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明細書 :転写因子の遺伝子導入による骨・軟骨組織再生方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4921692号 (P4921692)
登録日 平成24年2月10日(2012.2.10)
発行日 平成24年4月25日(2012.4.25)
発明の名称または考案の名称 転写因子の遺伝子導入による骨・軟骨組織再生方法
国際特許分類 A61L  27/00        (2006.01)
A61F   2/28        (2006.01)
A61P  19/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI A61L 27/00 G
A61F 2/28
A61P 19/00
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2003-516573 (P2003-516573)
出願日 平成14年7月3日(2002.7.3)
国際出願番号 PCT/JP2002/006727
国際公開番号 WO2003/011343
国際公開日 平成15年2月13日(2003.2.13)
優先権出願番号 2001227979
優先日 平成13年7月27日(2001.7.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2009-017346(P2009-017346/J1)
審査請求日 平成17年5月10日(2005.5.10)
審判請求日 平成21年9月16日(2009.9.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】植村 壽公
【氏名】立石 哲也
【氏名】小島 弘子
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
参考文献・文献 米国特許第6077987(US,A)
特開平10-194987(JP,A)
国際公開第98/40111(WO,A1)
国際公開第00/74741(WO,A2)
国際公開第99/67363(WO,A1)
UETA, CHISATO et al., Journal of Cell Biology, April 2011, Vol.153, No.1, p.87-99
Enomoto, Hirayuki et al., Journal of Biological Chemistry, 2000, Vol.275, No.12, p.8695-8702
小守壽文,蛋白質核酸酵素,2000,Vol.45,No.1,p.13-17
Lee, K.S. et al., Mol.Cell.Biol., 2000,Vol.20, No.23, p.8783-92
Xiao, Z.S. et al., J.Cell.Biochem.,1999, Vol.74, No.4, p.596-605
吉川隆章,蛋白質核酸酵素,2000,Vol.145,No.13,p.2289-2296
調査した分野 A61K 38/00- 38/58
A61K 48/00
A61P 1/00- 43/00
CA(STN)
REGISTRY(STN)
MEDLINE(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ:
(1)単離された骨髄由来骨芽細胞を多孔性足場材料に減圧下で吸着させることにより播種するステップ;および
(2)該細胞にCbfa1遺伝子アデノウイルスベクターを用いて導入するステップ
を含む、骨再生用インプラントの作製方法。
【請求項2】
前記遺伝子がType II/III Cbfa1(til-1)遺伝子である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔性足場材料が多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体からなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が移植対象の患者から採取された細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞を播種した後、ただちに遺伝子導入を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を播種した後、一定期間培養してから遺伝子導入を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 技 術 分 野
本発明は、骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子導入による骨・軟骨組織の再生方法に関する。さらに詳しくは、骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を導入することによって、目的とする組織への細胞の分化誘導を促し、効率的な骨・軟骨組織の構築を可能にする方法、及び該方法によって作製される骨・軟骨代替用インプラントに関する。
背 景 技 術
近年、再生医療の現場では生体から取り出した自己の細胞をin vitroで培養・組織化して限りなく生体に近い組織を再構築し、これを再び生体内に戻すという研究が進められている。こうした組織再生においては、細胞の確保はもちろんのこと、細胞増殖のための足場の提供、分化誘導の促進が不可欠となる。 通常生体内では、細胞は細胞外マトリックスに接着して存在し、これを足場として分化・増殖する。したがって、生体外における培養、完全な三次元組織化のためには、細胞に加えて、細胞の増殖・分化のための適切な足場が必要である。従来、骨・軟骨等の硬組織の再生においては、多孔性セラミックス等の多孔質生体吸収性素材を足場として用いることで良好な結果が得られている。
一方、組織再生のための組織工学的アプローチにおいては、生体外での細胞培養時にいかに早く目的の組織に分化させるかということが重要な問題となる。これに対し、従来の多くの試みでは細胞の分化誘導をつかさどるサイトカイン(液性因子)を直接細胞に導入するか、又は目的のサイトカインのcDNAを組み込んだ発現ベクターをリポフェクション法等によって細胞内に導入し、発現させることによりある程度の成功を収めてきた。
しかし、細胞増殖因子の導入は、目的のサイトカインが100%その組織に特異的に効果を及ぼすとは限らないことや、リポフェクション法による遺伝子導入は樹立細胞株ではある程度の成功をおさめても、初代培養細胞に対しては、殆ど0に近い導入効率しか得られないこと、などの問題があり、十分満足のいく結果が得られていなかった。
最近、骨芽細胞の分化には転写因子、特にrunt型及びHelix-Loop-Helix(HLH)型の転写因子が重要な意味を持つことが、多くの研究者により明らかにされてきた。例えばrunt型転写因子としては、Pebp2alphaA(Pebp2αA)/Cbfa1、HLH型転写因子としては、Scleraxis、Id-1、I-mfa等が骨芽細胞分化に重要な意味を持つことが報告されている(辻 邦和他:「骨芽細胞の分化に関与するRunt型転写因子 Cbfa1/Pebp2αAならびに骨・軟骨形成におけるSox9の機能と骨形成異常」実験医学、16(11),25-32,1998など)。しかしながら、これらの転写因子の機能を生かした組織再生の具体的な試みは未だ報告されていない。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、骨・軟骨誘導性転写因子を骨髄由来細胞に導入し、発現させることにより、該細胞を効率よく骨・軟骨組織に分化誘導しうることを見出した。さらに、転写因子の導入にアデノウィルス又はレトロウィルスベクターを用いれば、骨・軟骨細胞等の接着細胞の初代培養系細胞に効率よく感染し、99%程度の極めて効率のよい分化誘導が期待できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)~(13)を提供するものである。
(1) 骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を単離された細胞に導入し、該細胞を分化増殖させる工程を含む、骨・軟骨組織の作製方法。
(2) 前記細胞が骨髄由来細胞である、上記(1)の方法。
(3) 前記骨髄由来細胞が間葉系幹細胞である、上記(2)記載の方法。
(4) 前記骨髄由来細胞が骨芽細胞である、上記(2)記載の方法。
(5) 前記細胞が初代培養細胞である、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 前記細胞が患者から単離された細胞である、上記(5)記載の方法。
(7) 前記骨・軟骨誘導性転写因子が、Cbfa1、Dlx-5、Bapx1、Msx2、Scleraxis及びSox-9からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子の細胞への導入がアデノウィルスベクター又はレトロウィルスベクターを用いて行われる、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9) 骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を導入した細胞の増殖が、多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を足場として行われる、上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)以下の工程を含む、骨・軟骨組織の作製方法。
1)生体から単離した骨髄由来細胞をデキサメタゾン、免疫抑制剤、骨形成タンパク質及び骨形成液性因子からなる群より選ばれる1種又は2種以上によって分化誘導する工程。
2)上記細胞に骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子をアデノウィルスベクター又はレトロウィルスベクターを用いてトランスフェクトする工程。
3)上記細胞を多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を足場として増殖させる工程。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1項に記載の方法によって作製された骨・軟骨組織を含む、インプラント。
(12)さらに、多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上からなる足場材料を含む、上記(11)記載のインプラント。
(13)骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を導入した細胞を含む、多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含む、インプラント。
発 明 の 開 示
以下、本発明について詳細に説明する。
1.骨・軟骨組織の作製
本発明は、骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を単離された細胞に導入し、該細胞を分化増殖させることにより、骨・軟骨組織を生体外で作製する方法に関する。
1.1 転写因子
本発明に用いられる転写因子は、未分化の細胞を骨及び/又は軟骨に分化誘導する、骨・軟骨誘導性の転写因子であり、例えばCbfa1,Dlx-5、Bapx1、Msx2、Scleraxis、Sox-9が挙げられる。Cbfa1は1993年京都大学の小川らによってクローニングされ、大阪大学の小守らにより間葉系幹細胞から骨芽細胞に分化誘導するのに必要不可欠であることが確認された転写因子である(Komori,T.et al.,(1997)Cell 89,755-764)。このCbfa1には2つのアイソフォーム、til-1とpebp2αAが存在する。Dlx-5は、Drosophila distalless(D11)遺伝子の相同遺伝子で、軟骨骨膜や内膜の骨化に関わる転写因子である(Acampora,D.et al.,(1999)Development 126,3795-3809)。Bapx1は、Drosophila bagpipe homeobox遺伝子の相同遺伝子で、特に脊髄での間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化に関わっており、Cbfa1遺伝子の調節遺伝子の1つと考えられている(Tribioli,C.et al.,(1999)Development 126,5699-5711)。Msx2は、Drosophila muscle segment homeobox(Msh)遺伝子の相同遺伝子で頭蓋骨の骨化に関わっており、Cbfa1遺伝子の調節遺伝子の1つと考えられている(Satokata,I.et al.,(2000)Nature Genet.24,391-395)。Scleraxisは、間葉系幹細胞から軟骨細胞や結合組織への分化誘導に関わる転写因子である(Cserjesi,P.et al.,(1995)Development 121,1099-1110)。Sox-9は、軟骨で発現しており、type II Collagen等の軟骨分化に関わる遺伝子の発現調節をしている(Ng,L.J.et al.,(1997)Dev.Biol.183,108-121)。
本発明において、前記骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子は、常法に従い公知の配列を基に調整することができる。例えば、骨芽細胞からRNAを抽出し、公知の配列を元にプライマーを作製し、PCR法でクローニングすることにより目的とする転写因子のcDNAを調整することができる。
1.2 細胞の分化誘導
本発明に用いられる細胞は、生体から単離された分化・増殖能力を有する未分化の細胞であり、例えば、ES細胞、間葉系幹細胞、又は間葉系細胞から分化した骨芽細胞等が挙げられる。なかでも骨髄由来の間葉系幹細胞が好ましく、骨芽細胞がより好ましい。特に、本発明を再生医療の現場で利用する場合には、前記細胞は患者の体内から単離された細胞である。該細胞は、常法に従い結合組織などを除去して調製することが望ましい。また、細胞は一次培養を行い、予め増殖させてから用いてもよい。
前記細胞は適当な薬剤を用いて処理することにより、目的とする組織を構築する細胞に分化誘導をしておくことが必要である。例えば、骨組織再生の場合には、デキサメタゾン、FK-506やシクロスポリン等の免疫抑制剤、BMP-2、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7及びBMP-9等の骨形成タンパク質(BMP:Bone Morphogenetic Proteins)、TGFβ等の骨形成液性因子から選ばれる1種又は2種以上を添加して細胞を骨系細胞に分化誘導することが好ましい。
1.3 転写因子遺伝子の導入
本発明において、骨・軟骨誘導性転写因子遺伝子の標的細胞への導入は、動物細胞のトランスフェクションに通常用いられる方法、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、アデノウィルスやレトロウィルス、バキュロウィルス等をベクターとして用いる方法等を用いることができるが、アデノウィルス又はレトロウィルスをベクターとして用いる方法が安全性、導入効率の点から好ましく、特にアデノウィルスを用いた方法が最も好ましい。
前記アデノウィルス又はレトロウィルスベクターは、周知の方法に基づいて調製することができる。例えばアデノウィルスベクターの調整は、Miyakeらの方法(Miyake,S.et al,Proc.Natl.Acad.Sci.93:1320-1324,(1993))に基づいて行えばよいが、市販のキット、例えばAdenovirus Cre/loxP Kit(宝酒造社製)等を用いることもできる。このキットはP1ファージのCreリコンビナーゼとその認識配列であるloxPを用いた新たな発現制御系(Kanegae Y.et.al.,1995 Nucl.Acids Res.23,3816)による組換えアデノウィルスベクター作製キットで、転写因子遺伝子を組み込んだ組換えアデノウィルスベクターを簡便に作製することができる。なお、アデノウィルス感染のmoi(multiplicity of infection)は、10以上、好ましくは50~200、より好ましくは100前後(80~120程度)がよい。
1.4 細胞の増殖
トランスフェクトした細胞は完全な三次元構造を構築するために、適当な足場を用いて増殖させることが必要である。足場材料としては、例えばハイドロキシアパタイトやβ-TCP(リン酸三カルシウム)、α-TCP等の多孔性セラミックス、コラーゲン、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、ならびにこれらの複合体(例えば、ポリ乳酸/ポリグリコール酸樹脂/コラーゲン複合体等)等が挙げられる。これらの足場材料は1種類であってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、多孔性のセラミックスは力学的強度が高いという点で、組織再生の足場として好ましい。
前記足場材料は、細胞の均一な播種が可能となるよう、多孔性であることが好ましい。なお、本明細書中において「多孔(性)」とは、気孔率が40%以上を意味するものとする。また、孔の大きさは特に限定されないが、骨再生がおきやすいという点では直径200μm~500μmが好ましい。
細胞の増殖は、前記足場材料に、該細胞を播種して、通常の方法により培養すればよい。細胞の播種は、足場材料に単に播種するだけでもよく、あるいは、緩衝液、生理食塩水、注射用溶媒、あるいはコラーゲン溶液等の液体とともに混合して播種してもよい。また、材料によって、細胞が孔の中にスムーズに入らない場合は、引圧条件下で播種してもよい。
播種する細胞の数(播種密度)は細胞の形態を維持して組織再生をより効率よく行わせるため、用いる細胞や足場材料に応じて適宜調整することが望ましい。たとえば、骨芽細胞であれば、播種密度は100万個/ml以上であることが望ましい。
細胞培養に用いられる培地としては、MEM培地、α-MEM培地、DMEM培地等、公知の培地を培養する細胞に合わせて適宜選んで用いることができる。また、該培地には、FBS(Sigma社製)、Antibiotic-Antimycotic(GIBCO BRL社製)等の抗生物質等を添加しても良い。培養は、3~10%CO、30~40℃、特に5%CO、37℃の条件下で行うことが望ましい。培養期間は、特に限定されないが、少なくとも4日、好ましくは7日、より好ましくは2週間以上であるとよい。
2.骨・軟骨組織を含むインプラント
前記方法によって作製された骨・軟骨組織は、足場材料とともに、あるいは足場材料とは別個に、生体内に埋入あるいは注入することで、骨・軟骨代替用インプラントとして利用できる。すなわち、本発明は生体外で構築された骨・軟骨組織を含むインプラントを提供する。
本発明のインプラントにおいて、骨・軟骨組織は足場材料と別個に移植してもよいが、足場材料とともに移植されることが好ましい。該足場材料は、インプラントの目的や適用部位により、前記した足場材料の中から適宜最適なものを選べばよい。たとえば、強度を必要とする移植箇所(あるいは手術法)については、ハイドロキシアパタイトが好ましく、強度を必要としない移植箇所(あるいは手術法)については、生体吸収性のβ-TCP等が好ましい。
本発明のインプラントの形態及び形状は、特に限定されず、スポンジ、メッシュ、不繊布状成形物、ディスク状、フィルム状、棒状、粒子状、及びペースト状等、任意の形態及び形状を用いることができる。こうした形態や形状は、インプラントの目的に応じて適宜選択すればよい。
本発明のインプラントは、その目的と効果を損なわない範囲において、骨・軟骨組織及び足場材料のほか、適宜他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板分化増殖因子(PDGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、グリア誘導神経栄養因子(GDNF)、神経栄養因子(NF)、ホルモン、サイトカイン、骨形成因子(BMP)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の増殖因子、骨形成タンパク質、St、Mg、Ca及びCO等の無機塩、クエン酸及びリン脂質等の有機物、薬剤等を挙げることができる。
本発明のインプラントにおいて、骨・軟骨組織は転写因子の遺伝子を導入した細胞から構築される。骨・軟骨組織の構築は移植前(in vitro)のみならず、移植後の骨欠損部(in vivo)においても引き続き行われてよい。本発明のインプラントは、骨親和性及び骨形成能が高く、生体適用後すみやかに生体骨と一体化し、骨欠損部の再生を可能にする。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2001-227979号の明細書に記載された内容を包含する。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の具体的な実施例について記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1: アデノウィルスベクターによるラット骨芽細胞へのCbfa1遺伝子導入による骨組織再生
1.実験方法
1)アデノウィルスベクターの作製
▲1▼Cbfa1のcDNAの調整
Cbfa1のcDNAは、住友製薬株式会社より提供を受けた2種のプラスミド*1;pSG5/IT(mPEBP2aA)及びpSG5/KS(mtil-1)から、mPEBP2aAのORFは制限酵素BamHIを、mtil-1のORFは制限酵素BglIIを用いて切り出し、TypeI:pebp2αA/Cbfa1(配列番号1)、TypeII/III:til-1/Cbfa1(配列番号2)の2種を調整した(図1)。
*1Cbfa1は、T細胞特異的に発現しているTypeI(pebp2αA/Cbfa1)と骨芽細胞特異的に発現しているTypeII/III(til-1/Cbfa1)があり、TypeII/IIIはTypeIよりも長い。
▲2▼組換えアデノウィルスの作製
2種のCbfa1のcDNAを市販のAdenovirus Cre/loxP Kit(宝酒造社製)を用いてコスミドベクターpAxCALNLwのSwaIサイトに挿入し、キットの説明書に従い組換えアデノウィルスベクターを作製した(図2)。作製したウィルスの力価は、約1011PFU/mlで、感染効率は非常に高かった。
2)骨髄細胞の採取及び培養
ラット骨芽細胞(Rat Bone Marrow Osteobrast:RBMO)は、6週齢のFisherラット(オス)の大腿骨よりManiatopoulosらの方法(Maniatopoulos,C.,Sodek.J.,and Melcher,A.H.(1988)Cell Tissue Res.254,317-330)に従って採取した。
採取した細胞を、15%FBS(Sigma社製)、Antibiotic-Antimycotic(GIBCO BRL社製)添加MEM培地(nacalai tesque社製)でコンフルエントになるまで培養した。次に、直径3.5cmのディッシュに、5nMデキサメタゾン(Sigma社製)、10mM β-グリセロフォスフェート(Sigma社製)、50μg/mlアスコルビン酸フォスフェート(Wako社製)を添加した上述の培地を入れ、1ディッシュあたり細胞が約40万個となるように培養液を加えて継代培養した。翌日、継代培養したラット骨芽細胞に前項で調整した組換えアデノウィルスベクターをmultiplicity of infection(moi)=500で感染させた。なお、コントロールとして、Cbfa1非導入アデノウィルスを感染させた細胞を作製した。
3)Xgal染色法によるLacZ遺伝子発現細胞の観察
アデノウィルス感染3日後~2週間後のラット骨芽細胞におけるLacZの発現をScholerらの方法(Scholer,H.R.et al.,(1989)EMBO J.,8,2551-2557)に従ってXgal染色法により観察した(図3)。さらに、染色した細胞をNIH imageを用いて画像解析を行い、発現細胞数を数値化することにより遺伝子導入効率を求めた(図4)。
4)アルカリフォスファターゼ活性の測定
アデノウィルス感染3日後~2週間後のラット骨芽細胞を100mM Tris(pH7.5),5mM MgClで洗浄後、スクレイパーで集め、500μlの100mM Tris(pH7.5),5mM MgCl,1%TritonX-100に懸濁して超音波破砕した。破砕後6,000gで5分間遠心分離して上清を回収した。各上清5μlを0.056M 2-amino-2-methyl-1,3-propandiol(pH9.9),10mM p-nitorophenyl phosphate,2mM MgClに加え、37℃で30分間インキュベートした後、すぐにマイクロプレートリーダーで吸収波長405nmにおける吸光度を測定した。酵素活性は、得られた吸光度からp-ニトロフェノールを用いて作製した検量線に基づいて求めた(図5)。
5)カルシウム量の測定
アデノウィルス感染後1~3週間後のラット骨芽細胞を3.7%ホルマリン緩衝液で固定し、一昼夜0.6M HClで脱灰した。脱灰液を希釈し、市販のo-クレゾールフタレインコンプレキソン含有カルシウム分析試薬(Sigma社製,#587,360-11)を用い、説明書に従いカルシウム量を測定した(図6)。
6)ノーザンハイブリダイゼーション
アデノウィルス感染後のラット骨芽細胞より、市販のTRIzol試薬(GIBCO BRL社製,#15596-10551)を用い、説明書に従いTotal RNAを抽出した。10μgのTotal RNAを1%アガロース/5.5%ホルムアルデヒドゲルで分離し、20×SSCでHybondTM-Xlメンブレン(Amersham Pharmacia Biotech社製)に転写した。その後、80℃で2時間加熱し、UV照射を2分間行った。GAPDHとCbfa1のcDNAプローブはrediprimeTM(Amersham Phamacia Biotech社製)を用いて、α-32PdCTP(3000Ci/mmol,Amersham Pharmacia Biotech社製)でラベルし、取り込まれなかったα-32PdCTPをMicroSpinTMG-25 Column(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて除いた。このメンブレンを68℃で30分間PerfectHybTMPlus HYBRIDIZATION BUFFER(SIGMA社製)中でインキュベートした後、ラベルしたcDNAプローブ(2x10cpm/ml)を加えてさらに68℃で1時間インキュベートした。メンブレンは室温で2xSSC/0.1%SDSで5分間洗った後、さらに68℃で0.5xSSC/0.1%SDSで2回各20分間洗った。その後メンブレンを-80℃でKodak XAR filmに一昼夜感光した(図7)。
7)細胞数の計測
アデノウィルス感染後3日~2週間後の骨芽細胞を1%グルタルアルデヒド添加PBSで5分間固定した後、蒸留水で2回洗浄し、1%クリスタルバイオレットを用いて30分間室温で染色した。蒸留水で3回洗って余分な染料を除いた後、10%酢酸,1%TritonX-100で脱色した。脱色液を希釈し、波長595nmにおける吸光度を測定した。細胞数は、得られた吸光度から検量線*2に基づき決定した(図8)。
*2 検量線は細胞を適当な濃度で播種し(duplicate)、上述の染色法とトリプシン処理して剥がした細胞をカウントすることにより作製した。
8)石灰化の観察
骨芽細胞が分泌するミネラル成分による石灰化の様子をvon kossa染色法及びアリザリンレッド染色を用いて観察した。
▲1▼von kossa染色
アデノウィルス感染1~3週間後の骨芽細胞を3.7%ホルマリン緩衝液で5分間固定し、蒸留水で軽く洗い、5%硝酸銀水溶液を加えて20分間暗所でインキュベートした。その後明所でさらに15分間インキュベートし、蒸留水で何度も洗浄した。結果をスキャナーで取り込んで比較した(図9)。
▲2▼アリザリンレッド染色
継代培養後、骨芽細胞にCbfa1とCreリコンビナーゼ遺伝子の組換えアデノウィルスをmultiplicity of infection(moi)=500で感染させた。感染1~3週間後の骨芽細胞を3.7%ホルマリン緩衝液で5分間固定し、蒸留水で軽く洗い1%アリザリンレッド水溶液を加えて2分間インキュベートした。その後蒸留水で何度も洗浄し、結果をスキャナーで取り込んで比較した(図10)。
2.実験結果
1)LacZ遺伝子の発現
図3及び図4から明らかなように、LacZ遺伝子の発現は、感染後3日目でピークに達し、約90%の細胞がLacZ遺伝子を発現していた。その後徐々に発現細胞数は減少するが、感染後2週間を経過しても一部の細胞(約20%)では発現が維持されていた。
2)アルカリフォスファターゼ活性
図5から明らかなように、Cbfa1(pebp2αA,til-1)を過剰発現させた細胞のアルカリフォスファターゼ活性はコントロールに比較して高く、特に感染後10日目の酵素活性はコントロールの約6倍に達した。
3)カルシウム量
図6から明らかなように、Cbfa1(pebp2αA,til-1)過剰発現細胞の方が圧倒的にカルシウムの沈着量が多いことが確認された。
4)Cbfa1遺伝子の発現
図7から明らかなように、Cbfa1(pebp2αA,til-1)組換えアデノウィルス感染細胞では、感染後3日目の細胞で非常に高いCbfa1遺伝子発現が認められた。またtil-1に関しては内在性のCbfa1遺伝子の発現も観察することができた。
5)細胞の増殖
図8から明らかなように、非感染細胞(コントロール)に比べてCbfa1+Cre遺伝子を導入した細胞はウィルス価は倍であるが、細胞の増殖はほとんど差がなかった。
6)石灰化
von kossa染色(図9)とアリザリンレッド染色(図10)の結果から明らかなように、Cbfa1(pebp2αA,til-1)過剰発現細胞の方が石灰化が進んでいることが確認された。
3.結論
以上の結果より、Cbfa1のcDNAはアデノウィルスベクターにより極めて効率良く骨芽細胞に導入され、導入されたCbfa1遺伝子は骨芽細胞の骨組織への分化を顕著に促すことが確認された。また、この培養系は多孔性セラミックス等の適当な足場材料を用いることで、生体外での効率よい組織再生手段を提供しうることが示された。
実施例2: Cbfa1遺伝子導入骨芽細胞のラット背上皮皮下移植実験
1.実験方法
1)ラット背上皮皮下移植
市販のβ-TCP(リン酸三カルシウム)多孔性ブロック(Olympus社製,平均ポアサイズ=直径200μm,5mmx5mmx5mm)を足場として、以下の方法でCbfa1遺伝子導入ラット骨芽細胞を培養し、ラット背上皮に皮下移植した。すなわち、コンフルエントになったラット骨芽細胞をトリプシン処理して剥がした後、β-TCPブロックに細胞濃度100万個/mlで減圧下(100mHg)で吸着させた。さらに2週間培養した後、実施例1で作製したCbfa1(til-1)導入アデノウィルスベクターをmoi=500で感染させ、翌日ラットの背上皮皮下に移植した。コントロールとして、Cbfa1非導入アデノウィルスベクターを感染させた細胞を含むブロックを同様に移植した。ブロックは移植2週間後、4週間後及び8週間後に摘出し、各種測定及び観察を行った。
2)組織切片観察(ヘマトキシリン/エオジン染色)
摘出したブロックを4%パラホルムアルデヒド,0.05%グルタルアルデヒドでマイクロウェーブ固定した後、翌日10%EDTA,100mM Tris(pH7.4)中で約1週間脱灰した。脱灰後、エタノールで脱水し、パラフィンに包埋した。5μmの厚さで切片を作製し、脱パラフィン後、ヘマトキシリン続いてエオジンで染色した(図11,12)。
3)アルカリフォスファターゼ活性の測定
摘出したブロックを、実施例1と同様の方法でアルカリフォスファターゼ活性を測定した(図13)。
4)オステオカルシン量の測定
アルカリフォスファターゼ活性測定後のブロックの残渣を20%ギ酸存在下で超音波破砕し、4日間4℃でインキュベートして脱灰した。PD-10カラム(Amersham Pharmacia Biotech社製)で脱塩した後、10%EDTA,100mM Tris(pH7.4)で抽出し、RAT OSTEOCALCIN EIA KIT(Biomedical Technologies Inc.製)でオステオカルシン量を測定した(図14)。
2.実験結果
1)ヘマトキシリン/エオジン染色
移植ブロックのヘマトキシリン/エオジン染色の結果(図11、12)から、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞の方がブロックのポアに存在する細胞数が多く、骨化した部位が大きく広がっていることが確認された。
2)アルカリフォスファターゼ活性
図13から明らかなように、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞のアルカリフォスファターゼ活性の方がコントロールよりも高く、特に移植後4週間目の酵素活性はコントロールの約3倍に達した。
3)オステオカルシン量
図14から明らかなように、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞のオステオカルシン量の方がコントロールよりも高く、特に移植後4週間目のオステオカルシン量はコントロールの約2.5倍に達した。
実施例3: Cbfa1遺伝子導入骨芽細胞の皮下及び骨欠損部移植実験
1.実験方法
1)ラット背上皮及び大腿骨内への移植
実施例2と同様に、ラット骨芽細胞を市販のβ-TCPブロック(Olympus社製,平均ポアサイズ:直径200μm,5mmx5mmx5mm(皮下移植用)、2mmx2mmx2mm(骨欠損部移植用))に細胞濃度200万個/mlで吸着させた。24時間後、Cbfa1(til-1)導入アデノウィルスベクターをmoi=500で感染させ、翌日ラットの背上皮皮下及び骨欠損部に移植した。骨欠損部への移植は、左右大腿骨末端前頭部に直径2mm、深さ3-4mmの穴を開け、この穴(骨欠損部)にブロックを埋入した。コントロールとして、Cbfa1非導入アデノウィルスベクターを感染させた細胞を含むブロックを同様に移植した。
皮下移植したブロックは移植3週間後又は5週間後に摘出し、
アルカリフォスファターゼ活性及びオステオカルシン量の測定及び組織切片の観察を行った。また、大腿骨内に移植したブロックは移植3週間後又は8週間後に摘出し、組織切片の観察を行った。
2.実験結果
1)ヘマトキシリン/エオジン染色
皮下移植:
移植3週間目及び5週間目のいずれにおいても、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞の方がブロックのポアに存在する細胞数が多く、骨化がより進行していることが確認された(図15A)。
骨欠損部移植:
移植3週間目では、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞では骨形成が進み、大腿骨切開部分はほぼ完全に新しい骨組織に置換されていたが、コントロールではほとんど骨形成がみられなかった。また、移植8週間目では、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞では、さらに骨形成が進み、ブロックを移植した穴はほぼ完全に骨髄組織に置換されていたが、コントロールでは移植ブロックがまだ残っていた(図15B)。
2)アルカリフォスファターゼ活性及びオステオカルシン量
Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞のアルカリフォスファターゼ活性は、移植後3週間目でコントロールの約2.0倍、5週間目で約4.7倍であった(図16)。また、Cbfa1(til-1)を過剰発現させた細胞のオステオカルシン量は、移植後3週間目でコントロールの約2.0倍、5週間目で約1.5倍であった(図17)。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、骨髄細胞を利用した骨・軟骨組織再生において、効率のよい生体外組織培養を行うことができる。かかる方法は、生体内では再生不可能な損傷組織に対し、生体から取り出した自己の細胞をin vitroで培養・組織化し、限りなく生体に近い組織を再構築して生体内に戻すという、究極的治療を可能にする。
【配列表】
JP0004921692B2_000002t.gifJP0004921692B2_000003t.gifJP0004921692B2_000004t.gifJP0004921692B2_000005t.gif
【図面の簡単な説明】
図1は、TypeI Cbfa1(pebp2αA)及びTypeII/III Cbfa1(til-1)の構造を示す図である。
図2は、Cbfa1遺伝子導入のためのpAxCALNLwコスミドの構造を示す図である。
図3は、ラット骨芽細胞におけるLacZの発現量をXgal染色した結果を示す写真である。
図4は、ラット骨芽細胞におけるLacZの発現量を定量化した結果を示すグラフある。
図5は、組換えアデノウィルス感染後のラット骨芽細胞におけるアルカリフォスファターゼ活性の変化を示すグラフである。
図6は、組換えアデノウィルス感染後のラット骨芽細胞におけるカルシウム量の変化を示すグラフである。
図7は、Cbfa1遺伝子発現量をノーザンハイブリダイゼーションにより検出した結果を示す画像である。
図8は、組換えアデノウィルス感染後のラット骨芽細胞の増殖を示すグラフである。
図9は、組換えアデノウィルス感染後のラット骨芽細胞における石灰化の様子をvon kossa染色で観察した結果を示す写真である。
図10は、組換えアデノウィルス感染後のラット骨芽細胞における石灰化の様子をアリザリンレッド染色で観察した結果を示す写真である。
図11は、ラット背上皮内移植後4週間目のブロックから得た組織片をヘマトキシリン/エオジン染色した結果を示す写真である。
図12は、ラット背上皮内移植後8週間目のブロックから得た組織片をヘマトキシリン/エオジン染色した結果を示す写真である。
図13は、ラット背上皮内移植後のブロックにおけるアルカリフォスファターゼ活性の変化を示すグラフである。
図14は、ラット背上皮内移植後のブロックにおけるオステオカルシン量の変化を示すグラフである。
図15は、ラット背上皮及び大腿骨内移植後のブロックから得た組織片をヘマトキシリン/エオジン染色した結果を示す写真である。
A-a:コントロール背上皮内移植3週間後
A-b:コントロール背上皮内移植5週間後
A-c:Cbfa1(til-1)感染細胞背上皮内移植3週間後
A-d:Cbfa1(til-1)感染細胞背上皮内移植5週間後
B-a:コントロール大腿骨内移植3週間後
B-b:コントロール大腿骨内移植8週間後
B-c:Cbfa1(til-1)感染細胞大腿骨内移植3週間後
B-d:Cbfa1(til-1)感染細胞大腿骨内移植8週間後
図16は、ラット背上皮移植後のブロックにおけるアルカリフォスファターゼ活性の変化を示すグラフである。
図17は、ラット背上皮移植後のブロックにおけるオステオカルシン量の変化を示すグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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