TOP > 国内特許検索 > 2次元フォトニック結晶分合波器 > 明細書

明細書 :2次元フォトニック結晶分合波器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3763826号 (P3763826)
公開番号 特開2005-077709 (P2005-077709A)
登録日 平成18年1月27日(2006.1.27)
発行日 平成18年4月5日(2006.4.5)
公開日 平成17年3月24日(2005.3.24)
発明の名称または考案の名称 2次元フォトニック結晶分合波器
国際特許分類 G02B   6/12        (2006.01)
FI G02B 6/12 Z
G02B 6/12 F
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2003-307654 (P2003-307654)
出願日 平成15年8月29日(2003.8.29)
審査請求日 平成17年5月13日(2005.5.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】野田 進
【氏名】浅野 卓
【氏名】赤羽 良啓
個別代理人の代理人 【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
【識別番号】100077171、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 尚恒
審査官 【審査官】日夏 貴史
参考文献・文献 特表2001-508887(JP,A)
特開2001-228347(JP,A)
特開昭62-100706(JP,A)
Y. Akahane et.al.,Applied Physics Letters,2003年 3月 3日,Vol.82 No.9,p.1341-1343
B.-S.Song et.al.,Science,2003年 6月 6日,Vol.300,p.1537
宋奉植 et.al.,2003年春季第50回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2003年 3月27日,第3分冊,p.1137
赤羽良啓 et.al.,2003年春季第50回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2003年 3月27日,第3分冊,p.1138
B.E.Little et.al.,Journal of Lightwave Technology,June 1997, Vol.15 No.6,p.998-1005
M.J.Khan et.al.,IEEE Journal of Quantum Electronics,Octorber 1999, Vol.35 No.10,p.1451-1460
調査した分野 G02B 6/12 - 6/14
特許請求の範囲 【請求項1】
a)スラブ状の本体と、
b)前記本体内に所定の周期で格子状に配置された複数の、本体とは屈折率の異なる領域と、
c)前記本体に設けた、前記異屈折率領域の欠陥を線状に設けた導波路から成る第1光導出入部と、
d)前記本体に設けた第2光導出入部と、
e)前記異屈折率領域の欠陥を点状に設けて成り、略同一の共振波長を有する点状欠陥共振器であって、第1光導出入部と第2光導出入部との間に2個、直列に配置した点状欠陥共振器と、
を備え、
点状欠陥共振器の共振周波数ω0、点状欠陥共振器と第1及び第2光導出入部の間のQ値であるQin、及び点状欠陥共振器と結晶外部の間のQ値であるQvにより求められる値[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2と2個の点状欠陥共振器の間の相互結合係数μの2乗との比で定義される結合比μ2/[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2が0.2~10である、
ことを特徴とする2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項2】
第2光導出入部は、結晶外部との間のQ値が前記点状欠陥共振器のQ値よりも小さい点状欠陥であることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項3】
前記点状欠陥共振器のうちの少なくとも1個は前記異屈折率領域を欠損させることにより形成されるドナー型欠陥であることを特徴とする請求項2に記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項4】
第2光導出入部が前記異屈折率領域の欠陥を線状に設けた導波路であることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項5】
第2光導出入部に前記共振波長の光を反射する第2反射部を設けたことを特徴とする請求項4に記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項6】
第1光導出入部に前記共振波長の光を反射する第1反射部を設けたことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項7】
前記本体は前記異屈折率領域の周期の異なる複数の禁制帯領域から成り、第1光導出入部又は第2光導出入部は該複数の禁制帯領域を通過し、前記共振波長は前記点状欠陥共振器の属する禁制帯領域では第1光導出入部又は第2光導出入部の導波路透過波長帯に含まれ、他の禁制帯領域で該導波路透過波長帯に含まれないことを特徴とする請求項5又は6に記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項8】
個の点状欠陥共振器及び前記2個の光導出入部が点対称に配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
【請求項9】
前記点状欠陥共振器の近傍の異屈折率領域を前記配置周期により定められる位置から変位させたことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶分合波器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、波長分割多重通信等に用いられる2次元フォトニック結晶分合波器に関する。特に、その分合波の特性を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing : WDM)伝送システムの技術が進展している。このWDMは、一本の伝送路に複数の波長(周波数)の光(本明細書において用いる「光」には、電磁波を含むものとする。)を伝播させ、それぞれに別個の信号を乗せて情報伝送するものである。伝送路の入口側で各波長の光を混合し、混合された光を出口側で各波長ごとに取り出すために、光の合波器及び分波器、あるいは波長フィルタが必要となる。従来、分波器には例えばアレイ導波路回折格子が用いられているが、この分波器では、光の損失を小さくするために、現状では数cm角程度の比較的大きな素子が用いられている。
【0003】
それに対して、伝送システムの大容量化及び装置の小型化のために、フォトニック結晶を用いた分波器、合波器や波長フィルタの開発が行われている。フォトニック結晶とは周期屈折率分布をもった機能材料であり、光のエネルギーに対してバンド構造を形成する。特に、光の伝播が不可能となるエネルギー領域(フォトニックバンドギャップ)が形成されることが特徴である。フォトニック結晶中の屈折率分布に適切な欠陥を導入することにより、フォトニックバンドギャップ中にこの欠陥によるエネルギー準位(欠陥準位)が形成される。これにより、フォトニックバンドギャップ中のエネルギーに対応する波長範囲のうち、欠陥準位のエネルギーに対応する波長の光のみが存在可能になる。結晶中の前記欠陥を線状にすることにより導波路となり、結晶中の欠陥を点状にすることにより共振器となる。この点状欠陥において共振する光の波長(共振波長)は、その形状により異なる。
【0004】
非特許文献1には、屈折率の高い材料から成る無限長の円柱体を正方格子状に配列したフォトニック結晶についてコンピュータシミュレーションを行った結果が記載されている。この構成では、正方格子に平行な面内ではフォトニックバンドギャップによる光の制御を行うことができるが、この面に垂直な方向には光の制御を行うことができない。従って、このような構成のフォトニック結晶は実用的ではない。
【0005】
特許文献1には、板状の本体に、本体とは屈折率が異なる領域(以下、「異屈折率領域」とする)を周期的に配列することによって周期屈折率分布を設けたフォトニック結晶が記載されている。このような構成では、本体の面内ではフォトニックバンドギャップが形成され、更に、本体に垂直な方向では本体と周囲の空気との屈折率の差により光が本体内に閉じこめられるため、本体内の光を制御することができる。また、異屈折率領域を線状に欠損させることによって導波路が形成され([0025]、図1)、点状に欠損させることにより点状欠陥が形成される([0029]、図1)。特許文献1では実施例として、円柱孔から成る異屈折率領域を三角格子状に周期的に配列し、導波路近傍の1個の円柱孔の径を大きくして1個の点状欠陥を形成した2次元フォトニック結晶が開示されている。
【0006】

【非特許文献1】ファン他, フィジカル レビュー レターズ, (米国), アメリカ物理学会, 1998年, 第80巻, 960~963ページ(S. Fan et al., "Channel Drop Tunneling through Localized States", Physical Review Letters, (US), American Physical Society, 1998, vol. 80, pp. 960-963)
【特許文献1】特開2001-272555号公報([0025]、[0029]、図1)
【0007】
このような2次元フォトニック結晶は、導波路を伝播する、複数の波長が重畳した光のうち、点状欠陥の共振波長を有する光が点状欠陥を介して結晶外部に分波される分波器として機能する。また、点状欠陥の共振波長を有する光が結晶外部から、導波路を伝播する重畳光へ合波される合波器としても機能する。このように、同じ2次元フォトニック結晶が分波器及び合波器として機能するため、本明細書では、このような2次元フォトニック結晶を「分合波器」と呼ぶ。更に、形状の異なる複数の点状欠陥を導波路近傍に設けた2次元フォトニック結晶は、各点状欠陥がそれぞれ波長の異なる光を分合波する分合波器となる。複数の波長の光にそれぞれ別個の信号を乗せることにより、分波器を用いて伝送路(導波路)から所定の信号を取り出したり、合波器により所定の信号を伝送路に導入したりすることができる。
【0008】
このような分合波器では、点状欠陥はその共振波長λ0を有する光のみならず、共振波長λ0を中心としてある波長幅に含まれる光も一定の割合で分合波する。上記従来の2次元フォトニック結晶分合波器では、分合波スペクトルは図1に示すような、共振波長λ0を中心とするローレンツ関数形となる。ローレンツ関数形の場合には、分合波スペクトルのピークが鋭く、共振波長λ0近くではλ0から離れるにつれて急激に分合波スペクトルの値が小さくなると共に、λ0から離れるにつれて長い裾を引く分布を示す。このようなローレンツ関数形の分合波スペクトルを有する場合、分合波に関して以下の2つの改善すべき課題がある。
【0009】
第1の課題は、分合波スペクトルのピークが鋭いことに起因するものである。装置の経年劣化や温度変化等により、導波路を伝播する光の波長に誤差が生じ、或いは分合波器の共振波長にも誤差が生じる。そのため、点状欠陥の共振波長(分合波スペクトルのピークトップの波長)λ0と導波路を伝播する光の波長λ1との間に誤差δλが生じる。この誤差がわずかであっても、図1に示すように、λ1における分合波スペクトルの値がλ0における値よりも大幅に減少する。このことは分合波スペクトルがローレンツ関数形の場合には、わずかな波長のずれが分合波の効率を低下させることを意味する。
【0010】
第2の課題は、分合波スペクトルの長い裾に起因するものである。このような裾を有することにより、λ0から離れた波長を有する不所望の光が混入し、ノイズの原因となる。更に、この裾が隣接するチャネルの信号波長に重なり、2つの信号が混信(クロストーク)する原因となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、各点状欠陥の分合波スペクトルのピーク形状に起因して生じる、入力信号若しくは共振波長のずれによる分合波効率の低下や分合波スペクトルの裾の影響によるクロストークを防ぐことができる2次元フォトニック結晶分合波器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶分合波器は、
a)スラブ状の本体と、
b)前記本体内に所定の周期で格子状に配置された複数の、本体とは屈折率の異なる領域と、
c)前記本体に設けた、前記異屈折率領域の欠陥を線状に設けた導波路から成る第1光導出入部と、
d)前記本体に設けた第2光導出入部と、
e)前記異屈折率領域の欠陥を点状に設けて成り、略同一の共振波長を有する点状欠陥共振器であって、第1光導出入部と第2光導出入部との間に2個、直列に配置した点状欠陥共振器と、
を備え
点状欠陥共振器の共振周波数ω0、点状欠陥共振器と第1及び第2光導出入部の間のQ値であるQin、及び点状欠陥共振器と結晶外部との間のQ値であるQvにより求められる値[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2と2個の点状欠陥共振器の間の相互結合係数μの2乗との比で定義される結合比μ2/[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2が0.2~10である、
ことを特徴とする。
【発明の実施の形態及び効果】
【0013】
本発明の2次元フォトニック結晶分合波器では、面内方向の大きさに比べて厚さが十分薄い板状体であるスラブが本体となる。この本体内に、該本体とは屈折率の異なる領域(異屈折率領域)を複数、所定の周期で格子状に配置する。これにより、その周期により定まる所定の波長帯域の光を本体の面内方向に通さないフォトニックバンドギャップが形成された2次元フォトニック結晶となる。この2次元フォトニック結晶では上記のような構造とすることにより、本体と本体外(例えば空気)との間では両者の屈折率の差により全反射が生じるため、本体と本体外との間で光が漏れることがない。ここで、異屈折率領域を配置する格子には三角格子や正方格子等がある。また、異屈折率領域は、本体よりも屈折率の低いもの及び高いもののいずれであってもよいが、本体との屈折率の差を大きくできると共に製造が容易であるという点で、本体に周期的に空孔を空けることにより形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0014】
この本体に、異屈折率領域の欠陥を線状に設けた導波路から成る第1光導出入部を設ける。この導波路は、典型的には異屈折率領域を線状に欠損させる、即ち異屈折率領域を設けないことにより形成される。この導波路は、分波器として用いる場合には複数の波長が重畳された光を分波器に導入するための光導入部となり、合波器として用いる場合には複数の波長が重畳された光を外部に取り出すための光導出部となる。
【0015】
また、この本体に第2光導出入部を設ける。第2光導出入部は、分波器として用いる場合には特定の波長の光を結晶外部に取り出すための光導出部となり、合波器として用いる場合には特定の波長の光を合波器に導入するための光導入部となる。この第2光導出入部は導波路、あるいは点状欠陥とすることができる。第2光導出入部を点状欠陥とする場合には、異屈折率領域の欠陥を点状に設けることにより形成される。この点状欠陥には、異屈折率領域を他の異屈折率領域と異なる大きさとしたり欠損させたりしたもの等を用いることができる。また、欠陥を設ける異屈折率領域は1個又は隣接する複数個とすることができる。隣接する複数個の欠陥を設けた場合には、該複数個の欠陥が相まって1つの点状欠陥とみなされる。前記のように光を結晶外部に取り出したり合波器に導入したりするために、該点状欠陥は結晶外部との間のQ値が後述の点状欠陥共振器よりも小さいことが望ましい。ここでQ値は共振器の性能を表す値であり、定義によれば、単位時間に共振器から外部にもれ出るエネルギーの割合に反比例する。従って、Q値が大きいほど共振器から外部への光のエネルギーの漏れが小さい。一方、第2光導出入部を導波路とする場合には、この導波路は第1光導出入部の導波路と同様の方法により形成される。この第2光導出入部の導波路の近傍に更に点状欠陥を設けて、該導波路から点状欠陥を介して光を結晶外部に取り出したり合波器に導入したりしてもよい。
【0016】
第1光導出入部と第2光導出入部との間に、共振波長が略同一の点状欠陥共振器を2個以上直列に配置する。このような配置には、第1光導出入部の導波路に垂直方向に配置するもの、導波路に対して斜め方向に配置するもの、ジグザグに配置するもの等が含まれる。また、点状欠陥共振器は、前記光導出入部の点状欠陥と同様の方法により形成することができる。
【0017】
この点状欠陥共振器は直接外部との光の導出入を行うものではないため、共振器から結晶外部への光の漏れが小さくなるようにすることが望ましい。異屈折率領域を欠損させる、即ち異屈折率領域を設けないことにより形成されるドナー型欠陥は、異屈折率領域の大きさを大きくしたアクセプタ型欠陥等よりも、点状欠陥共振器と結晶外部の間のQ値(Qv)が大きいため、点状欠陥共振器に好適に用いることができる。更に、点状欠陥共振器近傍の異屈折率領域を配列周期により定められる位置から変位させることによりQvを大きくすることができる。例えば、隣接する3個の異屈折率領域を直線状に欠損させた点状欠陥において、異屈折率領域の変位がない場合にQv~5200であるのに対し、点状欠陥に最近接の2つの異屈折率領域を変位させることによりQv~45000とすることができる。
【0018】
第1光導出入部と該光導出入部に最も近い点状欠陥共振器の間、隣接する2つの点状欠陥共振器の間、及び第2光導出入部と該光導出入部に最も近い点状欠陥共振器の間で光がやりとりされ、各構成要素やその間の距離等により決まるQ値が光のやりとりの指標となる。
【0019】
以上のように構成される2次元フォトニック結晶光分合波器は、以下のように分波器及び合波器として動作する。まず、複数の波長の重畳光から所定の波長の光を分波する分波器としての動作について説明する。重畳光を第1光導出入部の導波路に伝播させると、重畳光のうち点状欠陥共振器の共振波長の光のみが第1光導出入部に最も近い点状欠陥共振器に捕獲される。この光は順に、隣接する点状欠陥共振器に捕獲され、最終的に第2光導出入部に捕獲されて結晶外部に取り出される。合波器の場合には、点状欠陥共振器の共振波長の光が第2光導出入部から導入され、分波器とは逆の順に点状欠陥共振器に捕獲される。この光は最終的に重畳光が伝播する第1光導出入部の導波路に導入され、該重畳光に合波される。
【0020】
本発明の分合波器において分合波される光のスペクトルについて考察する。ここでは、図2(a)に示すように2つの光導出入部の間に2個の点状欠陥共振器を設けた場合を例に挙げて説明する。また、比較のために、図2(b)に示すように2つの光導出入部の間に点状欠陥共振器を1個のみ設けた従来の分合波器における分合波スペクトルについて併せて考察する。
【0021】
図2(a)では、導波路から成る第1光導出入部11と、それと同様の形状に形成される導波路から成る第2光導出入部12の間に、共に共振波長λ0、共振周波数ω0(=2πc/λ0、cは光速)である2つの点状欠陥共振器13及び14を配置している。第1光導出入部とそれに近い側の点状欠陥共振器の間のQ値、及び第2光導出入部とそれに近い側の点状欠陥共振器の間のQ値を共にQin、点状欠陥共振器と結晶外部の間のQ値をQvとする。ここでは、τe=2Qin0、τ0=2Qv0で定義される減衰定数τe、τ0を用いて解析を行う。また、2つの点状欠陥共振器の間の相互結合係数をμとする。μは、導波路がない場合で且つ2つの共振器の振幅をaL及びaRとしたとき、daL/dt=(jω0-1/τ0)aL-jμaR及びdaR/dt=(jω0-1/τ0)aR-jμaLから求められる。これらのパラメータを用いて、モード結合理論により計算される分合波スペクトルI(ω)は、
【0022】
【数1】
JP0003763826B2_000002t.gif
【0023】
となる。一方、(b)に示すように、導波路から成る第1光導出入部15と、それと同様の導波路から成る第2光導出入部16の間に点状欠陥共振器17を1個のみ配置した従来の分合波器における分合波スペクトルを上記同様に計算すると、
【0024】
【数2】
JP0003763826B2_000003t.gif
【0025】
となる。式(2)は前記のローレンツ形の分合波スペクトルを示し、分母に周波数ω2の項を有する。それに対して、式(1)では分母内にω2の項に加えてω4の項を有する。この分母内のω4の項は、共振周波数ω0に近い領域ではω2の項よりも分合波スペクトルの値を大きくすることに寄与し、ω0から遠い領域では分合波スペクトルの値を小さくすることに寄与する。従って、本発明の分合波器では、従来の分合波器よりも分合波スペクトルの値が(i)ω0に近い領域では大きくなり、(ii)ω0から遠い領域では小さくなる。
【0026】
式(1)において、μ2=(1/τ0+1/τe)2の場合に分母のω2の項が0になり、前記ω4の項による傾向が最も顕著になる。
【0027】
式(1)においてμ2=(1/τ0+1/τe)2としたものと、式(2)の分合波スペクトルのグラフの一例を図3に示す。実線が式(1)、破線が式(2)に対応する。横軸は波長、縦軸は分合波スペクトルI(λ)のデシベル表示であるIdB=10×log[I(λ)/I(λ0)]で示した。共振波長λ0は1550nmとした。なお、(b)は(a)の拡大図である。このような分合波スペクトルの形状から、本発明の2次元フォトニック結晶光分合波器によって以下の効果が得られることが明らかになる。まず、(i)ω0に近い領域で分合波スペクトルの値が大きくなることにより、導波路中の光の波長に誤差が生じたり、共振器に誤差が生じたりすることにより、導波路を伝播する光の周波数ω1が共振器の共振周波数ω0からずれても、周波数ω1における分合波スペクトルの値が大きくなるため、従来の分合波器よりも分合波の効率が向上する。(i)の場合、図3に示すように、共振周波数ω0付近の分合波スペクトルの形状が平坦になることから、以下では、分合波スペクトルのこのような平坦な形状を「フラットトップ」と呼ぶ。また、(ii)ω0から遠い領域では分合波スペクトルの値が小さくなることにより、分合波される光に不所望の周波数の光が混入してノイズが生じることや、隣接するチャネルの信号周波数に重なってクロストークが生じることを防ぐことができる。
【0028】
分合波器では、周波数が共振周波数ω0から0.005%ずれた時に、分合波スペクトルの値が共振周波数ω0における値の-1dB(79%)以上であることが望ましい。そのためには、μ2と[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2の比であるμ2/[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2が0.2~10であることが望ましい。本明細書ではこの比を結合比と呼ぶ。この比が1、即ちμ2=[(ω0/2)×(1/Qin+1/Qv)]2の時に、式(1)の分母における(ω-ω0)2の項が0となり、最も理想的なフラットトップが形成される。
【0029】
上記モデルでは点状欠陥共振器が2個であり第2光導出入部が導波路である場合を例に
説明したが、この個数が2個よりも大きいN個の場合にも、ω2Nの項の影響により上記モデルの場合と同様の効果が得られる。第1光導出入部と第2光導出入部との間の距離が長い場合には2個の光導出入部の間を接続するために点状欠陥共振器を3個以上設けることが有益である。但し、点状欠陥共振器の個数を3以上とする場合には、周囲との関係が点状欠陥共振器毎に異なるため、同一の共振周波数及びQ値を得るための設計を点状欠陥共振器毎に行う。同様に、第2光導出入部が点状欠陥である場合等にも、第2光導出入部と第1光導出入部(導波路)との違いにより、点状欠陥共振器毎に周囲との関係が異なるため、上記同様に各点状欠陥共振器の設計を個別に行う。また、点状欠陥共振器の個数が2であり、第2光導出入部が導波路である場合には、2個の点状欠陥共振器及び2個の光導出入部を点対称となるように配置するとよい。これにより、周囲との関係が2個の点状欠陥共振器同士で等しくなるため、点状欠陥共振器を同種のものとすれば同一の共振周波数及びQ値を得ることができ、分合波器の設計が容易になる。
【0030】
点状欠陥共振器の共振波長を有する光であっても、一定の割合(透過率)で第1光導出入部から点状欠陥共振器に導入されずに通過する。また、この光は一定の割合(反射率)で点状欠陥共振器により反射される。更に、第2光導出入部を導波路とした場合には、導波路の両端に光が伝播する。これらを抑制することにより、分波及び合波効率を向上させることができる。そのために、第1光導出入部及び/又は第2光導出入部に、点状欠陥共振器の共振波長を有する光を反射する反射部を設けることが望ましい。第1光導出入部に反射部を設けることにより、点状欠陥共振器に導入されずに通過した光が反射部により反射され、点状欠陥共振器に導入される。また、点状欠陥共振器と反射部との距離を適切に設定することにより、点状欠陥共振器に反射された光と反射部に反射された光を干渉させて弱めることができる。更に、第2光導出入部に反射部を設けることにより、第2光導出入部の導波路の一方の端のみから光の取り出し又は導入を行うことができる。
【0031】
このような反射部は、例えば、以下のように構成することができる。前記本体を複数の領域(禁制帯領域)に分け、各禁制帯領域にそれぞれ異なる周期で異屈折率領域を配置し、これら複数の禁制帯領域を通過するように第1光導出入部又は第2光導出入部を配置する。導波路の透過波長帯は異屈折率領域の周期により異なるため、各禁制帯領域の周期を適宜設定することにより、点状欠陥共振器の属する禁制帯領域ではこの点状欠陥共振器の共振波長が第1光導出入部又は第2光導出入部の導波路透過波長帯に含まれ、他の禁制帯領域で該導波路透過波長帯に含まれないようにすることができる。そのため、この共振波長の光は当該他の禁制帯領域の導波路を伝播できず、その禁制帯領域それに隣接する禁制帯領域の境界で反射される。こうして、該境界が反射部となる。このような複数の禁制帯領域から成る構造を、本明細書では「ヘテロ構造」と呼ぶ。
【0032】
図4のように第1光導出入部11に第1反射部18を、第2光導出入部12に第2反射部19を設けた場合、分合波スペクトルI(ω)は、
【0033】
【数3】
JP0003763826B2_000004t.gif
【0034】
となり、反射部のない場合の分合波スペクトルの4倍となる。特に、μ2=(1/τ0+1/τe)2の場合であって、Qin<の時に、ω=ω0における分合波スペクトルの値が1、即ち分合波の効率が100%となる。
【実施例】
【0035】
図5に、本発明の2次元フォトニック結晶分合波器の一実施例の斜視図((a))及び平面図((b))を示す。本体21はスラブ状の形状を有する。本体21に空孔22を周期aの三角格子状に空けることにより、異屈折率領域を設ける。本体に、空孔22を1列分だけ線状に欠損させる、即ち空孔22を設けないことにより、入力導波路23及び出力導波路24を設ける。入力導波路23と出力導波路24の間に、同じ形状の2つの点状欠陥25及び26を設ける。これらの点状欠陥25及び26については後に詳しく説明する。入力導波路23と点状欠陥25の距離、及び点状欠陥26と出力導波路24の距離はいずれも空孔22の5列分離れた距離、即ち(5/2)×30.5aである。また、点状欠陥25と点状欠陥26の距離は4×30.5aである。なお、以下の計算では、aの値を420nm、空孔22の径を240nmとした。この2次元フォトニック結晶分合波器では、2個の点状欠陥及び2本の導波路が共に点対称になるように配置されている。
【0036】
点状欠陥25及び26は、図6に示すように、いずれも3個の空孔22を直線状に欠損させることにより形成される。このような点状欠陥では、その位置全体に本体21の材料が存在するため、本体21と外部の空気との屈折率差により光が閉じこめられやすい。そのため、このような点状欠陥では、本体21の面の外部に光が漏れることが抑えられ、高いQ値を得ることができる。更に、これらの点状欠陥に最も近い空孔221及び222を、三角格子の格子点に配置した場合((a))よりも0.15aだけ点状欠陥の外側へシフトした位置に配置している((b))。本発明者らの計算によると、このように空孔221及び222をこのようにシフトさせることにより、点状欠陥と結晶外部の間のQ値であるQvは、シフトがない場合(Qv~5200)よりも更に大きい、Qv~46600とすることができる。
【0037】
本実施例の2次元フォトニック結晶分合波器におけるQ値等のパラメータは、前記Qv~46600の他に、時間領域差分法(Finite Difference Time Domain method; FDTD法)を用いた計算から以下の値が得られる。入力導波路23と点状欠陥25の間、及び点状欠陥26と出力導波路24との間のQ値であるQinは、Qin~3590である。また、点状欠陥25と点状欠陥26の間の相互結合係数μは、μ~-1.42×10-4ω0となる。従って、前記結合比の値は0.90となり、前記の望ましい範囲(0.2~10)内に含まれる。また、点状欠陥25及び26の共振波長λ0は1581.6nmである。
【0038】
これらのパラメータを用いて、まず、モード結合理論により本実施例の2次元フォトニック結晶分合波器の分合波スペクトルを求める。比較のため、図7に示す、本実施例の構成から一方の点状欠陥を除去して1つのみの点状欠陥31を設けた2次元フォトニック結晶分合波器((a)、比較例1)と、入力導波路23との距離及び出力導波路24との距離がいずれも(5/2)×30.5aである1つのみの点状欠陥32を設けた2次元フォトニック結晶分合波器((b)、比較例2)について、同様の計算を行った。これらの計算結果を図8に示す。縦軸は、分合波スペクトルI(λ)のデシベル表示であるIdB=10×log[I(λ)/I(λ0)]で示した。本実施例の分合波スペクトル40は、(i)共振波長λ0の近傍では本実施例の方が比較例よりも分合波スペクトルが大きく、フラットトップ形状を示す。例えば、IdBが-1dB(I(λ)~0.79I(λ0))以上である波長範囲は、比較例1の分合波スペクトル41では0.25nm、比較例2の分合波スペクトル42では0.45nmであるのに対して、本実施例では0.43nmであり比較例1よりも大きい。これにより、本実施例では光の発振器の誤差等により共振波長λ0が本来の値からずれた場合に、比較例1よりも損失を小さく抑えることができる。また、本実施例の分合波スペクトルは、(ii)共振波長λ0から約0.4nm以上離れた波長では、本実施例の方が比較例よりも分合波スペクトルが小さく、裾の短い形状を示す。IdBが-20dB(I(λ)~0.01I(λ0))である波長範囲は、比較例1では4.8nm、比較例2では9.2nmであるのに対して、本実施例では2.01nmであり、いずれの比較例よりも小さい。従って、本実施例では、共振波長λ0から離れた波長域の信号が原因となってノイズが生じることや、他のチャネルの信号が混信することが比較例よりも抑えられる。
【0039】
上に述べたモード結合理論による計算方法は、分合波スペクトルを関数式で得られるという利点を有するが、Q値や相互結合係数μの誤差の影響を受けやすい。そこで、Q値やμを求めることなく分合波スペクトルを数値で得るFDTD法による計算を行った。その結果を図9に黒丸印で示す。モード結合理論による計算結果よりも分合波スペクトルの線幅は狭くなっているが、モード結合理論による計算結果と同様に、共振波長λ0付近のフラットトップ形状と、共振波長λ0から離れた波長での裾の短い形状を有する分合波スペクトルが得られた。
【0040】
また、図10に示すように点状欠陥26を点状欠陥25よりも導波路垂直方向に(7/2)×30.5a、導波路長手方向に1.5aだけずらして配置した場合についてFDTD法により分合波スペクトルを求めると、図9の三角印のようになる。図9の2つのデータから、共振波長λ0のずれに対応することを重視する場合には、より共振波長付近値が大きい図10の構成とすればよく、ノイズやクロストークを抑制することを重視する場合には、図5の構成とすればよい。
【0041】
上記実施例では、分波器における光の出力部を出力導波路24で構成したが、この出力部を点状欠陥で構成してもよい。このような点状欠陥は、合波器では入力部となる。例えば、図11に示すように、分波器の出力部(合波器の入力部)として、点状欠陥25及び26と同様に3個の空孔を直線状に欠損させた点状欠陥51を設ける。点状欠陥51から最も近い空孔の位置を点状欠陥25及び26の場合よりも三角格子の格子点に近い位置に設定することにより、点状欠陥51のQ値は点状欠陥25及び26よりも小さい値に設定される。入力導波路23から分波された光は、点状欠陥25及び26を経て、Q値の小さい点状欠陥51の本体表面から結晶外部に出射される。
【0042】
更に、本発明の2次元フォトニック結晶分合波器は、空孔の径を変化させたもの等の他の点状欠陥を形成したものや、正方格子等の他の周期的配置で空孔を配置したもの等、様々な形態を取り得る。
【0043】
次に、第1光導出入部及び第2光導出入部に反射部を設けた構成のうち、ヘテロ構造を有する2次元フォトニック結晶分合波器の一実施例を図12に示す。本体61は2つの禁制帯領域63及び64から成る。入力導波路65及び出力導波路66はいずれも同一形状であり、2つの禁制帯領域63及び64を通る。空孔62の周期は、禁制帯領域63ではa1、禁制帯領域64ではa2であり、a1>a2の関係を有する。入力導波路65及び出力導波路66の間に同じ形状の2個の点状欠陥67及び68が配置される。
【0044】
この構成において、2つの禁制帯領域における導波路透過波長帯は図13のようになる。ここで、入力導波路65と出力導波路66は同じ形状であるため、導波路透過波長帯も同じである。禁制帯領域63と禁制帯領域64の周期が異なることにより、禁制帯領域63の導波路透過波長帯73には含まれるが禁制帯領域64の導波路透過波長帯74には含まれない波長帯75が存在する。前記2つの周期を適切に設定して、この波長帯75に点状欠陥67及び68の共振波長が含まれるようにすることにより、入力導波路65を伝播する該共振波長の光が禁制帯領域63と禁制帯領域64の境界で反射されるようにすることができる。入力導波路65から点状欠陥67及び68に導入されずに通過した前記共振波長の光がこの反射により点状欠陥67及び68に導入されるため、分波効率は向上する。同様に、分波された光が点状欠陥67及び68から出力導波路66に導入された時、禁制帯領域63と禁制帯領域64の境界で反射されて出力導波路66の一方からのみ取り出されるため、この点も分波効率の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来の2次元フォトニック結晶分合波器の分合波スペクトルの問題点を説明するための図。
【図2】本発明の2次元フォトニック結晶分合波器((a))と、比較例である点状欠陥共振器を1個のみ設けた2次元フォトニック結晶分合波器((b))の模式図。
【図3】本発明の2次元フォトニック結晶分合波器の分合波スペクトルの一例を示すグラフ。
【図4】ヘテロ構造を有する2次元フォトニック結晶分合波器の模式図。
【図5】本発明の2次元フォトニック結晶分合波器の一実施例の斜視図((a))及び平面図((b))。
【図6】本実施例の2次元フォトニック結晶分合波器が有する点状欠陥について説明するための平面図。
【図7】比較例の2次元フォトニック結晶分合波器の模式図。
【図8】本実施例と比較例の2次元フォトニック結晶分合波器における分合波スペクトルをモード結合理論により計算した結果を示すグラフ。
【図9】本実施例の2次元フォトニック結晶分合波器における分合波スペクトルをFDTD法により計算した結果を示すグラフ。
【図10】他の実施例の2次元フォトニック結晶分合波器の平面図。
【図11】本発明の2次元フォトニック結晶分合波器の他の実施例を示す模式図。
【図12】ヘテロ構造を有する2次元フォトニック結晶分合波器の一実施例の平面図。
【図13】ヘテロ構造を有する2次元フォトニック結晶分合波器における導波路透過波長帯を示す図。
【0046】
11、15…第1光導出入部
12、16…第2光導出入部
13、14、17…点状欠陥共振器
21…本体
22…空孔
23、65…入力導波路
24、66…出力導波路
25、26、31、32、51、67、68…点状欠陥
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12