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明細書 :軟骨細胞調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4748222号 (P4748222)
登録日 平成23年5月27日(2011.5.27)
発行日 平成23年8月17日(2011.8.17)
発明の名称または考案の名称 軟骨細胞調製方法
国際特許分類 C12N   5/077       (2010.01)
A61K  35/12        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202G
A61K 35/12
A61L 27/00 V
A61P 43/00 105
A61L 27/00 G
請求項の数または発明の数 20
全頁数 36
出願番号 特願2008-555127 (P2008-555127)
出願日 平成20年1月23日(2008.1.23)
国際出願番号 PCT/JP2008/051327
国際公開番号 WO2008/091013
国際公開日 平成20年7月31日(2008.7.31)
優先権出願番号 2007012160
優先日 平成19年1月23日(2007.1.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年4月22日(2010.4.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】谷口 英樹
【氏名】小林 眞司
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特表平11-508358(JP,A)
特表2003-505143(JP,A)
日本整形外科学会雑誌Vol.76 No.8 Page.S1075 (2002.08.25)
再生医療 Vol.4 No.3 Page.430-437,351 (2005.08.01)
Bio Clin Vol.15 No.14 Page.1119-1122 (2000.12.20)
Laboratory investigation, 2006, Vol.86, No.5, p.445-57
第14回日本形成外科学会基礎学術集会プログラム・抄録集(2005年10月14日)第83頁57
第37回日本結合組織学会学術大会抄録集(2005.05.26)第52頁
第38回日本結合組織学会学術大会抄録集(2006.04.06)第62頁
Journal of Huazhong University of Science and Technology. Medical sciences(2006) Vol. 26, No. 6, pp. 723-4.
東日本整形災害外科学会雑誌 Vol.17 No.3 Page.425 (2005.08.23)
月刊リウマチ科Vol.26 No.2 Page.196-203 (2001.08.28)
調査した分野 C12N 5/077
A61K 35/12
A61L 27/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒト軟骨膜組織に由来する細胞であって、最外層及び線維芽細胞層からなるヒト軟骨膜組織を採取し、採取した組織をコラゲナーゼで処理し、その後、遠心分離して得られた細胞を培養することにより得られ、かつ軟骨細胞に分化しうる前記細胞。
【請求項2】
ヒト軟骨膜組織が、最外層及び線維芽細胞層からなる請求項1記載の細胞。
【請求項3】
最外層及び線維芽細胞層からなるヒト軟骨膜組織を採取し、採取した組織をコラゲナーゼで処理し、その後、遠心分離して得られた細胞を培養することを含む、請求項1記載の細胞の調製方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の細胞を含有する組成物。
【請求項5】
ヒト軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を増殖させるために用いられる請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ヒト軟骨細胞を調製するために用いられる請求項4記載の組成物。
【請求項7】
細胞移植に用いられる請求項4記載の組成物。
【請求項8】
細胞移植が、先天性耳介奇形の治療、肋軟骨欠損の治療、関節軟骨損傷の治療、気管軟骨欠損の治療、隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術又は顔面の美容整形術のいずれかを目的とする請求項7記載の組成物。
【請求項9】
請求項1記載の細胞が産生した基質をさらに含有する請求項4~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
足場をさらに含有する請求項4~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
請求項1記載の細胞を軟骨細胞に分化させることを含む、軟骨細胞の調製方法。
【請求項12】
請求項1記載の細胞を遠心管培養することにより細胞塊を形成させる請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1記載の細胞を平板培養で重層化する請求項11記載の方法。
【請求項14】
血清を含む培地中で請求項1記載の細胞を増殖及び/又は分化させる請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
血清が自家血清である請求項14記載の方法。
【請求項16】
DEME/F12、血清、抗生物質及び抗ミトティック剤を含有する培地中で請求項1記載の細胞を軟骨細胞に分化させる請求項11~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
培地がデキサメタゾン及び/又はL-アスコルビン酸をさらに含有する請求項16記載の方法。
【請求項18】
培地がインスリン様成長因子及び/又は塩基性線維芽細胞成長因子をさらに含有する請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1記載の細胞を軟骨細胞に分化させること、及び該軟骨細胞に基質を産生させることを含む、軟骨細胞の産生する基質の調製方法。
【請求項20】
基質がII型コラーゲン及び/又はプロテオグリカンである請求項19記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨細胞の調製方法に関し、より詳細には、軟骨膜細胞から軟骨細胞を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト軟骨は、先天的に欠損していたり、後天的に損傷あるいは欠損すると、通常は再生されない。このようなヒト軟骨疾患に対する従来の治療としては、自己の他部位から軟骨組織を採取し欠損部位に移植する方法があるが、採取部位や量が限定されてしまうことが問題であった。そこで自己の軟骨細胞を一部採取して生体外で培養した後、患部位に戻す方法が考えられ(非特許文献1~4)、臨床応用も行われている(非特許文献5,6及び7)。
しかし、軟骨細胞を使用する方法は2つの問題点を抱えている。すなわち、採取部位への侵襲の問題と長期間の形態維持の問題である。一つ目の採取部位への侵襲の問題とは、軟骨培養に使用する軟骨採取に際して、その部位が欠損、陥凹などの醜形あるいは機能障害を来すことである。二つ目の長期間の形態維持の問題とは、培養された軟骨で再生された組織が長期間にわたり吸収せずにそのままの形態を維持し続けることができるかという問題である。
これらの問題点を解決するために軟骨細胞の供給源を他に求めることが考えられている。つまり、軟骨細胞以外の細胞を利用して生体外で軟骨細胞に分化させて生体内に戻すという考えである。これらの細胞には、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、膝関節滑膜由来細胞、脂肪細胞など挙げられる(特許文献1~4)。いずれも軟骨細胞に分化することが確認されている。しかし、胚性幹細胞は倫理的観点から臨床応用は困難であり、間葉系幹細胞と膝関節滑膜由来細胞は採取が困難であることや侵襲が高いこと、脂肪細胞から軟骨細胞への分化は開発途上であること、間葉系幹細胞は採取の侵襲や分化効率の問題があることからいずれも臨床応用には至っていない。
従来、軟骨膜は軟骨を形成することが生体内外の研究から確認されている(非特許文献8~10)。これらの研究では、軟骨膜を単離せず、軟骨膜の塊のままで移植しており、臨床応用にはほど遠いものである。
【0003】

【非特許文献1】van Osch GJ et al,Plast Reconstr Surg 107:433-440(2001)
【非特許文献2】Brittberg et al,The New England Journal of Medicine 331:889-895(1994)
【非特許文献3】Ting et al,Annals of Plastic Surgery 40:413-421(1998)
【非特許文献4】Rodriguez et al,Plastic and Reconstructive Surgery103:1111-1119(1999)
【非特許文献5】Ochi M et al,J Bone Joint Surg 84:571-578(2002)
【非特許文献6】Yanaga H et al,Aesth Plast Surg 28:212-221(2004)
【非特許文献7】Yanaga H et al,Plast&Reconstr Surg 117:2019-30(2006)
【非特許文献8】Ove Engkvist et al.,Scand J Plast Reconst Surg.1979,13;275-280
【非特許文献9】Ove Engkvist et al.,Scand J Plast Reconst Surg.1979,13;371-376
【非特許文献10】Duynstee et al.,Plasr and Reconst Surg.2002,110(4).1073-1079
【特許文献1】特開2005-511083号公報
【特許文献2】特開2003-51875号公報
【特許文献3】特開2005-500085号公報
【特許文献4】特開2001-103965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、採取部位への侵襲が少ない軟骨細胞調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、耳介軟骨や肋軟骨の外側を覆っている軟骨膜を用いる方法を開発した。本発明者らは、軟骨膜から軟骨膜細胞を単離し増殖させ、生体内外で軟骨細胞に分化させることで軟骨細胞の特有基質であるプロテオグリカンとII型コラーゲンを産生することに成功した。
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ヒト軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞
(2)ヒト軟骨膜組織が、最外層及び線維芽細胞層からなる(1)記載の細胞。
【0007】
(3)ヒト軟骨膜組織が、最外層、線維芽細胞層及び最内層からなる(1)記載の細胞。
【0008】
(4)ヒト軟骨膜組織から分離した細胞を培養することを含む、(1)記載の細胞の調製方法。
【0009】
(5)(1)~(3)のいずれかに記載の細胞を含有する組成物。
【0010】
(6)ヒト軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を増殖させるために用いられる(5)記載の組成物。
【0011】
(7)ヒト軟骨細胞を調製するために用いられる(5)記載の組成物。
【0012】
(8)細胞移植に用いられる(5)記載の組成物。
【0013】
(9)細胞移植が、先天性耳介奇形の治療、肋軟骨欠損の治療、関節軟骨損傷の治療、気管軟骨欠損の治療、隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術又は顔面の美容整形術のいずれかを目的とする(8)記載の組成物。
【0014】
(10)(1)記載の細胞が産生した基質をさらに含有する(5)~(9)のいずれかに記載の組成物。
【0015】
(11)足場をさらに含有する(5)~(10)のいずれかに記載の組成物。
【0016】
(12)(1)記載の細胞を軟骨細胞に分化させることを含む、軟骨細胞の調製方法。
【0017】
(13)(1)記載の細胞を遠心管培養することにより細胞塊を形成させる(12)記載の方法。
【0018】
(14)(1)記載の細胞を平板培養で重層化する(12)記載の方法。
【0019】
(15)血清を含む培地中で(1)記載の細胞を増殖及び/又は分化させる(12)~(14)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(16)血清がウシ血清である(15)記載の方法。
【0021】
(17)血清が自家血清である(15)記載の方法。
【0022】
(18)DEME/F12、血清、抗生物質及び抗ミトティック剤を含有する培地中で(1)記載の細胞を軟骨細胞に分化させる(12)~(17)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(19)培地がデキサメタゾン及び/又はL-アスコルビン酸をさらに含有する(18)記載の方法。
【0024】
(20)培地がインスリン様成長因子及び/又は塩基性線維芽細胞成長因子をさらに含有する(18)又は(19)に記載の方法。
【0025】
(21)(12)~(20)のいずれかに記載の方法により調製された軟骨細胞。
【0026】
(22)(21)記載の軟骨細胞及び/又は該細胞が形成する軟骨組織を含有する組成物。
【0027】
(23)移植治療に用いられる(22)記載の組成物。
【0028】
(24)移植治療が、先天性耳介奇形の治療、肋軟骨欠損の治療、関節軟骨損傷の治療、気管軟骨欠損の治療、隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術又は顔面の美容整形術のいずれかを目的とする(23)記載の組成物。
【0029】
(25)(21)記載の軟骨細胞が産生した基質をさらに含有する(22)~(24)のいずれかに記載の組成物。
【0030】
(26)足場をさらに含有する(22)~(25)のいずれかに記載の組成物。
【0031】
(27)(1)~(3)のいずれかに記載の細胞を生体に移植する方法。
【0032】
(28)(21)記載の軟骨細胞及び/又は該細胞が形成する軟骨組織を生体に移植する方法。
【0033】
(29)(1)~(3)のいずれかに記載の細胞の細胞移植のための使用。
【0034】
(30)(21)記載の軟骨細胞及び/又は該細胞が形成する軟骨組織の移植治療への使用。
【0035】
(31)(1)記載の細胞を軟骨細胞に分化させること、及び該軟骨細胞に基質を産生させることを含む、軟骨細胞の産生する基質の調製方法。
【0036】
(32)基質がII型コラーゲン及び/又はプロテオグリカンである(31)記載の方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明の軟骨細胞調製方法は軟骨組織を採取する必要がないために採取部位への侵襲を最小限にすることができる。
【0038】
また、軟骨の幹・前駆細胞を含んでいる軟骨膜細胞を用いることで、再生された組織の長期間にわたる形態維持が可能になる。
【0039】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2007‐012160の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
[図1]ヒト軟骨膜採取時の組織学的検討。
軟骨組織はアルシアンブルーに青く染色されるが、軟骨膜は染色されない。軟骨膜は最外層と線維芽細胞層だけを採取するか、最外層、線維芽細胞層と最内層(軟骨基質との移行部)を採取することもできる。a:採取前 矢印:軟骨膜b:軟骨膜だけを剥離中c:軟骨膜剥離後d:さらに軟骨膜最内層(軟骨基質との移行部)も採取することが可能である。e:最外層と線維芽細胞層だけで採取された軟骨膜組織アルシアンブルー染色 倍率200倍
[図2]軟骨膜細胞の遠心管培養。
軟骨膜細胞塊は軟骨細胞塊と同様に遠心管により軟骨組織を形成する。a:軟骨膜細胞から再生した軟骨組織b:軟骨細胞から再生した軟骨組織 アルシアンブルー染色 Bar:200μm
[図3]In vitroにおいて軟骨膜細胞は軟骨細胞と同様に重層化することで基質(プロテオグリカン)産生能が高まる。
a:明視野 b:アルシアンブルー染色
[図4]In vitroにおいて軟骨膜細胞は軟骨細胞と同様に重層化することで基質(プロテオグリカン)産生能が高まり、その産生能は軟骨細胞と同等である。
a:単層化培養された軟骨膜細胞b:重層化(3層化)された軟骨膜細胞c:単層化された軟骨細胞d:重層化(3層化)された軟骨膜細胞 アルシアンブルー染色
[図5]軟骨膜細胞と軟骨細胞の重層化培養におけるRT-PCR。
軟骨膜細胞は重層化することで、I型コラーゲンは減少しII型コラーゲンが増加する。
[図6]軟骨膜細胞と軟骨細胞の重層化培養におけるリアルタイムPCRによる定量化。
軟骨膜細胞は重層化することで、I型コラーゲンは減少しII型コラーゲンが増加する傾向にある。
[図7]In vitroにおいて重層化することで上清中にプロテオグリカンが産生される。
軟骨膜細胞のプロテオグリカン産生能は軟骨細胞と比較してほぼ同等である。
[図8]In vivoにおいて培養ヒト軟骨膜細胞は軟骨組織を形成する。
NOD/SCIDマウス背部皮下に移植した培養軟骨膜細胞の移植後2ヶ月の状態。アルシアンブルー染色a:倍率200倍 b:倍率400倍
[図9]In vivoにおいて培養ヒト軟骨膜細胞はI型コラーゲンおよびII型コラーゲンを産生し、軟骨組織を形成する。
NOD/SCIDマウス背部皮下に移植した培養軟骨膜細胞の移植後2ヶ月の状態。I型コラーゲン(赤)およびII型コラーゲン染色(緑)a倍率100倍 b倍率400倍
[図10]弾性軟骨や硝子軟骨などの軟骨膜及び軟骨の層構成を示す。
[図11]図1を補足する。
ヒト軟骨膜組織は最外層および線維芽細胞層と最内層の2層に分けて採取される。
その他が軟骨組織になる。a:最外層および線維芽細胞層 b:最内層 c:軟骨組織 アルシアンブルー染色 倍率200倍
[図12]ヒト軟骨膜細胞の増殖能。 顕微鏡下での軟骨膜細胞と軟骨細胞のコロニー形成能の比較。
ヒト軟骨膜細胞はヒト軟骨細胞と比較して、培養1ヶ月後に大きなコロニーを形成した。
ヒト軟骨細胞(点線矢印) ヒト軟骨膜細胞(実線矢印)スケールバー:500μm
[図13]ヒト軟骨膜細胞の増殖能。ヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞のコロニー形成能比較。
軟骨膜、軟骨膜-軟骨移行部、軟骨細胞を用いて14日間培養を行い、50細胞以上のコロニーから形成されたコロニー数を比較すると、軟骨膜細胞に高いコロニー形成能があることが分かった。したがって軟骨膜細胞に限局した高い増殖能があることが分かった。
(直径3.5cm細胞皿に各々500個の細胞を播種し、2週間後に形成したコロニーを数えた。1コロニーは50個以上とした。)
*:p<0.001(Mann Whitney U-Test with Bonferroni correction)n=27(patient No,=3)。
[図14]ヒト軟骨膜細胞の増殖能。ヒト軟骨膜、軟骨-軟骨膜移行部、軟骨細胞の長期的な増殖能の比較。
ヒト軟骨膜、軟骨-軟骨膜移行部、軟骨細胞を用いて長期培養における増殖能について比較すると、軟骨膜細胞に高い増殖能があることが分かった。
*:p<0.001(Mann Whitney U-Test with Bonferroni correction)n=5(patient No,=5)
[図15]In vitroでの脂肪と骨への分化誘導。
In vitroでの多分化能の検討を行ったところ、A:脂肪分化誘導:軟骨膜細胞は脂肪滴を形成し脂肪染色であるOil red 0にて染色されたが、軟骨細胞は脂肪滴を形成せず、染色されなかった。B:骨分化誘導:軟骨膜細胞は多数のCaの沈着を認めアリザリンレッドにて染色されたが、軟骨細胞はCaの沈着を認めず、アリザリンレッドにて染色されなかった。 従って、軟骨膜細胞に脂肪や骨への多分化能を認めた。
[図16]In vitroでの軟骨への分化誘導。
Aヒト軟骨膜細胞の軟骨分化誘導。
分化誘導培地を用い、(A)1層、(B)2層、(C)3層に重層化させて培養を行うことによって、細胞外基質産生能は上昇した。タイプIコラーゲン(赤)、タイプIIコラーゲン(緑)、DAPI(青)にて染色を行ったときも(D)1層、(E)2層、(F)3層と重層化させて培養を行うことによって、細胞外基質産生能が上昇していることを確認できた。分化誘導培地を用いずに培養を行った場合、(G)1層、(H)2層、(I)3層と重層化させて培養を行っても細胞外基質は産生されなかった。
A-C,G-I:アルシアンブルー染色D-F:I型コラーゲン染色(赤)、II型コラーゲン染色(緑)、DAP染色I(青) スケールバー:200μm
Bヒト軟骨細胞の軟骨分化誘導。
分化誘導培地を用い、(A)1層、(B)2層、(C)3層に重層化させて培養を行うことによって、細胞外基質産生能は上昇した。タイプIコラーゲン(赤)、タイプIIコラーゲン(緑)、DAPI(青)にて染色を行ったときも(D)1層、(E)2層、(F)3層と重層化させて培養を行うことによって、細胞外基質産生能が上昇していることを確認できた。
分化誘導培地を用いずに培養を行った場合、(G)1層、(H)2層、(I)3層と重層化させて培養を行っても細胞外基質は産生されなかった。スケールバー:200μm
したがって、In vitroで軟骨膜細胞は軟骨細胞とほぼ同様に軟骨に分化した。
A-C,G-I:アルシアンブルー染色D-F:I型コラーゲン染色(赤)、II型コラーゲン染色(緑)、DAP染色I(青) スケールバー:200μm
[図17]In vivoでヒト軟骨膜、軟骨細胞から再生された軟骨組織の組織学的検討。
A:移植1ヶ月後のヒト軟骨膜、軟骨細胞由来の再生軟骨 (A-D:軟骨膜細胞由来軟骨組織、E-H:軟骨細胞由来軟骨組織)
ヒト軟骨膜細胞由来の再生軟骨はI型コラーゲンにより覆われていたが、軟骨細胞由来の再生軟骨はI型コラーゲンにより覆われていなかった。
B:移植3ヶ月後のヒト軟骨膜、軟骨細胞由来の再生軟骨 (A-D:軟骨膜細胞由来軟骨組織、E-H:軟骨細胞由来軟骨組織)
ヒト軟骨膜細胞由来の組織は移植後1ヶ月と同様にI型コラーゲンにより覆われていたが、軟骨細胞由来の再生軟骨はI型コラーゲンにより覆われていなかった。
A,E:HE染色 B,F:アルシアンブルー染色 C,G:エラスチカ・ワンギーソン染色 D,H:I型コラーゲン染色(赤)、II型コラーゲン染色(緑)、DAP染色I(青) スケールバー:200μm
軟骨膜細胞が軟骨細胞と同様に軟骨を再生することを示す。軟骨膜細胞由来の再生軟骨は軟骨細胞由来の再生軟骨と異なり、軟骨膜で覆われている。これは、軟骨膜細胞由来の再生軟骨の方が長期的な形態維持能が優れていることを示唆する。
[図18]In vivoで再構成された軟骨の1mm2当たりの細胞数。
移植後1ヶ月及び3ヶ月目に摘出した組織の軟骨部における1mm2当たりの細胞数。
軟骨膜細胞由来の組織は移植後1ヶ月、3ヶ月目においても細胞数に変化が見られなかったのに対し、軟骨細胞由来の組織は移植後3ヶ月目において細胞数の減少がみられた。
*:p<0.05、**:p<0.01(Mann Whitney U-Test)
軟骨膜細胞は長期的形態維持能が軟骨細胞より優れていることを示す。
[図19]10%ヒト自家血清培地によるヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞のコロニー形成能の比較。
ヒト軟骨膜細胞はヒト軟骨細胞と比較して、培養9日目に大きなコロニーを形成した。倍率40倍
[図20]10%ヒト自家血清培地によるヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞の顕微鏡下での比較。
10%ヒト自家血清培地での各細胞は、10%ウシ血清培地と比較して、より早くコンフルエントになった。倍率40倍
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
従来、ヒト軟骨再生のためには、軟骨組織を塊として採取し、これをコラゲナーゼなどの酵素で処理して基質成分から軟骨細胞を単離し、この単離した軟骨細胞を培養して、移植治療、特に自家移植に用いてきた。
【0043】
しかし、本発明では、基質に存在する軟骨細胞ではなく、それを取り囲んでいる非常に薄い軟骨膜を採取すればよい。
例えば、弾性軟骨や硝子軟骨などの軟骨膜及び軟骨は4層から形成されている(図10)。すなわち、1)最外層(毛細血管を含む)、2)線維芽細胞層(主に軟骨膜細胞)(図10では「軟骨膜細胞層」と記す)、3)最内層(軟骨基質との移行部)、4)成熟軟骨層(軟骨基質に囲まれている)の4層である(例えば、Bairati A,Comazzi M,Gioria M.et al.,Tissue Cell 28:455-68.(1996),Tonna Labor.et al.,Invest 31:609-632(1974),Ellender et al.,J.Anat 158:173-187(1988)を参照のこと)。「最外層」は、I型コラーゲンを発現し、かつII型コラーゲンを発現していない層の最上層である毛細血管を含む。「線維芽細胞層」は、I型コラーゲンを発現し、かつII型コラーゲンを発現していない層で、最外層を含まない全て軟骨膜細胞で構成される。「最内層」は、「線維芽細胞層」とII型コラーゲンおよびプロテオグリカンを発現している軟骨基質を含む。「成熟軟骨層」は、II型コラーゲンおよびプロテオグリカンを発現し、かつI型コラーゲンを発現していない層である。
【0044】
いままでの軟骨採取方法は、1)-4)全て、もしくは3)と4)もしくは4)のみを採取する方法である。この従来の方法によると採取部位の軟骨組織は欠損するか元に戻らず、見かけ上は陥凹や変形などの醜形が認められることがある。
本発明では、1)と2)あるいは1)-3)を含んだ組織をピンセットとハサミなど鋭的な器具を用いて採取すればよい。また、剥離子など鈍的な器具を用いても良い。軟骨組織の大部分を占める軟骨細胞が存在する4)層は採取しなくてもよい。したがって、最小限の侵襲で採取可能であり、軟骨組織としての欠損はなく、醜形は生じないことが大きな利点である。これにより得られた組織をコラゲナーゼなどによりある一定条件の元に分離させる(例えば、0.1-0.3%コラゲナーゼ、37℃、1-3時間)。これは、軟骨膜細胞特有の分離方法である。あるいはまた、1)-4)を全て採取し、得られた組織をコラゲナーゼなどで分離する際に、軟骨膜細胞と軟骨細胞を分けることもできる。例えば、コラゲナーゼを作用させた場合、軟骨膜細胞は3時間以内で分離するが、軟骨細胞を分離するには10-16時間程度かかるので、この時間差を利用して、軟骨膜細胞と軟骨細胞を分離することができる。
分離させた細胞を培養皿に播種し、増殖用培地にて1週間程度培養する。その後、分化誘導培地にて、遠心管培養、単層化培養あるいは重層化培養を行うことで軟骨膜細胞は軟骨細胞に分化させることができる。
【0045】
本発明では、ヒト軟骨を除いたヒト軟骨膜から得られるヒト軟骨膜細胞を培養することによって、軟骨膜細胞を軟骨細胞に分化させることができる。
本発明は、軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を提供する。本発明の軟骨膜組織由来の細胞は、軟骨幹及び/又は前駆細胞であると考えられる。軟骨膜組織は、耳介や肋軟骨などの軟骨組織を構成する組織の一部であって、軟骨膜を含む部分である。具体的には、最外層と線維芽細胞層(軟骨膜細胞層)を含む組織、最外層と線維芽細胞層(軟骨膜細胞層)と最内層を含む組織である。本発明の細胞が由来するヒト軟骨膜組織は、最外層及び線維芽細胞層からなるとよく、最外層、線維芽細胞層及び最内層からなってもよい。軟骨膜組織は、ヒト、特に軟骨移植を必要とする患者から採取したものであるとよい。
軟骨膜組織に由来する細胞は、軟骨膜組織から単離した細胞であっても、その細胞を継代培養して得られた細胞であってもよい。
【0046】
本発明の細胞を得るには、軟骨膜組織を採取し、採取した組織から細胞を分離するとよい。軟骨膜組織の採取は、ピンセットとハサミなどの鋭的な器具を用いてもよいし、剥離子などの鈍的な器具を用いてもよい。軟骨膜組織から細胞を分離するには、軟骨膜組織を一定の条件下でコラゲナーゼ処理をし(例えば、0.1-0.3%コラゲナーゼ、37℃、1-3時間)、その後遠心分離する(例えば、1500rpm/5minで2回)とよい。これらの処理条件は適宜変更でき、その変更されたものも本発明の範囲内にある。軟骨膜組織から分離した細胞を培養することにより、細胞を増殖させ、さらには軟骨細胞に分化させることができる。
軟骨膜組織から分離した細胞を初代培養及び継代培養するには、血清(例えば、10%のFetal Bovine Serum(FBS)、移植の対象となる患者由来の血清)を添加したDulbecco’s Modified Eagles’s Medium/Nutrient Mixture F12(DMEM/F12)もしくはNutrient Mixture F-12 Ham(F-12 Ham)中にて、約37℃で培養するとよい。培地は2-4日毎に交換するとよい。
軟骨細胞は、増殖させるために長期間の培養が困難であるが、軟骨膜細胞は軟骨細胞と比較して長期間の増殖培養が可能である。
軟骨膜組織から分離した細胞を軟骨細胞に分化させるには、血清を含む培地、例えば、DEME/F12、血清(例えば、10%のFBS、移植の対象となる患者由来の血清)、抗生物質及び抗ミトティック剤を含有する培地中にて、約37℃で培養するとよい。抗生物質と抗ミトティック剤の両方を含む薬剤としては、antibiotic antimycotic solution SIGMA A5955などを使用することができる。培地には、40~60μg/mlのデキサメタゾン(Dexamethasone)及び/又は30~60μg/mlのL-アスコルビン酸(L-ascorbic acid)をさらに添加してもよい。また、インスリン様成長因子(例えば、5~10ng/mlのInsulinlike growth factor-1(IGF-1)、、5~10ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(basic Fibroblast growth factor(bFGF))などをさらに添加してもよい。その他に、5~10ng/mlのインスリン(Insulin)などを添加してもよい。培地交換は2-3日毎にするとよい。
軟骨膜組織由来の細胞を遠心管培養することにより細胞塊を形成させることができる。例えば、5ng/mlのInsulinlike growth factor-1(IGF-1)、5ng/mlのbasic Fibroblast growth factor(bFGF)、40ng/mlのDexamethasone、L-ascorbic acid、1%Antibiotic antimicotic solution、Insulin・Transferrin・Serine(ITS)を含むDMEM/F12の無血清培地中にて、約37℃で遠心管培養で2-4週間培養すると、細胞塊が形成する。
【0047】
また、軟骨膜組織由来の細胞を平板培養で単層化又は重層化することができる。例えば、DMEM/F12に10%FBSと1%Antibiotic antimicotic solutionを含んだ培地もしくはDMEM/F12に10%FBS、1%Antibiotic antimicotic solution、5ng/mlのIGF-1、5ng/mlのbFGF、40ng/mlのDexamethasoneを含んだ培地を用いて平板培養し、1週間毎に重層化すると、基質(例えば、プロテオグリカン)産生能が高まる。重層化の回数は、用途や必要とされる組織の大きさなどによって異なるが、通常、3~5回が適当である。
上記培地の組成及び成分含量は適宜変更でき、その変更されたものも本発明の範囲内にある。
従って、本発明は、軟骨膜組織から分離した細胞を培養することを含む、軟骨細胞に分化しうる細胞の調製方法を提供する。
【0048】
また、本発明は、軟骨膜組織由来の細胞を軟骨細胞に分化させることを含む、軟骨細胞の調製方法を提供する。一般に、軟骨膜細胞と軟骨細胞は産生する物質が異なる。軟骨膜細胞はI型コラーゲン、軟骨細胞はII型コラーゲンとプロテオグリカン中に存在し、これらを産生することが知られている。軟骨膜細胞と軟骨細胞は、これらの産生物質により見分けることができる。
【0049】
さらに、本発明は、軟骨膜組織由来の細胞を軟骨細胞に分化させることにより調製された軟骨細胞も提供する。
軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を生体内に移植することにより、先天性耳介奇形の治療、肋軟骨欠損の治療、関節軟骨損傷(例えば、変形性膝関節症)の治療、気管軟骨欠損の治療、隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術、顔面の美容整形術などを行うことができる。細胞移植の際には、さらに、これらの細胞が産生した基質(例えば、I、II型コラーゲン、アグリカンなどのプロテオグリカンなどを添加してもよい。また、軟骨組織由来の軟骨細胞を添加してもよい。軟骨組織は、ヒト、特に軟骨移植を必要とする患者から採取したものであるとよい。軟骨細胞を得るには、軟骨組織を採取し、採取した組織から細胞を分離するとよい。軟骨組織から細胞を分離するには、軟骨組織を一定の条件下でコラゲナーゼ処理をするとよい(例えば、0.1-0.2%コラゲナーゼ、37℃、10-16時間)。初代培養の細胞数を増やす目的で、軟骨細胞を別の培養系もしくは軟骨細胞に添加すると、もともと初代培養の細胞数が多いため、より短時間の培養で移植に必要な細胞数を用意することができる。移植の際には何も加えずに移植するか、I、II型コラーゲンあるいはプロテオグリカンなどを添加しても良い。
細胞移植は、軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を注射器で患部に注入することによって、行うことができる。
【0050】
軟骨膜組織に由来する細胞であって、軟骨細胞に分化しうる前記細胞を足場(軟骨治療材)とともに培養することにより、三次元的な構造を持つ軟骨組織を形成することができる。足場材料としては、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体、また、ポリエチレンなどの非吸収性材料などを挙げることができる。
また、軟骨膜組織由来の細胞を軟骨細胞に分化させることにより調製された軟骨細胞及び/又はこの軟骨細胞が形成する軟骨組織を用いて、先天性耳介奇形の治療、肋軟骨欠損の治療、関節軟骨損傷(例えば、変形性膝関節症)の治療、気管軟骨欠損の治療、隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術、顔面の美容整形術などを目的とする移植治療を行うことができる。移植治療の際には、さらに、これらの軟骨細胞が産生した基質(例えば、I、II型コラーゲン、プロテオグリカン、アグリカン)を添加してもよい。また、軟骨組織由来の軟骨細胞を添加してもよい。軟骨細胞を得る方法及び軟骨細胞を添加する利点は上記の通りである。さらに、細胞培養中に吸収性あるいは非吸収性材料を培養器の底に置くことで軟骨膜細胞を材料の中に入れることができる。そのまま患部に移植することができる。
軟骨細胞の移植は、細胞を注射器で患部に注入することによって行うことができる。
材料などの足場を用いる軟骨組織の移植は、外科的な移植手術によって行うことができる。例えば、隆鼻術、耳介形成術における手術などの外科的な手法を用いることができる。
【0051】
さらに、本発明は、軟骨膜細胞を軟骨細胞に分化させること、及び該軟骨細胞に基質を産生させることを含む、軟骨細胞の産生する基質の調製方法を提供する。軟骨細胞の産生する基質としては、II型コラーゲン、プロテオグリカンを例示することができる。これらの基質は、化粧品、食品、健康食品、医薬品などに利用できる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されることはない。
【実施例1】
【0052】
以下、採取時における軟骨膜組織とは組織学的に最外層および線維芽細胞層を指し、軟骨膜-軟骨移行部組織は最内層を指す。
【0053】
軟骨膜細胞の採取
耳介や肋軟骨などの軟骨組織(本人もしくは両親の承諾を得て手術の際に余剰となるヒト耳介軟骨から得られた軟骨膜を使用した。神奈川県立こども医療センターおよび横浜市立大学医学部付属病院の倫理委員会の承認済)から軟骨膜組織を採取するためにピンセットとハサミなど鋭的な器具を用いた。また、剥離子など鈍的な器具を用いても良い。鋭的な器具を用いた場合、軟骨膜だけが採取されているかを確認するために、個体毎に組織切片にて確認した(図1)。
【0054】
得られた組織から脂肪組織など軟骨膜上にあるすべての組織を取り除いた。次にハサミなど鋭的な器具を用いて用手的に軟骨膜を採取した。
【0055】
採取した軟骨膜組織を軟骨基質特有染色であるアルシアンブルー染色にて個体ごとに確認した。採取した軟骨膜組織はアルシアンブルー染色にて全く染色されないが、軟骨膜-軟骨移行部組織の一部と軟骨組織の全ては染色された(図11)。
軟骨膜細胞の分離
得られた軟骨膜はハサミ、メスなどを用いて裁断し、0.1-0.3%コラゲナーゼ中で37℃、1-3時間振とうした。その後、遠心し(1500rpm/5minで2回)、沈殿物を回収した。これにより軟骨膜細胞を分離することができた。
軟骨膜細胞の初代培養
上記により得られた軟骨膜細胞をDulbecco’s Modified Eagles’s Medium/Nutrient Mixture F12(DMEM/F12)と10%Fetal Bovine Serum(FBS)中にて37℃で平板培養し培地は週2回交換した。2週間以内で細胞は増殖し密集したが、これを継代培養に使用した。7-10日で細胞は増殖し密集した。継代培養は少なくとも6ヶ月続けることができた。
軟骨膜細胞の軟骨への分化
a)軟骨膜細胞を遠心(1500rpm/5minで2回)で沈殿させ、細胞塊を形成した。これの細胞塊を5ng/mlのInsulinlike growth factor-1(IGF-1)、5ng/mlのbasic Fibroblast growth factor(bFGF)、40ng/mlのDexamethasone、30~60μg/mlのL-ascorbic acid、1%Antibiotic antimicotic solution、1%Insulin・Transferrin・Serine(ITS)を含むDMEM/F12の無血清培地中で3-4週間培養した。得られた白色をアルシアンブルーで染色したところ細胞外基質が青色に染まり軟骨マーカーであるアグリカンの存在を示唆するものであった。同様の手法で得られた軟骨細胞による細胞塊と比較してもほぼ同等であった(図2)。
軟骨細胞は剥離子など鈍的な器具を用いて採取した。つぎに、遠心(1500rpm/5minで2回)で沈殿させ、細胞塊を形成した。細胞塊を5ng/mlのInsulinlike growth factor-1(IGF-1)、5ng/mlのbasic Fibroblast growth factor(bFGF)、40ng/mlのDexamethasone、30~60μg/mlのL-ascorbic acid、1%Antibiotic antimicotic solution、1%Insulin・Transferrin・Serine(ITS)を含むDMEM/F12の無血清培地中で3-4週間培養した。
b)平板培養した密集状態の軟骨膜細胞上に、更に軟骨膜細胞を播種した。培地はDMEM/F12に10%FBSと1%Antibiotic antimicotic solutionを含んだものもしくはDMEM/F12に10%FBS、1%Antibiotic antimicotic solution、5ng/mlのIGF-1、5ng/mlのbFGF、40ng/mlのDexamethasoneを含んだものを使用した。
後者の培地を使用して、培養1週目の細胞と培養3週目の軟骨膜細胞および軟骨細胞をアルシアンブルー染色(図3,4)、Reverse transcription-Polymerase chain Reaction(RT-PCR)(図5)とquantitative PCR(図6)を行い比較した。アルシアンブルー染色はホルマリン固定した後に、組織切片に準じて行った。その結果、アルシアンブルー染色では細胞皿上で青く染色された。RT-PCRおよびquantitative PCR用に、軟骨膜細胞と散骨細胞からRNAの抽出を行った。RNAの抽出はRAeasy(QIAGEN社)を用い、そのプロトコールに従った。得られたRNAよりRNA PCRkit(Takara社)を用いてcDNAを得た。RT-PCRのプライマーはI型コラーゲンF:atgctcagctttgtggatacgcgg(配列番号1)、R:aggaaagccacgagcaccctgtgg(配列番号2)、II型コラーゲンF:catcattgacattgcacccatg(配列番号3)、R:ttagtttcctgtctctgccttg(配列番号4)、アグリカンF:caggtgaagactttgtggacatcc(配列番号5)、R:cctcctcaaaggtcagcgagtagc(配列番号6)を使用した。また、quantitative PCRのプライマーはTaqman Gene Expression Assays(Applied Biosystems社)のI型コラーゲン:Hs00266273_ml、II型コラーゲン:Hs00164099_ml、アグリカン:Hs00202971_mlを使用した。
この結果、軟骨膜マーカーであるI型コラーゲンは減少し、軟骨マーカーであるII型コラーゲンは増加しており、軟骨膜細胞は軟骨細胞に分化していることが示唆された。また、細胞皿の上清を採取しBlyscan(Biocolor社)を用いて、酵素免疫測定法(ELISA:Enzyme Linked Immuno sorbent Assay)にて軟骨細胞が産生するプロテオグリカンの定量測定を行った結果、軟骨膜細胞は軟骨細胞と同等のプロテオグリカン産生能を示した(図7)。
【0056】
以上より軟骨膜細胞と軟骨細胞の間で軟骨細胞への分化に関して大きな差異は認めず、軟骨膜細胞は軟骨細胞とほぼ同等の軟骨分化能を有していることが示唆された。
軟骨膜細胞の移植
上記培養bにより得られた細胞をセルリフターによって回収し、重症免疫不全マウス(三協、日本)の背部皮下に移植した。2ヶ月後に採取し、組織学的に検討した。採取した組織を組織学的に検討するために、薄切し組織標本を作った。これに対し、軟骨組織特有の基質であるプロテオグリカンを染めるためのアルシアンブルー染色を行った。また、軟骨組織の基質であるII型コラーゲンおよび軟骨周囲を覆っているI型コラーゲンについての免疫染色を行った。その結果、軟骨組織の細胞外基質にアルシアンブルー染色で青色に染まり軟骨マーカーであるプロテオグリカンの存在が示唆された(図8)。また、軟骨組織の細胞外基質がII型コラーゲンで染色され、軟骨周囲組織はI型コラーゲンで染色された(図9)。従って、培養された軟骨膜細胞を移植すると軟骨組織を形成することが確認された。
【0057】
In vitroにおける軟骨膜細胞と軟骨細胞のコロニーの比較
得られた軟骨膜細胞と軟骨細胞について、コロニーアッセイを行った。各細胞を、35mmイージーグリップ細胞培養ディッシュに1cells/cmに調整し播種した。細胞は10%fetal bovine serum、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い、気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行った。培地交換は播種24時間後から3日に1回行った。1ヶ月間の培養後、形成されたコロニーを顕微鏡下に確認し、写真撮影を行った。その結果、軟骨膜細胞のコロニーの方が軟骨細胞のコロニーよりも大きかった(図12)。
【0058】
ヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞のコロニー形成能の比較
得られた軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞について、コロニーアッセイを行った。各細胞を、35mmイージーグリップ細胞培養ディッシュに52cells/cmに調整し播種した。細胞は10%fetal bovine serum、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い、気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行った。培地交換は、播種24時間後から3日に1回行った。14日間の培養後、コロニー数のカウントを行った。50個以上の細胞集団を1コロニーとした。コロニー数を比較すると軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞の順で高いコロニー形成能が認められた(図13)。
【0059】
:p<0.001(Mann Whitney U-Test with Bonferroni correction)n=27(patient No,=3)。
【0060】
ヒト軟骨膜、軟骨-軟骨膜移行部、軟骨細胞の長期的な増殖能の比較
得られた軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞について、長期的な増殖能力を検討した。各細胞を、35mmイージーグリップ細胞培養ディッシュに1200cells/cm播種した。細胞は10%fetal bovine serum、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い、気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行った。培地交換は播種24時間後から3日に1回行った。約14日間の培養後、細胞はコンフルエントになり0.2%コラゲナーゼタイプIIを含有するHank’s balanced solutionを用いて細胞を剥離し、血球計算板を用いて細胞数をカウントした後、35mmイージーグリップ細胞培養ディッシュに1200cells/cm播種した。この操作を繰り返して行った。182日間にわたって14継代を行った結果、軟骨膜細胞は、軟骨膜-軟骨移行部細胞や軟骨細胞よりも著名に高い増殖能を認めた(図14)。また、軟骨膜-軟骨移行部細胞は軟骨細胞よりも高い増殖能を認めた(図14)。
【0061】
:p<0.001(Mann Whitney U-Test with Bonferroni correction) n=5(patient No,=5)
In vitroでの脂肪と骨への分化誘導
軟骨膜細胞と軟骨細胞を骨および脂肪への分化誘導を3週間行った。骨分化誘導培地はhMSC Osteogenic SingleQuots(登録商標)を用いた。脂肪分化誘導培地はhMSC Adipogenic Induction SingleQuots(登録商標)を用いた。その結果、軟骨膜細胞は脂肪滴を形成しOil red Oにて染色されたが、軟骨細胞は脂肪滴を形成しなかった(図15A)。さらに、軟骨膜細胞は多数のCaの沈着を認めアリザリンレッドにて染色されたが、軟骨細胞はCaの沈着を認めず、アリザリンレッドにて染色されなかった(図15B)。
【0062】
In vitroでの軟骨への分化誘導
軟骨膜細胞と軟骨細胞を重層化培養により軟骨細胞への分化誘導を行った。各細胞を2.5×10cells/cmに調節し播種した。7日間の培養後、0.2%コラゲナーゼタイプIIを含有するHank’s balanced solutionを用いて細胞を剥離した。そして、細胞を2.5×10cells/cmに調節して、7日間培養した細胞の上に重層化して播種した。播種後48時間までは10%fetal bovine serum、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い培養を行い、48時間後からは10%fetal bovine serum、1%Antibiotic Antimycotic Solution、L-ascorobic acid 2-phosphate、Dexamethasone、Insuline Growth Factor-I、basic Fibroblast Growth Factorを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用いて培養を行った。この培地を用い、4日間培養を行った後、さらに2.5×10cells/cmの細胞を上に播種し、同様に培養を行った。この操作を1週間毎に計2回行った。気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行い、培地交換は3日に1回行った。この操作中に1週間毎に3週間まで組織学的検討を行った。その結果、細胞皿上で軟骨膜細胞は軟骨細胞と同様にアルシアンブルーにて染色され、II型コラーゲンにて染色された(図16A,B)。
【0063】
In vivoでヒト軟骨膜、軟骨細胞から再生された軟骨組織の組織学的検討
分化誘導培地を用いて軟骨に分化誘導させた軟骨膜細胞由来と軟骨細胞由来の軟骨細胞をセルリフターにて剥離した。剥離した細胞は23G注射針(テルモ、都市名Japan)を装着した2.5mlシリンジ(テルモ、Japan)に回収した。背部の除毛を行った重症免疫不全マウス(三協、日本)の背部皮下に1mlずつシリンジ内の細胞を注入し、移植を行った。移植後、1ヶ月及び3ヶ月目に摘出を行い、組織学的に検討した。各々、ヘマトキシリン-エオジン、アルシアンブルー、エラスチカ・ワンギーソン、I型、II型コラーゲンの染色を行った。その結果、軟骨膜細胞および軟骨細胞由来の組織はともにアルシアンブルー、エラスチカ・ワンギーソンにより染色された(図17A,BともにB,C,F,G)。さらに、軟骨膜細胞由来の組織は、I型コラーゲン、II型コラーゲンにて染色された(図17A,BともにD)。一方、軟骨細胞由来の組織はII型コラーゲンに染色されたが、I型コラーゲンには染色されなかった(図17A,BともにH)。
【0064】
In vivoで再構成された軟骨の1mm2当たりの細胞数
上記のIn vivoでヒト軟骨膜、軟骨細胞から再生された軟骨組織の組織学的検討にて得られた移植後1ヶ月及び3ヶ月目に摘出した組織の軟骨部における1mm当たりの細胞数を計測した。軟骨膜細胞由来の組織は移植後1ヶ月、3ヶ月目においても細胞数に変化が見られなかったのに対し、軟骨細胞由来の組織は移植後3ヶ月目において細胞数の減少がみられた(図18)。
【0065】
*:p<0.05、**:p<0.01(Mann Whitney U-Test)
ヒト自家血清の作成方法
軟骨を採取した同一患者より得られたヒト自家血液を室温にて20分静置後、3000回転で10分間遠心分離し、上清部分をヒト自家血清として回収した。培養には、37℃で30分非動化を行い、0.45μmのフィルターでろ過滅菌したヒト自家血清を用いた。
【0066】
10%ヒト自家血清培地によるヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞のコロニー形成能の比較
得られた軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞について、コロニーアッセイを行った。各細胞を、35mmイージーグリップ細胞培養ディッシュにあたり500cellsに調整し播種した。細胞は10%ヒト自家血清、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い、気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行った。培地交換は、播種24時間後から7日に1回行った。9日間培養後、コロニーの写真を撮影した(図19)。ヒト軟骨膜細胞はヒト軟骨細胞と比較して、培養9日目に大きなコロニーを形成した。
【0067】
10%ヒト自家血清によるヒト軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞の顕微鏡下での比較
得られた軟骨膜細胞、軟骨膜-軟骨移行部細胞、軟骨細胞について、各細胞を、24穴細胞培養プレート1穴あたりに5000cellsに調整し播種した。細胞は10%ヒト自家血清、1%Antibiotic Antimycotic Solutionを含有するDulbecco’s modified Eagle medium and Ham’s F-12mediumを用い、気相条件を37℃、CO濃度5%に設定したインキュベータ内で培養を行った。培地交換は、播種24時間後から3日に1回った。10日間培養後、写真を撮影した(図20)。10%ヒト自家血清培地での各細胞は、10%ウシ血清培地と比較して、より早くコンフルエントになった。
【0068】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、ヒト軟骨膜細胞を増殖・分化させて、ヒト軟骨細胞を培養することが可能となった。さらに、遠心管培養、ヒト軟骨膜細胞をコラーゲンゲルなどによる3次元培養や重層化培養することでヒト軟骨細胞塊を得ることができる。また、得られたヒト軟骨細胞塊をそのまま、もしくはコラーゲンゲルなどの軟骨治療材に包埋し、移植することで、軟骨に関する疾病(例えば、先天性耳介奇形、肋軟骨欠損、変形性膝関節症などの関節軟骨損傷(例えば、変形性膝関節症)、気管軟骨欠損など)に利用できる。また、美容整形分野での審美的改善のための治療、例えば隆鼻術、オトガイ形成術、顔面の小陥凹形成術、顔面左右非対称の修正術、眼瞼周囲の修正術や顔面の美容整形術の軟骨移植の治療にも有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0070】
<配列番号1>
配列番号1は、I型コラーゲンのRT-PCRフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、I型コラーゲンのRT-PCRリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、II型コラーゲンのRT-PCRフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、II型コラーゲンのRT-PCRリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、アグリカンのRT-PCRフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、アグリカンのRT-PCRリバースプライマーの塩基配列を示す。
[配列表]
JP0004748222B2_000002t.gifJP0004748222B2_000003t.gif
図面
【図6】
0
【図7】
1
【図13】
2
【図14】
3
【図1】
4
【図2】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図5】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図11】
12
【図12】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19