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明細書 :導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用いた素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4193930号 (P4193930)
登録日 平成20年10月3日(2008.10.3)
発行日 平成20年12月10日(2008.12.10)
発明の名称または考案の名称 導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用いた素子
国際特許分類 C01G  55/00        (2006.01)
H01B   1/08        (2006.01)
FI C01G 55/00
H01B 1/08
請求項の数または発明の数 4
全頁数 6
出願番号 特願2002-523400 (P2002-523400)
出願日 平成13年8月23日(2001.8.23)
国際出願番号 PCT/JP2001/007234
国際公開番号 WO2002/018274
国際公開日 平成14年3月7日(2002.3.7)
優先権出願番号 2000260319
優先日 平成12年8月30日(2000.8.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年11月17日(2004.11.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】前野 悦輝
【氏名】柳島 大輝
個別代理人の代理人 【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開平06-244469(JP,A)
特開平09-092536(JP,A)
特開平09-214018(JP,A)
Brendan J. KENNEDY,Physica B,1997年 8月,Vol.241 to 243,303~310
A.T.Ashcroft et al,Catalysis and Surface Characterisation,1992年,Vol.114,184~189
M.V.ten KORTENAAR,J.Power Sources,1995年,Vol.56,51~60
調査した分野 C01G 55/00
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
組成式Pr2Ir2O7で表される、導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用い、温度10K以下で使用することを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
組成式Pr2Ir2O7で表される、導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用い、温度10K以下で使用することを特徴とする磁気スイッチング素子。
【請求項3】
組成式Pr2Ir2O7で表される、導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用い、温度10K以下で使用することを特徴とする磁気記憶素子。
【請求項4】
組成式Pr2Ir2O7で表される、導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用い、温度10K以下で使用することを特徴とする冷凍機用蓄熱素子。
発明の詳細な説明
【0001】
【技術分野】
本発明は、結晶中における磁性イオンと電気伝導を担う電子系との相互作用を利用した電子機能材料、および広範囲の温度域で大きな熱容量を持つ良熱伝導性(伝熱性)の蓄熱材料に関するものである。
【0002】
【背景技術】
固体中の磁性イオンと電気伝導を担う電子系との相互作用による量子効果を利用した従来の電子機能素子としては、各種磁気記憶素子や巨大磁気抵抗素子などが挙げられる。これらの機能性物質で利用される磁気状態は、与えられた条件のもとでエネルギー的に安定となる長距離秩序状態である。
【0003】
これに対し、結晶格子上の磁性元素の幾何学的な配置とその磁性元素の磁気モーメント(スピン)の間の相互作用がある条件を満たせば、「幾何学的フラストレーション」のためにスピンの配列は原理的に一義的には決まらず、たとえ絶対零度近傍でも等しいエネルギーをもつ多くの状態が縮重して存在することになる。
【0004】
しかし、そのような場合でも、外部磁場などの外的条件を加えることによりその縮重が破れ、各状態のエネルギーに差が生じるようになることがある。これは、外部磁場等によってその結晶の磁気状態を制御することが可能となることを意味する。また、物質内の局所磁場による異常ホール効果等の量子現象が生じることも知られている。
【0005】
その一方で、希土類元素を含む化合物では電子の軌道角運動量とスピンの結合のため、結晶場効果も重要となってくる。この効果によってもまた、磁場によりそのエネルギー準位を変化させることができる。その結果、磁気状態を制御することが可能である。
【0006】
第1図に示すパイロクロア構造の酸化物では、頂点を共有した(酸素Oを中心とする)正四面体構造のために、正四面体Tの各頂点に磁性元素Rがあると幾何学的フラストレーションが生じる。また、これに希土類元素を用いることにより結晶場効果も重要になる。すなわち、幾何学的フラストレーションと結晶場効果がともに重要な系となる。
【0007】
なお、一部のパイロクロア構造酸化物では、このような幾何学的フラストレーション状態は、その酸素-磁性イオンの配置と氷の結晶における酸素-水素の空間配置との等価性から、スピンアイス状態とも呼ばれている(M.J. Harris et al., Phys. Rev. Lett. 79, 2554-2557 (1997))。
【0008】
これまでに知られているそのような化合物には、Ti系(例えば、Ho2Ti2O7:M.J. Harris et al., Phys. Rev. Lett. 79, 2554-2557 (1997); Dy2Ti2O7:A.R. Ramirez et al., Nature 399, 333-335 (1999))およびSn系パイロクロア型酸化物がある。しかし、これらはいずれも絶縁体であるため、電子機能素子への応用範囲はきわめて限られてくる。
【0009】
一方、Mo系(例えば、Y2Mo2O7:M.J.P. Gingras et al., Phys. Rev. Lett. 78, 947-950 (1997))、Mn系、Ru系パイロクロア型酸化物では導電性物質も一部存在するが、いずれの場合にも物質に含まれる不規則性や比較的高温で起こる構造相転移のために、スピングラス秩序や反強磁性秩序など従来からよく知られた磁気秩序状態が生じ、幾何学的フラストレーションが存在する場合に発現するべき低温における大きな比熱が存在しない。
【0010】
上記の通り、幾何学的フラストレーションを持った状態は外部磁場等を加えることによりその磁気状態を制御することが可能な「制御性を含んだ磁気状態」ということができるが、産業的には、その制御を行う何らかのデバイス、あるいは、その磁気状態を検出するための何らかのセンサ等と組み合わせることができなければ、その応用範囲は極めて限られたものとなる。そこで、その産業界への応用のために、スピンアイス状態若しくはそれに類似した機能の状態を示し、なおかつ良導電性である物質の開発が待望されている。
【0011】
また、低温まで長距離磁気秩序状態への磁気転移を起こさない物質は、広い温度域にわたって大きな比熱をもち得ることも大きな特長として挙げることができる。しかし、この性質を利用した蓄熱材料への応用に際しては、熱交換のために伝熱率の高いことがきわめて重要であり、この点からも絶縁体ではなく金属または良導電体であることが強く望まれる。
【0012】
【発明の開示】
本発明はこのような要求に応えるべく、磁気制御性を有する幾何学的フラストレーションを持った状態と、電気制御性および蓄熱利用に道を拓く良導電性という双方の有用な特性を同時に満足する新物質を開発することにより、上記課題を解決したものである。
【0013】
すなわち、本発明に係る導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用いた素子は、組成式Pr2Ir2O7で表される、導電性を有するパイロクロア型磁気制御性物質を用い、温度10K以下で使用する磁気センサ、磁気スイッチング素子、磁気記憶素子又は冷凍機用蓄熱素子であることを特徴とする。
【0014】
【発明を実施するための最良の形態】
イリジウム系パイロクロア型酸化物は組成式R2Ir2O7で表されるが、これまでRとして磁気モーメントを持たないPbとBiを用いた物質の存在が知られていた。また、Eu2Ir2O7も合成可能であることが知られていたが、室温以上で導電性があることしか知られていなかった(R.J. Bouchard and J.L. Gillson, Mat. Res. Bull. 6, 669-680(1971))。本発明は、このRとして希土類元素、すなわちランタンLa(57),セリウムCe(58),プラセオジムPr(59),ネオジムNd(60),プロメチウムPm(61),サマリウムSm(62),ユウロピウムEu(63),ガドリニウムGd(64),テルビウムTb(65),ジスプロシウムDy(66),ホルミウムHo(67),エルビウムEr(68),ツリウムTm(69),イッテルビウムYb(70),ルテチウムLu(71)およびイットリウムY(39)(括弧内の数字は原子番号)から選ばれる1種または2種以上の元素の組み合わせを用いたものである。
【0015】
希土類元素は酸化数3の化合物が一般に安定であり、そのイオンは、不対電子をもたないLa3+,Ce4+,Lu3+,Yb2+,Y3+などは反磁性であるが、一般に磁気モーメントをもち、常磁性である(理化学辞典第5版、岩波書店1998年)。本発明に係るR2Ir2O7パイロクロア構造酸化物では、酸素Oを中心とする正四面体構造の各頂点を上記希土類元素Rの3価のイオンが占め(第2図(a)、R2O)、その間をIr及び残りの酸素Oで構成される八面体が占める(第2図(b)、IrO3×2=Ir2O6)。すなわち、その結晶構造は第3図に示すようになっている。
【0016】
これらの物質の磁気的性質は室温から10ケルビン(K)程度までの温度範囲ではR3+イオンによる局在磁性でよく説明できる。本発明に係る物質の一種であるPr2Ir2O7についてのさらに低温での磁気的性質および比熱特性の測定結果(第4図)によると、Pr2Ir2O7では明らかに結晶場効果に特徴的な緩やかな比熱ピークの存在が見られる。
【0017】
幾何学的フラストレーションを持った状態では、多数のエネルギー的に等しい状態が縮重しているが、外部からある方向の磁場を加える等の外乱が与えられると、これらの状態のエネルギーに差異が生じ、この縮重状態は破れる。すると、この物質の磁気状態は、外部磁場等を与えない場合とは異なったものとなる。これを何らかの方法で検出する手段を設けることにより、この物質をスイッチあるいはメモリ等の電子機能材料として用いることが可能となる。量子的縮重状態を破るに必要な外部磁場の大きさは一般に極めて微弱なもので十分であるため、本発明に係る物質から作製される磁気デバイスは、非常に高感度なものとなりうる。
【0018】
本発明に係る物質は、第5図に示すように、元素Rのイオン半径が比較的大きい場合(Pr、Nd、Sm、Eu)は温度が下がるにつれ電気抵抗率が低下する金属伝導特性を示す。従って、Rとしてこれらの希土類元素(一般的には、Y(39)を除き、Eu(63)よりも小さい原子番号を持つLa, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu)を用いた場合には、本発明に係る物質は金属性の物質となり、電子機能材料あるいは蓄熱材料としての応用の可能性を大きく拓く。
【0019】
また、イオン半径が比較的小さい場合(第5図ではGd、Tb、Ho、Yb、Y。一般的にはYおよびGd(64)よりも大きい原子番号を持つGd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)は低温で電気抵抗率が上昇する非金属伝導特性を示すが、それでも電気抵抗率の絶対値は金属に近い値を示し、良導電性物質に分類される。
【0020】
本発明に係る物質では電気伝導は主にイリジウム4価イオンIr4+が担っているが、金属・非金属の間の転移は、小さなR3+イオンによる結晶格子の歪みによって伝導バンド幅が減少した結果、電子相関効果によってエネルギーギャップが開いたものとして説明することができる。
【0021】
本発明に係る希土類元素Rを用いた物質群の合成方法は以下のとおりである。酸化物の原料RnOm(n, mは整数)とIrO2とをRとIrのモル数が等しくなるように計量・混合し、空気中で700℃から1100℃(望ましくは800℃から950℃)の温度で4日間程度反応させる。この間、2日間おきに取り出して、よく混合することが重要である。IrO2は昇華しやすいため、反応前、あるいは反応の途中で補充することが、より純粋な物質の合成には望ましい。
【0022】
本発明に係る物質(酸化物)は、粉末あるいはその焼結体の状態でも上記のような良導電性・良伝熱性の磁気制御性電子機能材料として使用することが可能であるが、浮遊帯域法等による単結晶育成も可能であり、その場合には、それらの特性がより強く現れ、強力な制御磁性材料あるいは電子機能材料として使用することが可能になると予想される。また、薄膜化による応用範囲の拡大も期待できる。
【0023】
以上のように本発明では、希土類元素Rと遷移金属Irからなるパイロクロア構造の酸化物R2Ir2O7を用いて、制御性の高い幾何学的フラストレーションを持った磁気状態と金属又は非金属良導電性を合わせもつ量子状態を実現し、僅かの外部磁場等の印加による磁性状態の大きな制御性を利用した磁気スイッチング素子、磁気記憶素子等への応用が考えられる。また、局所的に存在する内部磁場によって外部磁場の印加を必要としない異常ホール効果等の量子現象を利用した電子機能材料としての応用も可能である。さらに、内部磁場を伴う超伝導物質の開発と応用が期待できる。
【0024】
さらに、本発明に係るイリジウム系パイロクロア構造の酸化物R2Ir2O7は低温での比較的広い温度範囲にわたって大きな熱容量をもつ。そして、一部の物質は金属であるため、高い伝熱性も備えている。これらの両特性より、本発明に係る金属性物質及びそれらを主成分とする材料は、極低温冷凍機等に必要な蓄熱材料への応用も考えられる。
【図面の簡単な説明】
第1図 パイロクロア構造の原子・イオン配置図。
第2図 本発明に係るR2Ir2O7パイロクロア構造酸化物の、酸素O及び希土類元素Rのイオンにより構成される正四面体構造を抜き出した図(a)、及び、Ir及び残りの酸素Oで構成される八面体構造を抜き出した図(b)。
第3図 本発明に係るR2Ir2O7パイロクロア構造酸化物の原子・イオン配置図。
第4図 本発明に係るパイロクロア構造物質の一種であるPr2Ir2O7の温度-比熱グラフ。
第5図 本発明に係るパイロクロア構造を有する各種Ir酸化物の温度-電気伝導率グラフ。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4