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明細書 :分別マーカーを用いた間葉系幹細胞の識別・分離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4540948号 (P4540948)
公開番号 特開2005-027579 (P2005-027579A)
登録日 平成22年7月2日(2010.7.2)
発行日 平成22年9月8日(2010.9.8)
公開日 平成17年2月3日(2005.2.3)
発明の名称または考案の名称 分別マーカーを用いた間葉系幹細胞の識別・分離方法
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
G01N  33/577       (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
C12N   5/07        (2010.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
G01N 33/48 M
G01N 33/50 P
G01N 33/53 D
G01N 33/53 M
G01N 33/566
G01N 33/577 B
G01N 33/68
G01N 37/00 102
C12N 5/00 E
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2003-271649 (P2003-271649)
出願日 平成15年7月7日(2003.7.7)
審判番号 不服 2007-001090(P2007-001090/J1)
審査請求日 平成15年7月7日(2003.7.7)
審判請求日 平成19年1月12日(2007.1.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】595025305
【氏名又は名称】加藤 幸夫
【識別番号】503328193
【氏名又は名称】株式会社ツーセル
発明者または考案者 【氏名】加藤 幸夫
【氏名】辻 紘一郎
【氏名】原 真依子
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
参考文献・文献 J.Clin.Invest., (1995) 95, p881-887
Biochem.J., (1999) 344, p297-303
広島大学歯学雑誌(2003.06.01)35, 1, p151-153
Blood, (1997) 90, 9, p3471-3481
調査した分野 C12N15/00-15/90
C12N5/00
C12Q1/68
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチンの遺伝子を分別マーカーとし、間葉系幹細胞及び繊維芽細胞において、遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを添加して活性化した遺伝子の発現及び/又は該活性化した遺伝子がコードするタンパク質を検出することにより、該遺伝子の間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける発現の差を検出して、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを識別することを特徴とする間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項2】
分別マーカー遺伝子の検出が、定量的又は半定量的PCRの使用を含んでいることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項3】
定量的又は半定量的PCRの使用が、RT-PCR法であることを特徴とする請求項2記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項4】
分別マーカー遺伝子の検出が、該遺伝子の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列からなる遺伝子検出用プローブを用いて行われることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項5】
遺伝子検出用プローブが、該遺伝子の塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる請求項4記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項6】
分別マーカー遺伝子がコードするタンパク質の検出が、該タンパク質によって誘導され、該タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて行われることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項7】
抗体が、モノクロナール抗体であることを特徴とする請求項6記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項8】
被検細胞中における間葉系幹細胞を、分別マーカー遺伝子がコードするタンパク質に特異的に結合する抗体を用いた蛍光抗体法により標識化し、該標識化した間葉系幹細胞を分離・識別することを特徴とする請求項6又は7記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法
【請求項9】
ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチン遺伝子からなる分別マーカー遺伝子検出用のプローブ、及び分別マーカー遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを装備するか、及び/又は、ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチンの遺伝子がコードするタンパク質検出用の抗体、及び分別マーカー遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを装備してなる間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別用キット
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の検出、識別・分離に関し、特に、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とでその発現が異なる、間葉系幹細胞検出用遺伝子マーカー及び/又は間葉系幹細胞検出用タンパク質マーカーを用いた間葉系幹細胞の識別・分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、哺乳類の骨髄等に存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する多能性の幹細胞として知られている。間葉系幹細胞は、その分化多能性の故に、骨、軟骨、腱、筋肉、脂肪、歯周組織など、多くの組織の再生医療のための移植材料として注目されている(遺伝子医学、Vol.4、No.2(2000)p58-61)。最近、間葉系幹細胞研究の現状と展望についての総説が発行され、間葉系幹細胞の採取や培養に関する報告がなされている(実験医学、Vol.19、No.3(2月号)2001、p350-356)。更に、脂肪組織にも間葉系幹細胞が存在することが報告された(Tissue Engineering, P.A. Zuk et al., Multilineage cells from human adipose tissue : implications for cell-based therapies. 7 : 211-228, 2001)。
【0003】
近年、間葉系幹細胞の培養、分化等に関しいくつかの特許出願が公開されている。例えば、特表平11-506610号公報には、無血清環境下でヒト間葉前駆細胞の生存を維持する組成物及び方法について、特表平10-512756号公報には、間葉系幹細胞の分化を誘導するために、プロスタグランジン、アスコルビン酸、コラーゲン細胞外基質等からなる骨誘導因子、分化付随因子、軟骨誘導因子等の生物活性因子と接触させることよりなる方法について、特開2000-217576号公報には、プロラクチン又はその同効物の共存下で多能性間葉系幹細胞を培養し、間葉系幹細胞を脂肪細胞へ分化させる方法について、それぞれ発明が開示されている。
【0004】
本発明者は、先に、基底膜細胞外基質の存在下において、または繊維芽細胞増殖因子(FGF)等の含有培地で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞が著しく速く増殖させ、かつ、その分化能を維持できることを見い出して、従来の培養方法と比較して顕著に多くの間葉系幹細胞を得る培養方法を開示した(特開2003-52360号公報)。また、間葉系幹細胞の採取に際して、採取母体に安全で、且つ採取が容易な分離採取を行うために、口腔組織から間葉系幹細胞を分離採取する方法を開示した(特開2003-52365号公報)。
【0005】
近年、再生医療の進展とともに、間葉系幹細胞は、その分化多能性の故に、骨、軟骨、腱、筋肉、脂肪、歯周組織など、多くの組織の再生医療のための移植材料として注目されている。間葉系幹細胞を、組織の再生医療に利用するためには、まず、この幹細胞を生体組織から採取し、それを増殖し、更にそれを分化増殖して、組織の調製を行うことが必要となる。間葉系幹細胞は骨髄や骨膜に存在するが、組織再生医療への実用化のためには、まず、これらの組織から間葉系幹細胞を安全且つ容易に採取する方法を開発することが必要である。そして、間葉系幹細胞を組織再生医療へと実用化するためには、間葉系幹細胞を十分な量確保する技術を開発することが必要である。そのためには、採取した間葉系幹細胞を分化能力を維持したまま培養増殖させる技術を開発することが重要である。
【0006】
本発明者は、上記の通り、間葉系幹細胞の採取に際して、採取母体に安全で、且つ採取が容易な分離採取を行うための方法を開発した。更に本発明者は、基底膜細胞外基質の存在下において、あるいは繊維芽細胞増殖因子(FGF)等の含有培地で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞をその分化能を維持したまま爆発的に増殖させる方法を開発した。しかしながら、培養増殖した間葉系幹細胞を再生医療へと実用化するためには、培養した細胞が間葉系幹細胞であることを確認する必要があり、該間葉系幹細胞を検出、識別する方法を開発することが必要である。従来、間葉系幹細胞において、該細胞を特徴づけるマーカー遺伝子の特定はなされてきていなかった。したがって、間葉系幹細胞を特徴づけるマーカー遺伝子を特定し、間葉系幹細胞を検出、分離・識別する方法を開発することは、間葉系幹細胞を再生医療へと実用化するために、解決されなければならない重要な課題である。

【特許文献1】特表平10-512756号公報。
【特許文献2】特表平11-506610号公報。
【特許文献3】特開2000-217576号公報。
【特許文献4】特開2003-52360号公報。
【特許文献5】特開2003-52365号公報。
【非特許文献1】遺伝子医学 Vol.4、No.2(2000)p58-61。
【非特許文献2】実験医学 Vol.19、No.3(2月号)2001、p350-356。
【非特許文献3】Tissue Engineering, P.A. Zuk et al., Multilineage cells from human adi pose tissue : implications for cell-based therapies. 7 : 211-228, 2001 。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、形態的に類似しており、その区別が困難な間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを、効果的に識別し、分離する方法、特には、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とでその発現が異なる、間葉系幹細胞検出用遺伝子マーカー及び/又は間葉系幹細胞検出用タンパク質マーカーを用いて間葉系幹細胞の検出、及び識別・分離を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、間葉系幹細胞は繊維芽細胞よりも高いレベルのビタミンD応答能を有していること、及び、ビタミンD受容体の標的遺伝子であるオステオカルシン及びオステオポンチンの遺伝子のようなビタミンD受容体関連遺伝子が骨分化を誘導する以前から間葉系幹細胞に発現していることを解明し、該ビタミンD受容体の遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質、或いは該ビタミンD受容体関連遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質を間葉系幹細胞と繊維芽細胞との分別マーカーとして用い、被検細胞における該遺伝子及びタンパク質の発現を検出することにより、間葉系幹細胞と繊維芽細胞との効果的な識別・分離が可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。また、本発明においては、オステオカルシン遺伝子及びオステオポンチン遺伝子のようなビタミンD受容体の標的遺伝子が、1,25水酸化ビタミンDのような遺伝子の発現活性化物質の添加により、間葉系幹細胞中において、その発現が亢進されることを見い出し、該亢進した遺伝子の発現を検出することにより、効果的な間葉系幹細胞の識別・分離が可能であることを見い出し、更に本発明をなした。
【0009】
すなわち、間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経などに分化することから、再生医療への利用の観点から、これらの組織の障害を修復させるための移植用細胞として期待されている細胞であるが、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とは形態的に区別がつかないため、従来、間葉系幹細胞であることを確認するためには、in vitroまたは、in vivoで多分化能を証明する以外に確実な方法はなかった。しかし、間葉系幹細胞を組織再生医療に実用化するためには、その細胞が間葉系幹細胞であること、及び該間葉系幹細胞が多分化能を維持していることを予知する必要があり、予め繊維芽細胞との識別を行う方法の開発が必要とされてきた。今まで、間葉系幹細胞には多くの細胞表面抗原が発現していることが報告されているが、しかし、これらの細胞表面抗原が間葉系幹細胞に特異的或いは選択的であることを示す明確な証拠は示されていない。
【0010】
本発明者は、多くの細胞表面抗原の発現レベルをヒト間葉系幹細胞とヒト繊維芽細胞との間で比較したが、明確な差異を示す抗原はこれまでのところ発見できていない。そこで、本発明者は、先に、間葉系幹細胞検出用のマーカーとなる遺伝子を見い出すべく、鋭意探索を行った結果、13の遺伝子が間葉系幹細胞で特異的に発現していることを見い出し、該遺伝子を間葉系幹細胞検出用のマーカーとして用いて、間葉系幹細胞と繊維芽細胞を識別する方法を開発し、特許出願を行った(特願2003-63077号)。
【0011】
本発明者は、更に、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを、効果的に識別し、分離するマーカーについて鋭意探索した結果、間葉系幹細胞では繊維芽細胞よりも高いレベルのビタミンD応答能を有していること、及びオステオカルシンの遺伝子のようなビタミンD受容体関連遺伝子が骨分化を誘導する以前から間葉系幹細胞で発現していることを解明し、該ビタミンD受容体の遺伝子又はタンパク質、或いは該ビタミンD受容体関連遺伝子又はタンパク質が間葉系幹細胞と繊維芽細胞との分別マーカーとして用いることができることを見い出した。更に、本発明においては、オステオカルシン遺伝子及びオステオポンチン遺伝子のようなビタミンD受容体の標的遺伝子が、活性型1,25水酸化ビタミンDのような遺伝子の発現活性化物質の添加により、間葉系幹細胞中において、その発現が亢進されることを見い出した。一方、これらの発現は、1,25水酸化ビタミンDの添加或いは非添加に関わらず繊維芽細胞ではほとんど検出できなかった。
【0012】
したがって、本発明において、該ビタミンD受容体、オステオカルシン遺伝子のようなビタミンD受容体関連遺伝子、更には、活性型1,25水酸化ビタミンDのような遺伝子の発現活性化物質の添加により、その発現が亢進されたオステオカルシン及びオステオポンチンなどのビタミンD受容体の標的遺伝子の発現を検出することにより、間葉系幹細胞の新しいマーカーとして、繊維芽細胞との区別が可能になることが判明したことから、これらの新しいマーカーを用いて、間葉系幹細胞を繊維芽細胞のような他細胞集団から効果的に識別・分離する方法を構築することが可能となる。また、本発明の方法は、試験管で増殖させた間葉系幹細胞の品質を検定することも可能とする。したがって、本発明は、再生医療への間葉系幹細胞の利用に貢献できるものである。
【0013】
すなわち具体的には本発明は、ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチンの遺伝子を分別マーカーとし、間葉系幹細胞及び繊維芽細胞において、遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを添加して活性化した遺伝子の発現及び/又は該活性化した遺伝子がコードするタンパク質を検出することにより、該遺伝子の間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける発現の差を検出して、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを識別することを特徴とする間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項1)からなる

【0014】
また本発明は、分別マーカー遺伝子の検出が、定量的又は半定量的PCRの使用を含んでいることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項2)や、定量的又は半定量的PCRの使用が、RT-PCR法であることを特徴とする請求項2記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項3)や、分別マーカー遺伝子の検出が、該遺伝子の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列からなる遺伝子検出用プローブを用いて行われることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項4)や、遺伝子検出用プローブが、該遺伝子の塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなる請求項4記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項5)からなる。

【0015】
更に本発明は、分別マーカー遺伝子がコードするタンパク質の検出が、該タンパク質によって誘導され、該タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて行われることを特徴とする請求項1記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項6)や、抗体が、モノクロナール抗体であることを特徴とする請求項6記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項7)や、被検細胞中における間葉系幹細胞を、分別マーカー遺伝子がコードするタンパク質に特異的に結合する抗体を用いた蛍光抗体法により標識化し、該標識化した間葉系幹細胞を分離・識別することを特徴とする請求項6又は7記載の間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別方法(請求項8)や、ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチン遺伝子からなる分別マーカー遺伝子検出用のプローブ、及び分別マーカー遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを装備するか、及び/又は、ビタミンD受容体遺伝子の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子或いはオステオポンチンの遺伝子がコードするタンパク質検出用の抗体、及び分別マーカー遺伝子の発現活性化物質である1,25水酸化ビタミンDを装備してなる間葉系幹細胞の繊維芽細胞からの識別用キット(請求項9)からなる。

【発明の効果】
【0016】
本発明により、ビタミンD受容体遺伝子及びその関連遺伝子を分別マーカーとし、該遺伝子の間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける発現の差を検出して、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを識別・分離する方法を確立したことにより、その形態において区別の困難であった間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを、容易にかつ効果的に分別することが可能となった。このことより、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経等、多分化能を有する間葉系幹細胞を、再生医療へ利用する場合に障害となっていた繊維芽細胞との分別の問題を克服することができ、本発明は間葉系幹細胞の再生医療等への利用に大きく貢献することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ビタミンD受容体遺伝子及び/又はその関連遺伝子を分別マーカーとし、該遺伝子の間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける発現の差を検出して、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とを識別・分離し、間葉系幹細胞を取得することよりなる。該分別マーカーの発現の差の検出は、ビタミンD受容体遺伝子及び/又はその関連遺伝子の発現の検出、或いは該遺伝子がコードするタンパク質の検出によって行われる。ビタミンD受容体の関連遺伝子としては、オステオカルシンの遺伝子のような、ビタミンD受容体の標的遺伝子を挙げることができる。本発明で間葉系幹細胞と繊維芽細胞との分別マーカーとして用いられるビタミンD受容体遺伝子及び該遺伝子がコードするタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列は既に公知であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85, 10, 3294-3298, 1988)、その遺伝子のDNA配列情報は、NCBIの遺伝子データーベースにおいて、アクセッションナンバー:NM_000376によりアプローチすることができる。ビタミンD受容体遺伝子については、いくつかの遺伝子多型が知られている(特開2001-333798号公報、特開2001-29088号公報、特表2002-525074号公報)。
【0018】
また、本発明で、間葉系幹細胞と繊維芽細胞との分別マーカーとして用いられるビタミンD受容体の標的遺伝子であるオステオカルシンの遺伝子の塩基配列及びオステオカルシンのアミノ酸配列は既に公知であり(J. Biol. Chem. 255, 8685-8691, 1980)、その遺伝子のDNA配列情報は、NCBIの遺伝子データーベースにおいて、アクセッションナンバー:NM_000711によりアプローチすることができる。オステオカルシン(bone gla protein:BGP)は、骨の非コラーゲン性タンパク質の約20%を占めるタンパク質で、ヒトオステオカルシンは、分子量5800で49のアミノ酸より構成されている。
【0019】
更に、本発明で、間葉系幹細胞と繊維芽細胞との分別マーカーとして用いられるビタミンD受容体の標的遺伝子であるオステオポンチンの遺伝子の塩基配列及びオステオポンチンのアミノ酸配列は既に公知であり(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 8819-8823, 1986)、その遺伝子のDNA配列情報は、NCBIの遺伝子データーベースにおいて、アクセッションナンバー:NM_000582によりアプローチすることができる。オステオポンチン(bone sialoprotein-1:BSP-1)は、骨の主要なリンタンパク質であり、シアル酸を含む。オステオポンチンは、301のアミノ酸よりなり、ホスホセリンを12残基、ホスホスレオニンを1残基持っている。
【0020】
本発明においては、間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける上記のような分別マーカー遺伝子の発現の差を、後記するそれ自体公知の遺伝子の検出手段を用いて検出し、間葉系幹細胞の識別・分離を行う。本発明の分別マーカー遺伝子の発現を、該遺伝子がコードするタンパク質として検出する場合には、該タンパク質を用いて該タンパク質に特異的に結合する抗体を作製し、該抗体を用いて、後記するそれ自体公知の方法で分別マーカータンパク質の間葉系幹細胞と繊維芽細胞とにおける発現を検出し、間葉系幹細胞の識別・分離を行う。該分別マーカータンパク質の発現の検出に用いる抗体としては、モノクロナール抗体及びポリクロナール抗体のいずれをも用いることができる。
【0021】
本発明においては、間葉系幹細胞において、1,25水酸化ビタミンDのような遺伝子の発現活性化物質の添加により、オステオカルシンの遺伝子やオステオポンチンの遺伝子のようなビタミンD受容体の標的遺伝子の発現が、特異的に亢進されることが見出されている。したがって、本発明においては、遺伝子の発現活性化物質の添加により、オステオカルシンの遺伝子やオステオポンチンの遺伝子のような分別マーカー遺伝子の発現を亢進させ、該亢進された遺伝子の発現を検出することにより、間葉系幹細胞の識別・分離を効果的に行うことができる。
【0022】
本発明において、本発明におけるマーカー遺伝子の発現を検出するには、公知の遺伝子の発現の検出に用いられている方法を用いることができる。例えば、本発明におけるマーカー遺伝子の発現の検出のために、ノーザンブロッティング法を用いることができる。また、本発明における遺伝子マーカーの発現を検出、識別するために、本発明における遺伝子マーカーのDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有するプローブを用いることができる。該プローブを用いて間葉系幹細胞及び繊維芽細胞における遺伝子の発現を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、公知の遺伝子マーカーのDNA配列から適宜の長さのDNAプローブを作製し、適宜蛍光標識等の標識を付与しておき、これを被検体とハイブリダイズすることにより、間葉系幹細胞の検出を行う。該DNAプローブとしては、公知の遺伝子マーカーの塩基配列のアンチセンス鎖の全部又は一部からなるマーカー遺伝子検出用プローブを用いることができる。また、該プローブを、少なくとも1つ以上を固定化させたマーカー遺伝子検出用のマイクロアレイ又はDNAチップの形で用いることもできる。
【0023】
なお、上記DNAプローブの作製に際して、本発明の塩基配列において、「マーカー遺伝子のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0024】
更に、本発明においては、本発明におけるタンパク質マーカーの検出に際して、該タンパク質によって誘導され、該タンパク質に特異的に結合する抗体を用いることができる。該抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を挙げることができる。該抗体の作製は、本発明のポリペプチドマーカーを抗原として、常法により作製することができる。本発明の抗体を用いて、被検細胞におけるマーカータンパク質の発現を検出するには、公知の抗体を用いた免疫学的測定法を用いて実施することができる。該免疫学的測定法としては、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的測定法を挙げることができる。
【0025】
本発明においては、本発明における遺伝子マーカー及びタンパク質マーカーの検出用プローブ及び/又は検出用抗体を用いて、被検細胞におけるマーカー遺伝子及び/又はマーカーポリペプチドの発現を検出し、繊維芽細胞と識別して間葉系幹細胞を分離し、取得することができる。被検細胞におけるマーカー遺伝子の検出に際しては、被検細胞の遺伝子を増幅するために、定量的又は半定量的PCRを用いることができる。該PCRとしてはRT-PCR(逆転写PCR)を用いることができる。該PCRを行うに際しては、本発明におけるマーカー遺伝子を増幅するためのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーからなるプライマーを用いる。
【0026】
本発明におけるの抗体を用いて蛍光抗体法により、間葉系幹細胞を標識化し、被検細胞における間葉系幹細胞マーカーポリペプチドの発現を検出し、間葉系幹細胞を識別、分離することができる。蛍光抗体法により未分化造血細胞を標識化するには、本発明におけるタンパク質マーカーに特異的に結合する抗体を蛍光標識し、これを抗原を発現している間葉系幹細胞に結合させて、間葉系幹細胞を標識化する(直接蛍光抗体法)か、或いは、抗原を発現している間葉系幹細胞に、未標識の本発明の特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて間葉系幹細胞を標識化し(間接蛍光抗体法)、該標識化した間葉系幹細胞を分離、採取する。
【0027】
本発明の間葉系幹細胞の検出、識別に用いるマーカー遺伝子検出用プローブ、該プローブを固定したマーカー遺伝子検出用マイクロアレイ又はDNAチップ、及び本発明における間葉系幹細胞検出用の抗体は、それらを装備した間葉系幹細胞の識別用キットとして製品化しておくことができる。
【実施例1】
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[材料及び方法]
この実施例では、どの系列にも分化が決定されていない増殖期(70-80%コンフルエント)でのヒト骨髄間葉系細胞とヒト繊維芽細胞の骨、軟骨、脂肪関連遺伝子の発現レベルを比較した。
ヒト骨髄間葉系細胞(human mesenchymal stem cell)は、腸骨或いは歯槽骨より分離した。或いは購入した。ヒト繊維芽細胞(human fibloblast)は、購入或いは、歯肉組織より分離培養した。
これらの細胞はいずれも、1ng/mlのbFGF及び10%ウシ胎児血清(FCS)を含む培地を用いて37℃、5%炭酸ガス存在下にて培養した(Biochemical and Biophysical Research Communication, 288, 413-419, 2001)。本実施例では、3~7回継代したものを用いた。骨分化はコンフルエントに達した骨分化誘導培地(10%FBS含有αMEMに、100nMデキサメタゾン、10mM β-グリセロールリン酸、50μg/mL アスコルビン酸-2-リン酸を加えた培地)を用いて、37℃、5%炭酸ガス存在下にて28日培養して誘導した(Science 284, 2, 1999)。この条件でヒト骨髄間葉系細胞の培養系は広範囲に一様にアリザリン赤によって染色されたことから、骨分化と石灰化が起こっていたことが示された。
【実施例2】
【0029】
[増殖期でのヒト未分化骨髄間葉系細胞とヒト繊維芽細胞でのマーカー遺伝子の発現レベルの比較]
各細胞からTrizol Reagent(Invitrogen社製)を用いて全RNAを抽出後、各全RNAを1μgを鋳型としてSuperScrit first-strand system or RT-PCR(Invitrogen社製)を用いて、42℃、50分間の逆転写反応を行ってcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型としてAdvantage 2 PCR enzyme system(Clontech社製)を用いて各遺伝子マーカーを増幅した。94℃30分間で変性、68℃1分間でアニールを30サイクル行った。増幅に用いた各遺伝子のプライマー配列を表1にまとめた。増幅した遺伝子を1%アガロースゲルを用いた電気泳動にて分離し、エチジウムブロマイド染色によって染色した。
【0030】
【表1】
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【0031】
増殖期(70~80% コンフルエント)でのヒト未分化骨髄間葉系細胞とヒト繊維芽細胞でのosteocalcin(オステオカルシン)(図では、OCと略す),osteopontin(オステオポンチン)(OP), bone sialoprotein(BSP), alkaline phosphatase(ALP), type II collagen(Coll 2), aggrecan(AGG), Sox 9, PPAR-gamma 2(PPAR2) mRNAの発現レベルの比較(図1)。
増殖用培地で培養した増殖期(70~80% コンフルエント)での未分化骨髄間葉系細胞は、これまでの研究から予想されたように、増殖が停止していないのでまた骨誘導培地を添加していないので骨分化していなかった。つまりアリザリン赤染色で染まらず石灰化していなかった。しかし7個体から分離したヒト未分化骨髄間葉系細胞の全てで(個体によって発現に強弱があるものの)、最も代表的な骨マーカー遺伝子であるオステオカルシン mRNAの発現が観察された。一方、4個体から分離したヒト繊維芽細胞はいずれもオステオカルシン mRNAを発現していなかった(図1)。
【0032】
オステオカルシン(osteocalcin)以外に、オステオポンチン(osteopontin)、bone sialoprotein、alkaline phosphataseも骨芽細胞でその発現が上昇することが知られている。しかし、これらのマーカーの発現には個体差があり、個体によって発現しているものとしていないものがあった。なお4個体から分離したヒト繊維芽細胞では、2個体由来の細胞できわめて低レベルのalkaline phosphatase mRNAが検出された以外、これらの発現は観察されなかった(図1)。
軟骨マーカーであるtype II collagen, aggrecanの発現については、検討したほとんどの未分化骨髄間葉系細胞で低レベルのaggrecan mRNAが検出されたが、最も重要な軟骨マーカーtype II collagen mRNAは一例も検出できなかった(図1)。一方、これらの軟骨マーカーは(2個体由来の細胞できわめて低レベルのaggrecan mRNAが検出された以外)、検討した全てのヒト繊維芽細胞で発現していなかった(図1)。
【0033】
脂肪細胞マーカーであるPPAR-gamma 2(PPAR2) mRNAは、全ての骨髄間葉系細胞とヒト繊維芽細胞で発現していたが(図1)、別の脂肪細胞マーカーであるAP2 mRNAはいずれの細胞でも検出できなかった。
これらの結果は、骨髄間葉系細胞が、未分化であるものの、各分化系列の遺伝子群の全体でなくその一部だけ既に発現していることを示している。
【実施例3】
【0034】
[骨髄間葉系細胞の骨分化誘導前と骨分化後での発現レベルの比較]
3個体由来の骨髄間葉系細胞において、増殖期と骨分化誘導後の骨マーカーの発現レベルを比較した。オステオカルシンの発現レベルは分化前と分化後でほとんど同等であったのに対して、他の骨マーカーの発現はいずれも骨分化誘導後に上昇したが、増殖期では著しく低レベルであったか、検出できなかった(図2)。骨マーカーの発現が部分的であるため骨髄間葉系幹細胞は増殖期で、骨芽細胞とはならないことが示唆された。
【実施例4】
【0035】
[ヒト未分化、骨髄間葉系細胞とヒト繊維芽細胞でのビタミンDの作用の比較]
3個体由来の骨髄間葉系細胞の増殖期で、10-8M 1,25水酸化ビタミンD3(1,25-(OH)2 vitamin D3)を添加すると、48時間以内にオステオカルシンとオステオポンチンの発現が著しく亢進した(図3)。一方、bone sialoprotein, alkaline phosphataseは、1,25水酸化ビタミンD3には応答しなかった。ヒト繊維芽細胞では、いずれの遺伝子も1,25水酸化ビタミンD3には応答しなかった。
表2は、ヒト未分化骨髄間葉系細胞(MSC)とヒト繊維芽細胞での、骨マーカー、軟骨マーカー、脂肪マーカー及びビタミンD応答について、多くの個体由来細胞を用いて検討した結果を示す。
【0036】
【表2】
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【0037】
[抗オステオカルシン(osteocalcin)抗体を用いたFACS分析]
まず表面抗原を認識する一次抗体と5×105個の細胞を混合し、室温で30分間インキュベーションをする。一次抗体が蛍光で認識されている場合には、洗浄後フローサイトメーターで測定した。一次抗体が蛍光標識されていない場合には、洗浄後一次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された二次抗体と一次抗体が反応した細胞とを混合し、再び室温で30分間インキュベーションした。洗浄後、一次抗体と二次抗体で染色された細胞をフローサイトメーターで測定した。
図4及び図5は、オステオカルシンに対する抗体を用いて、FACS分析をした結果を示す。ビタミンDの添加によって、80%以上の増殖期のヒト未分化骨髄間葉系細胞が発現したのに対して、繊維芽細胞ではビタミンDを添加してもオステオカルシンを産生する細胞は検出できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例におけて、間葉系幹細胞(MSC)と繊維芽細胞において各種遺伝子マーカー発現レベルの比較を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、骨分化誘導前後の間葉系幹細胞の遺伝子マーカー発現の変化を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、ビタミンDに対する間葉系幹細胞(MSC)及び繊維芽細胞の応答性を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、FACSによるヒト細胞内(hMSC、hFibroblast)オステオカルシン(Osteocalcin)の検出を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、ヒトMSCとヒト繊維芽細胞のオステオカルシン(Osteocalcin)陽性率の比較を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4