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明細書 :単層カーボンナノチューブの製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3650076号 (P3650076)
公開番号 特開2003-277032 (P2003-277032A)
登録日 平成17年2月25日(2005.2.25)
発行日 平成17年5月18日(2005.5.18)
公開日 平成15年10月2日(2003.10.2)
発明の名称または考案の名称 単層カーボンナノチューブの製造法
国際特許分類 C01B 31/02      
B82B  3/00      
FI C01B 31/02 101F
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 6
出願番号 特願2002-080729 (P2002-080729)
出願日 平成14年3月22日(2002.3.22)
審査請求日 平成15年7月23日(2003.7.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】安藤 義則
【氏名】趙 新洛
【氏名】井上 栄
【氏名】鈴木 智子
個別代理人の代理人 【識別番号】100092392、【弁理士】、【氏名又は名称】小倉 亘
審査官 【審査官】吉田 直裕
参考文献・文献 特開平08-091816(JP,A)
特開平06-322615(JP,A)
安藤義則、趙新洛,第2章 単層、多層ナノチューブの生成と精製,カーボンナノチューブ-期待される材料開発-,日本,株式会社シーエムシー出版,2001年11月10日,p.11-15
J.L.HUTCHISION, et al,Double-walled carbon nanotubes fabricated by a hydrogen arc discharge method,CARBON,2001年,Vol.39,p.761-770
C.LIU, et al.,Semi-continuous synthesis of single-walled carbon nanotubes by a hydrogen arc discharge method,CARBON,1999年,Vol.37,p.1865-1868
SUMIO IIJIMA, et al.,Single-shell carbon nanotubes of 1-nm diameter,NATURE,1993年,Vol,363,p.603-605
X. ZHAO, et al.,Preparation of high-grade carbon nanotubes by hydrogen arc discharge,CARBON,1997年,Vol.35, No.6,p.775-781
X. ZHAO, et al.,Macroscopic net of single-walled carbon nanotubes,フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集,2003年 1月 8日,Vol.24th,p.42
X. ZHAO, et al.,Macroscopic oriented web of single-walled carbon nanotubes,CHEM.PHYS.LETT.,2003年,Vol.373,p.266-271
調査した分野 C01B 31/02
JICSTファイル(JOIS)
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特許請求の範囲 【請求項1】
Ar:20~80体積%のH2-Arの混合ガス雰囲気中でFe単体を触媒としてグラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させ、単層カーボンナノチューブを含む綿状堆積物として陰極と真空チャンバ内壁を結ぶ空間に堆積させることを特徴とする単層カーボンナノチューブの製造法。
【請求項2】
粒径10nm以下のFe微粒子を触媒として使用する請求項1記載の製造法。
発明の詳細な説明
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、機能性材料として有望な単層カーボンナノチューブを高収率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブは、結晶学的構造及び直径に応じて電気的特性が半導体的又は金属的に変わることから高機能材料として注目されている。カーボンナノチューブには、筒状に巻かれたグラフェンシートが等間隔で2層以上重なった多層カーボンナノチューブと、1層だけの単層カーボンナノチューブがある。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブに比較して直径が小さなため量子効果が期待され、物性的な興味がもたれている。
カーボンナノチューブの作製にはアーク放電,レーザ蒸発法,CVD法等があるが、量産化にはCVD法が、結晶性向上にはアーク放電が適している。直流アーク放電で単層カーボンナノチューブを作製する場合、金属触媒を混合したグラファイト棒を陽極に用い、アーク熱でグラファイト棒を蒸発させる。蒸発したグラファイトは、電極の周りから容器の内部全体にわたって蜘蛛の巣状に張り巡らされた綿状煤として生成される。この綿状煤に単層カーボンナノチューブが含まれている。
【0003】
本発明者等は、単層カーボンナノチューブを含む綿状煤が大量にできる作製条件を種々調査・検討し、Ni-Y触媒を含む陽極及び陰極を30度の鋭角で配置させることが有効であることを報告した(「材料」第50巻第7号第357~360頁)。鋭角配置した陽極,陰極の間で放電させると、発生したアークプラズマが陰極に沿った方向にジェット流となって吹き出し、アークプラズマの中で作製された単層カーボンナノチューブが綿状煤となって容器内に蜘蛛の巣状に堆積する。しかも、陰極堆積物がアークプラズマで吹き飛ばされるため、最後まで陰極に付着して堆積する量は通常のアーク法に比較すると遥かに少なくなり、単層カーボンナノチューブを含む綿状煤が多量に作製される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
陽極,陰極の鋭角配置で確かに綿状煤の生成量は増加するが、本発明者等によるその後の調査・研究の結果から、綿状煤に含まれる単層カーボンナノチューブの割合が必ずしも高くないことが判明した。そのため、綿状煤を精製して単層カーボンナノチューブの純度を上げる必要があるが、単層カーボンナノチューブ自体の機械的・化学的強度が十分でないため精製が容易でない。不十分な機械的・化学的強度は、Ni-Y触媒を用いて合成された単層カーボンナノチューブが結晶性に劣ることに原因があるものと考えられる。
【0005】
低い結晶性は、単層カーボンナノチューブが酸等によっても壊れやすいことを意味する。しかも、触媒成分であるNi等の金属成分が厚いグラファイト質の炭素膜で覆われているため、金属成分を除去しがたいことも単層カーボンナノチューブの精製を困難にしている。
アーク放電法による単層カーボンナノチューブの作製にS添加Fe系金属触媒を使用した場合でも、触媒がSを含んでいるため単層カーボンナノチューブの機械的・化学的強度が低く、綿状煤の精製が容易でない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、単層カーボンナノチューブの合成用触媒としてFe単体を使用することにより、作製された単層カーボンナノチューブの機械的・化学的強度及び収率を向上させることを目的とする。
【0007】
本発明の製造法は、その目的を達成するため、H2,Arの混合ガス雰囲気中でFe単体を触媒としてグラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させ、単層カーボンナノチューブを含む綿状堆積物として陰極と真空チャンバ内壁を結ぶ空間に堆積させることを特徴とする。
触媒には、Feの酸化物や炭化物等から製造された粒径10nm以下の超微粒状のFe単体が好適である。H2-Arの混合ガスは、Ar含有量を20~80体積%(好ましくは、40~60体積%)の範囲に調整する。
【0008】
【実施の形態及び作用】
本発明では、たとえば設備構成を図1に示すアーク蒸発装置を用いて単層カーボンナノチューブを製造する。
このアーク蒸発装置10は、真空チャンバ11に配置した載置台12に陽極13を搭載している。陽極13には、単層カーボンナノチューブソースであるグラファイト棒が使用される。陽極13に対向する陰極14は、電極ホルダ15を介して真空チャンバ11の天井から昇降可能に吊り下げられ、モータ16からの動力で回転可能になっている。
【0009】
真空チャンバ11は、油拡散ポンプ等の真空ポンプ21で真空吸引され、雰囲気圧が1.3×10-3Pa程度の高真空になった段階で給気管22からH2,Arの混合ガスGが送り込まれる。
陽極13,陰極14には、アーク放電の発生に必要な電圧が直流電源31から印加される。直流電源31の陽極側及び陰極側は、制御機構32からの制御指令が入力される入出力回路33に結線されている。陽極13,陰極14間に印加されている電圧からアーク放電状態を制御機構32で演算し、アーク放電で発生した綿状堆積物Dの成長に応じて陰極14の昇降,回転を調整する制御信号sを入出力回路33からモータ16に出力する。
【0010】
陽極13には、Fe単体を触媒として配合したグラファイト棒が使用される。Fe触媒としては、単層カーボンナノチューブの合成反応に触媒作用を呈する活性表面が大きなことから粒径10nm以下の超微粒状Fe粒子が好ましい。3~40質量%の割合で超微粒状Fe粒子をグラファイト粉末に配合し、所定形状のグラファイト棒に圧粉成形する。
雰囲気ガスには、20~80体積%の割合でArガスをH2ガスに混合した混合ガスGが使用される。好ましくは、H2:Arの混合比を3:2~2:3にした混合ガスGが使用される。Fe触媒を配合したグラファイト棒を陽極13に使用し、H2,Arの混合ガスG雰囲気中でアーク放電させると、アーク放電が安定化し、単層カーボンナノチューブを多量に含む綿状堆積物Dが得られる。
【0011】
アーク放電は、通常のアーク放電,或いはアークプラズマジェットの何れでもよく、陽極13,陰極14を鋭角配置することも可能である。更には、陽極13,陰極14の間に交流電圧を印加すると、陰極堆積物がなくなり、単層カーボンナノチューブの収率が向上する。アーク放電条件は、雰囲気圧1.3~6.7×104Pa,印加電圧30~40Vの範囲で選定することが好ましい。
【0012】
本発明者等は、Fe触媒を用い水素ガス雰囲気中でアーク放電させると単層カーボンナノチューブが作製されることを報告している〔「機能材料」第21巻(2001年5月)第15~19頁〕。しかし、水素ガス雰囲気中ではアーク放電が極めて不安定であり、結果として単層カーボンナノチューブの収率が低下する。この点、H2にArを混合した混合ガスGを雰囲気ガスに使用すると、Arによってアーク温度が低下し、安定したアーク放電が発生する。雰囲気中のH2はアーク放電で生成するアモルファスカーボンを低減し、単独のカーボンナノ粒子が綿状堆積物Dに混入することがなくなる。また、ナノチューブ表面がH2で洗われ、ナノチューブ表面からアモルファスカーボンが低減される。
【0013】
アーク放電の安定化に及ぼすArガスの影響は混合ガスGに占めるArガスの割合が20体積%以上で顕著になるが、80体積%を超える過剰量のArガスを混合すると単層カーボンナノチューブが生成されなくなる。なかでも、H2/Ar=3/2~2/3(体積比)でArを混合した混合ガスGがアーク放電の安定化に有効である。
グラファイト棒に配合したFe触媒は、雰囲気中のH2と相性が良い。そのため、表面に酸化鉄等の皮膜を生成することなく、アモルファスカーボン等の付着も少ないため、優れた触媒活性が維持される。また、Fe触媒を用いて合成された単層カーボンナノチューブは、結晶性がよく機械的・化学的強度にも優れている。しかも、共存するアモルファスカーボンやカーボンナノ粒子が少ないため、Fe触媒を除去して単層カーボンナノチューブを精製することも容易である。
【0014】
このようにH2,Arの混合ガスGを雰囲気ガスに、Fe触媒を配合したグラファイト棒を用いてアーク放電させると、安定したアーク放電によって機械的・化学的強度に優れた単層カーボンナノチューブを多量に含む綿状堆積物Dが生成する。単層カーボンナノチューブの機械的・化学的強度が高く、含有量も多いことから、綿状堆積物Dの精製も容易になる。たとえば、綿状堆積物Dを380~440℃の温度で30~120分間加熱した後、塩酸で処理するだけの操作により触媒に使用したFe粒子が容易に除去され、目標の単層カーボンナノチューブが精製される。
【0015】
【実施例】
粒径10nm以下のFe微粒子を触媒として使用し、グラファイトにFe微粒子を7質量%配合したグラファイト棒を用意した。陽極13に当該グラファイト棒を、陰極14に純粋なグラファイト棒を陰極14を用い、陽極13,陰極14を3mm離して真空チャンバ11にセットした。
真空チャンバ11を真空排気した後,給気管22からH2:Ar=1:1(体積比)の混合ガスGを真空チャンバ11に導入し、真空チャンバ11の雰囲気圧を1.3×104Paに保った。
【0016】
陽極13,陰極14間に電圧35Vを印加するとアーク放電が発生し、陽極13が蒸発を開始した。アーク放電の進行に伴い、陰極14の周りから真空チャンバ11全体にわたり蜘蛛の巣状に綿状堆積物Dが形成された。アーク放電を1分継続した後で、真空チャンバ11から綿状堆積物Dを取り出した。綿状堆積物Dの質量は30mgであった。
得られた綿状堆積物Dを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、単層カーボンナノチューブのバンドルが形成されていることが確認された。単層カーボンナノチューブの外にカーボンナノ粒子も観測されたが、カーボンナノ粒子の割合は30質量%以下と少量であった。単層カーボンナノチューブは、高い機械的強度をもっていた。実際、綿状の紐を取り出して引張ったとき、断面積0.1mm2程度の紐でも100gの荷重に耐えた。
【0017】
綿状堆積物Dを電気炉に装入し400℃で30分間加熱した後、塩酸を添加したところ直ちに塩酸が黄変した。塩酸の黄変は、綿状堆積物Dから塩酸にFeが溶出した結果であり、単層カーボンナノチューブの精製が容易なことを示す。
綿状堆積物Dの精製により、収率70%で単層カーボンナノチューブが得られた。収率70%は、アーク法で単層カーボンナノチューブを合成する収率としてはかなり高い値である。精製された単層カーボンナノチューブをラマン測定すると、直径が細かいことに対応するブリージングモードのピークが観測され、Gバンドのピークにも通常の単層カーボンナノチューブと同様にスプリッチングが観測された。しかも、結晶性が高く、電気伝導度にも優れていた。
【0018】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、Fe触媒を配合したグラファイト棒を陽極に使用し、H2,Arの混合ガス中でアーク放電させているので,機械的・化学的強度に優れた単層カーボンナノチューブを多量に含む綿状堆積物を製造することができる。綿状堆積物を精製すると、機能材料として有望な単層カーボンナノチューブが高い収率で得られる。しかも、Fe単体を触媒に使用しているため、アーク放電条件の設定が容易で、単層カーボンナノチューブの作製,精製が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 単層カーボンナノチューブの作製に使用するアーク蒸発装置の概略図
【符号の説明】
10:アーク蒸発装置 11:真空チャンバ 13:陽極 14:陰極
21:真空ポンプ 22:給気管
D:綿状堆積物 G:混合ガス s:制御信号
図面
【図1】
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