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明細書 :板状リン酸カルシウムおよびその製造方法、ならびにそれを用いた医療用材料およびリン酸カルシウム複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4265946号 (P4265946)
公開番号 特開2005-075679 (P2005-075679A)
登録日 平成21年2月27日(2009.2.27)
発行日 平成21年5月20日(2009.5.20)
公開日 平成17年3月24日(2005.3.24)
発明の名称または考案の名称 板状リン酸カルシウムおよびその製造方法、ならびにそれを用いた医療用材料およびリン酸カルシウム複合体
国際特許分類 C01B  25/32        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C01B 25/32 M
C01B 25/32 R
A61L 27/00 F
A61L 27/00 J
A61L 27/00 L
請求項の数または発明の数 5
全頁数 17
出願番号 特願2003-307549 (P2003-307549)
出願日 平成15年8月29日(2003.8.29)
審査請求日 平成16年9月7日(2004.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591108880
【氏名又は名称】国立循環器病センター総長
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】古薗 勉
【氏名】田中 順三
【氏名】岸田 晶夫
【氏名】安田 昌司
個別代理人の代理人 【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
審査官 【審査官】小川 武
参考文献・文献 特公平03-069844(JP,B2)
特開2000-128513(JP,A)
特開平05-309130(JP,A)
調査した分野 C01B 25/32
C04B 35/447
特許請求の範囲 【請求項1】
リン酸塩とカルシウム塩と水とを含んでおり、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが1.67未満である混合物を混合攪拌する混合工程と、
含まれている水の少なくとも一部を当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることにより、上記混合物を板状構造体とする乾燥工程と、
上記板状構造体を加熱して、2つの接触面を有し一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備える板状リン酸カルシウムとする加熱工程と、を含み、
上記混合工程では、上記混合物が、リン酸一酸素四カルシウムと炭酸カルシウムとビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物と混合攪拌したものに、水を添加したものであることを特徴とする板状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
リン酸塩とカルシウム塩と水とを含んでおり、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが1.67未満である混合物を混合攪拌する混合工程と、
含まれている水の少なくとも一部を当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることにより、上記混合物を板状構造体とする乾燥工程と、
上記板状構造体を加熱して、2つの接触面を有し一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備える板状リン酸カルシウムとする加熱工程と、を含み、
上記混合工程では、上記混合物が、リン酸一酸素四カルシウムと炭酸カルシウムとビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物と混合攪拌したものに、リン酸二水素ナトリウム水溶液を添加したものであることを特徴とする板状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
上記混合工程では、上記混合物として、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが、1.4以上1.6以下の範囲内のものを用いることを特徴とする請求項1または2記載の板状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
上記板状リン酸カルシウムがβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものであり、
上記加熱工程では、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率が95%以下となるように加熱することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の板状リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
複数の加熱条件で加熱を行い、各加熱条件で得られた板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとのモル比と、加熱条件と、の関係を求める加熱条件決定工程を、上記加熱工程の前に有していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の板状リン酸カルシウムの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料として有用な板状リン酸カルシウムおよびその製造方法、ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、β-リン酸三カルシウムおよびハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウムは、生体親和性や機械的強度が高いことより、インプラント材料などの医療用材料として使用されている。一般に、β-リン酸三カルシウムやハイドロキシアパタイトの合成法としては、湿式法、熱水法および乾式法と呼ばれる方法が用いられており、工業的に大量合成するためには、これらの方法のうち主に湿式法が用いられている。この湿式法としては、常温下にて水酸化カルシウムスラリーにリン酸を滴下して合成する沈殿法や、リン酸水素カルシウム二水和物と炭酸カルシウムとを反応させる加水分解法などが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、リン酸カルシウムを製造する方法としては、リン酸塩とカルシウム塩と水とをカルシウム原子のリン原子に対する原子比が1.3~2.0であるように混合して非晶質リン酸カルシウムを含む水性スラリーを生成させ、次に、前記水性スラリーに脂肪族アミンを添加した後にその生成物を固-液分離する方法により、a面を優先的に成長させた板状のリン酸カルシウムを製造する方法(特許文献1参照)、リン酸塩とカルシウム塩とから非晶質リン酸カルシウムの水性スラリーを水熱処理する際に、該水性スラリーに対してアルコールを添加することによりa,c軸方向に成長した板状の水酸アパタイトを製造する方法(特許文献2参照)等が挙げられる。ナノレベルのサイズの微粒子ハイドロキシアパタイトの製造方法としては、エマルジョン法により板状ハイドロキシアパタイト粒子の大きさを制御し、截頭形構造のナノ微粒子を製造する方法(特許文献3参照)が挙げられる。
【0004】
ハイドロキシアパタイトセメントを調製する方法としては、炭酸カルシウム、リン酸一カルシウム一水和物(Ca(HPO・HO、MCPM)、およびリン酸一酸素四カルシウム(Ca(POO、TCPM)の反応により調整された、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO・2HO、DCPD、ブルシャイト)およびリン酸一酸素四カルシウム(TCPM)からなる、泡沫状の混合物(セメント)構造体を模擬体液に浸漬することによって、ハイドロキシアパタイト多孔体(非特許文献2、非特許文献3参照)を製造する方法などが挙げられる。

【特許文献1】特開平10-45405号公報(公開日:1998年2月17日)
【特許文献2】特開平6-206713号公報(公開日:1994年7月26日)
【特許文献3】特開2002-137910号公報(公開日:2002年5月14日)
【非特許文献1】Inorganic Materials, Vol.2 No.258,(1995), p.393-400
【非特許文献2】D. Walsh, J. Tanaka, "Preparation of a bone-like apatite form cement" Journal of Materials Science : Materials in Medicine 12 (2001) p.339-343
【非特許文献3】Dominic Walsh, Tsutomu Furuzono, Junzo Tanaka, "Preparation of porous composite implant materials by in situ polymerization of porous apatite containing ε-caprolactone of methyl methacrylate" Biomaterials 22 (2001) p.1205-1212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1に開示された湿式法による合成は、β-リン酸三カルシウムやハイドロキシアパタイトを、工業的に大量生産することを可能とするものであるが、生産物として得られる粒子のサイズが非常に小さくなるから、得られた粒子をそのまま医療用材料として使用することが困難であるという問題がある。このため通常、医療用材料としては、スプレードライヤーなどの機械を用いて、上記一次粒子を造粒する工程を追加して成形したものを用いる。このような製造方法により、粒度の均一なリン酸カルシウム粒子を得ることができるが、得られるリン酸カルシウム粒子の強度は決して高くない。すなわち、上述した方法では、強度の高いリン酸カルシウム粒子を得ることができないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1の製造方法では、板状のリン酸カルシウムに、針状形態のリン酸カルシウムが混ざった混合物としてリン酸カルシウムが得られる。このため、上記製造方法では、生体組織や高分子基材等の対象物に対する結合性に優れる板状のリン酸カルシウムを得ることは困難である。さらに、この製造方法により得られる板状のリン酸カルシウムは、強固な化学結合を形成するのに十分な広い接着面を有するものではないという問題もある。上記特許文献2の方法では、リン酸カルシウムの形状を制御することが困難であるから、十分に広い接着面を有するものが得られないという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献3はナノ粒子の製造方法に関するものであるが、一般に、ナノ粒子には凝集し易く、その取り扱いが困難であるという問題がある。
【0008】
また、上記非特許文献2、3の製造方法は、泡沫状の混合物により板状の構造体を製造する方法であり、一次粒子としての各リン酸カルシウムの形状が板状のものを調製することはできない。
【0009】
このように、生体活性を有するリン酸カルシウムの製造方法は、様々知られているが、上述したとおり、取り扱いが容易な板状リン酸カルシウムを製造する方法は、現在知られていない。このため、生体組織や高分子基材などの対象物に対して強固な化学結合を形成することができ、医療用材料として有用な、広い接着面積を有する板状リン酸カルシウムが求められている。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体組織や高分子基材等に対する結合性に優れる板状リン酸カルシウムおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、生体組織、特に皮下細胞のような軟組織に対して生体適合性を示すデバイスの開発をめざし、化学結合を介したリン酸カルシウムと高分子基材との複合体の合成に関する研究を行ってきた。この複合体において、リン酸カルシウムが高分子基材表面に対して強固な化学結合を形成するためには、高分子基材等の表面とのリン酸カルシウムの接着面の面積をより広くすることが有効である。
【0012】
このため、リン酸カルシウムの形状としては、高分子基材の表面との接着面の広い板状のものが好適であり、板状リン酸カルシウムは、生体適合性のあるデバイス用として非常に有用なものとなる。本発明者らは、以下に説明する混合工程と乾燥工程と加熱工程とにより、板状リン酸カルシウムを容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、リン酸塩とカルシウム塩と水とを含んでおり、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが1.67未満である混合物を混合攪拌する混合工程と、含まれている水の少なくとも一部を当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることにより、上記混合物を板状構造体とする乾燥工程と、上記板状構造体を加熱して板状リン酸カルシウムとする加熱工程と、を含むことを特徴としている。
【0014】
上記混合工程では、上記混合物として、リン酸一酸素四カルシウムと炭酸カルシウムとビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物と混合攪拌したものに、水を添加したもの、または、リン酸一酸素四カルシウムと炭酸カルシウムとビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物と混合攪拌したものに、リン酸二水素ナトリウム水溶液を添加したものを用いることがより好ましい。
【0015】
上記混合工程では、上記混合物として、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが、1.4以上1.6以下の範囲内のものを用いることがより好ましい。
【0016】
本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、上記板状リン酸カルシウムがβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものであり、上記加熱工程では、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率が95%以下となるように加熱することがより好ましい。
【0017】
本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、複数の加熱条件で加熱を行い、各加熱条件で得られた板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとのモル比と、加熱条件と、の関係を求める加熱条件決定工程を、上記加熱工程の前に有していてもよい。
【0018】
本発明の板状リン酸カルシウムは、2つの接触面を有する板状リン酸カルシウムであって、上記2つの接触面のうち、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備えていることを特徴としている。
【0019】
本発明の板状リン酸カルシウムは、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが1.4以上1.6以下の範囲内であることを特徴としている。
【0020】
本発明の板状リン酸カルシウムは、β-リン酸三カルシウムとハイドロキアパタイトとからなっていることを特徴としている。
【0021】
本発明の板状リン酸カルシウムは、上記接触面の長手方向の長さが1~10μmの範囲内であることを特徴としている。また、板状リン酸カルシウムの厚さが、0.01~0.5μmの範囲内であることを特徴としている。
【0022】
本発明の医療用材料は、上記板状リン酸カルシウムを含むものであることを特徴としている。本発明のリン酸カルシウム複合体は、上記板状リン酸カルシウムと、高分子基材または無機基材とを含むものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、以上のように、Ca/Pが1.67未満である混合物に、水を添加して水含有混合物とする混合工程と、乾燥工程と、加熱工程とを含んでいる。
【0024】
このように、混合工程において、混合物中のCa/Pを1.67未満とすることにより、後の乾燥工程において形成される板状構造体中に、非晶質(アモルファス)ハイドロキシアパタイト以外のものも含まれることになる。この非晶質ハイドロキシアパタイト以外のものの存在により、後の加熱工程において、非晶質ハイドロキシアパタイトの急激な結晶化によって、板状構造体の構造が破壊されることが抑制される。また、Ca/Pを1.67未満とすることにより、後の加熱工程において、非晶質ハイドロキシアパタイトを徐々にβ-リン酸三カルシウムとすることができるので、板状構造体の形状を略保持した板状リン酸カルシウムを調製することができる。
【0025】
一方、Ca/Pを1.67とすると、上記板状構造体が、ほぼ非晶質ハイドロキシアパタイトのみからなるものとなるため、後の加熱工程で、非晶質ハイドロキシアパタイトが急激に結晶化することによって、板状構造体が粉砕される。この結果、板状リン酸カルシウムを得ることができない。
【0026】
上記混合工程では、上記混合物として、リン酸一酸素四カルシウムと炭酸カルシウムとビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物と混合攪拌したものに、水またはリン酸二水素ナトリウム水溶液を添加したものを用いることにより、より確実に、板状リン酸カルシウムを調製することができる。また、上記の混合物を用いた場合、板状構造体中の非晶質ハイドロキシアパタイト以外のものとしては、例えば、ブルシャイト(CaHPO・2H0)やリン酸一酸素四カルシウム(Ca(POO)等が、形成されていると考えられる。なお、上記リン酸二水素ナトリウム水溶液は、混合工程および乾燥工程における反応を促進する役割を果たしている。
【0027】
また、化学量論的に、Ca/Pを1.5としたものは加熱によってβ-リン酸三カルシウムとなるから、上記混合工程では、上記混合物として、Ca/Pが、1.4以上1.6以下の範囲内のものを用いることがより好ましい。Ca/Pが上記範囲内である混合物を用いることにより、加熱工程において、板状構造体をより確実にβ-リン酸三カルシウムとし、確実に板状リン酸カルシウムを得ることができる。なお、上記の製造方法により製造された板状リン酸カルシウムは、Ca/Pが1.4以上1.6以下の範囲内ものとなる。
【0028】
本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、上記板状リン酸カルシウムがβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものであり、上記加熱工程では、β-リン酸三カルシウムの含有率が95%以下となるように加熱する。
【0029】
これにより、加熱工程において、β-リン酸三カルシウムの結晶化を制御することにより、加熱による結晶化が進みすぎることによって、板状構造体の形状を保持できなくなり不定形となることが防止できる。それゆえ、より確実に板状リン酸カルシウムを調製することが可能となるという効果を奏する。
【0030】
また、本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、加熱条件決定工程を、上記加熱工程の前に有している。
【0031】
ここで、加熱条件とは加熱温度および保持時間をいうが、加熱温度を一定として保持時間を変化させた場合、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの割合は、保持時間に伴って増加する関数になる。それゆえ、加熱条件決定工程で、保持時間と得られた板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの割合との関係を求めておけば、当該関係に基づいて加熱条件を制御することにより、所望の割合でβ-リン酸三カルシウムを含有する板状リン酸カルシウムを調製することができる。また、板状リン酸カルシウムがβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものの場合、あわせてハイドロキシアパタイトの含有量をも制御することができる。
【0032】
このように、本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法によれば、焼成条件を変化させることにより、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)とハイドロキシアパタイト(HAp)との存在比(β-TCP/HAp)を容易に制御することが可能となる。このため、β-TCP/HApを所望の存在比に制御して、特性の異なる板状リン酸カルシウムを調製し、これを用いて種々の生体適合性複合材料を創出できるという効果を奏する。
【0033】
上記説明した本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法によって、2つの接触面を有する板状リン酸カルシウムであって、当該2つの接触面のうち、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備えたものが得られる。
【0034】
このように、上記板状リン酸カルシウムは、2つの接触面を有する板状のものであるから、当該接触面において高分子基材等の複合化対象物の表面と接触することができる。すなわち、本発明の板状リン酸カルシウムは、複合化対象物の表面に接着させる場合に、従来の針状や球状のものと比べて、接着に供する表面の面積が格段に大きくなるから、対象物との接着強度が向上する。このため、高分子基材等と複合化させる場合の接着強度が、従来ものと比べて格段に向上し、接着強度の大きい複合体を容易に作製できるという効果を奏する。
【0035】
また、上記板状リン酸カルシウムは、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備えたものであるから、たんぱく質などの生体高分子化合物の分離や生成などを目的としたカラム充填材や、フィルターとしても好適に用いることができる。なお、上記焼成条件を制御することにより、上記孔の大きさを所望の範囲に調整することもできる。
【0036】
上記板状リン酸カルシウムは、β-リン酸三カルシウムとハイドロキアパタイトとからなっている。板状リン酸カルシウム中に含まれているハイドロキシアパタイトにより、板状リン酸カルシウムに、有機物と共有結合の可能な水酸基を導入することができる。そして、この水酸基を起点として結合することができるので、本発明の板状リン酸カルシウムは、無機物質のみならず皮下細胞などの軟組織にも結合することが可能となる。また、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトの存在比を制御することにより、特性の異なる生体適合性複合体の材料を創出できる。
【0037】
本発明の板状リン酸カルシウムは、上記接触面の長手方向の長さが1~10μmの範囲内である。また、その厚さが、0.01~0.5μmの範囲内である。
【0038】
このため、攪拌や超音波などによって剪断力を加えることにより、板状リン酸カルシウムの粒子同士の凝集を防止することができる。それゆえ、例えば、そのサイズがナノスケールであるナノ粒子の問題である、粒子同士の凝集により粒子本来の形状を維持できなくなることが防止できる。このため、高分子基材などの複合化する対象物の表面に対して、板状リン酸カルシウムと接着(吸着)させるために、この接触面を利用することができるとともに、取り扱い性も非常に良好になるという効果を奏する。
【0039】
なお、上記「接触面の長手方向の長さ」とは、板状リン酸カルシウムの接触面の面積を略半分に区切る線分のうち最も長いものの長さをいう。ここで、接触面の面積とは、接触面の孔(空隙)の領域をも含んだ面積のことをいう。接触面の「厚さ」とは、2つの接触面の間の距離をいう。なお、これら「接触面の長手方向の長さ」および「厚さ」は、例えば、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0040】
本発明の医療用材料、およびリン酸カルシウム複合体は、いずれも、上記本発明の板状リン酸カルシウムを含んでなるものであるから、生体組織、骨・歯のような硬組織および皮下細胞のような軟組織に対する生体適合性を有するものとなる。また、リン酸カルシウム複合体は、上記高分子基材および無機基材がそれぞれ単独で板状リン酸カルシウムと複合化されたものであっても、両基材が組み合わされたものと板状リン酸カルシウムとが複合化されたものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(板状リン酸カルシウムの製造方法)
本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法の一実施例について、以下説明する。
【0042】
本発明の板状リン酸カルシウムの製造方法は、リン酸塩とカルシウム塩と水とを含んでおり、リン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pが1.67未満である混合物を混合攪拌する混合工程と、含まれている水の少なくとも一部を当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることにより、上記混合物を板状構造体とする乾燥工程と、上記板状構造体を加熱して板状リン酸カルシウムとする加熱工程と、を含んでいる。
【0043】
上記混合工程で本製造方法の原料として用いられる混合物は、Ca/Pが1.67未満となる比率で、リン酸塩とカルシウム塩と水とを含んでいるものであり、これらリン酸塩およびカルシウム塩は、反応して非晶質リン酸カルシウムを生成するものであればよい。
【0044】
上記混合物中の上記リン酸塩および上記カルシウム塩としては、例えば、リン酸一酸素四カルシウム、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物、炭酸カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カルシウムやその二水和物、リン酸三カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、ピロリン酸カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。また、混合物中のリン酸塩およびカルシウム塩の組合せとしては、リン酸一酸素四カルシウムと、炭酸カルシウムと、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物との組合せが好ましい。
【0045】
上記混合物を混合攪拌する方法は、特に限定されるものではなく、混合物を十分に混合することができる方法であればよいが、水以外の成分を予め混合攪拌した後に水を添加することが好ましい。水以外の成分を予め混合攪拌したものに水を添加することにより、混合物全体に均一に水を分散させることができ、混合工程および後の乾燥工程において、混合物が板状構造体となるための反応を促進することができる。
【0046】
また、原料として上記好ましい組合せを用いる場合、これらを予め混合攪拌したものに、リン酸二水素ナトリウム水溶液を添加することがより好ましい。リン酸二水素ナトリウム水溶液を添加することにより、上記反応をさらに促進することができる。このような反応促進剤としては、上記リン酸二水素ナトリウム水溶液以外に、リン酸二水素カリウム水溶液などが挙げられる。
【0047】
上記混合物中に含まれる水の量は、上記した反応が進行する量であれば良く、特に限定されるものではないが、その上限値は、80重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがさらに好ましい、また、その下限値は、20重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがさらに好ましい。なお、上記混合物中に含まれる水の量は、水を含む混合物の総重量に対する水の重量を示している。また、水の添加方法も特に限定されるものではなく、他の成分を溶解した水溶液として添加してもよい。
【0048】
上記混合物のCa/Pは、1.67未満であれば良いが、約1.5程度とすることが好ましい。より具体的には、Ca/Pの上限値を1.6以下とすることが好ましく、1.55以下とすることがより好ましい。また、その下限値を1.4以上とすることが好ましく、1.45以上とすることがより好ましい。
【0049】
Ca/Pを1.67未満とすることにより、乾燥工程で形成される板状構造体に非晶質ハイドロキシアパタイト以外のものを含ませることができる。このため、後の加熱工程において、非晶質ハイドロキシアパタイトが急激に結晶化することによる板状構造体の形状の破壊を防止できる。さらに、Ca/Pを約1.5とすることによって、後の加熱工程において、β-リン酸三カルシウムの結晶を徐々に成長させることができ、板状構造体が破壊されることないから、確実に板状リン酸カルシウムを得ることができる。
【0050】
上記乾燥工程は、混合物に含まれている水のうち、少なくとも一部を当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることにより、板状構造体を形成するものである。この乾燥工程は、混合物が板状構造体になる反応が進行する条件とすればよく、乾燥速度や乾燥により混合物から取り除く水の割合などは、特に限定されない。一般に、混合物の水を急激に乾燥させたり、含まれている水の略全てを当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させたりすることは、上記板状構造体を得る反応のためには好ましくない。このため、通常、混合物中に含まれている水のうち、約50%~90%程度を約2日~30日かけて当該混合物から取り除くことによって当該混合物を乾燥させることによって板状構造体を形成する。乾燥速度は、混合物を、例えば、布や紙などで被うことなどにより調節する。
【0051】
上記の混合工程と乾燥工程とによって、混合物を板状構造体とすることができる。この板状構造体は、非晶質リン酸カルシウムからなるものであり、通常、非晶質ハイドロキシアパタイトをその主成分として含んでいる。また、Ca/Pを1.67とした場合、板状構造体のほぼすべてが非晶質ハイドロキシアパタイトとなるが、本発明は、Ca/Pを1.67未満としているので、板状構造体は、非晶質ハイドロキシアパタイト以外の非晶質リン酸カルシウム(例えば、リン酸二カルシウム二水和物、リン酸一酸素四カルシウム、リン酸水素カルシウム・二水和物など)をも含むものとなる。このため、後の加熱工程により、板状構造体の構造を保ったまま、板状リン酸カルシウムを形成することができる。
【0052】
上記加熱工程は、上記乾燥工程で得られた板状構造体を加熱して板状リン酸カルシウムとする工程である。本発明の製造方法は、上記混合工程及び乾燥工程によって得られた板状構造体を加熱することにより結晶化するものであるが、Ca/Pを1.67未満としているので、結晶化によって板状構造が壊れずに保持されたままで、板状リン酸カルシウムとすることができる。また、板状構造体を加熱して結晶化し、板状リン酸カルシウム(板状リン酸カルシウム加熱体)とすることにより、生体内などにおける溶解性を抑えることができる。
【0053】
上記加熱工程の加熱温度は、板状構造体を板状リン酸カルシウムとすることができる温度であればよく特に限定されないが、通常、650℃~1000℃程度の範囲内とされる。加熱温度は、混合物の種類や、目的とする板状リン酸カルシウムに応じて設定すればよい。本発明の板状リン酸カルシウムの加熱温度の範囲としては、その下限値を700℃以上とすることが好ましく、750℃以上とすることがより好ましい、また、その上限値を900℃以下とすることが好ましく、850℃以下とすることがより好ましい。
【0054】
また、上記加熱温度に昇温させる昇温速度は、特に限定されないが、5℃/分~15℃/分程度とすることが好ましく、8℃/分~12℃とすることがより好ましい。また、加熱温度に達した後、当該加熱温度における加熱を完了させるまでの保持時間は、上記混合物の量や、加熱温度等に応じて設定すればよい。
【0055】
例えば、加熱温度を約800℃とする場合は、保持時間の範囲の上限を100分以下とすることが好ましく、80分以下とすることがより好ましく、60分以下とすることがさらに好ましい。保持時間を上記範囲内とすることにより、非晶質リン酸カルシウムの結晶化が進行しすぎて、板状の形状が破壊されることを防止することができる。なお、上記保持時間は0分であってもよい。すなわち、加熱温度まで昇温した時点で、加熱を終了させてもよい。
【0056】
上記板状リン酸カルシウムとして、β-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものを製造する場合には、上記加熱工程を、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率が95%以下となる条件で行うことが好ましく、90%以下となる条件で行うことがより好ましい。これにより、β-リン酸三カルシウムの結晶化が進みすぎることによって、板状構造体の板形状が破壊されることが防がれるので、板状リン酸カルシウムをより確実に製造することができる。
【0057】
また、本発明の板状リン酸カルシウム製造方法は、上記加熱工程の前に、複数の加熱条件で加熱を行って得られた、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとのモル比と、加熱条件と、の関係を求める加熱条件決定工程をさらに有していてもよい。
【0058】
例えば、まず、β-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとの比率が既知の試料を調製し、それぞれについてX線回折法(XRD)などにより、予め検量線関数を求めておく。そして、この検量線関数に基づいて、複数の加熱条件で得られた板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとのモル比と、加熱条件(加熱温度、保持時間等)との関係を求めておく。これにより、加熱条件を変化させることにより、任意の割合でβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトを含む板状リン酸カルシウムを調製することが可能となる。
【0059】
(板状リン酸カルシウム)
以上説明した製造方法により得られる板状リン酸カルシウムについて、以下、説明する。上述した本発明の製造方法によって、2つの接触面を有する板状リン酸カルシウムであって、上記2つの接触面のうち、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備えていた板状リン酸カルシウムが得られる。
【0060】
本発明の板状リン酸カルシウムの「板状」とは、略同じ形状の接触面を2つ有する形状をいい、ここで「接触面」とは、ある程度の弾力性のある対象物の面に接触することができる略平面の領域をいう。このように、本発明の板状リン酸カルシウムは、接触面で、対象物に接することができるので、針状や球状のものに比べて、格段に広い面積で対象物と接触することとなり、接着強度が非常に強くなる。
【0061】
また、本発明の製造方法によれば、直交する方向の長さが大きく異ならない接触面を有する板状リン酸カルシウムが得られる。具体的には、接触面の面積を略2等分する線分の長さをaとし、当該線分とその中点において直交する方向の接触面の長さをbとすると、a:bが1:3~3:1の範囲内であるものを得ることができる。
【0062】
本発明の板状リン酸カルシウムは、上記接触面の長手方向の長さが1μm~10μmの範囲内であることが好ましく、1μm~5μmであることがより好ましい。また、接触面の面積が1μm~100μmの範囲内であることが好ましく、1μm~25μmの範囲内であることがより好ましい。また、その厚さが、0.01μm~0.5μmの範囲内であることが好ましく、0.02μm~0.05μmの範囲内であることがより好ましい。
【0063】
上記板状リン酸カルシウムの接触面の長手方法の長さおよび面積、ならびにその厚さを上記範囲内にすること、すなわちμmレベルのサイズの板状体とすることにより、nmレベルのサイズの板状体のように凝集することがなくなり、再分散性が良好となるので、非常に取り扱い性の良いものとすることができる。
【0064】
従来、リン酸カルシウムとしては、数百nmメートル程度のサイズのもの、および骨などに用いられる数百μm程度のサイズのものしかなかったが、本発明の製造方法によれば、上述した1μm~10μm程度のサイズの板状リン酸カルシウムを容易に調製することができる。そして、このサイズの板状リン酸カルシウムは、特に高分子基材や無機基材等の表面に貼り付けて複合体を製造するのに非常に好適である。
【0065】
本発明の製造方法は、加熱工程により板状構造体を結晶化することにより、板状構造を保持させたままその体積を減少させることができるので、得られる板状リン酸カルシウムは、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔を備えるものとなる。上記孔の数は、特に限定されないが、各板状リン酸カルシウムに1個~20個程度が形成されていることが好ましい。また、各々孔の大きさは、接触面の面積に対して約1%~50%の範囲内とすることが好ましく、約5%~25%の範囲内とすることがより好ましい。孔の数、大きさを、上記範囲内とすることにより、各板状リン酸カルシウムの強度を保ちつつ、フィルターやカラム充填材として用いた場合に、分離精製対象となる液体の流れを向上させて、分離などの効率を良くすることができる。
【0066】
上記板状リン酸カルシウムとしては、具体的には、例えば、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、リン酸三カルシウム(β(α)-リン三酸カルシウム(Ca(PO))、メタリン酸カルシウム(Ca(PO)、Ca10(PO、Ca10(POCl等が挙げられる。上記リン酸カルシウムには、リン酸カルシウム水酸イオンおよび/またはリン酸イオンの一部が炭酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン等で置換された化合物等が含まれていてもよい。
【0067】
上記板状リン酸カルシウムと、高分子基材または無機基材とを複合化することにより、本発明のリン酸カルシウム複合体とすることができる。
【0068】
上記高分子基材としては、医療用高分子材料がより好ましく、有機高分子がさらに好ましい。上記高分子基材としては、具体的には、例えば、シリコーンポリマー(シリコーンゴムであっても良い)、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子;セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等、シルクフィブロイン等の天然高分子等が挙げられる。上記例示の高分子基材のうち、長期安定性、強度および柔軟性等の特性が優れている点で、シリコーンポリマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、または、シルクフィブロインが好適に使用される。
【0069】
上記例示の高分子基材の代わりに、具体的には、例えば、医療用材料として好適に使用することができる、酸化チタン等の無機基材を使用することもできる。また、例えば、上記有機高分子と上記無機材料とを組み合わせて基材としてもよい。
【0070】
上記高分子基材は、その表面には、板状リン酸カルシウム加熱体自体と化学結合することができる官能基を有しているものであることが好ましい。具体的には、板状リン酸カルシウム自体と上記官能基とがイオン的相互作用によって化学結合可能な官能基を有していることが好ましい。
【0071】
より詳細には、上記高分子基材の表面には、上記官能基がイオン化されたイオン性官能基が存在していることがより好ましい。そして、高分子基材の表面にイオン性官能基が存在している場合には、イオン性官能基と板状リン酸カルシウム自体のイオンとがイオン的な相互作用によって化学結合することにより、リン酸カルシウム複合体を形成している。
【0072】
上記イオン性官能基は、酸性官能基または塩基性官能基に分類される。上記酸性官能基としては、具体的には、例えば、-COO,-SO2-,-SO,-O、RNC(S)等が挙げられる。また、上記塩基性官能基としては、具体的には、例えば、-NH3+、エチレンジアミン、ピリジン等が挙げられる。つまり、上記高分子基材の表面には、上記例示の、酸性官能基または塩基性官能基が存在している。なお、上記RNC(S)のRは、アルキル基を示している。
【0073】
また、上記イオン性官能基としては、酸処理またはアルカリ処理等の化学的処理によりイオン化するものであればよく、具体的には、例えば、カルボキシル基、ジカルボキシル基、ジチオカルバミン酸イオン、アミン、エチレンジアミン、ピリジン等が挙げられる。
【0074】
なお、上記官能基としては、例えば、該官能基と板状リン酸カルシウム加熱体自体とが配位結合によって結合することができる、非イオン性官能基(中性官能基)等であってもよい。
【0075】
上記高分子基材表面の官能基は、基材表面の高分子が有する官能基であってもよく、また、基材表面を、例えば、酸・アルカリ処理、コロナ放電、プラズマ照射、表面グラフト重合等の公知の手段によって、上記高分子基材を改質することにより導入されたものであってもよい。
【0076】
上記高分子基材の表面にイオン性官能基を導入する方法としては、例えば、末端にカルボキシル基、ジカルボキシル基または塩基性官能基を有するビニル系重合性単量体を高分子基材にグラフト重合させる方法等が挙げられる。
【0077】
なお、例えば、上記官能基を導入するために、高分子基材に予め活性基を導入させておき、この活性基を用いて官能基を導入するようにしてもよい。
【0078】
また、上記高分子基材の形状としては、例えば、シート状、繊維状、チューブ状または、多孔体でもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0079】
本発明の板状リン酸カルシウムが、β-リン酸三カルシウムとハイドロキアパタイトとからなるものである場合、板状リン酸カルシウム中に含まれているハイドロキシアパタイトの水酸基を起点として有機物との共有結合による結合を実現することができ、無機物質のみならず皮下細胞などの軟組織に対しても結合することができる。
【0080】
この場合、上記高分子基材としては、イソシアネート基(-NCO)またはアルコキシシリル基(≡Si(OR))を有するものが好ましい。これらイソシアネート基またはアルコキシシリルは、板状リン酸カルシウム中のハイドロキシアパタイトの水酸基(-OH)と、直接化学結合することができるので、高分子基材と板状リン酸カルシウムとが強固に結合してなるリン酸カルシウム複合体とすることができる。ここで、アルコキシシリル基には、≡Si-OR,=Si-(OR),-Si-(OR)等が含まれる。なお、上記≡および=は、三重結合、二重結合のみを示すものではなく、それぞれの結合の手が、異なる基と結合していてもよい。従って、例えば、-SiH-(OR)や-SiH-(OR)等もアルコキシシリル基に含まれる。また、上記Si-ORのRとは、アルキル基または水素を示している。
【実施例1】
【0081】
以下に、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0082】
本発明の一実施例について図1ないし図3に基づいて説明すると以下の通りである。
【0083】
(板状リン酸カルシウムの製造方法)
1)リン酸塩およびカルシウム塩としての、ビス(リン酸二水素)カルシウム5.04g、炭酸カルシウム2.0g、およびテトラカルシウムホスフェイトモノオキサイト7.36gとを、乳鉢を用いて十分に細砕・混合した(混合工程)。上記の割合で調整された混合物は、リン原子に対するカルシウム原子のモル比であるCa/Pが1.5となる。
2)上記十分に細砕・混合されたものに、反応促進剤であるリン酸二水素ナトリウム水溶液(0.15M)15mlを添加し、迅速に攪拌して混合物とした(混合工程)後、成形容器へ充填した。
3)上記混合物から水分が蒸散する速度を制御するため、キムワイプ(商品名)を用いて、上記混合物の充填された成形容器を被覆した(乾燥工程)。
4)上記キムワイプで被覆された状態の成形容器を3日間放置した後、120℃の条件下で、1時間乾燥処理を行い、上記混合物から板状構造体を形成した(乾燥工程)。
なお、上記1)から4)の工程では、固相反応により反応が進行し、4)の板状構造体中には、非結晶ハイドロキシアパタイト以外に、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO・2HO、ブルシャイト)や、リン酸一酸素四カルシウム(Ca(POO)等も含まれているものと考えられる。
5)上記板状構造体を昇温速度10℃/minで加熱して、加熱温度800℃まで昇温した後、800℃にて所定時間(0分,20分,40分,60分)一定に保つことで加熱した(加熱工程)。なお、本発明において、保持時間とは、板状構造体を加熱し所定の加熱温度まで昇温した後に、当該加熱温度で保持する時間をいう。
【0084】
(板状リン酸カルシウムの評価)
上述した方法により製造された板状リン酸カルシウムは、保持時間が0分、20分、40分および60分のもののいずれも、2つの広い接触面を有する板状の形状であることを走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)像、および透過型電子顕微鏡(以下、TEMという)像により確認した。これら、本実施例の板状リン酸カルシウムのうち、加熱温度:800℃、保持時間:60分で加熱して得られた生成物の形状を示すSEM像およびTEM像を、それぞれ図1および図2に示した。
【0085】
図1は、本発明の板状リン酸カルシウムの一実施例のSEM像である。同図に示すように、本実施例の製造方法により得られた板状リン酸カルシウムは、広い接触面を有しており、これら2つの接触面のうち、一方の接触面から他方の接触面に連通する孔が形成されていることが分かる。
【0086】
図2は、本発明の板状リン酸カルシウムの一実施例のTEM像および電子線回折(ED:electron-diffraction)像である。同図の中心部の像がTEM像であり、右上の像がTEM像中の○を付した領域の電子線回折像である。同図のTEM像からも、本実施例の板状リン酸カルシウムが広い接触面を有しており、これら2つの接触面を連通する孔が形成されていることが分かる。また、同図の電子線回折像は、
【0087】
【数1】
JP0004265946B2_000002t.gif

【0088】
面の像であり、加熱工程によって、板状構造体が結晶化されたことが示されている。なお、本実施例では、板状リン酸カルシウムとしてβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとからなるものが得られるが、図2の電子線回折の像はβ-リン酸三カルシウムを示している。
【0089】
保持時間と板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムとの関係)
本実施例では、上述した板状リン酸カルシウムの製造方法により得られた板状リン酸カルシウムについて、板状リン酸カルシウムに含まれているβ-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとの比率と、保持時間との関係を以下の方法により調べた。
【0090】
まず、市販のβ-リン酸三カルシウム(フルカ(株)製 No.21218)およびハイドロキシアパタイト(ペンタックス(株)製、アパセラム:登録商標)を用いて、X線解析法(XRD)により、板状リン酸カルシウム中に含まれるβ-リン酸三カルシウムの含有率を導出する為の検量線関数を以下のようにして求めた。
【0091】
上記市販のβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)とハイドロキシアパタイト(HAp)とを、下記式(1)で示される試薬混合物中のβ-リン酸三カルシウムの存在比xが所定の値になるように、試薬混合物を調製した。
x(%)=β-TCP/(β-TCP+HAp)×100 …(1)
当該試薬混合物についてのX線解析の結果から、試薬混合物中のβ-リン酸三カルシウムの強度比yを算出した結果、下記表1のようになった。なお、上記強度比yは、X線解析の結果得られた、ハイドロキシアパタイトの(2 1 1) (2θ=31.92°)の強度を、β-リン酸三カルシウムの(0 2 10) (2θ=31.16°)の強度で除した値を示している。
【0092】
【表1】
JP0004265946B2_000003t.gif

【0093】
上記表1に示すβ-リン酸三カルシウムの存在比xとβ-リン酸三カルシウムの強度比yとに基づいて、下記式(2)の検量線関数を求めた。
log10y=-0.02093x+0.7736 …(2)
(0≦x≦100)
上記式(2)の検量線関数より、加熱温度800℃とし、保持時間を0分、20分、40分、60分として得られた板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率(β-TCP/(β-TCP+HAp)×100(%))を求めた結果を、表2、および図3に示した。
【0094】
【表2】
JP0004265946B2_000004t.gif

【0095】
図3に示すように、本実施例の板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率は、少なくとも保持時間が0分から60分の間では、保持時間の増加に伴って直線的に増加することが分かる。したがって、このように、予め保持時間とβ-リン酸三カルシウムの含有率との関係を求めておくこと(加熱条件決定工程)により、後の加熱工程において、保持時間を調整することによって、任意の量のβ-リン酸三カルシウムを含有する板状リン酸カルシウムを製造できる。すなわち、保持時間の調整によって、β-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとの比率を容易に調整することができるから、用途に応じた組成の板状リン酸カルシウムを製造することが非常に容易になる。
【0096】
(比較例1)
上記実施例1の1)の原料のうち、テトラカルシウムホスフェイトモノオキサイトの量を7.36gから14.72gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、前記1)~5)の処理を行った。本比較例では、混合物中のリン原子に対するカルシウム原子のモル比Ca/Pは、1.67となっている。その結果、5)の加熱によって、上記板状構造体の形状が破壊された不定形のリン酸カルシウムとなり、板状リン酸カルシウムは得られなかった。
【0097】
(比較例2)
上記実施例1の5)の保持時間を120分とした以外は、実施例1と同様にして、前記1)~5)の処理を行った。その結果、5)の加熱によって、上記板状構造体の形状が破壊された不定形のリン酸カルシウムとなり、板状リン酸カルシウムは得られなかった。本比較例により得られた不定形のリン酸カルシウムのSEM写真を図4に示す。同図に示すように、保持時間を120分とすることにより、リン酸カルシウムの板状の形状が破壊され、2つの接触面を連通する孔も消失している。これは、保持時間を長くすることにより、板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの結晶化が過度に進行したことが一因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の製造方法により、例えば、β-リン酸三カルシウムとハイドロキシアパタイトとを含んでなるハイドロキシアパタイト複合体等の板状リン酸カルシウムを製造することができる。当該板状リン酸カルシウムは、生体適合性、生体組織に対する密着性あるいは接着性が高く、また、生体内で分解・吸収される程度(生体分解吸収性)が低いので、医療用材料として非常に好適に用いることができる。
【0099】
上記板状リン酸カルシウムの具体的な応用としては、1)医療分野における生体適合性材料、2)化学分析分野における、カラム充填材(特に、孔を有する板状リン酸カルシウムが好適である)、3)環境分野における、フィルターなどの分離材等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の板状リン酸カルシウムの一実施例の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】本発明の板状リン酸カルシウムの一実施例の透過型電子顕微鏡像および電子線回折像である。
【図3】本発明の板状リン酸カルシウムの一実施例について、保持時間と板状リン酸カルシウム中のβ-リン酸三カルシウムの含有率との関係を示すグラフである。
【図4】板状形態が破壊されて不定形となった、比較例としてのリン酸カルシウムの走査型電子顕微鏡像である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3