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明細書 :ノックアウト非ヒト動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5822248号 (P5822248)
公開番号 特開2011-092026 (P2011-092026A)
登録日 平成27年10月16日(2015.10.16)
発行日 平成27年11月24日(2015.11.24)
公開日 平成23年5月12日(2011.5.12)
発明の名称または考案の名称 ノックアウト非ヒト動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 31
出願番号 特願2009-246551 (P2009-246551)
出願日 平成21年10月27日(2009.10.27)
審査請求日 平成24年9月19日(2012.9.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
発明者または考案者 【氏名】野出 孝一
【氏名】吉田 裕樹
【氏名】原 博満
【氏名】平瀬 徹明
【氏名】宮崎 義之
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100149010、【弁理士】、【氏名又は名称】星川 亮
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 特表2007-523169(JP,A)
特開2006-249033(JP,A)
特開2006-315988(JP,A)
特開平11-056375(JP,A)
特表2000-503204(JP,A)
Nature Genetics,2009年 6月,Vol.41, No.6,p.703-707
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/09 - 15/90
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus(JDreamIII)
PubMed
CiNii
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特許請求の範囲 【請求項1】
EBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子及びWSX-1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物又はその一部を、心不全モデルとして使用する方法
【請求項2】
IL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下しているノックダウン非ヒト動物又はその一部を、心不全モデルとして使用する方法
【請求項3】
心不全治療薬のスクリーニング方法であって、
(a)請求項1又は2記載の動物又はその一部に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物又はその一部における心不全の状態と、対照の心不全の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質の心不全改善効果を評価し、
(d)心不全改善効果を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ノックアウト非ヒト動物の疾患モデル動物としての使用などに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は生活習慣病のひとつであり、わが国でも推定罹患者数が1600万人ともいわれている。糖尿病は、インシュリン作用の不足、つまりインシュリンの供給不足と、インシュリン標的臓器での感受性の低下が原因となり、血液中のブドウ糖が増えすぎて(高血糖)尿の中に糖が溢れてきた状態(糖尿)をいう。実際は血液中のブドウ糖の量(血糖値)を測定することにより診断される。さらに、糖尿病は、神経障害、網膜症、腎症などの合併症を引き起こすことも知られており、また、他の生活習慣病である、肥満、高脂血症及び高血圧などと重複した代謝症候群(metabolic syndrome)は、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管疾患の主要な原因になるといわれている。したがって、糖尿病の原因解明とそれに立脚した根本的な予防法や治療法の確立がきわめて重要であり、糖尿病のモデル動物の作製が望まれてきた。
【0003】
また、心不全は、心臓が各臓器の需要に見合う血液を拍出できないために生じる症候群の総称であり、5年生存率が約50%という極めて予後不良の疾患である。現在、利尿薬・ジギタリス・カテコラミン・アンジオテンシン変換酵素阻害薬・β遮断薬等が心不全治療に用いられているものの、病態の進行を完全に抑制し、あるいは完全な健康体へと快復させる治療法は心移植術以外に存在せず、より有用な新しい心不全治療薬の発見が望まれている。新たな心不全治療薬の発見には、心不全モデル動物を用いたスクリーニングが重要であり、心不全モデル動物の作製が望まれていた。
【0004】
ところでインターロイキン27(IL27)は、IL27-p28とEpstein-Barr virus(EBV)-induced gene 3(EBI3)の2つの異なるサブユニットを含むサイトカインである。一方、IL27受容体(IL27R)は、WSX-1とglycoprotein 130とのヘテロダイマーで構成される。IL27は、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞のような抗原提示細胞で発現する。抗原提示細胞で発現したIL27は、CD4ナイーブT細胞の増殖を促す。また、IL27は、IL12と共にCD4ナイーブT細胞に作用し、TH1型サイトカインであるインターフェロン-γ(IFNγ)の産生を促す。さらに、IL27は、TH1型免疫応答に特異的な転写因子であるT-betをアップレギュレートさせ、これにより、TH2型免疫応答に特異的な転写因子であるGATA-3をダウンレギュレートさせる。IL27は、免疫細胞の増殖に必要なIL2の産生を抑制し、また炎症が関わる疾患の病態形成に重要な役割を果たすTH17型細胞の分化を抑制する。また、IL27は、様々な炎症性サイトカインの産生を抑制する作用を有している。したがって、IL27は、様々な免疫・炎症反応を抑制する作用を有する。
【0005】
ここで、特許文献1:特表2007-523169号公報には、IL27Rノックアウトマウスは、TH1型免疫応答が失われており、例えば、(a)IFNγの産生量が減少する、(b)Leishmania、Listeria、及びTrypanosomaのような細胞内病原体に対して過敏になる、(c)TH1型T細胞依存性抗体(IgG2aサブタイプ)の産生量が少なくなる、(d)Bacillusに応答して異常な肉芽腫を形成する、などの症状が見られることが記載されている。さらに、IL27Rに対するアンタゴニストを投与することにより、皮膚の炎症状態、関節炎、クローン病、気道過敏性、気道の炎症、アテローム性動脈硬化症などが改善できることも記載されている。
【0006】
特許文献2:特表2007-525415号公報には、IL27Rに対するリガンドを使用することにより、免疫疾患又はヘルパーT細胞媒介性疾患を治療できることが記載されている。
【0007】
非特許文献1:Immunity 15, 569-78には、IL27の作用が失われたマウスにおいて、Leishmania major感染後のTh1型免疫反応の低下が記載されている。
【0008】
非特許文献2:Immunity 19, 657-667には、IL27の作用が失われたマウスにおいて、Trypanosoma cruzi感染後に炎症性サイトカインの過剰生産が生じることが記載されており、非特許文献3:J Immunol 177, 5377-85には、IL27がリンパ球に作用して、様々なサイトカインの産生を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特表2007-523169号公報
【特許文献2】特表2007-525415号公報
【0010】

【非特許文献1】Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX-1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569-78.
【非特許文献2】Hamano, S., Himeno, K., Miyazaki, Y., Ishii, K., Yamanaka, A., Takeda, A., Zhang, M., Hisaeda, H., Mak, T.W., Yoshimura, A., Yoshida, H. (2003) WSX-1 Is Required for Resistance to Trypanosoma cruzi Infection by Regulation of Proinflammatory Cytokine Production. Immunity 19, 657-667.
【非特許文献3】Yoshimura, T., Takeda, A., Hamano, S., Miyazaki, Y., Kinjyo, I., Ishibashi, T., Yoshimura, A., Yoshida, H. (2006) Two-Sided Roles of IL-27: Induction of Th1 Differentiation on Naive CD4+ T Cells versus Suppression of Proinflammatory Cytokine Production Including IL-23-Induced IL-17 on Activated CD4+ T Cells Partially Through STAT3-Dependent Mechanism. J Immunol 177, 5377-85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記状況において、糖尿病治療薬、心不全治療薬等のスクリーニングに使用できる糖尿病、心不全等モデル非ヒト動物などが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、IL27又はIL27Rの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物が、糖尿病治療薬、心不全治療薬等のスクリーニングに有用であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示す、糖尿病、心不全等モデル非ヒト動物、その非ヒト動物を用いた糖尿病治療薬、心不全治療薬等のスクリーニング方法などを提供する。
(1) EBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子及びWSX-1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物又はその一部からなる、IL27シグナル不活性化関連疾患モデル動物又はその一部。
(2) IL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下しているノックダウン非ヒト動物又はその一部からなる、IL27シグナル不活性化関連疾患モデル動物又はその一部。
(3) IL27シグナル不活性化関連疾患が、糖尿病、糖尿病性合併症、及び心不全からなる群から選択される少なくとも1つの疾患である、上記(1)又は(2)記載の動物又はその一部。
(4) 糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法であって、
(a)上記(1)~(3)のいずれか1項記載の動物又はその一部に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物又はその一部における糖尿病又は糖尿病性合併症の状態と、対照の糖尿病又は糖尿病性合併症の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質の糖尿病改善効果又は糖尿病性合併症改善効果を評価し、
(d)糖尿病改善効果又は糖尿病性合併症改善効果を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
(5) 心不全治療薬のスクリーニング方法であって、
(a)上記(1)~(3)のいずれか1項記載の動物又はその一部に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物又はその一部における心不全の状態と、対照の心不全の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質の心不全改善効果を評価し、
(d)心不全改善効果を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、IL27及び/又はIL27Rの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物又はその一部からなる、糖尿病、心不全等の疾患モデル動物又はその一部を提供する。該モデル動物は、例えば、糖尿病治療薬、心不全治療薬等をスクリーニングするために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はストレプトゾトシン投与前(0日目)、投与後7,14,21,28日目の空腹時血糖を示すグラフである。野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)において、ストレプトゾトシン投与後7,14,21,28日目の空腹時血糖が高い傾向にあることを示している。「*」は、28日目のEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)の血糖が同日の野生型マウス(WT)に比して有意に高いことを示し(p<0.05)、また、「**」は、14日目及び28日目のWSX-1ノックアウトマウス(WSX-1-/-)の血糖が、それぞれ、14日目及び28日目の野生型マウス(WT)に比して有意に高いことを示す(p<0.05)。
【図2】図2は、ストレプトゾトシン投与後14日目の膵臓ランゲルハンス島のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色(上段:HE)とプロインスリンに対する蛍光抗体像(下段:proinsulin)を示す図である。野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)においてHE染色ではより多くの白血球浸潤が生じており、また、プロインスリンに対する蛍光抗体像ではプロインスリンがより減少している。
【図3】図3は、ストレプトゾトシン投与後14日目の膵臓ランゲルハンス島のインスリン前駆体量(プロインスリン量)の定量結果を示すグラフである。野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)においてプロインスリンが減少している。
【図4】図4は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシン(STZ)とリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時の、空腹時血糖を示すグラフである。ストレプトゾトシンの投与開始前(0日目)と、投与7,14日後の空腹時血糖を測定した。図4において、「+」は、リコンビナントマウスIL27投与群を、「-」は、対照溶媒投与群を示す。野生型マウス及びEBI3ノックアウトともにリコンビナントマウスIL27投与により空腹時血糖が低下した。「*」は、野生型マウス(WT)ではストレプトゾトシン(STZ)投与14日後に対照溶媒投与群がリコンビナントマウスIL27投与群に比して血糖が高かったことを示し(p<0.05)、また、「**」は、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)ではストレプトゾトシン(STZ)投与7日後及び14日後に対照溶媒投与群がリコンビナントマウスIL27投与群に比して血糖が高かったことを示す(p<0.05)。
【図5】図5は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシン(STZ)とリコンビナントマウスIL27(rIL27)又は対照溶媒とを投与した時の、MOMA2の染色像を示す図(A)とMOMA2陽性細胞の細胞数を計測した結果を示すグラフ(B)である。図5に示されているように、ランゲルハンス島に浸潤したMOMA2陽性マクロファージ数は野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において多く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)ともに浸潤マクロファージ数は減少した。
【図6】図6は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシン(STZ)とリコンビナントマウスIL27(rIL27)又は対照溶媒とを投与した時の、CD4抗原の染色像を示す図(A)とCD4抗原陽性細胞の細胞数を計測した結果を示すグラフ(B)である。図6に示されているように、膵臓ランゲルハンス島に浸潤したCD4陽性Tリンパ球数は野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において多く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)ともに浸潤CD4陽性Tリンパ球数が減少した。「*」は、ストレプトゾトシン(STZ)投与群では野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)においてCD4陽性Tリンパ球数が多かったことを示す(p<0.05)。
【図7】図7は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)にイソプロテレノール(ISO(+))又は対照溶媒(ISO(-))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))とを投与して7日後に摘出した心臓の重量(体重補正値)の測定結果を示すグラフである。EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)において野生型マウス(WT)に比べてイソプロテレノール投与による心臓重量の増加が大きい傾向にあった。また、イソプロテレノール投与による心臓重量の増加は、リコンビナントマウスIL27(rIL27)の投与により抑制された。「*」は、対照溶媒を投与した野生型マウス(WT)に比して有意に体重補正心重量が重いことを示し(p<0.05)、「**」は、イソプロテレノールを投与した野生型マウス(WT)に比して有意に体重補正心重量が重いことを示す(p<0.05)。
【図8】図8は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)にイソプロテレノール(ISO(+))又は対照溶媒(ISO(-))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))とを投与して7日後に摘出した心臓の心筋細胞サイズの測定結果を示すグラフである。EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)において野生型マウス(WT)に比べてイソプロテレノール投与による心筋細胞サイズの増加が大きい傾向にあった。また、イソプロテレノール投与による心筋細胞サイズの増加は、リコンビナントマウスIL27(rIL27)の投与により抑制された。「*」は、対照溶媒を投与した野生型マウス(WT)に比して有意に心筋細胞サイズが大きいことを示し(p<0.05)、「**」は、イソプロテレノールを投与した野生型マウス(WT)に比して有意に心筋細胞サイズが大きいことを示す(p<0.05)。
【図9】図9は、ラット新生児心筋細胞にリコンビナントIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))を投与し、その心筋細胞を位相差顕微鏡で観察した写真(A)と、その心筋細胞の細胞表面積を測定した結果を示すグラフ(B)である。イソプロテレノール(ISO)投与による培養心筋細胞表面積の増加をリコンビナントIL27が抑制した。尚、図9(B)において、縦軸の単位は、ピクセルである。「*」は、リコンビナントIL27(rIL27)の非存在下でイソプロテレノール(ISO)の代わりに対照溶媒を投与した心筋細胞に比して、リコンビナントIL27(rIL27)の非存在下でイソプロテレノール(ISO)を投与した心筋細胞の細胞表面積が有意に大きいことを示し、「**」は、イソプロテレノール(ISO)存在下でリコンビナントIL27(rIL27)を投与した心筋細胞の細胞表面積が、イソプロテレノール(ISO)の非存在下でリコンビナントIL27(rIL27)の代わりに対照溶媒を投与した心筋細胞に比して有意に小さいことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。

【0017】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、IL27及び/又はIL27受容体(IL27R)遺伝子の全部又は一部の機能が喪失するように作出されたものである。

【0018】
本発明のノックアウト非ヒト動物にストレプトゾトシンを投与してインスリン産生減少及び高血糖を誘発させたとき、本発明のノックアウト非ヒト動物に誘発したインスリン産生減少及び高血糖は、野生型非ヒト動物に誘発したインスリン産生減少及び高血糖と比較して、重度であることが分かった。また、本発明のノックアウト非ヒト動物にβ1アドレナリン作動薬を投与して心肥大を誘発させたとき、本発明のノックアウト非ヒト動物に誘発した心肥大は、野生型非ヒト動物に誘発した心肥大と比較して、重度であることが分かった。これらのことから、本発明の動物は、糖尿病、心不全等に類した病態を表すモデル動物として使用できる。

【0019】
1.本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部
本発明のノックアウト非ヒト動物とは、該動物のIL27及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部がその本来の機能を発揮しないように破壊されているか、又は組み換えがなされている動物を意味する。IL27及び/又はIL27R遺伝子は、ゲノム上の一方のアリルが機能しないように破壊又は変異されたヘテロノックアウト(ヘテロ接合体)でもよく、両方のアリルが破壊又は変異されたホモノックアウト(ホモ接合体)でもよい。本発明のノックアウト非ヒト動物には、このような動物の子孫も含まれる。

【0020】
「遺伝子の全部の機能が失われた」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺伝子の一部の機能が失われた」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「その本来の機能を発揮しない」とは、IL27及び/又はIL27Rの発現自体が行なわれないようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が低下又は喪失していることを意味する。

【0021】
「ノックダウン」とは、特定の遺伝子の発現量を抑制することを意味する。遺伝子の発現量の抑制は、例えば、遺伝子の転写量を減少させること、翻訳を阻害することなどにより、達成することができる。本発明のノックダウン非ヒト動物とは、該動物IL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している動物をいう。

【0022】
IL27遺伝子は、IL27をコードする遺伝子であり、IL27R遺伝子は、IL27Rをコードする遺伝子である。IL27は、IL27-p28とEpstein-Barr virus(EBV)-induced gene 3(EBI3)の2つの異なるサブユニットを含むサイトカインである。一方、IL27受容体(IL27R)は、WSX-1とglycoprotein 130とのヘテロダイマーで構成される。IL27は、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞のような抗原提示細胞で発現する。

【0023】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるIL27遺伝子は、例えば、EBI3遺伝子、及び/又はIL27-p28遺伝子である。また、本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるIL27R遺伝子は、WSX-1遺伝子である。したがって、本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及び/又はIL27R遺伝子」とは、EBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子及びWSX-1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を意味する。本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及び/又はIL27R遺伝子」は、好ましくは、EBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子、又はWSX-1遺伝子である。

【0024】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるEBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子及びWSX-1遺伝子は公知であり、その塩基配列情報及びアミノ酸配列情報は、GenBank等のアクセッション番号から知ることができる。以下に、EBI3遺伝子、IL27-p28遺伝子及びWSX-1遺伝子の塩基配列情報及びアミノ酸配列情報を示すアクセッション番号を例示する。

【0025】
・マウスEBI3遺伝子のDNA配列:NM_015766(配列番号:1)、
・マウスEBI3のアミノ酸配列:NP_056581(配列番号:2)、
・ラットEBI3遺伝子のDNA配列:NM_001109421(配列番号:3)、
・ラットEBI3のアミノ酸配列:NP_001102891(配列番号:4)、

【0026】
・マウスIL27-p28遺伝子のDNA配列:NM_145636(配列番号:5)、
・マウスIL27-p28のアミノ酸配列:NP_663611(配列番号:6)、

【0027】
・マウスWSX-1遺伝子のDNA配列:NM_016671(配列番号:7)、
・マウスWSX-1のアミノ酸配列:NP_057880(配列番号:8)。

【0028】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる非ヒト動物は、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子を有するヒト以外の動物ならば、いかなる動物でもよいが、非ヒト哺乳動物が好ましい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、サル等が用いられる。非ヒト哺乳動物のなかでも、病態動物モデル系の作製の面から個体発生及び生物サイクルが比較的短く、また繁殖が容易なげっ歯動物、とりわけマウス又はラット等が特に好ましい。

【0029】
本発明において動物の一部とは、当該動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、及び体液を意味し、特に限定されるものではない。非ヒト動物由来の組織としては、例えば、心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎盤、筋肉、血管、脳、骨髄、甲状腺、胸腺、乳腺、リンパ節、血液等が挙げられる。

【0030】
本発明において動物由来の細胞としては、上記組織、臓器又は体液に含まれる細胞を意味し、単離及び培養して得られる培養細胞も含まれる。細胞は、例えば、マクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、リンパ球等の各種の細胞が挙げられる。培養細胞としては、初代培養細胞及びその株化細胞の両者を含む。発生段階(胎生期)における組織、各器官、細胞、破砕物又は抽出物及び体液も非ヒト動物の一部に含まれる。

【0031】
さらに、動物由来の血液、リンパ液、尿等の体液も本発明において動物の一部に含まれる。

【0032】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、ストレプトゾトシンを投与した時などにインスリン産生減少及び高血糖を生じ、その生じたインスリン産生減少及び高血糖は、野生型非ヒト動物に誘発したインスリン産生減少及び高血糖と比較して、重度である。したがって、本発明のノックアウト又はノックダウン非ヒト動物は、糖尿病又は糖尿病性合併症モデル動物又はその一部として使用することができる。

【0033】
糖尿病性合併症としては、糖尿病性の神経障害、網膜症、腎症、動脈硬化を含む血管障害、糖尿病性昏睡等を挙げることができる。

【0034】
また、本発明のノックアウト非ヒト動物にβ1アドレナリン作動薬を投与した時などに心肥大を生じ、その生じた心肥大は、野生型非ヒト動物に誘発した心肥大と比較して、重度である。したがって、本発明のノックアウト又はノックダウン非ヒト動物は、心不全モデル動物又はその一部として使用することができる。

【0035】
心不全としては、心肥大、心機能低下、不整脈、心不全関連死等を挙げることができる。

【0036】
2.ノックアウト非ヒト動物又はノックダウン非ヒト動物の作製
2.1.ノックアウト非ヒト動物の作製
本発明のノックアウト非ヒト動物は、例えば、標準的な方法で作製して入手することができる。
標準的な方法としては、例えば、IL27及び/又はIL27R遺伝子とを不活性化させたES細胞を作製することによる方法を挙げることができる。

【0037】
当該方法は、
(a)遺伝子のターゲティングによりIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部の機能を欠損させたES細胞を作製すること、
(b)ES細胞を用いて、キメラ非ヒト動物を作製すること、
(c)キメラ非ヒト動物を野生型マウスと交配してヘテロノックアウト非ヒト動物を作製すること、
(d)ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配して、ホモノックアウト非ヒト動物を作製すること、を含む。
以下、上記各工程について詳細に説明する。

【0038】
工程(a):遺伝子ターゲティング
遺伝子ターゲティングでは、先ず、目的遺伝子(IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子)がその機能を喪失させ、或いはその機能が低下するように破壊又は組換えたDNA断片を作製する。目的遺伝子のターゲティングベクターは、目的遺伝子を破壊することにより当該遺伝子の全部又は一部を喪失させ、機能を全く失わせるか、或いは機能を低下させるものである。「遺伝子の全部を喪失させ」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺伝子の一部を喪失させ」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「遺伝子の全部又は一部を喪失させ」とは、目的遺伝子がコードするタンパク質の発現自体が行なわれないようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が失われているか、又は野生型と比較して低下していることを意味する。

【0039】
ターゲティングベクターは、相同組換えを起こさせた後の組換え体のスクリーニングが容易となるように構築することが好ましい。例えば、ポジティブ-ネガティブ選択をするために、ベクターに薬剤耐性遺伝子又は毒素遺伝子などの選択マーカーを連結することができる。ポジティブ-ネガティブ選別法は、当分野において周知である。すなわち、ポジティブ選別は、選択マーカー遺伝子が組み込まれなかった細胞は、薬剤を含む培養液で培養すると、耐性遺伝子を含まないために死ぬことを利用するものであり、ネガティブ選別法は、組み込みがランダムに起こった細胞では、ネガティブ選別用遺伝子が発現するために、細胞が死ぬことを利用するものである。その結果、相同組換えを起こした細胞のみが生き残り、選別される。

【0040】
選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択用として例えばネオマイシン耐性遺伝子(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などを使用することができ、ネガティブ選択用として例えばヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)、ジフテリア毒素A遺伝子などを使用することができる。

【0041】
上記の方法により作製したターゲティングベクターを用いて、相同組換えを行う。現在確立されている遺伝子ターゲティング法では、ノックアウト非ヒト動物を作製する場合には、ES細胞を使用することが望ましい。ES細胞として、TT2細胞、AB-1細胞、J1細胞、R1細胞等を適宜選択して使用することができる。

【0042】
相同組換えを起こさせるために、目的遺伝子の機能を喪失させたターゲティングベクターを細胞中に導入する。ターゲティングベクターを細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、リポソーム法などを使用することができる。効率、作業の容易性などを考慮して、エレクトロポレーション法を用いることが好ましい。そして細胞中の目的とするゲノムDNA配列を、ターゲティングベクターの相同組換えによって置換する。

【0043】
相同組換え効率を高めるために、例えば、バクテリオファージP1由来の組換えシステムであるCre-loxPシステムを使用することができる。Creは組換え酵素であり、loxPと呼ばれる34塩基の配列を認識して、この部位で組換えを起こさせることが可能となる。従って、ターゲティングしたい遺伝子(目的遺伝子)をloxP配列とloxP配列との間にはさみ、Creリコンビナーゼ遺伝子を特異的プロモーター下流に組み込むことにより、部位特異的及び時期特異的にCreが産生されてloxPで挟んだ遺伝子を切り取る(すなわち、目的遺伝子の機能を喪失させる)ことができる。

【0044】
その後、PCR法、サザンブロット法等により、目的遺伝子がターゲティングされているか否かを確認する。

【0045】
PCRにおいて、プライマーは、例えばターゲティングベクターの外側のゲノムDNA領域上、及びターゲティングベクターの配列のうち薬剤耐性遺伝子上から設計することができる。

【0046】
サザンブロット解析は、例えば以下の通り行うことができる。ターゲティングベクターに含まれないゲノム領域を認識する1又は2種類のプローブを設計する。目的遺伝子ゲノムを含むクローンを適当な制限酵素で処理することにより得られるDNA断片と、上記プローブとのハイブリダイゼーションを行なうことにより、目的遺伝子の破壊の有無を確認することができる。

【0047】
工程(b):キメラ非ヒト動物の作製
相同組換えの結果得られた組換えES細胞を、8細胞期又は胚盤胞の胚内に移植する。このES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラ動物を作製する。

【0048】
ES細胞を胚内に移植する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公知手法を用いることができる。

【0049】
マウスの場合、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、それぞれ卵管又は子宮から初期発生胚を回収する。回収した胚に、相同組換えを行ったES細胞を注入し、キメラ胚を作製する。

【0050】
一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、その後出産させることによりキメラマウスを作製することができる。

【0051】
マウス以外の非ヒト動物についても、上記と同様にして、キメラ非ヒト動物を作製することができる。

【0052】
工程(c):ヘテロノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得たキメラ非ヒト動物の中から、ES細胞移植胚由来の雄キメラ非ヒト動物を選択する。マウスの場合、選択したES細胞移植胚由来の雄マウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統の雌マウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、ES細胞に由来するマウス(ES細胞に組み込まれたゲノムを有していたマウス)の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。そして、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された目的遺伝子欠損ヘテロノックアウト非ヒト動物を繁殖する。

【0053】
工程(d):ホモノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得た目的遺伝子ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配させて、遺伝子欠損ホモノックアウト非ヒト動物を得ることができる。

【0054】
工程(c)又は(d)においてノックアウト非ヒト動物が得られたことの確認については、組織から染色体DNAを抽出しサザンブロット法やPCR法で行うことができる。さらに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解析することもできる。目的遺伝子がコードするタンパク質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なってもよい。

【0055】
また、樹立した動物系統について、ヘテロノックアウト非ヒト動物及びホモノックアウト非ヒト動物の表現型を解析することもできる。表現型の解析は、肉眼的観察、解剖による内部の観察、各臓器の組織切片、X線撮影による観察、行動や記憶の観察、血液検査や血清生化学検査行う。解析時期は、胎生期から成体までの任意の時期であってよく、特に限定されるものではない。

【0056】
尚、EBI3遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば、Igawa, T., Nakashima, H., Sadanaga, A., Masutani, K., Miyake, K., Shimizu, S., Takeda, A., Hamano, S., Yoshida, H. (2009) Deficiency in EBV-induced gene 3 (EBI3) in MRL/lpr mice results in pathological alteration of autoimmune glomerulonephritis and sialadenitis. Mod Rheumatol 19, 33-41.などにも記載されている。また、WSX-1遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば、Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX-1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569-78.などにも記載されている。

【0057】
2.2.ノックダウン非ヒト動物の作製
本発明のノックダウン非ヒト動物は、公知の方法に従って、非ヒト動物のIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の発現を抑制することにより、作製することができる。

【0058】
IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の発現抑制には、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。例えば、IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで非ヒト動物に導入することによりRNAiを引き起こすことができる。

【0059】
RNAiとは、dsRNA(double-strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを非ヒト動物に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。

【0060】
(1)siRNA
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a)IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18~30塩基のもの、あるいは、AAを5’側に加えたときの長さが18~30塩基、好ましくは19~23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30~70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。
(c) 選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。
(d) BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。

【0061】
さらに、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。

【0062】
siRNA合成の別法としてDicer法がある。Dicer法の概要とは以下の通りである。まず、IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の配列のスタートコドンから500 bp~1 kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNase IIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このds-RNAを3’末端側に2塩基の突出末端をもつ21-23塩基のsiRNAにプロセッシングさせる。

【0063】
(2)shRNA
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。

【0064】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42~120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるIL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18~50塩基、好ましくは21~30塩基である。

【0065】
また、IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の発現抑制には、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。

【0066】
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。そのように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18~25塩基(例、約22塩基)である。

【0067】
3.糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法
本発明は、糖尿病又は糖尿病性合併症を発症した本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部(以下、本発明のノックアウト非ヒト動物等とする。)に、糖尿病又は糖尿病性合併症治療のための薬物の候補物質(被験物質)を接触することにより、糖尿病治療薬又は糖尿病性合併症治療薬をスクリーニングすることができる。例えば、糖尿病又は糖尿病性合併症を発症した本発明のノックアウト非ヒト動物等に薬物候補物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明の非ヒト動物等において標的とする疾患と相関関係を有する指標(例えば、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量、血糖値等)を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、糖尿病又は糖尿病性合併症の症状を軽減又は消滅させるか否かを確認することで、候補物質をスクリーニングすることができる。

【0068】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物を候補物質で接触させる方法としては、例えば、経口投与、静脈注射、塗布、皮下投与、皮内投与、腹腔投与などが用いられ、試験動物の症状、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、候補物質の投与量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。

【0069】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部を候補物質で接触させる方法としては、例えば、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部と候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させる方法を用いることができる。より具体的には、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部の培養容器に候補物質を添加すること、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部と候補物質とを混合すること、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部を候補物質の存在下で培養すること等が挙げられる。また、接触させる候補物質量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。

【0070】
糖尿病は、例えば、ストレプトゾトシンを投与することにより本発明のノックアウト非ヒト動物等及び野生型非ヒト動物に誘発させることができる。

【0071】
比較のための対照は、例えば、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物又はその一部、被験物質を接触させた野生型非ヒト動物又はその一部、糖尿病又は糖尿病性合併症改善作用を有することが分かっている物質(既知の糖尿病治療薬等)を接触させた野生型非ヒト動物又はその一部、被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部、既知の糖尿病治療薬等を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部のいずれをも意味し、目的に応じて少なくとも1つの対照を適宜選択することができる。

【0072】
ここで、「野生型非ヒト動物又はその一部」とは、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子のいずれもが正常に発現し、機能している非ヒト動物又はその一部を意味する。

【0073】
例えば、対照が被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量又は血糖値(以下、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等とする。)を測定し、当該測定された膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等が、対照における膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等よりも改善したときは、前記候補物質を、糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬として選択することができる。この場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度が低下(例えば、10%以上、20%以上、30%以上低下)すること、インスリン産生量が増加(例えば、5%以上、10%以上、20%以上増加)すること、又は血糖値が低下(例えば、5%以上、10%以上、20%以上低下)することを意味する。

【0074】
あるいは、対照が被験物質を接触させない野生型非ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量又は血糖値(以下、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等とする。)を測定し、当該測定された膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等が、対照における膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度等と同程度まで又はそれよりも改善したときは、前記候補物質を、糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬として選択することができる。この場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度が同程度となるか又は低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)すること、インスリン産生量が同程度となるか又は増加(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上増加)すること、又は血糖値が同程度となるか又は低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)することを意味する。

【0075】
候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、有機酸又は無機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、或いは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。

【0076】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、糖尿病又は糖尿病性合併症の症状が緩和若しくは消失したことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬として選択することが可能である。

【0077】
4.心不全治療薬のスクリーニング方法
本発明は、心不全を発症した本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部(以下、本発明のノックアウト非ヒト動物等とする。)に、心不全治療のための薬物の候補物質(被験物質)を接触することにより、心不全治療薬をスクリーニングすることができる。例えば、心不全を発症した本発明のノックアウト非ヒト動物等に薬物候補物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物等において標的とする疾患と相関関係を有する指標(例えば、心肥大の程度、心機能、死亡率等)を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、心不全の症状を軽減又は消滅させるか否かを確認することで、候補物質をスクリーニングすることができる。

【0078】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物を候補物質で接触させる方法としては、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の項で説明した方法と同様の方法を挙げることができる。

【0079】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部を候補物質で接触させる方法も、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の項で説明した方法と同様の方法を挙げることができる。

【0080】
心不全のうち心肥大は、例えば、β1アドレナリン受容体作動薬(例、イソプロテレノール)を投与することにより本発明のノックアウト非ヒト動物等及び野生型非ヒト動物に誘発させることができる。

【0081】
比較のための対照は、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物、被験物質を接触させた野生型非ヒト動物、心不全改善作用を有することが分かっている物質(既知の心不全治療薬等)を接触させた野生型非ヒト動物、被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部、既知の心不全治療薬等を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部のいずれをも意味し、目的に応じて少なくとも1つの対照を適宜選択することができる。

【0082】
例えば、対照が被験物質を接触させない本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度を測定し、当該測定された心肥大の程度が、対照における心肥大の程度よりも改善したときは、前記候補物質を、心不全治療薬として選択することができる。心肥大の程度は、例えば、心臓重量(体重補正値)を測定すること、心筋細胞サイズを測定すること等により数値化することができる。この場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度が減少すること、例えば、心臓重量(体重補正値)が減少(例えば、2%以上、5%以上、10%以上、20%以上減少)すること、又は心筋細胞サイズが減少(例えば、2%以上、5%以上、10%以上、20%以上減少)することを意味する。

【0083】
あるいは、対照が被験物質を接触させない野生型非ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度を測定し、当該測定された心肥大の程度が、対照における心肥大の程度と同程度まで又はそれよりも改善したときは、前記候補物質を、心不全治療薬として選択することができる。この場合の「改善」とは、対照と比較して、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の心肥大の程度が同程度となるか又は減少すること、例えば、心臓重量(体重補正値)が同程度となるか又は減少(例えば、2%以上、5%以上、10%以上減少)すること、又は心筋細胞サイズが同程度となるか又は減少(例えば、2%以上、5%以上、10%以上減少)することを意味する。

【0084】
候補物質としては、前記「糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬のスクリーニング方法」の項で説明したものと同様のものを挙げることができる。

【0085】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、心不全の症状が緩和若しくは消失したことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、心不全治療薬として選択することが可能である。

【0086】
発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
尚、下記実施例において、有意差の検定は、分散分析(ANOVA)により行った。
【実施例】
【0087】
実施例1:IL27-p28遺伝子ノックアウトマウスの作製
(1)IL27-p28遺伝子ノックアウトES細胞の作製
Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX-1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569-78.記載の方法に準じて、IL27-p28遺伝子ノックアウトES細胞を作製した。
【実施例】
【0088】
すなわち、マウスIL27-p28遺伝子の第1~第4エクソンをpgkプロモーター配列に接続されたネオマイシン耐性遺伝子で置換できる構造を持つターゲティングベクターを作成し、このターゲティングベクターをエレクトロポレーション法により、ES細胞であるE14細胞に導入した。遺伝子導入細胞の選別のため、ネオマイシン存在下で培養することにより耐性を獲得した細胞クローンを得た後、PCR法により、正しく相同組み換えが生じIL27-p28遺伝子第1~第4エクソンがネオマイシン耐性遺伝子で置換された細胞クローンを選別し、さらに、サザンブロット法により相同組み換えの確認を行った。
【実施例】
【0089】
(2)IL27-p28遺伝子欠損キメラマウスの作製
IL27-p28遺伝子欠損キメラマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(1)により得られたIL27-p28遺伝子の片側アリール(片側遺伝子)が破壊されたES細胞をC57BL6マウス由来の杯盤胞に注入、これを偽妊娠マウスに移植することにより、ES細胞及びC57BL6マウス由来の細胞からなるキメラマウスを得た。毛色及びサザンブロット法によりIL27-p28遺伝子に変異を持つES細胞の寄与が多いと推測される雄個体を選別した。
【実施例】
【0090】
(3)IL27-p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスの作製
IL27-p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(2)により得られたキメラマウスをC57BL6雌マウスと交配することにより仔を得て、毛色によりIL27-p28遺伝子に変異を持つES細胞由来の仔を選別した。さらにこれらの仔の体組織からゲノムDNAを抽出しPCR法及びサザンブロット法によりIL27-p28遺伝子の片側アリルに変異を持つマウスを選別しヘテロノックアウトマウスを得た。
【実施例】
【0091】
(4)IL27-p28遺伝子ホモノックアウトマウスの作製
IL27-p28遺伝子ホモノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(3)により得られたヘテロノックアウトマウスを野生型C57BL/6マウスと交配し、その仔からヘテロノックアウトマウスを選別、この過程を6回繰り返し、C57BL/6の遺伝子背景を持つIL27-p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを作成した。この雄雌を交配することにより仔を得て、これらの仔の体組織からゲノムDNAを抽出しPCR法及びサザンブロット法によりIL27-p28遺伝子の両側アリルに変異を持つマウスを選別しホモノックアウトマウスを得た。
【実施例】
【0092】
尚、以下の実施例において、EBI-3遺伝子ホモノックアウトマウスは、本発明者らの研究室で以前作製したものを用いた(Igawa, T., Nakashima, H., Sadanaga, A., Masutani, K., Miyake, K., Shimizu, S., Takeda, A., Hamano, S., Yoshida, H. (2009) Deficiency in EBV-induced gene 3 (EBI3) in MRL/lpr mice results in pathological alteration of autoimmune glomerulonephritis and sialadenitis. Mod Rheumatol 19, 33-41.)。
WSX-1遺伝子ホモノックアウトマウスは、アムジェン社より分与を受けたものを用いた(Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX-1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569-78.)。
野生型マウスは、C57BL6(Jackson Laboratory社)を用いた。
【実施例】
【0093】
実施例2:膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量及び血糖値の定量・比較
野生型マウス、EBI-3遺伝子ノックアウトマウス、及びWSX-1遺伝子ノックアウトマウスの各ノックアウトマウスにストレプトゾトシン(シグマ社製)を投与した後、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生量及び血糖値を、以下のように比較検討した。
【実施例】
【0094】
(1)空腹時血糖値
ストレプトゾトシン(体重あたり5μg)を1日一回、5日間腹腔内に投与し、投与開始前(0日目)と、投与開始後7,14,28日後に空腹時の血糖を測定した。空腹時血糖の測定は、次のように行った。すなわち、12時間絶食後静脈血を採取し、血糖測定器(商品名:グルコースパイロット;テクニコンインターナショナル社製)で空腹時の血糖値を測定した。
【実施例】
【0095】
その結果を図1に示す。
図1はストレプトゾトシン投与前(0日目)と、投与後7,14,21,28日目の空腹時血糖を示すグラフである。図1に示されているように、野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)において、ストレプトゾトシン投与後7,14,21,28日目の空腹時血糖が高い傾向にある。
【実施例】
【0096】
(2)膵臓ランゲルハンス島のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像
ストレプトゾトシンの投与開始後14日目の膵臓ランゲルハンス島のHE染色像を、次のようにして得た。すなわち、麻酔下に脱血した後、ホルマリンで還流固定し、膵臓を摘出した。摘出した膵臓を、ホルマリン固定及び脱水した後、パラフィンに包埋した。その後、薄切しHE染色し、顕微鏡像をCCDカメラ(商品名:AxioCam;Zeiss社)で得た。
【実施例】
【0097】
その結果を、図2の上段(HE)に示す。
【実施例】
【0098】
図2には、野生型マウス(WT)に比べ、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)の膵臓ランゲルハンス島に、核を青紫色に染色された細胞がより多く集積している様子が示されている。このことは、野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)においてより多くの白血球浸潤が生じていることを示す。
【実施例】
【0099】
(3)膵臓ランゲルハンス島のインスリン前駆体(プロインスリン)に対する蛍光抗体像
ストレプトゾトシンの投与開始後14日目の膵臓ランゲルハンス島のプロインスリンに対する蛍光抗体像を、次のようにして得た。すなわち、麻酔下に脱血した後、ホルマリンで還流固定し、膵臓を摘出した。摘出した膵臓をホルマリン固定した後、コンパウンド(商品名Tissue-Tek OCT compound;Sakura Finetechnical社製)に包埋し液体窒素で急速凍結した。これを薄切した後、抗プロインスリン抗体(タカラバイオ社製)とFITCラベルした2次抗体(ジャクソン社製)を用いて染色した。蛍光顕微鏡像を冷却CCDカメラ(商品名:AxioCam;Zeiss社製)で得た。
【実施例】
【0100】
その結果を、図2の下段(proinsulin)に示す。
【実施例】
【0101】
図2には、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)の膵臓ランゲルハンス島では、蛍光染色されたタンパク質の量が、野生型マウス(WT)に比べ少ない様子が示されている。このことは、野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)においてプロインスリンがより減少していることを示す。
【実施例】
【0102】
次に、蛍光抗体法により膵臓ランゲルハンス島のインスリン前駆体量(プロインスリン量)の定量を、次のようにして行った。すなわち、上記で得られた蛍光抗体像から、米国NIHが無料配布しているNIH Imageソフトで単位面積当たりの蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0103】
その結果を、図3に示す。
【実施例】
【0104】
図3の縦軸は、野生型マウス(WT)の蛍光強度を1とした相対的蛍光強度を示す。図3に示されているように、野生型マウス(WT)に比べEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)においてプロインスリンが有意に減少している(*:p<0.05)。
【実施例】
【0105】
(4)リコンビナントIL27投与による効果
リコンビナントマウスIL27は、Pflanz, S., J. C. Timans, J. Cheung, R. Rosales, H. Kanzler, J. Gilbert, L. Hibbert, T. Churakova, M. Travis, E. Vaisberg, W. M. Blumenschein, J. D. Mattson, J. L. Wagner, W. To, S. Zurawski, T. K. McClanahan, D. M. Gorman, J. F. Bazan, R. de Waal Malefyt, D. Rennick, and R. A. Kastelein. 2002. IL-27, a heterodimeric cytokine composed of EBI3 and p28 protein, induces proliferation of naive CD4(+) T cells. Immunity 16:779-790.に記載の方法に従って作製した。具体的には、CHO細胞においてFLAGタグ付マウスIL27発現ベクターを発現させ、培養上清中に分泌されたリコンビナントマウスIL27を、抗FLAGタグ抗体付ビーズ(シグマ社製)を用いてカラム法で精製した。
上記作製したものに加え、リコンビナントマウスIL27として、Abnova社の市販のものも使用した。
【実施例】
【0106】
ストレプトゾトシン(体重あたり5μg)を1日一回、5日間腹腔内に投与した。また、精製したリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒をストレプトゾトシン投与開始時から1日一回、7日間腹腔内に投与した。対照溶媒として、チトレート緩衝液(和光純薬社製)を用いた。リコンビナントマウスIL27の1回の投与量は、500 ng/0.2 mlであり、対照溶媒の1回の投与量は、0.2 mlである。そして、ストレプトゾトシン投与開始前(0日目)と、投与開始後7,14日後に空腹時の血糖を測定した。
【実施例】
【0107】
また、リコンビナントマウスIL27投与による膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度及びインスリン産生量を、次のように比較検討した。すなわち、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度は、摘出した膵臓から組織切片を作成し、マクロファージマーカーMOMA2及びCD4抗原を、ニチレイ社製ヒストファインを用いた免疫組織染色により染色し、顕微鏡観察によりランゲルハンス島内のMOMA2あるいはCD4陽性細胞の細胞数を計測することにより求めた。ここで、浸潤MOMA2陽性マクロファージ数及び浸潤CD4陽性Tリンパ球数が多いことは、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度がより重度であることを示す。また、インスリン産生量は、実施例2(3)と同様にプロインスリン量を測定することにより求めた。
【実施例】
【0108】
その結果を、図4、図5及び図6に示す。
【実施例】
【0109】
図4は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時の、空腹時血糖を示すグラフである。図4に示されているように、野生型マウス及びEBI3ノックアウトともにリコンビナントマウスIL27投与により空腹時血糖が低下した。
【実施例】
【0110】
図5は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時の、MOMA2の染色像を示す図(A)とMOMA2陽性細胞の細胞数を計測した結果を示すグラフ(B)である。図5に示されているように、ランゲルハンス島に浸潤したMOMA2陽性マクロファージ数は野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において多く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)ともに浸潤マクロファージ数は減少した。このことは、リコンビナントマウスIL27のマクロファージ浸潤抑制作用を示している。
【実施例】
【0111】
図6は、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)に対してストレプトゾトシンとリコンビナントマウスIL27又は対照溶媒とを投与した時の、CD4抗原の染色像を示す図(A)とCD4抗原陽性細胞の細胞数を計測した結果を示すグラフ(B)である。膵臓ランゲルハンス島に浸潤したCD4陽性Tリンパ球数は野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において多く、リコンビナントマウスIL27の投与により、野生型マウス(WT)及びEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)ともに浸潤CD4陽性Tリンパ球数が減少したことを示す。このことは、リコンビナントマウスIL27のCD4陽性Tリンパ球数浸潤抑制作用を示している。
【実施例】
【0112】
以上の実施例に示したように、EBI-3遺伝子ノックアウトマウス及びWSX-1遺伝子ノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較して、膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生減少及び高血糖が、重度であった。また、野生型マウス、EBI-3遺伝子ノックアウトマウスにおける膵臓ランゲルハンス島の炎症の程度、インスリン産生減少及び高血糖は、リコンビナントIL27を投与することにより軽減された。これらの実施例は、本発明のノックアウト非ヒト動物における糖尿病又は糖尿病性合併症の状態を指標として、被検物質の中から糖尿病又は糖尿病性合併症治療薬の候補物質をスクリーニングできることも示している。
【実施例】
【0113】
実施例3:心肥大の程度の定量・比較
野生型マウス、EBI-3遺伝子ノックアウトマウス、及びWSX-1遺伝子ノックアウトマウスの各ノックアウトマウスにβ1アドレナリン作動薬であるイソプロテレノール(シグマ社製)又は対照溶媒を浸透圧ポンプにより投与した後、心肥大の程度を、以下のように定量的に比較検討した。具体的には、浸透圧ポンプ(商品名:Alzet osmotic pump;Alzet社製)によりイソプロテレノール又は対照溶媒を7日間投与し、連日、「テイルカフ法」(Models of experimental hypertension in mice. Johns C, Gavras I, Handy DE, Salomao A, Gavras H. Hypertension. 1996 28:1064-1069.)により血圧及び脈拍を測定した。このときのイソプロテレノールの投与量は、30 mg/kg/dayである。また、対照溶媒は生理食塩水であり、対照溶媒の投与量は、イソプロテレノール溶液と同容量である。イソプロテレノール又は対照溶媒の投与開始から7日後に麻酔下に心臓超音波法(Echocardiographic evaluation of ventricular function in mice. Rottman JN, Ni G, Brown M. Echocardiography. 2007 24:83-89.)により心臓パラメーターを測定後LV massを算出した。心臓摘出後、心臓重量(体重で補正)の測定、及び心臓組織における心筋細胞サイズ(心筋細胞の細胞表面積)の測定を行った。ここで、心臓重量(体重で補正)の測定及び心筋細胞サイズの測定を、それぞれ、次のようにして行った。心臓重量については、摘出した心臓の重量を電子天秤を用いて測定した。そして、測定した心臓の重量(mg)を、心臓摘出直前の生存時の時点で測定したマウスの体重(g)で補正、すなわち、心臓の重量を体重で除することにより求めた値を、体重補正心臓重量(mg/g)とした。尚、図7の縦軸では、このように求めた体重補正心臓重量(mg/g)を数値で示している。心筋細胞サイズについては、摘出心臓から作成した組織標本の切片をDAKO社製のFITC-lectinで染色した後、染色組織標本切片を顕微鏡で観察し、これをCCDカメラで撮像し、得た像をNIH Image software(米国NIHが無料配布)で解析、すなわち、lectinで認識される単一細胞面積を測定することにより求めた値を心筋サイズ(nm)とした。尚、図9では心筋細胞の細胞表面積を、単位nmではなく、単位ピクセルで示しているが、これは、上記と同一条件でコンピューター解析して得られた面積を単位ピクセルで示したものである。
【実施例】
【0114】
また、リコンビナントマウスIL27(rIL27)を次のように作製し、投与した。
実施例2(4)と同様にして、CHO細胞においてFLAGタグ付マウスIL27発現ベクターを発現させ、培養上清中に分泌されたリコンビナントマウスIL27を、抗FLAGタグ抗体付ビーズ(シグマ社製)を用いてカラム法で精製した。
精製したリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又はその対照溶媒(rIL27(-)をイソプロテレノール又はその対照溶媒の投与開始後1、3、5日後に腹腔内投与した。リコンビナントマウスIL27の対照溶媒として、チトレート緩衝液(和光純薬社製)を用いた。リコンビナントマウスIL27の1回の投与量は、500 ng/0.2 mlであり、その対照溶媒の1回の投与量は、0.2 mlである。
【実施例】
【0115】
その結果を図7、図8及び図9に示す。
【実施例】
【0116】
図7は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)にイソプロテレノール(ISO(+))又は対照溶媒(ISO(-))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))とを投与して7日後に摘出した心臓の重量(体重補正値)の測定結果を示すグラフである。EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)において野生型マウスに比べてイソプロテレノール投与による心臓重量の増加が大きい傾向にあった。また、イソプロテレノール(ISO)投与により増加した心重量は、リコンビナントマウスIL27の投与により野生型マウス(WT)とEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において抑制される傾向にあった。
【実施例】
【0117】
図8は、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-/-)にイソプロテレノール(ISO(+))又は対照溶媒(ISO(-))とリコンビナントマウスIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))とを投与して7日後に心臓を摘出し、摘出した心臓の心筋細胞サイズの測定結果を示すグラフである。図8に示されているように、野生型マウス(WT)、EBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)及びWSX-1ノックアウトマウス(WSX-1-/-)ともにイソプロテレノール(ISO)投与により対照溶媒投与に比して心筋細胞サイズが増加した。ISO投与後の心筋細胞サイズは、野生型マウス(WT)に比してEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)で統計学的に優位に大きく、WSX-1ノックアウトマウス(WSX-1-/-)において大きい傾向にあった。また、
図8に示されているように、イソプロテレノール(ISO)投与により増加した心筋細胞サイズは、リコンビナントマウスIL27の投与により野生型マウス(WT)とEBI3ノックアウトマウス(EBI3-/-)において抑制される傾向にあった。
【実施例】
【0118】
また、図9は、ラット新生児心筋細胞にリコンビナントIL27(rIL27(+))又は対照溶媒(rIL27(-))を投与し、その心筋細胞を位相差顕微鏡で観察した写真(図9A)と、その心筋細胞の細胞表面積を測定した結果を示すグラフ(図9B)である。図9に示されているように、イソプロテレノール(ISO)投与による培養心筋細胞表面積の増加をリコンビナントIL27が抑制した。
【実施例】
【0119】
以上の実施例で示したように、EBI-3遺伝子ノックアウトマウス及びWSX-1遺伝子ノックアウトマウスにおいて、野生型マウスと比較して、心肥大の程度が、重度であった。また、野生型マウス、EBI-3遺伝子ノックアウトマウスにおける心肥大の程度は、リコンビナントIL27を投与することにより軽減された。これらの実施例は、本発明のノックアウト非ヒト動物における心不全の状態を指標として、被検物質の中から心不全治療薬の候補物質をスクリーニングできることも示している。
【配列表フリ-テキスト】
【0120】
[配列番号:1]マウスEBI3遺伝子のDNA配列(Accession No.NM_015766)。
[配列番号:2]マウスEBI3のアミノ酸配列(Accession No.NP_056581)。
[配列番号:3]ラットEBI3遺伝子のDNA配列(Accession No.NM_001109421)。
[配列番号:4]ラットEBI3のアミノ酸配列(Accession No.NP_001102891)。
[配列番号:5]マウスIL27-p28遺伝子のDNA配列(Accession No.NM_145636)。
[配列番号:6]マウスIL27-p28のアミノ酸配列(Accession No.NP_663611)。
[配列番号:7]マウスWSX-1遺伝子のDNA配列(Accession No.NM_016671)。
[配列番号:8]マウスWSX-1のアミノ酸配列(Accession No.NP_057880)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8