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明細書 :組換えアデノウイルスベクターの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4489257号 (P4489257)
公開番号 特開2001-086986 (P2001-086986A)
登録日 平成22年4月9日(2010.4.9)
発行日 平成22年6月23日(2010.6.23)
公開日 平成13年4月3日(2001.4.3)
発明の名称または考案の名称 組換えアデノウイルスベクターの作製方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 7/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2000-215011 (P2000-215011)
出願日 平成12年7月14日(2000.7.14)
優先権出願番号 1999205355
優先日 平成11年7月19日(1999.7.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年9月7日(2006.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宮崎 純一
【氏名】田代 文
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 特開平10-004973(JP,A)
Biochem. Biophys. Res. Commun.,1998年,Vol. 246,p. 868-872
Biotechniques.,1994年,Vol. 16, No. 6,p. 1060, 1062-1064
Biochem. Biophys. Res. Commun.,1998年,Vol. 244,p. 455-462
Nucleic. Acids. Res.,1995年,Vol. 23, No. 19,p. 3816-3821
Acta. Paediatr. Jpn.,1996年,Vol. 38,p. 182-188
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.,1996年,Vol. 93,p. 1320-1324
調査した分野 C12N 15/00-90
C12N 7/00-08
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
PubMed
WPI
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAのいずれかの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列と発現カセットとを挿入結合して組換えコスミドアデノウイルスベクターを作製し、この組換えコスミドアデノウイルスベクターとレコンビナーゼ発現ベクターとをアデノウイルスE1タンパク質産生細胞にコトランスフェクションし、細胞中において組換えコスミドアデノウイルスベクターからコスミドベクター配列を除去することによって、アデノウイルスゲノムDNAおよび発現カセットからなるDNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターを作製することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項2】
レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である請求項1の作製方法。
【請求項3】
レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である請求項1の作製方法。
【請求項4】
アデノウイルスE1タンパク質産生細胞が、ヒト胎児腎細胞由来293細胞である請求項1から請求項3のいずれかの作製方法。
【請求項5】
E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAのいずれかの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列と発現カセットとを挿入結合して組換えコスミドアデノウイルスベクターを作製し、この組換えコスミドアデノウイルスベクターを、レコンビナーゼおよびアデノウイルスE1タンパク質産生細胞にトランスフェクションし、細胞中において組換えコスミドアデノウイルスベクターからコスミドベクター配列を除去することによって、アデノウイルスゲノムDNAおよび発現カセットからなるDNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターを作製することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
【請求項6】
レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である請求項5の作製方法。
【請求項7】
レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である請求項5の作製方法。
【請求項8】
レコンビナーゼおよびアデノウイルスE1タンパク質産生細胞が、レコンビナーゼを産生するヒト胎児腎細胞由来293細胞である請求項5から7のいずれかの作製方法。
【請求項9】
E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列が挿入結合されていることを特徴とするコスミドアデノウイルスベクター。
【請求項10】
レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である請求項9のコスミドアデノウイルスベクター。
【請求項11】
レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である請求項9のコスミドアデノウイルスベクター。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、組換えアデノウイルスベクターの作製方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、哺乳動物細胞への遺伝子導入に有用な組換えアデノウイルスベクターの作製方法と、この方法に用いる遺伝子操作材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、分子生物学や分子遺伝学等における知識の蓄積や様々な技術開発により生命科学は大きく発展し、生命現象に関して多くの情報が得られるようになってきている。種々の分野において活発な研究開発が行われているが、中でも、遺伝子機能の解析は大きな比重を占めており、単離した遺伝子を細胞や生物個体に導入するための様々な技術やそのためのベクターが開発されている。
【0003】
哺乳類の細胞への遺伝子導入に用いられるベクターも数多く開発されているが、最近はウイルスを利用したベクター(ウイルスベクター)が注目されている。特に、アデノウイルスベクターは分裂する細胞だけでなく、非分列細胞にも感染し、高いウイルス価に調製することができ、しかも様々な組合せのエンハンサーおよびプロモーターの制御下で目的の遺伝子を発現させることができるため、遺伝子治療への応用も検討されている。
【0004】
これまでに、組換えアデノウイルスベクターの作製法として、in vivo相同組換えを利用した方法やin vitroでライゲーションする方法など、多くの方法が開発されている。また、アデノウイルスゲノムのE1領域を欠損させたベクターを用いると、導入した遺伝子は発現するが感染性ウイルス粒子は産生されないため、特に遺伝子治療等における有用な遺伝子導入手段として利用されている。
【0005】
このように、他のウイルスベクターと比較して多くの利点を持つアデノウイルスベクターではあるが、ウイルスゲノムが36kbと長いため、実際の組換えベクターの構築においては、手順が複雑であったり作製効率が低いといった問題がある。例えば、E1領域を置き換えた組換えアデノウイルスベクターの作製方法としては、2つのプラスミド間での哺乳動物細胞(例えば293細胞)におけるin vivo相同組換えを利用した方法(例えば、Virology 163:614-617, 1988;Nucleic Acids Res. 26:3687-3693, 1998)が知られている。これらの方法の場合、第1のプラスミドはアデノウイルスゲノムの5’端ITR(inverted terminal repeat)、パッケージングシグナル、目的の遺伝子およびウイルスゲノムの任意部分を含み、第2のプラスミドは、第1プラスミドと重なるウイルスゲノム部分と3’端ITRを含む残りのウイルスゲノムを保有している。しかしながら、哺乳動物細胞における相同組換えの起こる頻度はかなり低いため、これらの方法では哺乳動物細胞への両プラスミドのトランスフェクションを大量に行う必要がある。
【0006】
また、別の方法として、COS-TPC法が提案されている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1320-1324, 1996)。これは、全長のアデノウイルスゲノムと目的遺伝子の発現ユニットとを含むコスミドベクターと、制限酵素で消化したウイルスDNA-TPC(terminal protein complex)を同時に哺乳動物細胞にトランスフェクションする方法である。この方法は、ウイルスDNA-TPCを用いることによって、目的の組換えアデノウイルスベクターを効率よく回収することができる。しかしながら、この方法の場合には、アデノウイルスゲノムを制限酵素で消化することによってアデノウイルス親株の出現を防止してはいるものの、その除去は完全でなく、安全性の点で問題がある。
【0007】
さらに別の方法としては、Cre-loxP組換えシステムを応用した組換えアデノウイルスベクターの作製法が報告されてもいる(J. Virol. 71:1842-1849, 1997)。この方法は、Creレコンビナーゼが働くことによって、ドナーとなるアデノウイルスと、発現カセットを持つシャトルプラスミドとの間での分子間組換えを生じさせる方法であり、効率よく組換えアデノウイルスベクターを作製することができる。しかしながら、この発明の場合には、ドナーウイルスを用意する必要があり、またドナーウイルスが最終的なウイルス試料に残存する可能性がある。
【0008】
その他にも、コスミドベクターを用いてin vitroで全アデノウイルスゲノムを再構築する試みがなされているが、哺乳動物細胞へのトランスフェクションの前に複雑なDNA作製過程が必要であり、実用的なものではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記のとおりの組換えアデノウイルスベクターの作製法に関する様々な報告や提案より以前に、Grahamは、アデノウイルス5型のE1領域に1カ所のみ存在する制限酵素XbaIサイトに小さなプラスミドを挿入して構築した環状DNAを哺乳動物細胞(293細胞)にトランスフェクションすると、この環状DNAはウイルスDNAと同様の効率で感染性ウイルスを産生することを報告している(EMBO J. 3:2917-2922, 1984)。
【0010】
この報告は、環状アデノウイルスDNAのE1領域あるいはE3領域を外来性遺伝子に置き換えることによって、組換えアデノウイルスベクターが簡単に作製できることを示しているが、実際にこの方法で組換えアデノウイルスベクターを構築するに当たっては2つの問題が存在した。一つは、アデノウイルスゲノムDNAを含む非常に大きなプラスミドに発現カセットを組み込む効率の低さであり、もう一つの問題は、作製されたアデノウイルスベクターにプラスミドDNA部分が残ることである。
【0011】
この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の現状に鑑みてなされたものであって、組換えアデノウイルスベクターを簡便かつ高効率で作製することのできる新しい方法と、この発明を実施するための遺伝子操作材料を提供することを課題としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するため、以下の(1)から(12)の発明を提供する。
(1) E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAのいずれかの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列と発現カセットとを挿入結合して組換えコスミドアデノウイルスベクターを作製し、この組換えコスミドアデノウイルスベクターとレコンビナーゼ発現ベクターとをアデノウイルスE1タンパク質産生細胞にコトランスフェクションし、細胞中において組換えコスミドアデノウイルスベクターからコスミドベクター配列を除去することによって、アデノウイルスゲノムDNAおよび発現カセットからなるDNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターを作製することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
(2) レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である前記(1)の作製方法。
(3) レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である前記(1)の作製方法。
(4) アデノウイルスE1タンパク質産生細胞が、ヒト胎児腎細胞由来293細胞である前記(1)から(3)のいずれかの作製方法。
(5) E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAのいずれかの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列と発現カセットとを挿入結合して組換えコスミドアデノウイルスベクターを作製し、この組換えコスミドアデノウイルスベクターを、レコンビナーゼおよびアデノウイルスE1タンパク質産生細胞にトランスフェクションし、細胞中において組換えコスミドアデノウイルスベクターからコスミドベクター配列を除去することによって、アデノウイルスゲノムDNAおよび発現カセットからなるDNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターを作製することを特徴とする組換えアデノウイルスベクターの作製方法。
(6) レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である前記(5)の作製方法。
(7) レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である前記(5)の作製方法。
(8) レコンビナーゼおよびアデノウイルスE1タンパク質産生細胞が、レコンビナーゼを産生するヒト胎児腎細胞由来293細胞である前記(5)から(7)のいずれかの作製方法。
(9) E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失させたアデノウイルスゲノムDNAの欠失部位に、レコンビナーゼ認識配列を両端に有するコスミド配列が挿入結合されていることを特徴とするコスミドアデノウイルスベクター。
(10) レコンビナーゼがCreレコンビナーゼであり、その認識配列がloxP配列である前記(9)のコスミドアデノウイルスベクター。
(11) レコンビナーゼがFLPレコンビナーゼであり、その認識配列がFRT配列である前記(9)のコスミドアデノウイルスベクター。
(12) FLPレコンビナーゼを産生するヒト胎児腎細胞由来293細胞。
【0013】
すなわち、この出願の前記発明においては、「コスミド配列」とは、両端に同方向のレコンビナーゼ認識配列を有する直鎖状のコスミドベクター配列を意味する。また、「コスミドアデノウイルスベクター」とは、E1領域もしくはE1およびE3領域を欠失したアデノウイルスゲノムDNAと前記コスミド配列とからなる環状DNAコンストラクトを意味する。さらに、「組換えコスミドアデノウイルスベクター」とは、前記コスミドアデノウイルスベクターに発現カセットを組み込んだ環状DNAコンストラクトを意味する。さらにまた、「組換えアデノウイルスベクター」とは、前記組換えコスミドアデノウイルスベクターからコスミド配列が除去された直鎖状DNA配列を感染性粒子内に組み込んだアデノウイルスを意味する。
【0014】
以下、この出願の発明について、その実施の形態を詳しく説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この出願の前記(1)および(5)の組換えアデノウイルスベクターの作製方法においては、前記(9)のコスミドアデノウイルスベクターを使用する。このコスミドアデノウイルスベクターの調製において、アデノウイルスゲノムDNA(約36kb)は公知のクローン(例えば、実施例で使用したpFG140等)を利用することができる。そして、このゲノムDNAを適当な制限酵素やヌクレアーゼ等で処理することによって、そのE1領域(約2.0kb)もしくはE1領域とE3領域(約3.0kb)の両方を欠失させたDNA断片(約31~34kb)を得ることができる。このDNA断片を、開裂して直鎖状にしたコスミド配列とライゲーションし、環状DNAコンストラクトを形成する。コスミドベクターは大腸菌λファージのcos部位を有するプラスミドであり、30~42kbの外来DNAを挿入することができるため、前記の約34kbのDNA断片を収納することができる。このコスミド配列はまた、両端にレコンビナーゼ認識配列を有している。この認識配列は、使用するレコンビナーゼの種類によって決定され、例えば、Creレコンビナーゼの場合にはloxP配列を、また、FLPレコンビナーゼの場合にはFRT配列を用いることができる。例えば、loxP配列は34bpの配列であり、公知のクローン(例えば、実施例で使用したpBS246:GIBCO BRL社製等)から切り出して用いることができる。また、FRT配列は公知のクローンpNEOβGAL(Stratagene社製等)から切り出して用いることができる。さらに、コスミド配列のレコンビナーゼ認識配列の外側には、アデノウイルスゲノムDNA接続部位以外に、少なくとも1カ所のクローニングサイト(制限酵素部位)を有するDNA配列を延長させるのが好ましい。
【0016】
この出願の前記(1)および(5)の組換えアデノウイルスベクター作製方法においては、以上のとおりに調製した環状のコスミドアデノウイルスベクターに、外来遺伝子を含む発現カセットを挿入結合し、組換えコスミドアデノウイルスベクターを調製する。発現カセットは、プロモーター配列、外来遺伝子(cDNA)およびポリAシグナル等からなるDNA断片である。
【0017】
なお、この出願の前記(1)および(5)の方法発明においては、予めコスミドベクター配列と発現カセットを連結し、これと前記アデノウイルスDNA断片とをライゲーションして組換えコスミドアデノウイルスベクターとすることもできる。あるいは、外来遺伝子(cDNA)を含まない発現カセットを挿入したコスミドアデノウイルスベクターを作製し、この発現カセット内に外来遺伝子(cDNA)を組み込んで組換えコスミドアデノウイルスベクターとすることもできる。
【0018】
この出願の前記(1)の発明方法は、次いで、これらの組換えコスミドアデノウイルスベクターを、レコンビナーゼ発現ベクターとともに、アデノウイルスE1タンパク質産生細胞にコトランスフェクトする。レコンビナーゼ発現ベクターとしては、例えば、CreレコンビナーゼまたはFLPレコンビナーゼ発現ベクターを使用することができる。CreレコンビナーゼはloxP配列を認識し、2つのloxP配列に挟まれたDNA配列を切り出す(Nucleic Acids Res. 17:147-161, 1989)。また、FLPレコンビナーゼはFRT配列を認識し、2つのFRT配列に挟まれたDNA配列を切り出す(Trends Genet. 9:413-421, 1993)。従って、これらのレコンビナーゼ発現ベクターと前記の組換えコスミドアデノウイルスベクターとを共にホスト細胞に導入すると、レコンビナーゼの作用によって環状DNAのloxP配列またはFRT配列に挟まれたコスミドベクター配列が切り出され、アデノウイルスゲノムDNAと発現カセットとからなる直鎖状DNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターが作製される。
【0019】
Creレコンビナーゼ発現ベクターとしては、公知のクローン(例えば、実施例で使用したMC1-creプラスミド等)を使用することができる。また、FLPレコンビナーゼ発現ベクターとしては、pOG44(Stratagene社製)等を用いることができる。
【0020】
アデノウイルスE1タンパク質産生細胞としてはヒト胎児腎細胞由来293細胞が好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば、予めE1タンパク質遺伝子を導入したHeLa細胞や正常細胞等を用いることができる。あるいはまた、E1タンパク質遺伝子を導入したトランスジェニック動物から単離した細胞を用いることもできる。
【0021】
一方、この出願の前記(5)の発明方法においては、前記のとおりに作製した組換えコスミドアデノウイルスベクターを、レコンビナーゼおよびアデノウイルスE1タンパク質産生細胞にトランスフェクトする。すなわち、この方法では、ホスト細胞がレコンビナーゼを恒常的に産生しているために、組換えコスミドアデノウイルスベクターのみをトランスフェクションすることによって、ホスト細胞が産生するレコンビナーゼの作用により環状DNAのレコンビナーゼ認識配列に挟まれたコスミドベクター配列が切り出され、アデノウイルスゲノムDNAと発現カセットとからなる直鎖状DNA配列を有する組換えアデノウイルスベクターが作製される。なお、レコンビナーゼおよびE1タンパク質産生細胞としては、例えば、文献公知のCreレコンビナーゼ産生293細胞(J. Virol. 71:1842-1849, 1997; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:13565-13570, 1996)や、後記する実施例に示した方法によって作製されるCreレコンビナーゼ産生293細胞を用いることができる。また、この出願によって新たに提供される前記(12)のFLPレコンビナーゼ産生293細胞を用いることができる。さらには、予めE1タンパク質遺伝子とレコンビナーゼ遺伝子とを導入したHeLa細胞や正常細胞、あるいはE1タンパク質遺伝子とレコンビナーゼ遺伝子とを導入したトランスジェニック動物から単離した細胞等を用いることもできる。
【0022】
このようにして作製した組換えアデノウイルスベクターの全長は、野生型アデノウイルスと同様の36kb前後であり、様々な動物細胞に対して高い感染力を有している。
【0023】
なお、この前記発明(12)のFLP コンビナーゼ産生293細胞は、公知の方法によって作製することができる。例えば、FLPレコンビナーゼをコードするDNA断片を動物細胞用発現ベクターに組込み、このベクターを293細胞に導入することによって、FLPレコンビナーゼ産生293細胞を作製することができる。FLPレコンビナーゼをコードするDNA断片は、公知の発現ベクターpOG44(Stratagene社製)等から切り出して使用することができる。また、動物細胞用発現ベクターには、前記のベクターpOG44を直接使用することができる他、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する公知のベクターを使用することができる。発現ベクターを293細胞に導入するには、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法を用いることができる。さらに、FLPレコンビナーゼ発現ベクターには、ピューロマイシン等の薬剤耐性遺伝子を併せて組み込み、ベクターが導入された細胞の選択マーカーとすることもできる。
【0024】
以下、実施例を示してこの出願の発明を詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
実施例1:コスミドアデノウイルスベクターの構築
コスミドベクターSuperCos1はStragene社(La Jolla,CA)より、loxP配列を含むプラスミドpBS246はGIBCO BRL社(Rockville, MD)より購入した。pBS246のloxPで挾まれる領域中のHind IIIサイトをXba Iへ、BamHIサイトをSwa Iへ変更した。これをNot Iで切断し、2個のloxPを持つ260bpの断片を分離した。SuperCos Iに1か所あるXba Iサイトは予め破壊しておき、Not lで切断したところに2個のloxPを持つ260bpの断片を挿入し、コスミドベクター配列(pLCコスミド)を調製した。
【0026】
アデノウイルスゲノムDNAはpFG140から調製した。pFG140はアデノウイルス5dl309の全ゲノムが環状に連結しており、そのE1領域のXba Iサイトに2.2kbのベクター部分を持つプラスミドであるが、このE1領域の681~2559bp(ゲノム5‘端より)をBal31ヌクレアーゼによって欠失させ、そこにXba Iサイトを再構築した。
【0027】
E1領域を欠失したアデノウイルスDNAと前記pLCコスミドをそれぞれXba I切断し、ライゲーションした後、in vitroパッケージングによりバクテリオファージラムダの頭部に収容し、41kbのコスミドアデノウイルスベクター(pALCコスミド)を作製した(図1参照)。
実施例2:組換えコスミドアデノウイルスベクターの構築
様々なタイプの細胞で強く働くことが知られているCAGプロモーター(サイトメガロウイルス初期エンハンサー・ニワトリβアクチンプロモーターのハイブリッド)の下流にマウスインターロイキン5(mlL-5)、EMCウイルス由来lRES(lnternal ribosome entry site)、pEGFP-NIプラスミド由来EGFP(enhanced green fluorescent protein)cDNAを結合し、その両端にSwa Iサイトを付加してDNA断片を調製し、このDNA断片をカナマイシン耐性のpHSG298由来のベクターに組み込んだのち、この組換えベクターからSwa I断片を切り出して発現カセット(4.2kb)を調製した。
【0028】
この発現カセットを、実施例1で構築したpALCコスミドのSwa Iサイトに挿入した後、in vitroパッケージングによりバクテリオファージラムダの頭部に組み込み、組換えコスミドアデノウイルスベクター(pALC-IL-5)を構築した。このベクターを大腸菌DH10Bを用いて大量調整・精製し、回収した。
実施例3:組換えアデノウイルスベクターの構築
実施例2で構築した組換えコスミドアデノウイルスベクター(pALC-IL-5)とCreレコンビナーゼ発現ベクター(MC1-creプラスミド)とを、恒常的にアデノウイルスE1タンパク質を産生しているヒト胎児腎細胞由来の293細胞にコトランスフェクションした。293細胞の培養液は非働化10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むMEM(Minimum Essential Medium)を用い、ゼラチンで表面をコートしたシャーレ、あるいはマルチプレートを使用した。
【0029】
1μgのpALC-IL-5と、0.1μgのMC1-creプラスミドを12穴マルチプレートにまいた293細胞にLIPOFECTAMINE(GIBCO BRL社製)を用いてコトランスフェクションした(図2参照)。
【0030】
細胞変性効果(CPE)はプラーク形成により10日以内で観察された。CPEの観察されたプレートの培養上清を2,000rpm、5分間、4℃で遠心し、その上清を75cm2のフラスコにまいた293細胞に加え感染させた。数日後、全面にCPEが確認できたフラスコについて、細胞を集め凍結・融解を6回繰り返したものを3,500rpm、10分間、4℃で遠心し、その上清中に含まれる組換えアデノウイルスベクターの力価を測定した。測定は、ゼラチンコートした96穴マルチプレートに播いた293細胞に段階希釈したウイルス懸濁液を加え培養し、CPEの有無を観察した結果から算定した。
【0031】
また、コントロールとして、pALC-IL-5のみを293細胞にトランスフェクションし、同様にプラーク形成を観察した。
【0032】
その結果、Creレコンビナーゼが存在しないコントロール条件の場合、別々にトランスフェクションした8穴の293細胞のいずれにもプラークは認められなかった。これはpALC-IL-5DNAはその長さが45kbであり、感染性アデノウイルス粒子が収容できる長さを超えているため、ウイルスが産生されなかったことを示している。一方、Creレコンビナーゼ発現ベクターと共にトランスフェクションした場合には、8日以内に8穴の293細胞のすべてにおいてCPEが認められた。それぞれについて繰り返し検討した結果、Creが共存する場合、合計22穴の細胞のすべてでプラークを確認した。
【0033】
以上の結果により、一過性に発現するCreレコンビナーゼによってpALC-IL-5のコスミド配列が効率よく除去され、その結果形成される発現カセットを含む38kbの環状アデノウイルスベクターゲノムから、感染性の組換えアデノウイルスベクターが産生されたことが確認された。
実施例4:ウイルスDNAの解析
実施例3で構築した組換えアデノウイルスベクターからコスミド配列が除かれているかどうかを確かめるため、そのDNAの構造を解析した。
【0034】
ウイルス懸濁液を1%SDS、0.2mg/mlプロテアーゼK、10mM EDTAで37℃、3時間消化し、フェノール、フェノール/クロロホルム抽出、エタノール沈殿したものをアガロースゲルで電気泳動し、ゲルからウイルスDNAを抽出・精製した。ウイルスDNAをXba Iで消化し、0.4%および0.9%のアガロースゲルを用いて電気泳動した。
【0035】
図3Aは組換えアデノウイルスベクターゲノムの構造とその中のXba Iサイトを示す。組換えアデノウイルスベクターの懸濁液から精製したウイルスDNAをXba Iで消化し、0.4%アガロースゲル(図3B、レーン1、2)、あるいは0.9%ゲル(図3C、レーン1、2)で電気泳動した。レーン1、2のウイルスDNAは別々にトランスフェクションした細胞から調製した。次にpALC-IL-5DNAをXba Iで消化し同様に電気泳動した。loxP配列で挟まれたコスミド配列を含むXba I断片は9.1kbとして認められるが(図3B、C、レーン4)、組換えアデノウイルスベクターのDNAにおいては2.1kbの断片として認められ(図3C、レーン1、2)、その差はpALC中のloxPで挟まれたコスミド配列(約7kb)に相当する。この結果により、pALC-IL-5中のコスミド配列はCreレコンビナーゼの一過性発現によって効率よく除去され、その結果形成された発現カセットを含む38kbの環状アデノウイルスゲノムが増幅してウイルス粒子に収容され、感染性の組換えアデノウイルスベクターが産生されたことが確認された。予想される大きさ以外のDNA断片は認められず、この方法による組換えアデノウイルスベクター構築過程においては、異常な組換えはほとんど起こらないことも確認された。コントロールとして、アデノウイルスゲノムのクローンpFG140をトランスフェクションした293細胞のDNAをXba Iで消化した場合は、予想された34.6kb、2.2kbおよび1.3kbの各断片が認められた(図3B、C、レーン3)。
実施例5:発現カセットに含まれる遺伝子の発現
IL-5の発現を確認するため、感染細胞の培養液を回収、遠心し、その上清中のIL-5活性をELISA法で検討した。また、EGFPの発現は蛍光顕微鏡で観察することにより検討した。
【0036】
293細胞に組換えコスミドアデノウイルスベクターpALC-IL-5とpMCl-creをコトランスフェクションすると、多くの細胞がEGFP陽性となり、ウイルスのプラークが発達するに従い、すべてのプラークの周辺に強いEGFP蛍光が認められた(図4A、C)。
【0037】
次に実施例3で構築した組換えアデノウイルスベクターの懸濁液を希釈し、293細胞に感染させプラークを形成させた。30個以上のプラークを調べ、そのすべてがEGFP陽性細胞で囲まれていることを観察した(図4B、D)。IL-5とEGFPはCAGプロモーターによってbicistronicに転写されることを考えると、EGFPを発現するアデノウイルスベクターはIL-5もまた発現することが予想される。そこでIL-5の発現を確かめるために、96穴マルチプレートにまいた293細胞に限界希釈したウイルス懸濁液を加え、別々のウイルスクローンを増殖させた。10個のウイルスクローンについて調べたところ、すべてEGFPは陽性であった。その培養上清のIL-5活性をELISA法を用いて検討した結果、それぞれ高い価を示した(>10μg/ml)。
【0038】
以上の結果は、この出願の発明方法が、きわめて均一な組換えアデノウイルスベクターを産生することが可能であり、このベクターにより動物細胞中で導入遺伝子を確実に発現させることが可能であることを示している。
実施例6:Creレコンビナーゼ産生293細胞の作製
Creレコンビナーゼ遺伝子とEMCウイルス由来のIRES(Internal ribosome entry site)配列およびューロマイシン耐性遺伝子をpCAGGS(Gene 108(2):193-199, 1991)のEcoRIサイトに挿入してCreレコンビナーゼ発現プラスミドpCAGGS-cre-puroを構築し、293細胞にトランスフェクトし、2μgのューロマイシン/ml含有培地で培養した。ューロマイシン耐性コロニーを単離し、293細胞にレポータープラスミドpCAG-CAT-ZをトランスフェクションすることによってCreレコンビナーゼ活性をテストした。すなわちこのレポータープラスミドは、CAGプロモーターとlacZ遺伝子の間に、loxP配列で挟まれたクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子が挿入されており、Creレコンビナーゼの作用によってCAT遺伝子が切り出されるとlacZが発現されるため、293細胞のCreレコンビナーゼ産生をテストすることができる(Biochem. Biophys. Res. Commun. 17(2):393-401, 1995)。このテストによって、Creレコンビナーゼ産生能を有する細胞株293cre15を得た。
実施例7:293cre15における組換えアデノウイルスベクターの作製
実施例2で構築した組換えコスミドアデノウイルスベクター(pALC-IL-5)1μg/wellを、実施例6で作製した293cre15にトランスフェクションした。9のトランスフェクション細胞の全てにおいてCPEが観察され、CPEの全スポットには強いEGFPが観られた。
【0039】
これらの結果から、レコンビナーゼ産生293細胞を用いることにより、レコンビナーゼ発現ベクターを使用せずとも、組換えコスミドアデノウイルスベクターから効率よく組換えアデノウイルスベクターが作製可能であることが確認された。
実施例8:FLP コンビナーゼ産生293細胞の作製
FLPレコンビナーゼ遺伝子とEMCウイルス由来のIRES(Internal ribosome entry site)配列およびューロマイシン耐性遺伝子をpgk(phosphoglycerate kinase)プロモーターの下流に挿入してFLPレコンビナーゼ発現プラスミドpgk-FLP-puroを構築し、293細胞にトランスフェクトし、2μgのューロマイシン/ml含有培地で培養した。ューロマイシン耐性コロニーを単離し、293細胞にレポータープラスミドpNEOβGALをトランスフェクションすることによってFLPレコンビナーゼ活性をテストした。すなわちこのレポータープラスミドは、SV40プロモーターの下流のlacZ遺伝子の途中に、FRT配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子が挿入されており、FLPレコンビナーゼの作用によってネオマイシン耐性遺伝子が切り出されるとlacZが発現されるため、293細胞のFLPレコンビナーゼ産生をテストすることができる。このテストによって、FLPレコンビナーゼ産生能を有する細胞株293FLPを得た。
【0040】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、哺乳動物細胞に感染力を有する組換えアデノウイルスベクターを簡便かつ効率よく作製することが可能となる。例えば、従来の相同組換えを用いた組換えアデノウイルスベクターの作製方法では、予想外の組換えベクターが製造される危険性があり、また、製造過程が複雑で長時間の工程を必要とするが、この発明の方法は複雑な作業工程を必要とせず、しかも所望の構造と機能とを有する組換えベクターを確実に製造することが可能である。また、従来の相同組換えを用いた方法では、使用する293細胞の継代数が50以下である必要があるが、この出願の発明方法では、少なくとも70代以上継代した293細胞を用いても組換えアデノウイルスベクターの製造が可能である。
【0041】
従って、この出願の発明により提供される方法および材料によって、哺乳動物細胞を用いた遺伝子機能解析が促進される。また、遺伝子治療のためのベクター開発も促進される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で構築したコスミドアデノウイルスベクターpALC(上)と発現カセット(下)の構造を示す模式図である。34kbのアデノウイルスゲノムDNAは白い環で、ゲノムの方向は矢印で示す。7kbのコスミドベクターは黒三角で示すloxP配列で挟まれており、その中にcos部位、カナマイシン耐性遺伝子(Km)、大腸菌ori、アンピシリン耐性遺伝子(Ap)を含む。発現カセットはCAGプロモーター、マウスIL-5cDNA、IRES、EGFPcDNA、ポリA添加シグナル(pA)から成る。発現カセットはpALCベクターのSwa Iサイトに挿入され、実施例2の組換えコスミドアデノウイルスベクターpALC-IL-5が構築される。
【図2】 実施例3で構築した組換えアデノウイルスベクターの作業工程の概要を示す模式図である。実施例2のpALC-IL-5を大腸菌DH10Bを用いて増殖・精製し、pMCl-creプラスミドと共に293細胞にトランスフェクションした。一過性に発現するCreレコンビナーゼは、効率よく7kbのコスミド配列を切り出し、最終的に、IL-5とEGFPの発現カセットを含む感染性の組換えアデノウイルス粒子が産生された。
【図3】Aは実施例3で構築した組換えアデノウイルスベクターDNAの構造を示す模式図である。アデノウイルスゲノム(白いバー)とIL-5とEGFPの発現カセット(黒いバー)の結合したものの中に、Creレコンビナーゼによって除去されたコスミド配列のloxP(黒三角)1個が残る。下方の数字はアデノウイルスゲノムのマップユニット(m.u.)を、上方の数字は組換えアデノウイルスベクターDNAをXba Iで消化した場合の断片の長さ(kb)をそれぞれ示す。BおよびCは、様々なDNAをXba Iで消化し、0.4%(B)および0.9%(C)アガロースゲルで電気泳動したパターンを示す図面に代わる写真である:レーン1と2はpALC-IL-5とpMCl-creを293細胞にコトランスフェクションして産生されたウイルスDNA;レーン3はpFG140を293細胞にトランスフェクションして産生されたウイルスDNA;レーン4はpALC-IL-5DNA。レーン1と2のDNAはそれぞれ独立したトランスフェクションから得られたウイルスから調製した。loxPで挟まれたコスミド配列は9.1kbのDNA断片に含まれている(レーン4、黒三角)。組換えアデノウイルスDNAには9.1kbの断片は見られず、2.1kb断片が生じている(レーン1、2、白三角)。レーンMはサイズマーカーを泳動しており、そのサイズを左側に示す(kb)。
【図4】実施例3で構築した組換えアデノウイルスベクターのプラーク形成と、プラーク周辺のEGFPの発現を示す図面に代わる写真である。pALC-IL-5とpMCl-creをコトランスフェクションした293細胞にはウイルスによるプラークが認められる(写真A、C)。また、組換えアデノウイルスベクターを感染した293細胞にもプラークが認められる(写真B、D)。写真A、Bの視野を蛍光顕微鏡で観察すると、EGFPの蛍光が認められる(C、D)。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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