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明細書 :薄膜共振子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5747318号 (P5747318)
公開番号 特開2012-116736 (P2012-116736A)
登録日 平成27年5月22日(2015.5.22)
発行日 平成27年7月15日(2015.7.15)
公開日 平成24年6月21日(2012.6.21)
発明の名称または考案の名称 薄膜共振子
国際特許分類 C30B  29/38        (2006.01)
C30B  23/08        (2006.01)
C23C  14/48        (2006.01)
H03H   9/17        (2006.01)
H03H   3/02        (2006.01)
FI C30B 29/38 C
C30B 23/08 M
C23C 14/48 D
H03H 9/17 F
H03H 3/02 B
H03H 3/02 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2010-270539 (P2010-270539)
出願日 平成22年12月3日(2010.12.3)
審査請求日 平成25年10月30日(2013.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】柳谷 隆彦
【氏名】鈴木 雅視
【氏名】渡辺 好章
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査官 【審査官】田中 則充
参考文献・文献 特表2007-516341(JP,A)
特開2009-263730(JP,A)
特開平09-235669(JP,A)
特開平11-172421(JP,A)
調査した分野 C30B1/00-35/00
C23C14/00-14/58
H03H3/02
H03H9/17
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ウルツ鉱型の結晶構造を有する材料から成る薄膜であって、該薄膜に対する法線とc軸が成す角である傾斜角が、縦波に関する圧電定数e33がゼロになる臨界傾斜角よりも大きく、且つ90°未満であるウルツ鉱圧電体薄膜と、
前記ウルツ鉱圧電体薄膜の両面に設けられた電極と
を備えることを特徴とする薄膜共振子
【請求項2】
前記ウルツ鉱圧電体薄膜がエピタキシャル成長法以外の方法により作製されたものであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜共振子
【請求項3】
第1の圧電体層と第2の圧電体層を重ねて上下電極の間に設けたものであって、
a) 前記第1圧電体層の分極ベクトルである第1分極ベクトル及び前記第2圧電体層の分極ベクトルである第2分極ベクトルが該第1圧電体層及び該第2圧電体層に平行な面の法線に対して傾斜するように配向しており、
b) 前記第1分極ベクトルの前記面への射影が前記第2分極ベクトルの前記面への射影と逆方向であって且つ横波に関する圧電定数の正負が前記第1圧電体層と前記第2圧電体層で同じであるか、又は前記第1分極ベクトルの前記面への射影が前記第2分極ベクトルの前記面への射影と同方向であって且つ横波に関する圧電定数の正負が前記第1圧電体層と前記第2圧電体層で逆であり、
c) 前記第1分極ベクトルの前記法線への射影が前記第2分極ベクトルの前記法線への射影と同方向であり且つ縦波に関する圧電定数の正負が前記第1圧電体層と前記第2圧電体層で逆である
ことを特徴とする薄膜共振子。
【請求項4】
第1圧電体層と第2圧電体層のうちの一方が、該層に対する法線とc軸が成す角である傾斜角が、縦波に関する圧電定数e33がゼロになる臨界傾斜角よりも大きく且つ90°未満であるウルツ鉱圧電体薄膜であり、他方が、前記臨界傾斜角よりも小さい傾斜角を有するウルツ鉱圧電体薄膜であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜共振子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、炭化シリコン(SiC)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)等のウルツ鉱型の結晶構造を有する材料から成る薄膜(以下「ウルツ鉱圧電体薄膜」とする)、該薄膜向けの製造方法及び装置、並びに該薄膜を用いて作製することが可能な薄膜共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
ウルツ鉱型の結晶構造は、図1に示すように、六方晶の単位格子を持ち、An+から成る層(A層)とBn-から成る層(B層)が交互に積層し、B層がその上下にある2枚のA層から等距離の位置よりもc軸方向にずれた位置に配置されたものである。上記の構造を有することにより、ウルツ鉱型の構造を有する結晶(以下「ウルツ鉱型結晶」とする)は外部電界が印加されなくともc軸に平行な方向の分極ベクトルPを持つ圧電体となる。
【0003】
このようなウルツ鉱型結晶から成るウルツ鉱圧電体薄膜は、交流の電気信号を入力すると機械的振動が生じ、機械的振動を入力すると交流の電気信号が生じる。ここでの機械的振動は、ウルツ鉱型結晶のc軸がウルツ鉱圧電体薄膜に対して垂直に配向(以下「垂直配向」とする)している場合には縦波であり、c軸がウルツ鉱圧電体薄膜に対して平行な1方向に配向(平行配向)している場合には横波である。
【0004】
従来より、ウルツ鉱圧電体薄膜は垂直配向しやすいことが知られている。それに対して本願発明者はこれまでに、基板に温度勾配を形成しつつ該基板にウルツ鉱圧電体薄膜の材料を堆積させること(特許文献1)、該薄膜材料から成るプラズマの密度勾配を形成し、該プラズマ内に基板を配置すること(特許文献2)、あるいは基板にほぼ平行(10°以下)にイオンビームを照射しつつ該薄膜材料を該基板に堆積させること(特許文献3)により、平行配向したウルツ鉱圧電体薄膜が得られることを見出してきた。
【0005】
ウルツ鉱圧電体薄膜は、上記の特性を活かして、主に薄膜共振子に用いられてきた。薄膜共振子は、広帯域の信号から特定の周波数の信号を抽出する周波数フィルタとしての機能を有する。従来、このような薄膜共振子では多くの場合、製造が容易である垂直配向型のウルツ鉱圧電体薄膜が用いられてきた。一方、特許文献4には、薄膜共振子に平行配向型のウルツ鉱圧電体薄膜を用いることが記載されている。このような平行配向型のものを用いると、垂直配向型のものを用いる場合よりも機械的振動の音速が遅くなるため、所定の周波数で共振させるための膜厚をより薄くすることができる。これにより、所定のインピーダンス(通常は50Ω)にするために必要な膜の面積を小さくすることができ、素子を小型化することができる。また、横波は空気中を伝播しないため、平行配向型のウルツ鉱圧電体薄膜を用いることにより、機械的振動のエネルギーが薄膜共振子の外部に漏れることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2004-244716号公報
【特許文献2】特開2006-083010号公報
【特許文献3】特開2008-254948号公報
【特許文献4】特開2007-036914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ウルツ鉱圧電体薄膜では、ウルツ鉱圧電体薄膜のc軸がどの方向に配向しているかという点が重要となるが、従来は垂直配向及び平行配向以外のウルツ鉱圧電体薄膜に関してはほとんど検討されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、垂直配向型及び平行配向型以外の配向を有するウルツ鉱圧電体薄膜であって、その配向により従来にない特性が得られるウルツ鉱圧電体薄膜を提供することである。併せて、そのようなウルツ鉱圧電体薄膜の製造方法及び製造装置、並びにそのようなウルツ鉱圧電体薄膜を用いた薄膜共振子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜は、ウルツ鉱型の結晶構造を有する材料から成る薄膜であって、該薄膜に対する法線とc軸が成す角である傾斜角が、縦波に関する圧電定数e33がゼロになる臨界傾斜角よりも大きく、且つ90°未満であることを特徴とする。
【0009】
このウルツ鉱圧電体薄膜は、エピタキシャル成長法を用いることなく作製されたものであることが望ましい。これは、エピタキシャル成長法では単結晶基板上に薄膜を形成する必要があるため、デバイスとして用いるための電極を該薄膜に形成することが困難になるためである。薄膜の具体的な作製例は後述する。
【0010】
本願発明者は、ウルツ鉱型結晶薄膜において、c軸を該薄膜に対する法線から傾斜させると圧電定数がどのように変化するかを計算で求めた。その結果、図2に示すように、臨界傾斜角θcを境界として、それよりも傾斜角が大きく、且つ傾斜角が90°未満である時には、縦波に関する圧電定数e33が負になることを見出した。このように圧電定数e33が負であるウルツ鉱型結晶薄膜では、薄膜の上下に交流電圧を印加すると、圧電定数e33が正である垂直配向のウルツ鉱型結晶薄膜とは逆位相で縦波の振動が生成される。
【0011】
従って、本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜の両面に電極を設けたものは、従来の垂直配向のウルツ鉱型結晶薄膜を用いた薄膜共振子と逆位相の縦波振動が生じる薄膜共振子として機能する。
【0012】
また、本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜は、以下に述べる2層構造の薄膜共振子に好適に用いることができる。本発明に係る薄膜共振子は、第1の圧電体層と第2の圧電体層を重ねて上下電極の間に設けたものであって、
a) 前記第1圧電体層の分極ベクトルである第1分極ベクトル及び前記第2圧電体層の分極ベクトルである第2分極ベクトルが該第1圧電体層及び該第2圧電体層に平行な面の法線に対して傾斜するように配向しており、
b) 前記第1分極ベクトルの前記法線への射影が前記第2分極ベクトルの前記法線への射影と同方向であり且つ縦波に関する圧電定数の正負が前記第1圧電体層と前記第2圧電体層で逆である
ことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る2層構造の薄膜共振子では、上記のように各分極ベクトルの向き及び圧電定数を設定することにより、上下電極間に交流電圧を印加すると、第1圧電体層と第2圧電体層が互いに逆位相で縦波の振動を生じる。これにより、本発明に係る2層構造の薄膜共振子では、交流電圧の入力により、第1圧電体層と第2圧電体層を合わせた厚みと同じ長さを1波長とする2次モードの縦波振動が生成される。それに対して、ウルツ鉱圧電体薄膜から成る層を1層のみ有する従来の薄膜共振子では、該層の厚みと同じ長さを半波長とする1次モードの振動が生成される。そのため、従来の薄膜共振子よりも本発明に係る2層構造の薄膜共振子を比較すると、ウルツ鉱圧電体薄膜の厚みの総和が等しい場合には本発明の方が周波数を高くすることができ、周波数が等しい場合にはウルツ鉱圧電体薄膜の厚みが厚くなるため耐電力性及び機械的強度を高くすることができる。
【0014】
本発明に係る2層構造の薄膜共振子では、第1圧電体層と第2圧電体層のうちの一方には、該層に対する法線とc軸が成す角である傾斜角が、縦波に関する圧電定数e33がゼロになる臨界傾斜角よりも大きく且つ90°未満であるウルツ鉱圧電体薄膜を用い、他方には前記臨界傾斜角よりも小さい傾斜角を有するウルツ鉱圧電体薄膜を用いることができる。
【0015】
本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜は、以下の方法又は/及び装置により好適に作製することができる。本発明に係る薄膜製造方法は、基板を冷却しつつ、ウルツ鉱型の結晶構造を有する材料を基板の表面に堆積させると共に該基板の表面に対して10°を超え40°以下の角度で入射するようにイオンビームを照射することを特徴とする。

【0016】
また、本発明に係る薄膜製造装置は、
a) 薄膜を形成する基板を取り付ける基板台と、
b) 前記基板台に取り付けられた前記基板の表面にウルツ鉱型の結晶構造を有する材料を堆積させるように、該表面に該材料を供給する材料供給手段と、
c) 前記基板台に取り付けられた前記基板を冷却する冷却手段と、
d) 前記基板台に取り付けられた前記基板の表面に対して10°を超え40°以下の角度で入射するようにイオンビームを照射するイオンビーム照射手段と
を備えることを特徴とする。
【0017】
以下では、基板表面とイオンビームが成す角度を「入射角」と呼ぶ。
【0018】
特許文献3に記載のように、入射角が10°以下の場合には、ウルツ鉱型結晶は平行配向する。また、入射角が40°を超えると、ウルツ鉱型結晶は優先配向しないか、又は結晶化しない。それに対して、本発明に係る薄膜製造方法及び装置によれば、入射角を、10°を超え且つ40°以下とすることにより、c軸の傾斜角がおおむね60°以上(基板に対するc軸の角度はおおむね30°以下)となるウルツ鉱圧電体薄膜が得られる。以下、このような傾斜角での配向を「平行寄り傾斜配向」と呼ぶ。
【0019】
なお、本発明の製造方法及び装置では、イオンビームのエネルギーが所定の境界値以下になると、c軸が垂直配向したウルツ鉱圧電体薄膜が得られる。但し、従来の垂直配向のウルツ鉱圧電体薄膜ではa軸及びb軸が配向しない(ランダムな方向を向く)のに対して、このウルツ鉱圧電体薄膜は、六方晶の単位格子における六角形のC面が稠密に並ぶようにa軸及びb軸が配向し、それにより従来の垂直配向型のウルツ鉱圧電体薄膜よりも電気抵抗率が低い等、電気的特性が高いという特長を有する。イオンビームエネルギーの上記境界値は、簡単な予備実験を行うことにより求めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、垂直配向のウルツ鉱型結晶薄膜とは逆位相の縦波振動が生じるという、従来にない特性を有するウルツ鉱圧電体薄膜及びそれを用いた薄膜共振子が得られる。
【0021】
また、本発明に係る2層構造の薄膜共振子により、2次モードの縦波振動を得ることができ、それにより、周波数を高くするか、又は耐電力性及び機械的強度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ウルツ鉱構造を示す概略図。
【図2】ウルツ鉱型結晶構造を有するAlN薄膜における、c軸の傾斜角に対する圧電定数を示すグラフ。
【図3】本発明に係る薄膜製造装置の一実施例を示す概略構成図。
【図4】本実施例で作製したAlN薄膜Iの(0002)極点図。
【図5】図4及び図8の極点図においてφ=90°の所を取り出して示したX線検出強度のグラフ。
【図6】AlN薄膜Iのインパルス応答を測定した結果を示すグラフ。
【図7】本実施例で作製したAlN薄膜IIの(0002)極点図。
【図8】本実施例で作製したAlN薄膜IIIの(0002)極点図。
【図9】本実施例で作製したAlN薄膜IVの(10-10)極点図。
【図10】図9の極点図においてψ=62°の所を取り出して示したX線検出強度のグラフ。
【図11】本発明に係る薄膜共振子の一実施例を示す概略構成図。
【図12】本実施例の薄膜共振子((a-1), (a-2))及び従来の薄膜共振子((b-1), (b-2))の動作を説明するための概略図。
【図13】本発明に係る2層構造の薄膜共振子の一実施例を示す概略構成図。
【図14】本実施例の2層構造の薄膜共振子の動作を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図3~図14を用いて、本発明に係るウルツ鉱型結晶薄膜、薄膜製造方法及び装置、並びに薄膜共振子の実施例を説明する。
【実施例】
【0024】
(1) 薄膜製造装置の一実施例
まず、図3を用いて、本発明に係る薄膜製造装置の一実施例を説明する。本実施例の薄膜製造装置10は、基板Sを取り付けるための基板台11と、基板台11に取り付けられた基板Sの表面にウルツ鉱型の結晶構造を有する材料Mを堆積させるように材料Mを供給するための材料供給部12と、基板台11に取り付けられた基板Sの表面に対して10°<α≦40°の範囲内の角度αで入射するようにイオンビームIBを照射するイオンビーム照射手段13とを備える。これら基板台11、材料供給部12及びイオンビーム照射手段13は図示せぬ容器内に収容されている。基板台11には、基板Sを冷却するための水冷式の冷却装置111が設けられている。
【実施例】
【0025】
材料供給部12には、本実施例では、基板台11に対向して配置した、通常のマグネトロンスパッタ装置を用いた。マグネトロンスパッタ装置では、材料Mから成るターゲットTの近傍に高周波電界及び静磁界を形成し、そこにプラズマ生成ガス(例えばアルゴンガス)を導入する。これにより、プラズマ生成ガスの原子又は分子が電離して陽イオンが生成され、その陽イオンが高周波電界及び静磁界から力を受けてターゲットTに衝突することにより、ターゲットTがスパッタされる。こうしてスパッタされた材料Mが、基板台11に取り付けられた基板Sの表面に供給される。
【実施例】
【0026】
イオンビーム照射手段13が照射するイオンビームIBは、材料MがZnOの場合には酸素イオンビームを、AlNの場合には窒素イオンビームを、それぞれ好適に用いることができる。また、それらの他に、比較的安価であるアルゴンから生成されるイオンビームや複数種類のイオンが混合されたイオンビームを用いてもよい。
【実施例】
【0027】
なお、材料供給部12には、上記のマグネトロンスパッタ装置以外にも、例えば、材料Mから成るターゲットTに対して、イオンビーム照射手段13とは別の(第2の)イオンビーム照射手段からイオンビームを照射することによりターゲットTをスパッタするイオンビームスパッタ装置を用いることができる。また、材料Mを蒸発(あるいは昇華)させる蒸発源を用いることもできる。
【実施例】
【0028】
(2) 薄膜製造方法の一実施例
本実施例の薄膜製造装置10を用いた、本発明に係る薄膜製造方法の一実施例を説明する。ここではAlNから成る平行寄り傾斜配向薄膜を製造する場合を例として説明するが、AlN以外のウルツ鉱型の結晶構造を有する材料(ZnO等)から成る平行寄り傾斜配向薄膜も同様に作製することができる。
【実施例】
【0029】
まず、基板Sを基板台11に取り付ける。基板Sには、例えば石英ガラス製の板や、石英ガラス板の表面にAlを成膜したものを用いることができる。ここでAlの膜は、本実施例で作製される薄膜を薄膜共振子等のデバイスに用いる際に、そのデバイスの電極として用いることができる。
【実施例】
【0030】
次に、材料供給部12のマグネトロンスパッタ装置に、Alから成るターゲットTを取り付ける。続いて、上記容器内を真空にした後、窒素ガス又は窒素とアルゴンの混合ガスを該容器内に導入する。そして、冷却装置111に冷却水を流すことによって基板Sを冷却しつつ、上述のように材料供給部12を動作させることにより、スパッタされたAlと容器内の窒素を反応させ、それにより生成されるAlNを基板Sの表面に供給して堆積させる。それと共に、その堆積の間中、イオンビーム照射手段13から基板Sの表面に対して角度αで窒素イオンから成るイオンビームIBを照射する。これにより、基板S上に、平行寄り傾斜配向のAlN薄膜が得られる。こうして得られたAlN薄膜は、本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜の実施例に該当する。
【実施例】
【0031】
(3) 本実施例の薄膜製造方法及び装置で得られた、本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜の実施例の評価実験
図4~図10を用いて、本実施例の薄膜製造方法及び装置により作製した4種類のAlN薄膜(AlN薄膜I~III)の評価実験を行った結果を説明する。各AlN薄膜の作製条件は、照射したイオンビームの入射角α、イオンビームのエネルギー(加速電圧)、容器内に導入されるガス、及び成膜した膜の厚さの点で以下のように相違している。
・AlN薄膜I
α:20°、加速電圧:3000eV、ガス:窒素ガス、膜厚:3.4μm
・AlN薄膜II
α:20°、加速電圧:3000eV、ガス:窒素ガス、膜厚:1.3μm
・AlN薄膜III
α:40°、加速電圧:3000eV、ガス:窒素ガス1対アルゴンガス2(圧力比)、膜厚:(未測定)
・AlN薄膜IV
α:20°、イオンビームの加速電圧:500eV、膜厚:0.75μm

【実施例】
【0032】
(3-1) AlN薄膜Iの評価
図4は、AlN薄膜Iについて極点X線回折により(0002)面でのブラッグ反射を検出する実験を行った結果を示す極点図である。この実験では、(0002)面でのブラッグ反射が生じればX線が検出されるようにAlN薄膜に対するX線ビーム及び検出器の位置を設定し、AlN薄膜を回転させることにより薄膜の仰角ψ及び方位角φを変化させながら、検出器で検出されるX線の強度を測定した。その結果、φ=270°付近においてX線検出強度のピーク(極21)が検出された。また、φ=270°の所を取り出したX線検出強度のグラフ(図5)から、ピークの位置におけるψの値は76°であることがわかる。これらの結果から、AlN薄膜Iではc軸の傾斜角は76°(基板に対する角度は14°)であることがわかった。
【実施例】
【0033】
また、AlN薄膜Iに対してネットワークアナライザを用いてインパルス応答を測定した。このインパルス応答測定は、試料に対して電気信号を1パルスのみ入力した時の、試料からの出力信号を測定したものと等価である。測定結果を図6に示す。縦波及び横波にそれぞれ対応した周期的な応答が観測された。この応答はAlN薄膜から励振された縦波と横波が膜表面と基板裏面の間を多重反射したことにより得られたものである。
【実施例】
【0034】
(3-2) AlN薄膜IIの評価
AlN薄膜Iと同様に、AlN薄膜IIに対して(0002)面での極点図測定を行ったところ、図7に示すように、ψ=83°のところに極21Aが観測された。従って、AlN薄膜IIではc軸の傾斜角は83°(基板に対する角度は7°)であるといえる。このように、AlN薄膜IIよりもAlN薄膜Iの方が基板に対するc軸の角度が大きく(傾斜角が小さく)なった。これは、膜厚を厚くするほど、基板に対するc軸の角度がイオンビームの入射角に近づくためであると推察される。
【実施例】
【0035】
(3-3) AlN薄膜IIIの評価
AlN薄膜I及びIIと同様に、AlN薄膜IIIに対して(0002)面での極点図測定を行ったところ、図8の極点図及び図5のφ=270°におけるX線強度分布の図に示すように、ψ=67°のところに極21Bが観測された。即ち、AlN薄膜IIIではc軸の傾斜角は67°(基板に対する角度は23°)である。AlN薄膜IIIではAlN薄膜I及びIIよりもイオンビームの入射角が大きいため、それに伴って基板に対するc軸の角度が大きく(傾斜角が小さく)なったといえる。
【実施例】
【0036】
(3-4) AlN薄膜IVの評価
AlN薄膜IVに関しては、(10-10)面での極点図を測定した。その結果、図9に示すように、ψ=62°の所において6つの極23A~23Fが観測された。(10-10)面と(0001)面との成す角が約28°であることから、このようにψ=62°に極が見られることは、(0001)面が薄膜に対して平行、即ちc軸が薄膜に対して垂直になっていることを示している。また、ψ=62°の所を取り出したX線検出強度のグラフ(図10)から、これら6つの極はφが60°変化する毎に現れることがわかる。このことは、a軸及びb軸が配向していることを示している。
【実施例】
【0037】
このように、AlN薄膜IVではAlN薄膜I~IIIとは異なり、c軸が垂直配向し、さらにa軸及びb軸が配向している。これは、AlN薄膜IVを作製する際のイオンビームのエネルギー(加速電圧)がAlN薄膜I~IIIの作製時(3000eV)よりも弱い500eVであったことによる。
【実施例】
【0038】
(4) 薄膜共振子(1層構造)の一実施例
図11及び図12を用いて、本発明に係る薄膜共振子の一実施例を説明する。本実施例の薄膜共振子30は、図11に示すように、本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜から成る圧電体層31を上部電極33と下部電極34の間に設けたものである。圧電体層31の分極ベクトルPはc軸と同じ傾きを有し、その方向は(斜め)上向きである。この薄膜共振子30の動作を、従来の垂直配向型ウルツ鉱圧電体薄膜31A(分極ベクトルPは上向き)を上部電極33Aと下部電極34Aの間に設けた薄膜共振子30Aの動作と比較しつつ、図12を用いて説明する。図12(a-1)及び(b-1)は、上部電極と下部電極の間に交流電圧を印加した場合において、下部電極側よりも上部電極側の方が高電位となっている状態を示している。従来の薄膜共振子30Aでは圧電体層31の上下を引っ張る方向に力が加わる(b-1)のに対して、本実施例の薄膜共振子30では圧電体層31の上下を圧縮する方向に力が加わる(a-1)。一方、下部電極側よりも上部電極側の方が低電位となっている場合には、従来の薄膜共振子30Aでは圧電体層31の上下を圧縮する方向に力が加わる(b-2)のに対して、本実施例の薄膜共振子30では圧電体層31の上下を引っ張る方向に力が加わる(a-2)。このように、本実施例の薄膜共振子30では従来の薄膜共振子30Aとは逆方向に振動する。
【実施例】
【0039】
(5) 2層構造の薄膜共振子の一実施例
図13及び図14を用いて、本発明に係る2層構造の薄膜共振子の一実施例を説明する。本実施例の2層構造の薄膜共振子40は、図13に示すように、第1圧電体層41と第2圧電体層42を重ねて、上部電極43と下部電極44の間に設けたものである。第1圧電体層41と第2圧電体層42は共にウルツ鉱圧電体薄膜から成る。以下ではAlN薄膜を例に説明する。一方、第1圧電体層41と第2圧電体層42は、分極ベクトルの方向、即ちc軸の方向が相違する。第1圧電体層41は、c軸の傾斜角θ1が0°よりわずかに大きい値を有するという、本発明のウルツ鉱圧電体薄膜とは異なる傾斜角を有するものを用いる。なお、このような第1圧電体層41は、例えば特開2008-182515号に記載の方法により作製することができる。この傾斜角θ1では、縦波に関する圧電定数e33は正であり、横波に関する圧電定数e15は負である(図2参照)。それに対して第2圧電体層42では本発明に係るウルツ鉱圧電体薄膜であり、傾斜角θ2が72°以上90°未満のもの(例えばθ2が76°であるAlN薄膜I)を用いる。この傾斜角では、縦波に関する圧電定数e33は負であり、横波に関する圧電定数e15は正である(図2)。また、第1圧電体層41及び第2圧電体層42に平行な面への分極ベクトルの射影、及びその面に対する法線への分極ベクトルの射影が共に、第1圧電体層41と第2圧電体層42では同方向である。



【実施例】
【0040】
図14を用いて、上部電極43と下部電極44の間に交流電圧を印加したときの薄膜共振子40の挙動を説明する。第1圧電体層41と第2圧電体層42の縦波に関する圧電定数e33の正負が逆であるため、縦方向の圧縮・伸張の振動は第1圧電体層41と第2圧電体層42では逆方向になる(図14(a))。その結果、縦波の振動は、上部電極43と下部電極44付近では同位相となり、第1圧電体層41と第2圧電体層42の境界では逆位相となるため、第1圧電体層41の厚みと第2圧電体層42の厚みの合計値と同じ波長の縦波が発生する。従って、この合計値と同じ厚みを有する1層構造の薄膜共振子と比較すると、周波数を2倍にすることができる。一方、この薄膜共振子40と同じ共振周波数を有する1層構造の薄膜共振子と比較すると、厚みの合計値を2倍にすることができ、それにより耐電力性及び機械的強度を高めることができる。
【実施例】
【0041】
また、横波に関しても、第1圧電体層41と第2圧電体層42では圧電定数e15の正負が逆であるため、前記合計値と同じ厚みを有する1層構造の薄膜共振子と比較すると、周波数を2倍にすることができ、同じ共振周波数を有する1層構造の薄膜共振子と比較すると厚みの合計値を2倍にすることができる(図14(b))。
【符号の説明】
【0042】
10…薄膜製造装置
11…基板台
111…冷却装置
12…材料供給部
13…イオンビーム照射手段
21、22、23A~23F…極
30、30A、40…薄膜共振子
31…圧電体層
33、33A、43…上部電極
34、34A、44…下部電極
41…第1圧電体層
42…第2圧電体層
IB…イオンビーム
M…材料
S…基板
T…ターゲット
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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