TOP > 国内特許検索 > HIV薬剤耐性試験方法 > 明細書

明細書 :HIV薬剤耐性試験方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4011881号 (P4011881)
公開番号 特開2002-191399 (P2002-191399A)
登録日 平成19年9月14日(2007.9.14)
発行日 平成19年11月21日(2007.11.21)
公開日 平成14年7月9日(2002.7.9)
発明の名称または考案の名称 HIV薬剤耐性試験方法
国際特許分類 C12Q   1/70        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12Q 1/70
C12Q 1/02
C12N 15/00 A
C12N 5/00 B
請求項の数または発明の数 5
微生物の受託番号 FERM P-18078
全頁数 18
出願番号 特願2001-311793 (P2001-311793)
出願日 平成13年10月9日(2001.10.9)
優先権出願番号 2000319189
優先日 平成12年10月19日(2000.10.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年3月16日(2004.3.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】巽 正志
【氏名】蜂谷 敦子
【氏名】岡 慎一
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】西 剛志
参考文献・文献 国際公開第00/043515(WO,A1)
特開2002-125668(JP,A)
特表2003-530889(JP,A)
岡 慎一、他,平成11年度HIV感染/AIDSの感染病態とその生体防御に関する研究班研究報告書,2000年,p.9-17
Tatsumi, M., et al.,AIDS Res. News.,1997年,Vol.11,p.166
佐藤 克彦、他,日本エイズ学会誌,2000年11月20日,Vol.2(4),p.437(205)
巽 正志、他,日本エイズ学会誌,2000年11月20日,Vol.2(4),p.438(206)
庄司 省三、他,日本薬学会年会講演要旨集,2000年,Vol.120(3),p.71
調査した分野 C12Q 1/00-1/70
C12N 15/00-15/90
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
JSTPlus(JDream2)
JMEDPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトHeLa細胞に、HIV-1レセプターであるCD4とコレセプターCXCR4及びCCR5を安定に発現できるように形質転換した動物細胞に、HIV-1 LTR配列の下流に、分泌型レポータータンパク質として分泌型アルカリホスファターゼSEAPをコードする遺伝子を有する発現ベクターを導入して形質転換することによって樹立された、HIV—1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができるヒトHeLa細胞由来動物細胞株FERM P-18078を、被験薬剤の存在下においてHIV-1を含む試料と接触させ、HIV-1感染により培養上清に分泌される
レポータータンパク質を検出することを特徴とする、HIVの薬剤耐性の試験方法。
【請求項2】
分泌型レポータータンパク質である分泌型アルカリホスファターゼSEAPの検出を、比色反応、蛍光発光又は化学発光の何れか1種以上の測定系で行なうことを特徴とする請求項1に記載のHIVの薬剤耐性の試験方法。
【請求項3】
被験薬剤が、逆転写酵素阻害剤又はプロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV薬剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のHIVの薬剤耐性の試験方法。
【請求項4】
被験薬剤として2種類以上の薬剤の組み合わせを使用することを特徴とす請求項1~3の何れかに記載のHIVの薬剤耐性の試験方法。
【請求項5】
培養上清に分泌されるレポータータンパク質を比色反応、蛍光発光又は化学発光の何れか1種以上の測定系で検出することを特徴とす請求項1~4の何れかに記載のHIVの薬剤耐性の試験方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HIVの薬剤耐性の試験方法に関する。より詳細には、本発明は、被験薬剤の存在下においてHIV—1を感染させた標的細胞が培養上清に分泌するレポータータンパク質を検出することによるHIVの薬剤耐性の試験方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Human Immunodeficiency Virus type 1(HIV-1)はLentivirusに属するRetrovirusで、後天性免疫不全症候群AIDSの病原体である。その発見から既に十数年を経て、当初は不可抗力的に感染宿主の免疫系を破壊し、感染者の殆どは免疫不全に陥り死に至る感染症として認識されていた。しかしながら近年に至り、HIV—1のLife Cycleに必須な逆転写酵素とウイルス粒子形成に必要な成熟蛋白の開裂に関わるプロテアーゼに対する阻害剤が種々開発され、それらの組み合わせによる強力な抗HIV-1薬剤の投与(いわゆる、HAART療法(Highly Active AntiRetrovirus Therapy))により、感染者体内のウイルス量を高感度なPCR法による検出限界以下に抑えることが可能になり、一部の患者にとって、もはやHIV-1感染症は慢性感染症とみなされる程度までに至っている。
【0003】
しかしながら、多剤投与を中止するとHIV-1の速やかな増殖を来し、さらにこのウイルスの特性である逆転写酵素の変異導入率の高さから、投与薬剤に対する耐性ウイルスが容易に出現し、不用意な薬剤の選択により、同一作用機序に基づく複数の薬剤に耐性のウイルスを惹起し、以後の治療に困難をきたすことも多く報告されている。
【0004】
根治治療法が近い将来に得られる見込みが得られない現況では、抗HIV—1療法戦略は如何に迅速に耐性ウイルスの出現を捉え、個々の患者のウイルスに最も効果的な薬剤を組み合わせ、患者のウイルス量を低い定常状態に保つかに、重心が移ってくるものと考えられる。新たに開発される抗HIV-1薬剤を含め、多種多様な薬剤を用いて多様化するHIV治療法において、有効な薬剤選択の判定基準としてGenotypingとPhenotypingの薬剤耐性試験が挙げられる。
【0005】
GenotypingはPrimer DesignとPCR法によるHIV-1 pol遺伝子領域の増幅とその塩基配列解析が既にキット化され、技術的に確立し普及している。しかしながら検体中のウイルスゲノムの逆転写酵素あるいはプロテアーゼをコードする遺伝子のアミノ酸変異による薬剤耐性変異と、患者ウイルスの生物学的な薬剤耐性に関する成績との乖離がしばしば指摘されている。
【0006】
一方、Phenotypingは実際のウイルス耐性を反映するものの、現在標準法として用いられている末梢血単核球(PBMC)を用いた方法は、その標準化においていまだ解決すべき問題点が多々あることが指摘されている。例えば、ヒトPBMCを用いた耐性試験では結果が得られるのにしばしば数ヶ月を要し、PBMCのDonorのロットによるHIV感受性にばらつきが認められることから得られた結果の相互比較が困難であること、労力を要することから多検体を処理するには不向きであること、またHIV-1 gag蛋白p24 ELISAによるウイルス増殖の測定のため耐性試験に要する費用が嵩むことなどから限られた研究室でしかなされていないのが現況である。しかしながら、Phenotyping法はウイルスの生物学的耐性を反映していることから、薬剤選択の判断基準として欠かすべからざる情報を提供するものである。
【0007】
これらの問題点を克服するため、本発明者らは迅速簡便なHIV-1感染価測定細胞株MAGIC-5Aを用いた薬剤耐性試験について報告してきた(蜂谷敦子、相沢佐織、田中真理、高橋由紀子、平林義弘、井田節子、巽 正志、岡 慎一、CCR5発現HeLa/CD4-LTR-βGal細胞(MAGIC5 clone 1-10)を用いた抗HIV薬耐性検査に関する検討 第13回日本エイズ学会 1999年12月 東京、Hachiya, A., Aizawa-Matsuoka,S., Tanaka, M., Takahashi, Y., Ida, S., Gatanaga, H., Hirabayashi, Y., Kojima, A., Tatsumi,M. and Oka, S. : Rapid and simple phenotypic assay for drug susceptibility of human immunodeficiency virus type 1 by using CCR5-expressing HeLa/CD4 cell clone 1-10 (MAGIC-5) Antimicrob. Agents Chemother. 45: 495 - 501, 2001.)。この細胞株MAGIC-5AはHIV-1のレセプターであるCD4とコレセプターCXCR4およびCCR5をヒト子宮頚癌細胞株HeLaに安定に発現させるように形質転換し、感染したHIV-1の産生するTat蛋白により、組み込まれたLTR下流のSV40核移行シグナルを付け加えたβ-Galactosidaseを駆動し、X-Gal染色により迅速簡便に試料検体中のHIV-1の感染価を測定するように工夫したIndicator Cellである。この細胞株を用いることにより、患者血清からの迅速なウイルス分離と、それに引き続く、抗逆転写薬剤および抗プロテアーゼ薬剤に対する耐性株を2週間以内に検出しうることが報告されている。
【0008】
またこの細胞株はHIV-1の感染価測定という基本的技術をなすことから多くのHIV-1研究領域に応用されうる可能性がある。現在までの所、薬剤耐性Phenotype Assayおよび抗HIV薬剤スクリーニングなどにも応用されてきている。一般に用いられているHIV-1 gag蛋白p24のELISAによる測定もしくは逆転写酵素の活性測定に基づくものに比較して迅速、簡便、かつ経済的であるものの、この細胞株によるHIV感染価測定は顕微鏡下におけるX-galにより青染した細胞核の計数に基づくので、多検体迅速処理には向いていなかった。今後、抗HIV-1薬剤の開発が進展し、多くの薬剤が臨床応用されることが予測されることから、より迅速簡便な測定系が求められていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、HIV-1感染価測定細胞株を用いた迅速簡便な薬剤耐性試験方法を提供することを解決すべき課題とした。特に、本発明は、多検体を迅速に処理することができる薬剤耐性試験方法を提供することを解決すべき課題とした。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、MAGIC-5Aを用いたPhenotyping薬剤耐性試験をさらに迅速簡便および高感度に進化させることを目的として、インジケーター細胞MAGIC-5AにLTR下流にSEAP(分泌型アルカリホスファターゼ)を組み込んだ発現ユニットをさらに組み込み、HIV感染により培養上清に分泌されるアルカリホスファターゼを化学発光で検出することによりHigh throughputな測定系を確立することに成功した。さらにこの細胞を用いた薬剤耐性試験により、各種抗HIV薬に対するHIVの薬剤耐性を評価できることも判明した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、ヒトHeLa細胞に、HIV-1レセプターであるCD4とコレセプターCXCR4及びCCR5を安定に発現できるように形質転換した動物細胞に、HIV-1 LTR配列の下流に、分泌型レポータータンパク質として分泌型アルカリホスファターゼSEAPをコードする遺伝子を有する発現ベクターを導入して形質転換することによって、HIV—1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができるヒトHeLa細胞由来動物細胞株FERM P-18078を樹立することに成功したものであり、該樹立された動物細胞株を用いて、該動物細胞株を被験薬剤の存在下においてHIV-1を含む試料と接触させ、HIV-1感染により培養上清に分泌されるレポータータンパク質を検出することにより、多検体を迅速、高感度に試験することができるHIVの薬剤耐性の試験方法を確立することに成功したものである。
【0012】
好ましくは、分泌型レポータータンパク質は比色反応、蛍光発光または化学発光の何れか1種以上の測定系で検出できるタンパク質である。特に好ましくは、分泌レポータータンパク質はアルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ又はペルオキシダーゼである。
【0013】
発明で用いる動物細胞は、HIV—1 LTR配列の下流に分泌レポータータンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを形質転換することにより得られる細胞である。本発明で用いる動物細胞は、哺乳類動物細胞に由来する細胞であり、ヒトHeLa細胞に由来する細胞である。本発明で用いる動物細胞は、受託番号FERM P-18078を有する動物細胞である。
【0014】
好ましくは、被験薬剤は、逆転写酵素阻害剤又はプロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV薬剤であり、被験薬剤としては2種類以上の薬剤の組み合わせを使用することもできる。
好ましくは、培養上清に分泌されるレポータータンパク質を比色反応、蛍光発光または化学発光の何れか1種以上の測定系で検出する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の薬剤耐性の試験方法は、HIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができる動物細胞を被験薬剤の存在下においてHIV-1を含む試料と接触させ、HIV-1感染により培養上清に分泌されるレポータータンパク質を検出することを特徴とする。先ず、本発明で用いる、HIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができる動物細胞について説明する。
【0016】
本発明で用いる動物細胞株を樹立するための動物細胞としては、HIV-1が感染することができる細胞であれば、その種類は特には限定されないが、通常、HIV—1の感染には、HIV-1ウイルスレセプターCD4が必要とされることから、本発明で用いる動物細胞は、HIV-1ウイルスレセプターCD4を有していることが好ましい。また、本明細書中で上記した通り、HIV-1の標的細胞への侵入過程には細胞側の主要ウイルスレセプターであるCD4分子以外に、T細胞指向性HIV-1はCXCR4を、マクロファージ指向性HIV—1はCCR5をコレセプターとして用いていることから、本発明で用いる動物細胞もこれらのコレセプターを有していることが好ましい。広範なHIV-1の感染価を分析することを目的とする場合には、CXCR4及びCCR5の両方を発現している動物細胞を使用することが好ましい。
【0017】
これらのHIV-1ウイルスレセプターCD4とHIV-1ウイルスコレセプターは出発となる動物細胞がもともと保持し、かつ発現している場合にはそれらをそのまま利用すればよい。また、出発となる細胞がこれらを発現していない場合には、好適な発現ベクターに上記レセプターまたはコレセプターをコードする遺伝子を組み込んだ組み換え発現ベクターを出発動物細胞に導入することにより、当該レセプターまたはコレセプターを当該動物細胞中に発現させることができる。
【0018】
本発明で用いる動物細胞を樹立するために用いることができる出発細胞の種類は特に限定はされないが、好ましくは哺乳類(例えば、ヒトまたはサルなどの霊長類や、マウス、ラット又はハムスターなどのげっ歯類など)の動物細胞であり、より具体的には、ヒト由来HeLa細胞又はヒト由来HOS細胞などが挙げられる。
【0019】
目的のレセプター又はコレセプターを発現している細胞を選択するための手法としては、当該レセプター又はコレセプターを含む組み換え発現ベクター中に抗生物質耐性遺伝子を当該レセプター又はコレセプターと一緒に発現され得るように組み込んでおき、当該抗生物質を含む培地中で培養することにより、目的のレセプター又はコレセプターを発現する細胞を選択することができる。また、目的の細胞を一つの細胞に由来する単一の細胞としてクローニングするための手法としては限界希釈法を挙げることができる。
【0020】
例えば、構成的にCXCR4を発現しているHeLa細胞は出発細胞として使用する場合には、このHeLa細胞に抗生物質耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン(Neo)耐性遺伝子)を乗せたマウスレトロウイルスベクターを形質転換してCD4を発現させ、所望によりLTR-βGal発現ユニットをハイグロマイシン(Hygromycin)耐性遺伝子とともに形質転換し、生育細胞を選択する。さらに、CD4発現増強のためのCD4発現とPuromycin耐性を形質転換体に付与する発現ベクター、並びにCCR5発現とBlasticidin耐性を形質転換体に付与する発現ベクターを上記細胞に形質転換し、限界希釈法により目的とする細胞をクローニングする。この操作でクローニングされる目的細胞は、G418、Hygromycin、PuromycinおよびBlasticidinの合計4種の選択薬剤に対して耐性を有している。
【0021】
本発明で用いる動物細胞は、HIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができることを特徴とする。本発明で用いる動物細胞はHIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現し、発現した分泌型レポータータンパク質は細胞外に分泌され、培養液中に放出される。本発明で用いる動物細胞を含む培養系にHIV-1を含む試料を添加し、その培養液を採取し、該培養液中に分泌されたレポータータンパク質を適当な方法で検出又は分析することにより、試料中のHIV-1の感染価を測定することができる。
【0022】
培養液中に分泌されたレポータータンパク質の検出方法は特に限定されないが、例えば、比色反応、蛍光発光または化学発光などにより検出する方法が挙げられる。分泌レポータータンパク質の種類は特に限定されないが、種々の酵素活性基質が入手しやすく、測定感度が高く、測定手技の簡略化が可能なものが好ましく、例えば、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ又はペルオキシダーゼなどが挙げられ、この中でもアルカリホスファターゼが特に好ましい。
【0023】
本発明によるHIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現する動物細胞を作成するための好ましい方法の一つとしては、HIV-1 LTR配列の下流に分泌レポータータンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを動物細胞に形質転換する方法が挙げられる。上記方法で用いる発現ベクターには、所望の細胞の選択のための薬剤耐性遺伝子が含まれていることが好ましい。
【0024】
例えば、本明細書中で上記したようなG418、Hygromycin、PuromycinおよびBlasticidinの合計4種の選択薬剤に対して耐性を有し、CXCR4、CD4およびCCR5を発現する細胞に対して、分泌レポータータンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを形質転換することにより、本発明で用いる動物細胞を作成することができる。この場合、分泌レポータータンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクター中に組み込むことができる薬剤耐性遺伝子としては、上記4種の薬剤耐性遺伝子以外であればよく、例えば、Zeocin耐性遺伝子などが挙げれる。
【0025】
より具体的には、分泌レポータータンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを、HIV-1ウイルスレセプターCD4とHIV-1ウイルスコレセプターとを有する細胞にトランスフェクションし、薬剤で選択し、生存コロニーを得ることができる。これらを増殖させたクローン細胞をマイクロプレートに2重に播き、一方はHIV-1を感染させ、他方は非感染対照とする。感染2日後、培養上清を採取し、65℃で15分間処理して内在性アルカリホスファターゼとHIVの不活化する。培養上清に分泌されたSEAPは例えば、p-Nitrophenol phosphateを基質とした比色反応で測定し選別することができる。HIV非感染ではSEAP活性が低く、HIV感染により高いSEAP活性を示すクローンを選別することにより、目的の細胞を樹立することができる。
上記した方法で樹立することができる細胞の一例としては、受託番号FERMP-18078を有する細胞が挙げられる。
【0026】
本発明で用いる動物細胞の培養方法、培養条件は細胞の種類、性質などに応じて適宜選択することができる。例えば、HeLa細胞に由来する細胞株の場合には、抗生物質(例えばKanamycin等)を含み、5%FCSを添加したDulbecco's Modified Minimum Essential Medium(High glucose ; Gibco)中で37℃で5%CO2で培養することができる。
【0027】
本発明の薬剤耐性の試験方法は、上記したような動物細胞を被験薬剤の存在下においてHIV-1を含む試料と接触させ、HIV-1感染により培養上清に分泌されるレポータータンパク質を検出することを特徴とする。
被験薬剤としては、抗HIV薬が好ましく、より具体的には、逆転写酵素阻害剤又はプロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV薬剤が好ましい。逆転写酵素阻害剤としては、AZT/ZDV(zidovudine:3'-Azido-3'-deoxythymidine)、d4T(sanilvudine:2',3'-didehydro-3'-deoxy-thymidine)、3TC(lamivudine:2'-deoxy-3'-thiacytidine)、COM(ZDV/3TC合剤)、ddI(didanosine:2',3'-dideoxyinosine)、ddIEC(didanosine:2',3'-dideoxyinosine)、ddC(zalcitabine:2',3'-dideoxycytidine)、ABC(abacavir)、NVP(nevirapine)、EFV(efavirenz)、DLV(delavirdine)などが挙げられ、またプロテアーゼ阻害剤としてはRTV(ritonavir)、SQV(saquinavir)、NFV(nelfinavir)、IDV(indinavir)、APV(amprenavir)、LPV(ritonavir)などが挙げられる。
また、被験薬剤としては2種類以上の薬剤の組み合わせを使用することもできる。
【0028】
本発明の方法を実施するには、先ず、HIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができる動物細胞をマイクロプレートに接種し、HIV-1を含む試料を培地で段階的に希釈し、各穴に添加する。さらに適当な希釈系列の抗HIV薬を添加し、適当な培養条件(例えば、温度37℃で5%CO2)で一定時間インキュベートした後、各穴の上清を回収する。次いで、内在性レポータータンパク質とHIVの不活化のために65℃で15分間加熱する。この上清を用いて常法に従って、レポータータンパク質のアッセイを行うことができる。レポータータンパク質がアルカリホスファターゼの場合には、例えば、p-ニトロフェノールホスフェートを基質とした比色反応、MUPを基質とした蛍光発光、及びCSPDを基質とした化学発光測定系などを利用することができる。以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【0029】
【実施例】
実施例1:HIV-1感染により分泌型レポータータンパク質を発現することができる動物細胞の樹立
全てのHeLa細胞由来細胞株は、抗生剤として50μg/mlのKanamycinを含み、5%FCSを添加したDulbecco's Modified Minimum Essential Medium(High glucose ; Gibco)で37℃で5%CO2で培養した。既に本発明者が樹立したCCR5発現MAGI細胞株MAGIC-5Aは、元来の親株HeLa細胞にNeo耐性遺伝子を乗せたマウスレトロウイルスベクターによりCD4を発現し、LTR—βGal発現ユニットはHygromycin耐性遺伝子とともに乗せて選択されFACS(Fluorescent Activated Cell Sorter)で選別された細胞株であるMAGI細胞株にさらにCD4発現増強のための発現ベクターpEFBOSpacCD4(CD4発現とPuromycin耐性をTransformantに与える)、CCR5発現のため発現ベクターpEFBOSbsr(CCR5発現とBlasticidin耐性をTransformantに与える)により形質転換され限界希釈法によりクローニングされ樹立した細胞株で、G418、Hygromycin、PuromycinおよびBlasticidinの合計4種の選択薬剤に耐性になっていた。
【0030】
HIV-1 subtype B由来のLTRの下流にpSEAP2-Basic(Clontech)からTranscriptional Blockerとともにレポーター遺伝子として分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)を組み込み、さらに新たな選択遺伝子としてZeocin耐性遺伝子を載せた発現ベクターを構築した。この発現ベクターをMAGIC-5A細胞株にトランスフェクション後、Zeocinで選択培養し生残したコロニー165個を得た。これらの増殖させたクローン細胞を96穴マイクロプレートに2重に播き、一方はHIV-1を感染させ一方は非感染対照とした。感染2日後培養上澄100μl採取し、内在性アルカリホスファターゼとHIVの不活化のため65℃で15分間処理し測定まで-20℃で保存した。検体中の分泌されたSEAPはL-Homoarginineを内在性アルカリホスファターゼ阻害剤として添加したp-ニトロフェノールホスフェートを基質とした比色反応で測定し選別した(Berger J. et al., Secreted placental alkaline phosphatase : a powerull new quantitative indicator of gene expression in eukaryotic cells. Gene 66 : 1-10, 1988)。
【0031】
HIV非感染ではSEAP活性が低く、HIV感染により高いSEAP活性を示すクローンを選別し、選択薬剤非存在下で連続2回の限界希釈法を行った。即ち、200μg/mlのZeocin存在下の選択培養で総計162個の生残コロニーが得られた。しかしながら生残した殆どのコロニーはHIV感染の有無にかかわらず高いSEAPを分泌していた。2個の数少ないコロニーから、HIV非感染ではBackgroud程度のSEAPしか検出せず、HIV感染により多量のSEAPを分泌する細胞群から2度にわたる限界希釈法で安定したHIV-1感受性を示したクローンMAGIC-5/SEAP 3-1-1を樹立した。
MAGIC-5/SEAP 3-1-1は、FERM P-18078として、平成12年10月16日付けで工業技術院生命工学工業技術研究所、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305-8566)に寄託されている。
【0032】
実施例2:薬剤耐性試験
(方法)
1.対象者及びウイルス分離
1997年12月から1999年1月までに国立医療センターエイズ治療研究開発センターに通院した患者137名245検体について検査を行った。同意を得た患者から採血し、plasmaを分離した。分離前日に5%FCSを添加したDulbecco's MEM培地に懸濁したMAGIC5A(巽 正志、小島朝人:HIV-1感染価測定に適したCCR5発現HeLa/CD4-LTR-beta Gal細胞の樹立と応用について 第10回日本エイズ学会総会、1997年12月、熊本。Tsumi,M. and Kojima,A.: Establishment of HeLa/CD4-LTR=bGal expressing CCR5 suitable for infectivity assay of T- and M-tropic HIV-1 and its application to clinical isolation and cloning of virus. The XIIth International Congress of AIDS, Geneve, Switzerland, June, 1998)を48穴マイクロプレートに20,000個/well播き、終夜培養で細胞を付着させた。感染当日患者由来のplasma 1mlを微量遠心機で15,000rpm 40分間遠心してウイルスを沈殿させ、上澄900μlを取り除き、400μlのInfection Medium(20μg/ml DEAE-Dexran 5%FCS-D’MEM)を加え、懸濁後MAGIC-5A細胞に接種した。37℃ 5%CO2インキュベーターで2時間培養し、5%FCS-D’MEM培地に交換後、ウイルス分離陽性まで観察培養を継続した。分離したウイルスは使用するまで-80℃に保存した。
【0033】
1.薬剤耐性試験
感染価測定:
感染前日に96穴マイクロプレートにMAGIC—5A細胞を10,000個/well播き培養し、感染当日、ウイルスを融解しInfection Mediumにて1倍から1000倍まで段階希釈し、各ウェルに100μlずつ接種し、2時間培養し、洗浄後新鮮な培養液を加えさらに培養した。48時間後培養液を除去し、PBSで洗浄後、固定液(1%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒド、PBS中)を100μl/ウェル加え、室温で5分間固定し、再度PBSで洗浄後染色液(4mM フェロシアン酸カリウム、4mM フェリシアン酸カリウム、16mM MgCl2、400μg/ml X-gal、PBS中)を100μl/well加え37℃で2時間インキュベートし、顕微鏡下で細胞核が青く染まった細胞数を計測し、試料検体中のHIV-1感染価とした。以後の薬剤耐性試験では96穴マイクロプレートの各穴に100~300bcc(Blue cell count)になるように検体を希釈し用いた。
【0034】
逆転写酵素阻害剤:
感染前日に96穴マイクロプレートにMAGIC-5AもしくはMAGIC-5/SEAP細胞を10,000個/well播き、培養してあらかじめ細胞を付着させた。感染当日、100~300bccのウイルスをInfection Mediumにて希釈し、100μlずつ加えた。さらに10倍希釈系列を作製した抗ウイルス薬を100μlずつ加え、37℃、5%CO2インキュベーターにて培養した。48時間後、MAGIC-5A細胞の方は上記のように染色を行い、Blue cell数をかぞえ、一方MAGIC-5/SEAP細胞(受託番号FERM P-18078)の方は培養上澄を採取し、そのアルカリホスファターゼ活性をReporter Assay Kit-SEAP-(SAK-101;Toyobo Co. Japan)を用いて化学発光をLuminometerにより計測し、またp-ニトロフェノールホスフェートを基質とした比色反応では波長405nmで測定した。薬剤を加えていないウェルの値を100%とし、50%増殖阻止が得られた濃度をIC50とした。
【0035】
プロテアーゼ阻害剤:
100~300bccとなる濃度のウイルスをInfection Mediumにて希釈し、96穴マイクロプレートに予め播いておいたMAGIC-5A細胞に100μlずつ加えた。さらに10倍希釈系列を作製した抗ウイルス薬を100μlずつ加え、37℃、5%CO2インキュベーターにて培養した。72時間後、前日用意しておいたMAGIC-5AおよびMAGIC-5/SEAP細胞の96穴のプレートに上清100μlとInfection Medium 100μlを加え培養した。48時間後、逆転写酵素阻害剤薬剤の項と同様にして、阻害剤を加えていないウエルの値を100%とし、50%増殖阻止が得られた濃度をIC50とした。
なお、全ての耐性試験には阻害剤感受性ウイルスの対照として感染性分子クローンHIV-1 NL432株を平行してアッセイし、この株のIC50値に対して何倍の耐性として、臨床分離株の耐性を表現した。
【0036】
Genotype(遺伝子型)での耐性検査:
患者血漿100mlからハイピュアRNAアイソレーションキット(Roche)を用いてRNAの抽出を行い、One Step RNA PCR Kit(Perkin Elmer)を用い、HIV-1のpo1領域を増幅した。Wizad TM PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いてPCR反応産物を濃縮し、電気泳動した後、目的のフラグメントを含むゲル部位を切り出し、SUPREC-01(Takara Co.)を用いて精製を行った。こうして得られた各サンプルの塩基配列をAuto sequencer(ABI model 310)を用いて決定した。アミノ酸配列は、塩基配列より推定し、耐性の有無を調べた。
【0037】
(結果)
1.MAGIC-5Aとウイルス量の相関
MAGIC-5Aを用いて、210検体中129検体からウイルスを分離した。また患者plasma中のウイルス量とウイルス分離率を調べたところ、ウイルス量が4乗以上で分離率77%、4乗未満で8%であった。このことからウイルス量が4乗以上であれば、この方法を用いてウイルス分離が可能であると認められた。
【0038】
2.NL432における再現性
逆転写酵素阻害剤としてAZT(3'-Azido-3'deoxythymidine)、d4T(2',3'-didehydro-3'-deoxy-thymidine)、および3TC(2'-deoxy-3'-thiacytidine)で、またプロテアーゼ阻害剤としてRTV(ritonavir)、SQV(saquinavir)、およびNFV(nelfinavir)についてHIV-1 Wild株感受性ウイルスとしてNL432での薬剤耐性試験の再現性(triplicate×5回)を調べたところ、表1に示す通り良好な再現性が示された。
【0039】
【表1】
JP0004011881B2_000002t.gif
【0040】
3.表現型(phenotype)と遺伝子型(genotype)の比較
このMAGIC-5Aを用いて、得られた臨床分離株129検体と実験室株2検体を用いて、各薬剤の耐性検査を行った。さらに臨床分離株は、AZT46検体、d4T47検体、3TC48検体、RTV41検体、SQV41検体、およびNFV43検体について、遺伝型と解析結果と比較した。また無治療での各薬剤に対するIC50の値をTable.2に示した。無治療であるにもかかわらず、AZT、RTV、SQV、NFVについては、NL432と比べ4倍以上耐性に傾いていることが認められた。
【0041】
【表2】
JP0004011881B2_000003t.gif
【0042】
以下、それぞれの薬剤に対する耐性検査結果を記載する。
AZT(図1を参照):NL432を用いて得られた値を1倍とし、無治療群でのAZTに対するphenotypeでの耐性の度合いは、0.1~5倍(平均1.2倍)であった。それに比べgenotypeでの耐性変異がアミノ酸配列番号41,215位の単独もしくは、両者の組合わさった変異が認められた場合、2.6倍~106倍(平均70倍)と耐性に傾くことがわかった。また以前から報告があるように、41,215,184位が変異すると耐性ではなく、0.53~14倍(平均6.7倍)と感受性を取り戻していることが確認された。そしてこの3つの組み合わせに、67,219位の耐性変異が加算された場合には、2.6~106倍(112倍)となり、再び高度耐性を獲得していることがわかった。
【0043】
3TC(図2を参照):無治療群での3TCに対するphenotypeでの耐性の度合いは、0.12~3.86(平均1.4倍)であった。それに比べgenotypeで184位の耐性変異が認められた場合、すべての検体において120倍以上の高度耐性を獲得していた。また184位がwild typeであっても他の逆転写酵素阻害剤や3TCの治療歴がある場合は0.12~31倍(平均9.5倍)と低い耐性が認められた。
【0044】
d4T(図3を参照):無治療群でのd4Tに対するphenotypeでの耐性の度合いは、0.4~3.2倍(平均1倍)であった。d4Tでは耐性に関連するアミノ酸置換は不明な部分が多く、現在知られている75位の変異との相関を調べてみたが、当センターにおいて75位に対する変異を獲得したウイルスは見つかっているものの、耐性変異と報告されているアミノ酸置換ではなかった。しかし3TCと同様,75位がwild typeであっても他の逆転写酵素阻害剤や3TCの治療歴がある場合は0.04~8.18倍(平均2.3倍)と低い耐性が認められた。
【0045】
RTV(図4を参照):無治療群15名、またRTVの治療歴があるがgenotypeでの耐性変異が全く認められない6名に対するphenotypeでの耐性変異の度合いは、0.33~2.53倍(平均0.8倍)であった。primary mutationである82位がwild typeであり、secondary mutationが1つ(36か71位)の変異があれば0.33~1.33倍であるが、2つ以上の変異が伴うと12~106倍(平均72倍)と中等度耐性から高度耐性を獲得していた。そしてprimary mutationである82位の耐性変異が伴うと、secondary mutationの数にかかわらず、すべて100倍前後(平均105倍)の高度耐性を獲得していた。
【0046】
SQV(図5を参照):無治療群16名、またSQVの治療歴があるがgenotypeでの耐性変異が全く認められない12名に対するphenotypeでの耐性変異の度合いは、0.1~10倍(平均1.9倍)であった。またsecondary mutationが1つ(10か82位)の変異であれば、0.34~3.2倍であるが、primary mutationである90位に耐性変異が認められると6.6~100倍(平均60.7倍)と中等度耐性から高度耐性を獲得していた。
【0047】
NFV(図6を参照):無治療群4名、またNFVの治療歴があるがgenotypeでの耐性変異が全く認められない2名に対するphenotypeでの耐性変異の度合いは、0.33~10倍であった。そして無治療であるにもかかわらず、secondary mutationである36、63、77位の単独変異もしくは63,77位の組合わさった変異については、ウイルスのpolymorphismであると考えられた。そのため無治療群ではsecondary mutationが1つであれば、0.3~4.6倍(平均1.2倍)、2つ同時に認められれば0.3~1.5倍(平均1.3倍)とどちらも感受性を示しているのに対して、治療群については1つであれば、0.6~103倍(平均21.3倍)、2つ同時に認められれば10.6~333倍(平均115倍)と中等度耐性から高度耐性を獲得していた。またprimary mutationである30位に耐性変異が認められると53~333(平均165倍)と高度耐性を獲得していた。
【0048】
MAGIC-5AとMAGIC-5/SEAP細胞を用いた薬剤耐性試験の相関:上記で基本的にMAGIC-5Aを用いたBlue Cell Countで計測した検体を同時に、MAGIC-5AとMAGIC-5/SEAP細胞を用いた感染価測定系で平行してその薬剤耐性を検討した。AZT,NVPおよびNFVについてそれぞれ26検体を、横軸にSEAP、縦軸にBlue Cell Countで得られた各薬剤のIC50を示す濃度をプロットすると、高濃度域から低濃度域にわたる広い濃度域で高い相関を示した。またこの相関は、実験室株HIV-1 NL432に対する相対的な耐性度としてプロットしても同様に、高い相関を示した(図7及び図8を参照)。MAGIC-5A細胞を用いたBlue Cell CountとMAGIC-5/SEAP細胞を用いたChemiluminescence測定は、途中の培養過程に係わる労力はほとんど変わらないが、最終段階の測定の際、Blue Cell CountはComputer Softによる画像処理によりその労力は軽減するもの、マイクロプレート1枚を読み切るには1時間弱の時間がかかるのに対して、マイクロプレート対応のLuminometerを用いれば数十秒で測定が終了するのは、多検体処理が必要な際は、かかる労力は大きくことなる。検出感度の点では、例えば96穴マイクロプレートの穴に接種された検体中に感染性HIV-1が十数個の時でも、MAGIC-5A細胞では固定して直接顕微鏡下で判定できる利点があるが、MAGIC-5/SEAPでもHIV-1非感染のバックグラウンドの数倍の有意な化学発光値が得られ、なおかつ培養を継続して翌日にはより明確な計測値が得られる利点もある。しかしながら、薬剤耐性試験に関しては、培養の初めに充分な感染価(100~300bcc/well)のウイルスを接種するので実際には問題にはならない。またデータには示さないが、p-ニトロフェノールホスフェートを基質とした比色反応でも化学発光での測定系と比べて感度の点では劣るものの、充分実用に耐える成績が得られた。
【0049】
次に、新たに許可された抗HIV薬であるアバカビア(ABC)、ネビラピン(NVP)およびアンプレナビア(APV)について、標準ウイルス株としてHIV—1NL432を用いて薬剤耐性試験の再現性を検討した。その結果、表3に示すように良好な再現性が得られた。以下、それぞれの薬剤に対する耐性試験結果を記載する。
【0050】
【表3】
JP0004011881B2_000004t.gif
【0051】
アバカビア(ABC)(図9を参照):逆転写酵素阻害剤であるアバカビア(ABC)は、65,74,115,184の耐性変異が知られている。無治療者では平均して16.2倍と耐性に傾いた。さらに184に74の耐性変異が加わると26.1倍と耐性度が上昇した。
【0052】
ネビラピン(NVP)(図10を参照):非拡散系逆転写酵素阻害剤であるネビラピン(NVP)は103,106,108、181,190の耐性変異が知られている。これらはすべてNVPに対するprimary mutationである。無治療者が1.05倍であり、逆転写酵素阻害剤を使用したことがある患者においても1.51倍と感受性の範囲であった。つまり逆転写酵素阻害剤とネビラピンでは交差耐性は認められなかった。また181の変異の27.6倍を除いて、そのほか全ての(106、103、190)耐性度が100倍以上と値が振り切れており、高度耐性を獲得していた。また、非拡散系逆転写酵素阻害剤のほとんどの耐性変異は交差耐性として認められているが、唯一NVPの106の耐性変異はEFV(エファビレンツ)に対して交差耐性が認められていない。今回測定した106の耐性変異が認められた検体は、NVPに対して131倍以上と高度耐性であるが、EFVに対して5.7倍と耐性を獲得していないことがわかった。
【0053】
アンプレナビア(APV)(図11を参照):無治療者では1.47倍であり、また無治療でありながらポリモフィズムとして10に変異を獲得している検体でも1.04倍と感受性の範囲であった。しかし同じ10に変異が認められ、治療を行っているものについては19.6倍と耐性度が上昇していることがわかった。さらにアンプレナビアのsecondary mutationである10,46,84がそろうと、平均して232倍と耐性度が上昇していた。プロテアーゼ阻害剤であるアンプレナビアは、primary mutationである50が他のプロテアーゼ阻害剤に対する耐性変異ではないため交差耐性の少ない薬剤として知られていたが、しかし、secondary mutationだけでも複数存在すれば他のプロテアーゼ同様耐性に傾くことがわかった。また以前にParkinらによると過去にIDL、NFVを使用した患者の20%で見られるN88Sの変異は、APVに対しても感受性が戻ると報告(Journal of Viorology, 2000, 4414-4419)していた。今回のアッセイにおいても46の耐性変異が認められる群では24.2倍耐性であるのに対し、46にN88Sが認められていると5.5倍と感受性が戻り、これらの患者は過去にNFVによる治療を受けていたことがわかった。
【0054】
(考察)
現在、薬剤耐性変異ウイルスを検出するためには、(1)薬剤作用領域の塩基配列の変異を調べる遺伝子型(genotype法)と(2)直接HIVを薬剤存在下で培養し、増殖を抑えることのできる濃度(IC50、IC90)を求めて評価する表現型(phenotype法)、そして(3)組換え(recombinant)DNA技術を利用し、患者由来の感染性recombinant HIVを作り、phenotype法を行うrecombinant virus assayの3つが挙げられる。このうち短時間で、操作性にも優れ、比較的容易に結果が得ることができるgenotype法が主流となっているが、その反面、報告されていない耐性変異の出現や複数の変異蓄積した場合での総合的な判断は難しいとされている。それに比べ、耐性度を総合的に判断することができるphenotype法での検出方法は、現在急速に改善されつつあるとはいえ、いまだに時間や費用、労力が必要であると考えられ、一般的には行われていない。またrecombinant virus assayについても、患者由来のウイルスの薬剤作用領域をHIVベクタープラスミドに組み込む技術が非常に熟練を要し、得られた組換えウイルスが増殖しないことも多く、さらにpo1遺伝子などの薬剤作用領域以外の領域がHIV-1粒子形成に関与していることが知られており、得られた組換えウイルスが実際の患者体内のウイルスの性状を反映しているか判明していないことからphenotype法と同様、一般的にはおこなわれていない。
【0055】
そこで今回本発明者らは、MAGIC-5AとMAGIC-5/SEAP細胞株によるphenotype法を用いて、これらの問題を解決し、臨床分離株から直接、感受性試験を迅速に行うことを目的とし、検査を行った。従来でのPBMCを用いたphenotype法では、結果が得られるまでに数ヶ月を要し、また判定するのにp24を測定するという点でコストがかかるが、この細胞を用いることによりウイルス分離から薬剤感受性試験までわずか2週間ほどで結果が得ることができ、細胞の染色もしくは培養上澄の酵素活性測定により感染の有無を迅速に判定することができた。
【0056】
本実施例の結果から、無治療の患者ではコントロールであるNL432に比べ、耐性の度合いが平均して1倍前後であったが、中には10倍という検体が認められた。これらのウイルスは、genotype法でも耐性変異が認められていないにもかかわらず、phenotype法では低度耐性を獲得していることが判明し、今後臨床において治療開始時の薬剤選択の判断に参考となるデータであることがわかった。さらにgenotype法とphenotype法を比較したところ、アミノ酸配列番号75位の耐性変異を検出出来なかったd4Tを除く薬剤については、良好な相関が得られた。しかし3TC、d4Tについては、wild typeであっても、逆転写酵素阻害剤の治療歴があるものでは、低度耐性が認められた。
【0057】
またAZTについても41,184,215位のアミノ酸変異が同時に認められた場合は、感受性が復帰していることも、この細胞を用いて確認された。しかしこのようなアミノ酸変異によって起こる感受性の変化が、酵素と基質との反応、相互作用という点からどのように起こっているかについては、現段階の技術と知識では明らかにされていない。さらにプロテアーゼ阻害剤では、primary mutationが認められると100倍前後の高度耐性を示し、genotype法とphenotype法で得られた結果が一致したことが認められた。HIV-1ウイルスは薬剤投与下に適応するためsecondary mutationを獲得することが知られている。他のプロテアーゼ阻害剤で治療歴のある患者では、NFVに対する反応が50%程度しかないということが報告されたが、今回のこのようなケースにおいてNFVに対するprimary mutationが認められなくてもsecondary mutationが見つかった。このsecondary mutationは、無治療の患者では感受性に示しているものの、プロテアーゼ阻害剤に治療歴がある患者については、耐性を示しているということが、phenotype法により示唆された。これらの成績からMAGIC-5Aを用いたphenotype法は、genotype法で判断できなかった耐性の度合いを明確にし、今後の多剤併用療法で使用する薬剤選択の判断の一つとして有用であると考えられた。
【0058】
薬剤耐性試験におけるMAGIC-5AとMAGIC-5/SEAP細胞を用いた成績の比較から、両者間では高い相関が得られた。このことはMAGIC-5/SEAP細胞がMAGIC-5A細胞を親株としてさらにHIV-1感染によりSEAPを細胞外に分泌するように改変したことからも予測された。しかもReporterとしてはSEAPを用いた系の方がβ-ガラクトシダーゼに比べ、化学発光試薬を加えたあとの安定性及び操作の迅速簡便性においても格段に優れていた。検出感度の点についてもSEAPの方が優れていたため、接種するウイルス量が少なくても測定が可能であった。またMAGIC-5/SEAPを用いたAssay系は、細胞を播き、薬剤と同時にウイルスを接種し、培養上澄を採取して酵素基質液を添加して測定機にかけるのみで実測値が得られ、現在用いられているp24 ELISAあるいはRT Assayとくらべ操作手順は格段に簡略化されており、Work Stationによるロボット化への変換も可能であると考えられる。MAGIC-5A細胞株による患者検体からのウイルス分離とMAGIC-5/SEAPによる薬剤耐性Phenotyping Assayにより概略2週間程の短期間で薬剤耐性が判明することは、早期の耐性ウイルスの検出と、感受性薬剤の選定に有用であり、今後新たに承認される薬剤についても測定を行い、Conbination Therapyとして様々な薬剤の組み合わせに対応しえるHigh Throughputな薬剤耐性試験系の構築になくてはならない測定系となることが期待される。
【0059】
また、新たに許可された抗HIV薬であるABC、NVPおよびAPVについても本試験法により、効率的なおかつ鋭敏に耐性ウイルスを検出しえることが判明した。このことは今後、さらに開発され臨床応用が期待されている様々な抗HIV薬についても本試験が対応しえる柔軟性をもつことを意味する。
【0060】
【発明の効果】
本発明により、HIV-1感染価測定細胞株を用いた迅速簡便な薬剤耐性試験方法、特に多検体を迅速に処理することができる薬剤耐性試験方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、表現型でのAZT耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図2】図2は、表現型での3TC耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図3】図3は、表現型でのd4T耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図4】図4は、表現型でのRTV耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図5】図5は、表現型でのSQV耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図6】図6は、表現型でのNFV耐性と遺伝型との相関関係を示す図である。
【図7】図7は、MAGIC-5/SEAP細胞を用いた化学発光アッセイとMAGIC-5A細胞を用いたBlue Cell Countとにおける、抗HIV-1剤濃度に対する相関関係を示す図である。
【図8】図8は、MAGIC-5/SEAP細胞を用いた化学発光アッセイとMAGIC-5A細胞を用いたBlue Cell Countとにおける、抗HIV-1剤濃度に対する相関関係を示す図である。
【図9】図9は、表現型でのABC耐性と遺伝子型との相関関係を示す図である。
【図10】図10は、表現型でのNVP耐性と遺伝子型との相関関係を示す図である。
【図11】図11は、表現型でのAPV耐性と遺伝子型との相関関係を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10