TOP > 国内特許検索 > 神経細胞特異的な逆行性輸送ベクター > 明細書

明細書 :神経細胞特異的な逆行性輸送ベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5216072号 (P5216072)
公開番号 特開2012-110290 (P2012-110290A)
登録日 平成25年3月8日(2013.3.8)
発行日 平成25年6月19日(2013.6.19)
公開日 平成24年6月14日(2012.6.14)
発明の名称または考案の名称 神経細胞特異的な逆行性輸送ベクター
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61P  25/16        (2006.01)
C12N   7/02        (2006.01)
C07K  14/145       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
A61K 48/00
A61K 35/76
A61P 25/16
C12N 7/02
C07K 14/145
請求項の数または発明の数 28
全頁数 20
出願番号 特願2010-263148 (P2010-263148)
出願日 平成22年11月26日(2010.11.26)
審査請求日 平成24年7月5日(2012.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小林 和人
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 特開2004-517057(JP,A)
特開2009-34029(JP,A)
特開2011-115077(JP,A)
HUMAN GENE THERAPY,2011年,vol.22,pp.1511-1523
Neuroscience Research,2007年,vol.57,pp.550-558
Human Molecular Genetics,2001年,vol.10 no.19,pp.2109-2121
HUMAN GENE THERAPY,2007年,vol.18,pp.1141-1151
MOLECULAR THERAPY,2001年,vol.4 no.2,pp.149-156
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(3)目的遺伝子を含むトランスファープラスミド;及び
(4)狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドコードする遺伝子であって、配列番号2に示されたアミノ酸配列をコードする塩基配列から成るエンベロープ遺伝子を含むエンベローププラスミド、を含む逆行輸送性ウィルスベクター調製用キット。
【請求項2】
パッケージングプラスミド(1)がpCAGkGP1.1Rであり、パッケージングプラスミド(2)がpCAG4-RTR2であり、且つ、トランスファープラスミドがpCL20c-MSCV-X(ここで、「X」は目的遺伝子を示す)であることを特徴とする、請求項1記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項3】
エンベローププラスミドにおいて、エンベロープ遺伝子がサイトメガロウィルスエンハンサー及びトリβアクチンプロモーターの制御下で発現する、請求項1又は2記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項4】
融合ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示されたものである、請求項3記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項5】
目的遺伝子がヒトの遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項6】
目的遺伝子が脳神経疾患治療用の遺伝子である、請求項5に記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キット、及び、宿主細胞を含む、プロデューサー細胞作製用キット。
【請求項8】
宿主細胞がHEK293T細胞である、請求項7記載のキット。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることから成る、プロデューサー細胞の作製方法。
【請求項10】
感染細胞がHEK293T細胞である、請求項9記載の作製方法。
【請求項11】
リン酸カルシウム法を用いてトランスフェクションする、請求項9又は10記載の作製方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の方法で得られたプロデューサー細胞。
【請求項13】
請求項12記載のプロデューサー細胞を培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することからなる、ウィルスベクターの製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法によって製造された、神経細胞への選択的な逆行性輸送能を有するウィルスベクター。
【請求項15】
請求項14記載のウィルスベクターをヒト以外の動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の神経細胞体に選択的に導入し、目的とする遺伝子を該神経細胞体内で発現させることから成る、遺伝子導入方法。
【請求項16】
神経終末部が線条体にあり、脳内の標的領域が線条体に投射する脳中枢領域である、請求項15記載の遺伝子導入方法。
【請求項17】
線条体に投射する脳中枢領域が一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、及び/又は、黒質緻密部である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
腹側線条体(側坐核)に投射する脳中枢領域が梨状皮質、鉤状回、扁桃体基底外側核、室傍核前部、視床背内側核、及び/又は、外側視床下部である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
動物が哺乳類である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
哺乳類が霊長類である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項14記載のウィルスベクターを活性成分として含有する、遺伝子治療剤。
【請求項22】
請求項15~20のいずれか一項に記載の方法で導入された目的遺伝子が標的領域における細胞の染色体に組み込まれ発現することを含む、脳疾患の遺伝子治療方法。
【請求項23】
請求項21記載の遺伝子治療剤をヒト以外の動物に投与することを含む、請求項22記載の治療方法。
【請求項24】
脳疾患がパーキンソン病である、請求項22又は23記載の治療方法。
【請求項25】
狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドであって配列番号2に示されたアミノ酸配列から成る、レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ。
【請求項26】
レンチウィルスベクターがHIV-1レンチウィルスである、請求項25記載のエンベロープ。
【請求項27】
請求項25又は26記載の融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子。
【請求項28】
請求項27記載の遺伝子を含むエンベローププラスミド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞特異的な逆行性輸送ベクター(Neuron-specific retrograde transport vector: NeuRet)系、即ち、特に脳内において高度の逆行性輸送能を有し、生産効率が高く、特に、神経細胞への選択的な遺伝子導入を可能とするウィルスベクター系、より具体的には、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びにVSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドによって、シュードタイプ化されたレンチウィルスベクター系、該ウィルスベクター系を使用する遺伝子導入方法及び遺伝子治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
非増殖(非複製)型組換え体レンチウィルスベクターは、目的遺伝子を中枢神経系(CNS)における非分裂細胞に輸送して長期間に亘る発現を維持する系等のさまざまな疾患に対する遺伝子治療用ベクターとして多くの研究に利用されている(非特許文献1~4)。特に、HIV-1 (human immunodeficiency virus type 1) に由来する霊長類のレンチウィルスベクターは遺伝子治療用のベクターとして最も実績のあるものである(非特許文献5~8)。しかしながら、レンチウィルスベクターは染色体に組み込まれるため、発がんのリスクのあることが知られている。特に、血液系疾患の遺伝子治療において白血病の発症する例が報告されている。神経疾患の遺伝子治療において、発がんのリスクを抑制し、より安全性の高いベクター系を開発するためには、遺伝子導入を神経細胞へ選択的にすることが望まれている。
【0003】
一方、ある種の脳神経疾患に対する遺伝子治療のためには、神経終末部位より感染し、軸索を逆行性に輸送され、かかる感染部位より離れた場所に位置する標的部位にある細胞体に目的とする遺伝子を導入することのできるウィルスベクターが有益である(図1)。
【0004】
これまでに、エンベロープ糖タンパク質(エンベロープ遺伝子タンパク質)として、水泡性口内炎ウィルス(vesicular stomatitis virus:VSV)の糖タンパク質 (VSV-G)を利用(シュードタイプ化:pseudotyping)した組換え体HIV-1ウィルスを用いて、カニクイサル脳内における逆行性輸送システムが開発されてきたが、このベクターの逆行性輸送は効率的なものではなかった(非特許文献9)。この文献に記載された方法では、免疫染色により確認された結果、サルの線条体に注入された組換え体HIV-1ウィルスにより逆行性に感染された中枢神経系の細胞はごく僅かであった。
【0005】
一方で、狂犬病ウィルス(rabies virus: RV)は、シナプス終末より感染し、軸索を逆行性に輸送される活性を持つことが知られている。実際に、RV-Gによってウマ貧血ウィルスに基づく非霊長類レンチウィルスベクターの逆行性輸送能が亢進されることが報告されている(非特許文献10、11及び特許文献1)。
【0006】
更に、RV-Gでシュードタイプ化したHIV-1レンチウィルスが報告されているが(非特許文献3)、この報告では実際にこのウィルスベクターを使用した動物実験(インビボ)はなされていない。又、狂犬病の原因となる神経向性ウィルスである、モコラリッサウィルス(Mokola lyssavirus)の糖蛋白質又はVSV-Gでシュードタイプ化したHIV-1ベクターのCNSにおける遺伝子移入が研究されている。モコラリッサウィルスの糖蛋白質又はVSV-Gでシュードタイプ化したHIV-1ベクターをラットの鼻孔に注射した結果、嗅神経系までの逆行性輸送に関して、これらのベクターは互いに同程度であった(非特許文献12)。又、この文献には線条体経由でウィルスベクターを投与した例は記載されていない。
【0007】
これまでに本発明者等は、狂犬病ウィルスの糖タンパク質遺伝子(RV-G)でHIV-1レンチウィルスをシュードタイプ化したベクター(RV-G/HIV-1ベクター)を作製することよって、脳内のさまざま領域において高頻度な逆行性遺伝子導入を可能とすることを明らかにした(特許文献2、Hum. Gene Ther., 2007) 。更に、RV-Gの細胞内ドメインを水泡性口内炎ウィルス糖タンパク質(VSV-G)のもので置換した融合糖タンパク質(FuG-B)を作製した。これを用いて、高い効率の逆行性輸送能を保持し、且つ、より高い力価(機能的力価)を持つレンチウィルスベクター系を構築し、逆行性遺伝子導入の頻度を顕著に高めることに成功した(Hum. Gene Ther., 2010)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2004-517057号公報
【特許文献2】特開2009-34029号公報
【0009】

【非特許文献1】NALDINI, L., BLÖMER, U., GAGE, F.H., TRONO, D., and VERMA, I.M. (1996). Efficient transfer, integration, and sustained long-term expression of the transgene in adult rat brains injected with a lentiviral vector. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11382-11388.
【非特許文献2】REISER, J., HARMISON, G., KLUEPFEL-STAHL, S., BRADY, R.O., KARLSSON, S., and SCHUBERT, M. (1996). Transduction of nondividing cells using pseudotyped defective high-titer HIV type 1 particles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 15266-15271.
【非特許文献3】MOCHIZUKI, H., SCHWARTZ, J.P., TANAKA, K., BRADY, R.O., and REISER, J. (1998). High-titer human immunodeficiency virus type 1-based vector systems for gene delivery into nondividing cells. J. Virol. 72, 8873-8883.
【非特許文献4】MITROPHANOUS, K.A., YOON, S., ROHLL, J.B., PATIL, D., WILKES, F.J., KIM, V.N., KINGSMAN, S.M., KINGSMAN, A.J., and MAZARAKIS, N.D. (1999). Stable gene transfer to the nervous system using a non-primate lentiviral vector. Gene Ther. 6, 1808-1818.
【非特許文献5】KORDOWER, J.H., EMBORG, M.E., BLOCH, J., MA, S.Y., CHU, Y., LEVENTHAL, L., MCBRIDE, J., CHEN, E.-Y., PALFI, S., ROITBERG, B.Z., BROWN, W.D., HOLDEN, J.E., PYZALSKI, R., TAYLOR, M.D., CARVEY, P., LING, Z., TRONO, D., HANTRAYE, P., DÉGLON, N., and AEBISCHER, P. (2000). Neurodegeneration prevented by lentiviral vector delivery of GDNF in primate models of Parkinson’s disease. Science 290, 767-773.
【非特許文献6】MARR, R.A., ROCKENSTEIN, E., MUKHERJEE, A., KINDY, M.S., HERSH, L.B., GAGE, F.H., VERMA, I.M., and MASLIAH, E. (2003). Neprilysin gene transfer reduces human amyloid pathology in transgenic mice. J. Neurosci. 23, 1992-1996.
【非特許文献7】ROSENBLAD, C., GEORGIEVSKA, B., and KIRIK, D. (2003). Long-term striatal overexpression of GDNF selectively downregulates tyrosine hydroxylase in the intact nigrostriatal dopamine system. Eur. J. Neurosci. 17, 260-270.
【非特許文献8】LO BIANCO, C., SCHNEIDER, B.L., BAUER, M., SAJADI, A., BRICE, A., IWATSUBO, T., and AEBISCHER, P. (2004). Lentiviral vector delivery of parkin prevents dopaminergic degeneration in an α-synuclein rat model of Parkinson’s disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 17510-17515.
【非特許文献9】KITAGAWA, R., MIYACHI, S., HANAWA, H., TAKADA, M., and SHIMADA, T. (2007). Differential characteristics of HIV-based versus SIV-based lentiviral vector systems: gene delivery to neurons and axonal transport of expressed gene. Neurosci. Res. 57, 550-558.
【非特許文献10】MAZARAKIS, N. D., AZZOUZ, M., ROHLL, J.B., ELLARD, F.M., WILKES, F.J., OLSEN, A.L., CARTER, E.E., BARBER, R.D., BABAN, D.F., KINGSMAN, S.M., KINGSMAN, A.J., O’MALLEY, K., and MITROPHANOUS, K.A. (2001). Rabies virus glycoprotein pseudotyping of lentiviral vectors enables retrograde axonal transport and access to the nervous system after peripheral delivery. Human Mol. Genet. 10, 2109-2121.
【非特許文献11】AZZOUZ, M., RALPH, G.S., STORKEBAUM, E., WALMSLEY, L.E., MITROPHANOUS, K.A., KINGSMAN, S.M., CARMELIET, P., and MAZARAKIS, N.D. (2004). VEGF delivery with retrogradely transported lentivector prolongs survival in a mouse ALS model. Nature 429, 413-417.
【非特許文献12】DESMARIS, N., BOSCH, A., SALAÜN, C., PETIT, C., PRÉVOST, M.-C., TORDO, N., PERRIN, P., SCHWARTZ, O., DE ROCQUIGNY, H., and HEARD, J.M. (2001). Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol. Ther. 4, 149-156.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでの逆行性輸送を示すRV-GベクターやFuG-Bベクターは注入部位において神経細胞とグリア細胞の両方に遺伝子を導入する性質を持ち、これらのベクター系を使用した場合には、神経細胞に加えて分裂製細胞にも遺伝子導入が起こる。
【0011】
従って、本発明の目的は、高頻度な逆行性輸送を介する遺伝子導入を可能とするばかりではなく、神経細胞への選択的又は特異的な遺伝子導入により、グリア細胞や神経幹細胞等の分裂製細胞に導入される効率を抑えて、発ガンのリスクが少なく安全性のより高いレンチウィルスベクター系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをエンベロープとしてレンチウィルスベクターをシュードタイプ化することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は以下の態様に係るものである。
[態様1]
(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(3)目的遺伝子を含むトランスファープラスミド;及び
(4)エンベロープ遺伝子として、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、を含む逆行輸送性ウィルスベクター調製用キット。
[態様2]
態様1のウィルスベクター調製用キット、及び、宿主細胞を含む、プロデューサー細胞作製用キット。
[態様3]
態様1のウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることから成る、プロデューサー細胞の作製方法。
[態様4]
態様3で得られたプロデューサー細胞。
[態様5]
態様3のプロデューサー細胞を培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することからなる、ウィルスベクターの製造方法。
[態様6]
態様5の方法によって製造された、神経細胞への選択的な逆行性輸送能を有するウィルスベクター。
[態様7]
態様6のウィルスベクターを動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の神経細胞体に選択的に導入し、目的とする遺伝子を該神経細胞体内で発現させることから成る、遺伝子導入方法。
[態様8]
態様6のウィルスベクターを活性成分として含有する、遺伝子治療剤。
[態様9]
態様7方法で導入された目的遺伝子が標的領域における細胞の染色体に組み込まれ発現することを含む、脳疾患の遺伝子治療方法。
[態様10]
狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドから成る、レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ。
[態様11]
態様10の融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子。
[態様12]
態様11の遺伝子を含むエンベローププラスミド。
【発明の効果】
【0014】
本発明の逆行輸送性ウィルスベクターによって、マウス等の哺乳動物を含む動物において、神経終末(シナプス終末)の存在する脳領域に導入目的の特定の遺伝子を持つ組換え体ウィルスベクターを注入し、このウィルスベクターが軸索を逆行性に輸送されることによって、ウィルスベクターの感染(注入)部位から遠く離れた位置にある中枢神経系において、非分裂性細胞である神経細胞へ選択的に該目的遺伝子(導入遺伝子)を効率良く導入して発現させられることがインビボで実証された。特に、特定のパッケージングプラスミド、トランスファープラスミド及びエンベロープ遺伝子を用いるウィルスベクター調製用キットを使用することによって、予想以上に高いウィルス力価を有するウィルスベクターが得られ、脳内において高頻度な且つ神経細胞への選択的な逆行性輸送能を発揮する組換え体ウィルスベクターの作製が可能となる。
【0015】
又、本発明の逆行輸送性ウィルスベクターはグリア細胞及び神経幹細胞等の分裂性細胞への遺伝子導入は極めて低く抑えられるので、発ガンのリスクが顕著に軽減され、神経細胞以外の細胞における遺伝子導入及び発現によって起こる副作用を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高頻度な逆行性輸送を示すHIV-1 pseudotypeベクターの概要を模式的に示す。
【図2】FuG-Cの構造を示す。RV-Gの細胞外ドメインのN末端領域にVSV-G由来の細胞外ドメインC末端領域が連結され、さらにVSV-G由来の膜貫通・細胞内ドメインを含む。RV-GとVSV-Gの連結部位は矢印で示され、境界のアミノ酸配列が示されている。S,シグナルペプチド;TM,膜貫通ドメイン。
【図3】導入遺伝子の発現パターンを示す写真である。(A)線条体における発現パターン。(B)RV-GとFuG-Cベクターの逆行性輸送を介する導入遺伝子発現パターン。一次運動皮質 (M1)、一次体制感覚皮質 (S1)、視床束傍核 (PF)、黒質緻密部 (SNc) における発現。fr (手綱核脚間路)、SNr (黒質網様部)、LV(側脳室)。スケールバー:500 μm
【図4】逆行性遺伝子発現効率の力価依存性を示すグラフである。(Two-way ANOVA: main effect of vector, F(1,30) = 223.9 for M1, 231.7 for S1, 46.5 for PF, and 87.7 for SNc, P < 0.001 in all regions; and interaction between vector and titer, F(4,30) = 20.4 for M1, 21.7 for S1, 3.6 for PF, and 8.4 for SNc, P < 0.05 in all regions).
【図5】注入部位における神経細胞とグリア細胞への遺伝子導入効を示す共焦点顕微鏡写真である。スケールバー:50μ m
【図6】神経幹細胞への遺伝子導入効を示す共焦点顕微鏡写真である。(A)GFAPとの二重染色:(B) BrdUとの二重染色。矢印は、代表的な二重染色細胞を示す。スケールバー:100μm (A), 50μm (B)。
【図7】エンベローププラスミドpCAG-FuG-Cに含まれている本発明のエンベロープをコードする塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明のウィルスベクターは神経細胞特異的な逆行性輸送ベクター(Neuron-specific retrograde transport vector:NeuRet)であり、高い力価を示すことを特徴とする。
かかるウィルスベクターは、以下の調製用キットを用いて調製することが出来る:
(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(3)目的遺伝子を含むトランスファープラスミド;及び
(4)エンベロープ遺伝子として、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、を含む逆行輸送性ウィルスベクター調製用キット。

【0018】
本発明のウィルスベクター調製用キットにおいて、「gag」はレトロウィルスのコア蛋白質をコードする遺伝子であり、「pol」は逆転写酵素等をコードする遺伝子である。又、「エンベロープ遺伝子」は、脂質二重膜からなるレトロウィルスの外皮膜であるエンベロープに存在するウィルス特異的な蛋白質であるエンベロープをコードする遺伝子である。エンベロープはウィルスが細胞に吸着し侵入するための重要な役割を担っている。更に、「アクセサリー遺伝子」とは、例えば、構造遺伝子の発現を調節するrev遺伝子等を意味する。

【0019】
本発明のウィルスベクター調製用キットの好適代表例においては、(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド及び(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミドとして、夫々、「pCAGkGP1.1R」及び「pCAG4-RTR2」を使用し、更に、トランスファープラスミドとして、「pCL20c-MSCV-X(ここで、「X」は目的遺伝子を示す)」を使用することを特徴とする。該トランスファープラスミドはマウス幹細胞ウィルスプロモーターの下流に導入の対象である目的遺伝子「X」がコードされている。

【0020】
上記のウィルスベクター調製用キットに含まれる各プラスミドは、St. Jude Children’s Research Hospital のArthur Nienhuis博士によって開発されたHIV-1ベクター系「SJ1」(HANAWA, H., et al., (2002) Mol. Ther. 5, 242-251; (2004). Blood 103, 4062-4069: St. Jude Children’s Research Hospitalから供与)に基づき構成されている。このベクター系は、HeLa細胞における力価が他のベクター系の約10倍あることが知られている。従って、当業者であれば、本願明細書及び上記文献を参照することによって、これら各プラスミドを容易に作製することができる。尚、上記の(1)及び(2)のパッケージングプラスミドは、一つのプラスミドとして構築されていても良い。

【0021】
本発明ウィルスベクター調製用キットのエンベローププラスミドに含まれるエンベロープ遺伝子は、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域及び水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメインのC末端領域から成る融合細胞外ドメイン、RV-G又はVSV-Gの膜貫通ドメイン、並びに、VSV-Gの細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする。尚、各ドメインの融合境界部分において、一個又は複数個のアミノ酸が削除・挿入・置換等のよって適宜変更させることが可能であり、各ドメインを構成するアミノ酸が全て含まれている必要はない。

【0022】
このエンベロープ遺伝子の例として、融合細胞外ドメインを構成する狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域(シグナルペプチドを含む)としては、元来アミノ酸458個からなる狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメインのN末端領域の、例えば、420個程度以上、又は、430個程度以上のアミノ酸からなるポリペプチドを有しているものを挙げることが出来る。

【0023】
その好適な一例として、配列番号2に示されたアミノ酸配列から成る融合ポリペプチド(FuG-C)をコードするエンベロープ遺伝子、好ましくは、配列番号1(図7)に示されたN’側の1~1,365番目の塩基配列(配列番号1において、5’側1~1,317番目(開始コドン含む)の塩基がRV-G由来であり、3’側の1,318~1,365番目の塩基がVSV-G由来である)を有する核酸分子を挙げることが出来る。当該塩基配列は、コドン縮重を考慮して、エンベローププラスミド内の他の要素に合わせて適宜最適コドンと成るように塩基を変更することが可能である。尚、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列の例を配列番号4及び配列番号3で示す。

【0024】
このように、上記の融合ポリペプチドは、各種のレンチウィルスベクター、特に、HIV-1レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープとして有効である。従って、本発明は、該融合ポリペプチドから成るレンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ、該融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子、及び、該遺伝子を含むエンベローププラスミドそれ自体にも係る。

【0025】
本発明のウィルスベクター調製用キットに含まれる各プラスミドにおいて、夫々の遺伝子は、当業者に公知の任意の発現調節配列の発現制御下に結合されている。
「発現制御下」とは、所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが、所定の条件下で、そのアミノ酸配列を有するタンパク質を発現させる能力を有するという意味である。所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが発現調節配列の発現制御下に結合されていると、そのDNAは、所定の条件下で、所定のタンパク質を発現するということになる。ここで、「発現調節配列」とは、他の核酸配列の発現を調節する核酸配列のことを意味しており、他の核酸配列の転写、及び、好ましくは翻訳をも制御及び調節する。発現調節配列には、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子における開始コドン(すなわちATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、ポリアデニル化部位、及びストップコドンが含まれる。

【0026】
「プロモーター」とは、転写を行うために必要最小限な配列のことを意味している。プロモーターには、細胞タイプ特異的、組織特異的、又は外部からの信号や調節剤によってプロモーター依存的に遺伝子の発現を制御するプロモーター要素も含まれる。プロモーター要素は、発現されるDNAの5'領域、又は3'領域のいずれかに結合される。また、プロモーターには、構成的なもの、又は誘導的なもののいずれも含まれる。プロモーターは、使用する目的遺伝子及びウィルスベクターの種類、治療対象となる動物及び脳疾患の種類、及び、患者の病態等に応じて、当業者に公知のものを適宜、選択することが出来る。

【0027】
例えば、本発明におけるエンベローププラスミドにおいては、エンベロープ遺伝子はサイトメガロウィルスエンハンサー及びトリβアクチンプロモーターの制御下で発現するように結合されていることが好ましい。このようなエンベローププラスミドは、常法に従い、上記のベクター系「SJ1」に含まれるエンベローププラスミド「pCAGGS-VSV-G」において、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列を、乳飲みマウスの脳にて感染継代された狂犬病ウィルスCVS株の糖タンパク質(RV-G)(国立感染症研究所の森本金次郎先生から供与)をコードする核酸(cDNA)(Morimoto, K. et al., (1998) Proc Natl. Acad. Sci., USA 95, 3152-3156::配列番号3)における細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列と置換して得ることが出来る。従って、当業者であれば、本願明細書及び上記文献を参照することによって、これら上記プラスミドを容易に作製することができる。尚、狂犬病ウィルスCVS株の糖タンパク質(RV-G)は上記の配列番号3に示される塩基配列を有するものに限らず、その他の公知の狂犬病ウィルスの任意の株由来の糖タンパク質(RV-G)を利用することが出来る。

【0028】
トランスファープラスミドに含まれる目的遺伝子は、ウィルスベクターの使用目的、治療対象となる動物及び脳疾患の種類、及び、患者の病態等に応じて、当業者に公知のものを適宜、選択することが出来る。従って、マウス、サル、ヒト等の哺乳動物の各種遺伝子、例えば、パーキンソン病に代表される脳神経疾患又は神経変性疾患等の治療に使用される、黒質線条体系の生存又は保護に必要な遺伝子(例えば、チロシンヒドロキシラーゼ、グリア細胞株由来神経栄養因子)、又は、脳神経系の研究用としてインターロイキン2受容体αサブユニット(組み換え体イムノトキシンの標的分子)、及び光依存性イオンチャネル等の遺伝子を挙げることが出来る。

【0029】
本発明のプロデューサー細胞作製用キットに含まれる宿主細胞としては、上記ウィルスベクター調製用キットによって感染させることができ、その結果、「プロデューサー細胞」と呼ばれるレトロウィルス粒子を産生する細胞を作製できるような細胞であれば、特に制限はなく、当業者に公知の任意の細胞、例えば、HEK293T細胞(SV40 large T antigen が導入されている)等の市販されている適当な動物由来の細胞を使用することができる。

【0030】
本発明の各種キットには、その構成・使用目的などに応じて、上記各プラスミド及び/又は宿主細胞に加えて、例えば、各種試薬類、緩衝液、各種補助剤、反応プレート(容器)等の当業者に公知の他の要素又は成分を適宜含むことができる。

【0031】
本発明のプロデューサー細胞作製用キットを用いて、ウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることによって、プロデューサー細胞を作製することが出来る。このトランスフェクションは一過性であり、リン酸カルシウム法等の当業者に公知に任意の方法で行なうことが可能である。

【0032】
こうして得られたプロデューサー細胞を当業者に公知の任意の方法・手段で培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することによって、脳内において神経細胞に選択的又は特異的な逆行性輸送能を有し、高い力価を示すウィルスベクターを製造することが出来る。

【0033】
本発明のウィルスベクターを動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の神経細胞体に選択的に導入し、目的とする遺伝子を該神経細胞体内で発現させることができる脳内の標的領域は、例えば、線条体に投射する一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、黒質緻密部であり、腹側線条体(側坐核)に投射する梨状皮質、鉤状回、扁桃体基底外側核、室傍核前部、視床背内側核、外側視床下部のような脳中枢領域である。更に、本発明のウィルスベクターは脊髄運動ニューロンの軸索を逆行性に輸送される。

【0034】
従って、本発明のウィルスベクターは遺伝子治療剤の活性成分として有効である。この遺伝子治療剤には、活性成分と組合せて、薬学上許容できる、当業者に公知の任意の医薬キャリア-又は希釈剤等のその他の成分を含むことが出来る。

【0035】
本発明の活性成分の有効量は、ウィルスベクターに含まれる導入遺伝子の種類、脳疾患又は神経変性障害等の種類・重篤度、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。活性成分(ウィルスベクター)の投与量は、例えば、1回の投与当たり、数箇所の感染(注入)部位の総量10~10TU (Transducing Unit)程度とすることができる。尚、ウィルスベクター又は遺伝子治療剤は、当業者に公知の任意の投与方法・装置を用いて、患者の所定部位へ感染(注入)させることができる。

【0036】
本発明のウィルスベクターを患者に投与することによって、標的領域における神経細胞に導入された遺伝子は該神経細胞の染色体に組み込まれ、目的遺伝子が安定的に発現される。従って、この遺伝子導入方法を利用して、ヒト等の霊長類を含む哺乳動物の脳疾患又は神経変性疾患(例えば、パーキンソン病)等の遺伝子治療を実施することが可能である。

【0037】
以下、実施例および試験例により本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発明の一部を示すものであり、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。又、特に記載のない場合には、各操作における実験条件等は本明細書に引用して文献記載の方法に準じて、又は、当該技術分野における標準的な方法に従った。
【実施例1】
【0038】
ウィルスベクターの調製:
本発明のウィルスベクターを、St. Jude Children’s Research Hospital のArthur Nienhuis博士によって開発されたHIV-1ベクター系を利用して調製した。即ち、gag及び pol遺伝子を含むパッケージングプラスミド(pCAGkGP1.1R)、アクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド(pCAG4-RTR2)、及び、目的遺伝子として緑色蛍光蛋白質(GFP)を含むトランスファープラスミド(pCL20c-MSCV-GFP)を使用した。
【実施例1】
【0039】
エンベローププラスミド(pCAG-FuG-C:配列番号5)としては、国立感染症研究所の森本金次郎先生から供与されたRV-G遺伝子の細胞外ドメインのN末端領域にVSV-G由来の細胞外ドメインC末端領域を連結し、さらにVSV-G膜貫通及び細胞内ドメインを接続することによって融合糖タンパク質(FuG-C)を作製した(図2)。FuG-Cの細胞外ドメインは、439アミノ酸のRV-G由来細胞外ドメインN末端領域と16アミノ酸のVSV-G由来細胞外ドメインC末端領域から構成される。
同様に、エンベローププラスミドとしてVSV-G及び RV-Gを用いて比較用のウィルスベクターを作製した。
【実施例1】
【0040】
ウィルス力価の測定:
これらのプラスミドを含むウィルスベクター溶液を、HEK293T細胞(10-cm ディッシュ、18枚)へリン酸カルシウム法を用いてトランスフェクションした。48時間培養後、培養上清よりウィルス粒子を回収し、遠心し、これを0.45 μmセルロースフィルターでろ過した。次に、ベクター粒子を遠心分離(10,000 X g、16-18時間)によって回収し、1 mlのPBSに懸濁した。懸濁液をSepharose Q FFイオン交換カラムクロマログラフィーにかけ、PBSで洗浄後、0-1.5 M NaClの直線勾配により溶出し、分画を260/280 nmの吸光度でモニターした。ベクター粒子を含む分画を集め、限外濾過フィルターを用いて濃縮し、-80℃で保存した。
【実施例1】
【0041】
ウィルス力価を評価するために、公的機関等から容易に入手・購入可能な培養細胞 、即ち、ヒト腎臓細胞:HEK293T(理化学研究所の細胞バンクから入手可能、寄託番号:RCB2202)、マウス神経芽細胞: Neuro2A(ATCCから購入入手可能、ID番号: CCL-131TM)、マウス神経芽細胞 :N1E-115(ATCCから購入可能、ID番号: CRL-2263TM)を6ウェル細胞培養用プレート:MULTIWELL(登録商標) FALCON)に撒き、適当な濃度のウィルス溶液を該培養細胞に感染させ、形質転換3日後にFACS Calibur(Nippon Becton Dickinson Co., Tokyo, Japan)を用いて機能的力価を測定した。次に、ベクターストックに含まれるRNAレベルを定量的RT-PCR法を用いて測定した。
【実施例1】
【0042】
以上の結果を表1に示した。FuG-Cベクターの機能性タイター(Functional titer)は、Neuro2Aにおいてのみ検出されたが、その値はVSV-GやRV-Gベクターに比較すると有意に低下し(ANOVA, Tukey HSD, p <0.01)、FuG-CのRNAタイターはVSV-GやRV-Gベクターのものと同等であった。【0043】
【表1】
JP0005216072B2_000002t.gif
【実施例2】
【0044】
ウィルスベクターのマウス脳内への導入:
動物の飼育及び取り扱い操作は福島県立医科大学の動物実験委員会が制定したガイドラインに基づき実施した。
12週齢マウス(C57BL/6J)をペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)で麻酔し、上記で作製したベクターを含む溶液(4.8 X 1010 copies/ml)を、マウスの脳内(線条体)に脳定位固定装置を利用して、マウス脳アトラス(PAXINOS, G., and FRANKLIN, K.B.J. (2001). The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates, 2nd edn. (Academic Press, San Diego))に従い、マイクロインジェクションポンプに連結したガラスマイクロインジェクションキャピラリーを介して線条体(striatum)の背部領域(dorsal region)にトラック上2箇所、1箇所あたり 2 μl の溶液を注入した(0.1 μl/min)。ブレグマ(bregma)からの前後(anteroposterior)、内外側(mediolateral)、及び背腹(dorsoventral)の方向の座標は、夫々、0.50 、2.00及び2.50/3.25(mm)であった。
【実施例2】
【0045】
注入の4週間後、マウスをペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)で深く麻酔し、心臓経由で、4%ホルマリン及び0.1 Mリン酸塩緩衝液(PB: pH 7.4)を灌流固定して脳を摘出した。クライオスタットを用いて切片を作製し、免疫染色法を用いて解析した。
【実施例2】
【0046】
その結果、FuG-Cベクターを注入したマウスでは、線条体の広い領域に免疫陽性シグナルが観察されたが、RV-Gベクターに比較して、その強度は顕著に低下した(図3A)。更に、線条体に投射する脳領域の代表として、一次運動皮質 (M1)、一次体性感覚皮質 (S1)、視床束傍核 (PF)、黒質緻密部 (SNc)における導入遺伝子の発現を免疫染色法により解析した。大脳皮質については注入部位と同側および反対側の脳領域を、PFとSNcについては同側の脳領域を観察し(図3B)、それぞれの領域の陽性細胞数を計測した(表2)。FuG-Cベクターの遺伝子導入効率は、すべての脳領域について、RV-Gベクターの導入効率よりも顕著に増加した(Student t-test, p < 0.01 or 0.05)。以上の結果から、FuG-Cベクターは逆行性輸送を介した神経細胞への遺伝子導入効率が向上していることが示唆された。
【実施例2】
【0047】
【表2】
JP0005216072B2_000003t.gif
【実施例2】
【0048】
次に、FuG-Cベクターによる逆行性導入効率の向上を確認するために、種々の濃度のベクター溶液 (3.0 X 109 ~ 4.8 X 1010 copies/ml) をマウス線条体に注入し、M1, S1, PF, SNcにおける陽性細胞数をカウントした(図4)。いずれの脳領域においても、FuG-Cベクターを注入した動物では、陽性細胞数は濃度依存的に明らかな上昇を示した。RV-Gベクター注入動物でも濃度依存性の細胞数の上昇はみられたが、その程度はFuG-Cベクターよりも低いものだった(two-way ANOVA)。これらの結果から、FuG-Cベクターは、RV-Gベクターに比較して明らかに高い逆行性輸送を介した遺伝子導入を可能にすることが示された。
【実施例3】
【0049】
神経細胞への選択的遺伝子導入:
FuG-Cベクターの注入部位における神経細胞とグリア細胞への遺伝子導入効率を解析した。各ウィルスベクター(VSV-G, RV-G, FuG-C)(1.2 X 1010 copies/ml) をマウス線条体内に注入した後、脳切片を作製し溶液 (1.2 X 1010 コピー/ml) を実施例2と同様にマウスの線条体に注入後、線条体の切片を作製し、神経細胞のマーカーであるNeuNとGFPあるいはグリア細胞のマーカーであるGFAPとGFPの二重免疫染色を行った(図5)。線条体の神経細胞とグリア細胞への遺伝子導入効率を評価するために、まず、全NeuN+ 細胞数あたりのGFP+/NeuN+ 二重陽性細胞数、及び、全GFAP+ 細胞数あたりのGFP+/GFAP+ 二重陽性細胞数の割合を求めた。GFP+/NeuN+ 二重陽性細胞数の割合は、VSV-G-, RV-G-, FuG-Cベクターで、それぞれ81.7 + 2.9%, 21.4 + 1.8%, 及び6.2 + 1.4% であった (n = 4)。FuG-Cベクターの線条体神経細胞への遺伝子導入効率は、他のベクターに比較して顕著に低下したANOVA, Tukey HSD, p < 0.001 vs VSV-G, p < 0.01 vs RV-G)。一方、GFP+/GFAP+ 二重陽性細胞数の割合は、VSV-G-, RV-G-, FuG-Cベクターで、それぞれ5.9 + 0.7%, 71.5 + 3.6%, 及び0.3 + 0.03%であった (n = 4)。したがって、グリア細胞への遺伝子導入はほとんど観察されなかった。これらの結果は、FuG-Cベクターは主に逆行性輸送を介して神経細胞へ選択的に遺伝子導入されることを示している。
【実施例4】
【0050】
神経幹細胞へのベクターの遺伝子導入特性:
VSV-Gベクターは神経幹細胞への高い遺伝子導入効率を示すことが知られている。脳室周囲領域 (SVZ) に局在する神経幹細胞への各種ベクターの遺伝子導入特性について解析した。ウィルスベクター溶液 (1.2 X 1010 コピー/ml)をマウスのSVZに注入後、脳切片を作製し、神経幹細胞のマーカーとしてGFAPを用い、GFAPとGFPの二重免疫染色を行った(図6A)。VSV-GあるいはRV-Gベクターを注入した場合、導入遺伝子の発現はSVZにおける多数のGFAP陽性神経幹細胞に観察された。一方、FuG-Cベクターを用いた場合は、これらの神経幹細胞への遺伝子導入はほとんど認められなかった。また、分裂性細胞を検出するために、BrdUを投与して標識し、1週間後に脳切片を作製しBrdUとGFPとの二重免疫染色をおこなった(図6B)。VSV-GあるいはRV-Gベクターを注入した場合、導入遺伝子の発現はSVZにおける多数の分裂性細胞に観察されたが、FuG-Cベクターを用いた場合は、これらの分裂細胞への遺伝子導入はほとんど認められなかった。これらの結果から、FuG-Cベクターの神経幹細胞及び分裂細胞への遺伝子導入は非常に低頻度であることが示された。
【実施例4】
【0051】
組織学的操作
アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ法による免疫染色用に、クライオスタットを用いて横断切片(マウス用:厚さ30 μm)を調製し、ウサギ抗GFPポリクローナル抗体(Molecular Probes, Eugene, OR:1:2,000 希釈)でインキュベートし、更に、ビオチニル化ヤギ抗ウサギIgG抗体(Vector Laboratories, Burlingame, CA:1:1,000希釈)とインキュベートした。免疫反応シグナルはVectastain Elite ABC キット(Vector Laboratories, Burlingame, CA)で視覚化した。
【実施例4】
【0052】
二重免疫蛍光組織化学染色用に、切片を上記ウサギ抗GFPポリクローナル抗体、及び、抗コリンアセチル転移酵素マウス抗体(Chemicon, Temecula, CA: 1:100 希釈)のいずれか一つとインキュベートした。次に、切片をFITC結合ヤギ抗ウサギIgG及びCy3-結合ロバ抗マウス抗体(1:500 希釈、Jackson, ImmunoResearch Laboratories, West Groove, PA)とインキュベートした。蛍光画像は、FITC及びCy3蛍光チャンネル用の適当なフィルターキューブ仕様を備えた共焦点レーザースキャニング顕微鏡(LSM510, Zeiss, Thornwood, NY)下で捉えた。これら蛍光画像はZeiss Axiovision ソフトウェアパッケージにより調節された高級CCDカメラシステムで撮影した。
【実施例4】
【0053】
細胞計数
前脳及び中脳を通る一連の切片を使用して、上記のアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ法による免疫染色を実施した。各脳領域における免疫染色された細胞の数はコンピュータ操作による画像プログラム(NIH Image 1.62, National Institutes of Health, Bethesda, MD)で計測した。ベクター注入部位における線条体細胞の同定の為に、代表的な切片を用いて二重免疫蛍光組織化学染色を行った。各動物において、対象領域内の免疫染色細胞数を画像プログラムにより計測した。各動物からの8~10個の切片を使用して計測し、切片辺りの平均を計算した。
【実施例4】
【0054】
本明細書中に引用される文献に記載された内容は、本明細書の一部として本明細書の開示内容を構成するものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の逆行輸送性ウィルスベクターは、主に逆行性輸送を介して神経細胞への選択的な遺伝子導入を可能とし、一方で、グリア細胞や神経幹細胞を含む分裂性細胞への導入は顕著に抑制される。本ベクターは中枢神経系における発がんのリスクを大幅に低下させ、神経細胞以外での非特異的な遺伝子発現による副作用を軽減させることができ、パーキンソン病等の脳神経疾患の遺伝子治療のために有効且つ安全性の高い技術を提供する。
更に、本発明は、脳神経疾患の遺伝子治療のための有効な且つ安全性の高い実験技術、及び、病態モデルの作製のための技術を提供するものである。
図面
【図4】
0
【図7】
1
【図1】
2
【図2】
3
【図3】
4
【図5】
5
【図6】
6