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明細書 :シアン解毒剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5619500号 (P5619500)
公開番号 特開2012-020940 (P2012-020940A)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
公開日 平成24年2月2日(2012.2.2)
発明の名称または考案の名称 シアン解毒剤
国際特許分類 A61K  31/409       (2006.01)
A61P  39/02        (2006.01)
A61K  47/40        (2006.01)
A61K  47/48        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
C08B  37/16        (2006.01)
FI A61K 31/409
A61P 39/02
A61K 47/40
A61K 47/48
A61K 9/08
C08B 37/16
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2010-157599 (P2010-157599)
出願日 平成22年7月12日(2010.7.12)
審査請求日 平成25年7月8日(2013.7.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
発明者または考案者 【氏名】加納 航治
【氏名】北岸 宏亮
【氏名】渡辺 賢司
【氏名】川口 章
【氏名】猪口 貞樹
【氏名】斉藤 剛
【氏名】山際 武志
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査官 【審査官】前田 亜希
参考文献・文献 特開2006-2077(JP,A)
人工血液,2009年,17(4),160-168
内科,1987年,60(2),575-577
呼吸,1986年,5(5),564-567
救急医学,2001年,25(9),1100-1105
Chemistry-Asian Journal,2006年,1(3),358-366
調査した分野 A61K 31/409
A61K 47/40
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が、水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有するシアン解毒剤。
【化1】
JP0005619500B2_000005t.gif
(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す。)
【請求項2】
m=1、かつn=2である請求項1に記載のシアン解毒剤。
【請求項3】
水溶性金属ポルフィリンが、下記の化学式(2)又は(3)で示される請求項1又は請求項2に記載のシアン解毒剤。
【化2】
JP0005619500B2_000006t.gif
【化3】
JP0005619500B2_000007t.gif
(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe3+又はCo3+の何れかを表す。)
【請求項4】
水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(III)鉄錯体である請求項3に記載のシアン解毒剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、シアン解毒剤に関し、特にシクロデキストリン二量体とポルフィリン錯体とを利用するシアン解毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化水素(青酸ガス、HCN)、シアン化カリウム(青酸カリ、KCN)、シアン化ナトリウム(青酸ソーダ、NaCN)などのシアン化合物は、冶金やメッキ、化学薬品の材料に使用されている。これらシアン化合物が、自殺、他殺目的など故意、あるいは事故によって、経口、経皮、経気道により体内に入ると、シアン中毒を引き起こす。シアン中毒は、全身の臓器が急激に損なわれ、とくに脳組織の障害が深刻であることから一刻も早い処置が求められている。
【0003】
なお、シアン中毒のメカニズムは、シアンイオン(CN-)がミトコンドリア内の呼吸鎖を担うシトクロムcオキシダーゼの鉄イオンと強く結合して、この酵素のはたらきを妨げ、細胞内呼吸が阻害されることが原因であると考えられているが、その詳細は不明である。
【0004】
さて、従来からある代表的なシアン中毒の代表的な解毒法としては、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)/チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)を使用する方法が挙げられる。この方法は、具体的には次のようにして行なう。まず、亜硝酸ナトリウムを静脈内投与して、血中の還元型鉄(II)ヘモグロビン(FePIIHb)を酸化型鉄(III)ヘモグロビン(FePIIIHb)に部分酸化し、シトクロムcオキシダーゼに結合したシアンイオン及び遊離シアンイオンとFePIIIHbとを錯形成させ、シアン配位鉄(III)ヘモグロビン(cyano-FePIIIHb)を生成する。つぎに、チオ硫酸ナトリウムを静脈内投与して、cyano-FePIIIHbのシアンイオンをヘム鉄と親和性の低いチオシアン酸イオン(SCN-)に変えてHbから離脱させ、チオシアン酸イオンを尿中に溶解・体外に排出させる。
【0005】
しかし、この方法では亜硝酸ナトリウムを使用してFePIIIHbを形成しているため、火災現場などで、シアン中毒患者が一酸化炭素中毒や呼吸困難を併発している場合には、脳組織等への酸素供給不足が引き起こされる可能性が指摘されている。
【0006】
一方、発明者らは、環状オリゴ糖の一種であるβ-シクロデキストリンをパーメチル化し、ピリジンを有するリンカーで連結したシクロデキストリン二量体と水溶性鉄ポルフィリンから成る超分子錯体(hemoCD)が、生体内の酸素結合タンパク質であるHbと同様に、水中で酸素分子を可逆的に吸脱着できることを報告している(特許文献1、非特許文献1~3を参照)。また、発明者らは、hemoCD及びその誘導体は、酸素分子のみならず一酸化炭素(CO)とも結合し、Hbの良好なモデル化合物であることについても報告している(非特許文献4、5を参照。)。そして、これらの研究から、発明者らは、鉄(III)のhemoCD(FePIIIhemoCD)もシアンイオンや遊離シアンイオンと錯形成すると考え、FePIIIhemoCDをシアン解毒剤として使用することについて検討した。
【0007】
しかし、検討の結果、鉄(II)ミオグロビン(FePIIMb)及び鉄(II)ヘモグロビン(FePIIHb)とシアンイオンとの結合速度と同様に、FePIIIhemoCDとシアンイオンとの結合速度は著しく遅く、hemoCDをシアン解毒剤として使用することは実用的でないことが分かった(非特許文献6を参照)。
【0008】
また、ラットにFePIIIhemoCDで静脈内投与すると、FePIIIhemoCDが体内で何らかの還元酵素により鉄(II)へと還元されたのち、一酸化炭素が配位した鉄(II)hemoCD(CO-FePIIhemoCD)として尿中へと排出されることが報告されている(非特許文献5参照)。 そのため、シアン解毒剤として、FePIIIhemoCDを使用しても、シアン中毒患者が一酸化炭素中毒や呼吸困難を併発している場合には、体内でFePIIIhemoCDが自動還元され、シアン排出能力が低下、消去する可能性が指摘されている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2006-2077号公報
【0010】

【非特許文献1】For review: K. Kano, Colloid Polym. Sci. 286, 79-84 (2008).
【非特許文献2】K. Kano, H. Kitagishi, M. Kodera, S. Hirota, Angew. Chem. Int. Ed 44, 435-438 (2005).
【非特許文献3】K. Kano, H. Kitagishi, C. Dagallier, M. Kodera, T. Matsuo, T. Hayashi, Y. Hisaeda, S. Hirota, Inorg. Chem. 45, 4448-4460 (2006).
【非特許文献4】K. Kano, Y. Itoh, H. Kitagishi, T. Hayashi, S. Hirota, J. Am. Chem. Soc. 130, 8006-8015 (2008).
【非特許文献5】K. Kano, H. Kitagishi, T. Mabuchi, M. Kodera, S. Hirota, Chem. Asian J. 1, 358-366 (2006).
【非特許文献6】E. Olivas, D. J. A. De Waal, R. G. Wilkins, J. Biol. Chem. 252, 4038-4042 (1977).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明は、シアン中毒患者が、一酸化炭素中毒や呼吸困難を併発した状態でも、シアンイオンを体外に排出できるシアン解毒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、鋭意検討の結果、特定の構造を有するシクロデキストリン二量体であるIm3CDが水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体にシアン解毒剤として使用できる可能性があることに気づき、この発明を完成させた。
【0013】
すなわち、この発明の請求項1に記載のシアン解毒剤は、下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体Im3CDが水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有するものである。
【化1】
JP0005619500B2_000002t.gif
(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す。)
【0014】
請求項2に記載のシアン解毒剤は、請求項1に記載のシアン解毒剤であって、m=1、かつn=2のものである。
【0015】
請求項3に記載のシアン解毒剤は、請求項1又は請求項2に記載のシアン解毒剤であって、水溶性金属ポルフィリンが下記の化学式(2)又は(3)で示されるものである。
【化2】
JP0005619500B2_000003t.gif
【化3】
JP0005619500B2_000004t.gif
(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe3+又はCo3+の何れかを表す。)
【0016】
請求項4に記載のシアン解毒剤は、請求項3に記載のシアン解毒剤であって、水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(III)鉄錯体のものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明のシアン解毒剤は、シアンイオンとの結合速度や結合強度が高くて、自動還元し難く、一酸化炭素中毒や呼吸困難を併発した状態でも、シアンイオンを体外に排出できる。したがって、この発明のシアン解毒剤が臨床で利用されるようになれば、火事場など一酸化炭素中毒が生じるような環境でも、多くの中毒患者を治療してその生命を救うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】シアン解毒剤の構成成分であるIm3CDの合成経路を示す図である。
【図2】シアン解毒剤の調製方法の一例を示す図である。
【図3】シアン解毒剤にシアン化ナトリウムを添加したときの紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す図である。
【図4】比較例にシアン化ナトリウムを添加したときの紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す図である。
【図5】cyano-FePIIIIm3CDを含む水溶液に亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)を添加した直後の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。なお、(a)は(3)のcyano-FePIIIIm3CDを含む水溶液、(b)は(a)に亜ジチオン酸ナトリウムを加えた水溶液、(c)はFePIIIm3CDを含む水溶液の紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ示している。
【図6】cyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液に亜ジチオン酸ナトリウムを添加した直後の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。なお、(a)はcyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液、(b)は(a)に亜ジチオン酸ナトリウムを加えた直後の水溶液の紫外可視吸収スペクトルを示している。
【図7】cyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液に亜ジチオン酸ナトリウムを添加し、その紫外可視吸収スペクトルの経時変化を測定した結果を示す図である。
【図8】図7の経時変化の最終産物とFePIIhemoCDを含む水溶液との紫外可視吸収スペクトルを比較した図である。
【図9】FePIIIIm3CDをシアン化ナトリウム水溶液で滴定して、シアン解毒剤とシアンイオンとの結合定数を算出した結果を示す図である。なお、図9(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図9(b)は滴定プロットである。
【図10】FePIIIHbをシアン化ナトリウム水溶液で滴定して、FePIIIHbとシアンイオンとの結合定数を算出した結果を示す図である。なお、図10(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図10(b)は滴定プロットである。
【図11】シアン解毒剤を含む薬剤をラットに連続的に投与して排出された尿の紫外可視吸収スペクトルの経時変化を示す図である。なお、(a)は投与から0分後、(b)は投与から30分後、(c)は投与から60分後、(d)は投与から90分後の紫外可視吸収スペクトルである。
【図12】図11で得られた投与から30分後に採取した尿サンプルにCOガスを導入して、紫外可視吸収スペクトルの変化を調べた結果を示す図である。なお、(a)は尿サンプルの紫外可視吸収スペクトル、(b)はCOガスを導入した尿サンプルの紫外可視吸収スペクトルを示している。
【図13】図11で得られた投与から60分後に採取した尿サンプルにCOガスを導入して、紫外可視吸収スペクトルの変化を調べた結果を示す図である。なお、(a)は尿サンプルの紫外可視吸収スペクトル、(b)はCOガスを導入した尿サンプルの紫外可視吸収スペクトルを示している。
【図14】図11で得られた投与から90分後に採取した尿サンプルにCOガスを導入して、紫外可視吸収スペクトルの変化を調べた結果を示す図である。なお、(a)は尿サンプルの紫外可視吸収スペクトル、(b)はCOガスを導入した尿サンプルの紫外可視吸収スペクトルを示している。
【図15】(a)図11で得られた90分後に採取した尿サンプル、(b)(a)にCOガスを導入した尿サンプル、(c)(b)に亜ジチオン酸ナトリウムを加えた尿サンプル、の紫外可視吸収スペクトルを比較した図である。
【図16】尿中のFePIIIIm3CDのシクロデキストリン部分をクロロホルムにより抽出し、質量分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明のシアン解毒剤は、特定のシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有している。そこで、各成分について以下に詳説する。なお、この包接錯体は、シクロデキストリン二量体と、水溶性金属ポルフィリンとを水系溶媒中で混合することによって製造できる。

【0020】
1.シクロデキストリン二量体
シクロデキストリン二量体は、化学式(1)で示すように、全ての水酸基がメチル化した2つのシクロデキストリン分子が、イミダゾール基を有するリンカーを介して結合した物質である。

【0021】
このシクロデキストリン二量体は、例えば先行技術文献に記載されているように、シクロデキストリンをトシル化してエポキシ化したのち、このシクロデキストリンの水酸基をメチル化し、メチル化したシクロデキストリンとリンカー分子とを結合して製造する。

【0022】
なお、シクロデキストリンの水酸基を予めメチル化したのは、水酸基によって生じる水素結合によりシクロデキストリンの内孔が硬くなり、水溶性金属ポルフィリンがシクロデキストリン二量体の内孔に包接され難くなるのを防ぐためである。

【0023】
また、シクロデキストリン二量体の原料となるシクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンの何れかである。なかでも、シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンであるn=2が好ましい。さらに、鉄ポルフィリンの鉄周辺がシクロデキストリンによって完全に遮蔽されず、外部の水による求核攻撃を受けやすくなるように、リンカー分子はm=1であることが好ましい。

【0024】
2.水溶性金属ポルフィリン
水溶性金属ポルフィリンとは、中心に金属イオンを配位して水に溶けるポルフィリン系化合物のことであり、かつ、化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体で包接できるものであれば特に限定されない。

【0025】
なかでも、シアンイオンを確実に吸脱着できる点から、前記の化学式(2)、化学式(3)の化合物、より具体的には5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(III)鉄錯体(以下、「FeTPPS」と省略する。)、5,15-ビス(3,5-ジカルボキシラトフェニル)-10,20-ジフェニルポルフィリン(III)鉄錯体(以下、「Fe-trans-2DC」と省略する。)などが挙げられる。なお、これらの化合物は、例えば公知の方法により合成してもよく、市販品(例えば、Frontier scientific社、東京化成工業株式会社など)を使用してもよい。

【0026】
3.剤形等
この発明のシアン解毒剤は、前記包接錯体単体で又は公知の製剤用担体とともに医薬用組成物を構成して、ヒト又はそれ以外の動物に投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択すればよい。具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤等の非経口剤が挙げられる。なお、医薬用組成物中のシアン解毒剤の分量、患者への医薬用組成物の投与量は、剤形や患者の年齢、体重、疾患の程度に応じて自由に選択することができる。

【0027】
この発明のシアン解毒剤を錠剤等の経口剤として製造する場合には、公知の賦型剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤等とともに、公知の製造方法により製造することができる。

【0028】
また、この発明のシアン解毒剤は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としてとしても経口投与することができる。この場合、矯味剤、矯臭剤、着色剤などを含有していてもよい。

【0029】
この発明のシアン解毒剤を注射剤、点滴剤等の非経口剤として製造する場合には、注射用蒸留水、生理食塩水希釈剤、ブドウ糖水溶液等の希釈剤とともに、公知の方法によって製造することができる。なお、必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤に再調製することもできる。さらに、必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。

【0030】
この発明のシアン解毒剤の非経口剤の他の例としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも公知の方法に従って製造できる。

【0031】
なお、この発明のシアン解毒剤は公知のDDS技術、例えば、この発明のシアン解毒剤をリポソームなどの運搬体に封入して、体内投与してもよい。この場合、標的部位の細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、この発明のシアン解毒剤を標的部位に効率よく運ぶことができる。

【0032】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されない。
【実施例1】
【0033】
1.シクロデキストリン二量体(Im3CD)の合成
この発明のシアン解毒剤の構成成分であるシクロデキストリンを合成した。具体的には、図1に示す反応経路に従って、以下の手順で合成した。
【実施例1】
【0034】
(1)mono(2,3-epoxy)-β-CDの合成
mono(2-tosyl)-β-CD(6.00g,4.65mmol)、0.05M NaOH水溶液(75mL)をナス型フラスコ(300mL)に加え、室温で24時間かき混ぜた。反応終了後、希塩酸を反応溶液に加えてpH7.0に中和し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を最少量のDMFに溶解し、アセトン(500mL)に注ぎ込んだ。生じた白色沈殿をろ取し、減圧下で乾燥した。その結果、白色固体である粗精製のmono(2,3-epoxy)-β-CDを得た。
【実施例1】
【0035】
(2)mono(2,3-epoxy)-perMe-β-CDの合成
得られた粗精製mono(2,3-epoxy)-β-CDの全量、無水DMF(275mL)及び無水THF(100mL)を、アルゴン雰囲気下、三方コック、バルーン及び還流管を取り付けた三口反応容器(1L)に加えたのち、反応系を0℃に冷却した。ヘキサンで洗浄して真空乾燥した水素化ナトリウム(8g、0.3mmol)を反応容器に加えたのち、ヨウ化メチル(17mL、0.27mmol)を滴下ロートにより反応容器に滴下した。反応系を室温に戻したのち、22時間かき混ぜた。
【実施例1】
【0036】
反応終了後、メタノール10mLを反応溶液に加えかき混ぜ、泡の発生が収まったのち、反応溶液を減圧留去により1/4程度に濃縮した。濃縮液に500mLのクロロホルムを加えて、蒸留水200mLにより3回洗浄したのち、有機層を無水硫酸ナトリウムにて脱水して、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を70℃で真空加熱乾燥したのち、湿式シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=40/1、検出試薬:アニスアルデヒド)にて精製し、白色固体のmono(2,3-epoxy)-perMe-β-CD 5.89gmgを得た(収率91%)を得た。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)及び高分解能質量分析計(HRMS)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0037】
1H NMR (δ/ppm,500MHz,CDCl3,TMS):3.23-3.16(m,7H),3.38-3.67(m,85H),3.72-3.92(m,7H),5.00-5.19(m,7H).HRMS(MALDI TOF,positive mode):1407([M+Na]+=1407),1423([M+K]+=1423).
【実施例1】
【0038】
(3)mono(3-amino-2-hydroxy)-perMe-β-CDの合成
mono(2,3-epoxy)-perMe-β-CD(3.50g,2.53mmol)及び28%アンモニア水(100mL)を、三方コック、バルーン及び還流管を取り付けた三口反応容器(500mL)に加えて、60℃で6時間かき混ぜた。反応系を室温に戻して、気化したアンモニアガスをバルーンから再び反応溶液に溶かし込んだのち、60℃で3時間かき混ぜた。
【実施例1】
【0039】
反応終了後、溶媒を減圧留去して、得られた残渣を70℃で真空加熱乾燥したのち、湿式カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=40/1にて原料を溶出後、クロロホルム/メタノール=15/1にて目的物を溶出)にて精製した。その結果、白色固体のmono(3-amino-2-hydroxy)-perMe-β-CD 2.82gを得た(収率79%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)及び高分解能質量分析計(HRMS)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0040】
1H NMR(δ/ppm,500MHz,CDCl3,TMS):3.15-3.22(m,7H),3.36-3.70(m,85H),3.72-3.86(m,7H),5.06-5.17(m,7H).HRMS(MALDI TOF,positive mode):1402([M+H]+=1402),1424([M+Na]+=1424),1440([M+K]+=1440).
【実施例1】
【0041】
(4)diethyl 3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioateの合成
diethyl pent-2-enedioate(2.43g,13.0mmol)、imidazole(0.886g,13.0mmol)をナス型フラスコ(30mL)に加え、無溶媒下、70℃で24時間かき混ぜた。反応終了後、室温に戻し、湿式シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=100/1にて原料を溶出後、クロロホルム/メタノール=20/1にて目的物を溶出、検出試薬:リンモリブデン酸)により精製した。その結果、無色の油状生成物diethyl 3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioate 2.97gを得た(収率89%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)及び高分解能質量分析計(HRMS)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0042】
1H NMR(δ/ppm,500MHz,CDCl3,TMS):1.19(t,6H),2.86(m,4H),4.10(q,4H),5.05(m,1H),6.96(s,1H),7.04(s,1H),7.56(s,1H).HRMS(FAB,positive mode):225([M+H]+=255).
【実施例1】
【0043】
(5)3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioic acidの合成
diethyl 3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioate(144mg,0.566mmol)及び1M HCl水溶液(6mL)を、加熱還流管を取り付けたナス型フラスコ(30mL)に加え、4時間加熱還流した。TLCにて原料のスポットの消失を確認したのち、溶媒を減圧留去し、70℃で真空加熱乾燥した。その結果、白色固体の3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioic acid 106mgを得た(収率95%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0044】
1H NMR(δ/ppm,500MHz,DMSO-d6,TMS):3.00(m,4H),5.03(q,1H),7.69(s,1H),7.96(s,1H),9.33(s,1H).
【実施例1】
【0045】
(6)Im3CDの合成
精製直後の3-(1H-imidazol-1-yl)pentanedioic acid(53.0,0.267mmol)、N,N'-dicyclohexylcarbodiimide(DCC,254mg,1.23mmol)、1-hydroxybenzotriazole monohydrate(HOBt・H2O,189mg,1.23mmol)、DMF(55mL)を、ナス型フラスコ(30mL)に加えて室温で30分間かき混ぜたのち、mono(3-amino-2-hydroxy)-perMe-β-CD(1.35g,961mmol)を加え、室温で18時間かき混ぜた。
【実施例1】
【0046】
反応終了後、溶媒を減圧留去して、得られた残渣を70℃で真空加熱乾燥したのち、湿式カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=20/1)によりシクロデキストリン成分を分画して粗精製物とした。粗精製物を日本分析工業社製LC9201リサイクル分取HPLCシステム(カラム:JAIGEL GS310、展開溶媒:メタノール)により精製した。その結果、白色固体化合物Im3CD 0.645gを得た(収率82%)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(1H NMR)、高分解能質量分析計(HRMS)及びゲル浸透クロマトグラフィーの測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【実施例1】
【0047】
1H NMR(δ/ppm,500MHz,CDCl3,TMS):2.88-2.97(m,2H),2.93-3.02(m,2H),3.13-3.23(m,14H),3.37-3.90(m,179H),4.14(br s,2H),4.29-4.38(m,2H),4.72-4.81(m,5H),5.05-5.19(m,13H),7.01(s,1H),7.08(d,2H),7.09(s,1H),7.66(s,1H).HRMS(MALDI TOF,positive mode):2964([M+H]+=2964),2986([M+Na]+=2986),3002([M+K]+=3002).GPC analysis(retention time):29min(single peak).
【実施例2】
【0048】
2.シアン解毒剤とシアンイオンの結合
この発明のシアン解毒剤とシアンイオンとの結合・脱離速度及び結合強度について調べた。具体的には、以下のようにして調べた。
【実施例2】
【0049】
(1)試薬等
Im3CDは実施例1で合成したものを使用した。また、hemoCDは特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に従って、発明者らが合成したものを使用した。また、FeTPPS(Frontier Scientific社製)等の試薬は、市販品をそのまま使用した。さらに、紫外可視吸収スペクトルは、分光光度計(UV-2450及びMaltiSpec-1500、島津製作所製)で測定した。
【実施例2】
【0050】
(2)シアン解毒剤等の調製
FeTPPS及びIm3CDをそれぞれのモル比が1/1.2となるようにそれぞれ電子天秤で秤量してメスフラスコに入れ、メスフラスコにリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.0、50mM)を加え、終濃度が3.0×10-6Mとなるように溶解することにより、FePIIIIm3CDを含むシアン解毒剤を調製した。また、FeTPPSとhemoCDを使用し、同様の方法により、FePIIIhemoCDを含む比較例を調製した。なお、FePIIIIm3CDの調整方法を図2に示す。
【実施例2】
【0051】
(3)シアン解毒剤等とシアンイオンとの結合速度
この発明のシアン解毒剤の結合速度を比較例と比較して調べた。具体的には、シアン解毒剤と比較例にシアン化ナトリウム(3.0x10-4M)を添加したときの紫外可視吸収スペクトルの経時変化を37℃、2分間隔で測定した。この発明のシアン解毒剤の結果を図3に示す。また、比較例の結果を図4に示す。
【実施例2】
【0052】
図3と図4から、定性的ではあるが、比較例中のFePIIIhemoCDと比べて、FePIIIIm3CDがより速やかにシアンイオンと反応し、シアン配位FePIIIIm3CD(cyano-FePIIIIm3CD)を形成することが分かった。
【実施例2】
【0053】
(4)シアンイオンの脱離速度
(3)で結合させたシアンイオンの脱離速度について調べた。具体的には、(3)でシアンイオンと結合させたシアン配位FePIIIIm3CD(cyano-FePIIIIm3CD)を含む水溶液とcyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液に、還元剤である亜ジチオン酸ナトリウムの結晶を加えてかき混ぜたのち、その紫外可視吸収スペクトルの経時変化を37℃、2分間隔で測定し、それぞれFePIIIm3CDを含む水溶液、FePIIhemoCDを含む水溶液の紫外可視吸収スペクトルと比較した。その結果について、以下に説明する。
【実施例2】
【0054】
図5はcyano-FePIIIIm3CDを含む水溶液に亜ジチオン酸ナトリウムを添加した直後の結果を示しており、(a)は(3)のcyano-FePIIIIm3CDを含む水溶液、(b)は(a)に亜ジチオン酸ナトリウムを加えた水溶液、(c)はFePIIIm3CDを含む水溶液の紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ示している。この図から(b)と(c)とがよく一致しておいることが分かった。また、図示していないが、(b)の紫外可視吸収スペクトルは経時変化を示さなかった。これらの結果から、鉄(III)から鉄(II)への還元に伴って、FePIIIm3CDからシアンイオンは迅速に脱離することが分かった。
【実施例2】
【0055】
一方、図6は、cyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液に亜ジチオン酸ナトリウムを添加した直後の結果を示しており、(a)はcyano-FePIIIhemoCDを含む水溶液、(b)は(a)に亜ジチオン酸ナトリウムを加えた水溶液の紫外可視吸収スペクトルを示している。この図から、鉄(III)から鉄(II)への還元に伴って、紫外可視吸収スペクトルのピークがづれていることが分かった。
【実施例2】
【0056】
また、図6(b)の紫外可視吸収スペクトルの経時変化について調べた結果を図7に示す。この図に示すように、極大吸収波長が、431nmから432nmへと変化し、その吸光度が減少していることが分かった。
【実施例2】
【0057】
さらに、(a)経時変化の最終産物と(b)FePIIhemoCDとの紫外可視吸収スペクトルを比較した結果を図8に示す。この図に示すように、両者がよく一致していることが分かった。
【実施例2】
【0058】
図6から図8の結果から、cyano-FePIIhemoCDに亜ジチオン酸ナトリウムを添加すると、図6(b)の紫外可視吸収スペクトルを有する何らかの中間体を経て、シアンイオンが脱離したFePIIhemoCDを生成することが分かった。
【実施例2】
【0059】
なお、鉄(III)シアン配位ミオグロビン(cyano-FePIIIMb)に亜ジチオン酸ナトリウムを添加すると、鉄(II)シアン配位ミオグロビン(cyano-FePIIMb)中間体を経て、鉄(II) Mb(FePIIMb)を生成することが既に報告されていることを考慮するれば、前記中間体は鉄(II)cyano-hemoCD(cyano-FePIIhemoCD)に由来すると推測できる。
【実施例2】
【0060】
以上の結果から、鉄(III)の鉄(II)への還元に伴って、cyano-FePIIIIm3CDからのシアンイオンの脱離は、cyano-FePIIIhemoCDのそれと比べて、速やかに起こることが分かった。これは、hemoCDとIm3CDのシクロデキストリンの包接状態、及び鉄に配位するピリジン基とイミダゾール基の柔軟性の差異に起因すると考えられる。
【実施例2】
【0061】
(5)シアン解毒剤等とシアンイオンとの結合強度
シアン解毒剤等とシアンイオンとの結合強度について調べた。具体的には、次のようにして調べた。まず、リン酸緩衝水溶液(pH7.0,50mM)中のFePIIIIm3CD(5.0x10-6M)を、シアン化ナトリウム水溶液で滴定して、その紫外可視吸収スペクトルの変化を37℃で測定した(図9(a))。
【実施例2】
【0062】
つぎに、398nmと425nmにおける吸光度変化をシアン濃度に対してプロットし(図9(b))、1:1の結合の理論式に当て嵌め、結合定数を算出した。その結果、結合定数K=(2.61±0.34)x106M-1を得た。
【実施例2】
【0063】
また、同じ条件の下で、FePIIIHbをシアン化ナトリウム水溶液で滴定して、その紫外可視吸収スペクトルの変化を37℃で測定した(図10)。そして、得られたスペクトルの変化から、同様にして結合定数を算出した。その結果、結合定数K=(8.14±0.37)x105M-1を得た。すなわち、FePIIIHbと比べ、FePIIIIm3CDのシアンに対する結合能は約3.2倍強いことが分かった。これはFePIIIIm3CDのシアン解毒剤としての有用性を示唆している。
【実施例3】
【0064】
3.ラット体内におけるFePIIIIm3CDの薬物動態
FePIIIIm3CDが生体内でシアン解毒剤として機能するには、鉄(III)の状態を保つ必要があると考えられる。そのため、生体内でのFePIIIIm3CDの存在状態を知ることは非常に重要である。そこで、ラットを使用してFePIIIIm3CDの体内での存在状態を調べた。具体的には次のようにして調べた。
【実施例3】
【0065】
(1)試薬等
試薬等は実施例1及び実施例2で使用したものを使用した。また、ラットは、Wister系雄性ラット(290g、清水実験材料より入手)を使用した。また、シアン解毒剤は終濃度が1.0mMとなることを除き、実施例2と同様にして調製した。
【実施例3】
【0066】
(2)シアン解毒剤の実験動物(ラット)への投与と尿への排出
ラットをウレタン麻酔で眠らせたのち、その大腿部を剥離した。その後、大腿静脈からシリンジポンプを使用して一定の速度(1.0mL/h、60min)でシアン解毒剤を投与した。投与開始から0分後、30分後、60分後、90分後に膀胱部から尿を採取し、尿の紫外可視吸収スペクトルを37℃で測定した。その結果を図11に示す。
【実施例3】
【0067】
なお、図11中の(a)は0分後、(b)は30分後、(c)は60分後、(d)は90分後の紫外可視吸収スペクトルである。この図から、シアン解毒剤(FePIIIIm3CD)は、投与開始30分後から、尿中に排出されていることが確認できた。
【実施例3】
【0068】
(3)尿中におけるシアン解毒剤の状態
排出されていた尿に含まれているシアン解毒剤中の鉄イオン(Fe)の状態を調べた。一酸化炭素は、鉄イオン(II)とは配位して吸収スペクトル変化を引き起こすが、鉄(III)とは反応しないことが既に知られている。そこで、(2)で得られた尿にCOガスを導入して紫外可視吸収スペクトルの変化を調べた。その結果を図12、図13、図14に示す。
【実施例3】
【0069】
なお、図12は30分後に採取した尿、図13は60分後に採取した尿、図14は90分後に採取した尿を使用した場合の紫外可視吸収スペクトルを示している。また、図中の(a)は尿サンプルの紫外可視吸収スペクトル、(b)はCOガスを導入した尿サンプルの紫外可視吸収スペクトルを示している。
【実施例3】
【0070】
これらの図から、投与したシアン解毒剤とCOが一部反応していることが分かった。これは、投与したシアン解毒剤の鉄イオン(III)の一部が鉄イオン(II)に還元されている可能性を示している。
【実施例3】
【0071】
そこで、鉄イオン(III)が還元されている可能性について調べた。具体的には、COガスを導入した尿サンプル(図14(b))に還元剤である亜ジチオン酸ナトリウムの結晶を加えてかき混ぜ、この紫外可視吸収スペクトル(c)を、(a)尿サンプルの紫外可視吸収スペクトル、(b)(a)にCOガスを導入した尿サンプルの紫外可視吸収スペクトルと比較した。その結果を図15に示す。
【実施例3】
【0072】
図15から、(b)尿サンプルにCOガスを導入することによる変化量は、(c)亜ジチオン酸ナトリウムにより全ての鉄イオンを還元型鉄イオン(II)に還元することによるスペクトルの変化量と比べて、限定的であることが分かった。このことから、尿中に排出されたシアン解毒剤に含まれる鉄イオンの大部分は、酸化型鉄イオン(III)として存在することが分かった。
【実施例3】
【0073】
また、この発明のシアン解毒剤が尿中に排出されていることは別の方法で確認した。具体的には、尿中のFePIIIIm3CDのシクロデキストリン部分をクロロホルムにより抽出し、高分解能質量分析計(HRMS)により質量分析した(MALDI TOF,positive mode,matrix:α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)。その結果、図17に示すように、シクロデキストリン二量体(Im3CD)と一致する質量数が得られた。この結果から、尿中へのシアン解毒剤の移行が確認できた。
【実施例4】
【0074】
4.シアン解毒剤のシアン解毒効果
この発明のシアン解毒剤のシアン解毒効果を、実験動物(ラット)にシアン化合物を投与して調べた。具体的には、次のようにして調べた。
【実施例4】
【0075】
(1)試薬等
試薬等は実施例1~実施例3で使用したものを使用した。また、シアン解毒剤は、FeIIITPPS及びIm3CDをそれぞれの終濃度が18.1mM及び21.7mMとなるようにPBSに溶解したのち、適量のHCl水溶液によりpH7.4に調整したものを使用した。さらに、シアン化ナトリウム水溶液は、シアン化ナトリウムを終濃度が13.6mMとなるようにPBSに溶解したのち、ドラフトチャンバー内において、適量のHCl水溶液を使用してpH7.4に調製したものを使用した。なお、ラットはWister系雄性ラット(270g、清水実験材料より入手)を使用した。
【実施例4】
【0076】
(2)動物実験
(a) シアン解毒剤を前投与した場合
ウレタン麻酔(1000mg/kg,腹腔内投与)したラットの左大腿静脈から、ヘパリン処理した留置針、カニューレ及び輸液ポンプを使用して、シアン解毒剤(1.5mL)を投与した(9mL/h,10min)。シアン解毒剤の投与中、ラットに大きな変化は見られなかった。
【実施例4】
【0077】
シアン解毒剤の投与終了直後、同様の方法によって、左大腿静脈からシアン化ナトリウム水溶液(1.0mL)を投与した(6mL/h,10min)。投与開始7分後、ラットが1回痙攣した。投与開始8分後、ラットの呼吸が早まった。投与終了間際、1回痙攣した。投与終了3分後、ラットの呼吸が弱った。投与終了6分後、ラットの呼吸は投与前の状態に戻りつつあった。投与終了35分後、ラットの呼吸が投与前の状態に戻った。シアン解毒剤の投与開始から3時間後、ラットの尿道より黒色の液体が排出した。
【実施例4】
【0078】
シアン解毒剤の投与開始から3時間30分後、ラットの腹膜を切開し、留置針、カニューレ及びシリンジを使用して、膀胱内の尿を回収した。膀胱内を生理食塩水にて洗浄し、その洗液も尿と併せて回収した。シアン化ナトリウム水溶液の投与終了から4時間後、腹部大動脈を切断して、ラットを安楽死させた。
【実施例4】
【0079】
(b)シアン解毒剤を投与しない場合(実験対照)
ウレタン麻酔(1000mg/kg,腹腔内投与)したラットの左大腿静脈から、ヘパリン処理した留置針、カニューレ及び輸液ポンプを使用して、シアン化ナトリウム水溶液(1.0mL)を投与した(6mL/h,10min)。
【実施例4】
【0080】
投与開始2分後、ラットの呼吸が早まった。投与開始5分後、ラットの呼吸が弱まり1回痙攣した。投与開始7分後、ラットの呼吸が遅くなり、より弱まった。投与開始8分後、呼吸が不規則になり、1回痙攣した。投与終了2分後、ラットの呼吸が停止したので、腹部大動脈を切断し、ラットを安楽死させた。
【実施例4】
【0081】
以上の結果から、本願発明のシアン解毒剤を投与しておけば、シアン化ナトリウムが投与されても、呼吸困難が一時的に生じることはあるものの、呼吸が回復し、生命が絶たれるなどの重大な被害は生じないことが確認できた。
【実施例4】
【0082】
なお、この実験におけるシアン化ナトリウムの投与量は、ラット体重あたり0.050mmol/kg(1.23mg/kg)である。これは、文献に報告されている静脈内投与による半数致死量(LD50)の2倍量に相当する(Ballantyne,B; In Clinical and Experimental Toxicology of Cyanides; Ballantyne, B; Marrs, T. C., Eds.; Toxicology of Cyanide; IOP Publishing Ltd.; Bristol, U. K.; 1987; pp 41-126.)。また、投与したシアン解毒剤に含まれるFePIIIIm3CDは、ラット体重あたり0.10mmol/kgであり、これは投与したシアン化ナトリウムのモル量の2倍に相当する。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15