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明細書 :バイオマスを用いたアルコール又は有機酸の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5669171号 (P5669171)
公開番号 特開2011-083231 (P2011-083231A)
登録日 平成26年12月26日(2014.12.26)
発行日 平成27年2月12日(2015.2.12)
公開日 平成23年4月28日(2011.4.28)
発明の名称または考案の名称 バイオマスを用いたアルコール又は有機酸の製造方法
国際特許分類 C12P   7/10        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
FI C12P 7/10
B09B 3/00 304Z
請求項の数または発明の数 1
全頁数 6
出願番号 特願2009-238797 (P2009-238797)
出願日 平成21年10月16日(2009.10.16)
審査請求日 平成24年10月15日(2012.10.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】仁宮 一章
【氏名】高橋 憲司
【氏名】清水 宣明
個別代理人の代理人 【識別番号】100114074、【弁理士】、【氏名又は名称】大谷 嘉一
審査官 【審査官】坂崎 恵美子
参考文献・文献 特開2009-189277(JP,A)
国際公開第2009/099858(WO,A1)
特開2009-203454(JP,A)
国際公開第2008/090156(WO,A1)
Green Chemistry,2005年,Vol.7,p.705-707
Journal of Electroanalytical Chemistry,2007年,Vol.599,p.288-294
Green Chemistry,2006年,Vol.8,p.784-786
調査した分野 C12P 1/00-41/00
B09B 1/00-5/00
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを、塩化コリンとクエン酸との混合溶媒に加えることで可溶化したセルロース又は/及びヘミセルロースを固液分離するステップと、
前記分離された液体に固体酸触媒を加えることで前記セルロース又は/及びヘミセルロースをオリゴ糖類に分解し固液分離するステップと、
前記分離されたオリゴ糖類を含む液体に水を加え、さらにセルラーゼと酵母菌を加えることで糖化及び発酵させるステップを有することを特徴とするエタノールの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ケナフ、稲ワラ等の草本類、木本類、及び建築廃材等の植物由来のバイオマスからアルコール又は有機酸を製造する方法に関し、特にリグノセルロース系バイオマスからアルコール又は有機酸を製造するのに適する。
【背景技術】
【0002】
化石資源を除いた生物由来の資源(バイオマス)はカーボンニュートラル資源として各種活用方法が検討されている。
その中で、リグノセルロース系バイオマスを用いたエタノール生産は、食料と競合しない大きなメリットがあるものの、リグノセルロースは、セルロースがヘミセルロース及びリグニンと結合して存在し、リグニンはフェノール性の高分子化合物であり、その分離、除去が低コスト化の障害になっていた。
例えば、リグニン分解菌、リグニン分解酵素による生物的手法は処理に極めて長期間がかかる問題がある。
希硫酸処理方法は、糖の過分解や廃硫酸処理に問題がある。
特許文献1にはマイクロ波、超音波処理方法を開示するが、リグニンの除去効果が未だ充分でない。
【0003】
また、セルロースのオリゴ糖あるいは単糖への分解プロセスにおいて、希硫酸等の液体酸触媒を用いた化学的手法は、その後の酸触媒の分離や廃液処理に問題があった。
そこで、近年はセルラーゼ酵素を用いた生物的加水分解処理の方法が広く研究されている。
しかし、セルロースは、β-グルコース分子が1,4グルコシド結合により重合した高分子同士が水素結合し、水に不溶性の結晶構造を有していることから、セルラーゼ酵素との接触面積が少なく、反応が遅い問題があった。
【0004】
近年、特許文献2に示すようにセルロースを選択的に可溶とするイミダゾリウム系化合物も報告されている。
しかし、本発明者らの調査によるとイミダゾリウム系化合物はセルロースを溶解するもののセルラーゼ酵素及び酵母菌を添加すると、この酵素活性が失活したり、酵母菌が死滅する問題があり、また、酵素等を添加するための最小限の水を加えることでもセルロースの溶解度が低下し、セルロースが析出、沈殿してしまう。
そこで、本発明者らは上記のイミダゾリウム系化合物を用いてセルロースを可溶化した後に固体酸触媒を加えて、セルロースを酸で予備的糖化しオリゴ糖類に分解させた後に水を加え、セルロースの析出、沈殿を抑えた。
しかし、それでも酵母菌の死滅を抑えることはできなかったことから、このイミダゾリウム系化合物は酵素や酵母菌に対する毒性が高いことが明らかになった。
また特許文献3によれば、従来より第4級イミダゾリウム化合物は防菌防カビ作用を有するものとも知られていた。
さらに、イミダゾリウム系化合物/水の混合溶液から分解したオリゴ糖類を抽出・回収することを検討したが、重合度の低いオリゴ糖は水に溶けているために、イミダゾリウム系化合物/水側に留まり多くのオリゴ糖類がロスになる問題があった。
このような予備的調査に基づいて本発明者らは、非水溶性の多糖類を可溶化する細胞毒性の低い溶媒を詳細に検討した結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2009-528035号公報
【特許文献2】US2009/0011473A1公報
【特許文献3】特開昭52-102426公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒を用いることで、植物由来のバイオマスを用いた副生成物が少なく、生産性の高いアルコール又は有機酸の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエタノールの製造方法は、バイオマスを、植物由来の非水溶性多糖類を溶解でき、かつ細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒に溶解することで、溶解しない成分を分離除去するステップと、前記植物由来の非水溶性多糖類が溶解した溶液に固体酸触媒を加えることで前記多糖類をオリゴ糖類に分解するステップと、前記オリゴ糖類が含まれる溶液に水を加えるステップと、前記水を加えたオリゴ糖類溶液に糖化酵素及び酵母を加えるステップを有することを特徴とする。
植物由来の非水溶性多糖類としてはセルロース、ヘミセルロースが代表例であり、本発明にかかるアルコール製造方法は、植物由来のバイオマスを原料として用いた点にあり、デンプン等の水溶性多糖類が混合している場合も含まれるが、水溶性の多糖類は水を溶媒として糖化及び発酵が可能であり、本発明が特に有効なのは、セルロースがヘミセルロース及びリグニンと結合したリグノセルロース等の植物細胞壁由来のバイオマスが原料に含まれる場合である。
多糖類が溶解した多糖類可溶性溶媒溶液に固体酸触媒を加えると多糖類のグリコシド結合を一部分解し、予備的に糖化する。
本発明にて、オリゴ糖類と表現したのは、二糖類から30量体レベルの少糖類のみならず、一部単糖類にまで分解しているものを含む趣旨である。

【0008】
ここで細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒は、脂肪族第四級アンモニウム塩を主成分とするのがよく、特に細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒は、コリンに有機酸を混合したものであることが好ましい。
さらにコリンは塩化コリンがよい。
コリンは、図2に示した第四級アンモニウムの塩でXがClイオンの場合に塩化コリンとなる。
塩化コリンは融点が約270℃であることから、反応系を100℃以下に抑えるには有機酸を混合して融点を下げるのがよい。
混合有機酸としてはクエン酸、マロン酸、フタル酸等の各種有機酸が例として挙げられるが、中でもクエン酸が好ましい。
本発明で細胞毒性の低いとは、セルロース可溶化化合物として公知のイミダゾリウム系化合物より酵素や酵母菌に対する毒性が低いものをいう。
オリゴ糖類のグリコシド結合を加水分解する糖化酵素としては、セルラーゼがよく、セルロースの他にヘミセルロースも糖化するものがよい。
【0009】
固体酸触媒とは、前記多糖類可溶性溶媒及びこれに水を加えた混合溶媒中に固体として存在し、酸触媒として機能するものをいい、固液分離により、系から容易に分離できる。
固体酸触媒としては、ゼオライト、アルミナ等の無機酸化物固体酸触媒、イオン交換樹脂等に用いられる高分子固体酸触媒、アモルファスカーボン等の炭素系固体酸触媒等が例として挙げられ、これらは単独又は混合して用いられる。
さらには、糖化酵素又は/及び酵母も担体に担持して生物的処理に使用すれば、反応後に担体を引き上げることで反応系から容易に分離でき、アルコール、有機酸と多糖類可溶性溶媒等とは蒸留等により容易に分離できるので多糖類可溶性溶媒を回収し再利用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒にバイオマスを加えることで、例えば、リグノセルロースからセルロース及びヘミセルロースを可溶化し、不溶性のリグニン等を容易に固液分離できる。
この固液分離した液体に固体酸触媒を添加することで、セルロース、ヘミセルロース等の非水溶性多糖類を予備的に、酸糖化し、水を添加してもセルロース、ヘミセルロース等の析出、沈殿を抑えることが可能になり、且つ、細胞毒性の低い多糖類可溶性溶媒を用いたので、その後にそのままセルラーゼ及び酵母菌を添加することで特異的糖化及び発酵ができるので、副生成物が少なく、従来に比較して短時間、高効率にアルコール又は有機酸を製造することができる。
また、固体酸触媒を用いたことで触媒を系から容易に分離、再利用ができる。
また、糖化酵素又は/及び酵母を担体に担持させることで、それを系から容易に分離でき、多糖類可溶性溶媒の回収再利用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】多糖類可溶性溶媒の細胞毒性試験結果を示す。
【図2】コリンの構造式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず始めに、多糖類可溶性溶媒の細胞毒性試験結果について説明する。
本発明に係る溶媒として塩化コリンに水を加え、容積で10%濃度に調整したものと、比較例としてイミダゾリウム系化合物(1-butyl-3-methylimidazoliumchrolide)を容積で10%濃度に水で薄めたものを用いて培地を作製し、発酵用酵母MT8-1株の培養をした。
その結果を図1のグラフに示す。
横軸が培養時間で、縦軸が酵母菌体の濃度を示す。
なお、コントロールとして水だけ加えたセルロース溶媒無添加のものの結果をあわせて示す。
培養時間に対して菌体量は増加し、20時間で10倍以上に増加した。
また、セルロース溶媒無添加のコントロールに対しても65%以上の菌体量増加率を示した。
一方、比較例のイミダゾリウム系化合物の場合は、菌体量は培養時間に対して減少した。
この結果から本発明に係る塩化コリンは、比較例のイミダゾリウム系化合物より細胞毒性が低いことを確認できた。
これは、コリンが細胞膜脂質の成分であり、塩化コリンは飼料添加物として使用されていることからも細胞毒性が低いと推定できる。

【0013】
次に、アルコールの製造例について説明する。
塩化コリンに容積で約50%のクエン酸を加え、約80℃に加熱し液体状態にした。
これに、リグノセルロースとしてケナフパウダーを加え、24時間反応させたところ、セルロース及びヘミセルロースが可溶化し、リグニンが不溶物として残った。
濾過により固液分離し、濾液に高分子系の固体酸触媒を加え、約1時間撹拌後に、濾過により固液分離した。
濾液に塩化コリン濃度が容積で10%以下になるように水を加えた。
析出物が少し認められたが多くは、オリゴ糖類として混合溶媒に溶けていた。
さらに、セルラーゼと酵母菌を加え、約24時間、糖化、発酵させ、定法に従い膜分離したところ、エタノールが得られた。
本実施例はアルコールの製造例であるが、酵素や酵母菌の種類を変えることで、各種有機酸を製造することも可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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