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明細書 :同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4320382号 (P4320382)
公開番号 特開2003-324192 (P2003-324192A)
登録日 平成21年6月12日(2009.6.12)
発行日 平成21年8月26日(2009.8.26)
公開日 平成15年11月14日(2003.11.14)
発明の名称または考案の名称 同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機
国際特許分類 H01L  29/06        (2006.01)
H01L  29/15        (2006.01)
G06G   7/12        (2006.01)
FI H01L 29/06 601S
G06G 7/12 F
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2002-127092 (P2002-127092)
出願日 平成14年4月26日(2002.4.26)
審査請求日 平成16年11月4日(2004.11.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】清水 禎
【氏名】後藤 敦
【氏名】端 健二郎
【氏名】北澤 英明
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】小川 将之
参考文献・文献 特開2003-260700(JP,A)
T.D.Ladd et al,An all silicon quantum computer,arXiv:quant-ph/0109039v1,2001年 9月 7日,pp.1-5,URL,http://jp.arxiv.org/abs/quant-ph/0109039
調査した分野 H01L 29/06
H01L 29/15
G06G 7/12
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも、単一の同位体から成る面を同位体を異ならせて複数積層した積層単位を超格子積層単位とした同位体超格子構造を有する半導体結晶と、レーザー光源と、NMR装置とを有し、
上記同位体超格子構造を有する半導体結晶が、同位体111Cd、113Cd、123Te、及び、125Teを構成元素とするセン亜鉛鉱結晶構造を有し、上記セン亜鉛鉱結晶構造の各々の(111)面が上記同位体のいずれか1つの同位体元素から構成され、かつ、上記4種類の同位体の(111)面の積層周期を超格子積層周期として構成されるCdTe同位体超格子半導体結晶であることを特徴とする、同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機。
【請求項2】
前記CdTe同位体超格子半導体結晶の<100>方向に磁場を印加してNMRを行うことを特徴とする、請求項に記載の同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、新規の動作原理に基づく多量子ビット固体量子計算機に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在までのところ、溶液NMRで5から7量子ビットの量子計算機が実現されているが(Phys.Rev.Lett.85(2000)5452、及び、Nature 414(2001)883)、専門家の間では溶液NMRでは10量子ビット程度が限界であろうと推測されている(例えば、数理科学424(1998)43、数理科学195(2001)56)。
量子計算機の当面の目標値は量子現象のシミュレーションに役立つ数十量子ビットないし、それ以上にあるので、近い将来、固体を用いた多量子ビット量子計算機の開発が中心的課題になると予想される。現在のところ、固体ではまだ2量子ビットすら実現されていないが、固体量子計算機開発のための課題抽出は既に始まっており、必要とされる要素技術のための方法論の検討作業と基礎実験が進められている。
【0003】
量子計算機を実現するために原理的に最も重要な課題は、第一に量子ビット間の良好な「量子もつれ状態」を形成できること、第二に各量子ビットを「初期化」できること、第三には量子ビット数を増大できることである。これらの技術的課題を克服した多量子ビット固体量子計算機を実現するには、既存のNMR技術だけでは原理的に不十分であることが自明であり、新規技術開発が不可欠である。本発明はこれらの課題を解決するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
次に、上記課題をさらに詳細に説明する。
初めに第一の課題「量子もつれ」について説明する。
NMR量子計算機では「量子もつれ状態」を形成させるために核スピン間相互作用を使う。固体NMRにおける第一の課題は、コヒーレントな量子状態の寿命が短すぎて計算時間の余裕がないことである。寿命が短くなる原因は核双極子相互作用、金属におけるルーダーマン-キッテル相互作用、磁性不純物等の磁気的欠陥に起因する長距離で量子効果の強い相互作用などにある。これらを「量子もつれ」に積極的に利用する案もあり詳しく研究もされているが、不特定多数の粒子による量子効果であるためにゼーマン・ハミルトニアンと交換しないなど本質的に制御性が悪く、何か特殊な工夫を開発する必要があり、ここに大きな開発課題を抱えている。
【0005】
次に、第二の課題「初期化」を説明する。
初期化技術は、計算機のレジスター、すなわち、量子ビットを初期状態にリセットするために必要なだけでなく、良好な「量子もつれ」状態、すなわち量子純粋状態を形成するためにも必要である。核スピンは偏極率が極めて低く、通常の大きさの磁場による初期化では1ppm程度の微弱な核スピン偏極しか与えられないので、量子純粋状態の実現からは天文学的に遠い。
【0006】
次に、第三の課題「多量子ビット化」を説明する。
量子ビットを増やすということは、即ち、異なるNMRサイトを増やすことである。そのために様々な手法が提案されている。例えば、(1)高分子中の異なるサイトを用いる。(2)特殊な極微小磁石を作り込んで素子中に原子サイズの磁場勾配を発生させ、サイト毎に共鳴磁場をずらす。(3)量子ドットや分子設計などナノテクノロジーの新技術を駆使してサイトを増やす。(4)バケツリレー法(北川勝浩「数理科学」2001年6月号サイエンス社参照)などのソフトによる手法などが並行して研究されている。これらはいずれも、基礎研究の段階であり、まだ実現はしていない。
【0007】
このように、多量子ビット固体量子計算機を実現するためには、量子もつれ状態、初期化、多量子ビット化の課題を解決した、新しい動作原理を必要としている。
【0008】
上記課題に鑑み本発明は、量子もつれ状態、初期化、及び、多量子ビット化の課題を解決した、かつ、実証された技術のみで構築できる、新しい動作原理に基づく多量子ビット固体量子計算機を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機は、少なくとも、単一の同位体から成る面を同位体を異ならせて複数積層した積層単位を超格子積層単位とした同位体超格子構造を有する半導体結晶と、レーザー光源とNMR装置とを有し、同位体超格子構造を有する半導体結晶が、同位体111Cd、113Cd、123Te、及び、125Teを構成元素とするセン亜鉛鉱結晶構造を有し、セン亜鉛鉱結晶構造の各々の(111)面が上記同位体のいずれか1つの同位体元素から構成され、かつ、上記4種類の同位体の(111)面の積層周期を超格子積層周期として構成されるCdTe同位体超格子半導体結晶であることを特徴とする
【0010】
この構成によれば、複数の同位体元素が、各々異なった磁気回転比を有しており、これらの複数の核種は十分に離れたNMR周波数を有するので、同位体の種類数の多量子ビットの量子計算機が構築できる。
また、各々の面が、同一の同位体で形成されており、また、超格子周期構造を有するから、同種の同位体の全てが単一の量子ビットとして作用し、出力が大きい。
【0011】
また、互いに隣り合う同位体面の同位体が互いに共有結合しているので、核スピン間相互作用は共有結合した原子間のみで有効な核スピン間相互作用であるJ結合が支配的となる。J結合は遠距離の量子ビットに影響を与えることがなく、また、ゼーマン・ハミルトニアンと交換するので量子ビットの固有状態を壊すことがなく、従って、良好な量子もつれ状態が実現できる。
【0012】
また、同一同位体の面が超格子周期毎に積層されているので、同一同位体の面間距離が大きく、同種核間に働く核双極子相互作用が劇的に小さくなり、その結果、量子純粋状態が壊れにくい。
また、半導体結晶であるので、バンドギャップ・エネルギー以上のエネルギーの円偏光を照射すれば、円偏光によって励起された自由電子の特定方向のスピンが電子と核との間の超微細相互作用を介して、核スピンの超偏極を引き起こす。
その結果、容易に、量子計算機の初期化を行えると共に、ほぼ理想的な量子純粋状態を形成できる。
【0013】
た、NMRを行う際の印加磁場の方向はCdTe同位体超格子半導体結晶の<100>方向であることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、4種類の同位体元素が、各々異なった磁気回転比を有しており、これらの4核種は十分に離れたNMR周波数を有するので、磁場勾配の作り込み等の特殊な工夫をしなくとも4量子ビットの量子計算機が構築できる。
また、各々の(111)面が、同一の同位体で形成されているから、また、超格子周期構造を有するから、同種の同位体全体が単一の量子ビットとして作用し、出力が大きい。
【0015】
また、CdとTeは共有結合しているので、共有結合した原子間のみで有効な核スピン間相互作用であるJ結合が支配的となり、J結合は、遠距離の量子ビットに影響を与えることがなく、また、ゼーマン・ハミルトニアンと交換するので量子ビットの固有状態を壊すことがなく、従って、良好な量子もつれ状態が実現される。
【0016】
また、互いに異なる同位体(111)面の積層を周期とした超格子構造を有するから、同一同位体の(111)面が超格子周期長だけ離れている。同種の核から成る(111)面が互いに離れているので同種核間に働く核双極子相互作用が劇的に小さくなり、その結果、量子純粋状態が壊れにくい。
また、CdTe結晶は1.6eVのバンドギャップ・エネルギーを有する半導体結晶であるので、1.6eV以上のエネルギーの円偏光を照射すれば、円偏光によって励起された伝導体の自由電子の特定方向のスピンが超微細相互作用を介して核スピンの超偏極を引き起こす。この結果、容易に、量子計算機の初期化を行えると共に、量子純粋状態を形成できる。
【0017】
また、NMR装置のRFパルスによって核スピンを観測する際の磁場印加方向が<100>方向であるので、双極子相互作用の角度依存性により双極子相互作用が最小となり、量子コヒーレンスへの影響を最小限に押さえることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機を、CdTe同位体超格子半導体結晶を用いた場合を例に説明する。
なお、実際の量子計算を行う手順は、周知のNMR量子計算機と同等であるので説明を省略する。
図1は、本発明の同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機に用いるCdTe同位体超格子半導体結晶の単位胞を示す図である。
図1において、小さい球がCd、大きい球がTeを表し、結晶構造はセン亜鉛鉱構造である。細い実線は単位胞の立方体を表し、太い実線はCdとTeの間の化学結合を表す。CdとTeは共に4配位で、4つの化学結合は等価である。全ての化学結合に大きさ約500Hzの核スピン間のJ結合が伴っている(Phys.Rev.B44(1991)5343参照)。J結合とは、価電子のうち特に共有結合電子を媒介にする核スピン間相互作用であり、スカラー結合とも呼ばれる。
【0019】
図2は、CdTe同位体超格子半導体結晶の(111)面を斜め上方より見た斜視図である。
図に示すように、本発明の固体量子計算機に用いるCdTe同位体超格子半導体結晶は、同位体111Cdから成るA面と、A面上に積層された同位体123Teから成るB面と、B面上に積層された同位体113Cdから成るC面と、C面上に積層された同位体125Teから成るD面を単位周期とした超格子構造を有している。各々の(111)面は同一の同位体元素で形成されており、同一元素の(111)面は超格子周期内では同位体が異なる。すなわち、元素がCdであるA面とC面は質量数が異なり、また、元素がTeであるB面と面では質量数が異なるように積層されている。
実線はCdとTeの間の化学結合(各元素から正4面体の頂点方向へ4本出ている)を表すと同時にJ結合も表している。上下に延びる実線が<111>方向である。この積層方向は重要で、この方向の場合に、それぞれの積層面は単一の同位体で構成される。等価な積層面が4枚周期で繰り返すことによって同位体超格子が構成される。CdとTeはともに核スピン1/2の同位体を2核種ずつ持ち、磁気回転比の違いからこれら4核種は十分に離れた共鳴周波数を持つ。すなわち、本発明の量子計算機は4量子ビットである。
また、同一の同位体(111)面の全ての同位体は単一の量子ビットとして作用する。
なお、スピンが1よりも大きい核種が含まれると今日の量子計算機理論では取り扱い困難であるので、スピン1/2の核種だけで構築できることが好ましく、本発明は、スピン1/2の核種だけで構築している。
本発明のCdTe同位体超格子半導体結晶は、各同位体を濃縮した4種の原料をソースとしたMBE法で作製可能である。
【0020】
次に、本発明の量子計算機に用いるCdTe同位体超格子半導体結晶の作用を説明する。
量子計算を行うためには、量子状態の量子もつれ状態を実現することが必要である。J結合は、共有結合した原子間でのみ有効な核スピン間相互作用であるため核スピン間相互作用は遠距離まで届かず、また、ゼーマン・ハミルトニアンと交換するので固有状態を壊さない。このため、J結合は、良好な量子もつれを実現することができ、実際、溶液で成功したNMR量子計算機は、全て、分子内のJ結合を利用して量子もつれ状態を実現したものである。本発明の量子計算機は、核スピン間相互作用にJ結合を利用したものである。
【0021】
図1,2に示したような同位体超格子を作るメリットは、核双極子相互作用のうちフリップ・フロップ成分(量子コヒーレンスを壊す原因)の占める割合を劇的に小さくできることにある。一般に双極子相互作用は静的成分(核スピンIのz成分をIz とし、Iz ・Iz を含む項であり、共鳴磁場の大きさを一定の値だけずらす効果を有する)とフリップ・フロップ成分(I+ ・I- +I- ・I+ を含む項であり、2スピン間の向きを交換する効果を有する)の和であるが、このうち量子状態のコヒーレンスをこわす(量子純粋状態をこわす)原因はフリップ・フロップ成分である。フリップ・フロップ成分は同種核間でのみ作用するため、量子コヒーレンスを長く保つためには、同種核をできるだけ遠ざけると効果的である(参考文献として例えば、A.Abragam,“Principlesof Nuclear Magnetism”Oxford University Press,1961、第4章)。図1,2に示したCdTe同位体超格子半導体結晶は、同一同位体の(111)面が超格子周期分だけ離れて積層されているので、Cd同種核間のフリップ・フロップ成分とTe同種核間のフリップ・フロップ成分は通常の結晶よりも著しく軽減されている。
【0022】
軽減の割合いは以下のように見積もることができる。
CdとTeの同位体をそれぞれ二種類ずつ用いた本発明の超格子構造における最近接同種核間距離は、CdとTeの同位体をそれぞれ一種類ずつ用いた通常のCdTe結晶の場合の最近接同種核間距離と比べ、2倍になるので、核双極子相互作用が距離の3乗に反比例することから、核双極子相互作用の大きさは1/8になる(具体的には、NMR線幅及びおよび緩和時間が1/8となって観測できる)。このため本発明の超格子構造においては、核双極子相互作用が(111)面内の静的成分が主になるので共鳴磁場をシフトさせる効果が主になり、量子コヒーレンスへの影響は最小限に抑えることができる。
【0023】
また、本発明の量子計算機は、NMRを行う際の印加磁場方向をCdTe同位体超格子半導体結晶の<100>方向とすることを特徴としている。
核双極子相互作用は、最近接同種核間を結ぶ方向と印加磁場方向との成す角をθとして、3cos2 θ-1であらわされ角度依存性を有している。CdTe同位体超格子半導体結晶の最近接同種核間を結ぶ方向は<111>方向であり、印加磁場方向<100>であるから、3cos2 θ-1=0となり、核双極子相互作用は最小となる。また、最近接以外の遠方の同種核の核双極子相互作用への寄与もこの方向が最小となる。
【0024】
核双極子相互作用は理論と実験の一致が確立されており(参考文献として例えば、A.Abragam,“Principles of Nuclear Magnetism”Oxford University Press,1961、第4章)、角度依存性や核双極子相互作用の絶対値を算出できる。
実際にCdTe同位体超格子半導体結晶について核双極子相互作用を計算した結果、印加磁場方向が<100>方向で最小になり、Cdサイトに約80Hz、Teサイトに約120Hzの核双極子相互作用エネルギーが発生する(しかもその大部分が静的成分である)ことが分かった。ちなみに、<111>方向ではこの約2倍に達する。J結合は実験から500Hzと報告されており(Phys.Rev.B44(1991)5343)、このJ結合は、<100>方向の核双極子相互作用よりも4倍以上大きいので、量子もつれ状態を実現するために十分である。
ちなみに、CdとTeの同位体をそれぞれ一種類ずつ用いた通常のCdTe結晶の場合には、本発明の場合に比べ核双極子相互作用が約2倍大きくなる上に、フリップ・フロップ成分の占める割合も大きくなるので、通常の結晶格子では量子もつれ状態を実現することができない。
【0025】
このように、本発明の量子計算機は、同位体超格子構造を用い、かつ、特定の印加磁場方向を選択することによって、核双極子相互作用をJ結合の4分の1にまで削減することができ、従って、J結合による量子もつれを固体において実現することができる。
【0026】
また、CdTe結晶は、1.6eVの可視光域のバンドギャップ・エネルギーを持つ半導体であるので、レーザー光による初期化(CdとTeの核スピンを同時に超偏極)が実現できる。
初期化は量子計算機の量子ビットを初期状態にリセットするために必要なだけでなく、良好な量子もつれ状態、すなわち量子純粋状態を形成するためにも必要である。この課題を克服することはNMRにとって大きな夢と冒険である。
核スピンは偏極率が極めて低く、通常の強度の印加磁場では1ppm程度の微弱な核スピン偏極しか生じないので、量子純粋状態からは天文学的に遠い。
【0027】
NMR技術分野においては、光ポンピング技術を適用したNMR法、すなわち、OPNMR(Optical Pumping NMR)法が知られている。この方法は、円偏光によって励起された半導体中の自由電子のスピンの向きが選択則により一方向に揃うので、超微細相互作用(一般に電子と原子核との磁気的・電気的相互作用を超微細相互作用、Hyperfine Interactionと呼ぶ。総合解説として例えば、C.P.スリクター著、益田義賀訳「磁気共鳴の原理」シュプリンガー・フェアラーク東京、1997年参照)を介して、結果的に核スピンの超偏極を引き起こすものである。この方法によれば、50%を上回る巨大な核スピン偏極を得ることができる(久保・鹿取著「スピンと偏極」倍風館1994年、補編3参照、また、半導体でのOPNMRの原理と応用については、R.Tycko and J.A.Reimer,J.Phys.Chem.100(1996)13240参照)。
本発明の量子計算機は、量子ビットの初期化にこの方法を用いる。50%を上回る巨大な核スピン偏極を得ることができるので、量子ビットの初期化と共に、ほぼ理想に近い量子純粋状態を実現することができる。
【0028】
なお、具体的な量子計算の方法は、周知のNMR量子計算機と同様な方法によって行うので説明を省略する。
【0029】
上記説明では、CdとTeの同位体をそれぞれ二種類ずつ用いた4量子ビット量子計算機の例に基づき説明したが、互いに共有結合した、さらに多くの種類の同位体から成る面を積層した超格子構造を用いれば、同位体の種類数だけの量子ビットを有する多量子ビット固体量子計算機を実現できることは明らかである。
【0030】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明によれば、磁気回転比の異なる同位体元素から成る面を複数積層するから、同位体元素の種類の数だけの量子ビットを実現できる。
また、隣り合う面の同位体原子同士の結合が共有結合であり、また超格子構造を有するから、J結合に基づく核スピン間相互作用が実現でき、理想的な量子もつれ状態を実現できる。
さらに、半導体結晶であるから、円偏光を用いて量子ビットを容易に、かつ、理想的に初期化できる。
従って、実用的な多量子ビット固体量子計算機を実現することができる。
なお、本発明の量子計算機は、原理的には可能であるが技術的には多難が予測される他の固体NMR量子計算機に比べ、実証されている技術のみで実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の同位体超格子構造を有する半導体結晶を用いた固体NMR量子計算機に用いるCdTe同位体超格子半導体結晶の単位胞を示す図である。
【図2】CdTe同位体超格子半導体結晶の(111)面を斜め上方より見た斜視図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1