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明細書 :胚性幹細胞からの神経幹細胞、運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンの製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3660601号 (P3660601)
公開番号 特開2002-291469 (P2002-291469A)
登録日 平成17年3月25日(2005.3.25)
発行日 平成17年6月15日(2005.6.15)
公開日 平成14年10月8日(2002.10.8)
発明の名称または考案の名称 胚性幹細胞からの神経幹細胞、運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンの製造法
国際特許分類 C12N  5/06      
FI C12N 5/00 E
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2001-099074 (P2001-099074)
出願日 平成13年3月30日(2001.3.30)
審査請求日 平成14年8月16日(2002.8.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】岡野 栄之
【氏名】島崎 琢也
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 NATURE BIOTECHNOLOGY,June 2000, Vol.18, No.6, p.675-679
Society for Neuroscience,1998, Vol.24, No.1-2, p.1526
Biotechnical and Biophysical Research Communications, 1995, Vol.206, No.1, p.33-39
Journal of Neurochemistry, 1999, Vol.72, No.6, p.2264-2271
Journal of Cell Science, 1995, Vol.108, No.10, p.3181-3188
調査した分野 C12N 5/00
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
胚性幹細胞を、培地中培養上清換算で1~50%(v/v)のノギン蛋白質の存在下で浮遊培養して胚様体を形成させ、これを分散後、培地中10~40ng/mLの繊維芽細胞増殖因子FGF-2及び培地中1~10nMのソニックヘッジホッグ蛋白質の存在下で浮遊培養してニューロスフェアを形成する神経幹細胞に誘導し、次いでこれを分化させることを特徴とする運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンの製造法。
【請求項2】
胚様体の浮遊培養期間が7~9日間である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
得られるニューロンが、ほとんど運動ニューロンとGABA作動性ニューロンである請求項1又は2記載の製造法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は胚性幹細胞(ES細胞)から選択的に神経幹細胞、さらには選択的かつ効率的に運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
哺乳類の中枢神経系において神経幹細胞は個体の一生を通して存在し続け、多様なニューロンやグリアを生産することによって、中枢神経系の発生及び維持に寄与していると考えられている。最近、ヒトを含めた哺乳動物の脳より神経幹細胞を分離・培養する技術が開発され、様々な神経変性疾患や損傷に対する細胞移植治療への応用が期待されている。しかしながら、発生過程において、様々な内的及び外的因子による制御によって幹細胞から産生され分化する様々なタイプのニューロン、特に胚発生初期に特異的に産生される運動ニューロンなどを、in vitroで培養増幅させた神経幹細胞から生産する試みは確たる成果を上げていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、個体の全ての細胞に分化する能力を持つES細胞から発生初期の性質を保持する神経幹細胞への効率的な分化誘導手段、及びそこから運動ニューロン等の特定のニューロンを選択的に生産する技術を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者はES細胞から胚様体の形成、神経幹細胞への分化誘導及びニューロンへの分化誘導の条件について種々検討した結果、ES細胞から胚様体の形成にはNoggin(ノギン)蛋白質の添加が特に優れており、胚様体中に出現する神経幹細胞の増幅には繊維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor : FGF)に加えてソニックヘッジホッグ蛋白質を添加した培地の利用が極めて効率的であり、さらにこのようにして誘導された神経幹細胞を分化させれば運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンが選択的かつ効率良く生産されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、胚性幹細胞を、培地中培養上清換算で1~50%(v/v)のノギン蛋白質の存在下で浮遊培養して胚様体を形成させ、これを分散後、培地中10~40ng/mLの繊維芽細胞増殖因子FGF-2及び培地中1~10nMのソニックヘッジホッグ蛋白質の存在下で浮遊培養してニューロスフェアを形成する神経幹細胞に誘導し、次いでこれを分化させることを特徴とする運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンの製造法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるES細胞としては、既に培養細胞として確立されているES細胞を使用することができる。例えば、マウス、ハムスター、ブタ、ヒト等のES細胞株を使用することができる。具体例としては、129/Ola系マウス由来のES細胞、EB3、E14tg2等が挙げられる。当該ES細胞は、血清を含むGMEM培地等にて培養継代しておくのが好ましい。
【0009】
ES細胞から胚様体の形成には、ノギン蛋白質を添加した培地で浮遊培養すると、ES細胞から神経幹細胞への分化誘導効率が向上する。ノギン蛋白質は、例えばアメリカツメガエルノギンを使用することができるが、アメリカツメガエルノギンの全長cDNAをCOS7細胞に導入し、一過性にノギン蛋白質を発現させた培養上清をそのまま使用してもよい。ノギン蛋白質の培地中の濃度は、この培養上清換算で1~50%(v/v)程度が好ましい。ES細胞の浮遊培養は、例えばES細胞を血清含有α-MEM培地にて1×105 cells/mL程度の濃度で4~8日間行えばよい。ここで血清としてはウシ血清、ブタ血清などが挙げられ、その濃度は5~15%、特に8~12%が好ましい。またα-MEM培地には2-メルカプトエタノールを0.01~0.5mM、特に0.05~0.2mMとなるように添加するのが好ましい。培養は5%CO2条件下、35~40℃で行うのが好ましい。
なお、ノギン蛋白質の添加は胚様体形成時、すなわち培養1~6日目に添加しておくのが特に好ましい。
【0010】
前記のように形成された胚様体を経由してES細胞から得られた神経幹細胞を増幅するには、繊維芽細胞増殖因子に加えてソニックヘッジホッグ蛋白質を含有する神経幹細胞増殖培地で浮遊培養する。ソニックヘッジホッグ蛋白質の添加により、神経幹細胞の運動ニューロン前駆細胞への分化誘導効率及び増殖効率が向上し、その後の分化培養により運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンへ実際に分化する。
【0011】
繊維芽細胞増殖因子(FGF)としては、FGF-2が好ましい。培地中のFGF-2の含有量は10~40ng/mLが好ましい。また、ソニックヘッジホッグ蛋白質としては、例えばマウスソニックヘッジホッグ蛋白質が好ましい。培地中のソニックヘッジホッグ蛋白質の含有量は1~10nMが好ましい。
【0012】
培地としては、上記成分の他にグルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレン、ヘパリン等を添加したDMEM培地を用いるのが好ましい。DMEM:F12培地を用いるのが特に好ましい。培養は5%CO2条件下、35~40℃で行うのが好ましい。培養時間は7~9日間が好ましい。
【0013】
上記の浮遊培養により、ニューロスフェア(neurosphere)と呼ばれる単一細胞由来の細胞凝集塊が形成する。
【0014】
得られたニューロスフェアは、神経幹細胞のみに由来するものであり、前記培養法による分化誘導効率は極めて高いことがわかる。
【0015】
このようにして得られた神経幹細胞を、通常の分化培地で培養すれば、運動ニューロン及びGABA作動性ニューロンのみが分化誘導される。ここで分化誘導培地としては、グルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレンを含むDMEM:F12培地、(すなわち、神経幹細胞増殖用培地からFGFとヘパリンを除いた培地)を用いるのが好ましい。このとき、ソニックヘッジホッグ蛋白質は存在しても、なくてもよい。培養は5%CO2条件下、35~40℃で5~7日間行うのが好ましい。
【0016】
従来のES細胞から分化誘導された神経系細胞は、ニューロンだけでなく、多量のグリア細胞などを含んでおり、その利用価値は極めて制限されていた。これに対し、本発明により得られたニューロンは、ほとんど運動ニューロンとGABA作動性ニューロンのみである。
【0017】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0018】
A.材料及び方法
(1)マウスES細胞の培養継代と胚様体の形成
129/Ola系マウス由来のES細胞、E14tg2a及びそのOct3/4遺伝子座にブラストシジン耐性遺伝子を挿入し未分化ES細胞を選択できるEB3は、10%仔牛胎児血清、非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM2-メルカプトエタノール及び1000U/mL白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor、LIF)を含むGlasgow minimum essential medium(GMEM)培地にて定法(5%CO2,37℃、以下、単に「培養」というときは、この条件)によって培養継代した。
ES細胞からの胚様体(Embryoid body:EB)の形成は以下のようにして行った。ES細胞をPBSで洗浄後、0.25%トリプシン-1mM EDTA処理及びその停止を行い、ピペッティングによって分散させた細胞を、10%仔牛胎児血清及び0.1mM2-メルカプトエタノールを含むα-MEM培地で満たしたバクテリア用培養皿中に1×105 cells/mLの濃度で播種し、ノギン蛋白質(アフリカツメガエルNogginの全長cDNAをCOS7細胞に導入し、一過性に発現させた培養上清)存在下及び非存在下で4~8日間浮遊培養してEBを形成させた。
【0019】
(2)EBからの神経幹細胞の選択的培養による分離
上記のようにして形成されたEBは培養液とともに遠心チューブに移し、10分間静置することによってチューブ底に集め上清を除去しPBS中に再懸濁し、再び10分間静置する。上清を除去した後、EBは0.25%トリプシン-1mMEDTA溶液中に再懸濁し37℃で5分間インキュベートし、10%仔牛胎児血清を含むα-MEM培地で蛋白質分解反応を停止させた後、ピペットで細胞を分散させた。分散させた細胞はα-MEM培地にて遠心操作により2回洗浄し、グルコース(0.6%)、グルタミン(2mM)、インスリン(25μg/mL)、トランスフェリン(100μg/mL)、プロジェステロン(20nM)、プトレシン(60μM)、塩化セレン(30nM)、FGF-2(20ng/mL)、ヘパリン(2μg/mL)を添加したDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM):F12(1:1)培地中(神経幹細胞増殖培地)に、あるいはそこへさらにマウスソニックヘッジホッグ蛋白質mouse sonic hedgehog1(5nM)を加えた培地に5×104 cells/mLの濃度で播種し、7~9日間浮遊培養することによって、ニューロスフェア(neurosphere)と呼ばれる単一細胞由来の細胞凝集塊を形成させた(neurosphere法)。これらニューロスフェアは上記の神経幹細胞増殖培地よりFGF-2とヘパリンを除いた分化培地で遠心洗浄した後、そのままあるいはピペッティングにより分散させた細胞を、分化培地で満たしたポリ-L-オルニチン(poly-L-ornithin)でコートした培養皿に播種し、ソニックヘッジホッグ蛋白質(5nM)存在下あるいは非存在下で5~7日間培養することによって分化させた。また上記のようにして得たニューロスフェアを再び単一細胞に分散し、神経幹細胞増殖培地で7日間継代培養し2次ニューロスフェアを形成させ、これらも上記と同様に分化させる。
【0020】
(3)免疫染色による分化ニューロン及びグリア細胞の同定
上記のようにして分化させたニューロンやグリア細胞は蛍光抗体を使った免疫染色の定法によって同定した。運動ニューロンはマウス抗Isl-1モノクローナル抗体、ヤギ抗ChATポリクローナル抗体及びマウス抗β-III tubulinモノクローナル抗体を使って、GABA作動性ニューロンはウサギ抗GAD67ポリクローナル抗体を使って同定した。グリア細胞は、アストロサイトをウサギ抗GFAPポリクローナル抗体で、オリゴデンドロサイトをマウス抗04モノクローナル抗体を使って同定した。
【0021】
B.実験結果
(1)EBからの神経幹細胞の選択的培養法による分離精製
まずEBの形成によるES細胞の初期分化において、神経幹細胞が培養のどの時期に出現してくるのかを検討した。具体的には、培養4~8日のEBを単一細胞に分散し、神経幹細胞培地にて7日間培養し、ニューロスフェアを形成させた。これらニューロスフェアは分化培地に移し分化させ、その分化能を検定するとともに、継代することによって自己複製能も検定した。
【0022】
図1には、浮遊培養によるEBの形成開始後6及び8日後、EBを単一細胞に分散し、神経幹細胞の選択的培養(neurosphere法)を行った結果を示した。なお得られたニューロスフェアの数はEB中に出現した神経幹細胞の数とした。その結果、本方法で同定される(ニューロスフェアを形成できる)神経幹細胞は、EBの培養4日目まではほとんど検出できず、培養6日目で全細胞中0.25%、8日目で1.1%と次第に増加していくことが分かった。
【0023】
図1に示したように6日目のEBから得たニューロスフェアを、分化条件で7日間培養し、その分化能を免疫染色によって検定した。その結果を図2~4に示す。ニューロンのマーカーであるβ-III-tubulinとグリア細胞のマーカーであるGFAP及び04の抗体による3重免疫染色を行ったところ、全てのニューロスフェアがほぼβ-III-tubulinを発現するニューロンのみで構成されており、グリア細胞は検出されなかった(図2)。そして、それらのニューロンは少なくともIsl-1及びChATを発現する運動ニューロン(図3の丸い部分及び繊維状部分)とGAD67を発現するGABA作動性ニューロン(図4の繊維状部分)を含んでいた。
【0024】
また、得られたニューロスフェアを、継代培養することによって2次ニューロスフェアを得、それらを分化条件で7日間培養し、分化能を免疫染色によって検定した。その結果、全てのニューロスフェアはグリア細胞を含んでおり(図5)、そのうち84.2%はニューロンとグリア細胞の両方を含んでいた(図6)。図5は、β-III-tubulin(細く明確な繊維状)、GFAP(β-III-tubulinのまわりの部分)及び04(GFAPのさらに外側の部分)の3重免疫染色結果である。
【0025】
その結果、これらのneurosphereを単一細胞に分散、継代培養し新たなニューロスフェアを形成させ分化させると、それらのクローンの多くはニューロンとグリア細胞の両方を含むようになり、実際の中枢神経系の発生においてグリア細胞が後期に出現するように、EBから分離した神経幹細胞も継代培養によって多分化能を示すようになることが分かった。
【0026】
(2)ノギン蛋白質による神経幹細胞の分化誘導の効率化
ノギン蛋白質をEB形成時(6日間)に添加することによって神経幹細胞の分化誘導の効率化を試みた。ノギンは、アフリカツメガエルノギンの全長cDNAをpEF-BOS発現ベクターに組み込みCOS7細胞に導入し、一過性に発現させた培養上清をノギン溶液とし、発現ベクターのみを導入したCOS7細胞の培養上清を対照とした。図7に示すように、ノギン培養上清の量に依存してEB中で分化誘導されるニューロスフェアを形成する神経幹細胞の数は増加し、1/10倍容でピークに達した。
【0027】
(3)ソニックヘッジホッグ蛋白質による運動ニューロン分化の効率化
EB由来神経幹細胞からの運動ニューロン産生及び分化の効率化をめざし、ソニックヘッジホッグ蛋白質を神経幹細胞増殖時、すなわちEB由来の初代培養ニューロスフェアの形成時に添加し、その効果を検討した。運動ニューロンは、ニューロスフェアを単一細胞に分散し、分化培地で5日間培養後、Isl-1及びβ-III-tubulinの二重免疫染色を行うことによって同定し、その数を定量化した。その結果図8に示したように、5nMのソニックヘッジホッグによって運動ニューロンの産生は倍増した。なお、神経分化時に分化培地にソニックヘッジホッグを加えてもその効果は認められなかった。
【0028】
【発明の効果】
本発明方法によればES細胞より少なくとも運動ニューロンとGABA作動性ニューロンがシステマチックかつ効率的に生産できることが分かった。選択的にニューロンが得られれば筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病、そしてアルツハイマー病などの移植治療に適用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】胚様体の培養日数とニューロスフェア形成との関係を示す図である。
【図2】ニューロスフェアを免疫染色した結果を示す図である。染色部はβ-III-tubulinを発現し、ニューロンであることを示す。
【図3】ニューロスフェアを免疫染色した結果を示す図である。
【図4】ニューロスフェアを免疫染色した結果を示す図である。
【図5】ニューロスフェア継代培養後の免疫染色結果を示す図である。
【図6】ニューロスフェア継代培養後のニューロンとグリア細胞の比率を示す図である。
【図7】ノギン蛋白質の添加効果を示す図である。
【図8】ソニックヘッジホッグ蛋白質の添加効果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
6
【図8】
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