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明細書 :滑り検出装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5257896号 (P5257896)
公開番号 特開2010-271242 (P2010-271242A)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月7日(2013.8.7)
公開日 平成22年12月2日(2010.12.2)
発明の名称または考案の名称 滑り検出装置及び方法
国際特許分類 G01L   5/00        (2006.01)
B25J  19/02        (2006.01)
FI G01L 5/00 Z
B25J 19/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2009-124463 (P2009-124463)
出願日 平成21年5月22日(2009.5.22)
審査請求日 平成24年3月6日(2012.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
【識別番号】390034728
【氏名又は名称】イナバゴム株式会社
発明者または考案者 【氏名】下条 誠
【氏名】勅使河原 誠一
個別代理人の代理人 【識別番号】100082740、【弁理士】、【氏名又は名称】田辺 恵基
審査官 【審査官】田邉 英治
参考文献・文献 特公平07-090486(JP,B2)
特公平04-048597(JP,B2)
特開2004-226380(JP,A)
特開2009-034744(JP,A)
特開2008-250978(JP,A)
特開2008-070327(JP,A)
特公昭56-054019(JP,B1)
特公平07-007607(JP,B2)
特開平1-316194(JP,A)
特開昭60-34295(JP,A)
調査した分野 G01L 1/00- 1/26
G01L 5/00- 5/28
B25J 1/00-21/02
特許請求の範囲 【請求項1】
接触部材の接触を受ける接触受け部材上に設けた感圧導電シートを有する滑り検出部材と、
上記感圧導電シートを介して上記接触部材が上記接触受け部材に押圧されたとき、上記感圧導電シートから送出される検出信号を受けて上記感圧導電シートの抵抗値の変化に基づいて、上記接触部材の滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分を含む滑り検出信号を形成する滑り検出信号形成回路と、
上記滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分が所定の閾値を超えたとき上記滑り変位発生直前に初期滑りが発生したことを表す滑り確認信号を送出する滑り検出演算部と
を具え
上記接触部材の滑り変位は、時間tの経過に従って、時点t=t0からt=t1までの間に法線方向力Fnのみが与えられることにより滑り変位が生じない状態を維持し、
続いて時点t=t1からt=t2までの間に徐々に大きくなる接線方向力Ftが与えられるが滑り変位が生じない状態を維持し、
続いて時点t=t2からt=t3までの間に滑り変位が生じた後時点t=t3以後滑り変位が一定値になり、
上記高周波波形成分は、滑り開始時点t=t2において滑り変位が発生する直前において、上記検出信号の値が急激に上昇すると共に、滑り開始時点t=t2に近づくに従って激しく上下動を繰り返した後、滑り開始時点t=t2においてピーク波形を呈する
ことを特徴とする滑り検出装置。
【請求項2】
上記滑り検出部材は、上記感圧導電シートの片面又は両面に電極板シートを設けることにより、上記電極シートから上記感圧導電シートの抵抗値の変化を表す上記検出信号を送出する
ことを特徴とする請求項1に記載の滑り検出装置。
【請求項3】
上記滑り検出演算部は、上記滑り検出信号を離散ウェーブレット変換処理する離散ウェーブレット変換手段を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の滑り検出装置。
【請求項4】
接触部材の接触を受ける接触受け部材上に設けた滑り検出部材の感圧導電シートを介して上記接触部材が上記接触受け部材に接触したとき、上記感圧導電シートから送出される検出信号を受けて上記感圧導電シートの抵抗値の変化に基づいて、上記接触部材の滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分を含む滑り検出信号を滑り検出信号形成回路において形成し、
上記滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分が所定の閾値を超えたとき上記滑り変位発生直前に初期滑りが発生したことを表す滑り確認信号を滑り検出演算部から送出し、
上記接触部材の滑り変位は、時間tの経過に従って、時点t=t0からt=t1までの間に法線方向力Fnのみが与えられることにより滑り変位が生じない状態を維持し、続いて時点t=t1からt=t2までの間に徐々に大きくなる接線方向力Ftが与えられるが滑り変位が生じない状態を維持し、
続いて時点t=t2からt=t3までの間に滑り変位が生じた後時点t=t3以後滑り変位が一定値になり、
上記高周波波形成分は、滑り開始時点t=t2において滑り変位が発生する直前において、上記検出信号の値が急激に上昇すると共に、滑り開始時点t=t2に近づくに従って激しく上下動を繰り返した後、滑り時点t=t2においてピーク波形を呈する
ことを特徴とする滑り検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は滑り検出装置及び方法に関し、特に滑り検出表面に接触している静止物体の滑り開始動作を確実に検出しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、感圧導電センサを用いて滑り検出表面に接触する物体から付与される圧縮方向の圧力の分布を検出することにより、当該滑り検出表面に接触する物体の動きの感触を判知するようにした触覚センサが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また感圧導電センサとしては、非導電性エラストマや合成ゴム中に、導電性粒子を分散させた変形導電性材料に対する圧力変化を、電気抵抗値の変化として検出するものが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2008-128940公報
【特許文献2】特開2000-299016公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、滑り検出表面の感触として、接触する物体の滑り開始時の動作を高い精度で、しかも小型・軽量・薄型の構成によって検出することができれば、例えばロボットのハンドのように、物体との接触面積が小さい指が物体に触れた際の感覚を実現できることにより、適切な把持力(強すぎたり、弱すぎたりしない)により物体を把持し得る把持手段を実現できると考えられる。
【0006】
本願発明は以上の点を考慮してなされたもので、滑り開始の状態を、小型・軽量・薄型の構成によって検出することができるようにした滑り検出装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、接触部材5の接触を受ける接触受け部材2上に設けた感圧導電シート3Aを有する滑り検出部材3と、感圧導電シート3Aを介して接触部材5が接触受け部材2に押圧されたとき、感圧導電シート3Aから送出される検出信号S1を受けて感圧導電シート3Aの抵抗値の変化に基づいて、接触部材5の滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分VpXを含む滑り検出信号Vpを形成する滑り検出信号形成回路31と、滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分VpXが所定の閾値を超えたとき滑り変位発生直前に初期滑りが発生したことを表す滑り確認信号S2を送出する滑り検出演算部36とを設け、接触部材5の滑り変位は、時間tの経過に従って、時点t=t0からt=t1までの間に法線方向力Fnのみが与えられることにより滑り変位が生じない状態を維持し、続いて時点t=t1からt=t2までの間に徐々に大きくなる接線方向力Ftが与えられるが滑り変位が生じない状態を維持し、続いて時点t=t2からt=t3までの間に滑り変位が生じた後時点t=t3以後滑り変位が一定値になり、高周波波形成分VpXは、滑り開始時点t=t2において滑り変位が発生する直前において、検出信号の値が急激に上昇すると共に、滑り開始時点t=t2に近づくに従って激しく上下動を繰り返した後、滑り開始時点t=t2においてピーク波形を呈するようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、感圧導電シートを介して接触部材が接触受け部材に接触したとき、時点t=t0からt=t3になるまでの間において、滑り変位が生じていない状態から接線方向力Ftが与えられるが滑り変位が生じない状態を経て滑り変位が生じた状態になった後滑り変位が一定値になるような滑り動作を行わせると共に、感圧導電シートから送出される検出信号を受けて感圧導電シートの抵抗値の変化に基づいて、高周波波形成分は、滑り変位発生時点t=t2の直前において値が急激に上昇すると共に、t=t2に近づくに従って激しく上下動を繰り返した後t=t2においてピーク波形を呈するような検出信号を得ることにより、接触部材の滑り変位発生直前に生じた高周波波形成分が所定の閾値を超えたとき滑り変位発生直前に初期滑りが発生したことを確認するようにしたことにより、滑り検出部分の構成が一段と小型・軽量・薄型の滑り検出装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態による滑り検出装置の全体構成を示す略線的ブロック図である。
【図2】図1の接触検出部の構成を示す略線図である。
【図3】図2の感圧導電シートの説明に供する略線図である。
【図4】図2の電極板シートの詳細構成を示す略線的平面図である。
【図5】図1の滑り検出信号形成回路の詳細構成を示す略線的接続図である。
【図6】図5の滑り検出信号形成回路の等価回路を示す接続図である。
【図7】図1の滑り検出部材3の動作の説明に供する信号波形図である。
【図8】図1の滑り検出演算部36の動作の説明に供するフローチャートである。
【図9】図8のステップSP3における離散ウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図10】図1の滑り検出部材3の他の実施の形態の説明に供する略線図である。
【図11】接触部材5としてステンレス材を用いた場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図12】接触部材5として布材を用いた場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図13】接触部材5として紙材を用いた場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図14】接触部材5として木材を用いた場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図15】接触部材5としてアクリル材を使用しかつ初期荷重2〔N〕及び滑り速度10〔mm/s〕とした場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図16】図15に対応させて、初期荷重4〔N〕及び滑り速度10〔mm/s〕にした場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図17】図15に対応させて、初期荷重3〔N〕及び滑り速度1〔mm/s〕にした場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【図18】図15に対応させて、初期荷重3〔N〕及び滑り速度5〔mm/s〕とした場合のウェーブレット変換処理の説明に供する信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。

【0011】
(1)第1の実施の形態
図1において、1は全体として滑り検出装置を示し、接触受け部材2(例えばロボットハンドの人指し指)の表面に、シート状の滑り検出部材3が貼り付け固着されこれにより接触検出部7が形成されている。

【0012】
接触受け部材2はこれと対向するように、押付け動作部材4(例えばロボットハンドの親指)によってアクリル材でなる接触部材5が挟み付け動作して来たとき、当該接触部材5の対向する表面に滑り検出部材3を介して挟み込み保持できるようになされている。

【0013】
滑り検出部材3は、図2に示すように、感圧導電シート3Aの一面に電極板シート3Bを一体に重ね合せ固着した構成を有し、電極板シート3Bが接触受け部材2上に接着されることにより、滑り検出部材3が接触受け部材2上に設けられる。

【0014】
この状態において、感圧導電シート3Aの上表面に接触部材5が接触してきたとき、接触部材5から感圧導電シート3Aの上表面に対して、感圧導電シート3Aを厚み方向に圧縮する法線方向力Fnが付与されると共に、感圧導電シート3Aの表面に感圧導電シート3Aの面方向に接触部材5を滑らせる方向の接線方向力Ftが付与される。

【0015】
感圧導電シート3Aは、図3に示すように、非導電性エラストマや合成ゴムである可撓性層本体11中に、導電性粒子12を分散させてなる変形導電性材料によって構成されている。

【0016】
かくして感圧導電シート3Aは、図3(A)に示すように、接触部材5に対して法線方向力Fnが付与されたとき、接触部材5と電極板シート3Bとの間において圧縮動作することにより可撓性層本体11内に分散されている導電性粒子のうち、法線方向に接触する粒子が増大することにより、感圧導電シート3Aの厚み内に多くの導電通路13が生成されることにより、感圧導電シート3Aの内部抵抗を減少させる状態になる。

【0017】
この状態において、接触部材5に対して接線方向力Ftが付与されて滑り始めると、図3(B)に示すように、可撓性層本体11内において互いに離間する導電性粒子12が増えることにより、感圧導電シート3Aの内部抵抗が高くなる。

【0018】
この実施の形態の場合、電極板シート3Bは、図4に示すように、絶縁基板21の表面に導電性パターン層22を付着させた構成を有する。

【0019】
導電性パターン層22の中央位置には、方形渦巻き状に形成された2本の電極パターン23A及び23Bを有する電極パターン領域24が設けられ、各電極パターン23A及び23Bが電極パターン領域24の外側に設けられた2つの端子パターン25A及び25Bに接続されている。

【0020】
電極パターン領域24には、感圧導電シート3Aがその下面に電極パターン23A及び23Bが電気的に接続されるように固着されており、これにより感圧導電シート3Aのうち、電極パターン23A及び23Bに接続された部分間の電気抵抗の値を、端子パターン25A及び25B間に導出できるようになされている。

【0021】
かくして端子パターン25A及び25B間には、感圧導電シート3Aが、接触部材5によって変形されたとき、当該感圧導電シート3A内に生ずる抵抗変化が、端子パターン25A及び25B間に電気抵抗の変化として、滑り検出部材3から、端子25A及び25Bに接続された検出信号導出線26A及び26Bを介して外部に、検出信号S1として導出される。

【0022】
この検出信号S1は、滑り検出信号形成回路31(図1、図5)の検出信号入力端子32A及び32Bに供給される。

【0023】
この実施の形態の場合、図5(B)に示すように、検出信号入力端子32Aは駆動直流電源33の負極側に接続されるのに対して、検出信号入力端子32Bは基準抵抗34を介して駆動直流電源33の正極側端子に接続される。

【0024】
かくして滑り検出部材3に接続された滑り検出信号形成回路31は、図6に示す等価回路を形成する。

【0025】
図6の等価回路において、滑り検出信号形成回路31の駆動直流電源33の両端には、基準抵抗34と滑り検出部材3によって形成される可変抵抗3Cの直列回路が接続され、かくして可変抵抗3Cの両端に得られる分圧電圧が滑り検出信号形成回路31の滑り検出信号Vpとして検出信号入力端子32A及び32Bから導出される滑り検出信号出力端子35A及び35Bに出力される。

【0026】
かくして、滑り検出部材3の感圧導電シート3Aの抵抗値が接触部材5から付与される法線方向力Fn及び接線方向力Ftによって可変することにより、駆動直流電源33の分圧電圧でなる滑り検出信号Vpの値が、法線方向力Fn及び接線方向力Ftの変化を表すことになる。

【0027】
実験によれば、接触部材5から感圧導電シート3Aに対して、図7(C)の特性曲線K1に示すように、時間tの経過に従って、法線方向に常に法線方向力Fnを与えている状態において、特性曲線K2に示すように、接線方向力Ftを時点t0~t1の間Ft=0の状態を維持した後、時点t1~t2の間に接線方向力Ftを徐々に大きくするようにしたところ、図7(B)の特性曲線K3のうち曲線K32に示すように、接触部材5が時点t=t2からt3の間において滑り変位を起こした。

【0028】
このときの滑り検出部材3の検出信号S1に基づいて、滑り検出信号形成回路31の出力端子35A及び35B間に得られる滑り検出信号Vpの値は、図7(A)の特性曲線K4で示すように、接触部材5がt=tにおいて滑り検出部材3に対して滑り出す時に、特異な電気的変化を生じ、当該滑り検出信号Vpの特異な電気的変化をマイクロコンピュータ構成の滑り検出演算部36が演算処理をすることにより確認する。

【0029】
かくして滑り検出演算部36は、滑り確認信号S2を得たとき、これを演算結果出力部37に与えて、ユーザに対して、滑りの発生を確認できたことを知らせる。

【0030】
以上の構成において、滑り検出演算部36は、図7(A)に示すような滑り検出部材3の動作を表す滑り検出信号Vpに基づいて、その電気的変化の特異性を信号の演算処理に基づいて確認する。

【0031】
図7に示す滑り検出部材3の動作の特徴は、滑り検出部材3に対する接触部材5に対する滑り動作の実験結果に基づいて検出をし得たものである。

【0032】
図7(C)において、特性曲線K1で示すように、接触部材5によって滑り検出部材3の感圧導電シート3Aに対して常時法線方向力Fnを付与した状態において、時点t=t0~t1間において接線方向力Ft=0の状態から時点t=t1~t2までの間に接線方向力Ftを徐々に大きくしていったところ、図7(B)において特性曲線K3で示すように、時点t=t2において接触部材5に滑りが生じ、t=t3において当該滑り変位が停止した。

【0033】
このような接触部材5の滑り変位に対して、滑り検出部材3の電極板シート3Bの検出信号導出線26A及び26Bの検出信号S1に基づいて、滑り検出信号形成回路31の出力端子35A及び35B間に得られる滑り検出信号Vpは、図7(A)の特性曲線K4で示すように、時点t=t2の直前から直後に至るまでの間に特異な高周波信号波形成分を発生した。

【0034】
すなわち、時点t=t0からt1までの間において図7(C)の特性曲線K11及びK21によって示すように法線方向力Fnだけを付与している状態であって図7(B)の特性曲線K31に示すように滑り変位が0であるとき、図7(A)の特性曲線K41で示すように滑り検出信号Vpは法線方向力Fnに基づく一定値を維持している。

【0035】
やがて時点t1~t2の区間において特性曲線K22で示すように、接線方向力Ftを徐々に大きくして行くと、特性曲線K31で示すように滑り変位は0の状態を維持しているにも係わらず、滑り検出信号Vpの値は、特性曲線K42で示すように、急激に上昇すると共に、滑り開始時点t=t2に近づくに従って激しく上下動を繰り返した後、滑り時点t=t2においてピーク波形を呈するような変化をする。

【0036】
やがて滑り時点t=t2を過ぎると、特性曲線K32で示すように、接触部材5がほぼ直線的に滑り変位をした後、特性曲線K33で示すように、時点t=t3において当該滑り変位を停止する。

【0037】
このような滑り変位が変化している期間t=t2~t3までの間においては、特性曲線K43で示すように、滑り検出信号Vpはピークの値から急激に低下して行くと共に、当該低下する曲線上に重畳している変動成分は極端に小さくなり、t=t3において滑り変位が停止した後には、特性曲線K44で示すように、上下動成分はほとんどなくなる。

【0038】
この実験結果に基づいて、滑り検出演算部36は、滑り検出信号Vpに高周波成分が重畳し、しかもその上下動の変化幅が所定の閾値を超えたとき、接触部材5に滑り変位が発生する直前の状態にあることを判別する。

【0039】
この実施の形態の場合、滑り検出演算部36は滑り検出信号Vpを離散ウェーブレット変換処理をすることにより、滑り変位が発生する直前の状態を検出する。

【0040】
滑り検出演算部36は、図8に示す滑り検出処理手順RT1によって、滑り検出信号Vpから滑り確認信号S2を形成する。

【0041】
滑り検出演算部36の中央処理ユニット(CPU)は、滑り検出処理手順RT1に入ると、ステップSP1においてユーザから処理開始命令が与えられるのを待ち受けた後、ステップSP2から離散ウェーブレット変換処理を実行する。

【0042】
滑り検出演算部36のCPUは、ステップSP2において、滑り検出信号Vpを50〔Hz〕で50個のサンプルを計測した後、ステップSP3に移って50個のサンプルについて次式

【0043】
【数1】
JP0005257896B2_000002t.gif

【0044】
によって離散ウェーブレット変換を実行する。

【0045】
ただし(1)式のΨ(x)はHaarのウェーブレットで、

【0046】
【数2】
JP0005257896B2_000003t.gif

【0047】
の関係をもつ。

【0048】
上記(1)式及び(2)式において、xは時間tに対応し、上記ステップSP3における離散ウェーブレット変換は、次式

【0049】
【数3】
JP0005257896B2_000004t.gif

【0050】
のように、時間tを

【0051】
【数4】
JP0005257896B2_000005t.gif

【0052】
のように高い周波数の範囲に特定することにより、滑り検出信号Vpにおいて時間の経過に従って高周波成分の発生及びその大きさを離散ウェーブレット変換出力D(x)として求める。

【0053】
かくして滑り検出演算部36のCPUは、離散ウェーブレット変換出力D(x)を得ることにより、滑り検出信号Vpから高周波成分を抽出した結果が得られる。

【0054】
図9(B)は、図9(A)の滑り検出信号Vpを離散ウェーブレット変換処理した結果得られたウェーブレット係数をプロットしたものである。

【0055】
図9によれば、接触部材5の滑り変位が発生する時点t=t2の直前にウェーブレット係数D(x)が最大値になっており、従ってこのとき滑り検出信号Vpには大きな値の高周波成分が多く含まれていることが分かる。

【0056】
滑り検出演算部36のCPUは続くステップSP4においてウェーブレット係数D(x)の最大値及び最小値の差(すなわちピーク対ピークの値)Dppを計算した後、ステップSP5において当該ピーク対ピークの値Dppが閾値aより大きいか否かの判断をする。

【0057】
このステップSP5において肯定結果が得られると、このことは接触部材5が滑り変位が発生する時点t=t2の直前において接触部材5が「滑り始める直前の状態」(これを「初期滑り」と呼ぶ)から「滑り始めた状態」への移行動作を発生しており、その後直ちに接触部材5の滑り変位が開始することを予知できたことを意味する。

【0058】
このとき滑り検出演算部36のCPUはステップSP6に移って滑り確認信号S2を演算結果出力部37に送出する。

【0059】
このとき演算結果出力部37は例えばLEDを点灯させるなどの表示動作をすることにより、滑りの発生をユーザに知らせた後、上述のステップSP2に戻って新たなサンプル計測処理を続ける。

【0060】
これに対してステップSP5において否定結果が得られると、このことは接触部材5に初期滑りが発生していないことを意味し、このとき滑り検出演算部36のCPUはステップSP7において、ユーザが滑り検出処理終了命令を入力したか否かの判断をし、否定結果が得られたとき上述のステップSP2に戻って新たなサンプル計測動作に入る。

【0061】
これに対して、ステップSP7において肯定結果が得られると、滑り検出演算部36はステップSP8に移って当該滑り検出処理手順RT0の処理を終了する。

【0062】
以上の構成において、接触受け部材2の表面に設けられた滑り検出部材3に対して接触部材5が接触することにより、感圧導電シート3Aに生ずる抵抗値変化に基づいて滑り検出信号形成回路31から滑り検出信号Vp(図9(A))が得られると、滑り検出演算部36のCPUは滑り検出処理手順RT1(図8)を実行することにより、滑り検出信号Vpに含まれる高周波成分の変化に基づいて初期滑りの発生を検出すべく、ステップSP2-SP3-SP4-SP5-SP7-SP2のループによって滑り検出処理を実行する。

【0063】
やがて滑り検出演算部36が、ステップSP5においてウェーブレット係数D(x)のピーク対ピーク値Dppが閾値aを超えたと判断したときCPUはステップSP6において滑り確認信号S2を演算結果出力部37に出力する。

【0064】
このとき接触部材5は滑り検出部材3に対する滑り変位を発生する直前の初期滑り状態にあり、かくして滑り検出装置1は滑り変位が発生する直前に初期滑り状態になったことを予め予知することができる。

【0065】
上述の構成によれば、接触受け部材2に接触部材5が接触して滑りが発生する直前において、滑り検出装置1がこれを初期滑りの発生として予め予知する(すなわち滑り予知動作をする)ことができるので、ユーザが当該滑り予知に基づいて、例えば接触部材5に対する把持力を増加させることにより滑り変位の発生を予め防止したりすることにより当該接触部材5の取り落としを防ぐような処理をすることができる。

【0066】
かくするにつき、上述の実施の形態によれば、滑り検出部材3として、図2に示すように、電極板シート3B上に感圧導電シート3Aを設けた簡易かつ小型、薄型の構成によって実現できる。

【0067】
(2)他の実施の形態
(2-1)上述の実施の形態においては、滑り検出部材3として、図2及び図4について上述したように、図10(B)に示すように、感圧導電シート3Aの片面に2つの電極パターン23A及び23Bを設けるようにしたが、電極板シート3Bの設け方はこれに限らず、図10(A)に示すように、感圧導電シート3Aの両面にそれぞれ1枚の電極パターン3BX及び3BYを設けたり、図10(C)に示すように、一面側に2枚の電極パターン23A及び23Bを設けると共に、他面に一枚の電極パターン3BZを設けるようにしても良い。

【0068】
このように電極板シート3Bとしては、感圧導電シート3Aに対して法線方向力Fn、及ぶ接線方向力Ftが付与されたとき、これに応じて変化する抵抗値を感圧導電シート3Aから導出できるようにすれば良い。

【0069】
(2-2)上述の実施の形態においては、滑り検出信号形成回路31から得られる滑り検出信号Vpに滑り変位発生直前に生ずる高周波成分を初期滑りを表す信号を、上述の(1)式及び(2)式によって表される離散ウェーブレット変換を用いるようにしたが、次式

【0070】
【数5】
JP0005257896B2_000006t.gif

【0071】
によって表される連続ウェーブレット変換を用いるようにしても良い。

【0072】
この連続ウェーブレット変換は、滑り検出信号Vpを詳細に周波数解析する場合に適用して好適であり、いつ、どのような周波数が、どの位の強度をもって起こっているかを調べるときに用いる。

【0073】
ただし、連続ウェーブレット変化は計算量が多く、上述の実施の形態において用いた離散ウェーブレット変換の方が、高速処理に適している。

【0074】
因に、上述の実施の形態において用いた離散ウェーブレット変換は、滑り検出信号Vpを周波数解析するというよりは、滑り検出信号Vpを高周波成分と低周波成分とに分解するという処理に近い。

【0075】
上述の実施の形態においては、離散ウェーブレット変換によって滑り検出信号Vpを高周波成分と低周波成分に分解し、当該高周波成分を用いて詳記滑りの検出を行ったものである。

【0076】
(2-3)上述の実施の形態においては、滑り検出信号Vpから高周波成分を抽出する際に離散ウェーブレット変換による信号処理を用いるようにしたが、当該離散ウェーブレット変換を行うことは、実質上ハイパスフィルタを通過させたことと等価である。

【0077】
従って、離散ウェーブレット変換に代えて、例えばFIRフィルタや、IIRフィルタなどによってカットオフ周波数1〔kHz〕以上のハイパスフィルタあるいはこれに相当するバンドパスフィルタを用いても、上述の場合と同様の効果を得ることができる。

【0078】
(2-4)上述の実施の形態においては、滑り検出部材3に接触する接触部材5としてアクリル材を用いた場合について述べたが、接触部材5の材質としてはアクリル材に限らず、図11、図12、図13又は図14に示すように、ステンレス材、布材、紙材又は木材を用いても、滑り検出信号Vpにはそれぞれ滑り変位発生期間において高周波成分VpXが発生すると共に、滑り開始時点t1=t2曲線において初期滑りを表す高周波成分VpYが生ずることが確認できた。

【0079】
これに伴って、図11(B)、図12(B)、図13(B)又は図14(B)に示すように、図9について上述したと同様に、ウェーブレット係数D(X)に滑りに伴う高周波成分D(X)Xが得られると共に、初期滑りに対応する高周波成分D(X)Yが生ずる。

【0080】
従って、接触部材5の材質を変更した場合にも、図9について上述したと同様に、滑り変位が発生する直前に初期滑りが生じていることを確実に検出することができる。

【0081】
(2-5)図9について上述したように、接触部材5がアクリル材のときに初期滑りの検出ができた。

【0082】
当該アクリル材を用いた場合において、初期荷重と滑り速度を変更した場合にも、図15、図16、図17又は図18に示すように、初期滑りの検出をすることができる。

【0083】
因に、図15(A)、図16(A)、図17(A)又は図18(A)の場合は、それぞれ初期荷重2〔N〕及び滑り速度10〔mm/s〕、初期荷重4〔N〕及び滑り速度10〔mm/s〕、初期荷重3〔N〕及び滑り速度1〔mm/s〕又は初期荷重3〔N〕及び滑り速度5〔mm/s〕の場合も、それぞれ滑り検出信号Vpにおいて滑り変位発生時の高周波成分VpXと、初期滑り発生時の高周波成分VpYが発生し(図15(B)、図16(B)、図17(B)又は図18(B))、これに伴ってウェーブレット係数D(X)に、滑り変位発生時の高周波成分D(X)Xと、初期滑りに伴う高周波成分D(X)Yが発生しているので、いずれの場合も図9について上述したと同様に、滑り変位発生時点t=t2の直前に発生する初期滑りを確実に検出することができる。

【0084】
(2-6)上述の実施の形態による滑り検出装置及び方法は、次のような用途に適用し得る。

【0085】
(2-6-1)ロボットハンドによる把持動作
上述の滑り検出装置は、柔軟・薄型・軽量という特徴を有することから、ロボットハンドの指先という小さな面に配置することが可能である。必要であれば、掌などの広い範囲にセンサを配置することも可能である。上述の滑り検出装置を装着することにより、ロボットにハンドの指が物体に触れた、という感覚を与えることができる。また、初期滑りの検出が可能であるため、指先で物体が滑りそうになったことを検知し、把持力を調節することによって、物体の滑りを防止することが可能である。また、物体の重量や摩擦係数が変化した場合においても、この「滑り」という感覚を用いることによって、適切な把持力(強すぎず、弱すぎない力)で把持を実現することができる。

【0086】
(2-6-2)義手への応用(触覚フィードバック)
すでに述べたように、「滑り」という感覚は、「物体を持つ」という動作を行う際、あるいは道具を扱うなど、器用なハンドリング動作を実現するために無くてはならない感覚である。これまでに、接触力を検出可能なセンサを義手に取り付け、これをフィードバックするという試みはなされている。しかしながら、柔らかい紙コップを持つときなど、物体をつかめているかを視覚で確認する必要があり、ある程度慣れるまでに労力と時間を費やしてしまう。つまり、把持物体によって重量や摩擦係数などが異なるため、自分がどのくらいの力を発揮しているかがわかっても、物体を確実につかめているかを知ることができない。そこで、「物体の滑り」を上述の実施の形態による滑り検出装置によって検出し、フィードバックすれば、物体を滑り落さずに、握りつぶさずに力を加減して持つことができる。

【0087】
(2-6-3)入力装置、インターフェース
上述の滑り検出装置は、接触および初期滑りを検出できる。したがって、これを入力装置として用いた場合、指でボタンを押す、という動作、横方向に指がスライドした、という動作を検出することができる。また、上述の滑り検出装置とCoPを検出可能なセンサを組み合わせれば、指がどの方向にスライドした、ということもわかるため、携帯電話などの小型機器におけるマウスカーソルの移動などにも利用可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、ロボットのハンドのように、接触受け部材に対して接触部材が接触するような場合に、その初期滑りを検出するために利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1……滑り検出装置、2……接触受け部材、3……滑り検出部材、3A……感圧導電シート、3B……電極板シート、4……押付け動作部材、5……接触部材、7……接触検出部、21……絶縁基板、22……導電性パターン層、23A、23B……電極パターン、24……電極パターン領域、25A、25B……端子パターン、26A、26B……検出信号導出線、31……滑り検出信号形成回路、32A、32B……検出信号入力端子、33……駆動直流電源、34……基準抵抗、35A、35B……滑り検出信号出力端子、36……滑り検出演算部、37……演算結果出力部。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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