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明細書 :金属錯体及びそれからなる分離材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5705010号 (P5705010)
公開番号 特開2012-228667 (P2012-228667A)
登録日 平成27年3月6日(2015.3.6)
発行日 平成27年4月22日(2015.4.22)
公開日 平成24年11月22日(2012.11.22)
発明の名称または考案の名称 金属錯体及びそれからなる分離材
国際特許分類 B01J  20/22        (2006.01)
C07C  63/24        (2006.01)
B01D  53/02        (2006.01)
C07C  65/21        (2006.01)
C07C 247/18        (2006.01)
C07F   1/08        (2006.01)
FI B01J 20/22 A
C07C 63/24 CSP
B01D 53/02 Z
C07C 65/21 D
C07C 247/18
C07F 1/08 B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2011-099043 (P2011-099043)
出願日 平成23年4月27日(2011.4.27)
審査請求日 平成25年11月12日(2013.11.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】北川 進
【氏名】松田 亮太郎
【氏名】佐藤 弘志
【氏名】秋山 穣慈
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】池田 周士郎
参考文献・文献 特開2000-202283(JP,A)
Zou, R.-Q., et al,Probing the Lewis Acid Sites and CO Catalytic Oxidation Activity of the Porous Metal-Organic Polymer [Cu(5-methylisophthalate)],J. Am. Chem. Soc.,2007年 6月19日,Vol.129, No.27,pp.8402-8403
調査した分野 B01J 20/00-20/34
B01D 53/02-53/12
C07F 1/00- 1/12
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
Cu2+イオンと
イソフタル酸、5-アジドイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸または5-メトキシイソフタル酸であるCu2+イオンに配位可能な有機配位子と
が繰り返し単位を構成し、
一般式
【化1】
JP0005705010B2_000005t.gif
〔式中、MはCu2+イオンであり、OOC-R—COOはイソフタル酸、5-アジドイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸または5-メトキシイソフタル酸を示す。〕
で表され、
前記Cu2+イオンと前記有機配位子とがパドルホイール型二核錯体を形成し、前記有機配位子がそれら二核錯体を連結することで、2次元シート構造を形成し、さらにその2次元シート同士が積層し、1次元細孔を形成しており、
カゴメ構造を有する金属錯体であって、
吸着されるガスの種類、吸着圧力または吸着温度により、吸着されるガスを高選択的に吸着することを特徴とする金属錯体。
【請求項2】
請求項に記載の金属錯体を含む分離材。
【請求項3】
一酸化炭素若しくは一酸化窒素を分離することを特徴とする請求項に記載のガス分離材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンと有機配位子からなる金属錯体、並びに、該金属錯体を用いた分離材に関する。具体的には、製鉄所や石油化学での副生ガス及び石油天然ガス等の改質ガス、部分酸化ガス、石炭タールサンド等の改質ガス、メタノール分解ガス等の主として水素、メタン、窒素、一酸化炭素ガスを含んだ混合ガスから一酸化炭素ガスを、圧力スイング吸着法を用いて分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原料ガスから目的とするガス(製品ガスという)を分離して得る方法の1つとして圧力スイング吸着法(「PSA法」)が一般に知られている。この方法は、吸着材を充填した吸着塔内に加圧した原料ガスを供給して目的のガス(製品ガス)を吸着材に吸着させ、これにより不純物を分離回収した後(吸着工程)、吸着塔内を減圧して吸着材から製品ガスを脱着させることにより吸着材を再生(脱着工程)させ、この吸着工程と脱着工程とを交互に繰り返すことにより連続的に製品ガスを取出し得るようにしたものである。一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライト、シリカ、アルミナなどが使用されており、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。
【0003】
COガスも、H,CO,CO,CH,Nなどの混合ガス(例えば製鉄所の転炉から発生する割合 CO:70%、CO :15%、N :15%の混合ガス)から、高純度のCOが、PSA法によって分離回収されている。COは他の共存成分と、分子径、分子量においてあまり差がないため、分子間の物理吸着力の差ではなく、化学吸着力の差を利用して分離回収される。COを効率的に、かつ高純度で回収するためには、CO吸着に関与するCu(I)量を増やし、COをより多量に、かつ選択的に吸着させることが必要であるとされてきた。この観点から、高比表面積の担体にCu(I)化合物を担持させ、またはCu(II)化合物を担持させたのちこれをCu(I)に還元し、加熱による活性化処理を行なうことによってCO吸着量を増大させた吸着材がすでに提案されており、たとえば銅担持シリカ、銅担持アルミナまたは銅担持シリカ-アルミナ系(特許文献1)、銅担持活性炭系(特許文献2)、銅担持ゼオライト系(特許文献3)がある。
【0004】
しかし、このように多孔体に銅化合物を担持した吸着材では、COが吸着材に強く吸着されるためにCOが脱着しにくく、塔内を加熱処理し吸着材からCOを脱着させる必要があった。加熱処理に伴いCu(I)は容易に酸化されるため、吸着材の劣化が問題となっている。
【0005】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる金属錯体が開発されている。この新規な動的構造変化を有する金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。この様にガスを吸着することで動的構造変化を有する金属錯体は新しい分離材として開発されている(特許文献4、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第1623870号
【特許文献2】特許第1696677号
【特許文献3】特許第1531878号
【特許文献4】特許第4258608号
【特許文献5】特開2010-265245公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ガス等の物質を選択的に吸着できる吸着材や、分離性能の高い分離材を提供することにある。並びに、該金属錯体を圧力スイング吸着法に適用し、種々の成分を含む混合ガスから一酸化炭素ガスのみ分離する分離材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、金属錯体を構成する有機架橋配位子の種類を選択して、具体的には、吸着される物質の種類、吸着圧力または吸着温度等により細孔の大きさ(構造) が変化する新規な外場応答型金属錯体を用いることにより、圧力スイング法や温度スイング法のいずれにおいても、物質を選択的に吸着することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示す金属錯体及び分離材を提供するものである。
(1)金属イオンと該金属イオンに配位可能な有機配位子とが繰り返し単位を構成する金属錯体であって、吸着されるガスの種類、吸着圧力または吸着温度により、吸着されるガスを高選択的に吸着することを特徴とする金属錯体。
(2)前記金属錯体が、一般式
【0010】
【化1】
JP0005705010B2_000002t.gif

【0011】
〔式中、MはCu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Mo2+、Cr2+から選択される2価の金属イオンであり、Rは2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族基を示す。〕で表される2核金属クラスター構造を有することを特徴とする金属錯体。
(3) 前記有機配位子が、以下の式1~式4のいずれかで表される化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の金属錯体:
【0012】
【化2】
JP0005705010B2_000003t.gif

【0013】
(式中、R~R30 はそれぞれ同一または異なって水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基(NH)、アミド基(CONH)、アジド基(N)、アセチルアミノ基、ニトロ基もしくはハロゲン原子を示す。)
(4) 前記有機配位子が、イソフタル酸、5-アジドイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸または5-メトキシイソフタル酸であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の金属錯体。
(5) 前記金属イオンが、Cu2+からなることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の金属錯体。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の金属錯体を含む分離材。
(7) 一酸化炭素若しくは一酸化窒素を分離することを特徴とする(6)に記載のガス分離材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属錯体は、さまざまな混合ガス中から特定の吸着成分を選択的に吸着分離することができる分離材として好適に使用することができる、具体的には、製鉄所や石油化学での副生ガス及び石油天然ガス等の改質ガス、部分酸化ガス、石炭タールサンド等の改質ガス、メタノール分解ガス等の主として水素、メタン、窒素、一酸化炭素ガスを含んだ混合ガスから一酸化炭素ガスを圧力スイング吸着法を用いて選択的に分離できる分離材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた金属錯体〔Cu(aip)〕nの結晶構造図。(a)単位構造 、(b)集積構造、(c)銅イオンの一次元チェーン構造。
【図2】実施例1の金属錯体の各種ガスの吸着等温線。
【図3】実施例1~4の金属錯体の100Kにおける一酸化炭素ガス吸着等温線。● 実施例1の金属錯体(5-アジドイソフタル酸)▲ 実施例2の金属錯体(5-メチルイソフタル酸) ■ 実施例3の金属錯体(5-メトキシイソフタル酸)× 実施例4の金属錯体(イソフタル酸)
【図4】比較例1の活性炭の一酸化炭素及び窒素の吸着等温線。
【図5】比較例2の金属錯体(Basolite C300(HKUST-1))の一酸化炭素及び窒素の吸着等温線。
【図6】一酸化炭素ガス吸着下での実施例1の結晶構造図。(a)単位構造、(b)集積構造、(c)単位細孔構造。
【図7】実施例1の一酸化炭素吸着および粉末X線回折同時測定結果。吸着、粉末X線同時測定装置であり、吸着等温線のA~J点は、それぞれの圧力下でのX線回折に対応する。
【図8】実施例1の一酸化炭素吸着前後の銅イオン周りの結晶構造変化図
【図9】実施例1の金属錯体を用いた混合ガス(窒素・一酸化炭素)吸着前、吸着後のガスクロマトグラフィー。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(金属錯体)
本発明の金属錯体は、金属イオンと有機配位子の反応により得られる錯体であり、その主鎖の繰り返し単位が配位結合によって結合しているものである。特に多孔性の金属錯体は多孔性金属錯体と呼ばれている。

【0017】
(金属元素)
錯体を構成する金属イオン(金属原子) としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、長周期型周期表における6族元素から12族元素の中から選択される元素のイオン(原子) が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2 種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記金属イオン二量体ユニットを形成可能とする観点から、{M(OOC-R-COO)}で示される2核金属クラスター構造をとるカルボン酸型クラスターが安定性の面より好ましい。

【0018】
ここで、Rは2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族基を示す。「COOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族基」とは、イソフタル酸と同様な方向に2つのCOOH基が結合している芳香族基を示し、ベンゼン環では1,3位、ナフタレン環では1,4位、ベンゾフェノンでは4,4’位、1,3-ジフェニルベンゼンでは、フェニル置換基の4,4’位にCOOH基を有する芳香族基を意味する。本発明で使用する有機配位子において2つのCOOH基は芳香環に結合している配位子が好ましい。

【0019】
2核カルボン酸型クラスターを構成する金属種としては、Cu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Mo2+、Cr2+から選択される2価の金属イオンが好ましく例示され、Cu2+を含有するクラスターが選択的な吸着現象を発現しやすい金属種である為、より好ましい。なお、前記金属イオンは、前記有機金属錯体構造体の製造の際の原料としては、該金属イオンを含む塩等の化合物を使用してもよい。

【0020】
(有機配位子)
前記有機配位子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記金属イオンに架橋可能な架橋配位子が好適に挙げられる。本発明の有機配位子は、2つのカルボン酸基(COOH)を有し、この2つのカルボン酸基が異なる金属イオンに配位することで架橋配位子として機能する。該有機配位子が前記架橋配位子である場合には、前記金属イオンと前記有機配位子とで前記金属錯体を形成することができる。前記有機配位子の具体例としては、比較的安定で高強度な前記金属錯体を形成する観点からは、環状構造を有する化合物が好適に挙げられる。前記環状構造を有する化合物としては、例えば、脂環式化合物及びその誘導体、芳香族化合物及びその誘導体、ヘテロ芳香族化合物及びその誘導体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、芳香族化合物及びその誘導体から選択されるものが好ましい。この場合、前記金属錯体においては、該有機配位子における架橋性部が他の金属イオンに対して架橋可能である。

【0021】
具体的な有機配位子としては、以下の式1~式4からなる配位子がより好ましい。

【0022】
【化3】
JP0005705010B2_000004t.gif

【0023】
(式中、R~R30 はそれぞれ同一または異なって水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基、アジド基、アセチルアミノ基、ニトロ基もしくはハロゲン原子を示す。)

【0024】
アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどの直鎖または分枝を有する炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。

【0025】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。

【0026】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシなどの直鎖または分枝を有する炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられる。

【0027】
ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。

【0028】
式1~4において、置換基の数は、1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1個または2個、特に1個である。

【0029】
容易に入手可能な式1の有機配位子である、イソフタル酸、5-アジドイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸が最も好ましい。

【0030】
(多孔性材料)
本発明の金属錯体は、多孔性材料である。多孔性材料は、多数の細孔を有する固体物質であり、細孔の大きさ分布,および細孔形状により特徴づけられる。本発明の金属錯体の細孔の大きさは,金属、有機配位子によって異なり, 2nm以下のものをミクロ孔(micropore),2~50nmのものをメソ(mesopore), 50nm以上のものをマクロ孔(macropore)と分類される。本発明の金属錯体は、ミクロ孔を有し均一な細孔構造を持つ、多孔性材料である。

【0031】
(金属錯体の製造方法)
本発明の金属錯体は、上述の金属元素の金属イオン、有機配位子、溶媒を混合して攪拌させるだけで得られることもあるが、ゼオライト合成と同様オートクレーブなどの耐圧容器に入れ高温・加圧下で反応させてもよい。

【0032】
金属イオンは、溶媒に溶解可能な金属化合物を反応溶媒に加えることで反応液中に供給できる。このような金属化合物としては金属の硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、過塩素酸塩、水酸化物、具体的には硝酸銅、酢酸銅、過塩素酸銅などが挙げられる。

【0033】
また反応する有機配位子のカルボキシル基は、酸のまま(COOH)でもアルカリ金属塩化(COONa、COOK、COOLiなど)しても良い。混合比は配位子の配位結合基に対し金属カチオンがモル比として1:1程度が好ましく、その比率をどちらかを過剰ないし大過剰に用いてもよい。

【0034】
反応温度は、通常、常温~300℃の間である。反応温度が余りに高いときには生成物が分解するおそれがあるので、好ましくは、250℃以下である。

【0035】
金属イオンの濃度としては、1~1000mmol/L程度、有機配位子の濃度としては、1~2000mmol/L程度である。

【0036】
反応時間、反応温度は合成のスケールによって一概には決められないが、低温であるほど長時間を要し、一般に30分~3週間である。反応を均一溶媒で実施する際は数時間程度で問題ないが、耐圧容器下、不均一条件で反応を実施する場合は長時間、具体的には1週間程度必要とする場合もある。反応圧力は常圧から4MPa程度である。

【0037】
(助触媒)
金属錯体の合成反応をより促進させるため沸酸、塩酸、蟻酸、酢酸、硝酸など少量の酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリを反応溶媒に加えてもよい。酸やアルカリは多量に用いると金属錯体の合成を妨げる為、配位子に対して0.1~10倍モル、好ましくは1~5倍モル程度が良い。

【0038】
(溶媒)
溶媒に関しては水、アセトン、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン等の有機溶剤のいずれを使用しても良く混合させても良い。溶媒の使用量に関しては特に限定はないものの、重量基準で10~2000倍程度が反応制御の容易さの点で好ましい。

【0039】
(金属錯体の洗浄、単離操作)
反応終了後、沈殿物をろ過、遠心分離することによって、生成物を簡単に単離することができる。生成物単離後は、必要に応じ水や有機溶媒による洗浄を行う。単離された生成物を吸着材として使用するためには、これを速やかに減圧下で加熱することによって、脱溶媒することが特に好ましい。脱溶媒することにより金属錯体が安定化して多孔質構造が維持される傾向にある。その加熱温度は、50~200℃程度が好適である。なお脱溶媒せずに長時間、例えば数日間放置すると、金属錯体の結晶構造が変わり、比表面積が減少し吸着材、触媒としての性能を損ねる場合があり得る。

【0040】
(金属錯体の形状)
このような本発明の金属錯体の形状は、特に制限されないが、粒子状或いは膜状であることが好ましい。形状が粒子状の場合、粒子の平均粒径は0.01~100μmであることが好ましく、膜状の場合、膜厚は0.01~50μmであることがより好ましく、0.1~50μmであることが特に好ましい。

【0041】
(用途)
本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1~4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物(SOなど)、窒素酸化物(NO,NO,N,NOなど)、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気など、特にCOを効率よく分離することができる。本発明の分離材は、特に、製鉄所や石油化学での副生ガス及び石油天然ガス等の改質ガス、部分酸化ガス、石炭タールサンド等の改質ガス、メタノール分解ガス等の主として水素、メタン、窒素、一酸化炭素ガスを含んだ混合ガスから一酸化炭素ガスを圧力スイング吸着法により分離するのに適している。
【実施例】
【0042】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
尚、金属錯体の吸着特性は、以下の装置及び条件にて評価した。
<吸着測定装置>
吸着等温線測定装置 :ベルソープ18(日本ベル(株)製)
空気恒温槽温度 :50℃
吸着温度 :-196℃(窒素)、-192℃(一酸化炭素)、-78℃(二酸化炭素、アセチレン)
初期導入圧力 :0.01kPa
飽和蒸気圧 :101kPa
平衡時間 :500秒
【実施例】
【0044】
また、ガスクロマトグラフィーに関しては、以下の装置及び条件に示す方法にて実施した。
<ガスクロマトグラフ>
高性能汎用ガスクロマトグラフ :GC-2014(株式会社 島津製作所 製)
キャピラリカラム :RT-Msieve 5A(RESTEK社 製)
カラム温度 :35℃
キャリアガス :He
圧力:76.0kPa
全流量 :37.9mL/min
カラム流量 :1.13mL/min
検出器温度 :50℃
気化室温度 :50℃
【実施例】
【0045】
<X線単結晶構造解析>
尚、金属錯体の単結晶X線回折の測定は、単結晶X線回折装置を用い、ターゲットにMoを有するX線管球から発生したX線を試料に照射し、試料により回折された回折X線を検出することにより行なった。
【実施例】
【0046】
X線回折装置:極微小結晶用単結晶構造解析装置VariMax(株式会社リガク製)
使用X線:MoKa線(l = 0.71069A)
測定温度:-180℃
結晶サイズ:0.05x0.05x0.05ミリメートル
【実施例】
【0047】
<粉末X線回折測定>
尚、金属錯体の粉末X線回折の測定は、SPring-8において行い、シンクロトロンから発生した高輝度X線を試料に照射し、試料により回折された回折X線を検出することにより行なった。
使用X線:シンクロトロン(l = 1.09910A)
測定温度:-173℃
キャピラリサイズ:内径0.4ミリメートル
【実施例】
【0048】
<吸着、粉末X線同時測定装置>
尚、金属錯体の吸着および粉末X線同時測定は、以下の装置および条件に示す方法にて実施した。
吸着測定装置
吸着等温線測定装置 :ベルソープ18(日本ベル(株)製)
空気恒温槽温度 :50℃
吸着温度 :-153℃
初期導入圧力 :0.01kPa
平衡時間 :500秒
【実施例】
【0049】
粉末X線測定装置
粉末X線測定装置 :試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV(株式会社 リガク製)
検出器 :高速1次元X線検出器D/teX Ultra(株式会社 リガク製)
測定温度 :-153℃
2θ掃引速度 :5°/min
測定範囲 :5.2°<2θ<40°
【実施例】
【0050】
実施例1
[5-アジドイソフタル酸の合成]
5-アミノイソフタル酸(東京化成(株)製:試薬)5gの2mol/リットル塩酸溶液500mlを0℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム(和光純薬社製: 試薬)2gの水溶液50mlを15分間かけて加え、得られた溶液を0℃で15分間撹拌した。得られた黄色溶液にアジ化ナトリウム(和光純薬社製: 試薬)1.9gの水溶液50mlを20分間で加え、0℃で30分撹拌し、室温に戻した後、さらに12時間撹拌を続けた。析出した固体をろ別、水にて洗浄したのち、乾燥させることで、5-アジドイソフタル酸を収率94%で得た。
【実施例】
【0051】
[金属錯体の合成1]
硝酸銅3水和物24 mg(0.1 mmol)およびピリジン0.01mLをメタノール2.5mlに溶解させてB液とし、直管に仕込んだ。次いで、C液としてメタノール0.5mlを、上記の直管のB液の上に静かに加えた。そして、aip(5-アジドイソフタル酸)21mg(0.1mmol)をメタノール2mlに溶解させてA液とし、これを上記直管のC液の上に静かに加えた。その後、直管を静置したところ、各液は徐々に混合していき、室温にて2週間放置し、生じた水色結晶を吸引濾過した後、室温にて真空乾燥したところ、目的物である錯体が20mg得られた。
この結晶について単結晶X線回折を行い、構造を解析した結果を図1の( a ) 、( b )に示す。まず、銅イオンとaipがパドルホイール型二核錯体を形成し、aipがそれら二核錯体を連結することで、2次元シート構造を形成していることが分かった。さらにその2次元シート同士が積層し、1次元細孔を形成しており、得られた金属錯体の組成式が、〔Cu(aip)(HO)〕で表されることが判明した。この構造体の乾燥状態の粉末X線回折を解析することにより得られた構造を、図1( c )に示す。乾燥状態においては、カルボキシレートの酸素原子が銅イオンに配位し、1次元チェーン構造を形成していることがわかる。
【実施例】
【0052】
[吸着測定]
実施例1で得られた金属錯体について、各種ガス(一酸化炭素、窒素、アセチレン、炭酸ガス(二酸化炭素))の沸点付近温度(一酸化炭素 81K、窒素 77K、 アセチレン 195K、二酸化炭素 195K ) における吸脱着等温線を、定容量法により測定した。その結果を図2に示す。図から明らかなように、一酸化炭素ガスのみを他のガスよりも多量に吸着した。
【実施例】
【0053】
実施例2.
[金属錯体の合成2]
硝酸銅3水和物24 mg(0.1 mmol)およびピリジン0.01mLをメタノール2.5mlに溶解させてB液とし、直管に仕込んだ。次いで、C液としてメタノール0.5mlを、上記の直管のB液の上に静かに加えた。そして、mip(5-メチルイソフタル酸)18mg(0.1mmol)をメタノール2mlに溶解させてA液とし、これを上記直管のC液の上に静かに加えた。その後、直管を静置したところ、各液は徐々に混合していき、室温にて2週間放置し、生じた水色結晶を吸引濾過した後、室温にて真空乾燥したところ、目的物である錯体、組成式が、〔Cu(mip)(HO)〕で表されるものが22mg得られた。
【実施例】
【0054】
実施例3.
[金属錯体の合成3]
硝酸銅3水和物24 mg(0.1 mmol)およびピリジン0.01mLをメタノール2.5mlに溶解させてB液とし、直管に仕込んだ。次いで、C液としてメタノール0.5mlを、上記の直管のB液の上に静かに加えた。そして、moip(5-メトキシイソフタル酸)20mg(0.1mmol)をメタノール2mlに溶解させてA液とし、これを上記直管のC液の上に静かに加えた。その後、直管を静置したところ、各液は徐々に混合していき、室温にて2週間放置し、生じた水色結晶を吸引濾過した後、室温にて真空乾燥したところ、目的物である錯体、組成式が、〔Cu(moip)(HO)〕で表されるものが24mg得られた。
【実施例】
【0055】
実施例4.
[金属錯体の合成4]
硝酸銅3水和物24 mg(0.1 mmol)およびピリジン0.01mLをメタノール2.5mlに溶解させてB液とし、直管に仕込んだ。次いで、C液としてメタノール0.5mlを、上記の直管のB液の上に静かに加えた。そして、ipa(イソフタル酸)17mg(0.1mmol)をメタノール2mlに溶解させてA液とし、これを上記直管のC液の上に静かに加えた。その後、直管を静置したところ、各液は徐々に混合していき、室温にて2週間放置し、生じた水色結晶を吸引濾過した後、室温にて真空乾燥したところ、目的物である錯体、組成式が、〔Cu(ipa)(HO)〕で表されるものが11mg得られた。
【実施例】
【0056】
実施例2~4の金属錯体も実施例1の金属錯体と同様、一酸化炭素ガスのみを他のガスよりも多量に吸着した。また置換基を変えることで、一酸化炭素ガスの吸着の開始圧力に変化が見られた。その結果を図3に示す。これにより吸着の開始点は置換基により制御可能であることも判明した。
【実施例】
【0057】
比較例1.
多孔性材料としてよく知られる活性炭を120℃、真空下で減圧乾燥することにより、結晶水及び付着水を除去した後、実施例1.と同様に一酸化炭素及び窒素の沸点における吸脱着等温線を、定容量法により測定した。その結果を図4に示す。細孔を有するだけではガス吸着量に差は生じないことがわかる。
【実施例】
【0058】
比較例2.
トリメシン酸及び銅金属からなる金属錯体(Basolite C300(HKUST-1))は配位不飽和金属部位を有する金属錯体として知られている。120℃、真空下で減圧乾燥することにより、結晶水及び付着水を除去した後、実施例1.と同様に一酸化炭素及び窒素の沸点における吸脱着等温線を、定容量法により測定した。その結果を図5に示す。細孔及び配位不飽和金属部位を有してもガス吸着量に差は生じないことがわかる。
【実施例】
【0059】
一酸化炭素ガスのみを多量に吸着する原因の解明の為、強力な放射光実験が可能であるSPring-8にて、一酸化炭素ガス吸着下での実施例1の粉末回折を行った。解析により得られた一酸化炭素ガス吸着下での金属錯体の構造を、図6に示す。図6中の( a ) 、( b ) 、( c ) は、金属錯体の単位構造、集積構造及び単位細孔構造を示す。これにより銅イオンに一酸化炭素が配位した構造であることがわかる。
【実施例】
【0060】
吸着、粉末X線同時測定装置により一酸化炭素吸着下での粉末X線構造をモニターした結果を図7に示す。これによるとC点から一酸化炭素の吸着により構造変化が誘起され、G点では図6の結晶構造へと変化したことがわかった。また、その吸脱着は可逆的であり、脱着により図1の乾燥状態の結晶構造へと戻る(J点)こともわかった。
【実施例】
【0061】
本発明の金属錯体が一酸化炭素ガスのみを選択的に多量に吸着する理由をまとめると、乾燥状態ではカルボキシレートの酸素原子により連結された銅イオン1次元チェーン構造が、一酸化炭素の吸着により構造変化を誘起され、一酸化炭素が配位した構造へと変化し、細孔構造が変化することが原因であることがわかった。(図8)
【実施例】
【0062】
最後に本発明の金属錯体を用いた、一酸化炭素及び窒素の混合ガス中から一酸化炭素ガスのみを選択的に分離した結果を示す。実施例1の金属錯体を入れたサンプルを一酸化炭素/窒素混合ガス(50%/50%)気流下で室温から81Kまで冷却した。吸着されていないガスを排気した後、室温まで温度を上げ、サンプルに吸着したガスを放出させ、そのガスをガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果を図9に示す。吸着ガスの一酸化炭素/窒素の混合比は、85%/15%であり、混合ガス中の一酸化炭素ガスを簡易に濃縮できることも判明した。
【実施例】
【0063】
この特徴を利用することにより、従来の分離材を用いる場合に比べて、分離性能の高いガス分離が可能である。特に、種々の成分を含む混合ガスから一酸化炭素ガスのみを圧力スイング吸着法を用いて選択的に分離できる分離材を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8