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明細書 :フレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4224594号 (P4224594)
公開番号 特開2002-196122 (P2002-196122A)
登録日 平成20年12月5日(2008.12.5)
発行日 平成21年2月18日(2009.2.18)
公開日 平成14年7月10日(2002.7.10)
発明の名称または考案の名称 フレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法
国際特許分類 G02B   5/18        (2006.01)
C23C  14/24        (2006.01)
G02B   3/08        (2006.01)
G02B  13/18        (2006.01)
FI G02B 5/18
C23C 14/24 C
G02B 3/08
G02B 13/18
請求項の数または発明の数 6
全頁数 9
出願番号 特願2000-394583 (P2000-394583)
出願日 平成12年12月26日(2000.12.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2000年9月3日 (社)応用物理学会発行の「2000年(平成12年)秋季 第61回応用物理学会学術講演会 講演予稿集 第2分冊」に発表
審査請求日 平成17年7月19日(2005.7.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】599112582
【氏名又は名称】財団法人高輝度光科学研究センター
発明者または考案者 【氏名】田村 繁治
【氏名】安本 正人
【氏名】上條 長生
【氏名】鈴木 芳生
【氏名】淡路 晃弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
審査官 【審査官】竹村 真一郎
参考文献・文献 特開昭57-104904(JP,A)
特開平05-171414(JP,A)
特開平07-191192(JP,A)
特開昭62-142759(JP,A)
特開昭61-009574(JP,A)
調査した分野 G02B 5/18
C23C 14/24
G02B 3/08
G02B 13/18
G03F 1/00
G21K 1/06
H01L 21/30
特許請求の範囲 【請求項1】
2以上の蒸着源を用いて蒸着を行うことによって細線状基板上に多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法であって、槽内において、蒸着源と細線状基板との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を細線状基板または既に蒸着させた薄膜上に蒸着させることを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法であって、細線状基板の直径は20~100μmであり、スリットの幅は2~10mmであり、蒸着源からスリットまでの距離とスリットから細線状基板までの距離との比が、1:0.1~1:1である方法
【請求項2】
更に、槽内に膜厚モニターを設けて膜厚を制御することを特徴とする請求項1に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法。
【請求項3】
更に、それぞれの蒸着源と細線状基板との間にシャッターを設けて、使用していない蒸着源のシャッターを閉じておくことを特徴とする請求項1または2に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法。
【請求項4】
細線状基板に蒸着法を用いて多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置であって、槽内に2以上の蒸着源および細線状基板を設置し、該蒸着源と該細線状基板との間に、斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリット、細線状基板を回転させるための手段、ならびにスリットを回転させるための手段を設けたことを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置であって、細線状基板の直径は20~100μmであり、スリットの幅は2~10mmであり、蒸着源からスリットまでの距離とスリットから細線状基板までの距離との比が、1:0.1~1:1である装置
【請求項5】
更に、槽内に膜厚モニターを設けることを特徴とする請求項4に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
【請求項6】
更に、蒸着源とスリットとの間にシャッターを設けることを特徴とする請求項4または5に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法および製造装置に係る。本発明は、特に、X線集光レンズとして好適なフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法および製造装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
フレネルゾーンプレートは、透明体と不透明体とを交互に配した多数の同心円輪群を有するレンズであって、例えば、X線集光レンズとしてX線マイクロビーム分析などに用いられている。近年、半導体の微小回路素子の分析・評価、微小単結晶や微小多結晶でしか得られない新物質の分析・評価など微小領域の測定方法の開発が望まれている。この開発にあたっては、硬X線のマイクロビーム化の開発が必須となっている。
【0003】
これを実現するために、空間分解能、集光効率などに優れた集光素子を開発することが強く求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の問題点を鑑み成されたものであって、高分解能のフレネルゾーンプレートを開発するために、界面乱れが少ないフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法および製造装置を提供することを主な目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者らは、X線集光用フレネルゾーンプレートの製造方法として、細線状基板へ多層膜を蒸着させる方法について研究を行ってきた(田村他、第5回X線結像光学シンポジウム予稿集(1999) p114など)。
【0006】
しかしながら、従来の細線状基板への多層薄膜の蒸着法では、膜界面に大きな乱れが生じ、乱れの少ない多層膜を製造することができなかった。多層膜界面に乱れを有するフレネルゾーンプレートは、空間分解能、集光効率などが低い。
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、細線状基板と蒸着源との間にスリットを設けることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、下記のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法および製造装置に係るものである。
1.2以上の蒸着源を用いて蒸着を行うことによって細線状基板上に多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法であって、
槽内において、蒸着源と細線状基板との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を細線状基板または既に蒸着させた薄膜上に蒸着させることを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法。
2.更に、槽内に膜厚モニターを設けて膜厚を制御することを特徴とする上記1に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法。
3.更に、それぞれの蒸着源と細線状基板との間にシャッターを設けて、使用していない蒸着源のシャッターを閉じておくことを特徴とする上記1または2に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法。
4.細線状基板に蒸着法を用いて多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置であって、
槽内に2以上の蒸着源および細線状基板を設置し、
該蒸着源と該細線状基板との間に、斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリット、
細線状基板を回転させるための手段、ならびに
スリットを回転させるための手段を設けたことを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
5.更に、槽内に膜厚モニターを設けることを特徴とする上記4に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
6.更に、蒸着源とスリットとの間にシャッターを設けることを特徴とする上記4または5に記載のフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、2以上の蒸着源を用いて蒸着を行うことによって細線状基板上に多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法であって、槽内(例えば真空槽内)において、蒸着源と細線状基板との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリットを設け、スリットを通過した蒸着成分を細線状基板または既に蒸着させた薄膜上に蒸着させることを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造方法に係る。
【0010】
蒸着源と細線状基板との間に設けるスリット幅は、特に制限されないが、少なくとも細線状基板の直径よりも大きい。スリット幅は、通常2~10mm程度、好ましくは5~10mm程度である。
【0011】
スリットを設ける構造体の形状は、特に制限されず、円筒状(図2参照)、角柱状などの筒状;平板などの板状などを例示することができる。これらの中では、筒状が好ましく、特に円筒状が好ましい。スリットを筒状にすることによって、斜入射蒸着成分だけでなく、回り込み蒸着成分をもより高い精度で制御することができる。
【0012】
更に、本発明においては、必要に応じて、蒸着源と細線状基板との間(例えば、蒸着源とスリットとの間)にシャッターを設けてもよい。シャッターの数は特に制限されず、例えば、それぞれの蒸着源に対して一つずつシャッターを設けることができる。
【0013】
蒸着源の数および構造体に設けるスリット(間隙)の数は、特に制限されず、多層膜の層の組成、種類などに応じて適宜設定すればよい。例えば、蒸着源と同じ組成からなる層を積層させる場合には、2以上の蒸着源を繰り返し順番に使用すればよいので、所望の層の種類と同数の蒸着源を設ければよい。より具体的には、蒸着源と同じ組成を有する2種類の層からなる多層膜を製造する場合には、2種類の蒸着源AとBとを設け、これを交互に使用することによって多層膜を製造することができる。このような場合には、スリットは一つであってもよい。例えば、蒸発源Aを使用している場合には、スリットを蒸着源Aに向ければよい。一方、使用していない蒸発源Bについては、対応するシャッターを閉じることが好ましい。或いは、蒸着源の方向に向けて蒸着源の数と同数のスリットを設け、複数の蒸着源を用いて同時に蒸着してもよい。この場合には、複数の元素からなる混合層を作成することができる。この様に、どのような組成の層を何種類積層させるかに応じて、蒸着源の数およびスリットの数は、適宜設定することができる。
【0014】
蒸着源同士がなす角は、特に制限されず、蒸着源の数などに応じて適宜設定することができる。例えば、二つの蒸着源を用いる場合において、二つの蒸着源が細線状基板となす角度(図5の角度θ)は、特に制限されないが、通常30°~120°程度であって、好ましくは80°~100°程度、特に好ましくは85°~95°程度である。
【0015】
スリットは、蒸着源と細線状基板とを結ぶ直線上に位置できるように設置する。スリットの中心線が、蒸着源の中心と細線状基板の中心線とを含む平面に含まれるようにスリットを設置するのが好ましい。(蒸着源からスリットまでの距離):(スリットから細線状基板までの距離)の比(図5中のl : m)は、特に制限されないが通常1:0.1~1:1程度、好ましくは1:0.4~1:0.8程度である。
【0016】
スリットは、用いる蒸着源に向けて開口できるように設置する。例えば、二つの蒸着源AおよびBを交互に用いて多層膜を製造する場合には、蒸着源Aを用いる際には、スリットを蒸着源に向け、蒸着源Bを用いる際には、スリットを蒸着源Bに向ける。例えば、スリットが、筒状の構造体に設けられている場合には、この構造体を回転できる手段を設けて、使用する蒸着源にスリットを向けるよう制御するのが好ましい。また、使用しない蒸発源についは、シャッターを閉じておくことが好ましい。
【0017】
スリットを蒸着源に向ける時間は、蒸着源を用いて蒸着させる時間、多層膜の各膜の膜厚などに応じて、適宜設定することができる。
【0018】
蒸着時の雰囲気および圧力は、特に制限されず、蒸着させる膜の種類などに応じて適宜設定することができる。例えば、真空下、不活性ガス(N2, Ar, Heなど)雰囲気下、酸化雰囲気下(O2, 空気など)などを例示することができる。より具体的には、酸化物の膜を含む多層膜を製造する場合には、酸化雰囲気下において蒸着することができる。
【0019】
用いる蒸着方法は、特に制限されず、スパッタリング蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームスパッタリング法、イオンプレーティング法などの蒸着法を例示することができる。これらのなかでは、スパッタリング蒸着法が好ましい。
【0020】
蒸着時の温度は、特に制限されず、蒸着源の種類などに応じて適宜設定することができる。蒸着時の基板温度は、通常80~120℃程度、好ましくは90~100℃程度である。輻射熱などにより基板温度が上昇する場合には、別途基板を加熱する手段を設けなくともよい。基板へのバイアス印加電力は、蒸着源の種類などに応じて適宜設定することができるが、通常0~-20ボルト程度である。
【0021】
細線状基板の大きさ、長さなどは、特に制限されない。細線状基板の直径は、通常20~100μm程度、好ましくは40~60μm程度である。細線状基板の長さは、蒸着方法などに応じて適宜設定することができる。例えば、スパッタリング蒸着法の場合などでは、細線状基板に多層膜試料が蒸着するのは、蒸着源の直径以下であって、且つスリットの長さ以下の部分であるので、これを考慮して全体の長さを設定すればよい。
【0022】
線状基板の材料は、真円度の高い細線が容易に形成できる材料であれば、特に制限されず、例えば、金、シリコン含有金(シリコン含有度:通常1~3%程度)などを用いることができる。
【0023】
線状基板を回転させる速さは、特に制限されないが、通常毎分10~100回転程度、好ましくは毎分15~50回転程度である。
【0024】
蒸着させる多層膜の材料は、特に制限されず、用途などに応じて適宜設定することができる。例えば、フレネルゾーンプレート用の多層膜を得る場合には、X線を遮蔽する層として、銅、銀、モリブデン、金などの吸光係数の大きい重元素からなる層と、X線を透過する層として、アルミニウム、カーボン、ケイ素、二酸化ケイ素(SiO2)などの吸光係数の小さい軽元素からなる層とを交互に積層させる。
【0025】
成膜速度は、特に制限されないが、通常0.05~2nm/s程度、好ましくは0.1~1nm/s程度である。
【0026】
多層膜の各膜の膜厚は、用いる用途などに応じて適宜設定することができる。例えば、入射するX線の波長、焦点距離などに応じて適宜設定できる。多層膜の膜厚は、以下のようにして計算できることが知られている。フレネルゾーンプレートの中心に半径r0(mm)の芯線(細線状基板)がある場合、入射するX線の波長をλ(mm)、焦点距離をf(mm)とすると、中心からn番目の境界の中心からの距離rnは、次式で表される。
【0027】
【式1】
rn2 = r02 + n・λ・f (n = 1, 2, 3, …, N) (1)
ゾーン数、即ち多層膜の層の数をN、最小線幅(最外層幅、最外輪帯幅ともいう)をδrNとしたとき、空間分解能Δおよび焦点面におけるビーム径2rh(FWHM)は、以下の式で与えられる。
【0028】
【式2】
Δ = 1.22・δrN
2 rn = 1.03・δrN
従って、空間分解能Δおよび焦点面におけるビーム径2rhは、波長とは、無関係である。これらの式から、高い分解能を得るためには、層の数を増やして最小線幅を狭くしなければならないことが判る。即ち、より薄い層を多数積層することによって、より高い分解能を有するフレネルゾーンプレート用多層膜を製造することができる。
【0029】
フレネルゾーンプレート用多層膜の各膜厚を制御する方法として、例えば、成膜速度を一定にしたまま、各々の層を蒸着する時間を次第に短くする方法、膜厚センサーを蒸着装置内に設置して蒸着量をモニタリングし、必要に応じてスリット、シャッターなどを制御しながら蒸着を行う方法などを例示することができる。
【0030】
本発明の製造方法は、例えば、以下のような製造装置を用いることによって実施することができる。細線状基板に蒸着法を用いて多層薄膜を形成するフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置であって、槽内(例えば真空槽内)に2以上の蒸着源、細線状基板とを設置し、蒸着源と細線状基板との間に斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の飛来を軽減することを目的としたスリットを設け、細線状基板を回転させるための手段およびスリットを回転させるための手段とを設けたことを特徴とするフレネルゾーンプレート用多層膜の製造装置。
【0031】
スリットまたは細線状基板を回転させる手段としては、例えばモーターを用いてスリットを自動駆動させる方法などを例示することができる。
【0032】
本発明の製造方法に用いる製造装置には、必要に応じて、更に、シャッター、膜厚モニター、基板用バイアス電圧印加機構などを設けることができる。
【0033】
シャッターは、例えば、細線状基板と蒸着源との間、好ましくはスリットと各蒸着源との間に設けることができる(図5参照)。スリットを蒸着源へ向けると同時にシャッターを開けることにより、膜厚などの製造精度を上げることができる。膜厚モニターも設けることにより蒸着量、蒸着速度を容易に監視することができる。
【0034】
本発明の製造方法によって得られた多層膜を加工することにより、8~100 keV程度の非常に高いエネルギーを有するX線の下においてもレンズとして機能するフレネルゾーンプレートを得ることができる。本発明により得られた多層膜のフレネルゾーンプレートへの加工方法として、例えば、得られた多層膜を低融点合金(例えば錫-鉛合金など)に埋め込んで固定し、回転軸に対して垂直に切断後、必要に応じて研磨する方法などを例示することができる。
【0035】
【効果】
本発明によると、斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分による蒸着を抑制することができるので、界面の乱れの少ない多層膜を得ることができる。
【0036】
本発明の製造方法により得られた多層膜を加工したフレネルゾーンプレートは、高分解能を有するので、硬X線のマイクロビーム化に好適に使用できる。
【0037】
本発明の装置は、既存の蒸着装置において、所定の位置にスリットを設けることによって製造できるので、低コストで製造可能である。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0039】
実施例1
スパッタリング蒸着法により、細線状基板(材質:金、直径:50μm、長さ:4cm)上に銅とアルミニウムを交互に40層積層させることにより多層膜を製造した。蒸着条件は、アルゴン雰囲気下(圧力:0.20Pa)、蒸着源の大きさ:直径75mm、細線状基板と蒸着源との距離:50mmおよび成膜速度:0.2nm/sであった。基板は、加熱しなかったが、輻射熱により基板温度は90~100℃程度まで上昇した。蒸着源への印加電力は、銅に対しては500V、0.6Aであり、アルミニウムに対しては480V、0.8Aであった。スリットとして、直径:40mm、容器の長さ:60mm、スリット幅:7mmの円筒型スリット容器を用いた。このスリット容器を図5に示すように、容器の中心に細線状基板が位置するよう設置した。細線状基板の回転速度は、1分当たり15回転に保った。
【0040】
まず、一方の蒸着源を用いて蒸着を行った。蒸着源からの蒸発状態が安定となったら、一方の蒸着源の中心と細線状基板の中心線とがなす平面上に、スリットの中心線が位置するようにスリットを蒸着源へ向け、同時にシャッターを開けて、蒸着を開始した。膜厚モニターによって蒸着量および蒸着速度を監視し、膜厚が所望の値に達する時期を予め予測してシャッターを閉じた。この操作を各蒸着源に対して、交互に行った。膜厚モニターによって、蒸着量をモニタリングしながら、シャッターの開閉を行うことにより、蒸着速度を一定に保ったまま、銅またはアルミニウムを蒸発させる時間を徐々に短くすることによって、線状基板から遠い層ほど、膜厚が薄くなったフレネルゾーンプレート用多層膜を製造した。
【0041】
得られた多層膜を錫-鉛合金(錫:鉛=60:40,融点180℃)に埋め込んで固定し、回転軸に対して垂直に切断し、研磨した。
【0042】
得られた多層膜の断面の走査型電子顕微鏡像を図3に示す。得られた多層膜の各膜厚は、0.12~0.14μmであり、この膜厚は、フレネルゾーンプレートとして使用した場合に、レンズとしての条件を満たす値であった。
【0043】
比較例1
円筒型スリット容器を設置しない装置を用いた以外は、実施例1と同様の装置を用いて多層膜を製造した。実施例1と同様の条件で多層膜を製造したが、スリットがないために成膜速度は1nm/sとなった。
【0044】
得られた多層膜の断面の走査型電子顕微鏡像を図4に示す。実施例1の多層膜(図3)と比較すると、比較例1の多層膜(図4)は、多層膜界面が大きく乱れているのが明らかである。
【0045】
フレネルゾーンプレートの理論上の集光ビーム径は、最も外側のゾーン幅(最小線幅)の1.03倍である。集光ビーム径は、通常、製造精度、加工精度などの理由により理論値より大きな値となる。実施例1において得られた多層膜を加工することにより得られたフレネルゾーンプレートを用いた場合には、理論値の1.7倍の集光ビーム径が得られた。一方、比較例1において得られた多層膜を加工することにより得られたフレネルゾーンプレートを用いた場合には、理論値の5倍以上の集光ビーム径しか得られなかった。
【0046】
参考例1
スリットを設けた場合と設けなかった場合の膜厚を比較することによって、スリットが、どの程度斜入射蒸着成分および回り込む蒸着成分による蒸着を抑制することができるのかを検討した。
【0047】
測定は、細線状基板を回転させずに蒸着させた場合の膜厚について行った。スリットとして、実施例1において用いたのと同様の円筒型スリット容器を用いた。
【0048】
スパッタ源と細線状基板とを結ぶ直線を基準(0°)とする回り込み角における膜厚を測定した。回り込み角が0°の時の膜厚を1として、膜厚の測定値を規格化した。結果を図6に示す。
【0049】
図6から、例えば、回り込み角が30°の位置では25%、回り込み角が60°の位置では50%の斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分を抑制できたことが判る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、従来型のフレネルゾーンプレート用多層膜製造装置の真空槽内部の模式図である。
【図2】図2は、本発明のフレネルゾーンプレート用多層膜製造装置の真空槽内部の一態様を示す模式図である。図2では、円筒状スリットを用いている。
【図3】実施例1において得られた多層膜の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】比較例1において得られた多層膜の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】本発明のフレネルゾーンプレート用多層膜製造装置の真空槽内部の一態様を示す模式図である。図5では、円筒状スリットを用いている。なお、膜厚モニターは、円筒状構造物に妨げられずに膜厚を直接測定できるように、真空槽の上部に設置した。
【図6】参考例1(スリットによる斜入射蒸着成分および回り込み蒸着成分の抑制効果)を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5