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明細書 :水素含有電気伝導性無機化合物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4219821号 (P4219821)
登録日 平成20年11月21日(2008.11.21)
発行日 平成21年2月4日(2009.2.4)
発明の名称または考案の名称 水素含有電気伝導性無機化合物
国際特許分類 C01F   7/18        (2006.01)
C01B   3/02        (2006.01)
H01B   1/06        (2006.01)
FI C01F 7/18
C01B 3/02 Z
H01B 1/06 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2003-586095 (P2003-586095)
出願日 平成15年4月18日(2003.4.18)
国際出願番号 PCT/JP2003/005016
国際公開番号 WO2003/089373
国際公開日 平成15年10月30日(2003.10.30)
優先権出願番号 2002117314
優先日 平成14年4月19日(2002.4.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年12月13日(2004.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】林 克郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 国際公開第01/079115(WO,A1)
O YAMAGUCHI, et al,New-Compound in the system SrO-Al2O3,J.Am.Ceram.Soc.,1986年,Vol.69,No.2,p.C.36-C.37
M.LACERDA,et al,Electrical properties of Ca12Al14O33:Effect of hydrogen reduction,Solid State Ionics,1993年,vol.59,p.257-262
調査した分野 C01F 7/18
C30B 29/22
G02F 1/17
H01B 1/06
G09F 9/30
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
1×1018cm-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含み、室温
で電気伝導率10-5Scm-1以上の電子伝導性を有することを特徴とする12CaO
・7Al化合物。
【請求項2】
1×1018cm-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含み、室温
で電気伝導率10-5Scm-1以上の電子伝導性を有することを特徴とする12SrO
・7Al化合物。
【請求項3】
12CaO・7Al化合物または12SrO・7Al化合物を1000pp
m以上の水素を含有する雰囲気中で800℃以上の温度で熱処理を施して1×1018
-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含ませ、さらに紫外線また
はX線を照射することを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の化合物の製造
方法。
【請求項4】
請求の範囲第1項または第2項に記載される化合物を用いたことを特徴とする透明電極。
【請求項5】
請求の範囲第1項または第2項に記載される化合物を用いたことを特徴とする透明配線。
【請求項6】
請求の範囲第1項または第2項に記載される化合物を用いたことを特徴とする光書き込み
および消去可能な3次元電子回路。
【請求項7】
請求の範囲第1項または第2項に記載される化合物を用いたことを特徴とする光書き込み
および消去可能な3次元記憶素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水素陰イオンを含む12CaO・7Al化合物(以下C12A7と記す
。)または12SrO・7Al化合物(以下S12A7と記す。)とこれらの製造
方法、これらの化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体無機材料において、通常は絶縁体であるものを、光を照射することによって電
気伝導体に転換できるものは、ほとんど知られていなかった。数少ない例として、最近、
水素化イットリウム(YH)や、水素化ランタン(LaH)が紫外線照射によって絶
縁状態から伝導体に永続的に変化させることができることが報告された(非特許文献1)
一方、1970年に、H.B.Bartlらは、C12A7結晶は、2分子を含む単位胞
にある66個の酸素のうち、2個はネットワークには含まれず、結晶の中に存在するケー
ジ内の空間に「フリー酸素」として存在する特異な特徴を持つことを示していた(非特許
文献2)。これまで、このフリー酸素は種々の陰イオンに置き換えることができることが
明らかにされた。
【0003】
本発明者らの一人である細野らは、CaCOとAlまたはAl(OH)を原料
として、空気中で1200℃の温度で固相反応により合成したC12A7結晶中に、1×
1019cm-3程度のOが包接されていることを電子スピン共鳴の測定から発見し
、フリー酸素の一部がOの形でケージ内に存在するというモデルを提案している(非
特許文献3,4)。
【0004】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料
を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させて、1020cm-3以上の高濃度の
活性酸素種を包接するC12A7化合物が得られることを新たに見出した。その化合物自
体、その製法、包接イオンの取り出し手段、活性酸素イオンラジカルの同定法、および該
化合物の用途に関する発明について、特許出願した(特許文献1)。
【0005】
また、該化合物中のOHイオンなど酸素以外のアニオン濃度を制御し、700℃付近で
、活性酸素イオンを包接させたり、取り出したりする方法を新たに見出し、これに関する
発明を特許出願した(特許文献2)。さらに、活性酸素を高濃度に含むC12A7化合物
に電場を印加し、高密度のOイオンビームを取出せることを新たに見出し、これに関す
る発明を特許出願した(特許文献3)。
【0006】
また、本発明者は、水中、または水分を含む溶媒中、または水蒸気を含む気体中で水和反
応させたC12A7化合物粉体を、酸素雰囲気で焼成することにより、OHイオンを濃
度1021cm-3以上含むC12A7化合物を合成し、その化合物自体、製法、OH
イオンの同定法、および該化合物の応用に関する発明について、特許出願している(特許
文献4)。
【0007】
また、C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ物質として、12SrO・7Al
(S12A7)化合物が知られている(非特許文献5)。本発明者らは、S12A7につ
いてもその合成方法と活性酸素イオンの包接方法、該化合物の応用に関する発明を特許出
願した(特許文献5)。
【0008】

【非特許文献1】A.F.Th.Hoekstraet al.,Phys.Rev.Lett.86[23],5349,2001。
【非特許文献2】H.B.Bartl and T.Scheller,Neues Jahrb.Mineral.,Monatsh.1970,547
【非特許文献3】H.Hosono and Y.Abe,Inorg.Chem.26[8],1193,1987
【非特許文献4】細野 秀雄,「材料科学」,第33巻,第4号,p171~172,1996,Materials Science Society of Japan
【非特許文献5】O.Yamaguchi他J.Am.Ceram.Soc.69[2]C-36,1986
【特許文献1】特願2001-49524号(特開2002-3218号公報)、PCT/JP01/03252(WO0179115A1)
【特許文献2】特願2001-226843号(特開2003-40697号公報)
【特許文献3】特願2001-377293号(WO03050037A1)
【特許文献4】特願2001-117546号(特開2002-316867号公報)
【特許文献5】特願2002-045302号(特開2003-238149号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の水素化イットリウム(YH)や、水素化ランタン(LaH)は、永続的な電気
伝導状態を保つためには、200K以下の低温が必要であること、また、大気中で速やか
に分解してしまう極めて不安定な物質であることから、この電気伝導特性を実用に供する
ことが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、C12A7中に導入できる新たな陰イオンの可能性について鋭意研究を重
ねた結果、高温の水素気流中で保持されたC12A7化合物が、紫外線照射によって、緑
色の着色を生じることを発見した。また、着色と同時に本来絶縁体である12CaO・7
Al化合物が電子伝導体に永続的に変化し、加熱または強い可視光の照射によって
、再び絶縁状態に戻すことができた。
【0011】
詳細な検討の結果、この現象の起源はC12A7結晶中に導入された水素陰イオンによっ
てもたらされることが判明した。また、水素陰イオン自体も、C12A7化合物中で、高
速イオン伝導を示すこと、さらには、水素陰イオンを電場によって真空中に引き出すこと
ができることを見出した。本明細書では、電子および陰イオンの移動による電流の発生を
電気伝導と定義するが、電流の担い手が主として電子または陰イオンであることが明確な
場合は、電子伝導またはイオン伝導という。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであり、種々の陰イオンを包接すること
が可能で、安定な固体材料であるC12A7に主にヒドリドイオン(hydrideio
n)Hを構成成分とする、水素陰イオン(H,H2-,H)を含有することによ
って、紫外線またはX線領域の光を照射することによって絶縁体から電子伝導体に永続的
に転換できる機能を、室温大気中でも発現できる材料を提供する。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の水素含有電気伝導性無機化合物、その製造方法、用途を提供
する。
(1)1×1018cm-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含み
、室温で電気伝導率10-5Scm-1以上の電子伝導性を有することを特徴とする12
CaO・7Al化合物。
(2)1×1018cm-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含み
、室温で電気伝導率10-5Scm-1以上の電子伝導性を有することを特徴とする12
SrO・7Al化合物。
【0014】
(3)12CaO・7Al化合物または12SrO・7Al化合物を100
0ppm以上の水素を含有する雰囲気中で800℃以上の温度で熱処理を施して1×10
18cm-3以上の濃度の水素陰イオン(H,H2-,H)を含ませ、さらに紫外
線またはX線を照射することを特徴とする(1)または(2)の化合物の製造方法。
【0015】
(4)(1)または(2)の化合物を用いたことを特徴とする透明電極。
(5)(1)または(2)の化合物を用いたことを特徴とする透明配線。
(6)(1)または(2)の化合物を用いたことを特徴とする光書き込みおよび消去可能
な3次元電子回路。
(7)(1)または(2)の化合物を用いたことを特徴とする光書き込みおよび消去可能
な3次元記憶素子。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において出発物質とされるものは、純粋なC12A7化合物でもよいし、処理中に
、C12A7特有の結晶構造が破壊されない限りは、カルシウムの一部または全てが他の
元素で置換されたC12A7化合物と同等の結晶構造をもつ混晶や固溶体(以下、これら
を同等物質と略す)でもよい。
【0017】
C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ物質として現在12SrO・7Alが知
られており、CaとSrの混合比を自由に変化させることができる。すなわち、12Ca
O・7Alと12SrO・7Alとの混晶化合物でもよい。また、初期に包
接されている陰イオンの種類や量は、水素陰イオンの導入効果に大きな影響を及ぼさない
。さらに、形態は、粉末、膜、多結晶体、単結晶、のいずれでもよい。
【0018】
出発物質であるC12A7は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)を原子当量比
で12:14の割合で含む原料を用いて焼成温度1200℃以上1415℃未満で固相反
応させることによって合成される。代表的な原料は炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの
混合物である。
【0019】
単結晶は、固相反応で得られたC12A7焼結体を前駆体として、帯融法(FZ法)によ
って得ることができる。C12A7単結晶の育成には、棒状のセラミック前駆体に赤外線
を集光しながら前駆体棒を引き上げることにより、溶融帯を移動させて、溶融帯-凝固部
の界面に単結晶を連続的に成長させる。本発明者らは、高濃度の活性酸素種を含むC12
A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の製造方法に関する発明について特許
出願している(特許文献2,特願2001-226843号,特開2003-40697
号公報)。
【0020】
出発物質のC12A7および同等物質を、1000ppm以上の水素を含む雰囲気、望ま
しくは、酸素や水分を含まず20容積%以上の水素を含有する雰囲気流中で、800℃以
上、望ましくは1000℃以上、1350℃未満、より望ましくは、約1300℃の温度
で、出発物質の形態に応じて、数分から数時間保持した後、冷却する。水素を含む雰囲気
を得るには、石英ガラスやタンタルのような高温熱処理に耐え得る材料製の容器中に水素
を充填させ、その中に出発物質を封じてもよい。この際、水素ガスを充填する代わりに、
化学反応によって水素を生成できる物質を一緒に封入してもよい。純粋なC12A7では
、水素を含む雰囲気中では、1350℃以上に加熱すると溶解して、結晶構造が失われる

【0021】
熱処理を施す雰囲気中の水素濃度が1000ppm未満では、C12A7および同等物質
に導入される水素陰イオンの量が1×1018cm-3未満であり、紫外線またはX線照
射による電子伝導性の発現や、水素陰イオンによるイオン伝導性について十分な特性を得
ることができない。また、熱処理温度が低温になるほどC12A7および同等物質中に導
入される水素イオンが水酸基イオン(OH)に置き換わりやすくなり、800℃未満で
あると水素陰イオンの量が1×1018cm-3未満となるため、同様に十分な特性を得
ることができない。
【0022】
冷却速度は、電気炉の通常の自然放冷でもよいが、急冷することが望ましく、熱処理温度
が低い場合は急冷することによって水素陰イオンの量が1×1018cm-3以上となる
ようにする。
【0023】
以上の高温処理を終えた当該物質は、電気伝導率が10-10Scm-1以下の絶縁体で
ある。純粋なC12A7が原料であれば無色透明である。これに、波長約300nmの紫
外光を照射すると、伝導率が増大し始め、その増大が飽和した時点では、約1Scm-1
の電子伝導性を生じるようになる。同時に純粋なC12A7が原料であれば黄緑から深緑
色の着色を生じる。第1図には、この際の光吸収スペクトルの変化と、照射紫外線の波長
による感度を示す。また、第2図には、電子伝導率のデータを示す。
【0024】
光子のエネルギーが2eV以上でなければ、水素陰イオンに作用しないので、電子伝導性
を増加せることができない。また、5eV以上の光子は、C12A7結晶自体による光吸
収のため効率的に水素陰イオンに作用しない。更に高い光子エネルギーを持つX線を当該
物質に照射した場合は、C12A7結晶自体が光を吸収しないために、X線が水素陰イオ
ンに作用して、電子伝導性を増大させると共に深緑色の着色を生じさせることができる。
【0025】
水素陰イオンに紫外線が作用することによって、電子が放出され、放出された電子が結晶
中のケージにゆるく束縛され、Fセンター状の状態となる。Fセンターの電子(伝導
キャリアー)はケージ間をホッピングすることによって結晶中を移動し、その結果、電子
伝導が生じる。電子伝導状態は室温では永続的に保持され、室温で1ヶ月間置いても有意
な変化は観測されない。すなわち、永続的な電子伝導性が得られ水素含有電気伝導性無機
化合物となる。電子伝導率が10-5Scm-1以上の十分な電子伝導を生じさせるため
には、伝導キャリアーの生成源となる水素陰イオンが1×1018cm-3以上、望まし
くは、1×1019cm-3以上含有される必要がある。
【0026】
水素陰イオンが含まれるということ、または導入された状態とは、C12A7結晶のケー
ジ内の空間に水素陰イオンが閉じ込められることを指す。C12A7結晶の単位格子は、
格子定数が1.119nmであり[Ca24Al28644+の組成で表されること
が知られている。この単位格子当たり+4の正電荷を水素陰イオンの導入で全て補償した
場合、C12A7結晶に含まれる水素陰イオンの数は、最大1立方センチメートル当たり
2.3×1021個と予想される。
【0027】
電子伝導性を生じる状態にある当該物質を、200℃以上、望ましくは、450℃の温度
に加熱することによって、第3図(実施例3で得られた単結晶の吸光度と電気伝導率の温
度変化)に示すように、絶縁体に戻ると同時に無色透明に戻る。これに、200℃以下の
低温度で再び紫外線またはX線を照射すると再び伝導性と着色を得ることができ、絶縁体
と電子伝導体の2つの状態間の変化は繰り返し生じさせることができる。550℃以上に
加熱すると、第4図に示されるように、水素陰イオンが結晶中から失われるので、紫外線
照射による電子伝導と、着色は生じなくなる。また、着色が生じている状態で、着色の吸
収帯に相当する波長の強い光を照射することによっても、電子伝導性と着色を失わせるこ
とができる。
【0028】
当該物質は紫外線が照射されていない状態では電子伝導は示さない。この状態を絶縁状態
もしくは絶縁体と称する。絶縁状態での当該物質は、第2図に示されるように、室温より
高温域で水素陰イオンによるイオン伝導性を示す。室温では、イオン伝導度は10-10
Scm-1以下であるが、300℃で、約10-4Scm-1の伝導度を有するイオン伝
導性を示す。このイオン伝導度は、通常のC12A7の示す酸素イオン伝導性に比べて約
1桁大きい。水素陰イオンが失われる550℃以上の温度に、当該物質を加熱すると、水
素陰イオンによるイオン伝導性は失われるとともに、光照射による電子伝導性の増大も生
じなくなる。
【0029】
当該物質の両面に電極を形成し、電圧を印加すると陽極表面上に水素陰イオンまたは水素
ガスが生成する。また、当該物質の片側に電極を形成し、真空中または任意の雰囲気中で
、当該物質から距離を置いた電極との間に、当該物質側が陰極になるように電圧を印加す
ると、第7図に示されるように、当該物質からヒドリドイオンを放出させることができる

【0030】
以下の参考例1に、試料に含ませた水素陰イオンの濃度測定例を示し、参考例2に、水素
陰イオン濃度の定量方法例を示し、参考例3に、試料から水素陰イオンを放出させる方法
の例を示す。
(参考例1)
固相反応法によって作成したC12A7多結晶体を、20%容積水素-80%容積窒素の
混合ガス気流中で1300℃で2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却した。こ
れを乳鉢中で軽く粉砕して、昇温速度10℃/m、キャリアーガスとしてHeを用いた、
熱重量質量分析(TG-MS)試験を行った。水素分子に相当するm/e=2のイオン電
流強度の変化を示したものが第4図である。600℃前後に、C12A7結晶中からの水
素陰イオンの消失に起因する、顕著な水素分子の放出が認められた。
【0031】
(参考例2)
帯融(FZ)法によって作成されたC12A7単結晶を厚み300μmの鏡面研磨された
板に加工した。これを酸素中で1350℃で6時間熱処理した(試料A)。引き続き、2
0%容積水素-80%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で2時間保持した後、同一
雰囲気中で速やかに冷却して、C12A7結晶中に水素陰イオンを導入した(試料B)。
引き続き、空気中で800℃まで昇温した後、冷却して水素陰イオンを除去するか、また
は水酸基に変化させた(試料C)。各試料中の水酸基(OH)濃度を3560cm-1
の赤外吸収強度から求めた。この際、モル吸光係数として、90mol-1dmcm
の値を用いた。また、二次イオン質量分光法(SIMS)によって各試料に含まれる水
素の総量の濃度定量を行った。
【0032】
試料A、Cにおいては、水素はほぼ全てがプロトンとして水酸基を形成している。試料B
においては、水素は、プロトンのほかに水素陰イオンとして存在している。試料A、Cの
赤外吸収とSIMSの定量値からプロトン濃度の検量線を作成して、これからB試料中の
水素陰イオンの濃度を見積もることができる。この算出手法を第5図に示した。B試料中
の水素陰イオンとなっている水素濃度は、2×1020cm-3と見積もられた。
【0033】
(参考例3)
固相反応法によって作成したペレット状のC12A7多結晶体を、20%容積水素-80
%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに
冷却した。この試料を真空槽中に置かれた陰極上に保持し、約1cmの隙間をあけて陽極
を配置した。試料を710℃に加熱しながら、電極間に300V・cm-1の電界を印加
した。この際に試料から放出されるイオンの質量スペクトルを、飛行時間型質量分析計(
TOF-MS)によって測定した結果を第7図に示す。
【0034】
(実施例)
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
帯融(FZ)法によって作成されたC12A7単結晶を厚み300μmの鏡面研磨された
板に加工した。これを20%容積水素-80%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で
2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却した。これに、254nm(4.9eV
)の紫外光を平方センチメートル当たり1×1020個照射した。第1図は、紫外線照射
前後の光吸収スペクトルを表したものである。また、第1図における白丸は、照射する紫
外線の波長を変化させて、光吸収が生じる速度すなわち感光感度を評価した値である。
【実施例2】
【0036】
帯融(FZ)法によって作成されたC12A7単結晶を厚み300μmの鏡面研磨された
板に加工した。これを20%容積水素-80%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で
2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却した。これに、340nm以上の波長を
除いた0.5W/cmのXeランプ光を、光吸収の変化が飽和するまで30分以上照射
した。光照射前に比較して電気伝導度は約8桁向上した。光照射後の試料の電子伝導率の
温度変化を第2図中の黒丸で示す。測定終了後450℃まで加熱して、絶縁体の状態に戻
した。室温での電気伝導度は8桁以上減少した。
【0037】
この状態での水素陰イオンによるイオン伝導度を第2図の白丸で示した。同一の単結晶を
さらに空気中で800℃で2時間保持したのち再びイオン伝導度を測定した。イオン伝導
度は約1桁減少した。この際の温度変化を第2図の一点鎖線にて表した。
【実施例3】
【0038】
帯融(FZ)法によって作成されたC12A7単結晶を厚み300μmの鏡面研磨された
板に加工した。これを20%容積水素-80%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で
2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却した。これに、340nm以上の波長を
除いた0.5W/cmのXeランプ光を、4分間照射し着色させ電気伝導体とした。こ
の試料を室温から1分間に10℃の速度で昇温しながら、440nmおよび850nmの
吸光度と伝導度の変化を測定した。第3図は、測定結果を示したものである。400℃付
近で、光吸収が失われ、電子伝導度も減少した。すなわち感光による着色は消えて、絶縁
体に戻った。400℃以上での伝導度の増大は水素陰イオン伝導による。
【実施例4】
【0039】
固相反応法によって作成したC12A7多結晶体を、20%容積水素-80%容積窒素の
混合ガス気流中で1300℃で2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却した。こ
れを乳鉢中で細かく粉砕して、水銀ランプによる紫外光を感光が飽和するまで照射して、
その前後の状態を電子スピン共鳴によって評価を行った。紫外線の照射前には、全く信号
が観測されない。紫外線照射後には、g=1.994~1.990の信号が観測された。
これはFセンターに起因するものと考えられる。実施例2で得られた電気伝導の温度依
存性も考え合わせると、当該材料における電気伝導は、Fセンター上の電子によるバリ
アブル・レンジ・ホッピングによるものと考えられる。
【実施例5】
【0040】
固相反応法によって作成したペレット状のC12A7多結晶体を、表1の例1~に示す
種々の温度の水素含有雰囲気中での熱処理を行い、室温まで種々の降温速度で冷却した。
それぞれに、Xeランプによる紫外線を約30秒照射した後、端子間距離2mmでの抵抗
値を測定した。表1中の抵抗値は紫外線感光後の室温での電気抵抗である。また、表1に
紫外感光性の度合い(◎=大、○=中、×=なし)を示す。水素を含有する雰囲気中で8
00℃以上の温度で熱処理し、早い冷却速度で冷却するほど、紫外線照射によって感光し
て高い伝導性の多結晶体が得られることが分かる。
【表1】
JP0004219821B2_000002t.gif

【実施例6】
【0041】
固相反応法によって作成したペレット状のC12A7多結晶体を、20%容積水素-80
%容積窒素の混合ガス気流中で1300℃で2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに
冷却した。端子間距離2mmでの抵抗値は室温で50MΩ以上の絶縁体であった。これに
、1253.6eVの光子エネルギーを持つX線(ターゲットMg、フィラメント電流5
A、加速電圧15kV、カソード電流5mA)を1時間照射した。試料は、深緑色に着色
し、端子間距離2mmでの抵抗値は室温で10kΩまで減少し、電子伝導性を示した。
【実施例7】
【0042】
C12A7焼結体をターゲットとして、ArFエキシマレーザーを光源としたパルスレー
ザー蒸着法により、酸化マグネシウム単結晶基板上に200nmの膜厚を持つ非晶質C1
2A7膜を堆積させた。これを大気中1000℃で熱処理を行うことで、結晶質のC12
A7薄膜とした。更に、20%容積水素-80%容積窒素雰囲気中で1200℃で1時間
保持した後、速やかに冷却した。得られた薄膜の半分の領域に、室温でXeランプによっ
て紫外線を照射したところ、紫外線照射を行った部位は、室温で、0.1S/cmの伝導
度をもつ半導体であり、行っていない部位は、10-8S/cm以下の伝導度の絶縁体で
あった。紫外線照射後も薄膜の外観上は無色透明であることから、透明絶縁体薄膜上に、
透明な電子伝導性部位を紫外線照射によって形成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
当該物質は、紫外線照射によって1Scm-1程度の伝導率を有する状態のバルク状結晶
や多結晶体では緑色に着色するが、薄膜として用いられる厚み200nm程度であれば、
可視域での最大吸収率は1%程度であるから、本発明の水素含有電気伝導性無機化合物を
無色の透明電極や透明配線として用いることができる。透明電極材料として、最も良く用
いられる酸化インジウムにおけるインジウムは希少であるが、当該物質におけるカルシウ
ムとアルミニウムは、極めて入手しやすい材料である上に、環境負荷が非常に少ない。
【0044】
当該物質は、絶縁体である状態で、特定の部位への紫外線の照射によって選択的に電気伝
導性を持つ領域を形成することができるから、回路パターンを露光することにより当該物
質の表面上に本発明の水素含有電気伝導性無機化合物からなる2次元の電子回路を形成で
きる。また、光源としてX線を用いれば、波長が短いために紫外線よりもさらに微細な回
路パターンを形成することが可能となる。
【0045】
また、可視レーザー光による2光子吸収を利用して、当該物質の内部にレーザー光の焦点
を結ぶようにすれば、当該物質の表面のみならず内部に本発明の水素含有電気伝導性無機
化合物からなる光書き込み可能な3次元電子回路を自由に形成することができる。描かれ
た回路は、着色の吸収帯に相当する波長の強い光を照射、全体の加熱、回路への大電流の
印加によるジュール熱による手段によって、全体または局部的に消去することができるの
で光書き込みおよび消去可能な3次元電子回路を形成することができる。
【0046】
また、上記のような書き込み、消去の手段を応用すれば、書き込み手段として、紫外光を
、読み取り手段として、可視・赤外光、電気抵抗を、消去手段として、電流印加、可視・
赤外光照射、加熱といった複数のアクセス手段をもつ記憶装置の主要構成部品の3次元記
憶素子として本発明の水素含有電気伝導性無機化合物を用いることができる。
【0047】
当該物質の、ヒドリドイオンを主成分とする水素陰イオンを伝導するイオン伝導体として
の特性と、電場によって真空中または任意の雰囲気中に放出できる特性を利用することで
、選択的な還元反応や、水素付加反応を行わせることができる。すなわち、当該物質は水
素陰イオン固体電解質として作用する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1図は、実施例1で得られた単結晶の光吸収スペクトルと、感光感度の波長依存性を示すグラフである。
【図2】第2図は、実施例2で得られた単結晶の電子伝導およびイオン伝導の温度依存性(縦軸には伝導率の対数を、横軸は、絶対温度の-1/4乗をとった。)を示すグラフである。
【図3】第3図は、実施例3で得られた単結晶の吸光度と電気伝導率の温度変化(それぞれの値は、25℃における値で規格化した。)を示すグラフである。
【図4】第4図は、参考例1で得られた多結晶体試料の熱重量質量分析測定において水素分子の検出結果を示すグラフである。
【図5】第5図は、参考例2で示した水素陰イオン濃度の定量方法を示すグラフである。
【図6】第6図は、実施例で得られた多結晶体の電子スピン共鳴スペクトルを示すグラフである。
【図7】第7図は、参考例3において多結晶体試料中からのヒドリドイオンの電界放出を示した質量スペクトルを表すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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