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明細書 :酸化物高温超伝導体およびその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4139855号 (P4139855)
登録日 平成20年6月20日(2008.6.20)
発行日 平成20年8月27日(2008.8.27)
発明の名称または考案の名称 酸化物高温超伝導体およびその作製方法
国際特許分類 C30B  29/22        (2006.01)
C01G   1/00        (2006.01)
C01G  15/00        (2006.01)
FI C30B 29/22 501A
C01G 1/00 ZAAS
C01G 15/00 C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2003-527152 (P2003-527152)
出願日 平成14年9月5日(2002.9.5)
国際出願番号 PCT/JP2002/009049
国際公開番号 WO2003/023094
国際公開日 平成15年3月20日(2003.3.20)
優先権出願番号 2001270445
優先日 平成13年9月6日(2001.9.6)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年2月27日(2004.2.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】アシナラヤナン スンダレサン
【氏名】伊原 英雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100069958、【弁理士】、【氏名又は名称】海津 保三
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開平01-286920(JP,A)
特開平11-278837(JP,A)
特開平11-003620(JP,A)
J.D. O'CONNOR et al.,Low-temperature processing of superconducting Tl2Ba2Ca1Cu2Ox films on CeO2 buffered sapphire,Applied Physics Letters,1996年 7月 1日,Vol.69, No.1,pp.115-117
Nawazish A. KHAN et al.,Superconducting properties of Cu1-xTlxBa2Ca3Cu4O12-y thin films,Superconductor Science and Technology,August 2001, Vol.14, No.8,pp.603-606
調査した分野 C30B1/00-35/00
C01G1/00
C01G3/00
C01G15/00
CAplus(STN)
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した酸化物高温超伝導体であって、
上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との間に、上記第1のバッファ層と該第1のバッファ層上に第2のバッファ層とを備え、
上記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体が、組成式:Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w又は組成式:(Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(CU1-q2n+4-wで成り、MがTl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素又はアルカリ金属元素の複数元素、LがMg,Y,ランタニド系列元素の一元素又はランタニド系列元素の複数元素、QがMg,Zn、Mg又はZnであり、上記x,y,z,q,w,nがそれぞれ0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,0≦q<0.1,0≦w≦4,2≦n≦5
で表され、
上記第1のバッファ層がCeO層であり、
上記第2のバッファ層が組成式:Cu1-xSrCaCu8-wで成り、ここで、Mが、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素又はアルカリ金属元素の複数元素、上記x,wがそれぞれ0≦x≦1,0≦w≦4
で表される、酸化物高温超伝導体。
【請求項2】
前記結晶基板はサファイア基板である、請求項1に記載の酸化物高温超伝導体。
【請求項3】
前記結晶基板はサファイアR面(1,-1,0,2)を有する、請求項2に記載の酸化物高温超伝導体。
【請求項4】
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記第2のバッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相をAgO又はAgOと共に1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理してエピタキシャル成長させてなる、請求項1に記載の酸化物高温超伝導体。
【請求項5】
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記第2のバッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相をTlと共に1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理してエピタキシャル成長させてなる、請求項1に記載の酸化物高温超伝導体。
【請求項6】
結晶基板上にBaを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長して作製する酸化物高温超伝導体の作製方法において、
上記結晶基板上に第1のバッファ層を積層するステップと、
上記第1のバッファ層上に第2のバッファ層を積層するステップと、
上記第2のバッファ層上にBaを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長するステップとを含み、
上記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体が、組成式:Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w又は組成式:(Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(CU1-q2n+4-wで成り、MがTl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素又はアルカリ金属元素の複数元素、LがMg,Y,ランタニド系列元素の一元素又はランタニド系列元素の複数元素、QがMg,Zn、Mg又はZnであり、上記x,y,z,q,w,nがそれぞれ0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,0≦q<0.1,0≦w≦4,2≦n≦5
で表され、
上記第1のバッファ層がCeO層であり、
上記第2のバッファ層が組成式:Cu1-xSrCaCu8-wで成り、ここで、Mが、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素又はアルカリ金属元素の複数元素、上記x,wがそれぞれ0≦x≦1,0≦w≦4
で表される、酸化物高温超伝導体の作製方法。
【請求項7】
前記結晶基板はサファイア基板である、請求項6に記載の酸化物高温超伝導体の作製方法。
【請求項8】
前記結晶基板はサファイアR面(1,-1,0,2)を有する、請求項6に記載の酸化物高温超伝導体の作製方法。
【請求項9】
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜のエピタキシャル成長は、
前記第2のバッファ層上に上記酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を堆積し、この堆積したアモルファス相をAgO又はAgOと共に1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理して行う、請求項6に記載の酸化物高温超伝導体の作製方法。
【請求項10】
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜のエピタキシャル成長は、
前記バッファ層上に上記酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を堆積し、この堆積したアモルファス相をTlと共に1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理してエピタキシャル成長させてなる、請求項6に記載の酸化物高温超伝導体の作製方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波特性に優れた酸化物高温超伝導体、およびその作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸化物高温超伝導体のうちでもCu系超伝導薄膜(固体物理 Vol.35 No.5 2000参照)は、優れた超伝導特性を有しており、実用化に向けて様々な研究開発が進められている。Cu系超伝導薄膜の優れた超伝導特性の一つとして、上記文献にも記載されているように、高周波特性に優れるという特徴がある。マイクロ波デバイスといった高周波デバイスへ応用する超伝導薄膜を作製するためには、超伝導薄膜自体の高周波特性と共に、超伝導薄膜をエピタキシャル成長する基板の高周波特性も重要である。
【0003】
優れた超伝導特性を有するCu系酸化物高温超伝導体を作製するには、超伝導薄膜の結晶完全性及び結晶配向性が良くなければならない。
【0004】
従来のCu系超伝導薄膜においては、超伝導薄膜との格子不整合が小さく、その結果、結晶完全性が高く、結晶配向性の優れた超伝導薄膜をエピタキシャル成長できる基板としてSrTiO基板が用いられてきた。しかしながら、SrTiOは誘電率が大きいため(比誘電率:約300)、高周波デバイス用の超伝導薄膜の基板としては適していない。
【0005】
このように、酸化物高温超伝導体を高周波デバイスに適用するために、低誘電率基板上に、結晶完全性が高くかつ結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導薄膜を有する酸化物高温超伝導体と、これを簡単にエピタキシャル成長させて作製する方法が求められている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記課題に鑑み、低誘電率基板上に結晶完全性が高く結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体を提供することを第1の目的とする。
【0007】
また、本発明の第2の目的は、低誘電率基板上に結晶完全性が高く結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体を作製する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために、本発明の酸化物高温超伝導体は、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した酸化物高温超伝導体であって、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との間に、上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和する第1のバッファ層と、第1のバッファ層上に、上記酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体、又は上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有する酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体からなる第2のバッファ層とを備えたことを特徴とするものである。
この構成によれば、第2のバッファ層のSrがBaの拡散を防止するので、第1のバッファ層がBaと界面反応を起こし易い物質であっても、第2のバッファ層が界面反応を防止し得るので、第1のバッファ層として使用できる物質範囲が広がり、格子不整合の緩和に最適な第1のバッファ層を選択できる。また、第2のバッファ層は酸化物高温超伝導体、又は類似の酸化物超伝導体のBaをSrで置換した薄膜を用いるので、酸化物高温超伝導体と第2のバッファ層が同等の結晶構造及び同程度の格子定数を有し、極めて格子整合性が良いので、酸化物高温超伝導体薄膜の膜厚方向及び面内方向の結晶配向性が極めて優れた酸化物高温超伝導体が形成される。従って、本発明の超伝導体は、基板の種類を選ばずに優れた超伝導特性を示す。
【0009】
また、本発明の酸化物高温超伝導体は、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した酸化物高温超伝導体であって、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との間に、上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和する第1のバッファ層と、第1のバッファ層上に、上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有し且つSrを含みBaを含まない酸化物高温超伝導体、または上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有するSr酸化物からなる第2のバッファ層を備えたことを特徴としている。
この構成によれば、第2のバッファ層のSrがBaの拡散を防止するので、第1のバッファ層がBaと界面反応を起こし易い物質であっても、第2のバッファ層が界面反応を防止し得るので、酸化物高温超伝導体と基板との格子不整合を緩和する第1のバッファ層として使用できる物質範囲が広がり、格子不整合の緩和が最適になる物質を第1のバッファ層として選択できる。また、第2のバッファ層は酸化物高温超伝導体と格子整合性がよいので、酸化物高温超伝導体薄膜の膜厚方向及び面内方向の結晶配向性が極めて優れた酸化物高温超伝導体が形成される。従って、本発明の超伝導体は、基板の種類を選ばずに優れた超伝導特性を示す。
【0010】
また、本発明の酸化物高温超伝導体は、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した酸化物高温超伝導体であって、上記酸化物高温超伝導体薄膜と上記基板との格子不整合を緩和する酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体、上記酸化物高温超伝導体薄膜と上記基板との格子不整合を緩和し且つSrを含みBaを含まない酸化物高温超伝導体、または上記酸化物高温超伝導体薄膜と上記基板との格子不整合を緩和するSr酸化物からなるバッファ層を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、バッファ層のSrがBaの拡散を防止するので、Baと反応しやすい基板を使用することができ、使用できる基板の種類が広がる。また、バッファ層が、酸化物高温超伝導体と基板との格子不整合を緩和するので、酸化物高温超伝導体薄膜と基板の格子整合性が良く、酸化物高温超伝導体薄膜の膜厚方向及び面内方向の結晶配向性が極めて優れた酸化物高温超伝導体が形成される。従って、本発明の超伝導体は基板の種類を選ばずに優れた超伝導特性を示す。
【0011】
ここでBaを組成元素として含む酸化物高温超伝導体は、
組成式:Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w、または、
組成式:(Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w、で成り、
Mは、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素またはアルカリ金属元素の複数元素、
Lは、Mg,Y,ランタニド系列元素の一元素またはランタニド系列元素の複数元素、
Qは、Mg,ZnまたはMg及びZn、
さらに、上記x,y,z,q,w,nは、それぞれ下記式、
0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,0≦q<0.1,0≦w≦4,2≦n≦5
で表される
この構成によれば、低誘電率基板上に、結晶完全性及び結晶配向性の良い、上記組成の酸化物高温超伝導体が提供される。なお、上記組成の酸化物超伝導体には、いわゆるYBCO系酸化物高温超伝導体、Y(Ln)-〔123〕系酸化物高温超伝導体、及びHg系酸化物高温超伝導体も含まれる。
【0012】
前記結晶基板は、好ましくは、サファイアR面(1,-1,0,2)を有するサファイア基板である。また、第1のバッファ層は、CeO層であってよく、第2のバッファ層は、組成式:Cu1-xSrCaCu8-w、で成り、Mは、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素またはアルカリ金属元素の複数元素、さらに、上記x,wはそれぞれ、0≦x≦1,0≦w≦4で表すことができる。
この構成によれば、低誘電率(比誘電率は約10)であるサファイアR面(1,-1,0,2)基板上の第1のバッファ層であるCeO層のCeと、エピタキシャル成長する酸化物高温超伝導体薄膜のBaとの界面化学反応が、第2のバッファ層であるCu1-xSrCaCuO8-wによって防止されるから、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体を提供することができる。
【0013】
Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記第2のバッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相を、AgO又はAgOと共に、或いはTlと共に、1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理してエピタキシャル成長させたものであってよい。前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記バッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相を、AgO又はAgOと共に、或いはTlと共に、1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理してエピタキシャル成長させたものであってよい。
【0014】
さらに、本発明の酸化物高温超伝導薄膜は、Baを組成元素として含む酸化物磁性体、酸化物誘電体、または酸化物導電体のいずれか一つの酸化物をサファイアR面(1,-1,0,2)基板上に形成した酸化物薄膜であって、上記サファイア基板上にCeO薄膜からなる第1のバッファ層が積層され、上記第1のバッファ層上に上記酸化物のBaをSrに置換した薄膜からなる第2のバッファ層が積層され、さらに、上記第2のバッファ層上に上記酸化物が形成された積層構造で成ることを特徴とするものである。
この構成によれば、Baを組成元素として含む酸化物磁性体、酸化物誘電体、または酸化物導電体を、サファイア基板上のCeOバッファ層上にCeOバッファ層のCeと反応すること無しに形成することができるので、優れた特性をもった酸化物薄膜を提供することができる。
【0015】
さらに、上記第2の目的を達成するため、発明は、結晶基板上にBaを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長して作製する酸化物高温超伝導体の作製方法において、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和する第1のバッファ層を上記結晶基板上に積層し、第1のバッファ層上に上記酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体、上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有する酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体、上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有し且つSrを含みBaを含まない酸化物高温超伝導体、または上記酸化物高温超伝導体と類似の結晶構造及び格子定数を有するSr酸化物からなる第2のバッファ層を積層し、第2のバッファ層上に上記酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することを特徴とする。
この構成によれば、酸化物高温超伝導体薄膜の格子不整合を緩和する第1のバッファ層が酸化物高温超伝導体薄膜のBaと界面反応を起こし易い物質であっても、第2のバッファ層が界面反応を防止し、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することができる。
【0016】
また、上記第2の目的を達成するため、発明は、結晶基板上にBaを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長して作製する酸化物高温超伝導体の作製方法において、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和する酸化物高温超伝導体のBaをSrで置換した酸化物高温超伝導体、上記酸化物高温超伝導体薄膜と上記基板との格子不整合を緩和し且つSrを含みBaを含まない酸化物高温超伝導体、または上記酸化物高温超伝導体薄膜と上記基板との格子不整合を緩和するSr酸化物からなるバッファ層を上記結晶基板上に積層し、上記バッファ層上に上記酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することを特徴とするものである。
この構成によれば、バッファ層のSrがBaの拡散を防止するので、Baと反応しやすい基板を使用することができ、使用できる基板の種類が広がる。また、バッファ層が、酸化物高温超伝導体と基板との格子不整合を緩和するので、酸化物高温超伝導体薄膜と基板の格子整合性が極めて良く、酸化物高温超伝導体薄膜の膜厚方向及び面内方向の結晶配向性が極めて優れた酸化物高温超伝導体が形成される。従って、本発明の超伝導体は、基板の種類を選ばずに優れた超伝導特性を示す。
【0017】
ここで、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体は、
組成式:Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w、または、
組成式:(Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w
で成り、
Mは、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素またはアルカリ金属元素の複数元素、
Lは、Mg,Y,ランタニド系列元素の一元素またはランタニド系列元素の複数元素、
Qは、Mg,ZnまたはMg及びZn、
さらに、上記x,y,z,q,w,nは、それぞれ下記式、
0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,0≦q<0.1,0≦w≦4,2≦n≦5
で表すことができる。
この構成によれば、上記組成の酸化物超伝導体を、低誘電率基板上に、結晶完全性及び結晶配向性良く、エピタキシャル成長することができる。
上記組成の酸化物超伝導体には、いわゆるYBCO系酸化物高温超伝導体、Y(Ln)-〔123〕系酸化物高温超伝導体、及びHg系酸化物高温超伝導体も含まれる。
この構成によれば、エピタキシャル成長する酸化物高温超伝導体薄膜と格子整合性が良く、かつ、エピタキシャル成長する酸化物高温超伝導体薄膜のBaの拡散バリアとなるバッファ層が容易に得られ、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することができる。
【0018】
前記結晶基板は、好ましくは、サファイアR面(1,-1,0,2)を有するサファイア基板である。また、第1のバッファ層は、CeO層であってよく、第2のバッファ層は、組成式:Cu1-xSrCaCu8-w、で成り、Mは、Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素またはアルカリ金属元素の複数元素、さらに、上記x,wはそれぞれ、0≦x≦1,0≦w≦4で表すことができる。
この構成によれば、低誘電率(比誘電率は約10)であるサファイアR面(1,-1,0,2)基板上の第1のバッファ層であるCeO層のCeと、エピタキシャル成長する酸化物高温超伝導体薄膜のBaとの界面化学反応が、第2のバッファ層であるCu1-xSrCaCuO8-wによって防止されるから、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することができる。
【0019】
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜のエピタキシャル成長は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記第2のバッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相を、AgO又はAgOと共に、或いはTlと共に、1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理して成長させたものであってよい。
前記Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜のエピタキシャル成長は、この酸化物高温超伝導体の組成を有するアモルファス相を前記バッファ層上に堆積し、この堆積したアモルファス相を、AgO又はAgOと共に、或いはTlと共に、1.0~10気圧の酸素雰囲気中で熱処理して成長させたものであってよい。
さらに、サファイアR面(1,-1,0,2)基板上にBaを組成元素として含む酸化物磁性体、酸化物誘電体または酸化物導電体のいずれか一つの酸化物をエピタキシャル成長して作製する酸化物薄膜の作製方法において、CeO薄膜からなる第1のバッファ層を上記基板上に積層し、第1のバッファ層上に上記酸化物のBaをSrに置換した薄膜からなる第2のバッファ層を積層し、第2のバッファ層上に上記酸化物をエピタキシャル成長することを特徴としている。この構成によれば、Baを組成元素として含む酸化物磁性体、酸化物誘電体、または酸化物導電体を、サファイア基板上のCeOバッファ層上に、CeOバッファ層のCeと反応すること無しにエピタキシャル成長することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下の詳細な説明及び本発明の幾つかの実施の形態を示す添付図面に基づいて、より良く理解されるものとなろう。なお、添付図面に示す実施の形態は本発明を特定又は限定することを意図するものではなく、単に本発明の説明及び理解を容易とするためだけに記載されたものである。以下、本発明を好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
最初に、本発明の酸化物高温超伝導体の作製方法を具体的な実施例に基づいて説明する。
組成式、Cu1-xTlBaCaCu8-w、あるいは、
組成式、Cu1-xTlBaCaCu10-w
ここで、0≦x≦1,0≦w≦4、
で表される酸化物高温超伝導体、すなわち、CuTl-〔1223〕、CuTl-〔1234〕Cu系酸化物高温超伝導体(固体物理 Vol.35 No.5 2000参照)は、77K以上の超伝導転移温度を有する超伝導体の中でも、最も低いマイクロ波表面抵抗を有する物質である。優れたマイクロ波デバイスを実現するためには、低誘電率基板を選択する必要があると同時に、超伝導薄膜と基板とが良好な格子整合をする必要がある。
【0021】
サファイアR(1,-1,0,2)面単結晶基板は、低価格、大面積、低誘電率である点で最適な基板であるが、Cu系酸化物高温超伝導体薄膜とは格子不整合が大きすぎ、このままでは使用できない。
【0022】
上記の問題を解決するためには、サファイアR(1,-1,0,2)面基板上にCeO(100)をバッファ層として用いることが有効であることが知られている。
以下に、サファイア基板上に成長したCeO層の具体例を示す。
図1は、サファイアR(1,-1,0,2)面基板上に成長したCeO(100)層表面のAFM(Atomic Force Microscope)による像を示す図である。試料は、5mTorrのArと10mTorrのNOの混合ガス中のマグネトロン・RFスパッタリングにより、525℃に保持したサファイアR(1,-1,0,2)面基板上にCeOを200nmの厚さに堆積し、1100℃で熱処理して形成したものである。
図1に見られるように、CeOのグレインは長方形をなし、かつ、サファイアR面基板の〈-1,1,0,1〉及び〈1,1,-2,0〉方向に整列していることがわかる。このように、CeOはサファイ基板と酸化物高温超伝導体薄膜との格子整合を図る上で最適な物質である。
【0023】
しかしながら、上記のCeOをバッファ層とするサファイア基板上に酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長する場合には、さらに、酸化物高温超伝導体薄膜のエピタキシャル成長温度によって、酸化物高温超伝導体薄膜中のBaがCeと反応し、BaCeOを形成してしまい、酸化物高温超伝導体薄膜の結晶完全性及び結晶配向性を良好にすることができないと言う問題がある。
【0024】
そこで、本発明者らは、酸化物高温超伝導体薄膜のBaをCeと容易に反応しないSrに置換した薄膜を第1のバッファ層であるCeOバッファ層上に積層して第2のバッファ層とし、この第2のバッファ層上に酸化物高温超伝導体薄膜をエピタキシャル成長することによって上記問題が解決されることを見いだし、本発明に到ったものである。すなわち、エピタキシャル成長しようとする酸化物高温超伝導体薄膜のBaをSrで置換した薄膜は、酸化物高温超伝導体薄膜と類似結晶構造、及び類似格子定数を有するので、格子整合性が非常に高く、また、SrがCeと容易に反応しないので最適なバッファ層として機能し、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体薄膜が得られる。
【0025】
このようにして得られる、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した本発明の酸化物高温超伝導体は、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との間に、上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和する第1のバッファ層と、第1のバッファ層上に上記酸化物高温超伝導体薄膜のBaの拡散バリアとなるSr酸化物からなる第2のバッファ層とを備えたことを特徴とするものであり、酸化物高温超伝導体薄膜の格子不整合を緩和する第1のバッファ層が酸化物高温超伝導体薄膜のBaと界面反応を起こし易い物質であっても、第2のバッファ層が界面反応を防止し得るので、結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体となる。
【0026】
次に、本発明による第1の実施例を示す。
はじめに、試料の作製方法を示す。サファイアR(1,-1,0,2)面基板を1100℃で2時間熱処理し、表面を平滑、かつ清浄にした。このサファイア基板を600℃に保持し、5mTorrのArと10mTorrのNOの混合ガス中のマグネトロン・RFスパッタリングにより、CeOを15nmの厚さに堆積した。
次に、基板温度を50℃に下げ、酸化物高温超伝導体の組成を有するCu1-xTlBaCaCu8-wのBaをSrに置換した薄膜として、Cu1-xTlSrCaCu8-wアモルファス膜を200nmの厚さに、マグネトロン・RFスパッタリングにより堆積した。
続いて、酸化物高温超伝導体組成を有するCu1-xTlBaCaCu10-wアモルファス膜を700nmの厚さに、マグネトロン・RFスパッタリングにより堆積した。
その後、上記試料をマグネトロン・RFスパッタリング装置から取り出し、銀製の密封容器(半径:18mm、高さ:10mmの盤型容器)中に、タリウム含有高温超伝導体ディスク(組成:CuTlBaCaCu、半径:17.5mm、厚さ:4mm、重量:10g)、及び、上記のタリウム含有高温超伝導体ディスク上に散布したTl粉末50mgと共に封入し、860℃で30分の熱処理を行った。
【0027】
図2は、本発明の方法によって作製した酸化物高温超伝導体のXRD(X-ray diffractometer)による回折結果を示す図である。図中、回折パターンのピークに付した数字は対応するミラー面指数、かっこ内の数字は対応する酸化膜高温超伝導体、及びAlはサファイア基板の回折ピークであることを示す。図から明らかなように、本発明の方法によって作製したCuTlBaCaCu10-w酸化物高温超伝導体、すなわち、CuTl-〔1223〕はc軸配向してエピタキシャル成長していることがわかる。
【0028】
図3は、本発明の方法によって作製した酸化物高温超伝導体の面内配向性を示すXRDによる測定結果であり、回折角(2θ)を(107)ミラー指数面の回折角に固定し、試料をX線入射面に垂直な軸の回りに回転(回転角:φ)させて測定したXRDによる回折結果を示す図である。図から明らかなように、本発明の方法によって作製した酸化物高温超伝導体は面内配向性も良好である。
【0029】
次に、第2のバッファ層のSrと第1のバッファ層のCeとが反応していないことを確認した実験結果を示す。試料は、第1の実施例で説明した方法において、酸化物高温超伝導体組成を有するCuTlBaCaCu10-wアモルファス膜を堆積しないこと、及び熱処理温度が第1の実施例よりも高い890℃であることのみが異なり、他は同一である。
【0030】
図4は、第2のバッファ層のSrと第1のバッファ層のCeとが反応していないことを示すXRDによる回折結果を示す図である。図中、回折パターンのピークに付した数字は対応するミラー面指数、かっこ内の数字は対応する酸化膜高温超伝導体、かっこ内の符号はCeO、及びAlはサファイア基板の回折ピークであることを示す。図から明らかなように、SrCeOによる回折ピークは観測されない。またCeOの回折強度は熱処理前とほとんど変わらなかった。これらのことから、酸化物高温超伝導体のBaをSrに置換した第2のバッファ層のSrと、CeOである第1のバッファ層のCeとが反応していないことが確認できた。
【0031】
次に、本発明による第2の実施例を示す。
第2の実施例は、第1の実施例と比べて、Tl粉末の代わりにAgO粉末を使用することだけが異なり、他は第1の実施例と同一である。
この方法を用いてCuTlBaCaCu10-w酸化物高温超伝導体、すなわち、CuTl-〔1223〕を作製した。XRDによる測定結果は図2及び図3と同等な特性を示し、超伝導転移温度Tは100K、臨界電流密度Jは4×10A/cmであった。この超伝導特性は、SrTiO基板上に作製したCuTl-〔1223〕酸化物高温超伝導体と比べるとやや劣るものであるが、これはひび割れに起因していることが明らかであり、ひび割れ防止策を講じることで特性改善が望める。
【0032】
なお、上記実施例では、CuTl-〔1223〕酸化物高温超伝導体についての実施例を示したが、下記に示すBaを組成元素とする酸化物高温超伝導体に適用可能なことは明らかである。すなわち、
組成式 Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w、または、組成式 (Cu1-x(Ba1-ySr(Ca1-zn-1(Cu1-q2n+4-w
ただし、M=Tl,Hg,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,C,Si,Sn,Ag,Au,S,N,P,Mo,Re,Os,Cr,Ti,V,Fe,ランタニド系列元素,アルカリ金属元素の一元素、または、アルカリ金属元素の複数元素、
L=Mg,Y,ランタニド系列元素の一元素、または、ランタニド系列元素の複数元素、
Q=Mg,Zn、または、Mg及びZn、
0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,0≦q<0.1,0≦w≦4,2≦n≦5、
で表される酸化物高温超伝導体に適用可能である。
【0033】
また、上記実施例では、エピタキシャル成長させる酸化物高温超伝導体と同一の酸化物高温超伝導体のBaをSrで置き換えて第2のバッファ層として使用するが、同一でなくとも類似の酸化物高温超伝導体のBaをSrで置き換えて第2のバッファ層とすることができることは明らかである。
また、上記実施例では、酸化物高温超伝導体と同一の酸化物高温超伝導体のBaをSrで置き換えて第2のバッファ層として使用するが、酸化物高温超伝導体と格子整合性がよいSr酸化膜をバッファ層とできることは明らかである。
従って、本発明の第2の態様による、Baを組成元素として含む酸化物高温超伝導体薄膜を結晶基板上に形成した酸化物高温超伝導体は、上記結晶基板と上記酸化物高温超伝導体薄膜との間に、上記酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和すると共に、上記酸化物高温超伝導体薄膜のBaの拡散バリアとなるSr酸化物からなるバッファ層を備えたことを特徴としており、Sr酸化物が、結晶基板と酸化物高温超伝導体薄膜との格子不整合を緩和すると共に、酸化物高温超伝導体薄膜のBaと反応し易い結晶基板であっても、Sr酸化物が結晶基板と酸化物高温超伝導体薄膜のBaとの界面反応を防止するから、この発明によっても結晶完全性及び結晶配向性の優れた酸化物超伝導体が得られる。
上記実施例では、Baを含む酸化物高温超伝導体をサファイア基板上にエピタキシャル成長する場合について示したが、酸化物高温超伝導体に限らず、Baを含む酸化物磁性体、酸化物誘電体、または酸化物導電体をサファイア基板上にエピタキシャル成長する場合に適用できることは明らかである。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、低誘電率基板上に、結晶完全性が高く、かつ結晶配向性の優れた酸化物高温超伝導体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 サファイアR(1,-1,0,2)面基板上に成長したCeO(100)層表面のAFM(Atomic Force Microscope)像を示す図である。
【図2】 本発明の方法によって作製した酸化物高温超伝導体のXRD(X-ray diffractometer)による回折結果を示す図である。
【図3】 本発明の方法によって作製した酸化物高温超伝導体の面内配向性を示すXRDによる測定結果を示す図である。
【図4】 本発明の方法によって作製した第2のバッファ層のSrと第1のバッファ層のCeとが反応していないことを示すXRDによる回折結果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3