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明細書 :アクチュエータ素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4038685号 (P4038685)
公開番号 特開2005-176428 (P2005-176428A)
登録日 平成19年11月16日(2007.11.16)
発行日 平成20年1月30日(2008.1.30)
公開日 平成17年6月30日(2005.6.30)
発明の名称または考案の名称 アクチュエータ素子
国際特許分類 H02N  11/00        (2006.01)
B81B   3/00        (2006.01)
B81C   5/00        (2006.01)
C01B  31/02        (2006.01)
FI H02N 11/00
B81B 3/00
B81C 5/00
C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 5
全頁数 16
出願番号 特願2003-409344 (P2003-409344)
出願日 平成15年12月8日(2003.12.8)
審査請求日 平成15年12月9日(2003.12.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】安積 欣志
【氏名】福島 孝典
【氏名】相田 卓三
【氏名】小川 敦子
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
審査官 【審査官】竹之内 秀明
参考文献・文献 国際公開第02/063073(WO,A1)
特開2002-353078(JP,A)
特開2003-342483(JP,A)
調査した分野 H02N 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルからなるアクチュエータ素子用導電体材料。
【請求項2】
カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用電極層。
【請求項3】
イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用イオン伝導層の表面に、請求項2に記載の電極層が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成され、該電極層に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項4】
イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用イオン伝導層の表面に、請求項2に記載の電極層が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成され、該電極層の表面に導電層が形成され、該導電層に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項5】
カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物、および、イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物を、展延、塗布、印刷、押し出し、または射出により積層することにより、電極層およびイオン伝導層を形成することを特徴とする請求項またはに記載のアクチュエータ素子の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学アクチュエータ素子に関する。ここで、電気化学アクチュエータ素子とは、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
医療機器や産業用、およびパーソナルロボット、マイクロマシンなどの分野において小型かつ軽量で柔軟性に富むアクチュエータの必要性が高まっている。
【0003】
このようにアクチュエータを小型化すると、慣性力よりも摩擦や粘性力が支配的になるため、モーターやエンジンのような慣性力を利用してエネルギーを運動にかえる機構は、小型アクチュエータの動力として用いることは困難であった。このため、小型アクチュエータの作動原理としては、静電引力型、圧電型、超音波式、形状記憶合金式、高分子伸縮式が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの小型アクチュエータには、それぞれ作動環境に制限があったり、応答性が不十分であったり、構造が複雑であったり、また柔軟性が欠如しているなどの問題点があり、そのため用途も制約されている。
【0005】
これらの問題点を克服し、また、小型アクチュエータの用途をより広範なものに拡張させるため、低電圧で駆動し、応答性が速く、柔軟性に富み、小型化および軽量化が容易で、しかも小電力で作動する高分子アクチュエータの開発が行われてきた。これらの中には、ポリピロール、ポリアニリン等の電子導電性ポリマーの電解質中におけるレドックス伸縮を利用したもの(電子導電性高分子アクチュエータ)、また、イオン交換膜と接合電極とからなり、イオン交換膜の含水状態において、イオン交換膜に電位差をかけてイオン交換膜に湾曲、変形を生じさせることにより、アクチュエータとして機能させることのできるもの(イオン導電性高分子アクチュエータ)の大きく分けると2種のものが知られている。
【0006】
これらのなかで、電子導電性高分子アクチュエータは、低電圧駆動で、伸縮率が大きく、発生圧力も大きいなどの利点があるが、応答速度が遅く、最も性能の良いポリピロールの製造法が電解重合のみであること、また、応答がレドックス反応に基づいたイオンのドーピング、脱ドーピングによることから、原理として繰り返し耐久性に問題のあることが指摘されてきた。
【0007】
これらの問題を克服するために、カーボンナノチューブをペーパー状に成形した電極に二重層充放電に基づく界面応力変化による伸縮現象を利用したアクチュエータが提案された(非特許文献1参照)。このアクチュエータは、応答速度が速く、二重層充放電に基づく原理から寿命も長い。また、発生圧も大きいことが分かっている。ただ伸縮率が小さく、製造法においても、長時間に渡るろ過という極めて煩雑な操作を必要とする。加えて、このアクチュエータは、機械的強度も脆弱であり、作動条件も電解質溶液中に限られている。
【0008】
一方、従来の電子導電性高分子アクチュエータ、あるいはイオン導電性高分子アクチュエータは、いずれも、その動作のために電解質が必要なことから、主に電解質水溶液中で使用されてきた。イオン導電性高分子アクチュエータは、イオン交換樹脂が水で膨潤した状態でないと十分なイオン伝導性を示さないため、基本的には水中で使用する。空中でこのアクチュエータを使用するためには、水の蒸発を防ぐ必要がある。そのため、樹脂コーティングの方法が報告されているが、この方法では、完全にコーティングするのが困難なこと、また、電極反応によるわずかな気体発生によってもコーティングが破れること、さらに、コーティング自身が変形応答の抵抗となることから、実用化されていない。また、水の代わりに、プロピレンカーボネートなどの高沸点有機溶媒なども使用されているが、これについても同様の問題があり、しかも、水ほどイオン導電性が大きくなく、応答性が劣る点でも問題がある。
【0009】
かくして、従来型のアクチュエータは、主に電解質溶液中という限られた環境でのみ駆動するため、用途が極めて限られていた。従って、空中で駆動するアクチュエータ素子の開発は、小型アクチュエータの幅広い用途への実用化のために不可欠である。
【0010】
アクチュエータの空中作動への適用の目的で、イオン交換樹脂の両側に電子導電性高分子を貼付けた例、あるいはプロピレンカーボネートなどの高沸点有機溶媒を含んだゲル膜に導電性高分子を貼付け、両側の電極の伸縮を利用してアクチュエータの素子として利用した例がある。これらの例も、イオン導電性高分子アクチュエータの場合と同様、溶媒の乾燥の問題、イオン導電性の低さの問題があり、本質的な解決となっていない。
【0011】
これらの問題を解決するために、最近、イオン性液体(ionic liquid)として知られており、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称される、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩を用いた応用研究が進められている。イオン性液体は、蒸気圧が無視できるため、揮発による溶媒の乾燥を防ぐことが可能である。
【0012】
電子導電性高分子アクチュエータの空中作動への適用の目的で、イオン性液体中における導電性ポリマーの伸縮現象の研究(非特許文献2参照)、およびポリピロールとイオン性液体のポリフッ化ビニリデンの複合体を用いた、全固体素子の研究(非特許文献3参照)がある。しかしながら、これらの研究においても、前述した、導電性ポリマーに起因する原理的な問題、すなわち、応答性の遅さ、製造法、寿命の問題は解決されていない。

【非特許文献1】サイエンス(Science),第284巻,1999年,p.1340
【非特許文献2】サイエンス(Science),第297巻,2002年,p.983
【非特許文献3】エレクトロチミカ アクタ(Electrochimica Acta),第48巻,2003年,p.2355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、低電圧で駆動でき、空気中および真空中で安定に作動し、製造法が極めて簡単であり、繰り返し耐久性が長く、柔軟、かつ、簡単な構造のため小型化が容易であり、応答性の速い、幅広い用途への実用化を可能にするアクチュエータ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルを、導電性と伸縮性のある活性層として用いることにより、空気中、または真空中でも作動可能な新規なアクチュエータ素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのアクチュエータ素子用導電体材料、アクチュエータ素子用電極層、アクチュエータ素子用イオン伝導層、アクチュエータ素子およびその製造方法を提供するものである。
項1. カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルからなるアクチュエータ素子用導電体材料。
項2. カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用電極層。
項3. イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるアクチュエータ素子用イオン伝導層。
項4. 項3に記載のイオン伝導層の表面に、項2に記載の電極層が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成され、該電極層に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項5. 項3に記載のイオン伝導層の表面に、項2に記載の電極層が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成され、該電極層の表面に導電層が形成され、該導電層に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項6. カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物、および、イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物を、展延、塗布、印刷、押し出し、または射出により積層することにより、電極層およびイオン伝導層を形成することを特徴とする項4または5に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明に用いられるイオン性液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩である。
【0018】
本発明においては、従来より知られた各種のイオン性液体を使用することができるが、常温(室温)または可及的に常温に近い温度において液体状態を呈し安定なものが好ましい。本発明においては、常温溶融塩であって、導電率が0.1Sm-1以上のものが好ましい。
【0019】
本発明において用いられる好適なイオン性液体としては、下記の一般式(I)~(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン)と、アニオン(X-)より成るものを例示することができる。
【0020】
【化1】
JP0004038685B2_000002t.gif

【0021】
【化2】
JP0004038685B2_000003t.gif
[NRx4-x+ (III)
[PRx4-x+ (IV)
上記の式(I)~(IV)において、Rは炭素数1~12のアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3~12のアルキル基を示し、式(I)においてR1は炭素数1~4のアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1~4の整数である。
【0022】
アニオン(X-)としては、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸アニオン、過塩素酸アニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ジシアンアミドアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、有機カルボン酸アニオンおよびハロゲンイオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。一般的には、アスペクト比が大きい、すなわち、細くて長い単層ナノチューブがゲルを形成し易い。従って、本発明においては、SWNTからゲル状組成物を得るのが好ましい。実用に供されるカーボンナノチューブの好適な例として、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明において、ゲル状組成物を得るのに用いることのできるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0025】
本発明のアクチュエータ素子の一例の構成(断面)の概略を、図1に示す。図1の(A)は、イオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなるイオン伝導層1を、カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとのゲル状組成物からなる電極層2,2で挟んだ3層構造のアクチュエータ素子を示す。電極層2,2は、相互に絶縁状態に形成されている。図1の(B)は、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子を示す。
【0026】
電極層2,2を構成するゲル状組成物は、カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとからなる。カーボンナノチューブとイオン性液体によりカーボンナノチューブゲルを得て、このゲルに、機械的な強度を保つためにポリマーを配合してゲル状組成物を得る。
【0027】
カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルは、イオン性液体の存在下でカーボンナノチューブにせん断力をかけることにより生成する。その際のカーボンナノチューブの配合割合は、カーボンナノチューブ/ゲル=1~40重量%であるのが好ましく、カーボンナノチューブ/ゲル=5~20重量%であるのがより好ましい。カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルは、カーボンナノチューブがその性質を損なうことなく微細に分散した状態の稀有の材料であり、非揮発性で不燃性であり、熱的安定性が高い。
【0028】
機械的な強度を保つためにカーボンナノチューブゲルにポリマーを配合して、導電性があり電気応答伸縮活性のある電極層を得る際のカーボンナノチューブゲルとポリマーの配合比(重量比)は、ゲル:ポリマー=1:2~4:1であるのが好ましく、ゲル:ポリマー=1:1~2:1であるのがより好ましい。この配合の際には、4-メチルペンタン-2-オンなどの溶媒を用いても良い。
【0029】
イオン伝導層1を構成するゲル状組成物は、イオン性液体とポリマーとからなる。このゲル状組成物を得る際のイオン性液体とポリマーの配合比(重量比)は、イオン性液体:ポリマー=1:2~4:1であるのが好ましく、イオン性液体:ポリマー=1:1~2:1であるのがより好ましい。この配合の際には、4-メチルペンタン-2-オンなどの溶媒を用いても良い。
【0030】
イオン伝導層1の表面に、電極層2,2を形成して、アクチュエータ素子を得るには、例えば、各層を構成するゲル状組成物を順次、展延法(キャスト法)により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させれば良い。
【0031】
イオン伝導層1の厚さ、および電極層2の厚さは、それぞれ、10~500μmであるのが好ましく、50~200μmであるのがより好ましい。また、各層を構成するゲル状組成物の製膜にあたっては、スピンコート法、印刷法、スプレー法等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0032】
導電層3の形成にあたっては、プレス法、展延法(キャスト法)等によるカーボンナノチューブペーパーの接合、スパッタ法、蒸着法等による貴金属層の接合、スプレー法、印刷法等によるカーボンペーストの塗布等の方法がある。これらのうち、スパッタ法による貴金属層の接合がより好ましい。導電層3の厚さは、10~50nmであるのが好ましい。
【0033】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間に0.5~3Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.5~1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。
【0034】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図2に示すように、イオン伝導層1の表面に相互に絶縁状態で形成された電極層2,2に電位差がかかると、電極層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン性液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、電極層2,2が伸縮するためである。図2に示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノチューブがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン性液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図2において、4はイオン性液体のカチオンを示し、5はイオン性液体のアニオンを示す。
【0035】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、カーボンナノチューブとイオン性液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、カーボンナノチューブの電気伸縮効果が有効に利用される効果に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、空気中、真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。
【0036】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツなどの医療、福祉用ロボット、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0037】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン性液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0038】
なお、イオン伝導層表面への電極層の形成は少なくとも2層必要であるが、図3に示すように、平面状のイオン伝導層1の表面に多数の電極層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4に示すものは、径が1mm程度のイオン伝導層1のロッドの周囲に4本の電極層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中または真空中で安定して作動し、低電圧で駆動可能である。また、製造が簡単で、変位量、変位力が大きく、小型化が容易で、且つ応答が速く、柔軟に作動する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0041】
実施例には、ポリマーとして、式;
【0042】
【化3】
JP0004038685B2_000004t.gif
で表されるポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]を用いた。
【0043】
実施例に用いたイオン性液体は、式;
【0044】
【化4】
JP0004038685B2_000005t.gif
(式中、Meはメチル基を示す。)で表されるアルキルイミダゾリウム塩であって、Rがブチル基でアニオンX-がヘキサフルオロホスフェート(PF6-)の塩(以下、BMIPF6ともいう)、Rがエチル基でアニオンX-がビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[(CF3SO22-]の塩(以下、EMITFSIともいう)、およびRがブチル基でアニオンX-がテトラフルオロボレート(BF4-)の塩(以下、BMIBF4ともいう)を用いた。
【0045】
実施例に用いたカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製「HiPco」)(以下、SWNTともいう)である。
【0046】
実施例に用いた溶媒は、4-メチルペンタン-2-オン(以下、MPともいう)である。
【0047】
実施例に用いたカーボンナノチューブペーパーは、次のようにして得た。すなわち、単層カーボンナノチューブをpH=10のTritonX-100水溶液(0.5容量%)中に、超音波洗浄器中で2時間、超音波をかけて分散させた(0.6mg/ml)。その分散液50mlを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターを用いて吸引ろ過し、大量の水、メタノールで洗浄した。得られたものを自然乾燥後、フィルターから剥がすと、自立的なカーボンナノチューブのみが絡み合ってできた紙状のカーボンナノチューブペーパーが得られた(厚さは50μm程度)。表面の抵抗は、テスターで測って距離1cm程度で数オーム以下であった。
【0048】
また応答性の評価は、実施例で得られた3層構造フィルムまたは5層構造フィルムを、幅1mm×長さ15mmの短冊状に切断し、図5に示すように、端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、空気中で電圧を加え、レーザー変位計を用いて、固定端から10mmの位置の変位を測定して行った。同時に、電圧と電流を測定した。
【0049】
実施例1
[イオン性液体(BMIPF6)のPVDF(HFP)ゲルと、同じイオン性液体のカーボンナノチューブゲルから構成される3層構造フィルム]
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)とBMIPF6のゲルの調製:
SWNT(28mg)とBMIPF6(509mg)とを15分間練り合わせ、SWNTを5重量%含むゲルを調製した。練り合わせることにより、イオン性液体がカーボンナノチューブによりゲル化された。
【0050】
(2)イオン性液体のPVDF(HFP)ゲルをSWNTゲルで挟んだ3層構造のゲル膜の作製:
上記(1)で調製したSWNTゲル(73mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](71mg)およびMP(0.8ml)を、70~80℃で加熱混合して、1層目(電極層)と3層目(電極層)を構成するゲル状組成物を調製した。その間に挟む2層目(イオン伝導層)を構成するゲル状組成物は、BMIPF6(70mg)、PVDF(HFP)(70mg)およびMP(0.4ml)を、70~80℃で加熱混合して調製した。1層目のゲル状組成物を基板に流し込み、スペーサーをガイドとして平坦にならし、数分間乾燥した後に、もう一枚のスペーサーを重ねて、2層目のゲル状組成物を流し込んでならした。同様にして、3層目を重ね、一昼夜自然乾燥した後に真空乾燥して3層構造のゲルフィルムを作製した。
【0051】
(3)3層構造フィルムの応答性の評価:
応答性の評価は、上述した方法によりレーザー変位計を用いて行った。図6は、4Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの、上から、電圧、そのとき流れた電流、変位の図である。縦軸の「Voltage/V」は「電圧/V」を意味し、「Current/mA」は「電流/mA」を意味し、「Displacement/mm」は「変位/mm」を意味する。横軸の「Time/sec」は「時間/秒」を意味する。電流は、コンデンサーと同様の充電電流のみが流れている。変位の図から、3層構造のフィルムが、電圧を加えると、プラス極側に曲がっているのがわかる。図7は、図6と同様のもので電圧を加え続けて30分後の応答であり、ほとんど応答は変化していない。イオン交換樹脂を用いたアクチュエータの場合は、30分も放置すると水が蒸発し、応答性がなくなることを考えると、イオン性液体の蒸発しない特性によるものと考えられる。耐久性については、約9000回以上の連続駆動でも劣化しなかった。図8は、4Vp.-p.の方形波電圧の周波数を変えたときの、変位応答を示す。上から、0.1Hz、1Hz、2Hz、4Hzである。これから、数10Hz程度まで応答可能であることがわかる。
【0052】
表1に、加えた0.1Hzの方形波電圧の電圧値(ピーク・ツー・ピーク、peak to peak)とその時の応答変位量(ピーク・ツー・ピーク)を示す。
【0053】
[表1]
電圧(V) 3 4 5
変位(mm) 0.33 0.41 0.54。
【0054】
実施例2
[イオン性液体(EMITFSI)のPVDF(HFP)ゲルと、同じイオン性液体のカーボンナノチューブゲルから構成される3層構造フィルムを、さらにカーボンナノチューブペーパーをプレスで接合した5層構造フィルム]
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)とEMITFSIのゲルの調製:
SWNT(21mg)とEMITFSI(86mg)とを15分間練り合わせ、SWNTを20重量%含むゲルを調製した。
【0055】
(2)イオン性液体のPVDF(HFP)ゲルをSWNTゲルで挟んだ3層構造のゲル膜の作製:
実施例1と同様の方法で3層構造のゲルフィルムを作製した。配合割合は、1層目(電極層)と3層目(電極層)として、上記(1)で調製したSWNTゲル(105mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](54mg)およびMP(1.0ml)を配合した。その間に挟む2層目(イオン伝導層)として、EMITFSI(160mg)、PVDF(HFP)(80mg)およびMP(0.7ml)を配合した。
【0056】
(3)5層構造フィルムの作製:
上記(2)で作製した3層構造のゲルフィルムに、カーボンナノチューブペーパー(導電層)をプレスで両面から接合した。
【0057】
(4)5層構造フィルムの応答性の評価:
応答性の評価は実施例1と同様にして行った。図9は、0.1Hz、4Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの、上から、電圧、そのとき流れた電流、変位の図である。実施例1と同様の応答であるが、電流、変位応答とも、実施例1よりはるかに大きい。これは、カーボンナノチューブペーパーの導電性が大きいためであると考えられる。また図10は、4Vp.-p.の方形波電圧の周波数を変えたときの、変位応答を示す。左上のAは0.1Hz、左下のBは1Hz、右上のCは2Hz、右下のDは5Hzである。これから、実施例1よりはるかに応答性がよくなっているのがわかる。
【0058】
表2に、加えた0.1Hzの方形波電圧の電圧値(ピーク・ツー・ピーク)とその時の応答変位量(ピーク・ツー・ピーク)を示す。
【0059】
[表2]
電圧(V) 2 3 4 5
変位(mm) 0.63 0.78 1.20 1.50。
【0060】
実施例3
[キャスト法による5層構造フィルム]
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)とイオン性液体(BMIBF4)のゲルの調製:
SWNT(41mg)とBMIBF4(164mg)とを15分間練り合わせ、SWNTを20重量%含むゲルを調製した。
【0061】
(2)キャスト(展延)法による製膜:
導電層3,3としてカーボンナノチューブペーパーを用い、以下の成分をキャスト(展延)法により製膜した。
1および5層目(導電層);カーボンナノチューブペーパー
2および4層目(電極層);上記(1)で調製したSWNTゲル(129mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](65mg)およびMP(1.5ml)
3層目(イオン伝導層);BMIBF4(149mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](75mg)およびMP(0.7ml)
次いで、風乾した後に真空乾燥して溶媒を除去し、5層構造フィルムを得た。
【0062】
(3)5層構造フィルムの応答性および耐久性の評価:
応答性の評価は実施例1と同様にして行った。図11は、0.1Hzの方形波電圧を加えたときの、左列が電流、右列が変位の図である。上から、2Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの応答、3Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの応答、4Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの応答、5Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの応答、6Vp.-p.の方形波電圧を加えたときの応答を示す。導電層の存在により、電気抵抗が低くなり、応答特性が良くなっているのがわかる。0.1Hz、4Vp.-p.の方形波電圧を24時間印加し続け、耐久性を調べた結果を、図12に示す。図12は、電圧を加えたときに流れた電流と応答変位のピーク・ツー・ピーク値を、電圧をかけはじめてからの時間に対してプロットしたものである。図中の「Current」は「電流」を意味し、「Displacement」は「変位」を意味する。図から、電流はわずかに小さくなっているがほとんど変化はない。変位は、主にはじめの数時間で大きく減少し、その後の減少は小さい。この図からも、24時間以上(9000回以上)の耐久性が十分あると思われる。このように、カーボンナノチューブペーパーをプレスで接合した実施例2と比べて、応答性はほぼ同じであるが、耐久性ははるかに優れている。
【0063】
表3に、加えた0.1Hzの方形波電圧の電圧値(ピーク・ツー・ピーク)とその時の応答変位量(ピーク・ツー・ピーク)を示す。
【0064】
[表3]
電圧(V) 2 3 4 5 6
変位(mm) 0.43 0.70 0.99 1.25 1.60。
【0065】
実施例4
[キャスト法による3層構造フィルム(試料a)、3層構造フィルムに金スパッタ法で導電層を形成した5層構造フィルム(試料b)、3層構造フィルムにカーボンペーストを塗布して導電層を形成した5層構造フィルム(試料c)]
[試料a:キャスト法による3層構造フィルム]
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)とイオン性液体(BMIBF4)のゲルの調製:
SWNT(63mg)とBMIBF4(245mg)とを15分間練り合わせ、SWNTを21重量%含むゲルを調製した。
【0066】
(2)キャスト(展延)法による製膜:
以下の成分をキャスト法により製膜した。
1および3層目(電極層);上記(1)で調製したSWNTゲル(160mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](80mg)およびMP(1.5ml)
2層目(イオン伝導層);BMIBF4(163mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](82mg)およびMP(0.6ml)
次いで、風乾した後に真空乾燥して溶媒を除去し、3層構造のゲルフィルムを得た。
【0067】
[試料b:3層構造フィルムにスパッタ法で金の導電層を接合した5層構造フィルム]
(1)単層カーボンナノチューブ(SWNT)とイオン性液体(BMITFSI)のゲルの調製:
SWNT(65mg)とEMITFSI(246mg)とを15分間練り合わせ、SWNTを21重量%含むゲルを調製した。
【0068】
(2)キャスト(展延)法による製膜:
以下の成分をキャスト法により製膜した。
1および3層目(電極層);上記(1)で調製したSWNTゲル(163mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](82mg)およびMP(1.2ml)
2層目(イオン伝導層);EMITFSI(161mg)、ポリマー[PVDF(HFP)](80mg)およびMP(0.6ml)
次いで、風乾した後に真空乾燥して溶媒を除去し、3層構造のゲルフィルムを得た。
【0069】
(3)5層構造フィルムの作製:
上記(2)で作製した3層構造のゲルフィルムの両面に、導電層としてスパッタ法により金をつけた(走査電子顕微鏡試料作製用スパッタマシンを使用、20mAで片面計20分)。
【0070】
[試料c:3層構造フィルムにカーボンペーストを塗布して導電層を形成した5層構造フィルム]
(1)5層構造フィルムの作製:
試料aの3層構造のゲルフィルムの両面に、カーボンペースト(藤倉化成株式会社製「ドータイトXC-32」)をトルエンで希釈したものをスプレーで吹き付けて乾燥させ、導電層を形成した。
【0071】
上記で得られた試料a,b,cに0.1Hzの方形波電圧を加えた時の、加えた電圧値(ピーク・ツー・ピーク)とその時の応答変位量(ピーク・ツー・ピーク)を、表4に示す。
【0072】
[表4]
電圧(V) 2 3 4 5 6
変位(mm) a 0.17 0.32 0.63 1.00 1.10
b 0.46 0.78 1.18 1.81 2.12
c 0.30 0.50 0.95 1.50 1.86。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、図1(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。
【図5】変位測定装置の概略を示す図である。
【図6】実施例1の3層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図7】実施例1の3層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図8】実施例1の3層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図9】実施例2の5層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図10】実施例2の5層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図11】実施例3の5層構造フィルムの応答性を示す図である。
【図12】実施例3の5層構造フィルムにおける応答性の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 イオン伝導層
2 電極層
3 導電層
4 イオン性液体のカチオン
5 イオン性液体のアニオン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11