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明細書 :牛A群ロタウイルスおよび牛コロナウイルスの迅速同時検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5835683号 (P5835683)
公開番号 特開2012-125220 (P2012-125220A)
登録日 平成27年11月13日(2015.11.13)
発行日 平成27年12月24日(2015.12.24)
公開日 平成24年7月5日(2012.7.5)
発明の名称または考案の名称 牛A群ロタウイルスおよび牛コロナウイルスの迅速同時検出方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2010-281863 (P2010-281863)
出願日 平成22年12月17日(2010.12.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成22年9月3日~4日ホテルメリージュ 鳳凰の間(宮崎県)において開催された第47回日本ウイルス学会九州支部総会(主催者:日本ウイルス学会)で発表
特許法第30条第1項適用 第47回日本ウイルス学会九州支部総会プログラムおよび抄録(平成22年9月3日配布)第48ページ 一般演題36(ウイルスIV)に発表
特許法第30条第1項適用 掲載アドレス :http://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/advpub_1011290396/_article/ http://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/1011290396/_pdf 電気通信回線にて平成22年12月6日に発表
審査請求日 平成25年12月13日(2013.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】芳賀 猛
【氏名】朱 偉
【氏名】董 建宝
【氏名】末吉 益雄
【氏名】後藤 義孝
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100120905、【弁理士】、【氏名又は名称】深見 伸子
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 中国特許出願公開第101367870(CN,A)
Virology,2009年,Vol.385,pp.58-67
Journal of Virological methods,2006年,Vol. 131,pp.148-154
VETERINARSKI ARHIV,2006年,Vol. 76,pp.291-296
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)のオリゴヌクレオチドと、(b)のオリゴヌクレオチドとから構成される、牛A
群ロタウイルス(BRV)検出用プライマーセット。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号1に示
す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、牛A群ロタウイルス検出用プライマーとして配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同一の機能を有するオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号2に示
す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、牛A群ロタウイルス検出用プライマーとして配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同一の機能を有するオリゴヌクレオチド
【請求項2】
以下の(c)のオリゴヌクレオチドと、(d)のオリゴヌクレオチドとから構成される、牛コ
ロナウイルス(BCoV)検出用プライマーセット。
(c) 配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号3に示
す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、牛コロナウイルス検出用プライマーとして配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同一の機能を有するオリゴヌクレオチド
(d) 配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号4に示
す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、牛コロナウイルス検出用プライマーとして配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同一の機能を有するオリゴヌクレオチド
【請求項3】
請求項1に記載のプライマーセットと請求項2に記載のプライマーセットを含む、牛A
群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)の同時検出用キット。
【請求項4】
検体より抽出したRNAを鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットを用いてRT-PCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、牛A群ロタウイルス(BRV)の検出方法。
【請求項5】
検体より抽出したRNAを鋳型とし、請求項2に記載のプライマーセットを用いてRT-PCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、牛コロナウイルス(BCoV)の検出方法。
【請求項6】
検体より抽出したRNAを鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットと請求項2に記
載のプライマーセットの両方を用いてPCR増幅を行い、得られた各増幅産物を検出する工
程を含む、牛A群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)の同時検出方法。
【請求項7】
検体が糞便である、請求項4~6のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、子牛下痢症の原因ウイルスである牛A群ロタウイルスおよび牛コロナウイルス検出用プライマーセット、および当該プライマーセットを用いる牛A群ロタウイルスおよび牛コロナウイルスを同時に高感度で検出することのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛A群ロタウイルス(以下、「BRV」と称する場合がある)および牛コロナウイルス(以下、「BCoV」と称する場合がある)は、特に新生子牛に下痢症を引き起こす病原体として最も重要なウイルスである。BRVおよびBCoVはいずれも牛に感染して経済的損失をもたらすばかりでなく、人への感染の可能性も指摘されており、人畜共通の感染症の原因となることから公衆衛生上も注視される動物ウイルスである。しかしながら、BRVおよびBCoVがおこす下痢症状は臨床的には識別できない。BRVおよびBCoVは、ワクチン接種により予防が可能と考えられることから、下痢症状の病原体として両者を識別して特異的に検出することができれば、BRVおよびBCoV感染症予防への対策をとることができ、有用である。
【0003】
現在国内では、免疫クロマトグラフィー法によるBRV検出用キット(Orion diagnostic社)が市販されているが、感度についての情報はない。糞便検体中のウイルス含量は微量の可能性もあり、また、非特異的凝集物による偽反応などの点から、高い検出感度が要求される。また、BCoVについては、semi-nested RT-PCRによる検出に関する報告があるが(非特許文献1)、BRV検出用キットに比較して煩雑な操作と機器を要し、実施される機会が少ないため、BCoV 感染の実態についてはよくわかっていない。また、BCoV検出用のsemi-nested RT-PCR 法では、BRVとBCoVは混合感染している場合にBRV感染を見逃すことになる。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Trop Anim Health Prod. 41: 1563-1567, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、牛A群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)とを明確に識別して、特異的かつ高感度に検出するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、牛A群ロタウイルス(BRV)および牛コロナウイルス(BCoV)のそれぞれのウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子における保存性の高い領域にプライマーを設計し、当該プライマーを用いてPCRを行ったところ、BRVとBCoVの両者を明確に識別して、特異的かつ高感度に検出することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
[1] 以下の(a)のオリゴヌクレオチドと、(b)のオリゴヌクレオチドとから構成される、牛A群ロタウイルス(BRV)検出用プライマーセット。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号1に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、牛A群ロタウイルス検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
(b) 配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号2に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、牛A群ロタウイルス検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
[2] 以下の(c)のオリゴヌクレオチドと、(d)のオリゴヌクレオチドとから構成される、牛コロナウイルス(BCoV)検出用プライマーセット。
(c) 配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号3に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、牛コロナウイルス検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
(d) 配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または、配列番号4に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、牛コロナウイルス検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチド
[3] [1]に記載のプライマーセットと[2]に記載のプライマーセットを含む、牛A群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)の同時検出用キット。
[4] 検体より抽出したRNAを鋳型とし、[1]に記載のプライマーセットを用いてRT-PCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、牛A群ロタウイルス(BRV)の検出方法。
[5] 検体より抽出したRNAを鋳型とし、[2]に記載のプライマーセットを用いてRT-PCR増幅を行い、得られた増幅産物を検出する工程を含む、牛コロナウイルス(BCoV)の検出方法。
[6] 検体より抽出したRNAを鋳型とし、[1]に記載のプライマーセットと[2]に記載のプライマーセットの両方を用いてPCR増幅を行い、得られた各増幅産物を検出する工程を含む、牛A群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)の同時検出方法。
[7] 検体が糞便である、[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプライマーセットおよびそれを用いる方法によれば、牛A群ロタウイルス(BRV)と牛コロナウイルス(BCoV)の同時検出を迅速かつ簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1Aは、BRV検出用プライマーセットによるBRV(6505株)のVP6遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。図1Bは、BCoV検出用プライマーセットによるBCoV(カケガワ株)のN遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。図1Cは、BRV検出用プライマーセットとBCoV検出用プライマーセットによるBRV(6505株)のVP6遺伝子およびBCoV(カケガワ株)のN遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
【図2】図2は、牛の臨床検体を用いたBRVとBCoVの同時検出を示す(N:陰性対照、P:陽性対照、M:分子量マーカー、1-28:下痢症状を呈した牛の糞便検体)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプライマーセットは、牛A群ロタウイルス(BRV)用プライマーセットと牛コロナウイルス(BCoV)用プライマーセットの2組のプライマーセットである。

【0011】
牛A群ロタウイルス(BRV)用プライマーセットは、BRVの内核キャプシドタンパク質VP6をコードする遺伝子における保存性の高い領域の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドのペアから構成されるプライマーセットであり、牛コロナウイルス(BCoV)用プライマーセットは、牛コロナウイルス(BCoV)のヌクレオカプシドタンパク質Nをコードする遺伝子における保存性の高い領域の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドのペアから構成されるプライマーセットである。

【0012】
本発明のプライマーを設計するためには、先ず、保存性の高い領域を含むBRVのVP6遺伝子、およびBCoVのN遺伝子の塩基配列を入手する。塩基配列情報は、GenBankなどの遺伝子データベースまたは論文より入手してもよく、また、直接的に塩基配列を解析して入手してもよい。上記の保存性の高い領域の塩基配列は、入手した複数の塩基配列を整列(アラインメント)し、比較することにより特定することができる。塩基配列のアラインメントには、インターネットで公開されているアラインメントソフト(例えば、CLUSTALW、URL: http://www.ddbj.nig.ac.jp/)を利用することができる。

【0013】
次に、特定した塩基配列に基づき、プライマーを設計する。プライマーの設計は、オリゴヌクレオチドの長さ、GC含量、Tm値、オリゴヌクレオチド間の相補性、オリゴヌクレオチド内の二次構造などを考慮して行うが、例えば、「PCR法最前線-基礎技術から応用まで」(蛋白質・核酸・酵素 臨時増刊号 1996年 共立出版株式会社)や、「バイオ実験イラストレイテッド3 本当にふえるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ」(中山広樹著 株式会社秀潤社)、「PCRテクノロジー-DNA増幅の原理と応用-」(Henry A Erlich編、加藤邦之進 監修、宝酒造株式会社)等を参考にすればよい。

【0014】
具体的に採用した設計基準は以下のとおりである。
(a) BRVのVP6遺伝子、およびBCoVのN遺伝子のPCR増幅産物を電気泳動した場合にそれらの泳動距離の差が明確になる程度に、PCR増幅産物の大きさが異なること。
(b) 増幅される領域の塩基数が、BRVでは370~390bp、BCoVでは590~610bpであること。
(c) プライマー長は鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングが可能とするために、15~25bpの範囲であること。
(d)アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR増幅産物を得るため、Tm値が55~65℃で互いに近似したプライマーを選定すること。
(e)プライマーの3’末端の塩基配列と鋳型DNA配列との相同性が高いこと。
(f) プライマーはダイマーや立体構造を形成しないように、両プライマー間の相補的配列を避けること。
(g) 鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量を約50%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにする。

【0015】
また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。

【0016】
上記基準に基づいて設計したオリゴヌクレオチドから構成される本発明の牛A型ロタウイルス(BRV)プライマーセット、牛コロナウイルス(BCoV)プライマーセットを以下に示す。

【0017】
[BRV検出用プライマーセット]
BRVF:5’-ATGGGTACGATGTGGCTCAA-3’(配列番号1)
BRVR:5’-ACCGCTGGTGTCATGTTTGG-3’(配列番号2)

【0018】
[BCoV検出用プライマーセット]
BCoVF:5’-CGATCAGTCCGACCAATCTA-3’(配列番号3)
BCoVR:5’-GAGGTAGGGGTTCTGTTGCC-3’(配列番号4)

【0019】
上記BRV検出用プライマーセットを用いてPCRを行うことにより、BRVF とBRVRの2種のプライマーで挟まれる領域を増幅することができ、この場合のPCR増幅産物の大きさは383 bpである。

【0020】
上記BCoV検出用プライマーセットを用いてPCRを行うことにより、BCoVFとBCoVRの2種のプライマーで挟まれる領域を増幅することができ、この場合のPCR増幅産物の大きさは597bpである。

【0021】
また、プライマーセットを構成する配列番号1~4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、配列番号1~4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと実質的に同一の機能を有する範囲で、その塩基配列に改変を加えたオリゴヌクレオチドであってもよい。

【0022】
そのような改変オリゴヌクレオチドとしては、配列番号1~4の塩基配列に対して90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、BRVまたはBCoV検出用プライマーとして機能しうるオリゴヌクレオチドが挙げられる。改変には、欠失、置換、挿入、又は付加が含まれ、改変させる塩基の数は、3個以下、好ましくは2個以下、より好ましくは1個である。また、塩基の付加は、3'側でも5'側でもよい。

【0023】
オリゴヌクレオチドは、デオキシリボ核酸(DNA)でもリボ核酸(RNA)でもよい。リボ核酸の場合はチミジン残基(T)をウリジン残基(U)と読み替えればよい。また合成の際に、任意の位置のTをUに変えて合成を行い、ウリジン残基を含むDNAであってもよい。同様に任意のUをTに変えたチミジン残基を含むRNAであってもよい。また、オリゴヌクレオチド中に修飾ヌクレオチドがあってもよい。

【0024】
上記のプライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA/RNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。

【0025】
本発明によればまた、上記のプライマーセットのいずれかまたは両方を用いるBRVの検出方法、BCoVの検出方法、ならびにBRVとBCoVの同時検出方法が提供される。

【0026】
本発明のBRV及び/又はBCoVの検出方法は、検体より抽出したRNAを鋳型とし、上記のプライマーセットのいずれかまたは両方のプライマーセットを用いてRT-PCR増幅を行う工程と、PCRにより得られた増幅産物を検出する工程を含む。

【0027】
増幅反応に際しては反応時に放射性物質などの標識の結合したヌクレオチドを取り込ませる方法や、増幅産物を電気泳動により分画して特異的なバンドを検出することにより、BRV及び/又はBCoVを容易に検出することができる。特に、本発明のBRV検出用プライマーセットとBCoV検出用プライマーセットを用いた場合、BRVのVP6遺伝子のPCR増幅産物と、BCoVのN遺伝子のPCR増幅産物とのサイズの相違により、電気泳動後の泳動距離の差異に基づいて、これら2種のPCR増幅産物を容易に識別することが可能である。また、前述の標識オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いればPCR増幅産物を直接検出することも可能である。

【0028】
検体としては、BRV及び/又はBCoVに感染していると疑われるウシを含む動物から得られた糞便、直腸スワブ、髄液、喀痰、鼻汁、咽頭拭い液などの生体試料があげられるが、特に糞便が好ましい。また、感染実験などに用いられた細胞やその培養液、あるいは生体由来の検体や培養細胞などから分離したウイルスを含む検体なども試料となる。これらの試料は分離、抽出、濃縮、精製などの前処理を行ってもよい。

【0029】
検体からRNAを抽出する方法は当該技術分野で公知の方法、例えば、グアニジンイソチオシアネート、フェノールおよびクロロホルムを用いたRNA抽出法を用いることができる。あるいは市販のRNA抽出試薬を用いてもよい。

【0030】
RNAを鋳型としてcDNAを合成する方法も当該技術分野においてよく知られている。プライマーとしては市販のランダムプライマーを用い、dNTPsの存在下で、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。逆転写酵素としては、例えば、SuperScriptII(Invitrogen社製)、Thermoscript RT、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、等を用いることができる。

【0031】
次に、合成したcDNAを鋳型として、前記牛A型ロタウイルス(BRV)プライマーセット、牛コロナウイルス(BCoV)プライマーセットのいずれか一方、または両方を用いてPCR増幅を行う。PCR増幅は上記のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、および耐熱性酵素(TaqポリメラーゼやThermus themophilis由来のTth DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、BRVのVP6遺伝子およびBCoVのN遺伝子の特定の遺伝子配列を含む断片を増幅させる。PCR反応液の組成、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、上記のプライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択および設定することができる。プライマーのTmに基づいて適当なPCR反応条件を選択する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、最初に94℃で5分間の変性反応、次に94℃で50秒間(変性)、55℃で50秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)を1サイクルとして30サイクル、最後に72℃で1分間の伸長反応により実施することができる。但し、ここに示した条件は一例に過ぎず、用いる酵素、反応温度、反応時間、サイクル数などは適宜変更することも可能である。このようなPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。PCR装置は、例えば、GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社製)、GeneAmp PCR System 9600(Applied Biosystems社製)などが使用できるが、本発明方法においては、RNAをcDNA に変換しPCRを行う(RT-PCR)反応を、1本のチューブ内で連続的に実施することのできる、Takara One Step RT-PCR Kit AMV(TAKARA社製)が好適に使用できる。

【0032】
また、PCR増幅産物の検出を容易にするために、標識物質をつけたオリゴヌクレオチドを用いてPCRを行うことができる。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質、放射性物質、化学発光物質、酵素基質、ビオチン・アビジン系標識等を用いることができる。標識方法は末端標識でも、配列の途中への標識でもよい。また、ヌクレオチドの糖、リン酸基、塩基部分のいずれへの標識であってもよい。

【0033】
PCR増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーションやリアルタイムPCR等の方法を用いて行う。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出し、その大きさに基づいてBRV及び/又はBCoVを判定する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いて当該PCRを行い、増幅産物を検出することもできる。また、DNAハイブリダイゼーションでは、マイクロアレイなどの固定化担体にPCR増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等によりPCR増幅産物を確認する。検出用の固定化担体は、検出すべきBRV遺伝子またはBcoV遺伝子の配列とハイブリダイズしうる配列を有するDNA断片が固定化されている支持体である。支持体としては、例えば、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、ガラス、シリコンチップなどを用いることができる。

【0034】
上記プライマーセットはBRVおよびBCoVの同時検出をより簡便に行うために、キット化することもできる。本発明のキットは、上記の2組のプライマーセットを含むものであればよい。本発明のキットには、必要に応じて、RNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。なお、キット中の試薬は溶液でも凍結乾燥物でもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)プライマーセットの確立
GenBankに登録されている46株の牛A群ロタウイルス(BRV)のVP6遺伝子、17株の牛コロナウイルス(BCoV)のN遺伝子の塩基配列をGenBankよりダウンロードし、アラインメントソフト(DNASTAR)を用いてウイルス株相互のアラインメントを行い、上記の標的配列においてウイルス株間で保存性の高い配列(高度保存配列)を検索した。また、Oligo 6.31 (http://www.oligo.net/)を用いて、至適のプライマーとなりうる領域を検索したところ、BRVのVP6遺伝子の高度保存配列は552-571位と915-934位に、BCoVのN遺伝子の高度保存配列は29477-29496位と30054-30073位に見出された。BRVについては、上記552-571位の高度保存配列に相補的なフォワードプライマー、および、915-934位の高度保存配列に相補的なリバースプライマーを、候補プライマーとして設計した。BCoVについては、上記29477-29496位の高度保存配列に相補的なフォワードプライマー、および、上記30054-30073位の高度保存配列に相補的なリバースプライマーを、候補プライマーとして複数設計した。最終的に、下記の2組のプライマーセットを確立した。
【実施例】
【0037】
[BRV検出用プライマーセット]
BRVF:5’-ATGGGTACGATGTGGCTCAA-3(配列番号1)
BRVR:5’-ACCGCTGGTGTCATGTTTGG-3’(配列番号2)
【実施例】
【0038】
[BCoV検出用プライマーセット]
BCoVF:5’-CGATCAGTCCGACCAATCTA-3’(配列番号3)
BCoVR:5’- GAGGTAGGGGTTCTGTTGCC-3’(配列番号4)
【実施例】
【0039】
(実施例2)プライマーの性能評価試験
検体としてBRV(6505株)およびBCoV(カケガワ株)の培養上清を用いた。100μlの培養上清からRNAをQIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いて抽出し、50μlのRNA抽出液を得た。得られたRNA抽出液(RNAサンプル)5μlをPCRの鋳型とし、実施例1で確立したBRV検出用プライマーセットとBCoV検出用プライマーセットを用い、one-step RT-PCR(Takara One Step RT-PCR Kit AMV;TAKARA社)を1 tubeあたり50μlの反応液で実施した。
【実施例】
【0040】
条件検討の結果、至適アニーリング温度が55℃であったことから、RT-PCRは反応液組成と反応条件にて行った。
【実施例】
【0041】
(RT-PCR反応液組成)
RNAサンプル 5μl
各プライマー(20mM) 1μl X 4
RT-PCR緩衝液 5μl
AMV Reverse Transciptase XL (5U/μl) 1μl
RNase inhibitor (40U/μl) 1μl
MgCl2 (25mM) 10μl
dNTP mixture (各10mM) 5μl
DNAポリメラーゼ(AMV-Optimized Taq: 5U/μl) 1μl
RNase Free dH2O 18μl
【実施例】
【0042】
(RT-PCR条件)
50℃で30分の逆転写(RT)反応の後、最初に94℃で5分の熱変性反応、次いで94℃で50秒の熱変性反応、55℃で50秒のアニーリング、72℃で60秒の伸長反応を1サイクルとして計30サイクルを行い、最後に72℃で10分の伸長反応を行った。
【実施例】
【0043】
PCR増幅産物の確認は、1×GelRed(BIOTIUM, USA)を含有する1.5%アガロースゲル電気泳動により行い、目的のバンドが確認されたものを陽性とした。分子量マーカーも同時に電気泳動し、相対泳動度の比較により、検出された増幅産物の大きさを解析した。
【実施例】
【0044】
上記プライマーセットによるBRV単独検出、BCoV単独検出、BRVとBCoVの同時検出における検出限界をウイルスの感染価(PFU)を基準に調べた(図1)。これらの結果より、BRV の検出限界は100PFU、BCoVの検出限界は101PFUであり、BRVとBCoVの同時検出系でも、その検出限界は同様であることが示された。
【実施例】
【0045】
(実施例3)牛の臨床検体を用いたBRVとBCoVの同時検出
下痢症状を呈した牛の糞便検体(28検体)をPBS(リン酸緩衝液)で20%(v/v)に希釈し、遠心(750×g, 10分)により上清を得た。100μlの上清から、実施例2と同様にしてRNAを抽出し、前記BRV検出用プライマーセットとBCoV検出用プライマーセットを用いて、実施例2と同条件にてPCRを行い、BRVとBCoVの同時検出を行った。
【実施例】
【0046】
比較として、BRVに対しては、市販のイムノクロマトグラフィーキット(Orion diagnostic社)による検出、BCoVに対しては、既報(Trop Anim Health Prod. 41: 1563-1567, 2009)のsemi-nested PCR法による検出を行った。
【実施例】
【0047】
図2に示すように、BRVについては比較のキット(BRV Kit)で陽性となった19検体はすべて本発明のBRV検出用プライマーセットによる検出においても陽性であり、かつ、比較のキット(BRV Kit)で陰性であった9検体のうち、本発明のBRV検出用プライマーセットによる検出では陽性となったものが6検体(図2、検体番号14、17、19、21、22、27)あった。また、BCoVについては、比較のsemi-nested法(BCoV SN-PCR)で陽性となった2検体と、本発明のBCoV検出用プライマーセットによる検出で陽性となった2検体が一致し、その他の26検体はいずれの方法でも陰性であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は牛A型ロタウイルスおよび牛コロナウイルス感染症の診断薬やキットの製造分野に利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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