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明細書 :電気化学的多検体分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3688671号 (P3688671)
公開番号 特開2004-108971 (P2004-108971A)
登録日 平成17年6月17日(2005.6.17)
発行日 平成17年8月31日(2005.8.31)
公開日 平成16年4月8日(2004.4.8)
発明の名称または考案の名称 電気化学的多検体分析方法
国際特許分類 G01N 27/416     
G01N 27/28      
FI G01N 27/46 301M
G01N 27/28 301Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2002-272822 (P2002-272822)
出願日 平成14年9月19日(2002.9.19)
審査請求日 平成14年9月19日(2002.9.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591031212
【氏名又は名称】北斗電工株式会社
発明者または考案者 【氏名】青柳 重夫
【氏名】松平 昌昭
【氏名】内海 陽介
【氏名】珠玖 仁
【氏名】白石 卓夫
【氏名】末永 智一
【氏名】阿部 宏之
【氏名】星 宏良
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】谷垣 圭二
参考文献・文献 国際公開第01/067084(WO,A1)
特開2004-108863(JP,A)
調査した分野 G01N 27/416
G01N 27/28 301
特許請求の範囲 【請求項1】
セルの基台に形成された逆円錐形状のウェル内に配置された試料と該試料を取り囲む前記セル内の溶液間に物質収支が存在する場合に、前記逆円錐形状のウェル内に形成された計測対象物の不均一な濃度分布を計測することにより、前記試料-溶液間の物質移動速度を定量することを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気化学的多検体分析方法において、前記計測対象物を測定する際に、複数のウェルを有するセルを用いることを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
【請求項3】
請求項1記載の電気化学的多検体分析方法において、前記計測対象物を測定する際に、該計測対象物の濃度勾配がウェル内部にのみ存在し、複数のウェル間の物質移動が存在しないように構成されたウェルを用いることを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
【請求項4】
請求項1記載の電気化学的多検体分析方法において、前記試料が生体試料であることを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
【請求項5】
請求項4記載の電気化学的多検体分析方法において、前記生体試料が哺乳動物胚や動物細胞であることを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
【請求項6】
請求項4記載の電気化学的多検体分析方法において、前記生体試料がタンパク質や核酸であることを特徴とする電気化学的多検体分析方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気化学的多検体分析方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、試験溶液中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する目的で、広く適用されているマルチタイタープレートは、容積3ml-100μlのマイクロウェルを有し、12-96個の検体の連続的分析を可能とする。このマルチタイタープレートによる分析では、吸光、蛍光、発光計測が検出原理として採用され、いずれの検出系においても、一つ一つの容器における分析対象物質の濃度を全自動で連続的に測定する装置が市販されている。このマルチタイタープレートを用いた分析において、注目する目的物質の容器内の濃度は均一であることが大前提となっている。
【0003】
マルチタイタープレートを用いた分析手法の中には、電気化学検出を採用した手法も多くある。しかし、この手法は、連なる容器の一つ一つが独立で、検出電極(作用極)のみならず、参照極/対極も一つ一つの容器ごとに配置されることが一般的であって、構成は複雑である。電気化学検出の場合、試料溶液と電極表面の間に濃度勾配が形成されるが、これは検出電流を獲得するに際して形成される濃度勾配であり、目的物質の容器内における沖合濃度は均一であることが大前提であることに変わりはない。高感度分析を目的とし、比較的微体積の容器と電気化学検出を組み合わせた分析システムでは、容器内に存在する目的物質をすべて反応させた際の電気量を出力として得る方法も既に知られている。
【0004】
上述の分析システムのコンセプトと全く異なり、本発明は、一対(微小電流計測用の作用極および参照極/対極)の電気化学計測系で多数配列された容器の濃度および濃度勾配を一つ一つ連続的に計測する方法を提供する。
【0005】
また、本発明は、下記の特許文献1における装置構成の一部である「試料保持装置」を使用せず、独自の形状を有するウェル(容器)を用いた酸素消費量計測方法に関する。
【0006】
本発明は、装置の操作に習熟した人以外でも簡単に計測を実施することを可能にする。さらに、容器は複数の試料を保持することが可能であり、胚1個あたりの計測に要する時間を大幅に短縮できる。
【0007】
また、走査型電気化学顕微鏡は、微小電極を探針とし、試料表面近傍の濃度勾配の計測を可能にする装置である。しかし、注目物質の濃度勾配の計測から試料-溶液間の物質収支速度が定量できるケースは極めて限られているのが現状である。例えば、サイズが微小(半径100μm程度あるいはそれ以下)でかつ球あるいは円といったシンプルな形状の試料については、球面拡散の式が適用でき、試料-溶液間の物質収支速度が定量できる。本発明では、容器内部に形成される濃度勾配を計測し、試料-溶液間の物質移動速度を定量する。
【0008】
解析工程は球面拡散の仮定および理論式に縛られず、試料は球形である必要がない。また、計測の際に電極を試料に最近接させる必要がない。更に、計測および解析工程は哺乳動物胚の酸素消費量計測以外にも応用可能であり、その場合、特許文献1に束縛されることはない。
【0009】
特許文献1には哺乳動物胚の無侵襲的品質評価方法及びその装置が示され、特に、個々の胚における酸素消費量を基準に胚の正常性を判定するようにしている。
【0010】
非特許文献1には、溶液の濃度分布に関する測定手法が記載されている(詳細は後述)。
なお、本願発明者らによるセルを用いた電気化学的分析装置及び方法が特願2002-269651として既に提案されている。
【0011】
【特許文献1】
特開2002-122568号、第4~6頁
【非特許文献1】
珠玖ら、Electrochemistry,69,806-810(2001)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1における呼吸計測工程は、試料の保持や電極の位置決めに関してマニピュレーターを使用し、煩雑な工程が不可避であった。また、計測に要する時間は計測を実施する人の修練度により大きく左右されるという問題があった。
【0013】
本発明では、容器内に配置された計測対象試料と周囲の溶液との間で物質移動が起こり溶液中に濃度勾配が形成される場合に、この容器内の濃度勾配から試料-溶液間の物質移動速度を定量する。
【0014】
本発明を、呼吸量計測を基に哺乳動物胚の品質評価を行う特許文献1の呼吸計測工程に適用した場合、以下の3点において改善が期待でき、計測をより効率的に実施することを可能にする。
【0015】
(1)特許文献1における「単一哺乳動物胚の酸素消費量の計測を行う電気化学顕微鏡計測装置」を構成する諸装置中に挙げられていない、計測用ウェルを新たに設計した。すなわち、マニピュレータ等の特別な装置は一切使用せず、手動で目的の位置に試料を配置する。しかも、試料をウェル内に配置した際の位置決め精度は10μm程度である。
【0016】
(2)従来法においては、試料の呼吸に起因する周囲水溶液中の酸素濃度勾配が試料の中心を原点として全方位に向け球状に形成される。これに対し本発明を用いると、試料の呼吸に起因する試料近傍の酸素濃度勾配の形成は著しく方位が狭められ、濃度変化が一定方向に集約できる。
【0017】
(3)複数の試料を同一容器上に配置できる。
【0018】
本発明は、上記状況に鑑みて、ウェル内に形成された計測対象物の不均一な濃度分布を計測することにより、試料-溶液間の物質移動速度を定量することができる電気化学的多検体分析方法を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕電気化学的多検体分析方法において、セルの基台に形成された逆円錐形状のウェル内に配置された試料とこの試料を取り囲む前記セル内の溶液間に物質収支が存在する場合に、前記逆円錐形状のウェル内に形成された計測対象物の不均一な濃度分布を計測することにより、前記試料-溶液間の物質移動速度を定量することを特徴とする。
【0020】
〔2〕上記〔1〕記載の電気化学的多検体分析方法において、前記計測対象物を測定する際に、複数のウェルを有するセルを用いることを特徴とする。
【0021】
〔3〕上記〔1〕記載の電気化学的多検体分析方法において、前記計測対象物を測定する際に、この計測対象物の濃度勾配がウェル内部にのみ存在し、複数のウェル間の物質移動が存在しないように構成されたウェルを用いることを特徴とする。
【0022】
〔4〕上記〔1〕記載の電気化学的多検体分析方法において、前記試料が生体試料であることを特徴とする。
【0023】
〔5〕上記〔4〕記載の電気化学的多検体分析方法において、前記生体試料が哺乳動物胚や動物細胞であることを特徴とする。
【0024】
〔6〕上記〔4〕記載の電気化学的多検体分析方法において、前記生体試料がタンパク質や核酸であることを特徴とする。
【0025】
上記したように、複数のウェルを配置したセルを用い、ウェル内に生体試料を配置し、ウェル内の濃度分布を計測することにより、試料と溶液間の物質移動量を定量することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明にかかる電気化学的多検体分析セルの模式図であり、図1(a)はその平面図、図1(b)はそのA-A線断面図である。図2はそのウェルの拡大断面図〔図1(b)点線部拡大図〕である。
【0028】
これらの図において、1はセル、2は基台、3は枠体、4は複数のウェル、5は計測溶液である。因みに各部の寸法は次の通りである。基台2の長さL1 は80mm、基台2の幅L2 は30mm、基台2の厚さL3 は5mm、枠体3の長さ(外壁と外壁の距離)L4 は60mm、枠体3の長さ(内壁と内壁の距離)L5 は50mm、枠体3の外幅L2 は30mm、枠体3の内幅L6 は20mm(したがって、枠体3の幅L7 は10mm)、枠体3の高さL8 は5mm、ウェル4間の距離(ピッチ)L9 は6mmである。また、枠体3内に形成される複数のウェル4の形状は、図2に示すように、逆円錐形状で半径L11と深さL12が共に2mmである。円錐の頂角2θは90°となる。
【0029】
なお、この電気化学的多検体分析セルにおいては、ウェル4に試料が配置され、これらの複数のウェル4に共通する計測溶液(計測溶液で電気的に短絡される)5が与えられるとともに、一対(微小電流計測用の作用極および参照極/対極)電気化学計測装置系が設けられる。
【0030】
〔A〕球面拡散の理論式に基づく物質移動速度の算出(従来法)
試料表面における反応種の濃度が均一である球状試料(半径rs )と周囲の溶液の間で物質収支が存在し、溶液側に形成される濃度勾配が定常である場合に、溶液の濃度分布C(r)は球座標軸rに対し、次式で表される(非特許文献1参照)。
【0031】
l=(r+rs
C(r)=(Cs -C* )rs /l+C* …(1)
ここで、lは電極先端と試料の中心間の距離、rs は試料半径、rは試料表面からの距離、Cs は表面濃度、C* は沖合濃度を示している。
【0032】
上記式(1)より、試料の中心を通る水平線に沿って、試料の最近接地点から沖合方向に探針電極を走査し、溶液中の濃度勾配を直接計測することで、沖合との試料表面の濃度差(ΔC=Cs -C* )が、C(r)vsrs /(r+rs )プロットの傾きとして得られる。このとき、試料全体から溶液へ移動する流束の総和(Fdirect〔mols-1〕)および、試料表面における流束密度(fs 〔molcm-2-1〕)は、
direct=4πrs DΔC …(2)
s =DΔC/rs …(3)
で表される。
【0033】
同様の実験系で、図3に示すように、試料の最近接地点(点A)から鉛直方向(z軸方向)に探針電極を走査した場合、電極先端と試料の中心間の距離lは、 l=(z2 +rs 2 0.5
であり、z軸方向の濃度勾配C(z)は、
C(z)=ΔCrs /l+C* …(1)′
このとき、ΔCはC(z)vsrs /lプロットの傾きとして得られる。
【0034】
以下、同様に上記式(2)、(3)が適用できる。
【0035】
逆円錐型ウェルの底に球状試料を静置した場合も、C(z)vsrs /lプロットの線形性は良好であり、ΔCwellを得ることができる。
【0036】
〔B〕ウェルに形成された濃度勾配から試料の物質移動速度を定量する方法
図3に計測工程を示した。球状試料(半径rs )が逆円錐形のウェル4に設置される場合を想定し、試料の中心を原点Oとするx-y-z座標を図3に示す通りに設定する。逆円錐の頂角を2θとする。逆円錐の頂点と試料中心Oの距離hは、
h=(1/sinθ)rs
である。z=z0 において、逆円錐の頂点からの距離(h+z0 )を半径とする球のうちウェル内部におさまる部分の球の表面積Sz=z0は、
z=z0=2π(1-cosθ)(h+z0 2
である。頂角2θ=90°の逆円錐型ウェルを用いた場合、h=√2rs 、Sz=z0=2π(1-1/√2)(h+z0 2 となる。沖合から試料/溶液界面に定常的な物質収支が存在し、総流束をF〔mols-1〕で表す。
【0037】
球面Sz=z0を通過する総流束Fz=z0は、
z=z0=∫fz=z0(x,y,z)dS
ここで、Sz=z0=∫dS、fz=z0(x,y,z)は、球面Sz=z0の任意の座標(x,y,z)における流束密度〔molcm-2-1〕である。
【0038】
Fickの第一法則より、
z=z0(x,y,z)=D(∂C/∂x+∂C/∂y+∂C/∂z)
ここで、DおよびCは注目する物質の拡散係数〔cm-2-1〕および濃度〔molcm-3〕である。fz=z0が球面内で一様である場合には、
z=z0=fz=z0z=z0
と表せる。沖合から供給される物質量と試料が消費する物質量が等しい場合は、濃度勾配および流束が時間に依存して変化せず定常状態に収束する。
【0039】
〔C〕ウェルの中の濃度勾配(実測例1)
ここでは、藻類ハネモのプロトプラストを球状試料として選択した。ハネモ半径154μm、計測は常温、溶液は海水、酸素の拡散係数D=2.1×10-5cm2 mol-1、沖合酸素濃度C* =0.204×10-6molcm-3とした。
【0040】
ウェル内の酸素濃度勾配を、微小電極を走査させることにより測定した。局所の酸素濃度は、電極電位を-0.6VvsAg/AgClに固定してPtディスク電極(電極半径1μm)を走査し、酸素還元電流を記録することにより求めた。
【0041】
図4は容器内において酸素濃度の等しい点をプロットした図である。
【0042】
ここで、太線はSz (ウェルの頂点を中心とする同心円)、実線はS′z (原点を中心とする同心円)を表す。
【0043】
この図より、ウェルの濃度勾配が球状に広がることが分かる。ウェルの頂点を中心とする球のうちウェル内部におさまる部分の球の表面積Sz は上述のとおり次式で表せる。
【0044】
z =2π(1-1/√2)(h+z)2
これに対し、原点を中心とする球のうちウェル内部におさまる部分の球の表面積S′z は、
S′z =2π(1-cosψ)z2
sinψ=(z-h)/z
(ψは円錐の軸と、球Sとウェルの交点の角)
ウェル内部の等濃度面はz<2rs では球面S′z よりむしろ球面Sz とよく一致していることが分かる。
【0045】
座標(x,y,z)=(0,0,rs )の点Bを走査開始点として+z方向に酸素濃度勾配を記録し(図3参照)、図5に示すように、いくつかの点でzと流束密度fz=z0、ウェルの球面積Sz=z0、球面を通過する総流束Fz=z0の関係を得た。なお、図5において、図5(A)は図3の点Bよりz軸方向の無次元濃度勾配を示す図、図5(B)はいくつかの点におけるzと流束密度fz=z0の関係を示す図、図5(C)はzと球面積Sz の関係を示す図、図5(D)はzと球面を通過する総流束Fz=z0の特性図である。
【0046】
これらの図から明らかなように、zが大きくなるとfz は減少し、Sz は増加する。総流束Fz はzに依らずよく一致している。すなわち、z軸方向の勾配を計測することにより、総流束Fz=z0を求めることができる。
【0047】
〔D〕従来法と本発明のウェルを用いた計測の比較
実際の種々のサイズを有するハネモとウシ胚について、各単一試料を平底容器と逆円錐形ウェルに各々設置し、酸素消費量を定量した。まず、平底容器に設置した試料の酸素濃度差ΔCdirectと、同一試料をウェルに移し同様に定量した濃度差ΔCwellを比較した(図6)。
【0048】
なお、図6において、図6(A)はハネモについて従来法の平底容器で定量した濃度差ΔCdirectと、本発明における逆円錐形ウェルで定量した濃度差ΔCwellの関係を示す図、図6(B)はウシ胚について従来法の平底容器で定量した濃度差ΔCdirectと、本発明における逆円錐形ウェルで定量した濃度差ΔCwellとの関係を示す図であり、ΔCdirectは、上記式(1)より得た。ΔCwellは、図3の点Aから鉛直方向(z軸方向)に探針電極を走査して式(1)′より得た。その結果、ハネモ、ウシ胚とも、サイズによらず、
ΔCwell=2・ΔCdirect
の関係式を得た。すなわち、逆円錐形ウェルを用いると、試料の酸素濃度変化を、従来法に比べ2程度増幅して観測可能であることが分かった。
【0049】
次に、平底容器に設置した試料の酸素消費量Fdirectと、同一試料をウェルに移し、上述の工程に従い算出した酸素消費量Fz を比較した(図7)。なお、試料はウシ胚(体外受精後、1,5,6,8日間培養した胚)を用いた。図7において、●は図3の点Bから鉛直方向に探針電極を走査した場合、○は図3の点Aから鉛直方向に探針電極を走査した場合を示している。
【0050】
z とFdirectを比較した結果、試料のサイズや走査開始点の違いによらず、
z =0.8・Fdirect
の関係式を得た。平底容器に比べ逆円錐形ウェルの方が酸素供給の角度が限られており、Fz /Fdirectが1より小さいことは妥当であると考える。
【0051】
以上の計測例から以下のことが分かった。
【0052】
逆円錐形ウェルあるいはそれに準ずる形状の容器に十~数百μmオーダーの試料を設置し、試料とその回りの溶液間の物質収支速度を定量する場合、〔ここでは半径2mm、深さ2mmの逆円錐形状ウェルにハネモあるいはウシ胚を設置し、試料の呼吸活性(酸素消費速度)を定量する場合〕、試料から比較的離れた距離においては、容器内に分布する流束密度と物質移動の存在する断面積との積により、溶液-試料間の総物質収支を求めることができる。ここで、「試料から比較的離れた距離」とは、例えば、半径rs の球状試料の場合、z>2rs とすることができる。
【0053】
また、図4より、試料-溶液間の濃度勾配はウェルの内部にのみ存在しており、個々のウェル同士では物質移動が存在しないことが分かる。従って、各ウェルは隣接するウェルにより外乱を受けることなく、独立性を保持している。エンザイムイムノアッセイは、通常96穴プレート(12cm×8cm)を使用して、実施されるが、本発明により、プレートの小型化、使用する試料・試薬量の微量化が期待できる。
【0054】
図8は本発明を適用可能なウェル96個配列した場合のセルの概略平面図である。
【0055】
この図において、セル10には、96個のウェル13が配列されている。因みに、基台11の長さL21は80mm、基台11の幅L22は50mm、枠体12の長さ(外壁と外壁の距離)L23は70mm、枠体12の長さ(内壁と内壁の距離)L24は60mm、枠体12の外幅L22は50mm、枠体12の内幅L25は40mmである。
【0056】
上記実施例では、生体試料として、藻類ハネモやウシ胚について述べたが、広くは、哺乳動物胚や動物細胞、タンパク質(抗原、抗体、酵素)や核酸(DNA、RNA)などの生体試料に適用できることは言うまでもない。
【0057】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0058】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0059】
(A)複数のウェル内に配置された試料と試料を取り囲む溶液間に物質収支が存在する場合に、ウェル内に形成された計測対象物の不均一な濃度分布を計測することにより、試料-溶液間の物質移動速度を定量することができる。
【0060】
(B)多数配列された計測対象物容器の一つ一つ連続的に計測することができる。
【0061】
(C)計測対象の形状(球や円などの簡単な形状)には制限がなく、適用範囲が広い。
【0062】
(D)さらに、哺乳動物胚の呼吸計測に際し、操作性の向上を図り、胚1個あたりの計測に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0063】
なお、本発明によれば、走査型電気化学顕微鏡をベースにした分析化学的アプローチの中で初めて、多検体・多項目計測の全自動化が期待できる。また、哺乳動物胚の呼吸計測以外にもエンザイムイムノアッセイへの応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる電気化学的多検体分析セルの模式図である。
【図2】 本発明にかかる電気化学的多検体分析セルのウェルの拡大断面図である。
【図3】 本発明にかかるウェルに形成された濃度勾配から試料の物質移動速度を定量する方法の説明図である。
【図4】 本発明にかかる容器内において酸素濃度の等しい点をプロットした図である。
【図5】 本発明にかかるいくつかの点でzと流束密度fz=z0、ウェルの球面積Sz=z0、球面を通過する総流束Fz=z0の関係を示す図である。
【図6】 ハネモについて従来の平底容器で定量した濃度差ΔCdirectと、本発明における逆円錐形ウェルで定量した濃度差ΔCwellの関係とを示す図、及びウシ胚について、従来の平底容器で定量した濃度差ΔCdirectと、本発明にかかる逆円錐形ウェルで定量した濃度差ΔCwellとの関係を示す図である。
【図7】 ウシ胚についての各単一試料を、従来の平底容器で定量した酸素消費量Fdirectと、本発明にかかる逆円錐形ウェルで定量した酸素消費量Fz との関係を示す図である。
【図8】 本発明を適用可能なウェル96個配列した場合のセルの概略平面図である。
【符号の説明】
1,10 セル
2,11 基台
3,12 枠体
4,13 複数のウェル
5 計測溶液
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7