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明細書 :抗体を提示するタンパク質中空ナノ粒子を用いる治療薬剤およびタンパク質中空ナノ粒子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4212921号 (P4212921)
公開番号 特開2004-002313 (P2004-002313A)
登録日 平成20年11月7日(2008.11.7)
発行日 平成21年1月21日(2009.1.21)
公開日 平成16年1月8日(2004.1.8)
発明の名称または考案の名称 抗体を提示するタンパク質中空ナノ粒子を用いる治療薬剤およびタンパク質中空ナノ粒子
国際特許分類 A61K  39/395       (2006.01)
A61K   9/51        (2006.01)
A61K  39/29        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C07K  14/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 39/395 A
A61K 39/395 D
A61K 39/395 E
A61K 9/51
A61K 39/29
A61P 35/00
C07K 14/02 ZNA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 14
全頁数 41
出願番号 特願2003-045088 (P2003-045088)
出願日 平成15年2月21日(2003.2.21)
優先権出願番号 2002097424
優先日 平成14年3月29日(2002.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成17年2月10日(2005.2.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】黒田 俊一
【氏名】谷澤 克行
【氏名】近藤 昭彦
【氏名】上田 政和
【氏名】妹尾 昌治
【氏名】岡島 俊英
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】安居 拓哉
参考文献・文献 特開2001-316298(JP,A)
特表平10-503758(JP,A)
特表平08-504088(JP,A)
特開平08-099901(JP,A)
AHMAD, I. et al.,Cancer Research,1992年,Vol.52,pp.4817-4820
NAKAMURA, Y. et al.,Applied Microbiology and Biotechnology,2001年,Vol.57,pp.500-505
調査した分野 A61K 39/395
A61K 48/00
BIOSIS(STN)
CAplus(STN)
EMBASE(STN)
MEDLINE(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
特定の細胞または組織に対する抗体が提示され、粒子形成能を備えたタンパク質を有する中空ナノ粒子に、疾患治療用の細胞導入物質が包含されてなり、
上記粒子形成能を備えたタンパク質は、改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質であり、
上記改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、血清型yタイプであり、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変されており、
上記改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴とする薬剤。
【請求項2】
特定の細胞または組織に対する抗体が提示され、粒子形成能を備えたタンパク質を有する中空ナノ粒子に、疾患治療用の細胞導入物質が包含されてなり、
上記粒子形成能を備えたタンパク質は、改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質であり、
上記改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、血清型dタイプであり、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変されており、
上記改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から61番目~164番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴とする薬剤。
【請求項3】
上記抗体は、癌特異的抗体または抗ウィルス性タンパク質抗体であることを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
上記抗体は、上記粒子形成能を備えたタンパク質に融合したZZタグとの結合により粒子表面に提示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
上記抗体は、ビオチン修飾され、上記粒子形成能を備えたタンパク質に融合したストレプトタグと結合したストレプトアビジンまたはその誘導体と、上記ビオチンとの結合により粒子表面に提示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
上記抗体は、上記粒子形成能を備えたタンパク質に融合した一本鎖抗体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
上記粒子形成能を備えたタンパク質を有する中空ナノ粒子は、真核細胞で発現させることにより得られることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
上記真核細胞は、酵母、昆虫細胞または動物細胞のいずれかであることを特徴とする請求項記載の薬剤。
【請求項9】
上記改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、preS領域のアミノ酸の一部を欠失するように改変されていることを特徴とする請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項10】
上記細胞導入物質は、遺伝子であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項11】
上記遺伝子は、単純ヘルペスウィルス由来チミジンキナーゼ(HSV1 tk)遺伝子であることを特徴とする請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
静脈注射により人体に投与されることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項13】
粒子形成能を備え、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変された血清型yタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を有し、
上記改変された血清型yタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴とする中空ナノ粒子。
【請求項14】
粒子形成能を備え、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変された血清型dタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を有し、
上記改変された血清型dタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から61番目~164番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴とする中空ナノ粒子。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗体を提示するタンパク質中空ナノ粒子を用いる治療薬剤およびタンパク質中空ナノ粒子に関し、より詳細には、特定の細胞または組織に対する抗体などの生体認識分子が粒子表面に提示される一方、粒子内部には疾患治療用の細胞導入物質が包含されており、この細胞導入物質を特定細胞または組織内に特異的に導入可能な薬剤およびその薬剤に好適に利用できる粒子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、医学の分野において、患部に直接作用し、高い効果を示す副作用の少ない薬品の開発が盛んに行われている。特に、ドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる方法は、目的細胞、あるいは、目的組織に対して特異的に薬剤等の有効成分を運搬し、目的箇所で有効成分を作用させることのできる方法として注目されている。
【0003】
また、最近の分子細胞生物学の分野においても特定細胞への遺伝子導入は必要不可欠な技術として盛んに研究されている。さらに、ヒトゲノム計画の進展により各種疾患の遺伝的な背景が明らかになりつつある現在、このような細胞および組織に対する特異性の高い遺伝子導入法が確立されれば遺伝子治療の分野での応用も可能となる。
【0004】
細胞に遺伝子を導入する方法としては、これまでに、遺伝子を巨大分子化してエンドサイトーシスによって遺伝子を取込ませる方法(リン酸カルシウム法、リポフェクタミン法)や、電気パルス刺激により細胞膜に穿孔を開け、遺伝子を流入させる方法(エレクトロポレーション法、遺伝子銃法)が知られており、いずれも今日では分子生物学的実験において、一般的に実施されている手法である。
【0005】
これらの方法は簡便であるが、細胞を直接、物理的に傷つけ、遺伝子導入部位を外科的に露出させる必要があるため、生体内部の細胞や組織には容易に適用できない。また、100%近い導入率を得ることは難しい。
【0006】
一方、安全性の高い物質導入方法としてはリポソーム法が知られている。この方法は、細胞を傷つけることがないため、生体内部の細胞や組織にも適用することが可能である。しかし、単純な脂質であるリポソームに高度な細胞および組織特異性を付与することは困難であり、さらに、in vivoでの遺伝子導入率は、要求される値に比べてはるかに低いという問題がある。
【0007】
最近になって、ウィルスDNAに目的の遺伝子を組み込み、感染性ウィルスを生成して遺伝子導入を行う技術が開発された。この方法は導入部位を露出する必要がなく、個体にも応用でき、導入効率も100%近い画期的な方法として注目されるが、ウィルスが広範囲の細胞に非特異的に感染するため目的の細胞以外にも遺伝子が導入されてしまうという重大な問題がある。また、ウィルスゲノム本体が染色体に組み込まれ、将来予期できぬ副作用を引き起こす可能性があるため、実際には疾病の初期治療等には用いられず、末期の患者に適用されるに留まっているのが現状である。
【0008】
このように、従来の遺伝子導入方法は、いずれも、目的の細胞に対して特異的に遺伝子を送り込み、細胞内で薬剤となるタンパク質を発現させる方法としては不十分なものであった。他方、薬剤となるタンパク質を直接的に目的細胞、あるいは、目的組織に送り込む方法については、未だ有効な方法が開発されていない状況にある。
【0009】
【特許文献1】
国際出願番号WO01/64930(出願日2001年2月9日)
【0010】
【特許文献2】
特開2001-316298(公開日2001年11月13日)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような状況に鑑み、本発明者らは、国際出願番号WO01/64930の国際出願(以下、「国際出願WO01/64930」という、(特許文献1))および特許文献2において、粒子形成能を有するタンパク質に生体認識分子が導入された中空ナノ粒子を用いて、目的とする細胞や組織に、物質(遺伝子、タンパク質、化合物等)を特異的かつ安全に運搬、導入するための方法を提案しているが、この方法を用いた特定細胞または組織に対する疾患(例えば癌)治療用の薬剤の開発等がさらなる課題となっていた。とりわけ、特定の癌細胞または癌組織などに対する特異的抗体を提示する薬剤の開発は以下のような問題を克服する上からも重要な課題の1つとなっていた。
【0012】
従来、薬剤となるタンパク質を、目的とする細胞や組織に特異的かつ安全に運搬、導入することが困難であったため、このようなタンパク質薬剤を用いた治療は患者に大きな負担を与えていた。
【0013】
例えば、ウィルス性肝炎(特にC型肝炎)の治療には、静脈注射により、タンパク質薬剤であるインターフェロンを長期間全身投与する方法をとっている。この方法は、高い治療効果が認められるものの、患部以外にもインターフェロンが作用するため、投与のたびに高熱、脱毛、虚脱感、免疫反応などの副作用がおきるという問題を有している。
【0014】
また、肝細胞成長因子は肝硬変治療に有効であることが分かっているが、静脈注射で全身投与すると、予測できない副作用が起こる可能性があるので、カテーテルにより肝臓に直接投与する方法を採用している。しかし、カテーテルによる投与のためには、手術が必要であり、長期間の治療では患者に負担がかかっていた。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、抗体などの生体認識分子を提示するタンパク質中空ナノ粒子を用いた目的の細胞や組織に特異的に作用する治療薬剤であって、動物実験により実際に治療効果が認められた薬剤、およびこの薬剤を用いた治療方法、さらにはこれらに用いる中空ナノ粒子を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、抗体を提示するタンパク質中空ナノ粒子を複数作製することに成功し、さらに、このうちヒト扁平上皮癌細胞に対する特異的な抗体を提示する中空ナノ粒子に癌治療遺伝子を包含させた薬剤を、実験動物に対して静脈注射により投与したところ、実際に移植癌を治療する効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、本発明に係る薬剤は、特定の細胞または組織に対する抗体が提示され、粒子形成能を有するタンパク質からなる中空ナノ粒子に、疾患治療用の細胞導入物質が包含されてなる薬剤である。
【0018】
上記「粒子形成能を有するタンパク質」としては、たとえば本来の肝細胞に対する感染能を欠失するように改変され、さらに抗体を提示するように改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を挙げることができる。このタンパク質は、真核細胞で発現させると、小胞体膜上に膜タンパク質として発現、蓄積され、粒子として放出される。こうして得られた中空ナノ粒子は、粒子表面に抗体が提示されているので、特定の細胞または組織に対して特異的に粒子内の物質を運搬することができる。ここで、「特定の細胞または組織」とは、上記抗体に対する抗原を細胞表面に有しているため、抗体と抗原との結合を介して、上記中空ナノ粒子内の物質が細胞内に導入され得る細胞、またはこのような細胞から構成されることで同物質が組織内に導入され得る組織をいう。
【0019】
B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質のpreS領域(preS1,preS2)は、HBVが肝細胞に結合する際に、それぞれ重要な役割を果たしている。したがって、preS領域のアミノ酸の一部を欠失するように改変すれば、本来の肝細胞に対する感染能を欠失するように改変することができる。これにより、肝細胞以外の細胞や臓器へも、その内部の物質を導入することができる。
【0020】
preS領域のアミノ酸の一部を欠失させて肝細胞に対する感染能を欠失するように改変する場合、欠失させるアミノ酸領域によって、真核細胞での改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質の発現量が異なる。このタンパク質の真核細胞での発現量は、抗体を提示するように改変した場合に、特に、低下する傾向にある。
【0021】
したがって、後述の実施例に示すように、真核細胞での発現量を多くするためには、preS領域(preS1preS2領域)の全アミノ酸配列のうち、血清型yタイプの場合は、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変することが好ましく、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変することがより好ましい。一方、血清型dタイプの場合は、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変することが好ましく、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から61番目~164番目のアミノ酸を欠失するように改変することがより好ましい。
【0022】
これにより、肝細胞に対する感染能を欠失し、さらに抗体を提示するように改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質が、真核細胞で大量に発現する。その結果、このタンパク質内の物質が特定の細胞または組織により多く運ばれるので、その物質による治療効果を飛躍的に上昇させることができる。
【0023】
上記抗体としては、癌特異的抗体または抗ウィルス性タンパク質抗体が挙げられる。例えば、癌特異的抗体を提示した中空ナノ粒子に、癌を治療するための物質(薬剤)を包含させることにより、癌細胞に対して特異的かつ効果的に作用する有効な治療薬となる。他方、抗ウイルス性タンパク質抗体を提示させた場合は、ウィルス感染細胞の除去に有効である。
【0024】
上記抗体としては、一本鎖抗体と二本鎖抗体とが挙げられる。二本鎖抗体は、その構造に起因して粒子形成能を有するタンパク質と直接融合したかたちで粒子表面に提示させることが困難である。そこで、本発明者らは、この二本鎖抗体を上記タンパク質に間接的に結合させることにより、中空ナノ粒子の表面に提示させることに成功した。具体的には、上記タンパク質に、上記二本鎖抗体の持つFc部位と特異的に結合するZZタグを導入(融合)し、このZZタグと上記Fc部位とを結合させることにより、二本鎖抗体を粒子表面に提示させることができる。また、上記タンパク質に、ストレプトアビジン(またはその誘導体)と特異的に結合するストレプトタグを導入(融合)し、このストレプトタグとストレプトアビジン(またはその誘導体)とを結合させ、さらに、ストレプトアビジン(またはその誘導体)と特異的に結合するビオチンで修飾した二本鎖抗体を結合させることにより、抗体を粒子表面に提示させることができる。他方、一本鎖抗体は、上記タンパク質と直接融合したかたちで発現させることにより、粒子表面に提示させることができる。
【0025】
抗体を粒子表面に提示させる方法としては、上記各方法以外に、一般的な化学修飾による抗体と粒子との結合法も可能である。
【0026】
また、上記タンパク質からなる中空ナノ粒子は、真核細胞で発現させることにより得られるものであることが好ましく、この真核細胞には、酵母、昆虫細胞、または哺乳動物等の動物細胞が挙げられる。
【0027】
上記中空ナノ粒子内に包含させる細胞導入物質としては、たとえば癌治療用の遺伝子を挙げることができる。癌治療用遺伝子として、単純ヘルペスウィルス由来チミジンキナーゼ(HSV1 tk)遺伝子を包含した薬剤を用いる場合は、後述の実施例に示すとおり、別途ガンシクロビルを投与する。
【0028】
本発明の薬剤は、静脈注射という簡便な方法で特定の細胞および組織における疾患を効果的に治療することができ、従来の疾患の治療方法と大きく異なり、多量の薬剤の投与あるいは遺伝子治療等における外科手術を必要とせず、副作用の心配も極めて低く、そのまま臨床応用可能なものである。
【0029】
本発明の治療方法は、本発明の薬剤を投与することによる疾患の治療方法である。
【0030】
本発明の中空ナノ粒子は、粒子形成能を有し、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変された血清型yタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質からなることを特徴とし、好ましくは、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴としている。
【0031】
本発明の別の中空ナノ粒子は、粒子形成能を有し、かつ、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変された血清型dタイプのB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質からなることを特徴とし、好ましくは、さらに、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から61番目~164番目のアミノ酸を欠失するように改変されていることを特徴としている。
【0032】
このような中空ナノ粒子は、真核細胞において特に発現量が多く、生体認識分子提示に適しており、例えば、遺伝子治療やDDSなどに用いる中空バイオナノ粒子として利用することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明の薬剤を構成する中空ナノ粒子は、生体認識分子(換言すれば、特定の細胞を認識する分子)として粒子表面に抗体が提示され、粒子内部に疾患治療用の細胞導入物質が包含されることによって、目的細胞あるいは目的組織に特異的に物質を運搬することができる。上記中空ナノ粒子は、粒子形成能を有するタンパク質から形成することができ、このような粒子形成能を有するタンパク質としては、種々のウィルスから得られるサブウィルス粒子を適用することができる。具体的には、B型肝炎ウィルス(Hepatitis B Virus:HBV)表面抗原タンパク質等が例示される。
【0034】
また、このような粒子形成能を有するタンパク質からなるタンパク質粒子としては、真核細胞でタンパク質を発現させることにより得られるものが挙げられる。つまり、真核細胞で粒子形成能を有するタンパク質を発現させると、同タンパク質は、小胞体膜上に膜タンパク質として発現、蓄積され、粒子として放出されるのである。このとき、真核細胞としては、酵母、昆虫細胞、または哺乳細胞等の動物細胞などが適用できる。
【0035】
本発明者らは、後述の実施例に示すとおり、遺伝子組換え酵母で上記HBV表面抗原Lタンパク質を発現させることにより、発現されたHBV表面抗原Lタンパク質から酵母由来の脂質二重膜に多数の同タンパク質が埋め込まれた短径約20nm、長径約150nmの楕円状中空粒子が形成されることを見出し、報告している(J. Biol. Chem., Vol.267, No.3, 1953-1961, 1992)。このような粒子は、HBVゲノムを全く含まないので、ウィルスとしては機能せず、人体への安全性が極めて高い。また、上記HBV表面抗原Lタンパク質を、本来の肝細胞に対する感染能を欠失するように改変し、さらに抗体(たとえば癌特異的抗体)を粒子表面に提示するように改変して発現させた場合は、抗体を粒子表面に提示しているため、その抗体に対する抗原を細胞表面に有する細胞または組織(癌特異的抗体を提示させた場合は、癌細胞または癌組織)に対して特異的に物質を運搬する運搬体としての効果も高いのである。
【0036】
HBV表面抗原Lタンパク質のpreS領域(preS1,preS2)は、HBVが肝細胞に結合する際に、それぞれ重要な役割を果たしている(図1参照)。したがって、preS領域のアミノ酸の一部を欠失するように改変すれば、本来の肝細胞に対する感染能を欠失するように改変することができる。ここで、「preS領域のアミノ酸の一部を欠失」とは、preS1領域のアミノ酸の一部、preS2領域のアミノ酸の一部、または両方の領域のアミノ酸の一部を欠失させることを意味する。例えば、ヒト肝細胞認識部位として知られているpreS領域(より詳細にはpreS1領域)のN末端から3番目~66番目(血清型yタイプ)または4番目~77番目(血清型dタイプ)のアミノ酸を欠失させることによって、肝細胞に対する感染能を欠失することができる。
【0037】
preS領域のアミノ酸の少なくとも一部を欠失させて肝細胞に対する感染能を欠失するように改変する場合、欠失させるアミノ酸領域によって、真核細胞での改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質の発現量が異なる。このタンパク質の真核細胞での発現量は、抗体を提示するように改変した場合に、特に、低下する傾向にある。
【0038】
そこで、後述の実施例に示すように、preS領域のアミノ酸をドメイン単位で欠失させることによって、改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を真核細胞で大量に発現させることができる。具体的には、前述のようにヒト肝細胞認識部位として知られているpreS1領域のN末端から3番目~66番目(血清型yタイプ)または4番目~77番目(血清型dタイプ)のアミノ酸を欠失させることによって、真核細胞での発現量を多くすることができる。なお、血清型yタイプの場合は、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変、血清型dタイプの場合は、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変すればよい。
【0039】
さらに、発現量を多くするには、preS1領域中の上記ヒト肝細胞認識部位の一部のアミノ酸に加えて、preS2領域のアミノ酸の一部を欠失させることが好ましい。
【0040】
より詳細には、preS領域(preS1およびpreS2領域)の全アミノ酸配列のうち、血清型yタイプの場合は、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変することが好ましく、さらに、少なくともN末端から1番目~20番目のアミノ酸残基を保持するように改変することがより好ましい。例えば、血清型yタイプの場合、後述の実施例に示すように、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から153番目のアミノ酸からドメイン単位でアミノ酸を欠失させた、50番目~153番目、33番目~153番目、および21番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変することがより好ましく、このうち50番目~153番目のアミノ酸を欠失するように改変することが特に好ましい。なお、アミノ酸を欠失させる範囲は、これに限定されるものではない。
【0041】
一方、血清型dタイプの場合は、preS領域(preS1およびpreS2領域)の全アミノ酸配列のうち、pre-S領域の全アミノ酸配列のうち、N末端から61番目~164番目のアミノ酸を欠失するように改変することが好ましく、さらに、少なくともN末端から12番目~31番目のアミノ酸残基を保持するように改変することがより好ましい。
【0042】
このようにして、肝細胞に対する感染能を欠失し、さらに抗体を提示するように改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質は、真核細胞で大量に発現するので生産性において非常に有利である。その結果、このタンパク質内の物質が特定の細胞または組織により多く運ばれるので、その物質による治療効果を飛躍的に上昇させることができる。
【0043】
このように遺伝子組換え酵母を用いてタンパク質粒子を形成する方法は、菌体内の可溶性タンパク質から高効率で粒子が生産される点で好適である。
【0044】
一方、昆虫細胞は、遺伝子組換え酵母よりも高等動物に近い真核細胞であるといえ、酵母では再現しきれない糖鎖等の高次構造をも再現できる点で異種タンパク質の大量生産において好ましい方法といえる。従来の昆虫細胞の系はバキュロウイルスを用いた系で、ウイルス発現を伴うものであったために、タンパク質発現に際して細胞が死滅したり溶解したりした。その結果、タンパク質発現を連続的に行ったり、死滅細胞から遊離したプロテアーゼによりタンパク質が分解したりするという問題があった。また、タンパク質を分泌発現させる場合には、培地中に含まれる大量の牛胎仔血清が混入することで、折角培地中に分泌されても精製が困難であった。しかし、最近になって、バキュロウイルスを介さない昆虫細胞系で、無血清培養可能なものがInvitrogen社により開発され、市販されている。従って、このような昆虫細胞を用いれば、精製が容易で高次構造をも再現されたタンパク質粒子が得られる。
【0045】
本発明のタンパク質中空ナノ粒子では、以上のような種々の方法によって得られた粒子表面に抗体を提示し、種々の物質(DNA、RNA、タンパク質、ぺプチド、および薬剤等)を粒子内に導入することにより、その抗体に対応する抗原を細胞表面に有する細胞に極めて高い特異性で物質を運搬、導入することが可能となる。
【0046】
もちろん、粒子形性能を有するタンパク質は、上記の改変されたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質に限られるものではなく、動物細胞、植物細胞、ウィルス、菌類等に由来する天然タンパク質や、種々の合成タンパク質等が考慮される。また、例えばウィルス由来の抗原タンパク質等が生体内において抗体を惹起する可能性がある場合などは、改変して抗原性を減少させたものを粒子形成能を有するタンパク質として用いてもよい。例えば、粒子形成能を有するタンパク質としては、国際出願WO01/64930に開示される抗原性を減少させたB型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質であってもよいし、同国際出願に開示される他の改変型タンパク質(B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を、遺伝子操作技術を用いて改変したタンパク質)であってもよい。
【0047】
上記の粒子表面に提示する抗体としては、特定の細胞表面に存在する分子を抗原として認識するものであれば特に限定されるものではなく、たとえば特定の癌細胞表面に存在する分子を抗原として認識する癌特異的抗体、特定の細胞表面に存在する成長因子受容体やサイトカイン受容体などのレセプターを抗原として特異的に認識する抗体、その他の細胞表面抗原、組織特異的抗原等に対する抗体などが例示される。より具体的には、後述の実施例において使用した各抗体のほかに、抗ウィルス性タンパク質抗体などが挙げられる。このうち、どの抗体を提示させるかは、目的とする細胞あるいは組織に応じて適宜選択すればよい。
【0048】
本発明では、以上のとおりのタンパク質中空ナノ粒子に、目的の細胞あるいは組織に導入したい物質(細胞導入物質)を内包させることによって、細胞特異性を有する物質運搬体(薬剤)が得られる。この物質運搬体に内包される細胞導入物質とは、例えばDNA、RNAなどの遺伝子、天然あるいは合成タンパク質、オリゴヌクレオチド、ぺプチド、薬剤、天然あるいは合成化合物など、どのようなものであってもよい。
【0049】
具体的には、既に発明者らにより報告されたヒトRNase1(Jinno H, Ueda M, Ozawa S, Ikeda T, Enomoto K, Psarras K, Kitajima M, Yamada H, Seno M Life Sci. 1996;58(21):1901-8)またはRNase3(別名ECP:eosinophil cationic protein ;Mallorqui-Fernandez G, Pous J, Peracaula R, Aymami J, Maeda T, Tada H, Yamada H, Seno M, de Llorens R, Gomis-Ruth FX, Coll M; J Mol Biol. 2000 Jul 28;300(5):1297-307.)等が適用される。
【0050】
これらのタンパク質は、細胞内外で作用し細胞傷害活性を有するものであるが、これらのRNaseを本発明の物質運搬体(薬剤)に内包させて運搬することにより、細胞外では無毒化する一方、細胞内だけで作用させることができるので、より副作用の少ない新しい癌治療方法として期待される。
【0051】
なお、上記細胞導入物質として、ほかに下記表1に示すタンパク質あるいは当該タンパク質をコードする遺伝子が挙げられ、さらに、癌抑制遺伝子類(p53等)や、インターフェロン類、インターロイキン類、サイトカイン類、コロニー刺激因子類、腫瘍壊死因子類、トランスフォーミング増殖因子β類、血小板由来増殖因子類、エリスロポイエチン類、Fas抗原類などのタンパク質あるいは当該タンパク質をコードする遺伝子も挙げることができる。
【0052】
【表1】
JP0004212921B2_000002t.gifJP0004212921B2_000003t.gifJP0004212921B2_000004t.gif
【0053】
また、これらの細胞導入物質を上記の中空ナノ粒子に導入する方法としては、通常の化学的、分子生物学的実験手法で用いられる様々な方法が適用される。たとえば、エレクトロポレーション法、超音波法、単純拡散法、あるいは電荷を有する脂質を用いる方法等が好ましく例示される。
【0054】
そして、これらのタンパク質中空ナノ粒子、あるいは物質運搬体を用いて、in vivoあるいはin vitroで細胞、または組織に特異的に物質を導入することが可能となる。さらには、上記のRNaseを用いた例のように、以上のとおりのタンパク質中空ナノ粒子や物質運搬体を用いて、特定細胞または組織に物質を導入することを各種疾患の治療法あるいは治療法の1ステップとして行うことも可能になるのである。
【0055】
本発明に係る薬剤において、上記抗体を粒子表面に提示させる方法としては、後述の実施例に示すとおり、▲1▼粒子形成能を有するタンパク質に、二本鎖抗体の持つFc部位と特異的に結合するZZタグを導入し(換言すれば、粒子形成能を有するタンパク質とZZタグとを融合させたかたちで発現させて粒子を形成し)、このZZタグと上記Fc部位とを結合させることにより、二本鎖抗体を粒子表面に提示させる方法、▲2▼粒子形成能を有するタンパク質に、ストレプトアビジンと特異的に結合するストレプトタグを導入し(換言すれば、粒子形成能を有するタンパク質とストレプトタグとを融合させたかたちで発現させて粒子を形成し)、このストレプトタグとストレプトアビジン(またはその誘導体)とを結合させ、さらに、ストレプトアビジン(またはその誘導体)と特異的に結合するビオチンで修飾した二本鎖抗体を結合させることにより、抗体を粒子表面に提示させる方法、▲3▼粒子形成能を有するタンパク質と一本鎖抗体とを融合させたかたちで発現させて粒子を形成することにより、抗体を粒子表面に提示させる方法、あるいは、▲4▼一般的な架橋試薬(例えば、NHS(N-hydroxysuccinimide)基、Maleimide基、Imidoester基等を有する化合物。PIERCE社から入手可能)を使用して、化学的に抗体と粒子とを結合する方法などが挙げられ、さらに、これら各方法の原理を利用しつつ、その一部を変更した変更方法などを用いるものであってよい。
【0056】
本発明の薬剤による治療効果については、後述の実施例に示すとおり、動物実験により実際に確認された。この実施例では、ヒト扁平上皮癌由来の細胞を移植したヌードラットに対して、この癌細胞が発現する上皮成長因子受容体(EGF受容体)を抗原として認識する抗体を粒子表面に提示し、単純ヘルペスウィルス由来チミジンキナーゼ(HSV1 tk)遺伝子を包含した本発明の薬剤を投与し、さらにガンシクロビル(ganciclovir:GCV)を投与した後、移植した癌組織の大きさを観察することにより治療効果を確認した。薬剤の投与は静脈内投与により行ったが、投与方法としては、このほかに、経口投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与等が挙げられる。
【0057】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0058】
なお、実施例に示すように、欠失型HBV表面抗原Lタンパク質のpreS1領域にタンパク質を組込む技術、真核細胞での高発現に好適な欠失型HBV表面抗原Lタンパク質を作製する技術、この欠失型HBV表面抗原Lタンパク質に提示を目的として生体認識分子(抗体)を組込む技術、およびこれを用いた遺伝子治療やDDSに応用する技術については、全く知られておらず、本願発明者らが独自に開発した技術である。
【0059】
【実施例】
以下の実施例において、HBsAgとは、B型肝炎ウィルス表面抗原(Hepatitis B virus surface Antigen)を示す。HBsAgは、HBVの外被タンパク質であり、図1の摸式図に示すように、HBsAgには、Sタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の3種類がある。このうち、Sタンパク質は、3種のタンパク質に共通した、重要な外被タンパク質であり、Mタンパク質は、Sタンパク質のN末端側に55アミノ酸(pre-S2 peptide)が付加したものである。また、Lタンパク質は、Mタンパク質のN末端側に、108(血清型yタイプ)もしくは119(血清型dタイプ)アミノ酸(pre-S1 peptide)が付加したものである。なお、以下の実施例では、血清型yタイプを使用した。
【0060】
HBsAg Lタンパク質のPre-S領域(pre-S1, pre-S2)は、HBVが肝細胞に結合する際に、それぞれ重要な役割を担うことが知られている。Pre-S1は、肝細胞に直接結合する部位を持ち、pre-S2は、血中の重合アルブミンを介して肝細胞に結合する重合アルブミンレセプターを有するのである。
【0061】
真核細胞でHBsAgを発現させると、同タンパク質は、小胞体膜上に膜タンパク質として発現、蓄積される。HBsAgのLタンパク質は、分子間で凝集を起こし、小胞体膜を取り込みながら、出芽様式でルーメン側に粒子として放出される。
【0062】
以下の実施例では、HBsAgのLタンパク質を用いた。また、図2に以下の実施例に記載されるHBsAg粒子の発現および精製操作の概略説明図を示した。
【0063】
(実施例A) 遺伝子組換え酵母によるHBsAg粒子の発現
本発明者らによって報告されたJ.Biol.Chem., Vol.267, No.3, 1953-1961, 1992記載の方法に基づいて、pGLDLIIP39-RcTを保持した遺伝子組換え酵母(Saccharomyces Cerevisiae AH22R-株)を、合成培地High-Piおよび8S5N-P400中で培養し、HBsAg Lタンパク質粒子を発現させた。(図2a~c)定常成長期(約72時間後)にある遺伝子組換え酵母から、Yeast Protein Extraction Reagent(Pierce Chemical Co.製)を用いて、whole cell extractを準備し、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて分離して、銀染色によって試料中のHBsAgの同定を行った。
【0064】
これより、HBsAgは分子量約52kDaのタンパク質であることが明らかとなった。
【0065】
(実施例B) HBsAg粒子の遺伝子組換え酵母からの精製
(1)合成培地8S5N-P400で培養された遺伝子組換え酵母(湿重量26g)をbuffer A溶液(7.5M 尿素、0.1M リン酸ナトリウム、pH7.2、15mM EDTA、2mM PMSF、0.1% Tween80)100mlに懸濁し、グラスビーズを用いてビードビーター(BEAD-BEATER)にて酵母を破砕した。破砕後、上清を遠心分離により回収した。(図2d)
(2)次に、上清を0.75倍容の33%(w/w)PEG6000と混合し、30分間氷冷した。その後、遠心分離(7000rpm、30分間)を行い、ペレットを回収した。同ペレットは、Tween80を含まないbuffer A溶液中で再懸濁した。
【0066】
(3)再懸濁した液を、10~40%の勾配をかけたCsClに重層し、28000rpm、16時間の超遠心分離を行った。遠心分離後の試料を12画分に分け、ウェスタンブロット法(Western Blotting)(1次抗体は、anti-HBsAgモノクローナル抗体)によりHBsAgを含む画分を同定した。さらに、HBsAgを含む画分を、Tween80を含まないbuffer A溶液で透析した。
【0067】
(4)(3)で得られた透析液(12ml)を5~50%の勾配をかけたショ糖に重層し、28000rpm、16時間の超遠心分離を行った。遠心分離後、(3)と同様に、HBsAgを含む画分を同定し、HBsAgを含む画分を尿素とTween80は含まず、代わりに0.85%のNaClを含むbuffer A溶液で透析した。((2)~(4):図2e)
(5)(4)と同様の操作を繰り返し、透析後の試料をウルトラフィルター(Ultra Filter) Q2000(アドバンテック社製)を用いて濃縮し、使用する時まで4℃にて冷蔵保存した。(図2f)
CsCl平衡遠心分離後のウェスタンブロット(3)の結果から、HBsAgは、分子量52kDaでS抗原性を有するタンパク質であることが分かった。最終的に、培地2.5L由来、湿重量26gの菌体から、約24mgの精製HBsAg粒子を得た。
【0068】
一連の精製過程における画分を銀染色SDS-PAGEで解析した。また、精製により酵母由来のプロテアーゼが除去されていることを確認するために、(5)で得られたHBsAg粒子を37℃で12時間インキュベートした後、SDS-PAGEを行い、銀染色により同定を行った。
【0069】
その結果、酵母由来のプロテアーゼは、一連の精製過程において完全に除去されていることが確認された。
【0070】
ところで、上記HBsAg粒子はヒト肝細胞特異的に感染することができるが、その高い感染性を担う同粒子表面に提示されている肝細胞認識部位は、pre-S1領域の3から77アミノ酸残基に含まれていることが判明している(Le Seyec J, Chouteau P, Cannie I, Guguen-Guillouzo C, Gripon P., J. Virol. 1999, Mar; 73(3): 2052-7)。
【0071】
以下では、癌特異的抗体を粒子表面に提示させた本発明の薬剤の作製方法について説明するが、下記作製方法においては、その抗体の抗原となる分子を細胞表面に有する特定の癌細胞に対してのみ本発明の薬剤を作用させるため、上記HBsAg粒子の本来の肝細胞に対する高い感染能を欠失させた。また、本発明の薬剤として、▲1▼ストレプトタグを用いて癌特異的抗体を提示させたHBsAg粒子、▲2▼ZZタグを用いて癌特異的抗体を提示させたHBsAg粒子、および▲3▼癌特異的な一本鎖抗体をHBsAgタンパク質と融合させて発現させることにより、粒子表面に提示させたHBsAg粒子、をそれぞれ作製した。
【0072】
(実施例C) ストレプトタグを用いた癌特異的抗体を提示するHBsAg粒子の作製
(実施例C-1)酵母細胞によるHBsAg-streptag粒子の作製
実施例Aに記載されたpGLDLIIP39-RcTプラスミドのヒト肝細胞認識部位をコードする遺伝子領域を欠失させ、同時に制限酵素NotIサイト(gcggccgc)を挿入するために、配列番号1のオリゴヌクレオチドと配列番号2のオリゴヌクレオチドとをPCR用プライマーとして使用して、QuickChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene社)を用いたPCR法をpGLDLIIP39-RcTプラスミドに対して行った。
【0073】
具体的には、耐熱性DNAポリメラーゼとしてPfu DNA polymerase (Stratagene) を用い、PCRスケジュールは、95℃30秒間の変性、55℃1分間のアニーリング、68℃30分間の合成反応を30回繰り返した。その後、PCR産物を制限酵素DpnIで処理し、大腸菌DH5αに形質転換し、出現コロニーからベクターDNAを抽出し、塩基配列から変異導入されたpGLDLIIP39-RcTプラスミドを選抜した。以下、pGLDLIIP39-RcT-Nullプラスミドと呼ぶ。なお、図3以降の図面では、このプラスミドが持つ、上記ヒト肝細胞認識部位を欠くHBsAg Lタンパク質をコードする遺伝子領域を「Null」と表示している。以下では便宜上、この遺伝子領域を「Null領域」と呼ぶこととする。
【0074】
図3に示すように、上記pGLDLIIP39-RcT-Nullプラスミドに対し、SacIサイトおよびSalIサイトを付加するために、SacIサイトを付加した配列番号3のオリゴヌクレオチドとSalIサイトを付加した配列番号4のオリゴヌクレオチドとをPCR用プライマーとして使用して、PCRを行った。これにより、プロモーター(GLDp)およびターミネーター(PGKt)を含むNull領域を増幅させ、Null領域を含むcDNA断片を得た。
【0075】
次いで、pRS405+2μmプラスミド(汎用型酵母ベクター(Stratagene社)のAatIIサイトに酵母用多コピー型2μm複製部位を組み込むことにより作製)を制限酵素SacIおよびSalIにより消化した後、Null領域を含む上記cDNA断片を開裂したプラスミドpRS405+2μmに挿入して、pRS405+2μm-Nullプラスミドを作製した。
【0076】
次に、ストレプトタグ(strep-tag)をコードする合成オリゴヌクレオチド(配列番号5およびこれと相補的な配列番号6のオリゴヌクレオチド)をアニーリングさせ、上記pRS405+2μm-NullプラスミドをNotI消化したものに挿入して、ストレプトタグをコードする遺伝子領域を有するpRS405+2μm-strep-tagプラスミドを作製した。ここで、ストレプトタグとは、ストレプトアビジンに対してビオチンの様に高い親和性で結合するペプチドであり、N末から順に、1)SAWRHPQFGGあるいは2)WSHPQFEKの配列からなるものである。前者1)は、タンパク質のC末で機能するものであり、本実施例では、後者2)の配列のストレプトタグを用いた。
【0077】
その後、上記pRS405+2μm-strep-tagプラスミドにより酵母(Saccharomyces Cerevisiae AH22R-株)を形質転換させ、得られたトランスフォーマントを培養後、実施例Bに記載の方法に従って、培養細胞から改変型HBsAg粒子(上記ヒト肝細胞認識部位を欠くHBsAg Lタンパク質とストレプトタグとを融合させたかたちで発現させて得られた粒子。以下、「HBsAg-streptag粒子」という)を精製したところ、培地1.0L由来の菌体から、約200μgの精製HBsAg-streptag粒子を得た。
【0078】
(実施例C-2)無血清培養の昆虫細胞によるHBsAg-streptag粒子の作製
以下では、糖鎖等の高次構造の再現も可能な作製方法として、バキュロウィルスを介さず、無血清培養が可能な昆虫細胞系を用いたHBsAg-streptag粒子の作製方法について説明する。
【0079】
図4に示すように、実施例C-1に記載の上記pGLDLIIP39-RcT-Nullプラスミドから、配列番号7のオリゴヌクレオチド(KpnIサイトggtaccを有する)及び配列番号8のオリゴヌクレオチド(SacIIサイトccgcggを有する)の各プライマーを用いたPCRにより、ニワトリ由来リゾチーム分泌シグナルペプチドのコード領域を含む上記Null領域を増幅した。
【0080】
PCR産物をアガロース電気泳動で分離し、約1.3kbpの目的バンドの遺伝子断片を回収した後、昆虫細胞安定発現用ベクターpIZT/V5-His(Invitrogen社)のKpnIサイトとSacIIサイトとの間に、上記遺伝子断片をTaKaRa Ligation kit ver.2(TaKaRa社)を用いて、閉環結合させた。塩基配列を確認した後、このプラスミドをpIZT-Nullと命名した。
【0081】
次に、実施例C-1と同様に、streptagをコードした合成オリゴヌクレオチド(配列番号5およびこれと相補的な配列番号6のオリゴヌクレオチド)をアニーリングさせ、上記pIZT-NullプラスミドをNotI消化したものに挿入して、ストレプトタグをコードする領域を有するpIZT-streptagプラスミドを作製した。
【0082】
一方、昆虫細胞High Five株(BTI-TN-5B1-4:Invitrogen社)を、約1ヶ月かけて次第に牛胎仔血清入り培地から無血清培地(Ultimate Insect Serum-Free Medium:Invitrogen社)に馴化させた。次に、上記pIZT-streptagプラスミドを遺伝子導入用脂質Insectin-Plus(Invitrogen社)を用いて無血清培地に馴化させたHigh Five株に形質転換した。その後、無血清培地で27℃48時間培養し、抗生物質zeocin(Invitrogen社)を400 μg/mL含有する無血清培地で更に細胞がconfluentになるまで4~7日間培養し、HBsAg-streptag粒子を得た。
【0083】
1500×g、5分間遠心により培養上清を回収し、IMxキット(ダイナボット社)により、培地中のHBsAg-streptag粒子の発現測定したところ、HBsAg-streptag粒子が発現していることが確認された。さらに、上記培養上清から得たHBsAg-streptag粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体(発明者らが作製)によるWestern-blottingおよび酵素免疫測定IMxにより解析した。その結果、ストレプトタグが融合したHBsAg-streptag粒子は分子量約42kDaであった。
【0084】
以上のようにして得られた培養上清1Lを用いて、限外濾過器(使用フィルターはUK-200:ADVANTEC社、排除分子量200K)で濃縮した後、陰イオン交換カラム(DEAE-Toyopearl 650M、東洋ソーダ社)により精製したところ、均一なHBsAg-streptag粒子約1mgを精製することができた。
【0085】
(実施例C-3)動物細胞によるHBsAg-streptag粒子の作製
図5に示すように、制限酵素XhoIを用いて、上記pGLDLIIP39-RcT-NullプラスミドにおけるXhoIサイトでターミネーター(PGKt)を含むNull領域を含む断片を取り出した。次いで、pcDNA3.1(Invitrogen社)を制限酵素XhoIにより消化した後、上記断片をpcDNA3.1に挿入して、pcDNA3.1-Nullプラスミドを作製した。
【0086】
次に、実施例C-1と同様に、streptag遺伝子をコードする合成オリゴヌクレオチド(配列番号5およびこれと相補的な配列番号6のオリゴヌクレオチド)をアニーリングさせ、上記pcDNA3.1-NullプラスミドをNotI消化したものに挿入して、ストレプトタグのコード領域を有するpcDNA3.1-streptagプラスミドを作製した。
【0087】
上記pcDNA3.1-streptagプラスミドを、サル腎由来COS7細胞へ、遺伝子導入装置ジーンパルサー(バイオラッド社)を用いて導入した。導入後、10%子牛胎児血清を含むダルベッコ改変培地で一晩培養した後、培地を無血清培地CHO-SFMII(Gibco-BRL)に置き換えて、さらに1週間培養して、培地からHBsAg-streptag粒子を精製した。
【0088】
また、実施例C-2と同様に、培養上清から得たHBsAg-streptag粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体によるWestern-blottingおよび酵素免疫測定IMxにより解析した。その結果、ストレプトタグが融合されたHBsAg-streptag粒子は分子量約42kDaであることがわかった。IMxによる測定値は、pcDNA3.1ベクターを用いてHBsAg L粒子野生型を発現したもの:8.81(対カットオフ値)、HBsAg Null粒子:3.47、HBsAg-streptag粒子:2.41であり、それぞれ十分な生産量を示していた。
【0089】
(実施例C-4)ストレプトタグを有するHBsAg-streptag粒子に抗体を提示させる方法
上記実施例C-1~C-3では、ストレプトタグを有するHBsAg-streptag粒子を作製した。このストレプトタグは、ストレプトアビジンと特異的に結合する。さらに、このストレプトアビジンは、ビオチンと特異的に結合する。そこで、上記各HBsAg-streptag粒子とストレプトアビジンとを結合させ、その後、ストレプトアビジンとビオチン修飾した抗体とを結合させることにより、粒子表面に抗体が整列提示されたHBsAg-streptag粒子(以下、このように抗体が提示されたHBsAg-streptag粒子を「HBsAg-streptag-Ab粒子」という)を作製した。
【0090】
具体的には、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)に対する抗体である抗ヒトEGFRマウスモノクローナル抗体7G7B6(精製品)を抗体に使用し、この抗体に対して、NHS-ビオチン(Pierce社製EZ-Link(登録商標)NHS-Biotin)により、Pierce社の説明書のプロトコルに従ってビオチン標識した。次に、上記精製したHBsAg-streptag粒子と、アビジンタンパク質(Pierce社製ImmunoPure Avidin)とを、PBS中常温で30分間、モル比HBsAg-streptag粒子(モル計算は構成分子単位で行った)2:アビジンタンパク質1で混合結合させた。その後、上記のビオチン標識した抗ヒトEGFRマウスモノクローナル抗体を、上記アビジンタンパク質が結合したHBsAg-streptag粒子に対して等モル加えてPBS中常温で30分間反応させた。これにより、粒子表面に上記抗体が提示されたHBsAg-streptag-Ab粒子を作製した。
【0091】
(実施例C-5)上記HBsAg-streptag-Ab粒子への遺伝子導入
まず、国際出願WO01/64930に開示される方法と同様に、上記HBsAg-streptag-Ab粒子と緑色蛍光タンパク質発現プラスミド(pEGFP-F(Clontech社))とを混合し、エレクトロポレーション法により、HBsAg-streptag-Ab粒子内にpEGFP-Fを封入した。これにより、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-streptag-Ab粒子を作製した。
【0092】
次に、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431(JCRB9009)および陰性対照としてヒト肝癌由来細胞NUE、ヒト大腸癌由来細胞WiDrを準備した。上記A431および陰性対照(NUE、WiDr)を、それぞれ3.5cmガラス底皿シャーレ上に培養し、上記のGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-streptag-Ab粒子を1μg混合し、4日間培養を継続した。その後、各細胞内でのGFPの発現の様子を共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察した。
【0093】
その結果、A431細胞ではGFPの蛍光が観察されたが、陰性対照(NUE細胞、WiDr)ではGFPの蛍光が観察されなかった。
【0094】
以上のように、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-streptag-Ab粒子を用いて、培養細胞レベルで、実際にA431細胞に対して極めて高い特異性と効率で遺伝子を導入し発現させることができた。これにより、上記HBsAg-streptag-Ab粒子に細胞を治療する細胞導入物質を包含させることにより、特定の細胞および組織における疾患を効果的に治療することができる可能性が示された。
【0095】
(実施例D) ZZタグを用いた抗体提示型HBsAg粒子の作製
(実施例D-1)酵母細胞によるHBsAg-ZZ粒子の作製
まず、図6に示すように、実施例C-1と同様にして、pRS405+2μm-Nullプラスミドを作製した。
【0096】
次いで、ZZタグ(ZZtag)をコードする遺伝子領域(図中、「ZZ」。以下、「ZZ領域」という)を有するプラスミド(Staphyrococcus aureus由来ProteinA遺伝子を基にZZ領域を挿入して作製)に対して、NotIサイトを付加した配列番号9および配列番号10の各オリゴヌクレオチドをPCR用プライマーとして使用してPCRを行い、ZZ領域を含む領域を増幅した。上記ZZタグとは、イムノグロブリンGのFc領域と結合する能力を有するアミノ酸配列と規定され、次の2回繰り返し配列からなる(ZZタグの配列:N末から、VDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK VDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK)。
【0097】
次いで、上記pRS405+2μm-Nullプラスミドを制限酵素NotIにより消化し、開裂した当該プラスミドに上記増幅断片を挿入して、pRS405+2μm-ZZプラスミドを作製した。
【0098】
実施例Aと同様に、上記プラスミド遺伝子pRS405+2μm-ZZを酵母S.cerevisiae AH22R‐にスフェロプラスト法により形質転換し、得られたトランスフォーマントを培地High-Pi3mlにて30度3日間、続いて、8S5N-P400 3mlにて30度3日間培養し、ZZタグを提示するHBsAg粒子を得た。
【0099】
その後、上記pRS405+2μm-ZZプラスミドにより酵母(Saccharomyces Cerevisiae AH22R-株)を形質転換させ、得られたトランスフォーマントを培養後、実施例Bに記載の方法に従って、培養細胞から改変型HBsAg粒子(上記ヒト肝細胞認識部位を欠くHBsAg Lタンパク質とZZタグとを融合させたかたちで発現させて得られた粒子。以下、「HBsAg-ZZtag粒子」という)を精製したところ、粒子の発現量は極めて高く、培地1.0L由来の菌体から、約20mgの精製HBsAg-ZZtag粒子を得た。
【0100】
さらに、培養上清から得たHBsAg-ZZtag粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体によるWestern-blottingおよび酵素免疫測定IMxにより解析した。図7にSDS-PAGEおよびWestern-blottingの結果を示す。また、IMxの結果は、pRS405+2μmベクターを用いてHBsAg L粒子野生型を発現したもの:49.43(対カットオフ値、100倍希釈時)、HBsAg-Null粒子:21.87、HBsAg-ZZtag粒子:253.64であり、それぞれ十分な生産量を示していた。これらの結果より、ZZタグを有するHBsAg-ZZtag粒子は分子量約56kDaであることがわかった。
【0101】
(実施例D-2)無血清培養の昆虫細胞によるHBsAg-ZZtag粒子の作製まず、図8に示すように、実施例C-2と同様の方法により、pIZT-Nullプラスミドを得た。
【0102】
次に、実施例D-1と同様の方法により、ZZ領域を含む領域を上記pIZT-Nullプラスミドに挿入して、pIZT-ZZプラスミドを作製した。
【0103】
次いで、実施例C-2と同様の方法により、上記pIZT-ZZプラスミドを昆虫細胞に導入して、HBsAg-ZZtag粒子を発現させた。
【0104】
また、上記昆虫細胞を培養後、培養上清を回収し、培養上清から得たHBsAg-ZZtag粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体(発明者らが作製、マウスポリクローナル抗体)によるWestern-blottingにより解析した。その結果、ZZタグを提示するHBsAg-ZZtag粒子は分子量約56kDaであることがわかった。
【0105】
また、C-2と同様の方法により培養上清1LからHBsAg-ZZtag粒子約1mgが得られた。
【0106】
(実施例D-3)動物細胞によるHBsAg-ZZtag粒子の作製
まず、図9に示すように、実施例C-3と同様の方法により、pcDNA3.1-Nullプラスミドを作製した。
【0107】
次に、実施例D-1と同様の方法により、ZZ領域を含む領域を上記pcDNA3.1-Nullプラスミドに挿入して、pcDNA3.1-ZZプラスミドを作製した。
【0108】
次いで、実施例C-3と同様の方法により、上記pcDNA3.1-ZZプラスミドをCOS7細胞に導入して、HBsAg-ZZtag粒子を発現させた。
また、上記COS7細胞を培養後、培養上清を回収し、培養上清から得たHBsAg-ZZptag粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体(発明者らが作製、マウスポリクローナル抗体)によるWestern-blottingおよび酵素免疫測定IMxにより解析した。IMxの結果は、pcDNA3.1ベクターを用いてHBsAg L粒子野生型を発現したもの:8.81(対カットオフ値)、HBsAg-Null粒子:3.47、HBsAg-ZZtag粒子:2.41であり、それぞれ非常に高い生産量を示していた。その結果、ZZタグを提示するHBsAg-ZZptag粒子は分子量約56kDaであることがわかった。
【0109】
(実施例D-4)上記HBsAg-ZZtag粒子に対する抗体の提示方法
上記ZZタグは、抗体分子のFc部分に対して高い親和性を有しており、たとえば、癌特異的抗体である、ヒトEGF受容体(EGFR)に対するマウスモノクローナル抗体7G7B6、ヒトIL-2受容体(Tac抗原)に対するマウスモノクローナル抗体528、およびヒト大腸癌に対する大腸癌特異的マウスモノクローナル抗体ST-421等と特異的に結合することができる。そこで、上記各HBsAg-ZZtag粒子とこれらいずれかの抗体とを結合させることにより、粒子表面に抗体が整列提示されたHBsAg-ZZtag粒子(以下、このように抗体が提示されたHBsAg-ZZtag粒子を「HBsAg-ZZtag-Ab粒子」という)を作製した。
【0110】
具体的には、上記HBsAg-ZZtag粒子と、抗ヒトEGFRマウスモノクローナル抗体7G7B6(精製品)とを等モル(モル計算は構成分子単位で行った)混合し、PBS中で約1時間反応させた。これにより粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を作製することができた。
【0111】
(実施例D-5)上記HBsAg-ZZtag-Ab粒子への遺伝子導入
まず、国際出願WO01/64930に開示される方法と同様に、HBsAg-ZZtag-Ab粒子と緑色蛍光タンパク質発現プラスミド(pEGFP-F(Clontech社))とを混合し、エレクトロポレーション法により、HBsAg-ZZtag-Ab粒子内にpEGFP-Fを封入した。これにより、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を作製した。
【0112】
次に、実施例C-5と同様に、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431および陰性対照として、ヒト肝癌由来細胞であるNUEとHuH-7(JCRB0403)、ヒト大腸癌由来細胞WiDr(ATCC CCL-218)を準備した。上記A431およびNUE、HuH-7、WiDrを、それぞれ3.5cmガラス底皿シャーレ上に培養し、上記GFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-ZZtag-Ab-GFP粒子を1μg混合し、4日間培養を継続した。その後、各細胞内でのGFPの発現の様子を共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察した。
【0113】
その結果、A431細胞ではGFPの蛍光が観察されたが、NUE細胞など他の細胞ではGFPの蛍光が観察されなかった。
【0114】
以上のように、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を用いて、培養細胞レベルで、実際にA431細胞に対して極めて高い特異性と効率で遺伝子を導入し発現できることが示された。
【0115】
さらに、ヌードマウス(系統:BALB/c nu/nu、微生物学的品質:SPF、性別:オス5週齢)の両側背部皮下に、ヒト腫瘍株(A431、HuH-7、WiDr)をそれぞれ1×107細胞皮下に注射し、移植腫瘍が直径2cm程度の固形癌になるまで2~4週間生育させて、担癌マウスを得た。
【0116】
次に、上記のGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を、マウス腹腔内に26G注射針を使用して投与した。投与後4日目にマウスを屠殺し、腫瘍部、肝臓、脾臓、腎臓、腸管を摘出し、GFP用樹脂包埋キット(Technovit7100)を用いて組織を固定・包埋した。
【0117】
具体的には、固定は4%中和ホルムアルデヒドに浸漬して行い、脱水は70%EtOHで室温2時間、96%EtOHで室温2時間、100%EtOHで室温1時間、予備浸漬は100%EtOH/Technovit7100等量混合液で室温2時間行った。その後、Technovit7100で室温24時間以内の浸漬を行い、取り出した後、室温で1時間および37℃で1時間静置して重合反応させた。
【0118】
常法に従って、切片を作製し、同時にヘマトキシンエオリン染色(一般的な組織染色)を行って、蛍光顕微鏡により各切片のGFPによる蛍光を比較した。その結果、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431においては、GFPによる蛍光が認められた。一方、同マウスより同時に摘出した肝臓、脾臓、腎臓、腸管においては蛍光を認められなかった。これに対して、他のヒト癌由来細胞(HuH-7、WiDr)による担癌マウスにおいては、腫瘍部においても肝臓、脾臓、腎臓、腸管においてもGFPに由来する蛍光は認められなかった。また、上記HBsAg-ZZtag-Ab粒子を投与しなかった担癌マウスにおいても蛍光を認めなかった。
【0119】
以上のように、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にGFP発現プラスミドが包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を用いて、実験動物レベルで、実際にA431細胞に対して極めて高い特異性と効率で遺伝子を導入し発現できることが示された。
【0120】
(実施例D-6)上記HBsAg-ZZtag-Ab粒子による治療効果
次に、上記各作製方法のうち酵母を用いて作製したHBsAg-ZZtag-Ab粒子内へ、癌治療用遺伝子として単純ヘルペスウィルス由来チミジンキナーゼ(HSV1 tk)遺伝子を封入し、HSV1 tk遺伝子が包含された本発明の薬剤としてのHBsAg-ZZtag-Ab粒子を製造した。
【0121】
上記HSV1 tk遺伝子が導入された癌細胞では、このHSV1 tk遺伝子が発現することによりガンシクロビル(ganciclovir:GCV)に対して感受性になり、ガンシクロビルが投与されると、強力な巻き添え効果を惹起しつつ、癌細胞は死滅する。このように、HSV1 tk遺伝子は、癌遺伝子治療に広く使用される遺伝子の1つである。
【0122】
本実施例では、HBsAg-ZZtag-Ab粒子内へHSV1 tk遺伝子を封入するため、HSV1 tk遺伝子を発現するInvivogen社製のベクターpGT65-hIFN-αを使用し、この発現ベクターをエレクトロポレーション法によりHBsAg-ZZtag-Ab粒子内に導入することによって、HSV1 tk遺伝子が包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を作製した。具体的には、HBsAg-ZZtag-Ab粒子中のLタンパク質粒子50μgに対し、上記発現ベクター10μg導入した。またこのとき、PBSバッファーを使用し、エレクトロポレーションの条件は、220V、950μFで4mmのキュベットを使用して行った。
【0123】
また、本実施例では、実験動物として日本クレアから購入したヌードラット(系統:F344/NJcl-rnu/rnu、性別:メス)を使用し、このヌードラットの両側背部皮下に、ヒト扁平上皮癌由来細胞A431、および陰性対照としてヒト大腸癌由来WiDr細胞をそれぞれ1×107細胞程度皮下注射により移植し、移植腫瘍が直径2~3cm程度の固形癌になるまで約3週間生育させて得た。
【0124】
その後、上記ヌードラットに、HSV1 tk遺伝子が包含された上記HBsAg-ZZtag-Ab粒子を10μg尾静脈より投与した(静脈注射した)。そして、静脈注射の5日後から、上記ヌードラットに対し、浸透圧ポンプ(alzet osmotic pump;Cat番号2ML2)を使用してガンシクロビル(GCV)を50mg/kg/dayの割合で投与した。上記浸透圧ポンプは、GCVを含む薬液とともに上記ヌードラットの背中皮下に移植した。このガンシクロビルの投与は、最大14日間行った。ガンシクロビル投与後、上記ヌードラットの腫瘍組織の状態(大きさ)を経時的に観察した。具体的には、ノギスで腫瘍部分の短径と長径とを測定し、腫瘍容積近似式(長径×短径×短径/2)を計算して行った。測定は、全てネズミ3連で行った。その結果を表2および図10に示す。
【0125】
【表2】
JP0004212921B2_000005t.gif
【0126】
以上の結果から、粒子表面に抗ヒトEGFR抗体が提示され、粒子内部にHSV1 tk遺伝子が包含されたHBsAg-ZZtag-Ab粒子を用いて、実験動物レベルで、実際にA431細胞に対して極めて高い特異性と効率で遺伝子を導入し発現でき、癌の治療効果を有することが認められた。
【0127】
(実施例E)一本鎖抗体を提示するHBsAg-scFv粒子の作製
(実施例E-1)酵母細胞によるHBsAg-scFv粒子の作製
まず、図6に示すように、実施例D-1と同様の方法により、但し同実施例で使用したZZ領域を有するプラスミドおよびPCR用プライマーに代えて、プラスミドには、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒト血清アルブミン抗体であるA22をコードする遺伝子領域を有するプラスミド(TOTO株式会社から分与)、あるいは、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒトRNase抗体である3A21をコードする遺伝子領域を有するプラスミド(Mol Immunol 1997 Aug-Sep;34(12-13):887-90 Katakura Y, Kumamoto T, Iwai Y, Kurokawa Y, Omasa T, Suga K.およびMol Immunol 1997 Jul;34(10):731-4 Katakura Y, Kumamoto T, Iwai Y, Kurokawa Y, Omasa T, Suga K.に記載の方法により作製)を使用し、PCR用プライマーには、NotIサイトを付加した配列番号11および配列番号12の各オリゴヌクレオチド(上記A22の場合)、あるいはNotIサイトを付加した配列番号13および配列番号14の各オリゴヌクレオチド(上記3A21の場合)を使用してPCRを行い、上記抗体A22または3A21をコードする遺伝子領域を含む領域を増幅した。上記一本鎖抗体(single chain antibody, scFv)とは、本来2本のポリペプチドで構成される抗体の抗原認識部位を一本のポリペプチド上で再構成した擬似抗体分子のことである。
【0128】
次に、上記PCRにより得られた増幅断片をpRS405+2μm-Nullプラスミドに挿入してpRS405+2μm-A22プラスミドあるいはpRS405+2μm-3A21プラスミドを作製した。そして、これらいずれかのプラスミドを酵母に導入して発現させることにより、一本鎖抗体A22あるいは3A21がHBsAg Lタンパク質と融合したかたちで発現され、粒子表面に提示された粒子(以下、このように一本鎖抗体A22あるいは3A21が提示された粒子を「HBsAg-scFv粒子」という)を得た。
【0129】
また、上記酵母を培養後、培養上清を回収し、培養上清から得たHBsAg-scFv粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体によるWestern-blottingおよび酵素免疫測定IMxにより解析した。図11にSDS-PAGEおよびWestern-blottingの結果を示す。IMxの結果は、pRS405+2μmベクターを用いてHBsAg L粒子野生型を発現したもの:49.43(対カットオフ値、100倍希釈時)、HBsAg-Null粒子:21.87、A22を提示するHBsAg-scFv粒子:2.41、3A21を提示するHBsAg-scFv粒子:4.02であり、それぞれ非常に高い生産量を示していた。これらの結果より、抗体A22を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであり、抗体3A21を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであることが明らかとなった。なお、実施例C-2と同様の方法により、それぞれ培地1.0L由来の菌体から、約200μgの精製HBsAg-scFv粒子を得た。
【0130】
(実施例E-2)無血清培養の昆虫細胞によるHBsAg—scFv粒子の作製まず、図8に示すように、実施例D-2と同様の方法により、但し同実施例で使用したZZ領域を有するプラスミドおよびPCR用プライマーに代えて、プラスミドには、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒト血清アルブミン抗体であるA22、あるいは、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒトRNase抗体である3A21をコードする遺伝子領域を有するプラスミドを使用し、PCR用プライマーには、NotIサイトを付加した配列番号11および配列番号12の各オリゴヌクレオチド(上記A22の場合)、あるいはNotIサイトを付加した配列番号13および配列番号14の各オリゴヌクレオチド(上記3A21の場合)を使用してPCRを行い、上記抗体A22または3A21をコードする遺伝子領域を含む領域を増幅した。
【0131】
次に、上記PCRにより得られた増幅断片をpRS405+2μm-Nullプラスミドに挿入してpIZT-A22プラスミドあるいはpIZT-3A21プラスミドを作製した。そして、これらいずれかのプラスミドを前記昆虫細胞に導入して発現させることにより、一本鎖抗体A22あるいは3A21を提示するHBsAg-scFv粒子を得た。
【0132】
また、上記昆虫細胞を培養後、培養上清を回収し、培養上清から得たHBsAg-scFv粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体によるWestern-blottingにより解析した。この結果より、A22を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであり、3A21を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであることがわかった。
【0133】
また、C-2と同様の方法により、それぞれ培養上清1LからHBsAg-scFv粒子約1mgが得られた。
【0134】
(実施例E-3)動物細胞によるHBsAg-scFv粒子の作製
まず、図9に示すように、実施例D-3と同様の方法により、但し同実施例で使用したZZ領域を有するプラスミドおよびPCR用プライマーに代えて、プラスミドには、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒト血清アルブミン抗体であるA22、あるいは、一本鎖抗体マウス由来の抗ヒトRNase抗体である3A21をコードする遺伝子領域を有するプラスミドを使用し、PCR用プライマーには、NotIサイトを付加した配列番号11および配列番号12の各オリゴヌクレオチド(上記A22の場合)、あるいはNotIサイトを付加した配列番号13および配列番号14の各オリゴヌクレオチド(上記3A21の場合)を使用してPCRを行い、上記抗体A22または3A21をコードする遺伝子領域を含む領域を増幅した。
【0135】
次に、上記PCRにより得られた増幅断片をpcDNA3.1-Nullプラスミドに挿入してpcDNA3.1-A22プラスミドあるいはpcDNA3.1-3A21プラスミドを作製した。そして、これらいずれかのプラスミドを前記COS7細胞に導入して発現させることにより、一本鎖抗体A22あるいは3A21を提示するHBsAg-scFv粒子を得た。
【0136】
また、上記COS7細胞を培養後、培養上清を回収し、培養上清から得たHBsAg-scFv粒子をSDS-PAGEにより分離し、抗S抗体によるWestern-blottingにより解析した。この結果より、A22を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであり、3A21を提示するHBsAg-scFv粒子は分子量約76kDaであることがわかった。
【0137】
(実施例E-4)上記HBsAg-scFv粒子への遺伝子導入
上記のように作製したHBsAg-scFv粒子のうち、抗体として上記A22を提示させたものに対してはヒト血清アルブミンを、一方、抗体として上記3A21を提示させたものに対してはヒトRNase1を、それぞれ96穴プレートに固定し、ELISA法により結合係数を測定した。この際、固相に結合したHBsAg-scFv粒子の量を、ダイナボット社のAUSZYME IIに付属しているHRP標識抗HBsAgポリクローナル抗体で定量した。その結果、HBsAg-scFv粒子単位ではなく、粒子の部品であるタンパク質単位で、HBsAg-scFv粒子(A22の場合)は100nM以下の結合定数、HBsAg-scFv粒子(3A21の場合)は50nM以下の結合係数をそれぞれ示した。これらの値は、両方のHBsAg-scFv粒子が生体内で特定の部位に薬剤等を運搬できる運搬体となり得るために有効な値である。
【0138】
このように、抗体として上記A22または3A21が粒子表面に提示されたHBsAg-scFv粒子は、実際にA431細胞に対して極めて高い特異性を有することが示された。
【0139】
(実施例F)
本実施例では、HBsAg Lタンパク質のヒト肝細胞認識部位であるpre-S領域(pre-S1, pre-S2)のアミノ酸を欠失した、種々の欠失型HBsAg Lタンパク質を発現させ、欠失させるアミノ酸領域の相違による、真核細胞での発現量の違いと抗原性とについて評価した。
【0140】
(実施例F-1)欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子の作成
以下の方法でPCRを行い、欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子を作成した。
【0141】
欠失型HBsAg Lタンパク質として、pre-S領域(pre-S1, pre-S2)の一部を欠失させた下記(a)~(e)に示す5種類の欠失型HBsAg Lタンパク質を発現する欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子を作成した。本実施例における欠失型HBsAg Lタンパク質は、具体的には、(a)pre-S領域のN末端から21番目~153番目のアミノ酸が欠失(図12においては、Δ21-153、以下同様)、(b)pre-S領域のN末端から33番目~153番目のアミノ酸が欠失(Δ33-153)、(c)pre-S領域のN末端から50番目~153番目のアミノ酸が欠失(Δ50-153)、(d)pre-S領域のN末端から108番目~153番目のアミノ酸が欠失(Δ108-153)、(e)pre-S領域のN末端から127番目~153番目のアミノ酸が欠失(Δ108-153)、しているものである。
【0142】
まず、(a)~(e)に相当する欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子を増幅するために、前述のようにして、PCR法をpBO477(発明者が作成したHbsAg Lタンパク質発現遺伝子組み込み済みプラスミド)に対して行った。PCR用のプライマーとしては、配列番号15~24に記載のオリゴヌクレオチドを使用した。なお、配列番号15~24に記載のオリゴヌクレオチドは、配列番号15および16が(a)の欠失型HBsAg L遺伝子を増幅するためのものであり、同様に、配列番号17および18が(b)、配列番号19および20が(c)、配列番号21および22が(d)、配列番号23および24が(e)の欠失型HBsAg L遺伝子を増幅するためのものである。また、配列番号15~24のプライマーのうち、奇数がフォワードプライマー、偶数がリバースプライマーである。
【0143】
PCRの反応組成は、図13に示すように、耐熱性DNAポリメラーゼとしてPyrobest DNA polymerase(TaKaRa)(0.5μL)、PCR緩衝液(5μL×10)、dNTP混合物(10mM、5μL)、Template DNA(pBO477(発明者が作成したHbsAg Lタンパク質発現遺伝子組み込み済みプラスミド))(5μg/mL、2μL)、プライマーセット(配列番号15~24)(各1μL)を含み、蒸留水で全量を50μLとした。
【0144】
また、PCRの反応サイクルは、図14に示すように、95℃30秒間の変性後、95℃30秒間の変性、55℃1分間のアニーリング、および68℃30分間の合成反応を30回繰り返した後、4℃に冷却して反応を終了した。その後、Template DNAを切断するために、PCR産物に制限酵素DpnI(10U)を加え、37℃で1時間のインキュベートの後、大腸菌JM109株に形質転換した。次に、出現コロニーからプラスミドを抽出し、塩基配列の確認を行った。
【0145】
続いて、欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子に制限酵素NotIサイトを導入した。図15は、このようにして増幅した欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子に制限酵素NotIサイトを導入した発現遺伝子および当該遺伝子を組込んだプラスミド、模式図である。同図において、0aaとは、欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子の先頭(5’末端)に制限酵素NotIサイトを、25aaとは、5’末端より25アミノ酸残基分後ろ(3’末端側)の位置にNotIサイトを、ΔPreSとはSタンパク質発現遺伝子の先頭(5’末端)に制限酵素NotIサイトを挿入したものである。
【0146】
このような、NotIサイトが挿入された欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子を、動物細胞発現用のプラスミドpBO477(発明者が作成したHBsAgLタンパク質発現遺伝子組み込み済みプラスミド)に、XhoIにより、HBsAg Lタンパク質発現遺伝子の組換えを行った。
【0147】
なお、図15以降の図面においては、例えば、Δ127-153とは、図12のHBsAg Lタンパク質発現遺伝子における、127番目~153番目までのアミノ酸をコードする遺伝子が欠失していることを示す(以下同様)。また、ΔpreSとは、pre-S領域(pre-S1, pre-S2)の全アミノ酸をコードする遺伝子が欠失していることを示す。
【0148】
(実施例F-2)動物細胞による欠失型HBsAg Lタンパク質の作製
実施例F-1で構築を終えたプラスミド(2μg)をCos7細胞(3~8×104個)
にエレクトロポレーション(300V、950μF)にて形質転換し、4日間37℃、5%CO2存在下で静置培養を行った。その後、培地上清及び細胞抽出液を酵素免疫測定装置IMx(ダイナボット)で変異型L粒子(欠失型HBsAg Lタンパク質)の生成量を抗原性に基づき測定した。培地上清の測定では、PBSにより等倍希釈したものを、細胞内は、Lysis buffer(20mM Tris-HCl,1mM EDTA,150mM NaCl,10mM 2-メルカプトエタノール,1%(v/v) TritonX-100)により、細胞を溶解させ、遠心の上澄みをPBSで200倍希釈することで測定を行った。
【0149】
図16および17に変異型L粒子の生成量を測定した結果(数値・グラフ)を示す。なお、図16および17において、S/N値およびRATEが大きいほど、抗原性が高いことを示している。つまり、Δ21-153、Δ33-153、Δ50-153、特に、Δ50-153の欠失型HBsAg Lタンパク質が良好な結果が得られた。
【0150】
また、図18および19に示すように、SDS-PAGE並びにウエスタンブロットによっても発現量を確認した。このときの1次抗体には、mouse anti-Sタンパク質抗体(発明者らが作成)を、2次抗体にはanti-mouseIgG抗体AP標識(Promega)を用いた。なお、図19は、N結合型糖鎖除去のための酵素処理(EndH)後のウエスタンブロットの結果であり、分子量を併せて記載している。また、EndH処理することにより、生成した変異型L粒子のPre-S領域にN結合型糖鎖が付加している事が判明した。また、図19におけるΔ51-66については、実施例F-1の方法にしたがって、配列番号25および26に記載のプライマーを用いて作製したプラスミドを用いた。
【0151】
以上の結果、特に、上記(a)~(c)の欠失型HBsAg Lタンパク質の発現量が良好な結果を示した。
【0152】
(実施例F-3)上皮増殖因子(EGF)を挿入した欠失型HBsAg Lタンパク質粒子の作製
次に、発現量が良好であった上記(a)から(c)の欠失型HBsAg Lタンパク質発現遺伝子(Δ21-153,Δ33-153,Δ50-153)にNotIサイトによりEGF遺伝子を挿入し、発現させた。EGF遺伝子は、発明者らが作製したpGLDLIIP39-RcT-EGFから制限酵素NotIを用いて切り出して得た。これらをCos7細胞に形質転換し、血清培地にて24hr培養の後、無血清培地に交換し、3日間培養を行った。それらの培地を回収し、限外ろ過により濃縮を行い、各変異型L粒子(上記(a)~(c)の欠失型HBsAg Lタンパク質)を得た。
【0153】
それぞれの粒子に緑色蛍光タンパク質発現プラスミド(pEGFP-F(Clontech社))を50V,750μFの条件でエレクトロポレーションし、粒子内部にGFP発現プラスミドを包含させ、肝細胞HepG2及び上皮細胞A431に遺伝子導入実験を試みた。GFPによる蛍光を観察した結果、肝細胞HepG2への特異性は消失し、上皮細胞A431に対して高い選択性を示した。このようにして、上皮細胞A431に対する再標的化に成功した。
【0154】
(実施例F-4)酵母細胞への形質転換による欠失型HBsAg Lタンパク質の作製
Cos7細胞で発現量が多かったΔ21-153,Δ33-153,Δ50-153(上記(a)~(c)のタンパク質)を発現する遺伝子をXhoIサイトにより切り出し、酵母発現用プラスミドpGLDLIIP39-RcTのXhoIサイトに挿入して構築した。(図20参照)。これらの酵母発現用プラスミドを、酵母S.cerevisiae AH22R-にスフェロプラスト法により形質転換し、形質転換体を得た。これらの形質転換体を工業用培地High-Pi3日間、8S5N-P400培地3日間培養を行い、菌体を回収した。菌体をガラスビーズにより破砕し、細胞抽出液を培養酵母酵素免疫測定装置IMx(ダイナボット)により抗原性を測定すると共に、SDS-PAGE並びにウエスタンブロット(1次抗体anti-Sタンパク質抗体、2次抗体AP標識anti-mouseIgG抗体使用)により発現量を確認した(図21~図22参照)。
【0155】
また、以前に用いているProteinAのZZドメイン遺伝子を提示するためのプラスミド、EGFを提示させるためのプラスミドもNotIサイトを用いて構築を行った(図20参照)。こうして、欠失型HBsAg Lタンパク質高発現酵母菌体内高発現用プラスミド(pGLDLIIP39-RcT-Δ50-153, pGLDLIIP39-RcT-Δ33-153, pGLDLIIP39-RcT-Δ21-153, pGLDLIIP39-RcT-Δ50-153-ZZ, pGLDLIIP39-RcT-Δ33-153-ZZ, pGLDLIIP39-RcT-Δ21-153-ZZ, pGLDLIIP39-RcT-Δ50-153-EGF, pGLDLIIP39-RcT-Δ33-153-EGF, pGLDLIIP39-RcT-Δ21-153-EGF,及びコントロールとしてpGLDLIIP39-RcT-Δ3-66)を得た。これらの酵母発現用プラスミドも酵母S.cerevisiae AH22R-にスフェロプラスト法により形質転換し、形質転換体を得た。これらを工業用培地High-PiII3日間、8S5N-P400培地3日間培養を行い、菌体を回収した。菌体をガラスビーズにより破砕し、細胞抽出液を培養酵母酵素免疫測定装置IMx(ダイナボット)により抗原性を測定(図21および図22)することにより発現量を確認した。
【0156】
その結果、酵素免疫測定により欠失型粒子の形成が確認された。Δ21-153.、Δ33-153.、Δ50-153. 欠失型HBsAg Lタンパク質(欠失型HBsAg粒子)の抗原性は、野生型粒子(図中LAg)に近い値を示した(図21および図22参照)。一方、図示しないが、コントロールとして作製したΔ3-66.欠失型HBsAg粒子は形質転換体が得られなかった。なかでもΔ50-153欠失型HBsAg粒子は、ZZドメインを提示した欠失型HBsAg粒子(Δ50-153+ZZ)の発現量も極めて高いことから、発現量が野生型より多く生産性においてかなり有利である。
【0157】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る薬剤は、粒子表面に癌特異的抗体などの抗体が提示されているので、静脈注射という簡便な方法で、特定の細胞または組織における疾患を特異的かつ効果的に治療することができ、従来の遺伝子治療と大きく異なり、外科手術を必要とせず、副作用の心配もきわめて低く、そのまま臨床応用可能なものである。
【0158】
【配列表】
JP0004212921B2_000006t.gifJP0004212921B2_000007t.gifJP0004212921B2_000008t.gifJP0004212921B2_000009t.gifJP0004212921B2_000010t.gifJP0004212921B2_000011t.gifJP0004212921B2_000012t.gifJP0004212921B2_000013t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例におけるHBsAg遺伝子の各タンパク質領域を表す概略摸式図である。1~8は、表面抗原における各部位の働きを示している。血清型y型はPre-S1が108アミノ酸残基、血清型d型はPre-S1が119アミノ酸残基である。
【図2】本発明の実施例における遺伝子組換え酵母を用いたHBsAg粒子の発現および精製操作を例示した概略説明図である。(a)遺伝子組換え酵母の作製、(b)High-Pi培地における培養、(c)8S5N-P400培地における培養、(d)破砕、(e)密度勾配遠心分離、(f)HBsAg粒子。
【図3】本発明の実施例における、酵母を用いたHBsAg-streptag粒子製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図4】本発明の実施例における、昆虫細胞を用いたHBsAg-streptag粒子製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図5】本発明の実施例における、動物細胞を用いたHBsAg-streptag粒子製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図6】本発明の実施例における、酵母を用いたHBsAg-ZZtag粒子製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図7】酵母を用いて得られた上記HBsAg-ZZtag粒子に対するSDS-PAGEおよびWestern Blottingの結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例における、昆虫細胞を用いたHBsAg-ZZtag粒子(あるいは、一本鎖抗体A22または3A21を提示するHBsAg-scFv粒子)製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図9】本発明の実施例における、動物細胞を用いたHBsAg-ZZtag粒子(あるいは、一本鎖抗体A22または3A21を提示するHBsAg-scFv粒子)製造用プラスミドの作製工程を示す図である。
【図10】本発明に係る薬剤として上記HBsAg-ZZtag粒子を使用して、実験動物で行った治療効果を示すグラフである。
【図11】上記HBsAg-scFv粒子に対するSDS-PAGEおよびWestern Blottingの結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例における欠失型HBsAgタンパク質発現遺伝子を表す概略摸式図である。
【図13】本発明の実施例におけるPCR法の反応組成を示す図である。
【図14】本発明の実施例におけるPCRサイクルを示す図である。
【図15】本発明の実施例における欠失型HBsAgタンパク質発現遺伝子と、その遺伝子を組込むプラスミドを表す概略摸式図である。
【図16】本発明の実施例における動物細胞での欠失型HBsAgタンパク質の酵素免疫測定の結果を表すグラフであり、(a)は培地上清、(b)は細胞内部での結果を示すグラフである。
【図17】図16の結果のデータを示す図である。
【図18】図16で発現した欠失型HBsAgタンパク質のSDS-PAGEの結果を示す図であり、(a)は培地上清、(b)は細胞内部の結果を示す図である。
【図19】図16で発現した欠失型HBsAgタンパク質のウエスタンブロットの結果を示す図であり、(a)は培地上清、(b)は細胞内部の結果を示す図である。
【図20】本発明の実施例における酵母に導入する欠失型HBsAgタンパク質発現遺伝子と、その遺伝子を組込むプラスミドを表す概略摸式図である。
【図21】図20のプラスミドを用いた時の欠失型HBsAg Lタンパク質の発現を確認するための図であり、酵素免疫測定のデータを示す図である。
【図22】図20のプラスミドを用いた時の欠失型HBsAg Lタンパク質の発現を確認するための図であり、酵素免疫測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 粒子形成抑制部位
2 直接的なヒト肝細胞特異的レセプター
3 糖鎖1
4 間接的なヒト肝細胞特異的レセプター(重合ヒト血清アルブミンレセプター)
5 膜貫通領域1
6 膜貫通領域2
7 糖鎖2
8 膜貫通領域3
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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