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明細書 :ポリヌクレオチドの標識方法及び被検物質の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5747260号 (P5747260)
公開番号 特開2010-207189 (P2010-207189A)
登録日 平成27年5月22日(2015.5.22)
発行日 平成27年7月8日(2015.7.8)
公開日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発明の名称または考案の名称 ポリヌクレオチドの標識方法及び被検物質の測定方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
C12Q   1/32        (2006.01)
C12N  15/115       (2010.01)
FI C12Q 1/68 ZNAZ
G01N 33/53 M
G01N 33/542 B
C12Q 1/32
C12N 15/00 H
請求項の数または発明の数 12
全頁数 16
出願番号 特願2009-059689 (P2009-059689)
出願日 平成21年3月12日(2009.3.12)
審査請求日 平成24年3月9日(2012.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】池袋 一典
【氏名】早出 広司
【氏名】高瀬 まどか
【氏名】阿部 公一
個別代理人の代理人 【識別番号】100088546、【弁理士】、【氏名又は名称】谷川 英次郎
審査官 【審査官】森井 文緒
参考文献・文献 国際公開第2007/032359(WO,A1)
国際公開第2005/049826(WO,A1)
国際公開第2007/086403(WO,A1)
特開2009-165394(JP,A)
特開2007-327946(JP,A)
国際公開第2008/038696(WO,A1)
日本化学会講演予稿集 (2008) vol.88, no.2, p.817(2A4-27)
日本化学会講演予稿集 (2008) vol.88, no.2, p.817(2A4-31)
調査した分野 C12N 15/00-15/90
G01N
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
標識物質と、該標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドとを接触させることにより、該アプタマー領域を介して標識物質をポリヌクレオチドに結合させることを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合でき、前記ポリヌクレオチドが所望の標的分子に特異的に結合するアプタマーである、ポリヌクレオチドの標識方法。
【請求項2】
前記酵素がピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼである請求項記載の標識方法。
【請求項3】
標識物質と、該標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域及び被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドと、被検物質を含み得る試料とを接触させ、次いで、前記標識物質及び前記被検物質を結合した前記ポリヌクレオチド中の該標識物質の活性を測定することを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合できる、試料中の被検物質の測定方法。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドは、被検物質が存在しない状態では前記標識結合性アプタマー領域への標識物質の結合が阻害されるが、被検物質が存在する状態では前記標識結合性アプタマー領域に標識物質が結合できるポリヌクレオチドである請求項記載の測定方法。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチド分子内でハイブリダイズして二本鎖形成可能な二本鎖形成領域をさらに含み、被検物質が存在しない状態では該二本鎖形成領域が二本鎖を形成して前記標識物質の標識結合性アプタマー領域への結合が阻害される請求項記載の測定方法。
【請求項6】
前記二本鎖形成領域は、前記いずれかのアプタマー領域内の部分配列とその相補配列とを含む請求項記載の測定方法。
【請求項7】
前記二本鎖形成領域は、前記標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補配列を含む請求項記載の測定方法。
【請求項8】
前記二本鎖形成領域は、前記標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補配列とからなる請求項記載の測定方法。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドが固相に固定化されており、前記標識物質と、前記ポリヌクレオチドと、前記試料とを接触させ、次いで固相を洗浄し、該固相上に捕捉された標識物質の活性を測定する請求項ないしのいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項10】
前記標識物質が酵素である請求項ないしのいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項11】
前記酵素がピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼである請求項10記載の測定方法。
【請求項12】
標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域及び被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合できる、被検物質の測定試薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アプタマーを介して標識物質をポリヌクレオチドに結合させる新規なポリヌクレオチドの標識方法及び該標識方法を利用した被検物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のバイオマーカーの検出は、疾患の早期発見や診断において非常に重要である。バイオマーカーにより求められる検出範囲は異なるが、例えば腫瘍マーカーの場合、多くの重要なマーカータンパク質(CRP, VEGF等)はpMレベルの検出限界が求められる。こういった血液中に微量にしか存在しないバイオマーカーを高感度に検出するためには、シグナルの増幅が必須である。
【0003】
シグナルの増幅のためには酵素等の標識物質が用いられている。現在バイオマーカーの検出に多用されているELISA法も酵素によるシグナル増幅を行っており、アルカリフォスファターゼやセイヨウワサビペルオキシダーゼ等の発色反応を触媒する酵素が主に用いられている。また、血糖を電気化学的に検出するグルコースセンサーでは、グルコースオキシダーゼやピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素が用いられている。
【0004】
ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)は、グルコースに対する触媒活性がおよそ5000U/mgと非常に高く、溶存酸素の影響を受けない、また、補酵素との結合が安定であり、EDTA耐性を示すといった利点を持つ。既に確立しているグルコースセンサーのセンシングシステムを利用できるという利点もあり、既存の酵素の中ではセンシング素子として非常に有効な酵素であると考えられる。
【0005】
現在の主な酵素の固定化方法には、吸着法、包括法、架橋法、共有結合法の4種類がある。吸着法は、酵素活性が保てる場合が多いが、はがれ易いという欠点がある。また、包括法もよく用いられているが、やはり酵素の漏出が多い。一方、共有結合法、架橋法は強く固定化ができるもの、酵素が失活して活性がなくなってしまうという問題がある。そこで、昔から酵素に対する抗体を使って酵素を固定化できないかという試みが行われてきた。しかし、現在までに、抗体を使って酵素活性を保持したまま酵素を固定化できたという報告はない。
【0006】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を5~10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得することができる。
【0007】
この特異的結合性という特性から、アプタマーは分子認識素子としての利用が期待されている。酵素等で標識したDNAアプタマーを用いれば、標的分子を特異的に検出することができる。しかしながら、上記したように、現在用いられている酵素固定化法は、強固な固定化と標識酵素の活性保持とを両立するのが困難である。酵素の活性を低下させずに、酵素を分子認識素子に結合させる方法が求められている。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開第2005/049826号
【特許文献2】国際公開第2007/086403号
【0009】

【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、標識酵素の活性を低下させることなく分子認識素子を酵素標識することができる新規な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、酵素の活性を大きく損なうことなく特異的に結合できるアプタマーを酵素標識の仲介物に用いることにより、酵素活性を維持した状態でポリヌクレオチドの標識を容易に行えることを見出し、さらに、かかる標識方法をアプタマーの標識に利用して新規な測定系を構築し、本願発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、標識物質と、該標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドとを接触させることにより、該アプタマー領域を介して標識物質をポリヌクレオチドに結合させることを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合でき、前記ポリヌクレオチドが所望の標的分子に特異的に結合するアプタマーである、ポリヌクレオチドの標識方法を提供する。また、本発明は、標識物質と、該標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域及び被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドと、被検物質を含み得る試料とを接触させ、次いで、前記標識物質及び前記被検物質を結合した前記ポリヌクレオチド中の該標識物質の活性を測定することを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合できる、試料中の被検物質の測定方法を提供する。さらに、本発明は、標識物質に特異的に結合する標識結合性アプタマー領域及び被検物質に特異的に結合する被検物質結合性アプタマー領域を含むポリヌクレオチドを含み、前記標識物質が酵素であり、前記標識結合性アプタマー領域は、該酵素の酵素活性を保持した状態で該酵素を結合できる、被検物質の測定試薬を提供する。

【発明の効果】
【0013】
本発明により、アプタマーを用いた新規な標識方法及び該方法を利用した新規測定系が提供された。アプタマーは、従来、測定対象となる分子を捕捉するために用いられており、これを標識の仲介物として利用するという発想はいままでにない新規な発想である。従来では、測定対象分子を捕捉するためのアプタマーへの標識は、架橋法等の化学結合法により行なわれていたが、かかる方法では強固な結合は達成できるものの標識酵素の活性が著しく損なわれるという問題があった。本発明の方法によれば、標識物質の標識としての活性を保持した状態でポリヌクレオチドに標識を付することができる。標識物質が酵素であっても、本発明の標識方法によれば、その酵素活性を保持した状態でポリヌクレオチドを酵素標識することができる。被検物質を特異的に結合するアプタマーを当該標識方法で標識すれば、標識結合性アプタマーと被検物質結合性アプタマーのそれぞれの特異結合能を利用して、標識量を指標に被検物質を測定可能である。特に、アプタマーの構造変化を利用した新規な測定系の構築も可能である。その一例として、下記実施例に記載される測定系では、標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域とを含むポリヌクレオチドが用いられる。該ポリヌクレオチドは、被検物質が存在しない状態では標識物質の結合が阻害され、被検物質が存在する状態では標識物質が結合できるような構造変化を生じるように構成されており、標識の活性を指標として試料中の被検物質の量を測定することができる。用いるアプタマーの配列を適宜選択することで、様々な被検物質に対して測定系を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の測定方法の第1の態様を示す図である。
【図2】本発明の測定方法の第2の態様を示す図である。
【図3】ビーズ上に固定化したPQQGDH結合性アプタマーPGa4によって捕捉されたPQQGDHの活性を調べた結果である。PGa4のスクリーニングに用いたイニシャルライブラリー(initial)をビーズ上に固定化した場合との比較で示す。
【図4】プレート上に固定化したPQQGDH結合性アプタマーPGa4によって捕捉されたPQQGDHの活性を調べた結果である。アプタマー非固定の場合との比較で示す。
【図5】実施例で構築したインスリン測定系のスキームを示す図である。
【図6】実施例で構築したインスリン測定系を評価した結果である。(A)はゲルシフトアッセイによりPQQGDH及びインスリンとの結合の有無を調べた結果であり、(B)はインスリンの有無でPQQGDHの酵素活性がどの程度変化するかを調べた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の標識方法では、標識物質である酵素に特異的に結合するアプタマー領域(標識結合性アプタマー領域)をポリヌクレオチドに含ませ、該領域を介してポリヌクレオチドに標識物質である酵素を結合させる。上記の通り、アプタマーは、SELEXのような偶然を積極的に利用する方法により作出されるので、公知のいかなる標識物質である酵素に対しても、これと特異的に結合するアプタマーを作出することが可能である。

【0016】
標識物質は酵素である。酵素の種類は特に限定されず、免疫測定等の各種測定系において標識として従来用いられているものを好ましく使用することができる。そのような標識酵素の具体例を挙げると、発光反応を触媒するルシフェラーゼや、発色反応を触媒するセイヨウワサビペルオキシダーゼ及びアルカリフォスファターゼの他、電気化学的に測定可能な反応を触媒するβ-ラクタマーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(例えばピロロキノリンキノングルコースオキシダーゼ等)及びグルコースオキシダーゼ等が挙げられる。中でも、ピロロキノリンキノングルコースオキシダーゼ(PQQGDH)は、グルコースに対し非常に高い活性を有し、標識酵素として有望な酵素である。なお、これら公知の標識酵素のうち、アルカリフォスファターゼについては、特異的に結合するアプタマーが既に報告されている(WO 00/79004 A1)。

【0017】
標識結合性アプタマー領域は、標識物質に特異的に結合する能力を有するアプタマー配列からなる。該標識結合性アプタマー領域は、標識物質の標識としての活性を大きく損なうことなく、標識としての使用に十分な活性を保持した状態で標識物質を結合できるものである。すなわち、標識結合性アプタマー領域は、該領域を含むポリヌクレオチドのうちで、該領域に標識を結合したポリヌクレオチドと、標識を結合していないポリヌクレオチドとが識別可能であり、好ましくは、標識を結合したポリヌクレオチドの定量も可能な程度に標識物質の活性が維持された状態で標識物質を結合できる領域である。

【0018】
該領域に採用する標識結合性アプタマーが、そのように標識物質の活性を保持した状態で標識物質を結合できるか否かは、例えば次のようにして調べることができる。プレートのウェルの一部に標識結合性アプタマーを固定化し、このウェル及びアプタマー非固定のウェルに標識物質を添加、洗浄後、標識物質の活性を測定する。標識結合性アプタマーを固定化したウェルにおける標識物質の活性が、アプタマー非固定のウェルにおける標識物質の活性よりも有意に大きく、両者の差がおよそ3~4倍程度以上あれば、本発明の標識方法における標識結合性アプタマー領域に採用することができる。なお、アプタマー非固定のウェルに加えて、標識物質とは異なる物質への特異的結合能を有する任意のアプタマーを固定化したウェルも準備し、このウェルに非特異的に結合した標識物質の活性を測定して上記評価に加えてもよい。

【0019】
なお、本発明において、「標識物質の活性」とは、標識物質が持つ標識としての生理活性その他の機能を意味する。具体的には、酵素活性である。標識物質の活性量は、このような機能の量を常法により測定することで調べることができ、具体的には、基質を添加してその酵素反応量を常法により測定すればよい。


【0020】
また、「特異的に結合する」とは、標識物質との特異性及び親和性が高く、反応系内に存在する他の分子への結合が全くないかあるとしても相対的に無視できるほど少量しか結合しないという意味である。特異的結合能の評価は、例えば公知のアプタマーブロッティング法(例えば特開2008-237042号公報参照)等により容易に行うことができる。具体的には、メンブレンにアプタマーが結合する標識物質と無関係なタンパク質とを固定化し、これに対してアプタマーを反応させて、両者への結合量を調べればよい。標識物質への結合量が多く、無関係なタンパク質との結合量が全くあるいは殆ど観察されない程度であれば、そのアプタマーの標識物質への特異性及び親和性は高いと判断することができる。また、常法の表面プラズモン共鳴法によっても結合の親和性及び特異性を調べることができる。

【0021】
標識結合性アプタマーは、使用する標識物質に応じて適宜選択することができる。上記した通り、アプタマーの作製方法は公知であり、当業者であれば常法により所望の標識物質に特異的に結合するアプタマーを創製することができる。また、既に多数のアプタマーが知られており(例えば、特許文献1; 特許文献2; Hermann et al., (2000) Science 287, 820-825; Osborne SE, Ellington AD. (1997) Chem Rev Apr 1, 97(2), 349-370等)、そのような公知のアプタマーを用いてもよい。例えば、標識物質としてPQQGDHを用いる場合、PQQGDHに特異的に結合し、かつその酵素活性を標識としての使用に十分な程度に保持した状態で結合できるPQQGDH結合性アプタマーの例としては、下記実施例で用いられているアプタマー(配列番号2)を挙げることができる。

【0022】
標識すべきポリヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またPNA等の人工核酸でもよいが、安定性及び合成の容易さ等の観点からはDNAが好ましい。また、ポリヌクレオチドの具体例としては、特に限定されないが、核酸の増幅や測定に用いるプライマー及びプローブ、並びに標的分子への特異的な結合能を有するアプタマー等を挙げることができる。所望の標的分子に特異的に結合するアプタマーの創製方法は上記した通り公知であり(非特許文献2等)、既に種々のアプタマーが報告され利用されている(例えば、Hermann et al., (2000) Science 287, 820-825; Osborne SE, Ellington AD. (1997) Chem Rev Apr 1, 97(2), 349-370等)。なお、アプタマーのサイズは特に限定されないが、通常15mer程度~200mer程度である。

【0023】
標識すべきポリヌクレオチドには、任意に部位に標識結合性アプタマー領域を含ませる。すなわち、ポリヌクレオチドの塩基配列中の任意の部位に標識結合性アプタマー配列を含ませる。ポリヌクレオチド中における標識結合性アプタマー領域の設定部位は特に限定されず、ポリヌクレオチドの末端部でもよいし、内部でもよい。例えば、標識すべきポリヌクレオチドがプローブやプライマー、アプタマー等である場合、かかるポリヌクレオチドのいずれかの末端部に直接又は適宜スペーサー配列等を介して連結させた構造にすることができる。

【0024】
上記した標識方法をアプタマーに適用することで、アプタマーの特異的結合能を利用した測定系を構築することができる。本願発明者らは、上記標識方法を利用した新規な被検物質測定系を構築した。以下、上記標識方法を利用したアプタマーによる被検物質の測定方法について説明する。

【0025】
本発明の測定方法において標識対象となるポリヌクレオチドは、被検物質に特異的に結合するアプタマー(被検物質結合性アプタマー)である。言い換えると、該測定方法において用いるポリヌクレオチドは、上記した標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域とを含む。以下、便宜的に、これら2つの領域を含むポリヌクレオチドを「測定用ポリヌクレオチド」と呼ぶ。測定用ポリヌクレオチドにおいて、標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域とは、いずれが5'側に配置されていてもよい。下記実施例では標識結合性アプタマー領域が被検物質結合性アプタマーの5'側に配置されているが、これとは逆であってもよい。

【0026】
標識結合性アプタマー領域の条件は上記と同様である。すなわち、標識物質を結合しないポリヌクレオチドと標識物質を結合したポリヌクレオチドとが標識物質の活性量によって識別可能であり、かつ、好ましくは標識物質を結合したポリヌクレオチドを標識物質の活性量によって定量可能である程度に標識物質の活性が維持された状態で標識物質を結合できるものである。

【0027】
該測定用ポリヌクレオチドは、標識物質と被検物質とをそれぞれの対応する領域に同時に結合できるものである。すなわち、一方の結合が他方の結合を阻害しないものである。この点において、本発明の測定方法は、被検物質の結合により既に結合していた標識酵素がアプタマー領域から離脱する公知のAESとは大きく相違する。

【0028】
測定用ポリヌクレオチドとしては、被検物質が存在する状態において、存在しない状態よりも有意に多く標識物質が結合できるものを用いることが好ましい。すなわち、被検物質が存在しない状態では標識結合性アプタマー領域への標識物質の結合が阻害されるが、被検物質が存在する状態では標識結合性アプタマー領域に標識物質が結合できるものであることが好ましい。本明細書において、このような機能を便宜的に「構造スイッチング」と呼ぶ。かかる測定用ポリヌクレオチドによれば、標識物質が結合したポリヌクレオチドにはほぼ必ず被検物質も結合していることになるため、標識物質のみが結合したポリヌクレオチドの生成を抑制することができ、より正確に被検物質を測定することができる。

【0029】
そのようなポリヌクレオチドは、例えば次のような構成にすることにより達成できる。分子内には、相互に相補的な領域が存在する。すなわち、ポリヌクレオチド分子内には、ある部分配列とそれに対して相補的な配列とが存在する。被検物質が存在しない状態では、この領域が分子内ハイブリダイゼーションにより二本鎖を形成し、これにより標識結合性アプタマー領域が所期の立体構造を形成できなくなる。そうすると、標識結合性アプタマー領域はその特異結合能を発揮できなくなるので、標識物質を結合することができなくなる。すなわち、上記した分子内ハイブリダイゼーションによる二本鎖形成により、標識物質の標識結合性アプタマー領域への結合が阻害されることになる。本発明において、このような、標識物質結合性アプタマーの立体構造形成を妨害する相互に相補的な領域を「二本鎖形成領域」という。

【0030】
該二本鎖形成領域は、必ずしもいずれかのアプタマー領域内の配列を含む必要はなく、別途追加した塩基配列とその相補配列とからなるものであってもよいが、少なくとも一部にいずれかのアプタマー領域内の配列を含むことが好ましい。言い換えると、二本鎖形成領域は、いずれかのアプタマー領域内の部分配列とその相補配列とを含むことが好ましい。特に、標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補鎖を含むことが好ましい。このように構成すると、二本鎖形成によりそれぞれのアプタマーが所期の立体構造をとることが妨害され、その結果、標識物質の標識結合アプタマー領域への結合が阻害される。とりわけ、標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補鎖とからなる二本鎖形成領域を設けると、被検物質の非存在下では標識結合性アプタマー領域が所期の立体構造をとりにくくなる可能性が高く、一方で被検物質存在下では被検物質結合性アプタマー領域が所期の立体構造をとることにより上記した二本鎖形成が解かれて標識結合性アプタマー領域がその立体構造をとりやすくなると考えられ、被検物質の有無による構造スイッチングがより好ましく生じると考えられる。二本鎖形成領域がアプタマー領域内の部分配列を含む場合、その部分配列は、アプタマー領域の全長以下、好ましくは全長の半分以下であり、採用するアプタマー領域の長さにもよるが、通常は5mer~20mer程度である。

【0031】
二本鎖形成領域によって形成される二本鎖構造は、標識結合性アプタマー領域内部に位置していてもよいし、標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域との間に位置していてもよい。以下、前者を第1の形態、後者を第2の形態として、各形態について具体的に説明する。

【0032】
第1の形態の具体例を図1に示す。この例によれば、二本鎖形成領域は標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補配列により構成され、二本鎖形成領域により形成される二本鎖領域は標識結合性アプタマー領域内部に含まれる。相補配列は、被検物質結合性アプタマーに隣接してポリヌクレオチド分子の末端部に好ましく設けられる。被検物質(図1中ではインスリン)と接触すると、被検物質結合性アプタマー領域がその所期の立体構造をとって被検物質と結合する。そうすると、二本鎖形成領域におけるハイブリダイゼーションが解かれ、標識結合性アプタマー領域がフリーになるので、標識結合性アプタマー領域もその所期の立体構造を形成して特異結合能を発揮できる状態となり、標識物質を結合するようになる。

【0033】
第2の形態の具体例を図2に示す。この例によれば、二本鎖形成領域は標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域の間に設けられ、二本鎖形成領域により形成される二本鎖領域は両アプタマー領域の間に位置する。二本鎖形成が円滑に行なわれるよう、相互に相補な配列の間にはスペーサー配列が設けられ、二本鎖形成時にはこのスペーサー配列がループ状になる。二本鎖形成領域には、部分的に標識結合性アプタマー領域内の配列が含まれており、別途追加した相互に相補な配列と共に二本鎖を形成する。もっとも、二本鎖形成領域は、標識結合性アプタマー領域内の部分配列とその相補鎖のみからなるものであってもよく、別途追加した相互に相補的な配列は必ずしも存在しなくてよい。また、被検物質結合性アプタマー領域がこの二本鎖形成に関わっていてもよい。すなわち、二本鎖形成領域には、被検物質結合性アプタマー領域内の配列とその相補配列が含まれていてもよい。

【0034】
被検物質が存在しない状態では、二本鎖形成領域がハイブリダイズして二本鎖を形成し、ポリヌクレオチド全体としては、ステムループ構造の末端に標識結合性アプタマー領域と被検物質結合性アプタマー領域とが連結したような形態をとる。被検物質(図2ではトロンビン)と接触すると、被検物質結合性アプタマー領域がその所期の立体構造をとって被検物質と結合する。そうすると、二本鎖形成領域におけるハイブリダイゼーションが解かれ、標識結合性アプタマー領域がフリーになるので、標識結合性アプタマー領域もその所期の立体構造を形成して特異結合能を発揮できる状態となり、標識物質を結合するようになる。

【0035】
第2の形態では、被検物質結合性アプタマー領域がその立体構造を形成したときに、その立体構造が安定に維持され且つ標識結合性アプタマー領域が二本鎖形成から安定的にフリーになるよう、被検物質結合性アプタマー領域の外側末端(すなわち二本鎖形成領域に隣接しない方の末端部)に、二本鎖形成領域内の配列と相補的な配列をさらに付加してもよい。このさらなる相補鎖は、被検物質結合性アプタマー領域の他方の末端に連結する二本鎖形成領域の少なくとも一部と相補である(つまり、図2の例では、標識結合性アプタマー領域内の配列と同一になる)。このようなさらなる相補鎖があると、被検物質結合性アプタマーがその立体構造をとったときに、標識結合性アプタマー領域との間で形成されていた二本鎖が解かれ、さらなる相補鎖の方と二本鎖が形成されやすくなるので、上記した構造スイッチングをより安定的に達成することができる。

【0036】
上記いずれの形態においても、構成単位となる各種領域の連結部分には、適宜スペーサー配列を設けてもよい。測定用ポリヌクレオチド全体のサイズの上限は特に限定されず、基本的には採用する標識結合性アプタマー領域及び被検物質結合性アプタマー領域のサイズに応じて定まる。ただし、あまりに長いと合成の手間とコストがかかるため、測定用ポリヌクレオチドのサイズは通常200mer程度以下である。

【0037】
本発明の測定方法では、上記した測定用ポリヌクレオチドを、被検物質を含み得る試料及び標識物質と接触させる。そうすると、測定用ポリヌクレオチドには標識物質と被検物質との両者が結合し、[標識物質]-[測定用ポリヌクレオチド]-[被検物質]の複合体が形成される。試料中に存在する被検物質の量が多ければそれだけ該複合体の形成量が多くなる。従って、該複合体中の標識物質の活性を測定すれば、この活性を指標として試料中の被検物質の量を測定することができる。

【0038】
複合体を形成した標識物質と形成しなかった非結合の標識物質との分離(B/F分離)を容易にする観点から、測定用ポリヌクレオチドは固相上に固定化されていることが好ましい。固相上に固定化したものを用いれば、測定用ポリヌクレオチドと被検物質と標識物質とが結合した複合体が固相上に形成され、標識物質は測定用ポリヌクレオチドを介して固相上に捕捉されることになるので、固相を洗浄することにより容易にB/F分離を達成できる。固相の種類は特に限定されず、従来の免疫測定に用いられる固相を好ましく用いることができる。具体例としては、磁気ビーズ、樹脂ビーズ、プレート等を挙げることができる。測定用ポリヌクレオチドの固相への固定化部位は特に限定されず、標識結合性アプタマー領域が存在する方の末端で固定化してもよいし、被検物質結合性アプタマー領域が存在する方の末端で固定化してもよい。

【0039】
標識物質の活性の測定は、用いる標識物質の種類に応じて常法により容易に行なうことができる。例えば、標識物質としてPQQGDHを用いた場合には、PQQGDHの基質を添加して酵素反応の量を測定すればよく、具体的には、例えば、フェナジンメトサルフェート(PMS)及び2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)等の適当な活性試薬を含む溶液中で、基質であるグルコースを反応させ、吸光度を測定することにより、PQQGDHの酵素活性を容易に測定することができる。

【0040】
測定対象となる被検物質は、それと特異的に結合するアプタマーが作成可能なものであれば何ら限定されない。具体例を挙げると、種々のタンパク質(糖タンパク質やリポタンパク質等のタンパク複合体を包含する)、糖類(多糖類、少糖類及び単糖類並びに糖脂質のような糖複合体を包含する)、脂質、核酸、低分子化合物等を例示することができる。上記の通り、アプタマーは、SELEXのような、偶然を積極的に利用する方法により作出されるので、ほとんど全ての被検物質に対して、これと特異的に結合するアプタマーを作出することが可能である。下記実施例に記載されるアプタマーを利用した測定系では、インスリンを被検物質としているが、上記の通り被検物質はこれに限定されるものではなく、好ましい具体例として、疾病のマーカー分子となるグルカゴンや、肝臓ガンマーカーとなるαフェトプロテイン、消化器ガンマーカーであるCEA、前立腺ガンマーカーのPSA、卵巣ガンマーカーのCA125、膵臓ガンマーカーのCA19-9、各種感染症のマーカーとなるHIVウイルス抗体、C型肝炎ウイルス抗体、A型肝炎ウイルス抗体、B型肝炎ウイルス抗体等を挙げることができる。

【0041】
測定に用いられる試料は、上記した被検物質を含み得る試料であれば特に限定されない。好ましい具体例としては、ヒト等の動物由来の体液(全血、血漿、血清、尿等)及びその希釈物、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、並びに組織又は細胞の抽出物等が挙げられる。

【0042】
上記した測定用ポリヌクレオチドは、被検物質の測定試薬として提供することができる。該測定試薬は、測定用ポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、該ポリヌクレオチドの安定化等に有用な保存剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、該測定用ポリヌクレオチドは、既に固相に固定化された状態であってもよいし、あるいは、使用者が所望の固相に容易に固定化できるように、汎用の標識等を付加したものであってもよい。例えば、公知のアビジン被覆プレートに固定化できるように、ビオチン標識が付加されたものであってもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
1.アプタマー固定化ビーズを用いたPQQGDH酵素活性の検討
市販のNeutrAvidinビーズ(PIERCE社製)の表面にPQQGDH結合性アプタマーを固定化することにより、アプタマーを介してPQQGDHをビーズに固定化し、ビーズ上のPQQGDHの活性を調べた。
【実施例】
【0045】
本実験で用いたPQQGDH結合性アプタマーPGa4(配列番号2)は、配列番号1に示す30merのランダム配列を含むランダムssDNAライブラリーからSELEX法によるスクリーニングを経て創製されたものである。具体的には、PQQGDHと競合タンパク質(C-reactive protein及びAlpha-fetoprotein)とを固定化したニトロセルロース膜を用いて、この膜に対してランダムライブラリーを反応させ、PQQGDHに結合したssDNAを回収する、という操作を7ラウンド繰り返すことにより創製されたものである。
【実施例】
【0046】
NeutrAvidinビーズ20μLにビオチン修飾したアプタマーを1 nmol加え、binding buffer (100 mM phosphate、150 mM NaCl2, pH 7.2)で全量500μLになるよう1.5 mlチューブに調製し、室温で1時間撹拌することでアプタマーをNeutrAvidinビーズに固定化した。その後、遠心分離によりビーズを回収し、TBS (10 mM Tris-HCl、5 mM KCl、150 mM NaCl, pH 7.4)で洗浄し、0.4 mM biotin 500μL中で15分間、1 %ブロッキングbuffer 500μL中で1時間撹拌しブロッキングした。CaCl2、PQQを1 mM、1μMとなるように加えてホロ化を行ったPQQGDHを、10 nM~10μMとなるように調製し、作製したDNA固定化ビーズ2μLに添加して室温で15分間撹拌した。その後、遠心分離によってPQQGDH-DNA固定化ビーズを沈殿させ、余分なPQQGDHを含む上清を取り除いた。reaction bufferで何度か洗浄した後、180μL TBS、10μL活性試薬(終濃度0.06 mM DCIP及び0.6 mM PMS)、10μLグルコース(終濃度60 mM)を添加して、アプタマーを介してビーズに固定化されたPQQGDHの酵素活性を測定した。また、コントロールとして、アプタマーと同様の条件でInitial(配列番号1に示すランダムライブラリー)を固定化したビーズも作製し、その活性測定を行った。
【実施例】
【0047】
PQQGDHの酵素活性測定は、PMS-DCIP系を用い(終濃度0.06 mM DCIP、0.6 mM PMS)、DCIPの600 nmの吸光度変化を追跡し、その吸光度の減少を酵素の反応速度とした。このとき1分間に1μmolのDCIPが還元される酵素活性を1 Uとした。またDCIPのpH 7.0におけるモル吸光係数は16.3 mM-1とした。
【実施例】
【0048】
アプタマーに固定化したPQQGDHの活性測定結果を図3に示す。PGa4アプタマーを固定化したビーズに、100 nMのPQQGDHを添加したサンプルでは、56 mU/ml程度の活性値を示したのに対し、Initialを固定化したビーズでは20 mU/ml程度の値であった。よって、PGa4にPQQGDHが固定化され、かつ固定化された状態で活性を維持していることが示唆された。PQQGDHの5000 U/mlという高い活性値を考えると、今回得られた活性値は非常に小さかったが、固定化されたPQQGDHが活性を維持していることが確認できた。
【実施例】
【0049】
2.アプタマー固定化プレートを用いたPQQGDH酵素活性の検討
市販のNeutra Avidin固定化プレートをTBS (10 mM Tris-HCl, 5 mM KCl, 150 mM NaCl, pH 7.4)で10回洗浄し、1 wellごとにビオチン修飾アプタマーを50 pmol/100μL加え、室温で1時間振とうすることで固定化した。200μL TBST (10 mM Tris-HCl、5 mM KCl、150 mM NaCl, 0.05% Tween, pH 7.4)で10回洗浄し、2%スキムミルク溶液で1時間ブロッキングを行った。洗浄を10回行った後、種々の濃度のホロ化PQQGDHを添加し、30分間振とうした。洗浄を6回(最後の2回は、tweenを含まないTBSを用いて洗浄した)した後、180μL TBS、10μL活性試薬(終濃度0.06 mM DCIP及び0.6 mM PMS)、10μLグルコース(終濃度25 mM)を添加して、アプタマーを介してプレートに固定化されたPQQGDHの酵素活性を上記したPMS-DCIP系を用いて測定した。
【実施例】
【0050】
測定結果を図4に示す。DNAを固定化していないときは、ほぼGDH活性は確認されなかったのに対し(図4中の「-DNA」)、PGa4を固定化したウェルでは固定化しなかった場合の約4倍の活性値を得た。PGa4に結合したPQQGDHの活性値を算出したところ、約26 U/mgとなり、PQQGDHの5000 U/mgという高い活性を考えるとこの値は低いものの、ウェルに固定化したPGa4に結合したPQQGDHは活性を保持していることが明らかになった。
【実施例】
【0051】
3.インスリンアプタマーと組み合わせたssDNAの設計
インスリンアプタマー(IGA3、配列番号3)は、全長66 merのうちプライマー領域を除いた30 merのものを用いた。立体構造予測の結果から、このアプタマーはGカルテット構造を形成していると考えられている。解離定数は20μM以上であると予測できるが、正確な値は算出されていない。本研究では、このアプタマーとPGa4アプタマーを連結させ、一部にインスリンアプタマーまたはPGa4アプタマーの相補鎖を組み込んだDNA(以下PIaアプタマーとする)を設計した(表1、配列番号4~13)。設計方針としては、インスリン非存在下では、アプタマーが2本鎖を形成するためにPQQGDHが結合しにくいが、インスリン存在下ではアプタマーの構造が変化し、インスリン、PQQGDHともにアプタマーに結合しやすくなるよう設計を行った(図1)。つまり、インスリンの存在量をPQQGDHの酵素活性で測定する系である。PQQGDHのみでも、連結アプタマーに結合すると考えられるが、インスリン存在下のほうがよりPQQGDHがアプタマーに結合するほうに平衡が動くことにより、インスリンの存在量を測定できると考えられる。
【実施例】
【0052】
【表1】
JP0005747260B2_000002t.gif
【実施例】
【0053】
表1中、小文字がPGa4(PQQGDHアプタマー)領域、斜体がIGA3(インスリンアプタマー)領域であり、下線部及び二重下線部がそれぞれ相互に相補な領域である。すなわち、PIa1~PIa4は基本的にはインスリンアプタマー領域中の部分配列に対する相補配列を5'末端に付加したものであり、かつ、相補的な領域をさらに増やすためにPQQGDHアプタマー領域の部分相補配列も追加したものである。PIa5~10は、PQQGDHアプタマー領域中の部分配列に対する相補配列を3'末端に付加したものである。
【実施例】
【0054】
4.設計したssDNAの各タンパク質に対する結合の確認
ゲルシフトで結合の確認を行った。30μM GDHにCaCl2及びPQQをそれぞれ1 mM及び1μMとなるように加え、30分間インキュベートすることによりホロ化を行った。その後、ホロ化GDHまたはインスリンとフォールディングしたアプタマーを各々終濃度5μMとなるように混合し、1時間室温でインキュベートした。3%アガロースゲルに、GDH、インスリンとアプタマーの混合溶液またはアプタマーのみを添加して電気泳動を行った後、ゲルをサイバーグリーンで染色し、各タンパク質存在・非存在化におけるアプタマーのバンドの位置のシフトを観察した。
【実施例】
【0055】
各タンパク質の存在の有無によるDNAのバンド位置のシフトを比較すると、PIa 4、PIa 6、PIa 7、PIa 8において若干のバンド位置のずれが観察された。また、タンパク質をCBB染色した結果、同じくPIa 4、PIa 6、PIa 7、PIa 8では、PQQGDHのみの場合とPQQGDH、インスリンの両方の存在下ではバンド位置が異なった。よって、これらのアプタマーは、PQQGDH、インスリンの存在下でそれぞれ所期の立体構造をとり、二つのタンパク質に結合できる可能性が示された。PQQGDHのみの場合でもバンドのシフトが観察されたが、インスリンの存在下で、よりPQQGDHがアプタマーと結合するほうに平衡が傾けば、差を見ることができると考えられる。
【実施例】
【0056】
5.アプタマー固定化プレートを用いた標的蛋白質の検出
市販のNeutra Avidin固定化プレートをTBS (10 mM Tris-HCl, 5 mM KCl, 150 mM NaCl, pH 7.4)で10回洗浄し、1 wellごとにビオチン修飾アプタマーを50 pmol/100μL加え、室温で1時間振とうすることで固定化した。200μL TBST (10 mM Tris-HCl、5 mM KCl、150 mM NaCl, 0.05% Tween, pH 7.4)で10回洗浄し、2%スキムミルク溶液で1時間ブロッキングを行った。洗浄を10回行った後、種々の濃度のホロ化PQQGDHまたはインスリンを添加し、30分間振とうした。洗浄を6回(最後の2回は、tweenを含まないTBSを用いて洗浄した)した後、180μL TBS、10μL 活性試薬(終濃度0.06 mM DCIP及び0.6 mM PMS)、10μL グルコース(終濃度25 mM)を添加して、アプタマーを介してプレートに固定化されたPQQGDHの酵素活性を上記したPMS-DCIP系を用いて測定した。また、コントロールとして、アプタマーを固定化しない場合とPGa4を固定化した場合で、上記と同様に実験を行った。
【実施例】
【0057】
アプタマー固定化プレートを用いたインスリン検出システムの原理と結果を図5及び図6に示す。インスリン-PQQGDH連結アプタマー:PIa 6、PIa 7、PIa 8を固定化した場合、PIa 7ではインスリンの存在下において活性値の30%程度の上昇が確認された。実際の活性値は上記のPGa4と同程度の値である。また、PIa 6、PIa 8ではPIa 7のような活性の変化は確認されず、逆にインスリンの存在下では活性は低下した。よって、PIa 7では、期待した構造変化が起こっていると考えられる。従って、酵素標識のオン・オフを利用した新規のセンシングシステムを構築できたと考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5