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明細書 :ハイドロキシアパタイト複合体およびその製造方法、ならびに、それを用いた医療用材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3836444号 (P3836444)
公開番号 特開2004-051952 (P2004-051952A)
登録日 平成18年8月4日(2006.8.4)
発行日 平成18年10月25日(2006.10.25)
公開日 平成16年2月19日(2004.2.19)
発明の名称または考案の名称 ハイドロキシアパタイト複合体およびその製造方法、ならびに、それを用いた医療用材料
国際特許分類 C08J   7/06        (2006.01)
D06M  11/71        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C08J 7/06 Z
D06M 11/71
A61L 27/00 P
A61L 27/00 Y
請求項の数または発明の数 10
全頁数 25
出願番号 特願2003-122961 (P2003-122961)
出願日 平成15年4月25日(2003.4.25)
優先権出願番号 2002158278
優先日 平成14年5月30日(2002.5.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年12月16日(2004.12.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591108880
【氏名又は名称】国立循環器病センター総長
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】古薗 勉
【氏名】岸田 晶夫
【氏名】田中 順三
【氏名】松田 篤
個別代理人の代理人 【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
審査官 【審査官】藤本 保
参考文献・文献 特開2001-172511(JP,A)
特開2002-114859(JP,A)
特開平10-085321(JP,A)
特開平10-052488(JP,A)
調査した分野 C08J7/06
A61L27/00
D06M11/71
特許請求の範囲 【請求項1】
ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法であって、
上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程を含むことを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項2】
ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材とが化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法において、
上記高分子基材に、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を導入する導入工程と、
上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程とを含むことを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項3】
上記導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、上記反応性官能基と高分子基材とを反応させることを特徴とする請求項2記載のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項4】
さらに、導入工程の前に、高分子基材に、活性基を導入する活性基導入工程を含み、
導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させることを特徴とする請求項2記載のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項5】
上記化合物がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項3または4記載のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項6】
上記高分子基材が、医療用高分子材料であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項7】
上記医療用高分子材料が、シルクフィブロインであることを特徴とする請求項6記載のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法。
【請求項8】
ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、
上記ハイドロキシアパタイト焼結体と、上記高分子基材が有するイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合してなることを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体。
【請求項9】
ハイドロキシアパタイト焼結体が、アルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、
上記ハイドロキシアパタイト焼結体と上記高分子基材とが、化学式(1)
【化1】
JP0003836444B2_000008t.gif
(ただし、上記Xは、高分子基材を示し、Yは、ハイドロキシアパタイト焼結体を示す)
で示される構造の分子鎖により結合してなることを特徴とするハイドロキシアパタイト複合体。
【請求項10】
請求項8または9記載のハイドロキシアパタイト複合体を用いてなる医療用材料。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体適合性および生体組織に対する密着性(接着性)を有する、医療用に好適なハイドロキシアパタイト複合体およびその製造方法、ならびに、この複合体を用いてなる医療用材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリコーンゴムや、ポリウレタン等の高分子基材は、生体不活性、長期安定性、強度および柔軟性等の特性を有しており、例えば、経皮カテーテルのような医療用材料として広く用いられている。しかし、上記例示の高分子基材は、生体不活性であるために、経皮部において生体組織との接着が起こらず、皮膚のダウングロース(上皮組織がカテーテル表面に沿って内部へ陥入していく現象)、および、陥入部位における細菌感染の危険性が常に問題となっている。
【0003】
一方、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウムは、生体活性材料として、単独または無機材料や有機材料と複合化させて、医療分野において広く用いられている。上記リン酸カルシウムは、例えば、経皮カテーテル等の部材として使用されている。しかし、上記リン酸カルシウムは、脆く、成形性が悪く、および、金属性部材との結合性がない。従って、例えば、上記リン酸カルシウムを経皮カテーテルとして用いた場合には、金属性部材と、このリン酸カルシウム端子との間隙から細菌感染が起こる可能性がある等の問題があった。
【0004】
そこで、上記高分子基材の表面に、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウムを修飾したハイドロキシアパタイト複合体が提案されている。
【0005】
そして、上記高分子基材の表面に、リン酸カルシウムを修飾する方法としては、具体的には、例えば、スパッタリングイオンビームを用いて修飾する方法(特許文献1参照)、プラズマ処理法を用いて修飾する方法(特許文献2参照)、ガラスとの複合化により修飾する方法(特許文献3参照)、生体模倣反応を利用して修飾する方法(特許文献4参照)、および、交互浸漬法を利用して修飾する方法(特許文献5参照)等の方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記公報に開示の修飾法に用いられるリン酸カルシウムは、結晶構造がアモルファスであり、生体内で溶解し易いので、生体活性の持続が十分でない。従って、上記リン酸カルシウムを生体において、溶解させる用途(例えば、骨置換材料)においては、好適に使用することができるが、上記リン酸カルシウムを長期間、体内で保持する用途(例えば、経皮端子)等においては、好適に用いることができない。また、上記公報に開示の修飾法では、リン酸カルシウムを基材に、物理的または静電的に固着しており、接着強度が弱いという問題点がある。
【0007】
そこで、上記リン酸カルシウムを長期間、体内で保持する用途に使用する場合における、高分子基材の表面を上記リン酸カルシウムで修飾する方法が求められており、例えば、特許文献6や、特許文献7に開示されている方法等が挙げられる。
【0008】
上記特許文献6の腹腔内留置カテーテルでは、接着剤を用いてセラミック多孔質粒子を高分子基材の表面に固着する方法や、高分子基材を溶融してセラミック多孔質粒子を固定する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平8-56963号公報(公開日;1996年3月5日)
【0010】
【特許文献2】
特開平7-303691号公報(公開日;1995年11月21日)
【0011】
【特許文献3】
特開昭63-270061号公報(公開日;1988年11月8日)
【0012】
【特許文献4】
特開平7-306201号公報(公開日;1995年11月21日)
【0013】
【特許文献5】
特開2000-342676公報(公開日;2000年12月12日)
【0014】
【特許文献6】
特開平10-15061号公報(公開日;1998年1月20日)
【0015】
【特許文献7】
特開2001-172511公報(公開日;2001年6月26日)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献6に開示の方法では、セラミック多孔質粒子を高分子基材に物理的に接着させており、上記セラミック多孔質粒子と高分子基材との接着強度が弱いという問題点がある。
【0017】
また、上記接着剤を用いてセラミック多孔質粒子を高分子基材の表面に固着する方法では、セラミック多孔質粒子が高分子基材の表面に積層される場合があり、高分子基材の物性を損なう恐れがある。また、上記接着剤が溶出する恐れもある。
【0018】
また、高分子基材を溶融してセラミック多孔質粒子を固定する方法では、セラミックス多孔質粒子固定部位から、体内の脂質が内部に滲み込み、高分子基材の物性を損なう場合がある。
【0019】
一方、特許文献7に開示されている方法では、リン酸カルシウムに、活性基を導入する化学的前処理を行う必要がある。
【0020】
従って、リン酸カルシウムの生体活性を損なわせることなく、簡単、かつ、長期間リン酸カルシウムを定着させることができる、リン酸カルシウムの高分子基材への修飾方法およびそれによって得られるリン酸カルシウム複合体(ハイドロキシアパタイト複合体)が望まれている。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく、ハイドロキシアパタイト複合体およびその製造方法について鋭意検討した。その結果、リン酸カルシウムのうち、特定の化合物を選択し、かつ、高分子基材に特定の官能基を導入することで、これらの問題点を解決できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0022】
すなわち、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、上記の課題を解決するために、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法であって、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程を含むことを特徴としている。
【0023】
上記ハイドロキシアパタイト焼結体とは、ハイドロキシアパタイトを焼結させたものである。具体的には、例えば、ハイドロキシアパタイトを800℃~1300℃の温度範囲内で所定時間、焼結させることにより、ハイドロキシアパタイト焼結体を得ることができる。そして、ハイドロキシアパタイト焼結体の粒子の表面には、Ca10(PO46(OH)2が存在している。また、上記ハイドロキシアパタイト焼結体には、ハイドロキシアパタイトの水酸イオンおよび/またはリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物や、リン酸三カルシウム等が含まれていてもよい。
【0024】
また、上記高分子基材には、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基が存在している。
【0025】
上記の構成によれば、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させるようになっている。このイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基は、ハイドロキシアパタイト焼結体が有する水酸基(-OH)と直接、化学結合することができる。
【0026】
これにより、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、上記官能基と反応することができる活性基を導入する必要がない。つまり、ハイドロキシアパタイト焼結体に化学的前処理を行う必要がない。従って、従来と比べて簡単にハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。
【0027】
また、ハイドロキシアパタイト焼結体に、化学的前処理を行う必要がないので、この化学的前処理のためにハイドロキシアパタイト焼結体の生体活性が損なわれたり、変性したりする恐れがない。
【0028】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、上記の課題を解決するために、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材とが化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法において、上記高分子基材に、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を導入する導入工程と、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程とを含むことを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、高分子基材に、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を導入することにより、多種の高分子基材を使用することができる。
【0030】
また、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基は、ハイドロキシアパタイト焼結体と、直接、化学結合することができるので、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、上記官能基と反応することができる反応基を導入する必要がない。つまり、ハイドロキシアパタイト焼結体に化学的前処理を行う必要がないので、簡単にハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。
【0031】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、上記導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、上記反応性官能基と高分子基材とを反応させることがより好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、上記化合物の反応性官能基と高分子基材とを反応させることにより、高分子基材に、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基を導入することができる。これにより、より少ない工程で上記官能基を導入することができる。
【0033】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、さらに、導入工程の前に、高分子基材に、活性基を導入する活性基導入工程を含み、導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させることがより好ましい。
【0034】
上記の構成によれば、高分子基材に上記反応性官能基と反応することができる活性基を導入するので、多種の反応性官能基を選択することができる。これにより、上記官能基をより簡単に導入することができる。
【0035】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、上記化合物がシランカップリング剤であることがより好ましい。
【0036】
シランカップリング剤は、アルコキシシリル基と反応性官能基とを有しているので、簡単に、高分子基材にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0037】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、上記高分子基材が、医療用高分子材料であることがより好ましい。
【0038】
また、上記医療用高分子材料が、シルクフィブロインであることがより好ましい。
【0039】
上記の構成によれば、上記高分子基材が医療用高分子材料であるので、生体適合性が高いハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。
【0040】
本発明のハイドロキシアパタイト複合体は、上記の課題を解決するために、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と、上記高分子基材が有するイソシアネート基またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合してなることを特徴としている。
【0041】
上記「ハイドロキシアパタイト焼結体と、上記高分子基材が有するイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合してなる」とは、ハイドロキシアパタイト焼結体に含まれている水酸基(-OH)と、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とが直接、化学結合していることである。
【0042】
上記の構成によれば、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材の有するイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合しているので、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、化学的前処理を施す必要がない。
【0043】
また、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材の官能基(イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基)とが直接、化学結合しているので、従来のリン酸カルシウムに活性基を導入する構成に比べて、リン酸カルシウムの表面に残存した活性基がリン酸カルシウムの生体活性を損なう恐れがない。
【0044】
本発明のハイドロキシアパタイト複合体は、上記の課題を解決するために、ハイドロキシアパタイト焼結体が、アルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と上記高分子基材とが、化学式(1)
【0045】
【化2】
JP0003836444B2_000002t.gif
【0046】
(ただし、上記Xは、高分子基材を示し、Yは、ハイドロキシアパタイト焼結体を示す)
で示される構造の分子鎖により結合してなることを特徴としている。
【0047】
本発明の医療用材料は、上記の課題を解決するために、上記ハイドロキシアパタイト複合体を用いてなることを特徴としている。
【0048】
上記の構成によれば、上記ハイドロキシアパタイト複合体を用いて構成されているので、生体活性が高く、信頼性のより一層向上した医療用材料を提供することができる。
【0049】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
【0050】
本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体は、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、上記ハイドロキシアパタイト焼結体に存在する水酸基(-OH)と、上記高分子基材が有するイソシアネート基(-NCO)またはアルコキシシリル基(≡Si(OR))とが、直接、化学結合してなる構成である。本実施の形態において、アルコキシシリル基とは、Si-ORを含む基を示している。つまり、本実施の形態において、アルコキシシリル基には、≡Si-OR,=Si-(OR)2,-Si-(OR)3等が含まれる。なお、上記≡および=は、三重結合、二重結合のみを示すものではなく、それぞれの結合の手が、異なる基と結合していてもよい。従って、例えば、-SiH-(OR)2や-SiH2-(OR)等もアルコキシシリル基に含まれる。また、上記Si-ORのRとは、アルキル基または水素を示している。
【0051】
(ハイドロキシアパタイト焼結体)
本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト焼結体(ハイドロキシアパタイトセラミックスとも呼ばれる)は、リン酸カルシウムの1種である、アモルファス(非晶質)のハイドロキシアパタイトを焼結させたものである。具体的には、例えば、アモルファスのハイドロキシアパタイトを800℃~1300℃の温度範囲内で所定時間、焼結させることにより、ハイドロキシアパタイト焼結体を得ることができる。上記ハイドロキシアパタイトを焼結させることによって、結晶性を高めることができ、例えば、生体内に導入した場合における溶解性を小さくすることができる。このハイドロキシアパタイト焼結体の結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により、測定することができる。具体的には、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高い。
【0052】
そして、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト焼結体の粒子の表面には、Ca10(PO46(OH)2が存在している。このCa10(PO46(OH)2は、ハイドロキシアパタイト焼結体の表面に存在していればよく、ハイドロキシアパタイト焼結体全量に対して、0.1重量%程度含まれていればよいが、50重量%以上含まれていることがより好ましく、90重量%以上含まれていることがさらに好ましい。そして、ハイドロキシアパタイト焼結体は、このCa10(PO46(OH)2がハイドロキシアパタイト焼結体の表面に存在していることにより、後述する高分子基材の官能基と直接結合することができる。また、上記ハイドロキシアパタイト焼結体には、ハイドロキシアパタイトの水酸イオンおよび/またはリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物が含まれていてもよい。さらに、上記ハイドロキシアパタイト焼結体には、アモルファスのハイドロキシアパタイトを焼結する際に生じる、リン酸三カルシウム等が含まれていてもよい。
【0053】
本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト焼結体は、生体組織との親和性および生体環境における安定性が優れているために、医療用材料として好適である。また、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト焼結体は、生体内で溶解し難い。従って、生体内で長期間、生体活性を維持することができる。
【0054】
ここで、上記ハイドロキシアパタイト焼結体の製造方法について説明する。本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト焼結体は、アモルファスのハイドロキシアパタイトを焼結させることにより得ることができる。上記ハイドロキシアパタイトは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法等の公知の製造方法によって、人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。
【0055】
上記ハイドロキシアパタイトを焼結させる焼結温度の下限値としては、800℃以上がより好ましく、900℃以上がさらに好ましく、1000℃以上が特に好ましい。焼結温度が800℃よりも低いと、焼結が十分でない場合がある。一方、焼結温度の上限値としては、1300℃以下がより好ましく、1250℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。焼結温度が1300℃よりも高いと、ハイドロキシアパタイトが分解したり、ハイドロキシアパタイト焼結体に含まれるリン酸三カルシウムの割合が多くなり、水酸基の数が減少したりするので、高分子基材の官能基と直接、化学結合することが困難になる場合がある。従って、焼結温度を、上記範囲内とすることにより、生体内で溶解し難く(結晶性が高く)、かつ、高分子基材が有する官能基と直接化学結合することができるハイドロキシアパタイト焼結体を製造することができる。また、焼結時間としては、特に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0056】
上記ハイドロキシアパタイト焼結体は、粒子状であることがより好ましい。粒子状である場合、粒子の形状および粒子径としては、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と後述する高分子基材とが化学結合することにより、高分子基材の表面に固定できる程度の粒子の形状および粒子径であればよい。具体的には、上記粒子径の下限値としては、0.001μm以上がより好ましく、0.01μm以上がさらに好ましい。上記粒子径が0.001μmよりも小さいと、ハイドロキシアパタイト複合体を生体に埋入した場合に、後述する高分子基材の表面に固定されているハイドロキシアパタイト焼結体が溶出してしまい、生体適合性が損なわれる恐れがある。一方、上記粒子径の上限値としては、1000μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。上記粒子径が1000μmよりも大きいと、ハイドロキシアパタイト焼結体と後述する高分子基材との結合が相対的に弱くなり、得られたハイドロキシアパタイト複合体を生体に埋入した場合に、このハイドロキシアパタイト複合体が破損する場合がある。
【0057】
また、上記ハイドロキシアパタイトの焼結温度およびハイドロキシアパタイト焼結体の粒子径を制御することにより、例えば、得られたハイドロキシアパタイト複合体を生体内に埋入させたとき、ハイドロキシアパタイト焼結体の溶出速度を制御することができる。つまり、上記焼結温度および上記粒子径を制御することにより、用途に応じた、ハイドロキシアパタイト複合体の物性を設計することができる。
【0058】
(高分子基材)
本実施の形態にかかる高分子基材としては、医療用高分子材料がより好ましく、有機高分子がさらに好ましい。上記高分子基材としては、具体的には、例えば、シリコーンポリマー(シリコーンゴムであっても良い)、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子;セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等、シルクフィブロイン等の天然高分子等が挙げられる。上記例示の高分子基材のうち、長期安定性、強度および柔軟性等の特性が優れている点で、シリコーンポリマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、または、シルクフィブロインが好適に使用される。
【0059】
また、上記例示の高分子基材の代わりに、具体的には、例えば、医療用材料として好適に使用することができる、酸化チタン等の無機材料の基材を使用することもできる。従って、本発明にかかる高分子基材とは、上記酸化チタン等の無機材料からなる基材も含むものとする。
【0060】
本実施の形態にかかる高分子基材は、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有しており、具体的には、高分子基材の表面に上記官能基が存在している。上記高分子基材表面の官能基は、基材表面の高分子が有する官能基であってもよく、また、基材表面を、例えば、酸・アルカリ処理、コロナ放電、プラズマ照射、表面グラフト重合等の公知の手段によって、上記高分子基材を改質することにより導入されたものであってもよい。
【0061】
また、上記官能基を導入するために、高分子基材に活性基を導入し、この活性基を用いて官能基を導入してもよい。なお、高分子基材に上記官能基を導入する方法については後述する。
【0062】
また、上記高分子基材の形状としては、例えば、シート状、繊維状、チューブ状または、多孔体でもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0063】
(ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法)
ここで、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法について説明する。
【0064】
本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、高分子基材が有するイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程を行う方法である。
【0065】
また、上記高分子基材がイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有していない場合には、上記反応工程の前に、上記高分子基材に、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を導入する導入工程を行うことにより、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。
【0066】
(導入工程)
上記導入工程では、高分子基材(高分子基材の表面)に、官能基(イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基)を導入する。なお、以下の説明では、高分子基材に、アルコキシシリル基を導入する場合について説明する。
【0067】
上記高分子基材に、官能基を導入する方法、すなわち、導入工程としては、公知の方法により行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば、分子末端に、反応性官能基を有するシランカップリング剤等を用いることにより、高分子基材に上記官能基を導入することができる。
【0068】
ここで、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する方法の1つとして、シランカップッリング剤を用いて導入する方法について説明する。なお、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する方法は、この方法に限定されるものではなく、種々の方法を採用することができる。
【0069】
シランカップリング剤は、化学式(2)に示すような化学構造をしている。
【0070】
Z-Si≡(OR)3 ・・・(2)
上記Zは、各種合成樹脂等の有機材料(高分子基材)と化学結合することができる反応性官能基であればよく、具体的には、例えば、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基等が挙げられる。また、上記ORは、無機材料(ハイドロキシアパタイト焼結体)と化学結合することができるものであればよく、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、上記化学式(2)中の反応性官能基であるZとSiとは、高分子鎖で結合されていてもよく、低分子鎖で結合されていてもよく、直接結合されていてもよい。
【0071】
すなわち、上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤;p-スチリルトリメトキシシラン等のスチリル系シランカップリング剤;γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ系シランカップリング剤;γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ系シランカップリング剤;N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-トリエトキシ-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル系シランカップリング剤;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤等が挙げられる。上記例示のシランカップリング剤のうち、重合性モノマーであるという点で、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。上記シランカップリング剤は、高分子基材の種類、および、高分子基材表面に活性基(後述する)が導入されている場合には、この活性基の種類等によって適宜選択すればよい。
【0072】
上記シランカップリング剤を用いて、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する方法としては、具体的には、例えば、コロナ処理を施した高分子基材に、末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤を直接導入してもよい。また、界面活性剤と過酸化系開始剤とを用いて高分子基材からプロトン(水素原子)を引き抜いてラジカルを発生させることにより、上記官能基を有する非水溶性モノマーを高分子基材に、直接、グラフト重合させることができる。この方法を用いることにより、高分子基材に上記官能基を、直接、導入することができる。
【0073】
また、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する方法としては、例えば、高分子基材に予め、上記シランカップリング剤が有する反応性官能基と反応することができる活性基を導入しておき、この活性基とシランカップリング剤の反応性官能基とを反応させることにより、高分子基材にアルコキシシリル基を導入してもよい。なお、上記活性基とは、具体的には、例えば、ビニル基、アミノ基等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、上記シランカップリング剤の反応性官能基(上記化学式(2)のZ)の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0074】
ここで、高分子基材としてシルクフィブロインを用い、このシルクフィブロインに活性基であるビニル基を導入しておき、このビニル基とシランカップリング剤の反応性官能基とを反応させることにより、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する方法の具体的条件について説明する。
【0075】
まず、高分子基材に活性基を導入する工程(活性基導入工程)について説明する。高分子基材にビニル基を導入するには、例えば、高分子基材と、活性基含有化合物とを、触媒、重合禁止剤および溶媒の混合溶液中で反応させればよい。
【0076】
上記活性基含有化合物としては、具体的には、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。上記溶媒としては、極性溶媒が好ましく、例えば、脱水ジメチルスルフォキシド、脱水ジメチルフォルムアミド等が好適に使用される。重合禁止剤は、高分子基材に導入された活性基同士、および、活性基含有化合物同士が重合しないために添加する。上記重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン等が挙げられる。触媒としては、例えば、ジブチルチン(IV)ジラウレート等が挙げられる。
【0077】
上記活性基含有化合物の添加量の下限値としては、高分子基材に対して、10重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、100重量%以上が特に好ましい。上記添加量が10重量%よりも少ないと、高分子基材に、十分な量の活性基が導入されない場合がある。一方、上記添加量の上限値としては、高分子基材に対して、500重量%以下がより好ましく、400重量%以下がさらに好ましく、300重量%以下が特に好ましい。上記添加量が500重量%よりも多いと経済的でない。
【0078】
そして、反応温度の下限値としては、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましく、45℃以上が特に好ましい。上記反応温度が30℃よりも低ければ、反応が十分に起こらず、高分子基材に活性基が導入されない場合がある。一方、反応温度の上限値としては、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応温度が100℃よりも高いと、高分子基材に導入された活性基同士が反応する恐れがある。また、高分子基材が劣化する場合もある。なお、反応時間は、反応温度等により適宜設定すればよい。以上のような条件で反応させることにより、高分子基材に活性基を簡単に導入することができる。
【0079】
高分子基材に対する活性基の導入率(重量%)の下限値としては、0.1重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上がさらに好ましく、2.0重量%以上が特に好ましい。導入率が0.1重量%よりも少ないと、高分子基材に導入されるアルコキシシリル基の数が少なくなり、ハイドロキシアパタイト複合体を製造することができなくなる恐れがある。一方、導入率の上限値としては、30重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましく、20重量%以下が特に好ましい。上記導入率が30重量%よりも多いと、高分子基材に導入された活性基の数が多くなり、この活性基同士が反応する場合がある。
【0080】
次に、高分子基材の活性基と、末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤とを重合することにより、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する。
【0081】
上記シランカップリング剤としては、末端の反応性官能基が、高分子基材に導入された活性基と重合することができるものであればよく、特に限定されるものではないが、活性基としてビニル基を導入した場合には、上記メタクリロキシ系シランカップリング剤である例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を好適に使用することができる。
【0082】
そして、上記シランカップリング剤と活性基が導入された高分子基材とを、重合開始剤、溶媒の存在下で重合させることにより、高分子基材にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0083】
上記溶媒としては、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒等の無極性の有機溶媒が好適に使用される。
【0084】
また、重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を用いればよい。
【0085】
上記シランカップリング剤の使用量(添加量)の下限値としては、上記活性基が導入された高分子基材に対して、10重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、100重量%以上が特に好ましい。上記使用量が10重量%よりも少ないと、十分なハイドロキシアパタイト焼結体と反応するだけのアルコキシシリル基を導入することができない場合がある。一方、上記使用量の上限値としては、500重量%以下がより好ましく、400重量%以下がさらに好ましく、300重量%以下が特に好ましい。上記使用量が500重量%よりも多いと、経済的でない。
【0086】
また、重合は、窒素雰囲気下で行うことがより好ましい。重合温度の下限値としては、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましく、50℃以上が特に好ましい。重合温度が40℃よりも低いと、重合が十分に起こらず、高分子基材に官能基が導入されない場合がある。一方、重合温度の上限値としては、80℃以下がより好ましく、75℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。重合温度が80℃よりも高いと、高分子基材が劣化する場合がある。なお、重合時間としては、所望の導入率(高分子基材に官能基が導入される割合)となるように適宜設定すればよい。
【0087】
また、高分子基材に対する上記官能基の導入率(重量%)の下限値としては、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましい。ここで、導入率とは、高分子基材の単位重量あたりに導入されたシランカップリング剤カップリング剤の重量の割合である。上記導入率が0.1重量%以上であれば、上記高分子基材に、生体適合性を発現することができる十分な量の、ハイドロキシアパタイト焼結体を結合させることができる。一方、上記導入率の上限値としては、特に限定されるものではないが、上記導入率が100重量%よりも高いと、高分子基材に結合するハイドロキシアパタイト焼結体の量が多くなりすぎ、経済的でない場合がある。
【0088】
なお、高分子基材に、アルコキシシリル基を導入する方法としては、上記説明の方法に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。また、上記反応条件については、高分子基材、活性基含有化合物およびシランカップリング剤の種類等によって、適宜設定されるものであり、特に限定されるものではない。このようにして、高分子基材の表面に官能基を導入することができる。
【0089】
ここで、上記アルコキシシリル基を導入する別の方法について説明する。具体的には、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤と、高分子基材とを反応させることにより、高分子基材に、アルコキシシリル基を直接導入する方法である。
【0090】
まず、上記シランカップリング剤と界面活性剤とを混合しておく。そして、この混合物を高分子基材と開始剤とが含まれている水溶液中に加えて反応させる。これにより、高分子基材にアルコキシシリル基を直接導入することができる。上記方法により、高分子基材にアルコキシル基を導入する場合には、水溶液中で反応させることができるので、アルコキシシリル基が導入された高分子基材の生体に対する安全性をより向上させることができる。
【0091】
上記アルコキシシリル基を高分子基材に直接導入する方法において用いられる界面活性剤としては、具体的には、例えば、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル、ノニルフェニルポリオキシエチレン、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ドデシル-β-グルコシド等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。また、上記開始剤としては、具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム(ペルオキソ二酸カリウム)等が挙げられる。また、反応溶媒としては、水、アルコール等が好適に用いられる。
【0092】
また、上記アルコキシシリル基を直接導入する方法において、使用する界面活性剤の量としては、シランカップリング剤に対して、1.0~50.0重量%の範囲内がより好ましく、10.0~25.0重量%の範囲内がさらに好ましい。界面活性剤を上記の範囲内で使用することにより、シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基を水やアルコール等から保護することができる。
【0093】
つまり、上記アルコキシシリル基を直接導入する方法においては、アルコキシシリル基を一時的に界面活性剤で保護しておき、この保護されたアルコキシシリル基と高分子基材とを反応させることにより、高分子基材にアルコキシシリル基を直接導入することができる。
【0094】
なお、上記アルコキシシリル基を直接導入する方法における、その他の反応条件(例えば、高分子基材に対する添加量)等については、上記官能基がアルコキシシリル基の場合と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0095】
次に、上記官能基がイソシアネート基である場合について説明する。イソシアネート基を末端に有するモノマーと高分子基材と重合させて、高分子基材にイソシアネート基を導入する場合には、イソシアネート基が反応溶媒中の活性水素と反応して失活する恐れがあるために、脱水ジメチルスルフォキシド、脱水ジメチルフォルムアミド等の脱水溶媒中で反応させることが好ましい。
【0096】
また、活性水素を有する、水またはアルコール中で、末端にイソシアネート基有するモノマーを高分子基材と反応させる場合には、上記イソシアネート基が上記活性水素と反応するため、イソシアネート基を保護する必要がある。具体的には、例えば、上記イソシアネート基を、フェノール、イミダゾール、オキシム、N-ヒドロキシイミド、アルコール、ラクタム、活性メチレン複合体等のブロック剤を用いて、保護することにより重合を行うことができる。イソシアネート基を保護している上記ブロック剤は、加熱することにより脱離させることができる。従って、イソシアネート基を有するモノマーをブロック剤で保護して、高分子基材と重合させた後に、加熱することにより、高分子基材にイソシアネート基を導入することができる。
【0097】
上記ブロック剤として、例えば、フェノールを用いた場合、110~120℃の範囲内で加熱することにより、イソシアネート基を保護しているブロック剤を脱離させることができる。また、ブロック剤として、例えば、イミダゾールを用いた場合には110~130℃の範囲内、オキシムを用いた場合には130~150℃の範囲内で加熱することにより、上記ブロック剤を脱離させることができる。上記ブロック剤としては、具体的には、例えば、メチルサリチレート、メチル-p-ヒドロキシベンゾエート等のフェノール含有化合物;イミダゾール;メチルエチルケトキシム、アセトンオキシム等のオキシム含有化合物等が挙げられる。また、高分子基材の種類によっては、例えば、N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド等のN-ヒドロキシイミド含有化合物;メトキシプロパノール、エチルヘキサノール、ペントール、エチルラクテート等のアルコール含有化合物;カプロラクタム、ピロリジノン等のラクタム含有化合物;エチルアセトアセテート等の活性メチレン化合物等を使用してもよい。
【0098】
なお、上記官能基としてイソシアネートを用いた場合における、その他の反応条件(例えば、高分子基材に対する添加量)等については、上記アルコキシシリル基を高分子基材に直接導入する方法の場合と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0099】
(反応工程)
反応工程では、上記導入工程により、高分子基材に導入された官能基(イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基)とハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる。具体的には、ハイドロキシアパタイト焼結体を分散させた分散液に、上記高分子基材を浸漬することにより、高分子基材の表面にハイドロキシアパタイト焼結体を吸着させる。そして、上記表面に吸着したハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基と上記官能基とを反応させる。なお、以下の説明では、高分子基材にシルクフィブロインを用い、官能基がアルコキシシリル基である例について説明する。
【0100】
上記ハイドロキシアパタイト焼結体を分散させる分散媒としては、具体的には、例えば、トルエン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;等の有機溶媒が挙げられる。上記例示の溶媒のうち、ハイドロキシアパタイト焼結体を良好に分散させる点で、アルコール類が好適に使用される。また、例えば、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒を用いる場合、ハイドロキシアパタイト焼結体を良好に分散させるためには、例えば、▲1▼スターラー等の攪拌装置で強力に攪拌する、▲2▼超音波装置を用いて分散させる、▲3▼上記攪拌装置および超音波装置を併用する、等の方法を用いればよい。
【0101】
上記分散液の調整において、ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量の下限値としては、上記分散媒に対して、0.01重量%以上がより好ましく、0.02重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上が特に好ましい。上記ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量が0.01重量%よりも少ないと、高分子基材の表面に均一にハイドロキシアパタイト焼結体が吸着せず、均一な被覆表面を形成できなくなる場合がある。一方、上記ハイドロキシアパタイト焼結体の添加量の上限値としては、上記分散媒に対して、5.0重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下がさらに好ましく、3.0重量%以下が特に好ましい。上記添加量が5.0重量%よりも多い場合には、高分子基材の表面に吸着するハイドロキシアパタイト焼結体の量よりも、分散液に残存するハイドロキシアパタイト焼結体の量が著しく多くなり、経済的でない。
【0102】
上記高分子基材の表面に吸着したハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基と上記官能基とを反応させる反応温度の下限値としては、25℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。上記反応温度が25℃よりも低いと、ハイドロキシアパタイト焼結体と上記官能基とが反応しない場合がある。一方、上記反応温度の上限値としては、200℃以下がより好ましく、175℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましい。上記反応温度が200℃よりも高い場合には、高分子基材が分解する場合がある。
【0103】
なお、上記分散液に高分子基材を浸漬した後、反応させる前に、上記分散媒と同じ溶媒で、高分子基材を洗浄することがより好ましい。上記高分子基材を浸漬した後の高分子基材の表面には、ハイドロキシアパタイト焼結体が積層されており、洗浄しないで反応させると、ハイドロキシアパタイト焼結体が積層されるため、高分子基材の物性を損なわせる場合がある。
【0104】
また、必要に応じて、真空条件下で反応させてもよい。真空条件下でハイドロキシアパタイト焼結体と官能基とを反応させることにより、より早くハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。なお、真空条件下で反応させる場合、反応を行う圧力としては、0.01mmHg(1.33kPa)~10mmHg(13.3kPa)の範囲内が好ましい。官能基がアルコキシシリル基である場合、圧力を上記範囲内とすることにより、ハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基と官能基であるアルコキシシリル基とを反応させる際に発生するメタノール(エタノール)を除去することができる。また、上記官能基がブロックドイソシアネート基(保護されたイソシアネート基)である場合、圧力を上記範囲内とすることにより、ハイドロキシアパタイト焼結体の水酸基と官能基であるイソシアネート基とを反応させるときに発生するブロック剤(例えば、フェノール、イミダゾール、オキシム等)を効率よく除去することができる。
【0105】
なお、高分子基材の種類、および、官能基の種類によって、上記導入工程および反応工程の反応条件や溶媒の種類等は適宜変更すればよい。
【0106】
(ハイドロキシアパタイト複合体)
本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体は、高分子基材の表面に、ハイドロキシアパタイト焼結体が化学結合されている。具体的には、ハイドロキシアパタイト焼結体に存在する水酸基(-OH)と、上記高分子基材または表面修飾したリンカーが有するイソシアネート基(—NCO)またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合している。上記高分子基材のアルコキシシリル基が-Si≡(OR)3である場合、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材との間には、化学式(1)に示すような結合が存在することとなる。
【0107】
【化3】
JP0003836444B2_000003t.gif
【0108】
(ただし、上記Xは、高分子基材を示し、Yは、ハイドロキシアパタイト焼結体を示す)
上記の場合、高分子基材が備えている1つの(-Si≡(OR)3)に対して、ハイドロキシアパタイト焼結体の3個の水酸基が反応していることとなる。従って、例えば、アルコキシシリル基の数が少ない高分子基材であっても、ハイドロキシアパタイト焼結体を多く結合させることができる。従って、高分子基材にアルコキシシリル基を導入する場合には、この導入するアルコキシシリル基の数を、従来と比べて、減らすことができる。なお、上記化学式(1)のケイ素原子(Si)は、高分子基材が有するアルコキシシリル基の一部である。具体的には、上記ケイ素原子は、表面修飾したグラフト鎖の一部でもよく、高分子鎖が有するアルコキシシリル基の一部でもよい。また、上記化学式(1)の酸素原子(O)は、高分子基材が有するアルコキシシリル基の一部、または、ハイドロキシアパタイト焼結体が有する水酸基の一部である。また、上記化学式(1)のXとSiとの間は、高分子鎖で結合されていてもよく、低分子鎖で結合されていてもよく、直接結合していてもよい。
【0109】
また、上記官能基がイソシアネート基の場合には、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材とは、ウレタン結合で化学結合されている。
【0110】
また、得られたハイドロキシアパタイト複合体のハイドロキシアパタイト焼結体層の厚さとしては、高分子基材の厚さ、および、使用する用途により異なるが、例えば、経皮カテーテル用途の場合には、高分子基材の厚さを100%としたとき、0.0001%~100%の範囲内がより好ましく、0.001%~10%の範囲内がさらに好ましい。上記ハイドロキシアパタイト焼結体層の厚さを上記範囲内とすることにより、高分子基材の特性を損なわせることなく、生体適合性の優れたハイドロキシアパタイト複合体を得ることができる。また、得られたハイドロキシアパタイト複合体は、高分子基材の表面にハイドロキシアパタイト焼結体が結合されており、柔軟性に優れている。
【0111】
このように、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体は、柔軟性、強度、生体に対する密着性および生体適合性に優れるため、経皮カテーテル、経皮端子等の経皮医療器具;人工血管、人工器官等の人工臓器等の医療用材料として好適に使用することができる。また、本実施の形態にかかる製造方法では、従来と比べて、より一層簡単、かつ、複雑な形状のハイドロキシアパタイト複合体を製造することが可能である。
【0112】
また、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体の上に、必要に応じて、リン酸カルシウム系の化合物を積層させることもできる。その際、積層させるリン酸カルシウム系の化合物は、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と同じものでもよく、異なっていてもよい。
【0113】
上記ハイドロキシアパタイト複合体の上に、さらにリン酸カルシウム系の化合物を積層させる方法としては、具体的には、例えば、(1)重合性単量体とリン酸カルシウム系の化合物からなる混合物の粒子を、このハイドロキシアパタイト複合体、すなわち、高分子基材のハイドロキシアパタイト焼結体が修飾された面の上に塗布して、その後、熱、光、または放射線等により重合性単量体を重合させて固化させる方法、(2)上記ハイドロキシアパタイト複合体をカルシウムイオンとリン酸イオンとを含む溶液に浸漬して、リン酸カルシウム系の化合物を析出させる方法、(3)上記ハイドロキシアパタイト複合体を、カルシウムイオンを含む溶液とリン酸イオンを含む溶液とに交互に浸漬して、リン酸カルシウム系の化合物を析出させる方法等が挙げられる。また、上記(1)の方法の場合には、適当な形状の型を用いることで、リン酸カルシウム系の化合物を所望の形状に積層させることができる。
【0114】
また、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、ハイドロキシアパタイト焼結体と、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する高分子基材とを反応させる方法であってもよい。
【0115】
また、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基またはアルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法であって、ハイドロキシアパタイト焼結体が有する水酸基と、高分子基材が有するイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とを、直接、化学結合させる方法であってもよい。
【0116】
また、本実施の形態にかかるハイドロキシアパタイト複合体は、上記ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法によって製造されていることがより好ましい。
【0117】
【実施例】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0118】
〔実施例1〕
(ハイドロキシアパタイト焼結体の製造方法)
先ず、本実施例にかかるハイドロキシアパタイト焼結体の製造方法について説明する。
【0119】
連続オイル相としてドデカン、非イオン性界面活性剤として曇点31℃のペンタエチレングリコールドデシルエーテルを用いて、上記非イオン性界面活性剤0.5gを含有している連続オイル相40mlを調整した。次に、上記調整した連続オイル相にCa(OH)2分散水溶液(2.5モル%)を10ml添加した。そして、得られた分散液を十分に攪拌した後、その水/オイル(W/O)乳濁液に1.5モル%のKH2PO3溶液10mlを添加して、反応温度50℃で、24時間攪拌しながら反応させた。得られた反応物を遠心分離により分離することにより、ハイドロキシアパタイトを得た。そして、上記ハイドロキシアパタイトを800℃の条件で、1時間加熱することにより、ハイドロキシアパタイト焼結体の粒子を得た。このハイドロキシアパタイト焼結体は、単結晶体であり、長径が100~250nmであった。
【0120】
(ハイドロキシアパタイト複合体の製造方法)
容量200mlの3つ口フラスコに、1昼夜、真空乾燥させた、高分子基材である繊維状のシルクフィブロイン(藤村製糸株式会社製、品名;羽二重、以下、SF繊維と称する)275.24mg、脱水ジメチルスルフォキシド34ml、重合禁止剤としてヒドロキノン6.0mg、触媒としてジブチルチン(IV)ジラウレート27μl、および、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOIと称する)550mgを添加して混合した後、6時間50℃で反応させることにより、ビニル基が導入されたシルクフィブロイン繊維を得た。このとき、MOIの導入率は、23.3重量%であった。
【0121】
次に、上記ビニル基が導入されたシルクフィブロイン繊維(以下、ビニル基導入SFと称する)51.99mg、脱水トルエン10ml、開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル132.19mg、および、メタクリロキシプロピルトリメチルシラン(信越化学工業株式会社製、品番KBM-503;以下、KBMと称する)1.0gを重合ガラス管に入れ、脱気・窒素ガス充填を繰り返した後、封緘した。そして、60℃で、所定時間反応させることにより、末端にアルコキシシリル基を有する高分子鎖を高分子基材にグラフト重合させたシルクフィブロイン繊維(以下、KBM-g-SFと称する)を得た。このときの、反応時間におけるアルコキシシリル基導入率(%)を表1に示す。なお、上記導入率は、ビニル基導入SFの重量をag、KBM-g-SFの重量をbgとして、下式(1)により求めた。
【0122】
導入率(%)=((b-a)/a)×100 ・・・(1)
【0123】
【表1】
JP0003836444B2_000004t.gif
【0124】
そして、上記ハイドロキシアパタイト焼結体粒子をトルエン:メタノールが体積比9:1である混合溶媒に、10mg/mlの割合で分散させ、そのなかに、円盤状に(直径1.5cm)にくり抜いた上記KBM-g-SFを浸漬させた。そして、上記KBM-g-SFを取り出して、トルエンで十分に洗浄した後で、120℃、2時間、真空条件でカップリング反応を行った。反応後、得られた反応物を蒸留水に浸漬して、プローブ型超音波発生装置(和研薬株式会社製 型式;W-220F)にて、出力20kHz、35Wの条件で3分間処理して、未反応のハイドロキシアパタイト焼結体粒子を除去することにより、本発明にかかるハイドロキシアパタイト複合体を得た。得られたハイドロキシアパタイト複合体を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果を図1に示す。
【0125】
上記の結果から、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子がSF繊維の表面に結合していることが分かる。
【0126】
〔比較例1〕
上記アルコキシシリル基を導入しないSF繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして、SF繊維をハイドロキシアパタイト焼結体の分散している分散液に浸漬させて、ハイドロキシアパタイトを吸着させた。得られた反応物を蒸留水に浸漬して、プローブ型超音波発生装置(同上)にて、出力20kHz、35Wの条件で3分間処理して、未反応のハイドロキシアパタイト焼結体粒子を除去後、走査型電子顕微鏡で観察した。その結果を図2に示す。
【0127】
上記の結果から、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子がSF繊維の表面に結合していないことが分かる。
【0128】
〔実施例2〕
試験管に、高分子基材であるSF繊維50mg、蒸留水6ml、開始剤として過硫酸アンモニウム41mg、非イオン性界面活性剤としてペンタエチレングリコールドデシルエーテル73mg、および、反応性モノマーとしてメタクリル酸2-(o-[1´-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシルアミノ)エチル(昭和電工株式会社製、Lot No.30K01 以下、MOI-BMと称する)435mgを添加して混合した後、十分に脱気・窒素ガス充填を繰り返した後、封緘した。そして、50℃で所定時間反応させることにより、末端にオキシムでブロックされたイソシアネート基(以下、ブロックドイソシアネート基と称する)を有する高分子鎖を高分子基材にグラフト重合させたシルクフィブロイン繊維(以下、MOI-BM-g-SFと称する)を得た。このときの、反応時間におけるブロックドイソシアネート基の導入率(%)を表2に示す。なお、上記導入率は、未処理のSF繊維の重量をcg、MOI-BM-g-SFの重量をdgとして、下式(2)により求めた。
【0129】
導入率(%)=((d-c)/c)×100 ・・・(2)
【0130】
【表2】
JP0003836444B2_000005t.gif
【0131】
そして、実施例1と同様にして製造したハイドロキシアパタイト焼結体粒子をトルエン:メタノールが体積比9:1である混合溶媒に、10mg/mlの割合で分散させ、そのなかに、直径が1.5cmの上記MOI-BM-g-SFを浸漬させた。そして、上記MOI-BM-g-SFを取り出して、上記混合溶媒で十分に洗浄した後で、140℃、20分、真空条件でカップリング反応を行った。反応後、得られた反応物を蒸留水に浸漬して、プローブ型超音波発生装置(同上)にて、出力20kHz、35Wの条件で3分間処理して、未反応のハイドロキシアパタイト焼結体粒子を除去することにより、本発明にかかるハイドロキシアパタイト複合体を得た。そして、得られたハイドロキシアパタイト複合体を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果を図3に示す。
【0132】
上記の結果から、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子がSF繊維の表面に結合していることが分かる。
【0133】
〔比較例2〕
上記イソシアネート基を導入しないSF繊維を用いた以外は、実施例2と同様にして、SF繊維をハイドロキシアパタイト焼結体の分散している分散液に浸漬させて、ハイドロキシアパタイトを吸着させた。得られた反応物を蒸留水に浸漬して、プローブ型超音波発生装置(同上)にて、出力20kHz、35Wの条件で3分間処理して、未反応のハイドロキシアパタイト焼結体粒子を除去後、走査型電子顕微鏡で観察した。その結果を図4に示す。
【0134】
上記の結果から、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子がSF繊維の表面に結合していないことが分かる。
【0135】
〔実施例3〕
まず、非イオン性界面活性剤であるペンタエチレングリコールドデシルエーテル73mgとKBM323mgとを混合し、試薬を調製した。そして、試験管にSF繊維50mg蒸留水6mlおよび過硫酸アンモニウム41mgを入れ、その中に上記試薬を加えて攪拌した。次に、上記試験管内を十分に脱気・窒素ガス充填を繰り返した後、封緘した。そして、50℃で所定時間反応させることにより、末端にアルコキシシリル基を有する高分子鎖をグラフト重合させたSF繊維(以下、KBM-SFと称する)を得た。このときの反応時間におけるアルコキシシリル基の導入率(%)を表3に示す。なお、上記導入率は、未処理のSF繊維の重量をeg、KBM-SFの重量をfgとして、下式(3)により求めた。
【0136】
導入率(%)=((f-e)/e)×100 ・・・(3)
【0137】
【表3】
JP0003836444B2_000006t.gif
【0138】
また、上記のようにして得られたKBM-SFのFT-IR分析結果は、図5に示すようになった。なお、上記図中において、未処理SFは高分子基材自体のFT-IRの結果を示すスペクトルであり、下側のスペクトルは、上記KBM-SFのFT-IRスペクトルを示している。
【0139】
そして、実施例1と同様にして製造したハイドロキシアパタイト焼結体粒子をトルエン:メタノールが体積比8.8:1である混合溶媒に、5mg/mlの割合で分散させ1時間静置した。そして、そのなかに直径が1.8cmの上記KBM-SFを浸漬させた。そして、上記KBM-SFを取り出して、上記混合溶媒で十分に洗浄した後で、120℃、2時間、カップリング反応を行った。反応後、得られた反応物を蒸留水に浸漬して、プローブ型超音波発生装置(同上)にて、出力20kHz、35Wの条件で3分間処理して、未反応のハイドロキシアパタイト焼結体粒子を除去することにより、本発明にかかるハイドロキシアパタイト複合体を得た。そして、得られたハイドロキシアパタイト複合体を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果を図6に示す。
【0140】
上記の結果から、ハイドロキシアパタイト焼結体粒子がSF繊維の表面に結合していることが分かる。
【0141】
(細胞接着試験)
次に、上記実施例3にて得られた、ハイドロキシアパタイト複合体の細胞接着試験を行った。これについて以下に説明する。
【0142】
24マルチウェルディッシュに静置した上記ハイドロキシアパタイト複合体および未処理繊維(SF繊維)に対して、マウス線維芽細胞(L929)をそれぞれ1×105個/ウェルずつ播種した。なお、上記未処理繊維とは、高分子基材のみであり、これは、比較例に相当する。そして、培養液としてα-MEM培地(10%牛血清、50IUペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、2.550μg/mlアンフォテリシンB入り)を用いて、一昼夜、培養を行った。
【0143】
培養後、上記ハイドロキシアパタイト複合体および未処理繊維をリン酸緩衝液で十分に洗浄した後、細胞を固定した後、両者を走査型電子顕微鏡にて観察した。具体的には、ハイドロキシアパタイト複合体の場合を図7、未処理繊維の場合を図8に示す。この結果より、ハイドロキシアパタイト複合体の場合には、未処理繊維の場合と比較して、細胞接着性が著しく向上していることが分かる。
【0144】
【発明の効果】
本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、以上のように、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法であって、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程を含む構成である。
【0145】
上記の構成によれば、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させるようになっている。このイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基は、ハイドロキシアパタイト焼結体が有する水酸基(-OH)と直接、化学結合することができる。
【0146】
それゆえ、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、上記官能基と反応することができる活性基を導入する必要がない。つまり、ハイドロキシアパタイト焼結体に化学的前処理を行う必要がない。従って、従来と比べて簡単にハイドロキシアパタイト複合体を製造することができるという効果を奏する。
【0147】
また、本発明のハイドロキシアパタイト複合体の製造方法は、以上のように、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材とが化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体の製造方法において、上記高分子基材に、イソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を導入する導入工程と、上記高分子基材の官能基と、上記ハイドロキシアパタイト焼結体とを反応させる反応工程とを含む構成である。
【0148】
それゆえ、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、上記官能基と反応することができる反応基を導入する必要がない。つまり、ハイドロキシアパタイト焼結体に化学的前処理を行う必要がないので、簡単にハイドロキシアパタイト複合体を製造することができるという効果を奏する。
【0149】
また、上記導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含む化合物を用いて、上記反応性官能基と高分子基材とを反応させることにより、より少ない工程で上記官能基を導入することができる。
【0150】
また、導入工程の前に、高分子基材に、活性基を導入する活性基導入工程を含み、導入工程では、反応性官能基とイソシアネート基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基とを含む化合物を用いて、該反応性官能基と上記活性基とを反応させることにより、上記官能基をより簡単に導入することができる。
【0151】
また、上記化合物として、シランカップリング剤を用いることにより、簡単に、高分子基材にアルコキシシリル基を導入することができる。
【0152】
また、上記高分子基材として、医療用高分子材料を用いることにより、生体適合性が高いハイドロキシアパタイト複合体を製造することができる。
【0153】
また、上記医療用高分子材料が、シルクフィブロインであることがより好ましい。
【0154】
本発明のハイドロキシアパタイト複合体は、以上のように、ハイドロキシアパタイト焼結体が、イソシアネート基および/またはアルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と、上記高分子基材が有するイソシアネート基またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合してなる構成である。
【0155】
それゆえ、ハイドロキシアパタイト焼結体と高分子基材の有するイソシアネート基および/またはアルコキシシリル基とが、直接、化学結合しているので、従来と比べて、ハイドロキシアパタイト焼結体に、化学的前処理を施す必要がないという効果を奏する。
【0156】
本発明のハイドロキシアパタイト複合体は、以上のように、ハイドロキシアパタイト焼結体が、アルコキシシリル基を有する高分子基材に化学結合してなるハイドロキシアパタイト複合体であって、上記ハイドロキシアパタイト焼結体と上記高分子基材とが、化学式(1)
【0157】
【化4】
JP0003836444B2_000007t.gif
【0158】
(ただし、上記Xは高分子基材を示し、Yはハイドロキシアパタイト焼結体を示す)
で示される構造の分子鎖により結合してなる構成である。
【0159】
本発明の医療用材料は、以上のように、上記ハイドロキシアパタイト複合体を用いてなる構成である。
【0160】
それゆえ、上記ハイドロキシアパタイト複合体を用いて構成されているので、生体活性が高く、信頼性のより一層向上した医療用材料を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のハイドロキシアパタイト複合体の表面の画像である。
【図2】比較例1のハイドロキシアパタイト複合体の表面の画像である。
【図3】実施例2のハイドロキシアパタイト複合体の表面の画像である。
【図4】比較例2のハイドロキシアパタイト複合体の表面の画像である。
【図5】実施例3のKBM-SFのFT-IR分析結果を示すスペクトルである。
【図6】実施例3のハイドロキシアパタイト複合体の表面の画像である。
【図7】実施例3のハイドロキシアパタイト複合体を用いて細胞接着試験を行った結果を示す走査型電子顕微鏡画像を示す図面である。
【図8】比較例である、高分子基材のみを用いて細胞接着試験を行った結果を示す走査型電子顕微鏡画像を示す図面である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7