方向に移動させるためのZ軸送り機構がコラム22に設けられているが、ここでは図示を省略している。Z軸送り機構は、ボールナットおよびZ軸送りねじによるボールねじ機構とZ軸送りモータとからなるものでよい。
【0024】
主軸頭23には回転可能に主軸24が支持されている。主軸24は回転しないように固定することも可能になっている。主軸24の下端部には工具を交換可能に取り付けるための工具装着部が設けられている。往復駆動部3は、ラッピング工具1を往復振動させるための駆動部である。ここではZ軸方向に往復駆動部3の出力軸31が往復振動を行い、往復振動の振動数は10~20Hz程度、振幅は5mm程度が適当である。
【0025】
往復駆動部3の出力軸31にはラッピング工具1が固定され、往復駆動部3上部に設けられたテーパシャンクが主軸24下端の工具装着部に装着固定される。往復駆動部3は、内部に設置した電動モータ等によって出力軸31に往復運動を発生させるようにしてもよいし、または、主軸24の回転運動を出力軸31の往復運動に変換する機構を内部に設けるようにしてもよい。後者の場合には、往復駆動部3の本体を主軸頭23に対して回転止めする構造が必要である。
【0026】
ベッド21の上面には、工作物4を載置固定するためのテーブル25が設置されている。テーブル25はZ軸方向に直交する水平面上のX,Y軸方向に移動可能に設けられている。また、テーブル25をX,Y軸方向に移動させるためのX軸送り機構およびY軸送り機構が設けられているが、ここでは図示を省略している。X軸送り機構およびY軸送り機構もボールねじ機構と送りモータとからなるものでよい。X,Y,Z軸は互いに直交し直交座標系をなすものである。X,Y,Z軸の各送り機構により、ラッピング工具1と工作物4とは、直交3軸方向に相対移動が可能となっており、3次元の任意曲面形状の加工が可能である。
【0027】
テーブル25上に固定された工作物4の周囲を包囲するように加工槽26が設置されている。加工槽26とテーブル25との接続部はシール等により水密に保たれ、ラップ剤27が漏れ出ないようにされている。加工槽26の内部にラップ剤27を貯留して、工作物4が完全にラップ剤27中に浸漬されるようにする。加工槽26の上面は開放されており、加工の妨げとなることはない。なお、在来の工作機械を利用する場合には、加工槽26は簡単に取り外し可能な構造とすることが好ましい。
【0028】
[通常のラッピング加工動作の説明]
実際の加工は次のようにして行う。工作物4および加工槽26をテーブル25上に取り付け、加工槽26内にラップ剤27を注入して、工作物4がラップ剤27中に浸漬されるようにする。調整ダイアル12を回動させてラップ端子15の上下位置を調整し、ラップ端子15の工作物4に対する押付力を設定する。往復駆動部3の振動駆動を開始するとともに、主軸頭23を加工位置まで下降させる。そして、加工表面の形状に沿ってX,Y,Z軸方向の相対移動を行いラッピング加工を行う。なお、ラッピング工具1は回転せず往復振動のみが付加される。
【0029】
ラッピング工具1の往復振動により、ラップ端子15が工作物4表面に押しつけられたり工作物4表面から離れたりする。ラップ端子15のこの運動により、ラップ端子15と工作物4の間にラップ剤27の流入および流出が永続的に繰り返される。これによりラップ端子15と工作物4の間にラップ剤27の供給、排除が繰り返されて、自動的に新鮮なラップ剤27に更新されるとともに、ラップ剤27中の砥粒の運動により加工能率が向上する。また、加工槽26の使用により、ラップ剤27の供給に作業者の熟練技術が必要なくなり、ラッピング装置2の自動運転が可能となる。
【0030】
なお、ラッピング工具1と工作物4とのX,Y,Z軸方向の相対移動は、前加工のNC加工プログラムを、そのまま利用したり、オフセット量の変更などの僅かな修正で利用することができる。同じNC加工プログラムを利用する場合でも、調整ダイアル12を回動させてラップ端子15の上下位置を調整することにより、ラップ端子15の工作物4に対する押付力を任意に設定可能である。
【0031】
なお、図2では、加工槽26をテーブル25上に取り付けるようにしているが、加工槽の形態はこのようなものに限定されず、加工表面にラップ剤27を保持できるものであればどのようなものでもよい。例えば、上面のみ開放された容器を加工槽としてもよく、工作物の加工部の周囲を粘土やシール材で形成した壁によって包囲するようにしてもよい。粘土やシール材は工作物上に直接設置することもできる。また、前述のように、加工槽を用いた方が好ましいが、加工槽を使用しない加工も可能である。
【0032】
[複雑形状の工作物に対するラッピング加工に好適なラップ端子の製造方法]
次に、複雑形状の工作物4に対するラッピング加工に好適なラップ端子15の製造方法について説明する。図3に示すように、まず、放電加工や研削加工などにより予め前加工された表面粗さの大きな工作物4(図示の例では三次元のL字形状の工作物4)の加工予定部4aに、離型と前加工面の表面粗さ改善の目的で離型用のシリコンやワックス(以下、「離型剤」と呼ぶ)40を塗る(ステップS1、図3(a)参照)。これにより表面粗さの谷の部分に離型剤40が充填され、加工予定部4aの内側表面が滑らかになるとともに、加工予定部4a内側付近の全体の輪郭形状は維持される。
【0033】
その後、補強のための骨材(以下、「補強骨材」と呼ぶ)42を固定したのちに合成樹脂41を注入・固化させる(ステップS2、図3(b)参照)。なお、補強骨材42には、鋼製、銅製、黄銅製、黒鉛製など骨材が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。特に、前段の放電加工等で使用された黄銅製や黒鉛製の棒状電極が入手容易性及び再利用の点から好ましく、図3(b)のように補強骨材42の端部が多少拡大していることが好ましい。また、合成樹脂41には、エポキシ樹脂やアクリル樹脂が例示されるが必ずしもこれに限定されない。
【0034】
加えて、補強骨材42は、本製造方法により作製されたラップ端子15の一部を構成することになり、ラップ端子15を補強することで、ラップ端子15が構造材料として工作物4に確固たるラップ圧力をかけられるようになる。さらに、補強骨材15は、ラップ端子15の寿命の延命という重要な効果も持つ。合成樹脂41は、樹脂自身(樹脂表面)に砥粒を適度に取り込み、保持して、工作物4をきわめて効率よく加工することができる。
【0035】
このとき、合成樹脂41が付着・固化したラップ端子15の局所的な表面形状は、加工予定部4aの形状が転写されることになるが、離型剤40の厚さ分だけ転写されるラップ端子15の形状は小さくなる。これにより、ラッピング加工を施す工作物4と本発明により製作されたラップ端子15との間に間隙ができ、この間隙に砥粒が効率よく入り込んでラッピング加工性や加工速度を著しく向上する。この間隙は、さらに後述する超音波ラッピングのための摺動スペースとなる。その後、型(前述の工作物4の加工予定部4a)からラップ端子15を離型することによって高精度なラップ端子15が出来上がる(ステップS3、図3(c)参照)。
【0036】
図4に、図3に示す工程で製作したラップ端子15を用いて半径r2.4mmのコーナー部にラッピング加工を施した加工例(仕上面)を示す。このように、三次元形状など複雑形状の工作物4に対するラッピング加工であっても、局所的に入り組んだ箇所にラップ端子15が適合するようになり、全面を均一な表面粗さにすることができ、ひいては、工作物4の高品位加工を実現することが可能となる。
【0037】
なお、上記加工例では、工作物4のR(アール)形状の加工予定部4a(コーナー部)を利用してラップ端子15を作製したが、必ずしもR(アール)形状に限定されず、通常の(単純形状の)ラップ端子15が入り込みにくい微細な空間が多数あるきわめて複雑な工作物4の複雑形状であってもよく、この複雑形状に適合可能なラップ端子15を上記加工例と同様の手間と時間で容易に製作することができる。
【0038】
[超音波振動技術をさらに適用したラッピング工具の構成]
次に、超音波振動技術をさらに適用したラッピング工具1について説明する。
【0039】
本発明者による公知の特許文献4に記載のラッピング加工では、適当なラップ圧力をかけながらラップ端子15を摺動させることが必要であった。しかし、複雑形状をなす工作物4へのラッピング加工では、たとえ精度のよいラップ端子15ができても、ラッピング加工のためのラップ端子15の摺動が、精度よくしかも効率よく行うことが困難である。
【0040】
そこで、図5に示すように、図1のラッピング工具1のバネ(弾性支持部14)とラップ端子15の間に超音波振動子19aと共振体19bとを備えた超音波振動部19を取り付け、ラップ圧はバネ力で付与し、ラッピング加工のための送りは超音波振動子19aで行う構成(以下、「超音波ラッピング工具」と呼ぶ。)とした。
【0041】
なお、超音波振動部19は、超音波振動子19aと電源とを接続しかつ振幅量を調節するアンプ19cをさらに備える。また、図示の共振体19bは、中央部が中空となるようにロ字形に形成されている。弾性支持部14とラップ端子15の間に設けられる共振体19bは、ラップ端子15の大きさ、見かけ上の密度や剛性に応じて、共振体19bの厚さ(剛性)を変化させ、効率よく共振させられるように設計されている。
【0042】
仮に、この超音波ラッピング工具1を、3μmの振幅で50kHzの周波数で振動させれば、3μm×50000往復/秒(言い換えれば、3μm×100000回/秒または300mm/秒の送り)でラッピング加工することになり、ラッピングのための摺動スペースがほとんどないにも関わらず、きわめて効率の良いラッピング加工が可能になる。
【0043】
[ラップ剤媒体及び砥粒の比重及び砥粒の落下速度の検討]
次に、本発明のラップ剤27について説明する。上述のとおり、本発明者が従来提案したラッピング技術を平面ラップ加工だけでなく三次元の複雑な形状の工作物4に対する加工に適用することを考えた場合、工作物4を部位によって偏り無く安定した仕上げ面を実現するためには、ラップ剤27の媒体中で砥粒を長時間浮遊させること、言い換えれば、ラップ剤27の媒体と砥粒の比重差を小さくすることが必要である。
【0044】
本発明者が従来提案したラップ剤27媒体である水あめの比重は1.4程度であり、ダイヤモンド砥粒に比べ媒体の比重が約半分程度小さいため、攪拌等によって均一浮遊させた砥粒は時間経過とともに重力の影響により容器の底面に落下することになる.ラッピングに要する加工時間内のみ均一に砥粒が分布していれば仕上げ面への影響はないと考えられるが、加工時間は工作物4の大きさや形状に著しく左右されることから、できるだけ長い時間砥粒を均一に浮遊させることのできるラップ剤媒体を使用する必要がある。
【0045】
砥粒の落下速度を小さくし、媒体中に均一に浮遊させるために、媒体中の砥粒一粒に働く力の釣り合いを考えると、理論上その落下速度はストークスの式より下記数式1で表わされる。
【0046】
【数1】
JP0005317052B2_000002t.gif

【0047】
ここで、vは砥粒の落下速度[m/s]、Dは砥粒の平均直径[m]、ρ,ρはそれぞれ砥粒とラップ剤媒体の密度[kg/m]、ηはラップ剤媒体の粘性係数[Pa・s]、そしてgは重力加速度[m/s]である。上記数式1より、落下速度は砥粒径の二乗に比例し、ラップ剤媒体の粘性抵抗に反比例することがわかる。
【0048】
因みに従来のラップ剤媒体である水あめは、安価に入手しやすい液体の中では比較的高い粘度(粘性抵抗)を有し、理論上(上記数式1の計算上)砥粒に働く浮力と粘性抵抗とによる均一的な浮遊化が期待できる。しかしながら、実際に予備実験を行ってみたところ、長時間均一に砥粒(例えば、砥粒径が#400程度の砥粒)を浮遊させるには至らなかった。
【0049】
[水溶性ポリマーを用いた砥粒の均一浮遊化]
このように従来のラップ剤(水あめ)では、砥粒に働く浮力と粘性抵抗とによる砥粒の均一浮遊化は難しかったため、本発明では、新たなラップ剤媒体として水に水溶性ポリマーを混ぜた液体を採用した。水溶性ポリマーを採用した理由は、ポリマーを水溶させることで、網状になった高分子によりラップ剤27の粘弾性力が増加し、微小砥粒の落下を防ぐことが見込めたからである。
【0050】
本発明の水溶性ポリマーとして、砥粒の均一浮遊化の観点から、ポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide,PEO-8)やポリアクリルアミド(Polyacrylamide,PAA)が好ましいが、必ずしもこれに限定されず、高分子の網状化によりラップ剤27の粘弾性力を増加させる材料であればよい。例えば、親水性の高い、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等のアクリル酸金属塩が挙げられる。なお、PEO-8、PAAは、ともに人体には無害であり環境負荷も無いことから排水処理施設や化粧品などの分野にわたって使用されているポリマーである。従って、これらのポリマーをラップ剤27として使用した後も、これらのポリマーと砥粒及び切屑とを分離すれば生活用水と同様に排水処理ができるという利点(リサイクル及び環境調和の面での利点)もある。
【0051】
以下に、本発明においてラップ剤媒体として提案する水溶性ポリマーが、砥粒を均一浮遊化させることができるかどうかを実験によって確認した。
【0052】
図6はその実験概要図を示す。砥粒が試験管内のラップ剤媒体中を落下していく様子を試験管側面からマイクロスコープを用いて、ラップ剤27の液面より10,20,30mmの位置において観察を行った。その実験条件は表1に示すように、使用したポリマーはポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide,PEO-8)とポリアクリルアミド(Polyacrylamide,PAA)の二種類を、水にそれぞれ0.1,0.5,1,2,3重量パーセント(wt%)の割合で混ぜたものを用いた。砥粒にはダイヤモンドを用い、粒径を#400-500,#1200,#2500の三種類を用いて加工する。砥粒の平均落下速度を測定することで、砥粒がラップ剤媒体中を長時間浮遊できるかどうか評価した。
【0053】
【表1】
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【0054】
図7に#400-500の砥粒の落下速度の実験結果を示す。図7にはラップ剤媒体としてPEO,PAAのポリマーを使用した実験結果の他に、比較例として、従来の平面ラップで用いていた水で80%の濃度に希釈した水あめの三種類について、落下速度の測定結果を示している。図7中の縦軸は砥粒落下速度(μm/s)を対数化した値を、横軸はポリマーの水溶の割合を質量比で示している。なお、上述のとおりラップ剤27液面下10,20,30mmの各箇所で砥粒の落下速度を測定したが、いずれの測定箇所においても速度差はまったく見られなかったため、図7には液面下20mmの値のみを示している。
【0055】
まず、ラップ剤媒体として従来使用してきた濃度80%の水あめ(比較例の結果、図7中破線)では砥粒落下速度は7.9μm/sと大きく、ダイヤモンドの均一分布には問題があることがわかる。
【0056】
一方、PEO,PAAの水溶性ポリマーの実験結果を検討すると、PEOの場合(図7中■印)は2%以上で、PAAの場合(図7中○印)は0.5%以上で、砥粒落下速度が1.0μm/s以下となっている。これらの値は、水あめを用いた場合の10分の1以下の落下速度である。これは、多大な加工時間を要する大型金型や複雑形状金型のラッピング加工においてラップ剤27として十分使用できることを意味する。また、図示しないが、砥粒径が#1200,#2500と小さくなるにつれて上記数式1より、砥粒一粒当たりの重力による影響が小さくなり落下速度が低くなるため、同じ濃度の媒体では、粒径が小さいほど砥粒をより均一に保つことができた。
【0057】
図7の結果をさらに考察する。単純な形状をなしかつ小さな工作物4に対しては従来の水あめでもラップ剤媒体として使用することができるが、複雑形状をなしかつ大型の工作物4に対しては、使用する砥粒径が小さくなるにつれて所望の表面粗さまでの加工時間が非常に長くなるため、より長時間浮遊させることのできる本発明のポリマーのほうが使用に適しているといえる。なお、PAAのほうが同じ濃度でもPEOより砥粒を均一に浮遊させることができているのは、両者を同じ割合で水溶させた場合、PAAの方が高い粘度になるため落下速度がより小さくなったものと考えられる。従って、水溶性ポリマー、好ましくはPAAやPEO、を使用したラップ剤27は、大型かつ複雑な形状をなす工作物4に対する自動ラッピングに適していると言える。
【0058】
なお、図7からPEO、PAAとも高濃度になるにつれて砥粒の落下速度は低下していくものの、急激な低下とはならず(各曲線の勾配は減少)に所定の値に漸近していく。落下速度だけの観点から言えばポリマー密度が高濃度であることに超したことはないが、5wt%を超えると溶液の粘性が不均一になり、加工精度が著しく悪くなる。従って、PAAをラップ剤媒体として使用する場合、好適なポリマー濃度は0.01~5wt%となる。
【0059】
一方、PEOをラップ剤媒体として使用する場合、さらに低濃度域(約1.3wt%未満)では、従来の水あめをラップ剤媒体として使用した場合の砥粒落下速度よりも、ラップ剤媒体中の砥粒の落下速度が大きくなってしまうため、長時間(例えば、5時間以上)のラッピング加工に対して砥粒を均一に分布させることが困難となる。従って、PEO使用時の好適な濃度は、1.3~5wt%(さらに好ましくは、2~5wt%)であるといえる。
【0060】
[ラップ剤の好適使用条件の検討]
図7の結果から水溶性ポリマーを使用することで砥粒の均一分布が可能となった。ここではさらに、ラップ端子15に取り込まれ実際に工作物4を加工する砥粒の分布密度が最適となる加工条件を明らかにし、開発したラップ剤27の好適使用条件の検討を行った。
【0061】
上述したように本発明のラッピング装置2の加工原理として、ラップ剤27中を浮遊している砥粒が加工の際にラップ端子15に食い込み固定され、この固定された砥粒が主に工作物4の表面粗さを改善している。ここで、ラップ端子15の単位面積当たりに取り込むことができる砥粒数を増加させることができれば、砥粒の交換動作の必要回数が減り、一度のツールパスでより効率的に加工を行うことができると考えられる。そのためにはラップ剤媒体に混合する砥粒の比率を大きくし、ラップ剤27中の砥粒の絶対量を増やせばよいことが容易に考えられる。
【0062】
しかしながら、必要以上に砥粒を混合させた場合、ラップ剤27コストの増加によるコストパフォーマンスの悪化を招く。本発明のラッピング装置2では効率よく砥粒をラップ端子15に取り込ませるために、ラッピング工具1にはラッピング運動とは独立した、工作物4平面に対して垂直方向の往復運動をさせることで砥粒の取り込みを行っている。
そこでまず、この砥粒取り込みの運動に関して、砥粒取り込み数に強く関与すると考えられる加工条件を実験により明らかにした。
【0063】
図8に砥粒取り込み数を調べるための実験のセットアップを示す。図中に示すようにNCフライス装置のテーブルに設置した倒立顕微鏡上で、ラッピングツールが実際の加工と同じ動きでラップ剤27を充てんした容器中の工作物4上に押し付けられたときに、ラップ端子15に食い込んで固定化された砥粒の数を測定した。ここで、(1)ラップ剤媒体に対する砥粒の混合比、(2)媒体の種類および濃度、(3)ラップ端子15の材質および(4)ラップ端子押付圧力により食い込む砥粒の数は変化するため、これら四つの要素がそれぞれ砥粒取り込み数にどのように影響するか品質工学を用いて確認した。
【0064】
表2に品質工学に用いた四つの制御因子および設定した水準を示す。図7の結果から#400-500のダイヤモンド砥粒を長時間保持できるように、ラップ剤媒体の濃度として、PEOを1%と2%とした二種類、PAAを1%の濃度とした一種類の計三種類に設定した。ラップ端子15材料としては、従来から使用しているポリプロピレン(PP)のほかに、ナイロン(Nylon)および熱処理を行っていない炭素鋼(SS400)も用いた。ラップ端子15の形状は直径10mmの球形である。
【0065】
【表2】
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【0066】
図9の(a)と(b)に品質工学より求めた砥粒取り込み数の感度とSN比の要因効果図を示す。砥粒混合比(図9中、A1~A3)に関しては、これが多いほど一回のラップ端子15の押し付けで多くの砥粒を取り込むことができることがわかる。使用したラップ剤媒体はPEO,PAAいずれのポリマーを用いた場合(図9中、B1~B3)でも、感度の値に大きな違いは見られないため、設定した濃度ではいずれも砥粒の取り込み数にラップ剤媒体は影響しないことがうかがえる。ラップ端子材料(図9中、C1~C3)に関してはポリプロピレン(PP)が一番砥粒を取り込むことができ、炭素鋼(SS400)ではまったく砥粒が食い込まないことがわかる。
【0067】
なお、ラップ端子押付圧力(D1~D3)はいずれの圧力値でも大きな違いは見られなかった。しかしながら、ラップ端子15の最適な押し付け圧力については、砥粒の取り込み数だけではなく、加工中の砥粒の保持力に大きく影響すると考え、図8と同様のセットアップでさらに詳細な実験を行った。ここで、使用したラップ剤媒体は濃度2%のPEOであり、ラップ端子15材料は砥粒の取り込みが多いポリプロピレン(PP)を使用した。なお、この時設定したラップ剤媒体と砥粒との混合比は、上述の品質工学の実験において一番大きな値と同様にし、質量比(砥粒:媒体)を1:10とした。
【0068】
図10にラップ端子押付圧力の違いによる砥粒取り込み数の変化の測定結果を示す。縦軸はラップ端子押付面の1.0×1.0mmの範囲に食い込んだ砥粒数を示し、横軸はラップ端子押付圧力を示している。ラップ端子押付圧力が10x10(10MPa)以下の場合、取り込める砥粒の数は平均4個と少ないが、逆に10MPa以上の圧力であれば、一定数の砥粒を取り込めることがわかる。
【0069】
なお、このラップ端子押付圧力は加工対象の工作物の材質にも依存するものであり、上記の値は超硬合金(V10 JIS規格)を使用した結果から導き出されたものである。一方、詳細な説明は省略するが、超硬合金より柔らかいSKD(Steel Kogu Dice)材、つまり金型用鋼、を使用した場合は、4~5MPa以上の押付圧力が好適であった。
【0070】
また、実際の加工ではラップ端子15に取り込まれた砥粒が工作物4を削り
、その際いくつかの砥粒は加工時に生じる抵抗力によりラップ端子15先端部から脱落し、その割合は加工条件に左右されると考えられる。そこで、加工条件と砥粒の保持率の関係を調べた。
【0071】
実験方法については、図8と同様の装置を用い、先の図10に準じて30MPaの取り込み圧力で砥粒を取り込んだ後、15,30,60MPaのラップ圧力を個々に加えながら500,1500,3000mm/minのラップ速度で1ストローク(10mm)のみラップを行い、加工の前後の砥粒の保持率(つまり、残存した砥粒数÷最初に取り込んだ砥粒数×100)を#400-500,#1200,#2500それぞれの砥粒において調査した。
【0072】
図11(a)にラップ速度が500mm/min、(b)に1500mm/min、(c)に3000mm/minの場合の実験結果をそれぞれ示す。(a),(b),(c)に大きな差異が見られないことから、調べた範囲内ではラップ速度は砥粒の脱落には大きく影響しないことがうかがえる。一方、ラップ圧力については圧力が60MPaのときは保持率がいずれの条件でも50~80%と良好であるが、15MPaの場合は30%程度の保持率となってしまうという条件もあった。
【0073】
図11の結果から砥粒の脱落を低減し効率よい加工を行うためにはラップ圧力をある程度高くする必要があるが、必要以上に高いラップ圧力で加工を行った場合は工作物4の最終仕上げ面がむしろ粗くなってしまう。本発明で対象とする超硬合金(V10)については、図11の結果よりラップ速度3000mm/min,ラップ圧力60MPaの加工条件がより効率よい加工が行える条件であることが明らかになった。
【0074】
以上から、大型形状のラッピングのために長時間砥粒を保持することができ、効率よくラップ端子15に砥粒を取り込ませることができるラップ剤27および加工条件を決定することができた。
【0075】
[三次元形状の工作物への加工実験および評価]
以下に、実際にこのラップ剤27を用いて超硬合金(V10)の加工を行い、本発明のラップ剤27の評価を行った。対象とする工作物4の形状は図12に示すように高さ方向に300mmの段差を持つ工作物4でダイヤモンド電着工具を用いて表面粗さRz=2.0μmに前加工を行ったものを使用した。また、ラップ剤27注入直後にA面を加工し、その後0.5,1,2,及び5h(時間)後にB面もしくはC面を加工した。なお、表3にラッピングを行う際の加工条件を示す。
【0076】
【表3】
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【0077】
図13は、その実験結果のうち、A面加工後5時間後に加工を施したB面及びC面の表面粗さRz(実線A、B、C上の○印)を示す。なお、図13の縦軸に示す粗さはラップ方向に対して直角方向と水平方向に測定した二つの値のうち、粗いほうの値を示している。また、図13中の一点鎖線A’、B’、C’上のX印は、比較例として従来のラップ剤27(濃度80%水あめ)を使用してA’面を加工し、その後0.5時間後にB’面もしくはC’面を加工した結果を示している。
【0078】
図13の結果から、比較例の従来のラップ剤27を用いた場合、A’面加工直後のわずか0.5時間(30分)後でもC’面は砥粒#400,#1200で表面粗さの改善は見られず、ラップ剤27が本来の機能を発揮していないことがわかる。ここでB’面は水平面であるため、C’面よりもダイヤモンドの残量があることがうかがえるが、下方にダイヤモンドが沈降したため表面粗さの改善の速度が低下している。
【0079】
一方、開発したラップ剤27では、A面加工後5時間もたっているにも関わらず、B面、C面ともA面と同様の表面粗さで加工(三次元形状の加工)ができており、長時間のダイヤモンド均一分布が可能なラップ剤27の効果がうかがえる。なお、図14は、本発明のラップ剤27を含んだラッピング装置2により実際に加工された加工面を示す。以上の結果から開発したラップ剤27は、大型金型、複雑形状金型のラッピングに有効であると考える。
【0080】
[低級アルコールを添加したラップ剤]
次に、別の態様のラップ剤27について説明する。ここで、上述のラップ剤27の成分(水、水溶性ポリマー、及び砥粒)のうち、水に低級アルコールを添加した以外の点は基本的に同様であるため、その他の説明は省略する。ここで、前記低級アルコールとして、下記の理由及び実験結果からエタノール(エチルアルコール)が好ましいが、水との親和性の高くかつ後述の気化熱冷却効果を発揮するものであればこれに限定されない。例えば、メタノール(メチルアルコール)、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどの低級アルコール(炭素Cの数が1~4まで)であってもよい。
【0081】
精密なラッピング加工を行う場合には、加工発熱による精度低下が大きな問題となる。この問題は、上述した超音波振動を適用した高速なラッピング加工ではきわめて大きな問題となる。
【0082】
水の気化熱量は2250kJ/kg、エタノールは855kJ/kgである。ラッピング加工による発熱が生じた場合、ラップ剤27が蒸発してその気加熱冷却効果で発熱の効果的な除去が望まれる。この要望に対して、気化熱量が2250kJ/kgと大きく、しかも安価な水が有効である。
【0083】
しかしながら、水の沸点は100℃(1000hPa(=hectopascal,10xPa)において)であり,なかなか気化しずらい液体である。
【0084】
そこで、本実施例では、水をエタノールに変えることにより、エタノールの沸点は78.3℃(1000hPaにおいて)であり,ラッピング加工点での気化反応を容易に行うことができ、水に比べて気化熱量は低いものの、むしろ強制冷却能力は高くなる。また、重量比で水:エタノール=7:3の場合の沸点は83.5℃(1000hPa)であり、ラッピング加工条件にあわせて水とエタノールの併用が冷却効率を上げることになる。
【0085】
このように、ラップ剤27で使用していた水を、水とエタノール、もしくはエタノールのみに代替して、ラッピング加工中の発熱を除去し、熱変形による加工精度低下を防止できるといえる。
【0086】
図15は、エタノールの添加による金型の温度変化を示す。具体的には、エタノールと水との混合比を1:1にした場合の温度変化と2:1にした場合の温度変化とを示し、比較例として市販の研磨剤を使用したときの温度変化を示す。図15から、比較例に対してエタノールと水との混合比が1:1の場合には金型の温度上昇を半分以下に抑制でき、また、上記混合比が2:1の場合には金型の温度上昇を実質的に除去可能であることが判明した。
【0087】
以上のように、本発明のラップ端子あるいは超音波振動子を備えたラッピング工具、又はラップ剤を備えたラッピング装置によれば、下記の作用効果を発揮させることができる。
(1)三次元形状など複雑形状の工作物に対するラッピング加工であっても、局所的に入り組んだ箇所に本発明のラップ端子が適合するようになり、全面を均一な表面粗さにすることができ、ひいては、製品の高品位加工を実現することが可能となる。
(2)ラッピング加工のための摺動スペースがほとんど無い複雑形状の加工部位に対しても、本発明の超音波ラッピング工具によって、きわめて効率の良いラッピング加工が可能になる。
(3)本発明のラップ剤を使用することにより、長時間均一にダイヤモンド砥粒を浮遊させることができ、長時間の加工時間を要する大型金型や複雑形状金型のラッピング加工に有効である。
(4)さらに、本発明のラップ剤に低級アルコール類を添加することにより、ラップ剤が蒸発してその気化熱冷却効果を発揮し、従来問題となっていた金型の発熱を効果的に除去することができる。この気化熱冷却効果は、上記(2)の超音波ラッピング工具による高速ラッピングにおいて顕著に生じ得る発熱に対して特に有効である。
【0088】
本発明は前記実施例に限定されることなく、特許請求の記載した発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明のラッピング工具の構成を示した図である。
【図2】本発明のラッピング装置の構成を示した図である。
【図3】本発明のラップ端子の製造方法を示した図である。
【図4】本発明のラップ端子を用いてラッピング加工を施した工作物の仕上げ面を示した図である。
【図5】本発明のラッピング工具(超音波ラッピング工具)の構成を示した図である。
【図6】ラップ剤中の砥粒の落下速度を測定する実験装置の概略を示した図である。
【図7】砥粒の落下速度の実験結果を示した図である。
【図8】砥粒取り込み数を評価するための実験装置の概略を示した図である。
【図9】品質工学により求めた砥粒取り込み数の感度とSN比の要因効果図を示した図である。
【図10】ラップ端子押付圧力が砥粒の取り込みに及ぼす影響を示した図である。
【図11】ラッピング加工条件と砥粒保持率との関係を示した図である。
【図12】ラッピング加工実験対象の工作物の一例を示した図である。
【図13】好適なラップ剤及び加工条件でラッピング加工した後の図12の工作物の表面粗さを示した図である。
【図14】好適なラップ剤及び加工条件でラッピング加工した後の仕上げ面を示した図である。
【図15】本発明のラップ剤(エタノール添加)が金型の温度変化に及ぼす影響を示した図である。
【符号の説明】
【0090】
1 ラッピング工具
2 ラッピング装置
3 往復駆動部
4 工作物
4a 加工予定部(コーナー部)
11 取付部
12 調整ダイアル
13 調整ねじ
14 弾性支持部
15 ラップ端子
16 固定ボルト
17 接続穴
18 空洞部
19 超音波振動部
19a 超音波振動子
19b 共振体
19c アンプ
21 ベッド
22 コラム
23 主軸頭
24 主軸
25 テーブル
26 加工槽
27 ラップ剤
31 出力軸
40 離型剤
41 合成樹脂
42 補強骨材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図12】
10
【図13】
11
【図15】
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【図4】
13
【図14】
14