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明細書 :ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン用タンパク質、それをコードする遺伝子、該タンパク質を利用したワクチン、及びそれらの利用方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4294342号 (P4294342)
公開番号 特開2004-261080 (P2004-261080A)
登録日 平成21年4月17日(2009.4.17)
発行日 平成21年7月8日(2009.7.8)
公開日 平成16年9月24日(2004.9.24)
発明の名称または考案の名称 ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン用タンパク質、それをコードする遺伝子、該タンパク質を利用したワクチン、及びそれらの利用方法
国際特許分類 C07K  14/195       (2006.01)
C07K  16/12        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A61K  39/00        (2006.01)
A61P   1/04        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI C07K 14/195 ZNA
C07K 16/12
C12N 15/00 A
A01H 5/00 A
A61K 39/00 H
A61P 1/04
A61P 31/04
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 A
C07K 14/195 ZNA
C12R 1:01
請求項の数または発明の数 8
全頁数 25
出願番号 特願2003-054654 (P2003-054654)
出願日 平成15年2月28日(2003.2.28)
審査請求日 平成17年10月7日(2005.10.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宇田 泰三
【氏名】藤井 亮治
【氏名】一二三 恵美
【氏名】森原 史子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】竹川 寛子
参考文献・文献 特開平09-509661(JP,A)
Infection and Immunity,2001年,Vol.69,p.6597-6603
調査した分野 C07K 14/195
C12N 15/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
PubMed
JSTPlus(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によって、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質を含んでなるヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチン。
【請求項4】
請求項2に記載の遺伝子を導入してなる形質転換体。
【請求項5】
請求項1に記載のタンパク質を非ヒトの生体に免疫して、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を含む血清を生産する方法。
【請求項6】
請求項1に記載のタンパク質を乳牛に免疫した後、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を含む牛乳を上記乳牛より採取する方法。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質をニワトリに免疫した後、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を含む鶏卵を上記ニワトリより採取する方法。
【請求項8】
請求項2の遺伝子を植物に導入し、発現させることを特徴とする形質転換植物。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質、それをコードする遺伝子、該タンパク質を利用したワクチン、及びこれらの利用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヘリコバクター・ピロリ菌(H.ピロリ菌)は、細長いS字型のグラム陰性菌であり、組織学的に胃潰瘍発症者や消化性潰瘍発症者の胃の生体試料から高い頻度で検出される。このH.ピロリ菌を胃内から根絶することによって、胃炎が治癒するととともに、消化性潰瘍の患者の再発率が減少するという報告がされている(例えば、非特許文献1参照)。このことから、H.ピロリ菌は、ヒトの胃内に感染することによって、急性胃炎、慢性胃炎、萎縮性胃炎などの各種胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を含む消化性潰瘍、さらには胃癌までをも引き起こす原因となると考えられている。
【0003】
ヒトの胃内は胃酸の分泌によって酸性が強くなっているため、通常外部から侵入した細菌は生存することができないが、H.ピロリ菌は、自身の細胞外膜に多量のウレアーゼを生産することで、酸性の強い胃内でも生存することができる。つまり、ウレアーゼが、尿素を加水分解することで発生するアンモニアは、胃内を中性化し、胃内腔内の微生物を取り巻く中性の微小環境をつくりだしているのである。一方、アンモニアが胃や十二指腸の粘膜組織が傷つけられるということが、様々な証拠によって示されている。
【0004】
上記のようなH.ピロリ菌に対して、最近では、感染を防ぐワクチン接種が、H.ピロリ菌関連疾患の患者を守る手段として提案されている。このようなワクチンの1つとしてH.ピロリ菌のウレアーゼあるいはそのサブユニットBが提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記ウレアーゼあるいはそのサブユニットBは、ワクチンとして生体内に投与されると、抗体を作り出だす。この抗体がウレアーゼと結合することによってウレアーゼの活性を抑制するため、H.ピロリ菌は酸性の強い胃内で生存できなくなる。従って、このようなワクチンは、H.ピロリ菌の感染を効率よく阻止することができるのである。
【0005】
【特許文献1】
特表平9-509661号公報(1997年9月30日公表)
【0006】
【非特許文献1】
Perterson, W. l. 「Helicobacter pylori and peptic Ulcer Disease.」 N. Engl. J. Med., vol. 324,1043-1048(1991).
【0007】
【非特許文献2】
Uda,T., et al. 「Immunological features and inhibitory effect on enzymatic activity of monoclonal against Helicobacter pylori urease.」 J. Ferment. Bioeng., 86, 271-276(1998).
【0008】
【非特許文献3】
Warren, J.R. & Marshall, B.「Unidentified curved bacilli on gastric epithelium in active chronic gastritis.」 Lancet, i: 1273-1275 (1983).
【0009】
【非特許文献4】
Barer, M.R., Elliott, T.S.J., Berkeley, D.,「Thomas, J.E., & Eastham, E.J. Cytopathic effects of Campylobacter pylori urease.」 J. Clin. Pathol., 41, 597 (1986).
【0010】
【非特許文献5】
Hazell, S., & Lee, A.「Campylobacter pyloridis, urease, hydrogen ion back diffusion, and gastric ulcers.」 Lancet, ii, 15-17 (1986).
【0011】
【非特許文献6】
Smoot, D. T., Mobley, H. L. T., Chippendale, G. R., Lawison, J. F. & Resau, J. H.「Helicobacter pylori urease activity is toxic to human gastric epithelial cell.」 Infect. Immun., 58, 1992-1994 (1990).
【0012】
【非特許文献7】
Buck, G. E.「Campylobacter pylori and gastroduodenal disease.」 Clin. Microbiol. Rev., 3, 1-12 (1990).
【0013】
【非特許文献8】
Goodwin, C.S., Blake, P. & Blincow, E.「The minimum inhibitory and bactericidal concentrations of antibiotics and anti-ulcer agents against Campylobacter pyloridis.」 J.Microb. Chemother., 17, 309-314 (1986).
【0014】
【非特許文献9】
Nagata, K., Satoh, H., Iwahi, T., Shimoyama, T. & Tamura, T.「Potent inhibitory action of the gastric proton pump inhibitor lansoprazole against urease activity of Helicobacter pylori: unique action selective for H. pylori cells.」 Antimicrobial. Agents Chemotherapy, 37, 769-774 (1993).
【0015】
【非特許文献10】
Pallen, M.J. & Clayton, C.L.「Vaccination against Helicobacter pylori urease.」 Lancet, 336, 186-187 (1990).
【0016】
【非特許文献11】
Czinn, S. J. & Nedrud, J. G.「Oral immunization against Helicobacter pylori. Infect.」 Immun., 59, 2359-2363 (1991).
【0017】
【非特許文献12】
Corthesy-Theulaz, I., Porta, N., Glauser, M., Saraga, E., Vaney, A-C., Haas, R., Kraehenbuhl, J-P., Blum, A. L. & Michetti, P.「Oral immunization with Helicobacter pylori urease B subunit as a treatment against Helicobacter infection in Mice.」 Gastroenterology 109, 115-121 (1995).
【0018】
【非特許文献13】
Hirota, K., Nagata, K., Norose, Y., Futagami, S., Nakagawa, Y., Senpuku, H., Kobayashi, M. & Takahashi, H.「Identification of an antigenic epitope in Helicobacter pylori urease that induces neutralizing antibody production.」 Infect. Immun., 69, 6597-6603 (2001).
【0019】
【非特許文献14】
Sugino, N., Shimamura, K., Takiguchi, S., Tamura, H., Ohno, M, Nakata, M, Ogino, K, Uda, T., & Kato, H.「Changes in activity of superoxide dismutase in the human endometrium throughout the menstrual cycle and in early pregnancy.」Human Reproduction, 11, 1073-1078 (1996).
【0020】
【非特許文献15】
Suzuki, T., Sugino, N., Fukaya, T., Sugiyama, S., Uda, T., Takaya, R., Yajima, A., & Sasano, H.「Super oxide dismutase in normal cycling human ovaries: immunohistochemical localization and characterization.」 Fertility and Sterility, 72, 720-726 (1999).
【0021】
【非特許文献16】
Hawtin, P. R., Delves, H. T. & Newell, D. G.「The demonstration of nickel in the urease of Helicobacter pylori by atomic absorption spectroscopy.」FEMS Microbiol. Lett. 77, 51-54 (1991).
【0022】
【非特許文献17】
Ha, N. C., Oh, S. T., Sung, J. Y., Cha, K. A., Lee, M. H. & Oh, B.H.「Supramolecular assembly and acid resistance of Helicobacter pylori urease.」 Nat. Struct. Biol. 8, 505-509 (2001).
【0023】
【非特許文献18】
Ikeda, Y., Fujii, R., Ogino, K., Fukushima, K., Hifumi, E., & Uda, T.「Immunological features and inhibitory effects on enzymatic activity of monoclonal antibodies against Helicobacter pylori urease.」 J. Ferment. Bioeng., 86, 271-276 (1998).
【0024】
【非特許文献19】
Dixon, N.E., Gazzola, C., Blakeley, R.L., and Zerner, B.「Jack bean urease. A metalloenzyme. A simple biological role for nickel?」 J. Am. Chem. Soc., 97, 4131-4133(1975).
【0025】
【非特許文献20】
Dixon, N.E., Blakeley, R.L., and Zerner, B.「Jack bean urease. I. A simple dry ashing procedure for the microdetermination of trace metals in proteins. The nickel content of urease.」 Can. J. Biochem., 58, 469-473 (1980).
【0026】
【非特許文献21】
Takishima, K., Suga, T. & Mamiya, G.「The structure of jack bean urease.」 Eur. J. Biochem., 175, 151-165 (1988).
【0027】
【非特許文献22】
Andrews, A.T., and Reithel, F.J.「The thiol groups of Jack bean urease.」 Arch.Biochem. Biophys., 141, 538-546 (1970).
【0028】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のようにH.ピロリ菌のウレアーゼそのもの、あるいはそのサブユニットを直接生体内に投与し免疫する方法は、いくつかの問題点を有している。
【0029】
即ち、酵素であるウレアーゼを直接生体に投与すると、酵素反応が生体内で直ちに惹起し種々の複反応を誘導するため、予期せぬ副作用を誘発する可能性が高い。また、ヒトにとって異種タンパク質であるH.ピロリ菌由来のウレアーゼあるいはそのサブユニットをヒトに投与することは、不要な免疫応答を惹起した生体に、場合によっては重篤な副作用をもたらしかねない。また、精製したウレアーゼやそのサブユニットを得ることは、多大なコストが必要となる。
【0030】
さらに、H.ピロリ菌に対するワクチンとして望ましい機能は、H.ピロリ菌のウレアーゼの酵素活性を抑制することができ、かつ、H.ピロリ菌の増殖を抑制することのできるものであるが、この両方の機能を備えたワクチンは、これまでに開発されていない。
【0031】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、投与方法や取り扱いが安全で容易であり、低コストで生産できるタンパク質を、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制し、かつ、H.ピロリ菌の増殖を抑制するワクチンとして提供することを目的とする。さらに本発明は、当該タンパク質の様々な利用方法についても提供する。
【0032】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、H.ピロリ菌のウレアーゼにおける活性部位付近のアミノ酸配列を詳細に解析することにより、該アミノ酸配列の特定領域が、上記ウレアーゼの活性を抑制するばかりか、H.ピロリ菌の増殖をも抑制するワクチンとして非常に効果的であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、上記ウレアーゼの有するアミノ酸配列のうち、上記ウレアーゼの活性を抑制し、かつ、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を誘導することができる特定領域内の配列からなるタンパク質を、ヘリコバクター・ピロリ菌に対するワクチンとして用いるものである。
【0033】
本発明に係るタンパク質は、以下の(a)又は(b)のタンパク質である。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によってヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質。
【0034】
上記(a)のタンパク質は、H.ピロリ菌由来のウレアーゼのβサブユニットのアミノ酸配列の一部であり、より具体的には、上記(a)のタンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列中の第201番目から第338番目の領域に相当する。それゆえ、上記(a)又は(b)のタンパク質は、上記H.ピロリ菌由来のウレアーゼの抗体を生成する抗原としての機能を有する。それゆえ、上記(a)又は(b)のタンパク質は、ヒトなどへ投与されると、生体内においてH.ピロリ菌に対して働く抗体を生成する。この抗体は、上記ウレアーゼの活性部位である配列番号2に示すアミノ酸配列中の第201番目から第338番目の領域に結合し、活性を抑制する。また、上記抗体は、H.ピロリ菌の増殖をも抑制する。なお、上述の「免疫反応によってH.ピロリ菌のウレアーゼの活性及びH.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質」とは、言い換えれば、タンパク質の免疫応答によって得られる抗体が、H.ピロリ菌のウレアーゼと抗原抗体反応し、かつ、H.ピロリ菌と抗原抗体反応をするということである。
【0035】
H.ピロリ菌のウレアーゼの活性が抑制されるため、H.ピロリ菌は、酸性の強い胃内において生存ができなくなる。また、H.ピロリ菌の増殖も阻害される。即ち、上記(a)又は(b)のタンパク質は、H.ピロリ菌のヒトの胃内における生存及びH.ピロリ菌の増殖を阻害することができるため、当該菌の感染阻止あるいは予防に非常に有効に利用できる。
【0036】
本発明において、「タンパク質」とは一般に用いられる意味と同様であるが、少なくとも2以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものを意味する。上記「タンパク質」には、アミノ酸のみから成る単純タンパク質だけでなく、非アミノ酸成分をも含む複合タンパク質含むものであってもよい。
【0037】
上記タンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1以上の任意のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加しているアミノ酸配列からなり、免疫反応によって、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成する機能をもっていれば、アミノ酸数が変化していてもかまわない。
【0038】
また、上記「タンパク質」は、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、そのタンパク質を細胞内発現させた状態であってもよいし、化学合成されたものであってもよいし、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよい。また、上記宿主細胞での発現条件によっては、上記タンパク質は融合タンパク質であってもよい。
【0039】
また、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、細胞内で発現させたタンパク質の場合には、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法に基づいて、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されるものである。このように、遺伝子工学的手法を用いた場合、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」アミノ酸配列からなるタンパク質は、換言すれば、上記(a)のタンパク質の変異体であると言える。
【0040】
本発明に係る遺伝子は、上記タンパク質をコードしている遺伝子であり、この遺伝子を適当な宿主(例えば細菌、酵母)に導入すれば、本発明のタンパク質をその宿主内で発現させることができる。
【0041】
なお、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、上記本発明のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0042】
それゆえ、本発明には上記遺伝子を導入してなる形質転換体も含まれる。上記形質転換体は、自身の体内において上記本発明に係るタンパク質を発現させることができる。
【0043】
本発明に係るタンパク質の利用方法として、H.ピロリ菌に対するワクチンとしての利用法を挙げることができる。即ち、上記タンパク質を含んでなるH.ピロリ菌に対するワクチンについても本発明に含まれる。このワクチンをヒトに投与すると、生体内ではH.ピロリ菌のウレアーゼに対して特異的な抗体が生成される。また、この抗体は、H.ピロリ菌の増殖をも抑制する。そのため、上記ワクチンはH.ピロリ菌の感染阻止あるいは予防・治療に利用できる。また、上記ワクチンには、免疫原として酵素であるウレアーゼそのもの、あるいは、そのサブユニットは含まれていないため、副作用を生じるような免疫応答が発生することを回避することができる。
【0044】
本発明に係るタンパク質の他の利用方法として、上記タンパク質を動物などの生体に免疫して、H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体を含む血清(抗血清)を生産する方法を挙げることができる。上記抗血清から得られた抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼに対して特異的に結合するため、ある検体と上記抗体とが免疫反応をしているか否かを判定することによって、上記検体中に当該菌のウレアーゼが含まれているか否かの検出に使用することができる。なお、ここで「免疫する」とは、上記タンパク質を生体内に投与し、免疫反応を起こさせることによって生体内に抗体を生成することを意味する。
【0045】
上述の抗体の生産方法によって得られる抗体は、通常ポリクローナル抗体であるが、本発明には、上記タンパク質を認識するモノクローナル抗体も含まれる。それゆえ、本発明に係る抗体は、上記タンパク質を認識する抗体である。この抗体のうちポリクローナル抗体は、上述の生産方法によって得ることができ、モノクローナル抗体は、本発明のタンパク質を用いて従来公知のハイブリドーマ技術などによって作製することができる。
【0046】
上記の抗体は、本発明のタンパク質、あるいはH.ピロリ菌のウレアーゼと反応するため、上記タンパク質あるいはウレアーゼを定量することができる。また、上記抗体は、H.ピロリ菌の感染者を治療する抗体医薬品、H.ピロリ菌の診断薬として利用できる可能性がある。なお、診断薬として用いる場合、H.ピロリ菌に感染していると思われるヒト、動物などの胃組織と、上記抗体とを反応させることによって容易に検出することができる。
【0047】
さらに、本発明に係るタンパク質を乳牛に免疫すると、その乳牛から搾取された牛乳にはH.ピロリ菌に対する抗体が含まれる。よって、上記タンパク質を乳牛に投与することによってH.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を含む牛乳を生産することも可能である。このようにして得られた牛乳は、機能性食品として有用である。
【0048】
また、本発明に係るタンパク質をニワトリに免疫した場合、そのニワトリが産む鶏卵にはH.ピロリ菌に対する抗体が含まれる。よって、上記タンパク質をニワトリに投与することによってH.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を含む鶏卵を得ることも可能である。このようにして得られた鶏卵もまた機能性食品として有用である。
【0049】
また、本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子を植物に導入してなる形質転植物も含まれる。従って、宿主としての植物に上記遺伝子を導入し、発現させれば、上記タンパク質を含む形質転換植物を得ることができる。この形質転換植物は、H.ピロリ菌の感染を予防するという機能を備えた上記タンパク質を含んでいるため、食べるワクチンとして利用することができる。上記遺伝子が導入される植物としては、上記タンパク質は加熱によってその構造が破壊されるため、生食に適した野菜であることが好ましい。このような野菜として、具体的にはトマト、キュウリ、ニンジンなどを挙げることができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0051】
(1)本発明に係るタンパク質について
本発明に係るタンパク質の一例として、H.ピロリ菌由来のウレアーゼのβサブユニットにおける特定領域のアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げて説明する。上記タンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなり、かつ、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質である。即ち、上記タンパク質は、アミノ酸を一文字表記によって表した場合、NH2-ASNDASLADQIEAGAIGFKIHEDWGTTPSAINHALDVADKYDVQVAIHTDTLNEAGCVEDTMAAIAGRTMHTFHTEGAGGGHAPDIIKVAGEHNILPASTNPTIPFTVNTEAEHMDMLMVCHHLDKSIKEDVQFADSR-COOHという一次構造を有している。このタンパク質が有するアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列中の第201番目から第338番目の領域に相当する。
【0052】
上記タンパク質は、生体内に投与することで、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を自然に誘導することができる。上記抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼと結合し、活性を抑制するため、H.ピロリ菌は強酸下の胃での生存ができなくなる。また、上記抗体は、H.ピロリ菌の増殖を阻害する。それゆえ、本発明のタンパク質は、ヒト胃内に感染し種々の疾患を引き起こす原因となるH.ピロリ菌の感染を予防したり、感染したH.ピロリ菌を駆除したりする高性能のワクチンの成分として有用である。このワクチンは、H.ピロリ菌のウレアーゼの酵素活性を抑制し、かつ、H.ピロリ菌の増殖を抑制する機能を兼ね備えた高性能なワクチンである。
【0053】
ところで、H.ピロリ菌のウレアーゼは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるβサブユニットと配列番号3に示すアミノ酸配列からなるαサブユニットとの6量体で構成される。ウレアーゼは金属酵素であり、その活性部位はβサブユニット中にあり2つのニッケルイオンを保持している。この活性部位は、βサブユニットの138アミノ酸残基からなる201番目から338番目の領域に相当する。この領域には、ニッケルと結合するために重要なシステイン残基と10個のヒスチジン残基とが位置している。タチナタマメウレアーゼとH.ピロリ菌ウレアーゼとの間のこの領域(138アミノ酸残基)のアミノ酸配列の相同性は、約63.0%に昇る。特に、313番目から325番目の配列(EHMDMLMVCHHLD)は、Helicobactor felis (100%), Bacillus sp.(92.3%, M326L), Jack bean (92.3%, M326L), Klebsiella aerogenes (92.3%, M326L), Proteus mirabilis (92.3%, M326L), Proteus vulgaris (92.3%, M326L) and Ureaplasma urealyticum (84.6%, M326L, D335N)などの微生物においてよく保存されている。
【0054】
さらに、システイン残基、及び8個のヒスチジン残基は、酵素活性の発現に必須の残基であるが、異なる細菌由来であっても、完全に保存されている(同一である)。
【0055】
図2(A)は、H.ピロリ菌ウレアーゼのβサブユニットの立体構造である。上述の抽出された配列は、濃い線で示される。図2(B)には、上記ウレアーゼのβサブユニットの活性部位周辺の詳細な図を示す。活性部位に存在する2つのニッケルイオンの周辺にヒスチジン残基とシステイン残基が存在し、ニッケルイオンと強く相互作用しているように思われる。ウレアーゼの活性に重要なヒスチジン残基とシステイン残基とが上記の抽出された配列中(138アミノ酸残基)に存在するということである。
【0056】
本発明に係るタンパク質は、上述の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質のみならず、それを種々に変更させたものも含まれる。この「変更させたもの」とは即ち、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、免疫反応によって、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成するタンパク質である。
【0057】
なお、上記タンパク質は、ウレアーゼの立体構造を反映することができるようなアミノ酸数であれば、H.ピロリ菌のウレアーゼの抗体を生成する抗原としての機能は十分に果たすことができる。しかしながら、これに加え、本発明に係るタンパク質は、免疫反応によりH.ピロリ菌の増殖をも抑制する抗体を生成するものでなくてはならない。そこで、上記タンパク質は、免疫反応によって、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成することのできるアミノ酸数からなっていればよい。
【0058】
なお、本発明には、上記タンパク質を認識する抗体も含まれるが、上記抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。なお、モノクローナル抗体は、上記タンパク質を抗原として用いて常法のハイブリドーマ技術によって製造することができる。また、ポリクローナル抗体は、宿主動物、例えばラットまたはウサギに、上記タンパク質を投与し、感作された血清を回収することからなる常法によって製造することができる。
【0059】
(2)本発明に係るタンパク質の取得方法について
本発明に係るタンパク質の取得方法として、適当なものは、遺伝子組み換え技術等を用いる方法である。この場合、上記タンパク質をコードする遺伝子をベクターなどに組み込んだ後、発現可能に宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたタンパク質を精製するという方法などを採用することができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記タンパク質をコードする遺伝子を組み込めば、タンパク質を効率よく取得できる可能性がある。また、実施例で述べるように、宿主細胞中で分解されないように、上記タンパク質を融合タンパク質として取得してもよい。
【0060】
また、本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子については、H.ピロリ菌ウレアーゼのβサブユニットの配列情報に基づいて、そのゲノムDNA(あるいはcDNA)を取得した後、それを鋳型として適当なプライマーを用いてPCRを行うことによって該当する領域を増幅させることで取得することができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用して、変異が導入された遺伝子が得られれば、それを導入した形質転換体においては、上述の(b)のタンパク質が翻訳産物として得られる。
【0061】
上記タンパク質の取得は、H.ピロリ菌に対するワクチンとして上記特許文献1に提案されていたウレアーゼそのもの、あるいはそのサブユニットの取得に比べて経済的に優れている。
【0062】
しかしながら、本発明に係るタンパク質の取得方法は、上述に限定されることなく、細胞、組織などから単離精製された状態であってもよいし、化学合成されたものであってもよい。
【0063】
(3)本発明のタンパク質などの利用方法について
上述のようにして得られた本発明に係るタンパク質は、動物などの生体へ投与し免疫することによって、抗体を誘導させることができる。この抗体は、上記ウレアーゼと結合してその活性を抑制するため、H.ピロリ菌の強酸下の胃での生存を阻害するように機能する。また、上記抗体はH.ピロリ菌の増殖をも阻害する。そこで、上記タンパク質は、H.ピロリ菌のウレアーゼの酵素活性の抑制、かつ、H.ピロリ菌の増殖の抑制の機能を兼ね備えた高性能のワクチンとして使用することができる。このワクチンは、H.ピロリ菌の感染の予防、あるいはH.ピロリ菌感染者の治療に有用である。
【0064】
なお、上記のタンパク質を用いた動物の免疫方法は、特に限定されるものではなく、従来から一般的に行われている方法を各種動物に応じて適宜用いることができる。後述の実施例には、その一例を記載する。
【0065】
また、乳牛に対してある抗原を免疫すると、その乳牛から搾取される牛乳にも当該抗原に対する抗体が含まれるということが知られている。この方法を利用して本発明に係るタンパク質を乳牛に免疫すれば、その乳牛から搾取された牛乳に上記タンパク質の抗体を含有させることができる。この抗体は、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体であることから、上記タンパク質が免疫された乳牛から採取された牛乳には、H.ピロリ菌の感染を予防する成分が含まれていると言える。それゆえ、この方法を利用して牛乳を採取すれば、その牛乳に機能性食品としての付加価値を付与することができる。同様に、ニワトリに対してある抗原を免疫すると、そのニワトリが産む鶏卵にも当該抗原に対する抗体が含まれるということが知られている。従って、上記タンパク質をニワトリに免疫すれば、そのニワトリが産む鶏卵にも上記タンパク質の抗体を含有させることができ、機能性食品として有用である。
【0066】
また、上記「形質転換体」とは、形質転換植物を含む意味であり、本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子を植物に発現可能に導入すれば形質転換植物となる。形質転換体、形質転換植物の範疇には、生物個体;根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官;各種組織;細胞;などが含まれる。さらには、プロトプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫なども含まれるものとする。上記形質転換体の生産において、宿主として食用に適した植物を採用すれば、得られた形質転換植物は食べるワクチンとして利用することができる。
【0067】
【実施例】
本発明の実施例について、実験1ないし実験9に基づいて以下に説明する。
【0068】
〔実験1〕H.ピロリ菌の培養
H.ピロリ菌ATCC43504を、7%ウシ胎児血清(Gibco BRL Life Technologies, NY, USA)を含むブルセラブロス培地(BBL, Cockeysville, MD, USA)中で培養した。培養は、微好気性環境下(5%O2、10CO2、85%N2)、37℃で2~4日間行った。
【0069】
〔実験2〕ゲノムDNAの調製
実験1で培養したH.ピロリ菌のペレットを、1MNaCl1mlで洗浄し、520μlのTEバッファー(10mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH8.0)で再懸濁した。1mgのプロテアーゼと30μlの10%SDSを添加し、この混合物を56℃で20分間インキュベートした。その後、100μlの5MNaClと80μlの10mg/mlCTAB(cetyltrimethyl ammonium bromide)/NaClを添加し、できた混合物を65℃で20分間インキュベートした。反応混合物を、界面がはっきりするまでフェノール/クロロホルムで数回抽出した。DNAをエタノールで沈殿し、適当な溶液に溶解した。このDNAが、H.ピロリ菌のゲノムDNAである。
【0070】
〔実験3〕UreB遺伝子のクローニング
実験2で抽出したゲノムDNAを、オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRのための鋳型として使用した。使用したプライマーは、BamHIサイト(下線部で示す)を含む前方プライマー(センスプライマー):5'-AAGGATCCGCTTCTAACGATGCGAGC-3'、EcoRI部位(下線部で示す)を含む反転プライマー(アンチセンスプライマー):5'-GGGAATTCCCTTGAATCAGCGAACTG-3'である。これらは、本発明の配列番号1で示されるタンパク質を発現させるための活性部位であるDNAを増幅させるためのプライマーである。PCRは、95℃10分間のホットスタート、それに続いて、94℃1分間、60℃1分間、72℃2分間を30サイクル、72℃10分間の最終伸長反応という条件で実施した。
【0071】
PCR産物を、1%アガロースゲル電気泳動で可視化したところ、約430塩基対のDNA断片が検出された。これは、予想した塩基対サイズと一致していた。このDNA断片をpGEM-T簡易ベクター(Promega, Madison, WI)へクローニングし、発現タンパク質(発現UreBと呼ぶ)の塩基配列を、サイクルシークエンシングキット(Phermacia, Uppsala, Sweden)を使用して確認した。
【0072】
発現UreBのアミノ酸配列を1文字表記したものを図1の下段に示す。図1の上段は、配列番号2で示すH.ピロリ菌ウレアーゼのβサブユニットの199番目から340番目に相当するアミノ酸配列(これを抽出UreBと呼ぶ)を1文字表記したものである。つまり、図1の上段の第3番目から第140番目までの配列が、配列番号1で示す配列に対応する。下段の発現UreBのアミノ酸配列において、第2番目と第141及び142番目のアミノ酸残基は、制限酵素BamHIとEcoRIサイトを含むプライマー配列に相当する。発現UreBにはこの2つの制限酵素サイトが導入されるので、抽出UreBと比べると、太字で示すように、N末端の1アミノ酸残基(N2S)及びC末端の2アミノ酸残基(I141E及びR142F)がそれぞれ変化している。
【0073】
〔実験4〕組変えUreBタンパク質の発現と精製
GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)タンパク質と融合された組換えUreB(UreB-GSTと呼ぶ)の発現用プラスミドを構築するために、上記実験3でPCR増幅したDNA断片を、制限酵素BamHIとEcoRIとで処理した。このDNA断片と、BamHIとEcoRIとで処理して脱リン酸化した発現ベクターpGEX-1λT(Pharmacia)とを結合させた。構築されたプラスミドを、pGEX-UAと名付けた。
【0074】
続いて、E.coli BL21(DE3)pLysSを、pGEX-UAで形質転換し、最終濃度1mMのIPTGの添加によってタンパク質発現を誘導した。このときの培養液は、細胞密度(O.D.:600nm)が0.6であった。この培養液を37℃で5時間インキュベートした後、培養細胞を採取し、超音波処理した。さらに、可溶性融合タンパク質を、蒸留水で抽出後、グルタチオンセファロース4B(Pharmacia)に適用した。その後、サイズ排除高速タンパク質液体クロマトグラフィー(セファロース6 HR10/30)を実施し、精製された発現タンパク質であるUreB-GSTを単離した。なお、この発現タンパク質を、SDS-PAGEによって解析したところ、41KDaのメインバンドを確認した。これは予想した分子量に相当するものであった。
【0075】
〔実験5〕ウサギの免疫処置
ポリクローナル抗UreB抗血清(UreB抗血清)、抗ヒトCu,Zn-SOD抗血清(ネガティブコントロール)、及びH.ピロリ菌ウレアーゼモノクローナル血清(ポジティブコントロール)を得るために、以下のようにしてウサギの皮下に免疫処理を行った。抗原として、実験4で得られたUreB-GST、抗ヒトCu,Zn-SOD、及びH.ピロリ菌ウレアーゼを各1mg、それぞれ1mlのPBSに溶解し、1mlの完全フロイントアジュバンド(CFA)で乳化した。ウサギ一羽に対して、乳化した混合物を全量で2ml免疫した。その後ウサギには、CFAの代わりに不完全フロイントアジュバンド(IFA)を使用すること以外は同様の方法で、2週間間隔で追加抗原刺激を施した。4回目の追加抗原刺激の後、免疫したウサギから採血を行い、血清サンプルをELISA法によってテストした。その結果得られた抗血清を、H.ピロリ菌のウレアーゼと結合したセファロース4Bを使用したアフィニティクロマトグラフィーで精製した。
【0076】
〔実験6〕 UreB抗血清の免疫反応性
実験5で精製したUreB抗血清(抗体)について、異なるいくつかのウレアーゼ及びH.ピロリ菌に対する免疫反応性を、ELISA法によって調査した。その結果が図3である。図3に示すように、UreB抗血清は、H.ピロリ菌のウレアーゼだけでなく、UreB-GSTとも強く反応した。また、Bacillus及びタチナタマメのウレアーゼとも強く交差反応した。しかし、UreB抗血清は、タチナタマメのウレアーゼよりもBacillusのウレアーゼと強く交差反応した。これは、BacillusのウレアーゼとH.ピロリ菌のウレアーゼとの相同性(67.6%)が、タチナタマメのウレアーゼとH.ピロリ菌のウレアーゼとの相同性(63.0%)よりも高いためであると考えられる。
【0077】
また、UreB抗血清は、BSA(牛血清アルブミン)とは結合せず、H.ピロリ菌とは結合した。細菌の表面に発現するウレアーゼ分子の数は明らかではない。このため、H.ピロリ菌に対するUreB抗血清の反応性は、免疫プレート上にH.ピロリ菌をコーティングすることによって、ELISA法を使用した実験では評価できない。しかしながら、UreB抗血清は、完全なH.ピロリ菌といくらかは反応した。
【0078】
〔実験7〕H.ピロリ菌のウレアーゼ活性に対する阻害分析
20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)50μl中に精製したH.ピロリ菌ウレアーゼ1μgを溶解したものを、96穴のマイクロタイタープレート中で、室温で90分間、実験5で精製した各抗血清(50μl中に10μg)とともにプレインキュベートした。この実験では、ヒトCu,Zn-SOD坑血清をコントロールとして使用した。プレインキュベートの後、100μlの反応溶液を、100mM尿素と0.005%のフェノールレッドとを含む20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)100μlと混合した。マイクロプレートリーダーを使用して、室温で数時間にわたって30分間隔で、540nmにおける吸光度を測定した。
【0079】
この測定の結果が図4である。図4では、●がUreB抗血清、■がヒトCu,Zn-SODに対する抗血清(ネガティブコントロール)、▲がH.ピロリ菌ウレアーゼモノクローナル血清(HpU-2モノクローナル抗体、ポジティブコントロール)の540nmにおける吸光度を示している。また、図4(a)~(c)は、抗血清の濃度が、それぞれ、25μg/ml、5μg/ml、0.2μg/mlの場合ある。本図は、コントロールであるヒトCu,Zn-SODに対する抗血清の曲線よりも下になるとウレアーゼ活性に対して阻害効果があり、上になると促進効果があることを示す。図4に示すように、UreB抗血清(抗体)は、H.ピロリ菌のウレアーゼ活性に対して濃度依存的な阻害を示した。
【0080】
そして、H.ピロリ菌ウレアーゼ活性に対する抗血清の阻害率を求めた。すなわち、図4において、UreB抗血清、HpU-2モノクローナル抗体について、コントロールであるヒトCu,Zn-SODに対する抗血清の吸光度を基に、本実験での阻害率を計算した。(ヒトCu,Zn-SODに対する抗血清のグラフで吸光度が1/2となる反応時間を取り、その時点における各抗血清の示す吸光度と比較し、その割合を阻害率とした。)なお、吸光度が、ヒトCu,Zn-SODに対する抗血清とは離れていない場合を阻害率0%とした。図4(a)に示すように、25μg/mlのUreB抗血清は、阻害率37%という強い阻害活性を示した。また、図4(b)に示すように、UreB抗血清が5μg/mlの場合は、上記阻害活性は21.5%であった。ポジティブコントロールとして使用されたHpU-2モノクローナル抗体は、非特許文献2で報告されているのと同様の阻害活性を示した。一方で、このHpU-2モノクローナル抗体は、H.ピロリ菌に対する増殖阻害作用は示さなかった。
【0081】
〔実験8〕胃の生検標本の免疫組織化学的染色
H.ピロリ菌に感染した胃組織を用いて免疫組織化学的染色を行った。ホルマリンに混合された、H.ピロリ菌に感染したパラフィン包埋ヒト胃組織を使用した。4μmの切開片をキシレンで脱パラフィン処理し、等級化されたエタノールで再水和した。そして、内因性のペルオキシターゼ活性を、3%H22でブロッキングした。切開片を、H2Oで洗浄した後、実験5で精製されたUreB抗血清とともに、1%BSA/PBS中に1μg/mlの濃度で、室温で60分間インキュベートし、H2Oで3回各5分間洗浄した。スライドを、EnVision+(HRP.Rabbit)試薬(Dako Japan Co Ltd., Kyoto, Japan)とともに、室温で60分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。染色には、DAB基質キット(Nichirei Co., Tokyo, Japan)を使用した。
【0082】
ヒメネス染色については、以下のようにして行った。胃の生検標本を、脱パラフィン化し、蒸留水に水和した。上記切開片を石炭酸フクシン溶液で1分間濾過した。水中での洗浄後、スライドを1%マラカイトグリーンで5秒間染色した後、水で洗浄し、空気中で乾燥させた。
【0083】
DAKO社製の抗血清を、H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗血清として、ポジティブコントロールとして使用した(Dako Japan Co. Ltd)。
【0084】
上記免疫組織化学的染色の結果が図5である。図5において矢印で指された微粒子が染色されたH.ピロリ菌である。図5(a)は、ヒメネス染色の結果であり、上記切開片はH.ピロリ菌に感染していることがわかる。図5(b)は、UreB抗血清が使用されたときの染色反応である。H.ピロリ菌による感染部位が粘膜表面においてはっきりと観察されている。図5(c)は、ポジティブコントロールとして使用されたDAKOの抗血清(H.ピロリ菌ウレアーゼに対する抗血清)の反応を示している。H.ピロリ菌による感染部位がはっきりと観察されている。図5(d)は、ネガティブコントロールであるヒトCu,Zn-SODに対する抗血清の反応である。これらの結果により、本発明によるUreB組換え抗原(UreB-GST)によって誘導される抗血清は、感染したH.ピロリ菌と結合できるということが示される。
【0085】
〔実験9〕インビトロでの分析
実験5で精製したUreB抗血清を使用して、インビトロでの細菌増殖への影響を試験した。
【0086】
H.ピロリ菌AYCC43504を、7%ウシ胎児血清を含むブルセラブロス培地で、2~4日間、37℃で培養後、4℃、4000×gで10分間遠心分離にかけて収集した。得られた細菌を、ブルセラブロスで懸濁し、約3×105/mlに希釈した。そして、100μlの分割量を、精製された抗ロングペプチド血清(PBS中に50,10および2μg/ml)を100μl含む96穴のマイクロプレートの各穴に添加した。ヒトCu,Zn-SOD抗血清をネガティブコントロールとして使用した。マイクロプレートを、37℃で、5%O2、10%CO2、および85%N2の大気中でインキュベートした。0、24、48および72時間のインキュベート後、生育細胞の定量化するために、10μlの分割量を各穴から取り出し、希釈後、BHI-寒天プレートの上に接種した。このプレートを37℃で4日間インキュベートしたところ、コロニーが観測できた。これらの実験は繰り返して実施した。H.ピロリ菌の増殖の阻害率は、抗血清0μg/mlの場合を含む種々の濃度の抗血清(あるいは抗体)におけるコロニー数を比較することによって算出した。
【0087】
図6がその結果である。図6(a)に示すように、H.ピロリ菌がコントロール抗血清(ヒトCu,Zn-SODに対する抗血清)とともにインキュベートされた場合、コントロール抗血清はH.ピロリ菌の増殖を抑制しなかった。一方、図6(b)に示すように、UreB抗血清では、血清濃度1μg/mlの場合は阻害率約40%で、血清濃度100μg/mlの場合は阻害率約80%で、それぞれH.ピロリ菌の増殖を著しく阻害した。この阻害能は、図6(c)に示すように、UreB抗血清を作製するのと同じ方法で作製した、H.ピロリ菌のウレアーゼに対する抗血清の阻害能に匹敵していた。
【0088】
以上に記述したように、本実施例において作製されたUreB-GSTをウサギに免疫することによって得られたUreB抗血清には、H.ピロリ菌のウレアーゼと抗原抗体反応をする抗体が生産されていることが確認された。即ち、上記抗血清中の抗体は、上記ウレアーゼの抗体として作用していると言える。また、上記UreB抗血清は、明らかにH.ピロリ菌の増殖を抑制していた。すなわち、上記抗血清中の抗体は、H.ピロリ菌の抗体として作用していると言える。
【0089】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係るタンパク質は、免疫反応によって、H.ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すると共に、H.ピロリ菌の増殖を抑制する抗体を生成することができる。上記タンパク質は、H.ピロリ菌が有するウレアーゼのβサブユニットにおける一次構造の特定の一部領域を含むものである。そのため、H.ピロリ菌に対して特異的に作用する抗体を効率よく誘導することができ、H.ピロリ菌に対するワクチンとして有用である。
【0090】
上記タンパク質をワクチンとして使用すれば、ウレアーゼやそのサブユニットを用いた場合に起こり得る重篤な副作用を回避することができる。また、本発明のタンパク質は、ウレアーゼやそのサブユニットに比べ、精製のコストが削減できるという点でも優れている。さらに、上記ワクチンは、H.ピロリ菌ウレアーゼの活性阻害及びH.ピロリ菌の増殖の抑制という両方の能力を兼ね備なえているという点で、非常に優れている。
【0091】
【配列表】
JP0004294342B2_000002t.gifJP0004294342B2_000003t.gifJP0004294342B2_000004t.gifJP0004294342B2_000005t.gifJP0004294342B2_000006t.gifJP0004294342B2_000007t.gifJP0004294342B2_000008t.gifJP0004294342B2_000009t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】上段は、H.ピロリ菌ウレアーゼのβサブユニットの199番目から340番目に相当するアミノ酸配列(抽出UreB)を1文字表記によって示した図である。下段は、制限酵素BamHIとEcoRIサイトを含むプライマー配列を反映した発現UreBのアミノ酸配列を1文字表記によって示した図である。
【図2】(a)はH.ピロリ菌のウレアーゼのβサブユニット立体構造を示す模式図であり、(b)は(a)における活性部位周辺の立体構造を詳細に示す模式図である。
【図3】UreB抗血清の免疫反応性をしらべた結果を示すグラフである。
【図4】H.ピロリ菌のウレアーゼ活性に抗血清を反応させたときの540nmにおける吸光度を表すグラフである。(a)は抗血清の濃度が25μg/mlの場合、(b)は抗血清の濃度:5μg/mlの場合、(c)は抗血清の濃度:0.2μg/mlの場合である。また、●はUreB抗血清(本発明)、■はヒトCu,Zn-SODに対するの抗血清(ネガティブコントロール)、▲はH.ピロリ菌ウレアーゼモノクローナル血清(HpU-2モノクローナル抗体、ポジティブコントロール)である。
【図5】H.ピロリ菌に感染した胃の組織断片(a)と抗血清とを反応させた後(b)~(d)の免疫組織化学的染色の結果を示す模式図である。(a)はヒメネス染色の結果である。(b)はUreB抗血清(本発明)を反応させた場合、(c)はDAKOの抗血清(ポジティブコントロール/H.ピロリ菌ウレアーゼに対する抗血清)を反応させた場合、(d)は、ヒトCu,Zn-SODに対する抗血清(ネガティブコントロール)を反応させた場合である。
【図6】インビトロにおけるH.ピロリ菌の阻害率を表すグラフである。(a)はヒトCu,Zn-SODに対するの抗血清(ネガティブコントロール)の場合、(b)はUreB抗血清(本発明)の場合、(c)は、H.ピロリ菌ウレアーゼに対する抗血清(ポジティブコントロール)の場合である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5