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明細書 :水中での鉄系金属の防食方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3797884号 (P3797884)
公開番号 特開2002-301624 (P2002-301624A)
登録日 平成18年4月28日(2006.4.28)
発行日 平成18年7月19日(2006.7.19)
公開日 平成14年10月15日(2002.10.15)
発明の名称または考案の名称 水中での鉄系金属の防食方法
国際特許分類 B23H   7/36        (2006.01)
C23F  15/00        (2006.01)
B01J  41/04        (2006.01)
B01J  47/00        (2006.01)
B01J  47/02        (2006.01)
C02F   1/42        (2006.01)
FI B23H 7/36 C
C23F 15/00
B01J 41/04 G
B01J 47/00 Z
B01J 47/02 D
C02F 1/42 B
請求項の数または発明の数 9
全頁数 9
出願番号 特願2001-102422 (P2001-102422)
出願日 平成13年3月30日(2001.3.30)
審査請求日 平成15年3月28日(2003.3.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】八代 仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】福島 和幸
調査した分野 B23H 7/36
特許請求の範囲 【請求項1】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムに、ワイヤー放電加工における加工液を循環通水し、これによって、加工液の電気伝導度を上昇させることなく、腐食性イオンを除去することを特徴とするワイヤー放電加工における水中での鉄系金属の防食方法。
【請求項2】
亜硝酸イオンに対しての炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンの1種以上の当量比が、0.05~0.5の範囲であることを特徴とする請求項1の防食方法。
【請求項3】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオンとが固定された陰イオン交換樹脂がカラム充填されていることを特徴とする請求項1又は2の防食方法。
【請求項4】
洗浄液の電気伝導度を10μS cm-1以下になるように水洗された固定化陰イオン交換樹脂がカラム充填されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの防食方法。
【請求項5】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムに循環させて低電気伝導度とした流水中で金属を洗浄し、循環中にあるいは静止水中に金属を浸漬保持することを特徴とするイオン交換後の水中に鉄系金属を防食しながら保管する方法。
【請求項6】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂に電極を接触させ、その電位を参照電極に対して測定しながら、陰イオン交換樹脂中の塩化物イオン濃度をモニターし、亜硝酸イオン対塩化物イオン濃度比を電位によって読み取ることを特徴とする陰イオン交換樹脂の寿命判定方法。
【請求項7】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、カラムへの加工液を含む循環手段と、加工液を含むワイヤー放電加工機とを備え、加工液をカラムに循環通水して、加工液の電気伝導度を上昇させることなく、腐食性イオンを除去することを特徴とするワイヤー放電加工機。
【請求項8】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、このカラムを循環して得られた低電気伝導度のイオン交換後の水を貯蔵する手段と、イオン交換後の水を流動水又は静止水の状態で鉄系金属を洗浄し、浸漬保持する手段を備えたことを特徴とする鉄系金属の液中防食保管装置。
【請求項9】
亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、陰イオン交換樹脂に接触する第1の電極と、参照電極としての第2の電極と、第1の電極の電位を第2の電極に対して測定する電位測定手段と、電位測定によって、陰イオン交換樹脂中の塩化物イオン濃度をモニターし、亜硝酸イオン対塩化物イオン濃度比を電位によって読み取りイオン交換樹脂の寿命を判定する手段を備えたことを特徴とするイオン交換樹脂寿命判定装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、水中での鉄系金属の防食法に関し、より詳しくは、水中での鉄系金属の防食方法およびこの方法によるワイヤー放電加工機、液中防食保管装置、イオン交換樹脂寿命判定方法とその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその解決課題】
従来から、一般的に金型の精密加工は、水中でワイヤー放電加工によりなされている。、ただ、この従来法においては、金型には硬質な鉄系金属が使われているため、金型用の被削材が長時間水中にある場合には発錆するという問題がある。
【0003】
また、腐食イオン交換樹脂で防食イオンと交換するという通常の水処理法では防食イオン濃度が高まると水の導電率が上がり放電条件が満たされなくなることも問題である。さらに、待機中の金型は発錆を防止するため油中に保管し、使用前に脱脂することにしているため、厄介な作業と有機溶媒廃棄物が発生するという問題もある。たとえば、これまで、水中における金属の腐食を防止する方法として、防食性イオンを予め吸着したイオン交換樹脂に水を接触させ、腐食性イオンと防食性イオンを交換することを原理とする方法が提案されている(特公昭48—39707)。
【0004】
そして、防食性イオンを吸着させるためには、その高濃度溶液を樹脂カラムに通過させるようにしている。しかしながら、この方法を、ワイヤー放電加工機の加工液のように、電気伝導度を非常に低い値に規制しながら循環使用している系に適用する場合、非常に低濃度で有効な防食性イオンの使用と、防食液の電気伝導度を上昇させない樹脂組成が必要とされる。だが、地際には、これまでにも 各種の防食性のイオン種が提案されているが、従来の場合には、単に低濃度にするだけでは防食液の電気伝導度の上昇を防ぐことが難しいという問題は解決されないでいた。
【0005】
また、防食性イオンを吸着したカラムの寿命(汚染度)を知ることは、防食効果を保証する上で非常に重要であるが、そのような簡便なモニター法もこれまでには知られていない。実際、ワイヤ放電加工機において、そのイオン交換樹脂として、市販の陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA—400)330cm3の樹脂容量に、1moldm-3の亜硝酸ナトリウム溶液1dm3を通じて、亜硝酸型陰イオン交換樹脂とし、この樹脂に約20dm3の純水を通じて洗浄した後に、この樹脂を円筒型のカラム(内径43.5mm )に充填し、20dm3の模擬腐食溶液(初期硫酸イオン濃度0.7mgdm-3SO42-+初期塩化物イオン濃度0.7mgdm-3Cl-)を流通速度約500cm3min-1で通水循環させてみる。
【0006】
図6は、この亜硝酸ナトリウム(1moldm-3)のみを流通して調製した陰イオン交換樹脂カラムによる模擬加工液のイオン交換試験結果を、そのときの模擬腐食溶液の各陰イオン濃度と溶液の電気伝導度の変化とを示したものである。
【0007】
この図6によれば、硫酸イオンと塩化物イオンが除去され亜硝酸イオン濃度が増加し、600分経過以降の溶液中でも炭素鋼は全く腐食しなかったが亜硝酸イオン濃度が初期硫酸イオンと塩化物イオン濃度の和以上に増加し、模擬腐食溶液の電気伝導度も上昇したことが確認される。このように、亜硫酸ナトリウムのみの調製の場合には、炭素鋼の腐食は防止されるものの、腐食液の電気伝導度が上昇してしまい、このような電気伝導度の上昇を防ぐためにカラムの純粋による洗浄を行ったとしても、樹脂330cm3に20dm3 の純水を通じても十分洗浄できない。このようなことは、実用上大きな問題となる。そこで、この出願の発明は、上記のとおりの従来の問題点を解消し、水中での腐食を防止するとともに、防食イオンによる電気伝導度の上昇という問題を生じさせることなく、水中での放電加工を良好に行うことのできる、新しい技術手段を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムに、ワイヤー放電加工における加工液を循環通水して、加工液の電気伝導度を上昇させることなく、腐食性イオンを除去することを特徴とするワイヤー放電加工における水中での鉄系金属の防食方法を提供する。
【0009】
また、この出願の発明は、上記の方法について、第2には、 亜硝酸イオンに対しての炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンの1種以上の当量比が、0.05~0,5の範囲であることを特徴とする防食方法を、第3には、亜硝酸イオンとともに炭酸イオンとが固定された陰イオン交換樹脂がカラム充填されていることを特徴とする防食方法を、第4には、洗浄液の電気伝導度が10μS cm-1以下になるように水洗されたイオン固定化陰イオン交換樹脂がカラム充填されていることを特徴とする防食方法を提供する。
【0010】
そして、この出願の発明は、第5には、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに循環させて低電気伝導度とした流水中で金属を洗浄し、循環水中にあるいは静止水中に金属を浸漬保持することを特徴とするイオン交換後の水中に鉄系金属を防食しながら保管する方法を提供する。
【0011】
またさらに、この出願の発明は、第6には、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂に電極を接触させ、その電位を、参照電極に対して測定しながら、陰イオン交換樹脂中の塩化物イオン濃度をモニターし、亜硝酸イオン対塩化物イオン濃度比を電位によって読み取ることを特徴とする陰イオン交換樹脂の寿命判定方法を提供する。
【0012】
第7には、この出願の発明は、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、カラムへの加工液を含む循環手段と、加工液を含むワイヤー放電加工機とを備え、加工液をカラムに循環通水して、加工液の電気伝導度を上昇させることなく、塩化物イオンおよび硫酸イオンの腐食性イオンを除去することを特徴とするワイヤー放電加工機を、第8には、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、このカラムを循環して得られた低電気伝導度のイオン交換後の水を貯蔵する手段と、イオン交換後の水を流動水又は静止水の状態で金属を洗浄し、浸漬保持する手段を備えたことを特徴とする鉄系金属の液中防食保管装置を提供する。
【0013】
第9には、この出願の発明は、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムと、陰イオン交換樹脂に接触する第1の電極と、参照電極としての第2の電極と、第1の電極の電位を第2の電極に対して測定する電位測定手段と、電位測定によって、樹脂中の塩化物イオン濃度をモニターし、亜硝酸イオン対塩化物イオン濃度比を読み取りイオン交換樹脂の寿命を判定する手段を備えたことを特徴とするイオン交換樹脂寿命判定装置をも提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、以上のとおりの特徴を有するものであるが、以下にその実施の形態について説明する。この出願の発明は、放電加工水の水処理用イオン交換樹脂として、亜硝酸イオンとともに、炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を使用することにより、鉄系金属を防食し、かつ伝導率を低く保つことのできるという研究結果を基礎としている。また、この出願の発明は、この処理水中に金型を浸漬して保管すると発錆を抑えることができ、かつ、金型の使用に際しても、エアーで水滴を払うのみで簡単に使用に供することができ、これによって、工程を簡素にし、さらに、廃棄物を出さずに済む。さらに、この出願の発明は、陰イオン交換樹脂内に電極を設置し、参照電極との電位差で陰イオン交換樹脂の寿命をモニターし加工水の防錆機能を保証できるようになっている。以上のようなこの出願の発明の特徴は、従来より防食性イオンとして亜硝酸イオンや炭酸イオン等が知られていても、従来の技術によっては全く予測できないこととして、特有のイオン種を組合わせて陰イオン交換樹脂に固定化することで、鉄系金属の防食を可能にするとともに、電気伝導度の上昇によって放電加工が困難になるという不具合も生じないという、優れた作用効果を奏することになる。
【0015】
前記のとおりのこの発明に特有のイオン種の固定化については、当量比として、通常は、(炭酸イオン、炭酸水素イオン、水酸化物イオン/亜硝酸イオン)=0.05~0.5の範囲とすることが好ましく、さらには0.1~0.25の範囲とするのが好適である。この際の陰イオン交換樹脂としては、強陰イオン交換樹脂とするのが好ましい。亜硝酸イオンは、前記当量比において2倍以上の主たるものとすることが望ましい。また、亜硝酸イオンのみの場合は、発明の所期目的が達成されない。亜硝酸イオンの組合わせとしては、特にこの発明では、炭酸イオンとすることが好ましい。この発明のための前記したとおりのイオン固定化陰イオン交換樹脂については、たとえば以下の操作として調製することができる。
【0016】
強塩基性イオン交換樹脂に、アルカリ金属塩、たとえば、亜硝酸ナトリウムと炭酸ナトリウム等(モル比9対1程度)の混合溶液を通じることによって、亜硝酸イオン、炭酸(水素)イオンおよび水酸化イオンを固定する。これに純水(電気伝導度1μScm-1以下)を通じると、容易に洗浄水の電気伝導度は1μScm-1以下にできる。これをカラムに充填し、防食したい水を通じると、腐食性イオン(特に硫酸(水素)イオンおよび塩化物イオン)が除去され、代って亜硝酸イオンが溶離する。この溶離液中で金属(特に鉄)は有効に防食される。この樹脂は、通水の前後において、通水前の水中に存在していた陰イオンと亜硝酸イオンの当量モル電気伝導度の違いに起因する僅かな変化しか生じないので、電気伝導度が規制される循環水系(例えばワイヤー放電加工機)に適用するのに有効である。
【0017】
樹脂の寿命を評価する方法として、樹脂中に蓄積する典型的陰イオンである塩化物イオンを検出する方法を提案する。すなわち、たとえば通常の方法で作成した銀—塩化銀電極を、直接陰イオン交換樹脂に接触させ、適当な参照電極に対して電位を測定すると、銀—塩化銀電極は樹脂中の塩化物イオン濃度に応答して電位が変化する。これを、樹脂中の適当な位置に設置し、電位変化をモニターすることで樹脂の寿命を予測できる。なお、樹脂寿命は、カラムを通過した水中の亜硝酸イオン濃度対塩化物イオン濃度の比が、鉄の腐食に必要な比以上に保たれていることを保証する値をもってあてる。
【0018】
【実施例】
そこで、以下に実施例を挙げて、この発明を説明する。
(実施例1)陰イオン交換樹脂の調製と模擬ワイヤー放電加工液の処理
図1は、0.9 moldm-3NaNO2+0.1moldm-3Na2CO3溶液 1dm3を用いて再生した陰イオン交換樹脂330cm3を用いて、図6と同様の実験を行った結果を示している。
この場合、洗浄水を10dm3程度流した時点で流出水の電気伝導度は変化しなくなり、純水とほとんど変わらなくなった。イオン交換試験では、開始後約2時間で硫酸イオン濃度が検出されなくなり、塩化物イオン濃度も0.1mgdm-3以下になった。
【0019】
一方亜硝酸イオン濃度は約2.5 mgdm-3で一定となり、溶液の電気伝導度もほとんど変化しなかった。さらに、イオン交換試験開始前の溶液と、交換試験4時間後の溶液中で、炭素鋼の浸漬試験を行った。イオン交換後の溶液中では、静止条件でも炭素鋼は全く腐食せず、長時間放置しても変化しなかった。この結果から、陰イオン交換法により溶液の電気伝導度を変化させることなく、腐食性の水溶液を非腐食性の溶液に変化できることが明らかとなった。
【0020】
(実施例2)ワイヤー放電加工機による実証試験樹脂容量1 dm3のイオン交換塔を試作し、実際に運転されているワイヤー放電加工機(加工水容量約800dm3)における実証試験を行った。図2は運転に伴う加工水の水質の経時変化を示している。運転開始とともに亜硝酸イオン濃度が約3mgdm-3となり、試験運転の2週間ほぼ一定であった。一方開始前に0.14 mgdm-3であった硫酸イオン濃度は運転開始後ほとんど0であり、塩化物イオンもほとんど検出されなかった。運転開始前の加工液中では、炭素鋼は1週間ほどで錆が発生したが、運転後の放電加工液中では全く腐食しなかった。
【0021】
以上より、この出願の発明が提案した防食装置の有効性が、実機でも確認された。
(実施例3)金属洗浄保管器 金型洗浄保管器の概要を図3に示す。本装置は主として、電気伝導度を調整する通常の純水製造用イオン交換樹脂(1a)を充填したカラム(1A)と、イオン交換樹脂(1b)を充填し、これによって腐食性イオンを亜硝酸イオンに交換する陰イオン交換カラム(1B)と、洗浄・保管槽(2)と、水のリザーブタンク(3)と、電気伝導度計(5)およびポンプ(4)とからなる。必要に応じて、カラム(1B)に寿命センサー(6)を設けることができる。タンク(3)内の水は原則としてカラム(1B)を通って洗浄保管槽(2)へ導かれるが、電気伝導度が上昇した場合、水の一部をカラム(1A)に通すことで、電気伝導度を10μS cm-1程度以下に抑える。これによって、不必要に高濃度の亜硝酸イオンが溶離することを防ぐことができ、環境上全く問題がない(水道水質基準(10 mgdm-3)以内)極希薄な亜硝酸塩溶液が循環される。保管したい金型(7)を装置に入れ、適当な時間、水を循環することで、金型(7)表面に吸着した腐食性イオンが除去され、循環停止後もその水中で防食された状態で保管できる。この装置は、鉄系材料に特に有効である。
(実施例4)陰イオン交換樹脂の寿命センサー
調製した陰イオン交換樹脂は、当初塩化物イオンを全く含まないが、循環使用につれて、腐食性イオンが蓄積してくる。この装置は、蓄積する腐食性のイオンの代表として、樹脂中の塩化物イオン濃度をモニターする方法を包含する。
【0022】
図4に、樹脂中に設置するセンサー(6)の概略図を示す。センサー(6)は、銀線に塩化銀を析出させた銀—塩化銀電極(6a)を含むものであり、樹脂(1b)と直接接触するようにする。カラム(1B)中の液の流れを直接受けないようにするため、適当な管(6f)をこの電極(6a)の周囲に設置する。塩橋中の指示電解質には塩化物による汚染がない硝酸カリウムあるいは、炭酸水素ナトリウムが使用できる。電極(6a)による測定位置は、出口より約1/4程度の位置が適当であるが、出口でも差し支えない。
【0023】
カラム(1B)に、亜硝酸イオン対塩化物イオン濃度の比を種々に変えた溶液を十分に通し、樹脂(1b)中に一定割合の塩化物イオンを吸着させた。しかる後、流出水の電気伝導度が10 μS cm-1以下程度になるまで樹脂(1b)を洗浄した。この状態で樹脂(1b)に接触させた銀—塩化銀電極(6a)の電位を測定した結果を図5に示す。測定した銀—塩化銀電極(6a)の電位は樹脂(1b)中の塩化物イオン濃度が増加するにつれて低くなった。これによって、樹脂(1b)中の塩化物イオン濃度を知ることができる。
【0024】
カラム(1B)は循環使用とともに、塩化物で汚染され、やがて流出水中にも塩化物イオンが含まれるようになる。カラム(1B)の寿命は、流出水中の亜硝酸対塩化物イオン濃度比が、当該金属の防食に必要な値以下になったところと判定できる。一例として、亜硝酸ナトリウム・塩化ナトリウム混合水溶液中における炭素鋼腐食挙動を調べた結果、炭素鋼の防食には塩化物イオンの約10倍の亜硝酸イオンが必要であった。流出水中の塩化物イオンの割合は、樹脂(1b)中に蓄積した塩化物イオンの割合に比例するので、樹脂(1b)中に設置した銀—塩化銀電極の電位からこれを予想することができる。
【0025】
なお実際の寿命は、カラム(1B) の操作条件(カラムの形状、流水速度など)や金属の形状(隙間の有無など)を考慮した安全係数をかけて判定する。
【0026】
【発明の効果】
以上、この出願の発明によれば、陰イオン交換樹脂洗浄過程での洗浄液の量を大幅に減らすことができ、調製した陰イオン交換樹脂を充填したカラムに、電気伝導度10μScm-1程度の典型的なワイヤー放電加工液を通水した場合でも、通水前後でほとんど電気伝導度は変化しない。また、カラムを通じた水の中では、浸漬した鉄は全く腐食しない。ワイヤ放電加工機において、循環する加工液の通水速度を、放電加工作業による加工液の汚染の速さを上回る程度の通水速度とすれば、加工液中における鉄の腐食を防ぐことができる。
【0027】
ワイヤー放電加工機の場合と原理を同じにして、適当な水槽中の低電気伝導度水を上記カラムに通水することにより、水槽中における鉄の腐食を防止することができる。このような装置を使用すれば、金型や鉄部品などの洗浄・保管に使用できる。また上記イオン交換樹脂の寿命を知るセンサーを設置すれば、樹脂を有効に使用できるとともに、防食装置としての信頼性を格段に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 亜硝酸ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合液を流通して調製した陰イオン交換樹脂による模擬加工液のイオン交換試験結果を示す図である。
【図2】 実ワイヤー放電加工機におけるイオン交換操作に伴う加工液の水質変化を示す図である。
【図3】 金型洗浄保管器の概要図である。
【図4】 防食用イオン交換樹脂の寿命センサーとしての銀—塩化銀電極の設置構造を示す図である。
【図5】 陰イオン交換樹脂に接触させた銀—塩化銀電極の電位と樹脂中の塩化物イオン濃度の関係を示す図である。
【図6】 比較のために、亜硝酸ナトリウムのみを流通して調製した陰イオン交換樹脂による模擬加工液のイオン交換試験結果を示す図である。
【符号の説明】
1A純水化用イオン交換樹脂充填カラム
1a 純水化用イオン交換樹脂
1B 防食用イオン交換充填カラム
1b 防食用イオン交換樹脂
2 洗浄・保管槽
3 リザーブタンク
4 ポンプ
5 伝導計
6 寿命センサー
6a 第1電極(銀—塩化銀電極)
6b 液絡
6c 電位差計
6d 第2電極(参照電極)
6e KCl溶液
7 金型
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5