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明細書 :幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5822189号 (P5822189)
公開番号 特開2012-135261 (P2012-135261A)
登録日 平成27年10月16日(2015.10.16)
発行日 平成27年11月24日(2015.11.24)
公開日 平成24年7月19日(2012.7.19)
発明の名称または考案の名称 幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤
国際特許分類 C12N   5/077       (2010.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61P   3/00        (2006.01)
A61P   3/04        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 202G
C12Q 1/02
A61K 37/02
A61P 3/10
A61P 3/00
A61P 3/04
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2010-290024 (P2010-290024)
出願日 平成22年12月27日(2010.12.27)
審査請求日 平成25年12月13日(2013.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】米田 幸雄
【氏名】檜井 栄一
【氏名】高田 紗矢
【氏名】中村 由香里
【氏名】橋詰 翔太
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
【識別番号】100163544、【弁理士】、【氏名又は名称】平田 緑
審査官 【審査官】小金井 悟
参考文献・文献 Chinese Journal of Biochemistry and Molecular Biology,2009年11月,Vol.25, No.11,p.997-1002
Nature,2008年 8月21日,Vol.454, No.7207,p.1000-1004,SI, p.1-18
Cytokine Growth Factor Rev.,2005年 6月,Vol.16, No.3,p.265-278
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(c)のいずれかから選択されるタンパク質であるGdf5を有効成分とする、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質;
(c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質。
【請求項2】
間葉系幹細胞から褐色前駆脂肪細胞への分化能を増強する、請求項に記載の分化誘導促進剤。
【請求項3】
褐色前駆脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化能を増強する、請求項1または2に記載の分化誘導促進剤。
【請求項4】
幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有する、以下の(a)~(c)のいずれかから選択されるタンパク質であるGdf5の存在下で、細胞を培養することを含む、褐色脂肪細胞の分化誘導方法
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質;
(c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質。
【請求項5】
前記細胞が、間葉系幹細胞および/または褐色前駆脂肪細胞である、請求項に記載の褐色脂肪細胞の分化誘導方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1に記載の分化誘導促進剤と、薬学的に許容される担体とを含む、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防及び/又は改善のための医薬組成物。
【請求項7】
請求項もしくはに記載の分化誘導方法を用いる、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防剤及び/又は改善剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤、幹細胞から褐色脂肪細胞の分化誘導方法、当該方法により生成された細胞、前記分化誘導促進剤および/または前記細胞を含む医薬組成物、並びに、糖尿病等の予防剤及び/又は改善剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪組織は、生体に存在する重要な臓器の一つであり、その主な役割はエネルギーを脂肪として蓄えること、外界からの物理的衝撃を吸収して器官を保護すること、外界の温度を断熱して体温を保つことなどである。脂肪組織は、白色脂肪組織と褐色脂肪組織の2つのタイプに大別される。
【0003】
白色脂肪組織は、エネルギーを中性脂質として細胞内に貯蓄する白色脂肪細胞から構成されており、白色脂肪細胞は生体内の余剰エネルギーを蓄える働きがある。白色脂肪細胞は生体がエネルギーを必要とする際に、中性脂質を遊離脂肪酸へと分解し、ミトコンドリアに存在する電子伝達系を介してATP(アデノシン三リン酸)を合成してエネルギーを生体へ補給する役割を持つ。
【0004】
褐色脂肪組織は褐色脂肪細胞から構成されている。褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞と同様に細胞内に中性脂質を貯蓄するが、ミトコンドリア脱共役タンパク質1(uncoupling protein-1:UCP1)の働きにより、電子伝達系におけるATP合成を経ずに、中性脂質を熱へと変換することができる。生体内においては、白色脂肪細胞によるエネルギーの貯蔵およびATP合成系を介したエネルギーの補給と、褐色脂肪細胞による熱産生によるエネルギーの消費により、全身のエネルギー消費や体脂肪量の調節が行われていると考えられている。
【0005】
近年、メタボリックシンドロームが著しい社会問題となっており、そのリスクファクターとして肥満の病態解析と対策が求められている。肥満やメタボリックシンドロームは、エネルギー摂取の増大(例えば多食など)とともに、エネルギー消費の減少が大きな原因であると考えられている。肥満等の対策として生体内のエネルギー消費増大が重要であることが認識されつつあり、そのターゲットとして、熱産生によりエネルギーを消費することのできる褐色脂肪細胞が着目されている。
【0006】
生体内では褐色脂肪細胞は、肩甲骨周辺と首の後ろ、わきの下など限られた場所にしかなく、少量しか存在しない。さらに、褐色脂肪細胞は加齢と共に年々少なくなっていくことが知られている。褐色脂肪細胞を生体内において増加させることができれば、エネルギー消費を増大させることが可能となる。
【0007】
褐色脂肪細胞は、生体内に存在する幹細胞と呼ばれる未分化な細胞から分化すると考えられている(非特許文献1)。幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導因子として、BMP7等のいくつかの因子が報告されている(非特許文献2)。また、培養レベルにおいて、幹細胞から褐色脂肪細胞以外の細胞を分化誘導せずに、褐色脂肪細胞を選択的に分化させるような因子として、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARα)などのリガンドが報告されている(特許文献1)。しかしながら、in vitroおよびin vivoのいずれにおいても、褐色脂肪細胞の分化誘導のメカニズムの詳細は未だ不明のままである。幹細胞から褐色脂肪細胞の選択的分化誘導に関する研究は、肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善のための新しい手法の開発に結びつくことが期待され、注目されている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2010-130968号公報
【0009】

【非特許文献1】Endocr Rev. 2003 Feb;24(1):78-90.
【非特許文献2】Nature. 2008 Aug 21;454(7207):1000-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、幹細胞から褐色脂肪細胞を効率よく選択的に分化誘導するための、分化誘導促進剤および分化誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Gdfファミリーに属するGdf5(Growth/differentiation factor-5)が、幹細胞から褐色脂肪前駆細胞の分化誘導を、および褐色脂肪前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進することを確認し、Gdf5を幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤として使用し得ることを見出し、本発明を達成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.Gdfを有効成分とする、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤。
2.Gdfが、以下のタンパク質から選択される、前項1に記載の幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導促進剤:
(a) 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質;
(c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質。
3.間葉系幹細胞から褐色前駆脂肪細胞への分化能を増強する、前項1または2に記載の分化誘導促進剤。
4.褐色前駆脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化能を増強する、前項1~3のいずれか1に記載の分化誘導促進剤。
5.幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するGdfの存在下で、細胞を培養することを含む、褐色脂肪細胞の分化誘導方法。
6.前記細胞が、間葉系幹細胞および/または褐色前駆脂肪細胞である、前項5に記載の褐色脂肪細胞の分化誘導方法。
7.前項1~4のいずれか1に記載の分化誘導促進剤と、薬学的に許容される担体とを含む、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防及び/又は改善のための医薬組成物。
8.前項5もしくは6に記載の分化誘導方法を用いる、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防剤及び/又は改善剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分化誘導促進剤および分化誘導方法によれば、高効率で、間葉系幹細胞から褐色前駆脂肪細胞への分化誘導、および、褐色前駆脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導の過程を模式的に示す図である。
【図2】間葉系幹細胞から褐色前駆脂肪細胞への分化誘導におけるGdf5の作用を確認するための実験手法と結果を示す図である。(実施例1)
【図3】褐色前駆脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導におけるGdf5の作用を確認するための実験手法と結果を示す図である。(実施例2)
【図4】肥満モデルマウスの体重、血中グルコース濃度、体温を測定した結果を示す図である。(実験例1)
【図5】肥満モデルマウスの生体内におけるGdf5のmRNAおよびタンパク質の発現を確認した結果を示す図である。(実験例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の分化誘導促進剤の有効成分である「Gdf」とは、Gdf(Growth/differentiation factor)ファミリーに含まれるタンパク質の少なくとも1種もしくは2種以上の混合物を意味する。Gdfファミリーのタンパク質は、骨、軟骨、腱、靭帯、神経および皮膚の成長、分化、再生のような形態形成を誘導することが知られており、Gdf1、Gdf2、Gdf3、Gdf5、Gdf6、Gdf7、Gdf8、Gdf9、Gdf10、Gdf11、Gdf15、Gdf16等の複数のアイソフォームが存在する。本発明におけるGdfは、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進しうるものであれば、いずれのアイソフォームのGdfであってもよいが、好ましくは本発明のGdfは、Gdf5である。

【0016】
本発明におけるGdfは、哺乳動物由来、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等由来のものが例示されるが、好ましくはヒトまたはマウス由来である。マウス由来のものとしては、GenBank Accession No. AAH79555(Gdf1)、GenBank Accession No. AAD40308(Gdf2)、GenBank Accession No. AAI01964(Gdf3)、GenBank Accession No. AAA18778(Gdf5)、GenBank Accession No. AAI41340(Gdf6)、GenBank Accession No. AAK30843(Gdf7)、GenBank Accession No. EDK99985(Gdf8)、GenBank Accession No. AAH52667(Gdf9)、GenBank Accession No. AAH58358(Gdf10)、GenBank Accession No. NP_034402(Gdf11)、GenBank Accession No. AAH67248(Gdf15)、GenBank Accession No. CAD60935(Gdf16)に記載のものが例示される。

【0017】
本発明のGdfは、以下の(a)~(c)より選択されるいずれか1のタンパク質であることが好適である。
(a) 配列番号1(Gdf5:GenBank Accession No. AAA18778)で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b) 配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上(好ましくは1~4個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質。
(c) 配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を有するタンパク質。

【0018】
Gdfは、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導過程において、褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する機能を発揮する。幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導過程の模式図を図1に示す。分化誘導過程には、「コミットメント」という分化の方向性が決定される段階と、最終的に褐色脂肪組織としての機能を発揮する褐色脂肪細胞に成熟する「分化」という段階に大きく分けられる。コミットメントの段階では、幹細胞(例えば胚性幹細胞)は、間葉系幹細胞を介して、BMP-7等の作用により、褐色脂肪前駆細胞へと誘導される。その後分化の段階において、褐色前駆脂肪細胞がBMP-7等の作用により、褐色脂肪細胞へと成熟する。本発明の分化誘導促進剤は、幹細胞から褐色脂肪細胞の分化誘導過程のどの時点において作用するものであってもよいが、好ましくは間葉系幹細胞から褐色前駆脂肪細胞への分化能、および、褐色前駆脂肪細胞から褐色脂肪細胞への分化能を増強する機能を有するものである。

【0019】
本発明における幹細胞は、褐色脂肪細胞の分化誘導に用いることのできるものであればいかなるものであってもよい。例えば本発明における幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、もしくは、骨髄、血液、皮膚、脂肪、脳、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する、未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞と記す)(なお、体性幹細胞には間葉系幹細胞が含まれる)、さらには遺伝子導入などにより人工的に作製された幹細胞が例示され、これら幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、凍結細胞いずれであってもよい。本発明における幹細胞は、好ましくは、間葉系細胞である。間葉系幹細胞とは、間葉系に属する細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)へ分化しうる能力を有し、かつ自己複製能力を有する細胞として定義される。

【0020】
また、分化の方向性の決定および分化誘導の過程等について図1に示すものと同等の特性を持つ哺乳動物であれば、全ての哺乳動物の幹細胞を、本発明における分化誘導の対象とすることができる。かかる幹細胞として、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物から得られた幹細胞が例示される。

【0021】
本発明において、褐色脂肪前駆細胞とは、褐色脂肪細胞に分化しうる能力を有し、かつ自己複製能力を有する細胞として定義される。褐色脂肪前駆細胞は、胚性幹細胞のようにすべての細胞に分化する多分化能は有していないが、生体内において褐色脂肪細胞を供給する機能を有している。

【0022】
本発明における褐色脂肪細胞とは、電子伝達系と酸化的リン酸化によるATP合成を経ずに、中性脂質を熱へと変換する機能を有する細胞である。褐色脂肪細胞は、脂肪滴が複数あり、この脂肪滴に隣接するようにミトコンドリアを多数持つため、褐色を呈している。電子伝達系と酸化的リン酸化によるATP合成は、電子伝達系によりミトコンドリアの内膜と外膜の間に蓄積された水素イオンが、ATP合成酵素内にある穴を突き抜けてエネルギーを発生させ、このエネルギーによってADPにPO4が結合して高エネルギー化合物であるATPを生成する過程である。一方、褐色脂肪細胞における中性脂質の熱変換は、ミトコンドリアの内膜へ結合したUCP1により、内膜と外膜の間に蓄積した水素イオンがUCP1内にある穴を通じてミトコンドリア内へ流入して熱を産生する過程である。

【0023】
褐色脂肪前駆細胞及び/又は褐色脂肪細胞は、細胞の形態学的観察やオイルレッドO染色により確認することができる。その他例えば、褐色脂肪前駆細胞で発現が確認されているUCP1やPGC1aや、褐色脂肪細胞のマーカーと考えられているUCP1を指標として検出することもできる。これらのマーカーの検出は例えば抗体を用いて、自体公知の手法により行うことができる。

【0024】
本発明は、Gdf存在下で細胞を培養することを含む、幹細胞から褐色脂肪細胞を分化誘導する方法にも及ぶ。本発明の分化誘導する方法は、必ずしも褐色脂肪細胞が得られることを必須とするものではなく、褐色脂肪細胞に分化の方向性が決定された細胞、例えば褐色前駆脂肪細胞等が得られればよい。また本発明の分化誘導する方法により得られた細胞は、褐色脂肪前駆細胞と褐色脂肪細胞とが混合しているものであってもよい。すなわち、本発明の褐色脂肪細胞を分化誘導する方法は、褐色前駆脂肪細胞を分化誘導する方法を含むものであり、好ましくは、幹細胞から褐色脂肪前駆細胞及び/又は褐色脂肪細胞を分化誘導する方法である。

【0025】
本発明の分化誘導方法において培養される細胞は、褐色脂肪細胞に分化しうる能力を有する細胞であれば、いかなるものであってもよい。褐色脂肪細胞に分化し得る能力を有する細胞としては、幹細胞もしくは褐色脂肪前駆細胞が例示される。幹細胞は好ましくは間葉系幹細胞である。

【0026】
本発明の褐色脂肪細胞を分化誘導する方法は、Gdfの存在下で細胞を培養することを含むものであるが、細胞の培養は本研究分野において実施されている自体公知の方法、あるいは今後開発されるあらゆる方法により行うことができる。

【0027】
例えば、本発明の方法に用いることができる培地(培養液)としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、イーグル基礎培地 (BME)、Iscove(IMDM)、RPMI、DMEM、Fischer培地、α培地、Leibovitz培地、L-15培地、NCTC培地、F-12培地、MEM、MoCy培地)に、脂肪細胞分化誘導因子として、デキサメタゾン(DEX)、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、インドメタシン(IDM)、インスリン(Ins)、ビオチンの1種以上を添加し、さらに、Gdfを少なくとも1種添加したものを用いることができる。また、増殖速度を増大させるために、プロゲステロン、プラレッシン、トランスフェリン、セレナイトの添加物、あるいは褐色脂肪細胞培養用添加物と、必要に応じて、ヘパリンやヘパラン硫酸又はこれらの脱硫酸化グリコサミノグリカンを含有していてもよい。また、必要に応じて、抗生物質を含有してもよい。 上記分化誘導用培地には、血清が含まれていてもよい。

【0028】
細胞の培養期間は、幹細胞から褐色脂肪前駆細胞および/または褐色脂肪細胞を分化誘導し得る期間であればよい。細胞の培養期間は特に限定しないが、少なくとも1日以上、好ましくは3日以上、より好ましくは5日以上、さらに好ましくは1~2週間程度である。培地にGdfを存在させる時期については特に限定されるものではなく、培養期間の全期間にわたってGdfを存在させてもよいが、培養期間の特定の期間のみGdfを存在させてもよい。例えば間葉系幹細胞を培養する場合には、培養初期、好ましくは培養1日目からGdfを含む培地で培養し、数日後例えば3日後などに、培地を、Gdfを含まない培地に交換してもよい。例えば褐色脂肪前駆細胞を培養する場合には、培養初期例えば培養1~3日目までは、Gdfを含まない培地で培養し、その後培地を、Gdfを含む培地に交換してもよい。

【0029】
培地中におけるGdfの濃度は、幹細胞から褐色脂肪前駆細胞および/または褐色脂肪細胞を分化誘導し得る量であればよい。例えば培地中におけるGdfの濃度は、1~1000ng/mlであり、好ましくは10~1000ng/ml、より好ましくは100~1000ng/mlである。1ng/ml以下であれば、褐色脂肪細胞への分化誘導作用が見られない可能性が高く、1000ng/ml以上であれば、細胞の生存増殖が阻害される可能性がある。

【0030】
本発明は、上記分化誘導方法により生成された、褐色脂肪前駆細胞もしくは褐色脂肪細胞にも及ぶ。

【0031】
さらに本発明は、本発明の分化誘導促進剤もしくは本発明の分化誘導方法により生成された上述の細胞と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物にも及ぶ。本明細書における薬学的に許容される担体としては、通常必要により用いられる補助剤、芳香剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、粘着剤や防腐剤等を適宜選択して含むことができる。

【0032】
本発明の医薬組成物は、多様な形態を取ることが出来、腸溶性コーティングされた組成物、徐放性組成物又は持効性組成物、溶液である組成物、局所用組成物、吸入剤である組成物などが挙げられるが、特に限定されるものではない。医薬組成物の投与方法としては、経口投与、非経口投与、粘膜投与、局所投与などがあり、非経口である場合、皮下、静脈内、皮内、腹腔内へ投与できる。
特に褐色脂肪前駆細胞および/または褐色脂肪細胞を含む医薬組成物は、生体への移植材料として用いることができる。前記細胞を生理食塩水や培養液に、例えば1×103~1×107個/mlとなるように調製し、腹腔内や皮下などへ注射やカテーテルなどにより局所注入することができる。

【0033】
本発明の医薬組成物は、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防剤及び/又は改善剤として用いることが可能である。糖尿病は、急性および慢性の種々の合併症を引き起こすことが知られている。また、メタボリックシンドロームや肥満は、例えば心筋梗塞、狭心症、脳卒中や、肝炎等の原因と考えられている。本発明の医薬組成物は、これらの糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満に起因する疾患の予防剤および/または改善剤として用いることができる。さらに本発明の医薬組成物は、上記以外の褐色脂肪細胞の分化異常に起因する疾患の予防剤および/または改善剤としても用いることが可能であると考えられる。

【0034】
本発明はさらに、前記分化誘導方法または、前記分化誘導方法により生成された細胞を用いる、糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防剤及び/又は改善剤のスクリーニング方法にも及ぶ。後述する実験例では、肥満モデルマウスにおいて褐色脂肪細胞特異的にGdf発現量が上昇しているという結果が得られている。これらの結果は、生体内においてGdfが、褐色脂肪細胞への分化誘導を促進する役割を担っていることを示唆するものである。よって、Gdfによる褐色脂肪細胞の分化誘導促進経路を刺激しうる物質を選択することにより、新たなメカニズムに基づく糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満を予防及び/又は改善する薬剤を提供することが可能になると期待される。

【0035】
本発明における糖尿病、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満の予防剤及び/又は改善剤をスクリーニングする方法は、例えば、本発明の分化誘導方法を用いて細胞を培養する際に、候補物質を存在させて、褐色脂肪細胞への分化誘導への影響を確認する、あるいは、候補物質を生体(マウス等のヒトを除く哺乳動物)に投与等して、候補物質の、Gdfによる褐色脂肪細胞への分化誘導促進経路に対するin vivoでの影響を確認することにより、行なうことができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の理解を深めるために実施例および実験例により発明内容を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)間葉系幹細胞から褐色脂肪前駆細胞への分化誘導
間葉系幹細胞を培養して褐色脂肪前駆細胞を分化誘導させた。細胞の形態を確認することにより、褐色脂肪前駆細胞を計数した。
1)培養液IMの調製(細胞増殖用培地)
細胞増殖用培養液として、BME(Basal Medium, Eagle)に、ウシ胎児血清(FBS、10%)、20nMのインシュリン(Ins)、1nMのtriiodothyronin(T3)、0.5μMのデキサメタゾン(DEX)、0.5μMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、0.125mMのインドメタシンを添加した培養液を作製した(以後、培養液IMと記す)。各添加物の濃度は、培養液中の最終濃度である。
【実施例】
【0038】
2)培養液DMの調製
BME(Basal Medium, Eagle)に、ウシ胎児血清(FBS、10%)、20nMのインシュリン(Ins)、1nMのtriiodothyronin(T3)を添加した培養液を作製した(以後、培養液DMと記す)。各添加物の濃度は、培養液中の最終濃度である。
【実施例】
【0039】
3)細胞の培養
5×104個/mlの間葉系幹細胞(C3H10T 1/2細胞)を組織培養用24穴プレートに播種し、各種濃度のGdf5(0.1、1、10、または100ng/mL)(Recombinant mouse GDF-5(R&D systems cat#853-G5-050)を添加したDMEM培養液に懸濁して培養を開始した。培養を開始した日を0日目として3日目まで培養し、Gdf5を含まない培養液IMに培地を交換した。その後、2日間おきに新しい培養液DMに交換し、10日目まで培養を行った(図2(a))。褐色脂肪前駆細胞を、オイルレッドO染色により染色して、計数した。
【実施例】
【0040】
結果を図2(b)と(c)に示す。Gdf5を10または100ng/mLで添加した場合には、分化誘導された褐色脂肪前駆細胞の数が有意に増加しており、分化誘導が促進されることがわかった。
【実施例】
【0041】
(実施例2)褐色脂肪前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導
褐色脂肪前駆細胞を培養して褐色脂肪細胞を分化誘導させた。培養液DMは、実施例1と同様にして作製した。
【実施例】
【0042】
2×104個/mlの褐色脂肪前駆細胞(BFP細胞)を組織培養用24穴プレートに播種し、培養液DMに懸濁して培養を開始した。培養を開始した日を0日目として3日目まで培養し、各種濃度のGdf5(0.1、1、10、または100ng/mL)を添加した培養液DMに培地を交換した。その後、2日間おきに新しい培養液DM(各種濃度のGdf5を含む)に交換し、11日目まで培養を行った(図3(a))。褐色脂肪細胞を、オイルレッドO染色により染色して、計数した。
【実施例】
【0043】
結果を図3(b)と(c)に示す。Gdf5を10または100ng/mLで添加した場合には、分化誘導された褐色脂肪細胞の数が有意に増加しており、分化誘導が促進されることがわかった。
【実施例】
【0044】
(実験例1)肥満モデルマウスにおけるGdf5の発現の確認
1)肥満モデルマウスの作製
野生型マウスであるC57BL/6Jマウスにおいて、レプチンを欠損させたマウスを作製し、肥満モデルマウス(ob/obマウス)とした。レプチン欠損マウスは、2型糖尿病のモデルマウスとして知られている。ob/obマウスの作製は、Effects of the obese gene product on body weight regulation in ob/ob mice. Science. 1995 Jul 28;269(5223):540-3.の記載に準じて行った。
【実施例】
【0045】
肥満モデルマウス(ob/obマウス)は、体重と血中グルコース濃度が、C57BL/6Jマウスと比較して上昇しており、体温はC57BL/6Jマウスと比較して低下しており、典型的な2型糖尿病の症状を示していた(図4)。
【実施例】
【0046】
2)Gdf5の発現の確認
肥満モデルマウスの、骨(Bone)、筋肉(Muscle)、肝臓(Liver)、褐色脂肪組織(BAT)、白色脂肪組織(WAT)、膵臓(Pancreas)の各組織からISOGEN(ニッポンジーン:cat#317-02503)を用いてmRNAを精製した。
得られたmRNAについて、Mx3000P QPCR system (agilent technology)を用いて、Gdf5遺伝子のmRNA発現量の解析を行った。mRNA発現量の評価をするための内部標準として、364b遺伝子の発現量を確認した。解析には、以下のプライマーを用いた。同様にして、野生型マウス(WT)としてC57BL/6JマウスについてもmRNAの発現量の解析を行った。
Gdf5の発現解析に用いたプライマー:
gdf5-F;tgcccctgacttaggacagag(配列番号2)
mgdf5-R;acaccatagatatgaccccctg(配列番号3)
【実施例】
【0047】
また肥満モデルマウスの褐色脂肪組織(BAT)、白色脂肪組織(WAT)からタンパク質画分を分離し、ウェスタンブロッティングを行い、Gdf5のタンパク質の発現量を確認した。タンパク質の発現量の評価をするための内部標準として、Gapdhおよびβチューブリンの発現量を確認した。ウェスタンブロッティングには、抗GDF-5 antibody(R&D systems; cat#AF853)を用いた。同様にして、野生型マウス(WT)としてC57BL/6Jマウスについてもタンパク質の発現量の解析を行った。
【実施例】
【0048】
結果を図5(a)、(b)に示す。
野生型マウスにおいて、組織によるmRNA発現量の違いは見られなかったが、ob/obマウスにおいては、他の組織に比べて褐色脂肪組織において高いmRNA発現量が認められた。また、ob/obマウスの褐色脂肪細胞においては、白色脂肪細胞に比べて、高いGdf5のタンパク質量が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の分化誘導促進剤または分化誘導方法により、遺伝子導入等の複雑な技術を必要とせずに、幹細胞から褐色脂肪細胞へ分化誘導を促進することができ、効率的に褐色脂肪前駆細胞や褐色脂肪細胞を得ることが可能となる。褐色脂肪細胞は中性脂質を直接熱に変換して消費することができる。本発明の分化誘導促進剤および、本発明により得られた褐色脂肪前駆細胞や褐色脂肪細胞は、メタボリックシンドローム及び肥満の予防及び/又は改善に応用することができると考えられ、有用である。さらに、Gdf5による褐色脂肪細胞の分化誘導メカニズムは本発明において新規に見出されたものである。本発明の分化誘導方法や、本発明により得られた褐色脂肪前駆細胞や褐色脂肪細胞を用いることにより、新たな作用メカニズムにより、メタボリックシンドローム及び肥満を予防及び/又は改善し得ることが期待される。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4