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明細書 :超伝導膜およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4495426号 (P4495426)
公開番号 特開2005-078939 (P2005-078939A)
登録日 平成22年4月16日(2010.4.16)
発行日 平成22年7月7日(2010.7.7)
公開日 平成17年3月24日(2005.3.24)
発明の名称または考案の名称 超伝導膜およびその製造方法
国際特許分類 H01B  12/06        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
H01L  39/24        (2006.01)
H02G  15/20        (2006.01)
FI H01B 12/06 ZAA
C23C 14/08 L
H01B 13/00 565D
H01L 39/24 B
H02G 15/20 Z
請求項の数または発明の数 50
全頁数 21
出願番号 特願2003-308020 (P2003-308020)
出願日 平成15年8月29日(2003.8.29)
審査請求日 平成18年7月20日(2006.7.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】財団法人電力中央研究所
発明者または考案者 【氏名】松本 要
【氏名】向田 昌志
【氏名】吉田 隆
【氏名】一瀬 中
【氏名】堀井 滋
個別代理人の代理人 【識別番号】100077481、【弁理士】、【氏名又は名称】谷 義一
【識別番号】100088915、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 和夫
審査官 【審査官】南 正樹
参考文献・文献 特開2003-008090(JP,A)
特開2000-095518(JP,A)
特開平09-310161(JP,A)
特開昭63-318014(JP,A)
特開平05-267726(JP,A)
特開平05-148084(JP,A)
特開平04-114996(JP,A)
実用新案登録第3049125(JP,Y2)
調査した分野 H01B 12/06
C23C 14/08
H01B 13/00
H01L 39/24
H02G 15/20
特許請求の範囲 【請求項1】
基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有する超伝導膜であって、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノグルーブが形成されており、該ナノグルーブの上の該超伝導体層に面状結晶欠陥が導入されていることを特徴とする超伝導膜。
【請求項2】
前記面状結晶欠陥のそれぞれは、電流通電方向に連続した面状結晶欠陥であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導膜。
【請求項3】
前記面状結晶欠陥のそれぞれは、不連続な面状結晶欠陥の連なりであることを特徴とする請求項1に記載の超伝導膜。
【請求項4】
前記面状結晶欠陥が、基板上に不規則に分布していることを特徴とする請求項1に記載の超伝導膜。
【請求項5】
前記面状結晶欠陥が、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項6】
前記ナノグルーブは、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項7】
前記基板が、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板;あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項8】
前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、および化学式MgBを主成分とする超伝導物質からなる群から選択される超伝導材料から形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項9】
前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノグルーブが形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項10】
基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有する超伝導膜であって、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノグルーブが形成され、該ナノグルーブの上に欠陥誘導部が形成されており、前記欠陥誘導部の上の該超伝導体層に面状結晶欠陥が導入されていることを特徴とする超伝導膜。
【請求項11】
前記面状結晶欠陥のそれぞれは、電流通電方向に連続した面状結晶欠陥であることを特徴とする請求項10に記載の超伝導膜。
【請求項12】
前記面状結晶欠陥のそれぞれは、不連続な面状結晶欠陥の連なりであることを特徴とする請求項10に記載の超伝導膜。
【請求項13】
前記面状結晶欠陥が、基板上に不規則に分布していることを特徴とする請求項10に記載の超伝導膜。
【請求項14】
前記面状結晶欠陥が、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることを特徴とする請求項10から13のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項15】
前記ナノグルーブは、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項16】
前記基板が、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項17】
前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質からなる群から選択される超伝導材料から形成されていることを特徴とする請求項10から16のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項18】
前記欠陥誘導部が、金属、金属間化合物、窒化物、または酸化物で形成されていることを特徴とする請求項10から17のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項19】
前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノグルーブが形成されていることを特徴とする請求項10から18のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項20】
基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有する超伝導膜であって、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノホールの列が形成されており、該ナノホールの上の該超伝導体層に線状結晶欠陥の列が導入されていることを特徴とする超伝導膜。
【請求項21】
前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、電流通電方向に連続した線状結晶欠陥であることを特徴とする請求項20に記載の超伝導膜。
【請求項22】
前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、不連続な線状結晶欠陥の連なりであることを特徴とする請求項20に記載の超伝導膜。
【請求項23】
前記線状結晶欠陥の列が、基板上に不規則に分布していることを特徴とする請求項20に記載の超伝導膜。
【請求項24】
前記線状結晶欠陥が、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることを特徴とする請求項20から23のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項25】
前記ナノホールは、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることを特徴とする請求項20から24のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項26】
前記基板が、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることを特徴とする請求項20から25のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項27】
前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質からなる群から選択される超伝導材料から形成されていることを特徴とする請求項20から26のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項28】
前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノホールの列が形成されていることを特徴とする請求項20から27のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項29】
基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有する超伝導膜であって、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノホールの列が形成され、該ナノホールの上に欠陥誘導部が形成されており、前記欠陥誘導部の上の該超伝導体層に線状結晶欠陥の列が導入されていることを特徴とする超伝導膜。
【請求項30】
前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、電流通電方向に連続した線状結晶欠陥であることを特徴とする請求項29に記載の超伝導膜。
【請求項31】
前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、不連続な線状結晶欠陥の連なりであることを特徴とする請求項29に記載の超伝導膜。
【請求項32】
前記線状結晶欠陥の列が、基板上に不規則に分布していることを特徴とする請求項29に記載の超伝導膜。
【請求項33】
前記線状結晶欠陥が、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることを特徴とする請求項29から32のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項34】
前記ナノホールは、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることを特徴とする請求項29から33のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項35】
前記基板が、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることを特徴とする請求項29から34のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項36】
前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質からなる群から選択される超伝導材料から形成されていることを特徴とする請求項29から35のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項37】
前記欠陥誘導部が、金属、金属間化合物、窒化物、または酸化物で形成されていることを特徴とする請求項29から36のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項38】
前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノホールの列が形成されていることを特徴とする請求項29から37のいずれかに記載の超伝導膜。
【請求項39】
基板上にナノグルーブを形成する工程と、該基板上に超伝導体層を成長させる工程とを含むことを特徴とする超伝導膜の製造方法。
【請求項40】
前記ナノグルーブを形成する工程を、機械的研磨、エッチング、ナノインプリント、加工モードのAFMおよびナノリソグラフィーからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項39に記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項41】
前記ナノグルーブを、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である様に形成することを特徴とする請求項39または40に記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項42】
前記超伝導体層を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、MBE、およびMODからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項39から41のいずれかに記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項43】
前記ナノグルーブの上に、欠陥誘導部を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項39から42のいずれかに記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項44】
前記欠陥誘導部を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、およびMBEからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項43に記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項45】
基板上にナノホールの列を形成する工程と、該基板上に超伝導体層を成長させる工程とを含むことを特徴とする超伝導膜の製造方法。
【請求項46】
前記ナノホールの列を形成する工程を、機械的研磨、エッチング、ナノインプリント、加工モードのAFMおよびナノリソグラフィーからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項45に記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項47】
前記ナノホールを、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である様に形成することを特徴とする請求項45または46に記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項48】
前記超伝導体層を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、MBE、およびMODからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項45から47のいずれかに記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項49】
前記ナノホールの上に、欠陥誘導部を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項45から48のいずれかに記載の超伝導膜の製造方法。
【請求項50】
前記欠陥誘導部を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、およびMBEからなる群から選択される方法によって実施することを特徴とする請求項49に記載の超伝導膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル、マグネット、シールド、限流器、マイクロ波デバイス、およびそれらの中間製品等の分野において使用できる磁場中での臨界電流密度の高い超伝導薄膜および厚膜と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導体に下部臨界磁場Hc1以上の磁場をかけると量子化磁束が形成され(φ=2.07×10-15Wb)、超伝導体中に侵入する。この状態で電流を流すと量子化磁束にローレンツ力が働き、これらが動き出すと電圧が発生して超伝導状態が壊れる。例えば、酸化物高温超伝導体YBaCu7-x(YBCO)からなる超伝導膜において、自然に導入される酸素欠損や微細な不純物などの点状欠陥などが量子化磁束のピン止めセンターとして機能することが知られている。また、転位などの線状欠陥や結晶粒界等の面状欠陥もピン止めセンターして作用することが知られているが、これらの結晶欠陥はYBCOの場合、膜面に垂直に入っていることが重要である。一般に、YBCO系高温超伝導体は結晶異方性が強い物質であるため、磁場が結晶のc軸に平行に印加された場合、c軸に垂直に磁場を印加した場合に比べてJcが著しく低下する傾向がある。通常利用されるYBCO薄膜はc軸が膜面に垂直になるように形成されるため、磁場が膜面に垂直に印加されるとJcが大きく低下してしまう。YBCO薄膜を用いて超伝導テープを作製してコイルを作製した場合には、テープには平行磁場や垂直磁場が加わるので、Jcの低いc軸平行な磁場成分がコイル特性を支配してしまう。しかしc軸に平行な方向に線状欠陥や結晶粒界が存在すると、これらが量子化磁束のピン止めセンターとなってこの方向でのJcが向上するため、コイル特性の向上においては極めて重要となる。これに対し、点状欠陥などは等方的なのでこの限りではない。
【0003】
DamによりYBCO膜中の転位密度とJcの関係が報告されている(非特許文献1参照)。膜成長時に自然に導入される転位の単位面積当たりの密度の制御はむずかしいが、成膜条件を種々変えることによって、転位密度10μm-2~100μm-2が報告されており、Jcは転位密度とともに増大する。
【0004】
また、結晶粒界はピン止めセンターとしても作用すると同時に、超伝導電流の障壁としても作用する。実際、YBCOなどの高温超伝導薄膜では傾角(YBCOのab面の法線に対する粒界のなす角度)の大きな粒界におけるJcが大変小さいが、小傾角では大きなJcが保たれる。小傾角粒界は転位列とみなせる。転位は絶縁体なので、転位の間隔が大きい小傾角粒界では転位間に強い超伝導部分が存在し電流が流れるが、傾角が大きくなって転位の歪みが重なり出すと電流が流れにくくなる。もしも粒界面が電流の通電方向に平行であればこれらは大変有効なピン止めセンターになる。しかし一般に粒界面はランダムに存在するためJc制御は難しい。
【0005】
一方、超伝導コヒーレンス長程度の微細な析出物もピンとして有効であり、またはリソグラフィーで導入される人工的な欠陥や、電子線照射や重イオン照射などで導入されるコラムナーな結晶欠陥もピン止めセンターになる。リソグラフィーでは任意のピン止めセンターを膜中に導入できる可能性がある。
【0006】
電子ビーム露光を用いた場合、その直径がナノレベルまでは小さくできないがピン直径が10~20nm程度までは微細化報告がある。またピン間距離も同程度まで調整可能であり、臨界電流を測った実験例では量子化磁束とピン配置との関係から磁場中特性にいくつかのピークが現れることが知られている(非特許文献2参照)。この方法は人工的なピン導入に有効であるが、実用的にはスループットが悪く、大面積や線材作製などにはコストが高すぎる。重イオン照射などでも超伝導結晶中にコラムナー欠陥(柱状欠陥)が形成されJc向上において有効であるが装置代やイオン加速のコストが極めて高い。また材料が放射化する場合もあり実用的でない。
【0007】
転位などの結晶欠陥を膜に導入するために、基板表面にナノドットなど島状結晶を形成して、その上から超伝導膜を形成する方法もある。この場合、基板にAgのナノドットを形成した例ではJcが向上したことが報告された(非特許文献3参照)。また膜が基板上で成長する過程で微細析出物が存在すると、そこで膜成長の連続性がくずれ、結晶欠陥、転位や粒界が生じることも、Damの論文で原理が述べられている(非特許文献4参照)。しかしこれらの手法によれば導入された欠陥の配置はランダムであり、ピン止め力も平均化されてしまい、大幅なJc向上においては限界がある。
【0008】

【非特許文献1】B. Dam et al., Nature, Vol.399, p439, 1999.
【非特許文献2】J. Y. Lin et al., Phys. Rev. B54, R12712, 1996.
【非特許文献3】A. Crisan et al., Appl. Phys. Lett., vol.79, p4547, 2001.
【非特許文献4】B. Dam et al., Physica C341-348, p2327, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は基板上に形成される超伝導膜において、超伝導膜中に理想的なピン止めセンターの構造とその導入する方法を提供することである。また、本発明のさらなる目的は、膜形状の第2種超伝導体のすべてに適用し得るようなJcを増大させる技術を低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の実施形態の超伝導膜は、基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有し、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノグルーブが形成されており、該ナノグルーブの上の該超伝導体層に面状結晶欠陥が導入されていることを特徴とする。前記面状結晶欠陥のそれぞれは、電流通電方向に連続していてもよいし、不連続な面状結晶欠陥の連なりであってもよいし、基板上に不規則に分布していてもよい。前記面状結晶欠陥は、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であってもよい。好ましくは、前記ナノグルーブは、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である。前記基板は、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることができる。また、前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質であってもよい。あるいはまた、前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノグルーブが形成されていてもよい。
【0011】
本発明の第2の実施形態の超伝導膜は、基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有する超伝導膜であって、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノグルーブが形成され、該ナノグルーブの上に欠陥誘導部が形成されており、前記欠陥誘導部の上の該超伝導体層に面状結晶欠陥が導入されていることを特徴とする。前記面状結晶欠陥のそれぞれは、電流通電方向に連続していてもよいし、不連続な面状結晶欠陥の連なりであってもよいし、基板上に不規則に分布していていてもよい。前記面状結晶欠陥は、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であってもよい。好ましくは、前記ナノグルーブは、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である。前記基板は、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることができる。また、前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質であってもよい。前記欠陥誘導部が、金属または酸化物で形成されていてもよい。あるいはまた、前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノグルーブが形成されていてもよい。
【0012】
本発明の第3の実施形態の超伝導膜は、基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有し、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノホールの列が形成されており、該ナノホールの上の該超伝導体層に線状結晶欠陥の列が導入されていることを特徴とする。前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、電流通電方向に連続した線状結晶欠陥であってもよく、不連続な線状結晶欠陥の連なりであってもよく、基板上に不規則に分布していてもよい。前記線状結晶欠陥は、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることができる。前記ナノホールは、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることが望ましい。前記基板は、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることができる。また、前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質であってもよい。あるいはまた、前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノホールが形成されていてもよい。
【0013】
本発明の第4の実施形態の超伝導膜は、基板と該基板上に形成された超伝導体層とを有し、該超伝導体層が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノホールの列が形成され、該ナノホールの上に欠陥誘導部が形成されており、前記欠陥誘導部の上の該超伝導体層に線状結晶欠陥の列が導入されていることを特徴とする。前記線状結晶欠陥の列のそれぞれは、電流通電方向に連続した線状結晶欠陥であってもよく、不連続な線状結晶欠陥の連なりであってもよく、基板上に不規則に分布していてもよい。前記線状結晶欠陥は、結晶粒界、転位列、前記超伝導体層の構成元素からなる非晶質体、非超伝導体または低臨界温度の超伝導体であることができる。前記ナノホールは、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下であることが望ましい。前記基板は、ペロブスカイト型結晶構造、岩塩型結晶構造、スピネル型結晶構造、イットリウム安定化ジルコニア型構造、蛍石型結晶構造、希土類C型結晶構造、パイクロア型結晶構造を有する酸化物の基板であるか、あるいは酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、Ni基合金基板、Cu基合金基板、またはFe基合金基板の表面に前記酸化物または硼化物からなるバッファー層を形成したものであることができる。また、前記超伝導体層が、化学式LnBaCu7+x(式中、LnはY元素および希土類元素から選択される1種あるいは複数の元素であり、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu2n+4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5およびn=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質であってもよい。前記欠陥誘導部は、金属または酸化物で形成されてい。あるいはまた、前記超伝導体層が複数の層から形成されており、最上層を除く前記複数の層のそれぞれにナノホールが形成されていてもよい。
【0014】
本発明の第1および第2の実施形態の超伝導膜は、基板上にナノグルーブを形成する工程と、任意選択的である前記ナノグルーブの上に欠陥誘導部を形成する工程と、該基板上に超伝導体層を成長させる工程とを含む方法により製造することができる。前記ナノグルーブを形成する工程を、機械的研磨、エッチング、ナノインプリント、加工モードのAFMまたはナノリソグラフィーによって実施してもよい。望ましくは、前記ナノグルーブは、100nm以下の幅および100nm以下の深さを有し、および隣接する前記ナノグルーブの通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である様に形成される。一方、前記超伝導体層を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、MBE、またはMODによって実施してもよい。さらに、前記欠陥誘導部を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、またはMBEによって実施してもよい。
【0015】
本発明の第3および第4の実施形態の超伝導膜は、基板上にナノホールの列を形成する工程と、任意選択的である前記ナノホールの上に欠陥誘導部を形成する工程と、該基板上に超伝導体層を成長させる工程とを含む方法により製造することができる。前記ナノホールの列を形成する工程を、機械的研磨、エッチング、ナノインプリント、加工モードのAFMまたはナノリソグラフィーによって実施してもよい。望ましくは、前記ナノホールは、100nm以下の直径を有し、および隣接する前記ナノホールの列の通電電流に垂直方向における中心間平均距離が500nm以下である様に形成される。一方、前記超伝導体層を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、MBE、またはMODによって実施してもよい。さらに、前記欠陥誘導部を形成する工程を、PLD、蒸着、スパッタ、CVD、MBEによって実施してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のような構成を用いる本発明によれば、超伝導膜中にピン止め効率の優れた強いピン止めセンターが導入でき、低コストで極めてJcの高い超伝導膜が製造できる。本発明の超伝導膜中に導入されるピン止めセンターは、電流通電方向に向かって整列しているので、電流通過パスを阻害することがなく、大電流を流すことが要求されるケーブル、マグネット、シールド、限流器、マイクロ波デバイス、およびそれらの中間製品等の用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の第1の実施形態の超伝導膜を図1に示す。図1の超伝導膜は、基板1と基板1上に形成された超伝導体層3とを有し、超伝導体層3が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノグルーブ2の列が形成されており、ナノグルーブ2の上の該超伝導体層に面状結晶欠陥4が導入されている。面状結晶欠陥4は、面状ピン止めセンターとして機能する。
【0018】
基板1として、SrTiO、LaAlOなどのペロブスカイト型結晶;MgO、NiOなどの岩塩型結晶;MgAlなどのスピネル型結晶;イットリウム安定化ジルコニア、CeOなどの蛍石型結晶;希土類C型結晶;パイクロア型結晶などの酸化物を用いることができる。また、これらの酸化物基板、窒化物基板、半導体基板、純Ni、Ni-Cr、Ni-WなどのNi基合金基板、純Cu、Cu-NiなどのCu基合金基板、またはFe-Si、ステンレスなどのFe基合金基板の表面に前述の酸化物または硼化物(MgBなど)からなるバッファー層を形成したものを基板1として用いてもよい。このような基板を用いることにより、その表面上にc軸配向した超伝導体からなる超伝導体層3を形成することが可能となる。
【0019】
ナノグルーブ2は基板に複数形成された溝であり、100nm以下、好ましくは5nm~50nmの幅と、100nm以下、好ましくは5nm~50nmの深さとを有する。ナノグルーブの幅は、超伝導体層3を形成する超伝導物質に依存するが、量子化磁束の径(該超伝導物質のコヒーレント長ξの2倍)よりも大きいことが望ましい。複数のナノグルーブ間の通電電流に垂直方向の中心間平均距離は、超伝導体層3中の量子化磁束格子定数a(=1.07×(φ/B)1/2、Bは超伝導体層3に印加される磁場を表す)よりも小さいことが望ましい。これは印加されるBに依存するが、ナノグルーブ間の中心間平均距離は、通常500nm以下、好ましくは15nm~300nm、より好ましくは20nm~200nmである。ナノグルーブが前述の範囲内の幅および深さ、ならびに中心間平均距離を有することにより、超伝導体層中の量子化磁束を効率的にピン止めすることが可能となる。
【0020】
ナノグルーブ2は、超伝導膜の電流通電方向に連続していてもよいし(図5(a)参照)、あるいは不連続であってもよい(図5(b)参照)。不連続となる部分の2つのナノグルーブ間の電流通電方向における距離は、超伝導体層3中の量子化磁束格子定数aよりも小さいことが望ましい。超伝導体層3に印加する磁場Bに依存するが、該距離は、通常500nm以下、好ましくは15nm~300nm、より好ましくは20nm~200nmであることが望ましい。あるいはまた、ナノグルーブの長軸が電流通電方向に平行であることを条件として、複数のナノグルーブ2を基板1上に不規則に配置してもよい(図5(c)参照)。この場合にもナノグルーブの中心間平均距離は前述の範囲内であることが望ましい。また、不連続部分が通電電流に垂直な方向に整列しないことが望ましい。不連続部分が該方向に整列した場合、その部分において量子化磁束のピン止め効果が低下するからである。
【0021】
超伝導体層3を構成する物質は、化学式LnBaCu7+x(式中、Lnはイットリウム(Y)または希土類元素(原子番号57~71の元素)から選択される1種あるいは複数の元素を示し、かつ-0.5<x<0.2である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、化学式(Bi1-xPbSrCan-1Cu4+y(式中、0<x<0.4、-0.5<y<0.5、n=1、2または3である)を有する銅酸化物系高温超伝導物質、あるいは化学式MgBを主成分とする超伝導物質であっても良い。本発明におけるMgBを主成分とする超伝導物質は、炭素、酸素またはSiC等を不純物として含んでもよいMgBを意味する。これらの材料は、c軸配向(基板表面の法線とc軸とが平行)しつつ基板1表面に積層して、基板面に平行な超伝導面を有する超伝導体層3を形成する。超伝導体層3は、通常0.1μm~10μm、好ましくは0.1μm~5μmの範囲内の膜厚を有する。
【0022】
基板1の上のナノグルーブ2は、機械的研磨(ナノスクラッチ)、エッチング、ナノインプリント、加工モードの原子間力顕微鏡(AFM)あるいはナノリソグラフィーを用いて形成することができる。好ましい方法は、ナノスクラッチ、ナノインプリントおよび加工モードのAFMを含む。たとえば、ダイヤモンドなどの砥粒を用いて通電方向に研磨すること、また所望の形状および間隔を有する微小な突起を設けた治具を基板1に押圧させながら通電方向に移動させることによって、ナノスクラッチやナノインプリントを行うことができる。あるいはまた、プローブに高電圧を印加したAFMを利用して、連続的に基板を加工することによって、ナノグルーブ2を形成することができる。
【0023】
超伝導体層3は、パルスレーザ蒸着法(PLD)、蒸着法、スパッタ法、化学的気相蒸着法(CVD)、分子線エピタキシー法(MBE)、あるいは金属有機物堆積法(MOD)を用いて形成することができる。ナノグルーブ2を設けた基板1の表面上に超伝導体層3を形成すると、平坦な部分に成長した膜と、ナノグルーブ2上に形成された膜とでは結晶の方位が異なり、両者が出会った部分では転位や結晶粒界が形成されることになる。また、ナノグルーブ2上では膜がアモルファス状(非晶質体)になったり、組成ずれが発生して欠陥の多い結晶となり、結果として非超伝導体の層もしくは低臨界温度の超伝導体の層が形成される。本明細書においては、超伝導体層3中の転位、結晶粒界、非晶質体、非超伝導体および低臨界温度の超伝導体を、総称的に「結晶欠陥」と呼ぶ。これらの結晶欠陥は膜の成長とともに解消されることはなく、基板上のナノグルーブ2から超伝導体層3の表面まで持続されて面状結晶欠陥4となる。面状結晶欠陥4は必ずしも基板面に垂直である必要はないが、基板面に対して垂直に近い角度を有して存在することが望ましい。これら面状結晶欠陥4は超伝導特性がないか劣っているため面状のピン止めセンターとなる。
【0024】
この構成によれば、面状結晶欠陥4が電流通電方向に平行に並ぶので、電流を妨げることはない。また超伝導体層3に垂直に磁場が印加された場合、量子化磁束に作用するローレンツ力は基板表面と平行で電流の流れと直交する方向に働くため、量子化磁束は面状結晶欠陥4の最も長い側面に向かって動こうとする。しかしながら、本発明の面状結晶欠陥4は磁束線格子間の相互作用にうち勝って動こうとする量子化磁束までピンするので、面状ピン止めセンター(面状結晶欠陥4)はすべての量子化磁束のピン止めに作用することができる。酸素欠損や不純物などの点状ピン止めセンター、あるいはランダムに分布した転位や柱状欠陥などの線状ピン止めセンターに比べて、本発明の面状ピン止めセンターの構造は、通電電流方向に整然と並んでいるためピン止めの効率が極めて高い。
【0025】
上記の効果は、量子化磁束のようなひも状のものをピン止めするには、面状ピン止めセンターでピン止めするのが優れているといった次元性の問題に帰着する。本発明の面状ピン止めセンター(面状結晶欠陥4)は、より少ないピン止めセンターでより多くの量子化磁束をピン止めできるため、磁場中でのJcが向上する。さらに、面状結晶欠陥4は電流通電方向に平行なので、超伝導体層中にランダムに発生する一般の粒界のように電流のパスを遮ることもなく、極めて有効に働く。面状結晶欠陥4は望ましくは電流通電方向に連続して延在するが、必ずしも連続している必要はなく不連続でも良い。また不連続な面状欠陥は長軸方向が電流通電方向に平行であれば基板上に不規則に分布していても同じ効果が得られる。
【0026】
またナノグルーブ2の幅を調整することにより、面状結晶欠陥4の厚さを制御できる。面状結晶欠陥4は転位、粒界、非晶質体、非超伝導体、あるいは低い臨界温度を持つ超伝導体であるため量子化磁束のピン止め作用があり、そのサイズを制御することでピン止めポテンシャルの深さや急峻さが調整できるためピン止め力の大きさも制御できる。量子化磁束のピン止めエネルギーは、磁束線の単位長さ当たり、(1/2μ)Bc×πξ(式中、μは真空の透磁率であり、Bcは超伝導体層3材料の熱力学的臨界磁場であり、ξはコヒーレント長である)で表され、ξの長さは温度依存性を持つので、超伝導膜の使用温度によって最適なピン止めセンター(面状結晶欠陥4)のサイズが異なる場合には、ナノグルーブの幅および中心間平均間隔を変えることによって、ピン止め力の最適値を選ぶことができる。
【0027】
本実施形態の変形例として、バッファー層として超伝導体材料を用いてもよい。すなわち、最初に基板1の上に超伝導体材料のバッファー層を薄く形成した後に、前述と同様の方法でナノグルーブ2を形成し、その後に超伝導体層3を形成してもよい。この場合にも、ナノグルーブ2上には面状結晶欠陥4が形成される。用いることができる超伝導体材料は、超伝導体層3の材料と同種の酸化物または硼化物であることが好ましい。例えば、超伝導体層3をLnBaCu7+xで形成する場合、バッファー層を同一のLnBaCu7+xで形成してもよいし、あるいはLnのみが交換された材料で形成してもよい。ナノグルーブが形成されていない部分のバッファー層は超伝導体層3と同種の超伝導膜であるため、該部分における超伝導体層3のエピタキシャル成長を促進する効果を有する。
【0028】
本実施形態のさらなる変形例として、超伝導体層3を複数の層から形成し、最上層を除く該複数の層のそれぞれにナノグルーブを形成してもよい。この変形例は、超伝導体層3が厚く、超伝導体層3の形成過程で面状結晶欠陥の分布が減少するような場合に、所定の密度の面状結晶欠陥4を導入するのに適している。
【0029】
本発明の第2の実施形態の超伝導膜を図2に示す。図2の超伝導膜は、超伝導体層3が形成される表面に電流通電方向と平行にナノグルーブ2の列が形成されている基板1と、該ナノグルーブ2の列の上に形成されている欠陥誘導部5と、基板1および欠陥誘導部5の上に形成された超伝導体層3とを有し、欠陥誘導部5の上の該超伝導体層に面状結晶欠陥4が導入されている。面状結晶欠陥4は、面状ピン止めセンターとして機能する。なお、基板1、ナノグルーブ2、および超伝導体層3は、第1の実施形態のものと同様である。
【0030】
欠陥誘導部5は、ナノグルーブ2が優先的な核形成サイトとなってこの上に形成された板状結晶あるいは島状結晶の連なりからなるものである。用いることができる材料は、例えばAg、Pt等の金属(高融点であることが好ましい)、AgY、PtY等の金属間化合物、GdN、YNなどの窒化物、およびY、CeO等の酸化物を含む。本発明においては、欠陥誘導部5を基板1とは異なる材料から形成することが好ましいが、基板1と同種であるが結晶方位の異なる材料から形成してもよい。欠陥誘導部5は、PLD、蒸着法、スパッタ法、CVD、あるいはMBEから選ばれた方法において、基板1上に前述の物質を堆積させて形成することができる。この場合、平坦な基板1に比べてナノグルーブ2は優先的な核形成サイトであるため、前述の物質がこの部分に核形成し成長する。物質供給量、成膜時間、成膜温度を調整することによってナノグルーブ2の上に、適切なサイズの板状結晶あるいは島状結晶の連なりを形成することができる。また板状に成長するか島状に成長するかは基板1と前述の物質との濡れ性の選択によって調整される。
【0031】
欠陥誘導部5は、基板上でランダムに形成されるナノドットと異なり、その形状が電流の通電方向に平行になるように整然と並べられたものであり、この点において従来技術との大きな違いがある。そして欠陥誘導部5の表面の平滑性ならびに欠陥誘導部5の表面上の超伝導体材料の堆積速度および配向性などは、基板1のそれら特性とは異なるので、欠陥誘導部5の上に形成される超伝導体層3中には面状結晶欠陥4が形成される。この面状結晶欠陥4は、第1の実施形態と同様に面状ピン止めセンターとして機能するので、優れたピン止め効率を与えるものである。
【0032】
この構成においても、面状結晶欠陥4が電流通電方向に平行に並ぶので、電流を妨げることなしに、磁束線格子間の相互作用にうち勝って動こうとする量子化磁束までピンすることが可能であり、ピン止めの効率が極めて高い面状ピン止めセンターを得ることができる。
【0033】
また、欠陥誘導部5の幅(すなわち、ナノグルーブ2の幅)を調整することにより、面状結晶欠陥4の厚さを制御できる。面状結晶欠陥4のサイズを制御することでピン止めポテンシャルの深さや急峻さが調整できるためピン止め力の大きさも制御できる。超伝導膜の使用温度によって最適なピン止めセンター(面状結晶欠陥4)のサイズが異なる場合には、ナノグルーブの幅および中心間平均間隔を変えることによって、ピン止め力の最適値を選ぶことができる。
【0034】
本実施形態の変形例として、第1の実施形態と同様に、バッファー層として超伝導体材料を用いてもよい。この場合にも、欠陥誘導部5上に面状結晶欠陥4が形成される。用いることができる超伝導体材料は第1の実施形態と同様であり、欠陥誘導部5が形成されていない部分のバッファー層は超伝導体層3と同種の超伝導膜であるため、該部分における超伝導体層3のエピタキシャル成長を促進する効果を有する。
【0035】
本実施形態のさらなる変形例として、超伝導体層3を複数の層から形成し、最上層を除く該複数の層のそれぞれにナノグルーブを形成してもよい。この変形例は、超伝導体層3が厚く、超伝導体層3の形成過程で面状結晶欠陥の分布が減少するような場合に、所定の密度の面状結晶欠陥4を導入するのに適している。
【0036】
本発明の第3の実施形態の超伝導膜を図3に示す。図3の超伝導膜は、基板1と基板1上に形成された超伝導体層3とを有し、超伝導体層3が形成される基板表面に電流通電方向と平行にナノホール6の列が形成されており、ナノホール6の上の該超伝導体層に線状結晶欠陥7が導入されている。線状結晶欠陥7は、線状ピン止めセンターとして機能する。基板1および超伝導体層3は、第1の実施形態のものと同様である。
【0037】
ナノホール6は基板に複数形成された非貫通孔であり、基板1上に電流通電方向と平行な列をなすように形成されている。ナノホール6が列をなすとは、電流通電方向と平行な方向にて隣接するナノホール6間の間隔が超伝導体層3中の量子化磁束格子定数aよりも小さいことを意味する。超伝導体層3に印加される磁場Bに依存するが、電流通電方向と平行な方向にて隣接するナノホール6間の間隔は、通常は250nm以下、好ましくは20nm~150nmであることが望ましい。このような間隔を有するナノホール6の列により形成される線状結晶欠陥7の列は量子化磁束に対して密であり、面状ピン止めセンターと同等の効果を有するものである。すなわち該線状結晶欠陥7の列の間隙を通って量子化磁束が移動するのを有効に防止することが可能となる。
【0038】
ナノホール6の直径は、超伝導体層3を形成する量子化磁束の径(超伝導物質のコヒーレント長ξの2倍)よりも大きいことが望ましい。超伝導体層3の材料に依存するが、ナノホール6が、通常100nm以下、好ましくは5nm~50nmの直径を有することが望ましい。また、印加される磁場Bに依存するが、ナノホール6の列の間の中心間平均距離は、通常500nm以下、好ましくは15nm~300nm、より好ましくは20nm~200nmである。ナノホール6の列が前述の範囲内の幅および深さ、ならびに中心間平均距離を有することにより、超伝導体層3中の量子化磁束を効率的にピン止めすることが可能となる。
【0039】
ナノホール6の列は、超伝導膜の電流通電方向に連続していてもよいし(図6(a)参照)、あるいは不連続であってもよい(図6(b)参照)。不連続となる部分の2つのナノホールの列の間の電流通電方向における距離は、超伝導体層3中の量子化磁束格子定数aよりも小さいことが望ましい。超伝導体層3に印加される磁場Bに依存するが、該距離は、通常500nm以下、好ましくは15nm~300nm、より好ましくは20nm~200nmであることが望ましい。あるいはまた、ナノホール6の列の長軸が電流通電方向に平行であることを条件として、複数のナノホール6の列を基板1上に不規則に配置してもよい(図6(c)参照)。この場合にも隣接するナノホール6の列の間の電流通電方向における距離および電流中電方向に垂直な方向の中心間平均距離は前述の範囲内であることが望ましい。また、図6(b)および図6(c)の場合において、不連続部分が通電電流に垂直な方向に整列しないことが望ましい。不連続部分が該方向に整列した場合、その部分において量子化磁束のピン止め効果が低下するからである。また、図6(a)~(c)の場合において、電流通電方向と直交する方向で隣接する2つのナノホール列において、ナノホールは互いに入れ子状態(図6(a)、(b)の状態)になっていてもよいし、電流通電方向と直交する方向に整列されていてもよい。
【0040】
基板1の上のナノホール6は、機械的研磨(ナノスクラッチ)、エッチング、ナノインプリント、加工モードの原子間力顕微鏡(AFM)あるいはナノリソグラフィーを用いて形成することができる。好ましい方法は、ナノインプリントおよび加工モードのAFMを含む。たとえば、所望の形状および間隔を有する微小な突起を設けた治具を基板1に押圧することによって、ナノインプリントを行うことができる。あるいはまた、プローブに高電圧を印加したAFMを利用して、断続的に基板を加工することによって、ナノホール6を形成することができる。
【0041】
ナノホール6を設けた基板1の表面上に超伝導体層3を形成すると、ナノグルーブ2を設けた場合と同様に、ナノホール6上に線状の「結晶欠陥」が形成される。ナノホール6上の結晶欠陥7は、形状が面状ではなく線状であることを除いて、第1の実施形態の「結晶欠陥」と同様のものである。ナノホール6上の結晶欠陥は膜の成長とともに解消されることはなく、基板上のナノホール6から超伝導体層3の表面まで持続されて線状結晶欠陥7となる。これら線状結晶欠陥7は超伝導特性がないか劣っているため、線状のピン止めセンターとなる。線状結晶欠陥7は必ずしも基板面に垂直である必要はないが、基板面に対して垂直に近い角度を有して存在することが望ましい。
【0042】
本実施形態の構成によれば、線状結晶欠陥7の列が電流通電方向に平行に並ぶので、電流を妨げることはない。また超伝導体層3に垂直に磁場が印加された場合、量子化磁束に作用するローレンツ力は基板表面と平行で電流の流れと直交する方向に働くため、量子化磁束は線状結晶欠陥7の列の側面に向かって動こうとする。しかしながら、本発明の線状結晶欠陥7の列が密であれば、第1および第2の実施形態の面状ピン止めセンターと同様に、磁束線格子間の相互作用にうち勝って動こうとする量子化磁束までピンするので、全ての量子化磁束のピン止めに作用することができる。本発明の線状ピン止めセンターの構造は、ピン止めの効率が極めて高い。
【0043】
またナノホール6の直径を調整することにより、線状結晶欠陥7の直径を制御できる。線状結晶欠陥7は転位、粒界、非晶質体、非超伝導体、あるいは低い臨界温度を持つ超伝導体であるため量子化磁束のピン止め作用があり、そのサイズを制御することでピン止めポテンシャルの深さや急峻さが調整できるためピン止め力の大きさも制御できる。超伝導膜の使用温度によって最適なピン止めセンター(線状結晶欠陥7)のサイズが異なる場合には、ナノホールの直径および電流通電方向の間隔、ならびにナノホールの列の電流通電方向に直交する方向の中心間平均間隔を変えることによって、ピン止め力の最適値を選ぶことができる。
【0044】
本実施形態の変形例として、バッファー層として超伝導体材料を用いてもよい。すなわち、最初に基板1の上に超伝導体材料のバッファー層を薄く形成した後に、前述と同様の方法でナノホール6を形成し、その後に超伝導体層3を形成してもよい。この場合にも、ナノホール6上には線状結晶欠陥7が形成される。用いることができる超伝導体材料は、超伝導体層3の材料と同種の酸化物または硼化物であることが好ましい。例えば、超伝導体層3をLnBaCu7+xで形成する場合、バッファー層を同一のLnBaCu7+xで形成してもよいし、あるいはLnのみが交換された材料で形成してもよい。ナノホールが形成されていない部分のバッファー層は超伝導体層3と同種の超伝導膜であるため、該部分における超伝導体層3のエピタキシャル成長を促進する効果を有する。
【0045】
本実施形態のさらなる変形例として、超伝導体層3を複数の層から形成し、最上層を除く該複数の層のそれぞれにナノホールを形成してもよい。この変形例は、超伝導体層3が厚く、超伝導体層3の形成過程で線状結晶欠陥の分布が減少するような場合に、所定の密度の線状結晶欠陥7を導入するのに適している。
【0046】
本発明の第4の実施形態の超伝導膜を図4に示す。図4の超伝導膜は、超伝導体層3が形成される表面に電流通電方向と平行にナノホール6の列が形成されている基板1と、該ナノホール6の列の上に形成されている欠陥誘導部8と、基板1および欠陥誘導部8の上に形成された超伝導体層3とを有し、欠陥誘導部8の上の該超伝導体層に線状結晶欠陥7が導入されている。線状結晶欠陥7は、線状ピン止めセンターとして機能する。なお、基板1、ナノホール6、および超伝導体層3は、第3の実施形態のものと同様である。
【0047】
欠陥誘導部8は、形状が島状結晶であることを除いて、第2の実施形態の欠陥誘導部5と同様のものである。用いることができる材料は、例えばAg、Pt等の金属(高融点であることが好ましい)、AgY、PtY等の金属間化合物、GdN、YNなどの窒化物、およびRe、CeO等の酸化物を含む。本発明においては、欠陥誘導部5を基板1とは異なる材料から形成することが好ましいが、基板1と同種であるが結晶方位の異なる材料から形成してもよい。欠陥誘導部8は、PLD、蒸着法、スパッタ法、CVD、あるいはMBEから選ばれた方法において、基板1上に前述の物質を堆積させて形成することができる。この場合、平坦な基板1に比べてナノホール6は優先的な核形成サイトであるため、前述の物質がこの部分に核形成し成長する。物質供給量、成膜時間、成膜温度を調整することによってナノホール6の上に、適切なサイズの島状結晶からなる欠陥誘導部8を形成することができる。
【0048】
欠陥誘導部8の列は、基板上でランダムに形成されるナノドットと異なり、電流の通電方向に平行になるように整然と並べられたものであり、この点において従来技術との大きな違いがある。そして欠陥誘導部8の表面の平滑性ならびに欠陥誘導部8の表面上の超伝導体材料の堆積速度および配向性などは、基板1のそれら特性とは異なるので、欠陥誘導部8の上に形成される超伝導体層3中には線状結晶欠陥7が形成される。この線状結晶欠陥7の列は第3の実施形態と同様に線状ピン止めセンターとし、かつ線状結晶欠陥7の列が電流通電方向に平行に並ぶので電流を妨げることがない。したがって、本実施形態の線状結晶欠陥7の列は、優れたピン止め効率を有する線状ピン止めセンターを提供することができる。
【0049】
また、欠陥誘導部8の直径(すなわち、ナノホール6の直径)を調整することにより、線状結晶欠陥7の直径を制御できる。線状結晶欠陥7のサイズを制御することでピン止めポテンシャルの深さや急峻さが調整できるためピン止め力の大きさも制御できる。超伝導膜の使用温度によって最適なピン止めセンター(線状結晶欠陥7)のサイズが異なる場合には、ナノホール6の直径およびナノホール6のなす列の中心間平均間隔を変えることによって、ピン止め力の最適値を選ぶことができる。
【0050】
本実施形態の変形例として、第3の実施形態と同様に、バッファー層として超伝導体材料を用いてもよい。この場合にも、欠陥誘導部8上には線状結晶欠陥7が形成される。用いることができる超伝導体材料は、超伝導体層3の材料と同種の酸化物または硼化物であることが好ましい。例えば、超伝導体層3をLnBaCu7+xで形成する場合、バッファー層を同一のLnBaCu7+xで形成してもよいし、あるいはLnのみが交換された材料で形成してもよい。欠陥誘導部が形成されていない部分のバッファー層は超伝導体層3と同種の超伝導膜であるため、該部分における超伝導体層3のエピタキシャル成長を促進する効果を有する。
【0051】
本実施形態のさらなる変形例として、超伝導体層3を複数の層から形成し、最上層を除く該複数の層のそれぞれにナノホール6の列を形成してもよい。この変形例は、超伝導体層3が厚く、超伝導体層3の形成過程で線状結晶欠陥7の分布が減少するような場合に、所定の密度の線状結晶欠陥7を導入するのに適している。
【実施例1】
【0052】
まず最初に単結晶基板上に、ナノグルーブの形成を行った。単結晶基板としては(100)面が鏡面研磨された幅3mm×長さ10mm×厚さ0.5mmのSrTiO基板を準備した。続いて加工モードのAFMを用いてこの基板表面の中心部分の60μm×60μmの領域にナノグルーブを形成した。ナノグルーブの幅および深さをそれぞれ30nmとし、ナノグルーブの長さを60μmとして、前述の領域に等間隔で、ナノグルーブが基板の長さ方向に平行になるようにして330本のナノグルーブを形成した。ここで、ナノグルーブの中心の平均間隔は150nmであった。この基板を真空チャンバー内に設けられた加熱ヒーター上に固定し、エキシマレーザー蒸着法(PLD)にて基板上にYBaCu7-x(YBCO)薄膜を成膜して、超伝導膜(I-1)を得た。この時、ナノグルーブを書き込んでいない平坦な幅3mm×長さ10mm×厚さ0.5mmのSrTiO基板をナノグルーブを形成した基板の横に並べて固定して、超伝導膜(C-1)を得た。超伝導膜(I-1)は本発明の実施例であり、超伝導膜(C-1)は本発明の範囲外の比較例である。PLD法に用いるターゲットとしては化学量論組成のYBCO焼結体ターゲットを用いた。成膜時の基板温度は780℃、酸素分圧は200mTorrとし、膜の冷却過程で十分な酸素の導入を行った。また得られたYBCOの膜厚は0.5μmであった。
【0053】
X線回折によって2つの膜(I-1)および(C-1)の配向性を評価したところ、どちらも強いc軸配向膜であることを確認した。さらにφスキャンによって膜の面内配向性を調べたところ、どちらも高度に面内配向しており、これより2つの膜は同程度に2軸配向した膜であることが確認できた。
【0054】
得られた膜の超伝導特性を調べるため、リソグラフィーによってYBCO膜にブリッジパターンを形成した。ブリッジの幅は40μm、長さは40μmとした。この時、超伝導膜(I-1)においては、上記の60μm×60μmの範囲に形成されたナノグルーブ列の上にブリッジをパターニングした。ここで、通電電流はナノグルーブの列に平行に流れることになる。パターニングされた2つの試料については4端子法による電気特性の評価を行った。抵抗の温度変化から求めた試料の臨界温度Tcは、ナノグルーブを有する超伝導膜(I-1)で90K、ナノグルーブ無しの超伝導膜(C-1)で91Kであった。また77Kにおけるゼロ磁場での臨界電流密度Jcを調べたところ、超伝導膜(I-1)で500万A/cm、超伝導膜(C-1)で450万A/cmであった。さらに77Kの温度およびc軸に平行(基板面に対して垂直)な1テスラの磁場の下で2つの試料のJcを測定したところ、超伝導膜(I-1)では110万A/cm、超伝導膜(C-1)では58万A/cmであった。
【実施例2】
【0055】
実施例1と同様にして、SrTiO基板上にナノグルーブを形成した。次にナノグルーブを形成した基板をPLD用真空チャンバー内の加熱ヒーター上に固定し、PLD法を用いてナノグルーブ上への欠陥誘導部の形成を行った。ここで欠陥誘導部の物質としてはYを用いた。エキシマレーザーでY焼結体ターゲットを30パルス、アブレーションし、SrTiO基板にYを堆積させた。この時、基板温度は700℃、酸素分圧は10-5Torr(1.33×10-3Pa)とした。この条件においては、Yはナノグルーブ上のみに堆積して、欠陥誘導部を形成した。その後、室温に戻した後、実施例1と同様に、加熱ヒーター上のナノグルーブありの試料の隣に、ナノグルーブなしのSrTiO基板を取り付けた。その後、実施例1と同様にして、YBCO焼結体ターゲットを用いてPLD法にてYBCO膜を成膜して、超伝導膜(I-2)および(C-2)を得た。超伝導膜(I-2)は欠陥誘導部を有する本発明の実施例であり、超伝導膜(C-2)は本発明の範囲外の比較例である。成膜条件は実施例1と同じであった。
【0056】
X線回折分析によれば、2つの試料の配向性は同等であった。続いて得られた膜の超伝導特性を調べるため、リソグラフィーによってYBCO膜にブリッジパターンを形成した。ブリッジの幅は40μm、長さは40μmとした。この時、超伝導膜(I-2)においては、上記の60μm×60μmの範囲に形成された欠陥誘導部の列の上にブリッジをパターニングした。パターニングされた2つの試料の臨界温度Tcは、超伝導膜(I-2)で89.5K、超伝導膜(C-2)で90.5Kであった。また77Kにおけるゼロ磁場での臨界電流密度Jcを調べたところ、超伝導膜(I-2)で520万A/cm、超伝導膜(C-2)で430万A/cmであった。さらに77Kの温度およびc軸に平行な1テスラの磁場下において2つの試料のJcを測定したところ、超伝導膜(I-2)では130万A/cm、超伝導膜(C-2)では55万A/cmであった。
【実施例3】
【0057】
まず最初に単結晶基板上に、ナノホールの形成を行った。単結晶基板としては(100)面が鏡面研磨された幅3mm×長さ10mm×厚さ0.5mmのSrTiO基板を準備した。電子ビームリソグラフィーを用いてこの基板表面の中心部分の60μm×60μmの範囲にナノホールの列を形成した。ナノホールの幅は40nm、深さは20nmとした。またナノホールの列は基板の長さ方向に平行になるようにして、列の長さが60μmとなるようにした。また基板の長さ方向におけるナノホール間の間隔は100nmとした。上記の60μm×60μmの領域に等間隔で、330本のナノホール列を形成した。基板の幅方向におけるナノホール列の中心の平均間隔は150nmであった。この基板を真空チャンバー内に設けられた加熱ヒーター上に固定し、エキシマレーザー蒸着法(PLD)にて基板上にYBaCu7-x(YBCO)薄膜を成膜して、超伝導膜(I-3)を得た。この時、ナノホールを形成していない平坦な幅3mm×長さ10mm×厚さ0.5mmのSrTiO基板を、ナノホールを形成して基板の横に並べて固定し、その上にYBCO膜を成膜して、超伝導膜(C-3)を得た。成膜条件は実施例1と同じであった。
【0058】
X線回折分析によれば、2つの試料の配向性は同等であった。続いて得られた膜の超伝導特性を調べるため、リソグラフィーによってYBCO膜にブリッジパターンを形成した。ブリッジの幅は40μm、長さは40μmとした。この時、超伝導膜(I-3)においては、上記の60μm×60μmの範囲に形成されたナノホール列の上にブリッジをパターニングした。パターニングされた2つの試料の臨界温度Tcは、超伝導膜(I-3)で90.5K、超伝導膜(C-3)で91Kであった。また77Kにおけるゼロ磁場での臨界電流密度Jcを調べたところ、超伝導膜(I-3)で510万A/cm、超伝導膜(C-3)で400万A/cmであった。さらに77Kの温度およびc軸に平行な1テスラの磁場下において2つの試料のJcを測定したところ、超伝導膜(I-3)では100万A/cm、超伝導膜(C-3)では45万A/cmであった。
【実施例4】
【0059】
実施例3と同様にして、SrTiO基板上にナノホールを形成した。次にナノホールを形成した基板をPLD用真空チャンバー内の加熱ヒーター上に固定し、PLD法を用いてナノホール上への欠陥誘導部の形成を行った。ここで欠陥誘導部の物質としてはYを用いた。エキシマレーザーでY焼結体ターゲットを15パルス、アブレーションし、SrTiO基板にYを堆積させた。この時、基板温度は700℃、酸素分圧は10-5Torr(1.33×10-3Pa)とした。この条件においては、Yはナノホール上のみに堆積して、欠陥誘導部を形成した。その後、室温に戻した後、実施例3と同様に、加熱ヒーター上の欠陥誘導部を形成した試料の隣に、ナノホールが形成されていない平坦なSrTiO基板を取り付けた。その後、実施例3と同様に、YBCO焼結体ターゲットを用いてPLD法にてYBCO膜を成膜して、超伝導膜(I-4)および(C-4)を得た。超伝導膜(I-4)は欠陥誘導部を有する本発明の実施例であり、超伝導膜(C-4)は本発明の範囲外の比較例である。
【0060】
X線回折分析によれば、2つの試料の配向性は同等であった。続いて得られた膜の超伝導特性を調べるため、リソグラフィーによってYBCO膜にブリッジパターンを形成した。ブリッジの幅は40μm、長さは40μmとした。この時、超伝導膜(I-4)においては、上記の60μm×60μmの範囲に形成された欠陥誘導部(ナノホール)列の上にブリッジをパターニングした。パターニングされた2つの試料の臨界温度Tcは、超伝導膜(I-4)で90K、超伝導膜(C-4)で90.5Kであった。また77Kにおけるゼロ磁場での臨界電流密度Jcを調べたところ、超伝導膜(I-4)で480万A/cm、超伝導膜(C-4)で450万A/cmであった。さらに77Kの温度およびc軸に平行な1テスラの磁場下において2つの試料のJcを測定したところ、超伝導膜(I-4)では120万A/cm、超伝導膜(C-4)では60万A/cmであった。
【0061】
【表1】
JP0004495426B2_000002t.gif

【0062】
以上のように、本発明の超伝導膜は、従来型の超伝導膜と同等の臨界温度Tcを示し、かつ無磁界において従来型膜と同等以上の臨界電流密度を有した。さらに、本発明の超伝導膜は、1テスラの磁界の下においては、従来型の超伝導膜よりも著しく高い臨界電流密度を示した。したがって、本発明の超伝導膜は、磁界の影響下で作働する際により多くの電流を流すことが可能であり、そのような環境下で作働すべき装置にとどまらず、広く、たとえばケーブル、マグネット、シールド、限流器、マイクロ波デバイス、およびそれらの作製に用いられる中間製品等における使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態の超伝導膜を示す斜視断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の超伝導膜を示す斜視断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の超伝導膜を示す斜視断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の超伝導膜を示す斜視断面図である。
【図5】本発明の超伝導膜におけるナノグルーブの配列を示す概略上面図であり、(a)はナノグルーブが連続している例、(b)はナノグルーブが不連続である例、(c)はナノグルーブが不規則に配列されている例を示す。
【図6】本発明の超伝導膜におけるナノホール列の配列を示す概略上面図であり、(a)はナノホール列が連続している例、(b)はナノホール列が不連続である例、(c)はナノホール列が不規則に配列されている例を示す。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
2 ナノグルーブ
3 超伝導体層
4 面状結晶欠陥
5 欠陥誘導部
6 ナノホール
7 線状結晶欠陥
8 欠陥誘導部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5