TOP > 国内特許検索 > コールドスプレー質量分析装置 > 明細書

明細書 :コールドスプレー質量分析装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3786417号 (P3786417)
登録日 平成18年3月31日(2006.3.31)
発行日 平成18年6月14日(2006.6.14)
発明の名称または考案の名称 コールドスプレー質量分析装置
国際特許分類 H01J  49/10        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
H01J  49/04        (2006.01)
FI H01J 49/10
G01N 27/62 F
H01J 49/04
請求項の数または発明の数 9
全頁数 9
出願番号 特願2003-504438 (P2003-504438)
出願日 平成14年6月5日(2002.6.5)
国際出願番号 PCT/JP2002/005540
国際公開番号 WO2002/101788
国際公開日 平成14年12月19日(2002.12.19)
優先権出願番号 2001174265
優先日 平成13年6月8日(2001.6.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成15年3月3日(2003.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】山口 健太郎
【氏名】小林 達次
個別代理人の代理人 【識別番号】100088041、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 龍吉
【識別番号】100092495、【弁理士】、【氏名又は名称】蛭川 昌信
【識別番号】100095120、【弁理士】、【氏名又は名称】内田 亘彦
【識別番号】100095980、【弁理士】、【氏名又は名称】菅井 英雄
【識別番号】100094787、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 健二
【識別番号】100097777、【弁理士】、【氏名又は名称】韮澤 弘
【識別番号】100091971、【弁理士】、【氏名又は名称】米澤 明
【識別番号】100109748、【弁理士】、【氏名又は名称】飯高 勉
【識別番号】100088041、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 龍吉
審査官 【審査官】渡戸 正義
参考文献・文献 特開2000-285847(JP,A)
特開平10-055776(JP,A)
特開平05-099911(JP,A)
特開2001-153766(JP,A)
調査した分野 H01J 49/10 - 49/18
H01J 49/04
G01N 27/62
特許請求の範囲 【請求項1】
試料溶液を低温の下で噴霧し、脱溶媒して質量分析を行なうコールドスプレー質量分析装置において、
(a)試料溶液を通すニードルパイプと、
(b)ニードルパイプと同軸形状をなし、温度制御したネブライジング・ガスを通すシース管と、
(c)ニードルパイプの先端から噴霧された試料溶液の荷電液滴が通過する通路を有し、通路を通過する荷電液滴から溶媒を取り除く脱溶媒ブロックと、
(d)脱溶媒ブロックを冷却するための冷却手段と、
(e)脱溶媒ブロックを加熱するための加熱手段と、
(f)脱溶媒ブロックの温度を検出する温度センサーと
を備え、
脱溶媒ブロックを任意の温度に制御できるようにしたことを特徴とするコールドスプレー質量分析装置。
【請求項2】
試料溶液を低温の下で噴霧し、脱溶媒して質量分析を行なうコールドスプレー質量分析装置において、
(a)試料溶液を通すニードルパイプと、
(b)ニードルパイプと同軸形状をなし、温度制御したネブライジング・ガスを通すシース管と、
(c)ニードルパイプの先端から噴霧された試料溶液の荷電液滴が通過する通路を有し、通路を通過する荷電液滴から溶媒を取り除く脱溶媒ブロックと、
(d)脱溶媒ブロックを冷却するための冷却手段と、
(e)脱溶媒ブロックを加熱するための加熱手段と、
(f)脱溶媒ブロックの温度を検出する温度センサーと
を備え、
コールドスプレー・イオン化モードと通常のエレクトロスプレー・イオン化モードとを切り換え可能に構成したことを特徴とするコールドスプレー質量分析装置。
【請求項3】
前記脱溶媒ブロックは、前記荷電液滴を高温で脱溶媒するための加熱用通路と、前記荷電液滴を低温で脱溶媒するための冷却用通路とを有しており、前記荷電液滴を通過させる通路として、前記加熱用通路と冷却用通路のどちらか一方を選択できるように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項4】
前記ニードルパイプを移動させて、前記加熱用通路と冷却用通路のどちらか一方を選択するようにしたことを特徴とする請求項3記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項5】
冷媒流路が前記脱溶媒ブロックに設けられており、冷媒が前記冷媒流路に流されて、前記脱溶媒ブロックが冷却されることを特徴とする請求項1または2記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項6】
シース管に供給される温度制御したネブライジング・ガスと、脱溶媒ブロックの冷却手段に供給される冷媒とは、共通の冷凍機から供給されることを特徴とする請求項1または2記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項7】
コールドスプレー・イオン源を制御する電気回路等を収納するための空間が、前記脱溶媒ブロックが配置されるイオン化室とは分離して設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項8】
脱溶媒ブロックを冷却した後の冷媒は、前記空間を通って外界に排出されることを特徴とする請求項7記載のコールドスプレー質量分析装置。
【請求項9】
前記空間に乾燥ガスを供給するガス源を備えていることを特徴とする請求項7記載のコールドスプレー質量分析装置。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、質量分析装置に関し、特に、低温で試料をイオン化させることのできるコールドスプレー質量分析装置に関する。
背景技術
強い電界の中に置かれた電気伝導性の液体が、電界の作用によって毛管の先端部から自然に噴霧する現象は、エレクトロスプレー(静電噴霧)と呼ばれ、古くから知られていた。1980年代前半、このエレクトロスプレーという現象が溶液試料の質量分析に応用され、エレクトロスプレー質量分析装置として広く用いられるようになった。
図1は、従来のエレクトロスプレー質量分析装置を示したものである。図中、31は、液体クロマトグラフ(LC)装置や溶液溜などの溶液試料供給源である。溶液試料供給源31の溶液試料(例えばLC移動相)は、図示しないポンプなどによって毛管状のキャピラリー32に送られる。このキャピラリー32は、金属で作られており、内径30~100μm、外径150~250μmである。キャピラリー32に送られた溶液試料は、LCポンプまたは毛管現象により駆動されて、キャピラリー32の内部に吸い上げられ、該キャピラリー32の先端部まで到達する。
キャピラリー32と質量分析装置33の対向電極34の間には、数kVの高電圧が印加されていて、強い電界が形成されている。この電界の作用で、キャピラリー32の中の溶液試料は、大気圧下、キャピラリー32と対向電極34の間の空間に静電噴霧され、荷電液滴となって大気中に分散する。このときの溶液試料の流量は、毎分1~10マイクロリットルである。このとき生成する荷電液滴は、試料分子の回りに溶媒分子が集まってクラスター状になった帯電粒子なので、熱を加えて溶媒分子を気化させて取り除くと、試料分子のイオンだけにすることができる。
荷電液滴から試料イオンを作る方法としては、キャピラリー32と対向電極34の間の空間に70℃程度に加熱した窒素ガスを供給し、そこに荷電液滴を静電噴霧することによって液滴の溶媒を気化させる方法や、質量分析装置33の対向電極34に設けられたサンプリング・オリフィス35を80℃程度に加熱して、その輻射熱、あるいは熱伝導で荷電液滴の溶媒を気化させる方法などがある。これらの方法をイオン・エバポレーションと呼んでいる。
イオン・エバポレーションによって生成した試料イオンは、対向電極34に設けられたサンプリング・オリフィス35から質量分析装置33の内部に取り込まれる。大気圧下の試料イオンを真空の質量分析装置33に導入するために、差動排気壁が構成される。すなわち、サンプリング・オリフィス35とスキマー・オリフィス36とで囲まれた区画は、図示しないロータリー・ポンプ(RP)で200Pa程度に排気されている。また、スキマー・オリフィス36と隔壁37とで囲まれた区画は、図示しないターボ・モレキュラー・ポンプ(TMP)で1Pa程度に排気されている。そして、隔壁37の後段は、TMPによって10-3Pa程度に排気され、質量分析部38が置かれている。
また、サンプリング・オリフィス35とスキマー・オリフィス36で囲まれた低真空の区画には、試料イオンの拡散を防ぐためのリングレンズ39が置かれていて、試料イオンが正イオンの場合には正電圧、試料イオンが負イオンの場合には負電圧が印加されるようになっている。また、スキマー・オリフィス36と隔壁37で囲まれた中真空の区画には、試料イオンを質量分析部38まで導くためのイオンガイド40が置かれ、高周波電圧が印加されている。
また、図1には図示されていないが、最近のシステムでは、LCの移動相など10~1000マイクロリットル/分の大流量の試料にも対応できるようにするために、キャピラリー32の周囲にネブライジング・ガスを流せるシース管を設け、電界力だけでは霧化しきれない10マイクロリットル以上の大流量の試料溶液を、ネブライジング・ガスの力によって強制的かつ完全に霧化させるように構成した新しいタイプのエレクトロスプレー・イオン源も登場している。
エレクトロスプレー・イオン源の特徴は、試料分子のイオン化に際して、高熱をかけたり高エネルギー粒子を衝突させたりしない非常にソフトなイオン化法であるという点にある。従って、ペプチド、タンパク質、核酸などの極性の強い生体高分子をほとんど破壊することなく、多価イオンとして容易にイオン化することができる。また、多価イオンなので、分子量が1万以上のものでも、比較的小型な質量分析装置で測定することが可能である。
ところが、最近、エレクトロスプレー・イオン化法のような非常にソフトなイオン化法であっても、イオン化の際に、試料イオンの分子構造が破壊されてしまうというサンプルの例が報告されるようになった。それは、例えば、巨大な有機金属錯体、例えば、プラチナなどの遷移金属錯体の自己集合によって高度な秩序を備えた超分子化合物などの例である。これらの金属錯体は、イオンの衝撃や熱に対してのみならず、ソフトなイオン化法であるエレクトロスプレーによるイオン化に対しても不安定であり、イオン気化の際に分子構造の破壊が起きる。
この問題を解決するために、最近、エレクトロスプレー・イオン源に供給されるネブライジング・ガスや荷電液滴の脱溶媒室などを液体窒素などの冷媒で冷却し、イオン化の際に試料イオンに熱が加わることを極力避けるようにすることで不安定分子の分解を抑えると同時に、低温による試料および溶媒の誘電率を上昇することによってイオン解離を促進する新しいタイプのエレクトロスプレー質量分析装置が開発された(特開2000-285847号公報)。この方法は、コールドスプレー・イオン化法と呼ばれ、図2に示すように、脱溶媒室に直接、液体窒素を吹き付けることにより、初めて、前述のような不安定な自己集合有機金属錯体などの精密な質量数の測定を可能にするものである。
このようなコールドスプレー質量分析装置の特徴は、何と言ってもネブライジング・ガスや脱溶媒室を液体窒素などの冷媒で冷却し、荷電液滴に熱が加わることを極力避けるようにしたところにある。ところが、従来の装置では、脱溶媒室を液体窒素で直接冷却しているため、冷えすぎて、測定に最適な温度領域に脱溶媒室の温度を設定することがむつかしく、装置が安定するまでに時間がかかるという問題があった。また、イオン化室に、脱溶媒室を冷却するための冷却ガスが直接流れ込むため、イオン化室の気流が乱され、イオンビームが安定しづらいという問題があった。また、コールドスプレー・イオン化法で測定を行なっている時、外界との隔離が完全でないため、電気回路等を収納している部屋の内部が結露を起こして、電気的にリークを起こし、長時間の安定した測定が困難になるという問題があった。また、コールドスプレー・イオン化モードと、通常のエレクトロスプレー・イオン化モードとを、切り換えることができないという問題があった。
発明の開示
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、脱溶媒ブロック3の温度制御が容易で、しかも、長時間に渡り、水分の結露や電気的なリークの発生がなく、安定して測定の可能な、使い勝手の良いコールドスプレー質量分析装置を提供することにある。
この目的を達成するため、本発明にかかるコールドスプレー質量分析装置は、試料溶液を低温の下で噴霧し、脱溶媒して質量分析を行なうコールドスプレー質量分析装置において、
(a)試料溶液を通すニードルパイプと、
(b)ニードルパイプと同軸形状をなし、温度制御したネブライジング・ガスを通すシース管と、
(c)ニードルパイプの先端から噴霧された試料溶液の荷電液滴が通過する通路を有し、通路を通過する荷電液滴から溶媒を取り除く脱溶媒ブロックと、
(d)脱溶媒ブロックを冷却するための冷却手段と、
(e)脱溶媒ブロックを加熱するための加熱手段と、
(f)脱溶媒ブロックの温度を検出する温度センサーと
を備え、
脱溶媒ブロックを任意の温度に制御できるようにしたことを特徴としている。
発明の実施の最良の形態
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図3は、本発明にかかるコールドスプレー質量分析装置の一実施例を示したものである。このうち、(a)は、コールドスプレー質量分析装置を上から見た平面図、(b)は、コールドスプレー質量分析装置を横から見た側面図を表わす。図中1は、イオン化室である。イオン化室1の内部には、試料溶液を静電噴霧させるために高電圧が印加されたニードルパイプ8と、ニードルパイプ8の先端から静電噴霧された荷電液滴を脱溶媒化するための脱溶媒ブロック3とが設けられている。ニードルパイプ8は、静電噴霧を助けるためのネブライジング・ガスを通すシース管24によって同軸形状の二重管を構成している。また、脱溶媒ブロック3のブロック壁には、脱溶媒ブロック3を加熱するためのヒーター4と、脱溶媒ブロック3の温度を検出する温度センサー5が埋設されている。
脱溶媒ブロック3には、荷電液滴を高温で脱溶媒するための加熱用通過穴10と、荷電液滴を低温で脱溶媒するための冷却用通過穴11とが用意されていて、ニードルバルブ8の先端の位置を、位置調整ノブ9によって、加熱用通過穴10の入り口側に配置させたり、冷却用通過穴11の入り口側に配置させたり、移動させることができるようになっている。これは、通常のエレクトロスプレー・イオン化法とコールドスプレー・イオン化法とを、任意に選択して行なえるようにするためのものである。また、冷却用通過穴11の途中には、静電噴霧された荷電液滴がただちに第1のオリフィス6に到達してしまうことがないように、荷電液滴を迂回させるための迂回棒26が設けられている。
尚、脱溶媒後、イオン化室1の室壁に結露した溶媒や、ニードルパイプ8から噴霧された試料溶液の内、余分なものなどは、廃液ライン22を通って、イオン化室1から外部の図示しないドレインに向けて排出される。
大気圧下の脱溶媒ブロック3で脱溶媒された試料イオンを、真空の質量分析装置内に導入するために、差動排気壁が構成される。すなわち、第1のオリフィス6と第2のオリフィス7で囲まれた区画は、図示しないロータリー・ポンプ(RP)で200Pa程度に排気されている。また、第2のオリフィス7と図示しない隔壁で囲まれた区画は、図示しないターボ・モレキュラー・ポンプ(TMP)で1Pa程度に排気されている。更に、図示しない隔壁の後段は、TMPによって10-3Pa程度に排気され、図示しない質量分析部が置かれている。
脱溶媒ブロック3で脱溶媒されてイオンとなった試料は、第1のオリフィス6から質量分析装置内に取り込まれる。そして、第1のオリフィス6と第2のオリフィス7とで囲まれた低真空の区画では、試料イオンが正イオンの場合には正電圧、試料イオンが負イオンの場合には負電圧が印加されるリングレンズ23が置かれていて、試料イオンの拡散を防ぐ構造になっている。また、第2のオリフィス7と図示しない隔壁とで囲まれた中真空の区画には、試料イオンを質量分析部38まで導くためのイオンガイド21が置かれ、高周波電圧が印加されている。
コールドスプレー・イオン化モードで測定を行なう場合には、窒素ボンベ18から供給されるネブライジング用窒素ガス17を、冷凍機ジャー20で-20℃程度まで冷却した後、シース管24から噴出させるとともに、液体窒素ジャー19から供給される冷却用窒素ガス15を、絶縁パイプ12を介して、直接、脱溶媒ブロック3のブロック壁に吹き付けて、脱溶媒ブロック3の温度を冷却させ、測定中、試料の荷電液滴に、熱が加わることのないようにコントロールする。このとき、ニードルパイプ8の先端の位置は、位置調整ノブ9によって冷却用通過穴11側に合わされ、荷電液滴は、冷却用通過穴11を通過することによって脱溶媒される。尚、脱溶媒ブロック3の温度を安定させるために、冷却用窒素ガス15で冷却しながら、適宜、ヒーター4を作動させても良い。
また、通常のエレクトロスプレー・イオン化モードで測定を行なう場合には、窒素ボンベ18から供給されるネブライジング用窒素ガス17を室温のままシース管24から噴出させるとともに、液体窒素ジャー19からの冷却用窒素ガス15の供給を止め、脱溶媒ブロック3をヒーター4によって100~300℃に加熱させ、測定中、試料の荷電液滴に、熱が加わるようにコントロールする。このとき、ニードルパイプ8の先端の位置は、位置調整ノブ9によって加熱用通過穴10側に合わされ、荷電液滴は、加熱用通過穴10を通過することによって脱溶媒される。
このように、本実施例では、コールドスプレー・イオン化モードと、通常のエレクトロスプレー・イオン化モードとは、任意に切り換えることができるようになっている。
また、イオン化室1の回りには、ケース13によって取り囲まれた第2の部屋2が設けられており、この空間に、ニードルパイプ8、第1のオリフィス6、第2のオリフィス7などに高電圧を印加する高電圧電源の配線や、ヒーター4や温度センサー5の配線接続部14などが収納されている。この部屋には、脱溶媒ブロック3が冷やされた際に、外界から水分が呼び込まれて結露しないように、図示しないガス源から、乾燥したパージガスが常時流されている。
図4は、本発明にかかるコールドスプレー質量分析装置の別の実施例を示したものである。このうち、(a)は、コールドスプレー質量分析装置を上から見た平面図、(b)は、コールドスプレー質量分析装置を横から見た側面図を表わす。図中1は、イオン化室である。イオン化室1の内部には、試料溶液を静電噴霧させるために高電圧が印加されたニードルパイプ8と、ニードルパイプ8の先端から静電噴霧された荷電液滴を脱溶媒化するための脱溶媒ブロック3とが設けられている。ニードルパイプ8は、静電噴霧を助けるためのネブライジング・ガスを通すシース管24によって同軸形状の二重管を構成している。また、脱溶媒ブロック3のブロック壁には、脱溶媒ブロック3を加熱するためのヒーター4と、脱溶媒ブロック3の温度を検出する温度センサー5が埋設されている。
脱溶媒ブロック3には、荷電液滴を高温で脱溶媒するための加熱用通過穴10と、荷電液滴を低温で脱溶媒するための冷却用通過穴11とが用意されていて、ニードルバルブ8の先端の位置を、位置調整ノブ9によって、加熱用通過穴10の入り口側に配置させたり、冷却用通過穴11の入り口側に配置させたり、移動させることができるようになっている。これは、通常のエレクトロスプレー・イオン化法とコールドスプレー・イオン化法とを、任意に選択して行なえるようにするためのものである。また、冷却用通過穴11の途中には、静電噴霧された荷電液滴がただちに第1のオリフィス6に到達してしまうことがないように、荷電液滴を迂回させるための迂回棒26が設けられている。
尚、脱溶媒後、イオン化室1の室壁に結露した溶媒や、ニードルパイプ8から噴霧された試料溶液の内、余分なものなどは、廃液ライン22を通って、イオン化室1から外部の図示しないドレインに向けて排出される。
大気圧下の脱溶媒ブロック3で脱溶媒された試料イオンを、真空の質量分析装置内に導入するために、差動排気壁が構成される。すなわち、第1のオリフィス6と第2のオリフィス7とで囲まれた区画は、図示しないロータリー・ポンプ(RP)で200Pa程度に排気されている。また、第2のオリフィス7と図示しない隔壁とで囲まれた区画は、図示しないターボ・モレキュラー・ポンプ(TMP)で1Pa程度に排気されている。更に、図示しない隔壁の後段は、TMPによって10-3Pa程度に排気され、図示しない質量分析部が置かれている。
脱溶媒ブロック3で脱溶媒されてイオンとなった試料は、第1のオリフィス6から質量分析装置内に取り込まれる。そして、第1のオリフィス6と第2のオリフィス7で囲まれた低真空の区画では、試料イオンが正イオンの場合には正電圧、試料イオンが負イオンの場合には負電圧が印加されるリングレンズ23が置かれていて、試料イオンの拡散を防ぐ構造になっている。また、第2のオリフィス7と図示しない隔壁で囲まれた中真空の区画には、試料イオンを質量分析部38まで導くためのイオンガイド21が置かれ、高周波電圧が印加されている。
コールドスプレー・イオン化モードで測定を行なう場合には、窒素ボンベ18から供給されるネブライジング用窒素ガス17と冷却用窒素ガス15とを、共通の冷凍機ジャー20で-20℃程度まで冷却した後、シース管24と、脱溶媒ブロック3のブロック壁に穿設された冷媒流路25とに供給し、ニードルパイプ8と脱溶媒ブロック3とを同時に冷却させる。これにより、本実施例では、冷却用窒素ガス15が冷媒流路25内を流れるので、液体窒素を脱溶媒ブロック3に直接吹き付ける方法と比べてイオン化室1内の気流が乱れず、イオンビームを安定して供給できる。このとき、ニードルパイプ8の先端の位置は、位置調整ノブ9によって冷却用通過穴11側に合わされ、荷電液滴は、冷却用通過穴11を通過することによって脱溶媒される。尚、脱溶媒ブロック3の温度を安定させるために、冷却用窒素ガス15で冷却しながら、適宜、ヒーター4を作動させても良い。
また、通常のエレクトロスプレー・イオン化モードで測定を行なう場合には、窒素ボンベ18から供給されるネブライジング用窒素ガス17を室温のままシース管24から噴出させるとともに、液体窒素ジャー19からの冷却用窒素ガス15の供給を止め、脱溶媒ブロック3をヒーター4によって100~300℃に加熱させ、測定中、試料の荷電液滴に、熱が加わるようにコントロールする。このとき、ニードルパイプ8の先端の位置は、位置調整ノブ9によって加熱用通過穴10側に合わされ、荷電液滴は、加熱用通過穴10を通過することによって脱溶媒される。
このように、本実施例では、コールドスプレー・イオン化モードと、通常のエレクトロスプレー・イオン化モードとは、任意に切り換えることができるようになっている。
また、イオン化室1の回りには、ケース13によって取り囲まれた第2の部屋2が設けられており、この空間に、ニードルパイプ8、第1のオリフィス6、第2のオリフィス7などに高電圧を印加する高電圧電源の配線や、ヒーター4や温度センサー5の配線接続部14などが収納されている。コールドスプレー・イオン化モードで測定を行なう場合には、脱溶媒ブロック3のブロック壁に設けられた冷媒流路25を通った冷却用乾燥窒素ガス15を、冷却ガス出口16を介して、第2の部屋2の内部に導入・循環させ、使用済みの冷却用乾燥窒素ガス15を有効に用いて、第2の部屋2の内部をパージするようにする。
これにより、イオン化室1がコールドスプレー・イオン化モードで冷やされた際に、外界から第2の部屋2に水分が呼び込まれることを防止し、第2の部屋の内部での結露を防止し、ニードルパイプ8、第1のオリフィス6、第2のオリフィス7などに高電圧を印加する高電圧電源の配線や、ヒーター4や温度センサー5の配線接続部14などの電気的なリークを防止する。
尚、上記実施例では、廉価な窒素ガスを冷却用ガスとして採用したが、窒素ガス以外の不活性ガスであっても良い。また、第2の実施例で示した第2の部屋に導入する乾燥ガスは、必ずしも使用済みの冷却用ガスである必要はなく、ガス源を別に設けても良い。また、冷却ガスは、冷凍機以外の冷却手段、例えば、ドライアイスと有機溶媒を組み合わせたドライアイス・バスなどで冷却しても良い。また、冷媒流路25は、必ずしも脱溶媒ブロック3のブロック壁内に穿設されている必要はなく、脱溶媒ブロック3を有効に冷やせる場所であれば、脱溶媒ブロック3の近傍のどこに設けられてあっても良い。また、脱溶媒ブロック3を冷却する冷媒については、必ずしも使い捨てのガスである必要はなく、温度制御された流体を循環させて用いても良い。
また、上述したコールドスプレー・イオン化モードにおいては、高電圧がニードルパイプ8に印加されなくても、ニードルパイプ8の先端から噴霧された試料液はイオン化されることが確認された。従って、ニードルパイプ8への高電圧の印加はイオン化のために必須ではない。
また、前記脱溶媒ブロックを冷却する冷却手段として、上述したネブライジング・ガスを利用するようにしても良い。その場合には、図3の実施例では、冷却用窒素ガス15を脱溶媒ブロック3のブロック壁に吹き付けることは不要となり、また、図4の実施例では、冷却用窒素ガス15を脱溶媒ブロック3の冷媒流路25内を流さなくて済む。
産業上の利用可能性
以上述べたごとく、本発明のコールドスプレー質量分析装置によれば、脱溶媒ブロックを冷却/加熱する手段と、脱溶媒ブロックの温度を検出する温度センサーを備えるとともに、電気配線等が収納された第2の部屋2を乾燥ガスでパージするようにしたので、脱溶媒ブロック3の温度制御が容易で、しかも、長時間に渡り、水分の結露や電気的なリークの発生がなく、安定して測定の可能な、使い勝手の良いコールドスプレー質量分析装置を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
図1は従来のエレクトロスプレー質量分析装置を示す図である。
図2は従来のコールドスプレー質量分析装置を示す図である。
図3は本発明にかかるコールドスプレー質量分析装置の一実施例を示す図である。
図4は本発明にかかるコールドスプレー質量分析装置の別の実施例を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3(a)】
2
【図3(b)】
3
【図4(a)】
4
【図4(b)】
5