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明細書 :立体音響生成システム、その制御方法及び制御プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5472613号 (P5472613)
公開番号 特開2011-139263 (P2011-139263A)
登録日 平成26年2月14日(2014.2.14)
発行日 平成26年4月16日(2014.4.16)
公開日 平成23年7月14日(2011.7.14)
発明の名称または考案の名称 立体音響生成システム、その制御方法及び制御プログラム
国際特許分類 H04S   5/02        (2006.01)
FI H04S 5/02 F
請求項の数または発明の数 15
全頁数 24
出願番号 特願2009-297581 (P2009-297581)
出願日 平成21年12月28日(2009.12.28)
審査請求日 平成24年12月20日(2012.12.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】506301140
【氏名又は名称】公立大学法人会津大学
発明者または考案者 【氏名】黄 捷
個別代理人の代理人 【識別番号】100081961、【弁理士】、【氏名又は名称】木内 光春
審査官 【審査官】千本 潤介
参考文献・文献 特開2005-278125(JP,A)
特開平07-248255(JP,A)
特開2007-251832(JP,A)
特開平06-301390(JP,A)
特開平05-300597(JP,A)
特開2007-329746(JP,A)
調査した分野 H04S 5/02
特許請求の範囲 【請求項1】
センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループによる立体音響システムであって、
音源と、
前記音源に対する、受聴者を基準にした音像の方位角θと、仰角αによる音像の定位位置を設定する音像定位設定部と、
前記音像定位設定部により設定された音像の定位に応じて使用するスピーカを選択するスピーカ選択部と、
前記音源からの音声信号に対して畳み込む、前記左右側のスピーカグループ毎の頭部伝達関数を前記音像定位設定部により設定された音像の定位位置に基づき決定する頭部伝達関数決定部と、
前記音像定位設定部により設定された音像の定位位置に基づき、前記スピーカ選択部により選択されたスピーカに対して、配分する音声信号のエネルギー量を演算するエネルギー配分部と、
前記音源からの音声信号に対して前記頭部伝達関数決定部により決定された頭部伝達関数を畳み込み、且つ前記エネルギー配分部により演算された音声信号のエネルギーを各スピーカに割り当てる畳み込み処理部を有する、
ことを特徴とする立体音響システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、5チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定部は、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向とを決定する第1の基準方向決定手段を有し、
前記エネルギー配分部は、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には受聴者を基準に前方に位置する3つの各スピーカに1/6音量を配分し、後方に位置する2つの各スピーカに1/4音量を配分する第1の音量配分手段と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定部により設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する第2の基準方向決定手段と、前記音像定位設定部により設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数1]に基づいて、前記第2の基準方向決定手段により決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する第2の音量配分手段とを有する
ことを特徴とする立体音響システム。
【数1】
JP0005472613B2_000007t.gif

【請求項3】
請求項1において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、8チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定部は、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向と、を決定する第1の基準方向決定手段を有し、
前記エネルギー配分部は、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には当該第1の基準方向の各スピーカに1/8音量を配分する第1のエネルギー配分手段と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定部により設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する第2の基準方向決定手段と、
前記音像定位設定部により設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数2]に基づいて、前記第2の基準方向決定手段により決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する第2の音量配分手段と、を有することを特徴とする立体音響システム。
【数2】
JP0005472613B2_000008t.gif

【請求項4】
前記第2の音量配分手段は、前記音像定位設定部により設定された音像の仰角が前記αvを上回る場合に、[数3]に基づいて、前記第2の基準方向決定手段により決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出することを特徴とする請求項2又は3に記載の立体音響システム。
【数3】
JP0005472613B2_000009t.gif

【請求項5】
前記頭部伝達関数決定部は、受聴者を基準として左側のスピーカには左側用の頭部伝達関数を、右側のスピーカには右側用の頭部伝達関数を、正面のスピーカには左及び右側用の頭部伝達関数を決定することを特徴とする請求項2に記載の立体音響システム。
【請求項6】
前記頭部伝達関数決定部は、受聴者を基準として左側のスピーカには左側用の頭部伝達関数を、右側のスピーカには右側用の頭部伝達関数を、正面及び背面のスピーカには左及び右側用の頭部伝達関数を決定することを特徴とする請求項3に記載の立体音響システム。
【請求項7】
前記音像定位位置に応じたスピーカ毎の頭部伝達関数を格納する頭部伝達関数テーブルを備え、
前記頭部伝達関数決定部は、当該頭部伝達関数テーブルから所望の頭部伝達関数を読み出し決定することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の立体音響システム。
【請求項8】
センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループを使用して、音源からの音声信号に音像定位処理を施すことで音像を任意の位置に定位させ、当該スピーカを通じて立体音響を生成する立体音響生成システムの制御方法であって、
前記音源に対する、受聴者を基準にした音像の方位角θと、仰角αによる音像の定位位置を設定する音像定位設定ステップと、
前記音像定位設定ステップにより設定された音像の定位に応じて使用するスピーカを選択するスピーカ選択ステップと、
前記音源からの音声信号に対して畳み込む、前記左右側のスピーカグループ毎の頭部伝達関数を前記音像定位設定ステップにより設定された音像の定位位置に基づき決定する頭部伝達関数決定ステップと、
前記音像定位設定ステップにより設定された音像の定位位置に基づき、前記スピーカ選択ステップにより選択されたスピーカに対して、配分する音声信号のエネルギー量を演算するエネルギー配分ステップと、
前記音源からの音声信号に対して前記頭部伝達関数決定ステップにより決定された頭部伝達関数を畳み込み、且つ前記エネルギー配分ステップにより演算された音声信号のエネルギーを各スピーカに割り当てる畳み込み処理ステップを有する、
ことを特徴とする立体音響システムの制御方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、5チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定ステップは、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向と、を決定する処理を有し、
前記エネルギー配分ステップは、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には受聴者を基準に前方に位置する3つの各スピーカに1/6音量を配分し、後方に位置する2つの各スピーカに1/4音量を配分する処理と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定ステップで設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する処理と、
前記音像定位設定ステップで設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数4]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理と、を含むことを特徴とする立体音響システムの制御方法。
【数4】
JP0005472613B2_000010t.gif

【請求項10】
請求項8において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、8チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定ステップは、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向と、を決定する処理を有し、
前記エネルギー配分ステップは、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には当該第1の基準方向の各スピーカに1/8音量を配分する処理と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定ステップで設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する処理と、
前記音像定位設定ステップで設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数5]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理と、を含むことを特徴とする立体音響システムの制御方法。
【数5】
JP0005472613B2_000011t.gif

【請求項11】
前記音量配分処理ステップは、前記音像定位設定ステップで設定された音像の仰角が前記αvを上回る場合に、[数6]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の立体音響システムの制御方法。
【数6】
JP0005472613B2_000012t.gif

【請求項12】
センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループを備え、コンピュータにより、音源からの音声信号に音像定位処理を施すことで音像を任意の位置に定位させ、当該スピーカを通じて立体音響を生成させる立体音響生成システムの制御プログラムであって、
このプログラムは前記コンピュータに、
前記音源に対する、受聴者を基準にした音像の方位角θと、仰角αによる音像の定位位置を設定する音像定位処理と、
前記音像定位設定部により設定された音像の定位に応じて使用するスピーカを選択するスピーカ選択処理と、
前記音源からの音声信号に対して畳み込む、前記左右側のスピーカグループ毎の頭部伝達関数を前記音像定位設定処理により設定された音像の定位位置に基づき決定する頭部伝達関数決定処理と、
前記音像定位設定処理により設定された音像の定位位置に基づき、前記スピーカ選択処理により選択されたスピーカに対して、配分する音声信号のエネルギー量を演算するエネルギー配分処理と、
前記音源からの音声信号に対して前記頭部伝達関数決定処理により決定された頭部伝達関数を畳み込み、且つ前記エネルギー配分処理により演算された音声信号のエネルギーを各スピーカに割り当てる畳み込み処理処理を実行させる
ことを特徴とする立体音響システムの制御プログラム。
【請求項13】
請求項12において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、5チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定処理は、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向と、を決定するものであって、
前記エネルギー配分処理は、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には受聴者を基準に前方に位置する3つの各スピーカに1/6音量を配分し、後方に位置する2つの各スピーカに1/4音量を配分する処理と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定処理で設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する処理と、
前記音像定位設定処理で設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数7]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理と、を含むことを特徴とする立体音響システムの制御プログラム。
【数7】
JP0005472613B2_000013t.gif

【請求項14】
請求項12において、
前記センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループが、8チャンネルの平面配置スピーカであって、
前記音像定位設定処理は、
音像の第1の基準方向として、受聴者を基準に、仰角が0度で各方位角をスピーカ位置とする方向と、仰角がαv(0度より大きく90度より小さければ任意に複数設定可能)で各方位角をセンタースピーカ以外の隣り合うスピーカの中間位置とする方向と、仰角が90度で各方位角を0度とする方向と、を決定するものであって、
前記エネルギー配分処理は、
前記第1の基準方向のうち仰角が0度の場合には当該第1の基準方向のスピーカに前記音源からの音声信号の全音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角がαvの場合には方位角の視点で当該第1の基準方向を挟む2つの各スピーカに1/2音量を配分し、前記第1の基準方向のうち仰角が90度の場合には当該第1の基準方向の各スピーカに1/8音量を配分する処理と、
前記第1の基準方向のうちから、仰角、方位角の視点で、前記音像定位設定処理で設定された音像を挟む4つの第2の基準方向を決定する処理と、
前記音像定位設定処理で設定された音像の仰角が前記αv以下である場合に、[数8]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理と、を含むことを特徴とする立体音響システムの制御プログラム。
【数8】
JP0005472613B2_000014t.gif

【請求項15】
前記音量配分処理は、前記音像定位設定処理で設定された音像の仰角が前記αvを上回る場合に、[数9]に基づいて、決定された各第2の基準方向の音量配分と所定の結合係数とを乗算し、この値を決定された全ての前記第2の基準方向分で加算することで、スピーカ毎の音量配分を算出する処理を含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の立体音響システムの制御プログラム。
【数9】
JP0005472613B2_000015t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、平面配置スピーカを用いた立体音響生成システムに関するものであって、特に、立体音響を生成する時に頭部伝達関数(HRTF)を左右のスピーカグループに加えることによって立体効果を高めたシステムに係る。
【背景技術】
【0002】
従来では、3Dの立体音響を再現する手法として、特許文献1に示されるように、全空間をカバーするように立体的にスピーカを配置し、各スピーカの音量比を操作して立体的な音像を生成するAP(Amplitude Panning)法がある。このようなAP法は、ターゲットとする音像方向の近傍のスピーカだけを利用するので、仰角方向の音像を再現するためには高い位置にスピーカを配置する必要がある。
【0003】
しかしながら、一般的な家庭環境では、立体配置スピーカシステムのように高い位置にスピーカを配置することは困難であるため、この観点から、平面配置スピーカによる立体音響生成システムに関する提案が、例えば特許文献2や特許文献3に示すように従来からなされている。これらは、クロストークのない2チャンネルヘッドホン再生に近い状態をスピーカシステムで実現する方法である。代表的なものとしてクロストークを逆フィルターによってキャンセルするトランスノーラル法などがある。
【0004】
また、特許文献4のように、FIRフィルタを適用することにより、同一平面に配置された2つのスピーカであっても音像を水平方向だけでなく上下方向にパンニング可能な3次元パンニング装置も提案されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2009-77379号公報
【特許文献2】特開平9-233600号公報
【特許文献3】特開2008-160265号公報
【特許文献4】特許第3177714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献2や特許文献3に示すような平面配置スピーカを用いた立体音響生成システムでは、頭部伝達関数を用いたステレオヘッドホン、あるいはクロストークキャンセル処理を加えた2チャンネルのスピーカシステムを使用しているが、処理が複雑で、受聴位置が厳しい制限を受けるといった課題が生じる。すなわち、特許文献2や特許文献3のようなトランスノーラル法を採用してクロストークをキャンセルする方法は、受聴位置が狭く当該位置からズレてしまうとクロストークが含まれてしまい、さらには環境の反響を受け易いといった課題がある。
【0007】
また、上記特許文献4示した方法では、上下方向のパンニングをすべてFIRフィルタで処理するために、その演算処理に時間が掛かるという課題がある。
【0008】
本発明は上記のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであって、その目的は、水平方向だけでなく、任意の垂直方向に定位する音像を簡単な方法により生成することが可能な平面配置スピーカを用いた立体音響生成システム、その制御方法及び制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の立体音響生成システムは、センタースピーカと、左右側のそれぞれに置かれたスピーカグループによる立体音響システムであって、
音源と、
前記音源に対する、受聴者を基準にした音像の方位角θと、仰角αによる音像の定位位置を設定する音像定位設定部と、
前記音像定位設定部により設定された音像の定位に応じて使用するスピーカを選択するスピーカ選択部と、
前記音源からの音声信号に対して畳み込む、前記左右側のスピーカグループ毎の頭部伝達関数を前記音像定位設定部により設定された音像の定位位置に基づき決定する頭部伝達関数決定部と、
前記音像定位設定部により設定された音像の定位位置に基づき、前記スピーカ選択部により選択されたスピーカに対して、配分する音声信号のエネルギー量を演算するエネルギー配分部と、
前記音源からの音声信号に対して前記頭部伝達関数決定部により決定された頭部伝達関数を畳み込み、且つ前記エネルギー配分部により演算された音声信号のエネルギーを各スピーカに割り当てる畳み込み処理部を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のような本発明によれば、受聴者の耳と同程度の高さの水平面上に配置するスピーカを用いる場合であっても、水平方向(方位角の方向)だけでなく垂直方向(仰角の方向)にも自由に定位する音像を生成し立体音響を実現可能な立体音響システム、その制御方法及び制御プログラムを提供することができる。特に、現在のサラウンドシステムで採用されている5.1チャンネルの標準スピーカシステムを利用することで立体音響を生成することができるため、特別な生成装置や、立体的にスピーカを配置することが必要ない利点を有する。
【0011】
また、本発明は、できるだけ多くのスピーカを用い、多方向からの信号にそれぞれ左か右の頭部伝達関数を畳み込むことによってクロストークの影響を軽減することができるため、クロストークのキャンセル処理を必要とせず、受聴位置の制限を緩くすることが可能である。さらに、通常は受聴位置をスピーカシステムの中心とすることを理想とするが、その近傍においても良好な立体音響を実現することができ、また、受聴者の頭の回転や左右、前後の移動の影響を少なくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムの全体構成の一例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムの平面配置スピーカ(5チャンネル)の配置例を示す図。
【図3】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムの音像の定位例を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムの平面配置スピーカ(8チャンネル)の配置例を示す図。
【図5】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムのスピーカ配置及び基準方向(第1の基準方向)を示す図(5チャンネル)。
【図6】本発明の実施形態に係る立体音響生成システムのスピーカ配置及び基準方向(第1の基準方向)を示す図(8チャンネル)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本実施形態]
[1.構成]
次に、本発明の実施形態に係る平面配置スピーカを用いた立体音響システムの構成について、図1~3を参照して以下に説明する。図1は、本実施形態に係る立体音響システムの全体構成を示す機能ブロック図である。なお、以下では、特別言及のないの場合は5チャンネルの場合を想定し、スピーカ40は、図2に示すように、左側のスピーカグループ(L、SL、8チャンネル場合はMLも)と、右のスピーカグループ(R、SR、8チャンネルの場合はMRも)と、が配置される。

【0014】
図1に示す通り、本実施形態に係る平面配置スピーカによる立体音響システムは、音源10と、音像の定位位置やチャンネル数の指定等、各種入力操作を行う操作部20と、後述する各機能により所望の音像の定位を実現するように、スピーカ40毎の音量配分や頭部伝達関数の付与等の定位処理を実行する音像定位処理部30と、スピーカ40(C、L、SL、R、SR)と、から構成されている。

【0015】
ここで、音像定位処理部30の具体的な構成について以下に詳述する。
まず、図1に示す通り、前記操作部20による入力操作に応じて、所望の仮想的な音像の定位位置を設定する音像定位設定部301を備えている。例えば、図3に示すように、この音像定位設定部301は、操作部20を通じて操作により、受聴者を基準とした音像の方位角θと、上下方向を決める仰角αからなる所望の音像定位(方位角θ、仰角α)を設定する。

【0016】
また、音像定位処理部30は、音像定位設定部301により設定された音像の定位に応じて、図2のように配置されたスピーカ40のうち、使用するものを選択するスピーカ選択部302を備えている。なお、具体的なスピーカ40の選択態様については[2.3.音声信号のエネルギー配分処理]の項目において説明する。

【0017】
また、音像定位処理部30は、音源10からの音声信号に対して畳み込む左右のスピーカ40グループ毎の頭部伝達関数を決定する頭部伝達関数決定部303を備えている。ここで、頭部伝達関数とは、音像位置から音を発生させる場合の、音源から受聴者の耳に至るまでの音の伝達関数であり、特に、音像位置、受聴者、スピーカ位置等により区別される。そのため、頭部伝達関数決定部303は、左右のスピーカ40のグループに対しては、左側用として頭部伝達関数(HRTFL)を、右側用として頭部伝達関数(HRTFR)を、所望の音像定位(θ、α)に基づき決定する。

【0018】
また、音像定位処理部30は、音像定位設定部301により設定された音像の定位位置に基づいて、スピーカ選択部302により選択された各スピーカ40に対して、配分する音声信号のエネルギー量を演算するエネルギー配分部304を備えている。このエネルギー配分部304による音声信号のエネルギー配分の計算態様は[2.3.音声信号のエネルギー配分処理]の項目において詳述する。なお、スピーカ選択部302とエネルギー配分部304が、特許請求の範囲上の「音量配分処理部」に対応する。

【0019】
また、音像定位処理部30は、頭部伝達関数テーブル305を備え、5チャンネル又は8チャンネルの場合における各スピーカ40に対する受聴者毎の頭部伝達関数を格納する。

【0020】
また、音像定位処理部30は、音源10からの音声信号に対して頭部伝達関数決定部303により決定された頭部伝達関数を畳み込み、かつ、エネルギー配分部304により演算された音声信号のエネルギーを各スピーカ40に割り当てる畳み込み処理部306を備えている。この畳み込み処理部306は、頭部伝達関数決定部303により決定されるこの頭部伝達関数HRTFを音源10からの音声信号に畳み込むことによって、音の方向感覚を強くし、さらに、各スピーカ40に所定のエネルギーを配分することで立体的な音像を作り出す。

【0021】
[2.作用]
[2.1.基本作用]
上記のような構成を有する平面配置スピーカを用いた立体音響システムにおける、音像生成の基本作用を以下に説明する。
まず、操作部20を通じて入力操作により音像定位設定部301は、ユーザが所望する音像の定位位置(θ,α)を設定する。

【0022】
そして、スピーカ選択部302が、音像定位設定部301により設定された音像定位位置に基づいて、音源10からの音声信号を出力するスピーカ40を選択する。すなわち、5チャンネルの場合、設定された音像の定位位置に応じて、図2に示すようなスピーカ40のC、L、SL、R、SRのうちのいずれを使用するかを選択し、また、8チャンネルの場合、図4に示すようなスピーカ40のC、L、SL、ML、BC、R、SR、MRのうちのいずれかを選択する。

【0023】
次に、頭部伝達関数決定部303は、音像定位設定部301により設定された音像定位に基づいて、左右のスピーカ40グループに対応する頭部伝達関数を頭部伝達関数テーブル305から読み出し、決定する(下記[2.2.頭部伝達関数決定及び畳み込み処理]参照。)。

【0024】
また、エネルギー配分部304は、スピーカ選択部302により選択された各スピーカ40から出力する音声信号のエネルギー量を算出する(下記[2.3.音声信号のエネルギー配分処理]参照。)。

【0025】
そして、畳込み処理部306は、選択されたスピーカ40により出力される音源10からの音声信号に対して頭部伝達関数決定部303により決定された頭部伝達関数を畳み込み、加えて、エネルギー配分部304により演算されたスピーカ40毎の音声信号のエネルギーを配分する。これにより、出力対象となる各スピーカ40から所定のエネルギー量の音声信号を出力することで、所望の音像の定位を実現する。

【0026】
[2.2.頭部伝達関数の決定及び畳み込み処理]
次に、頭部伝達関数決定部303による各スピーカ40に対する頭部伝達関数の決定処理、及び決定された頭部伝達関数の音源10からの音声信号への畳み込み処理について、具体的に説明する。

【0027】
この頭部伝達関数決定部303は、音像定位設定部301により設定された音像の定位位置(θ、α)に対応させるように、左右のスピーカ40のグループ毎に、頭部伝達関数テーブル305に格納された所定の頭部伝達関数(音像位置から音を発生させた場合の音源から左と右の耳までの伝達関数HRTFLとHRTFR)を読み出すことで決定する。そして、畳込み処理部306は、この頭部伝達関数決定部303により決定された頭部伝達関数を、音源10からの音声信号に対して畳み込む。

【0028】
より詳細には、5チャンネルのシステムの場合、左側のスピーカ40のグループ(L、SL、8チャンネル場合はMLも)には左の耳の頭部伝達関数HRTFL(θ,α)、右側のスピーカ40のグループ(R、SR、8チャンネルの場合はMRも)には右の耳の頭部伝達関数HRTFR(θ,α)を頭部伝達関数決定部303により決定し、頭部伝達関数畳み込み部306が、この頭部伝達関数を音源10から送られる音声信号に畳み込む。

【0029】
これにより、後述する音声信号のエネルギー配分処理により配分されたエネルギーで、左側のスピーカ40グループからは頭部伝達関数HRTFL(θ,α)が畳み込まれた音声信号が出力され、右側のスピーカ40グループからは頭部伝達関数HRTFR(θ,α)が畳み込まれた音声信号が出力される。

【0030】
また、前方(C)と後方(BC 但し、8チャンネルの場合のみ使用する。)のスピーカ40では、後述するエネルギー配分処理により当該スピーカ40に配分されたエネルギーの半分ずつを、左右の頭部伝達関数HRTFL(θ,α)と頭部伝達関数HRTFR(θ,α)が畳み込まれた音声信号で合成し、出力される。

【0031】
このように、HRTFの特性を音声信号に畳み込むことによって、音の方向感覚を強くし、立体的な音像を作り出す。すなわち、トランスノーラルシステムなどとは異なり、本方法は左右のスピーカ40のグループにそれぞれ左と右のHRTFを畳み込むので、スピーカ40のグループのトータル作用でスピーカ40の位置による頭部伝達関数の影響とクロストークの影響を弱めることが可能となり、音像の方向特性を作り出すことができる。

【0032】
また、このような特徴を実現するためには、シングルユニットのスピーカ40よりも縦方向に配置したマルチユニットのスピーカ40を使用した方が音像の方向特性は顕著であり、受聴者の頭の上下動による影響も抑制することが可能である。

【0033】
なお、頭部伝達関数は音像方向によってエネルギーが変化し、実測データは方向に関する連続性に欠けるので、頭部伝達関数のエネルギーを全て正規化し、音像方向による頭部伝達関数のエネルギーの違いを後述する拡張APによって実現する。

【0034】
[2.3.音声信号のエネルギー配分処理]
次に、上記で示した音像定位設定部301により設定した音像の定位位置に基づいた、スピーカ選択部302及びエネルギー配分部304による決定するスピーカ40の選択処理及びスピーカ40毎のエネルギー配分処理を図5及び6、表1~4を参照して以下に詳述する。

【0035】
まず、全方向の音像の定位を考える前に、音像の基準方向(特許請求の範囲上の「第1の基準方向」に対応する。以下、第1の基準方向と称する。)となる、仰角0度で各スピーカ40の置かれる方位角、所定の仰角αv(以下では、αv=30とするが変更可能。)でスピーカ40(センタースピーカを除く)位置の中間の方位角、加えて仰角90度方向(方位角は0度)におけるエネルギー配分Epを決定する。ここで、第1の基準方向としては、隣合うスピーカ40(センタースピーカを除く)の中間位置を方位角にとるのが基本だが、仰角0度の場合は、従前のシステムとの互換性を考慮しスピーカ40の位置を採用する。また、仰角90度の場合は、いずれの方位角でも構わないため、0度に設定する。

【0036】
具体的には、通常の5チャンネル標準ホームシアターシステムの場合は、図2に示すように、スピーカ40の配置方位はC(0度)、L(30度)、R(330度)、SL(120度)とSR(240度)である。そのため、第1の基準方向及びエネルギー配分として、図5に示すように、仰角0度で方位角0、30、120、240、330度(実際にスピーカのある方位)、仰角30度で方位角0、75、180、285度(センタースピーカを除いた各スピーカの中間方位)、仰角90度(方位角任意)で方位角0度、の各スピーカ40のエネルギー配分Epp=C,L,R,SL,RL)を決め、全空間のエネルギー配分の基準とする。

【0037】
これらの第1の基準方向における使用するスピーカ40、各スピーカ40のエネルギー配分は下記表1に示す通りである。
[表1]
JP0005472613B2_000002t.gif

【0038】
また、図4に示すような8チャンネル等間隔スピーカ配置システムの場合は、スピーカの配置方位はC(0度)、L(45度)、ML(90度)、SL(135度)、BC(180度)、SR(225度)、MR(270度)、とR(315度)である。そのため、8チャンネルの場合の第1の基準方向及びエネルギー配分として、図6に示すように、仰角0度で方位角0、45、90、135、180、225、270、315度(実際にスピーカのある方位)、仰角30度で方位角0、67.5、112.5、157.5度、202.5度、247.5度と292.5度(センタースピーカを除いた各スピーカの中間方位)、仰角90度で方位角0度(方位角任意)、における各スピーカのエネルギー配分Epp=C, L, R, ML, MR, SL, RL)を決め、全空間のエネルギー配分の基準とする。

【0039】
これらの8チャンネルの場合の第1の基準方向における、使用するスピーカ40、及び各スピーカ40のエネルギー配分は下記表2に示す通りである。
[表2]
JP0005472613B2_000003t.gif

【0040】
このように、スピーカ選択部302及びエネルギー配分部304では、仰角0、αv、90度における第1の基準方向を決定する機能(特許請求の範囲上の「第1の基準方向決定手段」に対応する。)と、当該第1の基準方向におけるエネルギー配分を決定する機能(特許請求の範囲上の「第1の音量配分手段」に対応する。)を有している。

【0041】
次に、これらの第1の基準方向のエネルギー配分を基準に全方向のAP法に拡張する場合を説明する。上記以外の方向(θ,α)の音像に関しては、下記の[数1]に基づいて、音像定位設定部301により設定された音像の定位位置を囲む4つの基準方向(特許請求の範囲上の「第2の基準方向」に対応する。以下、第2の基準方向と称する。)のスピーカ40のエネルギー配分を基に、線形結合により最終的なスピーカのエネルギー配分を決定する。
ここでは、まず、音像定位設定部301により設定された音像の仰角αが、第1の基準方向(第1の基準方向)として設定したαv以下である場合(α≦αvの場合)について説明する。

【0042】
[数1]
JP0005472613B2_000004t.gif

【0043】
ここで、(θrl,αl)、(θll,αl)、(θrh,αh)、(θlh,αh)は、音像定位設定部301により設定された音像に対して右下、左下、右上、左上に位置する第2の基準方向であり、また、krl、kll、krh、klhは、下記[数2]により与えられる。なお、θllとθlhが0度となる場合には、代わりに360度を用いる。

【0044】
[数2]
rl = ((θll-θ)/(θllrl)) ((αh-α)/(αhl))
ll = ((θ-θrl)/(θllrl)) ((αh-α)/(αhl))
rh = ((θlh-θ)/(θlhrh)) ((α-αl)/(αhl))
lh = ((θ-θrh)/(θlhrh)) ((α-αl)/(αhl))

【0045】
例えば、5チャンネルシステムで音像方向が(θ,α)=(60,15)の場合では、4つの第2の基準方向は、(θrl, αl)=(30,0),(θll,αl)=(120,0),(θrh,αh)=(0,30),(θlh,αh)=(75,30)となるため、krl,kll,krh,klhは、次のように算出される。

【0046】
[数3]
rl=60/90×15/30=1/3
ll=30/90×15/30=1/6
rh=15/75×15/30=1/10
lh=60/75×15/30=2/5

【0047】
そのため、音像の定位位置が(θ,α)=(60,15)の場合、各スピーカ40のエネルギー配分は下記表3の通りとなる。
[表3]
JP0005472613B2_000005t.gif

【0048】
このように、スピーカ選択部302及びエネルギー配分部304は、音像定位設定部301により設定された音像の定位位置に対して4方向の第2の基準方向(特許請求の範囲上の「第2の基準方向決定手段」に対応する。)を決定する機能と、この4方向の第2の基準方向におけるエネルギー配分を決定する機能(特許請求の範囲上の「第2の音量配分手段」に対応する。)を有している。

【0049】
具体的には、下記のように4つの第2の基準方向を決定している。すなわち、この場合、音像定位設定部301により設定された音像の仰角が15度であるため、4つの第2の基準方向の仰角は、第1の基準方向のうち、この15度を挟む0度と30度の2つとなり、αl=0,αh=30となる。

【0050】
5チャンネルのシステムを仮定すれば、第1の基準方向より、αl=0の方位角は、0,30,120,240,330度であるから、この60度を挟んだ30度と120度が第2の基準方向の基準方位となる。つまり、θrlは60度より小さい値の中の最大値(30度)となり、θllは60度より大きい値の中の最小値(120度)となる。

【0051】
また、第1の基準方向より、αh=30の方位角は、0(360),75,180,285度となるので、この60度を挟んだ0度と75度が第2の基準方向の基準方位となる。つまり、θrhは60度より小さい値の中の最大値(0度)となり、θlhは60度より大きい値の中の最小値(75度)となる。

【0052】
一方、音像定位設定部301により設定された音像の仰角αが、第1の基準方向として設定したαvを上回る場合(α>αvの場合)について以下に説明する。α>αvの場合では、第2の基準方向となる右上、左上の仰角が90度(αh=90)となるため、θrhとθlhが同じとなり、音像方向を囲む3つの第2の基準方向のスピーカ40のエネルギー配分を基に、上記[数1]に基づいて、線形結合により最終的なスピーカのエネルギー配分を決める。

【0053】
具体的には、上記[数1]のkrl,kll,krh,klhは、下記[数4]により与えられる。なお、θllが0度となる場合は代わりに360度を用いる。

【0054】
[数4]
rl=((θll-θ)/(θll-θrl))((αh-α)/(αh-αl))
ll=((θ-θrl)/(θll-θrl))((αh-α)/(αh-αl))
lh=krh=((θ-θl)/(αh-αl))

【0055】
例えば、同じく5チャンネルシステムで音像定位設定部301により設定された音像の定位位置が(θ,α)=(60,60)の場合では、3つの第2の基準方向は(θrl,αl)=(0,30),(θll,αl)=(75,30),(θrh,αh)=(θlh,αh)=(-,90)となり、また、krl,kll,krh,klhは、上記[数4]に基づき次のように算出される。

【0056】
[数5]
rl=15/75×30/60=1/10
ll=60/75×30/60=2/5
rh=klh=30/60=1/2

【0057】
この算出されたkrl,kll,krh,klhの値を上記[数1]に代入することで得られた各スピーカ40のエネルギー配分は下記表4の通りとなる。
[表4]
JP0005472613B2_000006t.gif

【0058】
なお、上記で挙げた3つの第2の基準方向は下記のように決定される。すなわち、音像定位設定部301により設定された音像の定位位置が(θ,α)=(60,60)の場合、仰角が60度であるため、第1の基準方向の仰角0,30,90度のうち、当該第2の基準方向の仰角は60度を挟む30度と90度であり、αl=30,αh=90となる。

【0059】
これにより、設定された音像の定位位置に対して右上と左上の第2の基準方向の仰角は90度となる。ここで、αh=90の場合は、方位に関係なく基準方向は真上の方向となるため、θrhとθlhは任意の値となり、上述の通り考慮する必要がない。

【0060】
また、5チャンネルのシステムを仮定すれば、第1の基準方向より、αl=30の方位角は0(360),75,180,285度となり、60度を挟んだ0度と75度が第2の基準方向の基準方位となる。つまり、θrlは60度より小さい値の中の最大値(0度)となり、θllは60度より大きい値の中の最小値(75度)となる。

【0061】
このように、第1及び2の基準方向のエネルギー配分と、上記[数1],[数2],[数4]を用いて、スピーカ選択部302及びエネルギー配分部304は、使用するスピーカの選択処理と、各スピーカに対する音源10からの音声信号のエネルギー配分処理が行うことで、水平方向だけでなく垂直方向に任意の仰角を有する音像をも生成することができる。

【0062】
上記表1~4によれば、定位された音像の仰角が0度の場合は、一般的なAP法と同様に、音像方向近傍のスピーカ40だけを用い、スピーカ40のエネルギー比を変化させることにより当該音像の定位位置を移動させることが可能である。

【0063】
また、定位された音像の仰角が0度でない場合は、使用するスピーカ40の数を増やす必要があり、音像と同じ方位角に実際にスピーカがあっても、そのスピーカではなく近くのスピーカを利用する必要がある。特に、正面方向の音像を生成する場合は、センターのスピーカ40によるエネルギーを抑えた方が、音像の仰角感覚が得られ易くなることが上記結果から確かめられた。

【0064】
また、仰角90度の音像に関しては前後、左右のバランスを考慮に入れて、全てのスピーカ40を利用する必要がある。なお、全空間での音像移動を考えた時には、どのスピーカもエネルギーの変化が連続でスムーズであることが必要であり、特に、仰角90度の方向は方位による差がないようにする必要がある。

【0065】
[3.効果]
以上のような本実施形態によれば、受聴者の耳と同程度の高さの水平面上に配置するスピーカを用いる場合であっても、水平方向(方位角の方向)だけでなく垂直方向(仰角の方向)にも自由に定位する音像を生成し立体音響を実現可能な立体音響システム、その制御方法及び制御プログラムを提供することができる。特に、現在のサラウンドシステムで採用されている5.1チャンネルの標準スピーカシステムを利用することで立体音響を生成することができるため、特別な生成装置や、立体的にスピーカを配置することが必要ない利点を有する。

【0066】
また、本発明は、できるだけ多くのスピーカ用い、多方向からの信号にそれぞれ左か右の頭部伝達関数を畳み込むことによってクロストークの影響を軽減することができるため、クロストークのキャンセル処理を必要とせず、受聴位置の制限を緩くすることが可能である。さらに、通常は受聴位置をスピーカシステムの中心とすることを理想とするが、その近傍においても良好な立体音響を実現することができ、また、受聴者の頭の回転や左右、前後の移動の影響を少なくすることが可能である。

【0067】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記のようにエネルギー配分部304が上記[数1]のように線形結合により各スピーカ40により出力される音声信号のエネルギーを算出する実施形態に限定するものではなく、各スピーカ40のエネルギー配分を、基準方向の非線形結合によって決定する実施形態も包含する。例えば、2乗正弦関数や両サイドの変化を速くし中間の変化を遅くした補正関数などを用いて算出することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10…音源
20…操作部
30…音像定位処理部
301…音像定位設定部
302…スピーカ選択部
303…頭部伝達関数決定部
304…エネルギー配分部
305…頭部伝達関数テーブル
306…畳み込み処理部
40…スピーカ
HRTF…頭部伝達関数
HRTFL…左側スピーカ用頭部伝達関数
HRTFR…右側スピーカ用頭部伝達関数
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5