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明細書 :ジンクフィンガーを用いた新規標識方法及び被検物質の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5626673号 (P5626673)
公開番号 特開2010-207181 (P2010-207181A)
登録日 平成26年10月10日(2014.10.10)
発行日 平成26年11月19日(2014.11.19)
公開日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発明の名称または考案の名称 ジンクフィンガーを用いた新規標識方法及び被検物質の測定方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/58        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
G01N 33/58 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2009-059430 (P2009-059430)
出願日 平成21年3月12日(2009.3.12)
審査請求日 平成24年3月9日(2012.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】池袋 一典
【氏名】早出 広司
個別代理人の代理人 【識別番号】100088546、【弁理士】、【氏名又は名称】谷川 英次郎
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 特開2005-052061(JP,A)
特表2004-511210(JP,A)
国際公開第2008/075520(WO,A1)
特表2009-505106(JP,A)
特開2001-103975(JP,A)
特開2008-259496(JP,A)
特開2008-092948(JP,A)
2008年光化学討論会 講演要旨集,2008年,Vol.2008,p.203
第8回バイオテクノロジー部会シンポジウム講演要旨集,2004年10月15日,第60頁, P-44
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00-15/90
C07K 19/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ジンクフィンガー領域を有する標識物質と、該ジンクフィンガー領域の認識部位が導入され、所望の標的分子に特異的に結合するアプタマーとを接触させることにより、ジンクフィンガー領域とその認識部位との間の結合を介して前記アプタマーに標識物質を結合させることを含み、前記認識部位は、前記アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は前記アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入され、かつ、前記認識部位は、前記アプタマーの特異結合性を維持したまま該アプタマーに導入される、アプタマーの標識方法。
【請求項2】
前記標識物質が標識タンパク質であり、前記ジンクフィンガー領域を有する標識物質がジンクフィンガータンパク質と標識タンパク質との融合タンパク質である請求項1記載の標識方法。
【請求項3】
前記標識タンパク質が蛍光タンパク質又は酵素である請求項2記載の標識方法。
【請求項4】
被検物質を含み得る試料と、ジンクフィンガー領域を有する標識物質を含む被検物質結合性アプタマーの標識試薬と、該標識試薬中に含まれる前記ジンクフィンガー領域の導入された認識部位を含み前記被検物質に特異的に結合するアプタマーであって、前記認識部位が、前記アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は前記アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入されたアプタマーとを同時又は逐次的に接触させ、次いで、標識物質とアプタマーと被検物質とを含む複合体を分離後、該複合体中の標識物質からのシグナルを測定し、該シグナルを指標として被検物質を測定することを含む、試料中の被検物質の測定方法。
【請求項5】
固相上に固定化されたアプタマーであって、前記被検物質結合性アプタマーとは異なる部位において前記被検物質と特異的に結合する固相アプタマーを、前記試料、前記標識試薬及び前記被検物質結合性アプタマーと同時又は逐次的に接触させ、次いで、固相を洗浄することにより前記複合体を分離する請求項記載の測定方法。
【請求項6】
前記試料と前記標識試薬と前記被検物質結合性アプタマーとを同時又は逐次的に接触させ、次いで、前記固相アプタマーを接触させる請求項記載の測定方法。
【請求項7】
ジンクフィンガー領域を有する標識物質を含む、被検物質結合性アプタマーの標識試薬と、該標識試薬中に含まれる前記ジンクフィンガー領域の認識部位を含む測定すべき被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマーであって、該認識部位が、該アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は該アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入された被検物質結合性アプタマーとを含む、被検物質の測定キット。
【請求項8】
前記被検物質結合性アプタマーとは異なる部位において前記被検物質に特異的に結合する第2のアプタマーをさらに含む、請求項記載の測定キット。
【請求項9】
前記第2のアプタマーが固相に固定化されている請求項記載の測定キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンクフィンガーとその認識配列とを用いたポリヌクレオチドの標識方法、及び該標識方法を利用した被検物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分子であるDNAに対する標識技術は、抗体に対する標識技術を基礎とし、DNAプローブと共に進歩してきた。DNAプローブは標的塩基配列に相補的に結合することで、標識を介してDNA断片を検出することを可能にする。DNAプローブは分子生物学や遺伝子工学の研究に無くてはならない技術として頻用されてきた(非特許文献1)。
【0003】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献2)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を5~10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得することができる。この特異的結合性という特性から、標識したDNAアプタマーを用いれば、標的分子を特異的に検出することができる。
【0004】
どちらの場合においても、最終的にはDNAの標識物を介して標的物の有無を識別する。標識物質としては、放射性同位元素が古くから用いられているが、放射性同位元素に替わる非放射性標識物質として、酵素が大いに利用されてきた。酵素は、放射性同位元素の種々の問題点を克服し、同程度あるいはそれ以上の感度を有する(非特許文献3)。酵素を用いた検出法としては、代謝産物の吸光や代謝時に発せられる化学発光、生物発光の検出法が用いられている。また近年では、検出法として迅速、簡便な蛍光法が多く用いられている。
【0005】
ルシフェラーゼは、生物発光を触媒する代表的な酵素であり、レポーター遺伝子アッセイで頻用されている。ルシフェラーゼおよびその基質を有している生物が少ないことから、アルカリフォスファターゼやセイヨウワサビペルオキシダーゼなどの酵素と比較し、バックグラウンドが非常に低い。過剰量の補酵素-A(CoA)の存在下で、持続した発光による検出が可能であり、既に、この補酵素-Aを含む基質溶液が市販されている。さらに、種々のルシフェラーゼ変異体が報告されており、熱安定性の改良、および複数の波長の光を放出する変異体の構築がなされてきた。
【0006】
ルシフェラーゼを標識酵素として用いる場合、化学修飾法による直接標識法は適していない。これは、ルシフェラーゼの活性中心付近で化学修飾が起こる確率が高く、ルシフェラーゼが活性を失ってしまうためである(非特許文献4)。このため、間接標識法が多く用いられ、ビオチン化ルシフェラーゼ、Protein A (SpA)融合ルシフェラーゼ、RNA結合タンパク質融合ルシフェラーゼ等が構築されてきた(非特許文献5~8)。
【0007】
しかしながら、このようなルシフェラーゼ融合タンパク質を用いて標識を行なう場合には、標識する側の物質を予めビオチンや抗原等で修飾しておく必要があり、標識操作やコストが増える。また、標識仲介物が増えると非特異的吸着が増え、検出感度を低下させる要因となる。ルシフェラーゼ等の標識酵素をアプタマーの標識に活用できれば有利であるが、上記したルシフェラーゼ融合タンパク質をアプタマーの標識に応用した例は無く、標識酵素の活性を十分に保持した状態で好ましくアプタマーを酵素標識する方法は今までに報告がない。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開第2005/049826号
【特許文献2】国際公開第2007/086403号
【0009】

【非特許文献1】高橋 豊三:"DNAプローブの開発技術",シーエムシー,p.127-132 (2000)
【非特許文献2】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献3】石川 栄治:"酵素修飾法",学会出版センター,p.1-3 (1991)
【非特許文献4】Price RL, Squirrell DJ, Murphy MJ, White PJ. In: Hastings JW, Kricka LJ, Stanley PE, eds. Bioluminescence and chemiluminescence: molecular reporting with photons. Chichester, UK: Wiley, 1998:220-3.
【非特許文献5】Tatsumi H, Fukuda S, Kikuchi M, Koyama Y. In: Hastings JW, Kricka LJ, Stanley PE, eds. Bioluminescence and chemiluminescence: molecular reporting with photons.Chichester, UK: Wiley, 1998:232-5.
【非特許文献6】Ohkuma, H., K. Abe, et al. (1999). Analytica Chimica Acta 395(3): 265-272.
【非特許文献7】Zhang, X. M., E. Kobatake, et al. (2000). Anal Biochem 282(1): 65-9.
【非特許文献8】Kajita, Y., E. Kobatake, et al. (1995). J Biotechnol 43(1): 63-70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、ルシフェラーゼ等のような化学修飾法による直接標識法が適用困難な標識酵素に対しても好ましく適用可能であり、且つ標識操作も簡便で検出系構築の際の自由度が高い新規な標識方法を提供し、さらに、これを利用した被検物質の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ルシフェラーゼにジンクフィンガーを融合し、標識すべきアプタマーに該ジンクフィンガー構造が認識する2本鎖塩基配列を導入することにより、ルシフェラーゼの活性を損なうことなく、融合タンパク質とアプタマーとを混合するのみでアプタマーにルシフェラーゼ標識を結合できることを見出した。また、同一の標的分子に異なる部位で結合する2種類のアプタマーを用いて、一方を上記の通りジンクフィンガーを介して標識し、他方を固相化することにより、標的分子をサンドイッチ形式で固相上に捕捉して検出・定量できる測定系の構築に成功し、本願発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、ジンクフィンガー領域を有する標識物質と、該ジンクフィンガー領域の認識部位が導入され、所望の標的分子に特異的に結合するアプタマーとを接触させることにより、ジンクフィンガー領域とその認識部位との間の結合を介して前記アプタマーに標識物質を結合させることを含み、前記認識部位は、前記アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は前記アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入され、かつ、前記認識部位は、前記アプタマーの特異結合性を維持したまま該アプタマーに導入される、アプタマーの標識方法を提供する。さらに、本発明は、被検物質を含み得る試料と、ジンクフィンガー領域を有する標識物質を含む被検物質結合性アプタマーの標識試薬と、該標識試薬中に含まれる前記ジンクフィンガー領域の導入された認識部位を含み前記被検物質に特異的に結合するアプタマーであって、前記認識部位が、前記アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は前記アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入されたアプタマーとを同時又は逐次的に接触させ、次いで、標識物質とアプタマーと被検物質とを含む複合体を分離後、該複合体中の標識物質からのシグナルを測定し、該シグナルを指標として被検物質を測定することを含む、試料中の被検物質の測定方法を提供する。さらに、本発明は、ジンクフィンガー領域を有する標識物質を含む、被検物質結合性アプタマーの標識試薬と、該標識試薬中に含まれる前記ジンクフィンガー領域の認識部位を含む測定すべき被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマーであって、該認識部位が、該アプタマーの両末端のハイブリダイゼーションによる二本鎖部分に導入され、又は該アプタマーのループ部分で該アプタマーを分断し、その分断部に付加することにより導入された被検物質結合性アプタマーとを含む、被検物質の測定キットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ジンクフィンガーとその認識部位との特異的結合を介するアプタマーの標識方法が初めて提供された。標識物質として酵素等のタンパク質を用いれば、ジンクフィンガーと標識タンパク質を融合させることにより、ジンクフィンガー領域を容易に標識タンパク質に導入できる。ジンクフィンガー領域は100残基程度のサイズで調製できるため、融合タンパク質は容易に調製可能である。化学結合法による直接標識法とは異なり、融合の配向を任意に定めることができるので、標識物質の活性を損なわないように融合タンパク質を調製できる。標識すべきアプタマーには、その塩基配列中にジンクフィンガー領域が認識する認識部位を構成する配列を含ませればよいので、その調製も容易である。特に、認識部位の導入箇所を任意に選択できるので、標識する部位を自由に選択することができる。この利点は、固有の立体構造により標的分子への特異的結合能を発揮するアプタマーを標識する場合に特に有利である。標識物質の結合は、ジンクフィンガー領域を持たせた標識物質と、認識部位を含ませたアプタマーとを混合するだけでよく、操作が非常に簡便である。認識する塩基配列が異なるジンクフィンガー領域を用いれば、混合という簡便な操作により、複数のアプタマーへの同時標識や、同一のアプタマーへの多重標識が可能である。混合操作は、検出工程の任意の段階で適宜行なうことができるため、標識物質の活性を損なわないように検出操作を組むことができ、新規測定系の構築の際の自由度が高い。例えば、上記標識方法により標識したアプタマーを用いて本願発明者らが構築した測定方法では、ジンクフィンガー領域、標識物質及びアプタマーを種々に選択することで、簡便な操作により多数の被検物質の同時測定も可能になる。例えば、異なる波長の光を放出するルシフェラーゼ変異体を組み合わせて用いれば、波長毎に発光量を測定することで、複数の被検物質の同時測定を容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例で構築したトロンビンの測定系を示す。
【図2】実施例で構築したトロンビン測定系について、ビーズ上に捕捉されたアプタマーTA29(detect)からのFITC蛍光量とトロンビン濃度との関係を調べた結果である。
【図3】実施例で構築したトロンビン測定系(TA29(detect)を使用)について、ルシフェラーゼによる発光量とトロンビン濃度との関係を調べた結果である。
【図4】実施例で構築したトロンビン測定系(TA29(detect)を使用)について、ルシフェラーゼによる発光量とトロンビン濃度との関係を調べた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「ジンクフィンガー領域」とは、同一又は異なる複数のジンクフィンガー構造が連続して存在する領域である。また、「ジンクフィンガータンパク質」とは、ジンクフィンガー領域からなるポリペプチドである。ジンクフィンガーとは、DNAやRNAに結合するタンパク質分子に存在するモチーフの一つであり、亜鉛原子の四面体の頂点に配位する四つのシステイン、または二つのシステインと二つのヒスチジンを含む核酸結合ドメインからなる。4つのシステインのうちの2番目と3番目の間、またはヒスチジンの間に位置する20~30残基のアミノ酸配列が指のように突き出た構造をとり、このフィンガー構造が2本鎖の塩基配列を特異的に認識して結合する。転写調節因子の中にあっては該因子が結合するDNAの塩基配列特異性を決定している。

【0016】
1つのジンクフィンガーが認識する塩基対は2~3bp程度であるが、ジンクフィンガーモチーフを有する天然のタンパク質においては複数(典型的には3個)のフィンガー構造が繰り返して存在し、これらが数bp~十数bp程度の二本鎖の塩基配列を特異的に認識して結合する。ジンクフィンガーモチーフを有する天然のタンパク質の体表的な例としては、ADR1(ジンクフィンガーモチーフ2個)、SP1(ジンクフィンガーモチーフ3個)、TFIIIA(ジンクフィンガーモチーフ9個)等の調節因子が挙げられる。

【0017】
これまでに多数のジンクフィンガーモチーフが同定され、それぞれのアミノ酸配列が各種データベースに登録され公知となっている。また、それぞれが認識する塩基配列も公知となっている。遺伝子工学的手法により製造された、ジンクフィンガーを有する転写因子等のタンパク質も、各種市販品が存在する。例えば、下記実施例で用いられているSP1(配列番号2、GenBankn Accession No. NM_138473)とは、ヒトO-グリコシル化転写因子であり、DNA結合ドメインに存在する3本のジンクフィンガー(配列番号2中のaa626-650、aa656-680、aa686-708;それぞれ配列番号3、4、5)が下記配列(配列番号6)の二本鎖DNAを認識して特異的に結合する。
5'-ccccgcccc-3'
3'-ggggcgggg-5'

【0018】
また、所望の塩基配列を認識して結合するジンクフィンガーの設計方法も公知である。例えば、次のような方法により、所望の塩基配列を認識するジンクフィンガー配列を取得することができる。隣接するフィンガーモチーフの配列特異的結合能を阻害することなく、特異的な3塩基配列を単独で認識するモジュラーユニットとしてのフィンガーモチーフを作製することができれば単純にそれらを組み合わせることで任意の配列を認識することのできる新規ジンクフィンガータンパク質を構築できる。Barbasらのグループは、"parallel selection"を試みている。"parallel selection"とは、哺乳動物の転写因子であるZif268の中央のフィンガーモチーフ(フィンガー2)をランダム化したZif268変異体ライブラリを構築し、これらZif268変異体のフィンガー2の認識配列がそれぞれ5'-GNN-3'、5'-ANN-3'、5'-CNN-3'であるモジュラーユニットをファージディスプレイ法によるセレクションで得るという手法である。そして、これらのモジュラーユニットとしてのフィンガーモチーフを組み合わせて、数百種類の3連ジンクフィンガーを構築した(Segal, D. J., Dreier, B., Beerli, R. R. & Barbas, C. F., III (1999). Toward controlling gene expression at will: selection and design of zinc finger domains recognizing each of the 5'-GNN-3' DNA target sequences. Proc. Natl Acad. Sci. USA, 96, 2758-2763.)。

【0019】
本発明の標識方法においては、このジンクフィンガーによる二本鎖塩基配列への特異的な結合を利用する。すなわち、標識物質にはジンクフィンガー領域を持たせ、一方で標識すべきポリヌクレオチドには該ジンクフィンガー領域が認識して結合する二本鎖塩基配列領域(本発明において「認識部位」という)を持たせる。両者を接触させると、ジンクフィンガー領域とその認識部位とが特異的に結合するので、この特異的結合を介して標識物質とポリヌクレオチドとを結合させることができる。

【0020】
標識物質に導入するジンクフィンガー領域は、好ましくは数個、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは3個程度のジンクフィンガー構造を有する。上記したように、多数のジンクフィンガーモチーフのアミノ酸配列が公知であり、そのいずれを用いてもよい。また、上記の通り、所望の2本鎖塩基配列を認識するジンクフィンガー配列を取得する方法も公知であるから、適宜設計したジンクフィンガーモチーフを用いることもできる。所定のアミノ酸配列からなるジンクフィンガー領域は、ペプチド合成機や遺伝子工学的手法を用いた常法により容易に調製することができる。また、ジンクフィンガー領域を有する転写因子等の公知のタンパク質をジンクフィンガー領域として利用することもできる。この場合、ジンクフィンガーモチーフ以外の領域(転写調節に関与するドメイン等)を削除して用いると融合タンパク質の調製がより簡易になる。上記の通り、ジンクフィンガーを有するタンパク質が多数公知であり、市販品も多く存在するため、入手は容易である。

【0021】
標識物質にジンクフィンガー領域を導入する方法としては、ジンクフィンガー領域を共有結合法や架橋法等の化学結合法により標識物質に結合する方法が挙げられる。また、標識物質がタンパク質(標識タンパク質)である場合には、ジンクフィンガータンパク質を融合させた融合タンパク質として調製することができる。融合タンパク質の調製方法は周知であり、当業者であれば容易に調製可能である。融合タンパク質では、各タンパク質の融合の向きを任意に選択できるため、化学結合による結合方法と比較して配向性が良く、標識タンパク質の活性を損なわないようにジンクフィンガー領域を導入できるので有利である。

【0022】
標識物質の種類は特に限定されず、酵素や蛍光タンパク質等のタンパク質であってもよいし、またFITC等の蛍光色素のような非タンパク質化合物であってもよいが、好ましくはタンパク質(標識タンパク質)である。ジンクフィンガーを利用する本発明の標識方法においては、1つの大きな利点として、標識酵素等の標識タンパク質の活性を損なわないようにポリヌクレオチドを標識できるという利点があるため、標識タンパク質でポリヌクレオチドを標識する際に特に有利である。標識タンパク質はいかなるものであってもよく、GFP等の蛍光タンパク質や、従来の検出系で標識として用いられている各種酵素を好ましく用いることができる。酵素の具体例としては、発光反応を触媒するルシフェラーゼや、発色反応を触媒するセイヨウワサビペルオキシダーゼ及びアルカリフォスファターゼの他、電気化学的に測定可能な反応を触媒するβ-ラクタマーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ及びグルコースオキシダーゼ等が挙げられる。

【0023】
標識すべきアプタマーは、DNAでもRNAでもよく、またPNA等の人工核酸でもよいが、安定性及び合成の容易さ等の観点からはDNAが好ましい。また、アプタマーは、標的分子への特異的な結合能を有するアプタマーである。アプタマーは、核酸のみならず、タンパク質や低分子化合物等の多様な標的分子に対して特異的に結合できる性質を有するので、本発明の標識方法を利用した新規測定系の構築にも有用である。所望の標的分子に特異的に結合する(すなわち、標的分子との特異性及び親和性が高く、他の分子への結合が全くないかあるとしても相対的に無視できるほど少量しか結合しない)アプタマーの創製方法は上記した通り公知であり(非特許文献2等)、既に種々のアプタマーが報告され利用されている(例えば、Hermann et al., (2000) Science 287, 820-825; Osborne SE, Ellington AD. (1997) Chem Rev Apr 1, 97(2), 349-370等)。なお、アプタマーのサイズは特に限定されないが、通常15mer程度~200mer程度である。

【0024】
標識すべきアプタマーには、上記したように、標識物質に導入したジンクフィンガー領域が認識する認識部位を持たせる。各ジンクフィンガーモチーフ及びジンクフィンガー領域が認識する認識部位の塩基配列は公知であるから、そのような塩基配列をアプタマーの塩基配列中に含ませればよい。ただし、上記の通り、ジンクフィンガーは二本鎖の塩基配列構造を認識して結合するため(以下、便宜的に、二本鎖の一方を「認識配列」、他方をその「相補配列」と呼ぶ)、標識すべきアプタマー分子中で認識配列とその相補配列とがハイブリダイズして2本鎖を形成するように設計する必要がある。

【0025】
アプタマーへの認識部位の導入方法を以下に説明する。

【0026】
アプタマーは、所定の条件下(フォールディング条件下)で分子内ハイブリダイゼーションによりステムループ構造やグアニンカルテット構造等の固有の立体構造をとり、それにより標的分子への結合能を発揮する。アプタマー分子の両末端部分同士がハイブリダイズしてステム部を形成する場合(例えば実施例で使用した配列番号8の29merアプタマー、図1参照)、両末端部に認識配列とその相補配列とをそれぞれ付加させた塩基配列でアプタマー分子を合成すれば、ステム部に連続させてジンクフィンガー領域の認識部位を設けることができる。また、立体構造中に存在するループ部分でアプタマーを分断し、その分断部に認識配列とその相補配列とを付加させた構造にしてもよい。このようにすると、フォールディング条件下で認識配列と相補配列とがハイブリダイズすれば、もとのアプタマーの立体構造も好ましく再現されるため、アプタマーの標的結合能を損なわずにループ構造内に認識部位を設けることができる。このように、アプタマーをループ部で分断してループ部内に任意の配列(他のアプタマー配列等)を導入する方法は公知である(特許文献1参照)。例えば、実施例で用いている29merのトロンビンアプタマー(配列番号8)は、5~7nt、10~11nt、14~16nt、19~20nt、23~25ntがそれぞれループ部を形成するが(図1参照)、これらのループ部内のいずれかの領域でアプタマーを分断し、そこに認識配列とその相補配列とを付加させた構造にすることもできる。上記以外の方法としては、例えば、認識配列と相補配列とを適当な配向でリンカーを挟んで連結し、これをアプタマーの一端に付加させてもよい。このようにすると、アプタマーの一端において付加配列がヘアピン型構造をとり、これにより2本鎖構造の認識部位を構築することができる。なお、アプタマーに認識部位を連結させる場合には、適宜スペーサー配列を挿入してもよい。

【0027】
なお、特定の塩基配列からなるアプタマーがフォールディング条件下で形成する立体構造は、コンピューターを用いた常法により容易に決定することができる。核酸の二次構造予測に用いられるプログラムは種々のものが公知であり、例えば最近接塩基対法を用いた周知の核酸構造予測プログラムであるm-fold(商品名、Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003)、The Bioinformatics Center at Rensselaer and Wadsworth のウェブサイトからダウンロード可能)を利用することができるが、これに限定されない。

【0028】
「フォールディング条件」とは、アプタマー分子中に存在する相補的な領域同士が分子内で塩基対合して、二本鎖から成るステム部やグアニンカルテット構造を形成する条件であり、公知の通常のアプタマーの使用条件でもある。通常、室温下で、所定の塩濃度を有し、所望により界面活性剤を含む水系緩衝液中である。例えば、TBS(10~20mM Tris-HCl, 100~150mM NaCl, 0~5mM KCl, pH 7.0程度)やTBST(0.05v/v%程度のTween 20を含むTBS)の他、10mM MOPS及び1mM CaCl2を含む水溶液などの緩衝液を用いることができる。これらの緩衝液中で95℃程度に加熱して熱変性した後、室温まで徐々に(100μL程度の量であれば30分間程度かけて)冷却することにより、アプタマー分子のフォールディングを行なうことができる。

【0029】
上記の標識方法によれば、ジンクフィンガー領域を有する標識物質と、該ジンクフィンガー領域の認識部位を有するアプタマーとを接触させるという簡便な操作のみで、容易にアプタマーに標識物質を結合させることができる。異なるジンクフィンガー領域を異なる標識物質に含ませた複数種類の標識物質を調製し、一方で標識すべきアプタマーには各ジンクフィンガー領域に対応する認識部位を含ませておけば、これら複数の標識物質をアプタマーと接触させるという簡便な操作のみで、同一のアプタマーへの多重標識を容易に行なうことができる。あるいは、複数種類のアプタマーのそれぞれに別個の認識部位を含ませておいた場合には、複数のアプタマーへの同時標識を単一の操作で容易に行なうことができる。

【0030】
また、本発明の標識方法は、新規な測定系の構築にも有利である。該標識方法によれば、測定工程の中のどの段階で標識するか(すなわち、どの段階でジンクフィンガー領域を有する標識物質と標識すべきアプタマーとを接触させるか)を自由に選択することができる。例えば、アプタマーを熱処理してハイブリダイゼーションやフォールディングを行ない、その後に標識物質と接触させて標識を付することができるので、標識物質の活性低下を容易に回避できる。この点は、熱に弱い酵素等の標識タンパク質を用いた場合に大きな利点となる。上記した多重標識及び同時標識を簡便に行なえるという利点に加え、このような利点も有する本発明の標識方法によれば、測定系構築の自由度が高まり、様々な新規測定系を確立することができる。

【0031】
上記した、ジンクフィンガー領域を有する標識物質は、アプタマーを標識するための標識試薬として提供することができる。好ましくは、標識物質はタンパク質であり、該標識試薬はジンクフィンガータンパク質と標識タンパク質との融合タンパク質として提供される。標識試薬は、ジンクフィンガー領域を有する標識物質のみからなるものであってもよいし、該標識物質の安定化等に有用な保存剤等の他の成分をさらに含んでいてもよい。

【0032】
本発明の標識方法は、アプタマーを利用した測定系において、アプタマーへの標識に用いることもできる。アプタマーを利用した測定系としては、抗原抗体反応を利用した公知の免疫測定系に準じて、抗体の代わりにアプタマーを用いる手法が挙げられる。また、本願発明者らが開発した酵素-アプタマーサブユニット(特許文献1)及び構造スイッチングアプタマーを利用した測定系(特許文献2)を挙げることができる。

【0033】
以下、上記標識方法を利用した被検物質の測定方法について説明する。なお、本発明において、「測定」には、定量、半定量及び検出が包含される。

【0034】
該測定方法では、上記標識試薬を用いて、被検物質に特異的に結合するアプタマー(被検物質結合性アプタマー)を標識する。従って、被検物質結合性アプタマーにジンクフィンガー領域の認識部位を持たせる。この認識部位は、当然ながら、用いる標識試薬中に含まれるジンクフィンガー領域に対応する認識部位である。ここで、「特異的に結合する」とは、被検物質との特異性及び親和性が高く、試料中に存在する他の分子への結合が全くないかあるとしても相対的に無視できるほど少量しか結合しないという意味である。二本鎖の塩基配列からなる認識部位をそのようなアプタマーに導入する方法は上記した通りである。

【0035】
測定対象となる被検物質は、それと特異的に結合するアプタマーが作成可能なものであれば何ら限定されない。具体例を挙げると、種々のタンパク質(糖タンパク質やリポタンパク質等のタンパク複合体を包含する)、糖類(多糖類、少糖類及び単糖類並びに糖脂質のような糖複合体を包含する)、脂質、核酸、低分子化合物等を例示することができる。上記の通り、アプタマーは、SELEXのような、偶然を積極的に利用する方法により作出されるので、ほとんど全ての被検物質に対して、これと特異的に結合するアプタマーを作出することが可能である。下記実施例に記載されるアプタマーを利用した測定系では、トロンビンを被検物質としているが、上記の通り被検物質はこれに限定されるものではなく、好ましい具体例として、疾病のマーカー分子となる、インシュリン、グルカゴンや、肝臓ガンマーカーとなるαフェトプロテイン、消化器ガンマーカーであるCEA、前立腺ガンマーカーのPSA、卵巣ガンマーカーのCA125、膵臓ガンマーカーのCA19-9、各種感染症のマーカーとなるHIVウイルス抗体、C型肝炎ウイルス抗体、A型肝炎ウイルス抗体、B型肝炎ウイルス抗体等を挙げることができる。

【0036】
測定に用いられる試料は、上記した被検物質を含み得る試料であれば特に限定されない。好ましい具体例としては、ヒト等の動物由来の体液(全血、血漿、血清、尿等)及びその希釈物、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、並びに組織又は細胞の抽出物等の液体試料の他、組織又は細胞標本を挙げることができる。液体状の試料の場合、メンブレンにスポットないしは転写された形態であってもよい。

【0037】
本発明の測定方法では、被検物質を含み得る試料と、上記標識試薬と、被検物質結合性アプタマーとを接触させる。これらの接触の順番は特に限定されず、上記三者を同時に接触させてもよいし、また任意の順番で逐次的に接触させてもよい。例えば、まず標識試薬とアプタマーとを接触させ、次いで試料と接触させてもよいし、あるいはアプタマーと試料とを接触させてから標識試薬を接触させてもよい。具体的な順番は、被検物質結合性アプタマーと測定系の種類に応じて適宜選択することができる。接触は、試料が液体試料であれば、試料中に標識試薬と被検物質結合性アプタマーとを添加すればよい。また、試料が、スライドグラス上に固定された標本やメンブレン上にスポットないしは転写された形態など、固相に支持された形態であれば、標識試薬と被検物質結合性アプタマーを適宜緩衝液等に希釈して該試料に滴下、ないしは該希釈液中に試料を浸漬すればよい。

【0038】
上記三者の接触により、ジンクフィンガー領域とその認識部位を介して標識物質と被検物質結合性アプタマーが結合し、かつ、該アプタマーに被検物質が結合する。その結果、標識物質と被検物質結合性アプタマーと被検物質とを含む複合体が形成される。この複合体を、非結合の標識試薬から分離し、複合体中の標識物質からのシグナルを測定する。分離操作(B/F分離)は、測定系の種類に応じて適宜選択できる。例えば、試料が上記したように固相に支持された形態であれば、複合体は該固相上に捕捉された状態になるので、該固相を洗浄することにより非結合の標識試薬を除去することができる。また、試料が固相に支持されない液体状の場合には、後述するように、固相化したアプタマーをさらに用いることで容易にB/F分離を行なうことができる。

【0039】
B/F分離後、上記複合体中の標識物質からのシグナルを測定する。被検物質の試料中存在量が多いほど上記複合体の形成量が多くなるため、シグナルの量を指標として試料中の被検物質の量を測定することができる。シグナルの測定は、標識物質の種類に応じて常法により容易に行なうことができる。例えば、標識物質としてルシフェラーゼを用いた場合には、ルシフェラーゼの基質を添加して発光量を測定すればよい。

【0040】
被検物質結合性アプタマーを用いた場合には、核酸以外の被検物質の測定も可能になる。この場合、固相に支持されない液体形態の試料に対して適用するためには、B/F分離を容易にする観点から、固相上に固定化された第2のアプタマー(固相アプタマー)を用いることが好ましい。


【0041】
固相アプタマーには、ジンクフィンガー領域の認識部位を持たせず、非標識とする。ただし、ここでいう「非標識」とは、用いる標識試薬中に存在するジンクフィンガー領域が認識する認識部位を含まないという意味であり、例えば測定系の構成を確認するための標識(例えば固相への固相アプタマーの結合を確認するための標識)や、固相にアプタマーを固定化する際に有用な標識(例えば、アビジン被覆固相に固定化するためのビオチン標識)等の他の標識を含むことは差し支えない。

【0042】
この固相アプタマーは、標識される被検物質結合性アプタマー(以下、便宜的に「被標識アプタマー」と呼ぶ)と同一の被検物質に対して特異的に結合するものであるが、被標識アプタマーとは異なる部位を認識して結合する。すなわち、同一の被検物質への結合に関して、被標識アプタマーと固相アプタマーとは競合しないものである。

【0043】
2つのアプタマーが被検物質上の結合に関して競合するかどうかは、例えば次のようにして確認することができる。それぞれのアプタマーに常法により異なる標識を付する(例えばFITC標識とビオチン標識)。これらを種々の濃度比で混合し、これをメンブレン等の固相上に固定化した被検物質と反応させ、固相を洗浄後、一方の標識(例えばFITC)を検出して一方のアプタマーの結合量を測定する。標識を入れ替えた条件でもう一方のアプタマーの結合量を同様に測定する。ビオチン標識アプタマーの濃度比が大きい条件下でも検出されるFITCのシグナルが低下しない場合には、そのアプタマー同士は被検物質への結合に関して競合せず、被検物質上の異なる部位に結合していると考えられる。

【0044】
固相アプタマーを固定化する固相の種類は特に限定されず、従来の免疫測定に用いられる固相を好ましく用いることができる。具体例としては、磁気ビーズ、樹脂ビーズ、プレート等を挙げることができる。

【0045】
固相アプタマーは、試料、標識試薬及び被標識アプタマーと同時又は逐次的に接触させる。これらの接触の順番は特に限定されないが、測定感度を高める観点からは、固相アプタマーと試料との接触を先にするよりも、被標識アプタマーと試料との接触を先にした方がよい。すなわち、まず、試料と標識試薬と被標識アプタマーとを同時又は逐次的に接触させ、次いで、固相アプタマーを接触させることが好ましい。特に、標識試薬と被標識アプタマーとを接触させ、次いで試料を接触させ、次いで固相アプタマーを接触させることが好ましい。

【0046】
上記四者を接触させると、ジンクフィンガー領域とその認識部位を介して標識物質と被標識アプタマーが結合し、かつ、被標識アプタマーに被検物質が結合する。一方、固相に固定化された固相アプタマーが被検物質を捕捉する。その結果、標識物質と被標識アプタマーと被検物質とを含む複合体が、固相アプタマーを介して固相上に捕捉される(図1)。固相を洗浄することにより、上記複合体を形成せず固相上に捕捉されなかった標識試薬を容易に除去することができる。固相がプレートの場合はプレートを洗浄すればよく、また固相がビーズの場合は遠心分離やフィルター分離等により回収して洗浄すればよい。

【0047】
洗浄後、固相上に捕捉されている標識物質からのシグナルを測定する。被検物質の試料中存在量が多いほど上記複合体の形成量が多くなり、固相上に捕捉される標識物質の量が多くなるため、シグナルの量を指標として試料中の被検物質の量を測定することができる。

【0048】
2種類以上の被検物質を測定する場合には、それぞれの被検物質に特異的に結合するアプタマーを用いればよい。1つの被検物質に対して、一組の被標識アプタマー及び固相アプタマーを用いる。使用するアプタマーに対し、被検物質の種類毎に異なるシグナルを発する標識を付すことで、複数の被検物質の同時測定が可能になる。複数のジンクフィンガーを含むジンクフィンガー領域は、それぞれ固有の2本鎖認識配列を認識して結合するので、標識物質に結合させるジンクフィンガー領域の種類を変更し、対応する認識部位を各アプタマーに結合させれば、同一系内で接触させても所期の組み合わせで標識物質とアプタマーと被検物質との複合体が形成される。例えば、標識物質として異なる波長の光を発するルシフェラーゼを用いた場合には、それぞれの波長を測定することで対応する被検物質を測定することができる。このように、ジンクフィンガー領域の特異的な配列認識とアプタマーの特異的結合能を利用した測定方法によれば、測定工程を簡略化して複数の被検物質を簡便且つ迅速に同時測定可能になる。

【0049】
上記したように、アプタマーの創製方法は公知であり(例えば非特許文献2等)、既に種々のアプタマーが報告され利用されている(例えば、Hermann et al., (2000) Science 287, 820-825; Osborne SE, Ellington AD. (1997) Chem Rev Apr 1, 97(2), 349-370等)。また、種々のジンクフィンガーモチーフが公知であり、ジンクフィンガーを有する各種タンパク質も公知であり、所望の2本鎖塩基配列を認識するジンクフィンガー配列を取得する方法も公知である。さらに、ルシフェラーゼやGFP等の標識物質も、波長の異なる各種変異体が知られている。従って、本発明の測定方法は、応用の自由度が高く、種々の被検物質の測定に非常に有用である。

【0050】
本発明の標識試薬と上記した被標識アプタマー(すなわち、該標識試薬中に含まれるジンクフィンガー領域の認識部位を含むアプタマーであって測定すべき被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマー)は、被検物質の測定キットとして提供することができる。好ましくは、該キットには、さらに、上記した固相アプタマーに相当するアプタマー、すなわち、被標識アプタマーとは異なる部位において被検物質と特異的に結合する第2のアプタマーが含まれる。この第2のアプタマーは、既に固相に固定化された状態であってもよいし、また、使用者が固相に容易に固定化できるように、汎用の標識等を付加したものであってもよい。例えば、公知のアビジン被覆ビーズに固定化できるように、ビオチン標識が付加されたものであってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
1.ジンクフィンガータンパク質を介して標識したアプタマーによる検出系の構築
(1) アプタマーの構築
3つのジンクフィンガーを有し2本鎖DNAに対して塩基配列特異的に認識して結合する調節因子Sp1とルシフェラーゼとを融合したLuc-Sp1を用いてトロンビンをサンドイッチ形式で検出するためにトロンビンアプタマーを設計した。トロンビンをビーズに固定するためのアプタマーとして、トロンビンのフィブリノーゲン結合部位に結合する15 merのアプタマー(Bock L.C. et al., Nature, 1992, vol.355, pp.564-566、配列番号7)を用い、このアプタマーの5'末端側に3つのチミン残基を付加し、末端をビオチン修飾した(TA15(immobilize))。一方、トロンビンを検出するためのアプタマーとして、ヘパリン結合部位に結合する29 merのアプタマー(Diane M. Tasset et al., J.Mol.Bio., 1997, vol.272, pp.688-698、配列番号8)を用いた。5'末端、および3'末端から4塩基が相補鎖を形成しているので、この相補鎖に3塩基のスペーサーを介してSp1認識配列を付加し、末端に3塩基のスペーサーを加え、5'末端側にFITCを修飾した(TA29(detect))。また、コントロールとして、Sp1認識配列の代わりにランダム配列を付加したものを同様に作製した(TA29(control))。
【実施例】
【0053】
設計したTA15(immobilize)(配列番号9)、TA29(detect)(配列番号10)及びTA29(control)(配列番号11)の配列を表1に示す。
【実施例】
【0054】
【表1】
JP0005626673B2_000002t.gif
【実施例】
【0055】
(2) Luc-Sp1の構築
Sp1のジンクフィンガーとルシフェラーゼとを融合したLuc-Sp1は、以下の方法により調製した。
【実施例】
【0056】
(i) Luc-Sp1発現ベクターの構築
Sp1構造遺伝子中のジンクフィンガー領域(配列番号2中のaa619-712、配列番号1中の1952~2233nt)を増幅できるプライマー(配列番号12及び13、配列番号1中の1932~2234ntを増幅)を用い、市販のヒトリンパ腺cDNAライブラリーからSp1のジンクフィンガーコード領域(303 bp)を増幅した。電気泳動によりPCR産物の大きさを確認し、目的の大きさの遺伝子断片を切り出し、精製した。そのサンプルを用いてpGEM-TベクターにTAクローニングし、DH5αを形質転換後、LBプレート(Amp 50μg/ml, IPTG 0.1 mM, X-gal 50μg/ml)上で培養した。得られた白色コロニーに対しコロニーPCRを行い、電気泳動によりinsertの確認を行った。Insertが確認できたサンプルについてシークエンス解析を行った。配列が確認できたpGEM-Sp1ベクターから、制限酵素サイト(SmaI、EcoRI)をデザインしたプライマー(配列番号14及び15)を用い、Sp1遺伝子断片(302 bp、配列番号1中の1952~2233ntを含む)を増幅した。PCR産物を電気泳動により切り出し、pGEM-Tベクターに再度TAクローニングした。DH5αに形質転換し、LBプレート(Amp 100μM, IPTG 0.1 mM, X-gal 50μg/ml)上で培養した。得られた白色コロニーに対しコロニーPCRを行い、電気泳動によりinsertの確認を行った。Insertが確認できたサンプルについてシークエンスを確認した。制限酵素サイトが導入されたpGEM-Sp1(SmaI & EcoRI)及びpGEX-2TベクターをSmaI、EcoRIにより制限酵素処理した。それらを電気泳動後、Sp1遺伝子断片及びpGEX-2Tベクター断片をそれぞれ切り出し、精製した。これらを16℃で1 hライゲーション後、DH5αを形質転換し、プレート(50μg/ml Amp)上で培養した。得られたシングルコロニーからプラスミドを抽出後、SmaI、EcoRIにより制限酵素処理し、電気泳動によりinsertの確認を行った。Insertの確認が出来たサンプル(pGEX/Sp1)のシークエンスを確認した。
【実施例】
【0057】
次に、市販のベクターpTrc99aのEcoRI-XbaIサイトにルシフェラーゼ(LUC-H)遺伝子(配列番号18、キッコーマン)を組み込んで調製したpTrc99a/lucから、制限酵素サイトEcoRIを導入したプライマー(配列番号16及び17)を用いてルシフェラーゼ構造遺伝子を増幅した(1641 bp、配列番号18中の1~1641nt)。電気泳動によりPCR産物の大きさを確認し、目的の大きさの遺伝子断片を切り出し、精製した。そのサンプルを用いてpGEM-TベクターにTAクローニングし、DH5αを形質転換後、LBプレート(Amp 50μg/ml, IPTG 0.1 mM, X-gal 50μg/ml)上で培養した。得られた白色コロニーに対しコロニーPCRを行い、電気泳動によりinsertの確認を行った。Insertが確認できたサンプル(pGEM-T/luc)についてシークエンス解析を行った。
【実施例】
【0058】
pGEX/Sp1及びpGEM-T/lucをEcoRIにより制限酵素消化した。それらを電気泳動後、ルシフェラーゼ遺伝子断片及びEcoRIサイトで切断しリニアにしたpGEX/Sp1をそれぞれ切り出し、精製した。pGEX/Sp1のセルフライゲーションを妨げるため、SAPIを用い脱リン酸化した。ルシフェラーゼ遺伝子断片及び脱リン酸化pGEX/Sp1を16℃で1 hライゲーション後、DH5αを形質転換し、寒天培地(50μg/ml Amp)上で培養した。得られたシングルコロニーからコロニーPCRを行うことで、insertを確認した。Insertの確認が出来たコロニーからプラスミド(pGEX/sp1-luc、GST融合タンパク質としてLuc-Sp1を発現可能)を抽出した後、シークエンスを確認した。
【実施例】
【0059】
(ii) Luc-Sp1融合タンパク質の発現
市販のOvernight Express(商標) Autoinduction System(メルク)を添付の説明書に従い使用した。上記で構築したpGEX/sp1-lucを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、150 mlのLB培地(Amp 50μg/ml、90μM ZnCl2、所定濃度のOnEx sol.1~3、pH 7.3)中でOvernight Express(商標) Autoinduction Systemで20℃、24 h培養することにより、GST融合ジンクフィンガールシフェラーゼを発現させた。
【実施例】
【0060】
(iii) Luc-Sp1融合タンパク質の精製
GST融合ジンクフィンガールシフェラーゼが発現していると思われる湿菌体をCell lysis buffer(1% Triton X-100, 4 mM Pefabloc, 90μM ZnCl2, 5 mM DTT in PBS, pH 7.3)で懸濁し、フレンチプレスにより破砕した。破砕液を遠心分離(20,000 g、4℃、30 min)し、上清を回収した。得られた上清をBinding buffer(5 mM DTT, 90μM ZnCl2 in PBS, pH 7.3)で平衡化したGSTrap HFカラム(1 ml)に添加した(流速0.5 ml/min)。次に、5倍量のWash buffer(1% Triton X-100, 5 mM DTT, 90μM ZnCl2 in PBS, pH 7.3)で洗浄し、その後、5倍量のBinding bufferでリンスした(流速0.5 ml/min)。最後に、Elution buffer(5 mM DTT, 1 mM Pefabloc, 90μM ZnCl2, 10 mM Reduced glutathione, 50 mM Tris-HCl, pH 8.0)を添加し(流速1.5 ml/min)、溶出画分を回収した。得られた溶出画分の蛋白質濃度をDC protein assay kit(Bio-Rad)を用いてLowry法により測定した。また、ルシフェラーゼの基質溶液であるPicaGene(東洋インキ)を用い、活性測定を行った。SDS-PAGEでシングルバンドが見られ、かつ、最も活性の高い溶出画分を用いて以下の実験を行なった。
【実施例】
【0061】
(3) 測定工程の検討
上記で設計したアプタマーを用いて、ビーズに固定化したアプタマーに先にトロンビンを結合させる方法(方法A)と、ジンクフィンガータンパク質を介してルシフェラーゼ標識したアプタマーに先にトロンビンを結合させる方法(方法B)の2通りの方法を検討した。
【実施例】
【0062】
方法A
Buffer 1 (10 mM Tris-HCl, 100 mM NaCl, 5 mM KCl, 90μM ZnCl2, pH 7.0)中でNeutrAvidinビーズ(PIERCE)とビオチン修飾TA15(immobilize) (f.c. 200 nM)をインキュベートし、TA15(immobilize)をビーズに固定した。このビーズを洗浄した後、Buffer 2 (4%(w/v)スキムミルク、1 mM d-biotin、0.05%(v/v)tween 20 in Buffer 1)でビーズをブロッキングした。その後、Buffer 2中でビーズとトロンビン(f.c. 0, 50, 又は100 nM)をインキュベートした(1)。
【実施例】
【0063】
一方、Buffer 2中で、TA29(detect)またはTA29(control) (f.c. 200 nM)と、Luc-Sp1(f.c. 300 nM)をインキュベートした(2)。
【実施例】
【0064】
(2)を(1)に添加し、さらにインキュベートした。その後、ビーズを洗浄し、プレートに移した後、TA29(detect)又はTA29(control)に修飾されたFITCを検出した。次に、PicaGeneキット(東洋インキ社製)の発光基質を100μL添加し、ルシフェラーゼによる発光量を測定した。
【実施例】
【0065】
すべてのインキュベート操作及びブロッキング操作は総量100μL、室温で45分間行い、洗浄にはBuffer 3 (0.05%(v/v)tween 20 in Buffer 1)を用いた。
【実施例】
【0066】
方法B
Buffer 1中でNeutrAvidinビーズ(PIERCE)とビオチン修飾TA15(immobilize) (f.c. 200 nM)をインキュベートし、TA15(immobilize)をビーズに固定した。このビーズを洗浄した後、Buffer 2 (4%(w/v)スキムミルク、1 mM d-biotin、0.05%(v/v)tween 20 in Buffer 1)でビーズをブロッキングした(1)。
【実施例】
【0067】
一方、Buffer 2中で、TA29(detect)またはTA29(control) (f.c. 200 nM)と、Luc-Sp1(f.c. 300 nM)をインキュベートした。その後、Luc-Sp1で標識したTA29(detect)又はTA29(control)とトロンビン(f.c. 0, 50, 又は100 nM)をインキュベートした(2)。
【実施例】
【0068】
(2)を(1)に添加し、インキュベートした。その後、ビーズを洗浄し、プレートに移した後、TA29(detect)又はTA29(control)に修飾されたFITCを検出した。次に、PicaGeneキット(東洋インキ社製)の発光基質を100μL添加し、ルシフェラーゼによる発光量を測定した。
【実施例】
【0069】
すべてのインキュベート操作及びブロッキング操作は総量100μL、室温で45分間行い、洗浄にはBuffer 3 (0.05%(v/v)tween 20 in Buffer 1)を用いた。
【実施例】
【0070】
2.結果
方法A、Bどちらを用いた場合にも、トロンビンの濃度依存的にFITCの蛍光強度の増加が観察された。方法AとBではBの方が、蛍光強度が大きいことが示された(図2、Sample 1~3)。このことから、方法Bの方がサンドイッチが形成される割合が高いことが考えられる。
【実施例】
【0071】
TA29(detect)を用いた場合、方法A、Bいずれにおいてもトロンビンの濃度の増加に伴ってルシフェラーゼの発光量の増加が観察された。方法Bの方がルシフェラーゼの発光量が大きかったが、これは方法Bの方がサンドイッチが形成される割合が高いためと考えられる(図3、Sample 1~3)。一方で、TA29(control)を用いた場合、トロンビンの濃度の増加に伴った発光量の増加は観察されなかった(図4、Sample 1~3)。
【実施例】
【0072】
以上の結果から、TA15(immobilize)およびTA29(detect)がトロンビンに結合し、TA29(detect)のSp1認識配列に対してLuc-Sp1が結合することで、ルシフェラーゼの発光量によるトロンビンの検出が可能と考えられる。トロンビンの濃度の増加に伴ってルシフェラーゼの発光量も増加しており、トロンビンの定量も可能である。さらに、TA15(immobilize)とトロンビンを先にインキュベートしてからTA29(detect)をインキュベートする(方法A)よりも、TA29(detect)とトロンビンを先にインキュベートしてからTA15(immobilize)をインキュベートする方(方法B)がより高感度に検出・定量できることが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3