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明細書 :レーザー素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3585891号 (P3585891)
公開番号 特開2003-229619 (P2003-229619A)
登録日 平成16年8月13日(2004.8.13)
発行日 平成16年11月4日(2004.11.4)
公開日 平成15年8月15日(2003.8.15)
発明の名称または考案の名称 レーザー素子
国際特許分類 H01S  3/06      
FI H01S 3/06 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2002-025040 (P2002-025040)
出願日 平成14年2月1日(2002.2.1)
審査請求日 平成14年2月1日(2002.2.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】平等 拓範
【氏名】庄司 一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】古田 敦浩
参考文献・文献 特開平06-097545(JP,A)
特開平07-066257(JP,A)
特開平08-220301(JP,A)
特開2001-235775(JP,A)
調査した分野 H01S 3/00-3/30
G02F 1/29-7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
光伝搬方向を等軸晶系に属するレーザー結晶の(111)軸方向以外に選び、中心対称的に誘起されるストレスによる光弾性効果に基づく複屈折効果を低減することを特徴とするレーザー素子。
【請求項2】
請求項1記載のレーザー素子において、前記光伝搬方向を前記レーザー結晶の(100)方位に選ぶことを特徴とするレーザー素子。
【請求項3】
請求項1記載のレーザー素子において、前記光伝搬方向を前記レーザー結晶の(110)方位に選ぶことを特徴とするレーザー素子。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザー素子に係り、特に、YAGレーザーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、本発明にかかる参考文献として以下に示すようなものがあった。
【0003】
〔1〕:W.Koechner,Solid-State Laser Engineering(Springer-Verlag,Berlin,1996),pp.393-412.
〔2〕:W.C.Scott and M.de Wit,“Birefringence compensation and TEM00 mode enhancement in a Nd:YAG laser,” Appl.Phys.Lett.18,3-4(1971).
〔3〕:K.Yasui,“Efficient and stable operation of a high-brightness cw 500-W Nd:YAG rod laser,” Appl.Opt.35,2566-2569(1996).
〔4〕:W.A.Clarkson,N.S.Felgate,and D.C.Hanna,“Simple method for reducing the depolarization loss resulting from thermally induced birefringence in solid-state lasers,”Opt.Lett.24,820-822(1999).
〔5〕:W.Koechner and D.K.Rice,“Effect of birefringence on the performance of linearly polarized YAG:Nd lasers,”IEEE J.Quantum Electron.QE-6,557-566(1970).
〔6〕:W.Koechner and D.K.Rice,“Birefringence of YAG:Nd laser rods as a function of growth direction,”J.Opt.Soc.Am.61,758-766(1971).
〔7〕:I.Shoji,Y.Sato,S.Kurimura,V.Lupei,T.Taira,A.Ikesue,and K.Yoshida,“Thermal birefringence in Nd:YAG ceramics,” Trends in Optics and Photonics Vol.50,Advanced Solid-State Lasers,C.Marshall,ed.(Optical Society of America,Washington,DC 2001),pp.273-278.
〔8〕:L.N.Soms,A.A.Tarasov,and V.V.Shashkin,“Problem of depolarization of linearly polarized light by a YAG:Nd3+ laser-active element under thermally induced birefringence conditions,”Sov.J.Quantum Electron.10,350-351(1980).
〔9〕:V.Parfenov,V.Shashkin,and E.Stepanov,“Numerical investigation of thermally induced birefringence in optical elements of solid-state lasers,”Appl.Opt.32,5243-5255(1993).
固体レーザーの高出力化、高品質化を図る際に、励起に伴って媒質内で生じる熱複屈折は大きな問題となる。熱複屈折によって生じるデポラリゼーション(もとの直線偏光に対して垂直方向に発生した偏光成分の割合;Dpol =P⊥/Pinitial )を補償して直線偏光を得るために、これまでレーザー媒質の配置や光学素子との組み合わせなどにさまざまな工夫がなされてきた。
【0004】
固体状態のレーザー材料において励起に伴い誘起される熱複屈折効果は、レーザーの高出力、高品質化を図る上で深刻な問題である。なぜならば、直線的に偏光したビームの2焦点化(bifocusing)やデポラリゼーションを引き起こすからである(参考文献〔1〕)。
【0005】
これらの現象はYAGなどの固体レーザーの高出力化の際に大きな障害となった。これまでは発生したデポラリゼーションを補償するために、90°回転子(rotator)や、4分の1波長板などを用いたいくつかの技術が提案された(参考文献〔2〕~〔4〕)。こうした補償は、(111)カットのYAG結晶のみに対して適用された。その理由は、(111)面の複屈折は円形に対称(circularly symmetrical)であることと、もう一つは、YAGロッドは通常(111)方向に沿って成長するために、(111)カットのロッドを用いることは都合が良いからである。
【0006】
このように、代表的なレーザー材料であるYAG結晶は、従来(111)方向に成長したロッドが用いられてきた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したように、従来のYAGレーザーでは、光の伝搬方向を(111)軸方向に設定していたため、励起に付随して発生する熱誘起歪みによる光弾性効果から生ずる複屈折(熱複屈折)を解消するために、共振器内部に余計な光学部品を挿入したり、ジグザグスラブ形式にするなど特殊な形状配置を採用する必要があった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑み、熱複屈折効果を大幅に低減させることができるレーザー素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕レーザー素子において、光伝搬方向を等軸晶系に属するレーザー結晶の(111)軸方向以外に選び、中心対称的に誘起されるストレスによる光弾性効果に基づく複屈折効果を低減することを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載のレーザー素子において、前記光伝搬方向を前記レーザー結晶の(100)方位に選ぶことを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔1〕記載のレーザー素子において、前記光伝搬方向を前記レーザー結晶の(110)方位に選ぶことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明の第1実施例を示す、(100)カットのYAG結晶による熱誘起複屈折デポラリゼーションの低減について説明する。
【0014】
YAGを始めとする立方晶系結晶では、光の伝播方向が(111)面に垂直な場合、熱分布が軸対称であれば面内での熱複屈折は角度に依存せず一定となる。
【0015】
一方、(111)面以外では角度依存性を持つ。
【0016】
図1はかかるデポラリゼーションの偏光方向依存性の測定結果を示す図である。ここで、横軸は偏光角度θP (度)、縦軸はデポラリゼーションDpol を示している。図2は本発明にかかるデポラリゼーションの吸収励起パワー依存性計算結果を示す図であり、横軸は吸収励起パワーPab(W)、縦軸はデポラリゼーションDpol を示している。
【0017】
過去にKoechnerとRiceはさまざまな面方位で熱複屈折の角度依存性を計算し、吸収励起パワーが小さいときには適当な面方位と偏光方向を選べば、(111)面よりもデポラリゼーションを低減できるが、吸収励起パワーが一定値を越えると、面方位による差異はほとんど無くなると主張した(図2の点線参照)。彼らは、その際、どの面方位でも複屈折が軸対称面内の動径方向と接線方向との間で起こるとしていた。ところが、実際には、それは(111)面に対してのみ正しく、他の面では複屈折軸が動径・接線方向とは一致せずに、そのずれの大きさが角度依存性を持つことが分かった。
【0018】
本願発明者らはその影響を考慮して再度デポラリゼーションの吸収励起パワー依存性を計算したところ、どんなに吸収励起パワーが大きくても、(100)面内で結晶軸と45°の角度をなす直線偏光では、(111)面内の直線偏光に対してデポラリゼーションを半分以下に低減できることが明らかになった(図2実線参照)。
【0019】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
【0020】
ここでは、(110)カットのYAG結晶による熱誘起複屈折デポラリゼーションの低減について説明する。
【0021】
デポラリゼーションは、もとの直線的に偏光したレーザ光に対する、偏光解消パワー(depolarized power)の割合として定義し、次式により与えられる。
【0022】
【数1】
JP0003585891B2_000002t.gif円筒状のロッドにおける、ビーム伝搬方向(z軸)に垂直な面での各点(r,Φ)における、デポラリゼーションの全体量Dは、次式となる。
【0023】
D=sin2 〔2(θ-γ)〕sin2 (Ψ/2) …(2)
ここで、θはx軸と、複屈折固有ベクトル(xy平面上の屈折率楕円の主軸)のうちの1つとの間の角度であり、γはx軸と、もとの偏光方向との間の角度である。位相差Ψは、熱誘起複屈折Δnにより、
JP0003585891B2_000003t.gifにより与えられる。一様なポンピング(uniform pumping)の場合、λはレーザー波長、Ωは光弾性係数により与えられる複屈折パラメーター、r0 はロッド半径、αl は線膨脹係数、νはポアッソン比、ηh は励起パワーのうち熱に変換される割合(fractional thermal loading)、Pabは吸収励起パワー、κは熱伝導率、Lはロッド長である。
【0024】
KoechnerとRiceは、様々な方向からNd:YAGロッドの熱誘起複屈折を分析し(参考文献〔5〕、〔6〕)、図3に示すように、高吸収パワー領域の極限では、デポラリゼーションの量はロッド方向に依存しないという結論を出した。しかし、この理論には二つの誤りがある。一つは、どの面においてもθ=Φとしているが、これは(111)面にしか当てはまらない。なぜならば、(111)、(100)、(110)面におけるθとΦとの正確な関係はそれぞれ、
JP0003585891B2_000004t.gifにより与えられるからである。ここで、pmnは光弾性係数テンソルであり、(100)面におけるθのΦへの依存性を図4の長点線で示している。(110)面における依存性は、r値が異なると変化し、図4の点線で示している。もう一つの誤りは、各面におけるΩ値である。参考文献〔5〕、〔6〕では、Ωを上記式(3)でr=r0 に固定して再定義した。(111)、(100)及び(110)面における正確なΩはそれぞれ、
JP0003585891B2_000005t.gifにより与えられる。再定義をしても(111)および(100)面におけるΩは変化しないが、(110)面ではΩがrに依存しているため正確な値は得られない。
【0025】
なお、図5では各面におけるΩr2 /r0 2 の計算値をΦの関数として示している。(111)及び(100)面では、r値が変化すると大きさだけが変化し形は変わらない(相似形)が、(110)面では、大きさだけでなく形も変化する。
【0026】
図6に、レーザー光の半径ra がロッド半径r0 に等しい場合の、吸収励起パワーに対するデポラリゼーションの正確な依存性を示す。また、図6における低吸収パワー領域の拡大図を図7として示す。
【0027】
デポラリゼーションは、高吸収パワー領域においても面方位および偏光方向に依存し、ra =r0 の場合、(111)、(100)及び(110)面のうち(100)面における45°偏光の場合に最も小さくなり、高吸収パワー領域では(111)面の2分の1、低吸収パワー領域では6分の1である。参考文献〔7〕に記載されている励起-プローブ測定を用いて、本願発明者らの計算が正しいことが実験により証明された。
【0028】
実験ではエンド・ポンピングにより評価したので、絶対値は異なるが、図8に示す実験データの相対値は、図7の理論上の曲線とほぼ合致しており、参考文献〔5〕、〔6〕の曲線とは合致しない。
【0029】
参考文献〔5〕、〔6〕の理論の2つの誤りのうち、(111)を除く他の面において,θがΦと一致しないという事実はすでに指摘されていたが、デポラリゼーションの依存性は(100)面に対してだけしか正確に得られなかった(参考文献〔8〕,〔9〕)。しかしながら、本願発明者らは、ra がr0 より小さいという条件の下で(110)カットのロッドを用いることにより、デポラリゼーションが大幅に低減できることを発見した。
【0030】
図4に示すように、rがr0 程度に大きい場合、θはΦに近くなる。つまり、各点における固有ベクトルの向きが、ほぼ半径方向および接線方向となる。
【0031】
一方、rが小さい場合、いずれのΦにおけるθも0°または90°に近くなる。このことは、すべての固有ベクトルがX軸方向およびY軸方向に直線上に並んでいることを意味している。この特性により、偏光方向がX軸またはY軸方向に近い場合、ロッド半径より小さな半径を有するビームであれば、ほとんどデポラリゼーションせずに、ロッドを通って伝搬することができる。
【0032】
図9は、ra =r0 /4の場合の、吸収励起パワーに対するデポラリゼーションの依存性の例を示している。(100)面におけるデポラリゼーション量は(111)面の半分に過ぎないが、(110)面においてはΔnそのものは(111)面より(110)面の方が大きいにもかかわらず、(111)面のほぼ1/50に低減している。こうした条件は、一様なポンピングの場合、アパーチャー(開口)によりビームサイズを制御して実現することができる。
【0033】
一方、エンド・ポンピングの場合は、集束した励起ビームそのものがゲイン・アパーチャーの役割を果たすために、この条件を容易に満たすことができる。ドーピングしたYAGがドーピングしていないYAGに取り囲まれているような複合材料でも、同様の条件を実現できる。
【0034】
結論として、参考文献〔5〕、〔6〕の論文における誤りは、理論からも実験からも実証され、デポラリゼーションは、(100)および(110)面を用いることにより、本質的に低減できることがわかった。特に、小さな半径を有するビームと組み合わせた(110)カット結晶を用いることにより、(111)カット結晶を用いた場合と比べて、一桁以上もデポラリゼーションを低減することができる。
【0035】
このように構成したので、Y3 Al5 12レーザーにおける、熱複屈折効果によるデポラリゼーションは、(111)以外の方向のロッドカットを用いることにより、補償なしで本質的に低減できる。(110)カット結晶を使用することによって、従来の(111)カット結晶を使用した場合に比べて、デポラリゼーションを1/10以下に削減することが期待できる。
【0036】
なお、上記実施例によれば、YAGレーザーを例に挙げて説明しているが、YAGレーザーに限らず、他の等軸結晶系の結晶を用いたレーザー素子に適用できるものであり、そのレーザー素子のデポラリゼーションを低減することができるものである。
【0037】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0038】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下に示すような効果を奏することができる。
【0039】
(A)光の伝搬方位を(111)軸方位以外に選ぶだけで、熱複屈折効果を減少させることができる。
【0040】
(B)(100)又は(110)カットの試料を用いれば、熱複屈折効果を大幅に低減することができる。
【0041】
(C)特に、(110)カット媒質を使用することによって、(111)カット媒質を使用した場合に比べて、デポラリゼーションを一桁以上補償なしに削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】デポラリゼーションの偏光方向依存性の測定結果を示す図である。
【図2】本発明にかかるデポラリゼーションの吸収励起パワー依存性計算結果を示す図である。
【図3】参考文献〔5〕、〔6〕の理論を用いて計算した、(111)、(100)及び(110)面における、デポラリゼーションの吸収励起パワーへの依存性を示す図である。
【図4】(111)、(100)及び(110)面における、θとΦとの関係を示す図である。
【図5】各面におけるΩr2 /r0 2 の計算値をΦの関数として示す図である。
【図6】ra =r0 の場合の、(111)、(100)及び(110)面における、デポラリゼーションの吸収励起パワーへの正確な依存性を示す図である。
【図7】図6における低吸収パワー領域を水平方向に拡大した図である。
【図8】(111)、(100)及び(110)面における、測定結果に基づくデポラリゼーションの吸収励起パワーへの依存性を示す図である。
【図9】ra =r0 /4の場合の、(111)、(100)及び(110)面における、デポラリゼーションの吸収励起パワーへの依存性を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8