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明細書 :脊髄損傷サルモデルの作成法及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4332650号 (P4332650)
登録日 平成21年7月3日(2009.7.3)
発行日 平成21年9月16日(2009.9.16)
発明の名称または考案の名称 脊髄損傷サルモデルの作成法及びその利用
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
A61K  35/30        (2006.01)
A61K  38/22        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A01K 67/027
A61K 35/30
A61K 37/24
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 43/00 121
請求項の数または発明の数 5
全頁数 8
出願番号 特願2003-546653 (P2003-546653)
出願日 平成14年11月26日(2002.11.26)
国際出願番号 PCT/JP2002/012308
国際公開番号 WO2003/045137
国際公開日 平成15年6月5日(2003.6.5)
優先権出願番号 2001364563
優先日 平成13年11月29日(2001.11.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成17年8月10日(2005.8.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
発明者または考案者 【氏名】岡野 栄之
【氏名】戸山 芳昭
【氏名】中村 雅也
【氏名】野村 達次
【氏名】谷岡 功邦
【氏名】安東 潔
【氏名】金村 米博
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特表2001-511456(JP,A)
日整会誌,2000年,Vol. 74, No. 8,S1619
愛媛医学,日本,2000年,V19 N2,P259-268
J. NEUROSURG.,1983年,V59,P268-275
調査した分野 A01K 67/027
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
マーモセットの頚髄の硬膜を露出し、当該硬膜上に15~25gのおもりを20~60mm上から落下させて荷重をかけることを特徴とする、ヒトの脊髄損傷と同様の運動機能障害を有する脊髄損傷マーモセットモデルの作成法。
【請求項2】
荷重が、18~25gのおもりを30~60mm上からかけるものである請求項1記載の作成法。
【請求項3】
硬膜の露出が、頚椎C3~C8のいずれかの椎弓を抜去するものである請求項1又は2記載の作成法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法により作成された脊髄損傷マーモセットモデル。
【請求項5】
請求項4記載の脊髄損傷マーモセットモデルに被検薬を投与することを特徴とする脊髄損傷治療薬の評価方法。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は脊髄損傷サルモデルの作成方法、当該方法により得られるサルモデル及びサルモデルを用いる脊髄損傷治療薬の評価方法に関する。
背景技術
脊髄損傷には、交通事故、スポーツ、労災などの外傷性のものと、炎症、出血、腫瘍、脊椎変形などの非外傷性のものとがあるが、その多くは外傷性である。脊髄損傷の症状としては、運動機能障害及び知覚障害がある。
脊髄損傷の治療手段としては、脳保護剤、脳代謝改善剤等による対症療法が主であり、脊髄損傷により失なわれた神経細胞を回復させる治療法は存在しない。
一方、脊髄損傷における神経細胞に関する研究も進んでおり、成体の脊髄損傷では、内在性神経幹細胞が脊髄内に存在するにもかかわらず、そこからニューロンやオリゴデンドロサイトの新生は起きず、アストロサイトの増生のみが起き、これがグリア瘢痕となり、ニューロンの軸索伸長を妨げていることが知られている。
損傷脊髄内におけるニューロンの再生に成功した例としては、ラット脊髄損傷に対してラット胎児脊髄を移植したところ有効であったことが報告されているのみである(Diener PS,Bregman BS,J.Neurosci.,18(2):779-793(1998)、同J.Neurosci.,18(2),763-778(1998))。
唯一の成功例をヒトに応用しようとすると、移植に必要な大量のヒト胎児脊髄を確保する必要がある。ヒト胎児脊髄の大量確保は現実的でなく、実際には応用できない。
従って、本発明の課題は、よりヒトに近い動物における脊髄損傷モデルを作成し、よりヒトに応用できる脊髄損傷の治療法を提供することにある。
発明の開示
そこで本発明者は、サルの脊髄損傷モデルを作成すべく種々検討した結果、サルの頚髄の硬膜を露出し、その上に荷重をかける手術をすると、そのサルはヒトの脊髄損傷と同様の運動機能障害を示し、ヒト脊髄損傷のモデルとして有用であり、このサルを用いれば脊髄損傷治療薬の評価が確実にできることを見出した。さらにヒト神経幹細胞を当該サルの脊髄損傷部位に移植したところ、運動機能の改善及びニューロンの新生が認められることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、サルの頚髄の硬膜を露出し、当該硬膜上に荷重をかけることを特徴とする脊髄損傷サルモデルの作成法及びかくして作成された脊髄損傷サルモデルを提供するものである。
また本発明は、脊髄損傷サルモデルに被検薬を投与することを特徴とする脊髄損傷治療薬の評価方法を提供するものである。
さらに、本発明は、神経幹細胞を脊髄の損傷部位に移植することを特徴とする脊髄損傷の治療法を提供するものである。
発明を実施するための最良の形態
本発明の脊髄損傷モデルに用いられるサルとしては、特に限定されず、キツネザル、インドリ、アイアイ、ロリス、メガネザル等の原猿類;マーモセット、オマキザル、オナガザル、テナガザル、オランウータン等の真猿類が挙げられるが、真猿類が特に好ましい。
脊髄損傷サルモデルを作成するには、まずサルの頚髄の硬膜を露出する。この手術は麻酔下に行なわれる。まず、サルの後頚部の毛を剃り、頚椎(C1~C8)のうちのいずれかの椎弓を抜去して硬膜を露出する。頚椎C1~C8のうち、C3~C8のいずれかの椎弓を抜去するのが好ましい。
露出した硬膜上に荷重をかけることにより、脊髄に損傷を与える(図1参照)。荷重は15~25gのおもりを20~60mm上から、特に18~25gのおもりを30~60mm上から落下させてかけるのが、ヒトの脊髄損傷モデルを作成するうえで好ましい。一定荷重を一定長さ上から落下させてかけるために、インパクターを用いて行うのが好ましい。
荷重をかけることにより脊髄に損傷を与えた後のサルは、手術部を縫合する。
かくして得られた脊髄損傷サルモデルは、MRI撮像、組織染色により脊髄に明らかな損傷が認められ、その損傷は長期間持続し回復しない。
また、脊髄損傷サルモデルは、ヒトの脊髄損傷患者と同様の運動機能障害を呈する。例えば、移動能力、回転運動能力、座位の保持、起立行動、跳躍運動能力、ものを取ろうとする能力、餌を取る能力、ものを握る能力などの総合評価で明らかに運動機能障害を呈する。より具体的には、餌を与えるという刺激に対する餌を取る行動、ものを握る能力が明らかに低下する等の障害が生じる。
かように、本発明の脊髄損傷サルモデルはヒトの脊髄損傷と同様な症状を呈することから、ヒトの脊髄損傷に対する治療薬の評価に有用である。例えば、被検薬をこのサルモデルに投与した後、経過を観察することにより、当該被検薬に治療効果があるか否かを評価できる。
ここで被検薬としては、神経再生活性のある因子(低分子量化合物を含む)各種神経栄養因子、神経細胞成長因子、神経細胞成長促進物質等が挙げられる。また投与手段としては、経口、注射等の他、損傷部位への直接投与、移植等が挙げられる。
経過観察手段としては、前記運動機能改善効果の観察、MRI、筋電図が挙げられる。
本発明者は、当該サルモデルの損傷部位にヒト神経幹細胞を移植することにより、損傷部位にニューロンが新生し、明らかに運動機能障害等の症状が改善されることを見出した。
ヒト神経幹細胞としては、例えばWeissらにより開発されたニューロスフェア法(Science 255:1707-1710(1992))により得られたヒト神経幹細胞を用いることができる。神経幹細胞の移植時期は、脊髄損傷作成後であればよいが、1週間以上経過してから移植した方が移植神経幹細胞の生存、分化の面からも有効である。このことは、臨床応用上特に重要である。
移植用量としては10~10細胞が好ましい。移植は1~数回行ってもよい。また、種々の神経栄養因子、例えば、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor、脳由来神経栄養因子)、NT-3(Neurotrophin-3、ニューロトロフィン-3)等を20ng併用してもよい。
より具体的な移植方法としては、神経幹細胞を損傷部空洞内に注入する方法、あらかじめ細胞の分化誘導を行うためにコラーゲンゲル中で幹細胞を三次元培養し、損傷部にゲルとともに移植する方法等が挙げられる。
実施例
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに何ら制限されるものではない。
実施例1(脊髄損傷サルモデルの作成)
(1)マーモセットの手術
塩酸キシラジン・塩酸ケタミンによる混合麻酔もしくはイソフルレンによる吸入麻酔下に、第5、6頚椎切除後硬膜を露出する。重錘20gを50mmより第5頚髄レベル硬膜上に落下させ、頚髄損傷モデルを作成する。椎弓切除部の硬膜上に人工硬膜を置き、追層縫合し閉創する。損傷後は膀胱直腸機能が改善するまで用手的に排尿させ、感染防止に抗生物質を適宜投与する。
(2)脊髄損傷前後のMRI像及び組織染色像
マーモセットの20g-50mmによる脊髄損傷前後のMRI像を図2に示す。その結果、手術前にはなかった損傷が、手術33日後でも存在し、明確に脊髄損傷が生じていることがわかる。また、脊髄損傷後の脊髄断面についての一般組織像(ヘマトキシリン-エオシン染色)(左側)及びグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)(緑色)/β-チューブリンIII(赤)二重染色像(右側)を図3に示す。その結果、脊髄に空洞が生じており、神経細胞が消失していることがわかる。
(3)表1に示す評価項目を用い、26点満点で運動機能を評価した。運動機能の評価にあたっては、餌を与える、目の前に棒を出す等の刺激をし、その刺激に対する運動機能が十分か否かを判断することにより行った。その結果を図5に示す。図5から明らかなように、20g-50mmによる損傷のマーモセットは、長期間にわたって運動機能障害が継続していた。
JP0004332650B2_000002t.gif実施例2(ヒト神経幹細胞移植療法)
(1)実施例1で得られた脊髄損傷マーモセットに神経幹細胞を移植した。すなわち、損傷手術10日後であって運動機能障害がおきていることを確認したマーモセットの脊髄損傷部空洞に、ヒト神経幹細胞1×10/μl含有液を5μl、10分かけて注入した(移植群)。対照として、培養液のみを5μl注入したものを非移植群とした。
(2)移植後7日間運動機能観察したところ、移植群と非移植群間に明らかな運動機能の改善に差は見られなかった。移植後10週後、移植群で非移植群と比較して、有意な上肢運動機能の改善が得られた。すなわち、上肢筋及びリーチング(餌をとる動作)で移植群で良好な回復がみられた(図5)。
(3)移植8週後の脊髄断面についての一般組織染色像(ヘマトキシリン-エオシン染色)を図4に示す。図3の左側の像と対比すると、神経幹細胞移植により脊髄の神経細胞が回復していることがわかる。
(4)移植8週後のヒト神経幹細胞の分化状態を測定した結果を図7に示す。その結果、β-チューブリンIII、グリア線維酸性蛋白質(GFAP)及びオリゴデンドロサイト(Olig2)に分化していた。この結果は、ヒト神経幹細胞をin vitroで分化させたときの分化状態(図6)と比較すると大きく異なっていた。
(5)移植細胞は損傷部位に生着し、頭尾側部にも多くの細胞が移動していた。図4及び図6より、移植細胞はニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトへと分化していることが判明した。
(6)ヒト神経幹細胞移植後の棒状物を握る能力(バーグリップ試験:J.Neurosci.Methods 62,15-19(1995))の回復を測定したところ、非移植群に比べて、棒状物を握る能力が有意に回復していた(図8)。
(7)ヒト神経幹細胞移植後の自発運動能(赤外線センサーシステムによる)の回復を測定したところ、非移植群に比べて有意に運動能が回復していることがわかる(図9)。
産業上の利用可能性
本発明によれば、ヒトに近く、ヒトの脊髄損傷モデルとして有用なサルが作成できた。また当該モデルを用いれば、種々の薬物の脊髄損傷に対する治療効果が適確に評価できる。このモデルを使用することにより、ヒト神経幹細胞の移植療法が、脊髄損傷に有効であることがはじめて確認できた。
【図面の簡単な説明】
図1は、脊髄に荷重をかけた状態を示す概念図である。
図2は、脊髄損傷前後のMRI像を示す図である。
図3は、脊髄損傷後の脊髄断面についての一般組織染色像(ヘマトキシリン-エオシン染色)(左側)及びGFAP(緑色)/β-チューブリンIII(赤)二重染色像(右側)を示す図である。
図4は、神経幹細胞移植8週後の脊髄断面についての一般組織染色像(ヘマトキシリン-エオシン染色)を示す図である。
図5は、脊髄損傷マーモセットの運動機能障害の経過を示す図である。
図6は、ヒト神経幹細胞をin vitroで分化させた場合の各種細胞への分化状態を示す図である。
図7は、脊髄損傷部位に移植されたヒト神経幹細胞の分化状態を示す図である。
図8は、ヒト神経幹細胞移植後の棒状物を握る能力の回復を示す図である。
図9は、ヒト神経幹細胞移植後の自発運動能の回復を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8