TOP > 国内特許検索 > スペクトル位相補償方法及びスペクトル位相補償装置 > 明細書

明細書 :スペクトル位相補償方法及びスペクトル位相補償装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5354653号 (P5354653)
公開番号 特開2010-171194 (P2010-171194A)
登録日 平成25年9月6日(2013.9.6)
発行日 平成25年11月27日(2013.11.27)
公開日 平成22年8月5日(2010.8.5)
発明の名称または考案の名称 スペクトル位相補償方法及びスペクトル位相補償装置
国際特許分類 H01S   3/10        (2006.01)
G02F   1/35        (2006.01)
G02B  26/06        (2006.01)
FI H01S 3/10 Z
G02F 1/35 502
G02B 26/06
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2009-012229 (P2009-012229)
出願日 平成21年1月22日(2009.1.22)
審査請求日 平成23年12月2日(2011.12.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 隆行
【氏名】桂川 眞幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100067736、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 晃
【識別番号】100096677、【弁理士】、【氏名又は名称】伊賀 誠司
【識別番号】100106781、【弁理士】、【氏名又は名称】藤井 稔也
【識別番号】100113424、【弁理士】、【氏名又は名称】野口 信博
審査官 【審査官】古田 敦浩
参考文献・文献 特開2002-368312(JP,A)
特表2003-508818(JP,A)
特開2007-110089(JP,A)
特開2007-163579(JP,A)
特開2009-229310(JP,A)
特開2009-229918(JP,A)
調査した分野 H01S 3/00 - 3/30
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 26/06
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さの正分散媒質からなる平行平板を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償方法。
【請求項2】
隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さの正分散媒質からなり、広帯域光が入射される平行平板を備え、
上記平行平板を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償装置。
【請求項3】
それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされた正分散媒質からなる1対の光学素子により、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整された平行平板部を形成し、
上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償方法。
【請求項4】
上記平行平板部の厚さを、入射される広帯域光に存在する2次分散を打ち消して、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整することを特徴とする請求項3記載のスペクトル位相補償方法。
【請求項5】
それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされ、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さが調整自在な平行平板部を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子を有し、
上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償装置。
【請求項6】
上記平行平板部は、入射される広帯域光に存在する2次分散を打ち消して、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整されることを特徴とする請求項5記載のスペクトル位相補償装置。
【請求項7】
それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされた正分散媒質からなる1対の光学素子により形成される厚さが調整自在な平行平板部に広帯域光を入射し、
上記平行平板部を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて上記1対の光学素子の少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動させる駆動部を動作させ、上記平行平板部の厚さを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御し、
上記平行平板部を透過させることにより、上記広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償方法。
【請求項8】
それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされ、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さが調整自在な平行平板部を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子と、
上記1対の光学素子の少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動させる駆動部と、
上記平行平板部を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて上記駆動部を動作させ、上記平行平板部の厚さを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御する制御部と
を備え、
上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とするスペクトル位相補償装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うスペクトル位相補償方法及びスペクトル位相補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のレーザ技術の発展に伴い、100フェムト秒(10-15秒)以下のパルス幅を有する超短パルスレーザを容易に利用することが可能となり、このテラヘルツ領域の技術開発が急速に進展している。
【0003】
フェムト秒光パルスは、非線形光学応答を利用した非破壊、非侵襲の物質測定、ガラスや金属や半導体の超精細加工、細胞の切削や操作などに利用できるだけでなく、光の干渉性を利用して物体内部を撮像するOCT(Optical Coherence Tomography)や多光子顕微鏡の光源、X線に代わる検査用電磁波となる波長30μm~3nmのテラヘルツ波発生装置などへの応用が期待されている。
【0004】
フェムト秒光パルスの発生は、時間幅が広がった光パルスのスペクトル成分間の相対位相を制御して、フーリエ変換限界程度に時間幅を圧縮する技術である。光パルスの時間軸上の拡がりは、光パルスのスペクトル成分間の相対位相関係によって生ずるので、周波数に対して相対位相を補償することによって、すなわちチャープさせてパルス圧縮が行われる。線形チャープは、光の伝搬定数が、一定の群速度分散を有する場合、すなわち、周波数の2乗依存性を有する場合に生じることから、二次分散とも呼ばれる。
【0005】
フェムト秒光パルスの時間幅をさらに狭くする要求が高まっているが、光パルスの時間幅を狭めると、それに対応して周波数スペクトル幅が拡大するので、拡大した周波数スペクトルの成分間全てにチャープを消すことが必要になり、従来よりも広い周波数範囲にわたって、広くチャープを補償することが必要になる。
【0006】
ここで、周波数チャープとは、光パルスの瞬時周波数が時間的に変化する現象であり、時間とともに線形に増加する場合を正チャープ、線形に減少する場合を負チャープと呼ぶ。
【0007】
従来の一般的な超短光パルスの生成方法としては、図11に示すように、広帯域光源の発生する光パルス(広帯域光)Lwのコヒーレントで広いスペクトルとそのスペクトルの位相をスペクトル成分毎に位相補償して合波することにより超短光パルスLxを生成する手法が一般的な超短光パルスの生成方法として、広く知られている。
【0008】
ここで、広帯域光源の発生する光パルス(広帯域光)Lwを図11の(A)に示し、その各スペクトル成分を図11の(B)を示し、スペクトル成分毎に位相補償した各スペクトル成分を図11の(C)に示し、生成した超短光パルスLxを図11の(D)に示す。
【0009】
このように、超短光パルスの生成には、広帯域化だけでなく、相対位相を調整(分散補償)する必要がある。
【0010】
そして、現実の透過媒質がほぼすべて正常分散媒質であることから、広帯域光源により、例えば図12の(A)に示すように、各スペクトル成分の位相が一定の広帯域光Lw0が得られたとしても、実際に使用される広帯域光Lwには、図12の(B)に示すように、上記広帯域光原の状態やその後の透過媒質の材料や量に応じた正分散が存在するので、図12の(C)に示すように、広帯域光Lwのスペクトルの相対位相を調整(分散補償)するための負分散の実現が主要なテーマとなっていた。従来、プリズム対や回折格子対、さらには負分散ミラーなどにより、分散補償を行っていた。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2003-337309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のプリズム対、あるいは回折格子対を用い、この各対間の距離を変えて負チャープ量を変化させるスペクトル位相補償装置では、広い周波数スペクトル範囲にわたって大きな負チャープを加えようとすると線形チャープ、すなわち二次分散だけでなく、二次分散よりも高次の分散も加わってしまうという問題点がある。すなわち、プリズム対、回折格子対では、屈折及び回折によって生ずる波長毎の光路差を用いて、光に正又は負の大きな群速度分散を与えることができる。しかし、群速度分散よりさらに高次の位相分散も生じるため、広帯域に渡って位相を補償するためには、光学系の設計から光学材料の選定までに及ぶ精密な設計が必要になる。このため、プリズム対、回折格子対による位相補償は、実質的にある程度制限された波長域における位相補償手段であり、また、ダイナミックにまた任意の位相量を調整することはほとんど不可能である。
また、負分散ミラーは、屈折率(誘電率)の異なる光学薄膜を膜厚を制御して交互に複数積層し、この積層膜から反射する光が、周波数に比例した位相を持つようにしたもので、光エネルギーに対する損傷しきい値が高い光学物質、例えば、SiOやTiOを誘電体多層膜として使用するので、高エネルギー光パルスの使用に耐える。また、光パルスを誘電体多層膜で反射させるだけなので、装置が小型である。蒸着薄膜の膜厚を適切に設計して形成した誘電体多層膜鏡は、操作は非常に容易であるが、その反射原理から使用する帯域が限られかつ回転角と位相の間に一定の関数関係を有しているため、究極の極短パルスには到達できないと同時に、波長可変性についても制限されてしまう。
【0013】
したがって、従来のプリズム対や回折格子対、誘電体多層膜鏡などの光学素子を用いた位相補償は、固定的であり、光パルスのスペクトル成分毎の位相が前もってわかっており、かつ、光パルスのスペクトル成分毎の位相が時間的に不変である場合にしか有効ではない。
【0014】
一般に、光パルスに正チャープを加えることは容易であるが、負チャープを加えるためには複雑な機構を要する。
【0015】
近年の技術革新により、超短光パルスの繰り返し周波数は年々上昇しており、高い繰り返し周波数は離散性の高いスペクトルを形成する。
【0016】
本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を安価で単純な装置で行うことができるようにすることにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下において図面を参照して説明される実施に形態から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明では、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うにあたり、高い繰り返し周波数を持つ超短光パルスは離散性の高い光スペクトルを持つことに着目して、従来のように負分散によりスペクトル位相を補償するのではなく、簡単に実現可能な正分散によりスペクトル位相を補償して隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする。
【0019】
すなわち、本発明に係るスペクトル位相補償方法は、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さの正分散媒質からなる平行平板を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【0020】
本発明に係るスペクトル位相補償装置は、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さの正分散媒質からなり、広帯域光が入射される平行平板を備え、上記平行平板を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るスペクトル位相補償方法は、それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされた正分散媒質からなる1対の光学素子により、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整された平行平板部を形成し、上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るスペクトル位相補償装置は、それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされ、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さが調整自在な平行平板部を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子を有し、上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るスペクトル位相補償方法は、それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされた正分散媒質からなる1対の光学素子により形成される厚さが調整自在な平行平板部に広帯域光を入射し、上記平行平板部を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて上記1対の光学素子の少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動させる駆動部を動作させ、上記平行平板部の厚さを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御し、上記平行平板部を透過させることにより、上記広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明に係るスペクトル位相補償装置は、それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面を対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面と出射面との距離が可変自在とされ、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さが調整自在な平行平板部を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子と、上記1対の光学素子の少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動させる駆動部と、上記平行平板部を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて上記駆動部を動作させ、上記平行平板部の厚さを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御する制御部とを備え、上記平行平板部を透過させることにより、広帯域光から繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、単純に正常分散媒質を透過させるだけで、位相の補償を実現する。繰り返し周波数がテラヘルツ領域の場合には、数センチメートルの厚さのガラス材で2次の位相分散を消去できる。光エネルギーの損失要因は媒質の吸収および表面反射しかないため、高透過率を確保することができる。また、分散媒質として通常の光学ガラス材料を利用できるため、損傷閾値が高いスペクトル位相補償装置を実現することができる。また、本発明によれば、各周波数成分を空間的に分離しない安定的な機構のスペクトル位相補償装置を実現することができる。さらに、 通常の光学部品のように誘電体膜や金属膜の蒸着を必要としないため安価なスペクトル位相補償装置を実現することができる。
【0026】
すなわち、本発明では、繰り返し周波数の高い超短光パルスの生成のためのスペクトル位相の補償を、通常の正分散を持つ媒質によって実現するので、負分散を実現するための複雑な機構を必要とせず、安価で単純なスペクトル位相補償装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を適用した平行平板からなるスペクトル位相補償装置を備える超短光パルス生成装置の構成図である。
【図2】上記スペクトル位相補償装置における正分散によるスペクトル位相の補償について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した厚さが調整自在な平行平板部を形成する1対の光学素子からなるスペクトル位相補償装置の構成図である。
【図4】上記スペクトル位相補償装置における平行平板部の厚さの可変状態を示す図である。
【図5】上記スペクトル位相補償装置における厚さが調整自在な平行平板部を形成する1対の光学素子の具体例を示す図である。
【図6】上記スペクトル位相補償装置を実装した広帯域離散スペクトル発生装置の構成図である.
【図7】上記広帯域離散スペクトル発生装置の広帯域離散スペクトル生成用セルにおいてラマン過程を経て発生される高次のサイドバンドを示す図である。
【図8】上記広帯域離散スペクトル発生装置に実装した上記位相補償装置を通過した広帯域光のスペクトルの位相の各測定結果を示す図である。
【図9】上記広帯域離散スペクトル発生装置に実装した上記位相補償装置を通過した広帯域光の時間波形の各測定結果を示す図である。
【図10】制御部により平行平板部の厚さを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに自動制御する機能を備えるスペクトル位相補償装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来の一般的な超短光パルスの生成方法を説明するための図である。
【図12】負分散による位相補償について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。

【0029】
本発明は、例えば図1に示すような構成の超短光パルス生成装置10におけるスペクトル位相補償装置2に適用される。

【0030】
この超短光パルス生成装置10は、広帯域光Lwを出射する広帯域光原1と、上記広帯域光原1から出射された広帯域光Lwが入射されるスペクトル位相補償装置2からなる。

【0031】
上記広帯域光原1は、チタンサファイア結晶など広い利得帯域を持つレーザ媒質や、コヒーレント光の変調を利用することで広帯域光Lwを生成し、生成した広帯域光Lwを出射する。

【0032】
そして、上記スペクトル位相補償装置2は、入射された広帯域光Lwのスペクトル位相の補償を行うことによって、上記広帯域光Lwから繰り返し周波数の高い超短光パルスを生成し、生成した超短光パルスLxを出射する。

【0033】
ここで、超高繰返し周期を実現する離散的なスペクトルを対象にした位相分散補償の場合、各スペクトル成分が同一の位相を持つ条件以外にもパルス幅を最も短くする最適条件が存在する。離散スペクトルは等間隔の線スペクトルで形成されるため、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍に選ぶことができる。適当な2次分散を加えることで、もともと存在する2次分散を打ち消すことができる。

【0034】
この超短光パルス生成装置10におけるスペクトル位相補償装置2は、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さtの正分散媒質からなり、広帯域光Lwが入射される平行平板2Aを備え、上記平行平板2Aを透過させることにより、広帯域光Lwから繰り返し周波数の高い超短光パルスLxの生成のためのスペクトル位相の補償を行う。

【0035】
上記平行平板2Aは、既知の分散特性を持つ光学ガラスを、取り除くべき2次分散の量に応じて厚さtを調整したもので、広帯域光Lwの光路に挿入することで2次分散を補償する。

【0036】
すなわち、このスペクトル位相補償装置2では、図2に示すように、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さtの正分散媒質からなる平行平板2Aを透過させることにより、広帯域光Lwから繰り返し周波数の高い超短光パルスLxの生成のためのスペクトル位相の補償を行う。

【0037】
ここで、広帯域光源の発生する広帯域光Lwのスペクトルと位相を図2の(A)に示し、上記広帯域光Lwの各スペクトル成分を図2の(B)を示し、スペクトル成分毎に位相補償した各スペクトル成分を図2の(C)に示し、生成した超短光パルスLxのスペクトルと位相を図2の(D)に示す。

【0038】
なお、上記超短光パルス生成装置10において、上記スペクトル位相補償装置2に入射される広帯域光Lwに存在する分散量は、上記広帯域光原1の状態やその後の透過媒質の材料や量によって変化するので、上記スペクトル位相補償装置2の平行平板2Aは、取り除くべき2次分散の量に応じた厚さtとしておく必要がある。

【0039】
また、上記超短光パルス生成装置10は、固定の厚さtの平行平板2Aによりスペクトル位相の補償を行う上記スペクトル位相補償装置2に替えて、例えば、図3に示すような構成のスペクトル位相補償装置20を用いることにより、厚さtを可変自在とした平行平板部21により任意の補償量にてスペクトル位相の補償を行うことができる。

【0040】
図3に示すスペクトル位相補償装置20は、それぞれくさび形の断面形状を有し、互いに斜面21A,21Bを対向させて配され、少なくとも一方の光学素子が斜面に沿って移動することにより、互いに平行な入射面21Aと出射面21Bとの距離が可変自在とされ、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さtが調整自在な平行平板部21を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子21A,21Bを有する。

【0041】
このスペクトル位相補償装置20では、例えば、光学素子21Aを斜面21A,21Bに沿って移動させることにより、図4の(A),(B)に示すように、平行平板部21の厚さtを自由に変化させることができる。したがって、平行平板部21により任意の補償量にてスペクトル位相の補償を行うことができる。

【0042】
そして、このスペクトル位相補償装置20では、互いに平行な入射面21Aと出射面21Bとの距離が可変自在とされた正分散媒質からなる1対の光学素子21A,21Bにより、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整された平行平板部21を形成して、上記平行平板部21を透過させることにより、広帯域光Lwから繰り返し周波数の高い超短光パルスLxの生成のためのスペクトル位相の補償を行う。

【0043】
ここで、離散スペクトルの周波数間隔が10.6THzの場合、光学ガラス(BK7)では、32mm厚さを変化させれば、2次分散が補償される厚さが1度現れることが見積もられるので、図5に示すような断面形状の短辺21Aの長さが40mmの光学素子21Aと短辺21Bの長さが20mmの光学素子21Bを光学ガラス(BK7)にて作製して、上記スペクトル位相補償装置20として用い、図6に示すような構成の広帯域離散スペクトル発生装置30に実装して、離散スペクトルの周波数間隔が10.6THzの広帯域光Lwについてスペクトル位相の補償を行ったところ、平行平板部21の厚さtを10mm~40mmまで変化させた場合、10mm付近と40mm付近でパルス幅が短くなり、超短光パルスLxを生成することができた。

【0044】
この広帯域離散スペクトル発生装置30は、周波数が372THz(波長:806.3297nm)のレーザ光と383THz(波長:783.9316nm)のレーザ光とを発生し、同軸に重ね合わせて混合した二波長のレーザ光を出射するチタンサファイア(TI:SA)レーザ光源31と、上記レーザ光源31から出射された二波長のレーザ光が上記第1のハーフミラー32を介して入射される広帯域離散スペクトル生成用セル33と、上記広帯域離散スペクトル生成用セル33から出射された広帯域光Lwが第2のハーフミラー34を介して入射される第1の測定系35と、上記レーザ光源31から出射された二波長のレーザ光が上記第1のハーフミラー32により反射されて入射されるとともに、上記広帯域離散スペクトル生成用セル33から出射された広帯域光Lw’が第2のハーフミラー34により反射されて入射される第2の測定系36からなり、上記広帯域離散スペクトル生成用セル33と上記第2のハーフミラー34の間の光路中に上記位相補償装置20が設けられている。

【0045】
上記広帯域離散スペクトル生成用セル33は、例えば、光学クライスタット内に固体パラ水素結晶を設置してなる非線形波長変換素子である。

【0046】
この広帯域離散スペクトル発生装置30では、上記レーザ光源31により周波数が372THz(波長:806.3297nm)のレーザ光と383THz(波長:783.9316nm)のレーザ光とを発生し、同軸に重ね合わせた混合した二波長のレーザ光を上記第1のハーフミラー31を介して励起レーザ光として上記広帯域離散スペクトル生成用セル33に入射させることにより、上記広帯域離散スペクトル生成用セル33において、図7に示すように、ラマン過程を経て高次のサイドバンドを発生させ、離散スペクトルの周波数間隔が10.6THzの広帯域光Lwを発生させる。

【0047】
上記広帯域離散スペクトル生成用セル33と上記第2のハーフミラー34の間の光路中に設けられた上記位相補償装置20は、上述の如く、隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに調整される厚さtが調整自在な平行平板部21を形成する正分散媒質からなる1対の光学素子21A,21Bにて構成されたもので、上記広帯域離散スペクトル生成用セル33から入射された広帯域離散スペクトルの広帯域光Lwが上記平行平板部21に入射され、上記平行平板部21により上記広帯域光Lwの各スペクトルの位相補償を行う。

【0048】
上記第1の測定系35は、上記位相補償装置20を通過した広帯域光Lw’が上記第2のハーフミラー34を介して第1の測定光L1として入射される高調波発生用の非線形光学素子(BBO)35Aと、この非線形光学素子(BBO)35Aにより発生される高調波を検出する光検出器35Bからなる。

【0049】
この第1の測定系35は、上記非線形光学素子(BBO)35Aにより上記第1の測定光L1の高調波を発生し、発生した第二高調波(SH)を上記光検出器35Bにより検出する。

【0050】
また、上記第2の測定系36は、上記レーザ光源31から出射された二波長のレーザ光が上記第1のハーフミラー32により反射されて参照光Lrefとして入射される遅延ステージ36Aと、この遅延ステージ36Aを介して上記参照光Lrefが入射されるとともに、上記位相補償装置20を通過した広帯域光Lw’が上記第2のハーフミラー34により反射されて第2の測定光L2として入射される凹面鏡36Bと、上記参照光Lrefと第2の測定光L2の混合光が上記凹面鏡36Bにより反射されて入射される高調波発生用の非線形光学素子(BBO)36Cと、この非線形光学素子(BBO)36Cにより発生される高調波が入射されるスペクトロメータ36Dからなる。

【0051】
この第2の測定系36は、上記遅延ステージ36Aにより上記参照光Lrefが通過する光路長さを可変して、上記参照光Lrefに与える遅延量を調整し、上記参照光Lrefと第2の測定光L2の混合光の高調波を上記非線形光学素子(BBO)36Cを発生し、上記混合光の高調波を上記スペクトロメータ36Dにより検出することにより、上記第2の測定光L2に含まれるスペクトルの位相、すなわち、上記位相補償装置20を通過した広帯域光Lw’のスペクトルの位相を測定する。

【0052】
このような構成の広帯域離散スペクトル発生装置30において、上記位相補償装置20の上記平行平板部21の厚さtを10mm~40mmまで変化させて、離散スペクトルの周波数間隔が10.6THzの広帯域光Lwについてスペクトル位相の補償を行い、上記平行平板部21の厚さtが10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、40mmの場合に、上記第2の測定系36により上記位相補償装置20を通過した広帯域光Lw’のスペクトルの位相の各測定結果を図8にP(10mm)、P(15mm)、P(20mm)、P(25mm)、P(30mm)、P(35mm)、P(40mm)として示し、また、時間波形の各測定結果を図9にS(10mm)、S(15mm)、S(20mm)、S(25mm)、S(30mm)、S(35mm)、S(40mm)として示す。

【0053】
なお、図8には、上記位相補償装置20を設けない場合の広帯域光Lw’のスペクトルの位相特性をP(0)として示し、また、目的の位相特性をP(0π)、P(2π)、P(4π)として示してある。また、図9には、上記位相補償装置20を設けない場合の広帯域光Lw’の時間波形をS(0)として示し、また、理想状態の時間波形をS(R)として示してある。

【0054】
このように、上記広帯域離散スペクトル発生装置30では、上記平行平板部21の厚さtを10mm~40mmまで変化させた場合、10mm付近と40mm付近でパルス幅が短くなり、超短光パルスLxを生成することができた。

【0055】
また、上記広帯域離散スペクトル発生装置30における上記スペクトル位相補償装置20は、例えば、図10に示すように、上記光学素子21Aを斜面21A,21Bに沿って移動させる駆動部22と、上記平行平板部21を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて上記駆動部22を動作させ、上記平行平板部21の厚さtを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御する制御部23とを設け、上記制御部23により上記平行平板部21の厚さtを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに自動制御するようにすることもできる。

【0056】
上記駆動部22は、例えばパルスモータによりウオームギヤを回転駆動して、上記光学素子21Aを斜面21A,21Bに沿って移動させる構造とする。

【0057】
また、上記制御部23は、上記第1の測定系35の光検出器35Bにより検出される上記第1の測定光L1、すなわち、上記位相補償装置20を通過した広帯域光Lw’の2次高調波成分の検出出力に基づいて、上記広帯域光Lw’のパルス幅やピーク強度等を求めて、上記駆動部22の動作を制御することにより、上記平行平板部21の厚さtを、上記広帯域光Lw’のパルス幅が最短の状態又はピーク強度が最強の状態、すなわち、スペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに自動制御する。

【0058】
上記広帯域離散スペクトル発生装置30では、上記平行平板部21を透過した光を検出し、その検出出力に基づいて駆動部22を動作させ、上記平行平板部21の厚さtを隣り合うスペクトルの位相差を2πの整数倍とする厚さに制御する制御部23を上記スペクトル位相補償装置20に設けることにより、安定に且つ簡単に超短光パルスLxを生成することができる。

【0059】
なお、本発明は、以上の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 広帯域光原、2 スペクトル位相補償装置、2A 平行平板2A、10 超短光パルス生成装置、20 スペクトル位相補償装置、21 平行平板部21、21A,21B 斜面、21A 入射面、21B 出射面、21A,21B 光学素子、22 駆動部、23 制御部、30 広帯域離散スペクトル発生装置、31 レーザ光源、32 第1のハーフミラー、33 広帯域離散スペクトル生成用セル、34 第2のハーフミラー、35 第1の測定系、35A 非線形光学素子(BBO)、35B 光検出器、36 第2の測定系、36A 遅延ステージ36A、36B 凹面鏡、36C 非線形光学素子(BBO)、36D スペクトロメータ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11