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明細書 :不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5300053号 (P5300053)
公開番号 特開2010-095654 (P2010-095654A)
登録日 平成25年6月28日(2013.6.28)
発行日 平成25年9月25日(2013.9.25)
公開日 平成22年4月30日(2010.4.30)
発明の名称または考案の名称 不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法
国際特許分類 C08L   1/02        (2006.01)
C08L  71/02        (2006.01)
A61K   8/02        (2006.01)
A61K   8/73        (2006.01)
A61K   8/86        (2006.01)
A61K  47/38        (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
C12P  19/04        (2006.01)
FI C08L 1/02
C08L 71/02 ZBP
A61K 8/02
A61K 8/73
A61K 8/86
A61K 47/38
A61K 47/34
C12P 19/04 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2008-268748 (P2008-268748)
出願日 平成20年10月17日(2008.10.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 刊行物において発表 発行者名 セルロース学会 第15回年次大会運営委員会 刊行物名 セルロース学会 第15回年次大会講演要旨集(P32) 発行年月日 平成20年7月10日
審査請求日 平成23年9月30日(2011.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
発明者または考案者 【氏名】沼田 ゆかり
個別代理人の代理人 【識別番号】100112003、【弁理士】、【氏名又は名称】星野 裕司
【識別番号】100145344、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 和徳
審査官 【審査官】安田 周史
参考文献・文献 特開昭59-120159(JP,A)
特開2008-127510(JP,A)
特開平05-295005(JP,A)
特開平03-157402(JP,A)
調査した分野 C08L 1/02
C08L 71/02
特許請求の範囲 【請求項1】
Acetobacter xylinumを静置培養して得られるバクテリアセルロースゲルを高分子化合物水溶液であるポリエチレングリコールとともに加熱することで、バクテリアセルロースゲルが含有する水を蒸発させて高分子化合物に置換する工程を備えることを特徴とする不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法。
【請求項2】
加熱前の物性が室温で液体の前記ポリエチレングリコールを選択した場合は、加熱後の物性が室温でゲル状態の不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造し、
加熱前の物性が室温で固体の前記ポリエチレングリコールを選択した場合は、加熱後の物性が室温で固形物の不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造することを特徴とする請求項1記載の不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの分子量の選択により、固形状態とゲル状態とを可逆的に変化させる応答温度が異なる不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造することを特徴とする請求項1又は2記載の不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアセルロースゲルと水溶性高分子化合物を用いて製造した不揮発性バクテリアセルロースゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物がセルロースを産出することは古くから知られ、係る微生物が産出するセルロースをバクテリアセルロースと称する。バクテリアセルロースは分散媒が水であるハイドロゲルとして産出され、生分解性、生体適合性、保水性などで優れた性質を有し、機能性材料として期待されている。
【0003】
たとえば、バクテリアセルロースゲルを乾燥して得られるシートは弾性率が極めて高く、力学特性を活用しようとする試みもいくつか提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、バクテリアセルロースの極めて微細かつ緻密なネットワークを形成した三次元交差構造体よりなる繊維集合体も注目され、繊維強化複合材料としての利用方法に関する技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
ゲルとして利用するものとしては、特許文献3記載のアセトバクター属が産出するバクテリアセルロースをシート状に構成して、医療用パットに利用するものが公知である。
【0006】
しかしながら、バクテリアセルロースをゲル材料として利用するには、乾燥や圧縮により水が抜け出てしまい、ゲルとして機能しなくなることが問題である。

【特許文献1】特開昭63-295793号公報
【特許文献2】特開2006-36926号公報
【特許文献3】特開昭59-120159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイドロゲルであるバクテリアセルロースゲルを利用する際、水が蒸発しゲルとして機能しなくなってしまうため、利用環境が制限されてしまう。特許文献3に開示されるバクテリアセルロースゲルは、ゲル中の水をグリセロールやポリエチレングリコール(MW400)に浸漬することによって、部分的に水を置換したものである。そのため、水が多量に残っている場合には、長期的な空気中への曝露には耐えられずゲルが収縮してしまう。
【0008】
従来においては、特許文献3に記載されているように、長期的な乾燥に耐えうるバクテリアセルロースゲルは提供されていない。
【0009】
従って、本発明は、水溶性の分子量の大きな化合物を用いることによって、長期的な空気中での乾燥に耐えうる、さまざまな機能性が付与された不揮発性バクテリアセルロースゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法は、Acetobacter xylinumを静置培養して得られるバクテリアセルロースゲルを、高分子化合物水溶液であるポリエチレングリコールとともに加熱することで、バクテリアセルロースゲルが含有する水を蒸発させて高分子化合物に置換する工程を備えることを特徴とする。
また、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法は、加熱前の物性が室温で液体の前記ポリエチレングリコールを選択した場合は、加熱後の物性が室温でゲル状態の不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造し、加熱前の物性が室温で固体の前記ポリエチレングリコールを選択した場合は、加熱後の物性が室温で固形物の不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造することを特徴とする。
さらに、不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法は、前記ポリエチレングリコールの分子量の選択により、固形状態とゲル状態とを可逆的に変化させる応答温度が異なる不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造することを特徴とする。



【0011】
本発明において、バクテリアセルロースゲルを産出する微生物は特に限定されず、公知の微生物を利用することができ、静置培養によって得られるものでよい。バクテリアセルロースは離解処理がされていないことにより、三次元交差構造体となっていることが好ましく、また微生物と該微生物から産出された該微生物に連なっているセルロースとを含む産生物を、アルカリ処理して微生物を溶解除去したものであることが好ましい。
【0012】
ここで「高分子化合物」とは、水溶性の合成高分子化合物であって、ポリエチレングリコールなどの重合体を意味する。なお、本発明において、ポリエチレングリコールなどの生体適合性を備える高分子化合物を用いることで、バクテリアセルロースの生体適合性を損なうことなく、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルを、医療や医薬、化粧品などの分野に応用することができる
【0013】
また、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルは、バクテリアセルロースゲルを高分子化合物水溶液とともに加熱して、バクテリアセルロースゲルが含有する水を蒸発させて高分子化合物に置換したことを特徴とする。
【0014】
本発明において、バクテリアセルロースゲル中の水を水溶性高分子化合物で置換することによって行う。具体的には、水溶性高分子化合物の水溶液中でバクテリアセルロースゲルを加熱する。加熱によって高分子化合物水溶液中の水とともにバクテリアセルロースゲル中の水を蒸発させる。この際、水溶液には不揮発性の高分子化合物が溶解しているので、蒸気圧降下により水溶液の沸点上昇が起こる。そのため、水溶液が沸騰する程度に加熱を行うことが必要である。
【0015】
なお、高分子化合物水溶液における水と高分子化合物の割合は、高分子化合物が溶解する水の割合以上が必要である。水の割合が大きすぎる場合、バクテリアセルロースゲル中の水をすべて高分子化合物で置換するために多くの水溶液と反応時間が必要となる。そのため、好ましくは高分子化合物の濃度を50(v/v)%以上とする。
【0016】
高分子化合物のみを溶解したものにバクテリアセルロースゲルを加える場合、溶液の温度によっては、高温になったゲル中の水と高分子溶液が、加熱中に飛び散るおそれが生じるため、水溶液の水が蒸発した後を考慮して、残った高分子化合物溶液が沸騰する程度の温度で加熱する必要がある。
【0017】
加熱に必要な時間は、バクテリアセルロースゲルの大きさや水溶液の濃度により異なり、ゲル中の水が高分子化合物で完全に置換され、屈折率の変化により白色だったゲルが透明になるまでの時間が必要である。
【0018】
加熱終了後は、バクテリアセルロースゲル表面の高分子化合物を取り除くために、室温で水洗を行う。この際にゲル内部の高分子化合物が多量に流出してくることはない。さらにバクテリアセルロースゲル表面の水を乾燥させる。
【0019】
また、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルは、前記置換した高分子化合物の物性に応じて、異なる機能を備えることを特徴とする。
【0020】
すなわち、この段階で得られる室温における不揮発性バクテリアセルロースゲルは、置換した高分子化合物の物性によって状態が異なる。よって、高分子化合物が室温で液体の場合は透明ゲル状態、固体の場合は固形物が得られる。
【0021】
得られた不揮発性バクテリアセルロースゲルは、少なくとも6ヶ月以上という長期間にわたり製造直後と目視による変化は認められず、変わらない形状を保つ。
【0022】
本発明により製造される不揮発性バクテリアセルロースゲルは、置換した高分子化合物の物性によって、さまざまな特性の機能を付与することが可能である。例えば、ある高分子化合物で置換した室温で固形の不揮発性バクテリアセルロースゲルは、温度上昇によってゲル状に変化する温度応答性を有する。一方、温度が下がると元の固形状態にもどる。
【0023】
なお、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルは、前記置換した高分子化合物の分子量に応じて、固形状態とゲル状態とを相互に変化させる応答温度が異なることを特徴とする。
【0024】
これは置換した高分子化合物の融解・凝固による現象である。高分子化合物は同一化合物でも分子量が異なれば融点・凝固点が異なる。このことから分子量の違いにより得られるゲルの室温での形状や固形からゲルへ変化する応答温度が異なる。このような高分子化合物の温度に依存する物理変化を利用した固形からゲルへの変化は可逆的で温度応答が可能である。
【0025】
加えて、本発明の不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法は、バクテリアセルロースゲルを高分子化合物水溶液とともに加熱することで、バクテリアセルロースゲルが含有する水を蒸発させて高分子化合物に置換する工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、バクテリアセルロースゲルから長期間乾燥しないゲル材料を容易に製造して利用することが可能となる。また、用いる高分子化合物の種類や分子量を選択することによって、さまざまな機能性を付与することが可能となる。
【0027】
さらに、生体適合性を有する高分子化合物を用いることによって、バクテリアセルロースゲルの生体適合性を損なうことなく、温度応答性など新たな機能を有するゲル材料を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次の実施例によって本発明の一実施形態をより具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いる%は特に限定しない限り容量パーセント濃度%を示す。
【0029】
また、以下の実施例において用いたバクテリアセルロースゲルは、HS(ヘストリン-シュラム)培地でAcetobacter xylinum ATCC53582株を28℃で4日間培養して得たバクテリアセルロースゲルを精製したものである。
【0030】
[実施例1]
図1は、不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法である。本実施形態において、高分子化合物には生体適合性を有するポリエチレングリコールを用いる。膜厚3.5mm、直径50mmの円形バクテリアセルロースゲルを、分子量200のポリエチレングリコール(以下、「ポリエチレングリコール200」と称する。)が75%の水溶液中に加え、常圧で90分間加熱を行い(S101)、バクテリアセルロースゲル内の水を蒸発させることにより、ポリエチレングリコール200に置換する。
【0031】
上記の加熱において水が蒸発した後の溶液温度は120~130℃に保つ。得られた不揮発性バクテリアセルロースゲルの表面のポリエチレングリコールを室温で脱イオン水を用いて洗浄し(S102)、室温以上の温度設定の恒温器中で24時間以上乾燥させる(S103)。本例では、洗浄した不揮発性バクテリアセルロースゲルをガラス板にのせて28℃で表面の水を乾燥させた。
【0032】
表面の水を乾燥させた不揮発性バクテリアセルロースゲルは室温で透明であり、水で膨潤させた純粋なバクテリアセルロースゲルに比べて非常に透明度の高いゲルが得られた。その後6ヶ月以上経過した後においても、調製直後と比較して目視で確認できる変化はない。
【0033】
この不揮発性バクテリアセルロースゲルを室温(20℃)および-30,30,50℃で硬さと色を評価した結果を表1に示す。なお、実施例2,3についての評価も表1に示す。
【0034】
[実施例2]
実施例1のポリエチレングリコール200の代わりに、分子量1000のポリエチレングリコール(以下、「ポリエチレングリコール1000」と称する。)が50%の水溶液を用い、それ以外は実施例1と同様に処理して、不揮発性バクテリアセルロースゲルを得る。表面の水を乾燥させた不揮発性バクテリアセルロースゲルは、室温では白色不透明で、実施例1と同様6ヶ月以上変化はない。
【0035】
[実施例3]
実施例1のポリエチレングリコール200の代わりに、ポリエチレングリコール200が50%の水溶液/ポリエチレングリコール1000が50%の水溶液=1/1(容積比)の混合溶液を用い、それ以外は実施例1と同様に処理して、不揮発性バクテリアセルロースゲルを得る。表面の水を乾燥させた不揮発性バクテリアセルロースゲルは、室温では白色不透明で、実施例1と同様6ヶ月以上変化はない。
【表1】
JP0005300053B2_000002t.gif

【0036】
[温度による色および硬さの評価]
表1は実施例1~3で得られる不揮発性バクテリアセルロースゲルの温度による色および硬さの変化を示している。
【0037】
実施例1の、水をポリエチレングリコール200で置換した不揮発性バクテリアセルロースゲルは、-30~50℃の範囲で常に透明なゲル状態を保っている。
【0038】
実施例2の、水をポリエチレングリコール1000で置換した不揮発性バクテリアセルロースゲルは、40℃以下では白色不透明で硬い固形状態を示すが、40℃以上では透明なゲル状態を示す。
【0039】
実施例3の、水をポリエチレングリコール200とポリエチレングリコール1000の混合物で置換した不揮発性バクテリアセルロースゲルは、室温以下では白色不透明でやや硬いゲルであるが、30℃以上では透明なゲル状態を示す。また、-30℃では白色不透明で硬い固形状態を示す。
【0040】
実施例2および実施例3で得られた不揮発性バクテリアセルロースゲルの温度応答性は可逆的であり、白色不透明から透明、そして白色不透明への変化にともないゲルの収縮などの形状変化は見られず、繰り返し応答可能である。また、ポリエチレングリコールの分子量を任意の分子量に変えることで、応答温度の異なる不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造が可能となる。
【0041】
上記の通り、本実施形態における不揮発性バクテリアセルロースゲルの製造方法によれば、長期的な空気中への曝露に耐えうることができる不揮発性バクテリアセルロースゲルが容易に得られることから、工業材料としての利用が可能となる。さらに、高分子化合物やその分子量を選択することによって、新たな機能性が付与された不揮発性バクテリアセルロースゲルを製造することが可能となる。
【0042】
また、生体適合性を有する高分子化合物を用いることによって医療や医薬、化粧品分野、計測のセンサーの分野への応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態における不揮発性バクテリアセルロースゲルの調製方法を示す。
図面
【図1】
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