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明細書 :哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3693907号 (P3693907)
公開番号 特開2002-122568 (P2002-122568A)
登録日 平成17年7月1日(2005.7.1)
発行日 平成17年9月14日(2005.9.14)
公開日 平成14年4月26日(2002.4.26)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置
国際特許分類 G01N 33/48      
C12M  1/34      
C12N  5/06      
C12Q  1/02      
G01N 27/30      
G01N 27/327     
G01N 27/416     
G01N 33/483     
C12N  5/06      
C12R  1:91      
FI G01N 33/48 M
C12M 1/34 A
C12Q 1/02
G01N 27/30 311A
G01N 33/483 C
G01N 33/483 F
G01N 27/46 311G
C12N 5/00 E
G01N 27/30 351
C12N 5/00 E
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2000-312882 (P2000-312882)
出願日 平成12年10月13日(2000.10.13)
審査請求日 平成13年8月30日(2001.8.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】珠玖 仁
【氏名】白石 卓夫
【氏名】大矢 博昭
【氏名】末永 智一
【氏名】阿部 宏之
【氏名】星 宏良
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】加々美 一恵
参考文献・文献 特開平06-113697(JP,A)
特開2000-035412(JP,A)
Human Reproduction,1986年,Vol.1, No.3,p183-184
Denki Kagaku,1998年,Vol.66, No.6,p660-661
Biology of Reproduction,2000年,Vol.62, No.6,p1866-1874
調査した分野 G01N 33/48-33/98
G01N 27/416
C12M 1/34
C12N 5/06
C12Q 1/02
G01N 27/30 311
G01N 27/327
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法において、
(a)顕微鏡により単一哺乳動物胚の大きさの計測と、形態観察を行う工程と、
(b)前記顕微鏡による単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察に基づいて、前記単一哺乳動物胚に関して、すみやかに酸素消費量を計測する工程と、
(c)上記工程(a)および工程(b)により、あらかじめ単一哺乳動物胚の大きさ・形態と、単一哺乳動物胚の溶液中と単一哺乳動物胚表面の酸素濃度差に基づく酸素消費量の関係、さらに単一哺乳動物胚のその後の胚半径、胞胚腔形成率/脱出胚盤胞到達率発生過程を記録するとともに、判定基準を設定する工程と、
(d)上記工程(c)を参照し、単一哺乳動物胚の品質を判定する工程とを施すことを特徴とする哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法。
【請求項2】
哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置において、
(a)単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察を行うための顕微鏡と、
(b)前記顕微鏡による単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察に基づいて、単一哺乳動物胚の溶液中と単一哺乳動物胚表面の酸素濃度差に基づく酸素消費量の計測を行う電気化学顕微鏡計測装置と、
(c)培養液に準ずる計測溶液と、
(d)上記(a),(b),(c)を用いて単一哺乳動物胚近傍の酸素濃度変化を高空間分解能で定量する手段と、
(e)上記(d)によりあらかじめ作出した単一哺乳動物胚の大きさ・形態と酸素消費量の関係および単一哺乳動物胚のその後の胚半径、胞胚腔形成率/脱出胚盤胞到達率発生結果を集計する手段と、
(f)上記(e)の集計データとの比較により、単一哺乳動物胚の正常性を判定する手段とを具備することを特徴とする哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置。
【請求項3】
請求項2記載の哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置において、前記電気化学顕微鏡計測装置は、顕微鏡ステージ上に設置した微小電極、電極位置決め装置、微小電流計測装置、温度制御装置、培養気相条件(酸素、二酸化炭素)制御装置を含むことを特徴とする哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、培養技術の目覚ましい進歩により、多くの哺乳動物胚(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヒトなど)の体外培養が可能となってきた。体外培養された胚はレシピエント(雌仮腹)の子宮に移植され、産仔の誕生も可能となっている。
【0003】
しかしながら、作出した胚が生存し、しかも正常に発生が進行しているかどうかの判断基準は、一般的に形態観察のみに基づいている。このような形態的評価では、低品質と判定した胚が移植後に受胎したり、高品質と判定した胚が受胎しない例が報告されている〔F.Shea,Theriogenology,15,31-42(1981)〕。また、形態的評価法と胚の生存性との間に相関関係が見られないことも報告されている〔D.S.Visser et al.,Hum.Reprod.,8,1719-1722(1993)〕。これらのことは、形態的観察による胚評価法だけでは、必ずしも正確に胚の生存性や品質を判断できないことを示唆している。
【0004】
胚の品質評価において、形態的評価法の他に、胚のグルコースやアミノ酸代謝活性を指標とした品質評価法の試みも行われてきた〔D.K.Gardner and H.J.Leese,J.Exp.Zool.,242,103-105(1987);M.Rondeau et al.,Theriogenology,44,351-366(1995)〕。
【0005】
これらの方法では、計測にラジオアイソトープを用いなければならなかったり、複数個以上の胚が必要であるなどの欠点があった。一方、細胞や胚などの代謝活性や特異的な生体反応を評価する手法として、少数の細胞数でも無侵襲に計測可能な電気化学的手法が注目されつつある。
【0006】
以下、その関連技術について説明する。
【0007】
(1)クラーク型酸素電極をはじめとする、精密位置決め機能を有さない固定型/通常サイズの電極が細胞呼吸活性評価に広く適用されている。空間分解能を有さない従来型の酸素電極を工夫することにより、培養したままリアルタイムで細胞呼吸活性を計測可能な装置は既にある。ウシ初期胚に関して、通常サイズのクラーク型酸素電極を用いて、単一の胚盤胞期胚の酸素消費量を定量した報告がある〔E.W.Overstorm et al.,Theriogenology,37,269(1992)〕。胚盤胞期胚において、形態的に正常/異常に分類した2グループ間で、正常胚のグループが酸素消費量も多く、その後の胚発生能も高かったと報告している。しかしこれは明らかに形態観察のみで判定可能な基準であり、酸素消費量計測の意義は極めて小さい。
【0008】
この手法は、桑実胚と胚盤胞期胚の酸素消費量の差を検出していない。しかも空間分解能を有さない計測法は、胚表面の濃度が場所により異なる場合に局所の濃度を正確に検出できない。したがって、局所の濃度差情報を胚の品質判定に利用できないという欠点がある。
【0009】
(2)電気化学顕微鏡(Scanning electrochemical microscopy)は、精密位置決め機能を有し、マイクロ(微小)電極を探針とする計測装置であり、探針を試料表面に近接し走査することにより、試料の放出/吸収する分子種の検出や、分子種の分布の画像化を可能にする〔A.J.Bard et al.,Anal.Chem.,61,132-138(1989);R.C.Engstrom et al.,Anal.Chem.,58,844-848(1986)〕。
【0010】
球状の単一細胞が特定の分子種を放出/吸収する際に、細胞近傍に形成される濃度分布を電気化学顕微鏡類似の装置で直接計測した研究が既にある。マイクロ電極を細胞表面に向かって近接/遠ざけることにより計測した電流プロファイルから、細胞表面濃度と細胞から十分離れた位置の濃度の差(ΔC)が求められている。
【0011】
さらに、濃度の差(ΔC)より、試料1個あたりの特定分子種放出/吸収速度が定量されている〔T.Yasukawa,et al.,Biophys.J.,76,1129-1135(1999)〕。この方法で、酸素還元電流プロファイルを計測し、生体からの酸素放出/吸収量を定量することも可能となっている 〔T.Yasukawa et al.,Denki Kagaku,66,660-661(1998)〕。しかし、この方法で体外培養胚の酸素消費量の定量化に成功した例は報告されていない。
【0012】
(3)自己参照電極法(Self-referencing ion-selective microelectrode/Self-referencing polarographic oxygen-selective microelectrode)は、電気化学顕微鏡類似の計測装置である〔P.J.S.Smith et al.,Microsc.Res.Tech.,46,398-417(1999);S.C.Land et al.,J.Exp.Biol.,202,211-218(1999)〕。電極の位置を周期0.3Hz振幅10μm程度で振動させ、電流信号をロックイン検出することにより高感度化が図られている。
【0013】
この方法の欠点として、検出原理や出力信号の解釈が複雑であること、また、計測に余分な時間を要することが挙げられる。
【0014】
この方法は、本来、イオン選択性電極を探針とする電位感応型の計測法であるが、近年では微小酸素電極を探針として電流検出も行っている。最近、自己参照電極法がマウス体外培養胚の酸素消費量の定量に適用された〔J.R.Trimarchi et al.,Biol.Reprod.,62,1866-1874(2000)〕。この報告では自己参照電極法が無侵襲であることに言及し、計測に供した胚がその後も正常に発生することも確認している。しかし、酸素消費量と発生率の関係については相関が得られなかったと明言している。つまり、彼らの用いた計測法では、胚の酸素消費量からその後の発生過程を予測する基準を設定することができていない。さらに、彼らは、マウス初期胚の酸素消費量計測に際し胚細胞を包む透明帯の除去を施しており、このような損傷を与えた胚は継続して培養する目的に適さない。
【0015】
(4)ヒトの体外培養胚の評価法として、個々の胚につき形態観察と酸素消費量の対応付けを試みた研究例がある〔C.Magnusson et al.,Hum.Reprod.,1,183-184(1986)〕。形態観察において品質の劣った胚と正常胚との間には、酸素消費量に有為な差が見られた。しかしながら、形態観察で正常と判別された胚の中では、酸素消費量とその後の胚発生率の関係において相関性は見られなかった。また、酸素消費量計測の原理は、オキシヘモグロビンがヘモグロビンに変換する時の吸収スペクトル強度変化に因るものであり、空間分解能は期待できない。さらに、計測は、検出試薬の存在下でしかも、低酸素濃度で行う必要があり、胚を損傷する可能性も否定できない。
【0016】
(5)計測技術が空間分解能を有する利点は、上記(1)で述べた「局所の濃度差情報を胚の品質判定に利用できる」他に、「試料近傍に形成される酸素濃度勾配を直接計測できる」、「複数の試料でも画像化等により1本のプローブで定量的計測が可能である」、「任意に電極の位置を胚から十分離れた位置に移動し、ベースラインの濃度を参照できる」こと等が挙げられる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
(1)現行では形態観察に頼るところが大きい胚の品質評価に際し、1個1個の胚毎に代謝活性を数値化し情報を加えることにより、品質評価の精度向上を実現する。
【0018】
(2)代謝活性を評価する指標として、単一胚毎の酸素消費量を計測する。ただし、胚の代謝活性を正確に把握するために、計測は培養条件あるいはそれに限り無く近い条件で行われる必要がある。さらに、測定後の胚を利用するために、計測は短時間にかつ無侵襲で行われる必要がある。また、局所の濃度差情報を品質判定に利用するために、空間分解能を有する計測装置の適用が望ましい。そのような条件を満たす計測手段として、例えば電気化学顕微鏡は適用可能性が高い。
【0019】
(3)しかしながら、個々の動物種により胚の発生過程、代謝活性、培養条件は大きく異なるため、実用可能性を示すためには、正常な胚がたどる発生過程をあらかじめ把握しておくことが不可欠である。
【0020】
(4)電極位置決め装置付きの微小電極や電気化学顕微鏡類似の計測装置を生存した細胞に対して適用した例は既にある〔T.Yasukawa et al.,Denki Kagaku,66,660-661(1998);P.J.S.Smith et al.,Microsc.Res.Tech.,46,398-417(1999);S.C.Land et al.,J.Exp.Biol.,202,211-218(1999)〕。
【0021】
さらに、体外培養胚の代謝活性を無侵襲に計測することを目的とした研究も近年報告されつつある〔D.K.Gardner and H.J.Leese,Hum.Reprod.,1,25-27(1986);D.K.Gardner and H.J.Leese,J.Exp.Zool.,242,103-105(1987);J.R.Trimarchi et al.,Biol.Reprod.,62,1866-1874(2000)〕。これらの報告の中には、計測の後も胚が損傷を受けないで正常に発生することを確認したという報告もある。しかし、胚のある時期において計測された個々の検体の代謝活性から、被計測検体のその時期以降の発生過程を予測し、判定基準を明確に示した例はない。これまでの報告例では、単一胚毎の形態観察と酸素消費量の対応が明確化されておらず、形態観察で判断可能な異常と酸素消費量に基づく異常の区別が極めて曖昧である。
【0022】
本発明は、上記状況に鑑みて、哺乳動物胚の形態観察と代謝活性の指標である酸素消費量の計測を行い、個々の哺乳動物胚の生存性や正常性を、早期に正確に把握できる哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法において、(a)顕微鏡により単一哺乳動物胚の大きさの計測と、形態観察を行う工程と、(b)前記顕微鏡による単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察に基づいて、前記単一哺乳動物胚に関して、すみやかに酸素消費量を計測する工程と、(c)上記工程(a)および工程(b)により、あらかじめ単一哺乳動物胚の大きさ・形態と、単一哺乳動物胚の溶液中と単一哺乳動物胚表面の酸素濃度差に基づく酸素消費量の関係、さらに単一哺乳動物胚のその後の胚半径、胞胚腔形成率/脱出胚盤胞到達率発生過程を記録するとともに、判定基準を設定する工程と、(d)上記工程(c)を参照し、単一哺乳動物胚の品質を判定する工程とを施すことを特徴とする。
【0024】
〔2〕哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置において、単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察を行うための顕微鏡と、前記顕微鏡による単一哺乳動物胚の大きさの計測と形態観察に基づいて、単一哺乳動物胚の溶液中と単一哺乳動物胚表面の酸素濃度差に基づく酸素消費量の計測を行う電気化学顕微鏡計測装置と、培養液に準ずる計測溶液と、(d)上記(a),(b),(c)を用いて単一哺乳動物胚近傍の酸素濃度変化を高空間分解能で定量する手段と、(e)上記(d)によりあらかじめ作出した単一哺乳動物胚の大きさ・形態と酸素消費量の関係および単一哺乳動物胚のその後の胚半径、胞胚腔形成率/脱出胚盤胞到達率発生結果を集計する手段と、(f)上記(e)の集計データとの比較により、単一哺乳動物胚の正常性を判定する手段とを具備することを特徴とする。
【0025】
〔3〕上記〔2〕記載の哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置において、前記電気化学顕微鏡計測装置は、顕微鏡ステージ上に設置した微小電極、電極位置決め装置、微小電流計測装置、温度制御装置、培養気相条件(酸素、二酸化炭素)制御装置を含むことを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図を参照しながら説明する。
【0027】
体外培養胚の移植は、通常胚盤胞期胚を使用する。受胎率を上げるためには、この時期に品質の優れた正常胚を1個づつ正確に判別することが必要である。
【0028】
本発明では、まず、形態観察で品質評価した胚の酸素消費量の定量化を行い、胚の品質に対する形態と酸素消費量の関係について検討した。形態観察のみでは胚の品質評価が難しいので、酸素消費量を計測し、その後、胚を培養し再び形態観察と酸素消費量を計測した。
【0029】
以下、具体的な実施例について述べる。
【0030】
体外培養のウシ卵子体外成熟/体外受精は、定法により行った〔S.Yamashita et al.,Cytotechnology,31,121-129(1999)〕。体外受精後の胚の発生培養には、無血清培養液(IVD101,機能性ペプチド研究所製)を用い、低酸素条件(5%酸素、5%二酸化炭素、90%窒素、湿度100%、38.5℃)で培養した。
【0031】
定法により単一胚毎に形態観察に基づく判定を行った。胚の形状、大きさ(透明帯を含む半径rs )を記録した。具体的には胚の光学顕微鏡写真を撮影した。単一胚の酸素消費量の計測にあたっては、電気化学顕微鏡を応用した。
【0032】
電気化学顕微鏡計測においては、探針である微小(マイクロ)電極を胚近傍に近接させながら酸素還元電流を観測し、溶液中の酸素濃度と胚表面酸素濃度の差(ΔC)を記録した。
【0033】
図1は本発明の実施例を示す哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置の構成図であり、図1(A)はその無侵襲的品質評価装置の全体構成図、図1(B)はその無侵襲的品質評価装置の部分拡大図である。
【0034】
これらの図において、1は微小(マイクロ)電極、2は参照極/対極、3は培地/計測溶液、4はディッシュ、5は胚試料、6は電極位置決め装置(精密位置決め装置)、7はコンピュータ、8は微小電流計測装置(ポテンショスタット)、9は試料保持装置、10は温度制御装置、11はガスボンベ、12はバブラー、13はグローブボックス、14は倒立顕微鏡、15は顕微鏡ステージ、16は電極シール部、17は電極ディスク面である。
【0035】
電気化学計測系は、マイクロ電極1、参照極/対極電極2、微小電流計測装置(ポテンショスタット)8で構成される。電極の駆動は、電極位置決め装置6により行った。電気化学計測系および電極駆動系はコンピュータ7により制御した。35mmディッシュ(Nunc社製)中で、胚試料5が顕微鏡視野の中心に位置するよう、試料保持装置(マニピュレータおよびマイクロインジェクタ、ナリシゲ社製)9で操作した。
【0036】
培地/計測溶液3は胚発生培養液に準ずる無血清培養液(IVMD101,機能性ペプチド研究所製)を用いた。温度制御装置10には恒温循環槽を用いた。培養気相条件は(5%二酸化炭素、95%空気、湿度100%)ガスを流し制御した。諸装置を倒立顕微鏡ステージ15上に設置した。マイクロ電極1は、電極半径が0.92μm、シール部を含めた全体半径が4.0μmのものを用いた。酸素還元電流の記録にあたり、電極電位を銀/塩化銀参照電極に対し、-0.6Vに印加した。
【0037】
マイクロ電極1を胚試料5の表面に最近接させた地点では、マイクロ電極1の先端が胚試料5の中心と同じ高さで表面に接するように配置した。この際、マイクロ電極1の先端の電極ディスク面17と胚試料5の表面はほぼ直交する配置になるため、マイクロ電極1-胚試料5の表面間の最近接距離は、電極シール半径(4.0μm)と同値である。電極走査速度は14.7μm/sとした。電極走査範囲としてマイクロ電極1-胚試料5の最近接地点とその点より500μm離れた地点を往復した。
【0038】
図2は本発明の実施例を示すマイクロ電極で記録された酸素還元電流より求められた特性図であり、図2(A)はその酸素濃度プロファイルと胚の表面から電極までの距離(r)の関係を示す図、図2(B)は酸素濃度プロファイルと、胚の中心から電極までの距離と胚半径の比〔(rs /(r+rs )〕の関係を示す図である。図中の線aは、受精後6日目のウシ単一桑実胚に対するプロファイルを示す。計測後48時間継続培養し胚盤胞期に到達した同一胚に対して、電極を栄養芽細胞(TRP,trophoblast)側〔線b〕および内部細胞塊(ICM,inner cell mass)側に向かって近接した場合〔線c〕のプロファイルも図中に示した。
【0039】
図2より、本発明の計測が無侵襲的に行われ、計測後の発生過程に影響を与えないこと、胚表面の局所濃度変化を検出可能であることが示された。すなわち、図2(B)においてプロットが良好な直線性を示すことは、胚試料近傍の濃度勾配が球面拡散の理論式によく従うことを意味する。
【0040】
この図2(B)より、rs /(r+rs )=0および1における酸素濃度は、各々胚から十分離れた地点および胚試料表面における酸素濃度に相当する。従って、両地点の酸素濃度の差がΔCに相当する〔T.Yasukawa,et al.,Biophys.J.,76,1129-1135(1999)〕。上記ΔCの決定には、酸素還元電流のプロファイルが往路(電極を胚に近接)と復路(電極を胚から遠ざける)で対称性が良いことを確認し、往路/復路各々の電流プロファイルを解析した。1個の胚に対して3往復以上電流プロファイルを記録し、ΔCの平均およびその標準偏差を得た。ΔCとrs から、次式を用いて、単一胚あたりの酸素消費量(F)を算出することもできる。
【0041】
F=4πDrs ΔC
ここで、Dは酸素の拡散係数、rs は透明帯を含む胚の半径である。この式から明らかなように、ΔCは酸素消費量の定量化や、個々の胚における酸素消費量を比較する際に指標となる数値である。特に桑実胚においては胚半径(rs )がほぼ同一であるため、ΔCにより酸素消費量を比較可能である。
【0042】
上記した図2の線a、線b、線cに対して求められたΔCは、各々6.90±1.35、9.14±1.67、16.40±1.83μMであった。
【0043】
桑実胚(rs =74μm)に関しては、胚表面の酸素濃度は均一であるので直ちにF=1.40±0.27×10-14 mols-1が求まる。胚盤胞期胚(rs =100μm)に関しては、TRP側とICM側で濃度差があるため、Fを求めることは難しい。しかし、TRP側とICM側に近接させた際のΔCを用いて、近似的に、2.50±0.46×10-14 mols-1<F<4.49±0.50×10-14 mols-1と表すことは可能である。
【0044】
上記と同一条件で、受精後6日の桑実胚29個に対し、形態観察と酸素消費量計測を実施し、その後の発生過程を記録した。発生過程の指標としては、表中の計測後48時間継続培養した胚の半径(rs )、胞胚腔形成率、脱出胚盤胞到達率を調査し、結果を表1にまとめた。
【0045】
【表1】
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【0046】
表1は受精後6日のウシ桑実胚(n=29)の、溶液中の酸素濃度と胚表面酸素濃度の差(ΔC)と、受精後8日目の胚半径(rs )、胞胚腔形成率、脱出胚盤胞到達率の関係を示している。
【0047】
受精後6日の桑実胚のうち、溶液中の酸素濃度と胚表面酸素濃度の差(ΔC)が5.0μM未満の胚(ΔC<5.0μM)は、受精後8日目の胚半径80μm未満(rs <80μm)が78%、胞胚腔形成率33%、脱出胚盤胞到達率0%であったのに対し、ΔCが5.0μM以上の胚(ΔC≧5.0μM)は、受精後8日目の胚半径80μm以上(rs ≧80μm)が80%、胞胚腔形成率95%、脱出胚盤胞到達率68%であった。即ち、受精後6日の桑実胚において、判定基準として「ΔCが5.0μM以上」を設定した場合、基準を満たす胚と満たさない胚では、その後の胚発生過程に著しい違いがあることが分かった。
【0048】
ここで重要なことは、このような代謝活性の数値化に基づく判定基準は、形態観察のみから設定することが不可能な点にある。
【0049】
図3は基準値近傍の桑実胚のうち典型的な試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0050】
図中A、BはΔCが5.0μM未満、CからFはΔCが5.0μM以上であった。図3より、本発明により設定された基準を、形態観察のみに基づき判別することは極めて困難であることが分かる。
【0051】
例えば、ウシを含む哺乳動物胚が正常胚か異常胚であるかは、胚の凍結保存時の耐凍能や受胎率に大きな影響を与える。従って、胚の品質を生存したまま(無侵襲的に)しかも発生の早い時期に評価できる技術が求められている。通常形態的観察による評価法が一般的に用いられているが、この方法では正確な正常胚の判別が難しいという欠点があった。本発明では、上記したように、電気化学顕微鏡を用いて、単一胚の酸素消費量を定量的に計測可能であることを示し、さらに、形態的には見分けの困難な胚の品質評価をより正確に行えることを特徴としている。この結果、移植や凍結保存に適した胚の選択により信頼性の高い品質評価法としての意義は大きい。
【0052】
以下、本発明の効果について説明する。
【0053】
平成9年度の国内でのウシ受精卵移植の受胎率は、体内受精卵新鮮胚移植で51%、体内受精卵凍結胚移植で45%、体外受精卵移植では34%となっている〔農林水産省畜産局統計資料〕。本発明によれば、それぞれの胚の品質をより正確に判定できることにより、受胎率を10%向上させるだけでも畜産業に与える経済的利益は多大なものとなる。さらに、家畜胚のみならずヒト胚の品質評価も可能と考えられ、ヒト体外受精における不妊治療に対しても大きな期待が寄せられる。具体的には、ヒト体外受精で得られた胚の妊娠率は約20%と低く、治療には複数個の胚(3個程度まで)が移植される。その結果、双子以上多胎妊娠の例も多く報告され、妊娠や出産後の子育ての大きな問題となっている。移植前に正確な胚の品質評価ができれば、移植に用いる胚を1個に減らすことが可能となり、多胎妊娠を防止することで母体への負担等が著しく軽減する。
【0054】
また、妊娠率の向上は、患者の経済的負担を減らすことが期待される。
【0055】
単一胚の酸素消費量を高感度に計測可能な本発明は、胚の酸素消費量の計測のみならず、細菌などの前核性生物、植物細胞、動物細胞など多種多様な細胞の酸素消費量をごく少量の細胞数で計測できることが考えられる。さらに、酸素消費量だけでなく、プローブを代えることにより、他の分子種(Ca,Kなど)の細胞内変化を鋭敏に定量化することも可能である。
【0056】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0057】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0058】
電気化学顕微鏡を用いて、単一胚の酸素消費量を定量的に計測可能であり、さらに、形態的には見分けの困難な胚の品質評価をより正確に行うことができる。その結果、移植や凍結保存に適した胚の選択により信頼性の高い品質評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例を示す哺乳動物胚の無侵襲的品質評価装置の構成図である。
【図2】 本発明の実施例を示すマイクロ電極で記録された酸素還元電流より求められた特性図である。
【図3】 基準値近傍の桑実胚のうち典型的な試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
1 マイクロ電極
2 参照極/対極
3 培地/計測溶液
4 ディッシュ
5 胚試料
6 電極位置決め装置(精密位置決め装置)
7 コンピュータ
8 微小電流計測装置(ポテンショスタット)
9 試料保持装置
10 温度制御装置
11 ガスボンベ
12 バブラー
13 グローブボックス
14 倒立顕微鏡
15 顕微鏡ステージ
16 電極シール部
17 電極ディスク面
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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