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明細書 :有機無機複合生体材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4408603号 (P4408603)
公開番号 特開2003-190271 (P2003-190271A)
登録日 平成21年11月20日(2009.11.20)
発行日 平成22年2月3日(2010.2.3)
公開日 平成15年7月8日(2003.7.8)
発明の名称または考案の名称 有機無機複合生体材料およびその製造方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
FI A61L 27/00 G
A61L 27/00 J
請求項の数または発明の数 10
全頁数 17
出願番号 特願2002-065778 (P2002-065778)
出願日 平成14年3月11日(2002.3.11)
優先権出願番号 2001322255
優先日 平成13年10月19日(2001.10.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年11月18日(2004.11.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
発明者または考案者 【氏名】田中 順三
【氏名】菊池 正紀
【氏名】伊藤 典一
【氏名】萬代 佳宣
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
審査官 【審査官】川口 裕美子
参考文献・文献 米国特許第05231169(US,A)
特開昭64-034372(JP,A)
Masanori Kikuchi et al,Preparation of hydroxyapatite/collagen composites using biomimetic process and their biocompatibility,Materials Research Society Symposium Proceedings,2000年,vol.599,pp.51-53
Masanori Kikuchi et al,The biomimetic synthesis and biocompatibility of self-organized hydroxyapatite/collagen composites,Bioceramics, Proceedings of the International Symposium on Ceramics in Medicine,2001年 2月28日,vol.12,pp.393-396
菊池政紀他,水酸化アパタイト/コラーゲン自己組織化複合体の架橋による物性変化と骨組織反応,整形外科セラミック・インプラント研究会プログラム・抄録集,2000年,p.14
調査した分野 A61L 27/00
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
平均繊維長が60μm以上かつ7mm以下のハイドロキシアパタイトと酵素可溶化コラーゲンを含み、ハイドロキシアパタイトのc軸がコラーゲン繊維に沿うように配向した微小多孔質構造を有する複合体で構成される、有機無機複合生体材料。
【請求項2】
ハイドロキシアパタイトとコラーゲンの重量比が3:2~9:1であることを特徴とする、請求項1記載の有機無機複合生体材料。
【請求項3】
反応容器内におけるカルシウムイオン濃度を3.75mM以下、リン酸イオン濃度を2.25mM以下に維持するように、カルシウム塩水溶液の平均送液速度が5~25ml/minで、リン酸塩水溶液はカルシウム塩水溶液と同時に滴下し終わ送液速度で、400mM以下のカルシウム塩水溶液と酵素可溶化コラーゲンを含む120mM以下のリン酸塩水溶液を、純水を含む反応容器内に同時に導入するステップであって、反応容器中の濃度が、出発物質濃度×平均送液速度/反応容器中の純水の量で求められる上記ステップと、得られた複合体を加圧成形するステップを含む、請求項1または2記載の有機無機複合生体材料の製造方法。
【請求項4】
前記反応容器内の反応液のpHが7~11であることを特徴とする、請求項記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応液の温度が35~40℃であることを特徴とする、請求項3または4記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記方法で得られた有機無機複合生体材料中のコラーゲンに架橋を導入する工程を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記架橋が、グルタールアルデヒドを用いた架橋反応によって導入されることを特徴とする、請求項記載の製造方法。
【請求項8】
前記グルタールアルデヒドが、有機無機複合生体材料中のコラーゲン1gに対して10μmol~10mmol用いられることを特徴とする、請求項記載の製造方法。
【請求項9】
コラーゲンが架橋されていることを特徴とする、請求項1または2記載の有機無機複合生体材料。
【請求項10】
シート状、スポンジ状、または多孔体状に成形された、請求項1、2および9から選ばれるいずれか1項に記載の有機無機複合生体材料。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コラーゲンとハイドロキシアパタイトを含む有機無機複合生体材料およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、平均繊維長が60μm以上の自己組織化に優れた有機無機複合生体材料、該生体材料に架橋を導入して生体内分解性を改善した有機無機複合生体材料、およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、骨欠損部の再生医療には患者自身の腸骨や脾骨等が使用される場合が多い。しかし、自家骨の使用は患者への負担が大きく、採取量も限られるため、人工骨や人工補填材による補充が必要となる。こうした人工生体材料に求められる性質は、生体骨に近い強度や弾性等の機械的性質と生体適合性、骨伝導性等の生理学的性質である。
【0003】
元々脊椎動物の骨は無機物のハイドロキシアパタイト(HAp)と有機物のコラーゲンからなる複合体である。これらは、生体骨中でHApがそのc軸方向にコラーゲン繊維に沿って配向した特有のナノコンポジット構造を形成(自己組織化)し、この構造が骨に特有の機械的性質を与えている。すなわち、単にHApとコラーゲンを組み合わせただけでは、生体骨同様の構造や特性を得ることはできない。
【0004】
一方、こうした人工生体材料には生体への親和性に加えて、骨組織と融合し、骨再生を積極的に促す効果も必要である。つまり、生体適用後徐々に吸収され、骨再生サイクルに取り込まれて自身の骨に置換していくための、骨伝導性や生体活性が求められる。その点において、無機物であるHApは骨親和性に優れ、有機物であるコラーゲンは細胞接着性、細胞分化を促進する効果を有するため、両者の複合体には優れた人工生体材料としての性質が期待される。
【0005】
そこで、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンを用いて、より生体骨に近い有機無機複合生体材料を開発するための様々な検討がなされてきた。例えば、特開平7-101708号公報には、コラーゲン溶液とリン酸の混合溶液を水酸化カルシウムの懸濁液中に徐々に添加して、生体骨類似のヤング率を有する成形体を得るアパタイト・有機物複合体の製造方法が開示されている。また、特開平11-199209号公報には、反応時のpHと温度を制御しながら、コラーゲンを含有するリン酸水溶液とカルシウム塩を含有する水溶液を反応容器に同時滴下し、生じた共沈物を加圧成形することで生体骨類似の成形物を得る、有機無機配向性複合材料の製造方法が開示されている。さらに、特開平2000-5298号公報には、有機酸を用いてコラーゲン表面へのアパタイト形成を向上させる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの従来技術で得られる複合体の繊維長は数μm~20μm程度で、いまだ十分な自己組織化を実現するには至っていなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、かかるコラーゲンとハイドロキシアパタイトの複合体において、自己組織化をより促進するための最適な条件を見出すとともに、人工骨材に適した機械的強度と生体内分解性を有する有機無機複合生体材料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、骨形成が起きる際の生体内微小環境をより忠実に再現することができれば、自己組織化に優れた複合体が得られると考え、種々の条件設定を試みた。そして、出発段階でのコラーゲン、カルシウム塩、リン酸塩の濃度と送液速度を制御することで、反応容器内部でのこれら成分の濃度を最適化すれば、従来にない長い繊維を有する複合体が得られることを見出した。さらに、該複合体において、コラーゲンに架橋を導入することによって、その生分解性を制御できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(14)を提供するものである。
(1)平均繊維長が60μm以上のハイドロキシアパタイトとコラーゲンを含む複合体で構成される、有機無機複合生体材料。
(2)前記複合体が、ハイドロキシアパタイトのc軸がコラーゲン繊維に沿うように配向した微小多孔質構造を有する、上記(1)記載の有機無機複合生体材料。
(3)前記コラーゲンが、酵素可溶化コラーゲンである、上記(1)または(2)記載の有機無機複合生体材料。
(4)反応容器内におけるカルシウムイオン濃度を3.75mM以下、リン酸イオン濃度を2.25mM以下に維持するように、カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含むリン酸塩水溶液を反応容器内に同時適下し、得られた複合体を加圧成形する、上記(1)~(3)のいずれか1に記載の有機無機複合生体材料の製造方法。
(5)前記反応容器内において、生成するハイドロキシアパタイトとコラーゲンの重量比が3:2~9:1であることを特徴とする、上記(4)記載の製造方法。
(6)以下の1)および/または2)を制御することにより、前記反応容器内部のカルシウムイオン濃度およびリン酸イオン濃度を維持することを特徴とする、上記(4)または(5)記載の製造方法。
1)カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含むリン酸塩水溶液の反応容器への送液速度
2)カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含むリン酸塩水溶液の出発段階の濃度
(7)生成するハイドロキシアパタイトとコラーゲンの重量比が70:30~85:15に維持される場合において、カルシウム塩水溶液の平均送液速度が5~25ml/min、出発段階でのカルシウム塩水溶液濃度が400mM以下、リン酸塩水溶液濃度が120mM以下であることを特徴とする、上記(6)記載の製造方法。
(8)前記反応容器内の反応液のpHが7~11であることを特徴とする、上記(4)~(7)のいずれか1に記載の製造方法。
(9)前記反応液の温度が35~40℃であることを特徴とする、上記(8)記載の製造方法。
(10)さらに、前記方法で得られた有機無機複合生体材料中のコラーゲンに架橋を導入する工程を含む、上記(4)~(9)のいずれか1に製造方法。
(11)前記架橋が、グルタールアルデヒドを用いた架橋反応によって導入されることを特徴とする、上記(10)記載の製造方法。
(12)前記グルタールアルデヒドが、有機無機複合生体材料中のコラーゲン1gに対して10μmol~10mmol用いられることを特徴とする、上記(11)記載の製造方法。
(13)コラーゲンが架橋されていることを特徴とする、上記(1)~(3)から選ばれるいずれか1に記載の有機無機複合生体材料。
(14)シート状、スポンジ状、または多孔体状に成形された、上記(1)~(3)および(13)から選ばれるいずれか1に記載の有機無機複合生体材料。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の内容について詳述する。
1.本発明の有機無機複合生体材料
本発明の有機無機複合生体材料は、平均繊維長が60μm以上の「コラーゲンとハイドロキシアパタイトを含む複合体」で構成され、その長い繊維長により高い強度を有する。なお、「平均繊維長」とは前記複合体からなる繊維の長さの平均値であって、特定の機器(たとえば、Beckman-Colter社製RapidVue等)または目視により測定される。前記平均繊維長は、1mm以上であるとより好ましく、3mm以上であるとさらに好ましい。
【0011】
本発明の有機無機複合生体材料において、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンは自己組織化的に配向し、生体骨類似の複合体を形成することが好ましい。なお、「自己組織化」とは、一般的には「同種あるいは異種の原子、分子、微粒子などが、非共有結合的相互作用によって集合し、特異的な組織を形成すること(東京化学同人「生化学辞典」より)」を意味する。しかし、特に本発明中においては、コラーゲン繊維に沿って、アパタイト構造を有するリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト:HAp)が生体骨特有の配向、すなわちHApのc軸がコラーゲン繊維に沿うように配向した微小多孔質構造を意味するものとする。
【0012】
ハイドロキシアパタイトは、一般組成をCa5(PO4)3OH、とする化合物であり、その反応の非化学量論性によって、CaHPO4 、Ca3(PO4)2、Ca4O(PO4)2、Ca10(PO4)6(OH)2、CaP4O11、Ca(PO3)2、Ca2P2O7、Ca(H2PO4)2・H2Oなどリン酸カルシウムと称される1群の化合物を含む。また、ハイドロキシアパタイトは、Ca5(PO4)3OH、またはCa10(PO4)6(OH)2の組成式で示される化合物を基本成分とするもので、Ca成分の一部分は、Sr、Ba、MG、Fe、Al、Y、La、Na、K、Hなどから選ばれる1種以上で置換されてもよい。また、(PO4)成分の一部分が、VO4、BO3、SO4、CO3、SiO4等から選ばれる1種以上で置換されてもよい。更に、(OH)成分の一部分が、F、Cl、O、CO3等から選ばれる1種以上で置換されてもよい。また、これらの各成分の一部が欠陥となっていてもよい。生体骨中のアパタイトのPO4およびOH成分の一部は通常CO3に置換されているため、本複合生体材料の製造中、大気中からのCO3の混入と各成分への一部置換(0~10質量%程度)があってもよい。
【0013】
なお、ハイドロキシアパタイトは、通常の微結晶・非晶質並びに結晶体の他に、同型固溶体、置換型固溶体、侵入型固溶体であってもよく、非量子論的欠陥を含むものであってもよい。また、この「ハイドロキシアパタイト」中、カルシウム及びリンの原子比(Ca/P)は1.3~1.8の範囲内にあることが好ましく、特に1.5~1.7がより好ましい。原子比が1.3~1.8の範囲内にあると、生成物中のアパタイト(リン酸カルシウム化合物)の組成と結晶構造が、脊椎動物の骨の中に存在するアパタイトと類似の組成と構造をとりうるため、生体親和性・生体吸収性が高くなるからである。
【0014】
コラーゲンは、現在では20種類程度の分子種の異なるものが、哺乳動物に限らず、魚類を含む広範な動物の生体組織中に存在することが知られており、「コラーゲン類」と総称される。本発明で用いられるコラーゲンは、その出発原料とする動物の種、組織部位、年齢等は特に限定されず、任意のものを用いることができるが、一般的には、哺乳動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ネズミ等)や鳥類(例えば、ニワトリ等)の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器などから得られるコラーゲンが用いられる。また、魚類(例えば、タラ、ヒラメ、カレイ、サケ、マス、マグロ、サバ、タイ、イワシ、サメ等)の皮、骨、軟骨、ひれ、うろこ、臓器などから得られるコラーゲン様蛋白を出発原料として用いてもよい。あるいは、動物組織からの抽出ではなく、遺伝子組み替え技術によって得られたコラーゲンを用いてもよい。
【0015】
ここで、コラーゲンの分子種のなかで最も量が多く、よく研究されているのはI型コラーゲンで、通常、単にコラーゲンという場合はI型コラーゲンを指すことも多い。本発明で用いられるコラーゲンの分子種は特に限定されないが、I型コラーゲンを主成分とすることが好ましい。さらに、コラーゲンは、コラーゲンタンパク質のアミノ酸残基を、アセチル化、コハク化、マレイル化、フタル化、ベンゾイル化、エステル化、アミド化、グアニジノ化など、適当に化学修飾して用いてもよい。
【0016】
コラーゲンの調製方法としては、例えば、前記の出発原料(遺伝子組み替え技術は除く)から中性緩衝液や塩酸、酢酸、クエン酸などの希酸で抽出する方法が挙げられる。前者は中性塩可溶性コラーゲン、後者は酸可溶性コラーゲンと呼ばれる。しかし、いずれも抽出されるコラーゲンの量は少なく、大部分は不溶性コラーゲンとして残留する。この不溶性コラーゲンを可溶化させる方法としては、酵素可溶化法とアルカリ可溶化法が知られている。前者は酵素可溶化コラーゲン、後者はアルカリ可溶化コラーゲンと呼ばれるが、ともにほぼ100%の収率で分子状のコラーゲンとして可溶化できる。
【0017】
本発明に用いられるコラーゲンの調製方法(抽出型)は、特に限定されないが、コラーゲンが可溶化しているときの分子量が大きいと、立体障害のために複合体の強度が不十分となるため、モノメリック(単分子)なコラーゲンを用いることが好ましい。特に、酵素可溶化コラーゲンとアルカリ可溶化コラーゲンは、モノメリック分が多量であることに加えて、調製段階でコラーゲンの抗原性の大部分を有する非螺旋部(テロペプチド)が、選択的に分解・除去されるため、本発明の有機無機複合生体材料に好適である。なお、この非螺旋部が分解、除去されたコラーゲンはアテロコラーゲンと呼ばれる。
【0018】
ここで、酵素可溶化コラーゲンとアルカリ可溶化コラーゲンでは、等イオン点に違いがみられる。等イオン点とは、タンパク質分子に固有の解離基に由来する正、負の両荷電がちょうど相殺するpHのことで、コラーゲンの場合は等イオン点のpH領域に近づくと、可溶化していたものが線維化することが知られている。一般的に、酵素可溶化コラーゲンの等イオン点はpH8~9で、アルカリ可溶化コラーゲンの等イオン点はpH4~5である。本発明では、pHが7~11に保たれた反応容器中でコラーゲンの線維化が進み、自己組織化しやすい酵素可溶化コラーゲンを用いることがより好ましい。また、可溶化するための酵素としては、例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、プロナーゼなどが例示されるが、酵素反応後の処理の容易性からペプシン、プロナーゼが好適に用いられる。
【0019】
2.有機無機複合生体材料の製造方法
本発明の有機無機複合生体材料は、少なくともコラーゲン、リン酸塩、カルシウム塩の3種の成分を出発物質として製造される。なお、厳密には「塩」に該当するものでないが、本発明において上記リン酸塩にはリン酸も、カルシウム塩には水酸化カルシウムをも含むものとする。
【0020】
本発明に用いられるリン酸塩水溶液のリン酸源としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムおよびリン酸等が挙げられる。該リン酸塩水溶液は上述のコラーゲンを溶解して反応に供される。
【0021】
本発明に用いられるカルシウム塩水溶液のカルシウム源としては、例えば炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。該カルシウム塩水溶液は均一な状態であれば、懸濁液であってもよく、例えば、炭酸カルシウムを焼成後乳鉢等で粉砕して水酸化カルシウムとし、これに水を加えて得た水酸化カルシウムの懸濁液を好適に用いることができる。
【0022】
本発明の有機無機複合生体材料の製造方法において、前記カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含有するリン酸塩水溶液は、反応容器に同時滴下される。ここで「同時」とは厳密に同時に滴下する形態のみをさすものではなく、少量(0.01~5ml程度)づつ交互に滴下する形態をも含む。なお両溶液は、同時である限り連続的に滴下してもよいし、間欠的に滴下してもよい。
【0023】
前記反応容器内にはあらかじめ、適当量の純水を入れておく。該純水の量は特に限定されないが、用いるカルシウム塩水溶液の量とほぼ同程度であることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法において、反応容器内におけるカルシウムイオン濃度は3.75mM以下、リン酸イオン濃度は2.25mM以下に維持されることが重要である。カルシウムイオンやリン酸イオンの濃度が上記範囲内を超えると、複合体の好適な自己組織化が妨げられるからである。これは、反応容器内に対流する上記イオンの濃度が、体液中におけるそれらの濃度を超えると自発的な核形成を起こすためと考えられる。なお、カルシウムイオン濃度が2.5mM、リン酸イオン濃度が1.5mM以下に維持されれば、平均繊維長さ1mm以上の複合体を得ることができ、より好適である。
【0025】
本発明の製造方法において、反応容器内に生成するハイドロキシアパタイトとコラーゲンは、重量比で3:2~9:1、好ましくは70:30~85:15となるように存在することが好ましい。これは理想的な反応が起こったときのハイドロキシアパタイトとコラーゲンの重量比が、生体骨の組成(75:25)により近いことが自己組織化に重要だからである。
【0026】
本発明の製造方法において、前記反応容器内のカルシウムイオン濃度およびリン酸イオン濃度は、▲1▼カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含むリン酸塩水溶液の反応容器への送液速度 および/または ▲2▼カルシウム塩水溶液とコラーゲンを含むリン酸塩水溶液の出発段階の濃度 を制御することにより所望の範囲に維持することが可能である。
【0027】
ここで、「出発段階の濃度」とは、反応容器に供される前の、個々に調整された各成分(カルシウム塩水溶液およびコラーゲンを含むリン酸塩水溶液等)の濃度を意味する。また、「送液速度」とは反応容器内に送達される各反応液の単位時間あたりの液量を意味する。前記送液速度の設定は、たとえば市販のチューブポンプを用いることにより、容易に達成することができる。
【0028】
なお、カルシウム塩水溶液およびリン酸塩水溶液の各送液速度は、両者がほぼ同時(少なくとも10分以内)に滴下し終わるように調整する。
【0029】
本発明の好適な態様において、生成するハイドロキシアパタイトとコラーゲンの重量比が70:30~85:15に維持される場合、カルシウム塩水溶液の平均送液速度を5~25mM/minに設定したときの、出発段階におけるカルシウム塩水溶液の濃度は400mM以下、好ましくは50~200mMの範囲である。また、コラーゲンを含むリン酸水溶液の濃度は120mM以下、好ましくは15~96mMの範囲である。なお、「平均送液速度」とは、ポンプのオンオフ制御等を考慮した上で、反応容器内に送達される液量の1分あたりの平均値を意味するものとする。
【0030】
コラーゲンを含むリン酸水溶液とカルシウム塩水溶液との比率は、3:1~1:3の範囲とすることが好ましい。コラーゲンを含有するリン酸水溶液の使用量が少ない場合には、カルシウム過剰組成になり強度が低下し、カルシウム塩を含有する水溶液の使用量が少ない場合には、カルシウム欠損が発生して、ヤング率が低下し、強度の低下をまねくこともあるからである(特開平11-199209号公報参照)。
【0031】
本発明において、反応液のpHは7~11の範囲で、かつ変化の幅を1以内となるように滴下することが望ましい。より好ましくはpH7~9の範囲で、かつ変化の幅を0.5以内とすることがよい。これは、ネイティブなコラーゲンはpH7~11の範囲で等電点による沈澱を起こして線維が再生するものであり、またリン酸カルシウムもこのpH範囲において沈澱を起こしやすいため、このpH範囲であればリン酸カルシウムとコラーゲンの自己組織化が促進されるからである。なおpHが11を超えると、コラーゲン分子周辺に水分子が水和して後の加圧成形工程で水分子が離れにくくなるため、複合体の含水率が高くなり、自己組織化が妨げられ、強度も低下するおそれがある。一方、pHが7未満だと、リン酸カルシウム、コラーゲンともに沈澱しにくくなる。また、変化の幅が1を越えると、コラーゲン上でのリン酸カルシウムの核形成に乱れが生じ、自己組織化が悪くなる(Kikuchi et.al., Biomaterials 22, (2000) p1705-1711))。
【0032】
本発明の製造方法において、好適なpH制御を行うには、pHコントローラーを用いることが簡便である。pHコントローラーは、反応液のpHを測定する手段と、滴下する両溶液の滴下量を調節する手段とを備えたものであり、所期値として設定されたpH(例えば10)に対して一定範囲(例えば±0.3)を保つように、両溶液のpH値に基づいて両溶液の滴下量を調節するものである。pHコントローラーとしては、例えばNISSIN社製のものが挙げられる。なお、反応液のpHが偏ることのないように、両溶液および反応液をたえず攪拌しながら反応を行うことが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、反応液の温度は35℃~40℃に維持されることが好ましい。この範囲の温度であれば、生体内と同様の条件で複合体形成が行われることが期待されるからである。
【0034】
反応液から生じた沈澱物を濾過、乾燥後、加圧成形することにより、リン酸カルシウム微結晶とコラーゲン高分子が自己組織化的に配向結合した複合体である本発明の有機無機複合生体材料が得られる。
【0035】
加圧成形は、0℃以上110℃以下の温度範囲で、かつ10Mpa~5Gpaの圧力範囲で行うことが好ましい。この温度範囲で加圧成形を行うと、沈澱物に含まれる水のほとんどが急激に放出されるからである。温度は、水の放出量の多い25℃以上60℃以下の範囲とすることが好ましく、35℃以上45℃以下の範囲とすることが特に好ましい。
【0036】
また、超音波を印加しながら行うと、自己組織化をさらに促進することができるので好ましい。本発明で加圧成形に用いることのできる圧力処理装置としては、例えば神戸製鋼社製のCIP等を挙げることができる。
【0037】
3.有機無機複合生体材料の形状
本発明の有機無機複合生体材料の形状は特に限定されず、ブロック状、ペースト状、膜状、粒状など、その用途にあわせて任意の形状に成形することができる。特に、本発明の有機無機複合生体材料はこれまでにない長い繊維長を有するため、シート状、あるいは繊維のからみあった多孔体ないしはスポンジ状に成形することに適している。ここで「シート状」とは薄い紙のような状態を、「多孔体状」とは無数の孔(空隙)が存在する構造状態を、「スポンジ状」とは、柔軟性を有する微小多孔質=数μm~数10μ程度の無数の孔(空隙)が存在する構造状態を意味する。シート状への成型は、上述した反応後の沈澱物を公知の技術により薄く伸ばした状態で成形すればよい。多孔体・スポンジは、複合体繊維の合成後、ろ過や遠心分離によって含水量を制御した後に、凍結乾燥処理を行えば良い。
【0038】
本発明の有機無機複合生体材料は、水を吸うとスポンジのような弾性を有し、優れた生体親和性、骨誘導能ないしは骨伝導能を有する。したがって、該複合生体材料をインプラントとして使用する場合、生理食塩水など適当な液体に一旦浸漬してから、使用してもよい。こうして埋入された複合生体材料は、速やかに骨組織と結合し、ドナー側の硬組織と一体化しうる。
【0039】
4.有機無機複合生体材料の架橋による生分解性制御
上記のようにして得られた有機無機複合生体材料中のコラーゲンに架橋を導入することにより、その生体内分解速度を制御することができる。架橋は反応液から複合体を単離せずに、直接行うことが好ましい。また、架橋点を増やすために少量(複合体のコラーゲン量に対して、1~100mol%)のコラーゲンまたは多糖類を添加してもよい。
【0040】
架橋は、架橋剤や縮合剤を用いた化学的架橋、γ線、紫外線、熱脱水、電子線を用いた物理的架橋など、いずれの方法で行ってもよい。架橋剤としては、例えば、グルタールアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルデヒド系架橋剤;ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤;1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等のカルボジド系架橋剤;エチレングリコールジエチルエーテル等のポリエポキシ系架橋剤;トランスグルタミナーゼ等が挙げられる。これらの架橋剤の使用量は、コラーゲン1gに対して10μmolから10mmol程度とすることが好ましい。
【0041】
前記架橋は、コラーゲン同士のどの部分を架橋するものであってもよいが、特にカルボキシル基と水酸基、カルボキシル基とε-アミノ基、ε-アミノ基同士を架橋することが好ましい。また、反応可能な官能基のうち、その少なくとも1%以上に架橋が導入されることが好ましく、5%以上に導入されることがより好ましい。架橋が不十分だと生体内での分解が早く、骨欠損部の十分な補填効果が期待できないからである。ただし、過剰な架橋剤の使用は、複合体を形成する各繊維間に架橋を導入する結果、複合体の水分含量を高め、粒子間の結合を阻害して複合体の強度を低下させるので注意が必要である。
【0042】
前記架橋方法のうち、グルタールアルデヒド等の架橋剤を用いた化学的架橋は、架橋度のコントロールしやすさや、得られる複合体の生体適合性という面から、特に好ましい。以下、本発明の好適な態様として、グルタールアルデヒドを用いた架橋方法について説明する。
【0043】
前項で得られた、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンを含む複合体の反応液は、複合体合成後直ちに、あるいは3時間までのエージング後、激しく撹拌しながらグルタールアルデヒドを加えて10分間反応させる。架橋反応後、速やかに複合体をろ過し、純水で3回洗浄して過剰なグルタールアルデヒドを除去する。
【0044】
ここで、グルタールアルデヒドは、複合生体材料中のコラーゲン1gに対して10μmol~10mmol、特に10μmol~1mmol添加されることが好ましい。また、反応液の温度は0℃~40℃に維持されることが好ましい。
【0045】
得られた架橋複合生体材料は、未架橋の複合生体材料に比べて、高い機械的強度を有し、生体内分解速度も遅いため、人工骨材等に必要な生体内滞留性を有する。ここで、生体内分解速度は、例えば、マウス、ラット、ウサギ等の骨内に該複合生体材料を移植して、その生体内滞留性を見ることによって評価することができる。また、機械的強度は、例えば、三点曲げ強度やその値から求められるヤング率によって評価することができる。
【0046】
具体的には、コラーゲン1gに対して10μmol~10mmolのグルタールアルデヒドを添加して架橋を導入した有機無機複合生体材料は、その機械的強度が7MPa(未架橋)から15MPa以上(架橋後)に向上した。そして、未架橋試料が生体骨内において4週間でほぼ(90%以上)吸収されるのに対し、架橋複合生体材料は4週間経っても生体骨内に約50%以上が残存していた。
【0047】
5.有機無機複合生体材料の用途
本発明の有機無機複合生体材料の製造には、必須の成分であるカルシウム塩、リン酸塩、コラーゲンに加えて、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、さらに他の成分を含有させることもできる。かかる成分としては、例えばSt、MgおよびCO3等の無機塩、クエン酸およびリン脂質等の有機物、骨形成タンパク質、抗ガン剤等の薬剤が挙げられる。
【0048】
本発明により得られる有機無機複合生体材料は、生体骨に近い強度と組成をもち、構成成分であるコラーゲンおよびリン酸カルシウムがともに生体溶解性であるため薬剤徐放効果、あるいは骨誘導能ないしは骨伝導能を有する。
【0049】
また、本発明の有機無機複合生体材料に生理活性の高いサイトカインを含有させ、これを基板として力学・電気などを加えた生体類似環境下あるいは生体内で組織培養を行うことにより、骨髄、肝臓などの組織再建の効果も期待される。たとえば、骨肉腫などの切除骨の再建に、本発明により得られる複合材料に抗癌剤を含浸させたものを用いることで、癌再発の防止とともに生体硬組織の誘導を行うことができる。
【0050】
したがって、本発明によって得られる複合体の用途としては、骨誘導および骨伝導能を有する生体骨置換型骨再建材としての利用法、アミノ酸、糖質、サイトカインを含有する組織工学に用いられる生体活性基材、および抗癌剤等の生体融和型薬剤徐放性基材としての利用法を挙げることができ、具体的には、人工骨、人工関節、腱と骨との接合材、歯科用インプラント材、カテーテル用経皮端子、薬剤徐放性基材、骨髄誘導チャンバー、組織再建用チャンバー・基材等を挙げることができる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
実施例1:出発物質濃度の検討
1.試験方法
水酸化カルシウムの送液速度を15ml/minに固定し、出発物質である水酸化カルシウム懸濁液、リン酸水溶液の濃度と量の表1のように変化させた。リン酸水溶液の送液速度はカルシウム懸濁液とリン酸水溶液がほぼ同時に滴下し終わるように調整した。また、リン酸水溶液に加えるアテロコラーゲン(新田ゼラチン社製ブタ皮膚由来アテロコラーゲン)の量は2.01gで一定とし、反応容器中にはあらかじめ水酸化カルシウム懸濁液と同量の純水を入れておいた。以上の条件は、理想的な反応が起こったときにHAp/コラーゲンの重量比が80/20になる設定である。
【0053】
反応は、温度40℃、pH9の条件下(NISSIN社製pHコントローラー:を用いてpH9±0.3に保つ)、両方の液を激しく攪拌しながら、ポンプをオンオフ制御して、一定速度で送液しながら、同時滴下により行った。本試験に用いた装置を図1に示す。
【0054】
その他、試験の詳細は、Kikuchiら(Biomaterials 22, (2000) p1705-1711)に記載の方法に従った。
【0055】
2.複合体の評価
得られた複合体は、繊維長測定を行い、自己組織化状態を確認した。さらに25℃、20MPaで24時間一軸加圧による脱水成形を行い、三点曲げ試験、熱分析および膨潤性試験を行った。各試験方法の詳細および試験結果(表1)を以下に示す。
1)繊維長測定
生じた沈澱をろ過、乾燥後、Beckman-Colter社製RapidVueを用いて、繊維長を測定した。なお、上記機器の測定範囲を超えるものについては肉眼で繊維長を測定した。
2)三点曲げ試験
脱水成形後の複合体20×5×3mm3をサンプルとして、島津製作所社製AGS-1kNを用い、crosshead speed 500μm/min、span 15mmの条件で三点曲げ強度を測定した。測定は5回行い、得られたload-distortion曲線よりヤング率を求めた。
3)熱分析
脱水成形後の複合体10×5×3mm3をサンプルとして、LECO社製 RC-412を用いて測定した。
4)膨潤性試験
脱水成形後の複合体5×5×5mm3をサンプルとして、PBS(大日本製薬社製)30mlに浸漬し、1~21日間にわたり重量測定を行い膨潤度(下式)を求めた。
【0056】
【数1】
膨潤度(%)=〔(Wx-Wo)/Wo〕×100
Wx:初期重量、Wo:浸漬後の重量
【0057】
3.反応容器内(初期)濃度の計算
反応初期における容器中におけるカルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度を、これらのイオンの反応容器内への1分あたりの供給量にほぼ等しいと仮定して、以下の式により求めた。なお、ポンプのオンオフ制御を考慮し、平均送液速度はポンプの送液速度の1/2とした。この近似は反応に要した総時間数から求めた値とほぼ一致することが確認されている。
【0058】
【数2】
反応容器中の濃度=(出発物質濃度×平均送液速度)/反応容器中の純水の量平均送液速度:ポンプの設定速度× 1/2
【0059】
【表1】
JP0004408603B2_000002t.gif
【0060】
4.結果
水酸化カルシウム懸濁液の濃度が100mM以下では、3mm以上の長さの繊維が大多数を占めていた。特に100mM Ca(OH)2では、繊維は長さが平均5mm、太さが平均100μm程度に成長しており、裁縫糸のような繊維を形成していた(図2)。このため、100mM Ca(OH)2で形成された複合体は、脱水成形後の含水量が37%であるにも関わらず、含水量が23%の400mM Ca(OH)2の複合体の強度(9.8±0.3MPa)に比べて、有意に高い強度(11.6±1.5MPa)を示した。
【0061】
膨潤度は7日以降(21日目まで)は変化がなかった。なお経験的に膨潤度は7日後においておよそ50%~60%以下であることが好ましいことがわかっており、今回の試験サンプルはいずれもこの範囲内であることが確認された。
【0062】
5.考察
実際の反応容器内部の各イオン濃度は、送液による供給(液量増加を含む)と複合体形成による消費のバランスにより、上記で求めた反応容器内濃度(イオンの反応容器内への1分あたりの供給量(mM/min・ml))から経時的に変化しうる。ただし、理想的な複合体形成が行われる条件下ではこれらのバランスがとれ、上記反応容器内濃度の前後で維持されると考えられる。
【0063】
本試験の条件下では、いずれの例でも平均繊維長は60μm以上であった。反応容器内部でのカルシウムイオンおよびリン酸イオン濃度は、それぞれ3.75mM以下、2.25mM以下であれば、平均繊維長は確実に60μmを超え、平均繊維長1mm以上の複合体が得られうると思われた。
【0064】
また、出発段階での水酸化カルシウム懸濁液およびリン酸カルシウム水溶液の濃度が各々400mM、120mM以下であれば、送液速度を適宜コントロールすることにより、上記条件設定が可能であると考えられた。
【0065】
実施例2:送液速度の検討
1.試験方法
つぎに、送液速度が複合体の自己組織化に及ぼす影響について、2種類の濃度の水酸化カルシウム懸濁液を用いて試験を行った。
A)低濃度水酸化カルシウム(100mM)
出発物質として、100mMの水酸化カルシウム懸濁液800ml、ペプシン処理したアテロコラーゲン(新田ゼラチン社製 ブタ皮膚由来アテロコラーゲン)2.01gを加えた30mMのリン酸水溶液1600mlを用いた。反応容器にはあらかじめ800mlの純水を入れ、送液速度を8-120ml/minの範囲で変化させ、実施例1と同様に複合体を形成させた。なお、以上の条件は、理想的な反応が起こったときにHAp/コラーゲンの重量比が80/20になる設定となっている。
B)高濃度(400mM)水酸化カルシウム
出発物質として、400mMの水酸化カルシウム懸濁液200ml、120mMリン酸水溶液400mlを用いて、上記A)と同様の実験を行った。
【0066】
2.複合体の評価
得られた複合体は実施例1と同様に、繊維長測定、三点曲げ試験、熱分析および膨潤性試験を行った。結果を表2(100mM Ca(OH)2)および表3(400mM Ca(OH)2)に示す。
【0067】
【表2】
JP0004408603B2_000003t.gif
【0068】
【表3】
JP0004408603B2_000004t.gif*反応容器中の各イオン濃度は、実施例1と同様の計算式で求めた値を示した。実施には、各反応液が過剰供給される本例では、反応容器中の各イオン濃度はここに示す値よりも経時的に増加すると考えられる。
【0069】
3.結果
100mM Ca(OH)2の条件では、水酸化カルシウムのポンプ送液速度が50ml/min (平均送液速度25ml/min)以下であれば、平均繊維長60μm以上の複合体が得られた。繊維長は送液速度15ml/minで最大値(5-7mm)を示し、その後は送液速度の増加につれて短くなり、強度も低下した。これは、送液速度が一定値を超えるとカルシウムやリン酸イオンの供給が複合体形成送度を越えるため、反応容器内のイオン濃度が経時的に上昇して、複合体の自己組織化を妨げるからである。
【0070】
また、400mM Ca(OH)2の条件では、水酸化カルシウムのポンプ送液速度が8ml/min (平均送液速度4ml/min) の例のみ繊維長60μm以上の複合体が得られ、それ以上では、送液速度の増加につれて繊維長は短く、強度も低下した。また、複合体中のコラーゲン含量も低く、自己組織化の形成が悪いために反応容器中でコラーゲンの溶解が生じていることが考えられた。
【0071】
4.考察
本試験の結果から、出発物質である水酸化カルシウムの濃度が一定範囲内であれば、送液速度を制御することにより、反応容器内でのカルシウムイオンおよびリン酸イオンを至適濃度に維持し、自己組織化に優れた複合体が得られることが確認された。一方、水酸化カルシウムやリン酸溶液の濃度がそれぞれ400mM、120mMを超える高濃度になると、送液速度をかなり制御しなければ自己組織化の形成が困難であることが示された。
【0072】
実施例3:シート状有機無機複合生体材料の作製
水酸化カルシウム懸濁液100mM,800ml、リン酸水溶液(アテロコラーゲン2.01g含む)30mM,1600ml、水酸化カルシウムの送液速度15ml/min (平均送液速度7.5ml/min)、反応容器内純水量800mlの条件で、実施例1と同様に複合体形成を行わせ、生じた沈殿物を薄く延ばした状態で固化し、シート状有機無機複合生体材料を得た。
【0073】
得られたシート状固形物(直径14cm:B裏面全景、C表面拡大)と通常に固化させた多孔体(直径25mm:A)の写真を図3に示した。
【0074】
上記シートは強度も高く、長い繊維長を有する本発明の有機無機複合生体材料は、シート状に成形して用いることに適していると思われた。
【0075】
実施例4:架橋有機無機複合生体材料の作製
1.HAp/Col複合体の架橋
実施例1の方法にしたがい、40mMの水酸化カルシウム懸濁液2dm3とコラーゲン2gを含んだ24mMのリン酸水溶液2dm3を、チューブポンプを介して反応容器に導入し、HAp/Col複合体を調整した。反応液は懸濁したまま3時間静置し、激しく撹拌しながら架橋剤:グルタールアルデヒドを加えて10分間反応させた。架橋反応後、速やかに複合体をろ過し、純水で3回洗浄した。架橋反応は、複合体中のコラーゲン1gに対して、それぞれグルタールアルデヒド:0.0191-13.5 mmol/gの範囲で変化させて行った。なお、グルタールアルデヒド0.191 mmol/gで理論上コラーゲン分子中の全てのε-amino基が架橋可能となる。
【0076】
2.特性値の測定
得られた架橋複合体は、透過型電子顕微鏡Rapid-VueR (Beckman-Colter製) を用いてその繊維構造を観察した。また、実施例1と同様にして、三点曲げ強度、膨潤度を求めた。さらに、sulfo-SDTB 法によりε-amino 基量を測定し、架橋量を求めた。
【0077】
3.結果
1) 透過型電子顕微鏡観察の結果、グルタールアルデヒド架橋複合体の繊維長は平均44.8μmで、架橋されたハイドロキシアパタイトとコラーゲンにはマクロな配向性は見られず、架橋はランダムに生じることがわかった。なお、生体骨類似のナノスコピックな構造(コラーゲン単繊維状のHApの配向)は実質的に維持されていた。
2) 三点曲げ強度はグルタールアルデヒド含量にしたがって増加し、1.35mmol/g collagenで最高値に達した(図4)。この結果は、過剰なグルタールアルデヒド架橋剤(1.35mmol/g以上)は、複合体を形成する各繊維間に架橋を導入し、複合体の水分含量が高める結果、粒子間の結合を阻害して複合体強度を低下させることを示唆していた。
3) 膨潤度はコラーゲン量に依存するため、架橋量を反映するようにコラーゲン量で正規化した値を求めた(図4)。その結果、膨潤度はグルタールアルデヒド濃度にしたがって減少し、架橋により生体組織中における複合体の生分解性を制御しうることが示唆された。
4) sulfo-SDTB 測定の結果、グルタールアルデヒド1.35mmol/g濃度では、遊離のε-amino基は検出されなかった。この濃度は、コラーゲン中の架橋可能な官能基を架橋するために必要なグルタールアルデヒド量の約70倍にあたる。
【0078】
4.結論
グルタールアルデヒドは、人工骨材として適当な機械的強度を維持するためには、コラーゲン1gあたり10mmol以下で添加することが適切であると思われた。一方、生体内での分解が膨潤度に比例するとすれば、架橋量が多いほど分解は抑えられることが予測された。また、架橋によっても、生体骨類似のナノスコピックな構造(コラーゲン単繊維状のHApの配向)は実質的に維持されていた。
【0079】
実施例5:架橋有機無機複合生体材料の生分解性試験
1.試験方法
HAp/Col複合体架橋物の生体内分解性を、実施例4で得られたグルタールアルデヒド架橋物(2×2×2mm)をウサギ脛骨内に埋入して調べた。各架橋体は、1,2,4週後に肉眼所見と組織学的検査(ヘマトキシリンーエオジン染色)を実施して評価した。
【0080】
2.結果
組織学的検査の結果、炎症反応等、グルタールアルデヒド架橋物による毒性反応は全く見られなかった。また、全ての架橋物の周囲で、未架橋の複合体と同程度の骨形成および骨伝導能が認められた。
【0081】
架橋物の吸収/分解速度は、グルタールアルデヒド濃度にしたがって遅くなり、高密度の架橋(191μmol以上)では、4週間たっても70-80%が骨内に残存していた。すなわち、コラーゲン1gあたり19.1μmolのグルタールアルデヒドで架橋したものは約50%が、675μmolで架橋したものは約85%以上が残存していた。さらに、コラーゲン1gあたり1.35mmolのグルタールアルデヒドで架橋したものでは表面のみが吸収され、95%以上が残存していた。なお、それぞれの架橋試料におけるε-アミノ基の残存量は、80-95%、0-10%、0%であった。特に1.35mmolのグルタールアルデヒドによる架橋では過剰なグルタールアルデヒド同士が複合体内で架橋のネットワークを形成し、複合体の吸収性をさらに下げていると考えられた。
【0082】
3.結論
以上より、コラーゲン1gあたりグルタールアルデヒド19.1μmol~1.35mmolの濃度で架橋した複合体は、人工骨材に必要とされる生体内分解速度を有することが確認された。上記結果と実施例4の結果から、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンを含む複合体において、少なくともコラーゲン1gあたりグルタールアルデヒド10μmol~10mmol程度を用いて架橋を導入すれば、人工骨材に必要な機械的強度と生体内分解速度が実現可能と考えられた。
【0083】
【発明の効果】
本発明によれば、平均繊維長が60μm以上の自己組織化に優れた有機無機複合生体材料が提供される。この生体材料は、長い繊維と高い強度を有し、シート状、あるいは繊維がからみあった多孔体ないしはスポンジ状に成形して用いることができる。また、該生体材料に架橋を導入することにより、その機械的強度を保ちつつ、人工骨材に適した生体内分解速度が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1および2で使用した実験装置を示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた100mM Ca(OH)2における複合体繊維の写真である。
【図3】図3は、多孔体およびシート状に成形した、本発明の有機無機複合生体材料の写真を示す。
【図4】図4は、グルタールアルデヒドで架橋した有機無機複合生体材料における、架橋濃度と三点曲げ強度の関係を示す。
【図5】図5は、グルタールアルデヒドで架橋した有機無機複合生体材料における、架橋濃度と膨潤度の関係を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4