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明細書 :電気泳動用ゲルおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4465209号 (P4465209)
公開番号 特開2005-241477 (P2005-241477A)
登録日 平成22年2月26日(2010.2.26)
発行日 平成22年5月19日(2010.5.19)
公開日 平成17年9月8日(2005.9.8)
発明の名称または考案の名称 電気泳動用ゲルおよびその利用
国際特許分類 G01N  27/447       (2006.01)
FI G01N 27/26 315C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 20
出願番号 特願2004-052519 (P2004-052519)
出願日 平成16年2月26日(2004.2.26)
審査請求日 平成18年11月20日(2006.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
発明者または考案者 【氏名】和田 芳直
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】黒田 浩一
参考文献・文献 特開昭62-239047(JP,A)
特開昭63-222254(JP,A)
特開2003-114216(JP,A)
特開2001-133438(JP,A)
特表2000-512392(JP,A)
特開2003-139738(JP,A)
調査した分野 G01N 27/447
特許請求の範囲 【請求項1】
電気泳動によって分離された試料をゲルから抽出回収するために用いられる電気泳動用ゲルであり、試料を投入するための試料投入部と、分離した試料を回収するための試料回収部と、が形成されており、上記試料回収部におけるゲルの厚みが、上記試料投入部におけるゲルの厚みに比べて、薄く形成されている電気泳動用ゲルの製造方法であって、
少なくとも2枚の基板が、所定の間隔を設けて、対向するように配置されており、
上記2枚の基板の間に設けられた間隙に、どちらか一方の基板に接し、もう一方の基板には接しないように、空間充填手段が設けられており、
上記2枚の基板の間隙に固化前ゲル組成物を注入することによって、上記空間充填手段に接しない基板と、上記空間充填手段との間隙に上記試料回収部を形成することを特徴とする電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項2】
上記電気泳動用ゲルは、濃縮ゲルと分離ゲルとを備えており、
上記試料回収部は、少なくとも分離ゲルの一部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項3】
上記試料回収部の厚みは0.1mm以上0.75mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項4】
上記電気泳動用ゲルは2枚の基板の間に挟まれて保持されており、
上記試料投入部と試料回収部との厚みの差によって、上記基板と試料回収部との間に生じる間隙に、空間充填手段が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項5】
上記空間充填手段は、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることを特徴とする請求項4に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項6】
上記空間充填手段と試料回収部とは、固着されていることを特徴とする請求項4または5に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項7】
上記試料が、タンパク質、ペプチド、DNA、またはRNAであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項8】
上記空間充填手段は、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動用ゲルの製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気泳動用ゲルの製造方法によって製造されることを特徴とする電気泳動用ゲル。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気泳動用ゲルの製造方法を実施するための製造キットであって、
以下の(a)~(d)を備えることを特徴とする製造キット。
(a)空間充填手段
(b)少なくとも2枚の基板
(c)2枚の基板を、所定の間隔を設けて対向するように配置するための間隙手段
(d)ゲル材料
【請求項11】
請求項9に記載の電気泳動用ゲルを支持体として有することを特徴とする電気泳動装置。
【請求項12】
請求項9に記載の電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行い、試料を分離した後、試料回収部から試料を抽出回収することを特徴とする試料回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動用のゲルおよびその利用に関するものであり、より詳細には、タンパク質やペプチド等の生体試料の分析・回収用に好適な電気泳動用のゲルおよびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分子生物学の分野において、ゲル電気泳動法が常用されている。ゲル電気泳動法とは、一種の分子篩効果によって、生体分子を分離させる分析手段である。すなわち、適当なゲル濃度のものを用いて電気泳動を行うと、分子の大小により移動速度が異なるため、優れた分離が得られることになる。このため、例えば、タンパク質その他生体高分子等の混合物の分析・精製試料の純度検定に常用される。
【0003】
このゲル電気泳動法のなかでも、ポリアクリルアミドゲルを支持体(担体)とする一種のゾーン電気泳動法であるアクリルアミドゲル電気泳動法がよく利用されている。このアクリルアミドゲル電気泳動法について簡単に説明すると、ゲルはアクリルアミドに架橋剤N,N’-メチレンビスアクリルアミドを加え、重合させて作製する。これらゲルには平板状のものや細い円筒状のもの等が考案されているが、平板状のものが多用されている。以下、平板状のアクリルアミドゲル電気泳導法を例に挙げてより詳細に説明する。
【0004】
2枚のガラス基板を所定の間隔を空けて配置し、これら2枚のガラス基板の間に注入したアクリルアミドを重合させて電気泳動用ゲルを作製することになる。ゲルの上端部には分析する試料を注入するためのくぼみがあり、このくぼみは一般的にウェルと称される。ウェルの形状、大きさはゲルを作製する際に使用するコーム(櫛)と呼ばれる「型」の形状、大きさによって決定される。アクリルアミドが重合することによってゲル化する前にコームをセットしておき、ゲル化した後、コームを引き抜くと、引き抜かれた部分にウェルが形成されることになる。
【0005】
ゲルはガラス基板に挟んだまま、ウェルを形成したゲルの端部(上端部)とゲルのもう一方の端部(下端部)とを緩衝液に浸漬・接触させておく。分析する試料は溶液であるため、予め試料溶液の比重をゲルが浸漬されている緩衝液の比重より大きくしておくことで、試料溶液をウェルに沈めることができる。このようにして試料を添加した後に、緩衝液を介してゲルの両端に電圧を印加することで、試料溶液中のタンパク質をゲル内に導く。
【0006】
また、アクリルアミドゲル電気泳導法の場合、ウェルに近いゲル部分はタンパク質試料が濃縮するように、アクリルアミド濃度と緩衝液pHを調整してある。このように調整したゲル部分のことを濃縮ゲル(スタッキングゲル)と称する。ウェルに注入されたタンパク質試料をこの部分で濃縮した後、分離ゲルと呼ばれる部分に導き、分子サイズによる泳動速度の違いによって分離する。最後に、泳動によってゲル内に分離したタンパク質を、染色などによって可視化する。
【0007】
このようなアクリルアミドゲル電気泳動法に用いられるゲルの一般的な構成は、2枚のガラス基板の間に形成されるアクリルアミドゲルの厚さ:1~2ミリメートル、アクリルアミド溶液に挿入されてウェルを形成するコームの厚み:1~2ミリメートルである。また、一般的なウェルの大きさは、幅(泳動方向に対して直角方向)2~5ミリメートル、深さ(泳動方向に対して平行)3~15ミリメートルである。分析する試料溶液の注入量は、数マイクロリットル~数十マイクロリットルと微量である。
【0008】
さらに、上述の一般的なゲルの構成に改良を加え、様々に変形された電気泳動用のゲルが開発されている。例えば、特許文献1には、試料の分離効率を高めるために、厚さ50μm~350μmの濃縮ゲルと、厚さ50μm以下の分離ゲルとからなる平板の電気泳動用ゲルを用いる技術について開示されている。また、特許文献2には、染色と分離精製とを同一の泳動パターンに基づいて行うために、2つ以上の並列密着した電気泳動用平板ゲル層を有する電気泳動用分離ゲルを用いることが開示されている。また、特許文献3には、試料の注入を容易にするために、くさび形のコームを使用する電気泳動用ゲルについて開示されている。

【特許文献1】特開2001-133438号公報(公開日:2001年5月18日)
【特許文献2】特開平1-96550号公報(公開日:1989年4月14日)
【特許文献3】特許公報第2620504号公報(登録日:1997年3月11日、対応公開公報:特開平6-229983号広報(公開日:1994年8月19日))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年では、ゲル電気泳動法によって、単にタンパク質を分離するだけでなく、さらに一歩進めて、ゲル電気泳動法によって分離されたタンパク質をゲルから回収する、あるいはタンパク質の加水分解産物であるペプチドをゲルから回収することが盛んに行われるようになってきている。例えば、電気泳動によって分離したタンパク質を、ゲル内に保持したまま、タンパク質を含むゲル小片をナイフなどによって切り出し、電気的あるいは拡散などの手法によってゲルからタンパク質を回収することができる。また、タンパク質を保持したゲル小片をタンパク質分解酵素溶液に浸漬させ、ゲル内においてタンパク質をペプチド断片に切断した後、ゲル内に生成したペプチドを拡散などによってゲルから回収することもできる。
【0010】
しかしながら、従来の電気泳動用ゲルの構成では、電気泳動によって分離したタンパク質を回収する場合、回収効率が低いという問題点があった。これは、ゲルからタンパク質等を回収する場合、タンパク質等はゲル内からゲル外へと移動することになるが、その移動距離が大きいほど回収効率や回収速度が低下すると考えられるためである。
【0011】
ゲルからタンパク質等を回収する場合、タンパク質が包埋されるゲルの容積を少なくすればよく、これはゲルを薄くすることで実現可能である。しかし、一般的なゲルでは、ゲルを薄くするとそれだけ投入できる試料の容量も減少してしまう。このため、希薄なタンパク質溶液については充分な量のタンパク質をゲルに投入することが困難となり、分析不能になるという問題点が生じる。
【0012】
また、上記特許文献1~3にはそれぞれ、分離効率を高めるための技術、染色用ゲルと分離用ゲルとで同一の泳動パターンとする技術、試料注入を容易にするための技術が開示されているが、これら先行技術文献のいずれにもゲルからタンパク質を回収した際の効率の低さという課題については、開示も示唆もされていない。また、特許文献3の技術では、汎用のゲル作製装置を使用できず、非常に不利不便である。
【0013】
以上のように、これまではゲルからタンパク質を効率よく回収しようとする試み・課題についてほとんど考慮されてこなかった。そこで、本発明者らは、独自にこの課題を見出し、これを解決しようと試みた。すなわち、タンパク質やペプチド等の生体試料を電気泳動用ゲルから高効率で回収することができる電気泳動用ゲル、およびその利用の開発が潜在的に強く求められていた。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便に作製でき、かつ、タンパク質等の試料を高効率で回収することが可能な電気泳動用ゲル、およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、試料を投入する部分のゲル厚を厚くし、分離されたタンパク質を回収しようとする部分のゲル厚を薄くした電気泳動用ゲルを用いて電気泳動した後、タンパク質を回収したところ、従来の一般的な電気泳動用ゲルに比べて、回収効率が著しく向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る電気泳動用ゲルは、電気泳動によって分離された試料をゲルから抽出回収するために用いられる電気泳動用ゲルであって、試料を投入するための試料投入部と、分離した試料を回収するための試料回収部と、が形成されており、上記試料回収部におけるゲルの厚みが、上記試料投入部におけるゲルの厚みに比べて、薄く形成されていることを特徴としている。
【0017】
また、上記電気泳動用ゲルでは、上記電気泳動用ゲルは、濃縮ゲルと分離ゲルとを備えており、上記試料回収部は、少なくとも分離ゲルの一部に形成されていることが好ましい。
【0018】
また、上記電気泳動用ゲルでは、上記試料回収部の厚みは0.1mm以上0.75mm以下であることが好ましい。
【0019】
また、上記電気泳動用ゲルでは、上記電気泳動用ゲルは2枚の基板の間に挟まれて保持されており、上記試料投入部と試料回収部との厚みの差によって、上記基板と試料回収部との間に生じる間隙に、空間充填手段が設けられていることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る電気泳動用ゲルの製造方法は、上記空間充填手段は、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることを特徴としている。
【0021】
また、上記空間充填手段と試料回収部とは、固着されていることが好ましい。ここで、固着とは、電気泳動用ゲルを基板(例えば、ガラス基板)から外して染色処理やゲルの切り出し処理(試料回収処理)を行う際に、一体となって取り扱い可能な程度に固着されていれば良い。
【0022】
また、上記試料が、タンパク質、ペプチド、DNA、またはRNAであることが好ましい。
【0023】
また、上記電気泳動用ゲルの製造方法では、上記の電気泳動用ゲルの製造方法であって、少なくとも2枚の基板が、所定の間隔を設けて、対向するように配置されており、上記2枚の基板の間に設けられた間隙に、どちらか一方の基板に接し、もう一方の基板には接しないように、空間充填手段が設けられており、上記2枚の基板の間隙に固化前ゲル組成物を注入することによって、上記空間充填手段に接しない基板と、上記空間充填手段との間隙に上記試料回収部を形成することを特徴としている。
【0024】
また、上記空間充填手段は、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることが好ましい。
【0025】
また、本発明には、上記電気泳動用ゲルの製造方法によって製造される電気泳動用ゲルが含まれていてもよい。
【0026】
また、本発明に係る電気泳動用ゲルの製造キットは、上記電気泳動用ゲルを製造するための製造キットであって、少なくとも空間充填手段を備えていることを特徴としている。
【0027】
また、上記製造キットでは、さらに、以下の(a)~(c)の部材のうち、少なくとも1つを有することが好ましい。
(a)少なくとも2枚の基板
(b)2枚の基板を、所定の間隔を設けて対向するように配置するための間隙手段
(c)ゲル材料
また、本発明に係る電気泳動装置は、上記電気泳動用ゲルを支持体として有することを特徴としている。
【0028】
また、本発明に係る試料回収方法は、上記いずれかの電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行い、試料を分離した後、試料回収部から試料を抽出回収することを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明に係る電気泳動用ゲルによれば、試料回収部におけるゲルの容積は小さくなる。このため、電気泳動の結果、分離された試料(例えば、タンパク質等)を試料回収部にて抽出回収する場合には、ゲル内からゲル外へと試料を移動させる際の試料の移動距離を小さくすることができる。したがって、電気泳動後の試料を含むゲル小片から試料を収率よく回収することができるという効果を奏する。さらに、効率よく回収できるため、高純度で試料を回収することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、電気泳動によって分離された試料を、ゲルから効率よく回収することが可能な電気泳動用ゲルおよびその利用方法等を提供するものである。このため、本発明に係る電気泳動用ゲルを用いることにより、ペプチドやタンパク質等の生体試料の分析に非常に有用である。以下の説明では、まず本発明に係る電気泳動用ゲル(説明の便宜上、単に「ゲル」と称する場合もある)について説明し、続いて電気泳動用ゲルの製造方法、製造キット、電気泳動装置、試料回収方法について順に説明する。
【0031】
〔1〕電気泳動用ゲル
本発明に係る電気泳動用ゲルは、試料を投入するための試料投入部と、分離した試料を回収するための試料回収部と、が形成されており、上記試料回収部におけるゲルの厚みが、上記試料投入部におけるゲルの厚みに比べて、薄く形成されている構成である。すなわち、本発明に係る電気泳動用ゲルでは、試料(例えば、タンパク質等)を投入(注入)する領域(例えば、ウェルが形成される部分)に比べて、分離した試料を回収する領域(例えば、分離ゲルの少なくとも一部)の厚みが、薄くなるように形成されている。そして、この薄く形成されたゲル部分にて分離された試料を、バンドを指標としてゲルごと切り出し、この試料含有ゲル小片から試料を抽出回収するために用いられるものである。
【0032】
本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの具体的な構成について、以下に図1を用いて説明する。図1(a)は本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの平面の構成を模式的に示す図であり、図1(b)は(a)の電気泳動用ゲルをL1-L1線にて切断した場合の断面の構成を模式的に示す図であり、図1(c)は(a)の電気泳動用ゲルをL1-L1線にて切断した場合の断面の他の構成を模式的に示す図である。
【0033】
この図1(a)に示すように、本実施の形態に係る電気泳動用ゲル10は、試料投入部11と、試料回収部12とを備えている。試料投入部11には、試料をレーンごとに注入するためのウェル18が形成されている。なお、この本実施の形態では、ウェルは3つ形成されている。
【0034】
試料投入部11は、電気泳動用ゲルに試料を投入または注入するために設けられた領域である。このため、その材料、濃度、大きさ、形状等の具体的な構成を特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の電気泳動用ゲルに用いられているウェルが形成されている領域が好ましい。なお、ウェルの数や大きさなどの具体的な構造は、当然限定されないが、例えば、市販されている電気泳動用ゲル作製キットなどで使用されるコームを用いて形成されるウェルなどでもよい。さらに、例えば、市販の電気泳動用ゲルの作製キットを用いる場合、後述する実施例に示すように、試料投入部の厚みは1mm~2mmとなる。
【0035】
また、試料回収部12とは、電気泳動によって分子の大きさに基づき分離された試料を回収するための領域である。このため、試料投入部11と同様に、その材料、濃度、大きさ、形状、位置等の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、従来公知の分離ゲルの少なくとも一部が試料回収部として使用することができる。試料回収部12をどの位置に設けるかは、どの位置の試料を回収するかに応じて適宜設定可能である。例えば、比較的低分子量の試料を回収したい場合は、電気泳動用ゲルの下端部近傍に設ければよいし、比較的高分子量の試料を回収したい場合は、ゲル中央部から上端部近傍にかけて試料回収部を設けることも可能である。
【0036】
また図1(b)に示すように、試料回収部12のゲルの厚みD2は、試料投入部11のゲルの厚みD1に比べて、薄く形成されている。なお、この図1(b)では、試料回収部12が略直角に切れ込み、急激に薄くなるように形成されているが、例えば、図1(c)に示すように、緩やかに薄くなる形状であってもよい。また、図示しないが、緩やかに弧を描くように薄くなる形状であってもよい。
【0037】
また、「試料回収部12におけるゲルの厚みD2が、試料投入部11におけるゲルの厚みD1に比べて、薄く形成されて」いるとは、試料回収部12のゲルの厚みD2が、試料投入部11のゲルの厚みD1に比べて薄ければよく、どの程度薄く形成されていればよいかについては適宜設定可能である。例えば、本実施の形態では、試料投入部11のゲルの厚みD1が1mmであるが、試料回収部12のゲルD2の厚みは0.1mm~0.75mmであることが好ましい。これは、後述の実施例に示すように、0.1mmより薄いゲルを作製するのは技術的に困難である場合があり、またあまりに薄いとゲルから試料を回収する際の操作性も悪い場合があるためである。また、0.75mmよりゲル厚が厚いと、試料をゲルから回収する際の移動距離が大きくなってしまい、高収率かつ高純度でゲルから試料を抽出回収することができないことがあるためである(実施例の(6)欄参照)。なお、試料投入部11のゲルの厚みは、適宜設定可能であり、特に限定されない。
【0038】
また、一般的な市販のゲル作製キットでは、厚みが1mmのゲルを作製することができるように設計されている。このため、この数値は、このような市販のゲル作製キットの付属ゲル板(ガラス基板)を用いて電気泳動用ゲルを作製する場合に、試料回収部のゲルの厚みを決定する際の目安となる。
【0039】
また、試料投入部11のゲルの厚みD1が試料回収部12のゲルの厚みD2に比べて大きいため、試料を従来の電気泳動用ゲルと同様に投入することができる。このため、希薄な試料溶液を用いる場合でも、充分な量の試料を投入することができ、分析精度が向上することになる。その一方で、試料回収部12のゲルの厚みD2がより薄いため、試料をゲルから抽出回収する場合でも、試料のゲル内移動距離を短くすることができる。
【0040】
また、「試料」とは、タンパク質、ペプチド、DNA、RNAなどの生体試料であることが好ましい。ここでいう、「タンパク質」とは、自然界に存在する野生型のタンパク質でもよいし、変異を加えた変異タンパク質であってもよく、特に限定されるものではない。また、その分子量も大きいものから小さいものまで、特に制限なく利用可能である。「ペプチド」とは、アミノ酸が複数個~数十個連続して結合して形成される物質であり、いわゆるオリゴペプチド、ポリペプチドをも含む概念である。また、後述する実施例に示すように、タンパク質を試料として電気泳動した後、ゲル内消化を行い抽出回収されるペプチドをも含む。「DNA、RNA」等の核酸は、2本鎖であってもよいし、1本鎖であってもよい。またその鎖長は特に限定されるものではなく、例えば、数塩基からなるプライマーのようなものでもよいし、数千~数万塩基対からなるものでもよい。また、例えば、核酸とタンパク質等の複合体であってもよいし、タンパク質は糖鎖修飾等の翻訳後修飾されていてもかまわない。
【0041】
また、上記電気泳動用ゲルは、電気泳動によって分離された試料を抽出回収するために使用されるものであるが、ここでいうゲルから試料を「抽出回収」する具体的な手法等は限定されるものではない。例えば、従来公知の電気的または拡散を利用した手段(方法)を好適に利用可能である。
【0042】
また、電気泳動用ゲル10としては、分子生物学の分野において生体試料を解析するために使用される従来公知の電気泳動用のゲルであればよく、その材料、組成、濃度、緩衝液の種類、大きさ、形状等の具体的な条件・構成等は特に限定されるものではない。例えば、比較的低分子量の試料(例えば、タンパク質やペプチド)を解析できるポリアクリルアミドゲル系のゲルでもよいし、比較的高分子量の試料(例えば、核酸)を解析するためのアガロースゲル等のゲルでもよい。
【0043】
また、上記電気泳動用ゲルは、濃縮ゲルと分離ゲルとを備えており、試料回収部は、少なくとも分離ゲルの一部に形成されていてもよい。この場合の電気泳動用ゲルの具体的な構成について図2を用いて説明する。図2(a)は本実施の形態に係る他の電気泳動用ゲルの平面の構成を模式的に示す図であり、図2(b)は(a)の電気泳動用ゲルをL2-L2線にて切断した場合の断面の構成を模式的に示す図である。
【0044】
図2(a)に示すように、本実施の形態に係る電気泳動用ゲル20は、濃縮ゲル(スタッキングゲル)23と、分離ゲル24とを備えており、さらに濃縮ゲル23の少なくとも一部に試料投入部21が設けられており、分離ゲル24の少なくとも一部に試料回収部22が設けられている。また、図2(b)に示すように、試料回収部22のゲルの厚みは、試料投入部21のゲルの厚みに比べて、薄く形成されている。
【0045】
上記の構成によれば、濃縮ゲル23によって試料を濃縮することができる。このため、分離ゲル24の一部分に形成された試料回収部22にて、濃縮された試料を効率よく回収することができるという利点がある。
【0046】
また、本発明に係る電気泳動用ゲルでは、試料回収部は少なくとも分離ゲルの一部に設けられていればよいため、例えば、図3(a)(b)に示すように、濃縮ゲル33と分離ゲル34とを備える電気泳動用ゲル30において、例えば、濃縮ゲル33の少なくとも一部に試料投入部31が設けられており、また分離ゲル34の略全面が試料回収部32として形成されていてもよい。なお、図3(b)に示すように、試料回収部32のゲル厚は、試料投入部31に比べて薄く形成されている。
【0047】
上記の構成によれば、分離ゲルの全面を試料回収のための領域として利用することができるため、試料の泳動パターンを正確に予想できない場合でも試料を回収することができたり、多くの種類の試料を同時に効率よく回収することができたりするという利点がある。
【0048】
また、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルは、上記電気泳動用ゲルは2枚の基板の間に挟まれて保持されており、上記試料投入部と試料回収部との厚みの差によって、上記基板と試料回収部との間に生じる間隙に、空間充填手段が設けられている構成であることが好ましい。この場合の電気泳動用ゲルの具体的な構成について図4に基づいて説明する。同図に示すように、電気泳動用ゲル40は、2枚のガラス基板46a・46bによって、挟まれて保持されている。電気泳動用ゲル40には、試料投入部41と試料回収部42とが設けられている。試料回収部42のゲル厚は、試料投入部41のゲル厚よりも薄く形成されているため、試料投入部41と2枚のガラス基板46a・46bとが密着する場合、ガラス基板46bと試料回収部42との間には空間が生じることになる。この空間に空間充填手段として機能するスペーサ45が挿入されている。スペーサ45はガラス基板45bと密着している。
【0049】
電気泳動用ゲルは、通常ガラス基板に挟まれた状態で使用される。このため、試料回収部42とガラス基板46bとの間に空間が存在すると、ゲルが不安定になる。スペーサ45を用いるとこのような問題を回避可能である。さらに、後述するように、電気泳動用ゲルは通常2枚のガラス基板の間隙に固化前のゲル組成物を注入し作製されるが、この際にスペーサ45を用いると非常に簡便にゲル厚の薄い試料回収部42を作製することができる。
【0050】
なお、図4には、一方のガラス基板46aと試料回収部42とが密着している場合について説明したが、このような場合だけでなく、例えば、ガラス基板46aと試料回収部42との間、およびガラス基板46bと試料回収部42との間の両方にスペーサが設けられていてもよい。この場合は、2つのスペーサの厚みを調整することにより、試料回収部のゲル厚を適宜設定可能である。
【0051】
また、図5に示すように、スペーサ45は、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることが好ましい。この構成によれば、平板状の薄層を積層する数を増減させることにより、容易に試料回収部42の厚みを変更することができる。また、スペーサ45は、ガラス基板46bと一体となって設けられていてもよいが、ガラス基板46bに別途備えられるものであることが好ましい。スペーサ45を取り外して適宜変更することにより、試料回収部の位置、大きさ、厚みを任意に変更することができるためである。さらに、スペーサ45を別途用意するだけで、市販のゲル作製キットに付属のゲル板(ガラス基板)をそのまま利用することもできるという利点もある。
【0052】
上述のようなスペーサを備える電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行った後、例えば、ゲルを染色したり、またはゲルの切り出しを行ったりする場合、電気泳動後にゲル(担体)をスペーサから剥がして染色や試料回収を行うことができる。さらに、例えば、本発明において、スペーサの材質(例えば、ゲルとの密着性の高い材質、セロファン膜など)を適切に選択することにより、あるいはスペーサとゲル(担体)との間に接着剤を塗布しておくことにより、スペーサとゲルとを固着させた状態(一体となって密着して固着している状態)とすることも可能である。このようにゲルとスペーサとが一体となって固着している場合、電気泳動後のゲルの操作性が向上するという利点がある。すなわち、試料回収部の部分のゲル厚は薄くなっているが、この薄くなっているゲルの部分にスペーサが支持部材(保護部材)として備えられることにより、厚みが薄いゲル部分(試料回収部)が破損するのを回避することができる。例えば、不用意な作業によりゲルを破ったり壊したりする危険性が低くなる。なお、ゲルとスペーサとを固着させた状態でも、ゲルを染色したり、ゲルから試料を切り出し回収したりする操作に不都合がないことは実証済みである。
【0053】
このように、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルは、試料回収部のゲル厚が試料投入部のゲル厚に比べて薄く形成されている。すなわち、従来の電気泳動用ゲルに比べて、試料回収部におけるゲルの容積は小さくなる。このため、試料回収部にて分離された試料(例えば、タンパク質等)を抽出回収する場合には、ゲル内からゲル外へと試料を移動させる際の試料の移動距離を小さくすることができる。したがって、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルによれば、電気泳動後の試料を含むゲル小片から試料を収率よく回収することができる。
【0054】
〔2〕電気泳動用ゲルの製造方法
本発明に係る電気泳動用ゲルの製造方法は、少なくとも2枚の基板が、所定の間隔を設けて、対向するように配置されており、上記2枚の基板の間に設けられた間隙に、どちらか一方の基板に接し、もう一方の基板には接しないように、空間充填手段が設けられており、上記2枚の基板の間隙に固化前ゲル組成物を注入することによって、上記空間充填手段に接しない基板と、上記空間充填手段との間隙に上記試料回収部を形成する構成であればよく、その他の工程、条件、材料等は特に限定されるものではない。以下、本製造方法について、工程ごとに分けて図面に基づき説明する。
【0055】
図6は、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法を模式的に示す図面である。同図に示すように、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法には、2枚のガラス基板46a・46b、間隙手段として機能する間隙部50、空間充填手段として機能するスペーサ45を用いる。間隙部50は、ガラス基板46bに固定されている。間隙部50やスペーサ45の材質は特に限定されないが、本実施の形態では間隙部50はガラスであり、スペーサ45は樹脂(ポリエチレンテレフタレート)で形成されている。
【0056】
2枚のガラス基板46a・46bは、図中矢印Bで示す方向に移動させ、対向するように配置する。このとき、一方のガラス基板46bには、間隙部50が設けられている。このため、2枚のガラス基板46a・46bを、間隙部50を介して重ね合わせることにより、2枚のガラス基板46a・46bは、所定の間隔を設けて、対向するように配置されることになる。つまり、2枚のガラス基板46a・46bは、一定の間隔を空けて、略平行に、互いに向かい合うように並べられることになる。
【0057】
また、ここでは、2枚のガラス基板46a・46b間の間隔が所定の間隔となるように、所定の厚みを有する2つの間隙部50・50をガラス基板46bの対向する端部にそれぞれ配置している。すなわち、2枚のガラス基板46a・46bの間に間隙部50を挟むことにより、2枚のガラス基板46a・46b間に所定の空間が存在するようにすることになる。かかる間隙部50は、2枚のガラス基板46a・46b間のゲルを作製する領域ではない領域、例えば、本実施の形態のように、2枚のガラス基板46a・46b間の両端部分に設けられることが好ましい。
【0058】
また、図6の矢印Aに示すように、2枚のガラス基板46a・46bの間に設けられた間隙に、一方のガラス基板46bに接し、もう一方のガラス基板45aには接しないように、スペーサ45が設けられる。
【0059】
図7(a)は、2枚のガラス基板46a・46bを、間隙部50を介して重ね合わせ、スペーサ45を設けた場合の、平面の構成を示す模式図であり、図7(b)は(a)中のL4-L4線で切断した場合の断面を示す断面図であり、図7(c)は(a)中のL5-L5線で切断した場合の断面を示す断面図である。
【0060】
図7(b)(c)に示すように、スペーサ45は、間隙部50を介して重ね合わされた2枚のガラス基板46a・46bの間に存在する空間(間隙)に設けられている。このスペーサ45は、一方のガラス基板46bとは接しており、もう一方のガラス基板45aとは接していない。また、スペーサ45は、一方のガラス基板46bと密着している。これは、スペーサ45とガラス基板46bとが密着していない場合、その間隙に固化前のゲルが流れ込み、意図しない部分にゲルが作製されるおそれがあるためである。
【0061】
したがって、スペーサ45は、一方のガラス基板46bと密着できるように平板状であることが好ましい。また、スペーサ45は、一方のガラス基板46bと密着し、もう一方のガラス基板45aと接しない構成であるため、2枚のガラス基板46a・46bとスペーサ45とは、略平行に設けられていることになる。
【0062】
そして、2枚のガラス基板46a・46bの間隙に固化前ゲル組成物を注入することによって、スペーサ45に接しないガラス基板46aと、スペーサ45との間に生じる空間51に上記試料回収部が形成されることになる。スペーサ45が設けられた領域にはゲルが形成されないため、試料回収部は、試料投入部に比べてゲルの厚みが薄く形成されることになる。なお、「固化前ゲル組成物」とは、固化する前の液体状のゲル組成物のことである。
【0063】
また、上記スペーサ45は、上記図5に示したものと同様に、平板状の薄層、または平板状の薄層が2枚以上積層されているものであることが好ましい。この場合、平板状の薄層の積層数を適宜増減させることにより、試料回収部の厚みを任意に変更することが可能となるからである。また、スペーサ45の形状を適宜変更することにより、市販のゲル作製キットに付属のゲル板(ガラス基板)をそのまま利用することができるという利点もある。これは、汎用されているゲル板(ガラス基板)を用いることにより、新たなゲル板(ガラス基板)を作製する必要が無いため、コスト的にも非常に有用である。
【0064】
また、上述の〔1〕欄でも説明したように、例えば、本発明において、スペーサの材質(例えば、ゲルとの密着性の高い材質等)を適切に選択することにより、あるいはスペーサとゲル(担体)との間に接着剤を塗布しておくことにより、スペーサとゲルとを固着させて電気泳動用ゲルを作製することもできる。これにより、容易にゲル厚の薄い部分(試料回収部)に支持部材としてのスペーサを設けた電気泳動用ゲルを作製することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、「基板」としてガラス基板を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、電気泳動用ゲルの製造に使用される従来公知の基板であればよい。また、2枚の基板の大きさは略同一サイズであることが好ましい。なお、上記基板および間隙部として、市販のゲル作製キットを利用することができる。
【0066】
このように、本発明に係る電気泳動用ゲルの製造方法によれば、非常に簡便かつ容易に、試料を効率的に回収することができる電気泳動用ゲルを製造することができる。また、スペーサ(空間充填手段)の形状や厚み等の構造を調整することで、市販のゲル作製キットをそのまま利用することができ、コスト的にも非常に優れたメリットがある。
【0067】
〔3〕電気泳動用ゲルの製造キット
上述のように、空間充填手段としてのスペーサの構造を適宜変更しこれを利用することで、市販のゲル作製キットをそのまま使用し、本発明に係る電気泳動用ゲルを作製することができる。このため、少なくとも空間充填手段を備えている電気泳動用ゲルの製造キットも本発明に含まれる。かかる製造キットによれば、本発明に係る電気泳動用ゲルを容易に作製することができるし、本発明に係る電気泳動用ゲルの製造方法を容易に実施することができる。
【0068】
また、上記製造キットは、さらに、以下の(a)~(c)の部材のうち、少なくとも1つを含むことが好ましい。
(a)少なくとも2枚の基板
(b)2枚の基板を、所定の間隔を設けて対向するように配置するための間隙手段
(c)ゲル材料
ここで「基板」、「間隙手段」としては、上述のものを適宜利用することができる。また、「ゲル材料」としては、従来公知の電気泳動用ゲルに使用されるゲル材料やこれらの組成物であれば、その種類は特に限定されるものではないが、モノマーや架橋剤、重合開始剤、重合促進剤などが挙げられる。例えば、ポリアクリルアミド系の電気泳動用ゲルを作製する場合は、アクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、過硫酸アンモニウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどを挙げることができる。また、これらのゲル材料のほかにも、緩衝液用の試薬やpH調整剤(例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、塩酸等)、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)などを含んでいてもよい。
【0069】
〔4〕電気泳動装置
上述したように、本発明に係る電気泳動用ゲルは、試料の回収効率が優れているという利点を有する。このため、上記電気泳動用ゲルを支持体とする電気泳動装置も、同様の作用効果を奏するといえる。つまり、本発明には、かかる電気泳動装置も含まれる。
【0070】
本発明に係る電気泳動装置は、上記電気泳動用ゲルを支持体として備えていればよく、その他の具体的な部材、構造などは特に限定されるものではない。すなわち、上記電気泳動用ゲルを支持体として備える以外に、従来公知の電気泳動装置に用いられる部材を備えていてもよい。例えば、支持体を緩衝液に浸漬させて電気泳動を行うための泳動槽や電極、電圧印加のための電源などを備えていてもよい。
【0071】
〔5〕試料回収方法
また、本発明に係る試料回収方法は、本発明に係る電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行い、試料を分離した後、試料回収部から試料を抽出回収するものであればよく、その他の具体的な工程、条件、器具、材料などは特に限定されるものではない。試料を抽出回収する方法も、上述のように、従来公知の方法を好適に利用可能である。
【0072】
この方法によれば、電気泳動によって分子量ごとに分離された試料を、高純度かつ効率よく回収することができ、様々なバイオ分野に利用することができる。なお、試料としては、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA等の核酸であることが好ましい。
【0073】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0074】
(1)アクリルアミドゲル作製のための試薬溶液の調製
30%アクリルアミド溶液は、アクリルアミド(和光純薬製)73g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬製)2gを蒸留水に溶解させ、250mlとして得た。0.75M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH8.8溶液は、90.75gトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク製)を800mlの蒸留水に溶解させ、塩酸によりpH8.8に調整した後、蒸留水を加えて1lとして得た。1.0M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH6.8溶液は、121gトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク製)を800mlの蒸留水に溶解させ、塩酸によりpH6.8に調整した後、蒸留水を加えて1lとして得た。10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液は、10gラウリル硫酸ナトリウム(ナカライテスク製)を蒸留水に溶解させて100mlとして得た。10%過硫酸アンモニウム溶液は、100mg過硫酸アンモニウム(ナカライテスク製)を蒸留水に溶解させて1mlとして得た。
【0075】
泳動バッファーは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(ナカライテスク製)3gとグリシン(和光純薬製)14.4g、ラウリル硫酸ナトリウム1gに蒸留水を加えて、1lとして得た。試料添加溶液は、1.0M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH6.8溶液0.5ml、ジチオスレイトール(ナカライテスク製)0.154g、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液2ml、ブルムフェノールブルー(和光純薬製)0.01g、グリセロール(ナカライテスク製)1mlに蒸留水を加えて10mlとして得た。
【0076】
(2)従来のアクリルアミドゲルの作製(比較例)
ミニスラブゲル作製キット(アトー製AE6401)を用いてゲルを作製した。ゲル板を組み立て、分離ゲル用として、30%アクリルアミド溶液2ml、蒸留水5.3ml、0.75M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH8.8溶液2.5ml、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液0.1ml、10%過硫酸アンモニウム溶液0.1mlを混和した後、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン0.008mlを添加した溶液をゲル板に流し込んで、液の上部に蒸留水を重層して、ゲル化を行った。
【0077】
ゲル化の後、上部の蒸留水を捨て、コームをセットした。次に、スタッキングゲル用として、蒸留水1.4ml、30%アクリルアミド溶液0.33ml、1.0M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH6.8溶液0.25ml、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液0.02ml、10%過硫酸アンモニウム0.02mlを混和した後、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン0.002mlを添加した溶液を流し込み固化させた。
【0078】
(3)本実施の形態に係るアクリルアミドゲルの作製
ミニスラブゲル作製キット(アトー製AE6401)を用い、図8に示すように、分離ゲル作製部分に0.5mm厚のポリエチレンテレフタレート製の板(空間充填手段)を配置し、片側のガラス基板に密着させてゲル板を組み立てた。分離用ゲルとして、30%アクリルアミド溶液2ml、蒸留水5.3ml、0.75M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH8.8溶液2.5ml、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液0.1ml、10%過硫酸アンモニウム溶液0.1mlを混和した後、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン0.008mlを添加した溶液をゲル板に流し込んで、液の上部に蒸留水を重層して、ゲル化を行った。
【0079】
ゲル化の後、上部の蒸留水を捨て、コームをセットした。次に、スタッキングゲル用として、蒸留水1.4ml、30%アクリルアミド溶液0.33ml、1.0M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンpH6.8溶液0.25ml、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液0.02ml、10%過硫酸アンモニウム0.02mlを混和した後、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン0.002mlを添加した溶液を流し込み固化させた。
【0080】
(4)電気泳動解析
ゲル化後、コームを抜き取り、ミニスラブ電気泳動槽(アトー製)にセットし、ゲルの上下端を泳動バッファーに浸漬した。タンパク質試料としては、電気泳動用タンパク質スタンダード(バイオラッド製)2mg/mlを試料添加溶液にて1000倍に希釈し、10μl中に各タンパク質をそれぞれ1.5ng、5ng、10ng、20ng含む4種類の試料溶液を調製して、その全量をウェルに投入した。その後、20mA(ミリアンペア)の電流を印加し、電気泳動を行った。色素マーカーがゲルの下端に達したときに電気泳動を終了し、ゲル板を解体して、ゲルを取り出し、銀染色MSキット(和光純薬製)によって染色を行った。
【0081】
10ngのタンパク質投入レーンの中からホスホリラーゼに相当するバンド(図9中“97.4k”と示す)を切り出し、ゲル内消化に続いて質量分析を行い、ホスホリラーゼから得られるペプチドの同定を試みた。なお、ゲル内消化から質量分析に至る操作は、Analytical Chemistry 68, 850-858, 1996に掲載されている、Shevchenkoらの方法で行った。
【0082】
(5)結果
上記(2)欄にて示した従来のアクリルアミドゲル(1mm厚)と同様に、(3)欄にて示した本実施形態に係るアクリルアミドゲル(試料回収部が0.5mm厚でその他の部分が1mm厚)を製造することができた。
【0083】
また、電気泳動の結果、図9(a)(b)に示す。図中、ゲルの上部の数値(1.5n、5n、10n、20n)は、それぞれ投入した試料中のタンパク質の量を示す。図9(a)(b)に示すように、試料回収部の厚みが0.5mm厚であるゲルは、従来の全体が1mm厚のゲルに比べて、分離されたタンパク質のバンドが鮮明であった。すなわち、試料回収部の厚みが0.5mm厚であるゲルは、従来のものに比べて高分解能であるといえる。
【0084】
また、電気泳動後のゲルから抽出回収したペプチドを質量分析した結果を、図10に示す。図10(a)(b)のグラフの縦軸は、ピークの強度を示している。
【0085】
図10(a)(b)に示すように、試料回収部の厚みが0.5mm厚であるゲルから抽出したホスホリラーゼに由来するペプチド(図中に矢印で示す)のシグナル強度は、従来の全体が1mm厚のゲルから抽出したペプチドの約5倍であった。さらに、ノイズを超えて検出可能なペプチドの数は、従来の全体が1mm厚のゲルでは7個であるのに対して、試料回収部の厚みが0.5mm厚であるゲルでは22個あった。これは、3倍以上の数である。また、10ngのタンパク質を試料として分析を行った結果、マススペクトルで得られたペプチド質量によるデータベース検索におけるタンパク質同定の確度が改善した(有効ペプチド同定率:15%→47%、タンパク質配列カバー率:9%→31%)。
【0086】
以上のことから、本実施の形態に係る電気泳動用ゲルは、従来のものに比べて、ゲルからタンパク質やペプチドを回収する場合の効率が著しく高まることがわかった。
【0087】
(6)本実施の形態に係るゲルおよび従来のゲルからの試料回収比較実験
また、上記と同様の方法にて、試料回収部のゲル厚が0.75mmである電気泳動用ゲルを作製した。この試料回収部が0.75mmである電気泳動用ゲルと、従来のゲル全体が1.0mmの厚みを有する電気泳動用ゲルとを用いて、電気泳動後ゲル内消化したペプチドを回収し、その回収効率を比較した。
【0088】
具体的には、試料回収部が0.75mm厚のゲルと、1mm厚のゲルとを用いてタンパク質試料を電気泳動により分離した後、試料タンパク質をゲル内において酵素消化し、生成するペプチドをそれぞれのゲルから回収してマススペクトルを測定した。
【0089】
その結果を図11に示す。図11(a)は試料回収部のゲル厚が0.75mmのゲルから回収したペプチドのマススペクトルを示す図であり、図11(b)は試料回収部のゲル厚が1mmのゲルから回収したペプチドのマススペクトルを示す図である。同図に示すように、試料回収部のゲル厚が0.75mmのゲルに比べて、1.0mmのゲル厚のゲルでは、ベースラインノイズの高さが高いことがわかった。これは、ゲルに含まれる夾雑物などが多く混入するためである。すなわち、試料回収部のゲル厚が0.75mmの場合は、従来の全体が1.0mm厚のゲルより、試料を高純度かつ収率よく回収することができることがわかった。なお、試料回収部のゲル厚が0.1mm未満である薄い電気泳動用ゲルの作成を試みたが、均一な品質のゲルを作成することができない場合があった。
【0090】
以上のことから、試料回収部のゲル厚は、0.1mm以上0.75mm以下であることが好ましいといえる。
【0091】
(7)シート(スペーサ)と固着させたゲル
アクリルアミドゲルは原則として、上記(1)~(3)欄に示したように作製した。具体的には、ミニスラブゲル作製キット(アトー製AE6401)を用いた。ゲルを作成するための空間を作る2枚のガラス板のうちの片側のガラス板に、水でしめらせたセロファン膜(和光純薬“ダイアライシスメンブレン”)を密着させて、ゲル板を組み立てた。つまり、スペーサとしてセロファン膜を使用したことになる。そして、分離ゲル用として、30%アクリルアミド溶液2ml、蒸留水5.3ml、0.75Mとリス〈ヒドロキシメチル〉アミノメタンpH8.8溶液2.5ml、10%ラウリル硫酸ナトリウム溶液0.1ml、10%過硫酸アンモニウム溶液0.1mlを混和した後、N,N,N’,N’テトラメチルエチレンジアミン0.008mlを添加した溶液をゲル板に流し込んで、液の上部に蒸留水を重層して、ゲル化を行った。
【0092】
ゲル化ののちに、上部の蒸留水を捨て、コームをセットした。次に、スタッキングゲル用として、蒸留水1.4ml、30%アクリルアミド溶液0.33ml、1.0Mとリス〈ヒドロキシメチル〉アミノメタンpH6.8溶液0.25ml、10%過硫酸アンモニウム溶液0.02ml、10%過硫酸アンモニウム溶液0.02mlを混和した後、N,N,N’,N’テトラメチルエチレンジアミン0.002mlを添加した溶液を流し込み固化させた。
【0093】
ゲル化後、コームを抜き取り、ミニスラブ電気泳動槽(アトー製)にセットし、ゲルの上下端を泳動バッファーに浸漬した。
【0094】
タンパク質試料としてはヒト血清アルブミン100ngとプレステインドSDS-PAGEスタンダード(Biorad社製)5μlをウェルに投入したのち、20ミリアンペアの電流を印可し、電気泳動を行った。色素マーカーがゲルの下端に達したときに電気泳動を終了し、ゲル板を解体してゲルを取り出し、銀染色MSキット(和光純薬製)によって染色を行った。
【0095】
その結果、図12に示すように、電気泳動後の染色操作においてゲルはセロファン膜から剥がれることなく、取り扱い・操作性は非常に良好であった。なお、染色にも影響がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
上述したように、本発明に係る電気泳動用ゲルは、試料(例えば、タンパク質やペプチド、核酸等)のゲル電気泳動画分を高純度、高効率に回収することができるため、試料の分析・回収のために非常に有用である。つまり、学術的な利用価値だけでなく、種々のバイオ産業(食品、医薬品、環境等)のための研究開発やタンパク質製品の品質管理など、非常に広範な用途に利用可能であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】(a)は本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの平面の構成を模式的に示す図であり、(b)は(a)の電気泳動用ゲルをL1-L1線にて切断した場合の断面の構成を模式的に示す図であり、(c)は(a)の電気泳動用ゲルをL1-L1線にて切断した場合の断面の他の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)は本実施の形態に係る他の電気泳動用ゲルの平面の構成を模式的に示す図であり、(b)は(a)の電気泳動用ゲルをL2-L2線にて切断した場合の断面の構成を模式的に示す図である。
【図3】(a)は本実施の形態に係る他の電気泳動用ゲルの平面の構成を模式的に示す図であり、(b)は(a)の電気泳動用ゲルをL3-L3線にて切断した場合の断面の構成を模式的に示す図である。
【図4】本実施の形態に係る他の電気泳動用ゲルの断面の構成を模式的に示す断面図である。
【図5】本実施の形態に係るスペーサの構成を模式的に示す図である。
【図6】本実施の形態に係る電気泳動用ゲルの製造方法を模式的に示す図面である。
【図7】(a)は、2枚のガラス基板を、間隙部を介して重ね合わせ、スペーサを設けた場合の、平面の構成を示す模式図であり、(b)は(a)中のL4-L4線で切断した場合の断面を示す断面図であり、(c)は(a)中のL5-L5線で切断した場合の断面を示す断面図である。
【図8】本実施例における電気泳動用ゲルを示す図である。
【図9】(a)は従来の電気泳動用ゲルの電気泳動後の結果を示す図であり、(b)は本実施例に係る電気泳動用ゲルとの電気泳動後の結果を示す図である。
【図10】(a)は本実施例に係る電気泳動用ゲルからゲル内消化後に抽出回収したペプチドを質量分析した結果を示す図であり、(b)は従来の電気泳動用ゲルからゲル内消化後に抽出回収したペプチドを質量分析した結果を示す図である。
【図11】(a)は試料回収部のゲル厚が0.75mmのゲルから回収したペプチドのマススペクトルを示す図であり、(b)は試料回収部のゲル厚が1mmのゲルから回収したペプチドのマススペクトルを示す図である。
【図12】本実施例において、スペーサ(セロファン膜)とゲル(試料回収部)とが密着した電気泳動用ゲルを用いて電気泳動を行った後、染色処理した場合の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
10,20,30,40 電気泳動用ゲル
11,21,31,41 試料投入部
12,22,32,42 試料回収部
23,33 濃縮ゲル
24,34 分離ゲル
45 スペーサ(空間充填手段)
46a,46b ガラス基板(基板)
50 間隙部(間隙手段)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11