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明細書 :米粉パン類生地の製パン性向上方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5540347号 (P5540347)
公開番号 特開2011-062096 (P2011-062096A)
登録日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発行日 平成26年7月2日(2014.7.2)
公開日 平成23年3月31日(2011.3.31)
発明の名称または考案の名称 米粉パン類生地の製パン性向上方法
国際特許分類 A21D   2/24        (2006.01)
A21D  13/00        (2006.01)
A21D  10/00        (2006.01)
A21D   6/00        (2006.01)
FI A21D 2/24
A21D 13/00
A21D 10/00
A21D 6/00
請求項の数または発明の数 10
全頁数 18
出願番号 特願2009-213373 (P2009-213373)
出願日 平成21年9月15日(2009.9.15)
審査請求日 平成24年3月26日(2012.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】矢野 裕之
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 特開2004-208561(JP,A)
特公昭61-023971(JP,B1)
特開平02-273137(JP,A)
特開2009-022306(JP,A)
特開2004-008007(JP,A)
竹谷 光司 編,新しい製パン基礎知識(改訂版),(株)パンニュース社,2002年 6月 6日,第18版,p.45-46
Journal of Cereal Science, 2009 July, Vol.50, No.1, p.1-10
調査した分野 A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
グルタチオンを含有する、小麦粉もグルテンも含まない米粉パン類用の生地改良剤。
【請求項2】
グルタチオンが酵母エキス由来のものである、請求項1に記載の生地改良剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生地改良剤、米粉、酵母及び水を含み、かつ小麦粉もグルテンも含まない原料をミキシングして得られる、小麦粉もグルテンも含まないパン類生地。
【請求項4】
グルタチオンの含有量が米粉の含有量の0.05質量%~5.0質量%である、請求項3に記載のパン類生地。
【請求項5】
食塩の含有量が米粉の含有量の0.4質量%以下である、請求項3又は4に記載のパン類生地。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載のパン類生地を発酵させ、焼成することを含む、小麦粉もグルテンも含まない米粉パン類の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により製造される、小麦粉もグルテンも含まない米粉パン類。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の生地改良剤及び米粉を含み、かつ小麦粉もグルテンも含まない、小麦粉もグルテンも含まない米粉パン類生地製造用のミックス粉。
【請求項9】
グルタチオンの含有量が米粉の含有量の0.05質量%~5.0質量%である、請求項8に記載のミックス粉。
【請求項10】
食塩の含有量が米粉の含有量の0.4質量%以下である、請求項8又は9に記載のミックス粉。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉を主原料とするパン類生地の製パン性向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米粉の消費拡大を目的として米粉パンの開発が奨励されている。一方、小麦粉パンに含まれるグルテン(小麦グルテン)は小麦アレルギーの原因となることが知られているため、小麦粉の代替品として米粉を使用した米粉パンはアレルギー患者向け食品としても注目を集めている。
【0003】
小麦グルテンは、ふっくらと膨らんだパンを製造する上で重要な成分である。一般的な小麦粉パンの製造においては、小麦粉に水と砂糖などの糖質を加えて練り合わせることにより、小麦粉に含まれるタンパク質グリアジンとグルテニンから粘り気と弾力性に富む「グルテン」が生成され、これがパン生地の伸張性及び弾力性を高めることで、発酵・焼成後の小麦粉パンが良好な膨らみや柔らかさを有するようになることが知られている。
【0004】
しかし米粉のみを主原料とするパン生地では生地をミキシング(混捏)してもグルテンが生成しない。このため小麦粉パンと同じパン製造法では、米粉パンは十分に膨らまず、いわゆる「パン」を製造できない。そこで市販の米粉パンや米粉パン製造用の市販米粉のほとんどには、小麦粉や小麦グルテンが配合されている。しかしそのような製品は小麦グルテンを含むため、小麦アレルギー患者は摂取できない。
【0005】
グルテンフリーの米粉パンを製造する技術の開発も進められている。例えば、プラスチック発泡成形技術を利用した製パン方法(特許文献1)、α化米粉やα化澱粉を配合した生地を用いる方法(特許文献2及び3等)、増粘多糖類を添加する方法(特許文献4等)、粉体化・ミキシング技術を利用した製パン方法(特許文献5)などがある。しかし、これらの方法で製造した米粉パンは、小麦粉パンや、グルテン添加して製造した米粉パンに比べてふんわり感、柔らかさなどの点で品質が著しく劣るという問題がある。
【0006】
ところで、近年、生体内の酸化還元機能に深く関与するグルタチオンが肝機能回復作用、解毒作用、細胞老化防止作用などの機能性を有する成分として注目され、サプリメント等の機能性食品としても人気を集めている。グルタチオンは牛レバー、ホウレンソウ、ブロッコリー、酵母などに多く含まれる。還元型グルタチオンは、小麦粉パンに配合すると小麦グルテンに作用して小麦粉パンの品質を向上させることも知られている(非特許文献1)。しかしグルタチオンの食品添加成分としての効果はまだ十分に研究されていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2003-189786号公報
【特許文献2】特開2006-174822号公報
【特許文献3】特開2007-215401号公報
【特許文献4】特開2005-245409号公報
【特許文献5】特開2006-006200号公報
【0008】

【非特許文献1】「添加剤による小麦ドウの物性改良効果:アスコルビン酸およびグルタチオンの効果」三重大学生物資源紀要19号:P.21-27(1997年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、米粉を主原料とするパン類生地の製パン性改良方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、米粉を主原料とするパン類生地にグルタチオンを含有させて発酵、焼成することにより、良好な品質の米粉パン類を製造でき、すなわち米粉パン類生地の製パン性を大きく向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] グルタチオンを含有する、米粉パン類用の生地改良剤。
この生地改良剤において、グルタチオンは酵母エキス由来のものであってもよい。
[2] 上記[1]に記載の生地改良剤、米粉、酵母及び水を含む原料をミキシングして得られる、パン類生地。
このパン類生地は、小麦粉及びグルテンを含まないことが好ましい。このパン類生地はまた、食塩の含有量が米粉の含有量の0.4質量%以下であることが好ましい。
[3] 上記[2]のパン類生地を発酵させ、焼成することを含む、米粉パン類の製造方法。
[4] 上記[3]の方法により製造される、米粉パン類。
[5] 上記[1]の生地改良剤及び米粉を含む、米粉パン類生地製造用のミックス粉。
このミックス粉は、小麦粉及びグルテンを含まないことが好ましい。このミックス粉はまた、食塩の含有量が米粉の含有量の0.4質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生地改良剤及びそれを用いた米粉パン類製造方法を用いれば、主原料の穀粉として米粉を含むパン類生地の製パン性を、グルテンを添加することなしに大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は還元型グルタチオン(GSH)を異なる量で添加した米粉パンの膨張率を示す図である。
【図2】図2は還元型グルタチオン(GSH)を添加した米粉パンの釜(パンケース)内での膨らみを示す写真である。グルタチオン無添加の場合の発酵時のドウ(図2A)と焼成後のパン(図2B)、グルタチオンを添加した場合の発酵時のドウ(図2C)と焼成後のパン(図2D)を示している。
【図3】図3は、一晩放置を行わずに製パンした場合の、還元型グルタチオン(GSH)を異なる量で添加した米粉パンの膨張率を示す図である。
【図4】図4は酸化型グルタチオン(GSSG)又は還元型グルタチオン(GSH)を異なる量で添加した米粉パンの膨張率を示す図である。
【図5】図5は酸化型グルタチオン(GSSG)と還元型グルタチオン(GSH)を異なる配合比で添加した米粉パンの膨張率を示す図である。
【図6】図6は酸化型グルタチオン(GSSG)と還元型グルタチオン(GSH)を異なる配合比で添加した米粉パンの断面の写真である。図6Aは米粉パンの断面の写真である。各パンのGSSG:GSH比は、写真の上側の左から右へ、次いで下側の左から右への順で、100:0、83:17、50:50、17:83、0:100(%)である。図6BはGSSG:GSH=100:0(%)で配合した米粉パン、図6CはGSSG:GSH=0:100(%)で配合した米粉パンの断面について気泡の状態を拡大して示した写真である。
【図7】図7は食塩の添加量の違いがグルタチオンを添加した米粉パンの膨張率に与える影響を示す図である。
【図8】図8は米粉と水を異なる比率で配合した際の米粉パンの膨張率を示す図である。
【図9】図9は米粉にグルタチオン及び水を添加した後の浸漬時間の違いの影響を示す図である。図9Aは米粉に水及びグルタチオンを加えて攪拌し一晩放置後、ミキシング、発酵及び焼成したパンの断面の写真である。図9Bは米粉に水及びグルタチオンを加えて攪拌し二晩放置後、ミキシング、発酵及び焼成したパンの断面の写真である。図9A及びB中、左上から時計回りに、それぞれグルタチオンを0g(無添加)、0.1g、0.5g、0.2g添加したパンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、グルタチオンを含有する米粉パン類用の生地改良剤及びその生地改良剤を用いた良質な米粉パン類の製造方法を提供する。

【0015】
本発明では、グルタチオンを米粉パン類用の生地改良剤の有効成分として用いて、米粉を主原料とするパン類の膨張性及び柔軟性を改良することができる。本発明では、グルタチオンそのもの、又はグルタチオンを含む組成物を、米粉パン類用の生地改良剤として用いることができる。本発明に係る生地改良剤は、賦形剤、保存剤、酵母培養液成分等の他の成分を含んでもよい。本発明に係る生地改良剤の形態は特に限定されず、粉末状、顆粒状、固体状、液状、ペースト状、乳液状、マイクロカプセル封入形態等の任意の形状であってよい。

【0016】
本発明に係る米粉パン類用の生地改良剤に含まれるグルタチオンは、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、又はそれらの混合物であってよい。還元型グルタチオン(GSH)は化学式C10H17N3SO6で表されるトリペプチド(γ-L-グルタミル-L-システイニルグリシン)である。酸化型グルタチオン(GSSG)は2分子の還元型グルタチオンがシステイン残基でジスルフィド結合したものである。グルタチオンは、種々の公知の製法により製造することができる。還元型グルタチオンの製造方法としては、例えば酵母からの高濃度抽出法(例えば、特開平5-252894号公報)、酸化型グルタチオンの還元(例えば、特開2007-277109、特開2007-254325、特開2007-254324:興人)、酵母変異体を用いるもの(特開2006-42637、特開2006-42638、特開平6-70752:アサヒビール)、培養した海洋性微細藻類からの抽出法(特開平9-292:川崎製鉄)等が知られている。酸化型グルタチオンの製造方法としては、還元型グルタチオンを酸化型グルタチオンに変換する方法(例えば、特開平7-177896号公報)、酸化型グルタチオン高含有酵母を用いる方法(例えば、特開2003-284547号公報、特開2004-283125号公報)等が知られている。グルタチオンは、グルタチオンを多く含む生物、例えば酵母の抽出物(酵母エキス)に由来するものを用いてもよい。グルタチオンは、市販品を購入して用いることもできる。

【0017】
本発明に係るグルタチオンを含有する米粉パン類用の生地改良剤として、グルタチオンを含む酵母エキス(酵母抽出物)又はそれを含む組成物を用いてもよい。本発明に係る生地改良剤の調製に用いられる酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロミセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロミセス・デルブルエッキ(Saccharomyces delbrueckii)、サッカロミセス・ダイレンシス(Saccharomyces dairensis)、サッカロミセス・ダイアタチクス(Saccharomyces diataticus)、サッカロミセス・エキグース(Saccharomyces exiguus)、サッカロミセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、サッカロミセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)またはサッカロミセス・ウバラム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ローセイ(Saccharomyces rosei)、サッカロミセス・ローキシ(Saccharomyces rouxii)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロミセス属に属する酵母、キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ミレリ(Candida milleri)、キャンディダ・クルーセイ(Candida krusei)、キャンディダ・ルシターニュ(Candida lusitaniae)等のキャンディダ(Candida)属に属する酵母、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbrueckii)等のトルラスポラ(Torulaspora)属に属する酵母、トルロプシス・セルクローサ(Torulopsis celluculosa)、トルロプシス・キャンディダ(Torulopsis candida)等のトルロプシス(Torulopsis)属に属する酵母、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クリベロマイセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)等のクルイベロミセス属(Kluyveromyces)に属する酵母、ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピヒア・ステイピティス(Pichia stipitis)、ピヒア・アノマラ(Pichia anomala)、ピヒア・サイトイ(Pichia saitoi)等のピヒア(Pichia)属に属する酵母、ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)等のハンゼヌラ(Hansenula)属に属する酵母、デバリオマイセス・ハンセニイ(Debariomyces hansenii)等のデバリオマイセス(Debariomyces)属に属する酵母、チゴサッカロマイセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)等のチゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属に属する酵母等が挙げられる。これらの酵母は単独または組み合わせて用いることができる。グルタチオンを含む上記グルタチオン産生酵母又はその乾燥物を、生地改良剤を含む製パン用酵母(生イースト又はドライイースト)として用いてもよい。かかる生地改良剤を含む製パン用酵母を用いれば、本発明にかかる生地改良剤と製パン用酵母とを一緒にパン生地に添加することもできる。

【0018】
本発明に係る米粉パン類用の生地改良剤に用いるグルタチオンとして、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの混合物を用いることにより、米粉を主原料とするパン類の膨張性及び柔軟性を、所望の程度に調整することもできる。還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの混合比は、還元型グルタチオン:酸化型グルタチオン=0%:100%~100%:0%の範囲で適宜調節すればよく、還元型グルタチオンの割合が増加するほどパン類の食感を柔らかく仕上げることができる。例えば、食パン等の柔らかい食感が好まれるパン類ではきめ細かくより柔らかい食感とするために還元型グルタチオンの割合(グルタチオンの合計添加量に対するパーセント)を55%以上、好ましくは75%以上とすることができる。一方、フランスパン等のある程度硬い食感が好まれるパン類ではきめの粗さを出ししっかりとした食感を出すために酸化型グルタチオンの割合(グルタチオンの合計添加量に対するパーセント)を55%以上、好ましくは75%以上とすることができる。

【0019】
本発明において、「米粉パン類」とは、米粉を主原料の原料穀粉とした生地を用いて製造されるパン類をいう。本発明において「パン類」は、主原料として穀粉(本発明では、穀類の種子の粉砕物をいう)、水、酵母を含み、必要に応じて副原料(例えば、砂糖などの糖類、油脂類、乳製品、卵、野菜・果実等の他の食材、保存料、着色料等)を含む原料から調製された生地を発酵させ、必要があれば成形したり他の食材を包み込んだり載せたりした後、焼成して得られる食品をいう。本発明でいう「パン類」は、食パン、菓子パン、調理パン又はその他のパンであってもよいし、一般にパン生地の焼成によって製造される他の食品であってもよい。本発明における「パン類」には、限定するものではないが、例えば、食パン(イギリスパン)、イタリアパン、フランスパン、ロールパン、デニッシュ、クロワッサン、フォッカッチャ、ピロシキ、サワードゥー、バゲット、ブール、バタール、エピ、クーペ、パン・ド・ミー、パン・ド・カンパーニュ、リュスティック、パン・オー・ルヴァン、クルミパン、ブリオッシュ、パン・オ・レザン、サヴァラン、クイニーアマン、ブレーツェル、ホルン、シュトレン、グリッシーニ、パネットーネ、シナモンロール、コーンブレッド、ポーローパーウ、コッペパン等、ピザ、ナン、ワッフル、ベーグル、乾パン、コロネ、ピタパン等が挙げられる。

【0020】
本発明は、上記のような本発明に係る生地改良剤及び米粉を含むパン類生地も提供する。本発明によれば、グルタチオンを含有する米粉パン類用の生地改良剤を生地に配合することにより、米粉パン類生地の製パン性を向上させることができる。

【0021】
本発明において「米粉パン類生地」とは、米粉パン類の焼成前の生地をいう。パン類生地は、一般に「ドウ」とも呼ばれる。本発明において「米粉」としては、うるち米又はもち米の生米を粉砕して粉末化したものを用いることができる。米粉の原料となる生米は特に限定されず、任意のコメ品種及び系統並びにそれらの改良種及び変異種等を用いることができる。市販の米粉には、原料及び加工法により、上新粉、玄米粉、白玉粉等があるが、本発明では、ロール粉砕、胴搗き粉砕、気流粉砕、衝撃粉砕、せん断粉砕など、既存のあらゆる粉砕法で製粉された米粉を原料に用いることができる。米粉は、グルテンが配合されていないものを用いることがより好ましい。本発明では、米粉はα化されたものである必要がなく、パン類製造工程を簡便なものにするためにはα化していない米粉を用いることが好ましい。

【0022】
本発明に係る「米粉パン類生地」は、グルタチオンを含有する米粉パン類用の生地改良剤、米粉、水及び酵母を少なくとも含む原料から調製できる。好ましくは、本発明に係る「米粉パン類生地」は、本発明に係る生地改良剤、米粉、酵母及び水、並びに必要に応じて副原料を含むパン原料をミキシングして得られるものである。

【0023】
本発明に係る米粉パン類生地において、米粉と水の配合比は、米粉を用いたパン類を製造する際の通常の配合量に従えばよいが、通常は、水の添加量を、米粉の添加量の70~120質量%、より好ましくは75%~115%とすることができる。

【0024】
本発明に係る米粉パン類生地における米粉パン類用の生地改良剤の添加量は、それに含まれるグルタチオンの濃度に基づいて定めればよい。具体的には、本発明に係る米粉パン類生地へのグルタチオンの添加量が、米粉の添加量の0.05質量%以上、例えば0.05質量%~5.0質量%、より好ましくは0.1質量%~2.0質量%、さらに好ましくは0.2質量%~1.0質量%となる量で、本発明に係る生地改良剤を添加すればよい。

【0025】
本発明に係る米粉パン類生地に配合する酵母としては、パン類を製造するのに使用される任意の酵母(例えば、上記で生地改良剤の調製に用いられる酵母として挙げたもの)を使用することができるが、典型的にはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。酵母の添加量は、当業者であれば適宜定めることができるが、通常は乾燥重量で生地原材料の合計量の0.5~5質量%となる量を添加すればよい。

【0026】
本発明に係る米粉パン類生地は、さらに他のパン原料を含んでもよい。他の原料としては、パン類製造に用いられる副原料、例えば、糖類(砂糖、ぶどう糖、果糖(蜂蜜など)、麦芽糖、トレハロース等)、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター等)、乳製品(牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、練乳等)、卵、パン類に含める他の食材(ナッツ類、レーズン類、果実、野菜、コーン等の豆類、魚・肉類、クリーム、あんこ、チーズ、マヨネーズ等)、保存料、着色料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0027】
本発明に係る米粉パン類生地への糖類(例えば砂糖など)の添加量は、限定するものではないが、例えば米粉の含有量の0質量%~30質量%であってよく、1~20質量%であることも好ましく、3~7質量%であることもさらに好ましい。本発明では、食塩の添加量が後述のように米粉の含有量の0.4質量%以下、例えば0.35質量%以下又は0.25質量%以下又は0.15質量%以下又は0.1質量%以下である場合にも、このように比較的少ない添加量の糖類を用いて良好に製パンできる。また、本発明にかかるパン類生地の製造において2つのミキシング工程を用いる場合、糖類は、最初から米粉に加えても良いし、酵母と共に生地に加えてもよい。

【0028】
本発明に係る米粉パン類生地は、小麦粉や小麦グルテンを配合しなくても良好な品質のパン類を製造することができるため、小麦アレルギー患者の摂取に適している。このため本発明に係る米粉パン類生地は、米粉以外の穀粉、特に小麦粉を含まないことが好ましく、グルテン(典型的には小麦グルテン)を含まないことも好ましい。本発明に係る米粉パン類生地は、例えば小麦アレルギー患者用パン類の製造用には、原料穀粉として米粉のみを含むことがさらに好ましい。

【0029】
従来の米粉パン類生地には、膨張性を改善するため、α化米粉、α化澱粉(タピオカ粉、コーンスターチ、葛澱粉、馬鈴薯澱粉等)、増粘多糖類(グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン等)などが添加されている。しかし本発明に係る米粉パン類生地は、これらの添加剤を配合しなくても良好な品質のパン類を製造することができる。従って好ましい一つの実施形態では、本発明に係る米粉パン類生地はα化米粉、α化澱粉、増粘多糖類を配合せずに製造されたものである。

【0030】
本発明に係る「米粉パン類生地」は、食塩(塩化ナトリウム)を含まない(0g)か又は米粉の含有量の0.4質量%以下(米粉100gに対し0.4g以下)、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下、特に0.1質量%以下しか含まないことが好ましい。従来のパン製造では食塩は塩味の付与に加えてパン酵母の発酵促進やパン生地の伸張性の増大といった効果を有するとされ、米粉パンでも米粉100gに対し1~2g程度の食塩を添加するのが通常である。しかし本発明に係る「米粉パン類生地」は食塩を配合しないか又はかなり減量してもパン類生地の伸張性を高めることができる。食塩(塩化ナトリウム)の含有量を米粉の含有量の0.4質量%以下、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下、特に0.1質量%以下とした本発明に係る「米粉パン類生地」を用いれば、一般的なパン類と比較して大幅に減塩したパン類を製造することができる。

【0031】
本発明に係る「米粉パン類生地」は、米粉、水、本発明に係るグルタチオンを含有する生地改良剤及び酵母、並びに必要に応じて他の副原料を、一以上の工程により、混ぜ、そしてミキシングすることにより製造することができる。食品加工分野において「ミキシング」とは、粉体、液体及び必要に応じその他の原料の混合物をその成分を均一に分散させるように練ることをいう。食品加工分野では「ミキシング(mixing)」は、「混捏」又は「捏ね上げ(kneading)」とも呼ばれる。本発明においてミキシングは、例えばミキシング装置やホームベーカリー等の攪拌機能により行うこともできるし、手で行うこともできる。本発明に係る「米粉パン類生地」は、米粉、水等の液体、及びその他の生地の原料、例えば本発明に係るグルタチオンを含有する生地改良剤、酵母、糖類などを一度に混ぜ、それをミキシングすることにより調製してもよい。あるいは本発明に係る「米粉パン類生地」は、2以上のミキシング工程を含む方法で製造してもよい。例えば、米粉と水等の液体と他の原料、例えば本発明に係るグルタチオンを含有する生地改良剤を混ぜ、ミキシングした後、さらに酵母を含む他の生地の原料を混ぜ、ミキシングすることにより、本発明に係る米粉パン類生地を調製することもできる。ミキシングは、製パンにおいてミキシングに用いられる通常の温度で行えばよく、特に制限するものではないが、一般的には15℃~32℃程度、好ましくは18~30℃で行えばよい。ミキシングは当業者に公知の通常のミキシング時間、例えばミキシング工程1回につき3分~40分程度で行うことができるが、好ましくはミキシング工程1回につき10~30分程度行えばよい。

【0032】
本発明に係る米粉パン類生地の製造においては、本発明に係る生地改良剤、米粉、及び水等を含む生地原料を混ぜ合わせ、ミキシングした後、そのパン生地に酵母、及び必要に応じて糖類などの他の原料を添加する前に、一定時間放置して十分な浸漬時間を置くことがより好ましい。この場合、本発明に係る生地改良剤、米粉、及び水等を混合してから酵母及び糖類を添加するまで、生地を、おおむね室温(15~30℃)で20分以上、通常は二晩以下、より好ましくは4~24時間、さらに好ましくは一晩(7~18時間、例えば12時間)置けばよい。これにより、米粉を水に十分に浸漬させることができる。浸漬時間をより長くすると、製パン性(パン類の膨らみ、きめの細かさ等)をより大きく向上させることができる。浸漬時間経過後、生地に酵母、及び必要に応じて糖類(砂糖など)等の他の原料を添加してミキシングすることにより、より安定した膨張性を示す高品質な米粉パン類生地を調製することができる。

【0033】
上記のようにして米粉、水、本発明に係るグルタチオンを含有する生地改良剤、酵母、及び必要に応じて他の副原料を含む原料からミキシングにより調製したパン類生地は、酵母添加後、パン類の製造に用いられる任意の方法で発酵させることができる。例えばそのようなパン類生地は、発酵に適した温度(好ましくは25~32℃)下に通常は15分~4時間程度(より一般的には20分~2時間程度)置くことにより、発酵を開始させてもよい。本発明において、パン類生地の発酵は、ミキシング工程中に開始させてもよい。一般的なパンの製造工程に従い、前記のように好ましくは比較的低温である程度発酵が進んだ段階(一次発酵;フロアタイムとも呼ぶ)の後、さらに4℃~42℃(より好ましくは25~42℃)で通常は15分~40時間程度(より一般的には20分~2時間程度)にわたり発酵(ホイロと呼ばれる最終発酵)させて発酵工程を終了させることも好ましい。発酵工程においては、一次発酵段階後に生地を一定量ずつ分割し、分割した生地を丸め、湿度及び温度を保った状態でベンチタイムを取って生地を休ませることで伸展性を回復させた後、生地をパン類の形状(例えば、棒状、ロール状等)に成形したりクリーム等の食材を中に入れたりした後、それをさらに最終発酵させて発酵工程を完了させることも好ましい。本発明に係る米粉パン類生地はまた、最初に生地を成形して又はパン類成形用の型に入れて発酵工程を開始することにより、最終発酵の完了まで中断なしで発酵工程を行うこともできる。本発明において発酵工程は、冷蔵庫で二晩保温する低温発酵等の他の様々な公知のパン類発酵手法を用いて行うこともできる。

【0034】
本発明では、本発明に係るグルタチオンを含有する生地改良剤、米粉、水、酵母、及び必要に応じて他の副原料を含む原料を、公知の様々なパン類製造方法に用いることにより、高品質な米粉パン類を製造することができる。例えば、日本で一般的な製パン法である、ストレート法、中種法、液種法、シトギ法等を用いることができる。本発明では、いわゆる中種法に従い、最初に本発明に係る生地改良剤、米粉の一部、酵母及び水を捏ね上げた中種を調製し、その一次発酵後に残りの米粉を含む追加の原料を添加しさらにミキシングしてそれを最終発酵させてもよい。あるいは本発明では、ストレート法に従い、本発明に係る生地改良剤、米粉、酵母、水及び他の原料を含む全原料をミキシングし、一次発酵、分割、ベンチタイム、成形、最終発酵を連続的に行ってもよい。

【0035】
なお本発明でいう「米粉パン類生地」は、発酵前のもの、一次発酵後のもの、最終発酵後のもののいずれをも意味するものとする。本発明に係る米粉パン類生地については、冷凍生地の状態での保存等、通常用いられるさまざまな製パン手法を問題なく適用することができる。

【0036】
発酵工程終了後、発酵生地を焼成(ベーキング)することにより、本発明に係る米粉パン類を製造することができる。生地の焼成は、常法により行うことができる。具体的には、生地をオーブン、電子レンジ、釜、蒸し器等の任意の手段で加熱(例えば100℃~240℃での加熱)することにより焼成工程を実施すればよい。焼成時間は、一般的には5分~100分程度である。焼成温度や焼成時間は、当業者であれば適宜調節することができる。このようにして製造される米粉パン類に、さらにナッツ類や果実、クリーム等をトッピングしたり、惣菜やハム等を挟んだりして、菓子パンや調理パン等を製造することもできる。このようにして加工された米粉パン類も本発明に係る米粉パン類の範囲に含まれる。

【0037】
こうして製造される本発明に係る米粉パン類は、膨らみが良く、ふんわりと柔らかく、きめが細かく(気泡が細かく)、食感及び風味も良好である。

【0038】
本発明は、上記のような米粉パン類の製造方法も提供する。簡単にまとめると、本発明の方法では、主原料の米粉に、水、本発明に係る生地改良剤(例えば、グルタチオン又はそれを含む組成物)、酵母、及び必要に応じて砂糖等の他の原料を加えてミキシングし、得られた生地を発酵させ、焼成することにより、良好な品質の米粉パン類を製造することができる。本発明の米粉パン類製造方法では本発明に係る生地改良剤としてグルタチオン含有酵母エキスを米粉等の原料に添加することによりグルタチオンを添加することもできる。

【0039】
本発明はまた、本発明に係る生地改良剤及び米粉を含む、米粉パン類生地製造用のミックス粉(一般に、プレミックスとも称される)も提供する。このミックス粉に水及び酵母を添加することにより、本発明に係る米粉パン類生地を簡便に調製することができる。このミックス粉における本発明に係る生地改良剤中のグルタチオンと米粉の配合比は、本発明に係る米粉パン類生地と同様である。このミックス粉は、他のパン類生地原料をさらに含んでもよいが、上記と同様の理由で、小麦粉及びグルテンを含まないことがより好ましい。このミックス粉はまた、食塩(塩化ナトリウム)を、全く含まないか又は米粉の含有量の0.4質量%以下(米粉100gに対し0.4g以下)、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以下、特に0.1質量%以下しか含まないことが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[実施例1]グルタチオンを配合した米粉パンの製造-1
米粉としては、うるち米を原材料とした、小麦粉及び小麦グルテンを含まない製菓用米粉として市販されている商品リ・ファリーヌ(群馬製粉株式会社製)を使用した。
グルタチオンとしては、還元型グルタチオン(Sigma-Aldrich社製)を使用した。
【実施例】
【0042】
ホームベーカリー(SPM-KP1、三洋電機株式会社)のパンケースに米粉280g、水280gを入れ、グルタチオン0~5gを添加した後、「パン生地コース」のプログラムを用いて室温で20分間攪拌によりミキシング(混捏)した後、一晩放置し、米粉を水に浸漬させた。これに、翌朝、砂糖を15g、パン用乾燥酵母(日清フーズ社製)を4g添加した後、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてミキシング(混捏)し、パン生地(ドウ)を発酵及び焼成して、米粉パンを製造した。具体的には、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムでは、室温で20分間の攪拌によるミキシング工程後、10分かけて発酵温度38℃まで昇温して保温(昇温時間を含めて50分間)する発酵工程を行い、さらに15分間かけて140℃まで昇温して35分間保温する焼成工程を実施した。
【実施例】
【0043】
焼成した翌日、パンの高さを測定した。それぞれのパンの高さから、グルタチオン無添加(0g添加)の米粉パン(対照)の高さを1としたときの相対値を算出し、これを膨張率とした。なお製造したパンの底面積は共通であり約140cm2(11 x 13 cm)であった。
得られた結果を表1及び図1に示す。
【実施例】
【0044】
【表1】
JP0005540347B2_000002t.gif
【実施例】
【0045】
表1及び図1に示される通り、グルタチオンを添加した米粉パンは、グルタチオン無添加の米粉パンと比較して明らかに膨らみが大きかった。膨張率はグルタチオン添加量の増加に伴って増加し、米粉280gに対してグルタチオン添加量0.5~2.0gの範囲ではグルタチオン無添加米粉パンの1.5倍以上の膨張が認められた。
【実施例】
【0046】
また、ドウ及び米粉パンを観察したところ、グルタチオン無添加の米粉パンの場合ドウはもろく、焼成後のきめも粗かったが、グルタチオンを添加した米粉パンの場合はドウは柔軟性に富み、焼成後はきめの細かいパンとなった。図2には、グルタチオン無添加の場合の発酵時のドウ(図2A)と焼成後のパン(図2B)、グルタチオンを添加した場合の発酵時のドウ(図2C)と焼成後のパン(図2D)の写真を示した。
【実施例】
【0047】
一方、12名の被験者による官能試験を行って、グルタチオン無添加の米粉パンを嗅いだ後にグルタチオンを添加した米粉パンの匂いを嗅いでもらい、「異臭(独特のイオウ臭)を感じた」人数を数えた。グルタチオン添加量が1gの場合は異臭を感じたのは2人のみであったが、2gの場合には半数以上の7人となった。従って、2g以上の添加量では製造される米粉パンの匂いにやや影響があることが示された。
【実施例】
【0048】
上記のように、グルタチオンの添加は米粉の製パン性を向上させる効果を有し、特に、米粉280gに対してグルタチオン0.5~2.0gを添加したドウを用いた場合には、さらに良好な製パン性が認められた。また、米粉280gに対して0.5~1.0gのグルタチオン添加量を用いることで、膨らみやきめの細かさが大幅に改善される効果に加えてパンの匂いもより良好なものとすることができた。
【実施例】
【0049】
[実施例2]グルタチオンを配合した米粉パンの製造-2
小麦粉及び小麦グルテンを含まない別の市販米粉である波里スーパーファインパウダー(株式会社波里製)を米粉リ・ファリーヌに代えて使用した以外は実施例1と同様にして、米粉パンの製造を行った。本実施例でも、グルタチオンを添加した米粉パンは、実施例1と同様に良好に膨らみ、きめの細かいパンとなった。
【実施例】
【0050】
さらに、実験例1と同様に米粉(波里スーパーファインパウダー)に水とグルタチオンを添加した後、一晩放置することなく、ミキシング後すぐに発酵及び焼成することにより米粉パンを製造した。具体的には、米粉(波里スーパーファインパウダー)280グラムに水280グラムと還元型グルタチオン(0~5グラム)を添加して「パン生地コース」のプログラムを用いて室温で20分間攪拌した(ミキシング工程)後すぐに、砂糖15グラムとパン用酵母4グラムを添加し、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてドウをミキシング、発酵及び焼成した。焼成の翌日、得られたパンの高さを測定し、実施例1と同様に、グルタチオンを添加しない標準と比較して米粉パンの膨張率を算出した。その結果、米粉280グラムに対して0.5グラム、1.0グラム、2.0グラム、5.0グラムを添加した場合、それぞれの膨張率は1.62、2.14、1.88、1.30であった(図3)。米粉280グラムに対して0.5~2.0グラムのグルタチオンを添加した場合に、特に良好な製パン効果が認められた。米粉280グラムに対して1.0グラムのグルタチオンを添加した場合にはパンが最も良好に膨らみ、2.0を超える膨潤率が得られた。なおミキシング後すぐに発酵した場合には、膨らみが良好でも部分的にへこみを生じる場合があり、パンの膨らみの均一度合いは一晩放置してから発酵した実施例1の方が良好であった。
【実施例】
【0051】
さらに、米粉に水及び還元型グルタチオンを添加後すぐに、「パン生地コース」のプログラムによる攪拌及び一晩放置を省略して、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムによるミキシング、発酵及び焼成工程を行った。この場合も、上記の一晩放置の工程のみを省略した場合とほぼ同様の結果が得られた。
【実施例】
【0052】
[実施例3]グルタチオンを配合した米粉パンの製造-3
グルタチオンには還元型と酸化型があり一般的には前者が用いられているが、最近、安定性が高い酸化型にも注目が集まっている。そこで、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンで米粉の製パン性を増強させる効果に違いがあるどうかを調べた。
【実施例】
【0053】
米粉としては、実施例2と同じ波里スーパーファインパウダーを用いた。酸化型グルタチオンは、Sigma-Aldrich社製のものを使用した。還元型グルタチオン、パン用乾燥酵母、パンケース及びホームベーカリーは実施例1と同じものを用いた。
【実施例】
【0054】
米粉140gに水140gを加え、還元型又は酸化型グルタチオンを後述の量で添加してホームベーカリーの「パン生地コース」のプログラムを用いて室温で20分間攪拌後、一晩室温で放置した。さらに砂糖7.5g、パン用乾燥酵母2gを添加した後、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてミキシングし、パン生地(ドウ)を発酵及び焼成して、米粉パンを製造した。ミキシング、発酵及び焼成工程は実施例1と同様である。
【実施例】
【0055】
焼成した翌日、パンの高さを測定し、実施例1と同様にして米粉パンの膨張率を算出した。
得られた結果を表2及び図4に示す。
【実施例】
【0056】
【表2】
JP0005540347B2_000003t.gif
【実施例】
【0057】
図4中、黒塗りの丸は酸化型グルタチオン添加米粉パン、白抜きの丸は還元型グルタチオン添加米粉パンを表す。
【実施例】
【0058】
表2及び図4に示される通り、酸化型グルタチオンを添加した米粉パンと還元型グルタチオンを添加した米粉パンはいずれも、グルタチオン無添加の米粉パンと比較して明らかに膨らみが大きかった。膨張率はグルタチオン添加量の増加に伴って増加し、米粉140gに対してグルタチオン添加量0.5~2.0gの範囲ではグルタチオン無添加米粉パンの1.5倍以上の膨張が認められ、添加量0.5~1.0gの範囲では2.0倍以上の膨張が認められた。
【実施例】
【0059】
なお酸化型グルタチオンと比べて、還元型グルタチオンの方が全体的に米粉の製パン性向上効果がやや高く、低添加量0.2~0.5gの場合の製パン性向上効果は酸化型グルタチオンでは比較的弱いが還元型グルタチオンでは高いことが示された。
【実施例】
【0060】
また、8名の被験者による官能試験を行って、グルタチオン無添加の米粉パンを嗅いだ後に酸化型グルタチオンを添加した米粉パンの匂いを嗅いでもらい、「異臭(独特のイオウ臭)を感じた」人数を数えた。酸化型グルタチオン添加量が1gの場合は異臭を感じたのは1人のみであり、2gの場合には半数近くの3人となった。2g以上の添加量では製造される米粉パンの匂いにやや影響があるものの、還元型グルタチオンよりは匂いが少ないことが示された。米粉140gに対して0.5~1.0gの酸化型グルタチオンを添加すると、膨らみやきめの細かさが大幅に改善される効果に加えてパンの匂いもより良好なものとすることができた。
【実施例】
【0061】
上記の結果から、還元型だけでなく酸化型のグルタチオンも、米粉の製パン性を向上させる効果を有していることが示された。
【実施例】
【0062】
[実施例4]混合グルタチオンを配合した米粉パンの製造
還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)を各種配合比で用いて米粉パンを製造した。
【実施例】
【0063】
米粉としては、実施例2と同じ波里スーパーファインパウダーを用いた。還元型グルタチオン、パン用乾燥酵母、パンケース及びホームベーカリーは実施例1と同じものを、酸化型グルタチオンは実施例2と同じものを使用した。
【実施例】
【0064】
米粉280gに、水280gと、様々な配合比の還元型グルタチオン及び/又は酸化型グルタチオン(総量0.9g)を添加して「パン生地コース」のプログラムを用いて室温で20分間攪拌後、一晩室温で放置した。次いで砂糖15g、パン用乾燥酵母(日清フーズ社製)4gを添加した後、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてミキシング(混捏)し、パン生地(ドウ)を発酵及び焼成して、米粉パンを製造した。ミキシング、発酵及び焼成工程は実施例1と同様である。
【実施例】
【0065】
焼成した翌日、パンの高さを測定し、実施例1と同様にして米粉パンの膨張率を算出した。
得られた結果を表3及び図5に示す。
【実施例】
【0066】
【表3】
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【実施例】
【0067】
表3及び図5に示される通り、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンを、異なる配合比で添加して製造された米粉パンは、いずれも、グルタチオン無添加の米粉パンと比較して明らかに膨らみが大きかった(図6A)。膨張率は酸化型グルタチオンのみの場合よりも還元型グルタチオンを混合した場合の方がより大きかった。
【実施例】
【0068】
焼成後の米粉パンを観察したところ、酸化型グルタチオンの割合が高い方がパンはより硬めになり、きめが粗くなる傾向があった。酸化型グルタチオンのみを用いた米粉パンは気泡膜が粗いフランスパン風になり(図6B)、還元型グルタチオンのみを用いた米粉パンは気泡膜が細かく柔らかなわたあめ風になった(図6C)が、いずれも全体としては十分な膨張が観察された(図6A)。
【実施例】
【0069】
[実施例5]グルタチオンを添加した米粉パンにおける食塩配合量の製パン性への影響
パン生地に通常添加される食塩の量が、グルタチオンを添加した米粉パン生地の製パン性に及ぼす影響を調べた。米粉、還元型グルタチオン、パン用乾燥酵母、パンケース及びホームベーカリーは実施例1と同じものを使用した。
【実施例】
【0070】
米粉140gに水を140g添加し、さらに食塩を0~10g、還元型グルタチオンを0.5g添加してホームベーカリーの「パン生地コース」のプログラムを用いて室温で20分間攪拌後、一晩室温で放置した。翌日、砂糖7.5gとパン用乾燥酵母2gを添加した後、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてミキシングし、パン生地を発酵及び焼成して、米粉パンを製造した。ミキシング、発酵及び焼成工程は実施例1と同様である。
【実施例】
【0071】
焼成した翌日、パンの高さを測定した。グルタチオン無添加(添加量0g)かつ食塩無添加(添加量0g)で同様に製造した米粉パン(対照)の高さを1としたときの相対値を算出し、これを膨張率とした。
得られた結果を表4及び図7に示す。
【実施例】
【0072】
【表4】
JP0005540347B2_000005t.gif
【実施例】
【0073】
表4及び図7に示される通り、米粉140gに対して1.0gを超える量の食塩を添加して本発明に係る米粉パンを製造した場合には、膨張率がかなり低くなり、食塩無添加(グルタチオン添加)の場合と比較して製パン性が著しく低下した。一方、米粉140gに対して特に0.5g以下の食塩を添加した場合は比較的高い良好な膨張率が示された。特に米粉140gに対して0.2g以下の食塩を添加した場合には膨張率が2.0以上に顕著に上昇し、生地の製パン性が著しく向上したことが示された。
【実施例】
【0074】
さらに、グルタチオンとして還元型に代えて酸化型グルタチオンを用いたこと以外は上記と同様の条件で食塩添加量の違いの影響を調べる実験を行った。その結果は還元型グルタチオンを用いた場合と同様の傾向を示した。すなわち、食塩の添加量が1.0gを超える量では膨張率はグルタチオン及び食塩を添加しない米粉パンと同程度に低くなったが、食塩の添加量が減少するに従って膨張率は顕著に上昇し、製パン性が著しく向上した。特に、米粉140gに対する食塩の添加量を0.2g以下(0g、0.1g、0.2g)とした場合には、膨張率が1.6以上(それぞれ2.1、2.0、1.6)となり、生地の製パン性が著しく向上したことが示された。
【実施例】
【0075】
この結果は、グルタチオンを添加した米粉パンの製造においては、パン生地への食塩の添加量を少なくすることにより、良好な製パン性を得られることを示している。
【実施例】
【0076】
[実施例6]米粉と水の配合比の製パン性への影響
米粉100~180g(100g、120g、130g、140g、150g、160g、170g、180g)に、総量が280グラムになるよう水を添加し、そこに還元型グルタチオンを0.5g添加して「パン生地コース」のプログラムで攪拌後、一晩室温で放置した。翌日、砂糖7.5gとパン用乾燥酵母2gを添加した後、「小麦ゼロ/米粉コース」のプログラムを用いてミキシングすることによりパン生地を調製した。同プログラムにより続いてパン生地を発酵及び焼成して、米粉パンを製造した。ミキシング、発酵及び焼成工程は実施例1と同様である。還元型グルタチオン、パン用乾燥酵母、パンケース及びホームベーカリーは実施例1と同じものを用いた。
【実施例】
【0077】
結果を図8に示す。米粉量が100~120gに対して水180g~160gでは製パンされず、米粉量が120g(水160g)を超えて増加するに従って製パン効果が上昇した。米粉量が130~160gに対して水150g~120gを配合した生地を用いた米粉パンは、良好に膨らむことが示された。米粉が160g(水120g)を超えて増加すると米粉が膨潤できなくなり、ドウを作製できなかった。
【実施例】
【0078】
[実施例7]発酵工程前の浸漬時間の影響
米粉及び水への還元型グルタチオン(GSH)の添加量を0g、0.1g、0.2g、0.5gとし、それぞれ室温で20分間攪拌後に一晩(12時間)放置した場合と二晩(36時間)放置した場合の2通りの米粉浸漬時間を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてパン製造試験を行った。
【実施例】
【0079】
焼成直後のパンの写真を図9に示す。浸漬時間を二晩とした場合、還元型グルタチオン(GSH)の添加量が0.1g、0.2g、0.5gのいずれについてもパンの膨らみがより大きくなり、きめも細かくなった。一方、還元型グルタチオン(GSH)無添加の場合、浸漬時間を二晩とすることで多少の膨らみの改善が見られたものの、上部は大きく陥没し、製パン性の顕著な向上は認められなかった。このことから、グルタチオン添加した加水後の米粉の浸漬時間を一晩よりも二晩へと長くすることにより、製パン性をさらに向上させることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る製パン方法によれば、パン類の小麦粉(メリケン粉)を米粉に置換しても品質良好なパン類を製造でき、米粉消費の拡大に貢献できるとともに、小麦アレルギー患者にも朗報となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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