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明細書 :Zn-Al合金製制振デバイスの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4516283号 (P4516283)
公開番号 特開2004-332079 (P2004-332079A)
登録日 平成22年5月21日(2010.5.21)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
公開日 平成16年11月25日(2004.11.25)
発明の名称または考案の名称 Zn-Al合金製制振デバイスの製造方法
国際特許分類 C22F   1/16        (2006.01)
B21J   5/00        (2006.01)
B21J   5/06        (2006.01)
C22C  18/04        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22F 1/16 B
B21J 5/00 F
B21J 5/06 Z
C22C 18/04
C22F 1/00 604
C22F 1/00 630H
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 672
C22F 1/00 685A
C22F 1/00 694A
C22F 1/00 694B
請求項の数または発明の数 1
全頁数 11
出願番号 特願2003-132184 (P2003-132184)
出願日 平成15年5月9日(2003.5.9)
審査請求日 平成18年1月30日(2006.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
発明者または考案者 【氏名】江 立夫
【氏名】東 健司
【氏名】高津 正秀
【氏名】櫛部 淳道
【氏名】青木 和雄
【氏名】槙井 浩一
【氏名】古田 誠矢
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
審査官 【審査官】河口 展明
参考文献・文献 特開昭52-047552(JP,A)
特開2003-129204(JP,A)
特開平11-222643(JP,A)
調査した分野 C22F 1/16
B21J 5/00
B21J 5/06
C22C 18/00-18/04
C22F 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
室温で超塑性を発現するZn-Al合金を温間鍛造し、前記Zn-Al合金の超塑性が維持されたZn-Al合金製制振デバイスを製造する方法であって、
鍛造温度を50~200℃とし、
100mm/分以上2000mm/分以下の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行い、
その後、5mm/分以上100mm/分未満の低速鍛造で少なくとも1回鍛造することを特徴とするZn-Al合金製制振デバイスの製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、室温で超塑性を示すZn-Al合金を用いた温間鍛造方法に関するものである。本発明の方法によれば、成形金型に悪影響を及ぼすこと無しに、該合金の超塑性はそのまま高く維持された鍛造品(鍛造後の伸びは10-2/sの歪速度で100%以上)を30秒以内に鍛造できる為、耐震性デバイスの如き大型制振部材を極めて生産性よく製造する方法として非常に有用である。
【0002】
【従来の技術】
風荷重や地震荷重の歪みを吸収し、或いは歪みや揺れに追随できる所謂免震・制震デバイスとしては、Pb製ダンパー、防振ゴム、オイルダンパー、LYP(極低降伏点鋼)等の制振鋼板を用いたもの等が挙げられるが、近年、毒性のない軽量のデバイスを提供できる制震用金属への要請が高まっており、PbやLYP鋼に代替できる制震用金属として、超塑性を示すZn-Al合金が注目されている。
【0003】
本発明者らの一人も、かねてよりこうした超塑性を示すZn-Al合金について研究を進めており、例えば特許文献1及び特許文献2の超塑性Zn-Al合金製制震デバイスを開示している。この超塑性Zn-Al合金製制震デバイスは、超塑性Zn-Al合金が有する大変形特性を活かし、該特性を建築構造物のダンピング(歪吸収特性)に利用するものであるが、機械加工によって製造している為、部品の数及び工数が多く、製造時間も長くなる等、量産性の点で問題がある。即ち、上記公報では、超塑性Zn-Al合金を如何にして大型の耐震性デバイス等に加工するか、という成形加工条件からのアプローチはしていない。
【0004】
一方、従来の超塑性成形は、成形加工時の特性向上を目的とする研究が殆どであり、成形加工後の物性、例えば、延性やダンピング性などをも踏まえて加工条件を制御するといった観点からの研究もあまりなされていないのが現状である。例えば非特許文献1に記載の如く超塑性合金を高速鍛造する方法は従来でも行なわれているが、当該方法は、鍛造過程において、超塑性合金の特性(優れた延性)を利用して成形性を高めようとするものであって、鍛造後の特性は全く考慮していない為、得られる鍛造品の超塑性特性は、鍛造前に比べて低下しており、制震デバイスに適用するには不充分である。
【0005】
【特許文献1】
特開2000-352219号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開2001-234974号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】
財団法人素形材センター,革新的素形材加工技術調査「超塑性技術利用可能性調査報告書」,素形材センター研究調査報告,2002年3月,No.570,p.73
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、室温で超塑性を示すZn-Al合金を用いて温間鍛造する方法であって、成形金型に悪影響を及ぼすこと無く、当該Zn-Al合金の超塑性特性はそのまま高く維持された鍛造品を生産性よく製造する方法;及び当該方法により非常に優れた超塑性を備えた鍛造品を提供することにある。
【0007】
【課題を達成するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明の温間鍛造方法とは、室温で超塑性を発現するZn-Al合金を使用して温間鍛造するに当たり、
鍛造温度を50~200℃とし、
100mm/分以上の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行い、
その後、100mm/分未満の低速鍛造で少なくとも1回鍛造するところに要旨を有するものである。
【0008】
上記方法によって得られる鍛造品は、鍛造後の伸びが10-2/sの歪速度で100%以上と、延性に極めて優れたものであり、この様な鍛造品も本発明の範囲内に包含される。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、室温で超塑性を示すZn-Al合金を用いて耐震性デバイスの如き大型制振部材に効率よく成形し得る鍛造技術を提供するに当たり、
▲1▼生産性に極めて優れており(鍛造完了時間30秒以内)、しかも
▲2▼鍛造後においても、超塑性Zn-Al合金が有する大変形特性を具備することのできる(鍛造後の伸びは10-2/sの歪速度で100%以上)
鍛造品を提供するという観点に基づき、特に温間鍛造に着目して鋭意検討した。その結果、累積変形率(公称歪)との関係で鍛造速度を変化させ、
(イ)累積変形率70~99.0%までは、100mm/分以上の高速鍛造で鍛造し、
(ロ)その後(累積変形率100%まで)、100mm/分未満の鍛造速度で鍛造する、
という多段鍛造法を採用すれば、成形金型の割れ等金型寿命を低下させること無しに、上記▲1▼及び▲2▼の両特性を兼ね備えた鍛造品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
尚、本発明者らは先に、鍛造方法とは限定していないが温間変形を活用し、超塑性Zn-Al合金を成形することのできる加工方法を提案し、出願している(特願2001-323175;以下、先願発明と呼ぶ)。先願発明は、超塑性Zn-Al合金の大変形特性を成形加工に活かし、加工製品としての要求特性を維持しつつ、超塑性加工によりニアネット成形を行うことで生産性の向上とコスト低減を可能にする目的で提案されたものであり、▲1▼室温超塑性Zn-Al合金において超塑性特性を支配しているナノ結晶構造は昇温によって粗大化し易いこと;▲2▼その反面、超塑性は温度によって活性化されるという側面も有しており、超塑性を利用して加工する際には適度に加温することも有効であること;▲3▼ところが加工時の温度を高め過ぎると、成形加工時にナノ結晶構造の粗大化が進行し、成形体としての超塑性特性が維持できなくなること、といった知見をベースにし、超塑性の発現に必須となるナノ結晶構造を破壊することがない適切な温間成形温度であって、加工発熱を最小限に抑えつつ適切な成形速度と加工歪のバランスを追求して完成されたものである。
【0011】
上記先願発明では、温間鍛造条件ではなく温間引張条件を開示しているが、当該条件に基づいて温間鍛造を行なってみたところ、部品及び工数は削減でき、鍛造時間は約110秒(約2分間)から最大で約2400秒(40分間)と、従来法に比べれば短縮できたものの、更なる鍛造時間の要請(30秒以内、好ましくは15秒以内、より好ましくは10秒以内に鍛造完了)には未だ不充分であることが判明した。また、鍛造後の延性も目標レベル(10-2/sの歪速度で100%以上)を確保できていないことが分かった(後記する実施例を参照)。
【0012】
そこで本発明者らは、先願発明の方法を更に改善し、該合金の超塑性はそのまま高く維持された鍛造品(鍛造後の伸びは10-2/sの歪速度で100%以上)を30秒以内に鍛造できる新規な鍛造方法を提供すべく、先願発明で採用した温間加工法の考え方(温間加工条件)は基本的に踏襲しつつ、特に上記(イ)及び(ロ)に示す多段鍛造法を採用することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
以下、本発明を特徴付ける温間鍛造条件について説明する。
【0014】
鍛造温度:50~200℃
本発明では、まず、室温で超塑性を発現するZn-Al合金を50~200℃に加熱する。この温間鍛造温度は、加工時のナノ結晶構造の粗大化を防止しつつ、超塑性加工時の変形抵抗を低減して生産性を高めると共に、金型の劣化を抑えて寿命延長を図る上で重要な要件であり、好ましくは50℃以上、150℃以下とする。温間鍛造温度が50℃未満の低温では、被加工素材、即ち超塑性Zn-Al合金が延性不足になると共に鍛造時の変形荷重も過大となり、成形金型の割れが懸念される等、金型寿命の低下を招く。一方、温間鍛造温度が200℃を超えると、超塑性を発現するナノ結晶粒が粗大化し、成形品としての耐震用デバイス等に有効な超塑性特性が劣化する。
【0015】
次に、本発明を最も特徴付ける多段鍛造法について説明する。
【0016】
温間鍛造条件:下記(イ)及び(ロ)に示す通り、鍛造速度の異なる多段鍛造を採用する:
(イ)100mm/分以上の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行う工程(以下、「最初の鍛造工程」と呼ぶ場合がある);
(ロ)その後(累積変形率100%まで)、100mm/分未満の低速鍛造で鍛造する工程(以下、「最後の鍛造工程」と呼ぶ場合がある)。
【0017】
本発明法の基本的な考え方は、
▲1▼最初の鍛造工程を高速で行なって生産性を確保する(30秒以内で鍛造を完了する)と共に、
▲2▼最後の鍛造工程は最初の鍛造工程に比べて低速で行い、超塑性合金の特性を確保する(鍛造後の伸びは10-2/sの歪速度で100%以上)
というものであり、累積変形率に応じて鍛造速度を変えるという多段鍛造を実施することにより、生産性と鍛造後の特性(超塑性)を兼ね備えた鍛造品を得るものである。本発明で規定する鍛造条件は、累積変形率と鍛造速度を種々変化させながら、鍛造時間、鍛造後の伸び、成形金型に対する影響等を中心に緻密な基礎実験を行なった結果、決定したものであり、この様な多段鍛造を行なわずに一律に鍛造速度を高くして鍛造すると鍛造時の最大荷重が大きくなり、このことにより、応力集中が大きくなって成形金型の寿命が低下することが推定される。
【0018】
(イ)100mm/分以上の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行う工程(「最初の鍛造工程」)
上記「最初の鍛造工程」では、累積変形率70~99.0%までを100mm/分以上と高速で鍛造する。ここで、「100mm/分以上の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行う」とは、100mm/分以上の高速で鍛造する高速鍛造期間の終期を、少なくとも、累積変形率が70~99.0%の間に制御して行なうという意味であり、高速鍛造期間の終期が70~99.0%の間にあるものは全て、本発明の範囲内に包含される。例えば後記する実施例5及び7は、「最初の鍛造工程」を、累積変形率が62.5%までを600mm/分で鍛造し、98.8%までを1800mm/分で鍛造するとする2回高速鍛造を行なった例であるが、これらはいずれも、上述した「100mm/分以上の高速鍛造を、累積変形率70~99.0%まで、少なくとも1回行う」という要件を満たす為、本発明の範囲内に包含される。これに対し、後記する実施例8は、「最初の鍛造工程」を、累積変形率が62.5%までを600mm/分で鍛造した例であり、高速鍛造期間の終期が上記要件を満たさない為、本発明の範囲を満足しない例である。
【0019】
上記工程は、特に所望の生産性(30秒以内で鍛造完了)を確保するのに極めて重要であり、鍛造速度が100mm/分未満と遅くなると生産性が低下し、工業的規模での実用化が困難になる。生産性の観点からすれば鍛造速度の上限は特に制限されず、速ければ速いほど生産性は高められる(好ましくは500mm/分以上、より好ましくは600mm/分以上)が、使用する鍛造機の大きさや成形金型への負荷等を考慮すると、その上限を通常は2000mm/分(好ましくは1800mm/分、より好ましくは1000mm/分)とすることが推奨される。
【0020】
(ロ)その後(累積変形率100%まで)、100mm/分未満の鍛造速度で鍛造する工程(「最後の鍛造工程」)
上記「最後の鍛造工程」では、累積変形率100%までを100mm/分未満と、「最初の鍛造工程」に比べて低速で鍛造する。この工程は、鍛造後の伸び特性(10-2/sの歪速度で100%以上)を確保するのに極めて重要である。また、鍛造速度を遅くすると成形金型に沿って超塑性合金が流動して軟化していく為、所望の形状に制御することが可能であり、寸法精度という点からも有用である。更に鍛造時の最大荷重が過大となるのを防止し得る為、成形金型の寿命延長にも寄与する。これら超塑性特性、寸法精度、及び金型寿命の観点のみからすれば、上記工程の鍛造速度は遅ければ遅い程良い(好ましくは70mm/分以下、より好ましくは60mm/分以下)が、一方、鍛造速度を遅くし過ぎると生産性が低下し、所望の鍛造時間(30秒以内)を確保できなくなる。超塑性特性と生産性の両方を実現するという本発明の課題を考慮すれば、下限を5mm/分(より好ましくは20mm/分)とすることが推奨される。
【0021】
この様に本発明の最重要ポイントは、最初の鍛造工程を高速で行い、最後の鍛造工程を低速で行なって処理するという多段鍛造を採用した点にある。従って上記(イ)及び(ロ)の要件を満足する限り、「最初の鍛造工程」及び「最後の鍛造工程」の詳細な鍛造条件は特に限定されず、例えば各工程の鍛造回数は少なくとも1回であればよく、1回で鍛造しても良い(1ステップ)し、複数回(2ステップ以上)で鍛造しても良いが、特に生産性等を考慮すると、「最初の鍛造工程」を2~3ステップ、「最後の鍛造工程」を1~3ステップに分けて実施することが好ましい。また、「最初の鍛造工程」と「最後の鍛造工程」の鍛造速度の比(「最初の鍛造工程」の鍛造速度/「最後の鍛造工程」の鍛造速度)は、10以上、100以下とすることが好ましい。上記比が10未満では、多段化による鍛造時間の短縮効果が小さく、一方、上記比が100を超えると「最初の鍛造工程」の鍛造速度を極めて速くすることが必要となって、使用する鍛造機の種類が限られてしまう。
【0022】
実際には、使用する鍛造機の規模等に応じ、生産性と鍛造後の材質特性のバランスを考慮しつつ、適切な条件を具体的に設定することができる。
【0023】
代表的な鍛造方法としては、例えば後記する実験例5に示す通り、最初の鍛造工程を2回(累積変形率が62.5%までを600mm/分で鍛造し、98.8%までを1800mm/分で鍛造する)とし、最後の鍛造工程を1回(累積変形率100%までを60mm/分で鍛造する)とする合計3回の多段鍛造を行なう方法;或いは、後記する実験例7に示す通り、最初の鍛造工程を実験例5と同様に2回とし、最後の鍛造工程を3回(累積変形率が99.3%までを60mm/分、99.6%までを60mm/分、100%までを60mm/分で鍛造する)とする合計5回の多段鍛造を行なう方法が挙げられる。勿論、「最初の鍛造工程」及び「最後の鍛造工程」を夫々、1回ずつ鍛造し、合計2回の多段鍛造を行なってもよい。
【0024】
以上、本発明を最も特徴付ける鍛造条件について説明した。
【0025】
次に、鍛造に付される超塑性Zn-Al合金について説明する。
【0026】
本発明は、鍛造条件を特定したところにポイントがあり、使用する超塑性合金は、要するに常温で超塑性を有するものであれば、化学成分や金属組織、結晶粒径、結晶構造などが若干異なるものであっても適用することができる。従って、上記超塑性合金の種類は特に制限されないが、好ましいものとしては、例えば本出願人らの1人が特開平11-222643号公報に開示した超塑性Zn-Al合金が挙げられる。具体的には、
Zn含量が30質量%以上、80質量%以下、より好ましくは50質量%以上、80質量%以下で、残部が実質的にAlからなるZn-Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相又はα'相中に、平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有する超塑性Zn-Al合金、や
Zn含量が75質量%以上、99質量%以下、より好ましくは75質量%以上、81質量%以下で、残部が実質的にAlからなるZn-Al合金であって、平均結晶粒径が5μm以下のα相又はα'相、及びβ相を主要組織とし、前記α相又はα'相中に平均結晶粒径が0.05μm以下のβ相が微細分散した組織を有している超塑性Zn-Al合金であり、
この様な合金は、例えば前掲の公開公報にも記載されている如く、上記成分組成を満たすZn-Al合金を250℃以上の温度で均熱した後急冷し、次いで275℃以下の温度で温間加工してから急冷する方法、或いは、上記成分塑性を満たすZn-Al合金を250℃以上の温度で均熱した後急冷し、次いで冷間加工することによって得ることができる。
【0027】
尚、鍛造の際には、成形金型の形状に応じて上記合金の形状を適切に加工することが推奨される。一般に成形金型を用いて鍛造する際に、金型の割れや鍛造品角部の形状不良、鍛造機の荷重オーバー抑制等を防止して金型の寿命延長を図り、鍛造品の寸法精度を高めることは、当然に考慮されるべき前提事項であり、その為に、成形金型と鍛造素材の早期接触を避けて応力集中を小さくする目的で、成形金型の形状に応じて鍛造素材の形状を適切に加工することも、通常実施されている事項である。本発明においても同様であり、特に本発明では、「最初の鍛造工程」で所望の生産性を確保すると共に、「最後の製造工程」にて所望の寸法制御を得る(特に鍛造品各部の形状不良をなくす)為には、成形金型との接触(特に側面部との早期接触)が避けられる様な形状に加工して、コーナー部への応力集中を少なくすることが好ましいことを基礎実験により確認している。
【0028】
具体的には、合金形状と、鍛造後の鍛造品コーナー部の応力集中との関係を調査すべく、図1(a)に示す十字架型の金型セットを用いて図1(b)に示す剪断型デバイスに鍛造する場合における応力集中の程度を、FEMシミュレーション(MSC社製鍛造シミュレーションソフト「スーパーフォージ」)を用いて評価した(FEMシミュレーションでの相当塑性歪が2.5未満の場合、「応力集中無し」と評価した)。図中、1は下支持台、2は下金型、3はノックピン、4は芯出ロッド、5は上金型、6は上支持台、7は鍛造素材である。その結果、角型合金を使用するとコーナー部に大きな応力が集中し(FEMシミュレーションでの相当塑性歪2.5以上)、鍛造機の最大荷重が過大となって成形金型への負荷が大きくなり、金型の割れや角部の形状不良等を招くのに対し、合金形状を丸型とすれば、コーナー部への応力集中は小さくなった(FEMシミュレーションでの相当塑性歪2.5未満)。
【0029】
この様に特に鍛造工程の初期における応力集中を小さくする為には、成形金型の角部(コーナー部)に鍛造素材(合金)が衝突しない様に合金形状を適切に加工することが有用であるが、この様な合金形状は、使用する成形金型の形状に応じて概ね一義的に定めることができる。特に生産コスト等を考慮して簡易な形状に加工するという観点からすれば、例えば丸型金型を使用する場合には丸型に加工し;角型金型を使用する場合には角型に加工し;十字型金型を使用する場合には丸型若しくは菱形に加工すればよい。勿論、本発明では多角型形状への加工を排除するものではなく、生産コストが高くとも他の特性発現がより重要視される場合には、成形金型の形状によって合金形状を多角形状に加工することもできる。
【0030】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
実施例
150kgの22%Al-78%Zn合金を溶製し、55mm角×30mmtの角材及び36mmφ×90mm(高さ)の棒材に加工した。上記合金の機械的性質は、降伏強度80MPa、伸び170%(歪速度10-3/s)である。
【0032】
この角材若しくは棒材を用い、400t級油圧プレス機にて鍛造を行なった。具体的には前記図1(a)の金型を用い、大気加熱炉にて、表1に示す条件で最終板厚が10.0~11.5mmになるまで鍛造し、図1(b)の成形品を得た。表中「鍛造温度」とは、合金材料がこの温度に達した時点で直ちに鍛造を開始した温度である。また、成形金型の温度は合金温度と同じにした。
【0033】
この様にして得られた成形品のコーナー部における応力集中の有無について、前述したFEMシミュレーションで評価した(FEMシミュレーションでの相当塑性歪が2.5未満の場合、「応力集中無し」と評価した)。また、鍛造後の伸びは、図2に示す通り、鍛造品の中央部から同図に示す試験片を切出し、インストロン型引張試験機を用いて、室温にて変形速度10-2/sでの伸び値を求めた。
【0034】
これらの結果を表1に併記する。尚、最大荷重の上限は、本実施例で使用したプレス機の重量(400t)との関係で250tとした(即ち、250tを超えるものは応力集中が大きくなり、生産性や成形金型等に対して悪影響を及ぼすことから「×」とした)。
【0035】
【表1】
JP0004516283B2_000002t.gif
【0036】
まず、実験例5及び7は、いずれも本発明で規定する多段鍛造を行なった本発明例(詳細には実験例5は、最初の鍛造工程が2回、最後の鍛造工程が1回の合計3回の多段鍛造を行なった例;実験例7は、最初の鍛造工程が実験例5と同様に2回、最後の鍛造工程が3回の合計5回の多段鍛造を行なった例である)であり、鍛造後の伸びは100%超で非常に高く、鍛造時間も30秒以内に抑えられており、しかもコーナー部の応力集中も見られなかった。従って本発明法によれば、金型寿命を低下させることなく、鍛造後も優れた超塑性を有する鍛造品を、極めて生産性良く製造できることが分かる。
【0037】
これに対し、実験例1~4は、先願発明の方法を模擬して鍛造した例であり、多段鍛造しなかったものである。
【0038】
このうち実験例1及び2は、角型形状の合金を使用している為、コーナー部への応力集中が大きくなると共に、多段鍛造を行なっていない為、鍛造時間が110~230秒と長くなっている。また、鍛造後の伸びも60~70%と、所望の特性を確保できなかった。
【0039】
また、実験例3~4は、丸型形状の合金を使用している為、コーナー部への応力集中は少ないが、多段鍛造を行なっていない為、鍛造時間が非常に長くなっている。また、鍛造後の伸びも100%未満と、所望の特性を確保できなかった。
【0040】
次に、実験例6、8~9はいずれも多段鍛造を行なった例であるが、本発明で規定する要件のいずれかを満足しない為、以下の不具合を抱えている。
【0041】
まず、実験例6は、「最後の鍛造工程」での鍛造速度が速い為、最大荷重が250tを超えてしまい、金型への悪影響が生じ易い。
【0042】
実験例8は、「最初の鍛造工程」の要件を満足していない為、鍛造時間が30秒を超えている。
【0043】
実験例9は、室温で鍛造した例であり、最大荷重が400tと非常に大きくなり、鍛造品を採取することはできなかった(従って鍛造後の伸びも計測不能)。
【0044】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されているので、成形金型に悪影響を及ぼすこと無く、該合金の超塑性はそのまま高く維持された鍛造品(鍛造後の伸びは10-2/sの歪速度で100%以上)を30秒以内(好ましくは15秒以内、より好ましくは10秒以内)に鍛造できる結果、耐震性デバイスの如き大型制振部材を極めて生産性よく製造する方法として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1中(a)は実施例で用いた成形金型、(b)は当該成形金型を鍛造して得られる鍛造品の断面図である。
【図2】実施例で用いた鍛造後引張試験の概要を示す概略図である。
【符号の説明】
1 下支持台
2 下金型
5 上金型
6 上支持台
7 鍛造素材
図面
【図1】
0
【図2】
1