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明細書 :液の転写装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3970796号 (P3970796)
公開番号 特開2004-317189 (P2004-317189A)
登録日 平成19年6月15日(2007.6.15)
発行日 平成19年9月5日(2007.9.5)
公開日 平成16年11月11日(2004.11.11)
発明の名称または考案の名称 液の転写装置
国際特許分類 G01N  35/10        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
FI G01N 35/06 C
G01N 37/00 102
請求項の数または発明の数 1
全頁数 14
出願番号 特願2003-108863 (P2003-108863)
出願日 平成15年4月14日(2003.4.14)
審査請求日 平成16年7月22日(2004.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】592213730
【氏名又は名称】株式会社カケンジェネックス
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】田村 学
【氏名】古閑 比佐志
個別代理人の代理人 【識別番号】100095315、【弁理士】、【氏名又は名称】中川 裕幸
【識別番号】100120400、【弁理士】、【氏名又は名称】飛田 高介
審査官 【審査官】野田 洋平
参考文献・文献 特開2000-287670(JP,A)
特開2000-300253(JP,A)
特許第3037691(JP,B2)
特開平3-183958(JP,A)
調査した分野 G01N 35/00-35/10
G01N 37/00
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
軸状の本体と該本体の先端に形成した転写面を有する転写部材を基盤に接触させて該基盤に液を転写する転写装置に於いて、転写部材を軸方向に摺動可能に保持する保持部材と、前記保持部材を昇降させる駆動部材と、前記保持部材に保持された転写部材の上端部と当接して昇降し且つ下降限度に到達して停止する規制部材と、を有し、前記駆動部材によって保持部材を下降限度まで下降させたとき転写部材の転写面が基盤に接触すると共に規制部材との当接が解除されて該転写部材の自重が作用して液を転写し、前記駆動部材によって保持部材を上昇させたとき保持部材に対し異常状態で保持されている転写部材の上端部が規制部材に当接して該異常状態を解除すると共に保持部材の更なる上昇に伴って規制部材も上昇し得るように構成されたことを特徴とする液の転写装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、目的の液、特にDNA(遺伝子)及び蛋白質の試薬を基盤上に微細な点状に転写する際に用いて有利な転写装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、医療の分野では遺伝子(DNA)や蛋白質を用いた治療や薬品の開発が行われている。このような技術分野の研究機関では、化学合成した異なる遺伝子のコピーを試料としてガラス板や合成樹脂板等からなる基盤上に数千個~数万個張り付けたDNAチップと呼ばれるものが取り扱われる。また抗体、ポリペプチド断片等を含めた各種蛋白質を試料としてガラス板や合成樹脂板等からなる基盤上に数千個~数万個張り付けた蛋白質チップと呼ばれるものが取り扱われる。
【0003】
上記DNAチップ及び蛋白質チップはアレイヤーと呼ばれる装置を利用して製造される。このアレイヤーとしては、軸状の本体部の先端に転写面を形成すると共に本体部の外周に転写面と接続する溝を設けた転写部材を有し、この転写部材をキャリッジに搭載して作業領域内を移動させると共に昇降手段によって昇降させ、該転写部材が作業テーブルに接近したときに、作業テーブルに載置された基盤に液を転写し得るように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
上記アレイヤーでは、キャリッジに搭載した転写部材を移動させて基盤の所定位置に設定された10mm角の領域に、約0.2mmピッチで2500個程度の液を転写した点を形成し得るように構成されている。このため、基盤に接触する転写面の面積は極めて小さく、従って、転写部材の先端部分の径は極めて細く形成されている。
【0005】
また基盤に対する液の転写を短時間で行えるように、転写装置は、1台の保持部材に複数の転写部材を保持して構成され、且つ液の転写を安定した状態で行えるように保持部材に保持した複数の転写部材を長さ方向(軸方向)に摺動し得るように構成している。そして保持部材を下降させ、転写部材の転写面が基盤に接触した後、更に保持部材を所定寸法下降させることで、基盤に接触した転写面に転写部材の自重のみを作用させ、これにより、転写部材自体に且つ転写面に過大な力が作用することのないように構成されている。
【0006】
【特許文献1】
特許第3037691号
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記転写装置では、保持部材を昇降させる毎に該保持部材に保持された転写部材の姿勢が変化した場合、基盤に転写された液の位置が安定しないため、転写部材が安定した姿勢を保持して保持部材に対して摺動し得るように、転写部材は保持部材の同軸上に設けた2個所の穴に貫通して保持されている。しかし、穴と本体部の嵌合公差に起因して転写部材の倒れが生じることがあり、この場合、点のピッチを維持することが困難になるという問題が生じる。
【0008】
上記問題を解決するためには嵌合公差を小さくすることが好ましいが、この場合、転写部材が保持部材に対し軸方向(垂直方向)へ摺動する際の円滑性が阻害されるという問題が生じる。特に、液がDNA或いは蛋白質の試薬である場合、この試薬に不純物が混入することは致命的な欠陥となるため、摺動面に潤滑油の油膜を形成することが出来ないため、保持部材と転写部材の摺動部位に於ける円滑な摺動性が阻害されて摺動不良が生じることがある。また試薬を基盤に転写する際に、該試薬の蒸発を防ぐために雰囲気の湿度を高く設定したり、転写部材に付着した試薬を洗浄するために超音波洗浄器を用いることがあるため、保持部材と転写部材の摺動部位に水膜が形成されるようなことがある。このため、例えば、保持部材と転写部材との摺動部位にホコリが入り込んだような場合、このホコリが摺動部位に付着して摺動不良となることがある。そして摺動不良の状態が生じた場合、保持部材を上昇させても転写部材が下降せずに保持部材との相対的な位置が回復しなくなる異常状態が発生するという問題が生じることがある。
【0009】
即ち、保持部材が下降して転写部材が基盤に接触した後、更なる保持部材の下降に伴って、転写部材が保持部材に対し相対的に上昇し、その後、保持部材の上昇に伴って転写部材が相対的に下降して初期の位置を回復するが、このとき、保持部材と転写部材との間に摺動不良が生じると、両者の相対的な移動が円滑に行われずに転写部材が保持部材に対して上昇したままとなって異常状態となる。
【0010】
そして転写部材の保持部材に対する摺動が円滑に行われなくなって異常状態が発生した場合、転写部材が下降したときに転写面が基盤に接触するものの、該転写面に転写部材の自重が作用することがなく、基盤に対する液の転写が安定せずにカスレ等の転写不良が発生してしまうという問題を生じることになる。
【0011】
本発明の目的は、転写部材が異常状態になったとしても、この異常状態を解除して液を確実に基盤に転写することが出来る液の転写装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係る液の転写装置は、軸状の本体と該本体の先端に形成した転写面を有する転写部材を基盤に接触させて該基盤に液を転写する転写装置に於いて、転写部材を軸方向に摺動可能に保持する保持部材と、前記保持部材を昇降させる駆動部材と、前記保持部材に保持された転写部材の上端部と当接して昇降し且つ下降限度に到達して停止する規制部材と、を有し、前記駆動部材によって保持部材を下降限度まで下降させたとき転写部材の転写面が基盤に接触すると共に規制部材との当接が解除されて該転写部材の自重が作用して液を転写し、前記駆動部材によって保持部材を上昇させたとき保持部材に対し異常状態で保持されている転写部材の上端部が規制部材に当接して該異常状態を解除すると共に保持部材の更なる上昇に伴って規制部材も上昇し得るように構成されたものである。
【0013】
上記転写装置では、駆動部材によって保持部材を昇降させることで、該保持部材に摺動可能に保持された転写部材を基盤に対して離隔させ或いは接近させることが出来る。従って、保持部材を下降させて転写部材の本体の先端に形成された転写面が基盤に接触したとき、転写面に付着している液を基盤に転写することが出来る。
【0014】
特に、保持部材を下降させる過程で規制部材の転写部材に対する当接が解除され、更なる保持部材の下降により転写部材の転写面が基盤に接触した後、更に保持部材を下降させることで、保持部材による転写部材の保持が解除される。即ち、転写部材が保持部材に対して相対的に上昇し、該転写部材の自重が転写面に作用する。その後、保持部材が上昇するのに伴って転写部材が保持部材に対して相対的に下降して保持され、これにより、転写部材は保持部材に対する初期の位置を回復する。
【0015】
保持部材の上昇に伴って相対的に下降しない(異常状態)転写部材が生じた場合、保持部材が上昇したときに、異常状態にある転写部材の上端部が規制部材に当接することで、強制的に異常状態を解除して転写部材の保持部材に対する位置を初期の状態に回復させることが出来る。従って、常に転写部材が基盤に対して同じように接触することが可能となり、安定した状態で液を転写することが出来る。そして更なる保持部材の上昇に伴って、規制部材は転写部材の上端部と当接した状態を維持して上昇する。
【0016】
本発明に於いて、液の成分等を特に限定するものではなく、基盤上に微細な点状に転写することで、目的を達成することが出来るような液であれば良い。このような液として、例えば、化学合成した遺伝子(DNA)或いは遺伝子組み換え法により人工的に作製した遺伝子(染色体DNA,cDNA等)のコピーからなる液状の試料(試薬)、更に、抗体,ポリペプチド断片を含めた各種蛋白質を溶解させた液状の試料(試薬)を上げることが出来る。そして本発明は、このような試薬を基盤に密集させて転写してDNAチップ或いは蛋白質チップを製作する際に好ましく適用することが出来る。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、上記転写装置の好ましい実施形態について図を用いて説明する。図1は転写装置の構成を説明する図である。図2は基盤に転写する際の転写部材と保持部材との関係を説明する図である。図3は転写部材の例を説明する図である。図4は本発明に係る転写装置を搭載したアレイヤーの構成を説明する平面図である。図5は図4の側面図である。図6は本発明に係る転写装置を搭載したアレイヤーによって基盤に液を転写したときの点の分布状態を説明する図である。
【0018】
本発明に係る転写装置の説明に先立って、基盤1に試薬を転写した点2の分布状態について図6により簡単に説明する。図に於いて、基盤1はプラスチック板或いはガラス板を選択的に用いており、一般的にはスライドグラスを用いることが多い。この基盤1に液(試薬)を転写する場合の一例として、10mm角の領域内に約0.2mmのピッチ で2500個の点2を形成すると共に該領域を2×6個作成して1枚の基盤1上に30000 個の点2を形成することがある。
【0019】
尚、点2のピッチ及び1枚の基盤1上に形成する点2の数は前記値に限定するものではなく、より小さいピッチで、より高密度で形成することが要求されている。また各点2を構成する試薬が隣接する他の点2の試薬と混合すると試料としての価値がなくなるため、各点2が互いに独立した状態で転写されることが必須である。また基盤1に形成された点2を解析する場合、各点2がマトリクス上に正確に位置していることが好ましく、本発明では、前記位置を安定した状態で正確に形成することが可能なように構成している。
【0020】
次に、本実施例に係る転写装置の構成について図1,2により説明する。図に於いて、転写装置Aは、図3に示すように形成された複数の転写部材3を摺動可能に保持した保持部材5と、保持部材5を昇降させる駆動部材6と、規制部材7と、を有して構成されており、駆動部材6によって保持部材5を下降させたとき転写部材3によって基盤1に試薬を転写して点2を形成し、保持部材5を上昇させたとき、異常状態にある転写部材3を規制部材7に当接させて異常状態を解除し得るように構成されている。
【0021】
転写部材3は、軸状の本体3aと、該本体3aの端部に設けた転写面3bとを有しており、本体3aの外周に溝3cが螺旋状に形成されている。また転写部材3の上端側の端部には、本体3aの径よりも大きい径を有する頭部3dが形成されている。
【0022】
転写部材3に於ける本体3aは適度な太さを有しており、転写面3bは点2を形成するのに適した寸法を有している。転写面3bの基本的な形状は円であり、例えば、基盤1に大きさが0.2mmの点2を形成する場合、転写面3bの直径は0.15mm程度で良い。従って、本体3aの太さは転写面3bの直径よりも充分に大きい値を持って構成されており、本体3aと転写面3bはテーパ部3eによって接続されている。
【0023】
本発明に於いて、転写部材3に溝3cを形成するか否かは特に限定するものではなく、該溝3cがなくとも全く問題はない。しかし、本実施例の転写部材3では、溝3cはテーパ部3eを含む本体部3aの外周部に形成されており、転写部材3の先端部分を試薬に浸漬したとき試薬を採取して保持する機能と、転写面3bに試薬を補充する機能とを有している。
【0024】
特に、溝3cは、本体3aの外周部に螺旋状に形成され、一方側の端部が転写面3bに接続されている。この溝3cの長さ及び幅寸法,深さ寸法は特に限定するものではなく、これらの寸法を適宜設定することによって容積を設定することが可能である。
【0025】
保持部材5は、複数の転写部材3(本実施例では、8×4の32本)を夫々軸方向(本体3aの長手方向)に摺動可能に保持し得るように構成されており、基盤1に対する試薬の転写時には、転写部材3の姿勢を維持させた状態でこれらの転写部材3の重量の支持を解除し、これにより、転写面3bに転写部材3の自重を作用させて安定した転写を実現し、転写が終了した後、転写部材3を基盤1から上昇させる機能を有するものである。
【0026】
このため、保持部材5は図2に示すように、上辺5b及び底辺5cを含む箱状に形成された本体5aと、本体5aの上辺5bと底辺5cを上下方向に貫通して形成した穴5dと、上辺5bに於ける穴5dに対応して形成した凹溝5eとを有して形成されている。
【0027】
穴5aは転写部材3の本体3aを軸方向に摺動可能に嵌合するものであり、転写部材3の本体3aと穴5aは前記機能を発揮し得る嵌合公差を持って形成されている。例えば、嵌合公差が大きくなると、転写部材3の本体3aが保持部材5の穴5aに対する摺動が容易となるが、嵌合公差に於ける隙間分の転写部材3の倒れが生じると共にこの倒れの方向が保持部材5の昇降に伴って変化し、基盤1に形成された点2のピッチがバラツクという問題が生じ、嵌合公差が小さくなると、本体3aと穴5aとの隙間が小さくなって点2のピッチの精度が向上するものの本体3aが穴5aに対して摺動不良となる異常状態が生じ易くなる。
【0028】
また転写部材3の頭部3dは本体3aの径よりも大きい径を有しており、凹溝5eに嵌合して穴5aの周囲に係合することで、転写部材3の重量を保持部材に伝達すると共に保持部材5からの落下を防止している。また頭部3dは凹溝5eの深さよりも大きい長さを持って形成されており、転写部材3が保持部材5に保持された状態では常に保持部材5の上端面よりも突出した位置にあるように構成されている。従って、転写部材3が保持部材5に正常に保持されている状態であっても、転写部材3の頭部3dは規制部材7に当接することとなる。
【0029】
保持部材5はステー10を介して昇降部材11に固定されており、該昇降部材11がフレーム12に設けたガイド部材13に沿って昇降し得るように構成されている。従って、駆動部材6によって昇降部材11を昇降させることで、該昇降部材11に固定した保持部材5を昇降させることが可能である。
【0030】
上記の如く構成された保持部材5では、複数の穴5aが形成されており、該穴5a毎に転写部材3を保持することが可能である。即ち、転写部材3は穴5aに対し着脱可能に嵌合されている。従って、保持部材5に形成された複数の穴5a全てに対して転写部材3を嵌合させる必要はなく、転写の目的に従って、1本或いはそれ以上の転写部材3を所望の穴5aに対して配置することが可能である。
【0031】
駆動部材6は保持部材5を昇降駆動する機能を有するものであり、この機能を発揮し得る機構を選択的に採用することが可能である。このような機構として、例えば、可逆回転可能なモーターとボールネジとの組み合わせ、エアシリンダー等の直線往復機構等がある。
【0032】
本実施例では、可逆回転可能なモーターとボールネジとを組み合わせた機構を採用している。即ち、駆動部材6は、可逆モーター6aと、ボールネジ6bとを有して構成されている。ボールネジ6bはフレーム12に沿って配置されており、該ボールネジ6bと昇降部材11に設けた図示しないボールナットを螺合させることで、可逆モーター6aの回転方向に応じて昇降部材11(保持部材5)を昇降させるように構成されている。
【0033】
規制部材7は、保持部材5が上昇したとき、該保持部材5に保持された転写部材3の頭部3dが当接して異常状態にある転写部材3の頭部3dに荷重或いは力を作用させ、この荷重,力によって異常状態を解除させる機能を有するものである。
【0034】
本実施例に於いて、規制部材7は、保持部材5に保持された複数の転写部材3の全ての頭部3dと当接し得る面積を持った当接部材7aと、当接部材7aに起立させたガイドバー7bと、ガイドバー7bの先端に設けたストッパー7cとを有しており、ガイドバー7bを昇降部材11に設けたガイド穴に嵌合させて構成されている。またフレーム12にはブラケット14が固定され、該ブラケット14にストッパー7cと当接して規制部材7を係止する係止部14bが設けられている。
【0035】
規制部材7は、保持部材5が下降して転写部材3の転写面3bが基盤1と当接したとき、当接部材7aが頭部3dよりも上方で停止するように、ストッパー7cと係止部14bが設定されている。従って、転写部材3が基盤1に対する転写を実行しているとき、該転写部材3に対して荷重を作用させることがない。
【0036】
また規制部材7は、ガイドバー7bによって昇降方向が案内されると共にグラツキがないように構成されている。特に、規制部材7は、自由に落下し得るように構成され、ストッパー7cと係止部14bとの係合によって下降限が設定されている。このため、作業員がガイドバー7bを手に持って規制部材7を上昇させることが可能であり、これにより、当接部材7aと保持部材5との間を開くことが可能となり、保持部材5に対する転写部材3の着脱を容易に行うことが可能となる。
【0037】
上記の如く構成された規制部材7では、保持部材5が下降限からある程度上昇した位置にあるとき、当接部材7aが保持部材5に保持された転写部材3の頭部3dと当接してこれらの転写部材3に荷重を作用させ、また保持部材5が上昇限から下降すると、この下降に伴って規制部材7も下降し、ストッパー7cが係止部14bに当接したときに規制部材7の下降が停止する。このとき、転写部材3の頭部3dに対する当接部材7aの当接が解除される。
【0038】
保持部材5の下降に伴って規制部材7の当接部材7aが転写部材3の頭部3dに対する当接状態を維持して下降し、該規制部材7のストッパー7cが係止部材14bに係合して停止したとき、当接部材7aの表面(転写部材3の頭部3dと当接する面)と、転写部材3の頭部3dの表面(当接部材7aの表面と当接する面)の面の平坦度や平行度の精度が高い場合、或いは両表面に何らかの原因で液体成分が付着しているような場合、転写部材3の頭部3dが当接部材7aに付着してしまい、保持部材5が更に下降しても、転写部材3の頭部3dが当接部材7aから離隔し得なくなることがある。
【0039】
このため、当接部材7aの表面と転写部材3の頭部3dの表面、の両方、或いは何れか一方に溝加工を施して、両表面が全面接触することなく、点接触或いは線接触し得るように構成しておくことが好ましい。当接部材7aと頭部3dの互いに当接する表面をこのように加工しておくことで、両者が当接した場合であっても、対向する面の間に空気層を介在させて接触面積を小さくすることで、保持部材5の下降に伴う転写部材3の当接部材7aからの離隔を確実に行うことが可能となる。
【0040】
次に、上記の如く構成された転写装置Aにより基盤1に点2を形成し、且つ保持部材5に保持された転写部材3が異常状態になったときに、この異常状態を解除する際の手順について説明する。
【0041】
駆動部材6に駆動された保持部材5が上昇限まで上昇しているとき、保持部材5に保持された転写部材3の頭部3dには規制部材7の当接部材7aが当接し、該規制部材7の荷重が作用することで下方へ押圧されている。この状態で転写部材3の溝3cには基盤1に転写すべき試薬が保持されているものとする。
【0042】
基盤1に対する転写を実行する場合、上昇限にある保持部材5が下降を開始すると、該保持部材5に保持された転写部材3及び規制部材7が下降する。この下降の過程で規制部材7のストッパー7cがブラケット14に設けた係止部14bと当接して停止し、これにより、転写部材3に作用していた規制部材7の荷重が除去される。従って、転写部材3は保持部材5の穴5aの軸方向に摺動可能な状態となる。
【0043】
保持部材5のさらなる下降に伴って、転写部材3の転写面3bが基盤1に接触することで、転写面3bから基盤1に対して試薬を転写することが可能である。しかし、保持部材5によって複数の転写部材3を保持している場合、1本の転写部材3が基盤に接触したとしても、全ての転写部材3が同一の条件で基盤1に接触している保証はなく、転写面3bと基盤1との接触圧を確保し得る保証もない。
【0044】
このため、図2に示すように、転写部材3の転写面3bが基盤1に接触した後、保持部材5は更に下降を継続し(転写部材3が保持部材5に対し相対的に上昇する)、転写部材3の頭部3dが保持部材5の凹溝5eの底部から距離S離隔した位置まで下降する。このように、転写部材3の頭部3dが保持部材5の凹溝5eの底部から離脱することで、夫々の転写部材3の自重は転写面3bに作用することとなり、全ての転写部材3に略等しい接触圧を作用させることが可能となる。従って、基盤1に対し略同一の条件で試薬の転写を行うことが可能となる。
【0045】
尚、転写部材3が基盤1に接触した後、保持部材5が下降する距離Sは特に限定するものではなく、複数の転写部材3が夫々の自重が転写面3bに作用することを保証し得る値であれば良い。本実施例では、約1mmに設定している。
【0046】
次いで、保持部材5が下降限からの上昇を開始する。先ず、保持部材5が距離S上昇する間、転写部材3は転写面3bが基盤1に接触した状態を維持し(転写部材3が保持部材5に対し相対的に下降する)、凹部5eの底部が頭部3dと当接して保持部材5と転写部材3が同時に上昇し、転写面3bの基盤1に対する接触が解除される。
【0047】
基盤1に対する試薬の転写を行ったときに転写部材3に倒れが生じたような場合、保持部材5を上昇させたときに転写部材3が保持部材5に対して円滑な摺動を行わずに摺動不良となることがある。特に、基盤1に試薬を転写するような場合、試薬に対する混合の危険があることから、転写部材3の本体3aと保持部材5の穴5dとの摺動面に油膜を形成しておくことが出来ず、且つ基盤1に形成する点2のピッチ精度を向上させるために、本体3aと穴5dとの嵌合公差を小さくすると、摺動不良が生じ易くなる。
【0048】
上記の如くしてコジレを発生した転写部材は、頭部3dが凹溝5eの底部から離脱した状態を維持することとなり、異常状態が生じたこととなる。例えば、保持部材5に保持された複数の転写部材3の中から幾つかの転写部材3に異常状態が生じたとき、これらの転写部材3は他の転写部材3に比較して頭部3dが突出した状態を維持することとなり、保持部材5の上昇に伴って異常状態を維持して上昇する。
【0049】
保持部材の上昇に伴って、転写部材3の頭部3dはストッパー7cが係止部14bに係止されて停止していた当接部材7aに衝突して力が作用する。従って、異常状態が生じていた転写部材3の頭部3dには当接部材7aに対する衝突によって大きな力が作用し、この力によって凹溝5eに落下して異常状態が解除される。
【0050】
その後、保持部材5のさらなる上昇に伴って規制部材7も上昇し、保持部材5に保持された転写部材3の頭部3dに略均等に荷重を作用させて、保持部材5に対する転写部材3の姿勢を保持させることが可能となる。
【0051】
上記の如く、保持部材5に保持された転写部材3が異常状態を生じた場合であっても、規制部材7によって異常状態を生じた転写部材3に力を作用させることで機械的に異常状態を解除することが可能となり、保持部材5による転写部材3の保持姿勢が安定し、従って、安定した転写を実現することが可能となる。
【0052】
従って、転写部材3に対する試薬の供給、転写部材3による基盤1への転写、転写部材3の洗浄、等の工程を経る一連の動作を連続的に実行する場合、個別の動作を終了して次の動作に入る際に、保持部材5を所定の高さに退避させるように構成し、転写部材3の頭部3dの退避高さの途中の高さの位置に当接部材7aの停止位置があるように設定することで、保持部材5を個別の動作毎に昇降させる際に、転写部材3の頭部3dを当接部材7aと当接させることが可能となる。即ち、一動作毎に、転写部材3が保持部材5に対して発生する異常状態を解除することが可能となる。
【0053】
次に、本実施例に係る転写装置Aを搭載したアレイヤーBの例について図4,5により説明する。図に於いて、アレイヤーBは、作業テーブル21と、作業テーブル21のX方向に設置され移動テーブル22をX方向に駆動するX方向駆動部材23と、作業テーブル21のY方向に設置されたY方向駆動部材24と、Y方向駆動部材24に駆動されてY方向に横行するキャリッジ25と、キャリッジ25に搭載された転写装置Aと、を有して構成されている。
【0054】
作業テーブル21には予めX-Y直交座標系に従って位置が指定されると共に、基盤1を設置する領域21a,試薬を収容した容器15を設置する領域21b,超音波洗浄装置16を設置する領域21c等の機能の異なる領域21a~21cが設定されている。特に、領域21a,21bは移動テーブル22に設定され、領域21cは作業テーブル21に設定される。
【0055】
領域21aには複数の基盤1が配置される。基盤1を配列する場合、領域21aに直接載置して配列しても良い。しかし、本実施例では、領域21aに対応する移動テーブル22に位置決め部材17aを設け、この位置決め部材17aにトレイ17bを装着し得るように構成している。またトレイ17bは複数の基盤1が予め設定された列と行で配列し得るように構成されている。
【0056】
領域21bには試薬を収容した容器15が設置される。この容器15としては、例えば表面に8×12の円錐状の窪みからなる収容部が形成された所謂マイクロプレートが用いられ、個々の窪みに夫々性格の異なる試薬が収容されている。
【0057】
領域21cに設置される超音波洗浄装置16としては、一般的な洗浄に用いる超音波洗浄器を利用している。
【0058】
X方向駆動部材23は移動テーブル22をX方向に沿って移動させる機能を有するものである。従って、X方向駆動部材23としては、前記機能を満足し得るものであれば良く、特に構成を限定するものではない。本実施例では、X方向に沿ってボールネジを配置し、このボールネジに螺合させたボールナットに移動テーブル22を取り付けると共にサーボモーターによってボールネジを駆動し得るように構成している。
【0059】
Y方向駆動部材24はキャリッジ25をY方向に沿って横行させ、転写装置Aを領域21a~21cのY方向の範囲に移動させる機能を有するものである。従って、Y方向駆動部材24としては、前記機能を満足し得るものであれば良く、特に構成を限定するものではない。本実施例では、Y方向に沿ってボールネジを配置し、このボールネジに螺合させたボールナットにキャリッジ25を取り付けると共にサーボモーターによってボールネジを駆動し得るように構成している。
【0060】
上記の如く構成されたアレイヤーBでは、X-Y方向に沿って設置されたX方向駆動部材23,Y方向駆動部材24を同期させて駆動することで、移動テーブル22とキャリッジ25 (転写装置A)を作業テーブル21に設定された各作業領域21a~21cに移動させることが可能である。そして、転写装置Aを所望の領域21a~21cに移動させた後、駆動部材6を駆動して保持部材5を昇降させることで、転写部材3を各領域21a~21cに設置した基盤1,容器15,超音波洗浄装置16の何れかに接近させて目的の作業を実施することが可能である。
【0061】
次に、上記の如く構成された転写装置A,アレイヤーBにより基盤1に試薬を転写する動作について説明する。先ず、作業テーブル21に設定された各領域21a~21cに夫々基盤1,容器15を設置し、超音波洗浄装置16を洗浄し得るように用意しておく。
【0062】
転写装置Aの駆動部材6を駆動して保持部材5を上昇させ、この状態で、X方向駆動部材23,Y方向駆動部材24を駆動して容器15に対向させる。次いで、駆動部材6を駆動して保持部材5を下降させ、転写部材3を容器15の収容部に挿入し、溝3cに所定量の試薬を採取して保持する。その後、駆動部材6を駆動して保持部材5を上昇させ、X方向駆動部材23,Y方向駆動部材24を駆動して目的の基盤1に対向させ、駆動部材6を駆動して保持部材5を下降させて転写部材3の転写面3bを基盤1に当接させることで、該基盤1に対する転写作業を行う。
【0063】
転写部材3による基盤1への試薬の転写を実行する際に、転写部材3が保持部材5に対し摺動不良が生じて異常状態が発生したとき、前述したように、保持部材5の上昇により転写部材3の頭部3dが規制部材7の当接部材7aと衝突して強制的に異常状態を解除することが可能である。
【0064】
基盤1に対する一連の転写作業の途中で、或いは終了した後、保持部材5を上昇させて超音波洗浄装置16に対向させ、該転写部材3の外周面に付着している、或いは溝3cに残留している試薬を洗浄する。その後、再度保持部材5を容器15まで移動させ、既に転写した収容部以外の収容部に対向させて前述と同様にして転写部材3に試薬を採取する。このような動作を繰り返すことで、複数の基盤1に所定数の試料からなる点2を形成することが可能である。
【0065】
例えば、DNAの場合
20×SSC=3MNaCl+0.3MNaCitrate、0.02MEDTA(PH7.0 adjust)
PBS 100mM Phosphate buffer 0.138MNaCl (PH7.4)、0.0027MKCl
マウスcDNA (遺伝子名) mKIAA0054(5,953塩基対長)
文献)DNAResearch 9:179-188(2002),Okazaki,N,etal
溶液の組成
1.DNA(濃度500μg/mlの95℃、10分間熱処理したDNAを用い最終濃度100ng/μlでスポットした。
【0066】
2.希釈溶液:3×SSC(20×SSCは3M NaCl、0.3NaCitrate、0.02MEDTAを含むPH7.0に調整した水溶液)
3.有機溶媒:50%(w/w)DMSO
4.色素:0.1%キシレンシアノール
転写媒体
ナイロンメンブレン:BiodynB、PALL社製
検出
2,592個のスポッティングを試みた。
【0067】
目視にてスポットの抜けがないことが確認できた。
【0068】
また蛋白質の場合
ウサギIgG I5006(シグマ社製)
溶液の組成
1.抗体:(2mg/ml)最終濃度1μg/1μl
2.希釈溶液:PBS(100mMリン酸塩緩衝液(PH7.4)138mMNaCl 2.7mMKClを含む)でスポットした。
【0069】
3.有機溶媒:25%(w/w)グリセロール
4.色素:0.2%キシレンシアノール
転写媒体
スライドグラス:松浪硝子工業社製SDA0031
検出
2,592個のスポッティングを試みた。
【0070】
目視にてスポットの抜けがないことが確認できた。
【0071】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係る転写装置では、保持部材の上昇に伴って相対的に下降しない(異常状態)転写部材が生じた場合、保持部材が上昇したときに、異常状態にある転写部材の上端部が規制部材に当接することで、強制的に異常状態を解除して転写部材の保持部材に対する位置を初期の状態に回復させることが出来る。従って、安定した状態で基盤に液を転写することが出来る。
【0072】
また転写部材に異常状態が生じた場合であっても、この異常状態を規制部材、特に、当接部材に対して転写部材が上昇した際に、当接部材が転写部材が下降する際に作用することによって強制的に解除することが出来るので、転写部材の本体と保持部材の穴との嵌合公差を小さくすることが出来る。このため、基盤に液を転写したときの点のピッチ精度を向上させることが出来るため、転写した液の解析を行う際に各点の予め設定されたマトリクスに対する信頼性を向上することが出来る。
【0073】
また規制部材の停止位置を個別の動作毎の保持部材の退避高さよりも低い位置に設定した場合、転写部材に対する液の供給動作,転写動作,洗浄動作毎に転写部材に異常状態が生じたとしても、この異常状態を解除することが出来る。
【0074】
また規制部材が昇降可能に構成されているため、この規制部材を上昇させることによって、保持部材との間隔を大きく明けることが出来、この間隔を利用して容易に保持部材に対する転写部材の交換を行うことが出来る。このことは、例えばピンをバネによって付勢している構造では極めて手間の係る作業であったメンテナンス作業を容易に実現し得るようになったということが出来る。
【0075】
また規制部材を自重で昇降し得るように構成することによって、転写部材が保持部材に対し一様に配置されていないような場合であっても、偏荷重が作用することなく、均一の転写を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】転写装置の構成を説明する図である。
【図2】基盤に転写する際の転写部材と保持部材との関係を説明する図である。
【図3】転写部材の例を説明する図である。
【図4】本発明に係る転写装置を搭載したアレイヤーの構成を説明する平面図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】本発明に係る転写装置を搭載したアレイヤーによって基盤に液を転写したときの点の分布状態を説明する図である。
【符号の説明】
A 転写装置
B アレイヤー
1 基盤
2 点
3 転写部材
3a 本体
3b 転写面
3c 溝
3d 頭部
3e テーパ部
5 保持部材
5a 本体
5b 上辺
5c 底辺
5d 穴
5e 凹溝
6 駆動部材
6a 可逆モーター
6b ボールネジ
7 規制部材
7a 当接部材
7b ガイドバー
7c ストッパー
10 ステー
11 昇降部材
12 フレーム
13 ガイド部材
14 ブラケット
14b 係止部
15 容器
16 超音波洗浄装置
17a 位置決め部材
17b トレイ
21 作業テーブル
21a~21c 領域
22 移動テーブル
23 X方向駆動部材
24 Y方向駆動部材
25 キャリッジ
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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