TOP > 国内特許検索 > 良性家族性新生児けいれん関連遺伝子変異と良性家族性新生児けいれん診断方法 > 明細書

明細書 :良性家族性新生児けいれん関連遺伝子変異と良性家族性新生児けいれん診断方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4314094号 (P4314094)
公開番号 特開2005-130750 (P2005-130750A)
登録日 平成21年5月22日(2009.5.22)
発行日 平成21年8月12日(2009.8.12)
公開日 平成17年5月26日(2005.5.26)
発明の名称または考案の名称 良性家族性新生児けいれん関連遺伝子変異と良性家族性新生児けいれん診断方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 F
C12M 1/00 A
C12Q 1/68 A
G01N 37/00 102
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2003-369584 (P2003-369584)
出願日 平成15年10月29日(2003.10.29)
審査請求日 平成17年8月19日(2005.8.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】兼子 直
【氏名】廣瀬 伸一
【氏名】宮島 祐
【氏名】岡野 創造
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】野村 英雄
参考文献・文献 特表2001-521041(JP,A)
国際公開第03/008574(WO,A1)
国際公開第01/098486(WO,A1)
国際公開第01/088125(WO,A1)
特表2002-541862(JP,A)
国際公開第03/068969(WO,A1)
OKADA M. et al.,Age-dependent modulation of hippocampal excitability by KCNQ-channels,Epilepsy Research,2003年 2月,Vol.53, No.1-2,p.81-94
調査した分野 C12N 15/09
CA/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
良性家族性新生児けいれんに関連する遺伝子由来のポリヌクレオチドであって、配列番
号1の塩基配列において、第910-912位ttcが欠失しているポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1のポリヌクレオチドの一部であって、配列番号1における第910-912位ttcの前後の塩基配列からなり、かつ当該ttcを含まない20~99の連続したDNA配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1ポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセットであって、一方のプライマーが、配列番号1における第910-912位ttcの前後の塩基配列からなり、かつ当該ttcを含まない15~30の連続したDNA配列からなるオリゴヌクレオチドまたはその相補配列であるプライマーセット。
【請求項4】
請求項1のポリヌクレオチドまたは請求項2のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項5】
良性家族性新生児けいれんの検査方法であって、被験者から単離した染色体DNAまたはそのmRNAと、請求項1のポリヌクレオチドまたは請求項2のオリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下でハイブリダイズするか否かを検出することを特徴とする方法。
【請求項6】
良性家族性新生児けいれんの検査方法であって、被験者から単離した染色体DNAまたはmRNAを鋳型とし、請求項のプライマーセットを用いてPCRを行った場合のPCR産物の有無を検出することを特徴とする方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、良性家族性新生児けいれんの関連遺伝子変異とその診断方法に関するものでる。さらに詳しくは、点突然変異および/または欠失変異によって特徴付けられる良性家族性新生児けいれん関連遺伝子由来のポリヌクレオチドと、その遺伝子産物であるポリペプチド、並びにこれらポリヌクレオチドまたはポリペプチドを対象とする良性家族性新生児けいれんの診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
良性家族性新生児けいれん(benign familial neonatal convulsions: BFNC)は新生児早期のけいれんを特徴とし、一般に数ヶ月で自然消退する。しかしながら、新生児のけいれんをきたす疾患には予後不良の急性疾患が多く存在する。このため、けいれん発作を示した新生児に対しては、それがBFNCであるのか、あるいは予後不良な急性疾患によるものであるかを速やかに診断し、後者である場合には早期の治療処理が必要とされる。その診断は現在、国際抗てんかん連盟の分類および用語委員会(Commission on Classification and Terminology of the International League against Epilepsy)により提出されたガイドラインに基づいて行なわれている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、BFNCとその他の急性疾患とは、けいれん発作の状態が極めて類似しているため、初発時の身体症状の観察によって両者を診断することは極めて困難である。そこで、その診断には、遺伝子レベルでの診断に大きな期待が寄せされている。
【0004】
一方、ニューロンの電位依存性K+チャンネル遺伝子(KCNQ2:cDNAはGenBank/ AF033348)の変異と新生児けいれんとの関連性が幾つか報告されている(特許文献1、非特許文献5-8)。またこの出願の発明者らも、BFNCと関連するKCNQ2遺伝子の塩基置換変異を報告している(非特許文献9)。

【特許文献1】特表2001-521041号公報
【非特許文献1】Commission on Classification and Terminology of the ILAE (1989) Epilepsia, 30, 389-399.
【非特許文献2】Biervert,C. et al. Science 279:403-406, 1998
【非特許文献3】Singh,N.A. et al. Nat. Genet. 18(1):25-29, 1998
【非特許文献4】Biervert,C. and Steinlein,O.K. Hum. Genet. 104(3):234-240, 1999
【非特許文献5】Lerche H. et al. Ann Neurol. 46(3):305-312, 1999
【非特許文献6】Steinlein O.K. et al. Neuroreport. 26;10(6):1163-1166, 1999
【非特許文献7】Lee W.L. et al. Neuropediatrics. 31(1):9-12, 2000
【非特許文献8】Miraglia del Giudice E. et al. Eur J Hum Genet. 8(12):994-7, 2000
【非特許文献9】Hirose S. et al. Ann Neurol. 47(6):822-6, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子の突然変異が同定されたことによって、BFNCとその他の予後不良疾患を区別するための診断や、あるいは予後不良疾患に対する早急な予防・治療法の開発に新たな可能性がもたらされている。例えば、けいれん発作を示した新生児を対象として、変異遺伝子の存在や、変異遺伝子が発現する変異タンパク質の存在を調べることによって、そのけいれん発作がBFNCによるものである、または予後不良疾患によるものでるかを事前に高い確率で診断することが可能となる。また、そのような事前診断によって、予後不良疾患である場合は予防や治療のための処置を早い段階から処方することも可能となる。
【0006】
しかしながら、BFNCの表現型は浸透度が不完全であり、また家族内変異も頻繁にみられるため、遺伝子変異をできる限り多く同定し、複数の変異の総合判断によって診断を行うことが必要である。
【0007】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、KCNQ2遺伝子に存在するBFNCに関連した新規の遺伝子変異と、この遺伝子変異を利用したBFNC診断方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願は、前記の課題を解決するものとして、以下の(1)~(13)の発明を提供する。
(1) 良性家族性新生児けいれんに関連する遺伝子由来のポリヌクレオチドであって、配列番号1の塩基配列において、
(a) 第910-912位ttcが欠失;および
(b) 第967位cがtに置換、
の少なくとも一方の変異を有するポリヌクレオチド。
(2) 前記発明(1)のポリヌクレオチドの一部であって、その変異箇所を含むオリゴヌクレオチド。
(3) 前記発明(1)のポリヌクレオチドまたは請求項2のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヒト染色体DNA由来のポリヌクレオチド。
(4) 前記発明(1)または前記発明(3)のポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセットであって、一方のプライマーが、変異箇所を含むオリゴヌクレオチドまたはその相補配列であるプライマーセット。
(5) 前記発明(1)のポリヌクレオチドまたは前記発明(2)のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とするマイクロアレイ。
(6) 良性家族性新生児けいれんに関連する遺伝子由来の前記発明(1)または(3)のポリヌクレオチドの発現産物であって、配列番号2のアミノ酸配列において、
(A) 第304位Pheが欠失;および
(B) 第323位Gln以下が欠失、
の少なくとも一方の変異を有するポリペプチド。
(7) 前記発明(6)のポリペプチドの一部であって、変異箇所を含むオリゴペプチド。
(8) 前記発明(7)のオリゴペプチドを抗原として作製され、変異を含むオリゴペプチドを認識する抗体。
(9) 良性家族性新生児けいれんの診断方法であって、被験者から単離した染色体DNA中に前記発明(3)のポリヌクレオチドが存在するか否かを検出することを特徴とする方法。
(11) 被験者から単離した染色体DNAまたはそのmRNAと、前記発明(1)のポリヌクレオチドまたは前記発明(2)のオリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下でハイブリダイズするか否かを検出する前記発明(9)の方法。
(11) 被験者から単離した染色体DNAまたはmRNAを鋳型とし、前記発明(4)のプライマーセットを用いてPCRを行った場合のPCR産物の有無を検出する前記発明(9)の方法。
(12) 良性家族性新生児けいれんの診断方法であって、被験者から単離した生体試料中に前記発明(6)のポリペプチドが存在するか否かを検出することを特徴とする方法。
(13) 被験者から単離した生体試料中に、前記発明(8)の抗体と反応するポリペプチドが存在するか否かを検出する前記発明(12)の方法。
【0009】
すなわち、この出願の発明者らは、臨床経過および脳波所見よりBFNCと診断した日本人61例についてKCNQ2の変異を直接シークエンス方により検索し、前記発明(1)に示したKCNQ2遺伝子の2つの新規ヌクレオチド変異を見出した。また、KCNQ2遺伝子におけるこれらのヌクレオチド変異に伴って、その発現産物であるタンパク質(ポリペプチド)には、前記発明(6)に示した2つのアミノ酸変異が生じることを見出した。すなわち、これらの変異は、文献(Dunnen, J. and Antonarakis, S. (2001) Hum. Genet., 109, 121-124)に従って記載すれば以下のとおりである。
(i)c.910-912delTTC or TTT, F304del
(ii)c.967C>T, Q323X
なお、ヒトKCNQ2遺伝子の転写産物(mRNA:GenBank/AF033348)には4種類のスプライシングバリアント(1:GenBank/NM_172107、2:GenBank/NM_172106、3:GenBank/ NM_004518、4:GenBank/NM_172108)が存在するが、以上の変異(i)(ii)はこれら全ての転写産物にも当てはまる。この出願では、KCNQ2遺伝子のスプライシングバリアント2のcDNAヌクレオチド配列を配列番号1として、またその発現産物(ポリペプチド)のアミノ酸配列を配列番号2として例示する。
【0010】
前記の発明(1)~(13)は、以上のとおりの新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
なお、この発明において「ポリヌクレオチド」とは、プリンまたはピリミジンが糖にβ-N-グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ヌクレオチドATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が100個以上結合した分子を言い、「オリゴヌクレオチド」とは2-99個連結した分子を言う。なお、この発明におけるポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドは1本鎖または2本鎖であり、1本鎖の場合はセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれか一方である。
【0012】
「ポリペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した34個以上のアミノ酸残基から構成された分子を意味し、「オリゴヌクレオチド」は2-33個のアミノ酸残基からなる分子を意味する。
【0013】
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。またこの発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はSambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この出願の発明(1)は、ヒトKCNQ2遺伝子に由来する変異ポリヌクレオチドであって、配列番号1のDNA配列において、以下のヌクレオチド変異:
(a) 第910-912位ttcが欠失
(b) 第967位cがtに置換、
の少なくとも一方を有するポリヌクレオチドである。
【0015】
この発明(1)のポリヌクレオチドは、例えば、後記の発明(2)のオリゴヌクレオチドをプローブとして、BFNC患者の全mRNAから調製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。また後記の発明(4)のプライマーセットを用い、BFNC患者のmRNAを鋳型とするRT-PCRによって単離することもできる。あるいは、野生型KCNQ2のcDNAに、市販のミューテーションキット等を用いて前記の塩基置換を導入することによって取得することもできる。得られたcDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBN(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。
【0016】
この発明(1)のポリヌクレオチドは、後記発明(10)のBFNC診断方法に使用することができる。また、後記発明(6)のポリペプチドを遺伝子工学的に作成する場合の材料としても使用することができる。
【0017】
この出願の発明(2)は、前記発明(1)のポリヌクレオチドの一部であって、各々の変異箇所を含む20~99の連続したDNA配列からなるオリゴヌクレオチドである。この発明(2)のオリゴヌクレオチドは、公知の方法(例えば、Carruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418; Adams(1983)J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov(1997)Nucleic Acid Res. 25:3440-3444; Frenkel(1995)Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers(1994)Biochemistry 33:7886-7896; Narang(1979)Meth. Enzymol. 68:90; Brown(1979)Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage(1981)Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号)に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。また、発明(1)のポリヌクレオチドを適当な制限酵素で切断するなどの方法によって作製することもできる。
【0018】
このようなオリゴヌクレオチドは、特にプローブとして使用する場合には、標識物質によって標識化することができる。標識は、ラジオアイソトープ(RI)法または非RI法によって行うことができるが、非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、ビオチン標識法、化学発光法等が挙げられるが、蛍光標識法を用いることが好ましい。蛍光物質としては、オリゴヌクレオチドの塩基部分と結合できるものを適宜に選択して用いることができるが、シアニン色素(例えば、Cy Dye TMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などを使用することが好ましい。
【0019】
発明(2)のオリゴヌクレオチドもまた、後記発明(10)のBFNC診断方法に使用することができる。あるいは、後記発明(7)のオリゴペプチドを遺伝子工学的に作成するための材料として使用することもできる。
【0020】
この出願の発明(3)は、前記発明(1)ポリヌクレオチドまたは前記発明(2)のオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヒト染色体DNA由来のポリヌクレオチド(ゲノムDNA)である。ここで、ストリンジェント(stringent)な条件とは、前記のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドと、染色体由来のゲノムDNAとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、およびその他公知の条件によって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、NaCl約750 mM以下およびクエン酸三ナトリウム約75 mM以下、より好ましくはNaCl約500 mM以下およびクエン酸三ナトリウム約50 mM以下、最も好ましくはNaCl約250 mM以下およびクエン酸三ナトリウム約25 mM以下である。ストリンジェントな有機溶媒濃度は、ホルムアミド約35%以上、最も好ましくは約50%以上である。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上、より好ましくは約37℃以上、最も好ましくは約42℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、およびキャリアーDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。1つの好まし態様としては、750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウムおよび1% SDSの条件で、30℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。より好ましい態様としては、500 mM NaCl、50 mM クエン酸三ナトリウム、1% SDS、35%ホルムアミド、100 μg/mlの変性サケ精子DNAの条件で、37℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。最も好ましい態様としては、250 mM NaCl、25 mM クエン酸三ナトリウム、1% SDS、50%ホルムアミド、200 μg/mlの変性サケ精子DNAの条件で、42℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。また、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。例えば、洗浄のためのストリンジェントな塩条件は、好ましくはNaCl約30 mM以下およびクエン酸三ナトリウム約3 mM以下、最も好ましくはNaCl約15 mM以下およびクエン酸三ナトリウム約1.5 mM以下である。洗浄のためのストリンジェントな温度条件は、約25℃以上、より好ましくは約42℃以上、最も好ましくは約68℃以上である。1つの好ましい態様としては、30 mM NaCl、3 mM クエン酸三ナトリウムおよび0.1% SDSの条件で、25℃の温度により洗浄を行う。より好ましい態様としては、15 mM NaCl、1.5 mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1% SDSの条件で、42℃の温度により洗浄を行う。最も好ましい態様としては、15 mM NaCl、1.5 mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1% SDSの条件で、68℃の温度により洗浄を行うことである。
【0021】
発明(3)のポリヌクレオチドは、例えば、発明(2)のオリゴヌクレオチドをプローブとして、以上のとおりのストリンジェントはハイブリダイゼーションおよび洗浄処理により、BFNC患者の染色体DNAから調製したゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。
【0022】
この発明(3)のポリヌクレオチドは、後記発明(9)の診断方法において検出対象等となる。
【0023】
この出願の発明(4)は、前記発明(3)のポリヌクレオチドとその相補配列からなる二本鎖ポリヌクレオチド(ゲノムDNA)、または前記発明(3)ポリヌクレオチドから転写されるmRNAをPCR増幅するためのプライマーセットである。そしてこれらのプライマーセットは、一方のオリゴヌクレオチドプライマーが、配列番号1(KCNQ2)のそれぞれの変異(置換または欠失)箇所を含む15~30ntの連続したDNA配列またはその相補配列からなっている。他方のプライマーは、配列番号1の各変異箇所の5'側または3'側の任意の連続DNA配列またはその相補配列とすることができる。
【0024】
これらのプライマーセットは、それぞれの変異箇所含む配列番号1に基づいて公知のDNA合成法により作製することができる。また、プライマーの端部にはリンカー配列等を付加することもできる。さらに、配列の設計には、市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。
【0025】
この発明(4)のプライマーセットは、後記発明(12)のBFNC診断方法等に使用することができる。
【0026】
この出願の発明(5)は、前記のポリヌクレオチドおよび/またはオリゴヌクレオチドをキャプチャープローブとして備えているマイクロアレイ(DNAチップ)である。マイクロアレイの作製方法としては、固相担体表面で直接オリゴヌクレオチドを合成する方法(オン・チップ法)と、予め調製したオリゴヌクレオチドを固相担体表面に固定する方法とが知られている。この発明のマイクロアレイは、このいずれの方法でも作成することができる。オン・チップ法としては、光照射で選択的に除去される保護基の使用と、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術および固相合成技術とを組み合わせて、微少なマトリックスの所定の領域での選択的合成を行う方法(マスキング技術:例えば、Fodor, S.P.A. Science 251:767, 1991)等によって行うことができる。一方、予め調製したオリゴヌクレオチドを固相担体表面に固定する場合には、官能基を導入したオリゴヌクレオチドを合成し、表面処理した固相担体表面にオリゴヌクレオチドを点着し、共有結合させる(例えば、Lamture, J.B. et al. Nucl. Acids Res. 22:2121-2125, 1994; Guo, Z. et al. Nucl. Acids Res. 22:5456-5465, 1994)。オリゴヌクレオチドは、一般的には、表面処理した固相担体にスペーサーやクロスリンカーを介して共有結合させる。ガラス表面にポリアクリルアミドゲルの微小片を整列させ、そこに合成オリゴヌクレオチドを共有結合させる方法も知られている(Yershov, G. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:4913, 1996)。また、シリカマイクロアレイ上に微小電極のアレイを作製し、電極上にはストレプトアビジンを含むアガロースの浸透層を設けて反応部位とし、この部位をプラスに荷電させることでビオチン化オリゴヌクレオチドを固定し、部位の荷電を制御することで、高速で厳密なハイブリダイゼーションを可能にする方法も知られている(Sosnowski, R.G. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1119-1123, 1997)。この発明のマイクロアレイは、以上のいずれの方法によっても作製することができる。
【0027】
この出願の発明(6)は、発明(1)または発明(3)のポリヌクレオチドの発現産物であって、配列番号2のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸変異:
(A) 第304位Pheが欠失
(B) 第323位Gln以下が欠失
の少なくとも一方を有するポリペプチドである。
【0028】
すなわち、これらのポリペプチドにおけるアミノ酸変異は、前記発明(1)のポリヌクレオチドにおけるミスセンス変異または欠失変異によって、正常(野生型)ポリペプチド(配列番号2)のアミノ酸が変異するか、または停止コドンによって短鎖のポリペプチドとなっている。
【0029】
これらのポリペプチドは、BFNC患者の生体試料から公知の方法に従って単離する方法、それぞれの変異アミノ酸残基を含む配列番号2のアミノ酸配列に基づき化学合成によってペプチドを調製する方法、あるいは前記発明(1)のポリヌクレオチド(変異cDNA)を用いて組換えDNA技術で生産する方法などにより取得することができる。この発明(6)のポリペプチドは、例えば、後記発明(23)のBFNC診断方法の検査対象とすることができる。
【0030】
この出願の発明(7)は、前記発明(6)のポリペプチドの一部であって、各々のアミノ酸変異を含む5-30の連続したアミノ酸配列を有するオリゴペプチドである。これらのオリゴペプチドは、所定のアミノ酸配列に基づいて化学的に合成する方法、あるいは発明(6)のポリペプチドを適当なプロテアーゼによって消化する方法等によって作製することができる。これらのオリゴペプチドは、例えば、後記発明(8)の抗体作製のための抗原として使用することができる。
【0031】
発明(8)の抗体は、前記発明(7)のオリゴペプチドを抗原として作製されたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、発明(6)のポリペプチドのエピトープに結合することができる全体分子、およびFab、F(ab')2、Fv断片等が全て含まれる。このような抗体は、例えばポリクローナル抗体の場合には、前記のオリゴペプチドを免疫原として動物を免役した後、血清から得ることができる。あるいは、上記の真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。また、モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体作成法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996)に従って作成することができる。これらの抗体は、発明(6)のポリペプチドを特異的に認識することができ、後記発明(12)の診断方法等に使用することができる。
【0032】
この出願の発明(9)は、被験者(新生児)のけいれん発作がBFNCであるか否かを診断する方法である。すなわち、被験者の生体試料から染色体DNAを単離し、このDNA中に、発明(3)のポリヌクレオチドが存在する場合に、この被験者をBFNC患者と判定する。ポリヌクレオチドの検出は、それを直接シークエンシングする方法によっても行うことができるが、発明(10)または(11)の方法が好ましい。
【0033】
発明(10)の方法では、被験者から単離した染色体DNAまたはそのmRNAと、前記発明(1)のポリヌクレオチドまたは発明(2)のオリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下でハイブリダイズするか否かを検出する。被験者がBFNCに関連した遺伝子変異を有している場合には、染色体DNAまたはそのmRNAとポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、ストリンジェントな条件下でもハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションは、例えば、前記の標識プローブやマイクロアレイを用いて簡便かつ高精度で行うことができる。標識DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法としては、具体的には、例えばAllele-specific Oligonucleotide Probe法、Oligonucleotide Ligation Assay法、Invader法等の公知の方法を採用することができる。また、マイクロアレイでの診断は、例えば以下のとおりに行うことができる。すなわち、被験者の生体試料(例えば血液等)から単離したmRNAを鋳型として、cDNAを合成し、PCR増幅する。その際に、標識dNTPを取り込ませて標識cDNAとする。この標識cDNAをマクロアレイに接触させ、マイクロアレイのキャプチャープローブ(オリゴヌクレオチド)にハイブリダイズしたcDNAを検出する。ハイブリダイゼーションは、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注して標識cDNA水性液を、マイクロアレイ上に点着することによって実施することができる。点着の量は、1~100nl程度とすることができる。ハイブリダイゼーションは、室温~70℃の温度範囲で、6~20時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の標識cDNAを除去する。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが好ましい。
【0034】
また発明(11)の方法では、被験者から単離した染色体DNAまたはmRNAを鋳型とし、前記発明(4)のプライマーセットを用いてPCRを行った場合のPCR産物の有無を検出する。被験者がBFNCに関連した遺伝子変異を有している場合には、プライマーセットによって規定されるポリヌクレオチドのPCR産物が得られる。PCRまたはRT-PCRは公知の方法により行うことができる。ヌクレオチド変異の検出は、PCR産物を直接シークエンシングする方法の他に、例えばPCR-SSCP法、PCR-CFLP法、PCR-PHFA法等を行ってもよい。また、Rolling Circle Amplification法、Primer Oligo Base Extension法の公知の方法を採用することもできる。
【0035】
この出願の発明(12)もまた、被験者がBFNC患者であるか否かを診断する方法であり、被験者から単離した生体試料中に、前記発明(6)のポリペプチドが存在する場合に、その被験者をBFNC患者と判定する。ポリペプチドの存在は様々な公知方法によって行うことができるが、発明(13)の方法が好ましい。発明(13)の方法は、発明(8)の抗体を用いる方法であって、特に標識化抗体を用いることによって、簡便かつ高精度の検出が可能となる。標識は、酵素、放射性同位体または蛍光色素を使用することができる。酵素は、turnover numberが大であること、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、通常のEIAに用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3',5,5'-テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。放射性同位体としては、125Iや3H等の通常のRIAで用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。放射生同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。また、蛍光色素を用いる場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。さらに、1次抗体と標識化2次抗体を用いたサンドイッチ法(標識として酵素を用いた場合には「ELISA法」)も好ましく用いることができる。
【0036】
なお、以上のBFNC診断は、これまでに知られているKCNQ2遺伝子の変異またはその発現産物の変異の検出と組み合わせて行うこともできる。
【0037】
以下、前記発明の基礎となった遺伝子変異を確認したスクリーニングの手続と結果を示す。
1.方法
1-1.患者
BFNCの診断は、小児神経科医により、国際抗てんかん連盟の分類および用語委員会のガイドライン(非特許文献1)等における基準に従って行った。調査は、BFNC患者61例と健康なボランティア100例を対象に行った。
1-2.遺伝子分析
EDTA処理した全血標本より、QIAamp DNA Blood kit(Qiagen社、ドイツ)を用いてゲノムDNAを調製した。KCNQ2およびKCNQ3の遺伝子異常のスクリーニングは、自動シーケンサーによる直接的な配列決定法を用いて行った。遺伝子の全てのエクソンをPCR増幅するためのプライマーおよびPCR反応条件は非特許文献9に記載されたものを使用した。各mRNAの参考配列は、ヒトKCNQ2:GenBank/NM_172106を用いた。
1-3.統計的分析
異常の発生率の差は、χ2検定を用いた統計的有意性に基づき判定した。P値が0.05未満の場合に統計的有意差とした。
2.結果
BFNC患者の遺伝子分析の結果、KCNQ2遺伝子における以下の新規変異が見出された。
(i)c.910-912delTTC or TTT, F304del
(ii)c.967C>T, Q323X
変異(i)は、結果として停止コドンを生じるフレームシフトであり、配列番号2の第304位以下が欠失した短鎖ペプチドを生じさせる。また変異(ii)は配列番号2の第304位のPhe残基が欠失した変異ペプチドを生じさせる。このPhe残基はKCNQ2タンパク質において種を超えて高度に保存されているアミノ酸残基であり、このPhe残基の欠失はKCNQ2タンパク質の機能に大きな影響を及ぼす。
【0038】
これらの変異は、健常者100名には全く認められなかった。
【0039】
以上の結果から、前記のKCNQ2遺伝子変異(i)および(ii)がBFNCに密接に関連した変異であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、KCNQ2遺伝子に存在する良性家族性新生児けいれんに関連した新規な遺伝子変異と、この遺伝子変異を利用した良性家族性新生児けいれん診断方法が提供される。これらの発明によって、良性家族性新生児けいれんと予後不良疾患とを識別するための診断を確実に行うことが可能となる。