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明細書 :培地添加剤及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5849257号 (P5849257)
公開番号 特開2012-120515 (P2012-120515A)
登録日 平成27年12月11日(2015.12.11)
発行日 平成28年1月27日(2016.1.27)
公開日 平成24年6月28日(2012.6.28)
発明の名称または考案の名称 培地添加剤及びその利用
国際特許分類 C12N   5/071       (2010.01)
C12P   1/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202A
C12P 1/00 Z
請求項の数または発明の数 17
全頁数 14
出願番号 特願2010-276226 (P2010-276226)
出願日 平成22年12月10日(2010.12.10)
審査請求日 平成25年12月5日(2013.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
発明者または考案者 【氏名】荒木 聡彦
【氏名】松村 貴晴
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 特開2009-183151(JP,A)
特開2005-237365(JP,A)
特開2009-022264(JP,A)
Sawatari, E., et al.,Cell growth-promoting activity of fluid from eye sacs of the bubble-eye goldfish (Carassius auratus),ZOOLOGICAL SCIENCE,2009年,Vol. 26,p. 254-258
Fujiwara, M., et al.,Fetal calf serum-free culture of Chinese hamster ovary cells employing fish serum,Appl. Microbiol. Biotechnol.,ドイツ,2007年,Vol. 75,p. 983-987
Fujiwara, M.,Fetal calf serum-free suspension culture of Chinese hamster ovary cells employing fish serum,J. Biosci. Bioeng.,2010年,Vol. 109,p. 307-309
調査した分野 C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
体表に水疱を有する魚類(ただし、病的に体表に水疱を生じている魚類を除く。)の水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する、動物細胞(魚類細胞を除く。)用の培地添加剤。
【請求項2】
ウシ胎児血清を代替するために用いる、ヒトを含む哺乳動物細胞用である、請求項1に記載の培地添加剤。
【請求項3】
前記水疱内液を含有する、請求項1又は2に記載の培地添加剤。
【請求項4】
前記体表に水疱を有する魚類は、水泡眼又はその近縁種である、請求項1~3のいずれかに記載の培地添加剤。
【請求項5】
前記水疱内液の活性炭処理液又は前記活性炭処理液に由来する成分を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の培地添加剤。
【請求項6】
前記体表に水疱を有する魚類は水泡眼である、請求項1~5のいずれかに記載の培地添加剤。
【請求項7】
ヒトを含む哺乳動物細胞用である、1~6のいずれかに記載の培地添加剤。
【請求項8】
ヒト細胞用である、請求項7に記載の培地添加剤。
【請求項9】
動物細胞(魚類細胞は除く。)用の培地添加剤の製造方法であって、
体表に水疱を有する魚類(ただし、病的に体表に水疱を生じている魚類を除く。)の前記水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する液体を活性炭で処理する処理工程と、
前記処理工程で得られた処理液又は前記処理液に由来する成分を含む前記培地添加剤を製造する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項10】
動物細胞(魚類細胞を除く。)用の培地であって、
請求項1~8のいずれかに記載の培地添加剤を含有する、培地。
【請求項11】
ウシ胎児血清を含有しない、ヒトを含む哺乳動物細胞用である請求項10に記載の培地。
【請求項12】
動物細胞(魚類細胞は除く。)の生産方法であって、
請求項1~8のいずれかに記載の培地添加剤を用いて、前記動物細胞を培養して増殖させる工程、
を備える、生産方法。
【請求項13】
前記増殖させる工程は、前記動物細胞をウシ胎児血清非存在下で培養してヒトを含む哺乳動物細胞を増殖させる工程である、請求項12に記載の生産方法。
【請求項14】
有用物質の生産方法であって、
請求項1~8のいずれかに記載の培地添加剤を用いて動物細胞(魚類細胞は除く。)を培養して前記動物細胞により前記有用物質を生産させる工程、
を備える、生産方法。
【請求項15】
前記有用物質を生産させる工程は、前記動物細胞がヒトを含む哺乳動物細胞であって、前記ヒトを含む哺乳動物細胞をウシ胎児血清非存在下で培養して、前記ヒトを含む哺乳動物細胞により前記有用物質を生産させる工程である、請求項14に記載の生産方法。
【請求項16】
動物細胞(魚類細胞は除く。)の処理方法であって、
請求項1~8のいずれかに記載の培地添加剤を前記動物細胞と接触させる工程、
を備える、処理方法。
【請求項17】
前記動物細胞と接触させる工程は、ウシ胎児血清非存在下で前記培地添加剤とヒトを含む哺乳動物細胞とを接触させる工程である、請求項16に記載の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞の培地添加剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子治療、細胞医療、遺伝子組換え医薬の製造に関連して、哺乳類をはじめとして様々な動物の細胞の培養技術が重要な技術となってきている。動物細胞培養には、培地添加剤として動物血清、なかでも牛胎児血清が日常的に使用されている。
【0003】
牛胎児血清は、対細胞活性にロット間差があるほか、異種タンパク質を多量に含むことから、臨床応用上の安全性が問題視されている。また、過去に、牛由来製品において、牛海綿状脳症(BSE)の原因と推定される異常プリオンによる汚染の問題が発生していることから、細胞培養等に用いられる牛胎児血清についてもその異常プリオンによる汚染が問題視されるようになっている。このようなことから、牛胎児血清の安全な代替品が求められている。
【0004】
牛胎児血清の代替品として、牛以外の生物由来の血清が検討されている。例えば、魚類の血清が検討されている(特許文献1、2及び非特許文献1、2)。これらの先行技術文献には、魚類の血清を動物細胞の培養に用いることが記載されている。また、水泡眼というキンギョなどの体表に水疱を有する魚類の前記水疱の内液由来成分を有効成分とする魚類細胞培養のための培地添加剤も検討されている(特許文献3、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2005-237365号公報
【特許文献2】特開2009-22264号公報
【特許文献3】特開2009-183151号公報
【0006】

【非特許文献1】Appl. Microbiol Biotechnol. 2007, 75(5): 983-7
【非特許文献2】J.Biosci. Bioeng. 2010, 109(3), 307 -309
【非特許文献3】ZOOLOGICAL SCIENCE 26, 254-258(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現状において、魚類に由来して動物細胞の増殖を活性化するのに有効な添加剤は提供されていない。すなわち、上記特許文献1、2及び非特許文献1、2が開示するように魚類の血清を用いることは、麻酔を使用せずに衛生的に血清を採取する方法の開発が必要であるとともに、魚体から採取できる血清量が限られるという問題があった。さらに、本発明者らによれば、上記文献記載の魚類血清の細胞増殖効果が牛胎児血清の半分程度であるという問題もあった。
【0008】
一方、特許文献3及び非特許文献3には、体表に水疱を有する水疱魚類の水疱内液又はそれに由来する成分を魚類用の試薬として用いることが記載されている。しかしながら、この魚類用試薬では、魚類の細胞の増殖のためにでさえ依然牛胎児血清を必要としており、魚類以外の動物における有効性を期待できなかった。また、魚類以外の動物においては牛胎児血清からの完全置換の可能性はほぼ無いものと考えられた。
【0009】
そこで、本明細書の開示は、牛胎児血清を代替可能な魚類由来の培地添加剤及びその用途を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
体表に水疱を有する魚類(以下、単に水疱魚類ともいう。)の水疱内液又はその由来成分は、上記のとおり同種生物である魚類の細胞増殖に対して、牛胎児血清の存在下で補助的な活性を示していたため、動物細胞の増殖に対しては、活性が期待できなかった。ところが、牛胎児血清の代替品を探索する中、あえて水疱内液を動物細胞の培地に添加したところ、意外にも、単独で有効な増殖活性があるという知見を得た。また、さらに、こうした水疱内液をはじめとする魚類体液に対して活性炭処理を施すことにより、その活性が向上するという知見を得た。本明細書の開示によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0011】
本明細書の開示によれば、水疱魚類の前記水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する、動物細胞用の培地添加剤が提供される。前記魚類は、水泡眼又はその類縁種とすることができる。また、前記水疱内液の活性炭処理液又は前記活性炭処理液に由来する成分を含有していてもよい。
【0012】
本明細書の開示によれば、動物細胞用の培地であって、前記培地添加剤を含有する、培地も提供される。
【0013】
本明細書の開示によれば、動物細胞の生産方法であって、前記培地添加剤を用いて、動物細胞を培養して増殖させる工程、を備える、生産方法が提供される。
【0014】
本明細書の開示によれば、有用物質の生産方法であって、前記培地添加剤を用いて動物細胞を培養して前記動物細胞により前記有用物質を生産させる工程、を備える、生産方法が提供される。
【0015】
本明細書の開示によれば、動物細胞の処理方法であって、前記培地添加剤を前記動物細胞と接触させる工程、を備える、処理方法が提供される。なお、前記処理工程は、前記動物細胞に対する顕微操作を含んでいいてもよいし、前記動物細胞に対する外来遺伝子導入操作を含んでいてもよい。
【0016】
本明細書の開示によれば、動物細胞用の培地添加剤の製造方法であって、水疱魚類の水疱内液を活性炭で処理する処理工程と、前記処理工程で得られた処理液又は前記処理液に由来する成分を含む前記培地添加剤を製造する工程と、を備える、製造方法が提供される。
【0017】
本明細書の開示によれば、水疱魚類の水疱内液を活性炭で処理して得られる、動物細胞用の培地添加剤も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】水疱内液を含む培地によるヒト血管内皮細胞の増殖試験結果を示す図である。
【図2】水疱内液(10%)を含む培地とブリ血清(0.3%、3%)を含む培地によるヒト血管内皮細胞の増殖試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書の開示は、水疱魚類の水疱の内液又は前記内液由来成分を含有する動物細胞用の培地添加剤、その製造方法、及びその利用に関する。また、本明細書の開示は、前記内液を活性炭で処理する、動物細胞用の培地添加剤の製造に関する。

【0020】
本明細書に開示される動物細胞用の培地添加剤によれば、意外にも、牛胎児血清非存在下で動物細胞に対して有効な細胞増殖活性を発揮できる。既に説明したように、このような動物細胞に対する増殖活性は、当業者である本願の発明者らにおいても意外な特性であった。本培地添加剤は、以下のメリットを発揮することができる。
(1)魚類に由来しているため、ヒトなどの哺乳類と共通するろ過性病原体がない。このため安全性が高い。
(2)魚類1個体から相当程度の量を採取でき、また、採取した魚類個体において内液が再生されるため、効率的に取得できる。
(3)内液は、リンパ液様であって血球を含まないため、血球分離が不要である。
(4)魚類個体を生存させたまま内液を採取可能であるため、動物保護の観点からも問題がない。

【0021】
また、本明細書に開示される培地添加剤によれば、動物細胞の生産、動物細胞による有用物質の生産、動物細胞の処理等においても、動物細胞の活性を維持し増殖を促進することができるので、これらの実施形態においても動物細胞の良好な活性又は増殖活性に基づく効果を得ることができる。

【0022】
さらに、本明細書に開示される動物細胞の培地添加剤の製造方法によれば、水疱魚類の水疱内液を活性炭で処理することによって、前記水疱内液から何らかの動物細胞の活性を阻害する物質が除去されて、より高い活性の培地添加剤を製造することができる。

【0023】
以下、本明細書の開示についての実施形態について詳細に説明する。

【0024】
(培地添加剤)
本培地用添加剤は、水疱魚類の水疱内液又は水泡内液由来成分を有効成分として含有することができる。本明細書において、「体表に水疱を有する魚類」(水疱魚類)は、体表に体液が含まれる水疱を有する魚類を意味している。こうした魚類としては、例えば、「水泡眼」というキンギョの品種又はその近縁種が挙げられる。水泡眼は、両目の周囲に水疱が生じてその内部に体液が蓄積する遺伝的性質を有している。水泡眼の水疱内液の組成は明らかではないが、体長10cm以上の水泡眼からは、大量(1尾1回あたり10ml以上40ml以下程度)の水疱内液を注射器で容易に採取できる。水泡眼の水疱は、水疱内液の採取後、一時的に収縮するが、数ヶ月内には再び採取前と同様に体液が蓄積して復帰することがわかっている。なお、水疱魚類は、水泡眼又はその近縁種を利用して交配して得られた新品種若しくは水泡眼又はその近縁種に対して遺伝子工学的な操作により改変した改変体、突然変異によって体表に水疱が生ずるようになったキンギョであってもよい。また、キンギョ以外の魚類であっても突然変異や遺伝子組み換えなどにより体表に水疱を形成する性質を付与したものおよびその魚を祖先の一つとする交雑魚でもよい。

【0025】
本培地用添加剤は、水疱内液又は水疱内液由来成分を含有している。「水疱内液由来成分」とは、水疱内液と同一の活性を有する1種又は2種以上の成分を意味している。成分は、水疱内液中で溶解している成分であってもよいし、分散又は懸濁している成分であってもよい。なお、同一の活性とは、水疱内液が動物細胞に対して示す少なくとも一つの活性と同種の活性を有することを意味しており、活性の程度は特に限定するものではない。培地用添加剤における水疱内液又は水疱内液由来成分の含有量は、これらにより動物細胞の活性維持や増殖促進など細胞活動の維持及び促進に対してプラスの作用を呈する程度となるように設定される。

【0026】
本培地用添加剤の一つの形態として、採取された水疱内液をそのまま何ら処理することなく含有する形態を採ることができる。こうした形態によれば、水疱内液に含まれる全成分が実質的に含まれている。なお、水疱内液は適度に希釈されていてもよいし、濃縮されていてもよい。こうした形態には、希釈、濃縮、凍結及び凍結乾燥など、採取された水疱内液に関し、水分状態や水以外の濃度が変化したものも包含される。なお、水疱内液は、水疱魚類の水疱から注射器等で容易に採取できる。

【0027】
また、本培地用添加剤の他の一つの形態として、水疱内液由来成分を含有する形態を採ることができる。例えば、本培地用添加剤は、水疱内液に含まれる成分の少なくとも一部を水疱内液と同一の活性を有する程度に含んでいる。より具体的には、水疱内液由来成分を含有する形態は、水疱内液を、滅菌や不純物除去等を意図したろ過、透析、塩析、遠心分離、吸着、溶媒抽出、各種クロマトグラフィー等にて分離分画し、水疱内液と同一の活性を有する画分を含む態様が挙げられる。また、本培地用添加剤は、水疱内液を成分分析して成分の少なくとも一部を特定するとともに、これら成分を抽出、遺伝子組換え、化学合成等により別途取得して水疱内液と同一の活性を有する程度に配合した組成物の態様を採ることもできる。さらに、後述する熱処理や活性炭処理後の水疱内液も、水疱内液由来成分を含有する形態に包含される。

【0028】
(熱処理)
本培地用添加剤の他の一つの形態として、水疱内液に対して熱処理を施した熱処理液又は熱処理液に由来する成分を含有する形態が挙げられる。一般的には補体などの細胞毒性を有する酵素群を不活性化する目的から熱処理することが好ましい。また、動物細胞の培養や増殖の観点からは、熱処理することで良好な細胞形態を維持できることがわかっており、熱処理によって、動物細胞に対して有効性の高い薬剤として利用可能となる。熱処理の条件は、上記した補体不活性化の観点からは、例えば、50℃以上70℃以下で、15分以上2時間以下程度とすることができる。典型的には、56℃程度で30分程度とすることができる。熱処理に供される水疱内液は、特に限定されないで各種の形態や経過を採ることができる。例えば、採取されたままの水疱内液(固液分離後の液を含む。)の他、その希釈液や濃縮液であってもよく、また、水疱内液の凍結体や凍結乾燥体を復元した液であってもよい。

【0029】
(活性炭処理)
さらに、本培地用添加剤の他の一つの形態として、水疱内液に対して活性炭処理して得られる活性炭処理液又は活性炭処理液に由来する成分を含有する形態を採ることができる。水疱内液を活性炭で処理することより、活性炭処理前に比較して動物細胞の増殖活性が向上される。活性炭処理に供される水疱内液は、特に限定されないで各種の形態や経過を採ることができる。例えば、採取されたままの水疱内液(固液分離後の液を含む。)の他、その希釈液や濃縮液であってもよく、また、水疱内液の凍結体や凍結乾燥体を復元した液であってもよい。

【0030】
活性炭は、吸着剤として用いるために化学的または物理的な活性化処理を施した多孔質の炭素を主な成分とする物質である。水疱内液に対して吸着剤として使用可能な活性炭は特に限定されないが、公知のあるいは商業的に入手可能な活性炭を適宜選択することができる。活性炭としては、その材料、製法(活性化の方法)は特に限定されない。通常入手できる活性炭であれば、本培地用添加剤と接触させることによりその動物細胞に対する活性を向上させることができるが、当業者であれば、必要に応じて、活性炭の種類や量等を種々検討して、本培地用添加剤の処理のために最適な活性炭を選択することができる。

【0031】
活性炭で処理するとは、各種形態の水疱内液を活性炭と接触させて、活性炭と接触後の液を取得することである。こうした活性炭処理は、処理に供する液の量や濃度と、用いる活性炭の種類、量(表面積等)及び接触時間、温度等を適宜設定することができる。接触時間としては、数分~数時間程度とすることができる。活性炭と各液との接触は、例えば、クロマトグラフィーの形態を採ってもよいし、振とうや撹拌を伴っていてもよい。活性炭による処理後は、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段によって活性炭を除去して処理後の液を得ることができる。

【0032】
なお、活性炭処理は、牛胎児血清等に対しても行われているが、こうした活性炭処理は、ロット間バラツキを平均化するものであって、活性炭処理によって活性が向上するといったものでない。したがって、水疱内液に対する活性炭処理は、牛胎児血清における活性炭処理とはその技術的意義が異なっている。

【0033】
本培地用添加剤は、水疱内液に対して上記活性炭処理と上記熱処理とを組み合わせて得られる形態であってもよい。その場合には、活性炭処理に先だって熱処理を行うことが好ましい。活性炭処理後に熱処理を行うと、「補体の活性化」による血清成分の変質(沈殿物の形成等)を起こす可能性があるからである。

【0034】
本培地用添加剤は、水疱内液に対して、あるいは上記活性炭処理や上記熱処理の後の水疱内液に対して凍結処理や凍結乾燥処理が施されていてもよい。凍結処理や凍結乾燥処理は、公知の手法がそれぞれ適用される。なお、凍結体は融解により、凍結乾燥体は、所定量の水に再溶解することにより実質的に各種態様の水疱内液、その希釈液又はその濃縮液に復帰させることができる。

【0035】
本培地用添加剤は、水疱内液又は水疱内液由来成分のほかに、適宜他の成分を含有することができる。こうした他の成分は特に限定されないで、本培地用添加剤の具体的な用途に応じて適宜選択される。例えば、アミノ酸、各種塩等が挙げられる。また、本培地用添加剤は単独で用いることもできるが、例えば、他の試薬と組み合わせて用いることもできる。こうした試薬は特に限定されないが、例えば、リンゲル液、各種の緩衝液等が挙げられる。

【0036】
本培地用添加剤が適用される動物細胞は特に限定しない。動物としては、ヒトを含む高等霊長類、非高等霊長類を含む哺乳類並びにこれら以外の動物が挙げられる。動物は、好ましくはヒトを含む哺乳類である。なお、本明細書において、動物には、魚類を含まない。動物としては、鳥類、爬虫類、両生類、昆虫類などが例示される。哺乳類としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ネズミなどが挙げられるが、とくに限定されない。また、本培地用添加剤を適用する細胞は、動物から採取してから一般的に50回程度までの限られた回数のみ分裂、増殖できる初代細胞であっても、動物細胞から採取された後、一般に50回以上の多数回分裂、増殖できる細胞株であってもよい。初代細胞の例としては、ラットの初代肝細胞、マウス初代骨髄細胞、ブタ初代肝細胞、ヒト初代臍帯血細胞などが挙げられる。また、動物から組織を採取し、新たに培養細胞を樹立する場合に用いても良い。一方、細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO細胞、ヒト子宮癌細胞株HeLa、アフリカミドリザル腎細胞株Vero細胞、ヒト肝癌細胞株Huh7細胞などが例示される。

【0037】
これらの細胞株の中でも、とくにチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO細胞)が医薬品生産などの目的で工業的に多用されており好ましい。このようなCHO細胞としては、CHO-K1株(ATCCCCL61)、CHO1-15500株(ATCCCRL-9606)、CHO DG44株などが例示される。

【0038】
細胞は、造血系細胞や間葉系細胞を含む中胚葉組織細胞、内胚葉組織細胞、外胚葉組織細胞あるいは受精卵からこれらの細胞へ分化する過程に含まれるあらゆる細胞、および胚性幹細胞などの幹細胞若しくはiPS細胞などと呼ばれる遺伝子改変等の方法により人為的に作製した幹細胞のいずれであってもよい。造血系細胞とは、例えば、造血幹細胞、造血前駆細胞、赤血球細胞、リンパ球細胞、顆粒球細胞、血小板細胞などを包含している。また、間葉系細胞とは、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、腱細胞、脂肪細胞、毛乳頭細胞、歯髄細胞などの組織学的にいうところの結合組織の細胞およびこれらの細胞に分化する能力を有する細胞を指す。細胞形態としては、繊維芽細胞、脂肪細胞などがある。間葉系細胞の存在する組織としては、骨、軟骨、筋肉、腱、脂肪組織、毛乳頭、歯髄などを例として挙げることができる。またこれら以外の、血管、肝臓、膵臓などの実質臓器の内部や周囲にも存在し、さらに骨髄や臍帯の中にも存在する。骨髄中には、多くの結合組織細胞への多分化能を有した細胞(間葉系幹細胞)の存在が報告されているが、これも本発明における間葉系細胞のひとつである。また骨髄液や臍帯血など由来の間葉系細胞を増殖せしめる場合、骨髄液や臍帯血などの細胞懸濁液から定法に従ってフィコール溶液などを用いた密度勾配遠心分離法により分離した間葉系細胞を播種して増殖させてもよいし、このような分離ステップを経ずに骨髄液や臍帯血を直接培養器に播種しその中に含まれる間葉系細胞を増殖せしめてもよい。

【0039】
内胚葉組織細胞とは、たとえば膵臓細胞や膵臓幹細胞、肝細胞や胆管細胞などの組織学的に言う内胚葉組織に含まれる細胞及びそれらの幹細胞を含む。外胚葉組織細胞とは、たとえばニューロン細胞、アストロサイト細胞やオリゴデンドロサイト細胞など神経細胞などの組織学的に言う外胚葉組織に含まれる細胞及びそれらの幹細胞たとえば神経幹細胞を含む。

【0040】
動物細胞は、培養の結果、組織化された組織であってもよいし、器官であってもよい。さらに、動物から採取された組織や器官も動物細胞に含まれる。

【0041】
動物細胞は、上記細胞等を宿主細胞とし、特定の有用物質を生産する、あるいは特定の用途を指向する等の各種目的のために外来遺伝子が導入された形質転換細胞であってもよい。動物細胞における外来遺伝子などの外来DNAの導入形態は特に限定されない。外来DNAが相同組換えにより導入されていてもよいし、ノックアウトの形態であってもよい。また、外来DNAは、細胞内あるいは核内に存在する染色体外DNAであってもよい。また、動物細胞は、外来DNA等に由来するRNAなどの染色体外核酸を有していてもよい。なお、染色体外核酸としては、染色体上に備え得る変異や外来性DNAのほか、ウイルスのほか、プラスミドあるいは人工染色体などを用いることができる。

【0042】
このような外来DNAを用いた形質転換細胞は、当業者であれば、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001 )等の記載に基づいて得ることができる。

【0043】
本培地用添加剤は、in vitroにおける動物細胞の活性、増殖活性を向上させることができ、動物細胞に向けた牛胎児血清の代替品として用いることができる。本培地用添加剤は、このため、生殖細胞系列、体細胞及び胚性細胞など各種動物細胞の保存用としても用いることができる。例えば、未受精卵に適用したとき、卵質を維持するように作用する。すなわち、受精後にふ化可能な状態を維持することができる。また、本培地用添加剤は、未受精卵の卵質維持用又は保存用として用いることができる。このほか、本培地用添加剤は、生殖細胞系列や胚性細胞など活性が低下しやすい細胞に好ましく用いることができる。

【0044】
本培地用添加剤は、その動物細胞の活性維持作用に基づいて、胚性細胞や生殖細胞系列等の動物細胞の凍結保存用としても用いることができる。凍結保存用として用いる場合には、保護剤として糖類などを添加して用いることが好ましい。

【0045】
本培地用添加剤は、動物細胞の活性維持作用に基づいて、生殖細胞系列、体細胞及び胚性細胞など各種動物細胞の処理用として用いることができる。ここで処理とは、例えば、温度、紫外線、ガンマ線、X線等の照射、磁気、電気刺激、圧力及び化学薬品等による処理が挙げられる。例えば、未受精卵や受精卵に対する各種の染色体操作における各種処理が挙げられる。また、核移植における未受精卵や体細胞への各種物理的又は化学的処理が挙げられる。また、生殖細胞系列、胚性細胞及び体細胞への外来遺伝子導入操作における各種処理が挙げられる。特に、生殖細胞系列や胚性細胞など活性が低下しやすい細胞に好ましく用いることができる。また、本培地添加剤により、iPS細胞に代表される外来遺伝子導入幹細胞や、遺伝子治療等に用いる外来遺伝子導入細胞を安全に作製し、提供することができる。

【0046】
本培地用添加剤は、同様の理由から、始原生殖細胞系列、胚性細胞、体細胞などの各種動物細胞に対する顕微操作用として用いることができる。顕微操作とは、顕微鏡等で視野を拡大した状況での微小器具による操作である。顕微操作は、時間を要する場合もあり、顕微鏡下、本培地用添加剤の存在下で動物細胞を操作することで確実に顕微操作を実施することができる。特に、生殖細胞系列や胚性細胞など活性が低下しやすい細胞に好ましく用いることができる。顕微操作としては、例えば、マイクロインジェクション等による核移植操作、遺伝子導入操作等が挙げられる。

【0047】
本培地用添加剤は、動物細胞の増殖促進作用に基づいて、生殖細胞系列、体細胞及び胚性細胞など各種動物細胞の培養用又は各種動物培養細胞の増殖用として用いることができる。動物細胞を培養し又は効率的に増殖させるのは、例えば、動物細胞を利用した有用物質の生産やそれ自体有用な動物細胞の生産に有用である。また、同様の理由から、本培地用添加剤は、再生医療の材料となる動物細胞、組織及び器官の培養に用いることができる。

【0048】
(動物細胞用の培地添加剤の製造方法)
本明細書に開示される動物細胞用の培地の製造方法は、水疱魚類の水疱内液を活性炭で処理する処理工程と、前記処理工程で得られた処理液又は前記処理液に由来する成分を含む前記培地添加剤を製造する工程と、を備えることができる。本製造方法によれば、活性炭で処理していない水疱内液に比較して高い活性の培地添加剤を得ることができる。

【0049】
水疱内液を活性炭処理することにより、動物細胞に対する活性を高めることができる。

【0050】
既に説明したように、活性炭処理に供する水疱内液は、各種態様を採ることができる。水疱内液の活性炭による処理については、本培地用添加剤について既に説明した態様を本製造方法にも適用できる。なお、活性炭による処理工程に先立って、熱処理工程を実施することが好ましい。熱処理については、本培地用添加剤について既に説明した態様を本製造方法に適用できる。活性炭による処理工程後は、必要に応じて固液分離して処理後の液を回収することができる。さらに、活性炭処理工程あるいはその後の固液分離工程後には、凍結又は凍結乾燥工程を実施して、処理液の凍結体や凍結乾燥体を取得することもできる。

【0051】
本製造方法によれば、こうした処理液又はこの処理液に由来する成分を含む、動物細胞用の培地添加剤を得ることができる。すなわち、水疱内液を活性炭処理して得られる処理液又はこの処理液に由来する成分を含む、培地添加剤が得られる。

【0052】
(動物細胞用の培地)
本明細書に開示される動物細胞用の培地(以下、単に本培地ともいう。)は、本培地用添加剤を含有している。本培地は、本培地用添加剤を含有するため、牛胎児血清等を使用することなく、そのまま動物細胞の活性を維持し、増殖を促進する培地として用いることができる。

【0053】
本培地は、本培地用添加剤のほか、動物細胞用の培地としての成分を含有することができる。こうした培地成分は特に限定しないで、公知の各種培地成分を適宜選択できる。本培地は、本培地用添加剤を含んでいればよく、公知の特定組成の培地成分と本培地用添加剤とを含んだ培地であってもよい。例えば、培地の組成は、培養する細胞種によって異なり、どのようなものであってもよい。例えば、通常動物細胞の培養に用いられるイスコフ培地、RPMI培地、ダルベッコMEM培地などの血清を含まない培地を用いることができる。また、標準培地は、細胞の増殖および維持に有効であることが知られている血清以外の公知または新規の物質、例えば、血清アルブミン、トランスフェリン、脂質、脂質酸源、コレステロール、ピルビン酸、グルココルチコイド、DNAおよびRNA合成用ヌクレオシド、増殖因子(例えば、表皮成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、およびインシュリン)、並びに細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニン)等を添加したものであってもよい。なお、こうした動物細胞用の培地にあっては、無血清培地とすることができ、哺乳動物血清が培地に添加されていないかあるいは除去する処理が施されていることが好ましい。典型的には、無血清培地は、哺乳類動物血清濃度が培地の0.5質量%未満であることが好ましい。

【0054】
本培地に含まれる本培地用添加剤の濃度は、特に限定しないで、細胞種や培地の組成等に応じて適宜設定することができる。一般的には、培地全体に対して2質量%以上50質量%以下とすることができる。好ましくは、5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。

【0055】
(動物細胞の生産方法)
本明細書に開示される動物細胞の生産方法は、本培地用添加剤を用いて動物細胞を培養し増殖させる工程を備えることができる。この生産方法によれば、動物細胞を、牛胎児血清等を用いることなく増殖させ、所望量の動物細胞を得ることができる。本明細書に開示される生産方法においては、既に述べた全ての形態の本培地用添加剤及び培地を適用することができる。本培地用添加剤を用いて動物細胞を培養する形態としては、動物細胞の培養に用いる公知の培地に適宜本培地用添加剤を添加して用いてもよいし、予め本培地用添加剤を含む本培地を準備し、本培地を用いて動物細胞を培養してもよい。また、既に説明したように動物細胞の種類は問わない。培養条件は、動物細胞の種類に応じて適宜設定される。

【0056】
本生産方法により、牛胎児血清由来プリオン蛋白質の混入を防止し、安全にかつ効率的に培養細胞を生産する方法を提供でき、安全、かつ迅速に再生医療や遺伝子治療などに用いる移植用細胞を提供できるようになる。

【0057】
(有用物質の生産方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、本培地用添加剤を用いて動物細胞を培養して有用物質を生産する工程を備えることができる。この生産方法によれば、動物細胞を、牛胎児血清等を用いることなく培養して、動物細胞内あるいは細胞外に有用物質を得ることができる。本生産方法により、牛胎児血清由来プリオン蛋白質の混入を防止し、安全にかつ効率的に有用物質を生産する方法を提供できる。本明細書に開示される生産方法においては、既に述べた全ての形態の本培地用添加剤及び培地を適用することができる。また、動物細胞の種類は問わないが、有用なタンパク質やペプチド、抗体などを生産する動物細胞とすることもできる。

【0058】
(動物細胞の処理方法)
本明細書に開示される動物細胞の処理方法は、本培地用添加剤と動物細胞とを接触させる工程を備えることができる。本培地用添加剤は、動物細胞の増殖活性等の活性を維持、向上させることができる。こうした接触工程は、特定の目的の処理工程に先立って行ってもよい。また、この接触工程は、特定の目的の処理工程と兼用していてもよい。こうした工程としては、例えば、各種の遺伝子工学的技術上の操作が挙げられる。すなわち、外来遺伝子の導入操作、発生工学における各種操作等が挙げられる。より具体的には、顕微操作、染色体操作を含んでいてもよい。接触工程は、処理工程は、凍結工程及び/又は保存工程としても実施できる。

【0059】
接触工程の形態は特に限定しない。例えば、動物細胞の保存や各種操作に一般的に用いられる媒体に本培地用添加剤を添加するか又は本培地用添加剤を予め含有する前記媒体を準備してもよい。接触工程における温度、時間等は、特に限定されないが、動物細胞の種類や目的とする処理に応じて適宜設定される。

【0060】
以上のことから、本明細書の開示によれば、本培地用添加剤を含む、動物細胞の各種処理用の動物細胞用組成物も提供される。

【0061】
(その他の実施形態)
本明細書の開示によれば、以上の実施形態のほか、本培地用添加剤を用いて動物胚の前駆細胞を保存又は処理して胚を作製することもできる。また、本明細書の開示によれば、さらに上記胚作製工程を備えて、さらに動物個体を作製することもできる。本明細書の開示によれば、上記した動物胚又は動物個体の作製により得られる胚又は動物個体も提供される。さらに、本明細書の開示によれば、培地添加剤用材料としての、水泡眼及びその近縁種を含む水疱魚類が提供される。さらに、本明細書の開示によれば、培地添加剤用原料としての、水疱魚類の水疱内液も提供される。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例1】
【0063】
(水疱内液)
本実施例に供した水泡眼の水疱内液は、飼育場内の水槽で飼育されていた体長約6cmの水泡眼数尾より注射器(10mlシリンジと23G注射針)を用いて水疱より直接採取した。
【実施例1】
【0064】
採取した水疱内液は-20℃で保管し、解凍後、56℃、1時間の熱処理を行った。さらに、熱処理後の水疱内液10mlに対して、2gの活性炭を添加し、2時間、常温で振とう後、上清を回収し、450nmのメンブレンフィルターでろ過して、活性炭処理液を調製した。なお、対照として、活性炭未処理の水疱内液は、熱処理後の水疱内液を450nmのメンブレンフィルターでろ過することで調製した。
【実施例1】
【0065】
(培地)
培地は、陰性対照区はMCDB105培地にFGFを70ng/ml加えたものとし、陽性対照区はMCDB105培地にFGFを70ng/mlおよびFBSを10%添加したものとした。活性炭処理済み水疱内液区および未処理水疱内液区は、MCDB105培地にFGF70ng/mlおよびそれぞれの水疱内液を10%添加したものを培地とした。
【実施例1】
【0066】
(動物細胞)
動物細胞は、臍帯由来ヒト血管内皮細胞を用い、20cmシャーレからトリプシン処理により剥離した細胞を100mlの培養液(MCDB105培地にFBSを10%添加しFGFを70ng/ml加えたもの)に懸濁し、懸濁液を1mlずつ24穴シャーレ(PBSに1%ゼラチンを溶かしたもので室温1時間静置してコーティングしたもの)の各1穴に滴下、CO2インキュベーター内で37℃で24時間培養して、シャーレに細胞を接着させた。この培養細胞を、以下の実験に用いた。
【実施例1】
【0067】
(水疱内液含有培地による動物細胞の培養)
シャーレに接着させた培養細胞の培地を全量抜き取り、代わりに既述のそれぞれの実験区のために準備した培地を1ml加えて37℃で培養した。10日間培養後、それぞれのシャーレから培地を抜き取り、代わりにトリプシンを各シャーレに加えて細胞を剥離し、剥離した細胞を1mlの培養液(MCDB105培地に牛血清を10%添加したもの)に懸濁した。各細胞懸濁液10μl採取して、その中の細胞数を顕微鏡下で計測し、1ml中の細胞数を算出した。結果を図1に示す。
【実施例1】
【0068】
図1に示すように、1mlあたりの細胞数は、陰性対照18622cells/ml、陽性対照80289cells/ml、水疱内液(活性炭未処理)54089cells/ml、水疱内液(活性炭処理済み)91133cells/mlとなり、水疱内液(活性炭処理済み)の細胞数は、陽性対照の約1.14倍を示し、牛胎児血清とほぼ同程度又はそれ以上の細胞増殖活性を有する培養液が調製できた。
【実施例1】
【0069】
以上のことから、水疱内液は、ヒトなどの動物細胞の細胞活性及び増殖活性を向上させる作用があることがわかった。また、活性炭処理した水疱内液によれば、動物細胞に対して一層高い作用を有し、牛胎児血清にほぼ匹敵する良好な増殖活性を有していることがわかった。
【実施例2】
【0070】
本実施例では、ヒト血管内皮細胞の培養期間を7日とする以外は、実施例1と同様に陰性対照区と活性炭処理済み水疱内液区の培地を準備し、ヒト血管内皮細胞を培養し細胞数を計測した。同時に、比較例としてブリから採取した血清(以下、ブリ血清という。)を実施例1と同様に熱処理等の操作を行った後、MCDB105培地にFGF70ng/mlにブリ血清が0.3%及び3%の濃度となるように、それぞれ添加してブリ血清実験区の培地を準備し、7日間培養し、細胞数を計測した。この結果を図2に示す。
【実施例2】
【0071】
図2に示すように、活性炭処理済み水疱内液の実験区は、ブリ血清0.3%の実験区の約5倍の細胞数を示し、魚由来の培地添加剤としては、従来品に比較して約5.6倍の細胞増殖活性があることがわかった。
以下の事項は、出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
(1)体表に水疱を有する魚類の前記水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する、動物細胞用の培地添加剤。
(2)前記魚類は、水泡眼又はその類縁種である、(1)に記載の培地添加剤。
(3)前記水疱内液の活性炭処理液又は前記活性炭処理液に由来する成分を含有する、(1)又は(2)に記載の培地添加剤。
(4)動物細胞用の培地であって、
(1)~(3)のいずれかに記載の培地添加剤を含有する、培地。
(5)動物細胞の生産方法であって、
(1)~(3)のいずれかに記載の培地添加剤を用いて、動物細胞を培養して増殖させる工程、
を備える、生産方法。
(6)有用物質の生産方法であって、
(1)~(3)のいずれかに記載の培地添加剤を用いて動物細胞を培養して前記動物細胞により前記有用物質を生産させる工程、
を備える、生産方法。
(7)動物細胞の処理方法であって、
(1)~(3)のいずれかに記載の培地添加剤を前記動物細胞と接触させる工程、
を備える、処理方法。
(8)動物細胞用の培地添加剤の製造方法であって、
体表に水疱を有する魚類の前記水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する液体を活性炭で処理する処理工程と、
前記処理工程で得られた処理液又は前記処理液に由来する成分を含む前記培地添加剤を製造する工程と、
を備える、製造方法。
(9)体表に水疱を有する魚類の前記水疱内液又は前記水疱内液に由来する成分を含有する液体を活性炭で処理して得られる、動物細胞用の培地添加剤。
図面
【図1】
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【図2】
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