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明細書 :PTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3785460号 (P3785460)
登録日 平成18年3月31日(2006.3.31)
発行日 平成18年6月14日(2006.6.14)
発明の名称または考案の名称 PTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/42        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/42
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
A01K 67/027
請求項の数または発明の数 7
全頁数 25
出願番号 特願2002-513898 (P2002-513898)
出願日 平成13年7月23日(2001.7.23)
国際出願番号 PCT/JP2001/006343
国際公開番号 WO2002/008415
国際公開日 平成14年1月31日(2002.1.31)
優先権出願番号 2000223184
優先日 平成12年7月24日(2000.7.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成15年1月28日(2003.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】野田 昌晴
【氏名】藤川 顕寛
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 Neuroscience Letters, 1998, Vol.247, pp.135-138
J Biol Chem, 1999, Vol.274, No.51, pp.36693-36699
J Biol Chem, 1996, Vol.271, No.35, pp.21446-21452
J Biol Chem, 1999, Vol.274, No.18, pp.12474-12479
調査した分野 C12N 15/09
G01N 33/50
G01N 33/15
C12Q 1/42
A01K 67/027
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法であって、PTPζ活性の比較・評価が、中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
【請求項2】
中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価が、中枢モノアミン代謝レベルの変化、覚醒剤に対する感受性、中脳-辺縁ドーパミン神経系の機能的障害の有無、新しい環境に対する慣れの程度、又はストレス応答性の比較・評価であることを特徴とする請求項1記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
【請求項3】
プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法であって、PTPζ活性の比較・評価が、ヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃粘膜障害の程度の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
【請求項4】
PTPζをコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物が、4世代以上の戻し交配により純化された非ヒト動物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
【請求項5】
非ヒト動物がマウスであることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法
【請求項6】
プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法であって、PTPζ活性の比較・評価が、中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法
【請求項7】
プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法であって、PTPζ活性の比較・評価が、ヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃粘膜障害の程度の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子相同組換え技術により作出した受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ/RPTPβ)の遺伝子を欠損させたマウス等の非ヒト動物を用いた、中枢モノアミン神経系の機能障害の治療薬や、ヘリコバクター・ピロリ等による胃潰瘍の治療薬のスクリーニングや、中枢興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性の非ヒトモデル動物やピロリ菌毒素VacA等に対して低感受性の非ヒトモデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞に外界から刺激が加わると、細胞内のシグナル伝達経路が活性化され、細胞に増殖、分化、細胞死などが誘導される。細胞内蛋白質のチロシンリン酸化は、このシグナル伝達経路の種々の局面においてきわめて重要な役割を果たしており、蛋白質のチロシンリン酸化状態はチロシンキナーゼ(PTK)とチロシンホスファターゼ(PTP)両酵素の精巧なバランスによって常に動的平衡状態が保たれている。この蛋白チロシンリン酸化は、脳においては神経回路形成や神経伝達の効率の制御に関与すること(生体の科学第48巻第6号534-538頁(1997);蛋白質核酸 酵素 Vol.43,No.8,1136-1143(1998))や、免疫系やその他の臓器においても、その機能の形成や維持に重要であることが知られている(蛋白質核酸 酵素 Vol.43,No.8,1131-1135(1998))。一方、これら蛋白チロシンリン酸化の異常は、神経回路形成の不良、記憶・学習の阻害、異常なアポトーシス、腫瘍形成等に関与することが報告されている(蛋白質核酸 酵素 Vol.43,No.8,1186-1192(1998))。
【0003】
PTPは現在までに80種以上が同定され、ヒトではその遺伝子は500にも及ぶと推定されている。かかるPTPには、PTKと同様にレセプター型と非レセプター型が存在し、レセプター型は、細胞内に2個あるいは1個の酵素領域をもち、細胞外領域の特徴によりいくつかのグループに分類され、N末端に炭酸脱水酵素領域を有するPTPζは中枢神経系に特異的なレセプター型チロシンホスファターゼとして同定され、本発明者らはPTPζがプレイオトロフィン、ミドカインといった増殖因子の受容体であることを報告している(J.Biol.Chem.271,21446-21452,1996;J.CellBiol.142,203-216,1998;J.Biol.Chem.274,12471-12479,1999)。また、PTPζはN-CAMを初めとするイムノグロブリンスーパーファミリーに属する細胞接着分子と相互作用することが知られており、神経細胞の分化、移動、神経伝達において重要な機能を担うとされている。本発明者らは、既にPTPζ遺伝子欠損マウスを作製し、PTPζが神経細胞とアストロサイトの両方に発現することを報告している(Neuroscience Letters 274,135-138,1998)。PTPζ遺伝子欠損型マウスは正常に発育・繁殖し、形態学的にも大きな異常所見は同定されていない。しかし、PTPζの生理的役割はほとんど分かっていないのが現状である。
最近、平山によりPTPζが胃潰瘍の原因として有名なヘリコバクター・ピロリ菌が分泌する細胞外毒素、VacAの受容体として機能している可能性が細胞株を使った実験系によって示された(J.Biol.Chem.274,36693-36699,1999)。ピロリ菌毒素VacAは急性胃炎及び胃潰瘍患者の約90%で検出されており、ピロリ菌細胞外分泌毒素VacAを経口投与されたマウスは急性胃炎を引き起こすことが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、その生理機能が不明であったPTPζの生体内における役割が明確になると、PTPζの生理機能に関連した疾病等の発症機構の解明、その治療薬の開発に繋がる知見や実験材料の提供が可能となる。本発明の課題は、PTPζ遺伝子の欠損マウスを用いて同定されたPTPζの生理的機能を利用することにより、中枢モノアミン神経系の機能障害の治療薬や、ヘリコバクター・ピロリ等による胃潰瘍の治療薬として有用なPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法や、中枢興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性の非ヒトモデル動物やピロリ菌毒素VacA等に対して低感受性の非ヒトモデル動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記のように、本発明者らが相同組換え技術を用いて既に作出しているが、このマウスは、2系統のマウス種、すなわち129/SvとC57BL/6Jの染色体が混ざった雑種であったため、他の遺伝子による影響を除外することが困難であった。そこで、PTPζの生理的機能の解析に適するように、純系のマウスに十分な戻し交配(4世代)を行い、他の遺伝子の影響を排除したPTPζ遺伝子欠損マウスを作製した。このPTPζをコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損したマウスと野生型マウスの比較解析により、正常に発育・繁殖しており、形態学的にも大きな異常所見が同定されていないPTPζ欠損マウスが、中枢モノアミン代謝レベルの変化、覚醒剤(メタンフェタミン)に対する感受性の低下、中脳-辺縁ドーパミン神経系の機能的障害、新しい環境に対する慣れの遅滞、ストレス応答性の増大などの中枢モノアミン神経系に機能的な障害を持っていることを初めて見い出し、また、マウスの胃上皮細胞層に、ピロリ菌毒素VacAの受容体と考えられるPTPζが発現していることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、(1)プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法であって、PTPζ活性の比較・評価が、中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法や、(2)中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価が、中枢モノアミン代謝レベルの変化、覚醒剤に対する感受性、中脳-辺縁ドーパミン神経系の機能的障害の有無、新しい環境に対する慣れの程度、又はストレス応答性の比較・評価であることを特徴とする上記(1)記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法や、(3)プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法であって、PTPζ活性の比較・評価が、ヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃粘膜障害の程度の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法や、(4)PTPζをコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物が、4世代以上の戻し交配により純化された非ヒト動物であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法や、(5)非ヒト動物がマウスであることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法に関する。
【0007】
また本発明は、(6)プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法であって、PTPζ活性の比較・評価が、中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法や、(7)プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価することを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法であって、PTPζ活性の比較・評価が、ヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃粘膜障害の程度の比較・評価であることを特徴とするPTPζ活性の比較・評価法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、PTPζが中枢モノアミン神経系、特にドパミン神経系で生理学的に重要であることが初めて示され、PTPζのチロシンホスファターゼ活性を特異的に調節する薬剤はまだ開発されていないことから、PTPζ欠損マウスを用いて特異的な薬剤をスクリーニングすることにより、神経性疾患の新規治療薬の開発に繋がる可能性が大きい。また、本発明により、ピロリ菌が分泌する毒素VacAの宿主側受容体として同定されたPTPζが実際に胃で発現していることを組織学的に始めて明らかにして、また、ピロリ菌毒素VacAによる胃潰瘍形成にPTPζが重大な関与をしていることをマウス個体レベルで明確に示した。これらの結果は、ピロリ菌感染による胃潰瘍の発生メカニズムの解明や新規な胃潰瘍や胃炎の治療薬の開発に繋がる可能性が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法としては、PTPζをコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と、野生型の非ヒト動物とに、被検物質を投与し、これら非ヒト動物におけるPTPζ活性を比較・評価(解析)するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、PTPζをコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した非ヒト動物とは、例えばPTPζをコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の一部もしくは全部が破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化され、野生型においてPTPζを発現する機能を失なった非ヒト動物等をいう。また本発明における非ヒト動物としては、マウス、ラット、モルモット等の齧歯目動物を具体的に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。以下、PTPζをコードする遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物の作製方法を、PTPζ遺伝子機能が染色体上で欠損したマウスを例にとって説明する。
【0010】
PTPζ遺伝子機能が染色体上で欠損したマウス、すなわちPTPζノックアウトマウスは、本発明者らの前掲の文献(Neuroscience Letters274,135-138,1998)に記載する方法等によって作製することができる。具体的には、マウス遺伝子ライブラリーからPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用いて、PTPζ遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたPTPζ遺伝子の一部又は全部を、例えばLac-Z遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等マーカー遺伝子で置換し、必要に応じて、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを作製し、この作製されたターゲッティングベクターを線状化し、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、X-galによる染色あるいはG418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質に抵抗性を示すES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0011】
上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスとインタークロスさせると、ヘテロ接合体マウスを得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスをインタークロスさせることによって、PTPζノックアウトマウスを得ることができる。また、得られたノックアウトマウスを純系マウスに戻し交配することにより、PTPζ以外の遺伝的背景が均一なPTPζノックアウトマウスを得ることができる。かかる純系マウスとしてはどのような純系マウスを用いてもよいが、例えばC57BL/6Jを具体的に挙げることができる。そして、かかるPTPζノックアウトマウスにPTPζが生起しているかどうかを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスの尾端の一部からDNAを分離してサザンブロット法等により調べたり、このマウスの神経細胞等からRNAを単離してノーザンブロット法等により調べたり、またこのマウスのPTPζの発現をウエスタンブロット法等により調べる方法がある。
【0012】
本発明におけるPTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法としては、PTPζをコードする遺伝子の機能が染色体上で欠損した非ヒト動物、例えば、PTPζノックアウトマウスと野生型マウス、好ましくは同腹の野生型マウスにそれぞれ被検物質を投与し、該ノックアウトマウスにおけるPTPζ活性と野生型マウスにおけるPTPζ活性とを比較・評価する方法を挙げることができる。また、上記PTPζ活性の比較・評価としては、実施例に詳しく説明されている、中枢モノアミン代謝レベルの変化、覚醒剤に対する感受性、中脳-辺縁ドーパミン神経系の機能的障害の有無、新しい環境に対する慣れの程度、又はストレス応答性の比較・評価等の中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価や、ピロリ菌毒素VacAとの結合の程度、特にPTPζとピロリ菌毒素VacAとの間の結合の阻害の程度の比較・評価や、ヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンとの結合の程度、特にPTPζとヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンとの間の結合の阻害の程度の比較・評価を挙げることができる。
【0013】
PTPζ活性促進又は抑制物質のスクリーニング方法における被検物質の投与方法としては、経口投与、静脈投与等特に制限されるものでなく、被検物質を投与後、PTPζノックアウトマウスと野生型マウスにおけるPTPζ活性を測定し、その比較・評価が行われる。モノアミン神経系が関係する脳高次機能は多岐にわたっており、その機能的障害や変性は多様な病態に結びつくことが知られていることから、PTPζノックアウトマウスにおける中枢モノアミン神経系の機能障害が野生型マウスの機能と同程度まで改善・治癒された場合、かかる被検物質はPTPζのアゴニストなどのPTPζ活性促進物質であり、かかるPTPζ活性促進物質は中枢モノアミン神経系機能障害の治療薬、例えば重篤な神経変性疾患であるパーキンソン病やハンチントン舞踏病、自閉症等に加えて、躁鬱病、多動症、薬物依存症などの神経性疾患の新規な治療薬として期待できる。また、中枢モノアミン神経系の機能の比較・評価により見出されたPTPζ活性抑制物質は、以下に述べるピロリ菌毒素VacAやヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃潰瘍や胃炎の治療薬として有用である可能性がある。
【0014】
胃潰瘍の原因として有名なヘリコバクター・ピロリ菌が分泌する細胞外毒素、VacAは急性胃炎及び胃潰瘍患者の約90%以上で検出されており、ピロリ菌細胞外分泌毒素VacAを経口投与されたマウスは急性胃炎を引き起こすことが知られていることから、野生型マウスにおけるピロリ菌毒VacAとの結合の程度がPTPζノックアウトマウスのそれと同程度まで改善された場合、かかる被検物質はPTPζのアンタゴニストや、PTPζとピロリ菌毒素VacAとの間の結合阻害物質などのPTPζ活性抑制物質であり、かかるPTPζ活性抑制物質・PTPζ活性阻害剤は新規な胃潰瘍や胃炎の治療薬として期待できる。上記、ピロリ菌毒素VacAとの結合の程度の比較・評価により見出されたPTPζ活性促進物質は、中枢モノアミン神経系機能障害の治療薬として有用である可能性がある。PTPζとの結合により胃潰瘍を起こすことが本発明者らにより初めて明らかとなったプレイオトロフィンの胃潰瘍形成における関与は、これまで全く知られていない知見であり、PTPζ欠損マウスがプレイオトロフィンによる胃潰瘍形成の陰性コントロールである。
【0015】
また、18kDのヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンは、本発明者らにより、PTPζとの結合により胃潰瘍を起こすことが初めて明らかとなったことから、野生型マウスにおけるプレイオトロフィンとの結合の程度がPTPζノックアウトマウスのそれと同程度まで改善された場合、かかる被検物質はPTPζのアンタゴニストや、PTPζとプレイオトロフィンとの間の結合阻害物質などのPTPζ活性抑制物質であり、かかるPTPζ活性抑制物質・PTPζ活性阻害剤は新規な胃潰瘍や胃炎の治療薬として期待できる。上記、プレイオトロフィンとの結合の程度の比較・評価により見出されたPTPζ活性促進物質は、中枢モノアミン神経系機能障害の治療薬として有用である可能性がある。
【0016】
本発明の興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性の非ヒトモデル動物としては、プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した、PTPζノックアウトマウス等であれば特に制限されるものではないが、4世代以上の戻し交配により純化したノックアウトマウスが好ましい。PTPζノックアウトマウスの有用性、特に興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性であることは全く知られておらず、かかる有用性は本発明により初めて明らかにされたものである。またここで、低感受性とは野生型非ヒト動物に比較して興奮剤に対する応答の程度が低いものをいい、本発明の興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性の非ヒトモデル動物には、感受性の程度が少し低いものから全く応答しない不応答性のものまで含まれる。また、上記興奮剤(依存性薬剤)としては、覚醒剤メタンフェタミン及び同様の作用を有するアンフェタミン、ドーパミントランスポーター阻害剤GBR12909と同様な作用を有するコカイン及び大麻類、セロトニン遊離剤のp-クロロ-アンフェタミンと同様な作用を有するLSD、fluoxetine、fluoxamine、paroxetine、serrtraline等の抗うつ病剤として用いられるセロトニン再取込み選択的阻害剤(SSRI)などを挙げることができる。本発明の中枢興奮剤(依存性薬剤)に対して低感受性の非ヒトモデル動物は、覚醒剤(依存性薬剤)に対して低感受性であるほか、以下の実施例で詳細に述べられているように、中枢モノアミン代謝レベルの変化、中脳-辺縁ドーパミン神経系の機能的障害、新しい環境に対する慣れの遅滞、ストレス応答性の増大など、異常な神経学的性状を備えていることから、中枢興奮剤(依存性薬剤)に対する応答のメカニズムなど中枢神経系におけるシグナル伝達機構の解明に有用な実験モデル動物となるばかりか、上記のように、薬物中毒や神経性疾患の新規な治療薬のスクリーニングにも用いることができる。
【0017】
本発明のピロリ菌毒素VacAやヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンに対して低感受性の非ヒトモデル動物としては、プロテオグリカン型受容型プロテインチロシンホスファターゼ(PTPζ)をコードする遺伝子DNAの機能が染色体上で欠損した、PTPζノックアウトマウス等であれば特に制限されるものではないが、4世代以上の戻し交配により純化したノックアウトマウスが好ましい。PTPζノックアウトマウスの有用性、特にピロリ菌毒素VacAやヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンに対して低感受性であることは全く知られておらず、かかる有用性は本発明により初めて明らかにされたものである。本発明のピロリ菌毒素VacAやヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンに対して低感受性の非ヒトモデル動物は、ピロリ菌毒素VacAやヘパリン結合性分泌タンパク質プレイオトロフィンによる胃潰瘍の発生メカニズムの解明に有用な実験モデル動物となるばかりか、上記のように、新規な胃潰瘍の治療薬のスクリーニングにネガティブコントロールとして有利に用いることができる。
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細の説明するが、本発明はかかる実施例により制限されるものではない。
【0019】
実施例1中枢ドパミン神経系及びモノアミン神経系におけるPTPζの生理的役割とPTPζ欠損マウスの有用性
PTPζは中枢神経系に大量に発現しているが、その神経生理学的な役割はわかっていない。そこで、PTPζ遺伝子欠損マウスと野生型マウスを行動学及び神経薬理学的に比較・解析することで、PTPζ分子の脳高次機能における重要性を個体レベルで調べた。
【0020】
実施例1-1方法]
(A-1 動物)
PTPζ欠損マウスは、本発明者らの前掲の文献(Neuroscience Letters 274,135-138,1998)記載の方法で作製した。変異体マウスに、PTPζ遺伝子のエキソン1の翻訳開始コドンの直後にLacZ遺伝子を挿入し、従って、PTPζ遺伝子の発現調節ユニットのコントロールのもと、LacZ遺伝子が発現する。本実験において、ノックアウトマウスを、同系交配C57BL/6J系と4世代戻し交配し、同腹子のオスを生後2~5ヶ月で使用した。25℃の動物管理設備内、明暗12/12時間の周期で動物を保持し、無制限に餌と水を与えた。動物管理は、制度化されたガイドラインに基づき行った。
【0021】
(A-2 行動実験)
午前7:00~午後7:00の間の明周期において行動試験を行った。
A-2-1
オープンフィールド試験において、格子状25区分に同等に区切った灰色円形フィールド(内部直径80cm、高さ40cm)中央にマウスを配置した。5分間に跨いだ格子の区切り線の数を数え、これを自発運動として測定した。
A-2-2
赤外線受動センサーシステム(ABシステム24A、Neuroscience,inc.製)を用いて日周期運動性を測定した。無制限に餌と水を与えながら7日間動物を個別に収容した通常サイズのマウスケージ(30×20×13cm)の上部にセンサーを取り付け測定した。最後の3日間の測定データを用いて解析・評価を行った。
A-2-3
強制遊泳試験においては、深さ8cmまで22℃の水を入れた円筒状容器(直径8cm、高さ20cm)中でマウスを15分間強制的に2日間連続で泳がせた。赤外線モニター装置(SCANETMV-10、Toyo Sangyo Co.Ltd製)を用いて5分ごとに運動量を測定した。
A-2-4
高架式十字迷路は、中央エリア(6×6cm)及び4本のアームを有し、床から50cmの高さに設置されている。2つの「暗路」は壁(30cm)の覆いがあり、もう2つの「明路」には低い縁(1cm)が設けられている。マウスを迷路の中央に配置し、ほの暗い状態(約80ルクス)で5分間に明路及び暗路に入った回数及びその中での滞在時間を測定した。
A-2-5
オープンフィールドの容器とプラスチック製の立方体(一片=9cm)を用いて、新規物体に対する探索行動の評価を行った。試験前日、マウスを10分間ほどオープンフィールド内に入れ、事前にその環境に慣らしておき、試験当日、何も置いていないフィールド内にマウスを入れて9分間の観察を行い、次に、フィールド中央の領域の中心点に立方体型のプラスチック製積み木を静かに置き、さらに9分間の観察を行った。なお、観察の結果については、マウスがオープンフィールドの区切り線を横切った回数をカウントし、移動度として評価し、フィールド全域及び、フィールド中央の一定領域の区画線に対する横切り回数をそれぞれ評価した。
【0022】
(A-3 薬理実験)
透明アクリルチャンバー(40×40×40cm)内で電磁気運動モニターシステム(センサーユニット0603、スキャナー1099、Panlab製)を用いて動物の動きを測定し、自発運動における精神刺激薬剤の作用を測定した。薬を投与する前に、動物は少なくとも90分間測定環境に馴らされた。その後、動物に覚醒剤メタンフェタミン(METH)(1mg/kg,s.c.)、GBR12909(2mg/kg,i.p.)、アポモルヒネ(1mg/kg,s.c.)、又はp-クロロ-アンフェタミン(2mg/kg,i.p.)を与え、また、コントロールには生理食塩水を与え、その後60分間自発運動を観察した。
【0023】
(A-4-1 ドーパミン及びその代謝産物の定量化)
氷上で脳組織を切除し、10mM HClO、0.1mM sodium pyrosulfite、20μM EDTA・2Na及び(±)イソプロテレノール10pg/mlを内部標準として含む溶液中で超音波処理により抽出し、15,000rpmで10分間遠心分離した。上清中のドーパミン及びその代謝産物を、電気化学検知器を用いた自動HPLC(CoulochemII、MCmedical,inc.製)により次の条件で測定した。MCM C-18カラム(4.6×150mm、MC medical,inc.製)、3.1%アセトニトリル、7.6%メタノール、4.4mM1-スルホン酸ヘプタンナトリウム、及び0.1mMEDTA・2Naを含む50mM酢酸-クエン酸緩衝液(pH3.0)を用い、37℃に保ったカラムチャンバー内で流速1.0ml/分で分離した。作用電極は、+450mVにセットした。
【0024】
(A-4-2 インビボマイクロダイアリシス試験)
マウスにペントバルビタールナトリウム(80mg/kg i.p.)で麻酔をかけ、定位装置内に固定した。頭蓋骨にドリルで穴を開け、側坐核(NAC)内に大脳内ガイドカニューレ(CMA11、CMA/MicrodialysisAB製)を挿入し、歯科用セメントで固定した。野生型及びPTPζ欠損マウスにおけるガイドカニューレの移植定位は、頭蓋プレグマ表面から前側+1.1mm、腹側+3.6mm、側側+1.0mmであった。手術後24時間において、自発運動チャンバー(30×30cm)に設置された赤外線モニター装置(SCANET LC-10、Toyo Sangyo Co.Ltd製)を設けた平衡レバーアームにマウスを拘束した。ガイドカニューレを通して透析プローブ(膜長1mm、外部直径0.24mm、cuprophane CUP11、CMA/Microdialysis AB製)を挿入し、pH7.4の人工大脳脊髄液(ACSF)(145.0NaCl、2.7KCl、1.2CaCl、1.0MgCl、及び2.0NaHPO、いずれもmM)を用いて流速2μl/分で潅流した。自由に動いている動物から20分ごとに潅流水を、0.4M HClO20μlを含むチューブ内(CMA170)に採取した。上記のようにHPLC-ECDを用いてサンプルを回収し分析した。変更点として、カラムはMCMC-18(4.6×150mm)を用い、バッファーは75mMNaHPO、1.7mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウム塩、0.1mMトリエチルアミン、25μM EDTA・2Na及び10%アセトニトリルを含み、30℃で、流速は0.55ml/分とした。電極は、+320mVにセットした。METHの投与(1mg/kgs.c.)、又は高K溶液(47.7NaCl、100.0KCL、及び1.2CaCl、1.0MgCl、及び2.0NaHPO、いずれもmM、pH7.4、)の局所注入は定常状態になった後、微細透析プローブを通して行った。
【0025】
(A-5 免疫組織化学)
ペントバルビトールナトリウムでマウスに麻酔をかけ、4%パラホルムアルデヒド溶液を潅流固定した。脳を切除し、30%スクロースを含む4℃の0.1Mリン酸バッファー(PB)中で一晩インキュベートした。クリオスタット上で、前記脳を40μm切片に切断した。前記切片を、3%H及び0.05%NP-40を含む20mMPB食塩水(PBS)で30分間処理し、PBS中10%正常ヤギ血清及び0.05%TritonX-100でブロックした。その後、ウサギ抗チロシンヒドロキシラーゼ(1:1000)(AB152、Chemiconinternational Inc.製)を用いて前記切片を一晩インキュベートした。3,3ジアミノベンジジン(DAB)及びHを基質として用いるとともに、ABCペルオキシダーゼキット(Vectorslaboratories,Inc.)を製造者による使用説明書に基づき用い、特定抗体の結合を検出した。免疫組織化学分析前に、ヘテロ接合変異体マウスから得た組織切片をX-gal染色し、PTPζ遺伝子発現を反映するβ-ガラクトシダーゼを検知した(Neuroscience letters 274,135-138,1998)。
【0026】
(A-6 ドーパミン取り込み試験)
以下の方法によりドーパミン(DA)取り込み量を測定した。線条体シナプトソーム(striatal)組織プール(3個体/プール)を、テフロン(登録商標)ガラスホモジナイザーを用い100volume(v/w)の0.32Mスクロース中で均質化し、12,000rpmで10分間遠心分離した。未処理シナプトソームペレットを、30mg/ml(元湿重量)の濃度の0.32Mスクロース中で再懸濁し、各30μlの部分に分割した。[H]DAの濃度を増しながら(最終1~10nM、88.5Ci/nmol、Amersham Pharmacia Biotech UK Ltd.製)、Krebs-Ringerリン酸バッファー270μlと共に各部分に加えた。3分間、30℃でのインキュベーション後、Whatman GF/Cガラスフィルターを用いて濾過し、摂取を急速に終了させた。氷冷した0.32Mスクロース2.5mlでフィルターを3回濯ぎ、リキッドシンチレーション計数器を用いて50%効率で測定した。10μM GBR12909存在下において、ブランク値を測定した。
【0027】
(A-7 単一細胞からのcDNA合成)
前報の方法(J.Neuroscience 18,3124-3137,1998)でシングルセルからのcDNAを作製した。断頭後速やかにマウス脳を切除し、低Ca2+HEPESバッファー食塩水(140.0Naイセチオン酸塩、2.0KCl、4.0MgCl、0.1CaCl、23.0グルコース、及び15.0HEPES、いずれもmM)中で、400μmの厚さの頭頂中脳切片になるようにマイクロスライサーで切断した。前記切片を、NaHCOバッファー食塩水(126.0NaCl、2.5KCl、2.0MgCl、26.0NaHCO、1.25NaHPO、1.0ピルビン酸、0.2アスコルビン酸、0.1N-ニトロ-L-アルギニン、1.0キヌレイン酸、及び10.0グルコースを有し、NaOHでpH7.4に調整、いずれもmM)中室温で1時間保存した。腹側被蓋領域及び黒質を、低Ca2+中に取り出し、酸素処理セルスターチャンバー(Cell-stirchamber;Wheaton,Inc.製)内において、35℃のHEPESバッファーHBSS中1mg/mlプロナーゼで30分間処理した。この組織を、低Ca2+HEPESバッファー食塩水で3回濯ぎ、パステュールピペットで、繰り返しピペッティングすることにより細胞を分離した。細胞懸濁液を、顕微鏡上の、HEPESバッファーHBSSが入った35mmルクスペトリ皿に注ぎ入れた。細胞が安定した後、溶液をHEPESバッファーに変更した。ジエチルピロ炭酸塩(DEPC)処理水で満たした電極ピペット中に細胞内容物を吸引した。該内容物を直ちに回収し、DEPC処理水(HO)5μl、RNAsin(28,000U/ml、Promega corporation製)0.5μl、dithiothreitol(DTT、0.1M)0.5μl、及びランダムヘキサマープライマー0.1μl(50ng/μl)混合物中に加えた。該混合物を70℃で10分間熱した後、速やかに5分間氷冷却した。細胞mRNAにSuperscript II reverse transcriptase(200U/μl)(Life technologies)1μl、5×反応バッファー4μl、及び10mM dNTP1μlを加えることによりcDNAを合成した。総量20μlで、42℃で50分間反応後、70℃で15分間の処理を行った。
【0028】
(A-8 マルチプレックス及びネスティド(nested)PCR)
前報の方法(EMBO J.18,833-846,1999)を改良し、マルチプレックス及びネスティドPCRを行った。単細胞由来のcDNAを37℃のRNase(1μl、2U/μl)で20分間処理した。マーカー遺伝子のプライマーセットである、チロシンヒドロキシラーゼ(TH、GenBankアクセッションス番号M69200)、グルタミン酸ジカルボキシラーゼ67(GAD67、アクセッションス番号Z49976)、膠酸繊維タンパク質(glial acidic fiber protein;GFAP、アクセッションス番号K01347)については、Lissらの文献(EMBOJ.18,833-846,1999)に報告され、PTPζを増幅するプライマーセット(アクセス番号U09357)は本実験で作製された。TH、GAD67、GFAP、及びPTPζのcDNAを、ファーストプライマー混合物(5′~3′のPTPζに対し、センス[配列番号1]:GGT CCA CTG AAG TCC ACA GC;ポジション5512~5531、アンチセンス[配列番号2]:TCT AGT ACA ATG TAT GTG CCC G;ポジション5948~5927)を用いたマルチプレックスPCRにより1本のチューブ内で同時に増幅した。最初のマルチプレックスPCRは、シングルセルcDNA5μl、各プライマー20pmol、dNTP200μM、10×PCRバッファー2μl、EX-Taq(Takara Shuzoco.,ltd.製)1Uを含み、最終量20μlになるように行った。PCRは、サーマルサイクラーMP(Takara)を用い、以下の条件で行った。94℃で5分間の後、95℃で30秒間、62℃で3秒間、72℃で2分間の条件で25サイクル行い、72℃で5分間の処理を行った。4つの個別反応について、最初のPCR生成物0.1μl、dNTP200μM、10×PCRバッファー2μl、EX-Taq0.5U、及び各プライマーペア10pmol(PTPζに対する、センス[配列番号3]:CGG GAG CTT CCT GGT CAA CCA G;ポジション5655~5677、アンチセンス[配列番号4]:AGC ACG GGT AGG GAG TAC TC;ポジション5873~5824)を含み最終量20μlになるように、ネスティドPCRを行った。PCR生成物のうち5μl部分を、3%Nusive3:1アガロースゲル(FMC BioProducts、Rockland)上で電気泳動分離し、臭化エチジウム染色で明視化し、増幅断片の存在及びそのサイズについて調査した。PCRにより生成した8断片の予想サイズ(bp)は、189(PTPζ)、377(TH)、517(GFAP)、及び702(GAD67)であった。PTPζのプライマーは、PTPζ-A及び-Bイソフォームの配列中にのみ存在し、phosphacan(J.Biochem.(Tokyo),123,458-467,1998)としても知られているPTPζ-Sには存在しない細胞内ホスファターゼドメインD1のみを増幅することができる。
【0029】
[実施例1-2結果]
(PTPζ欠損マウスの行動学的な表現型)
PTPζ欠損マウスの行動学的な表現型を明らかにするために、オープンフィールド試験によって行動観察を行った(前記方法A-1及びA-2-1)。野生型マウス(PTPζ+/+、n=10)及びPTPζ欠損マウス(PTPζ-/-、n=12)における(A)自発運動及び(B)後ろ足立ちについて、オープンフィールド試験により連続2日間測定した結果が、それぞれ図1A及び図1Bに示されている。図中のデータは、平均値±SEM(p<0.05)として示されている。その結果、初日のオープンフィールドにおいて、PTPζ欠損マウスは野生型マウスに比べてより多くの自発運動を示し、有意に高い運動性を示すといえるが、24時間後のテストでは、その変化が消失していた(図1A)。一方、探索行動の後ろ足立ち(rearing)値に有意な変化は認められなかった(図1B)。PTPζ欠損マウスは新規環境に対する自発運動の応答性が亢進していることが示された。
【0030】
ホームケージ条件における、連日の自発運動を調べた(前記方法A-2-2)。マウスを、個別に7日間飼育し、最後の3日間において赤外線受動センサーにより自発的運動を分析した(PTPζ+/+、n=14及びPTPζ-/-、n=14)。結果を図1Cに示す。図中のデータは各30分間間隔ごとの平均値±毎SEMデータを示す(p<0.05)。PTPζ-/-マウスでは、野生型と比べ早暗期中において概日運動の最高点が著しく低下し、活動リズムは正常であるが、消灯直後(19時から24時)の活動ピークが野生型マウスに比べて有意に低いことが示された。
【0031】
(脳内モノアミン代謝の異常)
自発運動やサーカディアンリズムは、脳内モノアミン神経と深く関係することが知れている。そこで、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と電気化学検出器(ECD)により、脳内のドパミン(DA)、ノルエピネフリン(NE)、セロトニン(5-HT)とそれらの代謝産物(DA代謝物DOPAC,HVA;NE代謝物MHPG;5-HT代謝物5-HIAA)の組織内含量を測定した(前記方法A-4-1)。結果を図2に示す。図中のデータは、PTPζ+/+マウス(n=7)及びPTPζ-/-マウス(n=7)からの平均値±SEMとして示されている(p<0.05、**p<0.01)。その結果、PTPζ欠損マウスの脳内ではモノアミン代謝が明らかに異常であることが判明した。DAの組織含量は、両遺伝子型においてほぼ同様であった(A)。しかし、DOPAC/DA(B)、HVA/DA(C)、5-HIAA/5-HT(G)の比率は、PTPζ欠損マウス脳の数領域において野生型マウスと比べて著しく低下した。NE含量は、PTPζ欠損マウスにおいて野生型マウスと比べて上昇していた。
【0032】
(DA神経系の免疫組織学的解析)
次にDA神経細胞のマーカー酵素となるチロシンハイドロキシラーゼに対する特異抗体を用いて、PTPζ欠損マウスのDA神経系に組織学的な変化が生じていないか免疫組織学的に解析した(方法、A-5)。結果を図3に示す。野生型マウス(+/+、左側)及びPTPζ欠損マウス(-/-、右側)における黒質及び腹側被蓋領域(低倍率写真、a及びb、高倍率写真、c及びd)を通る部分、及びstriatum(e及びf)を、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)特異的ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学な分析結果によると、PTPζ欠損マウスと野生型マウスのDA神経系に有意な相異は同定されず、PTPζ欠損後もDA神経系は免疫組織学的に正常であると判断された。なお、図中の縮尺バーは、500μm(a、b、e、及びf)、並びに50μm(c及びd)を示す。
【0033】
(覚醒剤に対する感受性の低下)
覚醒剤であるメタンフェタミン(METH)は、DA神経系に働いてマウスの運動量を著しく増加させる。PTPζ欠損マウスのDA神経系が機能的に変化している可能性を予想して、METHに対する感受性を電磁場方式の運動量測定装置を用いて解析した(前記方法A-3)。結果を図4に示す。マウスを、アクリルチャンバーに配置し、電磁気センサー計数により運動量を測定した。薬物投与前においてPTPζ-/-マウス(n=9)及びPTPζ+/+マウス(n=9)は、同じ時間経過における自発運動で示した。十分に慣れさせた後(少なくとも90分間)、メタンフェタミン(METH、1mg/kg,s.c.)又は食塩水(矢印点)の注射により、野生型マウスと比べPTPζ-/-マウスが著しく弱い自発運動応答を示すことが明らかとなった(図4A)。コントロールの生理食塩水投与群に変化は認められなかった。データは、20分間隔毎の平均値±SEMとして示されている(表現型に対しp<0.001)。
【0034】
また、自発運動におけるMETH(1mg/kg,s.c.)、GBR12909(2mg/kg,i.p.)、アポモルヒネ(2mg/kg,s.c.)、p-クロロ-アンフェタミン(2mg/kg,i.p.)及び食塩水の作用を、薬物投与後60分間隔の運動量の総カウント数として図4Bに示す。自発運動測定は、上記と同様に行った。図中のデータは、平均値±SEMとして示されている(p<0.05、**<0.01)。PTPζ欠損マウスはDATの特異的な阻害剤であるGBR12909に対しても同様に低感受性であった(図4B)。一方、DAレセプターの非特異的アゴニストであるアポモルヒネは、ポスト側の神経細胞を刺激して同様の効果を発揮するが、アポモルヒネに対する応答性は正常であった(図4B)。以上の結果からはPTPζ欠損マウスのDA神経系ではプレ側の神経伝達機能が異常になっていることが示唆される。PTPζ欠損マウスは、プレ側シナプスから5-HTを遊離させるp-クロロ-アンフェタミンに対しても低感受性を示した(図4B)。
【0035】
H]DAを線条体シナプトソームと混合して組織内への[H]DA取り込み量を測定した(前記方法A-6-1)。線条体シナプトソームのホモジネートを[H]DA存在下(1~10nM)30℃で2分間インキュベートした。Eadie-HofsteeプロットによりDA摂取量を分析し、最高速度(Vmax、pmol/2分間/mgタンパク質)及び親和性(Km、nM)を、3回の測定値の平均値±SEMを表1に示す(P<0.05)。表1から、DA取り込み量の、最大速度(Vmax)、親和性(Km)、いずれも動力学的に変化していることが判明したが、DATの数に変化は認められなかった。
【表1】
JP0003785460B2_000002t.gif【0036】
(側坐核におけるDA神経伝達の異常)
METHやGBR12909投与による自発運動の賦活効果は、主に側坐核(NAC)で細胞外DA濃度が増加することにより誘導される。METH投与後の側坐核の細胞外DA濃度の変化をマイクロダイアリシス法によって解析した(前記方法A-4-2)。NACにおけるMETH誘導DA放出を、マイクロダイアリシスにより分析した結果を図5Aに示す。各値は、PTPζ+/+マウス(n=7)及びPTPζ-/-マウス(n=6)の平均値±SEMであり、METH刺激する前の2サンプルの平均をパーセントとして示している。野生型マウスと比べ(表現型に対しp<0.001)PTPζ欠損マウスは、METH(1mg/kg,s.c.)投与により起こるDA放出の著しい減少を示した。野生型マウスの側坐核の細胞外DAは、METH(1mg/kg,s.c)の投与により明瞭に増加していたが、一方、PTPζ欠損マウスでは、METH刺激による細胞外DA亢進応答が野生型に比べて明らかに減弱していた(図5A)。
【0037】
この細胞外DA濃度に対応して、METH投与後の自発運動はPTPζ欠損マウスで低下していることが確認された。図5Bに、自由に移動している動物の運動量の赤外線モニター装置を用いた分析により、METH刺激後、野生型マウスと比べPTPζ-/-マウスが統計的に低いMETH誘導運動を示すことが確認された結果を示す(p<0.05)。すなわち、覚醒剤に対する低応答性の原因は、前側シナプスからのDA放出・取り込み過程にあることが同定された。一方、側坐核に挿入したマイクロ透析プローブを通じて100mMKCl溶液を局所投与し脱分極を起こさせることによってシナプス小胞ドパミンDA遊離を誘導した場合、PTPζ欠損マウスのDA遊離応答は野生型マウスと同等のレベルで成立していた(図5C)。加えて、定常状態における細胞外DA濃度も変化していないことから(図5D)、PTPζはDAシナプス小胞の放出機構自体には必須でないことが示された。
【0038】
(DA神経系におけるPTPζの役割)
DA神経系におけるPTPζの役割を知る上で、PTPζの発現領域を明らかにすることは非常に重要である。成熟脳におけるPTPζの詳細な発現パターンは判っておらず、今回、PTPζ遺伝子のレポーター遺伝子であるLacZ遺伝子の発現パターンから本分子の発現領域の同定を行った。すなわち、X・galで青く染色される細胞はPTPζの発現細胞と同定される。成体マウスのDAサーキットにおいてPTPζプロモーター活性を示す細胞の局所分布を、成体ヘテロ接合マウスにおいてX-gal染色(青色シグナル)、次いでTH染色(茶色シグナル)により調べた結果を図6A,Bに示す。DA神経系の起始核である黒質(SN)や腹側被蓋(VTA)には、多くの陽性細胞が認められたが、一方、DA神経の主要な投射領域である線条体(ST)や側坐核(NAC)には検出されなかった。この結果はPTPζ欠損によってDA神経系のプレ側に機能的変化が同定された薬理学的な解析結果と一致している。
【0039】
次に、PTPζがDA神経細胞で直接機能している可能性を確かめるために、シングルセルから調製したRNAを鋳型にしたRT-PCR解析であるシングルセルRT-PCR法による解析を試みた(前記方法A-7及びA-8)。マウス脳由来のcDNAを鋳型としたシングルセルRT-PCRを行い、アガロースゲル電気泳動により分析し、臭化エチジウムで染色した結果を図6Cの上段に示す。PTPζのホスファターゼD1領域、更にマーカー遺伝子、チロシンハイドロキラーゼ(TH、ドパミン神経細胞マーカー)、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD67,GABA神経細胞マーカー)及びGlial fibrary acidic protein(GFAP、アステログリア細胞マーカー)のPCR産物が、そのmRNAの塩基配列から予想される位置、すなわちPTPζ(189)、TH(377)、GAD67(702)及びGFAP(517)にそれぞれ検出された。これらのPCR産物の正当性はクローニング後、DNAシークエンスによって確認した。プライマーはイントロンを挟むように設定してあるのでゲノムDNA由来のPCR増幅はおこらない。また、逆転写酵素を加えないコントロールではPCR増幅は認められなかった。図6Cの下段は、TH陽性(DA細胞)とGAD陽性(GABA細胞)と同定された代表例を示している。マウス4匹分の黒質及び腹側被蓋から46個の細胞を採取・解析した結果、TH陽性のドパミン神経細胞28個及びGAD67陽性のGABA神経細胞6個が同定された。この際、THもしくはGADのどちらも増幅しない8例、GFAPの増幅が認められた4例は解析から除外している。PTPζのPCR産物は83%のDA細胞において増幅が認められた(図6D)。すなわち、マウス成熟脳においては、ほとんどのDA神経細胞において蛋白チロシン脱リン酸化の活性を有したレセプター型PTPζが発現していることが証明された。
【0040】
(強制遊泳ストレスに対する応答性の変化)
DA及び5-HT神経系は、自発運動だけでなく情動やストレス応答に関係することが知られている。強制遊泳ストレス試験では、逃げられない状況下の狭いプールにマウスを投入して、その泳動時間を経時的に評価・解析した(前記方法方法A-2-3)。すなわち、動物は当初、ストレス刺激から逃れようと盛んに泳ぐが、逃避不可能な状況に対して絶望し、次第に無動状態になると考えられている。初日の15分間の試験はうつ状態を誘導するために行う実験である。このテストにおいて、欠損マウスと野生型マウスの泳動時間に有意な違いは認められない(図7A)。しかし、24時間後のテストにおいては、PTPζ欠損マウスは野生型よりも長い時間泳ぎ回っていることが示された(図7B)。15分間のテスト中、マウスの運動量は徐々に減少し、最後10分間中の運動レベルは、野生型コントロール(n=8)と比べPTPζ欠損マウス(n=8)において有意に高かった。すなわち、PTPζ欠損マウスはストレス刺激に対して慣れにくいことが判った。
【0041】
次に情動行動、特に不安の評価法として一般的な高架式十字迷路試験を行った(前記方法A-2-4)。本テストでは、マウスは明るいと不安になるため明路を避けようとするが、同時にこの場所を探索したいという葛藤的な条件にさらされている。すなわち、不安になりやすい動物は明路を避けて暗路に長く滞在するようになる。一方、探索意欲が強いマウスでは、探索行動が増加し明路-暗路への出入りが増加する。PTPζ欠損マウス(n=9)及び野生型コントロール(n=12)の間で高架迷路における挙動に明らかな差異は見られなかった(図7C)。さらに、探検挙動測定値である迷路のアーム部に入った総回数においても、2表現型間で差異は見られなかった(図7D)。これらの2つの因子、明路-暗路の滞在時間(不安行動)及び全入路回数(探索行動)はどちらのマウスも同等と評価された。
【0042】
(新規物体に対する探索行動の変化)
初めて見る対象物に対する探索行動を調べた(前記方法A-2-5)。結果を図8に示す。PTPζ欠損マウス(PTPζ-/-、n=9)及び野生型コントロール(PTPζ+/+、n=9)について、オープンフィールド全域(図8A)及び、オープンフィールド中央領域(図8B)における移動度を各3分毎の平均値±標準誤差で示す(*p<0.05、**p<0.01)。測定1回目(Trial.1)では、最初の9分間はフィールド内には何も置かれていない。この環境下では、両マウスとも中央領域内にほとんど滞在していないことがわかる。続いて、積み木(初めて見る物体)をフィールド中央に置くと、マウスは積み木に対する探索行動をとり、中央領域への侵入・退出頻度が著しく増加する。全体的な移動度もそれに伴い増加した。また、グラフからは、積み木に対する探索行動は時間経過とともに減少していることが示された。両マウスを比較すると、積み木を置いた中央領域での最初の3分間の移動量は、PTPζ-/-マウスが野生型マウスの2倍以上高値であり、6分間まで有意に高値を維持した。24時間後、同条件の2回目の試行(Trial.2)を行った。野生型マウス(PTPζ+/+)は、移動量がほとんど増加しないことから、もはや積み木に対する探索行動していないと判断されるが、PTPζ-/-マウスでは、同様に探索行動によると考えられる移動度の亢進が示された。さらに3回目の試行(Trial.3)を行ったところ、両マウスに有意な差異は認められなくなった。以上の結果より、PTPζ-/-マウスは、新しい環境に対する慣れが遅延していることが示された。
【0043】
実施例2ピロリ菌毒素VacAによる胃潰瘍形成におけるPTPζの役割]
ヘリコバクターピロリ菌による胃潰瘍形成におけるPTPζの役割、特に胃におけるPTPζの免疫組織学的同定、ヘリコバクター・ピロリ菌が分泌する細胞外毒素VacAの受容体としてPTPζが実際に胃潰瘍形成に関与していること、また、その陰性コントロールとしてのPTPζ欠損マウスの有用性について検討した。
【0044】
実施例2-1方法]
(B-1 マウスの胃におけるPTPζの免疫組織化学染色)
ホルマリン固定及びパラフィン包埋した野生型及びPTPζ欠損マウスの胃組織切片を、PTPζの細胞外領域を認識する抗6B4プロテオグリカンポリクローナル抗体で免疫染色した。組織切片をキシレン中で脱パラフィン化し、エタノール系列中で脱水した。前記切片を、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.6)で洗浄し、10mMクエン酸バッファー(pH6.0)中で15分間マイクロ波をかけた。0.3%過酸化水素を用い、脱パラフィン化切片を10分間インキュベートし、内在性ペルオキシダーゼをブロックした後、PBS中で洗浄した。その後、前記切片をウシ血清アルブミンで10分間ブロックし、PBSで洗浄した。処理済み組織切片を、キャリアータンパク質及び15mMアジ化ナトリウムを含む4℃のTris-HClバッファー中、抗6B4プロテオグリカンポリクローナル抗体(1:2000)で一晩インキュベートした。PBSで洗浄後、製造者説明書に基づきDAB及びHを基質としてDAKOEnvision System(DAKO Corp.)で特異抗体結合を調べた。前記切片を、ヘマトキシリンでわずかに対比染色した。
【0045】
(B-2 マウスの胃におけるPTPζのRT-PCR及びウエスタンブロット)
マウスの胃におけるPTPζのRT-PCRは以下の方法で行った。マウス胃組織からのRNA抽出には、TRIzol Reagent(Invitrogen)を用い、cDNAの合成には、TrueScriptII Reverse Transcriptase kit(サワデーテクノロジー)とoligo dT primer(dT)30を用いた。10ngのRNA由来のcDNAを鋳型として、10pmolのプライマー、0.5UのEX-Taq polymerase(宝酒造株式会社)及びEX-Taq polymerase付属の反応バッファー類で計20μlでPCR反応を行った。PCR反応では、94℃5分間を1サイクル、95℃30秒、62℃3秒、72℃2分間を35サイクル、最後に、72℃5分間を1サイクル行った。さらに、PCR増幅産物の配列の正当性は、DNAシークエンスを調べることを行って確認した。PTPζのそれぞれのアイソフォームに対するPCR領域はPTPζ-Aタイプ(ヌクレオチド番号4861-5499)PTPζ-Bタイプ(2321-2875)PTPζ-Sタイプ(4913-5704)である。
【0046】
マウスの胃おけるPTPζの検出のためのウエスタンブロットは以下の方法で行った。胃組織を1%NP-40とタンパク分解酵素阻害剤を含むTrisバッファーで懸濁・抽出を行い、その抽出物の遠心分離上清に、コンドロイチナーゼABCを添加、又は無添加で37℃で1時間静置した。さらにタンパクは、SDS-PAGE(6%アクリルアミドゲル)により分離、セミドライ方式でPVDF膜に転写した。また、免疫染色にはウサギ抗6B4ポリクローナル抗体(1μg/ml)と、ペルオキシダーゼ標識した抗ウサギ抗体を2次抗体として用い、PTPζの検出を行った。反応基質には、ECL Plus reagent(アマシャムファルマシア)を用いた。
【0047】
(B-3 ピロリ菌毒素VacAによる胃潰瘍形成)
4週齢のマウス(メス)を24時間絶食させた後(飲水は自由)、ピロリ菌毒素VacA又は生理食塩水をゾンデによって経口的に投与した。48時間後に胃標本を作製して、実体顕微鏡下で胃内部の表面を観察した後、ヘマトキシレン・エオジン染色法によって病理標本を作製・解析した。
【0048】
(B-4 VacAによる胃潰瘍形成の病理評価)
VacAによる胃潰瘍形成の病理評価については、胃粘膜障害スコアー(EDS)の評価(1=障害なし。2=上皮カラム構造の乱れ。3=微小領域でのびらん形成及び上皮細胞の剥離。4=浸食性の障害、基底膜の露出及び潰瘍形成。)を行った。また、炎症スコアー(IS)の評価(1=炎症細胞浸潤なし、2=胃腺管の間(lamina propia)と粘膜下層における散発的な単核球の浸潤、3=lamina propiaの上皮層への浸潤細胞の明瞭な増加、4=lamina propriaへの著しい細胞浸潤。)についても行った。
【0049】
(B-5 AZ-521細胞におけるPTPζの基質分子GIT1のリン酸化レベル及び細胞空胞化の解析)
AZ-521細胞におけるPTPζの基質分子GIT1(Gprotein-coupled receptor kinase-interactor 1)(PNAS,98,6593-6589,2001)のリン酸化レベル及び細胞空胞化の解析をするために、以下のニュートラルレッドの取り込み、及び免疫沈降法行った。まず、VacA高感受性のヒト胃由来の癌化細胞株AZ-521(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を用いて、細胞密度が350,000/cmとなるようにプレートに接種し、24時間培養後に酸活性化処理したVacAを100ng/mlのEGFと共に添加した。刺激30分後、細胞空胞化(ニュートラルレッド取り込み)及びGIT1のチロシンリン酸化レベル(免疫沈降法)を解析した。
【0050】
ニュートラルレッドの色素取り込み試験は以下の方法で行った。培地成分を除いた後、0.05%のニュートラルレッドと0.5%のBSAを含むリン酸バッファーを添加して、5分間細胞に取り込ませた。そして0.5%のBSAを含むリン酸バッファーで細胞を3度洗浄した後、細胞内に取り込まれた色素を0.05%の塩酸を含む70%エタノールで抽出し、吸光度(540nM)を測定した。
次にGIT1のチロシンリン酸化試験は以下の方法で行った。1.9×10個の細胞に、300ulの溶解バッファー(20mM Tris-HCl、pH8.0、137mM NaCl、1%NP-40、1mMphenylmethylsulfonyl fluoride、10μg/ml pepstatinA、1mMsodium orthovanadate、及び1mM NaF)を加え、氷上で30分間放置した。この抽出物を遠心分離後、上清のタンパク濃度を100μg/mlに調整した。25μgのサンプルを、25μlのProtein G Sepharose 4FF(Amersham Pharmacia)と2時間混合し、ゲルと非特異的吸着する成分を除去した上清を調整した。この上清に2μlのウサギ抗GIT1抗血清を加え、1時間の反応後、25μlのProtein G Sepharose 4FFを添加し、さらに3時間の反応を行った。反応後のビーズは、溶解バッファーで3回洗浄した後、特異的に吸着している成分をSDS-PAGEのサンプルバッファーで抽出した。このサンプルをSDS-PAGEにより分離後、セミドライ方式でPVDF膜に転写し免疫沈降に用いた。なお、GIT1のチロシンリン酸化の検出には、抗チロシンリン酸化マウスモノクローナル抗体PY20を用い、GIT1の検出には、ヤギ抗GIT1抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz)を用いた。
【0051】
実施例2-2結果]
(マウス胃上皮細胞層におけるPTPζの発現)
PTPζの細胞外ドメインを特異的に認識する、ウサギポリクロナール抗体を用いて、マウス胃上皮細胞層にPTPζが発現しているかどうかを調べた結果を図9(参考資料3参照)に示す。野生型マウス(図9A)及びPTPζ欠損マウス(図9B)からもわかるように、野生型マウスの胃上皮細胞層にPTPζが発現していることが始めて明らかになった。元来、PTPζは中枢神経系のみで発現しているとされていたが、胃での発現は脳に比べて非常に低レベルでバックグラウンドとの識別ができなかったためと思われる。本発明では、PTPζ欠損マウスを陰性コントロールとして用いた結果、非常に高感度な免疫染色の条件を設定することができた。
【0052】
(マウス胃上皮細胞層におけるPTPζアイソフォームの発現)
RT-PCRの結果から、胃組織においてPTPζ-Aタイプ、PTPζ-Bタイプ、PTPζ-Sタイプの全てのスプライスバリアントが発現していることが確認された(図10A)。一方、ウエスタンブロット解析からは、実際のタンパク成分としては、レセプター型のPTPζ-Bタイプが主要であること、また、コンドロイチナーゼABC処理によって電気泳動上の移動度が変化しないことから、PTPζ-Bタイプは、コンドロイチン硫酸修飾を受けていない性状であることが示された(図10B)。
【0053】
(マウス胃表皮における潰瘍の発生)
VacA投与後48時間のマウス胃表皮における潰瘍の発生を実体顕微鏡を用いて調べた。結果を図11に示す。VacAを投与した野生型マウスの胃には7匹中3匹において顕著な潰瘍状の障害が認められ(矢印部分、図11A)、残り4匹についても程度は軽いが、びらん形成や胃表層に明瞭な脱落が認められた。一方、VacAを経口投与したPTPζ欠損マウスの胃(7匹)には有意な障害は認められなかった(図11B)。VacAを投与した野生型マウス標本のヘマトキシレン・エオジン染色の結果では、明らかに潰瘍が形成されており(図11C低倍率及び図11D高倍率の矢印部分)、ヘリコバクター・ピロリ菌感染によるヒトの病態と非常に酷似している様子が認められたが、一方、PTPζ欠損マウスは全く正常であることから(図11E)、VacAによる潰瘍形成にPTPζが必須の役割を担っていることが個体レベルで初めて明らかになった。生理食塩水投与群は野生型マウス(図11F)及びPTPζ欠損マウスはどちらも正常であった。
【0054】
(マウス胃表皮の潰瘍形成の病理評価)
胃粘膜障害(EDS)及び炎症(IS)の程度を上記(B-4)の方法に従って評価した。EDS及びISの平均値±標準誤差を表2に示す。野生型マウス(PTPζ+/+)においては、VacA投与用量に依存した胃粘膜障害及び炎症が認められたが、PTPζ欠損マウス(PTPζ-/-)では、全く異常が認められなかった。なお、表中の#、P<0.05:##、P<0.001は、生理食塩水を投与した野生型マウスとの比較、**、P<0.001は、VacA(0.5mg/kg)を投与した野生型マウスとの比較をMann-Whitney’s U testで行った結果である。また、ndの記述は解析を行っていないことを意味する。
【表2】
JP0003785460B2_000003t.gif【0055】
(AZ-521細胞におけるPTPζの基質分子GIT1のリン酸化レベル及び細胞空胞化の解析)
VacA刺激によるPTPζの基質分子GIT1のチロシンリン酸化を調べた結果を図12に示す。VacA高感受性株AZ-521細胞において、VacA刺激によりPTPζの基質分子であるGIT1のチロシンリン酸化レベルが用量依存的に減少していること(図12A)、GIT1リン酸化の減少は、細胞へのニュートラルレッドの取り込み(空胞形成の指標)(図12B)と相関関係にあることが示された。VacAの細部毒性は、in vitroにおいて細胞空胞化能として評価され、VacAはPTPζの活性を亢進させ、GIT1のチロシンリン酸化を低下させることによって空胞形成に関与している可能性が示された。
【0056】
実施例3プレイオトロフィンによる胃潰瘍形成におけるPTPζの役割]
プレイオトロフィンは、18kDのヘパリン結合性分泌タンパク質で、神経栄養因子様活性、神経細胞の接着、突起伸長、血管新生への関与が知られている(BioScience用語ライブラリー:「サイトカイン・増殖因子」、羊土社、p126-127,1998)。また、PTPζの細胞外領域と結合し(J.Biol.Chem.271,21446-21452,1996)、PTPζの活性を変化させることが示されている(PNAS,97,2603-2608.2000)。そこで、プレイオトロフィンが胃潰瘍形成に関与しているかどうかについて調べてみた。
【0057】
実施例3-1方法]
プレイオトロフィンによる胃潰瘍形成におけるPTPζの役割は以下の方法で調べた。4週齢のマウス(メス)を24時間絶食させて後(飲水は自由)、プレイオトロフィン(ペプチド研究所)をゾンデによって経口投与した。48時間後に胃標本を作製して、実体顕微鏡下で胃内部の表面を観察した後、ヘマトキシレン・エオジン染色法により病理標本を作製・解析した。
【0058】
実施例3-2結果]
プレイオトロフィン投与後、48時間のマウス胃上皮における胃粘膜障害の程度を実体顕微鏡下で調べた。結果を図13に示す。プレイオトロフィンを投与した野生型マウスの胃には、著しい出血が認められた(図13A)。一方、プレイオトロフィンを投与したPTPζ-/-マウスの胃には障害が認められなかった(図13B)。プレイオトロフィンを投与した野生型マウス標本のヘマトキシレン・エオジン染色の結果、胃上皮に明らかな障害が認められた(図13C)。一方、PTPζ欠損マウスは全く正常であった(図13D)。以上の結果、PTPζとリガンド分子の結合により潰瘍を惹起することが初めて明らかとなった。プレイオトロフィンの胃潰瘍形成における関与は、これまで全く知られていない知見であり、PTPζ欠損マウスがプレイオトロフィンによる胃潰瘍形成の陰性コントロールとして非常に有用であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】第1図は、オープンフィールド試験及び概日リズムにおけるPTPζ欠損マウスの性質表現型を調べた結果を示す図である。
【図2】第2図は、PTPζ欠損マウス脳におけるモノアミンの代謝変化を示す図である。
【図3】第3図は、PTPζ欠損マウスにおけるドーパミン神経系の免疫組織化学の結果を調べた結果を示す図である。
【図4】第4図は、PTPζ欠損マウスにおけるメタンフェタミン及びGBR129909に対する自発運動応答性の低下を示す図である。
【図5】第5図は、PTPζ欠損マウスの側坐核におけるDA神経伝達の異常を示す図である。
【図6】第6図は、成体マウス脳のドーパミン神経系におけるPTPζの発現特性を調べた結果を示す図である。
【図7】第7図は、PTPζ欠損マウスにおけるストレス及び恐怖行動の結果を示す図である。
【図8】第8図は、野生型マウスとPTPζ欠損マウスの新規物体に対する探索行動の結果を示す図である。
【図9】第9図は、野生型マウスとPTPζ欠損マウスの胃上皮細胞層におけるPTPζの発現を調べた結果を示す図である。
【図10】第10図は、マウス胃上皮細胞層におけるPTPζの転写(RT-PCR)及び発現(ウエスタンブロット)を調べた結果を示す図である。
【図11】第11図は、ピロリ菌毒素VacAを経口投与した野生型マウスとPTPζ欠損マウスにおける胃潰瘍形成の結果を示す図である。
【図12】第12図は、VacA刺激によるPTPζの基質分子GIT1のチロシンリン酸化を調べた結果を示す図である。
【図13】第13図は、プレイオトロフィン投与によるマウス胃上皮における胃粘膜障害の結果を示す図である。
【配列表】
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12