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明細書 :電着砥粒ワイヤ工具の作製方法及び電着砥粒ワイヤ工具の作製装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5387895号 (P5387895)
登録日 平成25年10月18日(2013.10.18)
発行日 平成26年1月15日(2014.1.15)
発明の名称または考案の名称 電着砥粒ワイヤ工具の作製方法及び電着砥粒ワイヤ工具の作製装置
国際特許分類 B24D  11/00        (2006.01)
B24D   3/06        (2006.01)
B24B  27/06        (2006.01)
FI B24D 11/00 G
B24D 3/06 B
B24B 27/06 H
請求項の数または発明の数 18
全頁数 20
出願番号 特願2009-128215 (P2009-128215)
出願日 平成21年5月27日(2009.5.27)
審査請求日 平成24年4月27日(2012.4.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
発明者または考案者 【氏名】諏訪部 仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100105809、【弁理士】、【氏名又は名称】木森 有平
【識別番号】100126398、【弁理士】、【氏名又は名称】浅野 典子
特許請求の範囲 【請求項1】
液供給ポンプにてメッキ液と砥粒からなる懸濁液を砥粒電着槽に供給し、砥粒電着槽内に配された回転式ドラム槽の下方に形成された鍔部上に砥粒を沈殿させて砥粒溜まりを作り、この鍔部上に所定間隔で立設して配された搬送ローラにワイヤを沿わせて前記砥粒溜まりにワイヤを入れ、ワイヤ巻取り機にてワイヤを巻き取ることによって前記鍔部上でワイヤを周回走行させながら、駆動手段にて回転式ドラム槽を回転させ、周回走行中のワイヤと砥粒電着槽内に配されたアノード電極との間を通電してワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とする電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項2】
前記ワイヤと前記鍔部をほぼ同時に周回走行させることを特徴とする請求項1記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項3】
前記鍔部の周回速度を前記ワイヤの周回速度とほぼ等しい速度に設定することを特徴とする請求項1または2記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項4】
前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置され、この固定式ドラム槽内に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で前記ワイヤが立体交差することを特徴とする請求項1記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項5】
前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を周期的に供給することを特徴とする請求項4記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項6】
前記回転式ドラム槽と前記固定式ドラム槽の下方側の側面にそれぞれ所定間隔で貫通孔が形成され、前記回転式ドラム槽の上方からメッキ液を追加供給して、前記固定式ドラム槽の底部に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出することを特徴とする請求項5記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項7】
前記砥粒電着槽から取り出したワイヤを後メッキ槽に入れて、連続的に後メッキ処理を施すことを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項8】
前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、前記懸濁液を循環使用することを特徴とする請求項7記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項9】
前記鍔部の外側と前記鍔部の内側の両側から通電することを特徴とする請求項1記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法。
【請求項10】
砥粒電着槽と、砥粒電着槽内に配されて駆動手段により回転する回転式ドラム槽と、砥粒電着槽内にメッキ液と砥粒との懸濁液を供給する液供給ポンプと、砥粒電着槽内に配されたアノード電極と、ワイヤを沿わせる搬送ローラと、ワイヤを巻き取るワイヤ巻取り機を備え、
前記回転式ドラム槽の下方に形成された鍔部上に砥粒を沈殿させて砥粒溜まりを作り、この鍔部上に所定間隔で立設して配された搬送ローラにワイヤを沿わせて前記砥粒溜まりにワイヤを入れ、ワイヤ巻取り機にてワイヤを巻き取ることによって前記鍔部上でワイヤを周回走行させながら、駆動手段にて回転式ドラム槽を回転させ、周回走行中のワイヤと砥粒電着槽内に配されたアノード電極との間を通電してワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とする電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項11】
前記ワイヤ巻取り機と前記駆動手段とを同期運転することを特徴とする請求項10記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項12】
前記ワイヤ巻取り機が前記駆動手段を兼ねており、タイミングベルトによって前記鍔部の周回速度と前記ワイヤの周回速度とを僅かに異ならせることを特徴とする請求項11記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項13】
前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置され、この固定式ドラム槽に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で、前記ワイヤの進入高さと前記ワイヤの取り出し高さを異ならせることを特徴とする請求項10記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項14】
前記液供給ポンプの配液口が前記固定式ドラム槽の内壁に向けて配され、前記回転式ドラム槽が所定回転する毎に、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を供給することを特徴とする請求項13記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項15】
前記回転式ドラム槽と前記固定式ドラム槽の下方側の側面にそれぞれ所定間隔で貫通孔が形成され、前記回転式ドラム槽の内側からメッキ液を追加供給し、前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記回転式ドラム槽の下面に配されたカキ板にて前記固定式ドラム槽の底に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出することを特徴とする請求項14記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項16】
前記砥粒電着槽から取り出した前記ワイヤに連続的に後メッキ処理を施すための後メッキ槽を設置することを特徴とする請求項10記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項17】
前記後メッキ槽内に懸濁液攪拌槽が配置され、この懸濁液攪拌槽から前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽に前記懸濁液を供給し、前記固定式ドラム槽の底部に形成された前記懸濁液の排出口からの排液を前記懸濁液攪拌槽に戻すことを特徴とする請求項16記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
【請求項18】
前記アノード電極が前記回転式ドラム槽の内側と前記鍔部の外側とにそれぞれ配されていることを特徴とする請求項10記載の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電着砥粒ワイヤ工具の作製方法、並びに電着砥粒ワイヤ工具の作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとしての太陽電池や、省電力としてのLEDが脚光を浴びている。太陽電池はシリコン基板を材料としており、LEDはサファイア基板を材料としている。これら電子材料の基材となるシリコン、サファイア、水晶、ガラス、セラミックス等は、硬質脆性材料とも呼ばれ、硬くて割れ欠けが生じやすく、特にインゴットをウエハ状に切り出す等の切断加工が困難である。そこで、上記硬質脆性材料の切断工具として、砥粒をピアノ線(高炭素鋼線)、ステンレス線、又はタングステン線等からなる金属製ワイヤの単線(又は撚り線)の表面に固定(固着)させた固定砥粒ワイヤ工具が用いられている。上記砥粒の種類としては、褐色アルミナ系砥粒(A)、白色アルミナ系砥粒(WA)、単結晶アルミナ系砥粒(HA)、黒色炭化ケイ素系砥粒(C)、緑色炭化ケイ素系砥粒(GC)、ジルコニアアルミナ砥粒(Z)、ダイヤモンド砥粒、CBN(Cubic Boron nitride)等が挙げられる。
【0003】
固定砥粒ワイヤ工具では、連続した長尺ワイヤの表面に所定の密度にて砥粒を均一に固着させる必要がある。砥粒を金属製ワイヤ表面に固着させる固着方法としては、樹脂コーティング法と電着法が知られている。樹脂コーティング法は、樹脂を接着剤として砥粒をワイヤ表面に固着(接着)させる方法であり、短時間で砥粒をワイヤに固着できるが、樹脂が柔らかいこと等から砥粒の固着力が弱く信頼性に乏しい。
電着法は、メッキ液中に砥粒を分散させて混合液(懸濁液)とし、この懸濁液中で電気メッキすることによって、ニッケルやコバルト等の金属をワイヤ表面に析出させ、砥粒をワイヤ表面に固着(電着)させる方法であり、砥粒の固着力が強く信頼性が高い。その反面、砥粒を電着させるためには所定時間メッキを析出させなければならず、メッキの析出に時間を要しワイヤ工具の製作時間が長くなるという問題点がある。
【0004】
電着法によって砥粒をワイヤ表面に電着させる製造方法(製造装置)としては、特許文献1から3が文献公知となっている。また、本願出願人らは、電着法によって砥粒のワイヤへの強い固着力や高い信頼性を活かしつつ、ワイヤ工具の製作時間を短縮する作製方法を鋭意研究している(非特許文献1、2を参照)。
【0005】
図18は、電着砥粒ワイヤ工具を例示する図であり、(a)は側面図であり、(b)はA-A線断面図である。電着砥粒ワイヤ工具とは、例えば砥粒(ダイヤモンド砥粒)203を、ワイヤ(ピアノ線)201の表面に、メッキ層(ニッケルメッキ層)205によって電着させた工具である。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2006-55952号公報
【特許文献2】特開2006-181701号公報
【特許文献3】特開2006-110703号公報
【0007】

【非特許文献1】諏訪部仁,木下裕規,石川憲一:細線ダイヤモンドワイヤ工具の開発と加工特性,砥粒加工学会誌,(2007),351-357頁
【非特許文献2】石川憲一,諏訪部仁,中村義浩:流水式電着法によるダイヤモンド電着ワイヤ工具の高速作製に関する研究,2005年度精密工学会秋季大会学術講演論文集,(2005),1059-1060頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の電着法によれば、メッキの析出に時間を要するため、連続した長尺ワイヤの表面に砥粒を電着させるためには、メッキ槽の長さが数メートルから数十メートル以上もある大型のメッキ槽が必要となる。
このため、例えば特許文献1記載の電着砥粒ワイヤ工具の製造方法では、所定間隔で配されたプーリーにワイヤを張架させて、ジグザグ状に配することで、メッキ槽内でのワイヤの経路を長くさせている。
しかしながら、特許文献1記載の製造方法では、メッキ液中に分散させた砥粒が経時的に砥粒電着槽の底に沈殿(沈降)してしまう。また、メッキ液が非流動状態であるため、メッキ液に通電してから数秒後にワイヤ表面付近に陰極拡散層が生成し、砥粒の固着効率が低下する。つまり、ワイヤ表面近傍の電気二重層においてワイヤ表面にメッキが析出していくため、ワイヤの表面に近づくにつれて金属イオンの濃度が低下するため、電着を行ううちにワイヤ表面とメッキ液との間に濃度勾配(濃度分極)が生じ、ワイヤ表面での金属イオンとの反応が悪化する。この結果、メッキの析出量が低下し、時間とともに砥粒の電着効率が低下する。
【0009】
特許文献2記載の電着砥粒ワイヤ工具の製造方法は、予め、砥粒の表面全体を金属コートしておき、この金属コートされた砥粒をワイヤに電着させることで、電着時間の短縮を図っている。
しかしながら、特許文献2記載の製造方法では、砥粒の表面全体が金属コートされているため、電着砥粒ワイヤ工具を使用するに際しては、シリコン等の被加工物へのワイヤ工具の作用面の表層の金属コートを除去して、切断に供する砥粒の一部を露出させる作業(いわゆるドレッシング作業)が必須となる。
【0010】
特許文献3は、本願出願人らが出願し実用化した発明であり、メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を一方向に流出させる中空管を備え、前記中空管内で混合液の流出方向と同じ方向にワイヤを走行させながら、前記中空管の内部で前記ワイヤ表面に砥粒を電着させることで、所定の密度にて砥粒を均一にワイヤに固着させることを可能としたものである。つまり、ワイヤ表面付近におけるメッキ液に流動性を持たせることで、前記陰極拡散層の成長を抑え金属イオンの補給を円滑にすることができるため、メッキ析出速度が向上する。
しかしながら、特許文献3記載の製造方法では、前記中空管の長さをあまり長く設定できないことから、電着法でのワイヤ工具を高速に作製することには限界がある。
【0011】
これら上述の課題に鑑みて、本願出願人らは、前記中空管を用いずに電着法によって砥粒をワイヤに電着させる方法を鋭意研究した結果、メッキ液中で砥粒を沈殿させて堆積させ、堆積した砥粒沈殿物の中にワイヤを通し、ワイヤが砥粒沈殿物で埋まった状態で通電し、砥粒をワイヤに固着させるという方法を着想した。この方法は、ワイヤが砥粒沈殿物で埋まった状態で通電するため、砥粒を確実にワイヤの表面に電着させることができるが、メッキが析出するまでの時間はワイヤを動かさずに位置を固定しなければならないため、製作時間がとても長くなる。その上、時間の経過とともに堆積した砥粒沈殿物が締め固まってくるため、ワイヤを堆積した砥粒沈殿物の中に通し続けると、トンネル状の横穴が出来てしまい、砥粒の電着ムラや砥粒が電着されない箇所が出来てしまい、ワイヤの表面に所定の密度にて砥粒を均一に電着させることができないということが判明した。また、ワイヤ表面付近におけるメッキ液が非流動状態になると、上述の陰極拡散層が生成され、砥粒の電着効率が低下するという従前の問題点を有する。
【0012】
そこで本発明の目的は、砥粒の電着効率を高めることによって短時間で電着することができ、装置の小型化が容易な電着砥粒ワイヤ工具の作製方法と作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電着砥粒ワイヤ工具の作製方法は、液供給ポンプにてメッキ液と砥粒からなる懸濁液を砥粒電着槽に供給し、砥粒電着槽内に配された回転式ドラム槽の下方に形成された鍔部上に砥粒を沈殿させて砥粒溜まりを作り、この鍔部上に所定間隔で立設して配された搬送ローラにワイヤを沿わせて前記砥粒溜まりにワイヤを入れ、ワイヤ巻取り機にてワイヤを巻き取ることによって前記鍔部上でワイヤを周回走行させながら、駆動手段にて回転式ドラム槽を回転させ、周回走行中のワイヤと砥粒電着槽内に配されたアノード電極との間を通電してワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とする。
本発明の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置は、砥粒電着槽と、砥粒電着槽内に配されて駆動手段により回転する回転式ドラム槽と、砥粒電着槽内にメッキ液と砥粒との懸濁液を供給する液供給ポンプと、砥粒電着槽内に配されたアノード電極と、ワイヤを沿わせる搬送ローラと、ワイヤを巻き取るワイヤ巻取り機を備え、前記回転式ドラム槽の下方に形成された鍔部上に砥粒を沈殿させて砥粒溜まりを作り、この鍔部上に所定間隔で立設して配された搬送ローラにワイヤを沿わせて前記砥粒溜まりにワイヤを入れ、ワイヤ巻取り機にてワイヤを巻き取ることによって前記鍔部上でワイヤを周回走行させながら、駆動手段にて回転式ドラム槽を回転させ、周回走行中のワイヤと砥粒電着槽内に配されたアノード電極との間を通電してワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とする。
【0014】
これら本発明では、前記回転式ドラム槽の下方に形成された鍔部上に砥粒を沈殿させて砥粒溜まりを作り、この鍔部上に所定間隔で立設して配された搬送ローラにワイヤを沿わせて前記砥粒溜まりにワイヤを入れ、ワイヤ巻取り機にてワイヤを巻き取ることによって前記鍔部上でワイヤを周回走行させながら、駆動手段にて回転式ドラム槽を回転させ、周回走行中のワイヤと砥粒電着槽内に配されたアノード電極との間を通電してワイヤ表面に砥粒を電着させる。つまり、本発明によれば、ワイヤを周回走行させながら前記鍔部を周回走行させるので、ワイヤが砥粒溜まりで埋まった状態を維持しながらワイヤを通電することとなり、砥粒を確実にワイヤの表面に電着させる。
そして、ワイヤと前記鍔部の周回走行にともない、ワイヤ表面付近におけるメッキ液が流動状態となって、陰極拡散層の生成が抑制され、砥粒の電着効率が高くなる。
【0015】
前記搬送ローラは、前記鍔部に固定された軸部と、この軸部の外周に回転自在に配されたローラから構成されるワイヤ搬送部品である。
前記搬送ローラを構成するローラの材質としては、摺動性が高く、絶縁性に優れ、耐薬品性のあるプラスチックが好ましい。前記ローラ材質としては、例えばポリエチレン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。前記ローラ外周上の所定位置にそれぞれ前記ローラを周回する溝加工を施し、これら前記ローラの溝加工された箇所にワイヤを沿わせることで、ワイヤの周回軌道が所定位置から外れ難くなる。前記ローラの摺動性を高めるため、前記ローラの内側にベアリング等の摺動部材を組み込んでもよい。
【0016】
前記ワイヤを周回走行させる周回軌道としては、円軌道(楕円軌道)、螺旋軌道、8の字軌道、S字軌道(逆S字軌道)等が挙げられる。
図13は、本発明を適用した砥粒電着槽におけるワイヤの周回軌道を例示する図であり、(a)は円周軌道であり、(b)は螺旋軌道であり、(c)は8の字軌道であり、(d)は逆S字軌道を例示している。例えば前記周回軌道を円軌道(図13(a))とすれば、前記懸濁液中の砥粒溜まりにワイヤを入れて周回させることが容易である。例えば前記周回軌道を螺旋軌道(図13(b))とすれば、ワイヤの周回距離をさらに長くすることとなる。例えば前記周回軌道を8の字軌道(図13(c))や逆S字軌道(図13(d))とすれば、ワイヤ周回途中でワイヤの向きが反転することによって、ワイヤと搬送ローラの接触位置が反転するので、ワイヤ全周をくまなく前記砥粒溜まりに入れることが容易である。
【0017】
本発明は、前記ワイヤと前記鍔部をほぼ同時に周回走行させることを特徴とする。また本発明は、前記ワイヤ巻取り機と前記駆動手段とを同期運転することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、前記ワイヤと前記鍔部をほぼ同時に周回走行させることで、ワイヤの無駄が少なくなり、ワイヤに効率的に砥粒を電着させる。前記ワイヤ巻取り機と前記駆動手段とを同期運転することで、ワイヤの巻取り開始に合わせて砥粒の電着を開始させ、ワイヤの巻取り停止に合わせて砥粒の電着を停止させるので、ワイヤの無駄が少ない。
【0019】
本発明は、前記鍔部の周回速度を前記ワイヤの周回速度とほぼ等しい速度に設定することを特徴とする。本発明では、例えば前記ワイヤ巻取り機が前記駆動手段を兼ねており、タイミングベルトによって前記鍔部の周回速度と前記ワイヤの周回速度とを僅かに異ならせる。
【0020】
本発明によれば、前記鍔部の周回速度を前記ワイヤの周回速度とほぼ等しい速度に設定することで、前記ワイヤと前記砥粒溜まりの相対速度の差を僅かなものとする。したがって、メッキが析出するまでの時間、前記ワイヤと前記砥粒溜まりの相対位置があまり変化せず、安定した状態で砥粒を確実にワイヤの表面に電着させる。
例えば前記ワイヤ巻取り機が前記駆動手段を兼ねており、タイミングベルトによって前記鍔部の周回速度と前記ワイヤの周回速度とを僅かに異ならせることで、前記ワイヤが前記搬送ローラと接触する接触位置が僅かずつずれることとなり、ムラなく均一に砥粒を電着させることができる。
【0021】
本発明は、前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置され、この固定式ドラム槽内に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で前記ワイヤが立体交差することを特徴とする。本発明では、前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置され、この固定式ドラム槽に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で、前記ワイヤの進入高さと前記ワイヤの取り出し高さを異ならせることを特徴とする。
【0022】
前記砥粒電着槽の形状としては、ドラム形(円筒形)、円環形、直方体形、バスタブ形、逆向き円錐形(漏斗形)等が挙げられる。
本発明によれば、前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置されることで、砥粒電着槽のサイズが最小となる。前記固定式ドラム槽内に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で前記ワイヤが立体交差することで、前記ワイヤ同士が接触することがないため、電着した砥粒がワイヤから脱落する心配がない。
例えば前記固定式ドラム槽に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で、前記ワイヤの進入高さよりも前記ワイヤの取り出し高さを若干高く設定し、前記ワイヤ出入口からワイヤを入れると、ワイヤが前記鍔部に立設配置された前記搬送ローラの外周に巻き付いて前記砥粒溜まりにワイヤが入る。そして、前記ワイヤ出入口からワイヤを取り出すと、ワイヤが前記搬送ローラの外周から前記鍔部の外側に向かって離れるため前記砥粒溜まりが崩される。したがって、前記回転式ドラム槽が1周する毎に、前記砥粒溜まりが崩されるので、砥粒の電着ムラや砥粒が電着されない箇所が出来てしまうことが防止され、砥粒をワイヤに均一に電着することができる。
【0023】
本発明は、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を周期的に供給することを特徴とする。本発明では、例えば前記液供給ポンプの配液口が前記固定式ドラム槽の内壁に向けて配され、前記回転式ドラム槽が所定回転する毎に、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を供給する。
【0024】
本発明によれば、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を周期的に供給することで、前記砥粒溜まりを周期的に作ることとなり、砥粒の電着ムラや砥粒が電着されない箇所が出来てしまうことが防止される。例えば前記液供給ポンプの配液口が前記固定式ドラム槽の内壁に向けて配され、前記回転式ドラム槽が所定回転する毎に、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を供給することで、前記回転式ドラム槽の所定回転毎に前記砥粒溜まりを作ることとなる。前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を供給するならば、一度ワイヤが砥粒溜まりから出ることで崩された砥粒溜まりが、直ちに再形成される。
【0025】
本発明は、前記回転式ドラム槽と前記固定式ドラム槽の下方側の側面にそれぞれ所定間隔で貫通孔が形成され、前記回転式ドラム槽の上方からメッキ液を追加供給して、前記固定式ドラム槽の底部に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出することを特徴とする。本発明では、例えば前記回転式ドラム槽と前記固定式ドラム槽の下方側の側面にそれぞれ所定間隔で貫通孔が形成され、前記回転式ドラム槽の内側からメッキ液を追加供給し、前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記回転式ドラム槽の下面に配されたカキ板にて前記固定式ドラム槽の底に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出する。
【0026】
本発明によれば、前記回転式ドラム槽の上方からメッキ液を追加供給することで、前記ワイヤを前記搬送ローラに巻き付け周回させる周回軌道の内側においてもメッキ液が流動して陰極拡散層の生成が抑制され、より高い砥粒の電着効率が得られる。本発明によれば、例えば前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記回転式ドラム槽の下面に配されたカキ板にて前記固定式ドラム槽の底に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出することで、砥粒を効果的に回収することができる。
【0027】
本発明は、前記砥粒電着槽から取り出したワイヤを後メッキ槽に入れて、連続的に後メッキ処理を施すことを特徴とする。また本発明は、前記砥粒電着槽に入れる直前にワイヤを脱脂することが好ましい。
【0028】
電着法にて砥粒を固着させるためには所定時間メッキを析出させなければならない。本願出願人らの研究により、前記砥粒溜まりにワイヤを入れた状態で電着する場合に比べて、メッキ液のみを用いて電着する場合の方がメッキの析出速度が数倍速くなることがわかった。これは、前記砥粒溜まりにワイヤを入れた状態では通電電流が弱くなることに起因する。
本発明によれば、上述の砥粒をワイヤに電着する作業では、砥粒が後メッキ工程で脱落しない程度に必要最小限度のメッキ厚みで電着処理を行い、引き続き、前記砥粒電着槽から取り出したワイヤに連続的に後メッキすることにより充分なメッキ厚みの電着処理を施すことで、砥粒の実質的な電着時間を短縮することができる。
さらに、前記砥粒電着槽に入れる直前にワイヤを脱脂することで、脱脂後のワイヤを保管する等の手間が省けることとなり、高品質の電着砥粒ワイヤ工具を連続して作製することができる。
【0029】
本発明は、前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、前記懸濁液を循環させることを特徴とする。
【0030】
均一に安定してメッキを析出させるためには、メッキ槽の容量が大きいことが好ましい。
本発明によれば、前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、前記懸濁液を循環させることで、砥粒電着槽を小型にした場合においても、大容量のメッキ液を循環使用することができ、均一に安定してメッキを析出させることができる。例えば前記後メッキ槽内に懸濁液攪拌槽が配置され、この懸濁液攪拌槽から前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽に前記懸濁液を供給し、前記固定式ドラム槽の底部に形成された前記懸濁液の排出口からの排液を前記懸濁液攪拌槽に戻す構成とすれば、前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、それぞれメッキ液を共用しつつ、メッキ液とは区別して前記懸濁液を循環させることができる。
【0031】
本発明は、前記鍔部の外側と前記鍔部の内側の両側から通電することを特徴とする。本発明では、例えば前記アノード電極が前記回転式ドラム槽の内側と前記鍔部の外側とにそれぞれ配されている。
【0032】
本発明によれば、前記アノード電極が前記回転式ドラム槽の内側と前記鍔部の外側とにそれぞれ配されていることで、前記ワイヤの周回軌道の内側と前記ワイヤの周回軌道の外側の両側から前記ワイヤを通電することとなり、前記ワイヤへの通電電流を均一にでき、しかも通電電流を大きくできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ワイヤを周回走行させながら前記鍔部を周回走行させるので、ワイヤが砥粒溜まりで埋まった状態を維持しながらワイヤを通電することとなり、砥粒を確実にワイヤの表面に電着させる。本発明によれば、前記ワイヤと前記鍔部をほぼ同時に周回走行させることで、ワイヤの無駄が少なくなり、ワイヤに効率的に砥粒を電着させる。前記ワイヤ巻取り機と前記駆動手段とを同期運転することで、ワイヤの巻取り開始に合わせて砥粒の電着を開始させ、ワイヤの巻取り停止に合わせて砥粒の電着を停止させるので、ワイヤの無駄が少ない。そして、ワイヤと前記鍔部の周回走行にともない、ワイヤ表面付近におけるメッキ液が流動状態となって、陰極拡散層の生成が抑制され、砥粒の電着効率が高くなる。
【0034】
本発明によれば、前記鍔部の周回速度を前記ワイヤの周回速度とほぼ等しい速度に設定することで、前記ワイヤと前記砥粒溜まりの相対速度の差を僅かなものとし、メッキが析出するまでの時間、前記ワイヤと前記砥粒溜まりの相対位置があまり変化せず、安定した状態で砥粒を確実にワイヤの表面に電着させる。例えば前記ワイヤ巻取り機が前記駆動手段を兼ねており、タイミングベルトによって前記鍔部の周回速度と前記ワイヤの周回速度とを僅かに異ならせることで、前記ワイヤが前記搬送ローラと接触する接触位置が僅かずつずれることとなり、ムラなく均一に砥粒を電着させることができる。
【0035】
本発明によれば、前記鍔部の外側に固定式ドラム槽が同心配置されることで、砥粒電着槽のサイズが最小となる。前記固定式ドラム槽内に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で前記ワイヤが立体交差することで、前記ワイヤ同士が接触することがないため、電着した砥粒がワイヤから脱落する心配がない。例えば前記固定式ドラム槽に設けられた前記回転式ドラム槽へのワイヤ出入口で、前記ワイヤの進入高さよりも前記ワイヤの取り出し高さを若干高く設定し、前記ワイヤの出入口からワイヤを入れると、ワイヤが前記鍔部に立設配置された前記搬送ローラの外周に巻き付いて前記砥粒溜まりにワイヤが入る。そして、前記ワイヤ出入口からワイヤを取り出すと、ワイヤが前記搬送ローラの外周から前記鍔部の外側に向かって離れるため前記砥粒溜まりが崩される。したがって、前記回転式ドラム槽が1周する毎に、前記砥粒溜まりが崩されるので、砥粒の電着ムラや砥粒が電着されない箇所が出来てしまうことが防止され、砥粒をワイヤに均一に電着することができる。
【0036】
本発明によれば、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を周期的に供給することで、前記砥粒溜まりを周期的に作ることとなり、砥粒の電着ムラや砥粒が電着されない箇所が出来てしまうことが防止される。例えば前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記液供給ポンプが前記固定式ドラム槽の内壁に沿わせて前記懸濁液を供給するならば、一度ワイヤが砥粒溜まりから出ることで崩された砥粒溜まりが、直ちに再形成される。
【0037】
本発明によれば、前記回転式ドラム槽の上方からメッキ液を追加供給することで、前記ワイヤを前記搬送ローラに巻き付け周回させる周回軌道の内側においてもメッキ液が流動して陰極拡散層の生成が抑制され、より高い砥粒の電着効率が得られる。本発明によれば、例えば前記回転式ドラム槽が1回転する毎に、前記回転式ドラム槽の下面に配されたカキ板にて前記固定式ドラム槽の底に堆積した前記砥粒をメッキ液とともに排出することで、砥粒を効果的に回収することができる。
【0038】
本発明によれば、上述の砥粒をワイヤに電着する作業では、砥粒が後メッキ工程で脱落しない程度に必要最小限度のメッキ厚みで電着処理を行い、引き続き、前記砥粒電着槽から取り出したワイヤに連続的に後メッキすることにより充分なメッキ厚みの電着処理を施すことで、砥粒の実質的な電着時間を短縮することができる。
本発明によれば、前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、前記懸濁液を循環させることで、砥粒電着槽を小型にした場合においても、大容量のメッキ液を循環使用することができ、均一に安定してメッキを析出させることができる。例えば前記後メッキ槽内に懸濁液攪拌槽が配置され、この懸濁液攪拌槽から前記液供給ポンプにより前記砥粒電着槽に前記懸濁液を供給し、前記固定式ドラム槽の底部に形成された前記懸濁液の排出口からの排液を前記懸濁液攪拌槽に戻す構成とすれば、前記砥粒電着槽と前記後メッキ槽との間で、それぞれメッキ液を共用しつつ、メッキ液とは区別して前記懸濁液を循環させることができる。
【0039】
本発明によれば、前記アノード電極が前記回転式ドラム槽の内側と前記鍔部の外側とにそれぞれ配されていることで、前記ワイヤの周回軌道の内側と前記ワイヤの周回軌道の外側の両側から前記ワイヤを通電することとなり、前記ワイヤへの通電電流を均一にでき、しかも通電電流を大きくできる。
したがって、これら本発明によって、砥粒の電着効率を高めることによって短時間で電着することができ、装置の小型化が容易な電着砥粒ワイヤ工具の作製装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用した電着砥粒ワイヤ工具の作製装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】上記実施形態の砥粒電着槽を示す斜視図である。
【図3】上記実施形態の砥粒電着槽のワイヤ出入口付近の内部構造を示す斜視図である。
【図4】上記実施形態の砥粒電着槽のワイヤ出入口付近を拡大して示す斜視図である。
【図5】上記実施形態の砥粒電着槽の配液口付近を拡大して示す斜視図である。
【図6】上記実施形態の砥粒電着槽とワイヤ巻取り機を上方から見た平面図である。
【図7】上記実施形態の砥粒電着槽の鍔部付近を側面から見た断面図である。
【図8】上記実施形態の搬送ローラを示す図であり、(a)は側面図であり、(b)は断面図である。
【図9】上記実施形態の搬送ローラとワイヤの関係を示す側面図である。
【図10】上記実施形態の砥粒電着槽保温機構を示す斜視図である。
【図11】上記実施形態の後メッキ槽を示す斜視図である。
【図12】本発明を適用した電着砥粒ワイヤ工具の作製手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明を適用した砥粒電着槽におけるワイヤの周回軌道を例示する図である。
【図14】本発明を適用した砥粒電着槽の鍔部付近における砥粒溜まりを示す外観写真であり、(a)は回転式ドラム槽の外壁に沿わせて懸濁液を供給した場合の外観写真であり、(b)は固定式ドラム槽の内壁に沿わせて懸濁液を供給した場合の外観写真である。
【図15】本発明により作製した電着砥粒ワイヤ工具を顕微鏡観察した外観写真である。
【図16】本発明により作製した電着砥粒ワイヤ工具を顕微鏡観察した外観写真である。
【図17】本発明を適用した電着砥粒ワイヤ工具を例示する断面図であり、(a)は砥粒電着直後の状態を示しており、(b)は後メッキした状態を示している。
【図18】電着砥粒ワイヤ工具を例示する図であり、(a)は側面図であり、(b)はA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(電着砥粒ワイヤ工具の作製装置)
図1は、本発明を適用した電着砥粒ワイヤ工具の作製装置の全体構成を示す構成図である。本実施形態の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置1は、ボビンに巻いてある芯線201に所定のテンションをかけて送り出す芯線送り出し部10と、電着する直前に芯線201を洗浄する洗浄槽20と、洗浄済みの芯線201に砥粒203を電着する砥粒電着槽30と、砥粒が電着されたワイヤ工具200を後メッキする後メッキ槽60と、後メッキしたワイヤ工具200を洗浄する洗浄槽80と、出来上がったワイヤ工具200をボビンに巻き取るワイヤ巻取り機90からなる。ワイヤ工具200や芯線201は、所定個所に配された滑車K1,K2,K3に引っ掛けられて、芯線送り出し部10からワイヤ巻取り機90まで搬送される。本実施形態では、ワイヤ巻取り機90にて出来上がったワイヤ工具200を巻き取ることで、ワイヤ工具200や芯線201が引っ張られて、順次送り出される構成となっている。なお、本実施形態では、芯線201への前洗浄と砥粒の電着と後メッキと後洗浄が連続して行われるため、説明の都合上、砥粒が電着されたワイヤ工具と後メッキしたワイヤ工具と洗浄したワイヤ工具の符号は同じ符号を使用している。

【0042】
本実施形態の芯線送り出し部10は、芯線ボビンを取り付ける軸部を備え、芯線ボビンの両側から軸部にそれぞれスラストワッシャが取り付けられ、芯線ボビンの片側でゴムクッションを介してダブルナットで締め付ける構造となっている。
本実施形態によれば、伸縮性のあるゴムクッション及び自己潤滑性を有するスラストワッシャを芯線ボビンと共に挟み込むことによって、所定範囲のテンションを保ちながら芯線(ワイヤ)201を送り出すことができる。本実施形態のワイヤ201は、ピアノ線(高炭素鋼線)である。

【0043】
洗浄槽20は、電着する直前のワイヤ201を浸漬洗浄するための容器であり、本実施形態では、上流側から順に、溶剤洗い槽21、酸洗い槽22、水洗い槽23が配されている(図1)。芯線201表面の汚れ(油分)を脱脂するため、アセトンが溶剤洗い槽21に入っている。アセトンの揮発を防ぐため、溶剤洗い槽21には、蓋が配されている。次に、ワイヤ201表面の酸化皮膜を除去し表面を活性化するため、塩酸を10wt%の割合で水に希釈させた10%塩酸水が酸洗い槽22に入っている。そして、ワイヤ201表面を中和するため、イオン交換水が水洗い槽23に入っている。所定の滑車K1,K2を上記洗浄液中に浸漬することで、所定の滑車K1,K2を介して芯線201を上記洗浄液中に浸漬させながら搬送して洗浄を行う。ワイヤ201を引っ掛ける滑車K1は、フッ素樹脂やフェノール樹脂等の耐薬品性樹脂材料からなる。これは、滑車K1がアセトンや10%塩酸水に侵されないようにするためである。ワイヤ201はカソード電極とするため、水洗い槽23に浸漬された滑車K2を介して直流電源70に電気接続される。滑車K2の材質は、導電性が高く錆び難いステンレス製とした。
本実施形態によれば、後述する砥粒電着槽30に入れる直前にワイヤ201を脱脂することで、脱脂後のワイヤ201を保管する等の手間が省ける。

【0044】
図2は本実施形態の砥粒電着槽を示す斜視図である。図6は本実施形態の砥粒電着槽とワイヤ巻取り機を上方から見た平面図であり、図7はそのA-A線断面図である。
本実施形態の砥粒電着槽30は、回転式ドラム槽31の外側に固定式ドラム槽34が同心配置され、それぞれ基台38の上に設置される。砥粒電着槽30の上面には、蓋39が配される。蓋39の材質は、槽内の状態を観察するため、アクリル板を用いた。回転式ドラム槽31の中心には回転軸が取り付けられ、回転式ドラム槽31の上側の軸受け32cにて回転式ドラム槽31と連結される(図2)。上記回転軸は、回転式ドラム槽31の下側にてプーリ99と連結され、タイミングベルト97を介してプーリ95と連動する(図2、図6)。プーリ95はプーリ93と連動し、プーリ93はベルト96を介してプーリ94と連動し、プーリ94は駆動軸に連結され駆動手段(駆動モータ)M1にて駆動される(図6)。また駆動モータM1は、プーリ94とベルト96を介してプーリ92を駆動し、プーリ92と連結されたワイヤ巻取りボビン91を回転させる(図6)。つまり、ワイヤ巻取り機90の駆動モータM1が、回転式ドラム槽31の駆動手段を兼ねており、駆動モータM1によってワイヤ巻取りボビン91と回転式ドラム槽31を同期運転することとなる。なお駆動系統の詳細動作については、後述する。

【0045】
本実施形態の固定式ドラム槽34は円筒形状を呈し、回転式ドラム槽31を抱えるようにして、同心配置される。固定式ドラム槽34の内側で回転式ドラム槽31の鍔部37の外側の位置には、円筒状の仕切り33が固定式ドラム槽34と一体的に形成され、同心配置される。また、固定式ドラム槽34の内側で回転式ドラム槽31の内側の位置には、円筒状の仕切り341が固定式ドラム槽34と一体的に形成され、同心配置される。回転式ドラム槽31は、側面側から見ると凹形状を呈し、固定式ドラム槽34の最下面34cには、最下面34cを上下に貫通した懸濁液の排出口が形成され排水管432が取り付けられている(図7を参照)。排水管432は、固定式ドラム槽34の最下面34cに軸対称で4箇所、所定間隔で取り付けられている。排水管432の、固定式ドラム槽34から少し離れた箇所には、ローラクランプR1が取り付けられ、懸濁液204(メッキ液202を含む)の排出量を調節する。
本実施形態によれば、回転式ドラム槽31の外側に固定式ドラム槽34が同心配置される配置構成であるから、砥粒電着槽30のサイズが最小となる。

【0046】
本実施形態の回転式ドラム槽31は、円筒形状を呈し、その上部には円盤状の仕切り32が設けられ、円盤状の仕切り32の内周に沿って、円盤状の仕切り32を上下に貫通する貫通孔32aが所定間隔で配されている(図6)。回転式ドラム槽31は、側面側から見ると逆凹形状を呈し、回転式ドラム槽31の下方には、リング状の鍔部37が形成されている(図7を参照)。 固定式ドラム槽34と回転式ドラム槽31は、メッキ液に腐食し難い材質が好ましく、本実施形態では、ステンレス製とした。

【0047】
鍔部37の上には、搬送ローラP1が所定間隔で立設して配されている。本実施形態では、角度が30度ごとに搬送ローラP1が合計12本立設している(図6)。搬送ローラP1の配置数は鍔部37のサイズや搬送ローラP1のサイズに応じて設定され、目安として6本から60本程度立設する。

【0048】
図8は、本実施形態の搬送ローラP1を示しており、(a)は側面図であり、(b)は断面図である。搬送ローラP1は、ボルト形状の軸部P12を中空パイプ状のローラP11に挿通し、鍔部37に形成された貫通孔(又はネジ穴)を通してナット締めされる。軸部P12は、市販のステンレスボルト(例えばM2.6のボルト)を使用してもよい。ローラP11は、軸部P12の外周に回転自在に配されている。ローラP11の材質としては、摺動性が高く、絶縁性に優れ、耐薬品性のあるプラスチックが好ましく、本実施形態ではポリエチレン製パイプを使用した。ローラP11外周上の所定位置には、ローラを周回する溝加工部P11bが形成され、これらローラP11の溝加工部P11bにワイヤ201を沿わせることで、ワイヤ201の周回軌道が所定位置から外れ難くなる。

【0049】
図6に示すように、本実施形態では、脱脂及び洗浄済みワイヤ201は、右側(図中の右手)から進行方向aの方向で進み、基台38の正面右側上に配された滑車K1にて進行方向を矯正されながら砥粒電着槽30の右側窓34aから槽内に進入し、12本の搬送ローラP1に掛けられて時計回りに回転式ドラム31の周りを1周し、砥粒電着槽30の左側窓34bから槽外に取り出され、基台38の正面左側上に配された滑車K1にて進行方向を矯正されながら次工程に進む。

【0050】
本実施形態では、アノード電極として、チタン製バスケット71、72にそれぞれニッケル塊71a、72aを入れて使用する。そしてチタン製バスケット71、72をそれぞれ数珠繋ぎにして電気接続し、電気ケーブル介して直流電源70に電気接続する。本実施形態ではアノード電極としてのチタン製バスケット71が蓋39から吊り下げ固定され、回転式ドラム槽31の内側に配される。また、アノード電極としてのチタン製バスケット72が固定式ドラム槽34の底部に載置される。そして、搬送ローラP1の外周に沿わせたカソード電極としてのワイヤ201に通電する。したがって、芯線201が周回する鍔部37の外側と鍔部37の内側の両側から通電することとなる。これによって、ワイヤ201の周回軌道の内側とワイヤ201の周回軌道の外側の両側から通電することで、ワイヤ201への通電電流を均一にでき、しかも通電電流を大きくできる。

【0051】
本実施形態では、砥粒電着槽30から取り出したワイヤ201に連続的に後メッキ処理を施すための後メッキ槽60が設置される。これは、砥粒203をワイヤ201に電着する作業では、砥粒203が後メッキ工程で脱落しない程度に必要最小限度のメッキ厚み205aの電着処理を行い(図17(a))、引き続き、砥粒電着槽30から取り出したワイヤ201に連続的に後メッキしてワイヤ工具200とすることにより充分なメッキ厚み205bの電着処理を施すことで(図17(b))、砥粒203の実質的な電着時間を短縮することができる。

【0052】
本実施形態では、後メッキ槽60の一部が仕切りで仕切られており、砥粒攪拌層50が配される。後メッキ槽60には所定量のメッキ液202が入っており、上記仕切りの上などからメッキ液202が砥粒攪拌層50に出入りする。砥粒攪拌層50は、ダイヤモンド砥粒203をメッキ液202中に混合攪拌して懸濁液204とする。そして、懸濁液204が輸送管411経由で液供給ポンプ41にて搬送されて供給管412から砥粒電着槽30に供給される(図1)。そして、メッキ液202が液供給ポンプ42にて搬送され供給管412から砥粒電着槽30に供給される。砥粒電着槽30の下方には排出管432が配されており、懸濁液204(メッキ液202を含む)が、後メッキ槽60の砥粒攪拌層50に排出され戻される。
本実施形態によれば、液供給ポンプ41により砥粒電着槽30と後メッキ槽60との間で、懸濁液204を循環させることとなり、小型の砥粒電着槽30であっても、大容量のメッキ液を循環使用することができ、均一に安定してメッキを析出させることができる。

【0053】
図3と図4は本実施形態の砥粒電着槽のワイヤ出入口付近を示す図である。本実施形態では、前記固定式ドラム槽34内に設けられた円筒状の仕切り33の正面側が切り取られてワイヤ出入口331が形成される。ワイヤ出入口331の手前側(正面側)には、上方から見てU字形状のゲート部材36が配される。ゲート部材36の右側面にはワイヤ201を進入させる右側窓36aが形成され、ゲート部材36の左側面にはワイヤ201を取り出す左側窓36bが形成される(図4)。ゲート部材36の左右には、所定間隔で、上方から見てハ字形状に設置された1対の仕切り板35が配される(図3)。ゲート部材36は、ワイヤ201を回転式ドラム槽31に進入させ、ワイヤ201を回転式ドラム槽31から取り出し、懸濁液204(メッキ液202を含む)が仕切った区画から外に流れ出さないようにせき止める。また、1対の仕切り板35は、ゲート部材36から溢れ出した懸濁液204(メッキ液202を含む)が仕切った区画から外に流れ出さないようにせき止める。つまり、ゲート部材36と1対の仕切り板35を組み合わせることで、懸濁液204が砥粒電着槽30の外に流れ出さないようにしている。

【0054】
ゲート部材36の高さ6h3(固定式ドラム槽34の底部34dからゲート部材36の上面までの高さ6h3)を高くすることで、懸濁液204の液面が上昇し、ゲート部材36の高さ6h3を低くすることで、懸濁液204の液面が下降するので、ゲート部材36の高さ6h3を変更することで懸濁液204の液面高さを調節することができる(図4を参照)。
そして、ゲート部材36のワイヤ201を進入させる右側窓36aの高さ6h1(固定式ドラム槽34の底部34dからゲート部材36の右側窓36aの中央までの高さ6h1)と、ゲート部材36のワイヤ201を取り出させる左側窓36bの高さ6h2(固定式ドラム槽34の底部34dからゲート部材36の左側窓36bの中央までの高さ6h2)との高さを異ならせている(図4を参照)。本実施形態では、ワイヤ201を進入させる右側窓36aの高さ6h1よりも、ワイヤ201を取り出させる左側窓36bの高さ6h2よりを若干高く設定している(6h1<6h2)。
本実施形態によれば、固定式ドラム槽34内に設けられた回転式ドラム槽31へのワイヤ出入口331でワイヤ201が立体交差することで、ワイヤ201同士が接触することがないため、電着した砥粒203がワイヤ201から脱落する心配がない。

【0055】
本実施形態では、回転式ドラム槽31の下方に形成された鍔部37上に砥粒203を沈殿させて砥粒溜まり203bを作り、この鍔部37上に所定間隔で立設して配された搬送ローラP1にワイヤ201を沿わせて砥粒溜まり203bにワイヤ201を入れ、ワイヤ巻取り機90にてワイヤ工具200(ワイヤ201に砥粒203を電着したもの)を巻き取ることによって鍔部37上でワイヤ201を周回走行させながら、駆動手段M1にて回転式ドラム槽31を回転させる。回転式ドラム槽31の回転方向とワイヤ201の周回走行の向きとは、おなじ右回り(図1のcw方向)である。

【0056】
図9は、本実施形態の搬送ローラP1とワイヤ201の関係を示す側面図である。本実施形態では、ゲート部材36の右側窓36aからワイヤ201を回転式ドラム槽31に進入させると、ワイヤ201が鍔部37に立設配置された搬送ローラP1の外周に近づき(図9(a))、ワイヤ201が搬送ローラP1の溝加工部P11bに巻き付いて砥粒溜まり203bにワイヤが入る(図9(b))。そして、砥粒溜まり203bにワイヤが入った状態で回転式ドラム槽31が約1回転し(図9(c))、ゲート部材36の左側窓36bからワイヤ201を取り出すと、ワイヤ201が搬送ローラP11の外周から鍔部37の外側に向かって離れ(図9(d))、砥粒溜まり203bが崩される。本実施形態によれば、回転式ドラム槽31が1周する毎に、砥粒溜まり203bが崩されるので、砥粒203の電着ムラや砥粒203が電着されない箇所が出来てしまうことが防止され、砥粒203をワイヤ201に均一に電着することができる。

【0057】
本実施形態では、懸濁液204が輸送管411経由で液供給ポンプ41にて搬送されて供給管412から砥粒電着槽30に供給される(図1)。図5は本実施形態の砥粒電着槽30の配液口412a付近を拡大して示す斜視図である。液供給ポンプ41は、回転式ドラム槽31の外周と円筒状の仕切り33の内周の隙間に配されており、ゲート部材36の左側窓36b付近から回転式ドラム槽31の回転方向に向かってL字形状に折れ曲がり、円筒状の仕切り33の内壁に向くように(回転式ドラム槽31の外周壁の反対側に向くように)複数の配液口(配液孔)412aが形成されている。そして、回転式ドラム槽31が1回転する毎に、液供給ポンプ41が固定式ドラム槽34の内側に形成された円筒状の仕切り33の内壁に向けて懸濁液204を出液し、円筒状の仕切り33の内壁に沿わせて懸濁液204を供給する。
本実施形態によれば、回転式ドラム槽31が1回転する毎に、液供給ポンプ41が固定式ドラム槽34の内側に形成された円筒状の仕切り33の内壁に沿わせて懸濁液204を供給するため、一度ワイヤ201が砥粒溜まり203bから出ることで崩された砥粒溜まり203bが、直ちに再形成される。

【0058】
本実施形態では、固定式ドラム槽34の内側に形成された円筒状の仕切り33の下方側の側面に所定間隔で貫通孔33aが形成され、回転式ドラム槽31の外周下方側の側面に所定間隔で貫通孔31aが形成されている(図7)。そして、メッキ液202が液供給ポンプ42の供給管412が回転式ドラム槽31の上方に配され、メッキ液201が砥粒電着槽30に供給される。本実施形態では、砥粒電着槽30に懸濁液204を供給し、さらにメッキ液201を追加供給する構成となっている。
この構成により、図7に示すように、回転式ドラム槽31の内側から固定式ドラム槽34の内壁に向かって、メッキ液201(懸濁液204を含む)の液面高さが段階的に低くなるように設定される。つまり、固定式ドラム槽34の最下面34cを基準とした場合、鍔部37の配されたエリアの液面高さ2h1よりも、回転式ドラム槽31の内側エリアの液面高さ2h2の液面が高い(2h1<2h2)。したがって、メッキ液201が砥粒溜まり203bに流れ込むこととなり、ワイヤ201周辺の陰極拡散層を効果的に抑制し、より高い砥粒の電着効率が得られる。

【0059】
本実施形態では、回転式ドラム槽31の鍔部37の最下面にカキ板Q1が配されている。カキ板Q1は、ヘラ状になっており、排水管432の配置に合わせて軸対称で4箇所、所定間隔で取り付けられている。この構成により、図7に示すように、回転式ドラム槽31が1回転する毎に、回転式ドラム槽31の下面に配されたカキ板Q1にて固定式ドラム槽34の底に沈殿した堆積砥粒203cを取り除きながら固定式ドラム槽31の底部に取り付けられた排水管432から堆積砥粒203cをメッキ液202の排出とともに排出する。したがって、固定式ドラム槽34の底に沈殿した堆積砥粒203cを効果的に回収することができる。

【0060】
本実施形態では、メッキに必要な温度を維持するため、保温機構を砥粒電着槽30に付加した(図10)。本実施形態では、断熱効果の高い独立気泡のゴムスポンジS21を砥粒電着槽30の外周側面に貼り付け、同様に、ゴムスポンジS22を砥粒電着槽30の裏底面に貼り付けてある。そして、砥粒電着槽30の上部への放熱に対しては、アクリル製の蓋39を取り付けて、懸濁液204(メッキ液202を含む)の液温低下を抑えている。また、必要に応じて、砥粒電着槽30の回転式ドラム槽31の内側の上部に配された電熱ヒータS1によって加温する。

【0061】
図11は、本実施形態の後メッキ槽60を示す斜視図である。本実施形態では、後メッキ槽60内に、4本の多溝滑車K3が所定間隔で配されており、砥粒電着槽30から取り出された砥粒電着済みワイヤ200が、後メッキ槽60の入口の滑車K1に沿って搬送され、4本の多溝滑車K3の溝部に沿って螺旋状に周回し、後メッキ槽60の出口の滑車K1に沿って、次工程に搬送される。4本の多溝滑車K3の内と外には、砥粒電着済みワイヤ200を挟み込む形で、所定間隔をおいて、ニッケル塊の入ったチタンバスケット73が3つ配される。そして、砥粒電着済みワイヤ200がカソード電極として電気接続され、チタンバスケット73がアノード電極として電気接続され、後メッキが施される。多溝滑車K3は、例えば図8に示す構造となる。そして、後メッキしたワイヤ工具200を洗浄槽80にて浸漬して水洗浄する(図1)。そして、水洗浄されたワイヤ工具200は、ワイヤ巻取りの際に、巻き取ったワイヤが重ならないようにワインダー98に通され、ワイヤ巻取りボビン91にて巻き取られる(図6)。

【0062】
上述した装置構成により、本実施形態では、ワイヤ巻取り機90の駆動モータM1が回転式ドラム槽31を回転させる駆動手段を兼ねており、タイミングベルト97によって鍔部37の周回速度とワイヤ201の周回速度とを僅かに異ならせている。
本実施形態によれば、鍔部37の周回速度をワイヤ201の周回速度とほぼ等しい速度に設定することで、ワイヤ201と砥粒溜まり203bとの相対速度の差を僅かなものとする。したがって、メッキが析出するまでの時間、ワイヤ201と砥粒溜まり203bとの相対位置があまり変化せず、安定した状態で砥粒203を確実にワイヤ201の表面に電着させる。そして、タイミングベルト97によって鍔部37の周回速度とワイヤ201の周回速度とを僅かに異ならせることで、ワイヤ201が搬送ローラP1と接触する接触位置が僅かずつずれることとなり、ムラなく均一に砥粒203を電着させることができる。なお本実施形態では、タイミングベルト97によって鍔部37の周回速度をワイヤ201の周回速度よりも僅かに遅らせている。

【0063】
(電着砥粒ワイヤ工具の作製方法)
図12は、本発明を適用した電着砥粒ワイヤ工具の作製手順を示すフローチャートである。図12のステップS1からステップS3は、芯線(ワイヤ)201の前処理工程である。ステップS4からステップS8は、砥粒203のワイヤ201への砥粒電着処理工程である。ステップS9は、砥粒電着済みワイヤ200への後メッキ処理工程である。ステップS10は、後メッキ処理済のワイヤ工具200の水洗い工程である。ステップS11は、出来上がったワイヤ工具200をボビンに巻き取るワイヤ巻取り工程である。

【0064】
上述した装置構成により、本実施形態では、ワイヤ201を脱脂(S1)、酸洗い(S2)、水洗い(S3)して前処理する。そして、ダイヤモンド砥粒203をメッキ液202中に攪拌して懸濁液204とし(S4)、液供給ポンプ41によって懸濁液204を砥粒電着槽30に供給し(S5)、回転式ドラム槽31の下方に形成された鍔部37上に砥粒203を沈殿させて砥粒溜まり203bを形成し(S6)、形成された砥粒溜まり203bにワイヤ201を入れて、ワイヤ巻取り機90の駆動モータM1にてワイヤを巻き取ることによって鍔部37上でワイヤ201を周回走行させながら、ほぼ同時に回転式ドラム槽31を回転させ、周回走行中のワイヤ201と砥粒電着槽30内に配されたアノード電極71,72との間を通電してワイヤ表面に砥粒203を電着させる(S7)。そして、砥粒電着済みワイヤ200を砥粒溜まり203bから取り出すことで砥粒溜まり203bを解消し(S8)、連続的に後メッキ処理し(S9)、水洗い(S10)、ワイヤ工具巻取り(S11)を行う。
本実施形態によれば、ワイヤの脱脂、砥粒電着処理、後メッキ処理、水洗い、ワイヤ巻取りを連続して処理することができ、短時間で高品質のワイヤ工具200が得られる。なお、図12の前処理工程や後メッキ工程は、ワイヤ工具の製作条件に応じて、適宜省くことができる。

【0065】
(実施例)
上述した本実施形態の電着砥粒ワイヤ工具の作製装置を試作した。試作した電着砥粒ワイヤ工具の作製装置1の全体サイズは、横幅が1.8m、奥行きが0.9mであり、従来の装置に比べて非常に小型化された(目安としてサイズが1/10以下)。本実施例では、砥粒電着槽30のサイズが、横幅が0.45m、奥行きが0.45mとなった。また後メッキ槽60は、ワイヤ走行距離が一巻きあたり約1.5mとし、4本の多溝滑車K3にそれぞれ30本の溝部を付けることで、最大約45mのワイヤ走行距離を得ることができた。

【0066】
図14は、上述した本実施形態の砥粒電着槽30の鍔部37付近における砥粒溜まり203bの形成状態を示す外観写真である。回転式ドラム槽31の外壁に沿わせて懸濁液204を供給した場合には、砥粒溜まり203bの堆積高さが約4mmとなり、ワイヤ201(白っぽく見える)が露出している箇所が散見される(図14(a))。そこで、固定式ドラム槽34に形成された円筒状の仕切り33の内壁に沿わせて懸濁液204を供給したところ(図5、図7)、砥粒溜まり203bの堆積高さが約6mmとなり、より多くの砥粒が堆積し、ワイヤ201が砥粒溜まり203bに埋まっていることが確認された(図14(b))。実験では、砥粒の粒径が約15μmの市販の緑色炭化ケイ素系砥粒(GC)を市販のメッキ液に20重量%程度攪拌して懸濁液とし、回転ドラム槽31を周速度が2,000mm/分となるように回転させた。ワイヤは、線径が0.2mmの市販のピアノ線である。

【0067】
図15は、ワイヤ工具の作製速度を約1,500mm/分として試作した電着砥粒ワイヤ工具を顕微鏡観察した外観写真である。図15(a)はワイヤを任意の位置で顕微鏡観察した平面図であり、(b)は背面図であり、(c)は左側面図であり、(d)は右側面図である。図15(a)~(d)からも、ワイヤ工具の全周に亘って均一な砥粒の電着が施されていることがわかる。
図16は、ワイヤ工具の作製速度を約2,000mm/分として試作した電着砥粒ワイヤ工具を顕微鏡観察した外観写真である。図16(a)はワイヤを任意の位置で顕微鏡観察した平面図であり、(b)は背面図であり、(c)は左側面図であり、(d)は右側面図である。図16(a)~(d)からも、ワイヤ工具の全周に亘って均一な砥粒の電着が施されていることがわかる。また、ワイヤ工具の作製速度を約1,500mm/分とした場合と、ワイヤ工具の作製速度を約2,000mm/分とした場合とでは、ワイヤ表面の砥粒電着量に大きな違いは見られず、ワイヤ表面の砥粒電着量が一定している。したがって、本実施例により、ワイヤ工具の作製速度を従来の装置の3~4倍の高速とした場合でも、良好な砥粒の電着が施されることが確認された。

【0068】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。本発明が適用される砥粒としては、ダイヤモンド砥粒、CBN、褐色アルミナ系砥粒(A)、白色アルミナ系砥粒(WA)、単結晶アルミナ系砥粒(HA)、黒色炭化ケイ素系砥粒(C)、緑色炭化ケイ素系砥粒(GC)、ジルコニアアルミナ砥粒(Z)等が挙げられる。また本発明が適用されるワイヤ材質としては、ピアノ線、ステンレス線、タングステン線等が挙げられ、ワイヤ形状は単線のみならず、撚り線でもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1 電着砥粒ワイヤ工具の作製装置、
10 芯線送り出し部、
20,21,22,23 洗浄槽、
30 砥粒電着槽、
31 回転式ドラム槽、
33 固定式ドラム槽、
37 鍔部、
P1 搬送ローラ、
41,42 液供給ポンプ、
50 砥粒攪拌槽、
60 後メッキ槽、
70 直流電源、
80 洗浄槽、
90 ワイヤ巻取り機、
M1 駆動手段(駆動モータ)、
K,K1,K2 滑車、
200 電着砥粒ワイヤ工具(ワイヤ工具)、
201 芯線(ワイヤ)、
202 メッキ液、
203 砥粒(ダイヤモンド砥粒)、
203b 砥粒溜まり、
204 懸濁液、
205 メッキ層
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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