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明細書 :哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法、および該神経幹細胞から神経系細胞を生産する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3723152号 (P3723152)
公開番号 特開2003-325167 (P2003-325167A)
登録日 平成17年9月22日(2005.9.22)
発行日 平成17年12月7日(2005.12.7)
公開日 平成15年11月18日(2003.11.18)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法、および該神経幹細胞から神経系細胞を生産する方法
国際特許分類 C12N  5/06      
FI C12N 5/00 E
請求項の数または発明の数 7
全頁数 19
出願番号 特願2002-136321 (P2002-136321)
出願日 平成14年5月10日(2002.5.10)
審査請求日 平成14年5月10日(2002.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小阪 美津子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 国際公開第00/050572(WO,A1)
Brain Research, 1995, Vol.677, pp.300-310
神経研究の進歩, 2002年4月10日, Vol.46, No.2, pp.277-284
実験医学, 2002年3月25日, Vol.20, No.5, pp.818-821
調査した分野 C12N 5/00 - 5/10
BIOSIS/WPI(DIALOG)
PubMed
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することを特徴とする神経幹細胞の生産方法。
【請求項2】
前記虹彩色素上皮細胞が、非ヒト哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出工程と、
摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離工程とにより単離されることを特徴とする請求項1に記載の神経幹細胞の生産方法。
【請求項3】
前記哺乳動物は哺乳動物成体である、請求項1または2に記載の神経幹細胞の生産方法。
【請求項4】
哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、
上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を神経系細胞に分化させる神経幹細胞分化工程とを含むことを特徴とする神経系細胞の生産方法。
【請求項5】
哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、
上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を接着培養法により培養する接着培養工程とを含むことを特徴とする神経系細胞の生産方法。
【請求項6】
前記虹彩色素上皮細胞が、非ヒト哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出段階と、
摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離段階とにより単離されることを特徴とする請求項4または5に記載の神経系細胞の生産方法。
【請求項7】
前記哺乳動物は哺乳動物成体である、請求項4ないし6の何れか1項に記載の神経系細胞の生産方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経幹細胞、ならびに該神経幹細胞から神経系細胞を生産する方法、およびその方法により得られる神経系細胞に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、脳、脊髄における神経幹細胞の存在が認められ、またES細胞が特定の中枢神経系細胞へ分化することが報告されており、中枢神経系再生医療への期待が高まっている。また、神経幹細胞の分離および選択的培養方法として、neurosphere法(浮遊凝集魂培養法)が確立されている。さらに、上記浮遊凝集魂培養により神経幹細胞が形成するsphere(凝集魂)を接着培養法にて培養することによって、神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導する神経幹細胞の分化誘導法も報告されている。
【0003】
また、脳、脊髄由来の神経幹細胞またはES細胞を生体内に移植することにより、該移植した細胞が環境に適応して特異的な神経細胞へと分化することが報告されている(Nature(2001)414,112-117 review(文献(1)))。
【0004】
しかしながら、脳、脊髄由来の神経幹細胞やES細胞の医療への応用を考えた場合には、細胞移植による免疫拒絶の問題、倫理的問題、移植細胞源の需要と供給のアンバランスなどの多くの問題が生じる。
【0005】
そこで、移植対象となる個体自身に由来する細胞を中枢神経系再生のための移植源として用いることが可能となれば、自家移植が可能となり上記の問題を解決することができる。このような中枢神経系再生のための移植源として利用が期待されている細胞としては、眼球の虹彩色素上皮細胞がある。虹彩色素上皮細胞は、患者本人からその細胞の一部を採取することが可能である。
【0006】
虹彩色素上皮細胞は、光量に応じて瞳孔を開いたり、狭めたりして網膜に届く光量を調節するための組織である虹彩を構築している細胞のひとつである。上記虹彩色素上皮細胞の発生起源は、網膜色素上皮細胞および毛様体上皮細胞と同様に神経板に由来する。網膜は複数の細胞層から構築されており、上記網膜色素上皮細胞は、網膜の最も外側の細胞層である受容器層を被っている。毛様体上皮は、虹彩と網膜との中間的位置に存在する組織である。
【0007】
有尾両生類の成体イモリの眼においては、上記網膜を構築している複数の細胞層に存在する細胞が、網膜色素上皮細胞の分化転換により完全に再生されることが知られている。また、成体イモリの眼においては、レンズ(水晶体)が再生することも古くから知られている。このイモリの眼におけるレンズの再生は、虹彩色素上皮細胞がレンズ細胞へ分化転換することにより成立する。
【0008】
一部の両生類だけではなく魚類、および発生期の鳥類ならびに発生期の哺乳類の網膜色素上皮細胞についても、これまでに、レンズや神経細胞への分化転換能を有することが試験管内の培養実験により示されている。
【0009】
例えば、哺乳動物においては、培養下の実験によって、胎児期の限られた時期ではあるものの、その網膜色素上皮細胞は、神経細胞への分化転換能を有することが報告されている(Brain Res.(1995)677:300-310(文献(2)))。しかしながら、上記文献(2)においては、哺乳動物の胎児期の限られた時期以降の時期における網膜色素上皮細胞の神経細胞への分化転換能は否定されている。
【0010】
胎児期においては、発生過程であるために比較的未分化な細胞が各組織に多く存在しており、網膜色素上皮細胞においても胎児期の限られた時期であれば、比較的未分化な細胞が存在している可能性が高い。このように比較的未分化な細胞であれば、神経細胞へ分化誘導することは可能である。
【0011】
しかしながら、哺乳動物成体の各組織において、比較的未分化な細胞が存在していることは稀である。また、哺乳動物成体の網膜色素上皮細胞は、高度に分化した細胞であるために細胞の分離・培養は困難である。このため、哺乳動物の胎児期の限られた時期以降の時期における網膜色素上皮細胞を神経細胞に分化転換させることは困難である。すなわち、現在のところ、哺乳動物成体の網膜色素上皮細胞は、中枢神経系再生のための移植源とすることができない。
【0012】
また、毛様体上皮細胞についての以前の研究においては、哺乳類成体由来の毛様体上皮細胞を、上記浮遊凝集魂培養により培養することによってsphere(凝集魂)が形成されることが示されており、さらに該凝集魂を接着培養法にて培養することによって、ロドプシン陽性細胞が得られることが報告されている(Science 2000 March 17;287(5460):2032-2036,Tropepe V ら(文献(3)))。
【0013】
しかしながら、医療への応用を考えた場合、患者本人の毛様体上皮細胞を得ることは、非常に困難である。また、上記文献(3)においては、哺乳類成体由来の毛様体上皮細胞に網膜の幹細胞が存在すると主張されているのみであり、神経幹細胞との関連についての記載はない。
【0014】
また、虹彩色素上皮細胞は、組織が小さく細胞数も少ない。このため、該虹彩色素上皮細胞の単離培養は困難とされてきたが、本発明者は以前、ニワトリの雛の虹彩色素上皮細胞を単離培養することに成功したことを報告している(Experimental Cell Res.(1998)245,245-251(文献(4)))。上記文献(4)には、培養下の実験により、ニワトリの雛の虹彩色素上皮細胞がレンズへの分化転換能を有することが示されている。
【0015】
さらに、本発明者は以前、上記文献(4)の方法に改変を加えることにより、哺乳動物(マウス、ラット、ヒト胎児)の虹彩細胞の単離培養を可能とした(nature neuroscience(2001)4(12),1163(文献(5)))。
【0016】
上記文献(5)においては、成体ラットの虹彩組織を単離し、初代培養したところ、一部の細胞が神経マーカーを発現することが確認されたが、特異に分化した神経マーカーは検出されなかった。そこで、網膜の視細胞を得るため、培養した虹彩細胞に、視細胞の発生時期に重要な働きをすることが示唆されているCrx遺伝子を強制発現させると、上記培養した虹彩細胞は、光受容機能に必須のロドプシンタンパク質を産生することが確認された。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の哺乳動物成体における虹彩細胞の単離、培養方法では、中枢神経系を再生するための移植源となる神経幹細胞を得ることができない。また、上記文献(5)では、哺乳動物成体から虹彩組織を単離培養することを可能としているが、哺乳動物成体の虹彩組織から虹彩色素上皮細胞を単離する方法は確立されていない。
【0018】
上記文献(5)によれば、成体ラットの虹彩細胞を単離し、培養することにより、虹彩細胞から、ロドプシンタンパク質を産生する細胞が得られることが示されている。ロドプシンタンパク質は、網膜の光受容器である杆体(rod cell)および錐体(cone cell)に多く含まれているタンパク質である。しかしながら、上記文献(5)の方法では、虹彩細胞を未分化幹細胞として安定に増殖させることができず、ロドプシンタンパク質を産生する細胞を多量に得ることは困難である。
【0019】
また、上記文献(5)によれば、成体ラットの虹彩細胞からロドプシンタンパク質を産生する細胞を得るためには、Crx遺伝子を強制発現させるための遺伝子導入を必要とする。しかしながら、医療への応用を考えた場合、遺伝子導入を行なうことは、DNA損傷などの危険性があり、好ましくない。
【0020】
したがって、現在のところ、哺乳動物成体由来の虹彩組織から中枢神経系を再生するための移植源となる神経幹細胞を生産することは事実上困難である。
【0021】
虹彩色素上皮細胞は、患者本人からその細胞の一部を採取することが可能であるので、もし、虹彩色素上皮細胞が神経幹細胞として使用可能となれば、脳、眼などの中枢神経系再生のための移植細胞源として活用することができる。すなわち、患者自身の細胞を用いた再生医療が実現することになる。したがって、虹彩色素上皮細胞が神経幹細胞として使用可能となれば、現在有効な治療方法が確立していない中枢神経疾患や網膜神経疾患のための治療方法に重要な貢献をもたらすものと期待される。
【0022】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、中枢神経系再生における細胞移植による免疫拒絶の問題、倫理的問題、移植細胞源の需要と供給のアンバランスなどの問題を解決し得る哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経幹細胞を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導し得る神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、哺乳動物の眼球から純粋に単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産することが可能であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
本発明の神経幹細胞の生産方法は、上記課題を解決するために、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することを特徴としている。
【0025】
上記の発明によれば、従来公知の哺乳動物成体の虹彩色素上皮の単離方法により、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出し、虹彩組織を虹彩色素上皮を単離し、単離した虹彩色素上皮を、神経幹細胞の分離および選択的培養方法として従来公知のneurosphere法(浮遊凝集魂培養法)にて選択的に培養することにより、神経幹細胞が形成する凝集魂(sphere)と非常に類似した凝集魂を得ることができる。
【0026】
上記虹彩色素上皮由来の凝集魂は、後述するように、血清および従来公知の成長因子を添加した培地にて培養することにより神経細胞への分化を誘導することができる。また、上記虹彩色素上皮由来の凝集魂は、後述するように、生体内に移植することによっても神経細胞へ分化する。よって、このように比較的未分化な状態の上記虹彩色素上皮由来の細胞を、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞と称する。
【0027】
したがって、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞から、中枢神経系を再生するための移植源となる神経幹細胞を生産することができる。
【0028】
また、本発明の神経幹細胞の生産方法は、上記の神経幹細胞の生産方法において、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出工程と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離工程とにより単離されることを特徴としている。
【0029】
したがって、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞から、中枢神経系を再生するための移植源となる神経幹細胞を生産することができる。
【0030】
また、本発明の神経幹細胞は、上記の神経幹細胞の生産方法により得られる。
【0031】
それゆえ、本発明の神経幹細胞生産方法、およびその方法を用いた神経幹細胞は、中枢神経系再生における細胞移植による免疫拒絶の問題、倫理的問題、移植細胞源の需要と供給のアンバランスなどの問題を解決し得る移植細胞源を提供することができる。よって、本発明の神経幹細胞生産方法、およびその方法を用いた神経幹細胞は、現在有効な治療方法が確立していない中枢神経疾患や網膜神経疾患のための治療方法に重要な貢献をもたらす可能性が高い。
【0032】
本発明の神経系細胞の生産方法は、上記課題を解決するために、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を神経系細胞に分化させる神経幹細胞分化工程とを含むことを特徴としている。
【0033】
上記の発明によれば、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を従来公知の培養方法により培養する、または従来公知の移植方法により上記神経幹細胞を生体内に移植することによって上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することができる。
【0034】
本発明の神経系細胞の生産方法は、上記課題を解決するために、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を接着培養法により培養する接着培養工程とを含むことを特徴としている。
【0035】
上記の発明によれば、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を従来公知の接着培養法により培養することにより、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することができる。
【0036】
従来公知の成長因子および血清を組み合わせて、接着培養を行なうための培地に添加することにより、神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することができる。
【0037】
したがって、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導し得る神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞を提供することができる。
【0038】
また、本発明の神経系細胞の生産方法は、上記の神経系細胞の生産方法において、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出段階と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離段階とにより単離されることを特徴としている。
【0039】
したがって、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導し得る神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞を提供することができる。
【0040】
また、本発明の神経系細胞は、上記の神経系細胞の生産方法により得られる。
【0041】
それゆえ、本発明の神経幹細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経幹細胞、ならびに神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞は、現在有効な治療方法が確立していない中枢神経疾患や網膜神経疾患のための治療方法に重要な貢献をもたらす可能性が高い。
【0042】
【発明の実施の形態】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1ないし図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
本発明者は、中枢神経系再生における細胞移植による免疫拒絶の問題、倫理的問題、移植細胞源の需要と供給のアンバランスなどの問題を解決する目的で、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を生産した。
【0044】
本実施の形態の神経幹細胞の生産方法は、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養する方法である。
【0045】
すなわち、本実施の形態の神経幹細胞の生産方法は、図1に示すように、少なくとも、哺乳動物の眼球から虹彩色素上皮細胞を単離する虹彩色素上皮細胞単離工程(ステップ1、以下ステップをSと略す)と、単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養する選択的培養工程(S2)とを含んでいる。なお、本発明にかかる神経幹細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0046】
本実施の形態の神経幹細胞の生産方法に用いる上記哺乳動物は、胎児から成体に至るまでのどの時期の個体であってもよい。すなわち、本実施の形態の神経幹細胞の生産方法は、哺乳動物胎児の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を生産することが可能なことは言うまでもないが、哺乳動物成体の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を生産することが可能である。
【0047】
S1の虹彩色素上皮細胞単離工程は、虹彩色素上皮細胞を単離できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出し、摘出した虹彩組織から虹彩色素上皮細胞を単離すればよい。哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する方法としては、前記文献(5)に記載の方法を用いることが好ましい。
【0048】
S2の選択的培養工程は、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養すればよい。
【0049】
ここで、上記選択的培養工程(S2)には、プロセス6(以下、プロセスをPと略す)として、上記虹彩色素上皮細胞単離工程(S1)において単離された虹彩色素上皮細胞を凝集している状態から個々の細胞に解離するための細胞解離段階と、P7として、単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養する細胞培養段階とが含まれる。
【0050】
以下、上記選択的培養工程(S2)の各段階P6およびP7について詳細に説明する。まず、P6の上記細胞解離段階は、単離された虹彩色素上皮のシート状の細胞を個々の細胞に解離できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、単離された虹彩色素上皮のシート状の細胞を個々の細胞に解離すればよい。
【0051】
例えば、P6の上記細胞解離段階は、市販のトリプシン溶液を用いて、単離された虹彩色素上皮のシート状の細胞を個々の細胞に解離する。また、例えば、P6の上記細胞解離段階は、上記トリプシン溶液を用いずに、市販のマイクロピペットを用いたピペッティング操作により、単離された虹彩色素上皮のシート状の細胞を個々の細胞に解離することもできる。
【0052】
なお、P6の上記細胞解離段階に用いられる試薬および器具は、特に限定されるものではなく、単離された虹彩色素上皮細胞を凝集している状態から個々の細胞に解離することが可能な従来公知の試薬および器具を用いることができる。
【0053】
P7の細胞培養段階は、単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養することができればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養すればよい。好ましくはScience 1992:225;1707-1710(文献(6))に記載のneurosphere法(浮遊凝集魂培養法)を利用して、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞のみを選択的に培養する。
【0054】
例えば、P7の上記細胞培養段階は、市販の無血清培地に市販のN2サプリメントを加えたものを浮遊凝集魂培養用の培養液として使用する。P6の上記細胞解離段階にて解離された上記虹彩色素上皮細胞を、上記浮遊凝集魂培養用の培養液中にて、市販のシェイカーを用いて回転を加えながら培養する。これによって、脳、脊髄由来の神経幹細胞が形成する凝集魂(sphere)と非常に類似した、図2に示す凝集魂を得ることができる。
【0055】
なお、P7の上記細胞培養段階に用いられる培養液および試薬は、特に限定されるものではなく、脳、脊髄由来の神経幹細胞が形成する凝集魂(sphere)と非常に類似した、凝集魂を得ることが可能な従来公知の培養液および試薬を用いることができる。
【0056】
上記虹彩色素上皮由来の凝集魂は、後述するように、血清および従来公知の成長因子を添加した培地にて培養することにより神経細胞への分化を誘導することができる。また、上記虹彩色素上皮由来の凝集魂は、後述するように、生体内に移植することによっても神経細胞へ分化する。よって、このように比較的未分化な状態の上記虹彩色素上皮由来の細胞を、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞と称する。
【0057】
本実施の形態の神経幹細胞の生産方法は、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出工程と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離工程とにより単離される方法である。なお、本発明にかかる神経幹細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0058】
すなわち、本実施の形態の神経幹細胞の生産方法は、図1に示すように、少なくとも虹彩色素上皮細胞単離工程(S1)と選択的培養工程(S2)とが含まれ、さらに、上記虹彩色素上皮細胞単離工程(S1)には、後述する虹彩組織摘出工程(P1)および虹彩色素上皮分離工程(P2)が含まれる。なお、本発明にかかる神経幹細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0059】
上記虹彩組織摘出工程(P1)は、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出できれば良く、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出すればよい。好ましくは、前記文献(5)に記載の方法を利用して、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出すればよい。
【0060】
ここで、上記虹彩組織摘出工程(P1)は、図1に示すように、P3として、哺乳動物の眼球から虹彩組織のみを切除する虹彩組織切除段階を、P4として、切除した虹彩組織を酵素処理する酵素処理段階を、P5として、酵素処理した虹彩組織を回復させる虹彩組織回復処理段階を含んでいる。なお、本発明にかかる神経幹細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0061】
以下、上記虹彩組織摘出工程(P1)の各段階P3~P5について詳細に説明する。まず、P3の上記虹彩組織切除段階は、哺乳動物の眼球から虹彩組織のみを切除できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、哺乳動物の眼球から虹彩組織のみを切除すればよい。
【0062】
例えば、P3の上記虹彩組織切除段階は、市販のマイクロ鋏を用いて哺乳動物の眼球から虹彩組織のみを切除する。
【0063】
P4の上記酵素処理段階は、虹彩組織から虹彩色素上皮を分離しやすくするために虹彩組織を酵素処理するものであり、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、虹彩組織から虹彩色素上皮を分離しやすくするために虹彩組織を酵素処理すればよい。
【0064】
例えば、P4の上記酵素処理段階は、虹彩組織を市販のディスパーゼを含むディスパーゼ溶液中にて15~40分間反応させた後、市販のEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid:エチレンジアミン四酢酸)を含むEDTA溶液中にて20~30分間反応させる。なお、P4の上記酵素処理段階に用いられる酵素および試薬は、特に限定されるものではなく、虹彩組織から虹彩色素上皮を分離しやすくするように虹彩組織を処理することが可能な従来公知の酵素および試薬を用いることができる。
【0065】
P5の上記虹彩組織回復処理段階は、酵素処理によって衰弱した虹彩組織を回復させるものであり、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、酵素処理によって衰弱した虹彩組織を回復すればよい。
【0066】
例えば、P5の上記虹彩組織回復処理段階は、上記酵素処理段階の反応後、虹彩組織を市販のウシ胎児血清を含む培養液中にて、30~60分間反応させて虹彩組織を回復させる。なお、P5の上記虹彩組織回復処理段階に用いられる血清を含む培養液および試薬は、特に限定されるものではなく、衰弱した虹彩組織が回復することが可能な従来公知の血清を含む培養液および試薬を用いることができる。
【0067】
また、上記虹彩組織摘出工程(P1)においては、P4の上記酵素処理段階およびP5の上記虹彩組織回復処理段階の反応時間が特に重要である。P4の上記酵素処理段階の上記虹彩組織の上記ディスパーゼ溶液による反応時間、および上記EDTA溶液による反応時間、ならびにP5の上記虹彩組織回復処理段階の上記ウシ胎児血清を含む培養液による反応時間を調節することによって、ニワトリだけではなく、マウス、ラット、ヒトの眼球から虹彩色素上皮を分離することができる。
【0068】
マウスの眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を25~37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により15~40分間反応させ、室温下にて上記0.05~0.1%EDTA溶液により16~40分間反応させ、ウシ胎児血清を8~10%含む培養液により30~120分間反応させることが好ましい。
【0069】
また、生後10日のマウスの眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により16分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により20分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により90分間反応させることが特に好ましい。
【0070】
また、生後12日のマウスの眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により20分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により25分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により60分間反応させることが特に好ましい。
【0071】
また、生後2ヶ月のマウスの眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により30分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により40分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により30分間反応させることが特に好ましい。
【0072】
ラットの眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により15~40分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により15~60分間反応させ、ウシ胎児血清を8~10%含む培養液により30~120分間反応させることが好ましい。
【0073】
ヒト胎児の眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を25~37℃の上記500~1000U/mLのディスパーゼ溶液により15~30分間反応させ、室温下にて上記0.05~0.1%EDTA溶液により15~40分間反応させ、ウシ胎児血清を8~10%含む培養液により10~60分間反応させることが好ましい。
【0074】
また、生後19週のヒト胎児の眼球から上記虹彩色素上皮単離する場合は、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により30分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により30分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により60分間反応させることが特に好ましい。
【0075】
なお、上記培養液としては、例えば、invitrogen社製「DMEM培地」を用いて、市販のウシ胎児血清を適量添加したものを用いればよい。
【0076】
P2の上記虹彩色素上皮分離工程は、上記虹彩組織摘出工程(P1)にて摘出した虹彩基質と虹彩色素上皮とから構築される虹彩組織から、虹彩色素上皮のみを分離できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、虹彩組織から虹彩色素上皮のみを分離すればよい。
【0077】
例えば、P2の上記虹彩色素上皮分離工程は、回復させた上記虹彩組織から、市販のマイクロピンセットを用いて、虹彩色素上皮のみをはがして回収することにより、虹彩基質と虹彩色素上皮とを分離する。
【0078】
本実施の形態の神経幹細胞は、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法により得られる。
【0079】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。また、説明の便宜上、実施の形態1で説明した事項と実質的に同一の事項については、適宜その説明を省略する。
【0080】
本実施の形態の神経系細胞の生産方法は、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を接着培養法により培養する接着培養工程とを有する。
【0081】
すなわち、本実施の形態の神経系細胞の生産方法は、図3に示すように、少なくとも、上記虹彩色素上皮細胞単離工程(S1)と上記選択的培養工程(S2)とを含む神経幹細胞生産工程(S3)、および神経幹細胞を接着培養法により培養する接着培養工程(S4)を含んでいる。なお、本発明にかかる神経系細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0082】
上記神経幹細胞生産工程(S3)は、前記実施の形態1にて説明した神経幹細胞の生産方法と同様にして行なう。
【0083】
上記神経系細胞とは、ニューロン(神経細胞)、および非神経細胞であるグリア細胞を含むものとする。上記グリア細胞は、ニューロンの特徴のひとつである能動的な電気的応答を示さないが、ニューロンの支持、または栄養をニューロンに供給するなどニューロンに対して様々な機能を担う細胞である。上記グリア細胞は、その機能や特徴によって、脊椎動物においては、アストログリア(アストロサイト)、ミクログリア(ミクログリア細胞)、オリゴデンドログリア(オリゴデンドロサイト)、シュワン細胞の4種類に分類される。また、上記グリア細胞は、成長因子に対して応答する。
【0084】
S4の接着培養工程は、神経幹細胞生産工程(S3)にて得られた哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導すればよい。例えば、S4の接着培養工程は、上記文献(6)に記載の接着培養法を利用してもよい。
【0085】
また、S4の上記接着培養工程は、例えば以下のようにして接着培養を行なえばよい。
【0086】
接着培養用の培地としては、ウシ胎児血清を含む市販のDMEM培地に市販の従来公知の成長因子を添加したものを使用する。一般に神経幹細胞の分化誘導系においては、成長因子による刺激をなくすために、成長因子を培養液に加えない血清入りの培地を用いるが、本実施の形態の神経系細胞の生産方法に用いる接着培養用の培地としては、従来公知の成長因子を添加した血清入りの培地を使用する。
【0087】
神経幹細胞生産工程(S3)にて得られた哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、市販のマイクロピペットを用いて市販の接着培養用の培養皿へ移動する。上記接着培養用の培養皿へ移動した上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、上記接着培養用の培地を用いて市販の炭酸ガス培養装置中にて静置して培養する。炭酸ガス濃度は5%が好ましい。
【0088】
これによって、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することができる。
【0089】
上記接着培養用の培地には、FGF(fibroblast growth factor:繊維芽細胞成長因子)を10~40ng/mL、EGF(epidermal growth factor:上皮成長因子)を10~40ng/mL、RA(retinoic acid:ビタミンA)を0.1~2μM添加することが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0090】
上記接着培養用の培養皿としては、ラミニン(laminin)、コラーゲン(collagen)などの細胞外基質成分がコートされた培養皿、またはポリDリジンコートの培養皿が好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0091】
なお、S4の上記接着培養工程に用いられる培地、培養皿および添加する因子は、特に限定されるものではなく、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することが可能な従来公知の培地、培養皿および因子を用いることができる。
【0092】
ここで、S4の上記接着培養工程に用いられる培地に添加する成長因子としては、例えば、FGF(fibroblast growth factor:繊維芽細胞成長因子)、EGF(epidermal growth factor:上皮成長因子)、BDNF(brain derived nutritional factor:脳由来神経栄養因子)、LIF(leukemia inhibitory factor:白血病抑制因子)、CNTF(毛様体神経節神経栄養因子)、NT-3(neurotrophin-3:ニューロトロフィン-3)、NT-4(neurotrophin-4:ニューロトロフィン-4)、RA(retinoic acid:ビタミンA)、PDGF(platelet derived growth factor:血小板由来成長因子)、T3(triiodothyronine:トリヨードチロニン)が挙げられる。
【0093】
S4の上記接着培養工程は、上記のような従来公知の成長因子、および血清を含んだ接着培養用の培地、ならびに細胞外基質成分がコートされた培養皿を用いて、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を接着培養法にて培養することにより、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の神経系細胞への分化を促すことができる。
【0094】
なお、接着培養用の培地に添加する因子の組み合わせや、培養皿をコートする細胞外基質成分の組み合わせを変えることにより、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞から様々な神経細胞種を産生することが可能である。
【0095】
また、本実施の形態の神経系細胞の生産方法は、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出段階と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離段階とにより単離される方法である。なお、本発明にかかる神経系細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0096】
上記虹彩組織摘出段階および上記虹彩色素上皮分離段階は、それぞれ前記実施の形態1にて説明した虹彩組織摘出工程(P1)ならびに虹彩色素上皮分離工程(P2)と実質的に同一である。
【0097】
また、本実施の形態の神経系細胞の生産方法は、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を神経系細胞に分化させる神経幹細胞分化工程とを有する。なお、本発明にかかる神経系細胞の生産方法はこれに限定されるものではなく、他の工程が含まれていてもよい。
【0098】
上記神経幹細胞分化工程は、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導できればよく、その具体的な手法等については特に限定されるものではない。一般的には、従来公知の手法を利用して、神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導すればよい。例えば、従来公知の移植方法により神経幹細胞を生体内に移植することによっても、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞は神経系細胞に分化する。
【0099】
上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞は、上記文献(1)に記載のように、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を生体内に移植することにより、環境に適応した特異的な神経細胞へと分化する。
【0100】
したがって、本実施の形態の上記接着培養工程(S4)を行なわず、上記神経幹細胞生産工程(S3)にて得られた上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、哺乳動物の生体内に移植する(神経幹細胞移植工程、図示せず)ことによって、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化するようにしてもよい。
【0101】
すなわち、上記神経幹細胞分化工程は、上記接着培養工程(S4)または上記神経幹細胞移植工程のどちらを用いてもよい。また、上記接着培養工程(S4)を上記神経幹細胞移植工程を組み合わせることも可能であり、この場合上記接着培養工程(S4)の後に上記神経幹細胞移植工程を行なえばよい。
【0102】
なお、上記神経幹細胞分化工程に用いられる方法は、特に限定されるものではなく、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導することが可能な従来公知の方法を用いることができる。
【0103】
また、本実施の形態の神経系細胞は、上記神経系細胞生産方法により得られる。
【0104】
なお、本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。
【0105】
【実施例】
以下、実施例および図2、図4、図5に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
(虹彩色素上皮細胞の単離)
以下に示す哺乳動物、生後10日、生後12日および生後2ヶ月のマウス(「C57BL6」SLC社またはクレア社から入手)、生後9~12日目および生後3週令ならびに生後2ヶ月のラット(「DAラット」SLC社から入手)、生後19週のヒト胎児(倉敷成人病センター院長より提供、当センター倫理委員会承認済)から虹彩色素上皮細胞を摘出した。
【0107】
市販のマイクロ鋏を用いて上記の哺乳動物の眼球から虹彩組織のみを切除した。該虹彩組織を37℃のディスパーゼ溶液(「ディスパーゼ(dispase)」合同清酒社製)1000U/mL中にて、15~40分間反応させた後、室温下で0.05%EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid:エチレンジアミン四酢酸)溶液中にて20~30分間反応させた。反応後、上記虹彩組織をウシ胎児血清を8%含む培養液(「DMEM培地」invitrogen社製)中にて、30~60分間反応させ、上記虹彩組織を回復させた。その後、市販のマイクロピンセットを用いて、虹彩色素上皮のみを上記虹彩組織からはがして回収することにより、虹彩基質と虹彩色素上皮とを分離した。
【0108】
生後10日のマウスにおいては、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により16分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により20分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により90分間反応させた。
【0109】
また、生後12日のマウスにおいては、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により20分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により25分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により60分間反応させた。
【0110】
また、生後2ヶ月のマウスにおいては、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により30分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により40分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により30分間反応させた。
【0111】
生後11日のラットにおいては、上記虹彩組織を上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により20分間反応させ、上記0.05%EDTA溶液により25分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液(「DMEM培地」invitrogen社製)により90分間反応させた。
【0112】
生後19週のヒト胎児においては、上記虹彩組織を37℃の上記1000U/mLのディスパーゼ溶液により30分間反応させ、室温下にて上記0.05%EDTA溶液により30分間反応させ、ウシ胎児血清を8%含む培養液により60分間反応させた。
【0113】
(浮遊凝集魂培養法)
上記分離した虹彩色素上皮組織は、市販のトリプシン溶液を用いて細胞に解離した。その後、該解離した虹彩色素上皮細胞を、上記文献(6)に記載のneurosphere法(浮遊凝集魂培養法)によって、選択的に培養した。浮遊凝集魂培養の培地には、無血清培地(「DMEM/F12培地」invitrogen社製)に、invitrogen社製のN2サプリメントを1/100量加えたものを使用した。トリプシン処理した上記虹彩色素上皮細胞を、上記の浮遊凝集魂培養液中にて、市販のシェイカーを用いて回転を加えながら培養することにより、脳または脊髄由来の神経幹細胞が形成する凝集魂(sphere)と非常に類似した図2に示す凝集魂を得た。
【0114】
(神経幹細胞の接着培養による神経細胞への分化誘導)
生後10日、生後12日および生後2ヶ月のマウスの眼球より単離した虹彩式色素上皮細胞を上記浮遊凝集魂培養後、接着培養を以下のように行なった。
【0115】
ウシ胎児血清を8%含むinvitrogen社製のDMEM培地に、FGF-2(fibroblast growth factor-2:繊維芽細胞成長因子-2)を30ng/mL、EGF(epidermal growth factor:上皮成長因子)を30ng/mL添加したものを接着培養用の培地として使用した。
【0116】
上記浮遊凝集魂培養法により得られた上記マウスの虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、市販のマイクロピペットを用いて市販の接着培養用の培養皿へ移動した。接着培養用の培養皿は、ラミニンによってコートされているものを使用した。上記接着培養用の培養皿へ移動した上記マウスの虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、上記接着培養用の培地を用いて市販の炭酸ガス培養装置中にて静置して培養した。また、炭酸ガス濃度は5%とした。上記の接着培養によって、ニューロンまたはグリア細胞のマーカーを産生する細胞が検出された。
【0117】
また、生後19週のヒト胎児の眼球より単離した虹彩式色素上皮細胞を上記浮遊凝集魂培養後、接着培養を以下のように行なった。
【0118】
ウシ胎児血清を8%含むinvitrogen社製のDMEM培地に、RA(retinoic acid:ビタミンA)を1μM添加したものを接着培養用の培地として使用した。接着培養用の培養皿は、ラミニン(laminin)によってコートされているBiocoot社製の培養皿を使用した。上記接着培養用の培養皿へ移動した上記ヒト胎児の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、上記接着培養用の培地を用いて市販の炭酸ガス培養装置中にて静置して培養した。また、炭酸ガス濃度は5%とした。上記の条件にて接着培養を行なった結果、上記ヒト胎児の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を、神経系細胞ではないが、レンズ細胞に分化誘導することができた。
【0119】
(神経幹細胞の細胞移植による神経細胞への分化誘導)
生後9~12日のマウスの眼球より単離した虹彩式色素上皮細胞を上記浮遊凝集魂培養法により培養したものを、ProNAS(1997)127,1-11 に記載の移植方法により、妊娠12日目のマウスの子宮内胎児の脳室にマイクロガラス針を用いて移植した。移植した細胞の数は、5000~20000個/脳である。
【0120】
移植細胞の標識には、DiI(molecular probe社製)蛍光色素を用いる方法と、虹彩式色素上皮細胞がGFP(green fluorescence protein)によって遺伝的に標識された形質転換マウス(大阪大学、岡部勝教授より提供)の虹彩色素上皮細胞を用いる方法との二種類の方法を用いた。
【0121】
蛍光色素DiIを用いる方法について、図4に基づいて以下に説明する。
【0122】
生後10日目のマウスの眼球から虹彩組織を摘出し、摘出した虹彩組織から虹彩色素上皮細胞を単離し、単離した虹彩色素上皮細胞を蛍光色素DiIにて標識した。蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を妊娠12日目のマウスの子宮内胎児の脳室にマイクロガラス針を用いて移植した。
【0123】
上記移植後7日目に、蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を移植した上記のマウス胎児の脳を摘出し、摘出した脳をリン酸緩衝液(PBS)にて4%に希釈したパラホルムアルデヒド(PFA:paraformaldehyde)溶液中にて、4℃で4時間固定した。その後、固定した脳を、シュークロース(sucrose)を20%含んだリン酸緩衝液中に4℃で一晩置いた。
【0124】
次に、固定した脳の凍結切片を作製し、細胞核を染色するために、sigma社製のDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)を1μg/mLに希釈したDAPI希釈液中にて脳切片を30分間反応させた。上記のDAPIを希釈する溶液は、非特異的な抗体の吸着を防ぐためのブロッキングを同時に行なうため、10%ヤギ血清(normal goat serum)溶液を用いた。これによって、DAPI染色とブロッキングとを同時に行なった。
【0125】
次に、一次抗体として、神経細胞のチューブリンを認識する神経マーカーであるtubulin抗体(「tubulinJ」BAbCO社製)を用いた。上記tubulin抗体を1/500に希釈した抗体希液中にて脳切片を4℃で一晩、または37℃で1時間反応させた。その後、PBSで5分間洗浄した。この洗浄操作を3回行なった。
【0126】
二次抗体には、molecular probe社製のanti-mouse IgG-Alexa488抗体を用いた。上記二次抗体を希釈した抗体希液中にて脳切片を室温で1時間反応させた。その後、PBSで5分間洗浄した。この洗浄操作を3回行なった。
【0127】
その後、蛍光顕微鏡を用いて脳切片を観察した結果を図5(a)~図5(d)に示す。
【0128】
図5(a)では、マウス胎児の脳内に移植した蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞が染色されており、マウス眼球から単離した虹彩色素上皮細胞がマウス胎児の脳内に移植されていたことが確認できる。図中の灰色の部分が蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を示している。
【0129】
図5(b)では、図5(a)に示すDiIにて標識した虹彩色素上皮細胞と細胞核との蛍光二重染色像であり、移植された上記虹彩色素上皮細胞が細胞核を有する細胞体であることが確認できる。図中の黒色の部分が蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞の像を示しており、灰色の部分がDAPI抗体により認識された細胞核を有する細胞の像を示している。
【0130】
図5(c)は、図5(a)と同一の切片の一部を強拡大したものであって、DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を示す。図中の灰色の部分が蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を示している。
【0131】
図5(d)は、図5(c)と同じ場所をtubulin抗体を観察するための波長にて観察した像を示し、マウス胎児の脳内に移植した蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞が、神経系細胞に分化していたことが確認できる。図中の黒色の部分がtubulin抗体により認識された細胞の像を示している。
【0132】
虹彩式色素上皮細胞がGFPによって遺伝的に標識された市販の形質転換マウスの虹彩色素上皮細胞を用いる方法は、単離した虹彩色素上皮細胞を蛍光色素DiIにて標識しない点を除いて、上記の蛍光色素DiIを用いる方法と同様にして行なった。
【0133】
【発明の効果】
本発明の神経幹細胞生産方法は、以上のように、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養する方法である。
【0134】
また、本発明の神経幹細胞生産方法は、上記の神経幹細胞の生産方法において、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出工程と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離工程とにより単離される方法である。
【0135】
したがって、哺乳動物の虹彩色素上皮細胞から、中枢神経系を再生するための移植源となる神経幹細胞を生産することができる。
【0136】
また、本発明の神経幹細胞は、上記の神経幹細胞の生産方法により得られるものである。
【0137】
それゆえ、本発明の哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞の生産方法、およびその方法を用いた神経幹細胞は、中枢神経系再生における細胞移植による免疫拒絶の問題、倫理的問題、移植細胞源の需要と供給のアンバランスなどの問題を解決し得る移植細胞源を提供することができるという効果を奏する。
【0138】
本発明の神経系細胞の生産方法は、以上のように、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を神経系細胞に分化させる神経幹細胞分化工程とを含む方法である。
【0139】
本発明の神経系細胞生産方法は、以上のように、哺乳動物の眼球から単離した虹彩色素上皮細胞を浮遊凝集魂培養方法により選択的に培養することにより神経幹細胞を生産する神経幹細胞生産工程と、上記神経幹細胞生産工程により得られた神経幹細胞を接着培養法により培養する接着培養工程とを含む方法である。
【0140】
また、本発明の神経系細胞生産方法は、上記の神経系細胞の生産方法において、上記虹彩色素上皮細胞が、哺乳動物の眼球から虹彩組織を摘出する虹彩組織摘出段階と、摘出した上記虹彩組織から虹彩色素上皮を分離する虹彩色素上皮分離段階とにより単離される方法である。
【0141】
また、本発明の神経系細胞は、上記の神経系細胞の生産方法により得られるものである。
【0142】
それゆえ、上記哺乳動物の虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を神経系細胞に分化誘導し得る神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞を提供することができるという効果を奏する。
【0143】
よって、本発明の神経幹細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経幹細胞、ならびに神経系細胞の生産方法、およびその方法により得られる神経系細胞は、現在有効な治療方法が確立していない中枢神経疾患や網膜神経疾患のための治療方法に重要な貢献をもたらす可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる神経幹細胞の生産方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】マウスの虹彩色素上皮細胞由来の凝集魂(sphere)を示す図面代用写真である。
【図3】本発明にかかる神経系細胞の生産方法の一例を示す概略工程図である。
【図4】マウス胎児脳へのマウス虹彩色素上皮細胞由来の神経幹細胞を移植する場合の手順を示す説明図である。
【図5】(a)はマウス胎児の脳内に移植した蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す図面代用写真であり、(b)は(a)に示す蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞と細胞核を有する細胞体との蛍光二重染色像を示す図面代用写真であり、(c)は(a)と同一の切片の一部を強拡大したものであって、蛍光色素DiIにて標識した虹彩色素上皮細胞を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す図面代用写真であり、(d)はtubulin抗体を観察するための波長にて(c)と同じ脳切片を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す図面代用写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4